説明

ポリ乳酸樹脂組成物及びポリ乳酸樹脂成形体

【課題】ステレオコンプレックスの形成可能なポリ乳酸樹脂の結晶化速度を十分に大きくし、且つステレオコンプレックス結晶比率を高くしたポリ乳酸樹脂組成物、該ポリ乳酸樹脂組成物を溶融成形して結晶化させたポリ乳酸樹脂成形体を提供する。
【解決手段】ポリ乳酸樹脂組成物として、下記のポリ乳酸樹脂100質量部当たり、下記の化1で示される含窒素化合物を0.05〜30質量部の割合で含有するものを用いた。
ポリ乳酸樹脂:ステレオコンプレックス結晶を生成し得るポリ乳酸ブレンド体及び/又はポリ乳酸ステレオブロック共重合体
【化1】


{化1において、
:炭素数8〜22の脂肪族アシル基
,A:水素原子又は2−ヒドロキシエチル基(但し、A及びAのうちで少なくともいずれか一方は2−ヒドロキシエチル基)}

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリ乳酸樹脂組成物及びポリ乳酸樹脂成形体に関する。ポリ乳酸樹脂は、微生物や酵素の働きにより分解する性質、いわゆる生分解性を示し、人体に無害な乳酸や二酸化炭素と水になることから、医療用材料や汎用樹脂の代替物として注目されている。このようなポリ乳酸樹脂は結晶性の樹脂であるが、その結晶化速度は小さく、実際には非晶性の樹脂に近い挙動を示す。したがって、もともとポリ乳酸樹脂はガラス転移温度付近で急激に且つ極度に軟化するため、耐熱性、成形性、離型性等の点で十分な物理特性を得ることが困難であった。本発明は、かかるポリ乳酸樹脂の物理特性を向上するものであって、ポリ乳酸樹脂の結晶化速度を十分に大きくし、且つステレオコンプレックス結晶比率を高くしたポリ乳酸樹脂組成物及びポリ乳酸樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリ乳酸樹脂の結晶化速度を大きくし、且つステレオコンプレックス結晶比率を高くしたポリ乳酸樹脂組成物として、ステレオコンプレックスの形成可能なポリ乳酸樹脂に対し、1)リン酸エステル金属塩を用いた例(例えば、特許文献1参照)、2)芳香族アミド化合物を用いた例(例えば、特許文献2参照)、3)芳香族尿素化合物を用いた例(例えば、特許文献3参照)、4)オキサミド誘導体を用いた例(例えば、特許文献4参照)、5)ホスホノ脂肪酸エステルを用いた例(例えば、特許文献5参照)等の提案がある。
【0003】
しかし、前記した1)〜5)の提案には、ポリ乳酸樹脂の結晶化速度を十分に大きくし、且つステレオコンプレックス結晶比率を高くするまでには到っていないという問題がある。
【特許文献1】特開2003−192884号公報
【特許文献2】特開2005−042084号公報
【特許文献3】特開2005−187630号公報
【特許文献4】特開2005−255806号公報
【特許文献5】特開2007−269960号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、ステレオコンプレックスの形成可能なポリ乳酸樹脂の結晶化速度を十分に大きくし、且つステレオコンプレックス結晶比率を高くしたポリ乳酸樹脂組成物、該ポリ乳酸樹脂組成物を溶融成形して結晶化させたポリ乳酸樹脂成形体を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記の課題を解決する本発明は、下記のポリ乳酸樹脂100質量部当たり、下記の化1で示される含窒素化合物を0.05〜30質量部の割合で含有することを特徴とするポリ乳酸樹脂組成物に係る。
【0006】
ポリ乳酸樹脂:ステレオコンプレックス結晶を生成し得るポリ乳酸ブレンド体及び/又はポリ乳酸ステレオブロック共重合体。



