説明

ポリープ除去に使用するのに適したヒドロゲル

【課題】ポリープの粘膜下組織を含む組織に投与するための組み合わせを提供すること。
【解決手段】上記の組み合わせは、n個の架橋剤官能基を有し、分子量が2000以下の生体適合性小分子架橋剤であって、nが2以上であり、該架橋剤官能基が求電子性または求核性である小分子架橋剤を含む組成物と、m個の官能性ポリマー官能基を有し、分子量が該架橋剤の少なくとも約7倍である合成生体適合性官能性ポリマーであって、mが2以上でありかつnとmの合計が5以上であり、該架橋剤官能基が求電子性の場合には該官能性ポリマー官能基が求核性であり、該架橋剤官能基が求核性の場合には該官能性ポリマー官能基が求電子性である官能性ポリマーとを含み、混合した際に、該架橋剤および官能性ポリマーが反応してヒドロゲルを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
この出願は、2008年7月8日に出願された米国仮出願第61/078,968号(この全体の開示は、参考として本明細書に援用される)の利益およびそれへの優先権を主張する。この特許出願はまた、2008年5月29日に出願された現在係属中の米国特許出願第12/156,085号の一部継続であり、米国特許出願第12/156,085号は、2008年2月13日に出願された現在係属中の米国特許出願第12/069,821号の一部継続であり、米国特許出願第12/069,821号は、2005年12月2日に出願された米国特許出願第11/293,892号(これは、米国特許第7,332,556号として発行された)の継続であり、米国特許出願第11/293,892号は、2001年11月9日に出願された米国特許出願第10/010,715号(これは、米国特許第7,009,034号として発行された)の継続であり、米国特許出願第10/010,715号は、1999年12月3日に出願された米国特許出願第09/454,900号(これは、米国特許第6,566,406号として発行された)の一部継続であり、米国特許出願第09/454,900号は、1998年12月4日に出願された米国仮特許出願第60/110,849号への優先権を主張する。米国特許第7,009,034号はまた、1999年3月22日に出願された米国特許出願第09/147,897号の一部継続であり、米国特許出願第09/147,897号は、1997年9月22日に出願された出願第PCT/US97/16897号への優先権を有し、これは、1997年3月13日に出願された米国仮特許出願第60/040,417号、1997年3月4日に出願された米国仮特許出願第60/039,904号および1996年9月23日に出願された米国仮特許出願第60/026,526号への優先権を有する。これらの特許出願の各々は、優先権書類として主張され、これら各々の全体の開示は、参考として本明細書に援用される。
【0002】
本開示は、一般に、生体適合性架橋ポリマーと、それを調製し使用するための方法とに関する。ある実施形態において、本開示の組成物は、ポリープの除去を含めた外科処置に利用することができる。
【背景技術】
【0003】
ポリープは、一般に、体内の膜から突出する成長物である。ポリープの形状は、しばしば、有茎性または無茎性と記述される。有茎性ポリープが茎の表面で成長するのに対し、無茎性ポリープは、広い底面および平らな外観を有する可能性がある。しばしば、ポリープは、結腸、膀胱、子宮、頸部、声帯、および/または鼻孔の内面を覆うような粘膜上に形成され、体腔内に突出する。ポリープは、通路を遮断する可能性があり、かつ/または癌性になる可能性があるので、問題である。一般に、ポリープは大きいほど、癌性になる傾向がある。
【0004】
内視鏡的ポリープ切除術は、有茎性ポリープを除去するのに有効であるが、無茎性ポリープは、しばしば問題がある。例えば、無茎性ポリープは、その平らなびまん的外観のために、係蹄し電気焼灼器を用いて切除するのが難しくなる可能性がある。一部のポリープでは、切除を促進させるために、生理食塩水をポリープの粘膜下組織に注入して、ポリープを隆起させる人工クッションを生成することができる。しかし、生理食塩水は、粘膜下組織内での滞留時間が短く、通常、注入後4から5分以内で消失する。
【0005】
さらに、大きなポリープは、全体を除去することがしばしば難しく、したがって大きなポリープは、しばしば、細切れにして少しずつ切除される。ポリープ組織の初回切除後、注入された溶液が粘膜下組織から外に流出して、ポリープの崩壊を引き起こし、したがってポリープの残りの部分を除去することが難しくなることがある。生理食塩水は再度注入できるが、素早く流出し、ポリープの残りの部分を隆起させるのにあまり有効ではない。
【0006】
注入溶液の粘膜下組織滞留時間を改善する試みが報告されている。例えば、グリセリン、デキストロース、ヒアルロン酸、およびヒドロキシプロピルセルロースの溶液が、注入溶液として報告されている。これらの中で最も有効なのは、ヒアルロン酸である。ブタ食道でのヒアルロン酸の平均滞留時間は、21.5分と報告されている。しかし、これらの溶液は依然として、内視鏡的切離またはポリープ切除中にクッションまたはポリープが破れると、粘膜下組織層から漏れる可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように依然として、内視鏡的ポリープ切除術を行うために、特に切除中に複数回ポリープ注入する必要性を最小限に抑え、低減し、かつ/またはなくすために、組成物および方法を改善する余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、ポリープの除去を含めた外科処置での使用に適した組成物と、その使用方法とを提供する。ある実施形態では、本開示の方法は、ポリープの粘膜下組織を含めた組織に、分子量が2000以下である生体適合性小分子架橋剤を含む組成物を導入するステップを含んでよく、この架橋剤はn個の架橋剤官能基を有し、ここで、nは2以上であり、架橋剤官能基は求電子的または求核的なものである。架橋剤は、分子量が架橋剤の少なくとも約7倍である合成生体適合性官能性ポリマーと組み合わせて投与してもよく、この官能性ポリマーはm個の官能性ポリマー官能基を有し、ここで、mは2以上であり、nとmの合計は5以上であり、官能性ポリマー官能基は、架橋剤官能基が求電子的である場合に求核的であり、官能性ポリマー官能基は、架橋剤官能基が求核的である場合に求電子的である。架橋剤および官能性ポリマーを、ポリープの粘膜下組織で反応させてヒドロゲルを形成させることができ、ポリープを除去することができる。
【0009】
その他の実施形態では、本開示の方法は、少なくとも2個の第1の官能基を有しかつ分子量が2000以下である生体適合性小分子架橋剤を含む組成物を、少なくとも2個の第2の官能基を有しかつ分子量が架橋剤の少なくとも約7倍である合成生体適合性官能性ポリマーと共に、ポリープの粘膜下組織などの組織に導入するステップを含み、ここで、第1の官能基のそれぞれは、第2の官能基のそれぞれとは異なっており、第1および第2の官能基は、求電子的および求核的なものである。架橋剤の第1の官能基および官能性ポリマーの第2の官能基を、ポリープの粘膜下組織で反応させて、生体適合性架橋ポリマーヒドロゲルを形成させることができ、ポリープを除去することができる。
【0010】
さらにその他の実施形態では、本開示の方法は、架橋前分子量が2000未満である架橋済み合成架橋剤分子を含んだ少なくとも1つの生体適合性架橋剤領域を含む組成物を、架橋前分子量が架橋前架橋剤分子の分子量の約7倍超である架橋済み合成ポリマー分子などの少なくとも1つの生体適合性官能性ポリマー領域と組み合わせて、ポリープの粘膜下組織を含む組織に導入するステップを含んでよい。架橋剤および官能性ポリマーを、ポリープの粘膜下組織と反応させて生体適合性架橋ポリマーヒドロゲルを形成させることができ、ここで、生体適合性架橋ポリマーヒドロゲルは、架橋剤領域と官能性ポリマー領域との間に少なくとも3つの結合を有し、これらの結合は、少なくとも1個の求電子官能基と少なくとも1個の求核官能基との反応生成物である。ヒドロゲルが形成したら、ポリープを除去することができる。
【0011】
したがって、本発明は、以下の項目を提供する:
(項目1)
ポリープの粘膜下組織を含む組織に投与するための組み合わせであって、この組み合わせは、
n個の架橋剤官能基を有し、分子量が2000以下の生体適合性小分子架橋剤であって、nが2以上であり、この架橋剤官能基が求電子性または求核性である小分子架橋剤を含む組成物と、
m個の官能性ポリマー官能基を有し、分子量がこの架橋剤の少なくとも約7倍である合成生体適合性官能性ポリマーであって、mが2以上でありかつnとmの合計が5以上であり、この架橋剤官能基が求電子性の場合にはこの官能性ポリマー官能基が求核性であり、この架橋剤官能基が求核性の場合にはこの官能性ポリマー官能基が求電子性である官能性ポリマーとを含み、
混合した際に、この架橋剤および官能性ポリマーが反応してヒドロゲルを形成する、
組み合わせ。
【0012】
(項目2)
上記生体適合性小分子架橋剤が、水溶液中で少なくとも1g/100mlの溶解度を有する生体適合性小分子架橋剤をさらに含む、上記項目のいずれか一つに記載の組み合わせ。
【0013】
(項目3)
上記生体適合性小分子架橋剤が、求電子性である架橋剤官能基を有する生体適合性小分子架橋剤をさらに含む、上記項目のいずれか一つに記載の組み合わせ。
【0014】
(項目4)
求電子性である架橋剤官能基を有する上記生体適合性小分子架橋剤が、上記求電子性架橋剤官能基がN−ヒドロキシスクシンイミドをベースにした架橋剤基である生体適合性小分子架橋剤をさらに含む、上記項目のいずれか一つに記載の組み合わせ。
【0015】
(項目5)
上記合成生体適合性官能性ポリマーが、上記官能性ポリマー官能基がアミンである合成生体適合性官能性ポリマーをさらに含む、上記項目のいずれか一つに記載の組み合わせ。
【0016】
(項目6)
上記生体適合性小分子架橋剤が、求核性である架橋剤官能基を有する生体適合性小分子架橋剤をさらに含む、上記項目のいずれか一つに記載の組み合わせ。
【0017】
(項目7)
求核性である架橋剤官能基を有する上記生体適合性小分子架橋剤が、上記架橋剤官能基がアミンである生体適合性小分子架橋剤をさらに含む、上記項目のいずれか一つに記載の組み合わせ。
【0018】
(項目8)
上記合成生体適合性官能性ポリマーが、上記官能性ポリマー官能基がN−ヒドロキシスクシンイミド基である合成生体適合性官能性ポリマーをさらに含む、上記項目のいずれか一つに記載の組み合わせ。
【0019】
(項目9)
上記生体適合性小分子架橋剤が、生分解性結合を有する生体適合性小分子架橋剤をさらに含む、上記項目のいずれか一つに記載の組み合わせ。
【0020】
(項目10)
上記合成生体適合性官能性ポリマーが、生分解性結合を有する合成生体適合性官能性ポリマーをさらに含む、上記項目のいずれか一つに記載の組み合わせ。
【0021】
(項目11)
上記架橋剤および官能性ポリマーが反応して、生分解性結合を生成する、上記項目のいずれか一つに記載の組み合わせ。
【0022】
(項目12)
上記ヒドロゲルが染料をさらに含む、上記項目のいずれか一つに記載の組み合わせ。
【0023】
(項目13)
上記ヒドロゲルが1種または複数の活性成分をさらに含む、上記項目のいずれか一つに記載の組み合わせ。
【0024】
(項目14)
上記活性成分が、酵素、血管収縮剤、化学療法剤、抗菌剤、抗生物質、およびこれらの組合せを含む、上記項目のいずれか一つに記載の組み合わせ。
【0025】
(項目15)
上記ヒドロゲルが、約5秒から約90秒の時間にわたって形成される、上記項目のいずれか一つに記載の組み合わせ。
【0026】
(項目16)
ポリープの粘膜下組織を含む組織に投与するための組み合わせであって、この組み合わせは:
少なくとも2個の第1の官能基を有し、分子量が2000以下である生体適合性小分子架橋剤を含む組成物と、少なくとも2個の第2の官能基を有し、分子量がこの小分子架橋剤の少なくとも約7倍である合成生体適合性官能性ポリマーとを含み、
この第1の官能基のそれぞれが、この第2の官能基のそれぞれとは異なっており、この第1およびこの第2の官能基が、求電子物質および求核物質からなる群から選択され、
混合した際に、この架橋剤のこの第1の官能基およびこの官能性ポリマーのこの第2の官能基が反応して、生体適合性架橋ポリマーヒドロゲルを形成する、
組み合わせ。
【0027】
(項目17)
上記小分子架橋剤が、ジリシン、トリリシン、テトラリシン、およびトリスからなる群から選択される、上記項目のいずれか一つに記載の組み合わせ。
【0028】
(項目18)
上記小分子架橋剤が、オルニチン、スペルミン、スペルミジン、尿素、グアニジン、ジアムニオピメリン酸、ジアミノ酪酸、メチルオルニチン、ジアミノプロピオン酸、シスチン、ランチオニン、シスタミン、トリオキサトリデカンジアミン、シクロヘキサンビス(メチルアミン)、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、メチレンビス(メチルシクロヘキサミン)、ジアミノシクロヘキサン、n−(2−アミノエチル)−1,3−プロパンジアミン、ジアミノメチルジプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、トリエチレンテトラミン、ビス(アミノプロピル)エチレンジアミン、ビス(2−アミノエチル)−1,3−プロパンジアミン、ビス(アミノプロピル)プロパンジアミン、ジアムニオメチルプロパン、1,2−ジアミノ−2−メチルプロパン、1,3−ジアミノペンタン、ジメチルプロパンジアミン、2,2−ジメチル1,3−プロパンジアミン、メチルペンタンジアミン、2−メチル−1,5ペンタンジアミン、ジアミノヘプタン、ジアミノオクタン、ジアミノノナン、ジアミノデカン、およびジアミノドデカンからなる群から選択される、上記項目のいずれか一つに記載の組み合わせ。
【0029】
(項目19)
上記生体適合性架橋ポリマーの形成が、ゲル化時間測定によって測定して、約45秒未満を必要とする、上記項目のいずれか一つに記載の組み合わせ。
【0030】
(項目20)
上記小分子架橋剤が、少なくとも3個の官能基を有する、上記項目のいずれか一つに記載の組み合わせ。
【0031】
(項目21)
上記生体適合性架橋ポリマーヒドロゲル中の固形分の濃度が、約8重量%から約20重量%である、上記項目のいずれか一つに記載の組み合わせ。
【0032】
(項目22)
上記第1の官能基がアミンを含み、上記第2の官能基がスクシンイミドを含む、上記項目のいずれか一つに記載の組み合わせ。
【0033】
(項目23)
上記ヒドロゲルが、約5秒から約90秒の時間にわたって形成される、上記項目のいずれか一つに記載の組み合わせ。
【0034】
(項目24)
ポリープの粘膜下組織を含む組織に投与するための組み合わせであって、この組み合わせは:
架橋前分子量が2000未満である架橋済み合成架橋分子を含む、少なくとも1つの生体適合性架橋剤領域を含む組成物と、架橋前分子量がこの架橋前架橋剤分子の分子量の約7倍である架橋済み合成ポリマー分子から本質的になる、少なくとも1つの生体適合性官能性ポリマー領域とを含み、
混合した際に、この架橋剤およびこの官能性ポリマーが反応して、生体適合性架橋ポリマーヒドロゲルを形成し、この生体適合性架橋ポリマーヒドロゲルが、この架橋剤領域とこの官能性ポリマー領域との間に少なくとも3つの結合を含み、この結合が、少なくとも1個の求電子官能基と少なくとも1個の求核官能基との反応生成物である、
組み合わせ。
【0035】
(項目25)
上記生体適合性架橋剤領域が、水溶液中で少なくとも1g/100mlの溶解度を有する、上記項目のいずれか一つに記載の組み合わせ。
【0036】
(項目26)
上記生体適合性架橋ポリマーヒドロゲルが、少なくとも1つの生分解性結合をさらに含む、上記項目のいずれか一つに記載の組み合わせ。
【0037】
(項目27)
上記架橋剤および官能性ポリマー領域の間の上記結合の少なくとも1つが、生分解性である、上記項目のいずれか一つに記載の組み合わせ。
【0038】
(項目28)
上記架橋剤が、ジリシン、トリリシン、テトラリシン、およびトリスからなる群から選択される、上記項目のいずれか一つに記載の組み合わせ。
【0039】
(項目29)
上記架橋剤が、オルニチン、スペルミン、スペルミジン、尿素、グアニジン、ジアムニオピメリン酸、ジアミノ酪酸、メチルオルニチン、ジアミノプロピオン酸、シスチン、ランチオニン、シスタミン、トリオキサトリデカンジアミン、シクロヘキサンビス(メチルアミン)、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、メチレンビス(メチルシクロヘキサミン)、ジアミノシクロヘキサン、n−(2−アミノエチル)−1,3−プロパンジアミン、ジアミノメチルジプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、トリエチレンテトラミン、ビス(アミノプロピル)エチレンジアミン、ビス(2−アミノエチル)−1,3−プロパンジアミン、ビス(アミノプロピル)プロパンジアミン、ジアムニオメチルプロパン、1,2−ジアミノ−2−メチルプロパン、1,3−ジアミノペンタン、ジメチルプロパンジアミン、2,2−ジメチル1,3−プロパンジアミン、メチルペンタンジアミン、2−メチル−1,5ペンタンジアミン、ジアミノヘプタン、ジアミノオクタン、ジアミノノナン、ジアミノデカン、およびジアミノドデカンからなる群から選択される、上記項目のいずれか一つに記載の組み合わせ。
【0040】
(項目30)
上記ヒドロゲルが、約5秒から約90秒の時間にわたって形成される、上記項目のいずれか一つに記載の組み合わせ。
【0041】
本発明は、また以下の項目も提供する:
(項目1a)
n個の架橋剤官能基を有し、分子量が2000以下の生体適合性小分子架橋剤であって、nが2以上であり、この架橋剤官能基が求電子性または求核性である小分子架橋剤を含む組成物と、m個の官能性ポリマー官能基を有し、分子量がこの架橋剤の少なくとも約7倍である合成生体適合性官能性ポリマーであって、mが2以上でありかつnとmの合計が5以上であり、この架橋剤官能基が求電子性の場合にはこの官能性ポリマー官能基が求核性であり、この架橋剤官能基が求核性の場合にはこの官能性ポリマー官能基が求電子性である官能性ポリマーとを組み合わせて、ポリープの粘膜下組織を含む組織に導入するステップと、
この架橋剤および官能性ポリマーを、このポリープのこの粘膜下組織で反応させて、ヒドロゲルを形成するステップと、
このポリープを除去するステップと
を含む方法。
【0042】
(項目2a)
生体適合性小分子架橋剤を提供するステップが、水溶液中で少なくとも1g/100mlの溶解度を有する生体適合性小分子架橋剤を提供するステップをさらに含む、上記項目のいずれか一つに記載の方法。
【0043】
(項目3a)
生体適合性小分子架橋剤を提供するステップが、求電子性である架橋剤官能基を有する生体適合性小分子架橋剤を提供するステップをさらに含む、上記項目のいずれか一つに記載の方法。
【0044】
(項目4a)
求電子性である架橋剤官能基を有する生体適合性小分子架橋剤を提供するステップが、上記求電子性架橋剤官能基がN−ヒドロキシスクシンイミドをベースにした架橋剤基である生体適合性小分子架橋剤を提供するステップをさらに含む、上記項目のいずれか一つに記載の方法。
【0045】
(項目5a)
合成生体適合性官能性ポリマーを提供するステップが、上記官能性ポリマー官能基がアミンである合成生体適合性官能性ポリマーを提供するステップをさらに含む、上記項目のいずれか一つに記載の方法。
【0046】
(項目6a)
生体適合性小分子架橋剤を提供するステップが、求核性である架橋剤官能基を有する生体適合性小分子架橋剤を提供するステップをさらに含む、上記項目のいずれか一つに記載の方法。
【0047】
(項目7a)
