説明

ポリ乳酸廃棄物の分離回収方法

【課題】 ポリ乳酸廃棄物から回収される乳酸の光学純度を所定の範囲ごとに分離しつつ行う方法及び装置を提供すること。
【解決手段】 2点以上の相異なるポリ乳酸の融点を備えたポリ乳酸混合廃棄物を水分と共に高温処理機21の内部で約110℃〜約200℃の高温とし、約1時間以上の初期処理の後、約110℃〜約200℃の温度で熱処理を行いつつ、約10分間〜約24時間の所定の時間区分ごとに反応液を回収することにより、所定の光学純度を備えた乳酸を分離回収することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸廃棄物から回収される乳酸の光学純度を所定の範囲ごとに分離しつつ行う方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチックの一つであるポリ乳酸は、例えばトウモロコシ・サツマイモ等の植物を原料として生産することができることに加え、自然界中において微生物の作用によって分解されることから、いわゆる環境に優しい生分解性プラスチックとして知られている。このような生分解性プラスチックの需要は、増加の一途をたどっており、将来的にも更に需要が増大すると考えられている。しかしながら、土壌中の微生物によって、生分解性プラスチックを分解する場合には、相当の時間を必要とする。
【0003】
一方、近年になって、環境に対する配慮という点から、汎用プラスチックを含む多くの製品に対してリサイクルを進めるための研究が盛んとなっている。これをポリ乳酸について見ると、廃棄処分された場合の分解性が良好であるという長所は認められているものの、リサイクルという点からは、必ずしも十分な研究はなされていない。例えば、特開平5−178977号には、ポリ乳酸を水分の存在下で100℃以上、0.1メガパスカル以上に加熱加圧して加水分解させる方法が、特開2003−300927号には、ポリ乳酸を水分の存在下で約200℃〜約350℃、約5分間〜約60分間処理することで、モノマー化する方法が開示されている。また、特開2003−313283号には、ポリ乳酸を水分の存在下で180℃〜250℃、1分間〜20分間処理することで、低分子量化する方法が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平5−178977号公報
【特許文献2】特開2003−300927号公報
【特許文献3】特開2003−313283号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ポリ乳酸の単位となる乳酸には、D型、L型という光学的に異なる異性体が存在している。植物から製造される乳酸は、一般的にはL型である。ポリ乳酸の品質を一定に維持することを考えると、原材料の乳酸については、一定の光学純度を備えたものを使用することが好ましい(但し、このことは必ずしも、光学純度が100%に近い乳酸のみを使用することを意味しているわけではなく、光学純度が所定の範囲(例えば、60%〜70%程度)であれば、所定の品質を維持できることを示している)。この観点から従来技術を見ると、いずれも回収後に得られた物質のL/D比や収率に対する評価が不十分であることから、実際に応用するためには更なる研究開発を必要とする。
【0006】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ポリ乳酸廃棄物から回収される乳酸の光学純度を所定の範囲ごとに分離しつつ行う方法及び装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、ポリ乳酸の融点が、分子量よりもむしろ、ポリ乳酸を製造する際に使用されるモノマーである乳酸の光学純度によって変化するという現象を見いだし、この現象を応用することで、ポリ乳酸を含む廃棄物から回収される乳酸の光学純度を所定の範囲ごとに分離できることに成功し、基本的には本発明を完成するに至った。
