説明

ポリマー化合物及び有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】三重項励起エネルギーの大きな高キャリア移動性のポリマー化合物を提供すること。
【解決手段】原子X′(=C又はSi)を中心として、共役環又は複素共役環AnがX′と1重結合で結ばれる式(1)で表される分子Xと電荷輸送性を有するユニットBとを主鎖に有するポリマー化合物を発光ホスト材料として用いる。


(式中でAn(n=1〜4)は互いに異なる共役環又は複素共役環であってもよく、ポリマーの重合部位ではないA3,A4は共役環又は複素共役環以外の水素原子,メチル基,アルキル基,ハロゲン原子であってもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発光層を形成する発光ホスト材向けのポリマー化合物及びこれを用いた有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子を用いたディスプレイは、発光材料として厚さ数十nmの有機固体材料を用いるため、薄型,軽量,フレキシブルなディスプレイの実現が可能である。また、自発光であるため、高視野角が可能で、発光体自体の応答速度も高いので高速動画表示に適しており、液晶ディスプレイに換わるディスプレイとして期待され、製品化が進んでいる。
【0003】
有機EL素子に使用する有機固体材料は、低分子系とポリマー系に大別される。ポリマー系有機EL素子は、印刷法・インクジェット法の塗布プロセスに向いており、量産性,製造プロセスの低コスト化,大画面化の利点で、期待されている。
【0004】
一方、近年有機EL素子の高効率化のため、燐光有機EL素子の開発も活発に行われている。燐光有機EL素子では、一重項状態のエネルギーのみならず三重項状態のエネルギーも利用することが可能であり、内部量子収率を原理的には100%まで上げることが可能となる。燐光有機EL素子では、燐光を発するドーパントとして、白金やイリジウムなどの重金属を含む金属錯体系発光材料を、ホスト材料にドーピングすることで燐光発光を取り出す(非特許文献1,非特許文献2,非特許文献3)。
【0005】
従来、有機EL素子の発光ホスト用のポリマー材料として、以下の技術が存在した。
【0006】
特許文献1では、青色に対応できる発光ホスト材として、ポリカーボネートを主鎖としたポリマーを示している。
【0007】
特許文献2では、熱転写型の有機EL積層プロセスにおいて、発光層などの積層材料を非晶化するポリマーやテンドリマー構造を示している。
【0008】
特許文献3では、キノリン共重合体を用いた有機EL素子を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−247458号公報
【特許文献2】特表2005−500653号公報
【特許文献3】国際公開WO2004/092245号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】M.A.Baldo et al.,Nature,vol.395,p.151(1998)
【非特許文献2】M.A.Baldo et al.,Apllied Physics Letters,vol.75,p.4(1999)
【非特許文献3】M.A.Baldo et al.,Nature,vol.403,p.750(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
有機EL素子の発光ホスト材料に求められる性能として、発光ホスト材のバンドギャップ(基底状態と最低励起状態のエネルギーの差、以下励起エネルギーと呼ぶ)を、発光体より大きくすること、及び、電子と正孔のキャリア移動度を大きくすることが重要である。発光ホスト材の励起エネルギーが小さいと、発光層に注入された電子と正孔は、発光体ではなく、発光ホスト材で再結合してしまう。発光ホスト材で、電子と正孔が再結合した場合、発光効率を低下させるか、もしくは、本来意図していた発光体の発光色が得られない。特に、青色の発光体に対しては、発光ホスト材として、2.8eV以上の励起エネルギーが必要である。
【0012】
また、発光ホスト材中を電子と正孔の両キャリアが伝導するが、電子又は正孔のキャリア移動度が小さいと、電力効率が低下するだけでなく、発光層全体で発光せずに、発光位置が、低キャリア移動度のキャリアが注入される界面付近に集中し、発光効率が低下する。更に、発光する界面の劣化を進行させる。
【0013】
従って、赤,緑,青の全ての発光体に対応するためには、発光ホスト材の高励起エネルギー化が重要である。また、高効率化と素子の信頼性向上にとっては、高キャリア移動度化が重要な課題である。
【0014】
上記特許文献1−3は、このような観点から発光ホスト材の材料選択を行うものではなく、また最適な化合物構成を開示するものではない。
【0015】
本発明の目的は、三重項励起エネルギーの大きな高キャリア移動性のポリマー化合物を提供することである。また、本ポリマー化合物を有機EL素子に用いることで、全色(赤,緑,青)の発光効率の増大と素子の信頼性を向上できる有機EL素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するポリマー化合物として、原子X′(=C又はSi)を中心として、共役環又は複素共役環AnがX′と1重結合で結ばれる式(1)で表される分子Xと電荷輸送性を有するユニットBとを主鎖に有するポリマー化合物とする。
【0017】
【化1】

