説明

ポリマーフィルムの延伸方法及び光学フィルムの製造方法

【課題】フィルムの破断を抑えつつ、ポリマーフィルムを延伸する。
【解決手段】オフライン延伸設備は収納室及びテンタを有する。収納室は先行フィルムロール及び後続フィルムロールを収納する。テンタは、先行フィルムロールから送り出された先行フィルムを把持して、先行フィルムを拡幅する。全ての先行フィルムを送り出した後、後続フィルムロールから後続フィルムをテンタへ送り出す。テンタの手前に設けられた接合部では、先行フィルム3aの後端部3axと後続フィルム3bの先端部3bxとを重ね合わせ、重なり部分60を設ける。重なり部分60はC方向に振動するホーン66及び受け面55により挟持され、溶着処理が施される。テンタ部は、溶着処理を経たフィルムを拡幅する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーフィルムの延伸方法及び光学フィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリマーフィルム(以下、フィルムと称する)は、優れた光透過性や柔軟性および軽量薄膜化が可能であるなどの特長から光学フィルムとして多岐に利用されている。中でも、セルロースアシレート、特に57.5%〜62.5%の平均酢化度を有するセルローストリアセテート(以下、TACと称する)から形成されるTACフィルムは、液晶表示装置の偏光板の保護フィルム,光学補償フィルム(例えば、視野角拡大フィルムなど)などの光学フィルムとして用いられている。
【0003】
フィルムの主な製造方法としては、溶液製膜方法が知られている。溶液製膜方法は、ポリマーと溶媒とを含むポリマー溶液(以下、ドープと称する)を走行する支持体上に流延して形成し(以下、流延工程と称する)、自己支持性を有するものとなった流延膜を支持体から剥がしてフィルムとし(以下、剥取工程と称する)、フィルムを乾燥する(以下、乾燥工程と称する)。そして、フィルムに生じたシワやタルミ等を除去する場合、或いは、フィルムに所望の光学特性を付与する場合には、クリップテンタ等の延伸装置を用いて、フィルムを所定の搬送速度で搬送しながら幅方向に延伸する工程(以下、延伸処理と称する)を乾燥工程で行う。最後に、巻取機等を用いて、フィルムを巻き芯に巻き取り、フィルムロールとする。そして、流延工程、剥取工程、及び乾燥工程を連続的に行うことにより、フィルムを連続的に効率よく製造することができる。
【0004】
近年、液晶表示装置等の急速な発展・普及により、光学フィルムの需要が増大している。この需要の増大に伴い、光学フィルムの生産性の向上が望まれている。こうした背景から、支持体の走行速度を向上させつつ、冷却により流延膜に自己支持性を短時間で発現させ得る冷却ゲル化方式の溶液製膜方法が、光学フィルムの製造方法として採用されることが多い。
【0005】
しかしながら、支持体の走行速度と延伸装置におけるフィルムの搬送速度とはその最適速度が異なる。特に、冷却ゲル化方式を採用した場合、溶液製膜方法の製膜速度は、延伸装置による搬送速度が律速となり、実質的な生産効率の向上を図ることができない。そこで、延伸処理を行わずにフィルムを製造する溶液製膜設備と、製造されたフィルムに延伸処理を行う別途の延伸設備(以下、オフライン延伸設備と称する)とを別に設け、これらの設備を併用する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、特許文献1に記載されているように、オフライン延伸設備では、巻き芯から送り出されたフィルムに連続して延伸処理を施すことが好ましい。そこで、フィルムロールの切り替え時には、巻き芯から送り出されたフィルムの後端部と、新たなフィルムの先端部とが重なる重なり部分において、後端部及び先端部の溶着(以下、溶着処理と称する)を一様に行う。このような溶着処理をオフライン延伸設備にて行うことにより、フィルムロールの切り替えを行いながら、フィルムの延伸処理を連続して施すことが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−238682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この溶着処理に用いられる溶着装置として、特許文献1に記載のような、超音波溶着装置が挙げられる。超音波溶着装置は、振動するホーン及び台座を有する。溶着処理を行う際には、振動するホーン及び台座を用いて、重なり部分を挟んだ状態のまま、振動するホーンをフィルムの幅方向にトラバースさせる。超音波溶着装置により、重なり部分には、溶着ラインがフィルムの幅方向に伸びるように形成される。
【0009】
振動状態のホーンを幅方向へトラバースする際、重なり部分をなす先端部及び後端部のズレやシワの発生が問題となる。かかるズレやシワの発生を抑えるために、周面がフィルムと接する円柱状のホーンを、フィルム表面の剪段方向に振動させた状態でフィルムの幅方向へ転がして、溶着処理を行っていた。
【0010】
ところが、上記の溶着処理を経たフィルムに延伸処理を施すと、重なり部分において、フィルムが破断してしまう故障が多発した。発明者の鋭意検討の結果、このフィルムの破断が、溶着処理における先端部や後端部の厚みの減少に起因することを見出した。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するものであり、フィルムの破断を防ぎつつ、延伸処理を効率よく行うことができるポリマーフィルムの延伸方法及び光学フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のポリマーフィルムの延伸方法は、先行するポリマーフィルムの後端及び後続するポリマーフィルムの前端が重なり部分を溶着して、一連の接合フィルムをつくる溶着工程と、前記接合フィルムを幅方向に延伸する延伸工程とを有し、前記溶着工程では、前記ポリマーフィルムの厚み方向に振動する溶着ヘッドを前記重なり部分に接触させた状態で、前記溶着ヘッドを前記幅方向へ移動させることを特徴とする。
【0013】
