説明

ポリベンザゾール電線コード

【課題】 軽量性、耐屈曲性に優れ、細径で高強力の電線コードを提供しようとするものである。
【解決手段】 フタロシアニン化合物を含み電気伝導度が1(Ω・cm)-1以上のポリベンザゾ―ルを芯材とし、該芯材が絶縁材で被覆されてなることを特徴とするポリベンザゾ―ル電線コードであり、芯材がポリベンザゾ―ル、該ポリベンザゾ―ルの溶媒及びフタロシアニン化合物を含むポリマードープを紡糸口金から吐出させ、延伸して糸条化後、得られた糸条について前記溶媒の抽出処理を施し、さらに、ヨウ素含有液に浸漬した後、水洗、乾燥させた導電性ポリベンザゾ―ル繊維であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線コードに関し、詳しくは電気伝導性を有するポリベンザゾールを芯材とし、該芯材の周りを絶縁材で被覆してなる細径で高強力の電線コードなどに利用できる電線コードに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特殊な用途や過酷な使用条件に耐えうる電線コードとして、従来より芯部を構成する素材の検討が行われてきた。例えば、特許文献1では、金属撚線をポリエステルやケブラー(アラミド系繊維:デュポン社製 商品名)等の繊維紐の上に横巻きした耐屈曲性電線、特許文献2では、アラミド繊維をテンションメンバーとし、この上に軟銅線を同心撚りして導体を形成し、該導体の上をさらに合成樹脂の絶縁体で被覆した細径電線、また、特許文献3では、高強力ポリオレフィン系繊維を芯部に用い、該芯部に細径銅線を捲回させた細径電線コードが提案されている。
【0003】
【特許文献1】実開昭60−69420号公報
【特許文献2】実開平2−12113号公報
【特許文献3】特開平1−107415号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の導電性コードは、細径伝導体が金属であるため、単位長さあたりの重さが重くなる傾向にあった。微細径の電気伝導体の応用分野の一つとして宇宙船や人工臓器の部材、さらには超小型センサーへの利用が想定されるが、これらの分野では特に、軽量性や耐屈曲性が要求される。本発明の課題は、軽量性、耐屈曲性に優れ、細径で高強力の電線コードを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、フタロシアニン化合物を含み電気伝導度が1(Ω・cm)-1以上のポリベンザゾールを芯材とし、該芯材が絶縁材で被覆されてなることを特徴とするポリベンザゾール電線コードであり、また、前記芯材のフタロシアニン化合物含有率が5質量%以上50質量%未満であることを特徴とするポリベンザゾール電線コードであり、さらに、前記の芯材がポリベンザゾール、該ポリベンザゾールの溶媒及びフタロシアニン化合物を含むポリマードープを紡糸口金から吐出させ、延伸して糸条化後、得られた糸条について前記溶媒の抽出処理を施し、さらに、ヨウ素含有液に浸漬した後、水洗、乾燥させた導電性ポリベンザゾール繊維であることを特徴とするポリベンザゾール電線コードである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によると、ポリベンザゾール本来の高強度、高耐熱性、耐屈曲性などを損なうことなく、高い電気伝導性を付与したポリベンザゾールを芯材としているため、軽量性、耐屈曲性などに優れ、外径が5mm以下の細径で、かつ高強力の電線コードを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係るポリベンザゾール繊維とは、ポリベンザゾールポリマーよりなる繊維をいい、ポリベンザゾール(以下、PBZともいう)とは、ポリベンゾオキサゾール(以下、PBOともいう)、ポリベンゾチアゾール(以下、PBTともいう)、またはポリベンズイミダゾール(以下、PBIともいう)から選ばれる1種以上のポリマーをいう。本発明においてPBOは芳香族基に結合されたオキサゾール環を含むポリマーをいい、その芳香族基は必ずしもベンゼン環である必要はなく、ビフェニレン基、ナフチレン基などであってもよい。PBOは芳香族基に結合されたオキサゾール環を含むポリマーをいうが、その芳香族基は必ずしもベンゼン環である必要は無い。さらにPBOは、ポリ(p−フェニレンベンゾビスオキサゾール)のホモポリマーのみならず、ポリ(p−フェニレンベンゾビスオキサゾール)のフェニレン基の一部がピリジン環などの複素環に置換されたコポリマーや芳香族基に結合された複数のオキサゾール環の単位からなるポリマーが広く含まれる。このことは、PBTやPBIの場合も同様である。また、PBO、PBT及びPBIの二種またはそれ以上の混合物、PBO、PBT及びPBIの二種またはそれ以上のブロックもしくはランダムコポリマー及びこれらのポリベンザゾールポリマーの混合物、コポリマー、ブロックポリマーなども含まれる。