【0018】
(式中でAn(n=1〜4)は互いに異なる共役環又は複素共役環であってもよく、ポリマーの重合部位ではないA3,A4は共役環又は複素共役環以外の水素原子,メチル基,アルキル基,ハロゲン原子であってもよい。)
また、有機エレクトロルミネッセンス素子として、このポリマー化合物を有する発光層が陰極と陽極間に配置された有機エレクトロルミネッセンス素子とする。
【0019】
また、このポリマー化合物を有する正孔輸送層が発光層と陽極間に配置され、発光層に対して正孔輸送層が配置された反対側に陰極が配置された有機エレクトロルミネッセンス素子とする。
【発明の効果】
【0020】
三重項励起エネルギーの大きな高キャリア移動性のポリマー化合物が得られる。また、本ポリマー化合物を有機EL素子に用いることで、青色発光体における無輻射失活を防ぐことができ、全色(赤,緑,青)の発光効率の増大と素子の信頼性が向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子のエネルギーダイアグラムを示す図である。
【図2】発光層を形成する発光ホストと発光体間のエネルギーダイアグラムを示す図である。
【図3】分子の安定状態,励起状態,正イオン,負イオン状態の電子配置を示す図である。
【図4】励起状態の分子構造依存性を示す図である。
【図5】電子親和力の分子構造依存と電子ホッピングダイアグラムを示す図である。
【図6】イオン化エネルギーの分子構造依存と正孔ホッピングダイアグラムを示す図である。
【図7】モノマーユニットのエネルギー障壁と三重項励起エネルギーT1*の関係を示す図である。
【図8】モノマーユニットの(a)三重項励起エネルギーT1*、(b)エネルギー障壁ΔIE、(c)エネルギー障壁ΔEAを示す図である。
【図9】ポリマー化合物の(a)三重項励起エネルギーT1*、(b)エネルギー障壁ΔIE、(c)エネルギー障壁ΔEAを示す図である。
【図10】正孔輸送層と発光層間のエネルギーダイアグラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0023】
まず、実施例の前提となる[有機エレクトロルミネッセンス素子の構成],[励起エネルギー],[キャリア移動度],[密度汎関数法に基づく分子軌道法],「ポリマー化合物の合成方法」のそれぞれを説明し、その後に実施例について説明する。
【0024】
[有機エレクトロルミネッセンス素子の構成]
本発明の有機EL素子は、本発明のポリマーを含む層を備えるものであればよく、その構造などは特に限定されない。なお、有機ELの一般的な構造は、例えば、米国特許第4,539,507号や米国特許第5,151,629号等に開示されているものがあり、また、ポリマー含有の有機EL素子については、例えば、国際公開WO第90/13148号や欧州特許公開第0443861号等に開示されている。これらは通常、電極の少なくとも1つが透明である陰極と陽極との間に、発光層を含むものである。さらに、1つ以上の電子注入層及び/又は電子輸送層が発光層と陰極の間に挿入されているもの、1つ以上の正孔注入層及び/又は正孔輸送層が発光層と陽極との間に挿入されているものもある。
【0025】
上記陰極材料としては、例えば、Li,Ca,Mg,Al,In,Cs,Ba,Mg/Ag,LiF,CsF等の金属又は金属合金であることが好ましい。
【0026】
陽極材料としては、透明基体(例えば、ガラス又は透明ポリマー)上に、金属(例えば、Au)又は金属導電率を有する他の材料、例えば、酸化物(例えば、ITO:酸化インジウム/酸化錫)を使用することもできる。
【0027】
正孔注入層用材料としては、例えば、PEDOT(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン))−PSS(ポリスチレンスルホン酸)等を使用することができる。
【0028】
図1に示すように、有機EL素子としては、陽極,正孔輸送層,発光層,電子輸送層,陰極の積層構造が挙げられる。陽極としてITO(酸化インジウム錫)をパターンニングしたガラス基板上に、正孔注入層としてPSS(ポリスチレンスルホン酸)とPEDOT(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン))をスピン塗布した膜で形成する。正孔輸送層及び発光層として、ポリマー化合物が塗布プロセス等により、それぞれ数〜数十nm程度形成される。ただし、発光層形成時には、ポリマー化合物である発光ホスト材の塗布と同時に発光を担う発光体もドープする。陰極にAlを100nm程度にて、真空蒸着法で積層した膜で構成される。更に、発光層と陰極の間に電子輸送層としてLiFやBa膜が数nm積層されていてもよい。他の形態としては、図1に更に電荷輸送層等を追加した積層構造や、陽極と陰極の間が発光層一層のみの構造、陰極又は陽極を透明電極としたトップエミッション形式,ボトムエミッション形式の構造がある。
【0029】
図1は、横軸に有機ELの積層構造を、縦軸に有機EL素子中における電子及び正孔のエネルギーレベルを示す。図中のHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital;最高占有分子軌道))レベルは、各層に正孔を注入するために必要なエネルギーであって、層を構成する物質のイオン化エネルギーの符号を逆転したものである。LUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital;最低非占有分子軌道)レベルは各層に電子を注入するためのエネルギーであって、層を構成する物質の電子親和力の符号を逆転したものである。
【0030】
[励起エネルギー]
発光ホスト材の励起エネルギーは、安定なHOMO軌道の電子がLUMO軌道に励起するのに必要なエネルギーであるため、定性的には、図1のHOMOとLUMOのエネルギー差に対応する。発光層における電子と正孔の詳細な再結合過程は、図2に示す発光層の発光体−ホスト材間のエネルギーダイアグラムに従う。
【0031】
図2における安定状態S0とは、分子中の電子の配置が図3(a)に示す配置であることを表す。図3の縦軸は電子の軌道エネルギーであり、小さい順番に上向き、下向きのスピンを持つ電子が収容される。HOMO軌道まで電子が収容され、LUMO軌道から上の軌道は空である状態が最も安定な状態S0(Sは一重項を表す)である。
【0032】
図3(b)に示すような、HOMOの電子がLUMOに励起され、HOMOとLUMOの電子スピンが同じ向きである状態を三重項励起状態と呼び、安定状態S0と三重項励起状態のエネルギー差を三重項励起エネルギーT1(Tは三重項Tripletを表す)と呼ぶ。
【0033】
図2に示すように、三重項の励起エネルギーT1が、発光体の発光エネルギーに比べて、図2(a)高い場合は発光体で発光するが、図2(b)低い場合は、発光ホスト材の安定状態(S0)に戻り(無輻射失活)、発光効率が低下する、もしくは発光ホスト材が発光し、意図した発光色が得られない。
【0034】
更に、発光ホストの最低の励起状態である三重項励起エネルギーを検討するためには、図4に示すように、励起状態にある分子の構造の緩和を考慮する必要がある。すなわち、安定状態における安定構造と励起状態における安定構造とでは、分子の構造が異なる。従って、発光ホスト材料の最低の励起エネルギーとは、励起状態における分子構造が緩和した状態における三重項励起エネルギー(これを、T1*と呼ぶこととする)である。青色発光体に対して、発光ホスト材料での無輻射失活を防ぐためには、T1*>2.8eV(青色発光エネルギーよりも大きな励起エネルギー)が必要である。
【0035】
[キャリア移動度]
有機材料のキャリア移動度は、電子又は正孔が分子から分子へのホッピングし易さに依存する。図5に、電子のホッピング過程を示す。図5(a)に示すように、電子が存在して負イオン化状態(図3(d)で与えられる電子配置)にある分子の安定構造は、中性状態とは異なり、電子親和力が変化する(中性,負イオン化状態の電子親和力をそれぞれEA,EA*とする)。図5(b1)に示すように、負にイオン化した分子から中性分子に電子が移動(ホッピング)するためには、ΔEA=EA−EA*のエネルギー障壁を超えるが必要である。ΔEAが小さいと、正孔はホッピングし易く移動度も高い。図5(b2)に示すように、エネルギー障壁ΔEAが大きいと、ホッピングし難く、移動度が低くなる。正イオン化状態(図3(c)で与えられる電子配置)を考えることで、正孔のホッピングモデルも同様に図6で表される(中性,正イオン化状態のイオン化エネルギーをIE,IE*とする)。
【0036】
図6(a)に示すように、正にイオン化した分子と中性分子の分子構造とイオン化エネルギーIEとIE*は異なる。図6(b1)に示すように、ΔIE=IE−IE*が小さいと電子は、ホッピングし易く移動度も高い。図6(b2)に示すように、エネルギー障壁ΔIEが大きいと、ホッピングし難く、移動度が低くなる。
【0037】
正孔のエネルギー障壁は、ΔIE=IE−IE*のエネルギーである。このような、荷電分子から中性分子への電荷移動メカニズムは、例えば、非特許文献R. A. Marcus: J. Chem. Phys., 43, p.2654 (1965), K. Sakanoue, M. Morita, M. Sugimoto, and S. Sakaki:J. Phys. Chem. A, 103, p.5551 (1991)などで、その効果が報告されている。移動度を定量的に決定するその他の因子として、分子密度,配向性,膜質,不純物混入等の影響も存在するが、分子構造として最良の形態は、エネルギー障壁ΔIE,ΔEAが小さな分子構造である。
【0038】
[密度汎関数法に基づく分子軌道法]
本項目では、各実施例で用いる密度汎関数法に基づく分子軌道法の励起エネルギー,イオン化エネルギー,HOMO及びLUMOエネルギーレベルの計算値の精度を示す。
【0039】
励起状態における分子構造の緩和を考慮した三重項励起エネルギーT1*を以下のように計算する。密度汎関数法としては、通常の局所密度近似を採用し、基底関数としてスレータ型基底からなる価電子二重基底を使用し、分子の全エネルギーを求めた。密度汎関数法に基づく分子軌道法による分子の全エネルギーの詳細な計算方法は、例えば非特許文献K. Kobayashi, K. Tago, and N. Kurita, Phys. Rev. A, 53, 1903 (1996)に記載されている)。密度汎関数法を用いることで、原子と原子の間に働く力を計算し、分子を構成する原子間の力(分子の全エネルギー)が最小となる原子の座標を最適化することで分子構造を計算できる。
【0040】
図3(b)に示す電子配置で分子構造を最適化することで、図4の励起状態における安定構造が与えられる。この構造における図3(a)及び(b)の配置での分子の全エネルギーの差からT1*を計算することができる。T1*は実験値として、燐光スペクトルのピーク値と比較することができる。表1に代表的な有機分子の三重項励起エネルギーT1*の計算結果と気相中での実測値の比較を示す。計算により、実測値を誤差0.1eVで予測できる。
【0041】
【表1】

