説明

ポリ乳酸樹脂組成物およびそれよりなるフィルム

【課題】耐熱性と耐湿熱性とを改善しつつ、マテリアルリサイクルに好適な、成形品の再溶融時の樹脂組成物の耐熱性低下を抑制されたポリ乳酸樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】下記要件(a)〜(c)を同時に満足するポリ乳酸樹脂組成物。
(a)N雰囲気中20℃/分で25〜260℃の昇降温を3回繰り返した際に、該昇降温操作前と操作後における融点の差が15℃以下であること。
(b)80℃95%RHの条件下100時間保持後の還元粘度低下率が30%未満であること。
(c)下記式で示されるステレオコンプレックス結晶化度(S)が80%以上であること。
S(%) = [ΔHms/(ΔHms+ΔHmh)] × 100%

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸樹脂組成物およびそれよりなるポリ乳酸系フィルムに関する。更に詳しくは、耐熱性、耐湿熱性とリサイクル性とが改善されたポリ乳酸樹脂組成物およびそれよりなるポリ乳酸系フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸に代表される生分解性ポリマーは、地球環境保全の見地から、自然環境下で分解される点で注目され、様々な生分解性ポリマーが開発されてきた。
近年ではカーボンニュートラル素材として温室効果ガスを増加させない脱石油素材としての観点からも注目が集まってきている。
【0003】
また、ポリ乳酸は、バイオマスを原料とし微生物を利用した発酵法により、原料の乳酸あるいは誘導体のラクチドが経済的に安価に製造できるようになり、汎用樹脂としてもっとも実用化が近い素材として、繊維や電子部材、特に光学フィルムにその利用が期待されている。
【0004】
ポリ乳酸の融点は約170℃であり、耐熱性を要する用途には使用できず、さらに耐湿熱性も劣るため、フィルムとしてそのまま使用すると、使用環境によっては加水分解により急速に劣化する場合があり、その使用環境が大きく制限される欠点がある。
【0005】
これに対して、先に本発明者らは、この耐熱性を克服するためにポリL乳酸とポリD乳酸を組み合わせ、リン酸エステル金属塩を結晶化促進剤として用いてステレオコンプレックス結晶を形成させ、融点を向上させたステレオコンプレックスポリ乳酸とし、更に耐加水分解性向上のためにカルボジイミド化合物を耐湿熱性改良剤として添加する技術を提案した(特許文献1参照)。
【0006】
ところで、一般にポリエステルフィルム製造工程では、製品幅に合わせるために、製膜後にエッジ部分をカットするエッジトリム工程が設けられているが、コスト面、環境保全面等から、大量に発生する切り落とし部分を回収、再溶融して製膜工程等に戻し入れる、いわゆるマテリアルリサイクルによって有効利用されている。
したがって、特にポリ乳酸をフィルム用途に展開する場合は、耐熱性、耐湿熱性とともに、上記のようにマテリアルリサイクルした場合の性能低下が少ないことも求められる。
【0007】
先に本発明者らが提案した手法は、耐熱性と耐湿熱性との改善については成果を挙げることができたが、マテリアルリサイクルを行おうとした際に、再溶融後の樹脂組成物の耐熱性が低下するためリサイクル性に劣るという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2008/102919号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は上記従来技術が有していた問題を解決し、耐熱性と耐湿熱性とを改善しつつ、マテリアルリサイクルに好適な、成形品の再溶融時の樹脂組成物の耐熱性低下を抑制されたポリ乳酸樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、驚くべきことに、先に本出願人らが提案した手法(特許文献1)において、結晶化促進剤として作用させているリン酸エステル金属塩の添加量を極微量(ppmオーダー)に設定したとき、耐熱性と耐湿熱性とは改善しつつも、再溶融時のポリ乳酸樹脂組成物の耐熱性低下が抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明によれば、
下記要件(a)〜(c)を同時に満足するポリ乳酸樹脂組成物が達成される。
(a)N雰囲気中20℃/分で25〜260℃の昇降温を3回繰り返した際に、該昇降温操作前と操作後における融点の差が15℃以下であること。
(b)80℃95%RHの条件下100時間保持後の還元粘度低下率が30%未満であること。
(c)下記式で示されるステレオコンプレックス結晶化度(S)が80%以上であること。
S(%) = [ΔHms/(ΔHms+ΔHmh)] × 100%
(式中、ΔHmsはステレオコンプレックス相ポリ乳酸の結晶融解エンタルピー(J/g)、ΔHmhはホモ相ポリ乳酸の結晶融解エンタルピー(J/g)を表す。なお、DSC測定において、190℃以上に現れる結晶融解ピークがステレオコンプレックス相ポリ乳酸の融解に帰属されるピークであり、190℃未満に現れる結晶融解ピークが、ホモ相ポリ乳酸の融解に帰属される結晶融解ピークである。)
また、上記ポリ乳酸樹脂組成物よりなるフィルムを提供することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐熱性と耐湿熱性とを改善しつつ、マテリアルリサイクルに好適な、成形品の再溶融時の樹脂組成物の耐熱性低下を抑制することが可能性であり、例えば、製造工程において、大量に切り落とし部が発生するフィルムの原料として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、下記要件(a)〜(c)を同時に満足することを特徴とする。
(a)N雰囲気中20℃/分で25〜260℃の昇降温を3回繰り返した際に、該昇降温操作前と操作後における融点の差が15℃以下であること。
(b)80℃95%RHの条件下100時間保持後の還元粘度低下率が30%未満であること。
(c)下記式で示されるステレオコンプレックス結晶化度(S)が80%以上であること。
S(%) = [ΔHms/(ΔHms+ΔHmh)] × 100%
(式中、ΔHmsはステレオコンプレックス相ポリ乳酸の結晶融解エンタルピー(J/g)、ΔHmhはホモ相ポリ乳酸の結晶融解エンタルピー(J/g)を表す。なお、DSC測定において、190℃以上に現れる結晶融解ピークがステレオコンプレックス相ポリ乳酸の融解に帰属されるピークであり、190℃未満に現れる結晶融解ピークが、ホモ相ポリ乳酸の融解に帰属される結晶融解ピークである。)
【0014】
以下、各要件について、説明する。
<要件(a)について>
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、N雰囲気中20℃/分で25〜260℃の昇降温を3回繰り返した際に、該昇降温操作前と操作後における融点の差が15℃以下であることを特徴とする。ここで、該融点の差が15℃以下であることにより、マテリアルリサイクルの原料樹脂組成物として好適に使用することができる。15℃を超える場合には、マテリアルリサイクルの材料として使用した場合に、製品として十分な特性を発揮できない。
【0015】
<要件(b)について)
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、80℃95%RHの条件下100時間保持後の還元粘度低下率が30%未満であることを特徴とする。ここで、該条件における還元粘度保持率が30%未満であれば、ポリ乳酸樹脂組成物として、実用上必要十分な湿熱安定性を発揮することができる。
【0016】
<要件(c)について>
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、下記式で示されるステレオコンプレックス結晶化度(S)が80%以上であることを特徴とする。
S(%) = [ΔHms/(ΔHms+ΔHmh)] × 100%
(式中、ΔHmsはステレオコンプレックス相ポリ乳酸の結晶融解エンタルピー(J/g)、ΔHmhはホモ相ポリ乳酸の結晶融解エンタルピー(J/g)を表す。なお、DSC測定において、190℃以上に現れる結晶融解ピークがステレオコンプレックス相ポリ乳酸の融解に帰属されるピークであり、190℃未満に現れる結晶融解ピークが、ホモ相ポリ乳酸の融解に帰属される結晶融解ピークである。)
【0017】
ステレオコンプレックスポリ乳酸には、ステレオコンプレックス相とホモ相とが共存していることがあり、このステレオコンプレックス相の比率が低い場合には、ステレオコンプレックスポリ乳酸本来の耐熱性を十分に発揮することができない。ステレオコンプレックスコンプレックスポリ乳酸としての耐熱性を発揮させるためには、上記ステレオコンプレックス結晶化度(S)が80%以上であることが必要である。
【0018】
上記に基づき、本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、下記要件(a’)〜(c’)を更に同時に満足することが好ましい。
(a’)N雰囲気中20℃/分で25〜260℃の昇降温を3回繰り返した際に、該昇降温操作前と操作後における融点の差が10℃以下であること。
(b’)80℃95%RHの条件下100時間保持後の還元粘度低下率が20%以下であること。
(c’)下記式で示されるステレオコンプレックス結晶化度(S)が100%であること。
S(%) = [ΔHms/(ΔHms+ΔHmh)] × 100%
【0019】
本発明においては、上述のポリ乳酸樹脂組成物は、ポリ乳酸(A成分)、リン酸エステル金属塩(B成分)、カルボジイミド化合物(C成分)を含み、ポリ乳酸(A成分)100重量部あたり、リン酸エステル金属塩(B成分)が0.01〜0.05重量部、カルボジイミド化合物(C成分)が0.001〜5重量部の範囲であることが好ましい(態様I)。このように、リン酸エステル金属塩(B成分)を0.01〜0.05重量部(10〜50ppm)の範囲で存在させると、得られるポリ乳酸樹脂組成物は前掲の要件(a)〜(c)を同時に満足するポリ乳酸樹脂組成物を得ることができる。
この態様Iにおいて、リン酸エステル金属塩(B成分)の含有量は、更に好ましくは、0.01〜0.03重量部(10〜30ppm)、特に、0.01〜0.015重量部(10〜15ppm)である。
【0020】
本発明において、リン酸エステル金属塩(B成分)がこのような極微量でその効果を発揮する作用は明らかでは無いが、ポリ乳酸樹脂組成物中では、リン酸エステル金属塩(B成分)とカルボジイミド化合物(C成分)との相互作用によって、リン酸エステル金属塩(B成分)のステレオコンプレックス結晶化促進作用が強化され、一方で、リン酸エステル金属塩(B成分)の含有量が多い場合には、同様にカルボジイミド化合物(C成分)との相互作用により、溶融を繰り返すことで、融点が大きく降下し、樹脂自体を劣化させていたものと推察され、このリン酸エステル金属塩(B成分)の使用量を極微量にすることで、ステレオコンプレックス結晶化促進作用の強化はされつつも、ポリ乳酸樹脂組成物の融点の降下は抑えることができたものと考えられる。
【0021】
なお、カルボジイミド化合物(C成分)の含有量は、0.001〜5重量部であることが好ましく、この範囲内にあれば、カルボキシル末端基の封止剤としての機能を十分に発揮する。カルボジイミド化合物(C成分)は多量に使用すると、カルボジイミド化合物(C成分)自体の分解等により、得られるポリ乳酸樹脂組成物の色相悪化あるいは、ポリ乳酸樹脂組成物の可塑化が起こる懸念があるので、上記の範囲内にしておくことがよい。
【0022】
また、本発明において、ポリ乳酸樹脂組成物は、ポリ乳酸(A成分)、リン酸エステル金属塩(B成分)、カルボジイミド化合物(C成分)、リン系失活剤(D成分)を含み、リン系失活剤(D成分)の含有量(当量)がリン酸エステル金属塩(B成分)の当量以上10倍量である範囲で存在させることが好ましく、リン系失活剤(D成分)の含有量(当量)がポリ乳酸(A成分)に含有される重合触媒量(当量)とリン酸エステル金属塩(B成分)(当量)との合計量以上10倍量である範囲で存在させることが特に好ましい(態様II)。
この態様IIでも同様に、前掲の要件(a)〜(c)および、要件(a’)〜(c’)を同時に満足するポリ乳酸樹脂組成物を得ることができる。
【0023】
このように、リン系失活剤(D成分)を上記で特定した量を含有させることで、この効果が発揮する作用は明らかでは無いが、本発明者らは、上述の通り、ポリ乳酸樹脂組成物中で、リン酸エステル金属塩(B成分)とカルボジイミド化合物(C成分)との相互作用によって、リン酸エステル金属塩(B成分)のステレオコンプレックス結晶化促進作用が強化され、一方で、リン酸エステル金属塩(B成分)の含有量が多い場合には、同様にカルボジイミド化合物(C成分)との相互作用により、溶融を繰り返すことで、融点が大きく降下、樹脂自体を劣化させていたものと推察しており、ここで、リン酸エステル金属塩(B成分)とカルボジイミド化合物(C成分)との相互作用及びリン系失活剤(D成分)による阻害作用とがバランスをとることによって、ステレオコンプレックス結晶化促進作用の強化はされつつも、ポリ乳酸樹脂組成物の融点の降下は抑えることができているものと考えられる。
【0024】
なお、この態様IIにおいて、リン酸エステル金属塩(B成分)、カルボジイミド化合物(C成分)の各々の含有量は、ポリ乳酸(A成分)100重量部当り、リン酸エステル金属塩(B成分)0.01〜0.05重量部、カルボジイミド化合物(C成分)0.001〜5重量部であることが好ましい。
【0025】
リン系失活剤(D成分)の含有量については、リン酸エステル金属塩(B成分)との当量以上であればよく、これにより、ポリ乳酸樹脂組成物の融点降下を抑えることができる。一方、リン系失活剤(D成分)の含有量がポリ乳酸(A成分)に含有される重合触媒量(当量)とリン酸エステル金属塩(B成分)(当量)との合計量の10倍量を超える場合には、フィルムの透明性の低下、成形加工時に使用する金型の汚染が著しくなる等の問題が生じるおそれがある。
【0026】
<ポリ乳酸(A成分)>
本発明のポリ乳酸(A成分)は、ポリL‐乳酸とポリD‐乳酸から形成されるステレオコンプレックスポリ乳酸を含み、ポリL‐乳酸、ポリD‐乳酸は、下記式で表されるL‐乳酸単位またはD‐乳酸単位から実質的になる。
【0027】
【化1】

