説明

ポリマーフィルムの延伸方法及び装置並びに溶液製膜方法

【課題】簡単な構成で耳ヨレの発生を抑える。
【解決手段】クリップテンタ2は、フィルム搬送方向Aで、予熱ゾーン2a、把持安定ゾーン2b、幅保持ゾーン2c、本延伸ゾーン2d、延伸緩和ゾーン2eに区画されている。把持安定ゾーン2bでは、延伸前のポリマーフィルム3の幅を100%としたとき、延伸後の幅が104%となるように延伸する。幅保持ゾーン2cでは、ポリマーフィルム3を、104%に延伸された状態を維持しながら、搬送する。本延伸ゾーン2dでは、把持安定ゾーン2bで延伸される前のポリマーフィルム3の幅を100%としたとき、延伸後の幅が140%となるように延伸する。把持安定ゾーン2bでは、ポリマーフィルム3の収縮力により、クリップ5は閉じる方向に付勢され、クリップ5によるフィルム把持が安定し、ポリマーフィルム3は、本延伸ゾーン2dで耳ヨレがなく安定して延伸される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーフィルムの延伸方法及び装置並びに溶液製膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学用途に用いられる各種のポリマーフィルムのうち、特にセルロースアシレートフィルムは、溶液製膜方法により製造される。この溶液製膜方法では、流延ダイを用いてドープを支持体上に流延させ、これを支持体から剥ぎ取った後、乾燥工程を経て巻き取ることによりフィルムが製造される。
【0003】
溶液製膜設備により製造されたセルロースアシレートフィルムは、平面性や機械的強度、光学特性等を改良するために、フィルム幅方向に延伸している。この延伸は、フィルムの両側縁部をクリップにより把持して搬送しながらフィルム幅方向に引っ張ることにより行う。
【0004】
フィルム延伸中は、クリップによって噛み込まれた部分の周辺のフィルムが延伸により薄くなるため、クリップのフィルム把持力が減少し、延伸中または延伸後に、フィルムがクリップから抜けてしまうことがあった。このため、特許文献1では、クリップの把持開始位置から把持開放位置までの範囲に、クリップを閉じる方向に力を加えるクリップクローザを設けたテンタ装置が提案されている。
【特許文献1】特開2004−106422号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように、把持弛みを無くすためにクリップを閉じる方向に付勢するためには、把持力加勢手段を設ける必要があり、装置構成が複雑になるという問題がある。また、把持弛みを無くすために把持力を加勢する構成を取る特許文献1では、110μm以下の薄膜フィルムや、溶媒含有量が低い低揮発分領域のフィルムのときに、膜の変形マージンが小さくなるため、十分な効果が得られないという問題がある。
【0006】
また、クリップによりフィルムを把持する場合には、クリップのフィルム把持部分が隙間なくフィルムに噛み込む必要がある。このフィルム把持部分に隙間ムラがあると、この隙間ムラ部分ではフィルムを把持することができなくなる。図5は、把持ムラが発生しているフィルム100を拡大表示したもので、(A)は片噛み状態を示し、(B)は中抜け状態を示している。ハッチングで表示した部分は、クリップによる把持エリア101を示している。(A)において、左右の把持エリア101a,101bは隙間なくフィルム100を把持していることが判るが、中央部の把持エリア101cは、(A)では右側に隙間が発生し、これにより右側エリアは把持できなくなり、クリップの左側エリアでのみフィルム100を把持している。このように、真ん中のクリップにおいて片側に隙間が生じていると、この隙間発生部分ではフィルム100を把持することができないため、この部分に対応するフィルム側縁100aが中央側に窪んだ状態となり、耳ヨレ102が出来てしまう。
【0007】
同様にして、(B)に示すように、真ん中のクリップにおいて、クリップ把持エリア101dの中央部に隙間が発生している場合にも、この中央部分に対応するフィルム側縁100aが中央側に窪んだ状態となり、同様にして耳ヨレ104が発生する。このような耳ヨレ102,104は、延伸倍率が高くなると、例えば(A)の場合には、片側に隙間が発生しているクリップの把持部分に延伸時の応力が集中し、このクリップ把持部分を起点とする噛み千切れが発生する。(B)の場合にも、同様にして、噛み千切れが発生する。
【0008】
噛み千切れが発生すると、その部分の延伸が充分になされないために、延伸不充分部分で光学特性にムラが出ることがあり、好ましくない。また、噛み千切れ部分からフィルム100が破断してしまうこともあり、この場合には延伸停止につながるため、問題となる。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、簡単な構成で耳ヨレの発生を抑えるようにしたポリマーフィルムの延伸方法及び装置並びに溶液製膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明のポリマーフィルムの延伸方法は、ポリマーフィルムの走行方向に移動する開閉自在な把持具により、前記ポリマーフィルムの両側縁部を把持して前記ポリマーフィルムを幅方向に所定の倍率に延伸するポリマーフィルムの延伸方法において、前記把持具により前記ポリマーフィルムを把持した後に、前記ポリマーフィルムの把持幅を漸増して前記所定の倍率未満に延伸し、延伸された前記ポリマーフィルムの縮む力により前記把持具を閉じ方向に付勢させて把持を安定させる把持安定工程と、前記把持安定工程の後に設けられ、前記ポリマーフィルムの把持幅を漸増して前記所定の倍率に延伸する本延伸工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