こうして上記目的を達成するための第1の発明に係るモノマーである乳酸の分離回収方法は、ポリ乳酸を含む廃棄物であって、2点以上の相異なるポリ乳酸の融点を備えた混合廃棄物を水分と共に反応温度が約110℃〜約200℃の高温下で約1時間以上の初期処理を行い、その後に約110℃〜約200℃の温度で熱処理を行いつつ、約10分間〜約24時間の所定の時間区分ごとに反応液を回収することを特徴とすることを特徴とする。
【0008】
ポリ乳酸は、その元となるモノマーである乳酸の光学純度によって、融点が異なってくる。つまり、乳酸の光学純度が低くなるに応じて、ポリ乳酸の融点も下がってくる。このため、複数種類のポリ乳酸を含む廃棄物においては、各ポリ乳酸を構成する乳酸の光学純度に応じて、少なくとも2点以上の相異なるポリ乳酸の融点が存在することになる。これらの廃棄物を約110℃〜約200℃という比較的低温の領域で処理することにより、光学純度の低い乳酸から順に反応液に回収される。
【0009】
ここで、「ポリ乳酸」とは、乳酸(CHCH(OH)COOH)を単位とし、複数の乳酸が連なって高分子量となった生分解性プラスチックの一種である。ポリ乳酸を製造する材料としての乳酸は、植物(例えば、トウモロコシ、キャツサバ、サトウキビ、ビート、サツマイモなど)から生産することができる。ポリ乳酸を製造するには、一般的に乳酸を環化しラクチドとし、これを開環重合してポリ乳酸とするが、本発明においては、ポリ乳酸の製造方法には依らないで実施することができる。
【0010】
ポリ乳酸を構成する単体としての乳酸には、L型とD型という二種類の光学異性体が知られている。本発明は、L型及びD型のいずれの乳酸を単位として製造されたポリ乳酸、L型とD型とを任意の比で含むポリ乳酸、或いはポリL−乳酸とポリD−乳酸の混合物からなるポリ乳酸ステレオコンプレックスポリマーに対しても実施することができる。本発明によれば、融点(つまり、モノマーである乳酸の光学純度)が異なる複数種類のポリ乳酸を含む混合廃棄物から、所定の範囲(例えば、約70%〜約80%、約80%〜約90%、約90%〜約100%)ごとに、モノマーである乳酸の光学純度を区分しつつ回収することができる。
「モノマー」とは、必ずしも全てのポリ乳酸が、完全にモノマーとなることを意味しているのではなく、適当な割合(例えば50%以上)で、当初の混合廃棄物がモノマーとなることを意味している。
「廃棄物」とは、一旦所定の使用目的に使い終わり、不用として捨て去られたポリ乳酸以外に、捨て去られた各種プラスチック(例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンテレフタラート(PET))、各種金属(鉄、アルミニウム、銅、銀、鉛、コバルト、マンガン、これらの合金)、木材、紙、各種天然繊維(綿、麻、絹)等が含まれているものを言う。
【0011】
「高温下」とは、ポリ乳酸の混合廃棄物を溶解、反応してモノマーである乳酸を回収可能な温度を意味しており、具体的には約110℃〜約200℃、好ましくは約120℃〜約180℃である。約110℃未満では乳酸混合廃棄物が反応し、解重合をさせることは困難になる。また約200℃を超えると分離回収することが困難になるだけでなく、乳酸自体の熱分解が起こることもある。
反応温度は、乳酸を光学純度に応じて、分離回収するために必要な因子である。反応温度が低すぎると、乳酸の分離回収に時間が掛かりすぎることに加えて、光学純度の高い乳酸が十分に回収されないおそれがある。一方、反応温度が高すぎると、光学純度の低い乳酸から高い乳酸までが時間によって十分に分離されることなく一度に回収されてしまう。本発明では、このような目的を達成するために、約110℃〜約200℃の温度を用いる。これらの温度域のうち、原料となるポリ乳酸を含む廃棄物を構成する乳酸の光学純度、及び分離精度に応じて、更に適当な温度域(例えば、約110℃〜約130℃、約130℃〜約150℃、約150℃〜約170℃、約170℃〜約200℃)を選択することができる。