【0028】
ポリL‐乳酸は、好ましくはL−乳酸単位が90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%、さらに高融点を実現するためには99〜100モル%のL−乳酸単位から構成されることがさらに好ましい。
【0029】
他の単位としては、D−乳酸単位、乳酸以外の共重合単位が挙げられる。L−乳酸単位以外の共重合単位は、好ましくは0〜10モル%、より好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜2モル%である。
【0030】
ポリD−乳酸は、好ましくはD−乳酸単位が90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%、さらに高融点を実現するためには99〜100モル%のD−乳酸単位から構成されることがさらに好ましい。
他の単位としては、D−乳酸単位、乳酸以外の共重合単位が挙げられる。D−乳酸単位以外の共重合成分単位は、0〜10モル%、好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜2モル%である。
【0031】
共重合単位は、2個以上のエステル結合形成可能な官能基を持つジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等由来の単位およびこれら種々の構成成分からなる各種ポリエステル、各種ポリエーテル、各種ポリカーボネート等由来の単位が例示される。
【0032】
ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。多価アルコールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、グリセリン、ソルビタン、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の脂肪族多価アルコール類あるいはビスフェノール及びこれらにエチレンオキシドが付加させたものなどの芳香族多価アルコール等が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、p−オキシ安息香酸等が挙げられる。ラクトンとしては、グリコリド、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−またはγ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトン等が挙げられる。
【0033】
ポリL‐およびポリD‐乳酸の重量平均分子量は、本発明組成物の機械物性及び成形性を両立させるため、好ましくは10万〜50万、より好ましくは11万〜35万、さらに好ましくは12から25万の範囲が選択される。
【0034】
ポリL‐およびポリD‐乳酸は、従来公知の方法で製造することができる。
例えば、L‐またはD‐ラクチドを金属含有触媒の存在下加熱し、開環重合により製造することができる。また、金属含有触媒を含有する低分子量のポリ乳酸を結晶化させた後、減圧下または加圧化、不活性ガス気流下の存在下、あるいは非存在下、加熱.固相重合させ製造することもできる。さらに、有機溶媒の存在/非存在下で、乳酸を脱水縮合させる直接重合法で製造することができる。
【0035】
重合反応は、従来公知の反応容器で実施可能であり、例えばヘリカルリボン翼等、高粘度用撹拌翼を備えた縦型反応器あるいは横型反応器を単独、または並列して使用することができる。また、回分式あるいは連続式あるいは半回分式のいずれでも良いし、これらを組み合わせてもよい。
【0036】
重合開始剤としてアルコールを用いてもよい。かかるアルコールとしては、ポリ乳酸の重合を阻害せず不揮発性であることが好ましく、例えばデカノール、ドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノールなどを好適に用いることができる。
【0037】
固相重合法では、前述した開環重合法や乳酸の直接重合法によって得られた比較的低分子量のポリ乳酸をプレポリマーとして使用する。プレポリマーは、そのガラス転移温度以上融点未満の温度範囲で予め結晶化させることが、樹脂ペレット融着防止の面から好ましい実施形態と言える。結晶化させたプレポリマーは固定された縦型或いは横型反応容器、またはタンブラーやキルンの様に容器自身が回転する反応容器(ロータリーキルン等)中に充填され、プレポリマーのガラス転移温度以上融点未満の温度範囲に加熱される。重合温度は、重合の進行に伴い段階的に昇温させても何ら問題はない。また、固相重合中に生成する水を効率的に除去する目的で前記反応容器類の内部を減圧することや、加熱された不活性ガス気流を流通する方法も好適に併用される。
【0038】
ポリ乳酸重合時使用された重合触媒は、使用に先立ち従来公知の失活剤で不活性化しておくのがポリ乳酸(A)及び本発明の樹脂組成物の熱、水分に対する安定性を向上できるため好ましい。
【0039】
かかる失活剤としてはたとえば例えばイミノ基を有し且つ重合金属触媒に配位し得るキレート配位子の群からなる有機リガンド及びジヒドリドオキソリン(I)酸、ジヒドリドテトラオキソ二リン(II,II)酸、ヒドリドトリオキソリン(III)酸、ジヒドリドペンタオキソ二リン(III)酸、ヒドリドペンタオキソ二(II,IV)酸、ドデカオキソ六リン(III)III、ヒドリドオクタオキソ三リン(III,IV,IV)酸、オクタオキソ三リン(IV,III,IV)酸、ヒドリドヘキサオキソ二リン(III,V)酸、ヘキサオキソ二リン(IV)酸、デカオキソ四リン(IV)酸、ヘンデカオキソ四リン(IV)酸、エネアオキソ三リン(V,IV,IV)酸等の酸価数5以下の低酸化数リン酸、式xHO・yPで表され、x/y=3のオルトリン酸、2>x/y>1であり、縮合度より二リン酸、三リン酸、四リン酸、五リン酸等と称せられるポリリン酸及びこれらの混合物、x/y=1で表されるメタリン酸、なかでもトリメタリン酸、テトラメタリン酸、1>x/y>0で表され、五酸化リン構造の一部をのこした網目構造を有するウルトラリン酸(これらを総称してメタリン酸系化合物と呼ぶことがある。)、及びこれらの酸の酸性塩、一価、多価のアルコール類、あるいはポリアルキレングリコール類の部分エステル、完全エスエテル、ホスホノ置換低級脂肪族カルボン酸誘導体などが例示される。触媒失活能から、式xHO・yPで表され、x/y=3のオルトリン酸、2>x/y>1であり、縮合度より二リン酸、三リン酸、四リン酸、五リン酸等と称せられるポリリン酸及びこれらの混合物、x/y=1で表されるメタリン酸、なかでもトリメタリン酸、テトラメタリン酸、1>x/y>0で表され、五酸化リン構造の一部を残した網目構造を有するウルトラリン酸(これらを総称してメタリン酸系化合物と呼ぶことがある。)、及びこれらの酸の酸性塩、一価、多価のアルコール類、あるいはポリアルキレングリコール類の部分エステルリンオキソ酸あるいはこれらの酸性エステル類、ホスホノ置換低級脂肪族カルボン酸誘導体及び上記のメタリン酸系化合物が好適に使用される。
【0040】
本発明で使用するメタリン酸系化合物は、3から200程度のリン酸単位が縮合した環状のメタリン酸あるいは立体網目状構造を有するウルトラ領域メタリン酸あるいはそれらの(アルカル金属塩、アルカリ土類金属塩、オニウム塩)を包含する。
【0041】
なかでも環状メタリン酸ナトリウムやウルトラ領域メタリン酸ナトリウム、ホスホノ置換低級脂肪族カルボン酸誘導体である、ジヘキシルホスホノエチルアセテート(以下、DHPAと略称することがある)などが好適に使用される。
【0042】
なお、本発明において、リン系失活剤(D成分)は、リン原子をその構造に含む化合物であって、ポリ乳酸(A成分)の重合触媒に対して触媒失活能を有する化合物、リン酸エステル金属塩(B成分)に対して失活効果を有する化合物であればいずれも用いることができるが、例えば、上述のうり、リンをその構造に含むものはいずれもリン系失活剤(D成分)として用いることができる。リン系失活剤(D成分)としては、これらのうち取り扱い性、失活能の観点から、DHPA、メタリン酸ナトリウム塩が好ましい。
【0043】
これらの失活剤は、上述の態様Iにおいては、ポリ乳酸100重量部に対して、0.001〜0.5重量部、好ましくは0.02〜2重量部の範囲で用いればよい。
また、態様IIにおいては、上述の通り、リン系失活剤(D成分)をリン酸エステル金属塩(B成分)との当量以上10倍量の範囲で用いればよい。
【0044】
ポリ乳酸(A成分)においてポリL‐乳酸とポリD‐乳酸との重量比は、90:10から10:90である。ポリ乳酸(A成分)のステレオコンプレックス結晶化度、ステレオコンプレックス結晶化比率の向上及びステレオコンプレックス相ポリ乳酸の結晶融解温度を高めるためには、重量比は75:25から25:75であることが好ましく、さらに好ましくは60:40から40:60の範囲であり、できるだけ50:50に近い範囲が好適に選択される。
【0045】
ポリ乳酸(A成分)の重量平均分子量は、10万から50万の範囲が本発明のポリ乳酸樹脂組成物の成形性、物性を両立させる点より好適に選択される。より好ましくは10万から30万、さらに好ましくは11万から25万の範囲が選択される。
重量平均分子量は溶離液にクロロホルムを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量値である。
【0046】
さらに本発明で用いるポリ乳酸(A成分)は、DSC測定において、結晶融解ピーク強度より下記式で定義されるステレオコンプレックス結晶化度(S)が好ましくは80%以上である。
S(%) = [ΔHms/(ΔHms+ΔHmh)] × 100%
(式中、ΔHmsはステレオコンプレックス相ポリ乳酸の結晶融解エンタルピー(J/g)、ΔHmhはホモ相ポリ乳酸の結晶融解エンタルピー(J/g)を表す。なお、DSC測定において、190℃以上に現れる結晶融解ピークがステレオコンプレックス相ポリ乳酸の融解に帰属されるピークであり、190℃未満に現れる結晶融解ピークが、ホモ相ポリ乳酸の融解に帰属される結晶融解ピークである。)
【0047】
すなわち、本発明において、ポリ乳酸(A成分)はステレオコンプレックス相が高度に形成されていることが好ましい。
ステレオコンプレックス結晶化度(S)は熱処理過程において最終的に生成するステレオコンプレックスポリ乳酸結晶の割合を示すパラメーターである。
【0048】
本発明におけるポリ乳酸(A成分)の結晶融点は、190から250℃の範囲、より好ましくは200から220℃の範囲が好適に選択され、結晶融解エンタルピーは、20J/g以上、好ましくは30J/g以上の範囲が選択される。
【0049】
ポリ乳酸(A成分)がかかる範囲のステレオコンプレックス結晶化度(S)、さらには結晶化度を有することにより、本発明のポリ乳酸樹脂組成物よりなる成型品、特にフィルムの寸法安定性、高温機械物性などを特に高いものとすることができる。
【0050】
本発明においてポリ乳酸(A成分)は、ポリL‐乳酸とポリD‐乳酸とを所定の重量比で共存、接触させることにより製造することができる。
接触は、溶媒の存在下で行うことができる。溶媒は、ポリL−乳酸とポリD−乳酸が溶解するものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、フェノール、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ブチロラクトン、トリオキサン、ヘキサフルオロイソプロパノール等の単独あるいは2種以上混合したものが好ましい。
【0051】
また混合は、溶媒の非存在下で行うことができる。即ち、ポリL‐乳酸とポリD‐乳酸とを所定量混合した後に溶融混練する方法、いずれか一方を溶融させた後に残る一方を加えて混練する方法を採用することができる。
【0052】
あるいは、接触が化学結合によりなされることも可能である。例えば、ポリL−乳酸セグメントとポリD−乳酸セグメントが結合しているブロック重合体のポリ乳酸もステレオコンプレックス相が高度に形成されやすく、かかるステレオブロックポリ乳酸も本発明のポリ乳酸(A成分)として好適に用いることが出来る。
【0053】
このようなブロック重合体は、たとえば、逐次開環重合によって製造する方法や、ポリL−乳酸とポリD−乳酸を重合しておき、あとで鎖交換反応や鎖延長剤で結合する方法、ポリL−乳酸とポリD−乳酸を重合しておいてブレンド後固相重合して鎖延長する方法、立体選択開環重合触媒を用いてラセミラクチドから製造する方法など上記の基本的構成を持つブロック共重合体であれば製造法によらず、用いることができる。
しかしながら、逐次開環重合によって得られる高融点のステレオブロック重合体、固相重合法によって得られる重合体を用いることが製造の容易さからより好ましい。
【0054】
本発明のポリ乳酸(A成分)のラクチド含有量は0から700wtppmの範囲が選択される。さらに好ましくは0から500wtppm、より好ましくは0から200wtppm、特段に好ましくは0から100wtppmの範囲が選択される。
(A成分)がかかる範囲のラクチド含有量を有することにより、本発明樹脂組成物の溶融時の安定性を向上せしめ、成形品の製造を効率よく実施できる利点及び成形品の耐加水分解性、低ガス性を高めることが出来るからである。
【0055】
ラクチド含有量を上記範囲内にするには、ポリL‐乳酸及びポリD‐乳酸の重合時点からポリ乳酸(A成分)製造の終了までの任意の段階において、従来公知のラクチド軽減処理法を単独であるいはこれらを組み合わせて実施することによって達成することが可能である。
【0056】
<リン酸エステル金属塩(B成分)>
本発明において、上述の態様Iおよび態様IIにおいて用いられるリン酸エステル金属塩としては、下記式(B−1)及び/又は(B−2)で表される化合物を用いることが好ましい。
【0057】
【化2】

