説明

ポリ乳酸系フィルム

【課題】耐衝撃性、透明性に優れ、かつ生分解性を有するポリ乳酸系フィルムを提供する。
【解決手段】ポリ乳酸100質量部に対して1〜30質量部のポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、ポリブチレンアジペートテレフタレートのうちの少なくとも一つからなる樹脂、および0.1〜5質量部の反応性アクリル樹脂を含むポリ乳酸系フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、ポリブチレンアジペートテレフタレートのうち少なくとも一つからなる樹脂、および反応性アクリル樹脂からなるポリ乳酸系フィルムに関するものであり、さらに詳細には耐衝撃性、透明性に優れ、かつ生分解性を有するポリ乳酸系フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品をはじめとした各種包装用フィルムには、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、およびナイロン6などに代表されるポリオレフィン、芳香族ポリエステル、ポリアミドなどの各種プラスチックが使用されている。これらの包装材用フィルムは、使用後に自然環境下に廃棄されると、その安定性のため分解されることなく残留するために景観を損ない、魚、野鳥等の生活環境を汚染するなどの様々な問題となっている。このような状況から、近年の環境保護に関する社会的な認識の高まりと共に、プラスチック加工品全般に対し自然環境の中に廃棄されたときに経時的に分解・消失し、自然環境に悪影響を及ぼさないプラスチック製品を求める動きが高まっている。
【0003】
この動きに沿って樹脂自身が生分解性を有する各種生分解性高分子素材が検討されており、中でもポリ乳酸は、自然環境下に棄却された場合に微生物によって容易に分解されることから従来よりフィルム用途としても種々開発が行われてきた。
【0004】
ポリ乳酸フィルムは、各種生分解性プラスチックの中でも、特に透明性、生分解性、汎用フィルムと同等の優れた機械的性質を有することから、一般包装材をはじめ幅広い用途に応用が期待されている反面、脆く、耐衝撃性に劣っているためその用途が限られてきた。そこで、ポリ乳酸フィルムの耐衝撃性改良の方法としてはさまざまなものが考案されてきた。例えば、特許文献1ではポリ乳酸と脂肪族ポリエステルのブロック共重合体を、特許文献2ではポリ乳酸と、融点もしくは軟化点がポリ乳酸以下である生分解性樹脂のブロック共重合体をポリ乳酸に含有させることにより、ポリ乳酸の耐衝撃性を向上させる方法などが提案されている。しかし、特許文献1、2ともに、ポリ乳酸と耐衝撃性を付与するための成分を重合しており、大型の重合設備を必要とするため製造コストが高く容易に実施できないといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−335623号公報
【特許文献2】特開2007−023189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
食品、医薬品、精密電子部品等の包装に用いられる包装材料は、落下など外部の衝撃から内容物を保護するために、耐衝撃性が求められている。
【0007】
また、ポリ乳酸は透明性、生分解性、機械物性に優れることから上記のような各種包装材料として期待されているものの、樹脂自身が固く、割れやすいことから、耐衝撃性を向上させるための技術が必要とされている。
【0008】
耐衝撃性向上の方法としては、ポリカーボネートやゴム粒子をポリ乳酸と合わせる方法などがあるが、コストが高くなったり、また、ポリ乳酸の特徴である生分解性を損なう場合がある。
【0009】
一方、ポリ乳酸の生分解性を維持するために、生分解性を有する樹脂(ポリブチレンサクシネートなど)をポリ乳酸とアロイする方法もあるが、相溶性が不十分であることから、透明性が大きく悪化してしまうなどの問題がある。
【0010】
また、ポリ乳酸の構成単位であるラクチドと他樹脂を重合してポリ乳酸と他樹脂の相溶性を向上させる方法もあり、透明性は改善されるが、重合にコストがかかるため実施は容易ではない。
【0011】
本発明はポリ乳酸と、ポリ乳酸以外の生分解性樹脂、具体的には、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、ポリブチレンアジペートテレフタレートからなる群より選ばれる少なくとも一つの樹脂の系に、反応性の相溶化剤を含有させ、事前の重合をすることなくポリ乳酸と耐衝撃性向上成分の相溶性を高めることにより、透明性、耐衝撃性にすぐれ、なおかつ生分解性を有するポリ乳酸系フィルムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を達成するために、本発明のポリ乳酸系フィルムは次の構成を有する。すなわち以下である。
1)ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、及びポリブチレンアジペートテレフタレートからなる群より選ばれる少なくとも一つの樹脂を、ポリ乳酸100質量部に対して1〜30質量部有し、
さらにポリ乳酸100質量部に対して、反応性アクリル樹脂を0.1〜5質量部有するポリ乳酸系フィルム。
2) 前記反応性アクリル樹脂が、水酸基、カルボニル基、エポキシ基、長鎖アルキル基、及びアルコキシシリル基からなる群より選ばれる少なくとも一つの官能基を有する、前記1)に記載のポリ乳酸系フィルム。
3) 前記反応性アクリル樹脂が、グラフト構造を有することを特徴とする、前記1)又は2)に記載のポリ乳酸系フィルム。