【0007】
【化1】

【0008】
化1において、
:炭素数8〜22の脂肪族アシル基
,A:水素原子又は2−ヒドロキシエチル基(但し、A及びAのうちで少なくともいずれか一方は2−ヒドロキシエチル基)
【0009】
また本発明は、前記した本発明のポリ乳酸樹脂組成物を溶融成形して結晶化させたポリ乳酸樹脂成形体に係る。
【0010】
先ず本発明のポリ乳酸樹脂組成物について説明する。本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂と化1で示される含窒素化合物とを含有して成るものである。このポリ乳酸樹脂は、1)ステレオコンプレックス結晶を生成し得るポリ乳酸ブレンド体、2)ポリ乳酸ステレオブロック共重合体、又は3)前記1)と2)との混合物である。
【0011】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物に用いるポリ乳酸樹脂としてのポリ乳酸ブレンド体は、ポリL−乳酸とポリD−乳酸とからなるステレオコンプレックス結晶を生成し得るポリ乳酸ブレンド体である。ここでステレオコンプレックス結晶を生成し得るポリ乳酸ブレンド体とは、ポリ乳酸ブレンド体から結晶化したものを広角X線回折で観測したときにステレオコンプレックス結晶特有のピーク(2θ=12°、21°、24°)が少しでも観測されるものであって、ホモ結晶特有のピーク(2θ=15°、16°、18.5°、22.5°)が同時に観測されるものであってもよいものと定義される。これについての詳細は
Macromolecules 1987年、20巻、904〜906頁に記載されている。
【0012】
前記のポリ乳酸ブレンド体に用いるポリL−乳酸とポリD−乳酸において、ポリL−乳酸及びポリD−乳酸の質量平均分子量は、特に制限されないが、10000〜500000とするのが好ましく、50000〜450000とするのがより好ましく、100000〜400000とするのが特に好ましい。ポリL−乳酸及びポリD−乳酸の質量平均分子量が10000未満であると、得られる成形体の強度や弾性率等の機械物性が低下する傾向を示し、またポリL−乳酸及びポリD−乳酸の質量平均分子量が500000を超えると、その成形加工性が低下する傾向を示す。ポリL−乳酸とポリD−乳酸との割合は、これも特に制限されないが、ポリL−乳酸/ポリD−乳酸=30/70〜70/30(質量比)とするのが好ましく、35/65〜65/35(質量比)とするのがより好ましく、45/55〜55/45(質量比)とするのが特に好ましい。ポリL−乳酸とポリD−乳酸との含有割合の差が大きいほど、得られる成形体におけるステレオコンプレックス結晶の含有割合が減少し、得られる成形体の機械物性が低下する傾向を示す。ポリL−乳酸及びポリD−乳酸の光学純度は、これもまた特に制限されないが、それぞれ85モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましく、95モル%以上であることが更に好ましく、98モル%以上であることが特に好ましい。ポリL−乳酸及びポリD−乳酸の光学純度が85モル%未満であると、立体規則性の低下により結晶化が阻害される傾向を示す。
【0013】
以上説明したポリ乳酸ブレンド体の製造方法は特に制限されない。これには例えば、1)ポリL−乳酸とポリD−乳酸とをクロロホルム等の溶媒を用いて混合した後に溶媒を除去する方法、2)ポリL−乳酸とポリD−乳酸とを160〜260℃程度の温度に加熱して溶融混合する方法等が挙げられる。ポリ乳酸ブレンド体を製造するための原料として用いるポリL−乳酸及びポリD−乳酸の製造方法も特に制限されない。これには例えば、L−乳酸又はD−乳酸の直接重縮合法、乳酸の環状2量体であるL−ラクチド又はD−ラクチドの開環重合法が挙げられる。
【0014】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物に用いるポリ乳酸樹脂としてのポリ乳酸ステレオブロック共重合体は、L−乳酸から形成された立体繰返し単位から構成されたポリL−乳酸からなる規則性ブロック(ステレオブロック)と、D−乳酸から形成された立体繰返し単位から構成されたポリD−乳酸からなる規則性ブロックとを有するポリマーである。かかるポリ乳酸ステレオブロック共重合体は、ポリ乳酸ステレオブロック共重合体から結晶化したものを広角X線回折で観測したときにステレオコンプレックス結晶特有のピーク(2θ=12°、21°、24°)が少しでも観測されるものであって、ホモ結晶特有のピーク(2θ=15°、16°、18.5°、22.5°)が同時に観測されるものであってもよいものと定義される。これについての詳細は Macromolecules 1987年、20巻、904〜906頁に記載されている。
【0015】
前記のポリ乳酸ステレオブロック共重合体は、その構成単位として、L−乳酸から形成された構成単位とD−乳酸から形成された構成単位とを有するものである。L−乳酸から形成された構成単位とD−乳酸から形成された構成単位との割合は、特に制限されないが、L−乳酸から形成された構成単位/D−乳酸から形成された構成単位=30/70〜70/30(モル%比)とするのが好ましく、35/65〜65/35(モル%比)とするのがより好ましく、45/55〜55/45(モル%比)とするのが特に好ましい。L−乳酸から形成された構成単位の割合とD−乳酸から形成された構成単位の割合との差が大きいほど、得られる成形体におけるステレオコンプレックス結晶の含有割合が減少し、結晶化速度の向上の程度が減少する傾向を示す。またステレオコンプレックス結晶を構成している構成単位が、少なくとも10個以上連続して同じ光学異性体(L−乳酸又はD−乳酸)から形成された構成単位となっているものが好ましい。ポリ乳酸ステレオブロック共重合体の質量平均分子量は、特に制限されないが、10000〜500000とするのが好ましく、50000〜4500000とするのがより好ましく、100000〜400000とするのが特に好ましい。ポリ乳酸ステレオブロック共重合体の質量平均分子量が10000未満であると、得られる成形体の強度や弾性率等の機械物性が低下する傾向を示し、逆にポリ乳酸ステレオブロック共重合体の質量平均分子量が500000を超えると、その成形加工性が低下する傾向を示す。
【0016】
以上説明したポリ乳酸ステレオブロック共重合体の製造方法は特に制限ない。これには例えば、1)L−ラクチドとD−ラクチドとを交互に重合させる方法(例えば、特開2002−356543号公報)、2)ポリL−乳酸とポリD−乳酸とを多官能性化合物と反応させる方法(例えば、特開2002−356543号公報)、3)嵩高いアルミニウム化合物によりラセミラクチドを非立体選択的に重合させる方法(例えば、Journal of the American Chemical Society、2002年、127巻、1316〜1326頁)等が挙げられる。