また、前記把持安定工程は、前記把持具により前記ポリマーフィルムを把持してから10秒以内に延伸を開始することが好ましい。
【0012】
さらに、前記把持安定工程と前記本延伸工程との間に、前記ポリマーフィルムの把持幅を略一定に保持して搬送する搬送工程を有することが好ましい。
【0013】
また、前記ポリマーフィルムは、溶媒が残留しているセルロースアシレートフィルムであり、前記把持安定工程及び前記本延伸工程では、前記セルロースアシレートフィルムの残留溶媒量を5%以上12.5%以下とすることが好ましい。
【0014】
さらに、前記セルロースアシレートフィルムは延伸前の膜厚が70μm以上110μm以下であり、前記所定の倍率を130%以上140%以下とし、前記把持安定工程の延伸倍率を101.5%以上125%以下とすることが好ましい。なお、前記把持安定工程の延伸倍率は、101.5%以上110%以下がより好ましく、101.5%以上105%以下が最も好ましい。
【0015】
また、本発明の溶液製膜方法は、ポリマーと溶媒とを含むドープを、エンドレスに走行する支持体上に流延し、前記支持体上の前記ドープから流延膜を形成し、冷却によりゲル化した前記流延膜を前記支持体から剥ぎ取り、前記支持体から剥ぎ取られた前記流延膜をポリマーフィルムとして、上記ポリマーフィルムの延伸方法を行うことを特徴とする。
【0016】
また、本発明のポリマーフィルムの延伸装置は、ポリマーフィルムの走行方向に移動する開閉自在な把持具により、前記ポリマーフィルムの両側縁部を把持して前記ポリマーフィルムを幅方向に所定の倍率に延伸するポリマーフィルムの延伸装置において、前記把持具により前記ポリマーフィルムを把持した後に、前記ポリマーフィルムの把持幅を漸増して前記所定の倍率未満に延伸し、延伸された前記ポリマーフィルムの縮む力により前記把持具を閉じ方向に付勢させて把持を安定させる把持安定手段と、前記把持安定手段の後に設けられ、前記ポリマーフィルムの把持幅を漸増して前記所定の倍率に延伸する本延伸手段と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、延伸したポリマーフィルムの縮む力により把持具を閉じ方向に付勢させて把持を安定させるから、把持具によるポリマーフィルムの噛み込み不良を防止することができる。これにより、ポリマーフィルムの耳ヨレの発生を抑えることができ、ポリマーフィルムを確実にムラなく延伸することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1に示すように、クリップテンタ2は、ポリマーフィルム3の両側縁部をクリップ(把持具)5で把持してフィルム搬送方向Aに搬送しながらフィルム幅方向Bに延伸するとともに、ポリマーフィルム3を乾燥させる。
【0019】
クリップテンタ2は、第1レール11と、第2レール12と、これらレール11,12に案内される第1,第2チェーン(エンドレスチェーン)13,14とを備えている。
【0020】
クリップテンタ2は、図示しない乾燥室内に配置されている。乾燥室は、フィルム搬送方向Aで、予熱ゾーン2a、把持安定ゾーン2b、幅保持ゾーン2c、本延伸ゾーン2d、延伸緩和ゾーン2eに区画されている。予熱ゾーン2aでは、ポリマーフィルム3は、例えば80℃以上145℃以下の所定温度で予熱される。予熱ゾーン2a及び幅保持ゾーン2cでは、一対のクリップ間距離は変化がなく、クリップ5によるフィルム幅方向Bでの延伸は行われない。
【0021】
把持安定ゾーン2b、幅保持ゾーン2c及び本延伸ゾーン2dでは、ポリマーフィルム3は、例えば80℃以上145℃以下で加熱される。把持安定ゾーン2b及び本延伸ゾーン2dでは、一対のクリップ間距離が漸増し、ポリマーフィルム3は、クリップ5によりフィルム幅方向Bに延伸される。延伸緩和ゾーン2eでは、ポリマーフィルム3は、例えば80℃以上145℃以下で加熱され、一対のクリップ間距離は変化がなく、または漸減し、延伸緩和が行われる。
【0022】
把持安定ゾーン2bでは、ポリマーフィルム3の残留溶媒量が12%の状態で延伸され、本延伸ゾーン2dでは、ポリマーフィルム3の残留溶媒量が10%の状態で延伸される。なお、上記した残留溶媒量に限定されることなく、把持安定ゾーン2b及び本延伸ゾーン2dでは残留溶媒量5〜12.5%の範囲内で変更可能である。また、本実施形態では、ポリマーフィルム3の残留溶媒量は、フィルム中に残留する溶媒量を乾量基準で示したものとする。その測定方法は、対象のフィルムからサンプルを採取し、このサンプルの重量をx、サンプルを乾燥した後の重量をyとするとき、{(x−y)/y}×100で算出する。
【0023】
第1,第2チェーン13,14には、クリップ5が一定の間隔で多数取り付けられている。このクリップ5は、ポリマーフィルム3の側縁部を把持しながら、各レール11,12に沿って移動することで、ポリマーフィルム3をフィルム幅方向Bに延伸する。なお、本実施形態では、延伸前のポリマーフィルム3の厚みを70μm、幅を100%としたとき、延伸後の幅が140%となるように延伸するが、これに限定されることなく、延伸倍率は所望の光学特性等に合わせて適宜変更されるものであり、130%以上140%以下であることが好ましい。
【0024】
