説明

ポリ乳酸改質用錠剤およびそれを用いたポリ乳酸繊維の製造方法

【課題】ポリ乳酸の耐摩耗性向上用添加剤のブレンド斑を少なくし、且つこの添加剤を含有するポリ乳酸繊維の製造コストを下げる。
【解決手段】脂肪酸ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドを製錠してなるポリ乳酸改質用錠剤。この錠剤をポリ乳酸チップとブレンドして溶融紡糸機に供することからなるポリ乳酸繊維の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸の耐摩耗性を改質するために使用される錠剤およびこの錠剤を用いたポリ乳酸繊維の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸は、生分解性を有し、かつ非石油系原料から得られるポリマーであるため、土中での自然分解やコンポスト化分解が可能であり、しかも分解しても有害物質を生成しないことから、環境負荷の小さいポリマーとして注目され、実用化に向けた開発が近年特に活発化している。
【0003】
このような事情の中で、ポリ乳酸のポリマー特性上の問題点が明らかにされ、また高機能化の要望も高まりつつあることから、ポリ乳酸を改質するための添加剤の開発も並行して進められている。例えば、加水分解抑制剤、酸化防止剤、難燃剤、導電性付与剤、滑り性付与剤、着色剤、界面活性剤、可塑剤などが代表的なポリ乳酸改質用添加剤として知られている。
【0004】
これらのポリ乳酸改質用添加剤をポリ乳酸に添加するための従来の技術としては、例えば粉末形態の添加剤をポリ乳酸チップとドライブレンドして、これを混練機や紡糸機に供給する方法や、予め高濃度の添加剤を含有させたポリマーを溶融押し出しして冷却・カッティングすることにより製造したマスターバッチペレットをポリ乳酸チップとドライブレンドして混練機や紡糸機に供給する方法などが実施されていた。
【0005】
しかしながら、粉末形態の添加剤をポリ乳酸チップとドライブレンドする方法では、粉末をポリ乳酸チップに均一付着させることによって初めてブレンド斑の少ないポリ乳酸成形体を得るに至るが、添加剤の添加濃度が多いか、或いは粉体の粒径が大きいと、混練機や紡糸機のホッパー内で添加剤の全量がポリ乳酸チップに付着されずに脱落(脱混和)してしまい、結果として得られるポリ乳酸成形体にはブレンド斑が生じるという問題があった。さらには、そのブレンド斑によって混練機や紡糸機内でのポリマー圧力が変動し、安定的に成形体を製造することができないこともあった。
【0006】
また、高濃度の添加剤を含有するマスターバッチペレットを使用する方法では、添加剤とポリ乳酸の相溶性が良いことが前提となり、相溶性が悪い場合には、高濃度マスターバッチペレット自体の作製が困難であるという問題があった。この場合、やむなく低濃度のマスターバッチペレットを使用することになるが、所定量の添加剤をブレンドした成形体を得るには、混練機や紡糸機に供給する際にマスターバッチペレットの添加量を増やす必要があり、必然的にポリ乳酸成形体の製造コストが高くなるという問題があった。
【0007】
発明者らは、ポリ乳酸の耐摩耗性向上用添加剤として、脂肪酸ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドが極めて有効であること(例えば、特許文献1参照)を見出し既に提案しているが、この添加剤の場合には、効果を得るための必要添加量が、0.1〜5重量%と比較的多く、また添加剤とポリ乳酸との相溶性が悪いため、マスターバッチペレットの添加剤濃度が高々10%程度であることから、ブレンド斑の発生を避け難いばかりか、製造コストが高くなるという点が問題視されていた。
【0008】
また、脂肪酸アミドをポリ乳酸に添加する方法(例えば、特許文献2および3参照)についても知られているが、いずれもその添加方法は従来の技術の範疇内であり、ブレンド斑の発生や製造コストの高騰をクリアできるものではなかった。
【特許文献1】特開2004−91968号公報
【特許文献2】特開平8−183898号公報