【0017】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物に用いるポリ乳酸樹脂は、以上説明したような、ステレオコンプレックス結晶を生成し得るポリ乳酸ブレンド体、ポリ乳酸ステレオブロック共重合体及びこれらの混合物から選ばれるものであるが、なかでもステレオコンプレックス結晶を生成し得るポリ乳酸ブレンド体が好ましい。
【0018】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物に用いる化1で示される含窒素化合物において、化1中のRとしては、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、エイコセノイル基、ドコサノイル基、オクタデセノイル基、ヘキサデセノイル基等の炭素数8〜22の脂肪族アシル基が挙げられるが、なかでも炭素数12〜18の脂肪族アシル基が好ましい。
【0019】
また化1中のA及びAは、水素原子又はヒドロキシエチル基であって、A及びAのうちで少なくともいずれか一方は2−ヒドロキシエチル基である場合のものであるが、なかでもA及びAとしては共に2−ヒドロキシエチル基が好ましい。
【0020】
化1で示される含窒素化合物の具体例としては、1)N−2−ヒドロキシエチルオクタンアミド、N−2−ヒドロキシエチルデカンアミド、N−2−ヒドロキシエチルドデカンアミド、N−2−ヒドロキシエチルテトラデカンアミド、N−2−ヒドロキシエチルヘキサデカンアミド、N−2−ヒドロキシエチルオクタデカンアミド、N−2−ヒドロキシエチルエイコサンアミド、N−2−ヒドロキシエチルドコサンアミド、N−2−ヒドロキシエチルヘキサデセンアミド、N−2−ヒドロキシエチルオクタデセンアミド等のアシル基の炭素数8〜22のN−置換アルカン(又はアルケン)アミド、2)N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)オクタンアミド、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)デカンアミド、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)ドデカンアミド、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)テトラデカンアミド、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)ヘキサデカンアミド、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)オクタデカンアミド、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)エイコサンアミド、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)ドコサンアミド、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)ヘキサデセンアミド、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)オクタデセンアミド等のアシル基の炭素数8〜22のN,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アルカン(又はアルケン)アミド等が挙げられる。なかでも、化1で示される窒素化合物としては、炭素数8〜22のN,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アルカン(又はアルケン)アミドが好ましく、炭素数12〜18のN,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アルカン(又はアルケン)アミドがより好ましく、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)ドデカンアミド、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)テトラデカンアミド、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)ヘキサデカンアミドか特に好ましい。
【0021】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、以上説明したポリ乳酸樹脂100質量部当たり、化1で示される含窒素化合物を0.05〜30質量部の割合で含有するものとするが、0.1〜25質量部の割合で含有するものとするのが好ましく、0.3〜5質量部の割合で含有するものとするのがより好ましい。ポリ乳酸樹脂100質量部当たり、化1で示される含窒素化合物が0.05質量部未満では、得られるポリ乳酸樹脂成形体におけるステレオコンプレックス結晶の含有割合が減少し、結晶化速度の向上の程度が減少する傾向を示す。逆に、ポリ乳酸樹脂100質量部当たり、化1で示される含窒素化合物の含有割合が30質量部を超えると、化1で示される含窒素化合物による可塑剤的作用が強く発現するようになって、得られるポリ乳酸樹脂成形体の剛性が低下する傾向を示し、化1で示される含窒素化合物がブリードアウトしてポリ乳酸樹脂成形体の外観が低下する傾向を示す。
【0022】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、その特性を損なわない限りにおいて、タルク、層状粘土鉱物等の充填剤、可塑剤、顔料、安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、難燃剤、離型剤、滑剤、染料、抗菌剤、末端封止剤等の添加剤を含有することもできる。このような添加剤の含有割合は、ポリ乳酸樹脂100質量部当たり、20質量%以下とするのが好ましい。
【0023】
次に本発明のポリ乳酸樹脂成形体について説明する。本発明のポリ乳酸樹脂成形体は、以上説明したような本発明のポリ乳酸樹脂組成物を溶融成形して結晶化させたものである。本発明のポリ乳酸樹脂組成物を溶融成形する際の溶融温度は特に制限されないが、160〜260℃とするのが好ましい。この溶融温度が160℃未満であると、ポリ乳酸樹脂組成物の溶融が不十分となり、その成分が均一に分散しにくくなる傾向がある。逆に、この溶融温度が260℃を超えると、ポリ乳酸樹脂の分子量が低下して得られるポリ乳酸樹脂成形体の物性が損なわれる傾向がある。
【0024】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物を溶融成形する際の溶融温度の保持時間は特に制限されないが、0.1〜30分とするのが好ましい。溶融温度の保持時間が0.1分未満であると、得られるポリ乳酸樹脂成形体におけるポリ乳酸樹脂の結晶化が不十分となる傾向があり、逆に溶融温度の保持時間が30分を超えると、ポリ乳酸樹脂の分子量が低下して、得られるポリ乳酸樹脂成形体の物性が損なわれる傾向がある。