【0012】
「初期処理」の時間は、ポリ乳酸を構成する乳酸の光学純度、及び反応温度に応じて、約1時間以上で適当に変更することができる。例えば、約140℃の場合には約3時間程度の初期処理を、約120℃の場合には約6時間程度の初期処理を、それぞれ行い、その後に所定の時間区分ごとに反応液を回収することができる。
「所定の時間区分」とは、モノマーとして回収される乳酸の光学純度の幅を納める領域に従って、反応温度及びポリ乳酸を構成する乳酸の光学純度に応じて、適宜に設定することができる。時間区分は、例えば、約10分間、約20分間、約30分間、約40分間、約50分間、約1時間、約2時間、約3時間、約4時間、約5時間、約6時間、約12時間、約24時間などに設定することができるし、更に細かい時間単位で設定することもできる。時間区分は、一定の時間ごと(例えば、初期反応の後に、約20分間ごとの一定区分)に設定することもできるし、適宜に変更(例えば、初期処理の後に、約10分間ごとの区分で6回回収し、その後は約20分間ごとの区分とするなど)してもよい。
【0013】
ポリ乳酸と水とを反応させる場合の水量としては、ポリ乳酸の1質量部に対して、約1質量部〜約100質量部、好ましくは約1質量部〜約80質量部、約1質量部〜約60質量部、更に好ましくは約1質量部〜約40質量部、更に好ましくは約1質量部〜約20質量部、更に好ましくは約1質量部〜約10質量部である。
【0014】
第2の発明に係るポリ乳酸の再生方法は、2点以上の相異なるポリ乳酸の融点を備えた混合廃棄物を水分と共に反応温度が約110℃〜約200℃の高温下で、約1時間以上の熱処理を行う初期処理工程、その後に約110℃〜約200℃の温度で熱処理を行いつつ、約10分間〜約24時間の所定の時間区分ごとに反応液を回収する分離回収工程、及び回収された乳酸のうち、所定の光学純度よりも低い区分の乳酸には、光学純度が約90%以上の乳酸を混合して所定の光学純度の乳酸を調整する光学純度調整工程を経て、ポリ乳酸を再生乳酸を回収することを特徴とする。
なお、上記発明において、分離回収工程と光学純度調整工程との間に、分離回収工程で得られた各区分の乳酸の光学純度を測定する測定工程を設けても良い。
【0015】
図1には、光学純度が100%と60%との二種類のポリ乳酸廃棄物を回収、再生する方法に関し、従来技術(A)と本願発明の方法(B)とを比較したものである。従来方法では、2種類のポリ乳酸を含む混合廃棄物を一括して一定の温度(例えば、200℃)で処理することにより、ポリ乳酸をモノマー化し、乳酸を回収するという方法であった。この方法では、全体として一定の光学純度(例えば、80%)を備えた乳酸が回収されることとなる。
【0016】
回収された乳酸については、バイオマスから製造された乳酸(光学純度100%)を添加することにより、例えば90%の光学純度を備えた乳酸として、ポリ乳酸を再生することができる。しかしながら、ポリ乳酸を材料とする製品については、必ずしも90%程度の光学純度を備える必要はなく、それよりも低い光学純度でも使用に耐え得ることが考えられる。このため、本願発明では、図1(B)に示すように、ポリ乳酸を含む混合廃棄物を高温高圧水反応を利用して、モノマーである乳酸を光学純度(融点の相違)に従って分離回収する。
本願発明では、乳酸の光学純度に変化を与え難い程度の温度条件が設定されているので、ポリ乳酸廃棄物中における乳酸の光学純度を変えるおそれが少なくなっている。この分離回収工程では、光学純度が低い乳酸から構成されたポリ乳酸から順にモノマー化されて反応液に回収される。
【0017】