前記溶着工程の前における前記ポリマーフィルムの厚みが40μm以上150μm以下であることが好ましい。また、前記溶着ヘッドの先端部が、曲率半径1mm以上10mm以下の曲面であることが好ましい。更に、前記ポリマーフィルムはセルロースアシレートを含むことが好ましい。加えて、前記延伸工程では、幅がW1の前記ポリマーフィルムを幅がW2となるまで前記幅方向に延伸し、前記延伸工程における前記ポリマーフィルムの温度が100℃以上250℃以下であり、W2/W1の値が1.1以上1.7以下であることが好ましい。
【0014】
また、本発明の光学フィルムの製造方法は、上記のポリマーフィルムの延伸方法を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、溶着工程において、ポリマーフィルムの厚み方向に振動する溶着ヘッド及び台座を用いて、重なり部分を挟持するため、溶着に要する押し付け力が小さくなる結果、溶着処理後によるフィルムの厚みの減少を防ぐことができる。したがって、本発明によれば、オフライン延伸設備において効率よく延伸処理を行うことが可能となるため、ポリマーフィルムを効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】オフライン延伸設備の概要を示す側面図である。
【図2】テンタ部の概要を示す平面図である。
【図3】フラッパが把持開放位置にあるときのテンタ部の断面図である。
【図4】フラッパが把持位置にあるときのテンタ部の断面図である。
【図5】接合部の概要を示す斜視図である。
【図6】台座の受け面の部分拡大図である。
【図7】溶着ヘッドの先端の概要を示す断面図である。
【図8】溶着処理の概要を示す斜視図である。
【図9】溶液製膜設備の概要を示す説明図である。
【図10】溶融製膜設備の概要を示す説明図である。
【図11】熱処理ゾーンにおける複数のロールの配置状態を示す斜視図である。
【図12】熱処理ゾーンにおける複数のロールのロールラップ長(D)及びロール間長(G)を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に示すように、オフライン延伸設備2は、帯状のフィルム3を収納するフィルム収納室4と、リザーバ5と、テンタ部6と、熱緩和室7と、冷却室8と、フィルム巻取室9とを順に有する。
【0018】
フィルム収納室4は、ターレット型のフィルム送出部10及び接合部11を備える。フィルム送出部10は、ターレットアーム13を有する。このターレットアーム13の両端部には、1対の取付軸12aが設けられている。このターレットアーム13は、180度間欠回転することにより、一方の取付軸12aをフィルム送出位置16にセットし、他方の取付軸12aを巻芯交換位置17にセットする。巻芯交換位置17では取付軸12aにフィルムロール14が取り付けられ、ターレットアーム13の回転により、取付軸12aに取り付けられたフィルムロール14は、フィルム送出位置16にセットされる。巻芯交換位置17にある取付軸12aからは空の巻き芯が取り出され、新たなフィルムロール15がセットされる。
【0019】
フィルム送出部10は、フィルム送出位置16にあるフィルムロール14からフィルム(以下、先行フィルムと称する)を、接合部11へ送り出す。フィルム送出部10は、フィルム送出位置16にセットされたフィルムロール14が無くなったことを検出すると、ターレットアーム13を180度回転して、巻芯交換位置17にある新たなフィルムロール15をフィルム送出位置16にセットする。そして、新たなフィルムロール15からフィルム(以下、後続フィルムと称する)が接合部11へ送り出される。
【0020】
接合部11では、先行フィルムの後端部と後続フィルムの先端部とを溶着処理により接合し、一連のフィルム3とする溶着処理が行われる。なお、接合部11及び溶着処理の詳細は後述する。
【0021】
接合部11から送り出されたフィルム3は、リザーバ5に送り出される。リザーバ5では、先行フィルムの一部を滞留させておく。リザーバ5に滞留させる先行フィルムの長さは、溶着処理に要する時間、及びテンタ部6における先行フィルムの搬送速度の積以上とする。
【0022】
リザーバ5を経たフィルム3は、延伸処理が施されるテンタ部6に送り出される。テンタ部6は、フィルム3の両側縁部を把持して、フィルム3を幅方向に延伸した後、フィルム3を耳切装置21に送り出す。耳切装置21は、フィルム3の当該両側縁部を切り離す。耳切装置21により両側縁部が切り離されたフィルム3は、熱緩和室7に送られる。一方、フィルム3から切り離された両側縁部はカットブロア22に送られ、細かく小片にカットされる。カットされた耳屑小片は、図示しない風送装置によりクラッシャ23に送られ、破砕されてチップとなる。このチップはドープ調製用に再利用される。
【0023】
熱緩和室7には、多数のローラ25及び図示しない乾燥用ダクトが備えられており、フィルム3はローラ25により熱緩和室7内を搬送されて加熱により熱緩和された後、冷却室8に送られる。なお、乾燥風ダクトからの風の温度は、20℃以上250℃以下であることが好ましい。
【0024】
熱緩和後のフィルム3は、冷却室8で30℃以下に冷却された後、フィルム巻取室9に送られる。フィルム巻取室9には、プレスローラ26及び巻き芯27を有する巻取機28が設けられている。巻取機28は、プレスローラ26を用いて押圧しながら、フィルム3を巻き芯27に巻き取る。
【0025】
(テンタ部)
図2に示すように、テンタ部6は、フィルム3を長手方向に搬送しながら、幅方向(以下、方向Bと称する)への張力をフィルム3に付与し、フィルム3の幅W1からW2へ拡げるものである。テンタ部6には、フィルム3の搬送方向(以下、方向Aと称する)の上流側から順に、予熱エリア6a、延伸エリア6b、及び緩和エリア6cが設けられる。各エリア6a〜6cには、図示しないダクトが設けられている。各ダクトは、各エリア6a〜6cにあるフィルム3に所定の乾燥風を送る。これにより、各エリア6a〜6cにあるフィルム3の温度が最適な範囲となるように調節される。
【0026】
テンタ部6は、クリップ31、レール32,33、及びチェーン34、35を備えている。レール32,33はフィルム3の搬送路の両側に設置され、それぞれのレール32,33は所定のレール間隔で離間するように配される。このレール間隔は、予熱エリア6aでは一定であり、延伸エリア6bでは方向Aに向かうに従って次第に広くなり、緩和エリア6cでは一定である。方向Aにおけるレール32、33の下流端近傍には原動スプロケット38が設けられ、方向Aにおけるレール32、33の上流端近傍には従動スプロケット39が設けられる。
