説明

ポリベンザゾール成形体の製造方法

【課題】ポリベンザゾールとポリリン酸溶媒とからなるドープを用いて成形体を製造する際に、接液部分とくに混練、攪拌等の摺動性を有する部分の装置の耐久性および成型の精度を改善する。
【解決手段】ポリベンザゾールとポリリン酸溶媒とからなるドープを用いてポリベンザゾールの成形体を製造する際に、ドープを混練、攪拌、又は送液する際の接液部分がステライト、ハステロイ、インコネル、およびステンレスからなる群より選ばれる少なくともひとつの素材から主としてなり、かつ接液部分にダイヤモンドライクコーティング(DLC)を施した装置を用いることを特徴とするポリベンザゾール成形体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高性能高分子であるポリベンザゾール成形体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリベンザゾール類は耐熱性が高く、力学特性に優れている。これらのポリマーの成形工程はポリリン酸を溶媒として用いる事が知られている。
この際に、従来用いられてきたステンレスやステライトといった耐蝕材料では、ポリリン酸が金属を腐蝕する為に装置の一部を腐食するといった問題がある。またポリリン酸に対する腐食性の高いハステロイや白金などは硬度が十分ではなく剪断を付与する部分では傷、磨耗などの問題がある。
【0003】
特許文献1ではドープを撹拌し均一分散する装置及び/又は均一分散されたドープを移送するポンプ装置の少なくともド−プ接液部分が116%ポリ燐酸210℃浸漬評価での材質溶出速度が1(mm/年)以下である耐蝕材で構成されてなる製造装置を用いることを特徴とするポリ燐酸溶液から成形体を製造する方法が記載されている。しかし耐久性のさらなる改善が求められていた。
【特許文献1】特開2001-163989号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はポリベンザゾールとポリリン酸溶媒とからなるドープを用いて成形体を製造する際に、接液部分とくに混練、攪拌等の摺動性を有する部分の装置の耐久性および成型の精度を改善するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ポリベンザゾールとポリリン酸溶媒とからなるドープを用いて成形体を製造する方法において、ドープを混練、攪拌、送液する際の接液部分がステライト、ハステロイ、インコネル、およびステンレスからなる群より選ばれる少なくともひとつの素材から主としてなり、かつ接液部分にダイヤモンドライクコーティング(DLC)を施した装置を用いることを特徴とするポリベンザゾール成形体の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、ポリベンザゾールドープを成型してポリベンザゾール成形体を効率よく製造することができ、装置の耐久性および成型の精度を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
(ポリマー)
本発明におけるポリベンザゾールは下記式(A)、(B)、及びまたは(C)
【化1】

(A)

(B)

(C)
(XはO、S、NHいずれかを表し、Arは炭素数4〜20の4価の芳香族基を表し、Arは炭素数6〜20の2価の芳香族基を表し、Arは炭素数6〜20の3価の芳香族基を表す。)
で表される繰り返し単位を有するものである。すなわちポリベンザゾールのホモポリマー及びランダム、シーケンシャル、ブロック共重合ポリマー及びこれらの誘導体、およびそれらの一部を主鎖に含むポリマーであって、ポリリン酸溶媒とからなるドープを経て繊維、フィルム等に加工され得るものである。ここでAr、Arは1〜2個の環員窒素原子を含有していてもよい。
【0008】
(ポリマーの重合方法)
ポリベンザゾールは下記式(D)および(E)
【化2】

(D)

(E)
(XはO、SまたはNHであり、Arは炭素数4〜20の4価の芳香族基)
のそれぞれで表わされる芳香族ジアミンおよびその強酸塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーと、下記式(I)
【化3】