【0025】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物を溶融成形して結晶化させる方法は特に制限されないが、溶融状態から30〜160℃の温度まで冷却し、10秒間〜30分間、その温度で保持する方法が好ましい。保持時間が10秒間未満であると、得られるポリ乳酸樹脂成形体におけるポリ乳酸樹脂の結晶化が不十分となる傾向があり、逆に保持時間が30分間を超えると、ポリ乳酸樹脂成形体を得るのに長時間が必要となり、実用上好ましくない傾向がある。
【0026】
以上説明した本発明のポリ乳酸樹脂成形体のなかでも、ポリ乳酸樹脂組成物として前記のポリ乳酸ブレンド体と化1で示される含窒素化合物とを含有するものを用いたポリ乳酸樹脂成形体であって、その示差走査熱量測定(以下、DSC測定という)による溶融状態からの降温測定(降温速度:20℃/分)により求めた結晶化ピーク温度が115℃以上であり且つ結晶化ピークの発熱量が20J/g以上であるものが好ましく、結晶化ピークの発熱量が30J/g以上であるものがより好ましい。なかでも、DSC測定により求めたホモ結晶融解ピークの融解吸熱量(ΔHm,homo)とステレオコンプレックス結晶融解ピークの融解吸熱量(ΔHm,stereo)とから求めたステレオコンプレックス結晶比率{ステレオ結晶比率:(ΔHm,stereo/(ΔHm,homo+ΔHm,stereo)×100(%)}が90%以上のものが好ましく、95%以上のものがより好ましい。冷却過程でのかかる降温測定における結晶化温度(ピークトップ温度)が高温側で観測されるほど、結晶化速度が大きいことになり、また冷却過程でのかかる降温測定における結晶化に基づく発熱量(ピーク発熱量)が大きいほど、結晶化度向上効果が高いことになる。更にポリ乳酸樹脂成形体における結晶部分のうちでステレオコンプレックス結晶の割合が高いほど、ポリ乳酸樹脂成形体の耐熱性が向上する傾向にある。
【0027】
本発明のポリ乳酸樹脂成形体を製造するための成形方法は特に制限されず、その成形方法としては、射出成形、押出成形、ブロー成形、インフレーション成形、異形押出成形、射出ブロー成形、真空圧空成形、紡糸等が挙げられる。本発明のポリ乳酸樹脂組成物によると、十分に大きい結晶化速度が達成されるため、これを例えば射出成形に供した場合であっても、十分に結晶性を有し且つステレオコンプレックス結晶比率の高いポリ乳酸樹脂成形体を得ることができる。本発明のポリ乳酸樹脂成形体は、ステレオコンプレックス結晶比率が高く、耐熱性に優れるため、バンパー、ラジエーターグリル、サイドモール、ガーニッシュ、ホイールカバー、エアロパーツ、インストルメントパネル、ドアトリム、シートファブリック、ドアハンドル、フロアマット等の自動車部品、家電製品のハウジング、製品包装用フィルム、防水シート、各種容器、ボトル等として有用である。また、本発明のポリ乳酸樹脂成形体をシートとする場合には、紙又は他のポリマーシートと積層し、多層構造の積層体とすることもできる。
【発明の効果】
【0028】
以上説明した本発明のポリ乳酸樹脂組成物によると、ポリ乳酸樹脂の結晶化速度を十分に大きくし、且つステレオコンプレックス結晶比率を高くすることができるという効果がある。
【0029】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【実施例】
【0030】
試験区分1(ポリ乳酸樹脂組成物の調製)
・実施例1{ポリ乳酸樹脂組成物(P−1)の調製}
D−ラクチド100g、ドデシルアルコール0.1g、オクチル酸スズ100mgを反応容器に入れ、反応容器内を1×10−2mmHgまで減圧した。続いて、内容物を十分に攪拌しながら除々に温度を上昇させ、160℃で1時間保持した。得られた反応生成物をクロロホルムに溶解し、メタノール中に滴下してポリD−乳酸を単離精製した。得られたポリD−乳酸は、質量平均分子量120000、光学純度99%であった。次に、ポリL−乳酸(トヨタ自動車製、エコプラスチックU'zS−17、質量平均分子量140000、光学純度99%)50部、前記のポリD−乳酸50部及びN,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)ドデカンアミド1部を、ブレンダーを用いてドライブレンドし、ポリ乳酸樹脂組成物(P−1)を調製した。
【0031】
・実施例2〜15及び比較例1〜8{ポリ乳酸樹脂組成物(P−2)〜(P−15)及び(R−1)〜(R−8)の調製}
ポリ乳酸樹脂組成物(P−1)の調製と同様にして、ポリ乳酸樹脂組成物(P−2)〜(P−15)及び(R−1)〜(R−8)を調製した。これらの内容をポリ乳酸樹脂組成物(P−1)も含めて表1にまとめて示した。
【0032】
・実施例16(ポリ乳酸樹脂組成物P−17の調製)
L−ラクチド100g、1,12−ドデカンジオール3g、オクチル酸スズ100mgを反応容器に入れ、反応容器内を1×10−2mmHgまで減圧した。続いて、内容物を十分に攪拌しながら徐々に温度を上昇させ、150℃で3時間保持した。得られた反応生成物をクロロホルムに溶解し、メタノール中に滴下して質量平均分子量が約23000のポリL−乳酸を得た。次に、D−ラクチド40g、前記のポリL−乳酸80gを、窒素雰囲気下に、200℃で均一に溶解した。続いて室温まで放冷後、オクチル酸スズ40mgを加え、150℃で3時間反応させた。得られた反応生成物をヘキサフルオロイソプロパノールに溶解し、メタノール中に滴下して質量平均分子量が54000のポリ乳酸ステレオブロック共重合体(B−1)(ポリD−乳酸−ポリL−乳酸−ポリD−乳酸)を得た。次に、L−ラクチド20g、前記のポリ乳酸ステレオブロック共重合体(B−1)80gを、窒素雰囲気下に、220℃で均一に溶解した。続いてオクチル酸スズ20mgを反応容器に入れ、150℃で3時間反応させた。得られた反応生成物をヘキサフルオロイソプロパノールに溶解し、メタノール中に滴下して質量平均分子量が約81000のポリ乳酸ステレオブロック共重合体(B−2)(ポリL−乳酸−ポリD−乳酸−ポリL−乳酸−ポリD−乳酸−ポリL−乳酸)を得た。次に、D−ラクチド10g、得られたポリ乳酸ステレオブロック共重合体(B−2)80gを、窒素雰囲気下に、240℃で均一に溶解した。続いて室温まで放冷後、オクチル酸スズ10mgを加え、150℃で3時間反応させた。得られた反応生成物をヘキサフルオロイソプロパノールに溶解し、メタノール中に滴下して質量平均分子量が約115000のポリ乳酸ステレオブロック共重合体(B−3)(ポリD−乳酸−ポリL−乳酸−ポリD−乳酸−ポリL−乳酸−ポリD−乳酸−ポリL−乳酸−ポリD−乳酸)を得た。次に、ポリ乳酸ステレオブロック共重合体(B−3)100部及びN,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)ドデカンアミド1部を、ブレンダーを用いてドライブレンドし、ポリ乳酸樹脂組成物(P−16)を調製した。内容を表1に示した。
【0033】
【表1】