第1,第2チェーン13,14は、原動スプロケット21,22及び従動スプロケット23,24の間に掛け渡されており、これらスプロケット21〜24の間では、第1チェーン13は第1レール11によって、第2チェーン14は第2レール12によって案内される。原動スプロケット21,22はテンタ出口27側に設けられており、これらは図示しない駆動機構により回転駆動され、従動スプロケット23,24はテンタ入口26側に設けられている。
【0025】
図2に示すように、クリップ5は、クリップ本体31とレール取付部32とから構成されている。クリップ本体31は、略コ字形状のフレーム33とフラッパ34とから構成されており、フラッパ34は、取付軸33aによりフレーム33に回動自在に取り付けられている。フラッパ34は略鉛直状態となるフィルム把持位置(図3参照)と、クリップオープナ40に係合頭部34aが接触して斜めに回転した状態となる開放位置(図2参照)との間で回転し、通常は自重によりフィルム把持位置となるように付勢されている。フィルム把持開始位置PAでは、フィルム把持面33bとフラッパ下面34bとによりポリマーフィルム3が把持される。
【0026】
レール取付部32は、取付フレーム35と、ガイドローラ36,37,38とから構成されている。取付フレーム35には、第1チェーン13または第2チェーン14が取り付けられる。ガイドローラ36〜38は、原動スプロケット21,22の各支持面に接触するか、第1レール11または第2レール12の支持面に接触するかして、回転する。これにより、各スプロケット21,22や各レール11,12からクリップ本体31が脱落することなく、各レール11,12に沿って案内される。
【0027】
図1に示すように、スプロケット21〜24に近接して、クリップ5を開放するためのクリップオープナ40が配置されている。図2に示すように、クリップオープナ40は、テンタ入口26の従動スプロケット23,24では、フィルム把持開始位置PAの前で、クリップ5の係合頭部34aに接触してこれを開放状態にし、ポリマーフィルム3の側縁部の受け入れを可能にする。そして、フィルム把持開始位置PAを通過するときにクリップオープナ40が係合頭部34aから離れ、クリップ5が自重により開放位置から把持位置にセットされて、ポリマーフィルム3の側縁部が把持される。同様にして、テンタ出口27の原動スプロケット21,22では、ポリマーフィルム3の把持開放位置PBでクリップオープナ40によりクリップ5が開放位置にされて、ポリマーフィルム3の側縁部の把持が開放される。
【0028】
クリップテンタ2では、延伸開始位置PC(図1参照)でポリマーフィルム3の延伸が開始され、延伸終了位置PDでポリマーフィルム3の延伸が終わるようにされている。フィルム把持開始位置PAから延伸開始位置PCまでの予熱ゾーン2aでは、ポリマーフィルム3は延伸されずに搬送される。さらに、延伸終了位置PDから把持開放位置PBまでの延伸緩和ゾーン2eでは、ポリマーフィルム3は延伸されずに搬送される。
【0029】
図1に示すように、延伸開始位置PCから延伸一時停止位置PEまでの間が把持安定ゾーン2bとなり、延伸一時停止位置PEから延伸再開位置PFまでの間が幅保持ゾーン2cとなり、延伸再開位置PFから延伸終了位置PDまでの間が本延伸ゾーン2dとなる。延伸開始位置PCは、フィルム把持開始位置PAでポリマーフィルム3を把持したクリップ5が4秒後に到達する位置に設けられている。なお、前記秒数は4秒に限定されることなく、10秒以内であれば適宜変更可能である。
【0030】
把持安定ゾーン2bでは、延伸前のポリマーフィルム3の幅を100%としたとき、延伸後の幅が104%となるように延伸する。図3に示すように、幅方向に延伸されるポリマーフィルム3には、収縮方向Cに元の形状に縮む力が発生する。ポリマーフィルム3は、フィルム把持面33bとフラッパ下面34bとの間に挟持されており、ポリマーフィルム3が収縮方向Cに縮む力(以下、収縮力と称する)により、レール11に沿って移動するクリップ5の場合には、フラッパ34が時計方向に回転され、レール12に沿って移動するクリップ5の場合には、フラッパ34が反時計方向に回転され、クリップ5は、それぞれ閉じる方向に付勢される。これにより、クリップ5による把持力が上昇し、クリップ5によるフィルム把持が安定する。本実施形態では、把持安定ゾーン2bの部分の第1,第2レール11,12が、クリップ5による把持を安定させる把持安定手段として機能する。なお、把持安定ゾーン2bでの延伸倍率は適宜変更されるものであり、101.5%以上125%以下であることが好ましい。
【0031】
幅保持ゾーン2cでは、ポリマーフィルム3を、104%に延伸された状態を維持しながら、搬送する。このため、幅保持ゾーン2cでは、ポリマーフィルム3の収縮力によりクリップ5を閉じ方向に回転させる力が、把持安定ゾーン2bよりも大きくなり、クリップ5によるフィルム把持がより一層安定する。
【0032】
本延伸ゾーン2dでは、把持安定ゾーン2bで延伸される前のポリマーフィルム3の幅を100%としたとき、延伸後の幅が140%(所定の倍率)となるように延伸する。本延伸ゾーン2dには、把持安定ゾーン2bで延伸される前のポリマーフィルム3の幅を100%としたときに、104%に延伸されたポリマーフィルム3が搬送される。すなわち、本延伸ゾーン2dでは、把持安定ゾーン2bで延伸される前のポリマーフィルム3の幅を100%としたとき、ポリマーフィルム3の幅を104%から140%に延伸する。本実施形態では、本延伸ゾーン2dの部分の第1,第2レール11,12が、ポリマーフィルム3を所定の倍率としての140%に延伸する本延伸手段として機能する。
【0033】
次に上記ポリマーフィルム3の製造方法について説明する。ただし、以下に述べる製造方法ならびに製造装置は、本発明の一例であり、これに限定されるものではない。