4) 前記反応性アクリル樹脂が、官能基としてエポキシ基を有し、該エポキシ基のエポキシ価が0.1〜2.5meq/ gであることを特徴とする、前記1)〜3)のいずれかに記載のポリ乳酸系フィルム。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、透明性、耐衝撃性に優れ、なおかつ生分解性を有するポリ乳酸系フィルムを得ることができる。本発明で得られるフィルムは、食品などに用いられる各種包装材料、および各種工業材料などに好ましく用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のポリ乳酸系フィルムは、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、及びポリブチレンアジペートテレフタレートからなる群より選ばれる少なくとも一つの樹脂を、ポリ乳酸100質量部に対して1〜30質量部有し、さらにポリ乳酸100質量部に対して、反応性アクリル樹脂を0.1〜5質量部有するポリ乳酸系フィルムである。
【0015】
なお、反応性アクリル樹脂は、水酸基、カルボニル基、エポキシ基、長鎖アルキル基、及びアルコキシシリル基からなる群より選ばれる少なくとも一つの官能基を含有するアクリル樹脂であることが好ましく、水酸基、カルボニル基、及びエポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも一つの官能基を有することがより好ましく、エポキシ基を有することが特に好ましい。
【0016】
また、反応性アクリル樹脂は、グラフト構造を有することが好ましい。
【0017】
また反応性アクリル樹脂がエポキシ基を含有する場合、そのエポキシ価が0.1〜2.5meq / gであることが好ましい。以下、本発明の詳細について説明する。
(ポリ乳酸)
本発明のフィルムの主成分として用いられるポリ乳酸は、L−乳酸ユニットおよび/またはD−乳酸ユニットを主たる構成成分とする樹脂である。本発明でいうポリL−乳酸としては、ポリ乳酸重合体の全乳酸成分100mol%中のL−乳酸ユニットの含有割合が50mol%を超え100mol%以下のものが好ましく、結晶性の面から、ポリ乳酸重合体の全乳酸成分100mol%中のL−乳酸ユニットの含有割合が80mol%以上100mol%以下であることがさらに好ましく、95mol%以上100mol%以下であることがより好ましく、98mol%以上100mol%以下であることがさらにより好ましい。一方、本発明でいうポリD−乳酸としては、ポリ乳酸重合体の全乳酸成分100mol%中のD−乳酸ユニットの含有割合が50mol%を超え100mol%以下のものが好ましく、結晶性の面から、ポリ乳酸重合体の全乳酸成分100mol%中のD−乳酸ユニットの含有割合が80mol%以上100mol%以下であることがさらに好ましく、95mol%以上100mol%以下であることがより好ましく、98mol%以上100mol%以下であることがさらにより好ましい。
【0018】
ポリL−乳酸は、D−乳酸ユニットの含有割合によって、樹脂自体の結晶性が変化する。つまり、ポリL−乳酸中のD−乳酸ユニットの含有割合が多くなれば、ポリL−乳酸の結晶性は低くなり非晶に近づき、逆にポリL−乳酸中のD−乳酸ユニットの含有割合が少なくなれば、ポリL−乳酸の結晶性は高くなっていく。同様に、ポリD−乳酸は、L−乳酸ユニットの含有割合によって、樹脂自体の結晶性が変化する。つまり、ポリD−乳酸中のL−乳酸ユニットの含有割合が多くなれば、ポリD−乳酸の結晶性は低くなり非晶に近づき、逆にポリD−乳酸中のL−乳酸ユニットの含有割合が少なくなれば、ポリD−乳酸の結晶性は高くなっていく。なお、結晶性の高いポリ乳酸に結晶性の低いポリ乳酸を含有させた態様は、延伸性の観点から好ましい。
(ポリ乳酸の質量平均分子量)
本発明のポリ乳酸系フィルムに使用されるポリ乳酸の質量平均分子量は、適度な製膜性、延伸適性および実用的な機械特性を満足させるため、5万〜50万であることが好ましく、より好ましくは10万〜25万である。なお、ここでいう質量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)でクロロホルム溶媒にて測定を行い、ポリメチルメタクリレート換算法により計算した分子量をいう。
(ポリ乳酸に含まれる単量体ユニット)
本発明のポリ乳酸系フィルムに使用されるポリ乳酸には、上述した乳酸ユニット以外にさらに以下の単量体ユニットを含んでいてもよい。他の単量体としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオ−ル、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノ−ルA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリテトラメチレングリコールなどのグリコール化合物、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4´−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸などのジカルボン酸、グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸、カプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトン、1,5−オキセパン−2−オンなどのラクトン類を挙げることができる。上記の乳酸ユニット以外の他の単量体ユニットの共重合量は、ポリ乳酸の単量体ユニット全体100mol%に対し、0〜30mol%であることが好ましく、0〜10mol%であることがより好ましい。
【0019】
本発明のポリ乳酸系フィルムは、ポリ乳酸がフィルムの全成分において主成分(質量的に最も大きい成分)であれば、その含有量は特に限定されないが、好ましくはフィルムの全成分100質量%に対して、ポリ乳酸を50質量%以上95質量%以下、より好ましくは70質量%以上93質量%以下、さらに好ましくは80質量%以上90質量%以下含有する態様である。