【0034】
表1において、
L−1:ポリL−乳酸、質量平均分子量140000、光学純度99%
L−2:ポリL−乳酸、質量平均分子量240000、光学純度99%
L−3:ポリL−乳酸、質量平均分子量30000、光学純度99%
L−4:ポリD−乳酸、質量平均分子量40000、光学純度99%
L−5:ポリD−乳酸、重量平均分子量120000、光学純度99%
L−6:ポリD−乳酸、重量平均分子量180000、光学純度99%
L−7:ポリD−乳酸、重量平均分子量330000、光学純度99%
L−8:質量平均分子量115000、その構成がポリD−乳酸−ポリL−乳酸−ポリD−乳酸−ポリL−乳酸−ポリD−乳酸−ポリL−乳酸−ポリD−乳酸からなるポリ乳酸ステレオブロック共重合体(B−3)
M−1〜M−8:表2に記載した化1で示される含窒素化合物
m−1:N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)ヘキサンアミド
m−2:N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)テトラコサンアミド
m−3:N−(2−メチル−2−ヒドロキシエチル)ドデカンアミド
m−4:ドデカンアミド
m−5:アミド系結晶核剤(日本化成製の商品名スリパックスH、エチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド)
m−6:イソフタル酸ジメチル
m−7:スルホン酸系結晶核剤(5−スルホイソフタル酸ジメチル=バリウム)
m−8:芳香族尿素系結晶核剤(日本化成製の商品名ハクリーンSX、キシリレンビスステアリル尿素)
【0035】
【表2】