(式中,R11は水素原子又は炭素原子数1から4のアルキル基を表し、R12,R13はそれぞれ独立に水素原子、または炭素原子数1から12のアルキル基を表し、Mはアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子またはアルミニウム原子を表し、pは1または2を表し、qはMがアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子のときは0を、アルミニウム原子の時は1または2を表す。)
【0058】
【化3】

(式中R14,R15及びR16は各々独立に水素原子又は炭素原子数1から12のアルキル基を表しMはアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子またはアルミニウム原子を表し、pは1または2を表し、qはMがアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子のときは0を、アルミニウム原子の時は1または2を表す。)
【0059】
これらのリン酸エステル金属塩において、M、MはNa、K、Al、Mg、Caが好ましく、特に、K、Na、Al、なかでもAlがもっとも好適に用いることができる。とりわけ、(株)ADEKA製の商品名、「アデカスタブ」NA−10、NA−11、NA−21、NA−30、NA−35、NA−71等が好適な剤として例示される。
【0060】
本発明において、リン酸エステル金属塩(B成分)は、ステレオコンプレックスポリ乳酸の結晶性を高めるために用いるものであるが、本発明のポリ乳酸樹脂組成物には、本発明の趣旨に反しない範囲において、結晶性を更に高めるために、公知の結晶化核剤を併用することもできる。
かかる剤としては、一般に結晶性樹脂の結晶化核剤として用いられるものを用いることができ、無機系の結晶化核剤および有機系の結晶化核剤のいずれをも使用することができる。
【0061】
無機系の結晶化核剤として、タルク、カオリン、シリカ、合成マイカ、クレイ、ゼオライト、グラファイト、カーボンブラック、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫化カルシウム、窒化ホウ素、モンモリロナイト、酸化ネオジム、酸化アルミニウム、フェニルフォスフォネート金属塩等が挙げられる。これらの無機系の結晶化核剤はポリ乳酸樹脂組成物中での分散性およびその効果を高めるために、各種分散助剤で処理され、一次粒子径が0.01〜0.5μm程度の高度に分散状態にあるものが好ましい。
【0062】
有機系の結晶化核剤としては、安息香酸カルシウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸リチウム、安息香酸カリウム、安息香酸マグネシウム、安息香酸バリウム、蓚酸カルシウム、テレフタル酸ジナトリウム、テレフタル酸ジリチウム、テレフタル酸ジカリウム、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、ミリスチン酸ナトリウム、ミリスチン酸カリウム、ミリスチン酸カルシウム、ミリスチン酸バリウム、オクタコ酸ナトリウム、オクタコ酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸バリウム、モンタン酸ナトリウム、モンタン酸カルシウム、トルイル酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸カリウム、サリチル酸亜鉛、アルミニウムジベンゾエート、β−ナフトエ酸ナトリウム、β−ナフトエ酸カリウム、シクロヘキサンカルボン酸ナトリウム等の有機カルボン酸金属塩、p−トルエンスルホン酸ナトリウム、スルホイソフタル酸ナトリウム等の有機スルホン酸金属塩が挙げられる。
【0063】
また、ステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、トリメシン酸トリス(tert−ブチルアミド)等の有機カルボン酸アミド、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリイソプロピレン、ポリブテン、ポリ−4−メチルペンテン、ポリ−3−メチルブテン−1、ポリビニルシクロアルカン、ポリビニルトリアルキルシラン、高融点ポリ乳酸、エチレン−アクリル酸コポマーのナトリウム塩、スチレン−無水マレイン酸コポリマーのナトリウム塩(いわゆるアイオノマー)、ベンジリデンソルビトールおよびその誘導体、例えばジベンジリデンソルビトール等が挙げられる。
なかでも珪酸カルシウム、タルク、カオリナイト、モンモリロナイトが好ましく選択される。
【0064】
リン酸エステル金属塩(B成分)の作用を強化させるための結晶化核剤の使用量はポリ乳酸(A成分)100重量部あたり0.01から1重量部、さらに好ましくは0.01から0.5重量部、より好ましくは0.01から0.1重量部の範囲が選択される。
【0065】
<カルボジイミド化合物(C成分)>
本発明のおいて、カルボジイミド化合物としては、その構造中に”−N=C=N−”骨格を有し、ポリ乳酸(A成分)のカルボキシル末端基と反応、これを封止することができるものであれば、いずれも採用することができる。
【0066】
カルボジイミド化合物(C成分)としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、オクチルデシルカルボジイミド、ジ−tert−ブチルカルボジイミド、tert−ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジベンジルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、N−オクタデシル−N’−フェニルカルボジイミド、N−ベンジル−N’−フェニルカルボジイミド、N−ベンジル−N’−トリルカルボジイミド、ジ−o−トルイルカルボジイミド、ジ−p−トルイルカルボジイミド、ビス(p−ニトロフェニル)カルボジイミド、ビス(p−アミノフェニル)カルボジイミド、ビス(p−ヒドロキシフェニル)カルボジイミド、ビス(p−クロロフェニル)カルボジイミド、ビス(0−クロロフェニル)カルボジイミド、ビス(o−エチルフェニル)カルボジイミド、ビス(p−エチルフェニル)カルボジイミド、ビス(o−イソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(p−イソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(o−イソブチルフェニル)カルボジイミド、ビス(p−イソブチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,5−ジクロロフェニル)カルボジイミド、p−フェニレンビス(o−トルイルカルボジイミド)、p−フェニレンビス(シクロへキシルカルボジイミド、p−フェニレンンビス(p−クロロフェニルカルボジイミド)、2,6,2’,6’−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミド、ヘキサメチレンビス(シクロへキシルカルボジイミド)、エチレンビス(フェニルカルボジイミド)、エチレンビス(シクロへキシルカルボジイミド)、ビス(2,6−ジメチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,6−ジエチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2−エチル−6−イソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(2−ブチル−6−イソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,4,6−トリイソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,4,6−トリブチルフェニル)カルボジイミド、ジ−β−ナフチルカルボジイミド、N−トリル−N’−シクロへキシルカルボシイミド、N−トリル−N’−フェニルカルボシイミド等のモノまたはジカルボジイミド化合物が例示される。なかでも反応性、安定性の観点からビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド、2,6,2’,6’−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミドが好ましい。またこれらのうち工業的に入手可能なジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミドの使用も好適である。
【0067】
また、カルボジイミド化合物(C成分)として、ポリ(1,6−シクロヘキサンカルボジイミド)、ポリ(4,4’−メチレンビスシクロへキシルカルボジイミド)、ポリ(1,3−シクロへキシレンカルボジイミド)、ポリ(1,4−シクロへキシレンカルボジイミド)、ポリ(4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,3’−ジメチル−4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(p−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(p−トリルカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルカルボジイミド)、ポリ(メチルジソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリエチルフェニレンカルボジイミド)等のポリカルボジイミド等が挙げられる。市販のポリカルボジイミド化合物としては例えば日清紡ケミカル(株)より市販され、「カルボライト」の商品名で販売されている「カルボジライト」LA−1、あるいはHMV−8CA等を例示することができ、ラインケミージャパン株式会社より「スタバクゾール」の商品名で販売されている、「スタバクゾール」I、「スタバクゾール」P、「スタバクゾール」P−100などが好適に例示される。
【0068】
また、上記化合物以外に、カルボジイミド化合物(C成分)として、カルボジイミド骨格を有し、その第1窒素と第2窒素とが結合基により結合されて環状構造を形成している、下記式で示される環状構造を有するカルボジイミド化合物を用いることができる。
【0069】
【化4】

【0070】
式中、Qは、脂肪族基、脂環族基、芳香族基またはこれらの組み合わせである2〜4価の結合基であり、ヘテロ原子を含有していてもよい。ヘテロ原子とはこの場合、O、N、S、Pを指す。この結合基の価のうち2つの価は環状構造を形成するために使用される。Qが3価あるいは4価の結合基である場合、単結合、二重結合、原子、原子団を介して、ポリマーあるいは他の環状構造と結合している。
【0071】
結合基は、それぞれヘテロ原子ならびに置換基を含んでいてもよい、2〜4価の炭素数1〜20の脂肪族基、2〜4価の炭素数3〜20の脂環族基、2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基またはこれらの組み合わせであり、上記で規定される環状構造を形成するための必要炭素数を有する結合基が選択される。組み合わせの例としては、アルキレン基とアリーレン基が結合した、アルキレン−アリーレン基のような構造などが挙げられる。
【0072】
この構造を有するカルボジイミド化合物(以下、環状カルボジイミドと略記することがある。)は、ポリ乳酸(A成分)との封止反応の際に、他のカルボジイミド化合物が、遊離のイソシアネートを発生させ、作業環境を劣悪なものとするのに比べ、環状カルボジイミド化合物は、遊離のイソシアネートを発生することがないので、良好な作業環境を維持することができる。特に、本発明のポリ樹脂組成物は、フィルム製膜工程におけるマテリアルリサイクルを主眼においており、この再溶融時にも遊離のイソシアネートを発生させないことは、良好な作業環境を保持するうえで、特に好ましい。
【0073】
環状カルボジイミドの環状構造中の原子数は、好ましくは8〜50、より好ましくは10〜30、さらに好ましくは10〜20、特に、10〜15が好ましい。
ここで、環状構造中の原子数とは、環状構造を直接構成する原子の数を意味し、例えば、8員環であれば8、50員環であれば50である。環状構造中の原子数が8より小さいと、環状カルボジイミド化合物の安定性が低下して、保管、使用が困難となる場合があるためである。また反応性の観点よりは環員数の上限値に関しては特別の制限はないが、50を超える原子数の環状カルボジイミド化合物は合成上困難となり、コストが大きく上昇する場合が発生するためである。かかる観点より環状構造中の原子数は好ましくは、10〜30、より好ましくは10〜20、特に好ましくは10〜15の範囲が選択される。
【0074】
なお、式中、Qは、それぞれヘテロ原子ならびに置換基を含んでいてもよい、脂肪族基、脂環族基、芳香族基またはこれらの組み合わせである2〜4価の結合基である。
結合基(Q)は、下記式(1−1)、(1−2)または(1−3)で表される2〜4価の結合基であることが好ましい。
【0075】
【化5】