【0008】
PBZポリマーに含まれる構造単位としては、好ましくは、特定濃度で液晶を形成するライオトロピック液晶ポリマーから選択される。当該ポリマーは構造式(a)〜(h)に記載されているモノマー単位からなり、好ましくは、本質的に構造式(a)〜(d)から選択されたモノマー単位からなるものである。また、これらのモノマー単位において、アルキル基やハロゲン基などの置換基を有するモノマー単位を一部含んでもよい。
【0009】
【化1】

【0010】
【化2】

【0011】
ポリマーのドープを形成するための好適溶媒としては、クレゾールやそのポリマーを溶解し得る非酸化性の酸が含まれる。好適な酸溶媒の例としては、ポリ燐酸、メタンスルホン酸及び高濃度の硫酸或いはそれ等の混合物があげられる。更に適する溶媒は、ポリ燐酸及びメタンスルホン酸である。また最も適する溶媒は、ポリ燐酸である。
【0012】
ドープ中のポリマー濃度は好ましくは少なくとも約7質量%であり、より好ましくは少なくとも10質量%、特に好ましくは少なくとも14質量%である。最大濃度は、例えばポリマーの溶解性やドープ粘度といった実際上の取り扱い性により限定される。それらの限界要因のために、ポリマー濃度は通常では20質量%を越えることはない。
【0013】
本発明において、好適なポリマーまたはコポリマーとドープは公知の方法で合成される。例えばWolfeらの米国特許第4,533,693号明細書(1985.8.6)、Sybertらの米国特許第4,772,678号明細書(1988.9.22)、Harrisの米国特許第4,847,350号明細書(1989.7.11)またはGregoryらの米国特許第5,089,591号明細書(1992.2.18)に記載されている。要約すると、好適なモノマーは非酸化性で脱水性の酸溶液中、非酸化性雰囲気で高速撹拌及び高剪断条件のもと約60℃から230℃までの段階的または一定昇温速度で温度を上げることで反応させられる。
【0014】
重合ドープ中には、導電性付与物質として、フタロシアニン化合物を均一に分散溶解させる。
フタロシアニン化合物を紡糸ドープ中に混合させる方法としては、特に限定されず、ポリベンザゾールの重合のいずれの段階または重合終了時のポリマードープの段階で混合させることが可能である。例えば、ポリベンザゾールの原料を仕込む際に同時に仕込む方法、段階的または任意の昇温速度で温度を上げて反応させている任意の時点で添加する方法、また、重合反応終了時に反応系中に添加し、撹拌混合する方法が好ましい。
【0015】
フタロシアニン化合物としては、フタロシアニン骨格を有していればその中心に配位する金属の有無および原子種は問わない。これらの化合物の具体例としては、29H,31H−フタロシアニネート(2−)−N29,N30,N31,N32銅、29H,31H−フタロシアニネート(2−)−N29,N30,N31,N32鉄、29H,31H−フタロシアニネート−N29,N30,N31,N32コバルト、29H,31H−フタロシアニネート(2−)−N29,N30,N31,N32銅、オキソ(29H,31H−フタロシアニネート(2−)−N29,N30,N31,N32),(SP−5−12)チタニウム等があげられる。また、これらのフタロシアニン骨格が1個以上のハロゲン原子、メチル基、メトキシ基等の置換基を有していてもよい。これらのフタロシアニン化合物は一種又は二種以上であってもよい。
【0016】
フタロシアニン化合物のポリマー対する添加濃度は、ポリマー質量に対して5質量%以上50質量%未満であるのが好ましく、更に好ましくは10質量%以上40質量%未満、最も好ましくは20質量%以上30質量%未満である。添加量が少なすぎると所期の導電性を付与することができなく、添加量が多すぎると、糸条の力学物性が低下する問題を生ずることがある。
【0017】
