説明

ポリマーアロイ繊維およびこの繊維を含む衛生用品の表面シート

【課題】 衛生用品の表面シートに用いることに適しており、使用後、自然環境下で徐々に分解し最終的には消失する性能を有し、また、使用後に焼却した場合に大気汚染が無く、環境への影響が少ない素材であって、風合いがソフトで、肌触りの良好な素材を提供する。
【解決手段】 第一成分がポリ乳酸であり、第二成分が生分解性を有するポリエステルであって、炭素数3以上の直鎖炭化水素基を含有する脂肪族ポリエステル、あるいは芳香族ポリエステルに炭素数3以上の直鎖炭化水素基を含有する脂肪族ポリエステルが共重合してなる芳香族−脂肪族共重合ポリエステルのいずれかであり、該第一成分と該第二成分とによって構成されるポリマーアロイ繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸を含む生分解性を有するポリマーアロイ繊維およびこの繊維を含む布帛により構成される衛生用品の表面シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
使い捨ておむつ、生理用品、尿取りパット等の衛生用品はポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル等のプラスチック材料が主として使用されている。これら衛生用品は使い捨てのために使用後廃棄され、廃棄物は回収された後、焼却や埋立により処理されているが、焼却処理による大気汚染、埋立処理のための埋立地の確保が困難である等の問題がある。また、回収には多大な労力を必要とするために回収しきれず、土中等の自然界に放置され、環境破壊等様々な問題を引き起こす可能性がある。
【0003】
このような問題を解決するため、例えば特許文献1にはポリ乳酸やポリグリコール酸といった生分解性を有するポリマーを用いた繊維集合体を衛生材料に用いることが提案されている。
【0004】
しかしながらポリ乳酸やポリグリコール酸といったポリマーはヤング率の高いポリマーであり繊維化したときに風合いが硬く、皮膚に直に接して用いる衛生用品の材料としては、肌触りが良くないため適切とはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平06−264344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、衛生用品を構成するシートであって、肌に直接触れる部分である表面シートに適用することができる生分解性を有する繊維であって、使用後、自然環境下で徐々に分解し最終的には消失する性能を有し、また、使用後に焼却した場合に大気汚染が無く、環境への影響が少ない素材であって、実用的な強度を有し、かつ風合いがソフトで、肌触りの良好な素材を提供することにある。
【0007】
本発明者は、上記課題を達成するため検討した結果、ポリ乳酸と、特定の構造のヤング率の低い、柔軟なポリエステルとを用いてポリマーアロイ繊維とすることによって、実用的な強度を保持する繊維であって、かつ、この繊維を用いて布帛にした際には、ソフトな肌触りを呈することを見出し、本発明に到達した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、第一成分がポリ乳酸であり、第二成分が生分解性を有するポリエステルであって、炭素数3以上の直鎖炭化水素基を含有する脂肪族ポリエステル、あるいは芳香族ポリエステルに炭素数3以上の直鎖炭化水素基を含有する脂肪族ポリエステルが共重合してなる芳香族−脂肪族共重合ポリエステルのいずれかであり、該第一成分と該第二成分とによって構成されることを特徴とするポリマーアロイ繊維を要旨とするものである。
【0009】
また、上記ポリマーアロイ繊維を含む布帛により構成されることを特徴とする衛生用品の表面シートを要旨とするものである。
【0010】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0011】