求核性である架橋剤官能基を有する生体適合性小分子架橋剤を提供するステップが、上記架橋剤官能基がアミンである生体適合性小分子架橋剤を提供するステップをさらに含む、上記項目のいずれか一つに記載の方法。
【0048】
(項目8a)
合成生体適合性官能性ポリマーを提供するステップが、上記官能性ポリマー官能基がN−ヒドロキシスクシンイミド基である合成生体適合性官能性ポリマーを提供するステップをさらに含む、上記項目のいずれか一つに記載の方法。
【0049】
(項目9a)
生体適合性小分子架橋剤を提供するステップが、生分解性結合を有する生体適合性小分子架橋剤を提供するステップをさらに含む、上記項目のいずれか一つに記載の方法。
【0050】
(項目10a)
合成生体適合性官能性ポリマーを提供するステップが、生分解性結合を有する合成生体適合性官能性ポリマーを提供するステップをさらに含む、上記項目のいずれか一つに記載の方法。
【0051】
(項目11a)
上記架橋剤および官能性ポリマーを反応させるステップが、上記架橋剤官能基および上記官能性ポリマー官能基を反応させて生分解性結合を生成するステップをさらに含む、上記項目のいずれか一つに記載の方法。
【0052】
(項目12a)
上記ヒドロゲルが染料をさらに含む、上記項目のいずれか一つに記載の方法。
【0053】
(項目13a)
上記ヒドロゲルが1種または複数の活性成分をさらに含む、上記項目のいずれか一つに記載の方法。
【0054】
(項目14a)
上記活性成分が、酵素、血管収縮剤、化学療法剤、抗菌剤、抗生物質、およびこれらの組合せを含む、上記項目のいずれか一つに記載の方法。
【0055】
(項目15a)
上記ヒドロゲルが、約5秒から約90秒の時間にわたって形成される、上記項目のいずれか一つに記載の方法。
【0056】
(項目16a)
少なくとも2個の第1の官能基を有し、分子量が2000以下である生体適合性小分子架橋剤を含む組成物と、少なくとも2個の第2の官能基を有し、分子量がこの小分子架橋剤の少なくとも約7倍である合成生体適合性官能性ポリマーとをポリープの粘膜下組織を含む組織に導入するステップであって、この第1の官能基のそれぞれが、この第2の官能基のそれぞれとは異なっており、この第1およびこの第2の官能基が、求電子物質および求核物質からなる群から選択される、ステップと、
この架橋剤のこの第1の官能基およびこの官能性ポリマーのこの第2の官能基を、このポリープのこの粘膜下組織で反応させて、生体適合性架橋ポリマーヒドロゲルを形成するステップと、
このポリープを除去するステップと
を含む方法。
【0057】
(項目17a)
上記小分子架橋剤が、ジリシン、トリリシン、テトラリシン、およびトリスからなる群から選択される、上記項目のいずれか一つに記載の方法。
【0058】
(項目18a)
上記小分子架橋剤が、オルニチン、スペルミン、スペルミジン、尿素、グアニジン、ジアムニオピメリン酸、ジアミノ酪酸、メチルオルニチン、ジアミノプロピオン酸、シスチン、ランチオニン、シスタミン、トリオキサトリデカンジアミン、シクロヘキサンビス(メチルアミン)、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、メチレンビス(メチルシクロヘキサミン)、ジアミノシクロヘキサン、n−(2−アミノエチル)−1,3−プロパンジアミン、ジアミノメチルジプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、トリエチレンテトラミン、ビス(アミノプロピル)エチレンジアミン、ビス(2−アミノエチル)−1,3−プロパンジアミン、ビス(アミノプロピル)プロパンジアミン、ジアムニオメチルプロパン、1,2−ジアミノ−2−メチルプロパン、1,3−ジアミノペンタン、ジメチルプロパンジアミン、2,2−ジメチル1,3−プロパンジアミン、メチルペンタンジアミン、2−メチル−1,5ペンタンジアミン、ジアミノヘプタン、ジアミノオクタン、ジアミノノナン、ジアミノデカン、およびジアミノドデカンからなる群から選択される、上記項目のいずれか一つに記載の方法。
【0059】
(項目19a)
上記生体適合性架橋ポリマーの形成が、ゲル化時間測定によって測定して、約45秒未満を必要とする、上記項目のいずれか一つに記載の方法。
【0060】
(項目20a)
上記小分子架橋剤が、少なくとも3個の官能基を有する、上記項目のいずれか一つに記載の方法。
【0061】
(項目21a)
上記生体適合性架橋ポリマーヒドロゲル中の固形分の濃度が、約8重量%から約20重量%である、上記項目のいずれか一つに記載の方法。
【0062】
(項目22a)
上記第1の官能基がアミンを含み、上記第2の官能基がスクシンイミドを含む、上記項目のいずれか一つに記載の方法。
【0063】
(項目23a)
上記ヒドロゲルが、約5秒から約90秒の時間にわたって形成される、上記項目のいずれか一つに記載の方法。
【0064】
(項目24a)
架橋前分子量が2000未満である架橋済み合成架橋分子を含む、少なくとも1つの生体適合性架橋剤領域を含む組成物と、架橋前分子量がこの架橋前架橋剤分子の分子量の約7倍である架橋済み合成ポリマー分子から本質的になる、少なくとも1つの生体適合性官能性ポリマー領域とを組み合わせて、ポリープの粘膜下組織を含む組織に導入するステップと、
この架橋剤およびこの官能性ポリマーをこのポリープのこの粘膜下組織で反応させて、生体適合性架橋ポリマーヒドロゲルを形成するステップであって、この生体適合性架橋ポリマーヒドロゲルが、この架橋剤領域とこの官能性ポリマー領域との間に少なくとも3つの結合を含み、この結合が、少なくとも1個の求電子官能基と少なくとも1個の求核官能基との反応生成物であるステップと
このポリープを除去するステップと
を含む方法。
【0065】
(項目25a)
上記生体適合性架橋剤領域が、水溶液中で少なくとも1g/100mlの溶解度を有する、上記項目のいずれか一つに記載の方法。
【0066】
(項目26a)
上記生体適合性架橋ポリマーヒドロゲルが、少なくとも1つの生分解性結合をさらに含む、上記項目のいずれか一つに記載の方法。
【0067】
(項目27a)
上記架橋剤および官能性ポリマー領域の間の上記結合の少なくとも1つが、生分解性である、上記項目のいずれか一つに記載の方法。
【0068】
(項目28a)
上記架橋剤が、ジリシン、トリリシン、テトラリシン、およびトリスからなる群から選択される、上記項目のいずれか一つに記載の方法。
【0069】
(項目29a)
上記架橋剤が、オルニチン、スペルミン、スペルミジン、尿素、グアニジン、ジアムニオピメリン酸、ジアミノ酪酸、メチルオルニチン、ジアミノプロピオン酸、シスチン、ランチオニン、シスタミン、トリオキサトリデカンジアミン、シクロヘキサンビス(メチルアミン)、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、メチレンビス(メチルシクロヘキサミン)、ジアミノシクロヘキサン、n−(2−アミノエチル)−1,3−プロパンジアミン、ジアミノメチルジプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、トリエチレンテトラミン、ビス(アミノプロピル)エチレンジアミン、ビス(2−アミノエチル)−1,3−プロパンジアミン、ビス(アミノプロピル)プロパンジアミン、ジアムニオメチルプロパン、1,2−ジアミノ−2−メチルプロパン、1,3−ジアミノペンタン、ジメチルプロパンジアミン、2,2−ジメチル1,3−プロパンジアミン、メチルペンタンジアミン、2−メチル−1,5ペンタンジアミン、ジアミノヘプタン、ジアミノオクタン、ジアミノノナン、ジアミノデカン、およびジアミノドデカンからなる群から選択される、上記項目のいずれか一つに記載の方法。
【0070】
(項目30a)
上記ヒドロゲルが、約5秒から約90秒の時間にわたって形成される、上記項目のいずれか一つに記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】図1A〜1Eは、適切な求核官能基前駆体と架橋することができる求電子官能基の水溶性および生分解性架橋剤または官能性ポリマーを示す図である。
【図2】図2F〜2Jは、適切な求電子前駆体と架橋することができる求核水溶性および生分解性架橋剤または官能性ポリマーを示す図である。
【図3】図3K〜3Oは、生分解性結合または官能基が、前駆体を水溶性にするように選択される、適切な求核官能基前駆体と架橋することができる求電子水溶性および生分解性架橋剤または官能性ポリマーを示す図である。
【図4】図4P〜4Tは、適切な求電子官能基前駆体と架橋することができ、生分解性ではない求核官能基水溶性架橋剤または官能性ポリマーを示す図である。
【図5】図5U〜5Xは、適切な求核官能基前駆体と架橋することができ、生分解性でない求電子水溶性架橋剤または官能性ポリマーを示す図である。
【図6】特定のN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステルを示す図である。
【図7】4アーム10kDaスクシンイミジルグルタレートPEG(「SG−PEG」)とジ、トリまたはテトラリシンを反応させた実施例2〜4の前駆体についてのアミノ基の数に対してプロットしたゲル化時間の変化を示す図である。
【図8】実施例2〜4の求電子官能性ポリマーの溶液エージ(age)によるゲル化時間の変化を示す図である(実施例6も参照のこと)。
【図9】生体適合性架橋ポリマー前駆体の濃度、および実施例7の4アーム10kDaカルボキシメチル−ヒドロキシブチレート−N−ヒドロキシスクシンイミジルPEG(「CM−HBA−NHS」)求電子官能性ポリマーの溶液エージによるゲル化時間の変化を示す図である。
【図10】実施例8の生体適合性架橋ポリマーについての濃度による分解時間の変化を示す図である。
【図11】トリリシン(LLL)の化学構造を示す図である。
【図12】トリスの化学構造を示す図である。
【図13】実施例13にさらに記載されている、LLL−トリスヒドロゲルにおけるトリス含有量の関数としてのヒドロゲルのゲル化時間の一例のグラフである。
【図14】実施例13にさらに記載されている、LLL−トリスヒドロゲルにおけるトリス含有量の関数としてのヒドロゲルの膨潤のグラフである。
【図15】実施例13にさらに記載されている、LLL−トリスヒドロゲルにおけるトリス含有量の関数としてのヒドロゲルの分解のグラフである。
【図16】実施例13にさらに記載されている、LLL−トリスヒドロゲルにおけるトリス含有量の関数としてのヒドロゲルのモジュラスのグラフである。
【図17】実施例15にさらに記載されているトリス系ヒドロゲルの分解のグラフである。
【図18】実施例15にさらに記載されているLLL系ヒドロゲルの分解のグラフである。
【図19】ポリエチレングリコールおよびNHSエステルで製造された求電子試薬である4アームCM−HBA−NHSを示す図である。
【図20】ポリエチレングリコールおよびNHSで製造された4アームスクシンイミジルグルタレートである4aPEG−SG−NHSを示す図である。
【図21】ジリシン(LLまたはLys−Lys)で形成されたヒドロゲルの分解を示す図である(実施例16も参照のこと)。
【図22】固体濃度の関数としてのジリシン(LLまたはLys−Lys)で形成されたヒドロゲルのゲル化時間を示す図である(実施例16も参照のこと)。
【図23】固体濃度の関数としてのジリシン(LLまたはLys−Lys)で形成されたヒドロゲルの膨潤を示す図である(実施例16も参照のこと)。
【図24】ジリシン(LLまたはLys−Lys)で製造されたヒドロゲルについてのゲル化時間に対する求電子試薬のポットライフの影響を示す図である(実施例16も参照のこと)。
【図25】スペルミジンについての化学構造を示す図である。
【図26】スペルミンについての化学構造を示す図である。
【図27】オルニチンについての化学構造を示す図である。
【図28】ジリシン(LLまたはLys−Lys)についての化学構造を示す図である。
【図29】求核試薬ごとの反応性アミンの数の関数としてのゲル化時間の棒グラフである(実施例17も参照のこと)。
【図30】求核試薬ごとの反応性アミンの数の関数としての膨潤の棒グラフである(実施例17も参照のこと)。
【図31】求核試薬ごとの反応性アミンの数の関数としての分解時間の棒グラフである(実施例17も参照のこと)。
【図32】pHの関数としてのゲル化時間の棒グラフである(実施例17も参照のこと)。
【図33】pHの関数としての膨潤の棒グラフである(実施例17も参照のこと)。
【図34】pHの関数としての分解の棒グラフである(実施例17も参照のこと)。
【図35】固形分の関数としてのゲル化時間および求電子ポットライフの棒グラフである(実施例17も参照のこと)。
【図36】固形分含量の関数としての膨潤の棒グラフである(実施例17も参照のこと)。
【図37】固形分の関数としての分解および求電子ポットライフの棒グラフである(実施例17も参照のこと)。
【図38】JEFFAMINE(登録商標)の化学構造を示す図である。
【図39】アミン含有量の関数としてプロットした、LUPASOL(登録商標)、トリス、LLLまたはスペルミジンで製造されたヒドロゲルについてのゲル化時間の棒グラフである(実施例18も参照のこと)
【図40】様々なヒドロゲルについての膨潤の棒グラフである(実施例18も参照のこと)。
【図41】様々なヒドロゲルについての分解時間の棒グラフである(実施例18も参照のこと)。
【図42】求電子試薬、即ちアミンの固体含量、pHおよび化学量論組成の関数としてのゲル化時間とポットライフとの関係を示す図である(実施例19も参照のこと)。
【図43】求電子試薬、即ちアミンの膨潤と固体含量、pHおよび化学量論組成との関係を示す図である(実施例19も参照のこと)。
【図44】求電子試薬、即ちアミンの分解と固体含量、pHおよび化学量論組成との関係を示す図である(実施例19も参照のこと)。
【図45】求電子試薬、即ちアミンのモジュラスと固体含量、pHおよび化学量論組成との関係を示す図である(実施例19も参照のこと)。
【図46】低分子量アミンと混合された多重腕求電子試薬から製造されたヒドロゲルの分解性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0072】
患者でのヒドロゲルインプラントの分解速度は、ヒドロゲルの重要な側面である。多くの適用例では、容易に分解可能なヒドロゲルを作製することが望ましいこともある。さらに、多くの適用例では、その分解性が予測可能になるように、ヒドロゲルを配合することが望ましいことがある。本開示は、予測可能な分解プロファイルを有する容易に分解可能なヒドロゲルを対象とする実施形態を提供する。これらの容易に分解可能なヒドロゲルは、多数の用途を有することがある。ある実施形態では、このヒドロゲルをポリープまたはポリープの粘膜下組織に導入して、ポリープ切除術中のポリープ除去を促進するように利用することができる。
【0073】
これまで、生分解性インプラントは、ポリラクチドおよび/またはポリグリコリド、あるいは連続したエステルを有するその他のポリマーで作製していた。これらのエステルは水中で分解し、そのプロセスは加水分解と呼はれる。ポリグリコリドは一般に、数カ月以内に患者の体内に吸収されるのに対し、ポリラクチドは、より長い時間を要する。ポリラクチドは、一般に構造が結晶質であるポリ−L−ラクチドと、一般に非晶質であるポリ−DL−ラクチドとを含む。結晶質構造は、よりゆっくりと水和するので、よりゆっくりと再吸収される。これらのポリマーは、一般的に言えば数カ月のタイムスパンで分解するので、これらの材料を使用して、容易に分解可能なインプラントを作製することは難しい。
【0074】
1群のエステル中の第1のエステルが加水分解する平均時間は、たった1つのエステルで必要とされる時間よりも短いはずなので、通常、ポリエステルが、孤立エステルよりも素早く分解することが通常、予測されよう。言い換えれば、エステルが水中で加水分解するのに1から3日を要するとした場合、10個のエステルのうちの1個は、単一エステルのうちの1個が加水分解前に、加水分解する可能性が高い。したがって、多数の隣接するエステルを有するポリマーは、同数の孤立エステルを有するポリマーまたはより少数の孤立エステルを有するポリマーよりも素早く分解することは通常、予測されよう。したがって、孤立エステルを使用して作製されたヒドロゲルが、多数の隣接するエステルで作製されたヒドロゲルが容易に分解しない状況下で、容易に分解可能であるとは予測されない。
【0075】
しかし、本明細書に記述されるある実施形態は、孤立エステルを有するポリマーおよび低分子量アミンの組合せから作製された、容易に分解するヒドロゲルを含む。本明細書で使用される「孤立エステル」という用語は、別のエステルに隣接していないエステルである。本明細書で使用される「低分子量アミン」という用語は、少なくとも2個の第1級アミン基を有し、分子量が約1000未満の分子である。いかなる特定の理論にも拘束されるものではないが、ヒドロゲル中に存在する未反応の第1級アミンは、孤立エステルの隣の領域における水の塩基度を高め、したがってそれらの加水分解が加速されると考えられる。さらに、または代わりに、長さの短い低分子量アミンによって生成されたポリマーの張力は、分解を加速させる働きをすることができる。
【0076】
体内でのゲルまたはヒドロゲルの使用の、あるいは様々なその他の使用のための、様々な例は、例えば、米国特許第6,020,326号、第5,874,500号、第5,814,621号、第5,605,938号、第5,527,856号、第5,550,188号、第4,414,976号、第4,427,651号、および第4,925,677号に記載されており;これらのそれぞれの開示全体は、本明細書に明白に開示される内容と矛盾しない程度まで、本明細書に参考として援用される。
【0077】
本開示によれば、孤立エステルは、容易に分解可能であり得るヒドロゲルを形成するのに、利用できる。容易に分解可能とは、機械的強度が本質的に完全に失われることによって示されるように、約6カ月未満以内にほぼ完全に分解することを意味する。さらに、ある組成物および方法での低分子量アミンの使用は、先に予測も理解もされていなかった予期せぬ結果をもたらした。
【0078】
低分子量アミンの組合せの使用の一側面は、意外なことに、ほぼ線形の分解プロファイルを有することである。図46を参照すると、低分子量アミン、例えばトリスおよびトリリシンの混合物で作製されたヒドロゲルの分解時間は、低分子量アミンの相対量に応じてほぼ線形である。予測可能な分解速度は、ある時間窓内での分解を要するデバイスおよび材料を設計するのに、役立てることができる。
【0079】
本開示によれば、孤立エステルは、容易に分解可能な材料を作製するのに利用することができる。複数の低分子量アミンも、容易に分解可能なヒドロゲルを作製するのに利用することができる。インビトロでのゲル化時間消失試験は、当業者が分解を測定するのに使用することができる手順について述べている実施例13に記載されているように、インビボでの分解性を近似するのに使用することができる。6カ月未満で分解する、容易に分解可能なゲルの実施形態は、約1日から約6カ月のゲル分解時間、1日から6カ月の間のいかなる分解時間も含むものが考えられる。
【0080】
孤立エステルを有するヒドロゲルを作製するためには、少なくとも2つの低分子量アミンと少なくとも1つの孤立エステルを有するポリマーとの組合せが、分解可能なゲルの作製に特に有効と考えられる。例えば、実施例13は、トリスおよびトリリシンの組合せが、トリリシンのみを有する配合物に比べてゲル化および分解速度を加速させることを示す(図13〜15)。
【0081】