【0042】
同様に、図5(a)や図6(a)における荷電状態における安定構造は、それぞれ、図3(c),(d)の電子配置のもとで、分子構造を最適化することで与えられる。図3(c)又は(d)の荷電状態で最適化した分子構造において、荷電配置図3(c)又は(d)における全エネルギーと図3(a)の中性配置の全エネルギーの差からIE*,EA*を計算することができる。IE,EAは図3(a)の電子配置で最適化した分子構造において、図3(a)と図3(c),(d)の電子配置における全エネルギーの差から計算することができる。表2に、代表的な有機分子のイオン化エネルギー及び電子親和力の計算結果と気相中での実測値の比較を示す。計算と実測は誤差0.1eV程度で予測できる。
【0043】
【表2】

【0044】
更に、図1における各層のHOMO及びLUMOのエネルギーレベルを以下のようにして計算した。安定状態で最適化した2及び4個のモノマーユニットが重合した解析体系のもとでイオン化エネルギーと電子親和力を計算した。計算結果をx=1/モノマーユニット数で定義したxに対してプロットし、計算結果をx=0(即ちモノマーユニット数が無限個)に外挿した切片をポリマーのイオン化エネルギーもしくは電子親和力とした。イオン化エネルギーの外挿値の逆符号をHOMO、電子親和力の外挿値の逆符号をLUMOのエネルギーレベルとした。表3に代表的ポリマーのHOMOレベルの計算と仕事関数の実験の比較を示す。
【0045】
【表3】

【0046】
Tpaはトリフェニルアミン、FOはフルオレンを表し、FO/FOはフルオレンのホモポリマー、Tpa/Tpaはトリフェニルアミンのホモポリマー、Tpa/FOはトリフェニルアミンとフルオレンの共重合ポリマーである。計算と実験の大小関係がよく一致していることが判る。本計算より、発明したポリマーと従来ポリマーのエネルギーレベルから電荷注入性を比較することができる。
【0047】
以上から、密度汎関数法に基づく分子軌道法からモノマー分子もしくはポリマー化合物の三重項励起エネルギーT1*を評価できることが確認された。IE*,EA*は実測と直接比較はできないが、IE,EA及び励起状態の構造緩和を考慮したT1*が実測とよく一致することから、IE*,EA*すなわちΔIE,ΔEAも評価できることが確認された。以下で示す実施例では、計算にあたり、モノマー分子に対しては当該分子構造の1つのユニットにて計算した。モノマー分子のT1*,ΔIE,ΔEAが改良されることで、これを含むポリマー化合物の特性も改良される。代表的なポリマー化合物に対しては、4モノマーユニットが重合した解析体系にてT1*,ΔIE,ΔEAを計算した。
【0048】
[ポリマー化合物の合成方法の説明]
本発明に係るポリマー化合物に関して、例えば、テトラフェニルメタンを含むポリマーの合成方法例を記載する。本ポリマー化合物は公知の合成技術、及びその組み合わせにより合成することができる。テトラフェニルメタン誘導体は、例えば、塩化トリチル誘導体とアニリン誘導体の反応によって合成することができ(非特許文献T. J. Zimmermann, et. el, Synthesis,1157-1162(2002))、さらに臭素との反応等によってテトラフェニルメタンにBrが付加した式(18)へ誘導することができる。また、得られたBr置換体をビス(ピナコラート)ジボロンと反応させることで、ボロン酸エステル体の式(19)へ誘導することができる
【0049】
【化2】

【0050】
また、電荷輸送性もしくは発光性のモノマーユニットにBr置換体、ボロン酸を付加した分子、例えば、式(20)〜(25)も合成することができる。
【0051】
【化3】