本発明のポリマーアロイ繊維は、いずれも生分解性を有する第一と第二のポリエステルによって構成される。まず、第一成分は、ポリ乳酸である。
【0012】
第一成分を構成するポリ乳酸としては、ポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸、L−乳酸とD−乳酸の共重合体であるポリ−D,L−乳酸、あるいはポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の混合物(ステレオコンプレックス)のいずれでもよい。L−乳酸とD−乳酸の共重合体であるポリ−D,L−乳酸を用いる場合のD−乳酸とL−乳酸の共重合比(D−乳酸/L−乳酸)は、100/0〜95/5、5/95〜0/100が好ましい。上記共重合比を外れる共重合体は、融点が低くなり、また、非晶性が高くなるため高強度の繊維が得られにくくなる。
【0013】
ポリ乳酸の粘度は、ASTM D 1238に記載の方法に準じて、温度210℃、荷重20.2N(2160gf)で測定したメルトフローレート(以下、MFRと略記する。)が10〜80g/10分であることが好ましく、20〜40g/10分であることがより好ましい。MFRが10g/10分未満であると、溶融粘度が高すぎて溶融押出により良好に繊維化しにくい。一方、MFRが80g/10分を超える場合、溶融粘度が低すぎて溶融押出が困難となるだけでなく、繊維の機械的強力が低下する傾向にある。
【0014】
本発明のポリマーアロイ繊維の耐久性を向上させることを目的として、ポリ乳酸に脂肪族アルコール、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、エポキシ化合物などの末端封鎖剤を添加してもよい。また、ポリ乳酸には、本発明の目的を損なわない範囲で、ε−カプロラクトン等の環状ラクトン類、α−ヒドロキシ酪酸、α−ヒドロキシイソ酪酸、α−ヒドロキシ吉草酸等のα−オキシ酸類、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール等のグリコール類、コハク酸、セバシン酸等のジカルボン酸類が含有されていてもよい。
【0015】
ポリマーアロイ繊維を構成する第二成分は、炭素数3以上の直鎖炭化水素基を含有する脂肪族ポリエステル、あるいは芳香族ポリエステルに炭素数3以上の直鎖炭化水素基を含有する脂肪族ポリエステルが共重合してなる芳香族−脂肪族共重合ポリエステルである。
【0016】
炭素数3以上の直鎖炭化水素基を含有する脂肪族ポリエステルとしては、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリ(β−プロピオラクトン)のようなポリ(ω−ヒドロキシアルカノエート)や、ポリ−3−ヒドロキシプロピオネート、ポリ−3−ヒドロキシブチレート、ポリ−3−ヒドロキシカプロネート、ポリ−3−ヒドロキシヘプタノエート、ポリ−3−ヒドロキシオクタノエートのようなポリ(β−ヒドロキシアルカノエートや、これらの繰り返し単位とポリ−3−ヒドロキシバリレート又はポリ−4−ヒドロキシブチレートの繰り返し単位との共重合体などが挙げられる。さらに、ポリエチレンオキサレート、ポリエチレンアジペート、ポリエチレンアゼレート、ポリブチレンオキサレート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンセバケート、ポリヘキサメチレンセバケートなどのポリアルキレンアルカノエートなどが挙げられる。
【0017】
芳香族ポリエステルに炭素数3以上の直鎖炭化水素基を含有する脂肪族ポリエステルが共重合してなる芳香族−脂肪族共重合ポリエステとしては、エチレンテレフタレート、プロピレンテレフタレート、ブチレンテレフタレート、エチレンナフタレートなどの芳香族ポリエステル単位にアジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの炭素数3以上の直鎖炭化水素基を含有する長鎖脂肪族ジカルボン酸が共重合したものなどが挙げられる。あるいは前記芳香族ポリエステル単位に脂肪族ジカルボン酸と炭素数3以上の直鎖炭化水素基を含有する長鎖脂肪族ジオールとのエステルが共重合したものが挙げられる。