孤立エステル前駆体と併せて低分子量アミンを使用するための詳細な方法および手順を、本明細書に記述する。例えば図17および18(実施例14および15)は、インビボで、低分子量アミントリリシンまたはトリスとトリリシンとの組合せを使用して作製された孤立エステルのヒドロゲルが、持続することを示す。図21〜23(実施例16)に示すように、ジリシンを使用して作製された孤立エステルヒドロゲルの性質も試験された。多数の低分子量アミンを実施例17および18で使用して、孤立エステルを含有するヒドロゲルを作製した(図11、12、25〜39)。固形分含量、pH、ポットライフ、膨潤、分解、ゲル化時間、および係数に関する側面は、これらの実施例に記載されている。実施例19は、低分子量アミンを孤立エステルと併せた組合せを使用する、予測可能な分解性を有するヒドロゲルを維持する詳細な例を提供する(図42〜45)。実施例20および21は孤立エステルを有する様々な求電子物質と併せて低分子量アミンジリシンを含む、詳細な研究について述べている。
【0082】
本開示の実施形態は、混合物、または、求核官能基を有する親水性反応性前駆体種と求電子官能基を有する親水性反応性前駆体種と混合する方法であって、これらが患者の組織との接触後に素早く架橋する混合物を形成して、組織を被覆し組織に付着する生分解性ヒドロゲルを形成するようにする方法を含む。これは、混合後に素早く架橋する反応性前駆体種を作製することによって、実現することができる。親水性反応性前駆体種は、組織に接触したときに容易に混合し流動する低粘度溶液が得られるように、緩衝水に溶解することができる。この前駆体種は、組織全体を流動するときに、隆起、隙間、および分子の滑らかさからのあらゆる逸脱など、組織の小さな特徴の形状に順応する。反応性前駆体種の架橋が遅すぎる場合、これらは組織から流出し、身体のその他の部分に流れ去り、その結果、使用者は所望の組織上にヒドロゲルを局在化させることができなくなる。本開示の組成物を特定の動作理論に限定するものではないが、組織表面と接触した後に素早く架橋する反応性前駆体種は、コーティングされた組織に機械的に連結された3次元構造を形成することになると考えられる。この連結は、接着性、密接な接触、および組織の被覆領域の本質的に連続した被覆範囲に寄与する。
【0083】
例えば卵巣の周りまたは腸の周囲などの必要とされる患者の部分に、使用者がヒドロゲルを置くことができなければならないので、接着性は、例えば癒着の予防のためにコーティングを必要とする医学的適用例に重要である。付着性は、ポリープの第1の部分が除去された後に漏れが最小限に抑えられるように、ポリープまたはポリープに隣接する粘膜下組織にヒドロゲルを配置するのにも重要である。さらに、ヒドロゲルは、意図される組織の上または内部にあり続けるべきである。ヒドロゲルは、組織に対して良好な接着性を有し、外科用の糊または接着剤がこれまで使用されてきたすべての適用例で、有用である。例えば、ポリープ切除術中のポリープ除去を促進させるポリープ内への導入は、患者の組織、例えばポリープまたはポリープの粘膜下組織に接触した後に素早く架橋する混合物が形成され、粘膜下組織表面からポリープを隆起させるヒドロゲルが形成されるように、求電子官能基を有する親水性反応性前駆体種と混合する求核官能基を有する反応性前駆体種を使用することによって、本明細書に記述される反応性前駆体種の組合せを用いて実現することができる。
【0084】
適切な架橋時間は、種々の適用例ごとに異なる。ほとんどの適用例で、ゲル化をもたらす架橋反応は約10分以内に生じることができ、ある実施形態では約2分以内であり、その他の実施形態では約10秒以内である。生体内でヒドロゲルおよび/またはその成分を導入するための方法には、例えば、米国特許第6,179,862号;第6,165,201号;第6,152,943号;および第6,610,033号に開示されているものが含まれ、これらのそれぞれの開示全体は、明白に開示される内容と矛盾しない程度まで、本明細書に参考として援用される。ポリープまたはポリープに隣接する粘膜下組織の場合、ゲル化に適切な時間は約5秒から約90秒でよく、ある実施形態では約10秒から約30秒である。
【0085】
官能基
各前駆体は多官能性でよく、1個の前駆体上の求核官能基が別の前駆体上の求電子官能基と反応して、共有結合を形成できるように2個以上の求電子または求核官能基を含むことを意味する。前駆体の少なくとも1個は、2個を超える官能基を含み、したがって、求電子−求核反応の結果、複数の前駆体が結合して架橋ポリマー生成物を形成する。そのような反応を、「架橋反応」と呼ぶことができる。
【0086】
ある実施形態では、各前駆体は、求核および求電子前駆体の両方が架橋反応で使用される限り、求核官能基のみまたは求電子官能基のみ含む。このように、例えば架橋剤が、アミンなどの求核官能基を有する場合、官能性ポリマーは、N−ヒドロキシスクシンイミドなどの求電子官能基を有してよい。一方、架橋剤が、N−ヒドロキシスクシンイミドまたはスルホスクシンイミドなどの求電子官能基を有する場合、官能性ポリマーは、アミンまたはチオールなどの求核官能基を有してよい。このように、タンパク質、ポリ(アリルアミン)、またはアミン末端ジまたは多官能性ポリ(エチレングリコール)(「PEG」)などの官能性ポリマーを、使用することができる。
【0087】
低分子量アミン前駆体およびヒドロゲル
いくつかの実施形態は、架橋剤としての低分子量アミンの使用を含む。そのような低分子量アミンは、少なくとも2つの第1級アミンおよび約1000未満の分子量を有してよい。そのような低分子量アミンの例には、ジリシン、トリリシン、テトラリシン、およびトリスが含まれる。2002年のAldrich Catalogに記述される命名法に従い、その他のそのような例には、オルニチン、スペルミン、スペルミジン、尿素、グアニジン、ジアムニオピメリン酸(diamniopimelic acid)、ジアミノ酪酸、メチルオルニチン、ジアミノプロピオン酸、シスチン、ランチオニン、シスタミン、トリオキサトリデカンジアミン、シクロヘキサンビス(メチルアミン)、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、メチレンビス(メチルシクロヘキサミン)、ジアミノシクロヘキサン、n−(2−アミノエチル)−1,3−プロパンジアミン、ジアミノメチルジプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、トリエチレンテトラミン、ビス(アミノプロピル)エチレンジアミン、ビス(2−アミノエチル)−1,3−プロパンジアミン、ビス(アミノプロピル)プロパンジアミン、ジアムニオメチルプロパン(diamniomethylpropane)、1,2−ジアミノ−2−メチルプロパン、1,3−ジアミノペンタン、ジメチルプロパンジアミン、2,2−ジメチル1,3−プロパンジアミン、メチルペンタンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、ジアミノヘプタン、ジアミノオクタン、ジアミノノナン、ジアミノデカン、およびジアミノドデカンなどが含まれる。
【0088】
低分子量アミンは、これらを、本明細書に記述されるような適切な求電子物質と組み合わせることによって、ヒドロゲルを作製するのに使用してもよい。2つの第1級アミンのみ有する低分子量アミンは、架橋ヒドロゲルを実現するために、通常は、少なくとも3個のアームを有する求電子物質と組み合わせる必要があろう。低分子量アミンは、マルチアーム付きポリエチレングリコールを含めた、本明細書に記述されるその他の求核物質と組み合わせて使用してもよい。例えばトリスは、ジリシン、トリリシン、テトラリシン、またはその他の低分子量アミンと組み合わせてよい。少なくとも1つの低分子量アミンの組合せが企図され、2つ、3つ、4つ、またはそれ以上の組合せが含まれる。本明細書に記述されるタンパク質、分解性ポリマー、およびその他の材料を有する低分子量アミンの組合せも、企図される。
【0089】
そのようなゲルをどのように生成するかの例には、例えば、米国特許第7,347,850号、第7,332,566号、第7,009,034号、および第6,566,406号に開示されているものが含まれ、これらそれぞれの開示全体は、本明細書に参考として援用される。
【0090】
水溶性コア
前駆体は、生物学的に不活性な水溶性のコアを有してよい。コアが水溶性のポリマー領域である場合、使用することができる適切なポリマーには、ポリエーテル、例えば、ポリエチレングリコール(「PEG」)、ポリエチレンオキシド(「PEO」)、ポリエチレンオキシド−co−ポリプロピレンオキシド(「PPO」)、co−ポリエチレンオキシドブロックまたはランダムコポリマー、およびポリビニルアルコール(「PVA」)などのポリアルキレンオキシド;ポリ(ビニルピロリドン)(「PVP」);ポリ(アミノ酸);デキストラン;およびアルブミンなどのタンパク質が含まれる。ポリエチレングリコールを含めたポリ(オキシアルキレン)などのポリエーテルは、いくつかの実施形態で適切である可能性がある。コアが、分子の性質の中で小さい場合、様々な親水性官能基のいずれかを使用して、前駆体を水溶性にすることができる。例えば、水溶性であってもよいヒドロキシル、アミン、スルホネート、およびカルボキシレートなどの官能基を使用して、前駆体を水溶性にすることができる。さらに、スバリン酸のN−ヒドロキシスクシンイミド(「NHS」)エステルは、水に不溶であるが、スクシンイミド環にスルホネート基を添加することによって、スバリン酸のNHSエステルを、アミン基に対するその反応性に影響を与えることなく水溶性にすることができる。
【0091】
生分解性結合
生体適合性架橋ポリマーが生分解性または吸収性であることが望まれる場合、官能基間に存在する生分解性結合を有する1種または複数の前駆体を使用することができる。生分解性結合は、前駆体の1種または複数の水溶性コアとして働くことができる。代替例において、またはさらに、これらの間での反応生成物が生分解性結合をもたらすように前駆体の官能基を選択してもよい。手法ごとに、得られる生分解性の生体適合性架橋ポリマーが所望の時間で分解するようにまたは吸収されるように、生分解性結合を選択してもよい。ある実施形態では、生理学的条件下で無毒性生成物に分解する生分解性結合を選択してもよい。
【0092】
生分解性結合は、小分子架橋剤、官能性ポリマー、またはこれら両方の成分からなるものであってよい。ある実施形態では、小分子架橋剤の官能基と官能性ポリマーの官能基との反応は、生分解性結合の形成をもたらすことができる。生分解性結合は、化学的にまたは酵素的に加水分解可能または吸収可能であってよい。例示的な化学的に加水分解可能な生分解性結合には、グリコリド、ジ−ラクチド、1−ラクチド、カプロラクトン、ジオキサノン、およびトリメチレンカーボネートのポリマー、コポリマー、およびオリゴマーが含まれる。利用することができる別の化学的に加水分解可能な生分解性結合は、孤立エステル基である。先に述べたように、孤立エステル基は、別のエステル基に隣接していないエステル基である。これとは対照的に、例えばグリコリドおよびラクチドのポリマーおよびオリゴマーは、互いに隣接するエステル基を有する。孤立エステル基の挙動は、加水分解の状況において、非孤立エステルの場合とは明らかに異なり得る。利用することができる追加の例示的な生分解性結合には、ポリ(ヒドロキシ酸)、ポリ(オルトカーボネート)、ポリ(無水物)、ポリ(ラクトン)、ポリ(アミノ酸)、ポリ(カーボネート)、およびポリ(ホスホネート)のポリマーおよびコポリマーが含まれる。
【0093】
例示的な酵素的生分解性結合には、プロテアーゼ、メタロプロテイナーゼ、およびコラゲナーゼによって切断可能なペプチド性結合が含まれる。酵素によるポリマーの切断とは、酵素が、ポリマー内の特定の化学基に対し、ほとんどのその他の化学基に対するよりも高い選択性または親和性を有することを意味する。これとは対照的に、いくつかの酵素は、特異性をほとんど示さない化学物質を分泌し、例えば接触する材料を分解するラジカルを分泌する酵素である。さらにほとんどのタンパク質が酵素分解を受け易い特定の配列を有しているので、タンパク質は、一般に酵素で切断可能と見なすことができる。これとは対照的に、酵素分解に対して耐性のあるヒドロゲルは、メタロプロテイナーゼおよびコラゲナーゼを含めた酵素によって切断することができる結合を含まない。
【0094】
生分解性結合は、ヒドロゲルが容易に分解できるように選択することができる。ヒドロゲルが実質的に分解されることを決定する1つの方法は、実施例13に記述されるようにインビトロの分解試験を行うことある。これらの試験は一般に、図46に示される実施例13、15、および17に示されるように、動物での分解に関して予測的である。図46は、トリリシンをベースにしたヒドロゲルの生体外分解が、インビトロでは約40日であり、インビボでは約38日であることを示している。このように、例えばヒドロゲルは、加水分解により分解可能なエステル基を有し、酵素によって分解可能でありまたは加水分解によって分解するその他の基は含まないポリマーのみを使用して作製することができる。その他の実施形態は、生分解性結合として、孤立した加水分解により分解可能なエステル基を使用して作製されたヒドロゲルを含む。本明細書で使用される「加水分解により分解可能なエステル基」という用語は、水溶液中で自発的に分解するエステル基を意味し、そのようなエステルは、約37℃で保持した場合、酵素または細菌を含まない水中でインビトロで加水分解される。ある実施形態では、材料は、裸眼で観察するには小さすぎる成分にまたは水溶液中に溶解するのに十分小さい成分に分解する可能性があり、その結果、材料は、水に曝されたときに経時的に消失するように思われる。
【0095】
可視化剤
都合良い場合、生体適合性架橋ポリマー、前駆体溶液、またはこれらの両方は、外科処置中の視認性を改善する可視化剤を含有してよい。可視化剤は、数ある理由の中でもカラーモニタにおけるその高い視認性のために、MIS処置で使用する場合に特に役立てることができる。可視化剤は、FD&C BLUE染料3および6、エオシン、メチレンブルー、インドシアニングリーン、または合成外科縫合糸に通常見出される着色染料など、医療用の埋込み型医療デバイスでの使用に適切な様々な無毒性着色物質のいずれかの中から選択してよい。ある実施形態では、緑や青などの色が望ましいことがあり、血液の存在下またはピンクもしくは白の組織背景で、より良好な視認性を有することがある。例えば、色が赤である非常に血管が発達した組織上で使用する場合、赤は視覚化するのが難しくなる可能性がある。しかし下にある組織が白である場合、赤は適切と考えられる。
【0096】
可視化剤は、どちらかの反応性前駆体種、例えば架橋剤または官能性ポリマー溶液と共に存在させてよい。着色物質は、ヒドロゲルに化学的に結合しても結合しなくてもよい。可視化剤は少量で使用してよく、ある実施形態では約1重量/体積%未満であり、その他の実施形態では約0.01重量/体積%未満であり、さらにその他の実施形態では約0.001重量/体積%未満の濃度である。
【0097】
蛍光(例えば、可視光下で緑または黄色の蛍光)化合物(例えば、フルオレセインまたはエオシン)、x線撮像装置下で視覚化するためのx線造影剤(例えば、ヨード化化合物)、超音波造影剤、またはMRI造影剤(例えば、ガドリニウム含有化合物)など、追加の可視化剤を使用してもよい。
【0098】
可視化剤を使用して、使用者が適用したヒドロゲルの厚さを測定することを可能にする。可視化剤は、ヒトの眼に見える色、例えば使用者によって視覚的に検出され、またはビデオカメラによって検出され、さらに使用者によって観察されるビデオスクリーンに中継される色を与える剤であってよい。
【0099】
約400から750nmの光の波長は、ヒトが色として観察することができる(R.K. Hobble、Intermediate Physics for Medicine and Biology、第2版、371〜373頁)。青色は、眼が主に波長約450から500nmの光を受けたときに認識され、緑は約500から570nm(同上)で認識される。したがって、物体の色は、反射または放出される光の主波長によって決定される。さらに、眼は赤または緑または青を検出するので、ヒトの眼によって望まれる色であると認識されるある比率の赤、緑、および青をヒトの眼に単に受光させることによって、これらの色の組合せを使用して任意のその他の色をシミュレートすることができる。組織および血液の背景色がほぼ赤であるために、青および緑の可視化剤は、その場(in situ)での架橋を観察するときに最も容易に眼に見えるので、有用と考えられる。本明細書で使用される青色は、約450から500nmの波長によって刺激を受けた正常なヒトの眼によって認識される色を意味し、本明細書で使用される緑色は、約500から570nmの波長によって刺激を受けた正常なヒトの眼によって認識された色を意味する。
【0100】
可視化剤の使用は、ヒドロゲルがポリープまたはポリープの粘膜下組織に導入されるときに用いられる。ヒドロゲルは、前駆体が基質表面、即ちポリープまたはポリープの粘膜下組織に接触した後に架橋するときに形成され、それによってヒドロゲル前駆体が混合されかつポリープの形状に適合することが可能になる。
【0101】
ある実施形態では、患者の組織上で使用される本開示のヒドロゲルは、水、生体適合性可視化剤、および組織との接触後にヒドロゲルを形成する架橋親水性ポリマーを含んでいてよい。ヒドロゲルは、ポリープなどの組織の上または内部に形成される。可視化剤は、ヒドロゲルを適用している使用者がゲルを観察できるように、またポリープの一部が除去されたときにポリープ内のゲルを可視化できるように、ヒトの眼で検出可能な波長の光を反射しまたは放出する。
【0102】
いくつかの適切な生体適合性可視化剤には、FD&C BLUE #1、FD&C BLUE #2、およびメチレンブルーが含まれる。これらの剤は、最終的な求電子−求核反応性前駆体種混合物中に、約0.05mg/ml超の濃度で、約0.1から約12mg/mlの濃度で、ある実施形態では約0.1から約4mg/mlの濃度で存在してよいが、可視化剤の溶解度の限界に至るまで、さらに高い濃度も場合によっては使用してもよい。可視化剤は、蛍光分子でもよい。
【0103】
架橋反応
架橋反応は、生理学的条件下で水溶液中で引き起こすことができる。ある実施形態では、架橋反応を「その場」で引き起こすことができ、即ちこの反応は、ポリープおよびポリープに隣接する粘膜下組織を含めた、生きている動物またはヒトの身体の器官または組織の上または内部など、局所部位で生ずることを意味する。ある実施形態では、架橋反応は、重合熱を放出しない。ゲル化をもたらす架橋反応は、約10分以内で、ある実施形態では約2分以内で、その他の実施形態では約1分以内で、さらにその他の実施形態では約30秒以内で引き起こすことができる。いくつかの実施形態では、本開示の生体適合性架橋ポリマーの形成は、ゲル化時間測定によって測定して、約45秒以内で引き起こすことができる。
【0104】
アルコールやカルボン酸などのある官能基は、通常、生理学的条件下(例えば、pH7.2〜11、37℃)でアミンなどのその他の官能基と反応しない。しかし、このような官能基は、N−ヒドロキシスクシンイミドなどの活性化基を使用することによって、より反応性を高くすることができる。このような官能基を活性化するためのいくつかの方法は、当業者の範囲内である。適切な活性化基には、カルボニルジイミダゾール、塩化スルホニル、アリールハロゲン化物、スルホスクシンイミジルエステル、N−ヒドロキシスクシンイミジルエステル、スクシンイミジルエステル、エポキシド、アルデヒド、マレイミド、およびイミドエステルなどが含まれる。ある実施形態では、N−ヒドロキシスクシンイミドエステルまたはN−ヒドロキシスルホスクシンイミド基を、タンパク質またはアミノ末端ポリエチレングリコール(「APEG」)などのアミン官能化ポリマーの架橋のために利用することができる。
【0105】
図1から5は、適切な架橋剤および官能性ポリマーの様々な実施形態を例示する。図1は、分解性求電子架橋剤または官能性ポリマーの、可能性のある構成を示す。生分解性領域は、
【0106】
【化1】