【0034】
[溶液製膜方法]
図4に、本実施形態で用いる溶液製膜設備50の概略図を示す。溶液製膜設備50は、ストックタンク51と流延室52とピンテンタ53とクリップテンタ2と乾燥室54と冷却室55と巻取室56とを有する。
【0035】
ストックタンク51は、モータ51aで回転する攪拌翼51bとジャケット51cとを備えており、その内部にはポリマーフィルム3の原料となるドープ61が貯留されている。ストックタンク51内のドープ61は、ジャケット51cにより温度が略一定となるように調整される。また、攪拌翼51bの回転によって、ポリマーなどの凝集を抑制しつつ、ドープ61を均一な品質に保持している。ストックタンク51の下流には、ギアポンプ65及び濾過装置66が設置されており、これらを介してドープ61が流延ダイ70に送られる。
【0036】
流延室52には、流延ダイ70、流延ドラム72、剥取ローラ74、温調装置75,76、及び減圧チャンバ77が設置されている。流延ドラム72は図示を省略した駆動装置により回転されており、この回転中の流延ドラム72の周面72bに向けて、流延ダイ70からドープ61が吐出され、流延ドラム72の周面72bに流延膜73が形成される。
【0037】
流延室52内及び流延ドラム72は、温調装置75,76によって、流延膜73が冷却ゲル化し易い温度に設定されている。そして、流延ドラム72が約3/4回転する間に、流延膜73は自己支持性を有するゲル強度に達し、剥取ローラ74によって流延ドラム72から剥ぎ取られる。
【0038】
減圧チャンバ77は、流延ダイ70に対し、ドラム走行方向上流側に配置されており、チャンバ77内を負圧に保っている。これにより、流延ビードの背面(後に、流延ドラム72の周面72bに接する面)側を所望の圧力に減圧し、流延ドラム72が高速で回転することにより発生する同伴風の影響を少なくし、安定した流延ビードを流延ダイと流延ドラムとの間に形成し、膜厚ムラの少ない流延膜73が形成される。そして、流延膜73が自己支持性を有するものとなった後、剥取ローラ74は、流延ドラム72上の流延膜73を湿潤フィルム78として剥ぎ取る。
【0039】
流延ダイ70の材質は、電解質水溶液、ジクロロメタンやメタノールなどの混合液に対する高い耐腐食性、及び低い熱膨張率を有する素材から形成される。流延ダイ70の接液面の仕上げ精度は表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下のものを用いることが好ましい。
【0040】
流延ドラム72の周面72bは、クロムメッキ処理が施され、十分な耐腐食性と強度を有する。また、温調装置76は、流延ドラム72の周面72bの温度を所望の温度に保つために、流延ドラム72に伝熱媒体を循環させる。伝熱媒体は所望の温度に保持されており、流延ドラム72内の伝熱媒体流路を通過することにより、流延ドラム72の周面72bの温度が所望の温度に保持される。
【0041】
流延ドラム72の幅は特に限定されるものではないが、ドープの流延幅の1.1倍〜2.0倍の範囲のものを用いることが好ましい。流延ドラム72の材質は、ステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有するようにSUS316製であることがより好ましい。流延ドラム72の周面72bに施されるクロムメッキ処理はビッカース硬さHv700以上、膜厚2μm以上、いわゆる硬質クロムメッキであることが好ましい。
【0042】
流延室52内には、蒸発している有機溶媒を凝縮回収するための凝縮器(コンデンサ)79と凝縮液化した溶媒を回収する回収装置80とが備えられている。凝縮器79で凝縮液化した有機溶媒は、回収装置80により回収される。その溶媒は再生装置で再生された後に、ドープ調製用溶媒として再利用される。
【0043】
流延室52の下流には、渡り部81、ピンテンタ53、クリップテンタ2が順に設置されている。渡り部81は、搬送ローラ82によって剥ぎ取った湿潤フィルム78をピンテンタ53に導入する。ピンテンタ53は、湿潤フィルム78の両端部を貫通して保持する多数のピンプレートを有し、このピンプレートが軌道上を走行する。この走行中に湿潤フィルム78に対し乾燥風が送られ、湿潤フィルム78は走行しつつ乾燥され、ポリマーフィルム3となる。
【0044】
クリップテンタ2での所定条件下の延伸処理によって、クリップテンタ2を出たポリマーフィルム3には所望の光学特性が付与される。なお、ポリマーフィルム3への光学特性の付与は、ポリマーフィルム3の巻取後にオフラインで行っても良く、この場合には、溶液製膜設備50からクリップテンタ2を省略してもよい。
【0045】
ピンテンタ53及びクリップテンタ2の下流にはそれぞれ耳切装置83が設けられている。耳切装置83はフィルム両端部である耳を裁断する。この裁断した耳は風送によりクラッシャ84に送られて、ここで粉砕され、ドープ等の原料として再利用される。
【0046】
乾燥室54には、複数のローラ87が設けられており、これらにポリマーフィルム3が巻き掛けられて搬送されることにより乾燥が行われる。乾燥室54には吸着回収装置88が接続されており、ポリマーフィルム3から蒸発した溶媒が吸着回収される。
【0047】
乾燥室54の出口側には冷却室55が設けられており、この冷却室55でポリマーフィルム3が室温となるまで冷却される。冷却室55の下流には強制除電装置(除電バー)89が設けられており、ポリマーフィルム3が除電される。さらに、強制除電装置89の下流側には、ナーリング付与ローラ90が設けられており、ポリマーフィルム3の両側縁部にナーリングが付与される。巻取室56には、プレスローラ92を有する巻取機91が設置されており、ポリマーフィルム3が巻き芯にロール状に巻き取られる。