【0027】
図2に示すように、チェーン34、35は、原動スプロケット38及び従動スプロケット39の間に掛け渡され、レール32,33に沿って移動自在に取り付けられている。クリップ31は、チェーン34、35に所定の間隔で複数取り付けられている。なお、図の煩雑化を避けるため、図2にはクリップ31の一部のみを示す。
【0028】
図3及び図4に示すように、クリップ31は、クリップ本体40とレール取付部41とから構成されている。クリップ本体40は、略コの字形状のフレーム42と、取付軸42aによりフレーム42に回動自在に取り付けられているフラッパ43とから構成されている。フラッパ43は、斜めに起立した状態となる把持開放位置(図3参照)と、略鉛直に起立した状態となる把持位置(図4参照)との間で変位自在に設けられ、自重又は図示しないバネにより把持位置となるように付勢されている。
【0029】
レール取付部41は、取付フレーム44とガイドローラ45とから構成されている。取付フレーム44には、チェーン34またはチェーン35が取り付けられる。ガイドローラ45は、各スプロケット38〜39(図2参照)の各支持面、または、レール32またはレール33の支持面に接触しながら、回転する。これにより、クリップ本体40は、各スプロケット38〜39や各レール32、33から脱落することなく、各レール32、33に沿って案内される。
【0030】
図2〜図4に示すように、レール32,33の方向Aの上流端近傍には、把持開始位置Piが設けられる。また、レール32,33の方向Aの下流端近傍には、把持解除位置Poが設けられる。そして、把持開始位置Piの方向Aの上流側にはクリップ31の開放部材48が、把持解除位置Poの方向Aの下流側にはクリップ31の開放部材49がそれぞれ設けられている。開放部材48、49は、把持開始位置Piの方向Aの上流側近傍、及び把持解除位置Poの方向Aの下流側近傍を通過するクリップ31のフラッパ43の係合頭部43aと接触するように配される。
【0031】
レール32、33を沿うクリップ31の走行により、開放部材48に係合頭部43aが接触すると、フラッパ43は把持開放位置に変位する(図3参照)。これにより、クリップ31は、フィルム3の側縁部の受け入れが可能の状態になる。引き続き、走行するクリップ31が把持開始位置Piを通過すると、開放部材48及び係合頭部43aの接触が解除され、フラッパ43は把持位置に変位する(図4参照)。こうして、把持開始位置Piにおいて、クリップ31は、フィルム把持面42b及びフラッパ下面43bにより、フィルム3の両側縁部(以下、把持エリアと称する)3wを把持する。その後、フィルム3は把持エリア3wをクリップ31によって把持された状態で、各エリア6a〜6cへと順次搬送される。延伸エリア6bでは、フィルム3を方向Bに延伸して、フィルム3の幅をW1からW2に拡げる延伸処理が行われる。延伸率ER(=W2/W1)は1.1以上1.7以下であることが好ましい。また、延伸エリア6bにおけるフィルム3の温度は、100℃以上250℃以下であることが好ましい。その後、クリップ31が把持解除位置Poを通過すると、開放部材49に係合頭部43aが接触する。開放部材49及び係合頭部43aの接触により、フラッパ43は、把持開放位置に変位する。これにより、クリップ31は、把持エリア3wの把持を開放する。
【0032】
(接合部)
図1に示すように、接合部11には、方向Aの上流側から、ニップローラ51及びニップローラ52が配され、ニップローラ51及びニップローラ52の間には、超音波接合装置53及び台座54が配される。
【0033】
(台座)
図5に示すように、台座54は受け面55を有する。図6に示すように、受け面55には、ローレット加工が施され、突起56が無数に形成される。突起56は、角錐台状に形成される。なお、突起56の形状は、角錐台のものに限られず、円錐台、円丘、角錐、円錐、及びその他の形状でもよい。また、台座54は、図示しない制御部の制御の下、方向Cにおいて移動自在に設けられる。
【0034】
受け面55の平面度は、0.1mm以下であることが好ましい。また、台座54の厚みは20mm以上であることが好ましい。更に、台座54にジャッキボルトを設けて、ジャッキボルトの回転により、受け面55の高さを調節してもよい。なお、受け面55の平面度とは、突起56の頂部を含む面の平面度を表す。
【0035】
(ニップローラ)
図1及び図5に戻って、ニップローラ51、52は、図示しない制御部の制御の下、重ね合わせ処理を行う。重ね合わせ処理では、ニップローラ51,52が、先行フィルム3aや後続フィルム3bを挟持し、各フィルム3a、3bを方向Aまたは方向Aの逆の方向へ送り、先行フィルム3aの後端部3axの位置及び後続フィルム3bの先端部3bxの位置が、受け面55上となるように調節する。こうして、先行フィルム3aの後端部3ax及び後続フィルム3bの先端部3bxとが重なる重なり部分60が、受け面55上に形成される。
【0036】
(超音波接合装置)
図5に示すように、超音波接合装置53は、溶着ヘッド61と、スライド機構62と、溶着ヘッド61をスライド機構62に取り付けるベロフラムシリンダ63とからなる。
【0037】
(超音波接合本体)
溶着ヘッド61は、機械的な振動に起因する摩擦熱を利用して、ターゲットを溶着するものであり、振動子65、ホーン66、及び発振器(図示しない)を備える。図示しない制御部の制御の下、発振器は、振動子65を所定の周波数(10kHz〜50kHz)で機械的に振動させる。ホーン66は、振動子65の振動と共鳴する結果、フィルム3の厚み方向(以下、方向Cと称する)に振動する。
【0038】
図7に示すように、ターゲットと接触するホーン66の先端66aは、方向Aに直交する断面において円弧状となるように形成されている。この断面の半径Rは1mm以上10mm以下であることが好ましい。これにより、従来に比べ、溶着処理に要する押し付け力Pを小さくすることができる。なお、先端66aは球面であってもよい。
【0039】
(スライド機構)