【0018】
第二成分のポリエステルとしては、融点が210℃以下のものが好ましい。融点が210℃を超える場合、紡糸温度を235−240℃程度以上とする必要があるが、第一成分のポリ乳酸の熱分解が始まり、良好に紡糸することが困難となるためである。
【0019】
第二成分のポリエステルの粘度は、ASTM D 1238に記載の方法に準じて、融点が160℃以下のものについては温度190℃の条件、融点160℃を超えるものについては(融点温度+30)℃の条件で、荷重20.2N(2160gf)にて測定したMFRが10〜80g/10分であることが好ましく、20〜40g/10分であることがより好ましい。MFRが10g/10分未満であると、溶融粘度が高すぎて溶融押出により良好に繊維化しにくい。一方、MFRが80g/10分を超える場合、溶融粘度が低すぎて溶融押出が困難となるだけでなく、繊維の機械的強力が低下する傾向にある。
【0020】
本発明では、上記した第一成分および第二成分の中から目的に応じて選択したポリマーを第一成分及び第二成分として適用するが、このとき両ポリマー間の溶融粘度差は紡糸操業性とポリマーアロイの形成しやすさの観点から可能な限り小さいことが好ましい。
【0021】
第二成分としてポリアルキレンサクシネートに乳酸が1〜10モル%共重合したポリマーで、互いに溶融粘度差の少ないものを組み合わせると、とりわけ紡糸操業性とポリマーアロイ構造を形成しやすい。この場合、第二成分のポリアルキレンサクネートとしては、エチレンサクシネート、ブチレンサクシネート、プロピレンサクシネート等の、エチレングリコール、ブタンジオール等のアルキレンジオールとコハク酸を重合したものが好ましい。また、本発明の目的を損なわない範囲で、上の繰り返し単位に、ε−カプロラクトン等の環状ラクトン類、α−ヒドロキシ酪酸、α−ヒドロキシイソ酪酸、α−ヒドロキシ吉草酸等のα−オキシ酸類、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール等のグリコール類、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、リンゴ酸等のジカルボン酸類を共重合させてもよいが、これらの共重合量は30モル%以下の範囲であることが好ましい。
【0022】
第二成分のポリアルキレンサクネートに共重合する乳酸が1モル%未満であると、第一成分との相溶性が十分に良化せず、上記の効果が得られにくい。一方、共重合する乳酸が10モル%を超えると、ポリ乳酸との相溶性はより良好ではあるが、ポリアルキレンサクシネートの本来有する柔軟性が損なわれる傾向となる。ポリアルキレンサクシネートに共重合する乳酸は1〜5モル%が好ましい。なお、ポリアルキレンサクシネートに共重合する乳酸は、L−乳酸であっても、D−乳酸でもよい。また、乳酸は、モノマー単位で共重合してなるものを基本とするが、本発明の効果を損なわない範囲でオリゴマー単位(2個〜10個程度)のものが一部含まれていてもよい。
【0023】
本発明では、上記の第一成分のポリ乳酸と第二成分のポリエステルを用いて二成分系ポリマーアロイ繊維となす。この繊維においては、マトリックス(海成分)は、第一成分のポリ乳酸であっても、第二成分のポリエステルであってもよい。ただし、ポリマーアロイ構造とするためには、何れの場合も、一方成分の中に、他方成分が、繊維横断面において直径200nm以下程度にミクロに相分離した状態で存在することが好ましく、このようにすることにより紡糸操業性が良好で、ソフトな風合いのポリマーアロイ繊維とすることができる。なお、結晶性を有するポリ乳酸をマトリックスに配する場合は、強度に優れた繊維とすることができ、第二成分のポリエステルをマトリックスに配する場合には、繊維がよりソフトなものとなる。
【0024】