【特許文献3】特開平9−278991号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決、すなわち、ポリ乳酸の耐摩耗性改質用添加剤のブレンド斑を少なくし、且つこの添加剤を含有するポリ乳酸繊維の製造コストを下げることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明によれば、ポリ乳酸の耐摩耗性を改質するために使用される錠剤であって、脂肪酸ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドを製錠してなることを特徴とするポリ乳酸改質用錠剤が提供される。
【0011】
なお、本発明のポリ乳酸改質用錠剤においては、前記錠剤が加圧法によって製造されたものであることが好ましい条件として挙げられる。
【0012】
また、本発明のポリ乳酸繊維の製造方法は、上記のポリ乳酸改質用錠剤をポリ乳酸チップとブレンドして溶融紡糸機に供することを特徴とし、前記錠剤のブレンド率を0.1〜5重量%とすること、およびポリ乳酸チップの平均重量とポリ乳酸改質用錠剤の平均重量との間に次式で示される関係が成り立つような大きさのポリ乳酸改質用錠剤を用いること、(ただし、ポリ乳酸チップの平均重量×0.7≦ポリ乳酸改質用錠剤の平均重量≦ポリ乳酸チップの平均重量×1.3)が、いずれも好ましい条件として挙げられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、以下に説明するとおり、ポリ乳酸の耐摩耗性を改質するために使用する添加剤のブレンド斑を少なくし、且つこの添加剤を含有するポリ乳酸繊維の製造コストを下げることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0015】
本発明でいうポリ乳酸とは、乳酸やラクチドなどの乳酸のオリゴマーを重合したものを言い、ポリマー内の乳酸のL体比率あるいはD体比率が95%以上であることが、高融点となる点で好ましい。L体比率あるいはD体比率は、より好ましくは98.5%以上である。また、L体比率95%以上のポリ乳酸とD体比率95%以上のポリ乳酸を70/30〜30/70の比率でブレンドしたものは融点がさらに向上するため好ましい。ポリ乳酸ポリマーの分子量は、重量平均分子量で5万〜50万であることが、力学特性と成形性のバランスが良くなる点で好ましい。また、ポリ乳酸の性質を損なわない範囲で、乳酸以外の成分を共重合していても良く、さらには、ポリ乳酸以外のポリマーや粒子、艶消し剤、可塑剤、難燃剤、帯電防止剤、消臭剤、抗菌剤、抗酸化剤、耐熱剤、耐光剤、紫外線吸収剤、着色顔料などの添加物を必要に応じて含有させても良い。ポリ乳酸以外のポリマーとして、例えば、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネートおよびポリエチレンサクシネートのような脂肪族ポリエステルポリマーを可塑剤として用いることもできる。
【0016】
しかし、本発明におけるポリ乳酸繊維は、生分解性および非石油系原料であるという特徴を活かし、廃棄しても環境負荷の小さい製品として用いるため、石油系ポリマーのブレンドや、これら成分の共重合などを極力避け、また各種添加剤も、重金属化合物や環境ホルモン物質は勿論、現時点でその懸念が予想される化合物の一切を用いないことがより好ましい。
【0017】
本発明でポリ乳酸の耐摩耗性改質剤として用いる脂肪酸ビスアミドは、飽和脂肪酸ビスアミド、不飽和脂肪酸ビスアミド、芳香族系ビスアミドなどの1分子中にアミド結合を2つ有する化合物を指し、例えば、メチレンビスカプリル酸アミド、メチレンビスカプリン酸アミド、メチレンビスラウリン酸アミド、メチレンビスミリスチン酸アミド、メチレンビスパルミチン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスイソステアリン酸アミド、メチレンビスベヘニン酸アミド、メチレンビスオレイン酸アミド、メチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスカプリル酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスミリスチン酸アミド、エチレンビスパルミチン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、エチレンビスベヘニン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、ブチレンビスステアリン酸アミド、ブチレンビスベヘニン酸アミド、ブチレンビスオレイン酸アミド、ブチレンビスエルカ酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘニン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスエルカ酸アミド、m−キシリレンビスステアリン酸アミド、m−キシリレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、p−キシリレンビスステアリン酸アミド、p−フェニレンビスステアリン酸アミド、p−フェニレンビスステアリン酸アミド、N,N’−ジステアリルアジピン酸アミド、N,N’−ジステアリルセバシン酸アミド、N,N’−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N’−ジオレイルセバシン酸アミド、N,N’−ジステアリルイソフタル酸アミド、N,N’−ジステアリルテレフタル酸アミド、メチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、ブチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミドなどが挙げられる。
【0018】
また、同じくアルキル置換型の脂肪酸モノアミドとは、飽和脂肪酸モノアミドや不飽和脂肪酸モノアミド等のアミド水素をアルキル基で置き換えた構造の化合物を指し、例えば、N−ラウリルラウリン酸アミド、N−パルミチルパルミチン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−ベヘニルベヘニン酸アミド、N−オレイルオレイン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド、N−オレイルステアリン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、N−オレイルパルミチン酸アミドなどが挙げられる。アルキル基は、その構造中にヒドロキシル基などの置換基が導入されていても良く、例えば、メチロールステアリン酸アミド、メチロールベヘニン酸アミド、N−ステアリル−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、N−オレイル12ヒドロキシステアリン酸アミドなども本発明のアルキル置換型の脂肪酸モノアミドに含むものとする。
【0019】
本発明では上記の脂肪酸ビスアミドやアルキル置換型の脂肪酸モノアミドを用いるが、これらの化合物は、通常の脂肪酸モノアミドに比べてアミドの反応性が低く、溶融成形時においてポリ乳酸との反応が起こりにくい。また、高分子量のものが多いため、一般に耐熱性が良く、昇華しにくいという特徴がある。特に、脂肪酸ビスアミドは、アミドの反応性がさらに低いためポリ乳酸と反応しにくく、また、高分子量であるため耐熱性が良く、昇華しにくいことから、ポリ乳酸用改質剤としてより好ましく用いることができる。
【0020】
本発明における錠剤とは、溶融押出法または溶融射出成形法により直接製造されたものではなく、従来公知の加圧式打錠成型法などによって製錠された固形物であり、その形状は、円柱状、多角立方体状、円盤状、ドーナツ状、球状、楕円球状および扁平球状など任意であって何ら制限されるものでない。
【0021】
本発明のポリ乳酸改質用錠剤の製造方法については特に制限はなく、従来公知の方法を採用できる。例えば、粉末状の脂肪酸ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドを所定の形状の臼と杵を備えた公知の加圧式錠剤成型機に供給することによって、所定の形状の錠剤を得ることができる。この際、錠剤の成分である脂肪酸アミドは単一化合物でも良いし、また複数の化合物が混合されていても良い。
【0022】
本発明のポリ乳酸繊維の製造方法は、上記脂肪酸ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドからなる錠剤をポリ乳酸チップとブレンドして溶融紡糸機に供することを特徴とする。ブレンドの方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、規定量の錠剤とポリ乳酸チップを、予めヘンシェルミキサーやブレンダーなどでドライブレンドした後、溶融紡糸機に供する方法や、錠剤とポリ乳酸チップを別々に計量しながら紡糸機直上に設置された撹拌翼内臓ホッパーに供給し、ここでドライブレンドした後、引き続いて紡糸機に供する方法などが挙げられる。