スライド機構62は、溶着ヘッド61を方向A、方向B、及び方向Cのうち少なくとも一の方向へ移動自在にするものであり、第1スライド機構62a、第2スライド機構62b及び第3スライド機構62cからなる。第3スライド機構62cは、ベロフラムシリンダ63を保持する取り付け部材70を有する。取り付け部材70は、方向Cへ移動自在となるように設けられる。第3スライド機構62cは、方向Aへ移動自在となるように第1スライド機構62aに取り付けられる。第1スライド機構62aは、方向Bへ移動自在となるように第2スライド機構62bに取り付けられる。
【0040】
第2スライド機構62bは、回動自在に設けられる1対のプーリ76と、この1対のプーリ76に掛け渡されるベルト77と、ベルト77に取り付けられたLMガイド78と、このプーリ76を所定の方向に所定量だけ回動する制御部(図示しない)とからなる。LMガイド78には、第1スライド機構62aが取り付けられる。プーリ76の回動により、ベルト77がB方向へ走行するため、LMガイド78に取り付けられた第1スライド機構62aはB方向へ移動自在となる。
【0041】
溶着ヘッド61及び台座54は、制御部の制御の下、重なり部分60を挟持する挟持位置及び挟持位置から退避する退避位置の間を移動自在となっている。接合工程を行わない場合には、溶着ヘッド61及び台座54は、退避位置にあり、接合工程を行う場合のみ、挟持位置へ移動する。
【0042】
次に、接合部11にて行われる溶着処理について説明する。図1及び図5に示すように、フィルム送出部10は、フィルムロール14から先行フィルム3aを接合部11に送り出し、ニップローラ51、52は、先行フィルム3aをリザーバ5へ送り出す。その後、制御部は、フィルム送出位置16にセットされたフィルムロールがなくなったことを検出すると、フィルム送出部10は、ターレットアーム13を180度回転して、巻芯交換位置17にある新たなフィルムロール15をフィルム送出位置16にセットする。そして、新たなフィルムロール15から後続フィルム3bを送り出す。
【0043】
ニップローラ51、52は、先行フィルム3a及び後続フィルム3bの搬送により、後端部3ax及び先端部3bxの位置あわせを行う。こうして、先行フィルム3aの後端部3ax及び後続フィルム3bの先端部3bxが重なる重なり部分60が受け面55上に形成する。
【0044】
溶着ヘッド61及び台座54は予め退避位置にセットされている。第1スライド機構62a及び第2スライド機構62bは、重なり部分60内に予め設定された溶着エリアに基づいて、受け面55上の所定の位置に溶着ヘッド61をセットする。
【0045】
図8に示すように、溶着ヘッド61はベロフラムシリンダ63に取り付けられているため、退避位置にある溶着ヘッド61及び台座54が挟持位置に位置すると、ホーン66及び受け面55は、重なり部分60を所定の押圧力で挟持することができる。振動するホーン66及び受け面55の挟持により、先行フィルム3aの後端部3axと後続フィルム3bの先端部3bxとの間に摩擦熱が生じる結果、振動するホーン66及び受け面55により挟持された部分、及びこの近傍の後端部3axと先端部3bxとが溶着する。更に、第2スライド機構62bにより、重なり部分60と当接する振動状態のホーン66が、B方向へスライド移動する結果、重なり部分60には、B方向へ伸びる溶着ライン80が形成される。
【0046】
本発明では、台座54及び振動するホーン66を用いて、溶着のターゲットとなる重なり部分60を挟持する溶着処理において、ホーン66の振動方向をフィルムの厚み方向としているため、溶着に要する押し付け力が小さくなる結果、先端部及び後端部を溶着しつつも、先端部や後端部の厚みの減少を防ぐことができる。したがって、本発明によれば、フィルムの破断を防ぎつつ、延伸処理を効率よく行うことができる。
【0047】
溶着処理において、単位厚みあたりの接合仕事WTHは0.4W/μm以上1.1W/μm以下であることが好ましく、0.6W/μm以上0.9W/μm以下であることがより好ましい。接合仕事WTHが0.4W/μm未満であると、溶着に十分な振動が重なり部分60に伝わらない結果、後端部3ax及び先端部3bxの溶着を行うことができない。接合仕事WTHが1.1W/μmより大きくなると、重なり部分60の振動が大きくなりすぎる結果、破断するため好ましくない。単位厚みあたりの接合仕事WTHは、ホーン66が重なり部分60に与える仕事量Wを、1枚のフィルム3の厚みで除したものである。
【0048】
溶着処理において、台座54及び振動するホーン66の挟持による重なり部分60の押し付け力Pは、20N/mm以下であることが好ましい。押し付け力Pはプッシュプルゲージを用いて測定することができる。押し付け力Pの測定方法は、まず台座54の代わりにプッシュプルゲージを設ける。次に、プッシュプルゲージ及び溶着ヘッド61を挟持位置に移動させて、溶着ヘッド61をプッシュプルゲージに当接させる。こうして、押し付け力Pを測定することができる。
【0049】
ホーン66の先端66aの振幅は、10μm以上60μm以下であることが好ましい。ホーン66のトラバース速度Vの下限は、40mm/秒以上であることが好ましい。トラバース速度Vの上限は、特に限定されないが、200mm/秒以下であることが好ましい。
【0050】
先行フィルムや後続フィルムの幅W1は600mm以上であることが好ましく、1300mm以上2500mm以下であることがより好ましく、2500mmより大きい場合にも本発明の効果が発現する。また、図5に示すように、先行フィルムや後続フィルムの厚みTH1の上限は、80μm以下であることが好ましく、60μm以下であることがより好ましい。先行フィルムや後続フィルムの厚みTH1の下限は、20μm以下であることが好ましい。
【0051】
(溶液製膜方法)
上記実施形態におけるフィルムは溶液製膜方法により得ることができる。溶液製膜方法を行う溶液製膜設備210は、図9に示すように、ストックタンク211と流延室212とピンテンタ213と乾燥室215と冷却室216と巻取室217とを有する。
【0052】
ストックタンク211は、モータ211aで回転する攪拌翼211bとジャケット211cとを備える。ストックタンク211の内部には、フィルム3の原料となるポリマーが溶媒に溶解したドープ221が貯留されている。ストックタンク211内のドープ221は、ジャケット211cにより温度が略一定となるように調整される。また、攪拌翼211bの回転によって、ポリマーなどの凝集を抑制しつつ、ドープ221を均一な品質に保持している。配管222は、ストックタンク211と流延ダイ230とを接続する。