(ポリ乳酸以外の生分解性樹脂)
本発明のポリ乳酸系フィルムには、主に耐衝撃性を付与することを目的として、ポリ乳酸とも異なり、さらに後述する反応性アクリル樹脂とも異なる樹脂(ポリ乳酸以外の生分解性樹脂)を、少なくとも1種類以上含んでいることが重要である。また、このような樹脂は、ポリ乳酸の生分解性を損なわないため、ポリ乳酸以外の生分解樹脂であることが好ましく、耐衝撃性、透明性の面から、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、及びポリブチレンアジペートテレフタレートからなる群より選ばれる少なくとも一つの樹脂であることが重要である。また、このようなポリ乳酸以外の生分解性樹脂は、単独で用いても、複数を組み合わせても構わない。そしてこれらのポリ乳酸以外の生分解性樹脂を、後述する特定量含有させることにより、耐衝撃性を付与することができ、具体的にはポリ乳酸系フィルムのインパクト値を2.0kN・m/mm以上とすることができる。
【0020】
ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、及びポリブチレンアジペートテレフタレートからなる群より選ばれる少なくとも一つの樹脂の含有量としては、ポリ乳酸100質量部に対して、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、及びポリブチレンアジペートテレフタレートからなる群より選ばれる樹脂の合計が1〜30質量部であることが重要であり、好ましくは1〜20質量部、より好ましくは1〜15質量部である。ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、及びポリブチレンアジペートテレフタレートからなる群より選ばれる少なくとも一つの樹脂の含有量が、ポリ乳酸100質量部に対して1質量部未満の場合、耐衝撃性の向上が不十分であり、30質量部を超える場合、透明性が悪化したり、現状ではコストが高くなることがある。
【0021】
ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、及びポリブチレンアジペートテレフタレートからなる群より選ばれる少なくとも一つの樹脂の質量平均分子量は、耐衝撃性、加工性の観点から好ましくは1万〜50万であり、さらに好ましくは2万〜40万、より好ましくは5万〜30万である。質量平均分子量が1万未満ではフィルムの耐衝撃性が十分でない場合があり、また、質量平均分子量が50万以上では溶融粘度が高くなり成形性に劣る場合がある。なお、ここでいう質量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で、ポリメチルメタクリレート換算法により計算した分子量をいう。
【0022】
ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、及びポリブチレンアジペートテレフタレートからなる群より選ばれる少なくとも一つの樹脂としては、例えば三菱化学社製の「GS−Pla」シリーズ、昭和高分子社製の「ビオノーレ」シリーズ、Dupont社製の「Biomax」シリーズ、およびBASF社製の「エコフレックス」等が商業的に入手可能なものとして挙げられる。
【0023】
なおポリ乳酸以外の生分解性樹脂としては、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、及びポリブチレンアジペートテレフタレートからなる群より選ばれる少なくとも一つの樹脂であれば特に限定されないが、耐衝撃性の観点から、ポリブチレンサクシネート、及びポリブチレンサクシネートアジペートであることが好ましく、ポリブチレンサクシネートであることが特に好ましい。
(反応性アクリル樹脂)
本発明のポリ乳酸系フィルムには、ポリ乳酸と、ポリ乳酸以外の生分解性樹脂(ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、及びポリブチレンアジペートテレフタレートからなる群より選ばれる少なくとも一つの樹脂)との相溶性を高めるため、反応性アクリル樹脂を少なくとも1種類以上含んでいることが重要である。反応性アクリル樹脂は、ポリ乳酸やポリ乳酸以外の生分解性樹脂(ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、及びポリブチレンアジペートテレフタレートからなる群より選ばれる少なくとも一つの樹脂)のヒドロキシ末端基及びカルボキシル末端基と反応することで、擬似架橋点のような働きを示し、2種類以上の樹脂の相溶性を向上させることが可能である。また、相溶性が向上して2種類以上の樹脂が均一に混ざり合うことで、フィルム全体の透明性を向上させることができる。具体的には、ポリ乳酸系フィルムのヘイズを30%以下とすることができる。
【0024】
ポリ乳酸やポリ乳酸以外の生分解性樹脂(ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、及びポリブチレンアジペートテレフタレートからなる群より選ばれる少なくとも一つの樹脂)との反応性を向上させるため、反応性アクリル樹脂は水酸基、カルボニル基、エポキシ基、長鎖アルキル基、及びアルコキシシリル基からなる群より選ばれる少なくとも一つの官能基を含有することが好ましい。中でも水酸基、カルボニル基、及びエポキシ基からなる郡より選ばれる少なくとも一つの官能基を含有していることがより好ましく、エポキシ基を含有していることが特に好ましい。
【0025】