【0036】
試験区分2(ポリ乳酸樹脂成形体のプレス成形及びその評価)
試験区分1で調製したポリ乳酸樹脂組成物(P−1)〜(P−16)、(R−1)〜(R−8)をラボプラストミルに投入し、210℃にて1分間溶融混練した後、プレス成形してポリ乳酸樹脂成形体を得た。得られたポリ乳酸樹成形体を100℃で24時間除湿乾燥し、絶乾状態にした後、試料を採取して、下記の示差走査熱量計に供し、下記の条件下で、結晶化ピーク温度、結晶化ピークの発熱量、ホモ結晶融解ピーク温度、ホモ結晶融解ピークの融解吸熱量、ステレオコンプレックス結晶融解ピーク温度、ステレオコンプレックス結晶融解ピークの融解吸熱量を求めた。結果を表3にまとめて示した。
・示差走査熱量計の条件
示差走査熱量計(パーキンエルマー社製の商品名Diamond DSC)を用いて、試料10mgをアルミニウムセルに充填し、100℃/分で室温から270℃まで昇温し、1分間保持して溶融させた後、20℃/minの冷却速度で0℃まで冷却し、その際のポリ乳酸の結晶化ピーク温度(Tc,cool)及び結晶化ピークの発熱量(ΔHc,cool)を求めた(降温測定)。
【0037】
次いで、前記のように冷却したものをそのまま1分間保持した後、100℃/minの昇温速度で270℃まで再昇温し、その際の結晶化ピーク温度(Tc,hot)、結晶化ピークの発熱量(ΔHc,hot)、ピークトップが160℃〜180℃に現れるホモ結晶融解ピーク温度(Tm,homo)、ホモ結晶融解ピークの融解吸熱量(ΔHm,homo)、ピークトップが190℃〜240℃に現れるステレオコンプレックス結晶融解ピーク温度(Tm,stereo)、ステレオコンプレックス結晶融解ピークの融解吸熱量(ΔHm,stereo)を求めた(再昇温測定)。また、ステレオコンプレックス結晶比率を、ホモ結晶融解ピークの融解吸熱量(ΔHm,homo)とステレオコンプレックス結晶融解ピークの融解吸熱量(ΔHm,stereo)とから、下記の数1より算出した。なお、結晶化ピーク温度及び融解ピーク温度は共にピークトップの温度である。
【0038】
【数1】


