説明

ポリベンゾオキサゾール樹脂及びその前駆体樹脂

【課題】イオン性不純物の含有量を低減して、電気・電子部品用途に有用であるポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂、及び該前駆体樹脂を脱水閉環して得られるポリベンゾオキサゾール樹脂を提供する。
【解決手段】下記式(A)


(式(A)中、Rは、その構造中にO、N、S、F及びSiから選ばれる1種以上の元素を含む2価の芳香族残基または、炭素数1〜12の2価の有機基を示す。Rは炭素数1〜4のアルキル基または、炭素数6〜8の芳香族残基を示す。)で表されるジカルボン酸トリアジン活性エステルとビスアミノフェノール化合物との重合反応により得られるポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂であって、重量平均分子量が10,000〜1,000,000の範囲であり、かつ、イオン性不純物の含有量が10ppm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジカルボン酸トリアジン活性エステルとビスアミノフェノール化合物とを反応させて得られるポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂、及び該前駆体樹脂を脱水閉環して得られるポリベンゾオキサゾール樹脂に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂の合成法としては、ジカルボン酸ジクロリドとビスアミノフェノール化合物とを反応させる酸クロリド法が知られているが、この方法で得られる前駆体樹脂中には、合成反応に由来する塩素イオンが、樹脂中に残留し、電気・電子部品用として使用する場合に、残存するイオン性不純物が電気特性低下の原因となるおそれがあった。
【0003】
また、ポリアミド樹脂の合成法としては、ジカルボン酸化合物とジアミン化合物との重縮合反応が広く行われているが、この反応を進行させるために加えられる縮合剤、触媒、添加剤や、副生成物等からは、これらに由来するイオン性の不純物が発生することが知られている。例えば、ジカルボン酸化合物とジアミン化合物を芳香族亜リン酸エステル及びピリジン誘導体の存在下で重縮合させる方法では、得られたポリアミド樹脂中に芳香族亜リン酸エステルに由来するリン系のイオン性不純物が大量に残留することで、得られたポリアミド樹脂の電気特性が低下するため、電気的絶縁性が求められる用途への使用が制限されている。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1では、芳香族ポリアミド樹脂中のリンの含有量を低減して、不純物を低減する技術が提案されているが、これでもなお、ポリアミド樹脂を電気・電子部品用として使用する場合に、残存するイオン性不純物が電気特性低下の原因となるおそれがあった。
【0005】
また近年、ペプチド合成用縮合剤として、非リン系化合物である4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリドのトリアジン系縮合剤が開発された。
このトリアジン系縮合剤は安価に合成できるうえに、副生成物が水溶性のヒドロキシトリアジン化合物であることから、反応後の後処理が容易であり、リサイクルが可能であることなどの利点により注目されており、例えば特許文献2及び非特許文献1ではポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂や芳香族ポリアミド樹脂の合成への適用も検討されている。
【0006】
しかしながら、これらの文献に開示されている方法で合成されたポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂及び芳香族ポリアミド樹脂は、反応中に縮合剤が分解すること等によって高分子量体を得ることができなかったり、縮合剤由来の塩素イオンが樹脂中に残存し易く、得られる樹脂の成膜性がよくないことにより特性を充分に発現できなかったり、また、電気・電子部品用として使用する場合に電気特性低下の原因となるおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−28367号公報
【特許文献2】特開2009−74038号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】工藤孝廣、大石好行、オラベッツヤン、森邦夫、高分子論文集、第64巻、231頁(2007年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、特に電気・電子部品用途に有用な、イオン性不純物の含有量の低減されたポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂、及び該前駆体樹脂を脱水閉環して得られるポリベンゾオキサゾール樹脂を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定のジカルボン酸トリアジン活性エステルとビスアミノフェノール化合物とを重合させることにより、イオン性不純物の含有量の少ないポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち本発明のポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂は、下記式(A)
【化1】