【0048】
次に、溶液製膜設備50によりポリマーフィルム3を製造する方法の一例を説明する。ストックタンク51では、ジャケット51cの内部に伝熱媒体を流すことによりドープ61の温度を25〜35℃に調整するとともに、攪拌翼51bの回転により常に均一化している。適宜適量のドープ61を、ギアポンプ65によりストックタンク51から濾過装置66に送り込み濾過することにより、ドープ61中の不純物を取り除く。そして、このドープ61を流延ダイ70から流延ビードを形成させながら、所定の表面温度になるように冷却した流延ドラム72の周面72b上に流延する。流延時のドープ61の温度は、30〜35℃の範囲内で略一定に保持されることが好ましい。
【0049】
流延ドラム(支持体)72は、駆動装置により軸72aを中心に回転している。この回転により、周面72bは、方向Z1へ一定速度(30m/分以上200m/分以下)で走行している。また、流延ドラム72の周面72bの温度は−10〜10℃の範囲内で略一定になるように調整されている。このように冷却された流延ドラム72を用いると、流延膜73をゲル化させて自己支持性を持たせることができる。なお、周面72bの温度の管理は温調装置76により行われ、流延ドラム72の周面72bの温度を所定の値に保持する。流延膜73の冷却が進行すると、結晶の基となる架橋点が形成されて流延膜73のゲル化が促進される。
【0050】
ゲル化の進行により、流延膜73が自己支持性を有するものとなった後、剥取ローラ74により流延ドラム72から剥ぎ取って湿潤フィルム78とし、この湿潤フィルム78を搬送ローラ82によりピンテンタ53に送り込む。
【0051】
流延室52の内部温度は、温調装置75により10〜57℃の範囲内で略一定となるように調整される。流延室52の内部には、流延されるドープ61や流延膜73中の溶媒が揮発して浮遊している。そこで、本実施形態では、この浮遊溶媒を凝縮器79により凝縮液化した後、回収装置80に回収し、さらに再生装置により再生して、ドープ調製用溶媒として再利用する。
【0052】
ピンテンタ53では、多数のピンを湿潤フィルム78の両側端部に差し込んで固定した後、この湿潤フィルム78を搬送する間に乾燥を促進させてポリマーフィルム3とする。そして、まだ溶媒を含んでいる状態のポリマーフィルム3をクリップテンタ2に送り込む。このとき、クリップテンタ2に送られる直前でのポリマーフィルム3の残留溶媒量は、50〜150重量%であることが好ましい。
【0053】
クリップテンタ2では、ポリマーフィルム3を幅方向に延伸する。このように、ポリマーフィルム3の幅方向への延伸処理により、ポリマーフィルム3中の分子が配向し、所望のレターデーション値をポリマーフィルム3に付与することができる。
【0054】
ピンテンタ53及びクリップテンタ2を出たポリマーフィルム3は、耳切装置83によって両側端部が裁断される。両側端部が切断されたポリマーフィルム3は、乾燥室54と冷却室55とを経由し、巻取室56内の巻取機91によって巻き取られる。また、耳切装置83によって切断された両側端部はクラッシャ84により粉砕されて、ドープ調製用チップとなり再利用される。
【0055】
巻取機91で巻き取られるポリマーフィルム3は、長手方向(流延方向)に少なくとも100m以上とすることが好ましい。また、ポリマーフィルム3の幅が600mm以上であり、さらには、1400mm以上3000mm以下であることが好ましく、1700mm以上2100mm以下であることがより好ましい。また、本発明は、3000mmより幅広の場合にも効果がある。さらに、本発明は、ポリマーフィルム3の膜厚が110μm以以下の薄いフィルムを製造する際に効果がある。
【0056】
本発明は、流延ドラム72の代わりに、回転ドラムに掛け巡らされて移動する流延バンドを用いる溶液製膜方法にも適用可能である。この場合にも、流延膜に自己支持性を持たせる方法として冷却ゲル化の他に、乾燥風の吹き付けなどによる乾燥化によっても良い。乾燥によって支持体上のフィルムに自己支持性を持たせる場合には、ピンテンタ53は省略し、クリップテンタ2で乾燥を行う。
【0057】
以下、本発明においてドープ61を調製する際に使用する原料について説明する。
【0058】
本実施形態では、ポリマーとしてセルロースアシレートを用いており、セルロースアシレートとしては、セルローストリアセテート(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基へのアシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものがより好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、AおよびBは、セルロースの水酸基中の水素原子に対するアシル基の置換度を表わし、Aはアセチル基の置換度、Bは炭素原子数が3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90重量%以上が0.1〜4mmの粒子であることが好ましい。ただし、本発明に用いることができるポリマーは、セルロースアシレートに限定されるものではない。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
【0059】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位および6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化の場合を置換度1とする)を意味する。