ポリマーアロイ繊維中の第二成分のポリエステルの含有量としては、得られるポリマーアロイ繊維100質量%に対し30質量%以上とすることが好ましい。第二成分のポリエステルの含有量を30質量%以上とすることにより、得られるポリマーアロイ繊維に十分な柔軟性を付与することができる。なお、第一成分であるポリ乳酸と第二成分であるポリエステルとの質量比が多い方が、マトリックスを形成する傾向となる。
【0025】
また、ポリマーアロイ繊維には、本発明の効果を損なわない範囲で、相溶化剤、酸化防止剤、安定剤、蛍光剤、顔料、抗菌剤、消臭剤又は強化剤などが含まれていてもよい。中でも、相溶化剤を繊維に含有させることは、良好なミクロ相分離構造を形成し、本発明の効果をより顕著とする上で好ましい。
【0026】
ポリマーアロイ繊維の断面形状としては、一般に丸断面が好ましいが、目的に応じ扁平断面、三角断面、多葉断面、中空断面などを採用してもよい。
【0027】
本発明のポリマーアロイ繊維は、例えば以下のような方法により得ることができる。まず、2軸混練機などで第一成分のポリ乳酸と第二成分のポリエステルとを溶融混合してポリマーアロイチップを作成する。あるいは、2軸混練押出機を備えた紡糸装置に各チップを供給し、押出機中で均一溶融混合するなどして、所定のポリマーアロイを得る。次に、これを溶融紡糸した後、横吹付や環状吹付等の従来公知の冷却装置を用いて糸条を冷却する。続いて糸条に油剤を付与し、引き取りローラを介して未延伸糸として巻取る。そして巻取った未延伸糸を、公知の延伸機を用いて周速の異なるローラ群間で延伸すると共に、途中必要に応じて油剤を付与するなどして、目的のポリマーアロイ繊維から構成された延伸糸を得る。
【0028】
また、かかる延伸糸を得るにあたっては、紡糸、延伸を1工程で行うスピンドロー方式を採用することも、紡糸速度4000m/分程度以上の高速紡糸で一挙に延伸糸となす手段も有効である。
【0029】
この他、繊維を長繊維として使用する場合は、糸条を捲き取った後、必要に応じて、撚糸、仮撚加工してもよい。
【0030】
一方、繊維を短繊維の形態とする場合は、必要に応じてクリンパーなどで機械クリンプを付与してから、ECカッター、ギロチンカッターなどで所望の長さに繊維を切断すればよい。
【0031】
本発明のポリマーアロイ繊維は、一例として以上のようにして得ることができ、本発明では、その後、この繊維を用いて布帛を得る。布帛としては、織物、編物、不織布などが採用される。
【0032】
布帛として織物、編物を採用する場合、市販の織機、編機を用いることにより布帛となすことができる。特に織物は表面の形態が平滑であることから、本発明には好ましく採用される。採用しうる組織としては、平組織、綾組織、朱子組織などがあげられる。
【0033】
また、布帛として不織布を採用する場合、カード機などを使用してポリマーアロイ繊維からなるウエブを作成し、これをニードルパンチ又は水流交絡(スパンレース)することにより、繊維を交絡させて不織布となす。この他、熱エンボスロールなどで圧熱処理する、別のバインダー繊維と混合して熱処理するなどして不織布となしてもよい。水流交絡することにより繊維同士が一体化してなる不織布は、より柔軟性に富み、肌触りが良好であることから、本発明のポリマーアロイ繊維のソフトとの相乗効果により、非常に肌触りの良好な布帛となる。
【0034】
本発明では、上記したポリマーアロイ繊維を含む布帛は、衛生用品の表面シートとして用いるとよい。表面シートを構成する布帛には、前記ポリマーアロイ繊維を構成繊維とすることにより優れた柔軟性を呈することができる。布帛には、柔軟性の点から前記ポリマーアロイ繊維を30質量%以上含むことが好ましく、より好ましくは、布帛を構成する繊維すべてを前記ポリマーアロイ繊維とすることである。他の繊維を混用してなる布帛としては、前記ポリマーアロイ繊維と他の繊維とを、混紡、交撚、精紡交撚を行った糸を用いた布帛、前記ポリマーアロイ繊維を含む長繊維と他の糸とを交織、交編した布帛、前記ポリマーアロイ繊維と他の繊維を混綿した混合不織布等が挙げられる。混用する他の繊維としては、本発明の目的から、自然界にて分解する繊維を選択することがよく、ポリ乳酸繊維等の生分解性の合成繊維、ビスコース、キュプラ、ポリノジック等のレーヨン系繊維、リヨセル等の溶剤紡糸セルロース繊維、絹、綿、麻等の天然繊維が挙げられる。