【0053】
流延室212には、流延ダイ230、支持体としての流延ドラム232、剥取ローラ234、温調装置235,236、及び減圧チャンバ237が設置されている。流延ドラム232は図示を省略した駆動装置により軸232aを中心に、方向Z1へ回転する。流延室212内及び流延ドラム232は、温調装置235,236によって、流延膜233が冷却固化(ゲル化)し易い温度に設定されている。
【0054】
流延ダイ230は、幅方向に伸びるように形成されるスリットを有する。流延ダイ230は、スリットから回転する流延ドラム232の周面232bに向けて、ドープ221を吐出する。その後、流延ドラム232の周面232b上のドープ221から流延膜233が形成される。そして、流延ドラム232が約3/4回転する間に、流延膜233は冷却され、この冷却により流延膜233では、溶液のゲル化が起こる。このゲル化により自己支持性が流延膜233に発現し、流延膜233は剥取ローラ234によって流延ドラム232から剥ぎ取られ、湿潤フィルム238となる。剥ぎ取り時の流延膜233の残留溶媒量は、150重量%以上320重量%以下であることが好ましい。ここで、残留溶媒量とは、流延膜233等に残留する溶媒量を乾量基準で示したものであり、その測定方法は、対象のフイルム等からサンプルを採取し、このサンプルの重量をx、サンプルを乾燥した後の重量をyとするとき、{(x−y)/y}×100で算出する。
【0055】
減圧チャンバ237は、流延ダイ230に対し、方向Z1の上流側に配置されており、減圧チャンバ237内を負圧に保ち、流延ビードの背面(後に、流延ドラム232の周面232bに接する面)側を所望の圧力に減圧する。流延ビードの背面側の減圧により、流延ドラム232の回転により発生する同伴風の影響を少なくし、流延ダイ230と流延ドラム232との間に安定した流延ビードを形成し、膜厚ムラの少ない流延膜233を形成することができる。
【0056】
流延ダイ230の材質は、電解質水溶液、ジクロロメタンやメタノールなどの混合液に対する高い耐腐食性、及び低い熱膨張率を有する素材から形成される。流延ダイ230の接液面の仕上げ精度は表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下のものを用いることが好ましい。
【0057】
流延ドラム232の周面232bは、クロムメッキ処理が施され、十分な耐腐食性と強度を有する。また、温調装置236は、流延ドラム232の周面232bの温度を所望の温度に保つために、流延ドラム232に伝熱媒体を循環させる。伝熱媒体は所望の温度に保持されており、流延ドラム232内の伝熱媒体流路を通過することにより、流延ドラム232の周面232bの温度が所望の温度に保持される。
【0058】
流延ドラム232の幅は特に限定されるものではないが、ドープの流延幅の1.1倍〜2.0倍の範囲のものを用いることが好ましい。流延ドラム232の材質は、ステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有するようにSUS316製であることがより好ましい。流延ドラム232の周面232bに施されるクロムメッキ処理はビッカース硬さHv700以上、膜厚2μm以上、いわゆる硬質クロムメッキであることが好ましい。
【0059】
また、流延室212内には、蒸発している溶媒を凝縮液化するための凝縮器(コンデンサ)239と凝縮液化した溶媒を回収する回収装置240とが備えられている。凝縮器239で凝縮液化した溶媒は、回収装置240により回収される。その溶媒は再生装置で再生された後に、ドープ調製用溶媒として再利用される。
【0060】
流延室212の下流には、渡り部241、ピンテンタ213が順に設置されている。渡り部241では、搬送ローラ242が、湿潤フィルム238をピンテンタ213に導入する。ピンテンタ213は、湿潤フィルム238の両側縁部を貫通して保持する多数のピンプレートを有し、このピンプレートが軌道上を走行する。ピンプレートにより走行する湿潤フィルム238に対し乾燥風が送られ、湿潤フィルム238は乾燥し、フィルム220となる。
【0061】
ピンテンタ213の下流にはそれぞれ耳切装置243が設けられている。耳切装置243はフィルム220の両側縁部を裁断する。この裁断した両側縁部は、送風によりクラッシャ244に送られて、粉砕され、ドープ等の原料として再利用される。
【0062】
乾燥室215には、多数のローラ247が設けられており、これらにフィルム220が巻き掛けられて搬送される。乾燥室215の出口側には冷却室216が設けられており、この冷却室216でフィルム220が室温となるまで冷却される。冷却室216の下流には強制除電装置(除電バー)249が設けられており、フィルム220が除電される。さらに、強制除電装置249の下流側には、ナーリング付与ローラ250が設けられており、フィルム220の両側縁部にナーリングが付与される。巻取室217には、プレスローラ252を有する巻取機251が設置されており、フィルム220が巻き芯にロール状に巻き取られ、巻取機251により、フィルムロール255が得られる。フィルムロール255は、巻取室217からオフライン延伸設備2のフィルム収納室4(図1参照)に収納される。乾燥室215から送り出されるフィルム220の残留溶媒量は、5重量%以下であることが好ましく、3重量%以下であることがより好ましい。
【0063】
(ポリマー)
以下、フィルムの原料となるポリマーについて説明する。本実施形態では、ポリマーとしてセルロースアシレートを用いており、セルロースアシレートとしては、セルローストリアセテート(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基へのアシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものがより好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、AおよびBは、セルロースの水酸基中の水素原子に対するアシル基の置換度を表わし、Aはアセチル基の置換度、Bは炭素原子数が3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90重量%以上が0.1〜4mmの粒子であることが好ましい。ただし、本発明に用いることができるポリマーは、セルロースアシレートに限定されるものではない。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