この様にしてフタロシアニン化合物を含有したポリマードープは紡糸部に供給され、紡糸口金(ノズル)から通常100℃以上の温度で窒素、空気などの非凝固性気体中に吐出される。口金細孔の数や配列は特に限定されず、通常円周状、格子状に複数個配列されるが、吐出糸条間の融着などが発生しないような配列と数にする必要がある。
【0018】
紡出糸条は必要な延伸比(SDR)を得るために、必要な長さのドローゾーン長を保持し、かつ比較的高温度(ドープの固化温度以上で紡糸温度以下)の整流された冷却風で均一に冷却されることが望ましい。ドローゾーンの長さ(L)は非凝固性の気体中で固化が完了する長さが必要であり、単孔吐出量(Q)によって決定される。良好なコード物性を得るにはドローゾーンの取り出し応力がポリマー換算で(ポリマーのみに応力がかかるとして)1.8g/dtex以上が好ましい。
【0019】
ドローゾーンで延伸された糸条は、次に溶媒の抽出及び糸条の凝固のための媒体浴に導かれる。抽出(凝固)浴に用いられる抽出(凝固)媒体としては、分子内に水酸基を有する液体、すなわち、水、メタノール、エタノール、エチレングリコールおよびこれらとリン酸を混ぜて作った溶液が好ましく、より好ましくは水もしくはリン酸水溶液である。
【0020】
リン酸水溶液の場合のリン酸濃度は、5質量%以上60質量%以下、さらに好ましくは10質量%以上50質量%以下、最も好ましくは20質量%以上40質量%以下である。さらに凝固温度として好ましい領域は、5℃以上60℃以下、さらに好ましくは10℃以上50℃以下、最も好ましくは15℃以上40℃以下である。
【0021】
第一の抽出(凝固)浴を通した後、さらに水酸化ナトリウム水溶液などで中和し、第二の抽出浴などの洗浄工程を通して繊維(糸条)中に含まれるリン酸を抽出する。最終的に抽出浴において糸条が含有する燐酸が1.0質量%以下、好ましくは0.5質量%以下になるように抽出する。本発明における抽出媒体として用いられる液体は特に限定はないが、ポリベンザゾールに対して実質的に相溶性を有しない水、メタノール、エタノール、アセトン、エチレングリコール等が好ましく、燐酸水溶液や水がより好ましい。また、抽出(凝固)浴を多段に分離し燐酸水溶液の濃度を順次薄くし最終的に水で水洗してもよい。
【0022】
中和・抽出工程後に、糸条をヨウ化カリウム水溶液などのヨウ素含有液に浸漬した後、さらに水洗、乾燥させる。中和・抽出工程後あるいはヨウ素処理後に、必要により熱処理を施してもよい。
繊維中にフタロシアニン化合物とヨウ素が存在すると、詳しいメカニズムは定かではないが、内包するフタロシア二ン化合物を部分的に酸化するドープ効果によるものと考えられ、電気伝導度が向上する。繊維中のヨウ素含有量は、0.5質量%以上10質量%以下であることが好ましい。ヨウ素含有量が0.5質量%未満では、電気伝導性の発現が不充分となり、10質量%を超えると、繊維強度が損なわれる傾向がある。
【0023】
抽出浴の形式は、紡糸張力が高いため、抽出浴の乱れなどに対する配慮は特に必要でなく如何なる形式の抽出浴でも良い。例えばファンネル型、水槽型、アスピレータ型あるいは滝型などが使用できる。
【0024】
この様にして製造したポリベンザゾール糸条は、一般的な方法によって、電線コードの芯線とすることができる。例えば、ポリベンザゾール糸条にポリイミド原液を塗布し、250℃程度の温度でポリイミドの重合反応を芯線の表面で進行させることにより芯線に被覆を施し、次いで該被覆芯線にポリ塩化ビニル樹脂(PVC)被覆を施してコードとするなどの方法である。
【実施例】
【0025】
次の実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(極限粘度)
メタンスルホン酸を溶媒として、0.5g/lの濃度に調製したポリマー溶液の粘度をオストワルド粘度計を用いて25℃恒温槽中で測定した。
(水分率)
乾燥前質量:W0(g)、乾燥後質量:W1(g)から、下記の計算式に従って算出した。なお、乾燥は200℃、1時間の条件で実施した。
水分率(%)=(W0−W1)/W1×100
(ヨウ素含有量)
繊維試料を酸素フラスコ法で燃焼分解し、吸収液のヨウ素イオンをイオンクロマトグラフィーを用いて定量した。含有量は繊維試料に対する質量%で示した。
(コード引張強度)
標準状態(温度:20±2℃、相対湿度(RH)65±2%)の試験室内に24時間以上放置後、JIS−L1015に準じて引張試験機にて測定した。
(コード結節強度)
標準状態(温度:20±2℃、相対湿度(RH)65±2%)の試験室内に24時間以上放置後、JIS−L1015に準じて引張試験機にて測定した。