【0052】
本発明で用いるポリマーは、種々の当業者公知の合成法により製造できる。例えば、本発明のように、各モノマーユニットは芳香族環を有し(例えば、式(18)〜(25))、芳香族環同士を結合させたポリマーを製造する場合には、ヤマモト(T. Yamamoto)らのBull. Chem. Soc. Jap.、51巻、7号、2091頁(1978)およびゼンバヤシ(M. Zembayashi)らのTet. Lett.,47巻4089頁(1977)に記載されている方法を用いることができるが、スズキ(A. Suzuki)によりSynthetic Communications, Vol.11, No.7, p.513 (1981)において報告されている方法がポリマーの製造には一般的である。この反応は、芳香族ボロン酸(boronic acid)誘導体と芳香族ハロゲン化物の間でPd触媒化クロスカップリング反応(通常、「鈴木反応」と呼ばれる)を起こさしめるものであり、対応する芳香族環同士を結合する反応に用いることにより、本発明で用いるポリマーを製造することができる。
【0053】
また、この反応はPd(II)塩もしくはPd(0)錯体の形態の可溶性Pd化合物を必要とする。芳香族反応体を基準として0.01〜5モルパーセントのPd(Ph3P)4、3級ホスフィンリガンドとのPd(OAc)2錯体およびPdCl2(dppf)錯体が一般に好ましいPd源である。この反応は塩基も必要とし、水性アルカリカーボネートもしくはバイカーボネートが最も好ましい。また、相間移動触媒を用いて、非極性溶媒中で反応を促進することもできる。溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド,トルエン,アニソール,ジメトキシエタン,テトラヒドロフラン等が用いられる。
【0054】
ここで、例えば式(18)と式(20)〜(22)に関して、スズキカップリング法を用いて重合することで、テトラフェニルメタンと電荷輸送性もしくは発光性のモノマーユニットが交互に重合したポリマー化合物を合成することができる。更に、式(18)(19)及び式(20)〜(22),式(23)〜(25)をスズキカップリング法を用いて重合することで、テトラニフェルメタンと電荷輸送性もしくは発光性のモノマーユニットの様々な組成からなるポリマーを合成することができる。
【0055】
本発明では、テトラフェニルメタン以外の該分子として、以下の分子を含むユニット用いてもよい。原子X′(=C又はSi)を中心として、共役環又は複素共役環AnがX′と1重結合で結ばれる式(1)で表される分子を用いてもよい。
【0056】
【化4】

【0057】
(式中でAn(n=1〜4)は互いに異なる共役環又は複素共役環であってもよい。溶媒への溶解性や耐熱性の向上,電気特性の調整のため、ポリマーの重合部位ではないA3,A4は共役環又は複素共役環以外の水素原子,メチル基,アルキル基,ハロゲン原子であってもよい。)
また、式(1)のAnが式(2)〜(5)である分子であってもよい。
【0058】
【化5】

【0059】
(式中の置換基Rは、溶媒への溶解性,耐熱性の向上,電気特性の調整のために付加するもので、Rは水素原子,ハロゲン原子,シアノ基,ニトロ基,炭素数1〜22個の直鎖,環状もしくは分岐アルキル基又はそれらの水素原子の一部もしくは全部置換されたハロゲン置換アルキル基,炭素数6〜21のアリール基,炭素数12〜20のヘテロアリール基もしくは炭素数7〜21のアラルキル基又はそれらの水素原子の一部もしくは全部がハロゲン原子で置換されたハロゲン置換アリール基,ハロゲン置換へテロアリール基,ハロゲン置換アラルキル基を表す。Rを複数有する場合はそれぞれ異なっていてもよい。)
また、式(1)が式(6a)〜(6d)のいずれかであってもよい。
【0060】
【化6】

【0061】
(式中の置換基Rは式(2)−(5)のRであり、Rを複数有してもよく、複数有する場合は、それぞれ異なっていてもよい。)
また、式(1)は式(26)〜(37)のいずれかであってもよい。
【0062】
【化7】

【0063】
以上にあげた本発明に係るモノマーユニットを総称して芳香族メタン又はシランと呼ぶことにする。
【0064】
以上を踏まえて、本発明では、発光ホスト材料として用いられるポリマー化合物に関して、そのポリマーを構成する従来のモノマーユニットを本発明に係る芳香族メタン又はシランを含むモノマーユニットに置き換えるか、従来のポリマー化合物を本発明に係る芳香族メタン又はシランを含むポリマー化合物に置き換える構成となる。
【0065】
以下では、図1で示される通常の有機EL素子における発光層を形成する発光ホスト用のポリマーを、上記の公知の合成法により作成される芳香族メタン又はシランを含むポリマーに置き換える。
【0066】
また、本発明で用いるポリマー化合物は、少なくとも式(1)で表される分子Xと電荷輸送性を有するユニットBを有する共重合体のポリマーもしくはオリゴマーであるが、ランダム共重合体,交互共重合体、ブロックまたはグラフト共重合体であってもよいし、それらの中間的な構造を有する高分子、例えばブロック性を帯びたランダム共重合体であってもよい。また、本発明で用いるポリマー又はオリゴマーは、主鎖中に枝分かれを有し、末端が3つ以上あってもよい。エネルギーレベルの制御性の観点から、交互共重合体であることが最も好ましい。
【0067】
また、本発明で用いるポリマーは、溶解度や耐熱性,電気的特性の調整のため、式(1)で表される分子Xや電荷輸送性を有するユニットBの他に、アリーレン基,ヘテロアリーレン基を共重合繰り返し単位として有する共重合体でもよい。
【0068】
本発明のポリマーの数平均分子量は、成膜安定性の観点から、1000以上1000000以下であることが好ましく、2000以上200000以下であることがより好ましい。なお、ポリマーの数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて、ポリスチレン換算で測定したときの数平均分子量のことである。
【0069】
[燐光材料]
本発明の有機EL素子において、発光層は、本発明のポリマーの他に、燐光材料を含んでいればよい。燐光材料としては、IrやPtなどの中心金属を含む金属錯体などが好適に使用できる。具体的には、Ir錯体としては、例えば、青色発酵を行うFIrpic(ビス(4,6−ジフルオロフェニルピリジナトーN,C2)ピコリナトイリジウム)、緑色発光を行うIr(ppy)3(ファク トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム)、又は赤色発光を行う(btp2)Ir(acac)(bis(2−(2′−ベンゾ[4,5−α]チエニル)ピリジナート−N,C3)イリジウム(アセチル−アセトネート)),Ir(piq)3(トリス(1−フェニルイソキノリン)イリジウム)等があげられる。Pt錯体としては、例えば、赤色発光を行う2,3,7,8,12,13,17,18−オクタエチル−21H,23H−フォルフィンプラチナ(PtOEP)があげられる。燐光材料は低分子又はデンドライド種、例えば、イリジウム核デンドリマーが使用され得る。また、これらの誘導体も好適に使用できる。
【0070】
以下の実施例1〜7では、図1に示す有機EL素子中の発光ホスト材において、従来のモノマーユニットもしくはポリマー化合物を、芳香族メタン又はシラン化合物を含むモノマーユニットもしくはポリマー化合物に置き換える。芳香族メタン又はシランを含むモノマーユニットもしくはポリマー化合物によって、三重項励起エネルギーT1*が向上し、かつ従来と同等以上のキャリア輸送性を有することを、密度汎関数法に基づく分子軌道法の計算結果で示す。具体的には、従来及び本発明に係るモノマーユニットもしくはポリマー化合物の三重項励起エネルギーT1*及びエネルギー障壁ΔIE,ΔEAを密度汎関数法に基づく分子軌道法により計算し、本発明に係るモノマーユニットもしくはポリマー化合物では、従来よりもT1*が向上し、かつ従来と同等以下のエネルギー障壁ΔIE,ΔEA、すなわち従来と同等以上のキャリア輸送性能を有することを示す。
【0071】
実施例1〜7においては、主として、有機EL素子中の発光ホスト用のポリマーに適用するが、実施例8に示すように正孔輸送ポリマーに使用してもよい。
【0072】
実施例3〜8においては、芳香族メタン又はシラン化合物を有するユニットとしてテトラフェニルメタン,電荷輸送ユニットとしてカルバゾール,フルオレン,トリフェニルアミンを使用したケースを説明するが、本発明はこれらのユニットを用いたポリマー化合物に限定されるものではない。
【0073】
テトラフェニルメタンは、上述の芳香族メタン又はシランであってもよい。
【0074】
また、電荷輸送ユニットBとしては、式(7)〜(11)であってもよい。
【0075】
【化8】