【0064】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位および6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化の場合を置換度1とする)を意味する。
【0065】
全アシル化置換度、すなわち、DS2+DS3+DS6の値は、2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)の値は、0.28以上が好ましく、より好ましくは0.30以上であり、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2は、グルコース単位における2位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、2位のアシル置換度と称する)であり、DS3は、グルコース単位における3位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、3位のアシル置換度と称する)であり、DS6は、グルコース単位において、6位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、6位のアシル置換度と称する)である。
【0066】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていてもよい。2種類以上のアシル基を用いるときには、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位,3位および6位の水酸基がアセチル基により置換されている度合いの総和をDSAとし、2位,3位および6位の水酸基がアセチル基以外のアシル基によって置換されている度合いの総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、2.22〜2.90であることが好ましく、特に好ましくは2.40〜2.88である。
【0067】
また、DSBは0.30以上であることが好ましく、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBは、その20%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましく、より好ましくは25%以上であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上であることが好ましい。さらに、セルロースアシレートの6位におけるDSA+DSBの値が0.75以上であり、さらに好ましくは、0.80以上であり、特には0.85以上であるセルロースアシレートも好ましく、これらのセルロースアシレートを用いることで、より溶解性に優れた溶液(ドープ)を作製することができる。特に、非塩素系有機溶媒を使用すると、優れた溶解性を示し、低粘度で濾過性に優れるドープを作製することができる。セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター,パルプのどちらから得られたものでもよい。
【0068】
本発明におけるセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく、特に限定はされない。例えば、セルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステル、芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどが挙げられ、それぞれ、さらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましい例としては、プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などが挙げられる。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、特に好ましくは、プロピオニル基、ブタノイル基である。
【0069】
セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号の[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。また、溶媒および可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤(UV剤),光学異方性コントロール剤,レターデーション制御剤,染料,マット剤,剥離剤,剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0070】
(溶媒)
ドープを調製する溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本発明において、ドープとはポリマーを溶媒に溶解または分散して得られるポリマー溶液,分散液を意味している。
【0071】
これらの中でも炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度など及びフィルムの光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶媒全体に対し2重量%〜25重量%が好ましく、5重量%〜20重量%がより好ましい。アルコールの具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノールあるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0072】