によって表され;官能基は
【0107】
【化2】

によって表され、不活性水溶性コアは
【0108】
【化3】

によって表される。架橋剤では、中心コアが水溶性の小分子であり、官能性ポリマーでは、中心コアが天然または合成由来の水溶性ポリマーである。
【0109】
図1の構造Aが官能性ポリマーである場合、これは線状水溶性および生分解性の官能性ポリマーであり、その末端が2個の官能基(例えば、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、またはNHS、エポキシド、あるいは同様の反応性基)でキャップされたポリマーである。水溶性コアは、ポリアルキレンオキシドであってよく、例えばポリエチレングリコールブロックコポリマーであり、このコアと各末端官能基との間の少なくとも1つの生分解性結合により伸長される。生分解性結合は、ポリヒドロキシ酸やポリラクトンなどの吸収性ポリマーの単結合またはコポリマーまたはホモポリマーであってよい。
【0110】
図1の構造Bが官能性ポリマーの場合、このポリマーは、中心に不活性ポリマーを有する分岐状または星形の生分解性官能性ポリマーである。不活性な水溶性のコアは、反応性官能基で終端していてもよいオリゴマー生分解性伸長部で、終端していてもよい。
【0111】
図1の構造CおよびDは、官能性ポリマーであり、これらは多官能性の4アームの生分解性官能性ポリマーであってもよい。このポリマーはやはり、中心に水溶性コアを有しており、このコアは、4アームの4官能性ポリエチレングリコール(構造C)またはTETRONIC 908などのPEO−PPO−PEOのブロックコポリマー(構造D)であり、少なくとも1種の生分解性ポリマーの小オリゴマー伸長部により伸長されて水溶性が維持されており、CDIやNHSなどの反応性官能性末端基で終端している。
【0112】
図1の構造Eが官能性ポリマーの場合、このポリマーは、多官能性の星またはグラフト型生分解性ポリマーである。このポリマーは、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、またはポリ(ビニルピロリジノン)などの水溶性ポリマーを中心に有しており、生分解性ポリマーで完全にまたは部分的に伸長されている。生分解性ポリマーは、反応性末端基で終端している。
【0113】
図1の構造A〜Eは、ポリマーコアを有する必要はなく、小分子架橋剤であってもよい。その場合、コアは、エトキシ化グリセロール、イノシトール、トリメチロールプロパンなどの小分子を含んで、結果的に架橋剤を形成してもよい。さらに、図1の構造A〜Eは、ポリマー生分解性伸長部を有する必要はなく、生分解性伸長部は、スクシネートもしくはグルタレートのような小分子、またはグリコレート/2−ヒドロキシブチレートもしくはグリコレート/4−ヒドロキシプロリンなどの2種以上のエステルの組合せを含んでよい。4−ヒドロキシプロリンのダイマーまたはトリマーは、分解性を高めるためだけではなく、ヒドロキシプロリン部分の一部であってもよいペンダント第1級アミンを介して、求核官能基反応部位を追えるために使用してもよい。
【0114】
得られる官能性ポリマーが、低い組織毒性、水溶性、および求核官能基との反応性といった性質を有する限り、図1の構造A〜Eのコア、生分解性結合、および末端求電子基のその他の変形例を構成することができる。
【0115】
図2は、求核生分解性水溶性架橋剤、および求電子官能性ポリマーと共に使用するのに適した官能性ポリマー、ならびに本明細書で記述される架橋剤の、様々な実施形態を示す。生分解性領域は、
【0116】
【化4】

によって表され;官能基は、
【0117】
【化5】

によって表され;不活性水溶性コアは、
【0118】
【化6】

によって表される。架橋剤の場合、中心コアは水溶性小分子であり、官能性ポリマーの場合、中心コアは天然または合成由来の水溶性ポリマーである。図2の構造Fが官能性ポリマーの場合、このポリマーは、第1級アミンのような反応性官能基で終端している線状水溶性生分解性ポリマーである。線状水溶性コアは、ポリヒドロキシ酸またはポリラクトンのコポリマーまたはホモポリマーであってもよい生分解性領域で伸長された、ポリエチレングリコールブロックコポリマーなどのポリアルキレンオキシドであってよい。この生分解性ポリマーは、第1級アミンで終端していてもよい。図2の構造Gが官能性ポリマーの場合、このポリマーは、中心に不活性ポリマーを有する分岐状または星形の生分解性ポリマーである。不活性ポリマーは、反応性官能基で終端していてもよい単一またはオリゴマー生分解性伸長部で、伸長していてもよい。図2の構造HおよびIが官能性ポリマーの場合、このポリマーは、多官能性の4アームの生分解性ポリマーである。これらのポリマーはやはり、その中心に水溶性コアを有し、これらは、水溶性を維持するために生分解性ポリマーの小オリゴマー伸長部で伸長されておりかつアミンやチオールなどの官能基で終端している、4アーム4官能性ポリエチレングリコール(構造H)またはTETRONIC 908などのPEO−PPO−PEOのブロックコポリマー(構造I)であってもよい。
【0119】
図2の構造Jが官能性ポリマーの場合、このポリマーは、多官能性の星またはグラフト型生分解性ポリマーである。このポリマーは、生分解性ポリマーで完全にまたは部分的に伸長されていてもよいポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、またはポリ(ビニルピロリジノン)のような水溶性ポリマーを中心に有する。生分解性ポリマーは、反応性末端基で終端させてもよい。図2の構造F〜Jは、ポリマーコアを有する必要がなく、小分子架橋剤であってよい。その場合、コアは、結果的に架橋剤が形成されるように、エトキシ化グリセロール、イノシトール、およびトリメチロールプロパンのような小分子を含んでよい。図2の得られる官能性ポリマーが低い組織毒性、水溶性、および求電子官能基に対する反応性という性質を有する限り、構造F〜Jのコア、生分解性結合、および末端求核官能基のその他の変形例を構成することができる。
【0120】
図3は、コアが生分解性である水溶性求電子架橋剤または官能性ポリマーの構成を例示する。生分解性領域は、
【0121】
【化7】

によって表され、官能基は、
【0122】
【化8】

によって表される。生分解性コアは、N−ヒドロキシスルホスクシンイミドエステル(「SNHS」)やN−ヒドロキシエトキシ化スクシンイミドエステル(「ENHS」)などの水溶性でもある反応性官能基で終端していてもよい。図3の構造Kは、SNHSまたはENHSで終端している2官能性生分解性ポリマーまたはオリゴマーを示す。オリゴマーおよびポリマーは、水に不溶であるポリ(乳酸)などのポリ(ヒドロキシ酸)で作製してもよい。しかし、これらのオリゴマーまたはポリマーの末端カルボン酸基は、N−ヒドロキシスルホスクシンイミドエステル(「SNHS」)またはN−ヒドロキシエトキシ化スクシンイミドエステル(「ENHS」)で活性化することができる。スルホン酸の金属塩(ナトリウム塩など)のようなイオン性基またはスクシンイミド環上のポリエチレンオキシドのような非イオン性基は水溶性をもたらすのに対し、NHSエステルはアミンに対する化学反応性を提供する。スルホネート基(ナトリウム塩)またはスクシンイミド環上のエトキシ化基は、アミン基に対する反応性を大幅に阻害することなく、オリゴマーまたはポリマーを溶解する。図3の構造L〜Oは、末端SNHSまたはENHS基を有する多分岐状またはグラフト型の構造を表す。コアは、コハク酸無水物やグルタル酸無水物などの無水物と反応させた、糖(キシリトール、エリスリトール)、グリセロール、および/またはトリメチロールプロパンのような様々な無毒性ポリヒドロキシ化合物を含むことができる。次いで得られた酸基をSNHSまたはENHS基で活性化して、水溶性架橋剤または官能性ポリマーを形成した。
【0123】
図4は、生分解性ではない様々な求核官能性ポリマーまたは架橋剤を例示する。求核官能基は、
【0124】
【化9】

によって表すことができ、不活性水溶性コアは、
【0125】
【化10】

によって表すことができる。架橋剤の場合、中心コアは水溶性小分子であってよく、官能性ポリマーの場合、中心コアは、天然または合成由来の水溶性ポリマーであってよい。図4の構造Pが官能性ポリマーの場合、このポリマーは、第1級アミンやチオールなどの反応性末端基で終端しているポリエチレングリコールなどの水溶性線状ポリマーであってよい。そのようなポリマーには、Sigma(Milwaukee、WI)およびShearwater Polymers(Huntsville、AL)から市販されているものが含まれる。いくつかのその他の適切な2官能性ポリマーには、アミン基で終端されたPLURONIC F68などのPPO−PEO−PPOブロックコポリマーが含まれる。PLURONICまたはTETRONICポリマーは、末端ヒドロキシル基に利用可能である。ヒドロキシル基は、当業者の範囲内の方法によって、アミン基に変換されてもよい。図4の構造Q〜Tは、末端アミン基を有する多官能性グラフトまたは分岐型水溶性コポリマーであってよい、官能性ポリマーを含む。図4の構造P〜Tは、ポリマーコアを有する必要がなく、小分子架橋剤であってもよい。その場合、コアは、結果的に架橋剤が形成されるように、エトキシ化グリセロール、イノシトール、トリメチロールプロパン、ジリシンなどのような小分子を含んでよい。低い組織毒性、水溶性、および求電子官能基との反応性といった性質が維持される限り、図4の構造P〜Tのコアおよび末端求核官能基のその他の変形例を用いることができる。
【0126】
図5は、生分解性ではない様々な求電子官能性ポリマーまたは架橋剤を例示する。求電子官能基は、
【0127】
【化11】

によって表され、不活性水溶性コアは、
【0128】
【化12】

によって表される。架橋剤の場合、中心コアは水溶性小分子であってよく、官能性ポリマーの場合、中心コアは、天然または合成由来の水溶性ポリマーであってよい。構造Uが官能性ポリマーの場合、このポリマーは、NHSやエポキシドなどの、ポリエチレングリコール終端反応性末端基などの水溶性ポリマーであってよい。そのようなポリマーには、SigmaおよびShearwater Polymersから市販されているものが含まれる。いくつかのその他の適切なポリマーには、NHSまたはSNHS基で終端しているPLURONIC F68などのPPO−PEO−PPOブロックコポリマーが含まれる。上述のように、PLURONICまたはTETRONICポリマーは、末端ヒドロキシ基を有するものが利用可能であってもよい。ヒドロキシル基は、コハク酸無水物と反応させることによって、酸基に変換されてもよい。末端酸基は、DCCの存在下でN−ヒドロキシスクシンイミドと反応して、NHS活性化PLURONICポリマーを生成してもよい。構造V〜Yが官能性ポリマーの場合、このポリマーは、NHSなどの末端反応基で活性化された、多官能性グラフトまたは分岐型のPEOまたはPEOブロックコポリマー(TETRONICS)でよい。図5の構造U〜Yは、ポリマーコアを有する必要がなく、小分子架橋剤であってもよい。その場合、コアは、結果的に架橋剤が形成されるように、エトキシ化グリセロール、テトラグリセロール、ヘキサグリセロール、イノシトール、トリメチロールプロパン、ジリシンなどのような小分子を含んでよい。低い組織毒性、水溶性、および求電子官能基との反応性といった性質を維持できる限り、図5の構造U〜Yのコアおよび末端求核官能基のその他の変形例を用いることができる。
【0129】
図1〜5の構造A〜Yの調製
図1〜5で構造A〜Yとして例示されるポリマー架橋剤および官能性ポリマーは、様々な合成方法を使用して調製することができる。例示的な組成物には、表1に記載されるものが含まれる。
【0130】
【表1−1】