【0023】
上記錠剤のブレンド率は、錠剤とポリ乳酸チップの全体量に対して、0.1〜5重量%であることが好ましい。錠剤のブレンド率を0.1重量%以上とすることで、得られるポリ乳酸繊維の表面摩擦係数が低減し、繊維製品に要求される耐摩耗性と繰り返し使用での耐久性を付与することができる。さらに、布帛の加工工程での裁断カッターや高速のミシン針による布帛の融着を抑制し、工程通過性を向上することができる。また、錠剤のブレンド率を5重量%以下とすることで、溶融紡糸機内で錠剤の成分である脂肪酸アミドを微分散することができ、得られる繊維の物性斑や染色斑を抑制することができる。錠剤のブレンド率は、好ましくは0.5〜3重量%である。
【0024】
本発明のポリ乳酸繊維の製造方法においては、使用するポリ乳酸チップの平均重量とポリ乳酸改質用錠剤の平均重量との間に次式で示される関係が成り立つような大きさのポリ乳酸改質用錠剤を用いることが好ましい。
【0025】
ポリ乳酸チップの平均重量×0.7≦ポリ乳酸改質用錠剤の平均重量≦ポリ乳酸チップの平均重量×1.3
錠剤とポリ乳酸チップの平均重量にこのような関係があれば、両者をドライブレンドする際に均一にブレンドすることが可能となり、さらには、紡糸機ホッパー内での脱混和が抑制できるため、溶融紡糸の工程通過性が良く、またブレンド斑の少ない改質剤配合ポリ乳酸繊維が得られる。
【0026】
上記の観点からは、ポリ乳酸チップの平均重量とポリ乳酸改質用錠剤の平均重量との間に次式で示される関係が成り立つような大きさのポリ乳酸改質用錠剤を用いることがさらに好ましい。
【0027】
ポリ乳酸チップの平均重量×0.9≦ポリ乳酸改質用錠剤の平均重量≦ポリ乳酸チップの平均重量×1.1
同様に、脱混和抑制の観点から、錠剤とポリ乳酸チップは同一形状、或いは同一形状に近い形状であることがより好ましい。
【0028】
本発明の錠剤は、貯蔵、輸送、計量およびブレンド時の衝撃で崩壊することがなく、かつ、溶融紡糸機内で、溶解・分散し易い特性を保持するために、適度な硬さを有するものであることが好ましい。この観点からは、1錠の錠剤が崩壊する荷重で表した錠剤横幅方向および厚さ方向の硬度が、各々5〜100Nの範囲であることが好ましく、8〜50Nの範囲であることがさらに好ましい。
【0029】
本発明において、ポリ乳酸繊維を溶融紡糸法によって製造するに際しての具体的方法の一例を以下に示す。紡糸温度は、190〜250℃、好ましくは200〜240℃である。紡糸口金の直下は、口金面より0〜15cmを上端とし、その上端から5〜100cmの範囲を加熱筒および/または断熱筒で囲み、紡出糸条を200〜280℃の高温雰囲気中を通過させることが好ましい。紡出した糸条を直ちに冷却せず、上記加熱筒および/または断熱筒で囲まれた高温雰囲気中を通して徐冷することにより、紡出されたフィラメントの配向が緩和され、かつフィラメント間の均一性を高めることができ、高強度のポリ乳酸繊維が得られる。
【0030】
高温雰囲気中を通過した未延伸フィラメントは、次いで10〜50℃、好ましくは15〜30℃の風を吹きつけられ冷却固化される。空冷装置は横吹き出しタイプでも良いし、環状型吹きだしタイプを用いても良い。
【0031】
冷却固化された未延伸フィラメントは、次いで油剤が付与される。油剤は、平滑剤を主成分とし、界面活性剤、制電剤、極圧剤成分などを含むが、ポリ乳酸繊維に活性な成分を除いた油剤組成とすることが必要である。好ましい油剤組成は、例えば、平滑剤としてのアルキルエーテルエステル、界面活性剤としての高級アルコールのアルキレンオキサイド付加物、極圧剤としての有機ホスフェート塩などを鉱物油で希釈した非水系油剤である。
【0032】
油剤を付与された未延伸フィラメント糸条は、引き取りロール(1FR)に捲回して引き取られる。引き取りロールの速度、すなわち紡糸速度は300〜3000m/分である。300m/分未満の紡糸速度でも本発明のポリ乳酸繊維の物性は得られるが、生産効率が低いため、工業的には採用し難い。一方、3000m/分を越える紡糸速度では、安定生産が難しい場合がある。
【0033】