【0076】
式中、ArおよびArは各々独立に、それぞれヘテロ原子ならびに置換基を含んでいてもよい、2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基である。
芳香族基として、それぞれへテロ原子を含んで複素環構造を持っていてもよい、炭素数5〜15のアリーレン基、炭素数5〜15のアレーントリイル基、炭素数5〜15のアレーンテトライル基が挙げられる。アリーレン基(2価)として、フェニレン基、ナフタレンジイル基などが挙げられる。アレーントリイル基(3価)として、ベンゼントリイル基、ナフタレントリイル基などが挙げられる。アレーンテトライル基(4価)として、ベンゼンテトライル基、ナフタレンテトライル基などが挙げられる。これらの芳香族基は置換されていても良い。置換基として、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0077】
およびRは各々独立に、それぞれヘテロ原子ならびに置換基を含んでいてもよい、2〜4価の炭素数1〜20の脂肪族基、2〜4価の炭素数3〜20の脂環族基、およびこれらの組み合わせ、またはこれら脂肪族基、脂環族基と2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基の組み合わせである。
【0078】
脂肪族基として、炭素数1〜20のアルキレン基、炭素数1〜20のアルカントリイル基、炭素数1〜20のアルカンテトライル基などが挙げられる。アルキレン基として、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ドデシレン基、へキサデシレン基などが挙げられる。アルカントリイル基として、メタントリイル基、エタントリイル基、プロパントリイル基、ブタントリイル基、ペンタントリイル基、ヘキサントリイル基、ヘプタントリイル基、オクタントリイル基、ノナントリイル基、デカントリイル基、ドデカントリイル基、ヘキサデカントリイル基などが挙げられる。アルカンテトライル基として、メタンテトライル基、エタンテトライル基、プロパンテトライル基、ブタンテトライル基、ペンタンテトライル基、ヘキサンテトライル基、ヘプタンテトライル基、オクタンテトライル基、ノナンテトライル基、デカンテトライル基、ドデカンテトライル基、ヘキサデカンテトライル基などが挙げられる。これらの脂肪族基は置換されていても良い。置換基として、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0079】
脂環族基として、炭素数3〜20のシクロアルキレン基、炭素数3〜20のシクロアルカントリイル基、炭素数3〜20のシクロアルカンテトライル基が挙げられる。シクロアルキレン基として、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロへプチレン基、シクロオクチレン基、シクロノニレン基、シクロデシレン基、シクロドデシレン基、シクロへキサデシレン基などが挙げられる。アルカントリイル基として、シクロプロパントリイル基、シクロブタントリイル基、シクロペンタントリイル基、シクロヘキサントリイル基、シクロヘプタントリイル基、シクロオクタントリイル基、シクロノナントリイル基、シクロデカントリイル基、シクロドデカントリイル基、シクロヘキサデカントリイル基などが挙げられる。アルカンテトライル基として、シクロプロパンテトライル基、シクロブタンテトライル基、シクロペンタンテトライル基、シクロヘキサンテトライル基、シクロヘプタンテトライル基、シクロオクタンテトライル基、シクロノナンテトライル基、シクロデカンテトライル基、シクロドデカンテトライル基、シクロヘキサデカンテトライル基などが挙げられる。これらの脂環族基は置換されていても良い。置換基として、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0080】
芳香族基として、それぞれへテロ原子を含んで複素環構造を持っていてもよい、炭素数5〜15のアリーレン基、炭素数5〜15のアレーントリイル基、炭素数5〜15のアレーンテトライル基が挙げられる。アリーレン基として、フェニレン基、ナフタレンジイル基などが挙げられる。アレーントリイル基(3価)として、ベンゼントリイル基、ナフタレントリイル基などが挙げられる。アレーンテトライル基(4価)として、ベンゼンテトライル基、ナフタレンテトライル基などが挙げられる。これら芳香族基は置換されていても良い。置換基として、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0081】
上記式(1−1)、(1−2)においてXおよびXは各々独立に、それぞれヘテロ原子ならびに置換基を含んでいてもよい、2〜4価の炭素数1〜20の脂肪族基、2〜4価の炭素数3〜20の脂環族基、2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基、またはこれらの組み合わせである。
【0082】
脂肪族基として、炭素数1〜20のアルキレン基、炭素数1〜20のアルカントリイル基、炭素数1〜20のアルカンテトライル基などが挙げられる。アルキレン基として、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ドデシレン基、へキサデシレン基などが挙げられる。アルカントリイル基として、メタントリイル基、エタントリイル基、プロパントリイル基、ブタントリイル基、ペンタントリイル基、ヘキサントリイル基、ヘプタントリイル基、オクタントリイル基、ノナントリイル基、デカントリイル基、ドデカントリイル基、ヘキサデカントリイル基などが挙げられる。アルカンテトライル基として、メタンテトライル基、エタンテトライル基、プロパンテトライル基、ブタンテトライル基、ペンタンテトライル基、ヘキサンテトライル基、ヘプタンテトライル基、オクタンテトライル基、ノナンテトライル基、デカンテトライル基、ドデカンテトライル基、ヘキサデカンテトライル基などが挙げられる。これらの脂肪族基は置換されていても良い。置換基として、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0083】
脂環族基として、炭素数3〜20のシクロアルキレン基、炭素数3〜20のシクロアルカントリイル基、炭素数3〜20のシクロアルカンテトライル基が挙げられる。シクロアルキレン基として、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロへプチレン基、シクロオクチレン基、シクロノニレン基、シクロデシレン基、シクロドデシレン基、シクロへキサデシレン基などが挙げられる。アルカントリイル基として、シクロプロパントリイル基、シクロブタントリイル基、シクロペンタントリイル基、シクロヘキサントリイル基、シクロヘプタントリイル基、シクロオクタントリイル基、シクロノナントリイル基、シクロデカントリイル基、シクロドデカントリイル基、シクロヘキサデカントリイル基などが挙げられる。アルカンテトライル基として、シクロプロパンテトライル基、シクロブタンテトライル基、シクロペンタンテトライル基、シクロヘキサンテトライル基、シクロヘプタンテトライル基、シクロオクタンテトライル基、シクロノナンテトライル基、シクロデカンテトライル基、シクロドデカンテトライル基、シクロヘキサデカンテトライル基などが挙げられる。これらの脂環族基は置換されていても良い。置換基として、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0084】
芳香族基として、それぞれへテロ原子を含んで複素環構造を持っていてもよい、炭素数5〜15のアリーレン基、炭素数5〜15のアレーントリイル基、炭素数5〜15のアレーンテトライル基が挙げられる。アリーレン基として、フェニレン基、ナフタレンジイル基などが挙げられる。アレーントリイル基(3価)として、ベンゼントリイル基、ナフタレントリイル基などが挙げられる。アレーンテトライル基(4価)として、ベンゼンテトライル基、ナフタレンテトライル基などが挙げられる。これらの芳香族基は置換されていても良い。置換基として、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0085】
上記式(1−1)、(1−2)においてs、kは0〜10の整数、好ましくは0〜3の整数、より好ましくは0〜1の整数である。s及びkが10を超えると、環状カルボジイミド化合物は合成上困難となり、コストが大きく上昇する場合が発生するためである。かかる観点より整数は好ましくは0〜3の範囲が選択される。なお、sまたはkが2以上であるとき、繰り返し単位としてのX、あるいはXが、他のX、あるいはXと異なっていてもよい。
【0086】
上記式(1−3)においてXは、それぞれヘテロ原子ならびに置換基を含んでいてもよい、2〜4価の炭素数1〜20の脂肪族基、2〜4価の炭素数3〜20の脂環族基、2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基、またはこれらの組み合わせである。
【0087】
脂肪族基として、炭素数1〜20のアルキレン基、炭素数1〜20のアルカントリイル基、炭素数1〜20のアルカンテトライル基などが挙げられる。アルキレン基として、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ドデシレン基、へキサデシレン基などが挙げられる。アルカントリイル基として、メタントリイル基、エタントリイル基、プロパントリイル基、ブタントリイル基、ペンタントリイル基、ヘキサントリイル基、ヘプタントリイル基、オクタントリイル基、ノナントリイル基、デカントリイル基、ドデカントリイル基、ヘキサデカントリイル基などが挙げられる。アルカンテトライル基として、メタンテトライル基、エタンテトライル基、プロパンテトライル基、ブタンテトライル基、ペンタンテトライル基、ヘキサンテトライル基、ヘプタンテトライル基、オクタンテトライル基、ノナンテトライル基、デカンテトライル基、ドデカンテトライル基、ヘキサデカンテトライル基などが挙げられる。これら脂肪族基は置換基を含んでいてもよく、置換基として、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0088】
脂環族基として、炭素数3〜20のシクロアルキレン基、炭素数3〜20のシクロアルカントリイル基、炭素数3〜20のシクロアルカンテトライル基が挙げられる。シクロアルキレン基として、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロへプチレン基、シクロオクチレン基、シクロノニレン基、シクロデシレン基、シクロドデシレン基、シクロへキサデシレン基などが挙げられる。アルカントリイル基として、シクロプロパントリイル基、シクロブタントリイル基、シクロペンタントリイル基、シクロヘキサントリイル基、シクロヘプタントリイル基、シクロオクタントリイル基、シクロノナントリイル基、シクロデカントリイル基、シクロドデカントリイル基、シクロヘキサデカントリイル基などが挙げられる。アルカンテトライル基として、シクロプロパンテトライル基、シクロブタンテトライル基、シクロペンタンテトライル基、シクロヘキサンテトライル基、シクロヘプタンテトライル基、シクロオクタンテトライル基、シクロノナンテトライル基、シクロデカンテトライル基、シクロドデカンテトライル基、シクロヘキサデカンテトライル基などが挙げられる。これら脂環族基は置換基を含んでいてもよく、置換基として、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリーレン基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0089】
芳香族基として、それぞれへテロ原子を含んで複素環構造を持っていてもよい、炭素数5〜15のアリーレン基、炭素数5〜15のアレーントリイル基、炭素数5〜15のアレーンテトライル基が挙げられる。アリーレン基として、フェニレン基、ナフタレンジイル基などが挙げられる。アレーントリイル基(3価)として、ベンゼントリイル基、ナフタレントリイル基などが挙げられる。アレーンテトライル基(4価)として、ベンゼンテトライル基、ナフタレンテトライル基などが挙げられる。これらの芳香族基は置換されていても良い。置換基として、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0090】
また、Ar、Ar、R、R、X、XおよびXはヘテロ原子を含有していてもよい、また、Qが2価の結合基であるときは、Ar、Ar、R、R、X、XおよびXは全て2価の基である。Qが3価の結合基であるときは、Ar、Ar、R、R、X、XおよびXの内の一つが3価の基である。Qが4価の結合基であるときは、Ar、Ar、R、R、X、XおよびXの内の一つが4価の基であるか、二つが3価の基である。
【0091】
本発明で用いる環状カルボジイミド化合物として、以下(a)〜(c)で表される化合物が挙げられる。
【0092】
<環状カルボジイミド化合物(a)>
本発明で用いる環状カルボジイミド化合物として下記式(2)で表される化合物(以下、「環状カルボジイミド化合物(a)」ということがある。)を挙げることができる。
【0093】
【化6】