次に、必要な場合には、得られた乳酸の光学純度を測定し(測定工程)、光学純度が高い場合(例えば、図中上段の乳酸(100%)の場合)には、そのままポリ乳酸に再生することができる。一方、乳酸の光学純度が低い場合(例えば、図中下段の乳酸(60%)の場合)には、この乳酸に約90%以上の光学純度を備えた乳酸(例えば、バイオマスから製造されたもの)を混合することにより、所定の光学純度(例えば、80%)に調整した後(光学純度調整工程)、ポリ乳酸として再生する。
【0018】
また、本発明に係る乳酸の分離回収装置は、2点以上の相異なるポリ乳酸の融点を備えた混合廃棄物と水分とを内部に含んだ状態で約110℃〜約200℃の高温とする高温処理機と、この処理機の内部の反応液を外部に取り出す反応液取出し孔とが設けられていることを特徴とする。
上記装置としては、バッチ式(回分式)と連続式とを問わないで用いることができる。また、蒸気ではなく液体状の水を混合した状態でポリ乳酸を含む廃棄物を高温下で処理することができるためには、高温処理機をバッチ式として、0.1メガパスカルよりも大きな圧力下で処理することが好ましい。また、大量の混合廃棄物を処理できるようにするためには、連続式の高温処理機とすることが好ましい。
【0019】
この装置には、ポリ乳酸または乳酸を内部に置いた状態で高温とする反応槽が設けられている。また、蒸気ではなく液体状態の水を混合した状態でポリ乳酸または乳酸を高温下で処理することが好ましいことから、高温処理機が0.1メガパスカルよりも大きな高圧下で処理できるようにすることが好ましい。また、大量のポリ乳酸または乳酸を処理できるようにするためには、高温処理機を連続式とすることが好ましい。また、反応槽には、反応を促進させるためポリ乳酸と水とを撹拌する撹拌機を設けることが好ましい。
【0020】
本発明に係る乳酸の分離回収装置の例を示すと以下の通りである。
図2は、バッチ式の乳酸の分離回収装置20を示す。装置20には、ポリ乳酸廃棄物と水とを反応させる高温処理機21と、内部温度を上昇させる熱処理装置22が設けられている。熱処理装置22としては、例えば高温物質(例えば水蒸気など)を挿通可能なパイプを反応槽内部の混合物と接触させる装置、高温処理機21の内部に高温物質(例えば水蒸気など)を吹き込む装置などを用いることができる。高温処理機21には、内容物を撹拌可能な撹拌機23が設けられている。また、高温処理機21には、内部から流出するガス及び/または溶液を冷却する冷却器24が連結されている。冷却器24には、凝縮液を再度高温処理機21に戻す復帰路25と、排出用のベント路26が設けられている。
【0021】
また、高温処理機21には、内部の反応液を外部に取り出す反応液取出し孔29が設けられており、ここには反応処理後の溶液を貯めておくホールドタンク27に連結するパイプ19が連結されている。取出し孔29には、所定の時間ごとに開放可能なバルブ(図示せず)が設けられている。なお、ホールドタンク27に貯留された溶液は、精製系28に送液される。
装置20の操作方法を説明すると次のようである。まず、高温処理機21に未反応のポリ乳酸を含む工程内の循環液17、又はポリ乳酸廃棄物16、未反応のポリ乳酸を含む工程内の循環液17及び水Wよりなる群から少なくとも2種を含む成分を投入し、投入後に熱処理装置22による加熱処理を行う。すると、廃棄物16と水W(及び循環液)17の混合物が昇温及び昇圧され、徐々に乳酸へと分解される。反応開始から適当な時間が経過したところで、適当な時間ごとにバルブを開放し、反応液を反応液取出し孔29からパイプ19を通して、ホールドタンク27に送液した後、精製系28へ送る。なお、工程内の循環液17とは、モノマー化工程の反応槽の残渣、精製系の残渣等から成る。
【0022】
図3は、連続式の乳酸の分離回収装置30を示す。分離回収装置30には、ポリ乳酸の混合廃棄物と水とを反応させる高温処理機31と、この高温処理機31の内部温度を上昇させる熱処理装置32が設けられている。高温処理機31には、内容物を撹拌可能な撹拌機33と、加熱器43により加熱された水を供給可能な水供給路44が設けられている。また、高温処理機31には、ポリ乳酸廃棄物16と、水及び必要に応じて未反応のポリ乳酸を含む工程内の循環液17とを前処理する溶融槽34がパイプ35を介して連結されている。溶融槽34には、内容物を撹拌する撹拌機36と、内容物を加温する熱処理装置37とが設けられている。