反応性アクリル樹脂がエポキシ基を有する場合、そのエポキシ価が0.1〜2.5meq / gであることが好ましく、より好ましくは0.2〜1.8meq / g、特に好ましくは0.3〜1.0meq / gである。エポキシ価が0.1meq / g未満の場合、ポリ乳酸や、ポリ乳酸以外の生分解性樹脂(ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、及びポリブチレンアジペートテレフタレートからなる群より選ばれる少なくとも一つの樹脂)との反応が十分に起こらず、相溶化が不十分な場合がある。また、エポキシ価が2.5meq / gを超える場合、フィルムにゲル状物が発生し、外観不良となったり、透明性の悪化が起こったり、樹脂の粘度上昇によりフィルムの成形性が不十分となる場合がある。エポキシ基を有し、そのエポキシ価が0.1〜2.5meq / gである反応性アクリル樹脂としては、東亞合成製アルフォンUG-4000、4010、4030、4035、4040、4070、レゼダGP-301などが好ましく用いられる。
【0026】
反応性アクリル樹脂が水酸基を有する場合、その水酸基価は5〜150mgKOH / gであることが好ましく、より好ましくは10〜120mgKOH / g、特に好ましくは15〜80mgKOH / gである。水酸基価が5mgKOH / g未満の場合、ポリ乳酸や、ポリ乳酸以外の生分解性樹脂(ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、及びポリブチレンアジペートテレフタレートからなる群より選ばれる少なくとも一つの樹脂)との反応が十分に起こらず、相溶化が不十分な場合がある。また、水酸基価が150mgKOH / gを超える場合、フィルムにゲル状物が発生し、外観不良となったり、透明性の悪化が起こったり、樹脂の粘度上昇によりフィルムの成形性が不十分な場合がある。水酸基を有する反応性アクリル樹脂としては、東亞合成製、アルフォンUH-2000、2032、2041、2170、2012などが好ましく用いられる。
【0027】
反応性アクリル樹脂がカルボニル基を有する場合、その酸価は30〜350mgKOH / gであることが好ましく、より好ましくは40〜300mgKOH / g、特に好ましくは50〜250mgKOH / gである。基価が30mgKOH / g未満の場合、ポリ乳酸や、ポリ乳酸以外の生分解性樹脂(ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、及びポリブチレンアジペートテレフタレートからなる群より選ばれる少なくとも一つの樹脂)との反応が十分に起こらず、相溶化が不十分な場合がある。また、水酸基価が350mgKOH / gを超える場合、フィルムにゲル状物が発生し、外観不良となったり、透明性の悪化が起こったり、樹脂の粘度上昇によりフィルムの成形性が不十分な場合がある。カルボニル基を有する反応性アクリル樹脂としては、東亞合成製、アルフォンUC-3000、3070、3900、3910、3920、3510などが好ましく用いられる。
【0028】
また、反応性アクリル樹脂の構造は特に限定されないが、相溶性を向上させるため、グラフト構造を有することが好ましい。ここで、グラフト構造とは、樹脂の枝分かれ構造のことであり、ある樹脂(幹ポリマー)に第2種の異なる樹脂(枝ポリマー)が結合していることを指す。グラフト構造を有する樹脂の製造方法としては、たとえば、幹ポリマーの存在下条件で枝ポリマーのモノマーを重合させる存在下重合方法や、枝ポリマーの末端に二重結合を導入して幹ポリマー重合時に一緒に重合するマクロモノマー法、枝となるポリマーの末端に官能基を導入して、幹ポリマーと反応させてグラフト化させる高分子反応法などが挙げられる。また、ポリ乳酸、及びポリ乳酸以外の生分解性樹脂(ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、及びポリブチレンアジペートテレフタレートからなる群より選ばれる少なくとも1つの樹脂)への相溶性から、反応性アクリル樹脂がグラフト構造を有する場合、樹脂の幹または枝のどちらか一部分がポリメチルメタクリル酸メチルであることが特に好ましい。
【0029】
本発明の反応性アクリル樹脂で、エポキシ基を有し、かつグラフト構造を有する樹脂の製造方法としては、エポキシ基を有するマクロモノマーとメタアクリル酸エステル、ビニルエステル、メタアクリロニトリル等のモノマーを溶液重合、懸濁重合、エマルション重合等で重合することにより合成できる。ここで、マクロモノマーとは、片末端に重合官能基(多くの場合ビニル基)を持つ直線状高分子のことであり、エポキシ基を有するマクロモノマーの製造方法としては、エポキシ基を有するビニルモノマー、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、3、4−エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレート等と、メタアクリル酸エステル、ビニルエステル、メタアクリロニトリル等のモノマーをメルカプトエタノール存在下で溶液中ラジカル重合して、片末端にヒドロキシル基を有するポリマーを合成した後、イソシアネート基を有するビニルモノマーと反応させることにより得ることができる。グラフト構造を有する反応性アクリル樹脂としては、東亞合成社製レゼダGP−301、310S、および、サイマックUS−270、380、450などが好ましく用いられ、中でも幹または枝のどちらか一部分がポリメチルメタクリル酸メチルであり、エポキシ基を含有する樹脂として、東亞合成社製レゼダGP−301が特に好ましく用いられる。
【0030】
反応性アクリル樹脂の含有量としては、ポリ乳酸100質量部に対して0.1〜5質量部であることが重要であり、好ましくは0.2〜4質量部、特に好ましくは0.5〜3質量部である。反応性アクリル樹脂の含有量が、ポリ乳酸100質量部に対して0.1質量部未満では、ポリ乳酸や、ポリ乳酸以外の生分解性樹脂との反応が十分に起こらず、相溶化が不十分な場合がある。また、含有量が5質量部を超える場合、フィルムにゲルが発生し、外観不良となったり、透明性の悪化が起こったり、樹脂の粘度上昇によりフィルムの成形性が不十分となる場合がある。