【0094】
式中、Qは、脂肪族基、脂環族基、芳香族基またはこれらの組み合わせである2価の結合基であり、ヘテロ原子を含有していてもよい。脂肪族基、脂環族基、芳香族基は、式(1)で説明したものと同じである。但し、式(2)の化合物においては、脂肪族基、脂環族基、芳香族基は全て2価である。Qは、下記式(2−1)、(2−2)または(2−3)で表される2価の結合基であることが好ましい。
【0095】
【化7】

【0096】
式中、Ar、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkは、各々式(1−1)〜(1−3)中のAr、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkと同じである。但し、これらは全て2価である。
かかる環状カルボジイミド化合物(a)としては、以下の化合物が挙げられる。
【0097】
【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

【化14】

【化15】

【化16】

【化17】

【化18】

【化19】

【化20】

【化21】

【0098】
<環状カルボジイミド化合物(b)>
さらに、本発明で用いる環状カルボジイミド化合物として下記式(3)で表される化合物(以下、「環状カルボジイミド化合物(b)」ということがある。)を挙げることができる。
【0099】
【化22】

【0100】
式中、Qは、脂肪族基、脂環族基、芳香族基、またはこれらの組み合わせである3価の結合基であり、ヘテロ原子を含有していてもよい。Yは、環状構造を担持する担体である。脂肪族基、脂環族基、芳香族基は、式(1)で説明したものと同じである。但し、式(3)の化合物においては、Qを構成する基の内一つは3価である。
は、下記式(3−1)、(3−2)または(3−3)で表される3価の結合基であることが好ましい。
【0101】
【化23】

【0102】
式中、Ar、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkは、各々式(1−1)〜(1−3)のAr、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkと同じである。但しこれらの内の一つは3価の基である。
Yは、単結合、二重結合、原子、原子団またはポリマーであることが好ましい。Yは結合部であり、複数の環状構造がYを介して結合し、式(3)で表される構造を形成している。
かかる環状カルボジイミド化合物(b)としては、下記化合物が挙げられる。
【0103】
【化24】

【化25】

【化26】

【化27】

【0104】
<環状カルボジイミド化合物(c)>
本発明で用いる環状カルボジイミド化合物として下記式(4)で表される化合物(以下、「環状カルボジイミド化合物(c)」ということがある。)を挙げることができる。
【0105】
【化28】

【0106】
式中、Qは、脂肪族基、脂環族基、芳香族基またはこれらの組み合わせである4価の結合基であり、ヘテロ原子を保有していてもよい。ZおよびZは、環状構造を担持する担体である。ZおよびZは、互いに結合して環状構造を形成していてもよい。
脂肪族基、脂環族基、芳香族基は、式(1)で説明したものと同じである。但し、式(4)の化合物において、Qは4価である。従って、これらの基の内の一つが4価の基であるか、二つが3価の基である。
は、下記式(4−1)、(4−2)または(4−3)で表される4価の結合基であることが好ましい。
【0107】
【化29】

【0108】
Ar、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkは、各々式(1−1)〜(1−3)の、Ar、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkと同じである。但し、Ar、Ar、R、R、X、XおよびXは、これらの内の一つが4価の基であるか、二つが3価の基である。ZおよびZは各々独立に、単結合、二重結合、原子、原子団またはポリマーであることが好ましい。ZおよびZは結合部であり、複数の環状構造がZおよびZを介して結合し、式(4)で表される構造を形成している。
かかる環状カルボジイミド化合物(c)としては、下記化合物を挙げることができる。
【0109】
【化30】

【化31】

【化32】

【0110】
本発明において、環状カルボジイミド化合物の製造方法は特に限定無く、従来公知の方法により製造することができる。例として、アミン体からイソシアネート体を経由して製造する方法、アミン体からイソチオシアネート体を経由して製造する方法、アミン体からトリフェニルホスフィン体を経由して製造する方法、アミン体から尿素体を経由して製造する方法、アミン体からチオ尿素体を経由して製造する方法、カルボン酸体からイソシアネート体を経由して製造する方法、ラクタム体を誘導して製造する方法などが挙げられる。
【0111】
また、本発明の環状カルボジイミド化合物は、以下の文献に記載された方法を組み合わせ、あるいは目的とする化合物に応じて適切に改変、組み合わせすることにより製造することができる。
【0112】
Tetrahedron Letters,Vol.34,No.32,515−5158,1993.
Medium−and Large−Membered Rings from Bis(iminophosphoranes):An Efficient Preparation of Cyclic Carbodiimides, Pedro Molina etal.
Journal of Organic Chemistry,Vol.61,No.13,4289−4299,1996.
New Models for the Study of the Racemization Mechanism of Carbodiimides.Synthesis and Structure(X−ray Crystallography and 1H NMR) of Cyclic Carbodiimides, Pedro Molina etal.
Journal of Organic Chemistry,Vol.43,No8,1944−1946,1978.
Macrocyclic Ureas as Masked Isocyanates, Henri Ulrich etal.
Journal of Organic Chemistry,Vol.48,No.10,1694−1700,1983.
Synthesis and Reactions of Cyclic Carbodiimides,
R.Richteretal.
Journal of Organic Chemistry,Vol.59,No.24,7306−7315,1994.
A New and Efficient Preparation of Cyclic Carbodiimides from Bis(iminophosphoranea)and the System BocO/DMAP,Pedro Molina etal.
【0113】
製造する化合物に応じて、適切な製法を採用すればよいが、例えば、(1)下記式(a−1)で表されるニトロフェノール類、下記式(a−2)で表されるニトロフェノール類および下記式(b)で表される化合物を反応させ、下記式(c)で表されるニトロ体を得る工程、
【化33】

【化34】

【0114】
(2)得られたニトロ体を還元して下記式(d)で表わされるアミン体を得る工程、
【化35】

【0115】
(3)得られたアミン体とトリフェニルホスフィンジブロミドを反応させ下記式(e)で表されるトリフェニルホスフィン体を得る工程、および
【化36】

【0116】
(4)得られたトリフェニルホスフィン体を反応系中でイソシアネート化した後、直接脱炭酸させることによって製造したものは、本願発明に用いる環状カルボジイミド化合物として好適に用いることができる。
(上記式中、ArおよびArは各々独立に、炭素数1〜6のアルキル基またはフェニル基で置換されていてもよい芳香族基である。EおよびEは各々独立に、ハロゲン原子、トルエンスルホニルオキシ基およびメタンスルホニルオキシ基、ベンゼンスルホニルオキシ基、p−ブロモベンゼンスルホニルオキシ基からなる群から選ばれる基である。Arは、フェニル基である。Xは、下記式(i−1)から(i−3)の結合基である。)
【0117】
【化37】