【0035】
長繊維の場合、糸条のトータル繊度としては、特段制限はないものの、布帛の風合いの点から10〜900dtexであることが好ましい。トータル繊度が10dtex未満になると布帛の強度が低下する傾向にあり、一方、900dtexを超えると、布帛が重くなり、用途が限られてしまう傾向にある。
【0036】
本発明の布帛が不織布の場合、不織布を構成する単繊維の繊度は、生産性、操業安定性、柔軟性などを考慮して1〜10dtex程度が好ましく、1〜5dtexがより好ましい。
【0037】
衛生用品の表面シートとして短繊維不織布を用いる場合、より柔軟性が良好で、かつ肌触りをさらに良好とするには、構成繊維同士が水流交絡により一体化することによって不織布形態を保持してなる不織布であることが好ましい。
【0038】
なお、本発明における衛生用品とは具体的には、サニタリーナプキン、パンティーシールド、成人用オムツ、ベビーオムツ、失禁者パッド、介護用のシーツ、使い捨て下着等の肌に直接触れて使用する衛生用品であり、これらにおいて、肌に直接触れる側の材もしくは外側表面を覆う材である表面シートとして使用される。
【発明の効果】
【0039】
本発明は、第一成分がポリ乳酸、第二成分が、生分解性を有するポリエステルであって、炭素数3以上の直鎖炭化水素基を含有する脂肪族ポリエステル、あるいは芳香族ポリエステルに炭素数3以上の直鎖炭化水素基を含有する脂肪族ポリエステルが共重合してなる芳香族−脂肪族共重合ポリエステルのいずれかであり、この二つの成分によるポリマーアロイ繊維であるので、使用後に焼却した場合に、大気汚染が無く、環境への影響が少ない素材である。また、このポリマーアロイ繊維は、実用的な強力を有しながらも、風合いがソフトであるため、この繊維を用いて布帛にとし、この布帛を衛生用品の表面シートに適用すると、肌触りの非常に良好なものとなる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例によって本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例における特性値等の測定法は、次の通りである。また、MFRの測定法は上記したとおりである。
【0041】
(1)融点(℃)
パーキンエルマ社製の示差走査型熱量計DSC−2型を用い、昇温速度20℃/分の条件で測定し、得られた融解吸熱曲線において極値を与える温度を融点とした。
【0042】
(2)単糸繊度(dtex)
JIS L−1015 7−5−1−1Aの方法により測定した。
【0043】
(3)不織布の引張強力(cN/25mm幅)
不織布を幅25mm、長さ150mmの短冊状に切断し、試料を作成した。この試料をオリエンテック社製UTM−4型のテンシロンを用いて、つかみ間隔100mm、引張速度100mm/分の条件で伸長切断し、最大強力を読み取った。本発明においては、引張強力1000cN以上を実用的な強力を有するものとした。
【0044】
(4)不織布の剛軟度(cm)
JIS L−1096記載の45度カンチレバー法に基づき、不織布の先端が45度の斜面に接触するまでの移動距離(cm)を測定した。本発明においては剛軟度(移動距離)が10cm未満を柔軟性が良好とした。
【0045】
(5)不織布の風合い
不織布を10人のパネラーによる手触り試験により、風合いのソフト性を官能評価した。10人中9人以上が風合いがソフトであると評価した場合は○、5〜8人が風合いがソフトであると評価した場合は△、同じく4人以下である場合は×とした。
【0046】
実施例1