【0023】
また、高温処理機31には、内部の反応液を外部に取り出す反応液取出し孔29が設けられており、ここには反応処理後の溶液を貯めると共にベントガスの処理等を行うフラッシュタンク38がパイプ19を介して連結されている。取出し孔29には、所定の時間ごとに開放可能なバルブ(図示せず)が設けられている。また、フラッシュタンク38には、冷却器39が連結されている。冷却器39には、凝縮液を再度フラッシュタンク38に戻す復帰路40と、排出用のベント路41が設けられている。なお、フラッシュタンク38に貯留された溶液は、精製系42に送液される。
【0024】
分離回収装置30の操作方法を説明すると次のようである。まず、溶融槽34にポリ乳酸廃棄物16及び必要に応じて未反応のポリ乳酸等を含む工程内の循環液17を投入しておき、熱処理装置37で加熱しつつ、撹拌機36による撹拌処理を行うことにより、投入された混合物を溶融液状態にする。次いで、該溶融液を連続的に溶融槽34から高温処理機31へ移送しつつ、新たに加熱された水を水供給路44を通して連続的に高温処理機31へ供給する。高温処理機31は熱処理装置32の稼働によって、投入されたポリ乳酸廃棄物が乳酸へと分解される。反応開始から適当な時間が経過したところで、適当な時間ごとにバルブを開放し、反応液を反応液取出し孔29からパイプ19を通して、フラッシュタンク38へ反応液を抜き出し、大気圧下まで減圧する。この時、水及び乳酸等の一部が気化され、その気化熱の分、反応液の内温が降下される。
【発明の効果】
【0025】
本発明の方法及び装置を用いることにより、純度が異なる乳酸から構成されたポリ乳酸を含む廃棄物を分解し、モノマーとしての乳酸の光学純度を所定の幅に区分しつつ回収することができる。この技術を応用することで、ポリ乳酸のリサイクル処理を効果的に進めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
次に、本発明の実施形態について、図表を参照しつつ詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は、下記の実施形態によって限定されるものではなく、その要旨を変更することなく、様々に改変して実施することができる。また、本発明の技術的範囲は、均等の範囲にまで及ぶものである。
まず、分離回収装置の構成及び測定パラメータについて説明する。
【0027】
<分離回収装置>
図4には、実施例に使用したポリ乳酸廃棄物の分離回収装置1(以下には、単に「装置1」と記載する)を示した。この装置1には、温度制御可能な溶融塩槽2(例えば、耐圧硝子株式会社製、TSC−B600型を用いることができる。)と、その溶融塩槽2の内部に浸漬される耐熱・耐圧な密閉型の処理容器3(例えば、ステンレス製(SUS316)バッチ式反応管(外径12.7mm、肉厚1.24mm、内径10.2mm、長さ10cm、内容積8.2mL)を用いることができる。)と、圧力センサ4とが設けられている。
【0028】
溶融塩槽2の内部には、ヒータ6と回転翼5が設けられている。ヒータ6の電源を入れた状態で、回転翼5を回転させることによって、溶融塩槽2内の液体(例えば、KNO(45%)とNaNO(55%)の混合物を用いることができる)を混合して、均一な温度とすることができる。なお、ヒータ6には、図示しないコンピュータが設けられており、溶融塩槽2内の温度を所定の範囲内に制御することができる。この処理装置1では、溶融塩槽2の内部を約120℃〜約300℃の範囲内において所定の温度に制御しながら、ポリ乳酸と水分の高温処理を行えるようになっている。
【0029】