(式中、nは1〜6の整数である。)
【化38】

(式中、mおよびnは各々独立に0〜3の整数である。)
【化39】

(式中、RおよびRは各々独立に、炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基を表す。)
【0118】
なお、環状カルボジイミド化合物は、高分子化合物の酸性基を有効に封止することができるが、本発明の主旨に反しない範囲において、所望により、例えば、従来公知のポリマーのカルボキシル基封止剤を併用することができる。かかる従来公知のカルボキシル基封止剤としては、特開2005−2174号公報記載の剤、例えば、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、イソシアネート化合物などが例示される。
【0119】
エポキシ化合物としては、グリシジルエーテル化合物、グリシジルエステル化合物、グリジジルアミン化合物、グリシジルイミド化合物、グリシジルアミド化合物、脂環式エポキシ化合物を好ましく使用することができる。かかる剤を配合することで、機械的特性、成型性、耐熱性、耐久性にすぐれたポリ乳酸樹脂組成物及び成型品を得ることができる。
【0120】
グリシジルエーテル化合物の例としては例えば、ステアリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、エチレンオキシドラウリルアルコールグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングルコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、その他ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタンなどのビスフェノール類とエピクロルヒドリンとの縮合反応で得られるビスフェノールAジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂などを挙げることができる。なかでもビスフェノールAジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂が好ましい。
【0121】
グリシジルエステル化合物の例としては例えば安息香酸グリシジルエステル、ステアリン酸グリシジルエステル、パーサティック酸グリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸ジグリシジルエステル、アジピン酸ジグリシジルエステル、コハク酸ジグリシジルエステル、ドデカンジオン酸ジグリシジルエステル、ピロメリット酸テトラグリシジルエステルなどが挙げられる。なかでも安息香酸グリシジルエステル、バーサティック酸グリシジルエステルが好ましい。
【0122】
グリシジルアミン化合物の例としては例えば、テトラグリシジルアミンジフェニルメタン、トリグリシジル‐p‐アミノフェノール、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルトルイジン、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、トリグリシジルイソシアヌレート、などが挙げられる。
【0123】
グリシジルイミド、グリシジルアミド化合物の例としては例えば、N‐グリシジルフタルイミド、N‐グリシジル‐4,5‐ジメチルフタルイミド、N‐グリシジル‐3,6‐ジメチルフタルイミド、N‐グリシジルサクシンイミド、N‐グリシジル‐1,2,3,4‐テトラヒドロフタルイミド、N‐グリシジルマレインイミド、N‐グリシジルベンズアミド、N‐グリシジルステアリルアミドなどが挙げられる。なかでもN‐グリシジルフタルイミドが好ましい。
【0124】
脂環式エポキシ化合物の例としては、3,4‐エポキシシクロヘキシル‐3,4‐シクロヘキシルカルボキシレート、ビス(3,4‐エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビニルシクロヘキセンジエポキシド、N‐メチル‐4,5‐エポキシシクロヘキサン‐1,2−ジカルボン酸イミド、N‐フェニル‐4,5‐エポキシシクロヘキサン‐1,2‐ジカルボン酸イミド、などが挙げられる。
【0125】
その他のエポキシ化合物としてエポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化鯨油などのエポキシ変性脂肪酸グリセリド、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、などを用いることができる。
【0126】
オキサゾリン化合物の例としては2‐メトキシ‐2‐オキサゾリン、2‐ブトキシ‐2‐オキサゾリン、2‐ステアリルオキシ−2−オキサゾリン、2−シクロヘキシルオキシ−2−オキサゾリン、2−アリルオキシ−2−オキサゾリン、2‐ベンジルオキシ‐2‐オキサゾリン、2‐p‐フェニルフェノキシ‐2‐オキサゾリン、2−メチル−2−オキサゾリン、2‐シクロヘキシル−2−オキサゾリン、2−メタアリル‐2−オキサゾリン、2−クロチル−2−オキサゾリン、2−フェニル−2−オキサゾリン、2−o−エチルフェニル−2−オキサゾリン、2−o−プロピルフェニル−2−オキサゾリン、2−p−フェニルフェニル−2−オキサゾリン、2,2’−ビス(2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4‐ブチル‐2‐オキサゾリン)、2,2’‐m‐フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’‐p−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’‐p−フェニレンビス(4,4’−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−エチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−テトラメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−ヘキサメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−エチレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−テトラメチレンビス(4,4’−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−シクロヘキシレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−ジフェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)などが挙げられる。
【0127】
さらに上記化合物をモノマー単位として含むポリオキサゾリン化合物なども挙げられる。
オキサジン化合物の例としては、2−メトキシ−5,6−ジヒドロ‐4H−1,3−オキサジン、2−ヘキシルオキシ−5,6−ジヒドロ‐4H−1,3−オキサジン、2−デシルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−シクロヘキシルオキシ−5,6−ジヒドロ‐4H−1,3−オキサジン、2−アリルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−クロチルオキシー5,6−ジヒドロ‐4H−1,3−オキサジンなどが挙げられる。
【0128】
さらに2,2’‐ビス(5,6‐ジヒドロ‐4H‐1,3‐オキサジン)、2,2’‐メチレンビス(5,6−ジヒドロ‐4H−1,3−オキサジン)、2,2’−エチレンビス(5,6−ジヒドロ‐4H‐1,3‐オキサジン)、2,2’−ヘキサメチレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2’−p−フェニレンビス(5,6−ジヒドロ‐4H−1,3−オキサジン)、2,2’−P,P’−ジフェニレンビス(5,6−ジヒドロ‐4H−1,3−オキサジン)などが挙げられる。
【0129】
さらに上記した化合物をモノマー単位として含むポリオキサジン化合物などが挙げられる。
上記オキサゾリン化合物やオキサジン化合物のなかでは2,2’−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)や2,2’−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)が好ましいものとして選択される。
【0130】
イソシアネート化合物の例としては例えば芳香族、脂肪族、脂環族イソシアネート化合物及びこれらの混合物を使用することができる。モノイソシアネート化合物としてはたとえばフェニルイソシアネート、トリルイソシアネート、ジメチルフェニルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、ブチルイソシアネート、ナフチルイソシアネートなどが挙げられる。
【0131】
ジイソシアネートとしては、具体的化合物としては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、(2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート)混合物、シクロヘキサン−4,4’−ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンー4,4’−ジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、2,6−ジイソプロピルフェニル−1,4−ジイソシアネート、などを例示することができる。
これらのイソシアネート化合物のなかでは4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、フェニルイソシアネートなどの芳香族イソシアネートが好ましい。
【0132】
本発明で用いることができるケテン化合物の例としては例えば芳香族、脂肪族、脂環族ケテン化合物及びこれらの混合物を使用することができる。
具体的化合物としてはジフェニルケテン、ビス(2,6‐ジ‐tert‐ブチルフェニル)ケテン、ビス(2,6‐ジ‐イソプロピルフェニル)ケテン、ジシクロヘキシルケテンなどを例示することができる。
これらのケテン化合物のなかではジフェニルケテン、ビス(2,6‐ジ‐tert‐ブチルフェニル)ケテン、ビス(2,6‐ジ‐イソプロピルフェニル)ケテンなどの芳香族ケテンが好ましい。
上述のカルボジイミド化合物以外の末端封止剤についても、カルボジイミド化合物(C成分)と同様に、ポリ乳酸(A成分)と反応して、遊離のイソシアネートを発生しないものを用いることが好ましい。
【0133】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物において、カルボキシル基濃度は0から30当量/tonの範囲が好適に選択される。より好ましくは0から10当量/ton、さらに好ましくは0から5当量/tonの範囲、とりわけ好ましくは0から1当量/tonの範囲の範囲が選択される。
カルボキシル基濃度がこの範囲内にある時には、ポリ乳酸(A成分)及び本発明のポリ乳酸樹成物の溶融安定性、耐湿熱安定性などの物性も良好なものとすることができる。
ポリ乳酸(A成分)のカルボキシル基濃度を10eq/ton以下にするには、上述のカルボジイミド化合物(C成分)および公知のカルボキシル末端基濃度の低減方法を好適に適用することができる。
【0134】
<ポリ乳酸樹脂組成物>
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、例えば、光学用途向けの材料として、アクリル系樹脂とブレンドして用いることができる。
アクリル系樹脂としては、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸tert−ブチルシクロヘキシル、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸エステル、より選ばれる1種以上の単量体を重合したものであり、単独でまたは2種以上混合して用いることができる。なかでも、メタクリル酸メチルの単独重合体または他の単量体との共重合体が好ましい。
【0135】
メタクリル酸メチルと共重合可能な単量体としては、他のメタリル酸アルキルエステル類、アクリル酸アルキルエステル類、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物類、アクリロニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド類、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸無水物類、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等の不飽和酸類が挙げられる。これらメタクリル酸メチルと共重合可能な単量体の中でも、特にアクリル酸アルキルエステル類は耐熱分解性に優れ、又アクリル酸アルキルエステル類を共重合させて得られるメタクリル系樹脂は成形加工時の流動性が高く好ましい。
【0136】
メタクリル酸メチルにアクリル酸アルキルエステル類を共重合させる場合のアクリル酸アルキルエステル類の使用量は、耐熱分解性の観点から0.1重量%以上であることが好ましく、耐熱性の観点から15重量%以下であることが好ましい。0.2重量%以上14重量%以下であることがさらに好ましく、1重量%以上12重量%以下であることがとりわけ好ましい。このアクリル酸アルキルエステル類の中でも、特にアクリル酸メチル及びアクリル酸エチルは、それを少量メタクリル酸メチルと共重合させても上記改良効果は著しく最も好ましい。上記メタクリル酸メチルと共重合可能な単量体は一種または二種以上組み合わせて使用することもできる。
【0137】
アクリル系樹脂の重量平均分子量は5万〜20万のものが好ましい。重量平均分子量は成形品の強度の観点から5万以上が好ましく、成形加工性、流動性の観点から20万以下が好ましい。さらに好ましい範囲は7万〜15万である。また、本発明においてはアイソタクチックポリメタクリル酸エステルとシンジオタクチックポリメタクリル酸エステルを同時に用いることもできる。
【0138】
アクリル系樹脂を製造する方法として、例えばキャスト重合、塊状重合、懸濁重合、溶液重合、乳化重合、アニオン重合等の一般に行われている重合方法を用いることができるが、光学用途としては微小な異物の混入は出来るだけ避けることが好ましく、この観点からは懸濁剤や乳化剤を用いない塊状重合や溶液重合が望ましい。溶液重合を行う場合には、単量体の混合物をトルエン、エチルベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素の溶媒に溶解して調整した溶液を用いることができる。塊状重合により重合させる場合には、通常行われるように加熱により生じる遊離ラジカルや電離性放射線照射により重合を開始させることができる。
【0139】
重合反応に用いられる開始剤としては、一般にラジカル重合において用いられる任意の開始剤を使用することができ、例えばアゾビスイソブチルニトリル等のアゾ化合物、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等の有機過酸化物が用いられ、また、特に90℃以上の高温下で重合を行わせる場合には、溶液重合が一般的であるので、10時間半減期温度が80℃以上でかつ用いる有機溶媒に可溶である過酸化物、アゾビス開始剤などが好ましく、具体的には1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、シクロヘキサンパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、1,1−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル等を挙げることができる。これらの開始剤は0.005〜5wt%の範囲で用いられる。
【0140】
重合反応に必要に応じて用いられる分子量調節剤は、一般的なラジカル重合において用いる任意のものが使用され、例えばブチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸2−エチルヘキシル等のメルカプタン化合物が特に好ましいものとして挙げられる。これらの分子量調節剤は、重合度が上記の範囲内に制御されるような濃度範囲で添加される。
【0141】
ポリ乳酸樹脂組成物中にアクリル系樹脂をブレンドする場合には、得ようとする樹脂組成物の特性(光学特性、機械特性)に基づき適宜設定すればよいが、通常は、重量比で、(ポリ乳酸(A成分)/アクリル系樹脂)で、(99/1)〜(1/99)の範囲で設定すればよく、好ましくは(99/1)〜(50/50)、より好ましくは(95/5)〜(50/50)の範囲である。
【0142】
また、本発明においてはアクリル系樹脂以外の重合体も、本発明の目的を損なわない範囲で適用することができる。適用可能な重合体としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリスチレン、スチレンアクリロニトリル共重合体等のスチレン系樹脂、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアセタール等の熱可塑性樹脂、およびフェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂などを挙げることができ、これらは単独で、あるいは併用して用いることができる。
【0143】
さらに、本発明の効果を損なわない範囲内で、各種目的に応じて任意の添加剤を配合することができる。添加剤の種類は,樹脂やゴム状重合体の配合に一般的に用いられるものであれば特に制限はない。無機充填剤,酸化鉄等の顔料,ステアリン酸,ベヘニン酸,ステアリン酸亜鉛,ステアリン酸カルシウム,ステアリン酸マグネシウム,エチレンビスステアロアミド等の滑剤,離型剤,パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、パラフィン、有機ポリシロキサン,ミネラルオイル等の軟化剤・可塑剤,ヒンダードフェノール系酸化防止剤、りん系熱安定剤等の酸化防止剤,ヒンダードアミン系光安定剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、環状イミノエステル系紫外線吸収財、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤,難燃剤,帯電防止剤,有機繊維,ガラス繊維,炭素繊維、金属ウィスカ等の補強剤,着色剤、各種成形助剤、たとえば滑剤、静電密着改良剤その他添加剤或いはこれらの混合物等が挙げられる。
【0144】
本発明におけるポリ乳酸樹脂組成物の製造方法は、特に制限されるものではなく、公知の方法が利用できる。例えば単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ブラベンダー、各種ニーダー等の溶融混練機を用いて、前掲の態様Iの場合には、ポリ乳酸(A成分)に、リン酸エステル金属塩(B成分)およびカルボジイミド化合物(C成分)、所望に応じて上述の他成分を添加、溶融混練することで、ポリ乳酸樹脂組成物を製造することができ、態様IIの場合でもポリ乳酸(A成分)に、リン酸エステル金属塩(B成分)およびカルボジイミド化合物(C成分)、リン系失活剤(D成分)、所望に応じて上述の他成分を添加、溶融混練することで、ポリ乳酸樹脂組成物を製造することができる。
【0145】
<フィルムの製造>
本発明のポリ乳酸樹脂組成物をフィルムとするには、押し出し成形、キャスト成形等の成形手法を用いて製膜することができる。例えば、Tダイ、円形ダイ等が装着された押出機等を用いて、製膜することができる。
【0146】
押し出し成形により未延伸フィルムを得る場合、事前にポリ乳酸(A成分)、リン酸エステル金属塩(B成分)およびカルボジイミド化合物(C成分)を溶融混練した材料(態様))あるいは、事前にポリ乳酸(A成分)、リン酸エステル金属塩(B成分)カルボジイミド化合物(C成分)およびリン系失活剤(D成分)を溶融混練した材料を用いることもできれば、押し出し成形時にこれらを溶融混練し、成形することもできる。
【0147】
未延伸フィルムは、溶融フィルムを冷却ドラム上に押し出し次いで該フィルムを回転する冷却ドラムに密着させ冷却することによって製造することができる。このとき溶融フィルムにはスルホン酸四級ホスホニウム塩等の静電密着剤を配合し、電極よりフィルム溶融面に非接触的に電荷を容易に印加し、それによってフィルムを、回転する冷却ドラムに密着させることにより表面欠陥の少ない未延伸フィルムを得ることができる。
【0148】
また、例えばクロロホルム,二塩化メチレン等の溶媒を用いて、ポリ乳酸樹脂を溶解後、キャスト乾燥固化することにより未延伸フィルムをキャスト成形することができる。
この操作は、上述のアクリル系樹脂をブレンドした際にも、そのまま適用することができる。
【0149】
<延伸>
本発明のポリ乳酸樹脂組成物から得られた未延伸フィルムは機械的流れ方向(MD)に一軸延伸することもできるし、機械的流れ方向に直交する方向(TD)に一軸延伸することもできる。またロール延伸とテンター延伸の逐次2軸延伸法、テンター延伸による同時2軸延伸法、チューブラー延伸による2軸延伸法等によって延伸することにより2軸延伸フィルムを製造することができる。
【0150】
ここで、延伸倍率としては少なくともどちらか一方向に、好ましくは0.1〜1000%以下、好ましくは0.2〜600%、さらに好ましくは0.3〜300%である。延伸倍率をこの範囲内とすることで、複屈折率、耐熱性、強度の観点で好ましい延伸フィルムを得ることができる。
延伸倍率は、面積延伸倍率(縦倍率×横倍率)で、好ましくは1〜15、より好ましくは1.01〜10、さらに好ましくは1.1〜5、特に好ましくは1.1〜3の範囲である。
【0151】
フィルムの結晶化度を10%以上とするために熱処理をする場合には、縦倍率あるいは横倍率は、いずれも1倍超、つまり延伸されている状態であることが必須であり、未延伸フィルム(延伸倍率1倍以下)は、例えばエレクトロニクス用光学フィルム(2006年)電気、電子材料研究会編中記載の耐熱性評価、さらに該評価を発展させた本発明の耐熱性評価(90℃、5時間の熱処理)により透明性が低下することがあり、光学フィルムとしては好ましくない。
【0152】
延伸温度は、ポリ乳酸(A成分)のガラス転移温度(Tg)から結晶化温度(Tc)の範囲が好適に選択されるが、Tgより高温で、出来るだけTcに近く、ポリ乳酸(A成分)の結晶化が進まない温度範囲がより好適に採用される。
Tgより低い温度では分子鎖が固定されているので、延伸操作を好適に進めることが困難であり、またTc以上ではポリ乳酸(A成分)の結晶化が進み、この場合も延伸工程を良好に進行させることが困難となる。
【0153】
従って延伸温度としては、Tg〜Tcの裾野にかけてのポリ乳酸(A成分)の結晶化が進行しにくい温度範囲、例えばTgから結晶化温度(Tc)を選択することが好適であり、フィルム物性、延伸工程安定化の両立の観点より、延伸温度はTg+5℃からTc℃、より好ましくはTg+10℃からTc℃、さらに好ましくはTg+20℃からTc℃の温度範囲が好適に設定される。延伸温度の上限値に関しては、フィルム物性と延伸工程安定化が相反する挙動をとるので、装置特性を勘案して、適宜設定すればよい。
【0154】
<熱固定処理>
延伸フィルムは、熱固定処理することが好ましい。この熱固定処理によって、延伸フィルムの熱収縮率を好適に低下させることができる。例えば、90℃、5時間保持後における熱収縮率を5%未満に低下させることができ、条件設定により1%以下とすることもできる。
【0155】
熱固定処理温度は、ポリ乳酸(A成分)のガラス転移温度をTg、結晶融解温度をTmとするとき、(Tg+30)℃〜(Tm−10)℃の範囲が好ましく、更に好ましくは、(Tg+40)℃〜(Tm−10)℃好ましく、特に(Tg+50)℃〜(Tm−20)℃が好ましい。
【0156】
熱固定処理は1秒間から30分間の範囲で実施することが好ましい。熱固定処理温度が高いときは相対的に短い時間で、熱固定処理温度が低いときは相対的に長い時間の熱固定処理を要する。例えばTcが140℃のフィルムでは、140℃では、少なくとも30秒間必要であるが、150℃では10秒間の熱固定処理で、フィルムの90℃、5時間での熱収縮率を5%未満とすることができる。
【0157】
かくして得られたフィルムには、所望により従来公知の方法で、表面活性化処理、たとえばプラズマ処理、アミン処理、コロナ処理を施すことも可能である。
これらの方法は、例えば、特公昭56−18381号公報、特公昭57−30854号公報の記載に準拠することにより容易に実施可能である。
【0158】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物よりなるフィルムは、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、リアプロジェクションテレビなどに使用される偏光板保護フィルム、その他光学用フィルム、太陽電池裏面保護膜用フィルム、電気絶縁用フィルム、農業用マルチフィルム、ラベル用フィルム、包装用フルム、コンデンサー用フィルム(たとえば肉厚3μm以下のフィルム)、プリンターリボン用フィルム(たとえば肉厚5μm程度のフィルム)、感熱孔版印刷用フィルム、磁気記録フィルム(たとえばQICテープ用:コンピューター記録用フィルム1/4インチテープ)、ノングレアフィルム(たとえば肉厚50μm以下のフィルム)、反射防止フィルム、反射フィルム、光拡散フィルム、位相差フィルム、透明導電性フィルム、輝度向上フィルム、プロテクトフィルム、リリースフィルム、ガスまたは水蒸気透過防止フィルム、ドライフォトレジスト用フィルムなどに有用である。
【0159】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物よりなるフィルムの厚さは1〜300μmが好ましい。更に好ましい厚さの範囲は、取扱い時のシワになり易さ(シワ防止)の観点から10μm以上であり、透明性の観点から200μm以下である。最も好ましい範囲は、20〜150μmである。
【0160】
なお、これらフィルム製造工程では、製品幅に合わせるために、製膜後にエッジ部分をカットするエッジトリム工程が設けられ、大量に切り落とし部分が発生するが、本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、上述のように、繰り返しの再溶融を行っても融点の降下が少ないため、切り落とし部分を、回収、再溶融して、製膜工程等に戻し入れても、得られるフィルム特性を損なうことが無いので、コスト面、環境保全面等の観点でも有用なものである。
【実施例】
【0161】
以下、本発明を実施例に基づき、更に具体的に説明するが、本発明はこれにより何等限定を受けるものではない。
まず、本願発明および実施例で用いた評価法を説明する。
【0162】
(1)ポリ乳酸(A成分)の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn):
ポリ乳酸(A成分)の重量平均分子量および数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定、標準ポリスチレンに換算した。
GPC測定機器は、
検出器;示差屈折計島津RID−6A
カラム;東ソ−(株)製TSKgel G3000HXL、TSKgel G4000HXL、TSKgel G5000HXLとTSKguard columnHXL−Lを直列に接続したもの、あるいは東ソ−(株)製TSKgel G2000HXL、TSKgel G3000HXLとTSKguard columnHXL−Lを直列に接続したものを使用した。
クロロホルムを溶離液とし温度40℃、流速1.0ml/minにて、濃度1mg/ml(1%ヘキサフルオロイソプロパノールを含むクロロホルム)の試料を10μl注入し測定した。
【0163】
(2)ラクチド含有量:
試料をヘキサフルオロイソプロパノールに溶解し、13C法NMRにより定量した。
【0164】
(3)カルボジイミド含有量
ニコレ(株)製Magna−750 フーリエ変換赤外分光光度計により樹脂特性吸収とカルボジイミド特性吸収の比較により、含有量を測定した。
【0165】
(4)カルボキシル基濃度
試料を精製o−クレゾールに溶解、窒素気流下溶解、ブロモクレゾールブルーを指示薬とし、0.05規定水酸化カリウムのエタノール溶液で滴定した。
【0166】
(5)ステレオコンプレックス結晶化度〔S(%)〕,結晶融解温度などのDSC測定:
DSC(TAインスツルメント社製 TA−2920)を用いて試料を、第一サイクルにおいて、窒素気流下、10℃/分で250℃まで昇温し、ガラス転移温度(Tg)、ステレオコンプレックス相ポリ乳酸結晶融解温度(Tm)及びステレオコンプレックス相ポリ乳酸結晶融解エンタルピー(ΔHms)及びホモ相ポリ乳酸結晶融解エンタルピー(ΔHmh)を測定た。
また結晶化開始温度(Tc)、結晶化温度(Tc)は上記測定試料を急速冷却し、さらに引き続き、同じ条件で第二サイクル測定を行い測定した。
ステレオコンプレックス結晶化度は上記測定で求めたステレオコンプレックス相及びホモ相ポリ乳酸結晶融解エンタルピーより、下記式により求めた値である。
S = [ ΔHms / (ΔHmh+ΔHms) ] × 100
(ただし、ΔHmsはステレオコンプレックス相結晶の融解エンタルピー、ΔHmhはホモ相ポリ乳酸結晶の融解エンタルピーである。)
【0167】
(6)繰り返しDSCによる融点降下測定(ΔTm:(Tm−Tm))
DSC(TAインストルメント社製 TA−2920)を用いて試料を、窒素気流下、20℃/分で260℃まで昇温し、260℃1分間保持した後に25℃まで20℃/分で降温させる操作を1サイクルとして、このサイクルを3回繰り返した。
1サイクル目で測定された融点(Tm)℃と3サイクル目で測定された融点(Tm)との差(ΔTm)を求めた。
【0168】
[製造例1](ポリL−乳酸の製造:PLLA1)
Lラクチド((株)武蔵野化学研究所製、光学純度100%)100重量部に対し、オクチル酸スズを30ppm加え、窒素雰囲気下、撹拌翼のついた反応機にて、190℃で2時間反応し、オクチル酸スズに対し1.2倍当量のジヘキシルホスホノアセテートを添加しその後、13.3Paで残存するラクチドを除去し、チップ化し、ポリL−乳酸を得た。
得られたL−乳酸の重量平均分子量は18.2万、ガラス転移点(Tg)58℃、融点は175℃、カルボキシル基含有量は8eq/ton、ラクチド含有は350wtppmであった。
【0169】
[製造例2](ポリD−乳酸の製造:PDLA1)
製造例1のL−ラクチドをD−ラクチド((株)武蔵野化学研究所製、光学純度100%)に変更し、他は同じ条件で重合を行い、ポリD−乳酸を得た。得られたポリD−乳酸の重量平均分子量は18.1万、ガラス転移点(Tg)58℃、融点は175℃、カルボキシル基含有量は8eq/ton、ラクチド含有量は350wtppmであった。
結果をまとめて表1中に記載する
【0170】
【表1】