(式(A)中、Rは、その構造中にO、N、S、F及びSiから選ばれる1種以上の元素を含む2価の芳香族残基または炭素数1〜12の2価の有機基を示す。Rは炭素数1〜4のアルキル基または、炭素数6〜8の芳香族残基を示す。)で表されるジカルボン酸トリアジン活性エステルと、ビスアミノフェノール化合物との重合反応により得られ、重量平均分子量が10,000〜1,000,000の範囲であり、かつ、イオン性不純物の含有量が10ppm以下であることを特徴とするものである。
【0012】
このようなポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂においてより好ましくは、Rが、炭素数1〜4のアルキル基である。
【0013】
また好ましくは、Rが、下記式(1)
【化2】

(式中、Rは、H、O、N、S、F若しくはSi、又は構造中にO、N、S、F及びSiからなる群から選ばれる1種以上の元素を含む炭素数1〜6の置換基を示す。Xは、直接結合、O、N、S、F若しくはSi、又は構造中にO、N、S、F及びSiからなる群から選ばれる元素を含む炭素数1〜6の2価の結合基を示す。a、b、c及びdは平均置換基数であって、a、b及びcはそれぞれ0〜4の整数を、dは0〜6の整数を示す。)で表される群から選ばれる2価の芳香族残基である。
【0014】
そしてまた好ましくは、式(1)の、Rが水素原子であり、Xが直接結合、O、SO又はCOである。
【0015】
ところで、上述のポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂は、脱水閉環させることにより、ポリベンゾオキサゾール樹脂とすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂、及び該前駆体樹脂を脱水閉環して得られるポリベンゾオキサゾール樹脂は、従来公知の方法により得られるこれら樹脂に比べてイオン性不純物の含有量が少なく、電気・電子部品用途に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂は、下記式(A)で表されるジカルボン酸トリアジン活性エステルとビスアミノフェノール化合物との重合反応により得られるものである。
【化3】

【0018】
本発明のポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂の原料として、式(A)で示されるジカルボン酸トリアジン活性エステルのRは、その構造中にO、N、S、F及びSiから選ばれる1種以上の元素を含む2価の芳香族残基であることができる。
ここで、2価の芳香族残基とは、芳香族環から2つの水素原子を除いた残基を意味し、例えば、ビフェニルエーテル等の複数の芳香族環を有する化合物において、異なる芳香族環から2つの水素原子を除いた残基も2価の芳香族残基の範疇に含むことができる。
具体的には、2価の芳香族残基は、ベンゼン、ビフェニル、ビフェニルエーテル、ビフェニルスルホン、ビフェニルケトン及びナフタレンの残基等が挙げられる。
【0019】
また式(A)のRは、炭素数1〜12の2価の有機基であることができる。
具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、ドデシレン基およびキシリレン基等が挙げられる。
【0020】
式(A)のRは好ましくは、下記式(1)で表される群から選ばれる2価の芳香族残基である。
【化4】