(nは0〜4の整数であり、Arは炭素数4〜20からなりそして(n+2)価の芳香族基、LはOH、ハロゲン原子またはORで表わされる基)
で表わされる芳香族ジカルボン酸類よりなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを用い、重縮合せしめることにより製造することができる。反応条件としてはポリリン酸溶媒中で攪拌下に加熱反応させるのが好ましい。反応温度は、50〜500℃が好ましく、70〜350℃がさらに好ましい。反応時間は温度条件にもよるが、通常は1時間から数十時間である。反応は加圧下から減圧下で行うことができる。
【0009】
反応は、無触媒でも進行するが、必要に応じてエステル交換触媒を用いてもよい。エステル交換触媒としては、例えば三酸化アンチモンの如きアンチモン化合物、酢酸第一錫、塩化錫(II)、オクチル酸錫、ジブチル錫オキシド、ジブチル錫ジアセテートの如き錫化合物、酢酸カルシウムの如きアルカリ土類金属塩、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムの如きアルカリ金属塩等、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸トリフェニルの如き亜リン酸を挙げることができる。得られる高分子の分解及び着色を防ぐため、反応は乾燥した不活性ガス雰囲気下で行うことが望ましい。
【0010】
(成形体の製造方法)
ポリベンザゾールをポリリン酸溶媒中溶解させドープを得て、それを成型させることにより成形体を得ることができる。溶液中におけるポリベンザゾールの濃度は、好ましくは5〜25重量%であり、より好ましくは10〜20重量%である。
得られたドープから湿式紡糸あるいはドライジェット紡糸などの公知の紡糸方法により繊維成形体を得ることができる。また得られたドープからキャスト製膜などの公知の製膜方法によりフィルム状の成形体を得ることができる。
【0011】
(装置)
本発明のポリベンザゾール成形体の製造に用いられる装置は、ドープを混練、攪拌、又は送液する際の接液部分がステライト、ハステロイ、インコネル、およびステンレスからなる群より選ばれる少なくともひとつの素材から主としてなり、かつ接液部分にダイヤモンドライクコーティング(DLC)を施した装置であることを特徴とする。
装置の素材としては、高温下でポリリン酸を加工する装置の材質として特にポリリン酸、リン酸に対する耐蝕性に優れた物を使用する必要がある。
【0012】
参考文献としてBritish corrosion Journal.,1991, Vol. 26, NO.4がありこれらのデータからプラチナ、ハステロイ、ニッケル−銅合金、インコネル等が好ましく挙げられるがこれに限定されるものではない。好ましくは装置の素材はステライトおよびまたはハステロイである。しかしながらこれら素材は後述のとおりダイヤモンドライクコーティング処理を行わないと硬度が十分ではなく剪断を付与する部分では傷、磨耗などの問題がある。
【0013】
ポリリン酸溶液を加工する反応機やポンプはポリリン酸溶液で潤滑されているが、部品の擦れによる摩耗とリン酸による溶解が同時に起こる。ドープを混練、攪拌、又は送液する装置としては2軸ルーダーやギヤポンプが挙げられる。二軸ルーダーやギヤポンプの寿命を伸ばすには装置の素材の硬度を上げることが必須である。このような用途に適した冶金材料として、ステンレス、ステライトが好ましく利用できる。ただ後述のとおりダイヤモンドライクコーティング処理を行わないとリン酸耐蝕が不十分で長期間の使用に耐えない。
【0014】
本発明の方法において、用いられる装置の接液部分にはダイヤモンドライクコーティング(DLC)を施すことを特徴とする。
ダイヤモンドライクコーティング(DLC)とは、イオンを利用した気相合成法により合成されるダイヤモンドに類似した高硬度・電気絶縁性・赤外線透過性などを持つカーボン薄膜を用いたコーティングの総称で、コーティング方法としては高真空中でのプラズマプロセスであるイオンプレーティング法などが挙げられる。
【0015】
例えば、真空チャンバー中にベンゼン(C6H6)ガスまたは他の炭化水素ガスが導入され直流アーク放電プラズマ中で炭化水素イオンや励起されたラジカルが生成される。
炭化水素イオンは直流の負電圧にバイアスされた基板(コーティングされる製品)にバイアス電圧に応じたエネルギーで衝突し固体化し成膜される。
ダイヤモンドライクコーティングを上述の金属表面に施すことにより、腐食性と硬度を併せ持った皮膜を導入することが出来る。
ダイヤモンドライクコーティング(DLC)は接液部分の全てに施すことが好ましいが、とくには2軸ルーダーのスクリュー部、又はギヤポンプのギヤ部に施すことが好ましい。
【0016】
また本発明において、ポリベンザゾール重縮合反応装置における反応液の接液部分がステライト、ハステロイ、インコネル、およびステンレスからなる群より選ばれる少なくともひとつの素材から主としてなり、かつ接液部分にダイヤモンドライクコーティング(DLC)を施した装置を用いることが好ましい。装置の素材としてはステライトおよびまたはハステロイが好ましい。反応液の接液部分として具体的には攪拌翼が挙げられる。
【実施例】
【0017】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによっていささかも限定されるものではない。なお、以下の実施例における各測定値は次の方法により求めた値である。