【0131】
【表1−2】

【0132】
【表1−3】

【0133】
【表1−4】

【表1−5】

まず、図1および2の構造A〜Jの生分解性結合は、コラゲナーゼなどの酵素によって認識され切断され得る特定の、二官能性または多官能性合成アミノ酸配列からなるものでよく、ペプチド合成分野の当業者の範囲内の方法を使用して、合成することができる。例えば、図1の構造A〜Eは、適切なペプチド配列を構築するための出発材料として、カルボキシル、アミン、またはヒドロキシ末端ポリエチレングリコールを最初に使用することによって、得ることができる。ペプチド配列の末端は、コハク酸無水物と適切なアミノ酸とを反応させることによって、カルボン酸に変換することができる。生成した酸基は、N−ヒドロキシスクシンイミドとの反応によって、NHSエステルに変換することができる。
【0134】
図2に記載される官能性ポリマーは、様々な合成方法を使用して調製することができる。ある実施形態において、構造Fとして示されるポリマーは、2−エチルへキサン酸第1スズなどの適切な触媒の存在下、PLURONIC F68などのジヒドロキシ化合物により開始される環状ラクトンまたはカーボネートの開環重合によって、得ることができる。カプロラクトンとPLURONICとのモル当量比は、水溶性が維持されるよう低分子量鎖伸長生成物を得るために、10よりも低く維持される。得られたコポリマーの末端ヒドロキシル基は、当業者の範囲内の方法によって、アミンまたはチオールに変換することができる。
【0135】
ある実施形態において、PLURONIC−カプロラクトンコポリマーのヒドロキシル基は、塩化トレシルを使用して活性化することができる。次いで活性化した基をリシンと反応させて、リシン末端PLURONIC−カプロラクトンコポリマーを生成することができる。あるいは、アミンブロックリシン誘導体を、PLURONIC−カプロラクトンコポリマーのヒドロキシル基と反応させ、次いでアミン基を、適切な脱ブロック反応を使用して再生することができる。図2の構造G、H、I、およびJは、オリゴヒドロキシ酸で伸長され、アミンまたはチオール基で終端している、水溶性コアを有する多官能性分岐状またはグラフト型のコポリマーであってよい。
【0136】
例えば、ある実施形態において、図2の構造Gとして例示される官能性ポリマーは、オクタン酸第1スズなどの適切な触媒の存在下、4アームテトラヒドロキシポリエチレングリコール(分子量10,000Da)などのテトラヒドロキシ化合物によって開始される、環状ラクトンまたはカーボネートの開環重合によって得ることができる。環状ラクトンまたはカーボネートとPEGとのモル当量比は、低分子量伸長部を得るために、また水溶性を維持するために(環状ラクトンのポリマーは、一般に、PEGほど水溶性はない)、約10よりも低く保たれる。あるいは、生分解性結合としてのヒドロキシ酸は、ペプチド合成分野の当業者の範囲内であるブロック/脱ブロックの化学を使用して、PEG鎖に結合することができる。得られたコポリマーの末端ヒドロキシ基は、当業者の範囲内である様々な反応性基を使用して、活性化することができる。CDI活性化の化学および塩化スルホニル活性化の化学について、参考としてその開示全体が本明細書に援用される米国特許第7,009,056号の図6および7にそれぞれ示す。
【0137】
ある実施形態では、N−ヒドロキシスクシンイミドエステルを、いくつかの方法のいずれかによって合成することができる反応性基として利用してよい。例えば、ヒドロキシル基は、ピリジンまたはトリエチルアミンまたはジメチルアミノピリジン(「DMAP」)などの第3級アミンの存在下、コハク酸無水物などの無水物と反応させることによって、カルボン酸基に変換することができる。グルタル酸無水物、フタル酸無水物、およびマレイン酸無水物などのその他の無水物を使用してもよい。得られた末端カルボキシル基は、ジシクロヘキシルカルボジイミド(「DCC」)の存在下、N−ヒドロキシスクシンイミドと反応させて、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(本明細書では、NHS活性化と呼ぶ)を生成することができる。適切なN−ヒドロキシスクシンイミドエステルを、図6に示す。
【0138】
ある実施形態では、構造Hとして示されるポリマーは、2−エチルヘキサン第1スズなどの触媒の存在下、4官能性ポリエチレングリコール(分子量 約2000Da)などのテトラヒドロキシ化合物によって開始される、グリコリドまたはトリメチレンカーボネートの開環重合によって得られる。グリコリドとPEGとのモル当量比は、低分子量伸長部が得られるように、約2から約10に保持される。得られたコポリマーの末端ヒドロキシ基は、前述のリシンとの反応によって、アミン基に変換することができる。同様の実施形態は、適切な対応するポリオールから開始することによって構造F、G、I、およびJを得るものと類似の合成鎖伸長戦略を使用して得ることができる。
【0139】
図3の構造K、L、M、N、およびOは、様々な合成方法を使用して作製することができる。ある実施形態では、図3の構造Lとして示されるポリマーは、2−エチルヘキサン酸などの触媒の存在下、グリセロールなどのトリヒドロキシ化合物による環状ラクトンの開環重合によって、得ることができる。環状ラクトンとグリセロールとのモル当量比は、2よりも低く保持され、したがって低分子量オリゴマーのみ得られる。低分子量オリゴマーエステルは、水に不溶である。得られたコポリマーの末端ヒドロキシ基は、N−ヒドロキシスルホスクシンイミド基を使用して、活性化することができる。これは、第3級アミンの存在下、コハク酸無水物などの無水物と反応させることによって、ヒドロキシ基をカルボン酸基に変換することにより実現される。得られた末端カルボキシ基は、スルホン化またはエトキシ化したNHSエステルを生成するために、ジシクロヘキシルカルボジイミド(「DCC」)の存在下、N−ヒドロキシスルホスクシンイミドまたはN−ヒドロキシエトキシ化スクシンイミドと反応させてよい。スクシンイミド環上のスルホネートまたはPEO鎖は、オリゴエステルに水溶性をもたらす。
【0140】
前述の方法は、一般に、分子量が1000未満の低分子量多分岐状オリゴエステルだけを可溶化するのに適用される。この方法の別の変形例では、様々な無毒性ポリヒドロキシ化合物、例えばエリスリトールおよび/またはキシリトールなどの糖を、第3級アミンの存在下でコハク酸無水物と反応させることができる。次いでコハク酸エリスリトールの末端カルボキシル基を、N−ヒドロキシスルホスクシンイミドでエステル化することができる(図6)。同様の実施形態は、適切な出発材料から開始することによって構造KおよびM〜Oを得るものと類似の合成戦略を使用して得ることができる。
【0141】
構造P〜Rは、線状(構造P)または2−もしくは3−アーム分岐状PEG(構造Q、R)であってヒドロキシ末端基を有するような適切な出発材料を、リシンと反応させることによって合成することができ、したがってPEGオリゴマーのアームは、アミン末端基でキャップされるようになる。構造Sは、PEG、グリセロール、およびジイソシアネートから、多段階反応を使用して合成することができる。第1のステップでは、PEGジオールを、4,4’ジフェニルメタンジイソシアネート(「MDI」)、メチレン−ビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)(「HMDI」)、またはヘキサメチレンジイソシアネート(「HDI」)などの過剰なジイソシアネートと反応させてよい。精製後、得られたPEGジイソシアネートを1滴ずつ、過剰なグリセロール、またはトリメチロールプロパン、またはその他のトリオールに添加し、完全に反応させる。ここでジオール末端基を有している精製された生成物を、再び過剰なジイソシアネートと反応させ、精製することにより、PEG−テトラ−イソシアネートが得られる。この4官能性PEGを、引き続き過剰なPEGジオールと反応させることにより、PEGジオールオリゴマーから合成された4アームPEGが得られる。最終ステップでは、リシン末端基を前述のように組み込むことができる。
【0142】
構造Tは、下記のように合成することができる。最終的なポリアクリレートが水溶性になるように、PEG−モノアクリレートおよびいくつかのその他のアクリレートまたはアクリレートの組合せのランダムコポリマーを合成することができる。その他のアクリレートには、限定するものではないが、2−ヒドロキシエチルアクリレート、アクリル酸、およびアクリルアミドが含まれる。所望に応じ、分子量を制御するために、条件を変えることができる。最終ステップでは、所望のアミノ化度を実現するのに適した量を使用して、アクリレートを、先に論じたようにリシンと反応させることができる。
【0143】
構造U〜Yを合成する1つの方法は、カルボキシレート末端基にカップリングするジシクロヘキシルカルボジイミドを使用することである。構造U〜Wでは、すべての末端基が効果的にカルボキシル化するように、適切なPEG−ジオール、−トリオール、または−テトラ−ヒドロキシ出発材料を、過剰のコハク酸無水物またはグルタル酸無水物と反応させることができる。構造XおよびYは、構造SおよびTで使用されるものと同様の手法で、ここで、例外として最後のステップではリシンによる末端キャップの代わりに、コハク酸無水物またはグルタル酸無水物による末端キャップを行う手法で、作製することができる。
【0144】
生体適合性ポリマーの調製
いくつかの生体適合性架橋ヒドロゲルは、図1から5に記載される架橋剤および官能性ポリマーを使用して、生成することができる。そのような生体適合性架橋ポリマーを生成するための、そのようなポリマーの例示的な組合せを表2に記載する。表2において、架橋剤官能基は、N−ヒドロキシスクシンイミドエステルを含み、官能性ポリマー官能基は、第1級アミンを含む。
【0145】
【表2】