【0026】
(電気伝導度の測定方法)
電気伝導度は直流四端子法にて測定した。すなわち、繊維に4つの白金線電極をはりつけたのち、マーラーシートとテフロン(登録商標)板の間に固定し、外側の2本の白金線間に定電流を流し、内側の2本の白金線間に生ずる電位差を、入力インピーダンスの高い電圧計で測定した。
【0027】
(実施例1)
米国特許第4533693号明細書に示される方法によって得られた、30℃のメタンスルホン酸溶液で測定した固有粘度が24.4dL/gのポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール14.0質量%とポリ燐酸(五酸化リン含有率83.17質量%)から成るポリマードープを紡糸に用いた。このとき、重合上がりのドープにフタロシアニン銅をポリマー質量に対して15%添加した後均一混合せしめた。その後、金属網状の濾材を通過させて濾過した。次いで2軸混練り装置で混練りと脱泡を行った後、昇圧させ、紡糸用ドープ温度を170℃に保ち、孔数166を有する紡糸口金から170℃で紡出し、湿度を調整した温度60℃の冷却窒素風を用いて吐出糸条を冷却し、さらに自然冷却で40℃まで吐出糸条を冷却した後、凝固・抽出浴(30℃に調整した30質量%リン酸水溶液)中に導入し、糸条化した。次に該糸条をゴゼットロールに巻き付けて一定速度を与えてイオン交換水の第2抽出浴中で洗浄した後、0.1規定の水酸化ナトリウム溶液中に浸漬し中和処理を施した。次いで、10質量%のヨウ化カリウム水溶液中に浸漬したのち水洗浴で水洗し、巻き取って、80℃の乾燥オーブン中で糸条中に含まれる水分率が2%以下になるまで乾燥した。得られた糸条のヨウ素含有率は3.1質量%であった。
この様にして製造したポリベンザゾール糸条(芯線)にポリイミド原液を塗布した後、250℃にて重合反応を芯線の表面で進行させることにより被覆を施した。最後に該被覆芯線にポリ塩化ビニル樹脂(PVC)被覆を施して電線コードを作成した。得られた電線コードの評価結果を表1に示す。
【0028】
(比較例1)
フタロシアニン銅を添加しないこと以外は実施例1と同じ方法で作成したポリベンザゾール繊維を芯線として電線コードを作成した。得られた電線コードの評価結果を表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
表1より、本発明のポリベンザゾール電線コードは、従来のポリベンザゾールコードに比べて高い電気伝導性を示し、強度物性にも極めて優れていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の導電性ポリベンザゾール電線コードは、高強度と導電性を両立させることができ、細繊度でかつ高強度のポリベンザゾール繊維が芯線として用いられているため、強度に優れた細径電線コードとなり、かつ屈曲性(結節強度)に優れているため、今後の回路の高集積化、複雑化に対処可能である。
この様に従来ない細径でかつ高強力の電線コードは、産業用資材としての実用性を高め利用分野を拡大する効果が絶大であり、産業界に寄与すること大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フタロシアニン化合物を含み電気伝導度が1(Ω・cm)-1以上のポリベンザゾールを芯材とし、該芯材が絶縁材で被覆されてなることを特徴とするポリベンザゾール電線コード。
【請求項2】
芯材のフタロシアニン化合物含有率が5質量%以上50質量%未満であることを特徴とする請求項1に記載のポリベンザゾ―ル電線コード。
【請求項3】
芯材がポリベンザゾ―ル、該ポリベンザゾ―ルの溶媒及びフタロシアニン化合物を含むポリマードープを紡糸口金から吐出させ、延伸して糸条化後、得られた糸条について前記溶媒の抽出処理を施し、さらに、ヨウ素含有液に浸漬した後、水洗、乾燥させた導電性ポリベンザゾール繊維であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリベンザゾール電線コード。

【公開番号】特開2006−351470(P2006−351470A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−179202(P2005−179202)
【出願日】平成17年6月20日(2005.6.20)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】