【0021】
式(1)のRは、H、O、N、S、F若しくはSi、又は構造中にO、N、S、F及びSiからなる群から選ばれる1種以上の元素を含む炭素数1〜6の置換基であり、a、b、c及びdは平均置換基数であって、a、b及びcはそれぞれ0〜4の整数を、dは0〜6の整数を示し、具体的には、炭素数1〜6のアルキル基やアルコキシ基等が挙げられるが、より好ましくは水素原子である。
【0022】
式(1)のXは、直接結合、O、N、S、F若しくはSi、又は構造中にO、N、S、F及びSiからなる群から選ばれる元素を含む炭素数1〜6の2価の結合基を示す。具体的にはO、S、CO、SO、炭素数1〜6のアルキレン基、炭素数1〜6のアルキレンオキサイド等を挙げることができ、より好ましくは直接結合、O、SOまたはCOであり、さらに好ましくはOである。
【0023】
そして式(A)のRは、より好ましくはベンゼン、ビフェニル、ビフェニルエーテル、ビフェニルスルホン、ビフェニルケトン及びナフタレンから2つの水素原子を除いた残基であり、さらに好ましくはベンゼン及びビフェニルエーテルの残基であり、特に好ましくはベンゼンの1及び3位、ビフェニルエーテルの4及び4’位から水素原子を除いた残基である。
【0024】
また、式(A)のRは炭素数1〜4のアルキル基であることができ、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基及びイソブチル基等が挙げられる。
【0025】
式(A)のRは、炭素数6〜8の芳香族残基であることができ、その具体例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等の残基が挙げられる。
ここで、炭素数6〜8の芳香族残基とは、炭素数6〜8からなる芳香族の芳香族環から1つの水素原子を除いた残基を意味するものとする。
【0026】
そして式(A)のRは、好ましくはメチル基、エチル基及びベンゼンの残基であり、より好ましくはメチル基及びエチル基であり、さらに好ましくはメチル基である。
【0027】
本発明のポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂の原料であるジカルボン酸トリアジン活性エステルの製造方法は特に限定されないが、例えば、有機溶媒中にクロロトリアジン化合物、3級アミン化合物及びジカルボン酸化合物を添加して反応させた後、再結晶等により精製して得ることができる。
【0028】
前記クロロトリアジン化合物としては、例えば、2−クロロ−4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン、2−クロロ−4,6−ジエトキシ−1,3,5−トリアジン、2−クロロ−4,6−ジプロポキシ−1,3,5−トリアジン、2−クロロ−4,6−ジイソプロポキシメトキシ−1,3,5−トリアジン、2−クロロ−4,6−ジブトキシ−1,3,5−トリアジン、2−クロロ−4,6−ジフェノキシ−1,3,5−トリアジン等が挙げられ、中でも2−クロロ−4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン、2−クロロ−4,6−ジエトキシ−1,3,5−トリアジン、2−クロロ−4,6−ジフェノキシ−1,3,5−トリアジン等が好ましい。その使用量は、反応に用いるジカルボン酸化合物1モルに対して、通常2〜4モル、好ましくは2〜2.6モルである。
【0029】
前記3級アミン化合物としては、例えばトリエチルアミン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン、N−イソブチルモルホリン、ピリジン、2−ピコリン、3−ピコリン、4−ピコリン、2,4−ルチジン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデンセン等が挙げられ、中でもトリエチルアミン、N−メチルモルホリン、ピリジン等が好ましい。その使用量は、反応に用いるジカルボン酸化合物1モルに対して、通常0.5〜6モル、好ましくは1〜5モルである。
【0030】
前記ジカルボン酸化合物としては、例えばフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、オキシジ安息香酸、チオジ安息香酸、ジチオジ安息香酸、カルボニルジ安息香酸、スルホニルジ安息香酸、メチレンジ安息香酸、イソプロピリデンジ安息香酸や、ヘキサフルオロイソプロピリデンジ安息香酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸等のジカルボン酸などが挙げられ、中でもイソフタル酸、テレフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、オキシジ安息香酸、カルボニルジ安息香酸、スルホニルジ安息香酸、ナフタレンジカルボン酸等が好ましい。
【0031】
この合成反応に用い得る有機溶媒としては、ジカルボン酸に対して良溶媒であることが望ましい。このような溶媒として、特に限定されないが、水やメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルカプロラクタム、N,N−ジメチルイミダゾリドン、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、N−メチルモルホリン、ピリジン、γ−ブチロラクトンのような非プロトン性極性溶媒、トルエン、ヘキサン、ヘプタン等の無極性溶媒、テトラヒドロフラン、ジグライム、ジオキサンや、トリオキサン等のエーテル系溶媒など、またはこれらの混合溶媒などが挙げられる。
【0032】
具体的なジカルボン酸トリアジン活性エステルの製造方法は、例えばまず、有機溶媒中で、ジカルボン酸系化合物を攪拌溶解させた後、トリアジン系化合物、3級アミン化合物を添加して反応させた後、再結晶等によりジカルボン酸トリアジン活性エステルを得ることができる。反応温度は通常−10℃〜80℃、好ましくは0〜30℃である。反応時間は5分間〜24時間、好ましくは15分間〜3時間である。
反応終了後、反応混合物を水やメタノールなどの貧溶媒中に投じて生成物を分離した後、再結晶等によって精製を行って副生成物などを除去することにより、ジカルボン酸トリアジン活性エステルを高純度で得ることができる。
【0033】
また、前記ジカルボン酸トリアジン活性エステルは、例えば、有機溶媒中にヒドロキシトリアジン化合物、3級アミン化合物及びジカルボン酸ジクロリド化合物を添加して反応させた後、再結晶等により精製して得ることができる。
【0034】
前記ヒドロキシトリアジン化合物としては、例えば、2−ヒドロキシ−4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン、2−ヒドロキシ−4,6−ジエトキシ−1,3,5−トリアジン、2−ヒドロキシ−4,6−ジプロポキシ−1,3,5−トリアジン、2−ヒドロキシ−4,6−ジイソプロポキシ−1,3,5−トリアジン、2−ヒドロキシ−4,6−ジブトキシ−1,3,5−トリアジン、2−ヒドロキシ−4,6−ジフェノキシ−1,3,5−トリアジン等が挙げられ、中でも2−ヒドロキシ−4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン、2−ヒドロキシ−4,6−ジエトキシ−1,3,5−トリアジン、2−ヒドロキシ−4,6−ジフェノキシ−1,3,5−トリアジン等が好ましい。その使用量は、反応に用いるジカルボン酸ジクロリド化合物1モルに対して、通常2〜4モル、好ましくは2〜2.6モルである。
【0035】
前記3級アミン化合物としては、例えば、トリエチルアミン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン、N−イソブチルモルホリン、ピリジン、2−ピコリン、3−ピコリン、4−ピコリン、2,4−ルチジン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデンセン等が挙げられ、中でもトリエチルアミン、N−メチルモルホリン、ピリジン等が好ましい。その使用量は、反応に用いるジカルボン酸ジクロリド化合物1モルに対して、通常0.5〜6モル、好ましくは1〜5モルである。
【0036】
前記ジカルボン酸ジクロリド化合物としては、例えば、フタル酸ジクロリド、イソフタル酸ジクロリド、テレフタル酸ジクロリド、ビフェニルジカルボン酸ジクロリド、ナフタレンジカルボン酸ジクロリド、オキシジ安息香酸ジクロリド、チオジ安息香酸ジクロリド、ジチオジ安息香酸ジクロリド、カルボニルジ安息香酸ジクロリド、スルホニルジ安息香酸ジクロリド、メチレンジ安息香酸ジクロリド、イソプロピリデンジ安息香酸ジクロリド、ヘキサフルオロイソプロピリデンジ安息香酸ジクロリド、マロン酸ジクロリド、コハク酸ジクロリド、グルタル酸ジクロリド、アジピン酸ジクロリド、ピメリン酸ジクロリド、スベリン酸ジクロリド、アゼライン酸ジクロリド、セバシン酸ジクロリド、ウンデカンジカルボン酸ジクロリド、ドデカンジカルボン酸ジクロリド等のジカルボン酸ジクロリドなどが挙げられ、中でもイソフタル酸ジクロリド、テレフタル酸ジクロリド、ビフェニルジカルボン酸ジクロリド、オキシジ安息香酸ジクロリド、カルボニルジ安息香酸ジクロリド、スルホニルジ安息香酸ジクロリド、ナフタレンジカルボン酸ジクロリド等が好ましい。