上記紡糸速度で引き取られた未延伸糸は、一旦巻き取られることなく連続して延伸しても良いし、巻き取った後に別工程で延伸しても良い。連続して延伸を行う場合の具体例としては、引き取りロール(1FR)と同様に、2個のロールを1ユニットとするネルソン型ロールを、給糸ロール(2FR)、第1延伸ロール(1DR)、第2延伸ロール(2DR)、第3延伸ロール(3DR)および弛緩ロール(RR)と並べて配置し、順次糸条を捲回して延伸熱処理を行う。通常、1FRと2FR間では0.5〜10%、好ましくは1〜5%程度のストレッチを行い糸条を集束させる。1FRは50〜80℃、好ましくは55〜70℃に加熱して、引き取り糸条を予熱して次の延伸工程に送る。1DRと2DR間で1段目の延伸を行うが、この時ドローポイント、すなわちネッキングポイントは1DRのロール上で、ロールから離れる直前数cm以内に安定して位置するように、2FRと1DRの温度および1段目の延伸倍率を設定する。但しこれらの条件は、未延伸糸の配向の程度を考慮して変化させる必要がある。通常、2FRの温度は80〜120℃、好ましくは90〜110℃とし、1DRの温度を90〜130℃、好ましくは100〜120℃とし、かつ1段目の延伸倍率を、総合延伸倍率の10〜70%、好ましくは20〜50%に設定する。上記条件の範囲でドローポイントが2FRのロール上出口近傍に位置するように設定する。更に、ドローポイントを2FRのロール上出口に位置するように設定するためには、ロールは摩擦の低い梨地ロールであることが好ましい。
【0034】
2段目の延伸は1DRと2DR間で行うが、2DRは110〜150℃、好ましくは115〜145℃である。2段延伸の場合は総合延伸倍率に対し、1段目の延伸倍率の残りの延伸をこの間で行う。3段延伸の場合は、残りの延伸倍率を2段に分けて行う。3段延伸を行う場合の3DRの温度は120〜165℃、好ましくは125〜155℃である。2段延伸または3段延伸を終った糸条はRRとの間で0.5〜10%、好ましくは1〜7%の弛緩処理を行い、熱延伸によって生じた歪みを取るだけで無く、延伸によって達成された高配向構造を固定したり、非晶領域の配向を緩和させ熱収縮率を下げたりすることができる。RRは無加熱ロールまたは、150℃以下に加熱したロールを用いる。通常、熱延伸時に加熱された糸条の持ち込む熱によって、RRは加熱の有無にかかわらず90〜150℃の温度となる。
【0035】
また、本発明のポリ乳酸繊維の製造方法において、延伸段数は2〜5段、好ましくは3〜5段の多段延伸とすることが好ましい。延伸段数が1段の場合には高倍率に延伸することができないため、高強度の繊維が得られにくい。また、延伸段数が5段以上となる場合には設備の大型化や製造工程が複雑化するため好ましくない。
【0036】
以上のように、本発明によれば、ポリ乳酸の耐摩耗性向上用添加剤のブレンド斑を少なくし、且つこの添加剤を含有するポリ乳酸繊維の製造コストを下げることが可能となる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本文および実施例中に記述した特性の定義、測定方法、加工方法、評価方法は以下の通りである。
【0038】
A.錠剤およびポリ乳酸チップの平均重量
ランダムに選んだ100粒の重量を測定し、その値から1粒あたりの重量の平均値を算出した。
【0039】
B.錠剤の硬度
錠剤の横幅方向および厚さ方向の硬度について、富山産業社製の錠剤硬度計「TH−203MP」を用いて測定した。
【0040】
C.繊度
JIS L1090に準じて測定した。
【0041】
D.強度、伸度
JIS L1013に準じて測定した。オリエンテック社製テンシロン引張り試験機を用い、試長250mm、引張速度300mm/minの条件で強力を測定した。強度は強力を測定した試料の総繊度で除した値である。
【0042】
E.染色加工方法
精練:ソーダ灰(1g/l)、界面活性剤(0.5g/l)、98℃×20分
中間セット:140℃×3分
染色:Dianix Navy Blue ERFS 200(2%owf)、pH調整剤(0.2g/l)、1 10℃×40分
ソーピング:界面活性剤(0.2g/l)、60℃×20分
仕上げセット:140℃×3分
【0043】
F.紡糸機内のポリマー圧力
吐出量330g/分×20時間の紡糸テストにおけるポリマー圧力の最大値と最小値の差から、次の基準で評価した。
○:1MPa未満(ほぼ変動なし)
△:1MPa以上3MPa未満(やや変動あり)
×:3MPa以上(変動が大きく、不安定)