ところで、最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない場合の溶媒組成についても検討が進み、この目的に対しては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素原子数が1〜12のアルコールが好ましく用いられる。これらを適宜混合して用いることがある。例えば、酢酸メチル,アセトン,エタノール,n−ブタノールの混合溶媒が挙げられる。これらのエーテル、ケトン,エステル及びアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン,エステル及びアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−及び−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も、溶媒として用いることができる。
【0073】
上記実施形態では、フィルムの原料となるポリマーとして、セルロースアシレートを用いると説明したが、これらに限られず、環状オレフィン、他のセルロースエステル、例えば、セルロースアセテートプロピオネート等にも適用可能である。また、溶融製膜方法によって製造されたポリマーフィルムに適用することもできる。
【0074】
(溶融製膜設備)
次に、溶融製膜方法によりポリマーフィルムを製造する製造設備(以下、溶融製膜設備と称す)について説明する。溶融製膜設備410は、図10に示すように、液晶表示装置等に使用できる熱可塑性フィルムFを製造する装置である。熱可塑性フィルムFの原材料であるペレット状の熱可塑性樹脂を乾燥機412に導入して乾燥させた後、このペレットを押出機414によって押し出し、ギアポンプ416によりフィルタ418に供給する。次いで、フィルタ418により異物がろ過され、ダイ420から溶融樹脂(溶融した熱可塑性樹脂)が押し出される。溶融樹脂は、第1キャスティングロール428とタッチロール424で挟まれて押圧成形された後、第1キャスティングロール428にて冷却固化されて所定の表面粗さのフィルム状とされ、さらに、第2キャスティングロール426、第3キャスティングロール427によって搬送されることで未延伸フィルムFaが得られる。この未延伸フィルムFaは、この段階で巻き取られてもよいし、連続的に長スパン延伸を行う横延伸部442に供給されてもよい。また、一度巻き取られた未延伸フィルムFaを再度横延伸部442に供給しても、連続的に長スパン延伸を行う横延伸部442に供給した場合と同様の効果が得られる。
【0075】
横延伸部442では、未延伸フィルムFaが搬送方向(以下、方向Xと称する)と直交する幅方向(以下、方向Yと称する)に延伸され、横延伸フィルムFbとされる。横延伸部442の上流側に予熱部436を設けてもよいし、横延伸部442の下流側に熱固定部444を設けてもよい。これにより、延伸中のボーイング(光学軸のズレ)を小さくできる。予熱温度は横延伸温度より高いこと、熱固定温度は横延伸温度より低いことが好ましい。すなわち、通常、ボーイングは幅方向中央部が進行方向に向かって凹となるが、予熱温度>横延伸温度、横延伸温度>熱固定温度とすることによりボーイングを低減できる。予熱処理、熱固定処理はどちらか一方でもよく、両方行ってもよい。
【0076】
横延伸の後に後熱処理を行なった後、熱処理ゾーン446で方向Xに横延伸フィルムFbを収縮させる。熱処理ゾーン446では、図11に示すように、横延伸フィルムFbの側端部をチャックで把持しない状態で、方向Yの収縮が起こらずに、方向Xの収縮のみが起こるように複数のロール448a〜448dで横延伸フィルムFbを搬送する。このとき、図12に示すように、複数のロール448a〜448dは、ロールラップ長(D)とロール間長(G)の比(G/D)が0.01以上3以下となるように配置される。これにより横延伸フィルムFbと各ロール448〜448dとの摩擦により方向Yの収縮が抑制される。そして、横延伸フィルムFbは、上流側のロール448aによる周速度(V1)と下流側のロール448dによる周速度(V2)の比(V2/V1)が0.6以上0.999以下で搬送しながら熱処理される。つまり、横延伸フィルムFbは熱処理ゾーンにて方向Xに収縮する。
【0077】
横延伸フィルムFbが熱処理ゾーンにて熱処理されることで、配向角、レターデーションが調整された最終製品である熱可塑性フィルムFが製造される。このフィルムFは巻取部449によって巻き取られる。
【0078】
方向Yへの延伸の前又は後に方向Xの延伸を行ってもよい。方向Xの延伸は、方向Xに並ぶ複数のニップロール対を用いてフィルムを搬送し、上流側のニップロール対の周速度より下流側のニップロール対の周速度を速くすることで達成できる。方向Xにおけるニップロール間の距離(L)と上流側のニップロール対でのフィルム幅Wの比(L/W)の大きさで延伸方式が異なり、L/Wが小さいと特開2005−330411号公報、特開2006−348114号公報記載のような方向Xの延伸方式を採用できる。この方式は、Rthが大きくなり易いが装置をコンパクトにすることができる。一方、L/Wが大きい場合は特開2005−301225号公報記載のような方向Xの延伸方式を用いることができる。この方式はRthを小さくできるが、装置が長大になり易い。
【0079】
溶融製膜方法に用いることのできるポリマーは、熱可塑性樹脂であれば特に限定されず、例えば、セルロースアシレート、ラクトン環含有重合体、環状オレフィン、ポリカーボネイト等が挙げられる。中でも好ましいのがセルロースアシレート、環状オレフィンであり、中でも好ましいのがアセテート基、プロピオネート基を含むセルロースアシレート、付加重合によって得られた環状オレフィンであり、さらに好ましくは付加重合によって得られた環状オレフィンである。
【0080】
(環状オレフィン)
環状オレフィンはノルボルネン系化合物から重合されるものが好ましい。この重合は開環重合、付加重合いずれの方法でも行える。付加重合としては例えば特許3517471号公報記載のものや特許3559360号公報、特許3867178号公報、特許3871721号公報、特許3907908号公報、特許3945598号公報、特表2005−527696号公報、特開2006−28993号公報、国際公開第2006/004376号パンフレットに記載のものが挙げられる。特に好ましいのは特許3517471号公報に記載のものである。
【0081】