架橋するための反応条件は、官能基の性質に依存する可能性がある。例示的な反応は、約5から約12のpHの緩衝水溶液中で実施することができる。適切な緩衝液は、ホウ酸ナトリウム緩衝液(pH約10)およびトリエタノールアミン緩衝液(pH約7)を含む。pHが高いと、求電子−求核反応の速度が増大する。いくつかの実施形態では、エタノールやイソプロパノールなどの有機溶媒を添加して、反応速度を増大させまたは所与の配合物の粘度を調節することができる。
【0146】
本明細書に記述される合成架橋ゲルの多くは、特にポリマー中の孤立エステルの加水分解による生分解性領域の加水分解が原因で分解する。合成ペプチド配列を含有するゲルの分解は、ペプチドを分解することが可能な特定の酵素およびその濃度に依存することになる。いくつかの場合には、分解プロセスを加速させるために、架橋反応中に特定の酵素を添加してもよい。
【0147】
架橋剤および官能性ポリマーが合成のものである場合(例えば、ポリアルキレンオキシドをベースにする場合)、等モル量の反応体を使用することが望ましいことがある。場合によっては、モル過剰の架橋剤を添加して、官能基の加水分解に起因する反応などの副反応を補償してもよい。
【0148】
架橋剤および架橋性ポリマーを選択するとき、得られる生体適合性架橋ポリマーが生分解性であることが望まれる場合、前駆体の少なくとも1種は分子当たり2個を超える官能基と少なくとも1つの分解性領域とを有するべきである。例えば、図1の構造Aに示される2官能性架橋剤は、図2の構造Fまたは図4の構造Pとして示される2官能性ポリマーを有する架橋網状構造から得ることはできない。一般に、各生体適合性架橋ポリマー前駆体は、2個を超える、いくつかの実施形態では4個以上の官能基を有することが望ましい可能性がある。
【0149】
ある実施形態では、架橋剤は、n個の架橋剤官能基を有してよく、ここで、nは2以上であり、合成官能性ポリマーは、m個の官能性ポリマー官能基を有してよく、ここで、mは2個以上であり、nとmの合計は5以上である。このように、前駆体の1種が2個の官能基を有する場合、その他の前駆体は、少なくとも3個の官能基を有すべきである。その他の実施形態では、官能性ポリマー官能基が求核性である場合、架橋剤官能基は求電子性でよく、官能性ポリマー官能基が求電子性である場合、架橋剤官能基は求核性でよい。このように、ある実施形態では、架橋剤官能基は官能性ポリマー官能基と異なってもよい。
【0150】
適切な求電子官能基には、NHS、SNHS、およびENHSが含まれる(図6)。適切な求核官能基には、第1級アミンが含まれる。NHS−アミン反応の利点は、反応動態によって、通常は約10分以内で、ある実施形態では約1分以内で、その他の実施形態では約10秒以内で素早いゲル化がもたらされることである。この素早いゲル化は、生きている組織の上または内部でのその場で反応に望ましいことがある。
【0151】
NHS−アミン架橋反応は、副生成物としてN−ヒドロキシスクシンイミドの形成をもたらす。N−ヒドロキシスクシンイミドのスルホン化またはエトキシ化形態は、その高い水溶性により、したがって身体からのその素早い消失によって、望ましいことがある。スクシンイミド環上のスルホン酸塩は、第1級アミンを有するNHS基の反応性を変化させない。
【0152】
NHS−アミン架橋反応は、水溶液中でかつ緩衝液の存在下で実施することができる。適切な緩衝液には、リン酸緩衝液(pH5〜7.5)、トリエタノールアミン緩衝液(pH7.5〜9)、ホウ酸緩衝液(pH9〜12)、および重炭酸ナトリウム緩衝液(pH9〜10)が含まれる。NHSをベースにした架橋剤および官能性ポリマーの水溶液は、NHS基と水とが反応するので、架橋反応の直前に作製すればよい。より長い「ポットライフ」は、これらの溶液をより低いpH(pH4〜5)に維持することによって得ることができる。得られた生体適合性架橋ポリマーの架橋密度は、架橋剤および官能性ポリマーの全分子量と、1分子当たりに利用可能な官能基の数とによって、制御することができる。600などのより低い架橋間分子量は、10,000などのより高い分子量に比べてより高い架橋密度を与えることになる。より高い分子量の官能性ポリマーが望ましいことがあり、ある実施形態では、弾性ゲルが得られるように約3000超の分子量を有している。架橋密度は、架橋剤および官能性ポリマー溶液の固形分の全パーセントによって制御してもよい。固形分%を増大させると、加水分解による不活性化の前に、求電子官能基が求核官能基と結合する可能性が高くなる。架橋密度を制御するさらに別の方法は、求核官能基と求電子官能基との化学量論比を調節することによる。1対1の比は、最も高い架橋密度をもたらす。
【0153】
ある実施形態では、ヒドロゲルでもよい本開示の生体適合性架橋ポリマー中の固形分濃度は、約8重量%から約20重量%でよい。
【0154】
天然ポリマー、例えばタンパク質またはグリコサミノグリカン、例えばコラーゲン、フィブリノゲン、アルブミン、およびフィブリンは、求電子官能基を有する反応性前駆体種を使用して、架橋することができる。天然ポリマーは、体内に存在するプロテアーゼによるタンパク質分解によって、分解される可能性がある。合成ポリマーおよび反応性前駆体種が望ましいことがあるが、カルボジイミダゾール、塩化スルホニル、クロロカーボネート、n−ヒドロキシスクシンイミジルエステル、スクシンイミジルエステル、またはスルホスクシンイミジルエステルを含む求電子官能基を有する可能性がある。合成という用語は、自然では見られない分子、例えばポリエチレングリコールを意味する。求核官能基は、例えばアミン、ヒドロキシル、カルボキシル、およびチオールでよい。ポリマーは、ポリエチレングリコールを含めたポリアルキレングリコール部分を有してもよい。ポリマーは、加水分解によって生分解可能な部分または結合、例えばエステル、カーボネート、またはアミド結合を有してもよい。いくつかのそのような結合は、当業者の範囲内であり、α−ヒドロキシ酸、その環状ダイマー、または、グリコリド、ジ−ラクチド、l−ラクチド、カプロラクトン、ジオキサノン、トリメチレンカーボネート、もしくはこれらのコポリマーなどの生分解性物質の合成に使用されるその他の化学種由来である。別の実施形態は、それぞれ2から10個の求核官能基を含む反応性前駆体種と、それぞれ2から10個の求電子官能基を含む反応性前駆体種を有する。親水性種は、合成分子であってもよい。
【0155】
ある実施形態では、生体適合性架橋ポリマーは、求電子官能基および求核官能基を有する前駆体の反応から形成することができる。前駆体は、水溶性、無毒性、および生物学的に許容されるものであってよい。ある実施形態において、前駆体の少なくとも1種は、約2000Da以下、または約1000Da以下の分子量を有する小分子であり、「架橋剤」と呼ぶことがある。架橋剤は、水溶液中で少なくとも1g/100mLの溶解度を有してよい。架橋分子は、イオンもしくは共有結合、物理的な力、またはその他の誘引力を介して架橋することができる。その他の前駆体の少なくとも1種は、高分子でよく、「官能性ポリマー」と呼ぶことができる。官能性ポリマーは、架橋剤と一緒に反応する場合、その分子量が、小分子架橋剤の少なくとも約5から約50倍であり、かついくつかの実施形態では約60,000Da未満になる可能性がある。その他の実施形態では、官能性ポリマーは、その分子量が架橋剤の約7から約30倍である可能性があり、さらにその他の実施形態では、官能性ポリマーは、その分子量が架橋剤の約10から約20倍である可能性がある。いくつかの実施形態では、官能性ポリマーの分子量は、架橋剤の少なくとも7倍である可能性がある。
【0156】
いくつかの実施形態では、本開示の組成物は、約2000未満の架橋前分子量を有する架橋済み合成架橋剤分子を含んだ少なくとも1つの生体適合性架橋剤領域を、架橋前架橋剤分子の分子量の約7倍超である架橋前分子量を有する架橋済み合成ポリマー分子を有する少なくとも1つの生体適合性官能性ポリマー領域と、組み合わせて含んでよい。そのような実施形態では、架橋剤および官能性ポリマーは、組織内、例えばポリープの粘膜下組織内で反応して、架橋剤領域と官能性ポリマー領域との間に少なくとも3つの結合を有する生体適合性架橋ポリマーヒドロゲルを形成することができる。架橋剤領域と官能性ポリマー領域との間の結合は、前駆体、即ち架橋剤または官能性ポリマーの一方から得た少なくとも1個の求電子官能基と、その他の前駆体上の少なくとも1個の求核官能基との反応生成物であってよい。
【0157】
さらに、特定の範囲に限定するものではないが、生体適合性架橋ポリマーヒドロゲルは、約5,000から約50,000の分子量、ある実施形態では約7,000から約40,000の分子量、その他の実施形態では約10,000から約20,000の分子量を有することができる。本明細書で使用されるポリマーという用語は、少なくとも3個の反復基で形成された分子を含む。「反応性前駆体種」という用語には、架橋分子の網状構造、例えばヒドロゲルを形成する反応に寄与することができる、ポリマー、官能性ポリマー、高分子、小分子、または架橋剤が含まれる。
【0158】
生分解性架橋タンパク質の調製
架橋ポリマー網状構造を生成するために、図1および3に記載される生分解性架橋剤をアルブミン、その他の血清タンパク質、または血清濃縮物などのタンパク質と反応させることができる。簡単に言うと、図1および図3に記載される架橋剤の水溶液(約50から約300mg/mlの濃度)を、アルブミンの濃縮溶液(約600mg/ml)と混合して、架橋ヒドロゲルを生成することができる。この反応は、緩衝剤、例えばホウ酸緩衝液またはトリエタノールアミンが架橋ステップ中に添加される場合、加速することができる。
【0159】
得られた架橋ヒドロゲルは、その分解が架橋剤中の分解性セグメントならびに酵素によるアルブミン分解に依存する半合成ヒドロゲルである。いかなる分解性酵素も存在しない場合、架橋ポリマーは、生分解性セグメントの加水分解のみによって分解することになる。ポリグリコレートを生分解性セグメントとして使用する場合、架橋ポリマーは、網状構造の架橋密度に応じて、1〜30日で分解することになる。同様に、ポリカプロラクトンをベースにした架橋網状構造は、1〜8カ月で分解することになる。分解時間は、一般に、下記の順序で、即ちポリグリコレート<ポリラクテート<ポリトリメチレンカーボネート<ポリカプロラクトンの順序で、使用される分解性セグメントに応じて異なる。このように、適正な分解性セグメントを使用して、数日から数カ月にわたり所望の分解プロファイルを有するヒドロゲルを構成することが可能である。
【0160】
オリゴヒドロキシ酸ブロックなどの生分解性ブロックによって発生した疎水性、またはPLURONICもしくはTETRONICポリマー中のPPOブロックの疎水性は、小有機薬物分子を溶解するのに役立てることができる。生分解性または疎水性ブロックの組込みによって影響を受ける可能性があるその他の性質には、吸水性、機械的性質、および熱感受性が含まれる。
【0161】
生体適合性ポリマーの使用方法
上述の生体適合性架橋ポリマーおよびその前駆体は、参考としてそのそれぞれの開示全体が本明細書に援用される米国特許第7,332,566号および第6,566,406号に開示されたものも含めた様々な適用例で、使用することができる。ある実施形態では、本開示の組成物は、動物からポリープを除去するのに利用することができる。
【0162】
これらの手法のいくつかによって、ポリマーを溶液として患者に「その場で」添加し、次いで患者の内部で化学反応させ、ポリマーが共有結合架橋をしてポリマー網状構造を形成させることが可能になる。その場で行われる手法により、ポリマーは、例えば米国特許第5,410,016号、第5,573,934号、および第5,626,863号に記載されるように、体内の組織の形状に密接に順応するよう形成される。
【0163】
多くの適用例で、生体適合性架橋ポリマーは、体内の手術部位で「その場」で形成することができる。フィブリン糊や封止剤適用例などその他の接着剤または封止剤系を目的に開発された、「その場」でのゲル化を行うための様々な方法および機器は、一般に、生体適合性架橋ポリマーと共に適切に使用することができる。このように、一実施形態では、新たに調製された架橋剤(例えば、pH5から7.2のリン酸緩衝生理食塩液(「PBS」)中のグリセロールコアから合成された、SNHS末端オリゴラクチド)および官能性ポリマー(例えば、ホウ酸ナトリウム中、pH10のアルブミンまたはアミン末端4官能性ポリエチレングリコール)の水溶液を、2重バレルシリンジ(溶液ごとに1つのシリンジ)を使用して組織上に付着させ混合することができる。2種の溶液は、同時にまたは順次付着させることができる。いくつかの実施形態では、組織が「プライム処理(prime)」されるよう、前駆体溶液を順次付着させ、それによって生体適合性架橋ポリマーと組織との改善された接着性が得られることが望ましいことがある。組織がプライム処理される場合、架橋剤前駆体が最初に組織に付着され、その後、官能性ポリマー溶液を付着させることができる。
【0164】
その場での形成プロセスは、例えば、コーティング、接着防止バリヤ、組織接着剤、薬物送達用マトリックス、創傷包帯、インプラント、および組織工学マトリックスを作製するのに使用してよい。いくつかの実施形態では、組成物を、ポリープまたはポリープに隣接する粘膜下組織に導入して、ポリープの除去を促進することができる。明白に開示された内容と矛盾しない程度まで、参考としてそのそれぞれの開示全体が本明細書に援用される米国特許第4,874,368号、第4,631,055号、第4,735,616号、第4,359,049号、第4,978,336号、第5,116,315号、第4,902,281号、第4,932,942号、国際公開公報WO91/09641号、およびR.A.Tange、「Fibrin Sealant」Operative Medicine: Otolaryngology、第1巻(1986年)に記載されているものも含めた、前駆体溶液を付着させる専用デバイスを使用してよい。
【0165】
上述のように、ある実施形態では、本開示の組成物を、ポリープを除去するための補助剤として利用することができる。これらの組成物および/または前駆体を、ポリープまたは1つもしくは複数のポリープの粘膜下組織に注入することによって事前調整がなされたポリープは、例えば、患者の体内に導入するとゲル化しもしくはより粘度が高くなり、かつ/または係蹄中もしくはピースミールポリペクトミー術(piecemeal polypectomy)の過程で粘膜下組織が破れた場合にポリープを容易に逃がさない組成物でポリープを隆起させることによって、ポリープ切除の利益を高めることができる。そのような事前調整はさらに、ポリープの提示を改善、切除中の把持および/または係蹄をより容易にすることができる。
【0166】
さらに、本開示による治療レジメンは、1つまたは複数のポリープによって遮断された通路を改善することができ、かつ/または癌性病変へと発達する性向を有する組織の除去を促進させることができる。粘膜表面からポリープを隆起させるのに利用される組成物を、1つまたは複数のポリープの粘膜下組織に注入し、その場で架橋させ、それによってゲルを形成することができる。その他の実施形態では、官能化ポリマーおよび架橋剤を、上述のように1つまたは複数のポリープの粘膜下組織に導入することができ、その場で架橋させ、本開示の組成物を形成する。ポリープ内で、本開示の組成物を形成することにより、ポリープを保持する組織、例えばいくつかの実施形態では結腸壁から、ポリープを高く持ち上げることができる。ポリープを組織から高く持ち上げたら、当業者の範囲内にある任意の方法を利用して、ポリープを除去することができる。いくつかの実施形態では、係蹄を利用して、ポリープを除去することができる。ポリープのサイズおよびその位置に応じて、いくつかの実施形態では、ポリープを係蹄により細切れで除去することが望ましいことがある。ポリープの一部が除去されるとき、ヒドロゲルである本開示の組成物は、ポリープの残りの部分から逃げず、ポリープの残りの部分は、拡張して組織表面から隆起したままである。次いで、本開示による組成物を実質的に粘膜下組織にかつポリープ内にある程度まで残した状態で、1つまたは複数のポリープを除去することにより、治療を続けることができる。組成物での可視化剤の使用は、ポリープおよび/または粘膜下組織内での組成物の滞留を確認するのに利用することができる。
【0167】
組成物の送達
本開示によれば、当業者の範囲内にある任意の送達デバイスを利用して、本開示の生体適合性架橋ポリマーおよび/またはその前駆体を、ポリープに導入することができる。ある実施形態では、カニューレまたはマルチルーメンカニューレを利用してよい。
【0168】
ルーメンは、1種または複数の薬剤、薬物、血液、医療機器、ガイドワイヤ、ポリープ切除術での使用に適したスネア、電気焼灼器、針、光ファイバ、光ファイバ撮像装置、光ファイバ診断プローブ、およびこれらの組合せなどを含むがこれらに限定することのない、任意の適切な物品および/またはデバイスを、収容し通過させることができる。上述のように、いくつかの実施形態では、本開示の組成物をその場で形成することができ、したがって1つのルーメンは、上述の官能化ポリマーを導入するのに利用することができ、一方、第2のルーメンは、上述の架橋剤を導入するのに利用することができる。
【0169】
ある実施形態では、適切なマルチルーメンカニューレは、2重ルーメンカニューレでよい。2重ルーメンカニューレは、当業者の範囲内の任意の構成を有してよい。例えば、いくつかの実施形態では、カニューレの複数のルーメンを密接に並べて配置する、チューブの水平分割部を有する単一チューブを利用してよい。
【0170】
その他の実施形態では、同軸2重ルーメンカニューレを利用してよい。そのようなカニューレは、一方が他方の内部に配置されている同心ルーメンを有していてもよい。
【0171】
本開示によるカニューレは、任意の適切な長さのものでよく、ある実施形態では約1mから約2.5mの長さであり、その他の実施形態では約1.25mから約2.3mの長さである。
【0172】
カニューレは、従来の結腸鏡を通して、患者の体内に導入することができる。本開示のカニューレは、当業者の範囲内にある任意の材料で構成することができるが、ある実施形態では、本開示のカニューレは、ステンレス鋼やチタンなどの比較的軟質医療級プラスチックまたは金属で構成することができる。利用することができる具体的な合成材料には、限定するものではないが、ポリテトラフルオロエチレンを含めたフルオロポリマー、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、高密度ポリエチレン、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート、シリコーン、およびこれらの組合せなどを含めることができる。
【0173】
ある実施形態では、カニューレの1つのルーメンの末端に針を取り付けることによって、ポリープ切除中の粘膜壁へのまたはポリープ内への、まだ架橋していない官能化ポリマー、架橋剤、または本開示の組成物の導入を促進させることができる。
【0174】
上述のように、ある実施形態では、カニューレを利用して、内視鏡的ポリープ切除で使用される組成物を導入することができる。組成物を、1つまたは複数のポリープの粘膜下組織に施用することにより、ポリープの提示を改善することができ、またスネアなどの内視鏡器具でポリープをより容易に捕捉することも可能になる。例えば本開示の組成物および/またはその前駆体を、ポリープの粘膜下組織に注入して、その提示を改善することができる。
【0175】
本開示による、粘膜表面からポリープを隆起させるのに利用される組成物の、様々な構成成分は、ポリープ、またはヒトもしくはその他の哺乳類のその他の組織に適用される製品を形成するために、数多くの成分と組み合わせることができる。そのような製品は、医薬品として許容される担体もしくは希釈剤、ビヒクルまたは媒体、例えば、適用されることになる組織に対して適合性のある担体、ビヒクル、または媒体を含んでよい。本明細書で使用される「皮膚科学的にまたは医薬品として許容される」という用語は、組成物またはその構成成分が、一般に、過度の毒性、不適合性、不安定性、およびアレルギー応答なしで、組織と接触して使用するのにまたは患者に使用するのに適切であり得ることを意味する。
【0176】
上述のように、本開示の組成物は、冒された領域を治療するのに十分な量で、ポリープの粘膜下組織に注入することができる。本明細書で使用される「治療する(treat)」、「治療している(treating)」、または「治療(treatment)」という用語は、本開示の活性成分および/または組成物を、任意選択で、あらゆる望ましくない状態の発生を予防的に防止しまたは既存の望ましくない状態を治療的に改善する活性成分と組み合わせて、使用することを指す。望ましくない状態を低減しかつ/またはなくす、いくつかの異なる治療が、現在可能であり得る。
【0177】
本明細書で使用される「望ましくない状態」は、ポリープまたはその除去によって引き起こされた、任意の検出可能な組織の徴候を指す。そのような徴候は、例えば外傷および/またはその他の疾患もしくは機能不全状態などの、いくつかの要因に起因して現れる可能性がある。そのような徴候の非限定的な例には、出血、癌、炎症、薄片剥離、および/またはその他の形態の組織異常、ならびにこれらの組合せの発生が含まれる。列挙される望ましくない状態は非限定的であること、および本開示による治療に適した状態の一部のみが本明細書に列挙されることが、理解される。
【0178】
上述のように、ある実施形態では、ポリープの粘膜下組織および/またはポリープに導入された組成物は、望ましくない状態を改善するのに有効な量で、1種または複数の活性成分を含有することができる。本明細書で使用される「活性成分」には、限定するものではないが、トロンビンなどの酵素、エピネフリン、ノルエピネフリン、アンギオテンシンまたはバソプレッシンなどの血管収縮剤、フルオロウラシル(5−FU)などの化学療法剤、およびこれらの活性薬剤の組合せが含まれる。本明細書で使用される「有効な量」は、ポリープまたはそれに隣接した組織に特定のポジティブな利益を誘発させるのに十分な量を有する、化合物または組織の量を指す。ポジティブな利益は、健康に関連するものであってよい。ある実施形態では、ポジティブな利益は、組織と凝固タンパク質とを接触させて、切除組織の凝固および閉鎖が促進することによって実現することができる。その他の実施形態では、ポジティブな利益は、組織と血管収縮剤とを接触させて、出血を減少させることによって、実現することができる。さらにその他の実施形態では、ポジティブな利益は、組織と化学療法剤とを接触させて、癌性細胞を死滅させることによって、実現することができる。
【0179】
当業者が、本明細書に記述される組成物および方法をより良く実施できるようにするために、以下の実施例を、本発明の組成物の調製およびその使用方法の例示として記載する。この開示は、実施例に具体化された特定の詳細に限定するものではないことに、留意すべきである。
【実施例】
【0180】
以下の非限定的な実施例は、新しい生体適合性架橋ポリマーおよびそれらの前駆体、ならびにいくつかの医薬品を製造する際におけるそれらの使用を説明することを意図する。本開示に含まれることを意図する変更をこれらの実施例、図面、説明および請求項に加えることができることを当業者なら理解するであろう。
【0181】
材料および装置
ポリエチレングリコールはShearwater Polymers社、Union Carbide社、Fluka社およびPolysciences社などの様々な供給源から購入した。多官能性ヒドロキシルおよびアミン末端ポリエチレングリコールはShearwater Polymers社、Dow Chemicals社およびTexaco社から購入した。PLURONIC(登録商標)およびTETRONIC(登録商標)シリーズのポリオールはBASF Corporation社から購入した。DL−ラクチド、グリコリド、カプロラクトンおよびトリメチレンカーボネートはPurac社、DuPont社、Polysciences社、Aldrich社、Fluka社、Medisorb社、Wako社およびBoehringer Ingelheim社のような商業的供給源から入手した。N−ヒドロキシスルホスクシンイミドはPierce社から購入した。すべての他の試薬、溶媒は、試薬グレードであり、Polysciences社、Fluka社、Aldrich社およびSigma社などの商業的供給源から購入した。D. D. Perrinら、Purification of Laboratory Chemicals (Pergamon Press 1980年)に記載されているような標準的な実験手順を用いて、それらの試薬および溶媒の多くを精製および乾燥した。
【0182】
一般的分析
これらの実施例に従って合成されたポリマーを、核(プロトンおよび炭素13)磁気共鳴分析法、赤外分光法などの構造決定法を用いて化学的に分析した。分子量を、高圧液体クロマトグラフィーおよびゲル透過クロマトグラフィーを用いて測定した。融点およびガラス転移温度を含むポリマーの熱特性決定を、示差走査熱分析を用いて実施した。ミセルおよびゲル形成などの水溶液特性を、蛍光分光法、UV可視分光法および光散乱測定器を用いて測定した。
【0183】
ポリマーのインビトロ分解をリン酸緩衝食塩水(pH7.2)などの水性緩衝媒体において37℃での重力測定により追跡した。ゲル化製剤をラットまたはウサギの腹腔内に直接注入または形成し、2日から12カ月の期間にわたってその分解を観察することによって、インビボでの生体適合性および分解存続期間を評価した。
【0184】
あるいは、溶液鋳造(solution casting)のような方法で製造される無菌インプラントを予め作製し、次いで動物体内にインプラントを外科的に移植することによって分解の評価も行った。経時的なインプラントの分解を重量測定または化学分析によって監視した。インプラントの生体適合性を標準的な組織学的技術によって評価した。
【0185】
本明細書に記載されている一部の実施形態についての方法および手順のいくつかの態様は、それが明確に開示されていることと矛盾しない程度に、その開示内容全体が参考として本明細書に援用される共有された米国特許第7,009,034号に詳細に規定および記載されている。これらの方法および手順のいくつかは、ポリエチレンオキシドコポリマーに基づく水溶性2官能性生分解性官能性ポリマーの合成、アミン末端合成生分解性架橋性ポリマーの合成、N−ヒドロキシスルホスクシンイミドで活性化されたカルボキシ末端オリゴ乳酸ポリマーの合成、ポリエチレングリコールをベースとする4官能性架橋剤の調製、塩化スルホニル活性化架橋剤の合成、多官能性オリゴポリカプロラクトンの合成、N−ヒドロキシスクシンイミドを末端とするポリエチレングリコール−co−ポリトリメチレンカーボネートコポリマーの調製、N−ヒドロキシスルホスクシンイミドESで活性化されたコハク酸ポリヒドロキシ化合物の合成、複合合成架橋有色生分解性ゲルの調製、溶液における着色剤の安定性の評価、その場での架橋ヒドロゲルコーティングに使用するための着色剤の濃度、着色剤のゲル化時間に対する影響を含む。
【0186】
(実施例1)
合成架橋生分解性ゲルの調製
1.57g(0.8mM)の4アームアミン末端ポリエチレングリコール(分子量2000)をpH9.5の10mlの0.1Mホウ酸ナトリウム緩衝液に溶解させた。2gの4アームスクシンイミジルエステル活性化ポリマー(4PEG2KGS、分子量2500)をリン酸緩衝食塩水に溶解させた。これらの2つの溶液を混合して、架橋ゲルを得た。この方法の別の変形形態において、4PEG2KGSポリマー固形物をアミン末端ポリマー溶液に直接添加して、架橋ポリマーを得た。
【0187】
別の変形形態において、4アームPEGアミン溶液の代わりにジリシンの等モル溶液からなる架橋剤を使用して、ヒドロゲルを形成することができる。ゲル化は、2つの溶液を混合してから10秒以内に生じることがわかった。架橋反応の前に、上記のアミン末端ポリマー溶液に0.1%のFDおよびC青色または藍色染料を添加した。染料を添加すると、有色ゲルの調製が可能になる。
【0188】
(実施例2)
ジリシンによるSG−PEGの配合
スクシンイミジルグルタレート(SG)末端基を有する4アームPEG(Shearwater Polymers社、約9100g/mol、0.704グラム、6.5×10−5モル)を2.96gの0.01Mリン酸緩衝液(pH4.0)(固形分19.2%)に溶解させた。ジリシン(Sigma社、347.3g/mol、0.03グラム、8.7×10−5モル)を3.64グラムの0.1Mホウ酸緩衝液(pH9.5)(固形分0.8%)に溶解させた。2つの溶液を混合すると、10%の固形分を有するヒドロゲルが形成した。ジリシンは、3つのアミン基を有する。SG−PEGは、4つのNHS基を有する。SG−PEG上の100%未満の置換度に対する補正後、配合物は、アミノ基対NHS基の1:1の化学量論比を示す。
【0189】
(実施例3)
トリリシンとのSG−PEGの配合
SG末端基を有する4アームPEG(Shearwater Polymers社、約9100g/mol、0.675グラム、6.2×10−5モル)を2.82gの0.01Mリン酸緩衝液(pH4.0)(固形分19.3%)に溶解させた。トリリシン(Sigma社、402.5g/mol、0.025グラム、6.2×10−5モル)を3.47グラムの0.1Mホウ酸緩衝液(pH9.5)(固形分0.7%)に溶解させた。2つの溶液を混合すると、10%の固形分を有するヒドロゲルが形成した。トリリシンは、4つのアミン基を有する。SG−PEGは、4つのNHS基を有する。SG−PEG上の100%未満の置換度に対する補正後、配合物は、アミノ基対NHS基の1:1の化学量論比を示す。
【0190】
(実施例4)
テトラリシンとのSG−PEGの配合
SG末端基を有する4アームPEG(Shearwater Polymers社、約9100g/mol、0.640グラム、5.9×10−5モル、本明細書では約10000MWとも記載される)を2.68gの0.01Mリン酸緩衝液(pH4.0)(固形分19.2%)に溶解させた。テトラリシン(Sigma社、530.7g/mol、0.025グラム、4.7×l0−1モル)を3.30グラムの0.1Mホウ酸緩衝液(pH9.5)(固形分0.8%)に溶解させた。2つの溶液を混合すると、10%の固形分を有するヒドロゲルが形成した。テトラリシンは、5つのアミン基を有する。SG−PEGは、4つのNHS基を有する。SG−PEG上の100%未満の置換度に対する補正後、配合物は、アミノ基対NHS基の1:1の化学量論比を示す。
【0191】
(実施例5)
ゲル化時間の測定
アミン溶液(100μL)を100×13試験管に等分した。小形回転子(7×2mm、Fisher Scientific p/n 58948−976)を試験管に入れた。300rpmに設定されたデジタル磁気撹拌機(VWR Series 400S Stirrer)上に試験管を固定した。1ccのツベルクリンシリンジ(Becton Dickinson、p/n BD309602)に100μLのエステル溶液を充填した。シリンジを、遠端がアミン溶液の真上にくるようにフランジまで挿入した。同時に、プランジャを押し下げ、ストップウォッチをスタートさせた。撹拌棒の回転が停止するように溶液が十分に固化すると、ストップウォッチを停止した。各溶液を3回測定し、平均値±1標準偏差をプロットした。実施例2、3および4の配合の結果を図7に示す。
【0192】
(実施例6)
エステル溶液エージの関数としてのゲル化時間の変化
これらのシステムの重要な特性は、エステルのポットライフとも称するエステル溶液の再構成からの経時的な反応性の低下である。この反応性の低下は、活性化分子がそのそれぞれの求核官能基と化合できる前のN−ヒドロキシスクシンイミジルエステルの加水分解によって生じる。NHSエステル溶液の再構成からの時間の関数としてゲル化時間の変化を測定することによって、反応性の低下を特徴づけた。ゲル化時間を定期的に測定した。この測定中NHSエステル溶液を周囲条件で保管した。実施例2、3および4に記載した溶液についての結果を図8に示す。
【0193】
(実施例7)
4アームCM−HBA−NHS PEGおよびLys−Lysからの異なる固形分パーセントにおけるゲル形成
実施例5に記載したゲル化時間法を用いて、4アームPEG(CM−HBA−NHS、図19参照、約10,000MW)(Shearwater Polymers社)およびジリシン(Sigma社)を使用した5つの異なるゲル組成物を製造した。それらの配合物を以下の表3に列挙する。
【0194】
【表3】