【0037】
この反応に用い得る有機溶媒としては、ジカルボン酸ジクロリドに対して不活性溶媒であることが望ましい。このような溶媒として、特に限定されないが、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルカプロラクタム、N,N−ジメチルイミダゾリドン、テトラメチル尿素、ピリジン、γ−ブチロラクトンのような非プロトン性極性溶媒、トルエン、ヘキサン、ヘプタン等の無極性溶媒、テトラヒドロフラン、ジグライム、ジオキサン、トリオキサン等のエーテル系溶媒など、またはこれらの混合溶媒などが挙げられる。
【0038】
また、本発明のポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂の原料であるビスアミノフェノール化合物としては、1分子中に少なくとも2つのアミノ基と少なくとも1つのフェノール性水酸基を有する化合物であれば特に限定されない。
【0039】
ビスアミノフェノール化合物の具体例としては、4,6−ジアミノレゾルシノール、2,5−ジアミノハイドロキノン、3,3’−ジヒドロキシベンジジン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニルエーテル、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニルエーテル、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニルメタン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、9,9’−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン及び、1,3−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン等があるがこれらに限定されるものではない。これらは1種又は2種以上混合して用いても良い。その使用量は、ジカルボン酸トリアジン活性エステル成分1モルに対して、通常0.5〜2.0モル、好ましくは0.9〜1.1モルである。
【0040】
ジカルボン酸トリアジン活性エステルとビスアミノフェノール化合物との反応は不活性溶媒中で行うのが一般的であるが、この不活性溶媒は、ジカルボン酸トリアジン活性エステルと実質的に反応せず、かつ上記ビスアミノフェノール化合物を良好に溶解させる性質を有する他、反応生成物であるポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂に対して良溶媒であることが望ましい。
【0041】
このような不活性溶媒として、特に限定はされないが、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルカプロラクタム、N,N−ジメチルイミダゾリドン、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、N−メチルモルホリン、ピリジン、γ−ブチロラクトン、スルホランのような非プロトン性極性溶媒、トルエン、ヘキサン、ヘプタン等の無極性溶媒、テトラヒドロフラン、ジグライム、ジオキサンや、トリオキサン等のエーテル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒など、またはこれらの混合溶媒などが挙げられる。これら溶媒の使用量は、使用するビスアミノフェノール化合物0.1モルに対して、通常0〜1000mL、好ましくは50〜800mLである。
【0042】
また、重合度の大きいポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂を得るために、塩化リチウム、塩化カルシウムなどの無機塩類を添加してもよい。これら無機塩類の使用量は、使用溶媒量に対して、通常10質量%以下、好ましくは質量5%以下である。
【0043】
ポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂の具体的な製造方法としては、例えば、不活性溶媒中にビスアミノフェノール化合物を溶解し、ビスアミノフェノール化合物1モルに対して、前記ジカルボン酸トリアジン活性エステル成分0.5〜2.0モルを添加し、次いで窒素などの不活性雰囲気下で加熱撹拌しながら、反応させることによりポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂を得ることができる。反応温度は通常−10〜80℃、好ましくは20〜60℃である。反応時間は通常5分間〜24時間、好ましくは30分間〜15時間である。
反応終了後、副生成物のヒドロキシトリアジン化合物が水溶性であるため、反応混合物を水やメタノールなどの貧溶媒中に投じて重合体を分離した後、再沈殿法等によって精製を行って副生成物や無機塩類などを容易に除去することにより、イオン性不純物の含有量が10ppm以下のポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂を得ることができる。
【0044】
また、本発明のポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂は、従来公知のリン系化合物を用いておらず、かつ原料である本発明のジカルボン酸トリアジン活性エステルの塩素イオン含有量が少ないため、従来公知のものと比べて高純度なポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂を得ることができる。
【0045】
本発明のポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂は、10,000〜1,000,000の重量平均分子量を有するものである。
重量平均分子量が10,000未満の場合には、成膜性が悪くポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂としての特性の発現が不十分であり、一方、1,000,000を超える場合には、分子量が高すぎて溶剤溶解性が悪くなり、かつ成形加工性が悪くなるおそれがある。
ポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂の分子量を調節する簡便な方法としては、ジカルボン酸トリアジン活性エステル成分あるいはビスアミノフェノール化合物成分のどちらか一方を過剰に使用する方法を挙げることができる。
ここで重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)とは、GPCの測定結果を基にポリスチレン換算で算出した値を意味する。
【0046】
ところで、本発明のポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂は、加熱によりアミド構造とフェノール性水酸基との間で脱水閉環が起こり、ポリベンゾオキサゾール樹脂とすることができる。
加熱条件には特に制限はないが、通常150〜400℃で30分間〜24時間、好ましくは、170〜350℃で1時間〜12時間であり、加熱温度を副生成物であるヒドロキシトリアジン化合物の分解温度である170℃以上とすることがより好ましい。
【0047】
本発明のポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂及びポリベンゾオキサゾール樹脂は、その含有するイオン性不純物が10ppm以下と少量のため、電気・電子部品用として使用する場合に電気特性低下することなく、電気・電子部品等の半導体分野や耐熱性バグフィルター、二次電池セパレーター、断熱材料、各種フィルター、食品包装および衣服等へ適応することができる。
【実施例】
【0048】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
合成例1〈ジカルボン酸トリアジン活性エステルの合成〉
温度計、窒素導入管、撹拌器を取り付けたフラスコに、イソフタル酸4.2部、2−クロロ−4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン9.7部及びN−メチル−2−ピロリドン100部を加え0℃に冷却した。その後、N−メチルモルホリン7.6部を攪拌下で滴下し、15分間反応させ、下記式(2)
【化5】