【0171】
[製造例3]カルボジイミド化合物(C成分)の製造:
カルボジイミド化合物(C成分)として用いるため、下記の操作によって、環状カルボジイミドを製造した。
o−ニトロフェノール(0.11mol)とペンタエリトリチルテトラブロミド(0.025mol)、炭酸カリウム(0.33mol)、N,N−ジメチルホルムアミド200mlを撹拌装置及び加熱装置を設置した反応装置にN雰囲気下仕込み、130℃で12時間反応後、DMFを減圧により除去し、得られた固形物をジクロロメタン200mlに溶かし、水100mlで3回分液を行った。有機層を硫酸ナトリウム5gで脱水し、ジクロロメタンを減圧により除去し、中間生成物D(ニトロ体)を得た。
次に中間生成物D(0.1mol)と5%パラジウムカーボン(Pd/C)(2g)、エタノール/ジクロロメタン(70/30)400mlを、撹拌装置を設置した反応装置に仕込み、水素置換を5回行い、25℃で水素を常に供給した状態で反応させ、水素の減少がなくなったら反応を終了した。Pd/Cを回収し、混合溶媒を除去すると中間生成物E(アミン体)が得られた。
【0172】
次に撹拌装置及び加熱装置、滴下ロートを設置した反応装置に、N雰囲気下、トリフェニルホスフィンジブロミド(0.11mol)と1,2−ジクロロエタン150mlを仕込み撹拌させた。そこに中間生成物E(0.025mol)とトリエチルアミン(0.25mol)を1,2−ジクロロエタン50mlに溶かした溶液を25℃で徐々に滴下した。滴下終了後、70℃で5時間反応させる。その後、反応溶液をろ過し、ろ液を水100mlで5回分液を行った。有機層を硫酸ナトリウム5gで脱水し、1,2−ジクロロエタンを減圧により除去し、中間生成物F(トリフェニルホスフィン体)が得られた。
次に、撹拌装置及び滴下ロートを設置した反応装置に、N2雰囲気下、ジ−tert−ブチルジカーボネート(0.11mol)とN,N−ジメチル−4−アミノピリジン(0.055mol)、ジクロロメタン150mlを仕込み撹拌させる。そこに、25℃で中間生成物F(0.025mol)を溶かしたジクロロメタン100mlをゆっくりと滴下させた。滴下後、12時間反応させる。その後、ジクロロメタンを除去し得られた固形物を、精製することで、下記構造式に示す化合物(MW=516)を得た。構造はNMR、IRにより確認した。
【0173】
【化40】

【0174】
[実施例1〜4]ポリ乳酸樹脂組成物の製造:
製造例1、2で得られたポリL−乳酸とポリD−乳酸各50重量部及びリン酸エステル金属塩(B成分)((株)ADEKA製「アデカスタブ」NA−71または(株ADEKA製「アデカスタブ」NA−11))を表1に記載の量とカルボジイミド化合物(C成分)(製造例3の操作で得た環状カルボジイミドまたは、日清紡ケミカル(株)製「カルボジライト」LA−1または、ラインケミー社製スタバクゾール1)をポリL−乳酸とポリD‐乳酸との合計100重量部あたり1.0wt%を2軸混練装置の第一供給口より供給し、シリンダー温度230℃で溶融混練、さらにジヘキシルホスホノアセテートを二軸押し出し機の第二供給口より0.1wt%供給し、ベント圧13.3Paで真空排気しながら溶融混練して、水槽中にストランドを取り、チップカッターにてチップ化してポリ乳酸樹脂組成物を得た。結果を表2に示す。
【0175】
【表2】