配合物を、1対1の比率のCM−HBA−NHS上の求電子官能末端基とジリシン(「Lys−Lys」)上の求核反応基を示すように調整した(3)。CM−HBA−NHS総量を0.01Mリン酸緩衝液(pH5.0)に溶解させた。ジリシンを0.1Mホウ酸緩衝液(pH11)に溶解させた。ゲル化時間の結果を図9に示す。このデータは、より固形分の大きい溶液は反応速度の保持に関しても最も安定していることをも示している。
【0195】
(実施例8)
ヒドロゲルの分解
実施例7のように製造されたヒドロゲルプラグを50mLファルコン管内のpH7.4の0.1Mリン酸緩衝食塩水約25mL中に入れ、37℃の恒温槽内に配置した。ヒドロゲルプラグを定期的な間隔で目視観察し、ゲル消失の時間を記録した。それらのデータを図10にプロットする。
【0196】
(実施例9)
4アームSGおよびジリシンから7.5%の固形分のヒドロゲルを形成するための前駆体噴霧手順
エチレンオキシド滅菌空気支援噴霧器を重合性モノマーの水溶液と併用した。溶液1を、pH4.0の0.01Mリン酸緩衝液に溶解した4アームPEGスクシンイミジルグルタレート(SG−PEG、MW10,000、Shearwater Polymers社から購入)の14.4%溶液から構成し、無菌濾過(Pall Gelmanシリンジフィルタ、p/n4905)し、無菌の5ccシリンジに吸入した。溶液2を、視覚化のための0.5mg/mLのメチレンブルーと共にpH11の0.1Mホウ酸緩衝液に溶解したジリシン(Sigma Chemicals社から購入)の1.2%溶液から構成し、やはり無菌濾過し、無菌の5ccシリンジに吸入した。これらの溶液を、容量ベースで1:1の比率で混合すると、NHSエステルとアミン末端基の比率が1:1になった。混合後の最終固形分%は、7.5%であった。それら2つのシリンジを、ルアーロック型のリンク機構を介して2つの個別の容器に個々に充填した。調節された圧縮空気源(エアブラシ用の商業的に入手可能なものなどの圧縮空気)からの空気流を、1つのTYGON管を使用してデバイスに接続した。シリンジプランジャを圧縮すると、2つの液体成分の一様な噴霧が観察された。この噴霧を組織片(ラット盲腸)に向けると、ヒドロゲルコーティングが組織の表面に形成するのが確認された。このヒドロゲルコーティングを食塩水で濯ぎ(ヒドロゲルコーティングは濯ぎに対する抵抗を有する)、組織表面に十分に接着していることを確認した。短時間(1分未満)で、10cm×5cmの部分を容易にコーティングすることができた。
【0197】
(実施例10)
4アームCM−HBA−NHSおよびジリシンから12.5%の固形分のヒドロゲルを形成するための前駆体噴霧手順
4アームCM−HBA−NS(MW10,000、Shearwater Polymers社から購入)からヒドロゲルバリヤフィルムを製造し、ジリシンを実施例9に記載されているのと同様にして調製および噴霧した。本実施例において、等容量の送達系内で混合すると、NHSとアミン末端基の比率が1:1になって、最終的な固形分%が12.5%になるように、固形分が24.0%の4アームCM−HBA−NHS溶液を製造し、固形分が1.0%までのジリシン溶液を製造した。この配合物は、ヒドロゲルを製造するのに有効であった。
【0198】
(実施例11)
架橋フィルムを形成するための架橋剤およびポリマーの噴霧散布
2つの溶液(成分Aおよび成分B)を調製した。成分Aは、pH9.5の0.1Mホウ酸緩衝液中ジリシンから構成された。成分Bは、pH4.0の0.01Mリン酸緩衝液中4アームSG−PEG(図20)または4アームCM−HBA−NHS(図19)から構成された。これらの溶液を、アミンとエステルの化学量論比が1:1になり、最終的な全溶液濃度がそれぞれ7.5%または12.5%になるように調製した。
【0199】
FIBRIJECT(Micromedics,Inc.社)5ccシリンジホルダおよびキャップを使用し、5ccの各溶液を予め充填し、二重バレル噴霧器に取り付けた。該噴霧器は、予め設定された任意の距離にわたって2つの個別のルーメンを介して2つの液体を送ることを可能にするように2つのシリンジが接続するための2つのハブを有する。噴霧ガスを散布するための第3のハブが存在する。本実施例では空気を使用した。噴霧器の遠端は、ガスが導入管から膨張し、次いで2つのポリマー溶液ノズルのそれぞれの回りの環状空間を通るチャンバを含む。2つの流体流の噴霧化を完了するのに好適な流速(約2L/分)を用いて、ガスを環状空間内で加速させる。したがって、十分に混合された薄い均一のコーティングを表面に塗布することを可能にする2つの重なる噴霧円錐が形成され、AとBの混合物から当該コーティングが得られた。
【0200】
(実施例12)
ラット盲腸モデルにおける癒着防止
外科処置。ケタミン(25mg/ml)、キシラジン(1.3mg/mL)およびアセプロマジン(0.33mg/mL)の筋肉内「カクテル」4ml/kgを用いて、雄のスプラーグドーリーラット(250〜300グラム)に麻酔をかけた。腹部を剃り、無菌手術のための準備処理を施した。正中線切開を行って、腹の内容物を露出させた。盲腸を確認し、腹内の位置を記録した。盲腸を腹から引き出し、乾燥無菌ガーゼを使用して一方の側の表面を擦過した。ガーゼで表面を12回なでることによって一部分を擦過する技術を用いた。損傷した盲腸の全表面部に沿う双極性凝固を用いて、盲腸動脈供給を遮った。
【0201】
損傷した盲腸表面近傍に位置する反対側の腹側壁の腹膜を解剖刀で切除し、下部の筋肉層を出血の点まで削った。
【0202】
先述の実施例に記載した空気支援噴霧法を用いて、盲腸にSG−PEG系またはCM−HBA−NHS系を噴霧した。損傷した(虚血部)側を損傷した側壁に対向させて盲腸を配置した。閉じる前に活発な出血を抑制した。腹膜および筋肉壁を3−0ナイロンで閉じ、皮膚を4−0シルクで閉じた。ラットを1から2週間にわたってそれらのケージに戻し、その間、側壁と盲腸の癒着の評価を記録した。ラットを10日目に殺し、粘着および癒着の程度を評価した。4aSGが図20に示されるSG−PEGを表し、MBがメチレンブルーを表し、4aCMが図19に示されるCM−HBA−NHSを表す表4に結果の概要を示す。
【0203】
【表4】

(実施例13)
低分子量のトリリシンとトリス(2−アミノエチル)アミン(トリス)の分子の混合物を使用したヒドロゲルの分解時間の制御
本実施例は、ヒドロゲルの膨潤、ゲル化時間および分解時間が、様々な量、種類および組合せの低分子量のアミンをヒドロゲルに組み込むことによって制御可能であることを示す。低分子量の前駆体は、MWが約20,000の4アームPEG−SG−NHS(図20)と反応するトリリシン(Bachem社、図11参照)またはトリス(Aldrich社、図12参照)の求核試薬であった。ヒドロゲルのゲル化時間、膨潤および分解をトリスおよびトリリシンの相対量の関数として測定した。求核試薬と求電子試薬の比率を1:1としてpH9.5の緩衝液中9.1%の固形分ですべてのヒドロゲル配合物を製造した。前駆体溶液が充填されたシリンジを、溶液を迅速かつ完全に混合する混合チップ(ASHBY−CROSS、STATOMIX)に接続することによって混合を達成した。
【0204】
図13、14、15、16は、それぞれゲル化時間、膨潤、分解および機械特性試験の結果を示す。トリリシンの量に対してトリスの量が増加すると、予想外にゲル化が加速され、膨潤が増加し、分解速度が加速された。重要なこととして、これらの傾向は、求核試薬の比率を予測し、所望のヒドロゲル特性、例えば所望の分解速度を達成するように選択することができるようにほぼ直線的であった。ゲル化測定を実施例5の方法によって実施した。
【0205】
規定の幾何学構造のゲルを形成し、37℃のリン酸緩衝食塩水(PBS)に浸した時間の関数としてそれらの重量を測定することによって、膨潤の測定を実施した。浸す前にサンプルの重量を測定するか、または浸したサンプルをPBSから取り出し、乾燥タオルでそれらの液体を吸い取り、それらの重量を測定することによって、重量測定を実施した。膨潤%を((最終重量−初期重量)/初期重量)*100で定義した。
【0206】
3ccシリンジ内でゲルプラグを形成し、PBSをシリンジ先端に流してシリンジのプランジャ末端からゲルプラグを追い出し、20mlのPBSが充填され、37℃で保管された50mlの遠心管にプラグを入れ、それらがヒトの眼で見ることができなくなるまで監視することによって、本明細書ではゲルの消失時間の測定とも称する分解試験を実施した。
【0207】
(実施例14)
トリリシンから製造されたヒドロゲルの分解
本実施例では、実施例13に記載した4アームのMW20,000のPEG−SG−NHS前駆体およびトリリシン前駆体から製造されたヒドロゲルの持続時間を評価した。それらの前駆体を混合し、3cc容量のプラスチックシリンジ内でゲル化し、シリンジから押し出し、それぞれ約0.25gの4つの片に分割した。ラットの背中の正中線のそれぞれの側に1つずつ、ブラントジセクションによって各ラットに形成されたポケットに2つの片を皮下挿入した。1つの片を各ポケットに配置した。皮下ポケットを断続的な縫合糸で閉じ、動物を回復させた。予定された時点において、組織サンプルを皮下ポケットから採取し、当業者の認識範囲内の方法による組織学的評価のためにホルマリンで固定した。各時点(4日、1週、2週、3週、4週)において、皮下ポケットを開き、4=固体ゲル:3=緩い押出可能なゲル;2=粘性の液体;1=ゲルなしの評価体系を用いてゲルプラグを評価した。ゲルは、すべての時点において透明であり、試験全体を通じて感染が認められなかった。結果を表5に示す。35日目にゲルが存在することが認められ、35日後はデータを記録しなかった。
【0208】
【表5】