【0076】
(Rは、式(2)〜(5)のRであり、Rを複数有してもよく、複数有する場合は、それぞれ異なっていてもよい。)
更に、電荷輸送性ユニットBとして、公知の有機エレクトロルミネッセンス素子の電荷輸送層もしくは発光層で使用される共役環もしくは複素共役環モノマーユニットに代表されるユニットを用いてもよく、例えば以下のモノマーユニットである。
【0077】
トリフェニルアミン,アリールアミン誘導体,スチルベン系化合物,ヒドラゾン系化合物,カルバゾール系化合物,アリールアミン,アニリン,チオフェン,オキサジアゾール誘導体,ベンゾオキサゾール誘導体,ベンゾキノン誘導体,キノリン誘導体,キノキサリン誘導体,チアジアゾール誘導体,ベンゾジアゾール誘導体,トリアゾール誘導体,アリールアミン誘導体,オキサジアゾール誘導体,ペリレン誘導体,キナクリドン誘導体,ピラゾリン誘導体,アントラセン誘導体,ルブレン誘導体,スチルベン誘導体,クマリン誘導体,ナフタレン誘導体,ベンゼン,ビフェニル,ターフェニル,ナフタレン,アントラセン,テトラセン,フルオレン,フェナントレン,ピレン,クリセン,ピリジン,ピラジン,キノリン,イソキノリン,アクリジン,フェナントロリン,フラン,ピロール,チオフェン,オキサゾール,オキサジアゾール,チアジアゾール,トリアゾール,ベンゾオキサゾール,ベンゾオキサジアゾール,ベンゾチアジアゾール,ベンゾチオフェン,N−(4−ブチルフェニル)−N−ジフェニルアミン,N,N′−ジフェニル−N,N′−ビス(3−メチルフェニル)−[1,1′−ビフェニル]−4,4′−ジアミン,N,N′−ビス(3−メチルフェニル)−N,N′−ビス(2−ナフチル)−[1,1′−ビフェニル]−4,4′−ジアミン
【0078】
本発明に係るポリマー化合物は、上述した芳香族メタン又はシラン化合物を有するユニットXと電荷輸送ユニットBを主鎖に含むものである。XとBを組合せたポリマー化合物としては、例えば以下が挙げられる。
【0079】
【化9】

【0080】
(式(12)のXは式(1)〜(5)及び式(6a)〜(6b)のいずれかである。Bは上述した電荷輸送ユニットのいずれかであり、例えば式(7)〜(11)である。)
【0081】
【化10】

【0082】
(式(13)〜(17)のRは、式(2)〜(5)のRであり、Rを複数有してもよく、複数有する場合は、それぞれ異なっていてもよい。)
【0083】
(実施例1):芳香族メタン又はシランのモノマーユニット(1)
従来の有機ELポリマー化合物のモノマーユニットを芳香族メタン又はシラン化合物のモノマーユニットに置き換える。従来の有機ELポリマー化合物のモノマーユニットとして以下を検討した。
【0084】
【化11】

【0085】
芳香族メタン又はシラン化合物のモノマーユニットとしては、以下を検討した。
【0086】
【化12】

【0087】
ここで、Tpm,Trpm及びTpSiは、式(1)の中心原子をCもしくはSiとして、Anを式(2)とした分子であり、式(6a)〜(6c)の分子に該当する。式(6a)〜(6c)の側鎖Rは水素としたが、溶媒への溶解度,耐熱性の向上,電気特性を調整するためには、上述した他の修飾基であってもよい。
【0088】
表4に、三重項励起エネルギーT1*,エネルギー障壁ΔIE,ΔEAの結果を示す。
【0089】
【表4】

【0090】
図7は表4(モノマーユニットの三重項励起エネルギーT1*,エネルギー障壁ΔIE,ΔEAの計算値)の結果を纏めたもので、横軸はΔIEとΔEAの大きい方の値、縦軸はT1*である。白丸は従来モノマーユニットの計算結果である。Czで表す従来モノマーユニット,カルバゾールは、ポリマーに限らず、低分子型の有機エレクトロルミネッセンスデバイスの発光ホストを構成する材料(例えば、ポリカルバゾールや4,4′−ビスカルバゾール(CBP))として比較的良好な性能を示すことが報告されている。従来の共役系ポリマー化合物では、共役環や複素共役環が直接重合する構造をとっているが、これら一群の分子の中ではカルバゾールが発光ホスト材を構成する分子としては、適正であると判断され、従来の経験と対応する。しかし、共役環や複素共役環の重合や縮環する炭素間の距離は、励起状態や荷電状態で短くなり易い。このため、共役環や複素共役環が重合、もしくは、縮環した構造では、カルバゾールを超える性能を示すことは困難である。カルバゾールのモノマーユニットのT1*は3.0eVであるが、ポリマー化合物として重合すると、T1*は2.6eVまで低下する。従って、更に大きなT1*を有するモノマーユニットが望まれる。
【0091】
これに対して、本発明のフェニル基間に飽和炭素を挿入した芳香族メタン又はシラン化合物の結果を図7の黒丸にて示す。いずれも、カルバゾールよりも大きなT1*と、同等以上のエネルギー障壁を有する。このことから、カルバゾールに代表される従来の発光ホスト用のモノマーユニットを芳香族メタン又はシラン化合物に置換することで、キャリア移動度をカルバゾールと同等以上を確保して、より多くの発光色に対応できる。更に本モノマーユニットは、飽和炭素を主鎖に含むが、芳香族部位がポリマー主鎖への重合部位であるので、上述した、芳香族環同士を結合させたポリマーを製造である、スズキ,ヤマモト,ゼンバヤシの方法をそのまま適用することができる。
【0092】
(実施例2):芳香族メタンのモノマーユニット(2)
ここでは、テトラフェニルメタンのフェニル基を他の複素共役環とした分子の特徴を説明する。比較として、以下の分子構造を検討した。
【0093】
【化13】