まず、第一成分のポリ乳酸(MFR21g/10分、D−乳酸/L乳酸の共重合比=1.3/98.7、融点170℃)を57質量%、第二成分のポリエステルとしてL−乳酸を3.0モル%共重合したポリブチレンサクシネート(MFR32g/10分、融点109℃)を43質量%用い、2軸混練機で これらを220℃で混練しポリマーアロイチップを得た。次に、孔数850孔の丸断面複合紡糸口金を備えた紡糸装置から紡糸温度220℃、紡糸速度1000m/分なる条件で該ポリマーアロイチップを溶融紡糸し、ポリマーアロイ繊維からなる未延伸糸を得た。その後、得られた未延伸糸を延伸温度120℃、延伸倍率3.20倍なる条件で延伸し、押し込み式クリンパーで糸条に機械捲縮を与えた。そして、糸条に仕上げ油剤を付与した後、これを切断し、繊度2.2dtex、強度3.4cN/dtex、伸度41%、繊維長51mmのポリマーアロイ短繊維を得た。
【0047】
続いて、得られたポリマーアロイ短繊維をカード機で開繊し、目付50g/m2のウエブを作製した後、得られたウエブを100メッシュスクリーンからなるネットコンベアーに載置した。次いで、孔径0.12mm、孔間隔1.0mmの噴射孔を複数個有する噴射ノズルを3段階に設けて、前段1920kPa、中段2980kPa、後段2930kPaの水圧でウエブの表裏を水流交絡処理した。ウエブの構成繊維はこれにより交絡し、目付50g/m2 の不織布が得られた。
【0048】
得られた不織布を構成するポリマーアロイ繊維の横断面の顕微鏡観察によれば、ポリ乳酸中に分散する共重合ポリエステルの直径は200nm以下であり、当該不織布はソフトな風合いを発現するものであった。
【0049】
実施例2〜4、比較例1
第二成分のポリエステルとして、ポリエチレンサクシネート(実施例2)、芳香族ポリエステルにアジピン酸を共重合したポリエステル(実施例3、4および比較例1)を用い、実施例3は紡糸温度230℃、比較例1は紡糸温度240℃とすること以外は実施例1と同様にして行った結果を表1に示す。なお、比較例1では第一成分のポリ乳酸が分解して紡糸時の糸切れが激しく、まともに繊維を得ることができなかったため、以後の不織布化の試験は行わなかった。
【0050】
比較例2
ポリマーアロイとはせず、第一成分のポリ乳酸のみを使用すること以外は実施例1と同様にして実施した。
【0051】
得られた実施例1〜4、比較例2の不織布の引張強力、剛軟性および風合いを評価した結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
表1より、明らかなように、本発明の要件を満たす実施例1〜4は、不織布の強力も十分高く、また、風合いもソフトであった。一方、比較例2は、ポリ乳酸繊維のみで構成されたもので不織布の強力は高いいものの、不織布の剛性が高くて固く、風合いもソフト性に欠けるものであった。したがって、本発明のポリマーアロイ繊維によって構成される布帛は風合いがソフトで柔軟性に優れるため、直接肌が接する用途である衛生用品の表面シートとして用いることに有益であることがわかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一成分がポリ乳酸であり、第二成分が生分解性を有するポリエステルであって、炭素数3以上の直鎖炭化水素基を含有する脂肪族ポリエステル、あるいは芳香族ポリエステルに炭素数3以上の直鎖炭化水素基を含有する脂肪族ポリエステルが共重合してなる芳香族−脂肪族共重合ポリエステルのいずれかであり、該第一成分と該第二成分とによって構成されることを特徴とするポリマーアロイ繊維。
【請求項2】
第二成分の融点が210℃以下であることを特徴とする請求項1記載のポリマーアロイ繊維。
【請求項3】
請求項1または2記載のポリマーアロイ繊維を含む布帛により構成されることを特徴とする衛生用品の表面シート。
【請求項4】
布帛が不織布であって、不織布の構成繊維同士が、水流交絡により一体化することによって不織布形態を保持していることを特徴とする請求項3記載の衛生用品の表面シート。


【公開番号】特開2011−63903(P2011−63903A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−214493(P2009−214493)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】