【0044】
G.製糸性
上記の紡糸テストにおける糸切れ回数から、次の基準で評価した。
○:0回(良好)
△:1〜3回(まずまず)
×:4回以上(悪い)
【0045】
H.ブレンド斑
ポリ乳酸繊維から幅15cm、長さ10mの筒編みを作製し、染色加工を施した後、目視により次の基準で評価した。
○:染色斑は確認できないレベル(ブレンド斑なし)
△:若干の染色斑あり(ややブレンド斑あり)
×:染色斑あり(ブレンド斑が大きい)
【0046】
[実施例1]
エチレンビスステアリン酸アミド(EBA)[日本油脂社製「アルフローH−50S」(粒度:1mmパス90%以上)]を、菊水製作所製加圧式錠剤成型機「BARPRESScorrect(0519SS1AY)」に供し、臼径4mm、圧縮圧力6500N、回転数:30rpmの条件にて錠剤を成形した。得られた錠剤は、図1に示すように帯状部2を有するほぼ球状の錠剤1であり、表1に示す通り1粒あたりの平均重量は42mg、硬度は横幅方向13N、厚さ方向16Nであった(錠剤1)。
【0047】
[実施例2]
錠剤の厚みを変更したこと以外は、実施例1とほぼ同様にして、表1に示す性状の錠剤を得た(錠剤2)。
【0048】
[実施例3]
圧縮圧力を2000Nに変更したこと以外は、実施例1とほぼ同様にして、表1に示す性状の錠剤を得た(錠剤3)。
【0049】
【表1】

【0050】
[実施例4]
L体比率98.5%、重量平均分子量20万、平均重量42mgの乾燥した球状のポリ乳酸チップと錠剤1とを、重量比99:1(錠剤1重量%)でブレンダーにてドライブレンドした後、溶融紡糸機に供した。このブレンドチップをエクストルーダーで220℃で溶融した後、220℃に加熱されたスピンブロックに設置された紡糸パックに溶融ポリマーを導き、孔径0.6mmで192ホールの口金から紡出した。
【0051】
口金直下には30cmの加熱筒を取り付け、筒内雰囲気温度が250℃となるように加熱した。ここで筒内雰囲気温度とは、加熱筒長の中央部で、内壁から1cm離れた部分の空気層温度である。
【0052】
加熱筒の直下には環状吹き出し型チムニーを取り付け、糸条に30℃の冷風を30m/分の速度で吹き付け冷却固化した後、油剤を付与した。油剤は、イソC24アルコール/チオジプロピオン酸エステル(40重量%)、C11〜15アルコールAOA/チオジプロピオン酸エステル(30重量%)、トリメチロールプロパンAOAジステアレート(10重量%)、C8アルコールAOA(10重量%)、硬化ヒマシ油(7重量%)、ステアリルアミンEO15(3重量%)を鉱物油で20重量%に希釈した非水系油剤を用いた。
【0053】
油剤を付与された未延伸糸条を、430m/分の速度で回転する引き取りロール(1FR)に捲回して引き取った。次いで、引き取り糸条に一旦巻き取ることなく連続して引き取りロールと給糸ロール(2FR)との間で1.5%のストレッチをかけた後、引き続いて3段熱延伸を行った後、3.0%の弛緩を与えてから3000m/分で巻き取った。1FRは60℃、2FRは100℃、第1延伸ロール(1DR)は115℃、第2延伸ロール(2DR)は140℃、第3延伸ロール(3DR)は140℃とし、弛緩ロール(RR)は非加熱とした。
【0054】
なお、弛緩ロールと巻き取り機の間には交絡ノズルを取り付け、0.2MPaの圧空を噴射することによって繊維に交絡を付与した。1段目の延伸倍率は、総合延伸倍率の34%、2段目、3段目の延伸倍率はともに33%に設定して延伸した。
【0055】
結果は表2に示す通り、紡糸テストにおいて、紡糸機内のポリマー圧力は終始安定しており、製糸性も極めて良好であった。また、得られたポリ乳酸繊維は、繊度1100dtex、強度5.2cN/dtex、伸度34%と良好な糸物性を示した。さらに、染色斑は目視で確認できないレベルであり、ポリ乳酸繊維にEBAが均一分散されていることが確認された。
【0056】
[実施例5]
ポリ乳酸チップと錠剤1との重量比を93:7(錠剤7重量%)に変更したこと以外は、実施例4とほぼ同様にして、溶融紡糸を行った。結果は表2に示す通りであった。
【0057】
[実施例6]
錠剤1を錠剤2に変更したこと以外は、実施例4とほぼ同様にして、溶融紡糸を行った。結果は表2に示す通りであった。この場合、錠剤2の平均重量(27mg)が、ポリ乳酸チップの平均重量(42mg)に対して70%未満となっており、この重量差によって、ドライブレンドでのブレンド斑および紡糸機ホッパー内での脱混和がやや生じたものと考えられる。