(実施例15)
トリリシンまたはトリスから製造されたヒドロゲルの分解
本実施例では、4アームのMW20,000のPEG−SG−NHSおよびトリリシンまたはトリスから製造されたヒドロゲルの持続時間を評価した。トリリシンを含むヒドロゲルを製造するために、約0.8のトリリシン(Bachem社)を19mlの0.1Mホウ酸塩に添加した後、10.5にpHを調整した。約0.4gの4アームPEG−SG−NHS(Shearwater社)を使用直前にpH4.0の1.65mlの0.01Mリン酸緩衝液に溶解させて、約18%の固形分の溶液を製造した。溶液を1:1の割合で混合し、ヒドロゲルにおける最終固体濃度を約9%とした。溶液が充填されたシリンジを、溶液を迅速かつ完全に混合する混合チップ(ASHBY−CROSS、STATOMIX)に接続することによって混合を達成した。
【0209】
トリスを含むヒドロゲルを製造するために、約0.014gのトリスを10mlの0.1Mホウ酸塩に添加することによって約10mlの0.14%トリス(Aldrich社)を作製し、pHをpH8.5に調整した。約0.3gのSG−NHS(Shearwater社)を、約15%の固体濃度が達成されるように、使用直前にpH4.0の1.7mlのリン酸緩衝液に溶解させた。溶液を1:1の割合で混合し、ヒドロゲルにおける最終固体濃度を約8%とした。
【0210】
ゲルを3ccシリンジ内で製造し、ラットに移植し、実施例14のように分解について評価した。トリスおよびトリリシンを含むヒドロゲルについての結果をそれぞれ図17および18に示す。トリスをベースとするヒドロゲルは、4から8日以内で完全に分解した。トリリシンをベースとするヒドロゲルはより長く持続した。約22日目に、トリリシンゲルは、顕著に分解し、29日目にゲルが液状化した。
【0211】
(実施例16)
ジリシンをベースとするヒドロゲルの分解および特性
ジリシンおよび約10,000MWの4アームカルボキシメチルヒドロキシブチレートN−ヒドロキシスクシンイミジルポリエチレングリコール(CM−HBA−NHS、図19参照、「4aCM」)または20,000MWのPEG−SG−NHS(図20参照、「4aSG」)から製造されたヒドロゲルについての分解プロファイルを示す実験生成データ。4アームの10,000MWのCM−HBA−NHSおよび8アームの20,000MWのPEGアミンから製造されたヒドロゲルの配合物が図21および22に「X」としてプロットされている。ゲル化時間、膨潤、および固体濃度の影響も報告され、試験は、基本的に実施例13のように実施される。
【0212】
共有および授与された米国特許第6,165,201号に記載されているように、成分溶液を噴霧として迅速かつ完全に混合する噴霧器に接続されたネブライザを使用して、前駆体溶液を混合してヒドロゲルを生成した。求核試薬(例えばジリシン)をpH11.0の0.1M緩衝液に溶解させることによって求電子前駆体溶液を製造した。求電子前駆体(例えば、10,000MWのCM−HBA−NHSまたは20,000MWのPEG−SG−NHS)を約2.3mlの0.05Mリン酸緩衝液(pH5.0)に溶解させることによって求電子前駆体溶液を製造した。前駆体溶液を1:1のv/v比で混合して、報告された固体濃度を達成した。ヒドロゲルを水平マイラー表面上に形成し、パイ形サンプルに3つに切断し、実施例13に記載したようにそれらの分解および膨潤特性を測定した。
【0213】
図21、22および23は、ジリシンで形成されたヒドロゲルのそれぞれ分解速度、ゲル化時間および膨潤を示す。ゲルが消失する時間(分解性の尺度)は、固体濃度が大きくなるに従って増加し、PEG−SG−NHSで製造されたヒドロゲルは、CM−HBA−NHSで製造されたヒドロゲルと比較して消失時間が速かった(図21参照)。ゲル化時間は、固体濃度が大きくなるに従って低下した(図22参照)。ヒドロゲルの膨潤は、固体濃度が大きくなるに従って増加した(図23参照)。
【0214】
配合物の「ポットライフ」を測定するために他の実験を実施した(図24参照)。ポットライフは、溶液の化学的活性が維持される時間の尺度である。概して、NHS−エステルは、水溶液において求核試薬を共有結合させる能力が欠如している。したがって、NHS−エステルは、水溶液におけるポットライフが限定されるため、それらを乾燥した形で保管し、使用直前に溶液で再構成することが望ましい。図24は、再構成と使用との間の時間をx軸に示す。ゲル化時間は、水溶液におけるNHS−エステルの保管時間が長くなるに従って増加した。図24の凡例は、試験した組合せを示し、4aSGは、約20,000MWの4アームPEG−SG−NHSを示し、4a CMは、4アームの10,000MWのCM−HBA−NHSを示し、Lys−Lysはジリシンを示し、8a20Kは、一級アミンで終端する8アームの20,000MWのPEGを示し、括弧内の百分率は、ヒドロゲルにおける固体濃度を示す。
【0215】
(実施例17)
小分子前駆体で製造されたヒドロゲルの分解および膨潤特性
トリリシンで製造されたヒドロゲルをスペルミン、スペルミジン、オルニチンおよびジリシンで製造されたヒドロゲルと比較した。異なる固形分パーセントおよびpHを用いた配合物を含む様々なトリリシン配合物を製造して、小分子前駆体を使用して発展させることが可能である広範な特性を実証した。
【0216】
本実施例では、様々な低分子量前駆体、即ちそれぞれ図12、11、27、25、28および26に示される構造を有するトリス、トリリシン、オルニチン、スペルミジン、ジリシンおよびスペルミンで製造されたヒドロゲルの特性を示すデータを作成した。4アームの10,000MWのSG−PEGを求電子試薬として使用して、本質的に実施例13に記載したようにこれらの組成のヒドロゲルを製造した。各求核試薬の溶液のpHをpH10.2または指定のpHにさらに調整した。各ヒドロゲルについての固体濃度は、8.5%または指定の濃度であり、求電子試薬:求核試薬の化学量論比を一定に1:1に維持した。本質的に実施例13に記載されたように、配合物をゲル化時間、膨潤および分解について試験した。
【0217】
(本明細書に記載されていない)他の実験により、スペルミンおよびスペルミジンの第2級アミンは、それらが2の求核官能性を有するため、求電子試薬との共有結合に本質的に関与しないことが示される。明らかに、スペルミンおよびスペルミジンは、試験した他の小分子と比較して長いため、トリリシン、トリス、ジリシンおよびオルニチンで製造されたヒドロゲルといくらか異なる特性を有するヒドロゲルをもたらす。
【0218】
トリリシンヒドロゲルを製造するのに使用された配合物溶液のpHを大きくすると、ゲル化時間および消失時間が低下し、膨潤が増加した。固形分パーセントが増加するに従って、ゲル化時間が速くなり、膨潤および消失時間が増加した。
【0219】
図29は、前駆体を溶液に再構成してから1および2時間後のヒドロゲルについてのゲル化時間を示す。LLLは、トリリシンを表す。トリリシンは、4つのアミンを有し、トリスおよびジリシンは、3つのアミンを有し、オルニチン、スペルミンおよびスペルミジンは、2つのアミンを有する。
【0220】
図30は、小分子前駆体で製造されたヒドロゲルについての膨潤データを示す。膨潤は、低分子量求核前駆体の官能性に応じた傾向を示した。求核前駆体の官能性が増加するに従って、ネットワークが膨張しにくくなった。直鎖状分子は、連鎖伸長剤として作用し、ネットワークの架橋密度を増加させない。24時間目のスペルミンサンプルは、明らかにヒドロゲルの分解により、緩いため、それらの膨潤を測定することができなかった。
【0221】
図31は、低分子量アミンで製造されたヒドロゲルの分解をアミンの数の関数として示す。3つまたは4つのアミンを有する他のヒドロゲルより迅速に分解した、トリスで製造されたヒドロゲルを例外として、一般には、より大きいアミン官能性を有する、小分子で製造されたヒドロゲルは、より小さいアミン官能性を有する小分子で製造されたヒドロゲルと比較して、分解により長い時間を要した。
【0222】
図32は、配合物溶液のpHの関数としてのトリリシンについてのゲル化時間を示す。概して、該前駆体を含む溶液の約9から約10の範囲のpHの増加は、ゲル化時間の低下をもたらした。また、水溶液による求電子試薬の再構成とヒドロゲルの形成との間の時間の増加は、ゲル化時間の低下をもたらした。
【0223】
図33は、配合物溶液のpHの関数としての膨潤の関係を示す。配合物溶液のpHを約9から約10上昇させると、得られたヒドロゲルの膨潤が増加した。
【0224】
図34は、pHの関数としてのヒドロゲルの分解速度を示す。図35は、全固形分および配合物溶液ポットライフの関数としてのゲル化時間を示す。ゲル化時間は、配合物溶液における固形分が約8から約13パーセントに増加するに伴って低下した。図36は、トリリシンから形成されたヒドロゲルの膨潤を配合物溶液における固体の量の関数として示す。図37は、トリリシンから形成されたヒドロゲルの分解を配合物溶液における固体の量の関数として示す。
【0225】
(実施例18)
本実施例は、求核試薬、スペルミジン、オルニチン、JEFFAMINE T−403(図38)、LUPASOLポリエチレンイミンおよびトリリシンを用いて行った実験の結果を示す。これらの実験における求核試薬は、4アームの20,000MWのPEG−SG−NHSであった。これらの組成のヒドロゲルをゲル化し、基本的に実施例13に記載されているようにゲル化時間、膨潤および分解について試験した。各求核試薬および求電子試薬の溶液のpHを約pH9.5にさらに調整した。各ヒドロゲルについての固体濃度は、12.5%であり、求電子試薬:求核試薬の化学量論比を一定に1:1に維持した。図39、40および41は、それぞれゲル化時間、膨潤および分解についての結果を示す。図39は、求電子試薬を溶液に含めた直後(t=0)および求電子試薬を溶液に含めてから1.5時間後(t=1.5)に製造されたヒドロゲルについてのゲル化時間を示す。図41は、57℃における加速された分解を示す。
【0226】
(実施例19)
低分子量前駆体を使用して、予想可能な分解性を有するヒドロゲルを製造するための方法
本実施例は、分解性ヒドロゲルを製造するために配合物を選択するための方法を示す。ゲル化時間、吸水率、分解および機械特性の所望の特性を有するヒドロゲルの識別を可能にするデータが含まれる。求電子試薬は、4アームの20,000MWのPEG−SG−NHES(Shearwater Polymers社)であった。求核試薬は、トリリシン(Bachem社)であった。これらの組成のヒドロゲルをゲル化し、基本的に実施例13に記載されているようにゲル化時間、膨潤および分解について試験した。pH、固体濃度および求核試薬:求電子試薬の化学量論比を示されているように制御した。図42、43、44および45は、ヒドロゲルのそれぞれゲル化時間、膨潤、分解およびモジュラスを示し、比率は求核試薬:求電子試薬の化学量論(Stchm)比を示し、pHおよび固体含量は示されている通りである。
【0227】
識別法を説明すると、2.5秒以下のゲル化時間、100%未満の吸水率、4週間以下のインビトロ分解時間、および高モジュラスを有する配合物を識別することを所望する使用者は、指定された図を確認し、図43を用いて、吸水率の基準を満たさず、図45に実証されるように、30kPaを超えるモジュラスを有する1:1の比率のヒドロゲルより低いモジュラスを有するという理由により、求核試薬と求電子試薬の化学量論比が3:1のサンプルをすべて排除することが可能になる。使用者は、図42を参照して、ゲル化時間の基準を満たす1:1の比率のゲルが12.5%から8.0%の固体濃度を有することを確認することが可能である。図44を参照すると、一部に、約9.5を超えるpHと約10.5の間のpHが好適になるように、配合物溶液のpHを変化させることによって、ヒドロゲルの分解速度を制御することができる。
【0228】
(実施例20)
低分子量前駆体としてジリシンで製造されたヒドロゲル
本実施例は、様々な求電子試薬の配合物をジリシンと組み合わせて製造したヒドロゲルの特性を示す。求電子試薬は、4アームの分子量10,000のPEG−SG(4a10kPEG−SG)、4アームの分子量20,000のPEG−SG(4a20kPEG−SG)、N−ヒドロキシスクシンイミジルカーボネートで終端する2アームの分子量10,000のPEG(2a10kPEG−SC)およびN−ヒドロキシスクシンイミジルカーボネートで終端する8アームの分子量10,000のPEG(8a10kPEG−SC)であった。ジリシン(ICN Biomedical社)を0.1Mホウ酸緩衝液(pH10.0)に溶解させ、求電子試薬を0.01Mリン酸緩衝液(pH4.0)に溶解させて、ヒドロゲルを製造し、基本的に実施例13に記載したように試験した。
【0229】
表6は、12.5%の固体濃度を達成するように混合された様々な求電子試薬とpH10.0で反応したジリシン前駆体についてのゲル化時間を示す。表6は、表6の求電子試薬を再構成してからジリシンでそれらをゲル化するまでの経過時間の影響を示す。表6は、pH10.0および固形分12.5%においてジリシンと反応した様々な求電子試薬で製造されたヒドロゲルの膨潤を示し、4aは4つのアームを示し、10kは、約10,000の分子量を示す。
【0230】
【表6】

【0231】
【表7】

【0232】
【表8】

【0233】
【表9】

(実施例21)
選択されたヒドロゲルの物理特性
本実施例は、求電子試薬と求核試薬の特定の組合せを混合することによって得られたヒドロゲルの物理特性を示す。ヒドロゲルを製造および試験するための手順は、他に指定する場合を除いて実施例13の通りであった。試験した求電子試薬は、4アームの分子量10000のPEG−SG(4a10kPEG−SG)、4アームの分子量20000のPEG−SG(4a20kPEG−SG)および分子量10000の4アームCM−HBA−NHSPEG(4a10kCM−HBA−NHS)であった。求核試薬は、トリリシン(LLL)または8アームの分子量20000のPEGアミン(8a20kアミン)であった。求電子試薬:求核試薬の比は、約1:1であり、混合物のpHは、9.5であり、求電子試薬をpH4.0の0.01モルのリン酸緩衝液で再構成した。
【0234】
概して、4a20kPEG−SGは、他の2つの求電子試薬より有意に大きな破壊エネルギーを示した。4a20kPEG−SGのモジュラスは、0.058MPaにおいて最も低くなるのに対して、4a10kCM−HBA−NHSでは0.086、そして4a10kPEG−SGでは1.121MPaにおいて最も低くなった。本明細書に開示されている実施形態に様々な変更を加えることができることが理解されるであろう。したがって、以上の記載は、限定的なものでなく、単にいくつかの実施形態の例示と見なされるべきである。当業者は、本明細書に添付された請求項の範囲および主旨の範囲内で他の変更を想像するであろう。本明細書に言及されているすべての特許、特許出願、文献および雑誌記事は、それらが明確に開示されているものと矛盾しない程度に参考として本明細書に援用される。
【0235】
概要
生体適合性架橋ポリマーと、その調製および使用方法が開示されており、この生体適合性架橋ポリマーは、その場で反応し架橋することが可能な求電子および求核官能基を有する水溶性前駆体から形成される。得られる生体適合性架橋ポリマーを生分解性にするまたはしない方法が、分解速度を制御するための方法と同様に提供されている。架橋反応は、器官または組織上のその場で、あるいは体外で実施することができる。実施形態では、生体適合性架橋ポリマーおよび/またはその前駆体を、ポリープ切除などの外科処置で利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリープの粘膜下組織を含む組織に投与するための組み合わせであって、該組み合わせは、
n個の架橋剤官能基を有し、分子量が2000以下の生体適合性小分子架橋剤であって、nが2以上であり、該架橋剤官能基が求電子性または求核性である小分子架橋剤を含む組成物と、
m個の官能性ポリマー官能基を有し、分子量が該架橋剤の少なくとも約7倍である合成生体適合性官能性ポリマーであって、mが2以上でありかつnとmの合計が5以上であり、該架橋剤官能基が求電子性の場合には該官能性ポリマー官能基が求核性であり、該架橋剤官能基が求核性の場合には該官能性ポリマー官能基が求電子性である官能性ポリマーとを含み、
混合した際に、該架橋剤および官能性ポリマーが反応してヒドロゲルを形成する、
組み合わせ。
【請求項2】
前記生体適合性小分子架橋剤が、水溶液中で少なくとも1g/100mlの溶解度を有する生体適合性小分子架橋剤をさらに含む、請求項1に記載の組み合わせ。
【請求項3】
前記生体適合性小分子架橋剤が、求電子性である架橋剤官能基を有する生体適合性小分子架橋剤をさらに含む、請求項1に記載の組み合わせ。
【請求項4】
求電子性である架橋剤官能基を有する前記生体適合性小分子架橋剤が、前記求電子性架橋剤官能基がN−ヒドロキシスクシンイミドをベースにした架橋剤基である生体適合性小分子架橋剤をさらに含む、請求項3に記載の組み合わせ。
【請求項5】
前記合成生体適合性官能性ポリマーが、前記官能性ポリマー官能基がアミンである合成生体適合性官能性ポリマーをさらに含む、請求項3に記載の組み合わせ。
【請求項6】
前記生体適合性小分子架橋剤が、求核性である架橋剤官能基を有する生体適合性小分子架橋剤をさらに含む、請求項1に記載の組み合わせ。
【請求項7】
求核性である架橋剤官能基を有する前記生体適合性小分子架橋剤が、前記架橋剤官能基がアミンである生体適合性小分子架橋剤をさらに含む、請求項6に記載の組み合わせ。
【請求項8】
前記合成生体適合性官能性ポリマーが、前記官能性ポリマー官能基がN−ヒドロキシスクシンイミド基である合成生体適合性官能性ポリマーをさらに含む、請求項6に記載の組み合わせ。
【請求項9】
前記生体適合性小分子架橋剤が、生分解性結合を有する生体適合性小分子架橋剤をさらに含む、請求項1に記載の組み合わせ。
【請求項10】
前記合成生体適合性官能性ポリマーが、生分解性結合を有する合成生体適合性官能性ポリマーをさらに含む、請求項1に記載の組み合わせ。
【請求項11】
前記架橋剤および官能性ポリマーが反応して、生分解性結合を生成する、請求項1に記載の組み合わせ。
【請求項12】
前記ヒドロゲルが染料をさらに含む、請求項1に記載の組み合わせ。
【請求項13】
前記ヒドロゲルが1種または複数の活性成分をさらに含む、請求項1に記載の組み合わせ。
【請求項14】
前記活性成分が、酵素、血管収縮剤、化学療法剤、抗菌剤、抗生物質、およびこれらの組合せを含む、請求項13に記載の組み合わせ。
【請求項15】
前記ヒドロゲルが、約5秒から約90秒の時間にわたって形成される、請求項1に記載の組み合わせ。
【請求項16】
ポリープの粘膜下組織を含む組織に投与するための組み合わせであって、該組み合わせは:
少なくとも2個の第1の官能基を有し、分子量が2000以下である生体適合性小分子架橋剤を含む組成物と、少なくとも2個の第2の官能基を有し、分子量が該小分子架橋剤の少なくとも約7倍である合成生体適合性官能性ポリマーとを含み、
該第1の官能基のそれぞれが、該第2の官能基のそれぞれとは異なっており、該第1および該第2の官能基が、求電子物質および求核物質からなる群から選択され、
混合した際に、該架橋剤の該第1の官能基および該官能性ポリマーの該第2の官能基が反応して、生体適合性架橋ポリマーヒドロゲルを形成する、
組み合わせ。
【請求項17】
前記小分子架橋剤が、ジリシン、トリリシン、テトラリシン、およびトリスからなる群から選択される、請求項16に記載の組み合わせ。
【請求項18】
前記小分子架橋剤が、オルニチン、スペルミン、スペルミジン、尿素、グアニジン、ジアムニオピメリン酸、ジアミノ酪酸、メチルオルニチン、ジアミノプロピオン酸、シスチン、ランチオニン、シスタミン、トリオキサトリデカンジアミン、シクロヘキサンビス(メチルアミン)、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、メチレンビス(メチルシクロヘキサミン)、ジアミノシクロヘキサン、n−(2−アミノエチル)−1,3−プロパンジアミン、ジアミノメチルジプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、トリエチレンテトラミン、ビス(アミノプロピル)エチレンジアミン、ビス(2−アミノエチル)−1,3−プロパンジアミン、ビス(アミノプロピル)プロパンジアミン、ジアムニオメチルプロパン、1,2−ジアミノ−2−メチルプロパン、1,3−ジアミノペンタン、ジメチルプロパンジアミン、2,2−ジメチル1,3−プロパンジアミン、メチルペンタンジアミン、2−メチル−1,5ペンタンジアミン、ジアミノヘプタン、ジアミノオクタン、ジアミノノナン、ジアミノデカン、およびジアミノドデカンからなる群から選択される、請求項16に記載の組み合わせ。
【請求項19】
前記生体適合性架橋ポリマーの形成が、ゲル化時間測定によって測定して、約45秒未満を必要とする、請求項16に記載の組み合わせ。
【請求項20】
前記小分子架橋剤が、少なくとも3個の官能基を有する、請求項16に記載の組み合わせ。
【請求項21】
前記生体適合性架橋ポリマーヒドロゲル中の固形分の濃度が、約8重量%から約20重量%である、請求項16に記載の組み合わせ。
【請求項22】
前記第1の官能基がアミンを含み、前記第2の官能基がスクシンイミドを含む、請求項16に記載の組み合わせ。
【請求項23】
前記ヒドロゲルが、約5秒から約90秒の時間にわたって形成される、請求項16に記載の組み合わせ。
【請求項24】
ポリープの粘膜下組織を含む組織に投与するための組み合わせであって、該組み合わせは:
架橋前分子量が2000未満である架橋済み合成架橋分子を含む、少なくとも1つの生体適合性架橋剤領域を含む組成物と、架橋前分子量が該架橋前架橋剤分子の分子量の約7倍である架橋済み合成ポリマー分子から本質的になる、少なくとも1つの生体適合性官能性ポリマー領域とを含み、
混合した際に、該架橋剤および該官能性ポリマーが反応して、生体適合性架橋ポリマーヒドロゲルを形成し、該生体適合性架橋ポリマーヒドロゲルが、該架橋剤領域と該官能性ポリマー領域との間に少なくとも3つの結合を含み、該結合が、少なくとも1個の求電子官能基と少なくとも1個の求核官能基との反応生成物である、
組み合わせ。
【請求項25】
前記生体適合性架橋剤領域が、水溶液中で少なくとも1g/100mlの溶解度を有する、請求項24に記載の組み合わせ。
【請求項26】
前記生体適合性架橋ポリマーヒドロゲルが、少なくとも1つの生分解性結合をさらに含む、請求項24に記載の組み合わせ。
【請求項27】
前記架橋剤および官能性ポリマー領域の間の前記結合の少なくとも1つが、生分解性である、請求項24に記載の組み合わせ。
【請求項28】
前記架橋剤が、ジリシン、トリリシン、テトラリシン、およびトリスからなる群から選択される、請求項24に記載の組み合わせ。
【請求項29】
前記架橋剤が、オルニチン、スペルミン、スペルミジン、尿素、グアニジン、ジアムニオピメリン酸、ジアミノ酪酸、メチルオルニチン、ジアミノプロピオン酸、シスチン、ランチオニン、シスタミン、トリオキサトリデカンジアミン、シクロヘキサンビス(メチルアミン)、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、メチレンビス(メチルシクロヘキサミン)、ジアミノシクロヘキサン、n−(2−アミノエチル)−1,3−プロパンジアミン、ジアミノメチルジプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、トリエチレンテトラミン、ビス(アミノプロピル)エチレンジアミン、ビス(2−アミノエチル)−1,3−プロパンジアミン、ビス(アミノプロピル)プロパンジアミン、ジアムニオメチルプロパン、1,2−ジアミノ−2−メチルプロパン、1,3−ジアミノペンタン、ジメチルプロパンジアミン、2,2−ジメチル1,3−プロパンジアミン、メチルペンタンジアミン、2−メチル−1,5ペンタンジアミン、ジアミノヘプタン、ジアミノオクタン、ジアミノノナン、ジアミノデカン、およびジアミノドデカンからなる群から選択される、請求項24に記載の組み合わせ。
【請求項30】
前記ヒドロゲルが、約5秒から約90秒の時間にわたって形成される、請求項24に記載の組み合わせ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【公開番号】特開2010−17548(P2010−17548A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−161255(P2009−161255)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【出願人】(507362281)タイコ ヘルスケア グループ リミテッド パートナーシップ (666)
【Fターム(参考)】