で表されるジカルボン酸トリアジン活性エステルの反応液を得た。この反応液を1000部のイオン交換水に投入し、析出した生成物を濾別し、酢酸エチルとn−ヘキサンの混合溶媒で再結晶を行い、乾燥させて、ジカルボン酸トリアジン活性エステルの白色の粉末状結晶の樹脂粉末1を得た(収率23%)。
【0050】
合成例2〈ジカルボン酸トリアジン活性エステルの合成〉
温度計、窒素導入管、撹拌器を取り付けたフラスコに、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸6.5部、2−クロロ−4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン9.7部及びN−メチル−2−ピロリドン100部を加え0℃に冷却した。その後、N−メチルモルホリン7.6部を攪拌下で滴下し、15分間反応させ、下記式(3)
【化6】

で表されるジカルボン酸トリアジン活性エステルの反応液を得た。この反応液を1000部のイオン交換水に投入し、析出した生成物を濾別し、酢酸エチルとn−ヘキサンの混合溶媒で再結晶を行い、乾燥させてジカルボン酸トリアジン活性エステルの白色粉末状結晶の樹脂粉末2を得た(収率43%)。
【0051】
合成例3〈ジカルボン酸トリアジン活性エステルの合成〉
温度計、窒素導入管、撹拌器を取り付けたフラスコに、2−ヒドロキシ−4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン3.1部、N−メチル−2−ピロリドン50部及びトリエチルアミン2.0部を加え0℃に冷却した。その後、イソフタル酸ジクロリド2.0部を添加し、20分間反応させ、下記式(2)
【化7】