【0031】
反応性アクリル樹脂の質量平均分子量は、適度な反応性、および製膜性を満足させるため、1,000〜50,000であることが好ましく、より好ましくは1,500〜40,000、さらに好ましくは2,000〜30,000である。なお、ここでいう質量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で、ポリスチレン換算法により計算した分子量をいう。
(その他の添加剤)
本発明のポリ乳酸系フィルムには、本発明の効果を損なわない範囲であれば、必要に応じて、反応性アクリル樹脂以外の添加剤、例えば、難燃剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、着色防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、可塑剤、粘着性付与剤、脂肪酸エステル、ワックスなどの有機滑剤またはポリシロキサンなどの消泡剤、顔料、染料などの着色剤を適量配合することができる。これら、反応性アクリル樹脂以外の添加剤は、ポリ乳酸、ポリ乳酸以外の生分解性樹脂(ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、及びポリブチレンアジペートテレフタレートからなる群より選ばれる少なくとも一つの樹脂)、および反応性アクリル樹脂の合計100質量部に対して好ましくは0質量部以上50質量部以下、より好ましくは0質量部以上30質量部以下、さらに好ましくは0質量部以上10質量以下含有できる。
(添加粒子)
本発明のポリ乳酸系フィルムには、本発明の効果を損なわない範囲であれば、必要に応じて粒子を含有させることができる。粒子は、ポリ乳酸、ポリ乳酸以外の生分解性樹脂(ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、およびポリブチレンアジペートテレフタレートからなる群より選ばれる少なくとも一つの樹脂)、および反応性アクリル樹脂の合計100質量部に対して0質量部以上10質量部以下含有できる。粒子の種類は、目的や用途に応じて適宜選択され、本発明の効果を損なわなければ特に限定されないが、無機粒子、有機粒子、架橋高分子粒子、重合系内で生成させる内部粒子などを挙げることができる。各粒子は、それぞれ単独で使用しても、混合して用いても構わない。
【0032】
無機粒子としては、特に限定されないが、シリカ等の酸化ケイ素、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム等の各種炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の各種硫酸塩、カオリン、タルク等の各種複合酸化物、リン酸リチウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム等の各種リン酸塩、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム等の各種酸化物、フッ化リチウム等の各種塩等からなる粒子を使用することができる。
【0033】
また有機粒子としては、シュウ酸カルシウムや、カルシウム、バリウム、亜鉛、マンガン、マグネシウム等のテレフタル酸塩などからなる粒子が使用される。架橋高分子粒子としては、ジビニルベンゼン、スチレン、アクリル酸、メタクリル酸のビニル系モノマーの単独または共重合体からなる粒子が挙げられる。その他、ポリテトラフルオロエチレン、ベンゾグアナミン樹脂、熱硬化エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、熱硬化性尿素樹脂、熱硬化性フェノール樹脂などの有機粒子も好ましく使用される。
【0034】
重合系内で生成させる内部粒子としては、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物などを反応系内に添加し、さらにリン化合物を添加する公知の方法で生成される粒子も使用される。
(コーティング)
ブロッキング防止、帯電防止、離型性付与、耐傷付き性改良などの目的で、本発明の脂肪族ポリエステル系フィルムの表面に機能層を設けてもよい。この機能層の形成には、フィルムの製造工程内で行うインラインコーティング法、フィルムの巻き取り後に行うオフラインコーティング法などを用いることができる。かかる機能層を形成するための具体的方法としては、ワイヤーバーコート法、ドクターブレード法、マイクログラビアコート法、グラビアロールコート法、リバースロールコート法、エアーナイフコート法、ロッドコート法、ダイコート法、キスコート法、リバースキスコート法、含浸法、カーテンコート法、スプレーコート法、エアドクタコート法あるいはこれら以外の塗布方法を単独または組み合わせて適用することができる。
【0035】
また、インラインコーティング法の例としては、無延伸フィルムに塗布液を塗布する方法、無延伸フィルムに塗布液を塗布し、逐次あるいは同時に二軸延伸する方法、一軸延伸されたフィルムに塗布液を塗布し、さらに先の一軸延伸方向と直角の方向に延伸する方法、あるいは二軸延伸フィルムに該塗布液を塗布した後、さらに延伸する方法などがある。
【0036】
なお、塗布液のフィルムへの塗布性および接着性を改良するため、塗布前に本発明のポリ乳酸系フィルムに化学処理や放電処理を施すこともできる。
(バリア層)
本発明のポリ乳酸系フィルムには、水蒸気バリア性、ガスバリア性向上を目的として、少なくとも片面にバリア層を形成させてもよい。バリア層はコーティング、蒸着、ラミネートなどの手法で設けることができるが、湿度依存がなく、薄膜でバリア性を発現できることから、金属または金属酸化物からなる蒸着層がより好ましい。