【0039】
【表3】

【0040】
表3において、
T−C−C:Tc,cool
T−C−H:Tc,hot
T−M−H:Tm,homo
T−M−S:Tm,stereo
ΔH−C−C:ΔHc,cool
ΔH−C−H:ΔHc,hot
ΔH−M−H:ΔHm,homo
ΔH−M−S:ΔHm,stereo

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のポリ乳酸樹脂100質量部当たり、下記の化1で示される含窒素化合物を0.05〜30質量部の割合で含有することを特徴とするポリ乳酸樹脂組成物。
ポリ乳酸樹脂:ステレオコンプレックス結晶を生成し得るポリ乳酸ブレンド体及び/又はポリ乳酸ステレオブロック共重合体
【化1】

{化1において、
:炭素数8〜22の脂肪族アシル基
,A:水素原子又は2−ヒドロキシエチル基(但し、A及びAのうちで少なくともいずれか一方は2−ヒドロキシエチル基)}
【請求項2】
ポリ乳酸樹脂100質量部当たり、化1で示される含窒素化合物を0.1〜25質量部の割合で含有する請求項1記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項3】
ポリ乳酸樹脂がステレオコンプレックス結晶を生成し得るポリ乳酸ブレンド体であって、該ポリ乳酸ブレンド体が質量平均分子量10000〜500000のポリL−乳酸と質量平均分子量10000〜500000のポリD−乳酸とからなり且つ該ポリL−乳酸/該ポリD−乳酸=30/70〜70/30(質量比)の割合で含有するものである請求項1又は2記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項4】
ポリ乳酸樹脂がステレオコンプレックス結晶を生成し得るポリ乳酸ブレンド体であって、該ポリ乳酸ブレンド体が質量平均分子量50000〜450000のポリL−乳酸と質量平均分子量50000〜450000のポリD−乳酸とからなり且つ該ポリL−乳酸/該ポリD−乳酸=35/65〜65/35(質量比)の割合で含有するものである請求項1又は2記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項5】
化1で示される含窒素化合物が、化1中のRが炭素数12〜18の脂肪族アシル基であり、A及びAが2−ヒドロキシエチル基である場合のものである請求項1〜4のいずれか一つの項記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一つの項記載のポリ乳酸樹脂組成物を溶融成形して結晶化させたポリ乳酸樹脂成形体。
【請求項7】
示差走査熱量測定による溶融状態からの降温測定(降温速度:20℃/min)により求めた結晶化ピーク温度が115℃以上であり且つ結晶化ピークの発熱量が30J/g以上である請求項6記載のポリ乳酸樹脂成形体。

【公開番号】特開2009−256412(P2009−256412A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−104244(P2008−104244)
【出願日】平成20年4月14日(2008.4.14)
【出願人】(000210654)竹本油脂株式会社 (138)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】