で表される本発明のジカルボン酸トリアジン活性エステルの反応液を得た。この反応液を500部のイオン交換水に投入し、析出した生成物を濾別し、酢酸エチルとn−ヘキサンの混合溶媒で再結晶を行い、乾燥させてジカルボン酸トリアジン活性エステルの白色粉末状結晶の樹脂粉末3を得た(収率60%)。
【0052】
実施例1〈ポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂の合成〉
温度計、窒素導入管、撹拌器を取り付けたフラスコに窒素ガスパージを施し、3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル22部、N−メチルピロリドン205部を攪拌溶解し、上記で得られたジカルボン酸トリアジン活性エステルの樹脂粉末2を54部加え、20℃で12時間反応させ、ポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂の反応液を得た。メタノール2000部に投入し析出した樹脂を濾別し、更にメタノール200部で洗浄した後、メタノール還流して精製した。次いで室温まで冷却した後濾過し、濾過物を乾燥させてポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂粉末1を得た(収率98%)。
ゲル浸透クロマトグラフィー(以下、GPC)を用いてポリスチレン換算より求めた分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、それぞれ114,000および2.4であった。また、この樹脂粉末4gとミリポア水40gを121℃、20時間で処理し、抽出水をイオンクロマトグラムにてイオン性不純物(P系イオン、Clイオン)を分析した。その結果を表1に示す。
【0053】
比較例1〈従来公知の方法によるポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂の合成〉
温度計、窒素導入管、撹拌器を取り付けたフラスコに窒素ガスパージを施し、イソフタル酸16部、3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル21部、塩化リチウム1部、N−メチルピロリドン108部、ピリジン23部を加え撹拌溶解させた後、亜リン酸トリフェニル50部を加えて90℃で8時間反応させ、ポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂の反応液を得た。メタノール1000部に投入し析出した樹脂を濾別し、更にメタノール200部で洗浄した後、メタノール還流して精製した。次いで室温まで冷却した後濾過し、濾過物を乾燥させて比較例樹脂粉末1を得た(収率82%)。
GPCを用いてポリスチレン換算より求めた分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、それぞれ3,800及び2.4であった。この樹脂粉末4gとミリポア水40gを121℃、20時間で処理し、抽出水をイオンクロマトグラムにてイオン性不純物(P系イオン、Clイオン)を分析した。その結果を表1に示す。
【0054】
比較例2〈従来公知の方法によるポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂の合成〉
比較例樹脂粉末1のイソフタル酸をジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸、25部に変更した以外は同様にして、反応液と比較例樹脂粉末2を得た(収率85%)。
GPCを用いてポリスチレン換算より求めた分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、それぞれ5,000及び2.6であった。この樹脂粉末4gとミリポア水40gを121℃、20時間で処理し、抽出水をイオンクロマトグラムにてイオン性不純物(P系イオン、Clイオン)を分析した。結果を表1に示した。
【0055】
比較例3〈従来公知の方法によるポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂の合成〉
温度計、窒素導入管、撹拌器を取り付けたフラスコに窒素ガスパージを施し、イソフタル酸8部、3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル11部、2−クロロ−4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン19部、及びN−メチル−2−ピロリドン200部を加えた。その後、N−メチルモルホリン15部を攪拌下で滴下し、20℃で12時間反応させ、ポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂の反応液を得た。メタノール2000部に投入し析出した樹脂を濾別し、更にメタノール200部で洗浄した後、メタノール還流して精製した。次いで室温まで冷却した後濾過し、濾過物を乾燥させて比較例樹脂粉末3を得た(収率93%)。
GPCを用いてポリスチレン換算より求めた分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、それぞれ4,100及び2.2であった。また、この樹脂粉末4gとミリポア水40gを121℃、20時間で処理し、抽出水をイオンクロマトグラムにてイオン性不純物(P系イオン、Clイオン)を分析した。その結果を表1に示す。
【0056】
比較例4〈従来公知の方法によるポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂の合成〉
比較例樹脂粉末3のイソフタル酸をジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸、13部に変更した以外は同様にして、反応液と比較例樹脂粉末4を得た(収率85%)。
GPCを用いてポリスチレン換算より求めた分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、それぞれ6,300及び2.3であった。この樹脂粉末4gとミリポア水40gを121℃、20時間で処理し、抽出水をイオンクロマトグラムにてイオン性不純物(P系イオン、Clイオン)を分析した。結果を表1に示した。
【0057】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂、及び該前駆体樹脂を脱水閉環して得られるポリベンゾオキサゾール樹脂は、イオン性不純物の含有量が少ないため、電気・電子部品等の半導体分野や耐熱性バグフィルター、二次電池セパレーター、断熱材料及び、各種フィルター、食品包装及び衣服等への適応が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(A)
【化1】