【0037】
蒸着層に用いられる金属または金属酸化物は、アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化セリウム、酸化カルシウム、ダイアモンド状炭素膜、あるいはそれらの混合物のいずれかからなることが好ましい。特にアルミニウムからなる蒸着層は、経済性、バリア性能に優れていることから、より好ましい。また、蒸着層の作製方法としては、真空蒸着法、EB蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの物理的蒸着法、プラズマCVDなど各種化学蒸着法などを用いることができるが、生産性の観点からは真空蒸着法が特に好ましく用いられる。
【0038】
蒸着層を設ける際には、蒸着層の密着性を向上させるため、あらかじめ被蒸着面にコロナ放電処理などの方法による前処理を施しておくことが好ましい。コロナ処理を施す際の処理強度は5〜50W・min/mが好ましく、より好ましくは10〜45W・min/mである。さらに、ガス処理、プラズマ処理、アルカリ処理、電子線放射処理などの表面処理を必要に応じて施してもよい。
なお、蒸着層などのバリア層は、少なくとも片面に形成すればよいが、高水蒸気バリア性、高ガスバリア性が必要な場合は両面に形成してもよい。
(厚み)
本発明のポリ乳酸系フィルムの厚みは、5〜500μmであることが好ましい。食品容器用途などに用いる場合、より好ましくは250〜450μm、さらに好ましくは300〜400μmである。また、包装用フィルムなどに用いる場合、より好ましくは10〜100μmであり、さらに好ましくは12〜30μmである。フィルム厚みが5μmより小さい場合は、製膜時などにフィルム破れが発生しやすくなる場合がある。また、フィルム厚みが500μmより大きい場合は、延伸性が悪化する場合がある。
(積層)
本発明のポリ乳酸系フィルムの構成としては、単層であってもかまわないし、表面に易滑性、接着性、粘着性、耐熱性、耐候性など新たな機能を付与するための層を形成させた積層構成としてもよい。積層構成は、例えば、A/Bの2層、B/A/B、B/A/C、あるいはA/B/Cの3層などが例として挙げられる。さらには必要に応じて3層より多層の積層構成であってもよく、各層の積層厚み比も任意に設定できる。
【0039】
積層構成の場合、フィルム全体として本発明の要件を満たしていることが重要である。積層方法としては、例えば、共押出積層法、ラミネーション法、ドライラミネーション法等の公知のフィルム製造法を用いることができ、これらの方法の中でも、フィルム製造時に溶融接着する共押出積層法が、製造コストの点から好ましい。
(カルボキシル末端濃度)
本発明のポリ乳酸系フィルムは、フィルムおよびこれを用いて得られる製品の分解による強度低下を抑制し耐熱性を良好とする点から、フィルム中のポリ乳酸のカルボキシル基末端濃度が30当量/10kg以下であることが好ましく、より好ましくは20当量/10kg以下、さらに好ましくは10当量/10kg以下である。ポリ乳酸中のカルボキシル基末端濃度が30当量/10kgを超える場合には、フィルムおよび容器が高温多湿条件下あるいは熱水との接触条件下で使用される際に加水分解により強度が低下し、容器などの成形品が脆くなり割れやすい等といった問題が発生する場合がある。なお、カルボキシル基末端濃度は低いほど好ましいが、現実的に0.1当量/10kg未満とすることは困難であるので、下限は0.1当量/10kg程度と思われる。
【0040】
フィルムのカルボキシル基末端濃度を30当量/10kg以下とする方法としては、例えば、ポリ乳酸の合成時の触媒や熱履歴により制御する方法、フィルム製膜時の押出温度を低下あるいは滞留時間を短時間化する等熱履歴を低減する方法、反応型化合物を用いポリ乳酸のカルボキシル基末端を封鎖する方法等が挙げられる。
【0041】
反応型化合物を用いポリ乳酸のカルボキシル基末端を封鎖する方法では、フィルム中のポリ乳酸のカルボキシル基末端の少なくとも一部が封鎖されていることが好ましく、ポリ乳酸のカルボキシル基末端の全量が封鎖されていることがより好ましい。反応型化合物としては、例えば、脂肪族アルコールやアミド化合物等の縮合反応型化合物やカルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物等の付加反応型化合物が挙げられるが、反応時に余分な副生成物が発生しにくい点で付加反応型化合物が好ましい。
(ヘイズ)
本発明のポリ乳酸系フィルムのヘイズは、30%以下であることが好ましく、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは15%以下である。ヘイズが30%を超えると透明性に劣るため、食品容器に成形して使用した場合、中身の商品が確認しにくいことがある。なお、ヘイズは低いほど好ましいが、現実的に1%未満とすることは困難であるので、下限は1%程度と思われる。ヘイズを30%以下とすることで、優れた透明性を有するフィルムとすることができ、包装材用フィルムなどとして好適に使用することができる。
(インパクト値)
本発明のポリ乳酸系フィルムのインパクト値は、2.0kN・m / mm以上が好ましく、より好ましくは2.2kN・m / mm以上、さらに好ましくは2.4kN・m / mm以上である。インパクト値が2.0kN・m / mm未満の場合は耐衝撃性に劣るため、フィルム成形後に容器等の包装材料として使用する場合、内容物を十分に保護できず、落下時に割れが起こる場合がある。なお、インパクト値は大きいほど好ましいが、ポリ乳酸系フィルムで10kN・m / mmより大きくすることは現実的に困難であるので、上限は10kN・m / mm程度と思われる。インパクト値を2.0kN・m / mm以上とすることで、優れた耐衝撃性を有するフィルムとすることができ、包装材用フィルムなどとして好適に使用することができる。