【0094】
テトラフェニルメタンのフェニル基を他の複素共役環とした分子としては、以下の分子構造を検討した。
【0095】
【化14】

【0096】
ここで、Naph−b,Cz−b及びFO−bは、式(1)の中心原子をCとして、Anを式(3)〜(5)とした分子である。側鎖Rは水素としたが、溶媒への溶解度,耐熱性の向上,電気特性を調整するためには、上述した他の修飾基であってもよい。
【0097】
それぞれの化学式の−aと−bは対応する。aは共役環又は複素共役環が直接結合しているのに対して、bでは該共役環又は複素共役環の間に飽和炭素を挿入している。結果を表5(モノマーユニットの三重項励起エネルギーT1*,エネルギー障壁ΔIE,ΔEAの計算値)に示す。図8にa.従来(共役環又は複素共役環が直接結合したユニット)とb.本発明(該共役環又は複素共役環の間に飽和炭素を挿入したユニット)の比較を示す。a.従来よりもb.本発明は、図8(a)三重項励起エネルギーT1*が大きく、図8(b)エネルギー障壁ΔIE,図8(c)ΔEAが小さい。以上から、テトラフェニルメタンのフェニル基を他の複素共役環とした分子を挿入したモノマーユニットを用いることで、共役環及び複素共役環を主鎖からなるポリマーと比較して、キャリア移動度を挿入前のポリマーと同等以上を確保して、かつ励起エネルギーが高いことにより、多くの発光色に対応できる。
【0098】
【表5】

【0099】
(実施例3):芳香族メタン又はシランを含むポリマー化合物(1)
芳香族メタンであるテトラニフェルメタンユニットと電荷輸送性カルバゾールユニットからなるポリマーTpm/Czと従来の共役系ポリマーであるカルバゾールのホモポリマーp−Czを比較した。
【0100】
【化15】

【0101】
ここで、Tpm/Czは、式(12)において、Xを式(6a)、Bを式(7)としたものであり、式(13)で表されるポリマー化合物のうち、Tpmの中心Cに対するフェニルのパラ位とCzの中心N対するパラ位で重合させたものである。側鎖Rは水素としたが、溶媒への溶解度,耐熱性の向上,電気特性を調整するためには、上述した他の修飾基であってもよい。
【0102】
表6(ポリマー化合物の三重項励起エネルギーT1*,エネルギー障壁ΔIE,ΔEAの計算値)に結果を示す。Tpm/Czの三重項励起エネルギーT1*は、2.8eVであり、p−Czの2.6eVよりも大きいことが判った。エネルギー障壁ΔIE,ΔEAも同等であり、Tpm/Czはp−Czと同等のキャリア移動度を有し、かつ青色発光に対応できる発光ホスト材であることが示された。
【0103】
【表6】

【0104】
更に、電荷輸送性ユニットとして、4,4′−ビス(カルバゾール)ビフェニル(CBP)及び1,3−ビス(カルバゾール−9−イル)−ベンゼン(mCP)を用いた以下のポリマーTpm/CBP,Tpm/mCPでも、CBP及びmCPがカルバゾールの誘導体であるため、同様の効果を発現できる。
【0105】
【化16】

【0106】
(実施例4):芳香族メタン又はシランを含むポリマー化合物(2)
フルオレンユニットは、代表的な発光性及び正孔輸送性のユニットとして用いられる材料である。ここでは、芳香族メタンであるテトラニフェルメタンユニットとフルオレンユニットからなるポリマーTpm/FOと従来の共役系ポリマーであるフルオレンのホモポリマーp−FOを比較した。
【0107】
【化17】

【0108】
ここで、Tpm/FOは、式(12)において、Xを式(6a)、Bを式(8)としたものであり、式(14)で表されるポリマー化合物のうち、Tpmの中心Cに対するフェニルとFOのビフェニル構造のパラ位で重合させたものである。側鎖Rは水素としたが、溶媒への溶解度,耐熱性の向上,電気特性を調整するためには、上述した他の修飾基であってもよい。
【0109】
表7(ポリマー化合物の三重項励起エネルギーT1*,エネルギー障壁ΔIE,ΔEAの計算値)に結果を示す。Tpm/FOの三重項励起エネルギーT1*は、2.69eVとなった。この値は、青色対応用の発光ホストとしてはやや小さい値ではあるが、p−FOの1.89eVよりも大きいことが判った。エネルギー障壁ΔIE,ΔEAも小さくなる。以上から、従来のフルオレンに代表される電荷輸送性又は発光性の共役環又は複素共役環と本発明のテトラフェニルメタンを組み合わせることで、同等以上のキャリア移動度を有し、かつ三重項励起エネルギーT1*の大きなポリマー材料が提供される。
【0110】
【表7】

【0111】
(実施例5):芳香族メタン又はシランを含むポリマー化合物(3)
トリフェニルアミンは、代表的な正孔輸送性ユニットとしても用いられるモノマーユニットである。ここでは、芳香族メタンであるテトラニフェルメタンユニットとトリフェニルメタンユニットからなるポリマーTpm/Tpaと従来の共役系ポリマーであるフルオレンとトリフェニルアミンの共重合ポリマーFO/Tpaを比較した。
【0112】
【化18】