【0176】
[実施例5〜9]
製造例1、2で得られたポリL−乳酸とポリD−乳酸各50重量部及びリン酸エステル金属塩(B成分)((株)ADEKA製「アデカスタブ」NA−71または(株ADEKA製「アデカスタブ」NA−11))を表2に記載の量とカルボジイミド化合物(C成分)(製造例3の操作で得た環状カルボジイミドまたは、日清紡ケミカル(株)製「カルボジライト」LA−1または、ラインケミー社製スタバクゾール1)をポリL−乳酸とポリD‐乳酸との合計100重量部あたり1.0wt%を2軸混練装置の第一供給口より供給し、シリンダー温度230℃で溶融混練、さらにリン系失活剤(D成分)(ジヘキシルホスホノアセテート(DHPA)またはメタリン酸ナトリム塩)を二軸押し出し機の第二供給口より0.1wt%供給し、ベント圧13.3Paで真空排気しながら溶融混練して、水槽中にストランドを取り、チップカッターにてチップ化してポリ乳酸樹脂組成物を得た。結果を表3に示す。
【0177】
【表3】

【0178】
[比較例1〜3]
実施例1の操作に準拠し、製造例1で得られたポリL−乳酸とポリD−乳酸各50重量部とリン酸エステル金属塩(B成分)とカルボジイミド化合物(C成分)を表4の組成で溶融混合し、ペレット化してポリ乳酸樹脂組成物を作製した。結果と合わせて表4に示す。
【0179】
【表4】

【0180】
[実施例10]未延伸フィルムの製造:
実施例5の操作によって得られたポリ乳酸樹脂組成物のチップを110℃で5時間乾燥した後、2軸押出機にてシリンダー温度、230℃で溶融混練し、ダイ温度、220℃で210μmのフィルム状に溶融押し出し、冷却ドラム表面に密着、固化させ未延伸フィルムを得た。得られたフィルムを一定幅にスリットする際に発生したフィルム屑を再溶融し、実施例5の操作によって得られたポリ乳酸樹脂組成物のチップと溶融混練し、再度同条件でフィルムを製膜したところ、全く支障がないフィルムを得ることができた。また、製膜時、再溶融時など、作業環境において、カルボジイミド化合物に起因するイソシアネート臭は感知されず、良好な作業環境を保持することができた。
【0181】
[実施例11]延伸フィルムの製造:
実施例5の操作によって得られたポリ乳酸樹脂組成物のチップを110℃で5時間乾燥した後、2軸押出機にてシリンダー温度、230℃で溶融混練し、ダイ温度、220℃で210μmのフィルム状に溶融押し出し、冷却ドラム表面に密着、固化させ未延伸フィルムを得た。得られた未延伸フィルムを縦方向(MD)に1.1倍、横方向(TD)に1.1倍延伸、さらに120℃で熱固定処理を行い厚さ約40μmの2軸延伸フィルムを得た。
得られたフィルムを一定幅にスリットする際に発生したフィルム屑を再溶融し、実施例5の操作によって得られたポリ乳酸樹脂組成物のチップと溶融混練し、再度同条件で延伸フィルムを製造したところ、全く支障の無いフィルムを得ることができた。また、製膜時、再溶融時など、作業環境において、カルボジイミド化合物に起因するイソシアネート臭は感知されず、良好な作業環境を保持することができた。
【0182】
[実施例12]延伸フィルムの製造:
実施例11の操作において、得られた未延伸フィルムを縦方向(MD)に3.0倍、横方向(TD)に3.0倍延伸、さらに190℃で熱固定処理を行い厚さ約40μmの2軸延伸フィルムを得た。
得られたフィルムを一定幅にスリットする際に発生したフィルム屑を再溶融し、実施例5の操作によって得られたポリ乳酸樹脂組成物のチップと溶融混練し、再度同条件で延伸フィルムを製造したところ、全く支障の無いフィルムを得ることができた。また、製膜時、再溶融時など、作業環境において、カルボジイミド化合物に起因するイソシアネート臭は感知されず、良好な作業環境を保持することができた。
【0183】
[実施例13]
実施例9の操作によって得られたポリ乳酸樹脂組成物のチップを110℃で5時間乾燥した後、2軸押出機にてシリンダー温度、230℃で溶融混練し、ダイ温度、220℃で210μmのフィルム状に溶融押し出し、冷却ドラム表面に密着、固化させ未延伸フィルムを得た。得られた未延伸フィルムを縦方向(MD)に3.0倍、横方向(TD)に3.0倍延伸、さらに190℃で熱固定処理を行い厚さ約40μmの2軸延伸フィルムを得た。
得られたフィルムを一定幅にスリットする際に発生したフィルム屑を再溶融し、実施例5の操作によって得られたポリ乳酸樹脂組成物のチップと溶融混練し、再度同条件で延伸フィルムを製造したところ、全く支障の無いフィルムを得ることができた。また、製膜時、再溶融時など、作業環境において、カルボジイミド化合物に起因するイソシアネート臭は感知されず、良好な作業環境を保持することができた。
【0184】
[実施例14]
実施例1の操作によって得られたポリ乳酸樹脂組成物のチップを110℃で5時間乾燥した後、2軸押出機にてシリンダー温度、230℃で溶融混練し、ダイ温度、220℃で210μmのフィルム状に溶融押し出し、冷却ドラム表面に密着、固化させ未延伸フィルムを得た。得られた未延伸フィルムを縦方向(MD)に3.0倍、横方向(TD)に3.0倍延伸、さらに190℃で熱固定処理を行い厚さ約40μmの2軸延伸フィルムを得た。
得られたフィルムを一定幅にスリットする際に発生したフィルム屑を再溶融し、実施例5の操作によって得られたポリ乳酸樹脂組成物のチップと溶融混練し、再度同条件で延伸フィルムを製造したところ、全く支障の無いフィルムを得ることができた。また、製膜時、再溶融時など、作業環境において、カルボジイミド化合物に起因するイソシアネート臭は感知されず、良好な作業環境を保持することができた。
【0185】
[実施例15]
実施例2の操作によって得られたポリ乳酸樹脂組成物のチップを110℃で5時間乾燥した後、2軸押出機にてシリンダー温度、230℃で溶融混練し、ダイ温度、220℃で210μmのフィルム状に溶融押し出し、冷却ドラム表面に密着、固化させ未延伸フィルムを得た。得られた未延伸フィルムを縦方向(MD)に3.0倍、横方向(TD)に3.0倍延伸、さらに190℃で熱固定処理を行い厚さ約40μmの2軸延伸フィルムを得た。
得られたフィルムを一定幅にスリットする際に発生したフィルム屑を再溶融し、実施例5の操作によって得られたポリ乳酸樹脂組成物のチップと溶融混練し、再度同条件で延伸フィルムを製造したところ、全く支障の無いフィルムを得ることができた。但し、製膜時、再溶融時など、作業環境において、カルボジイミド化合物に起因する遊離のイソシアネートが感知された。
【0186】
[比較例4]
比較例1の操作によって得られたポリ乳酸樹脂組成物のチップを110℃で5時間乾燥した後、2軸押出機にてシリンダー温度、230℃で溶融混練し、ダイ温度、220℃で210μmのフィルム状に溶融押し出し、冷却ドラム表面に密着、固化させ未延伸フィルムを得た。得られた未延伸フィルムを縦方向(MD)に3.0倍、横方向(TD)に3.0倍延伸、さらに190℃で熱固定処理を行い厚さ約40μmの2軸延伸フィルムを得た。
得られた延伸フィルムを一定幅にスリットする際に発生したフィルム屑を再溶融し、比較例1の操作によって得られたポリ乳酸樹脂組成物のチップと溶融混練し、再度同条件で延伸フィルムを製造したところ、製膜は可能であったが、目的とする物性を有する未延伸フィルムは得ることができず、また、190℃での熱固定処理時にフィルムに破断が発生し、延伸フィルムは得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0187】
本発明によれば、耐熱性と耐湿熱性とを改善しつつ、マテリアルリサイクルに好適な、成形品の再溶融時の樹脂組成物の耐熱性低下を抑制されたポリ乳酸樹脂組成物を提供することができ、成型品、フィルム、繊維に適用でき、特に、製造時工程においてポリマーのカット端(エッジトリム部)が発生しやすいフィルム用途に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記要件(a)〜(c)を同時に満足するポリ乳酸樹脂組成物。
(a)N雰囲気中20℃/分で25〜260℃の昇降温を3回繰り返した際に、該昇降温操作前と操作後における融点の差が15℃以下であること。
(b)80℃95%RHの条件下100時間保持後の還元粘度低下率が30%未満であること。
(c)下記式で示されるステレオコンプレックス結晶化度(S)が80%以上であること。
S(%) = [ΔHms/(ΔHms+ΔHmh)] × 100%
(式中、ΔHmsはステレオコンプレックス相ポリ乳酸の結晶融解エンタルピー(J/g)、ΔHmhはホモ相ポリ乳酸の結晶融解エンタルピー(J/g)を表す。なお、DSC測定において、190℃以上に現れる結晶融解ピークがステレオコンプレックス相ポリ乳酸の融解に帰属されるピークであり、190℃未満に現れる結晶融解ピークが、ホモ相ポリ乳酸の融解に帰属される結晶融解ピークである。)
【請求項2】
下記要件(a’)〜(c’)を更に同時に満足する、請求項1記載のポリ乳酸樹脂組成物。
(a’)N雰囲気中20℃/分で25〜260℃の昇降温を3回繰り返した際に、該昇降温操作前と操作後における融点の差が10℃以下であること。
(b’)80℃95%RHの条件下100時間保持後の還元粘度低下率が20%以下であること。
(c’)下記式で示されるステレオコンプレックス結晶化度(S)が100%であること。
S(%) = [ΔHms/(ΔHms+ΔHmh)] × 100%
【請求項3】
ポリ乳酸(A成分)、リン酸エステル金属塩(B成分)、カルボジイミド化合物(C成分)、を含み、A成分100重量部あたり、B成分が0.01〜0.05重量部、C成分が0.001〜5重量部の範囲である、請求項1記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項4】
ポリ乳酸(A成分)、リン酸エステル金属塩(B成分)、カルボジイミド化合物(C成分)、リン系失活剤(D成分)を含み、D成分の含有量(当量)がB成分との当量以上10倍量以下の範囲である、請求項1記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項5】
リン酸エステル金属塩(B成分)が、下記式(B−1)及び/又は(B−2)で表される化合物である、請求項3または4記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【化1】

(式中,R11は水素原子又は炭素原子数1から4のアルキル基を表し、R12,R13はそれぞれ独立に水素原子、または炭素原子数1から12のアルキル基を表し、Mはアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子またはアルミニウム原子を表し、pは1または2を表し、qはMがアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子のときは0を、アルミニウム原子の時は1または2を表す。)
【化2】

(式中R14,R15及びR16は各々独立に水素原子又は炭素原子数1から12のアルキル基を表しMはアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子またはアルミニウム原子を表し、pは1または2を表し、qはMがアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子のときは0を、アルミニウム原子の時は1または2を表す。)
【請求項6】
カルボジイミド化合物(C成分)が、カルボジイミド骨格を有し、その第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されて環状構造を形成している、下記式で示される環状構造を有するカルボジイミド化合物である、請求項3または4記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【化3】

(式中、Qは、脂肪族基、脂環族基、芳香族基またはこれらの組み合わせである2〜4価の結合基であり、ヘテロ原子を含有していてもよい。)
【請求項7】
環状構造を形成する原子数が8〜50である、請求項6記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項8】
リン系失活剤(D成分)が、メタリン酸系失活剤およびホスホノ脂肪酸エステル系失活剤から選ばれる、請求項4記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか記載のポリ乳酸樹脂組成物からなるポリ乳酸系未延伸フィルム。
【請求項10】
請求項9記載のポリ乳酸系未延伸フィルムを、少なくとも1方向に延伸を施し、(Tg+30℃)〜(融点−10℃)の温度範囲で熱固定処理して得られるポリ乳酸系延伸フィルム。

【公開番号】特開2011−162735(P2011−162735A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29996(P2010−29996)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】