処理容器3は、例えばステンレス(例えば、SUS316)、ハステロイ、またはインコネル(Ni、Cr、Moなどを含む合金)から構成することができる。処理容器3の上部には、蓋体が取り付けられるようになっており、処理容器3の内部空間を密閉した状態で、適度な温度とすることができる。試験時には、処理容器3の内部に任意の倍率で希釈した試料を投入し、上蓋を容器に載せて密閉する。その後、処理容器3と圧力センサ4とを接続する。
処理容器3を密閉した後、予め設定温度に加熱しておいた溶融塩槽2に処理容器3を投入し、この時点を0分として、高温処理を開始する。
【0030】
<実験方法および結果>
1.乳酸の光学純度とポリ乳酸の融点との関係
光学純度が88%〜100%のL−乳酸から製造されたポリ乳酸(重量平均分子量22万)の融点を評価した。その融点は、示差操作熱量分析装置を用いて実施・解析を行った。
試験は、処理容器3の内部に、0.24gの試料(ポリ乳酸)と4.8gの精製水とを投入し、試料:精製水の質量比を1:20として実施した。
【0031】
処理容器3を密閉し、内部の空気をアルゴンで置換した後、所定の温度に暖めておいた溶融塩槽2の内部に浸けた。所定の処理時間が経過した後に、素速く処理容器3を溶融塩槽2から取り出し、冷水槽に浸けて速やかに室温に戻すことで、余分な反応を回避した。反応後の産物は、イオン排除カラムを付けたHPLC有機酸解析システム(LC−10A、島津製作所製)を用いて解析した。
試験結果を図5に示した。その結果、L−乳酸の光学純度が88%〜100%に上がるに連れて、ポリ乳酸の融点も144℃〜186℃まで上昇することが分かった。
【0032】
2.ポリ乳酸からの乳酸回収率と反応時間との関係
次に、ポリ乳酸を160℃〜200℃で処理したときの反応時間と、乳酸回収率との関係を調べた。ポリ乳酸として、融点が約175℃のものを選択した。試験は、上記1と同様にして回分式分離回収装置を用いて行った。溶融塩槽2を160℃、170℃、180℃、190℃、および200℃に設定しておき、ここにポリ乳酸(0.24g)と精製水(4.8g)とを投入した処理容器3を浸漬した。反応開始後、5分〜180分で処理容器3を溶融塩槽2から取り出し、速やかに室温に戻した後、反応後の産物をHPLC有機酸解析システムにより解析した。
【0033】
試験結果を図6に示した。その結果、融点よりも低い温度である160℃においても、60分以降には、乳酸の回収が認められた。また、処理温度が高いほど、乳酸が回収される時間が早いことが分かった。なお、いずれの温度においても、180分の反応時間で、ほぼ100%の乳酸回収率が得られた。
図5および図6より、光学純度が異なるL−乳酸より製造された(つまり、異なる融点を備えた)ポリ乳酸が混在する場合には、反応温度を融点付近(融点よりも低い温度を含む)で制御することにより、得られる乳酸の光学純度を適当に制御しつつ回収できる可能性が示された。
【0034】
3.融点の異なるポリ乳酸からの乳酸の回収実験(1)
分子量、構成L−乳酸の光学純度、および融点の異なる3種類のポリ乳酸を水分と共に熱処理し、回収された乳酸の収率を評価した。
表1には、3種類のポリ乳酸の分子量、L−乳酸の光学純度、および融点を示した。なお、PLA−80の融点は予想値であり、140℃〜160℃の間にあるものと思われた。
【0035】
【表1】

【0036】
各ポリ乳酸を140℃で処理したときの反応時間と乳酸回収率との関係を調べた。試験は、上記1と同様にして、回分式分離回収装置を用いて行った。溶融塩槽2を140℃に設定しておき、ここにポリ乳酸(0.24g)と精製水(4.8g)とを投入した処理容器3を浸漬した。反応開始後、30分〜12時間で処理容器3を溶融塩槽2から取り出し、速やかに室温に戻した後、反応後の産物をHPLC有機酸解析システムにより解析した。
【0037】