(1)還元粘度:0.5g/100mlの濃度のメタンスルホン酸溶液で25℃にて測定した値である。
【0018】
[参考例1](Nモノマーの合成)
4,6−ジアミノ−1,3−ベンゼンジオール二塩酸塩7重量部を、窒素で脱気した水33重量部に溶解した。ピリジンジカルボン酸5.347重量部を、1M水酸化ナトリウム水溶液64重量部に溶解し窒素で脱気した。4,6−ジアミノ−1,3−ベンゼンジオール二塩酸塩水溶液を、ピリジンジカルボン酸二ナトリウム塩水溶液に10分間かけて滴下し、4,6−ジアミノ−1,3−ベンゼンジオール/ピリジンジカルボン酸塩の白色沈殿を形成させた。この際、反応温度は90℃に維持した。得られた塩を、ろ過し、窒素で脱気した水3000重量部に分散混合し、再度ろ過を行った。この分散混合、ろ過操作を3回繰り返し行った。
【0019】
[参考例2](OHモノマーの合成)
4,6−ジアミノ−1,3−ベンゼンジオール二塩酸塩7重量部を、窒素で脱気した水33重量部に溶解した。2,5−ジヒドロキシテレフタル酸6.180重量部を、1M水酸化ナトリウム水溶液64重量部に溶解し窒素で脱気した。4,6−ジアミノ−1,3−ベンゼンジオール二塩酸塩水溶液を、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸二ナトリウム塩水溶液に10分間かけて滴下し、4,6−ジアミノ−1,3−ベンゼンジオール/2,5−ジヒドロキシテレフタル酸塩の白色沈殿を形成させた。この際、反応温度は90℃に維持した。得られた塩を、ろ過し、窒素で脱気した水3000重量部に分散混合し、再度ろ過を行った。この分散混合、ろ過操作を3回繰り返し行った。
【0020】
[参考例3]OH:N=1:2
参考例1で得られた4,6−ジアミノ−1,3−ベンゼンジオール/ピリジンジカルボン酸塩8.726重量部、参考例3にて得られた4,6−ジアミノ−1,3−ベンゼンジオールの2,5−ジヒドロキシテレフタル酸塩4.803重量部にポリりん酸43.3重量部、5酸化りん15.0重量部、塩化スズ0.1重量部を加え80℃にてハステロイBからなる攪拌翼を用いて1時間攪拌混合した。その後2時間かけ150℃に昇温し、150℃にて6時間攪拌を行った。その後1時間かけて200℃に昇温し200℃にて20時間反応を行った。得られたポリマーの還元粘度は50dl/gであった。
【0021】
[実施例1]
参考例3で得られたポリマードープを、直径30mmのプランジャーで押し出し170℃で送液し、その先端に設置した0.12ccのギヤポンプで20MPaに昇圧して、流量0.36g/分で3時間送液し紡糸を行った。装置の材質は、 ギヤポンプのハウジングはハステロイB、ギヤ部はハステロイB表面にダイヤモンドライクコーティングを施したものであった。装置を用いて紡糸の口金は口径90μm、L/D=2、口金の穴数20ホールで10回紡糸を行ったが、ギヤポンプの吐出効率の低下がなく安定して紡糸を継続することができた。
【0022】
[比較例1]
ギヤ部にダイヤモンドライクコーティングを施さないハステロイBを用いたほかは実施例1と同様に紡糸を行った。ギヤの表面に磨耗及び傷が見られ、吐出効率の低下が観察された。
【0023】
[実施例2]
ギヤ部にステライトのダイヤモンドライクコーティングを施したものを用いたほかは実施例1と同様に10回紡糸を行ったが、ギヤポンプの吐出効率の低下がなく安定して生産を継続することができた。
【0024】
[比較例2]
ギヤ部にダイヤモンドライクコーティングを施さないステライトを用いたほかは実施例1と同様に紡糸を行った。ギヤの腐食が見られ、吐出効率の低下が観察された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリベンザゾールとポリリン酸溶媒とからなるドープを用いてポリベンザゾールの成形体を製造する際に、ドープを混練、攪拌、又は送液する際の接液部分がステライト、ハステロイ、インコネル、およびステンレスからなる群より選ばれる少なくともひとつの素材から主としてなり、かつ接液部分にダイヤモンドライクコーティング(DLC)を施した装置を用いることを特徴とするポリベンザゾール成形体の製造方法。
【請求項2】
装置の素材がステライトおよびまたはハステロイである請求項1に記載の成形体の製造方法。
【請求項3】
ドープを混練、攪拌、又は送液する際の接液部分が2軸ルーダー、又はギヤポンプである請求項1または2に記載の成形体の製造方法。
【請求項4】
ポリベンザゾールが芳香族ジアミンあるいはその強酸塩と芳香族ジカルボン酸類よりポリリン酸溶媒中で重縮合せしめたものである請求項1〜3のいずれかに記載の成形体の製造方法。
【請求項5】
ポリベンザゾール重縮合反応装置における反応液の接液部分がステライト、ハステロイ、インコネル、およびステンレスからなる群より選ばれる少なくともひとつの素材から主としてなり、かつ接液部分にダイヤモンドライクコーティング(DLC)を施した装置を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の成形体の製造方法。

【公開番号】特開2007−126762(P2007−126762A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−318316(P2005−318316)
【出願日】平成17年11月1日(2005.11.1)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】