開環重合としては国際公開第98/14499号パンフレット、特許3060532号公報、特許3220478号公報、特許3273046号公報、特許3404027号公報、特許3428176号公報、特許3687231号公報、特許3873934号公報、特許3912159号公報記載のものが挙げられる。なかでも好ましいのが国際公開第98/14499号パンフレット、特許3060532号公報記載のものである。
【0082】
これらの環状オレフィンの中でも付加重合のものの方がより好ましい。
【0083】
(ラクトン環含有重合体)
下記(一般式1)で表されるラクトン環構造を有するものを指す。
【0084】
【化1】

【0085】
(一般式1)中、R、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表す。なお、有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。
【0086】
(一般式1)のラクトン環構造の含有割合は、好ましくは5〜90重量%、より好ましくは10〜70重量%、さらに好ましくは10〜50重量%である。
【0087】
(一般式1)で表されるラクトン環構造以外に、(メタ)アクリル酸エステル、水酸基含有単量体、不飽和カルボン酸、下記(一般式2)で表される単量体から選ばれる少なくとも1種を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)が好ましい。
【0088】
【化2】

【0089】
(一般式2)中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Xは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、−OAc基、−CN基、−CO−R基、又は−C−O−R基を表し、Ac基はアセチル基を表し、R及びRは水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表す。
【0090】
例えば、国際公開第2006/025445号パンフレット、特開2007−70607号公報、特開2007−63541号公報、特開2006−171464号公報、特開2005−162835号公報記載のものを用いることができる。
【実施例】
【0091】
(実験1〜9)
超音波接合装置53及び台座54を用いて、重なり部分60の溶着処理を行った。溶着処理における各条件は表1に示すとおりである。表1において、「振動方向」は、ホーン66の振動方向であり、方向Bまたは方向Cのいずれかを示す。「振幅」は、ホーン66の振動の振幅である。「P」は、超音波接合装置53及び台座54により重なり部分60を挟持したときの押し付け力である。「V」は、溶着ヘッド61の方向Bにおけるトラバース速度である。
【0092】
上記の溶着処理を経た接合フィルムに延伸処理を行なった。延伸処理では、温度が150℃〜230℃の範囲内に調節された接合フィルムを方向Bへ延伸した。延伸率ER(=W2/W1)は1.6であった。
【0093】
(評価)
実験1〜9の溶着処理及び延伸処理を経たフィルムについて、以下の評価を行った。
【0094】
1.接合強度の評価
溶着処理を施した1本の接合フィルムを幅方向へ延伸し、接合部が破断したときの引張応力を、引張試験機(テンシロン試験機)を用いて測定した。そして、測定した引張応力を、以下基準に基づいて評価した。
○:測定した引張応力が、搬送時に付与されるフィルムの引張応力(5N/mm)以上であった。
×:測定した引張力が、搬送時に付与されるフィルムの引張応力(5N/mm)未満であった。
【0095】
2.破断故障の評価
延伸処理により、フィルムが破断していたか否かを、以下基準に基づいて評価した。
○:重なり部分において、接合フィルムが破断しなかった。
×:重なり部分において、接合フィルムが破断した。
【0096】
【表1】

【0097】
表1に、評価結果を示す。なお、表1の評価結果に付された番号は、上記の評価項目に付した番号を表す。
【符号の説明】
【0098】
2 オフライン延伸設備
3 フィルム
3a 先行フィルム
3b 後続フィルム
3w 把持エリア
4 フィルム収納室
6 テンタ部
11 接合部
53 超音波接合装置
54 台座
60 重なり部分
66 ホーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先行するポリマーフィルムの後端及び後続するポリマーフィルムの前端が重なり部分を溶着して、一連の接合フィルムをつくる溶着工程と、
前記接合フィルムを幅方向に延伸する延伸工程とを有し、
前記溶着工程では、前記ポリマーフィルムの厚み方向に振動する溶着ヘッドを前記重なり部分に接触させた状態で、前記溶着ヘッドを前記幅方向へ移動させることを特徴とするポリマーフィルムの延伸方法。
【請求項2】
前記溶着工程の前における前記ポリマーフィルムの厚みが40μm以上150μm以下であることを特徴とする請求項1記載のポリマーフィルムの延伸方法。
【請求項3】
前記溶着ヘッドの先端部が、曲率半径1mm以上10mm以下の曲面であることを特徴とする請求項1または2記載のポリマーフィルムの延伸方法。
【請求項4】
前記ポリマーフィルムはセルロースアシレートを含むことを特徴とする請求項1ないし3のうちいずれか1項記載のポリマーフィルムの延伸方法。
【請求項5】
前記延伸工程では、幅がW1の前記ポリマーフィルムを幅がW2となるまで前記幅方向に延伸し、
前記延伸工程における前記ポリマーフィルムの温度が100℃以上250℃以下であり、W2/W1の値が1.1以上1.7以下であることを特徴とする請求項1ないし4のうちいずれか1項記載のポリマーフィルムの延伸方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のうちいずれか1項のポリマーフィルムの延伸方法を用いることを特徴とする光学フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−284860(P2010−284860A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139887(P2009−139887)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】