試験結果を図7および図8に示した。図7には、#5000と#9010とを比較したグラフを、図8には、♯5000とPLA−80とを比較したグラフをそれぞれ示した。その結果、融点の低いポリ乳酸の方が、早く乳酸として回収されることが分かった。なお、いずれのポリ乳酸を用いた場合にも、乳酸の回収率は、約9時間の反応時間で、ほぼ100%であった。
このことより、融点の異なる複数のポリ乳酸が混在していた場合に、一定の反応温度で処理しつつ、適当な時間において反応液を分取することにより、所定の光学純度を備えた乳酸を回収可能であることが示された。
【0038】
4.融点の異なるポリ乳酸からの乳酸の回収実験(2)
上記3で使用した3種類のポリ乳酸のうちの2種類(#5000およびPLA−80)を120℃で水と共に熱処理し、回収された乳酸の収率を評価した。
試験は、上記1と同様にして、回分式分離回収装置を用いて行った。溶融塩槽2を120℃に設定しておき、ここにポリ乳酸(0.24g)と精製水(4.8g)とを投入した処理容器3を浸漬した。反応開始後、1時間〜72時間(3日間)で処理容器3を溶融塩槽2から取り出し、速やかに室温に戻した後、反応後の産物をHPLC有機酸解析システムにより解析した。
【0039】
試験結果を図9に示した。その結果、図8と同様に、融点の低いポリ乳酸であるPLA−80の方が、♯5000よりも早く乳酸として回収されることが再確認された。但し、PLA−80は、約1日間の反応でほぼ100%が乳酸として回収された一方、♯5000からの乳酸の回収には、約3日間が必要であることが分かった。また、反応開始から約2日目を経過した後に、両ポリ乳酸が回収される率の差違は、40%以上と大きかった。こうして、上記3および4の結果により、融点の異なるポリ乳酸から得られる乳酸を分別回収し、回収された乳酸の光学活性を所定の幅に留めるには、(1)できるだけ低温度で熱処理を行うか、(2)高温度で熱処理した場合には、回収するための時間幅を狭くする、ことが有効であると分かった。
【0040】
5.融点の異なるポリ乳酸からの乳酸の回収実験(3)
上記4で使用した2種類のポリ乳酸(♯5000およびPLA−80)を混合し、120℃で水と共に熱処理し、回収された乳酸の収率および光学活性を評価した。
試験は、上記1と同様にして、回分式分離回収装置を用いて行った。溶融塩槽2を140℃に設定しておき、ここにポリ乳酸(約0.25g)と精製水(4.8g)とを投入した処理容器3を浸漬した。反応開始後、24時間(1日間)で処理容器3を溶融塩槽2から取り出し、速やかに室温に戻した後、反応後の産物をHPLC有機酸解析システムにより解析した。2種類のポリ乳酸の混合量、樹脂残存量、樹脂残存率、乳酸回収率、および光学純度を表2に示した。この試験は、4回のものを独立して行った。なお、光学純度は、L−乳酸の割合をαとし、D−乳酸の割合を(1−α)としたとき、|1−2α|によって求められる(PLA−80の光学純度は、|1−2*0.2|=60%である)。
【0041】
【表2】

【0042】
また、反応終了後に残存していた樹脂については、200℃、60分間の熱処理反応を行ったところ、ほぼ100%の乳酸が回収された。このとき回収された乳酸の光学純度は、約100%であった。
これらの結果より、120℃、24時間の熱処理反応により、PLA−80はすべて乳酸として回収されたこと、および♯5000の一部も分解されたものの、ほとんどは樹脂として残存していたことがわかった。
【0043】
更に、表2の記載の通り、光学純度67.3%で得られた乳酸(0.15g)に対して、光学純度98.0%の乳酸(0.62g)を混合し、該混合液の光学純度を測定したところ、光学純度は92%となり90%以上の光学純度に調整することができた。
【0044】
このように、本実施形態によれば、融点の異なるポリ乳酸が混在した廃棄物において、水分と共に適当な熱処理を行いつつ、所定の時間ごとに乳酸を回収することにより、回収される乳酸の光学純度を所定の範囲ごとに分離できることができる。この技術を応用することにより、ポリ乳酸のリサイクル処理を効果的に進めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】ポリ乳酸廃棄物の分離回収工程の概要を示す図である。(A)は現状のフロー図を示し、(B)は本発明のフロー図を示す。