【0060】
全アシル化置換度、すなわち、DS2+DS3+DS6の値は、2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)の値は、0.28以上が好ましく、より好ましくは0.30以上であり、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2は、グルコース単位における2位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、2位のアシル置換度と称する)であり、DS3は、グルコース単位における3位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、3位のアシル置換度と称する)であり、DS6は、グルコース単位において、6位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、6位のアシル置換度と称する)である。
【0061】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていてもよい。2種類以上のアシル基を用いるときには、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位,3位および6位の水酸基がアセチル基により置換されている度合いの総和をDSAとし、2位,3位および6位の水酸基がアセチル基以外のアシル基によって置換されている度合いの総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、2.22〜2.90であることが好ましく、特に好ましくは2.40〜2.88である。
【0062】
また、DSBは0.30以上であることが好ましく、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBは、その20%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましく、より好ましくは25%以上であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上であることが好ましい。さらに、セルロースアシレートの6位におけるDSA+DSBの値が0.75以上であり、さらに好ましくは、0.80以上であり、特には0.85以上であるセルロースアシレートも好ましく、これらのセルロースアシレートを用いることで、より溶解性に優れたドープを作製することができる。特に、非塩素系有機溶媒を使用すると、優れた溶解性を示し、低粘度で濾過性に優れるドープを作製することができる。
【0063】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター,パルプのどちらから得られたものでもよい。
【0064】
本発明におけるセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく、特に限定はされない。例えば、セルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステル、芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどが挙げられ、それぞれ、さらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましい例としては、プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などが挙げられる。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、特に好ましくは、プロピオニル基、ブタノイル基である。
【0065】
ドープを調製する溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)およびエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。
【0066】
上記のハロゲン化炭化水素の中でも、炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度および光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶媒全体に対して2〜25重量%が好ましく、より好ましくは、5〜20重量%である。アルコールとしては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノール、あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0067】
最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない溶媒組成も検討されている。この場合には、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく、これらを適宜混合して用いる場合もある。例えば、酢酸メチル,アセトン,エタノール,n−ブタノールの混合溶媒が挙げられる。これらのエーテル、ケトン,エステルおよびアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン,エステルおよびアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−および−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も溶媒として用いることができる。