【0113】
表8(ポリマー化合物の三重項励起エネルギーT1*,エネルギー障壁ΔIE,ΔEAの計算値)に結果を示す。Tpm/FOの三重項励起エネルギーT1*は、2.6eVとなった。この値は、青色対応用の発光ホストとしてはやや小さな値ではあるが、FO/Tpaの2.4eVよりも大きいことが判った。エネルギー障壁も改善される。以上から、従来のトリフェニルアミンに代表される正孔輸送性の複素共役環と本発明のテトラフェニルメタンを組み合わせることで、同等以上のキャリア移動度を有し、かつ三重項励起エネルギーT1*の大きなポリマー材料が提供されることが示された。
【0114】
【表8】

【0115】
(実施例6):芳香族メタン又はシランを含むポリマー化合物(4)
図9に、実施例3−5に示した従来ポリマーと本発明ポリマーの図9(a)励起エネルギー図9(b)エネルギー障壁ΔIE、図9(c)ΔEAを示す。いずれもテトラニフェルメタンを挿入することで、T1*が大きく、ΔIE及びΔEAは同等以下である。従って、例えば、フルオレン、カルバゾール及びトリフェニルアミン等の3成分以上のモノマーユニットを重合したポリマー化合物にテトラフェニルメタンを挿入することで、T1*を大きく、ΔIE及びΔEAを同等以下とすることが可能で、従来と比較して、同等以上のキャリア移動度を有し、かつ三重項励起エネルギーT1*の大きなポリマー材料が提供される。
【0116】
(実施例7):芳香族メタン又はシランを含むポリマーを用いた有機EL素子(1)
テトラフェニルメタンを含むポリマー化合物を発光層ホスト材料として使用した場合の有機ELデバイス構造の例を以下に示す。ITO(酸化インジウム錫)をパターンニングしたガラス基板上に、PSS(ポリスチレンスルホン酸)とPEDOT(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン))とを重量比20:1でコロイド状に分散した水溶液をスピン塗布した膜を陽極とする。
【0117】
その後、正孔輸送層を30nm積層する。正孔輸送層を塗布プロセスにて形成する場合には、正孔輸送層材料としては、例えば、トリフェニルアミンとフルオレンの共重合ポリマーがある。発光層として、前述した方法で合成したテトラフェニルメタンとカルバゾールの共重合ポリマー化合物Tpm/Czを塗布プロセスにより50nm積層する。発光層を塗布する際に発光ホスト材と、青等の発光体(例えば、FIrpic)をドーピングする。発光体の濃度は、ホスト材の重量に対して0.1〜20%が好ましく、1〜15%がより好ましく、2〜10%が最も好ましい。この上に、陰極電極層としてBaを2nm、金属Alを100nm蒸着する。また、ポリカルバゾールp−Czを発光層ホスト材としてスピン塗布により50nm積層させた素子を比較例とする。
【0118】
実施例3の結果より、Tpm/Czはp−Czと同等のキャリア注入性と輸送性を有し、更にp−Czよりも高い三重項励起エネルギーT1*=2.8eVを有することから、青色発光に対応できる発光ホスト材として機能する。
【0119】
(実施例8):芳香族メタン又はシランを含むポリマーを用いた有機EL素子(2)
ここでは、芳香族メタン又はシランを含むポリマーを正孔輸送層として用いる実施形態を説明する。テトラフェニルメタンユニットと正孔輸送性トリフェニルアミンユニットの共重合ポリマーを検討する。ITO(酸化インジウム錫)をパターンニングしたガラス基板上に、PSS(ポリスチレンスルホン酸)とPEDOT(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン))とを重量比20:1でコロイド状に分散した水溶液をスピン塗布した膜を陽極とする。
【0120】
その後、正孔輸送層として、前述した方法で合成したテトラフェニルメタンとトリフェニルアミンの共重合ポリマー化合物Tpm/Tpaを塗布プロセスにより30nm積層する。発光層としては、実施例5のテトラフェニルメタンとカルバゾールの共重合ポリマー化合物Tpm/Czやポリカルバゾールp−Czを塗布プロセスにより50nm積層する。発光層を塗布する際に発光ホスト材と、赤,緑,青等の発光体(例えばIr錯体)をドーピングする。発光体の濃度は、ホスト材の重量に対して0.1〜20%が好ましく、1〜15%がより好ましく、2〜10%が最も好ましい。この上に、陰極電極層としてBaを2nm、金属Alを100nm蒸着する。また、フルオレンとトリフェニルアミンの共重合ポリマーFO/Tpaを正孔輸送層としてスピン塗布により50nm積層させた素子を比較例とする。
【0121】
図10に発光ホストとしてp−Czを用いた場合の、本構成の正孔輸送層と発光層のエネルギーダイアグラムの計算結果を示す。図10(a)正孔輸送層がFO/Tpaの場合、LUMOエネルギーレベルが発光層とLUMOエネルギーレベルの差が0.1eV以内と小さい。このため、発光層で発光しなかった電子が正孔輸送層を通過し、陽極に達し易い。これに対して、図10(b)正孔輸送層がTpm/Tpaの場合、LUMOエネルギーレベルが0.3eV高い。このため、発光層で発光しなかった電子が正孔輸送層を通過することは困難である。従って、陽極からの正孔を発光層に注入し、かつ、発光層から陽極へ電子が通過することを防ぐことができる、電子ブロッキング性の正孔輸送性材料として機能する。本ポリマーを正孔輸送層として用いることで、発光層で発光する電子と正孔が増加し、発光効率が増大する。更に、電子の陽極を構成するPEDOT/PSS膜への到達しPEDOT/PSSの破壊を防ぐので、動作寿命が向上する。
【0122】
また、正孔輸送層として相応しい材料は、正孔注入層及び発光層として使用する材料の組み合わせ、すなわち素子全体の構造に依存する。正孔輸送層のポリマー化合物としては、Tpm/Tpa以外の実施例1−2のモノマーを含むポリマー化合物や実施例3−7記載のポリマー化合物を用いても、芳香族メタンもしくはシランの存在によって、電子ブロッキング性が向上する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子X′(=C又はSi)を中心として、共役環又は複素共役環AnがX′と1重結合で結ばれる式(1)で表される分子Xと電荷輸送性を有するユニットBとを主鎖に有するポリマー化合物。
【化1】

(式中でAn(n=1〜4)は互いに異なる共役環又は複素共役環であってもよく、ポリマーの重合部位ではないA3,A4は共役環又は複素共役環以外の水素原子,メチル基,アルキル基,ハロゲン原子であってもよい。)
【請求項2】
請求項1のポリマー化合物において、
前記Anが式(2)〜(5)であるポリマー化合物。
【化2】