【0042】
ヘイズを30%以下として、さらにインパクト値を2.0kN・m / mm以上とするための手段としては、ポリ乳酸にポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、及びポリブチレンアジペートテレフタレートからなる群より選ばれる少なくとも1種類の樹脂を特定量含有させて衝撃性を向上させる一方で、さらに反応性アクリル樹脂を特定量含有して各樹脂の相溶性を上げて透明性を維持する方法などが挙げられる。
(製造方法)
次に、本発明のポリ乳酸系フィルムの製造方法を、ポリ乳酸とアロイする樹脂がポリブチレンサクシネートである場合を例に、具体的に説明する。
【0043】
本発明のポリ乳酸系フィルムは、主にポリ乳酸からなる樹脂を乾燥後、押出機に供給し、無配向未延伸フィルムとし、これを必要に応じて延伸して得られる。この延伸は、インフレーション法、同時二軸延伸法、逐次二軸延伸法などの既存の配向フィルムの製造法により行うことができるが、成形性と耐熱性を両立するフィルムの配向状態を制御しやすいこと、また、製膜速度を高速にできることから逐次二軸延伸法が好ましい。以下にテンター式逐次二軸延伸を行う場合の好ましい製膜方法を示すが、これに限定されるものではない。
【0044】
5torr以下の減圧下、100〜120℃で3時間以上乾燥したポリ乳酸樹脂、およびポリブチレンサクシネート樹脂をTダイ法によりリップ間隔1〜3mmのスリット状の口金から吐出し、金属製冷却キャスティングドラム上に、直径0.5mmのワイヤー状電極を用いて静電印加して密着させ、無配向キャストフィルムを得る。
【0045】
金属製冷却キャスティングドラムの表面温度の好ましい範囲は0〜30℃であり、より好ましい範囲は3〜25℃であり、さらに好ましい範囲は5〜20℃である。金属製冷却キャスティングドラムの表面温度をこの範囲に設定することで良好な透明性を発現できる。
【0046】
こうして得られた無配向フィルムを加熱ロール上を搬送することによって縦延伸を行う温度まで昇温する。昇温には赤外線ヒーターなど補助的な加熱手段を併用しても良い。延伸温度の好ましい範囲は55〜85℃であり、より好ましくは60〜80℃、さらに好ましくは65〜75℃である。このようにして昇温した無配向フィルムを加熱ロール間の周速差を用いてフィルム長手方向に1段もしくは2段以上の多段で延伸を行う。合計の延伸倍率は2〜5倍が好ましく、より好ましくは2.5〜4倍である。
【0047】
このように一軸延伸したフィルムをいったん冷却した後、フィルムの両端部をクリップで把持してテンターに導き、幅方向の延伸を行う。延伸温度は60〜105℃が好ましく、より好ましくは65〜100℃、さらに好ましくは70〜95℃である。延伸倍率は2〜5倍が好ましく、より好ましくは2.2〜4倍、さらに好ましくは2.5〜3.5倍が好ましい。フィルムの幅方向の性能差を低減するためには、長手方向の延伸温度よりも1〜15℃低い温度で幅方向の延伸を行うことが好ましい。
【0048】
ここで、延伸倍率とは、実効延伸倍率のことであり、例えば、延伸前の走行中のフィルム中心部分に1cmマス目状、大きさ10cm×10cmのスタンプをフィルム走行方向に平行になるように押して、延伸後のフィルムに残っているスタンプの各マス目の長さの平均を計測することで確認可能である。
【0049】
さらに必要に応じて、再縦延伸および/または再横延伸を行ってもよい。
【0050】
次に、この配向フィルムを緊張下または幅方向に弛緩しながら熱固定する。好ましい熱処理温度は90〜160℃であり、より好ましくは105〜155℃、さらに好ましくは120〜150℃である。フィルムの熱収縮率は低下させたい場合は、熱処理温度を高温にするとよい。熱処理時間は0.2〜30秒の範囲で行うのが好ましいが、特に限定されない。弛緩率は、幅方向の熱収縮率を低下させる観点から3〜15%であることが好ましく、より好ましくは5〜10%である。熱固定処理を行う前にいったんフィルムを冷却することがさらに好ましい。さらに、フィルムを室温まで、必要ならば、長手および幅方向に弛緩処理を施しながら、フィルムを冷やして巻き取り、目的とする二軸延伸ポリ乳酸フィルムを得る。
【0051】
上記のような製造方法を採用することにより、本発明の二軸配向ポリ乳酸フィルムを得ることができる。
【実施例】
【0052】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら制限を受けるものではない。実施例中に示す測定や評価は次に示すような条件で行った。
[測定及び評価方法]
(1)フィルム厚み
フィルム厚みをダイヤルゲージ(ミツトヨ(株)製)を用いて測定した。10cm×10cmに切り取ったフィルムから10箇所測定し、10箇所の厚みの平均値を求めた。
【0053】
(2)透明性(ヘイズ値)
ヘイズ値を濁度計(日本電色工業(株)製NDH5000)を用いて測定した。測定は1水準につき5回行い、5回の測定の平均値から、厚み0.3mmとした場合の換算値としてヘイズ値(%)を求めた。換算式は下記のとおりである。
【0054】
H0.3(%)=H×0.3/d
ここで、
H0.3 :0.3mm厚み換算ヘーズ値(%)
H:フィルムサンプルのヘーズの実測値(%)
d:ヘーズ測定部のフィルムサンプル厚み(mm)
(3)耐衝撃性(インパクト値)
フィルムインパクトテスタ(東洋精機(株)製)を用いて23℃−60%RH雰囲気下で測定した突き刺し衝撃強さを表す。但し、錘の直径は0.5インチφとし、データは膜厚300μmに換算した値(=測定値×300/実フィルム膜厚)とした。
【0055】
(4)層厚み比
フィルム断面を、ライカマイクロシステムズ(株)製金属顕微鏡LeicaDMLMを用いて、倍率100倍、透過光で写真撮影し、各層厚みを測定した。