【図2】本発明に係るバッチ式の乳酸の分離回収装置を例示する図面である。
【図3】本発明に係る連続式の乳酸の分離回収装置を例示する図面である。
【図4】本実施形態におけるバッチ式の乳酸の分離回収装置の概要を示す図である。
【図5】L−乳酸の割合とポリ乳酸の融点との関係を示すグラフである。
【図6】反応時間と乳酸回収率との関係を示すグラフである。
【図7】反応時間と乳酸回収率との関係を示すグラフである。
【図8】反応時間と乳酸回収率との関係を示すグラフである。
【図9】反応時間と乳酸回収率との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0046】
1・・・分離回収装置
2・・・溶融塩槽
3・・・処理容器
4・・・圧力センサ
5・・・回転翼
6・・・ヒーター
16・・・ポリ乳酸廃棄物
17・・・工程内の循環液
19,35・・・パイプ
20,30…分離回収装置
21,31…高温処理機
22,32,37・・・熱処理装置
23,33,36・・・撹拌機
24,39・・・冷却器
25,40・・・復帰路
26,41・・・排出用のベント路
27・・・ホールドタンク
28,42・・・精製系
29…反応液取出し孔
W・・・水
34・・・溶融槽
38・・・フラッシュタンク
43・・・加熱機
44・・・水供給路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸を含む廃棄物であって、2点以上の相異なるポリ乳酸の融点を備えた混合廃棄物を水分と共に反応温度が約110℃〜約200℃の高温下で約1時間以上の初期処理を行い、その後に約110℃〜約200℃の温度で熱処理を行いつつ、約10分間〜約24時間の所定の時間区分ごとに反応液を回収することを特徴とするモノマーである乳酸の分離回収方法。
【請求項2】
ポリ乳酸を含む廃棄物であって、2点以上の相異なるポリ乳酸の融点を備えた混合廃棄物を水分と共に反応温度が約110℃〜約200℃の高温下で約1時間以上の熱処理を行う初期処理工程、その後に約110℃〜約200℃の温度で熱処理を行いつつ、約10分間〜約24時間の所定の時間区分ごとに反応液を回収する分離回収工程、及び回収された乳酸のうち、所定の光学純度よりも低い区分の乳酸には、光学純度が約90%以上の乳酸を混合して所定の光学純度の乳酸を調整する光学純度調整工程を経て、乳酸を回収することを特徴とする乳酸の分離回収方法。
【請求項3】
2点以上の相異なるポリ乳酸の融点を備えた混合廃棄物と水分とを内部に含んだ状態で約110℃〜約200℃の高温とする高温処理機と、この処理機の内部の反応液を外部に取り出す反応液取出し孔とが設けられていることを特徴とする乳酸の分離回収装置。
【請求項4】
前記分離回収装置は、ポリ乳酸と液体状態の水とを混合した状態で0.1メガパスカルよりも大きい圧力とすることが可能な連続式のものであることを特徴とする請求項3に記載の乳酸の分離回収装置。
【請求項5】
前記分離回収装置は、ポリ乳酸と液体状態の水とを混合した状態で0.1メガパスカルよりも大きい圧力とすることが可能なバッチ式のものであることを特徴とする請求項3に記載の乳酸の分離回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−99663(P2007−99663A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−290614(P2005−290614)
【出願日】平成17年10月4日(2005.10.4)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】