(式中の置換基Rは、水素原子,ハロゲン原子,シアノ基,ニトロ基、炭素数1〜22個の直鎖,環状もしくは分岐アルキル基又はそれらの水素原子の一部もしくは全部置換されたハロゲン置換アルキル基,炭素数6〜21のアリール基,炭素数12〜20のヘテロアリール基もしくは炭素数7〜21のアラルキル基又はそれらの水素原子の一部もしくは全部がハロゲン原子で置換されたハロゲン置換アリール基,ハロゲン置換へテロアリール基,ハロゲン置換アラルキル基を表す。Rを複数有する場合はそれぞれ異なっていてもよい。)
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリマー化合物において、
前記分子Xは式(6a)(6b)(6c)(6d)のいずれかであるポリマー化合物。
【化3】

(式中の置換基Rは請求項2記載のRであり、Rを複数有する場合はそれぞれ異なっていてもよい。)
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリマー化合物において、
前記電荷輸送性を有するユニットBが共役環又は複素共役環であるポリマー化合物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリマー化合物において、
前記電荷輸送性を有するユニットBが式(7)〜(11)のいずれかであるポリマー化合物。
【化4】

(式中の置換基Rは請求項2記載のRであり、Rを複数有する場合はそれぞれ異なっていてもよい。)
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリマー化合物において、
前記式(1)で表される前記分子Xと前記電荷輸送性を有するユニットBと交互に重合した式(12)を主鎖に有するポリマー化合物。
【化5】

【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリマー化合物において、
式(13)〜(17)のいずれかを主鎖に有するポリマー化合物。
【化6】

(式中の置換基Rは請求項2記載のRであり、Rを複数有する場合はそれぞれ異なっていてもよい。)
【請求項8】
陰極と、陽極と、前記陽極と前記陰極間に配置された発光層と、を有し、
前記発光層は、原子X′(=C又はSi)を中心として、共役環又は複素共役環AnがX′と1重結合で結ばれる式(1)で表される分子Xと電荷輸送性を有するユニットBとを主鎖に含むポリマー化合物を有する有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化7】

(式中でAn(n=1〜4)は互いに異なる共役環又は複素共役環であってもよく、ポリマーの重合部位ではないA3,A4は共役環又は複素共役環以外の水素原子,メチル基,アルキル基,ハロゲン原子であってもよい。)
【請求項9】
請求項8記載の有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記Anが式(2)〜(5)のいずれかである有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化8】

(式中の置換基Rは、水素原子,ハロゲン原子,シアノ基,ニトロ基,炭素数1〜22個の直鎖,環状もしくは分岐アルキル基又はそれらの水素原子の一部もしくは全部置換されたハロゲン置換アルキル基,炭素数6〜21のアリール基,炭素数12〜20のヘテロアリール基もしくは炭素数7〜21のアラルキル基又はそれらの水素原子の一部もしくは全部がハロゲン原子で置換されたハロゲン置換アリール基,ハロゲン置換へテロアリール基,ハロゲン置換アラルキル基を表す。Rを複数有する場合はそれぞれ異なっていてもよい。)
【請求項10】
請求項8又は9記載の有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記Xが式(6a)〜(6d)のいずれかである有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化9】

(式中の置換基Rは請求項9記載のRであり、Rを複数有する場合はそれぞれ異なっていてもよい。)
【請求項11】
請求項8〜11のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記Bが共役環又は複素共役環である有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項12】
請求項8〜11のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記Bが式(7)〜(11)である有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化10】

(式中の置換基Rは請求項9記載のRであり、Rを複数有する場合はそれぞれ異なっていてもよい。)
【請求項13】
請求項8〜12のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記ポリマー化合物の主鎖が、分子Xと電荷輸送性を有するユニットBと交互に重合した式(12)を含む有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化11】

【請求項14】
請求項8〜13のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記ポリマー化合物の主鎖が、式(13)〜(17)のいずれかを主鎖に有する有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化12】

(式中の置換基Rは請求項9記載のRであり、Rを複数有する場合はそれぞれ異なっていてもよい。)
【請求項15】
陰極と、陽極と、前記陽極と前記陰極間に配置された発光層と、前記発光層と前記陽極間に配置された正孔輸送層と、を有し、
前記正孔輸送層は、原子X′(=C又はSi)を中心として、共役環又は複素共役環AnがX′と1重結合で結ばれる式(1)で表される分子Xと電荷輸送性を有するユニットBとを主鎖に含むポリマー化合物を有する有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化13】

(式中でAn(n=1〜4)は互いに異なる共役環又は複素共役環であってもよく、ポリマーの重合部位ではないA3,A4は共役環又は複素共役環以外の水素原子,メチル基,アルキル基,ハロゲン原子であってもよい。)
【請求項16】
請求項15記載の有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記Anが式(2)〜(5)のいずれかである有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化14】

(式中の置換基Rは、水素原子,ハロゲン原子,シアノ基,ニトロ基,炭素数1〜22個の直鎖,環状もしくは分岐アルキル基又はそれらの水素原子の一部もしくは全部置換されたハロゲン置換アルキル基,炭素数6〜21のアリール基,炭素数12〜20のヘテロアリール基もしくは炭素数7〜21のアラルキル基又はそれらの水素原子の一部もしくは全部がハロゲン原子で置換されたハロゲン置換アリール基,ハロゲン置換へテロアリール基,ハロゲン置換アラルキル基を表す。Rを複数有する場合はそれぞれ異なっていてもよい。)
【請求項17】
請求項15又は16に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記Xが式(6a)〜(6d)のいずれかである有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化15】

(式中の置換基Rは請求項16記載のRであり、Rを複数有する場合はそれぞれ異なっていてもよい。)
【請求項18】
請求項15〜17のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記Bが共役環又は複素共役環である有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項19】
請求項15〜18のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記Bが式(7)〜(11)である有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化16】

(式中の置換基Rは請求項16記載のRであり、Rを複数有する場合はそれぞれ異なっていてもよい。)
【請求項20】
請求項15〜19のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記ポリマー化合物の主鎖が、分子Xと電荷輸送性を有するユニットBと交互に重合した式(12)を含む有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化17】

【請求項21】
請求項15〜20のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記ポリマー化合物の主鎖が、式(13)〜(17)のいずれかを主鎖に有する有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化18】

(式中の置換基Rは請求項16記載のRであり、Rを複数有する場合はそれぞれ異なっていてもよい。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−174051(P2010−174051A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−14870(P2009−14870)
【出願日】平成21年1月27日(2009.1.27)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】