【0056】
なお必要に応じて、成形体の断面観察を行いやすいように、成形体を加熱結晶化させてから測定を行った。
[ポリ乳酸樹脂]
実施例、比較例で用いたポリ乳酸系樹脂について示す。
【0057】
P1:D−乳酸ユニット含有割合5モル%、PMMA換算の質量平均分子量が19万のポリL−乳酸樹脂
P2:D−乳酸ユニット含有割合1モル%、PMMA換算の質量平均分子量が19万のポリL−乳酸樹脂
[その他の樹脂]
実施例、比較例で用いた、その他の樹脂について示す。
【0058】
Q1:ポリブチレンサクシネート樹脂(三菱化学社製 GS−Pla FZ91PD)
Q2:ポリブチレンサクシネートアジペート樹脂(昭和高分子社製 ビオノーレ ♯3001)
Q3:ポリエチレンテレフタレートサクシネート樹脂(Dupont社製 Biomax 6926)
Q4:ポリブチレンアジペートテレフタレート樹脂(BASF社製 エコフレックス)
[反応性アクリル樹脂]
実施例、比較例で用いた、反応性アクリル樹脂について示す。
【0059】
R1:エポキシ基含有アクリル系グラフト樹脂(東亞合成社製 レゼダGP−301、エポキシ価0.59meq / g)
R2:エポキシ基含有アクリル系樹脂(東亞合成社製 アルフォンUG−4070、エポキシ価1.4meq / g)
R3:水酸基含有アクリル系樹脂(東亞合成社製 アルフォンUH−2170、水酸基価88mgKOH / g)
R4:カルボキシル基含有アクリル系樹脂(東亞合成社製 アルフォンUC−3910、酸価200mgKOH / g)
R5:長鎖アルキル基含有アクリル系樹脂(東亞合成社製 アルフォンUF−5022)
R6:アルコキシシリル基含有アクリル系樹脂(東亞合成社製 アルフォンUS−6100)
(実施例1)
表に記載の量関係で、P1、Q1、R1をベント式二軸押出機に供給し、口金温度を200℃に設定したTダイ口金より押出し、静電印加方式により、30℃のキャスティングドラムに密着させ冷却固化し、無配向キャストフィルムを得た。
【0060】
得られたフィルムの透明性、耐衝撃性は良好であった。
(実施例2〜12)
ポリ乳酸、その他樹脂、反応性アクリル樹脂の種類、量を表の記載の通りに変えた以外は、実施例1と同様にして無配向キャストフィルムを得た。
(実施例13)
表に記載の量関係で、層A用の樹脂としてP1、Q1、R1と、層B用の樹脂としてP1をそれぞれ別々のベント式二軸押出機に供給し200℃で溶融混練したのち、層構成がA/B/Aとなるよう複合化、Tダイ口金より共押出し、静電印加方式により、30℃のキャスティングドラムに密着させ冷却固化し、無配向キャストフィルムを得た。
【0061】
得られたフィルムの透明性、耐衝撃性は良好であった。
(比較例1)
表に記載の量関係で、実施例1と同様にして無配向キャストフィルムを得た。得られたフィルムは耐衝撃性に劣るものであった。
(比較例2)
表に記載の量関係で、実施例1と同様にして無配向キャストフィルムを得た。得られたフィルムは実施例7と比較して透明性に劣るものであった。これは、反応性アクリル樹脂が含まれないため、P1とQ1の相溶性が低くなったためと考えられる。
(比較例3)
表に記載の量関係で、実施例1と同様にして無配向キャストフィルムを得た。得られたフィルムは耐衝撃性に劣るものであった。これは、その他の樹脂が含まれないためと考えられる。
(比較例4)
表に記載の量関係で、実施例1と同様にして無配向キャストフィルムを得た。得られたフィルムは実施例7と比較して透明性に劣るものであった。これは、反応性アクリル樹脂の含有量が少ないためと考えられる。
(比較例5)
表に記載の量関係で、実施例1と同様にして無配向キャストフィルムを得た。得られたフィルムは透明性に劣るものであった。これは、Q1が多いためと考えられる。
(比較例6)
表に記載の量関係で、実施例1と同様にして無配向キャストフィルムを得た。得られたフィルムは透明性に劣るものであった。これはR1が多く、反応性が高くなりすぎて反応部位が肥大化し、透明性が悪化したためと予想される。
【0062】
【表1−1】

【0063】
【表1−2】

【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のポリ乳酸系フィルムは、耐衝撃性、透明性に優れ、かつ生分解性を有しており、食品などに用いられる各種包装材料、および各種工業材料などに好ましく用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、及びポリブチレンアジペートテレフタレートからなる群より選ばれる少なくとも一つの樹脂を、ポリ乳酸100質量部に対して1〜30質量部有し、
さらにポリ乳酸100質量部に対して、反応性アクリル樹脂を0.1〜5質量部有するポリ乳酸系フィルム。
【請求項2】
前記反応性アクリル樹脂が、水酸基、カルボニル基、エポキシ基、長鎖アルキル基、及びアルコキシシリル基からなる群より選ばれる少なくとも一つの官能基を有する、請求項1に記載のポリ乳酸系フィルム。
【請求項3】
前記反応性アクリル樹脂が、グラフト構造を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載のポリ乳酸系フィルム。
【請求項4】
前記反応性アクリル樹脂が、官能基としてエポキシ基を有し、該エポキシ基のエポキシ価が0.1〜2.5meq/ gであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のポリ乳酸系フィルム。

【公開番号】特開2010−189536(P2010−189536A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−34836(P2009−34836)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】