【0068】
セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号の[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。また、溶媒および可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤(UV剤),光学異方性コントロール剤,レターデーション制御剤,染料,マット剤,剥離剤,剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0069】
本発明の溶液製膜方法では、ドープを流延する際に、2種類以上のドープを同時に共流延させて積層させる同時積層共流延、または、複数のドープを逐次に共流延して積層させる逐次積層共流延を行うことができる。なお、両共流延を組み合わせてもよい。同時積層共流延を行う場合には、フィードブロックを取り付けた流延ダイを用いてもよいし、マルチマニホールド型の流延ダイを用いてもよい。ただし、共流延により多層からなるフィルムは、空気面側の層の厚さと支持体側の層の厚さとの少なくともいずれか一方が、フィルム全体の厚みの0.5〜30%であることが好ましい。また、同時積層共流延を行う場合には、ダイスリットから支持体にドープを流延する際に、高粘度ドープが低粘度ドープにより包み込まれることが好ましく、ダイスリットから支持体にかけて形成される流延ビードのうち、外界と接するドープが内部のドープよりもアルコールの組成比が大きいことが好ましい。
【0070】
流延ダイ、減圧室、支持体などの構造、共流延、剥離法、延伸、各工程の乾燥条件、ハンドリング方法、カール、平面性矯正後の巻取方法から、溶媒回収方法、フィルム回収方法まで、特開2005−104148号の[0617]段落から[0889]段落に詳しく記述されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【実施例1】
【0071】
[フィルム製造]
図4に示す溶液製膜設備50において、表面にクロムめっき及び鏡面加工処理が施され、直径1000mmの円筒状の流延ドラム72の表面上に、ドープ61を延伸前厚み70μmで流延して流延膜73を形成した。自己支持性を有する流延膜73を剥取ローラ74で支持しながら剥ぎ取り、湿潤フィルム78を得た。
【0072】
ピンテンタ53では、その入口付近で湿潤フィルム78の両側端部にピンを差し込み保持した後、湿潤フィルム78を乾燥し、ポリマーフィルム(TACフィルム)3とした。続けて、クリップテンタ2に送り、ポリマーフィルム3の両端部をクリップ5で保持しながら、乾燥温度が120℃の予熱ゾーン2a,把持安定ゾーン2b,幅保持ゾーン2c,本延伸ゾーン2d及び延伸緩和ゾーン2eに送り、予熱、延伸、延伸緩和を行った。
【0073】
延伸前のポリマーフィルム3の幅を100%としたときに、把持安定ゾーン2bにおける延伸倍率は104.7%、本延伸ゾーン2dにおける延伸倍率は140%とした。把持安定ゾーン2bでは、ポリマーフィルム3を残留溶媒量12%で延伸し、本延伸ゾーン2dでは、残留溶媒量10%で延伸した。
【0074】
クリップテンタ2の下流に設置した耳切装置83でポリマーフィルム3の両側端部を切断した後、乾燥室54において複数のローラ87に巻き掛けて搬送する間に、ポリマーフィルム3の乾燥を十分に促進させた。冷却室55においてポリマーフィルム3を略室温となるまで冷却した後、巻取室56に送り、プレスローラ92で押圧しながら巻き芯に巻き取ってロール状のポリマーフィルム3を得た。なお、巻き取りの前に、強制除電装置89により帯電圧を調整し、また、ナーリング付与ローラ90により、ナーリングを付与した。
【0075】
〔ドープ〕
実施例1で使用したドープの原料は以下の通りである。
セルローストリアセテート 100重量部ジクロロメタン 320重量部メタノール 83重量部1−ブタノール 3重量部可塑剤A 7.6重量部可塑剤B 3.8重量部UV剤a 0.7重量部UV剤b 0.3重量部微粒子 0.05重量部
【0076】
上記のセルローストリアセテートは、置換度2.84、粘度平均重合度306、含水率0.2重量%、ジクロロメタン溶液中の6重量%の粘度 315mPa・s、平均粒子径1.5mm、標準偏差0.5mmの粉体であり、可塑剤Aは、トリフェニルフォスフェートであり、可塑剤Bは、ジフェニルフォスフェートであり、UV剤aは、2(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾールであり、UV剤bは、2(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−アミルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾールであり、クエン酸エステル化合物はクエン酸とモノエチルエステルとジエチルエステルとトリエチルエステルとの混合物であり、微粒子は平均粒径が15nm、モース硬度が約7の二酸化ケイ素である。
【0077】