(式(A)中、Rは、その構造中にO、N、S、F及びSiから選ばれる1種以上の元素を含む2価の芳香族残基または、炭素数1〜12の2価の有機基を示す。Rは炭素数1〜4のアルキル基または、炭素数6〜8の芳香族残基を示す。)
で表されるジカルボン酸トリアジン活性エステルと、ビスアミノフェノール化合物との重合反応により得られるポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂であって、
重量平均分子量が10,000〜1,000,000の範囲であり、かつ、イオン性不純物の含有量が10ppm以下であるポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂。
【請求項2】
式(A)のRが、炭素数1〜4のアルキル基である請求項1に記載のポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂。
【請求項3】
式(A)のRが、下記式(1)
【化2】

(式中、Rは、H、O、N、S、F若しくはSi、又は構造中にO、N、S、F及びSiからなる群から選ばれる1種以上の元素を含む炭素数1〜6の置換基を示す。Xは、直接結合、O、N、S、F若しくはSi、又は構造中にO、N、S、F及びSiからなる群から選ばれる元素を含む炭素数1〜6の2価の結合基を示す。a、b、c及びdは平均置換基数であって、a、b及びcはそれぞれ0〜4の整数を、dは0〜6の整数を示す。)で表される群から選ばれる2価の芳香族残基である請求項1または2記載のポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂。
【請求項4】
式(1)の、Rが水素原子であり、Xが直接結合、O、SO又はCOである請求項3に記載のポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂を、脱水閉環して得られるポリベンゾオキサゾール樹脂。

【公開番号】特開2011−256219(P2011−256219A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129410(P2010−129410)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【出願人】(504165591)国立大学法人岩手大学 (222)
【Fターム(参考)】