【0058】
[実施例7]
錠剤1を錠剤3に変更したこと以外は、実施例4とほぼ同様にして、溶融紡糸を行った。結果は表2に示す通りであった。この場合、ドライブレンド後のブレンダー内および紡糸後の紡糸機ホッパー内に錠剤の破片や削れカスが認められており、錠剤の硬度および重量変化によって、ブレンド斑や脱混和がやや生じたものと考えられる。
【0059】
[比較例1]
錠剤1をEBAの粉体[日本油脂社製「アルフローH−50S」(粒度:1mmパス90%以上)]に変更したこと以外は、実施例4とほぼ同様にして、溶融紡糸を行った。結果は表2に示す通りであり、吐出2時間後からポリマー圧力が大きく変動し、その後、口金下や延伸ローラー間での糸切れが頻発し、安定した製糸は不可能であった。また、得られた繊維は染色斑が著しく、品質に極めて劣るものであった。この場合、ドライブレンド後のブレンダー内および紡糸後の紡糸機ホッパー内に脱落したEBAの粉体が多量に認められていることから、これによって、紡糸機内でEBAのブレンド斑が生じ、さらにはポリマー圧の変動や、ポリ乳酸繊維の品質低下が生じたものと考えられる。
【0060】
[比較例2]
錠剤1をEBAの粉体[日本油脂社製「アルフローH−50TF」(粒度:53μmパス95%以上)]に変更したこと以外は、実施例4とほぼ同様にして、溶融紡糸を行った。結果は表2に示す通りであり、吐出4時間後からポリマー圧力が大きく変動し、その後、口金下や延伸ローラー間での糸切れが頻発し、安定した製糸は不可能であった。また、得られた繊維は、比較例1と同様に染色斑が著しく、品質に極めて劣るものであった。
【0061】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のポリ乳酸改質用錠剤によれば、耐摩耗性を改質するために使用する添加剤のブレンド斑を少なくすることができる。また、本発明のポリ乳酸繊維の製造方法によれば、ポリ乳酸繊維の製造コストを下げることが可能となり、表面摩擦係数が低減し、繊維製品に要求される耐摩耗性と繰り返し使用での耐久性を有するばかりか、布帛の加工工程での裁断カッターや高速のミシン針による布帛の融着を抑制し、工程通過性が向上したポリ乳酸繊維を効率的に製造することができる。
【0063】
したがって、本発明は、今後のポリ乳酸繊維の用途拡大に大きく寄与するものであるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】(A)は本発明のポリ乳酸改質用錠剤の平面図であり、(B)は同側面図である。1:錠剤、2:帯状部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸の耐摩耗性を改質するために使用される錠剤であって、脂肪酸ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドを製錠してなることを特徴とするポリ乳酸改質用錠剤。
【請求項2】
前記錠剤が、加圧法によって製造されたものであることを特徴とする請求項1に記載のポリ乳酸改質用錠剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリ乳酸改質用錠剤をポリ乳酸チップとブレンドして溶融紡糸機に供することを特徴とするポリ乳酸繊維の製造方法。
【請求項4】
前記錠剤のブレンド率を0.1〜5重量%とすることを特徴とする請求項3に記載のポリ乳酸繊維の製造方法。
【請求項5】
ポリ乳酸チップの平均重量とポリ乳酸改質用錠剤の平均重量との間に次式で示される関係が成り立つような大きさのポリ乳酸改質用錠剤を用いることを特徴とする請求項3または4に記載のポリ乳酸繊維の製造方法。
ポリ乳酸チップの平均重量×0.7≦ポリ乳酸改質用錠剤の平均重量≦ポリ乳酸チップの平均重量×1.3

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−160810(P2006−160810A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−350964(P2004−350964)
【出願日】平成16年12月3日(2004.12.3)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】