実施例1では、TACフィルムであるポリマーフィルム3の延伸前の膜厚を70μmとし、延伸前のポリマーフィルム3の幅を100%としたときに、把持安定ゾーン2bにおける延伸倍率は104.7%、本延伸ゾーン2dにおける延伸倍率は140%とした。そのときの本延伸ゾーン2dでのクリップ5のフィルム把持安定性をテレビカメラで観察し、視認により、フィルム噛みちぎれがある場合に×、フィルム抜け落ちがある場合に×、それ以外を○とした。以下、実施例1に対して、延伸前のフィルム膜厚、把持安定ゾーン2bにおける延伸倍率を変えて、実施例2〜5、比較例1,2を得た。その他のフィルム製造条件は、実施例1と同じにした。この実験の結果を表1に示す。
【0078】
【表1】

【0079】
本実験の結果、実施例1〜5では、フィルム把持安定性がよかった。また、比較例1,2では、フィルム噛みちぎれ、またはフィルム抜け落ちが発生し、フィルム把持安定性が悪かった。なお、幅保持ゾーン2cを設けずに、把持安定ゾーン2bと本延伸ゾーン2dとを直接繋げた場合にも、同様の結果が得られた。
【0080】
このように、把持安定ゾーン2bでのポリマーフィルム3の収縮力により、クリップ5を閉じる方向に付勢させてクリップ5による把持を安定させるから、フィルムの噛みちぎれ及び抜け落ちがなく、本延伸ゾーン2dで安定してフィルムを把持させることができる。これにより、延伸前の膜厚が薄い(例えば、70μm)ポリマーフィルム3や、高い延伸倍率(例えば、130〜140%)でも、ポリマーフィルム3を確実に延伸することができ、耳ヨレ及び延伸ムラのないポリマーフィルム3を製造することができる。
【0081】
また、把持安定ゾーン2bと本延伸ゾーン2dとの間に幅保持ゾーン2cを設けたから、より一層確実に、本延伸ゾーン2dで安定してフィルムを把持させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】クリップテンタを示す平面図である。
【図2】クリップを示す側面図である。
【図3】クリップとクリップオープナとクリップクローザとを示す斜視図である。
【図4】溶液製膜設備の概略図である。
【図5】噛み込み不良の一例を示すもので、(A)は片噛みの一例を、(B)は中抜けの一例を示している。
【符号の説明】
【0083】
2 クリップテンタ
2a 予熱ゾーン
2b 把持安定ゾーン
2c 幅保持ゾーン
2d 本延伸ゾーン
2e 延伸緩和ゾーン
3 ポリマーフィルム
5 クリップ(把持具)
11 第1レール
12 第2レール
72 流延ドラム(支持体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーフィルムの走行方向に移動する開閉自在な把持具により、前記ポリマーフィルムの両側縁部を把持して前記ポリマーフィルムを幅方向に所定の倍率に延伸するポリマーフィルムの延伸方法において、
前記把持具により前記ポリマーフィルムを把持した後に、前記ポリマーフィルムの把持幅を漸増して前記所定の倍率未満に延伸し、延伸された前記ポリマーフィルムの縮む力により前記把持具を閉じ方向に付勢させて把持を安定させる把持安定工程と、
前記把持安定工程の後に設けられ、前記ポリマーフィルムの把持幅を漸増して前記所定の倍率に延伸する本延伸工程と、を有することを特徴とするポリマーフィルムの延伸方法。
【請求項2】
前記把持安定工程は、前記把持具により前記ポリマーフィルムを把持してから10秒以内に延伸を開始することを特徴とする請求項1記載のポリマーフィルムの延伸方法。
【請求項3】
前記把持安定工程と前記本延伸工程との間に、前記ポリマーフィルムの把持幅を略一定に保持して搬送する搬送工程を有することを特徴とする請求項1または2記載のポリマーフィルムの延伸方法。
【請求項4】
前記ポリマーフィルムは、溶媒が残留しているセルロースアシレートフィルムであり、
前記把持安定工程及び前記本延伸工程では、前記セルロースアシレートフィルムの残留溶媒量を5%以上12.5%以下としたことを特徴とする請求項1ないし3いずれか1つ記載のポリマーフィルムの延伸方法。
【請求項5】
前記セルロースアシレートフィルムは延伸前の膜厚が70μm以上110μm以下であり、前記所定の倍率を130%以上140%以下とし、前記把持安定工程の延伸倍率を101.5%以上125%以下としたことを特徴とする請求項4記載のポリマーフィルムの延伸方法。
【請求項6】
ポリマーと溶媒とを含むドープを、エンドレスに走行する支持体上に流延し、
前記支持体上の前記ドープから流延膜を形成し、
冷却によりゲル化した前記流延膜を前記支持体から剥ぎ取り、
前記支持体から剥ぎ取られた前記流延膜をポリマーフィルムとして、
請求項1ないし5いずれか1つ記載のポリマーフィルムの延伸方法を行うことを特徴とする溶液製膜方法。
【請求項7】
ポリマーフィルムの走行方向に移動する開閉自在な把持具により、前記ポリマーフィルムの両側縁部を把持して前記ポリマーフィルムを幅方向に所定の倍率に延伸するポリマーフィルムの延伸装置において、
前記把持具により前記ポリマーフィルムを把持した後に、前記ポリマーフィルムの把持幅を漸増して前記所定の倍率未満に延伸し、延伸された前記ポリマーフィルムの縮む力により前記把持具を閉じ方向に付勢させて把持を安定させる把持安定手段と、
前記把持安定手段の後に設けられ、前記ポリマーフィルムの把持幅を漸増して前記所定の倍率に延伸する本延伸手段と、を備えたことを特徴とするポリマーフィルムの延伸装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−234075(P2009−234075A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−83994(P2008−83994)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】