説明

ポリ乳酸系伸縮性不織布およびその製造方法

【課題】
ポリ乳酸系短繊維を主体とし、かつ伸縮性に優れる伸縮性不織布を提供する。
【解決手段】
潜在捲縮発現性を有するポリ乳酸系短繊維と、120℃での乾熱収縮率が15〜80%の高収縮短繊維とを、高収縮短繊維の混合量が5〜40質量%となるように混合して不織ウェブを得、次いで、ポリ乳酸系短繊維が有する潜在捲縮発現性が顕在化し、かつ高収縮短繊維が熱収縮する温度にて熱処理を施すことによりポリ乳酸系伸縮性不織布を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸系短繊維を含有する伸縮性不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、貼布材などの伸縮性不織布には、粘度や、収縮率の異なるポリエチレンテレフタレートなどの2種類の熱可塑性合成樹脂を、並列的または偏心的に接合した潜在捲縮発現性繊維を、ウェブや不織布にした後、熱処理を行うことにより、3次元のスパイラル捲縮を発現させた伸縮性に富んだ不織布が使用されている。
【0003】
しかし、ポリエチレンテレフタレートなどの合成樹脂は石油を原料としており、石油を原料とする合成樹脂の使用は、石油の枯渇を促進させることとなる。最近では、石油の枯渇を遅延する目的より、植物由来の樹脂であるポリ乳酸が注目されている。
【0004】
そして、特許文献1では、粘度や光学純度の異なる2種類のポリ乳酸を並列的または偏心的に接合させた、潜在捲縮発現性を有するポリ乳酸系短繊維が提案されている。
【特許文献1】特開2003−201629
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ポリ乳酸系短繊維を含む伸縮性に優れた不織布を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を達成するために、特許文献1に開示されているような潜在捲縮発現性を有するポリ乳酸系短繊維を用い、伸縮性不織布を提供しようと試みた。しかし、ポリ乳酸系短繊維は、単糸を自由収縮可能な状態で熱処理を行うと、スパイラル捲縮を発現するが、ニードルパンチなどによって、不織布を形成させた後に熱処理した場合には、捲縮の発現が悪く、得られる不織布は十分な伸縮性を有するものではなかった。
【0007】
本発明者は、上記現象の原因について、ポリ乳酸系繊維は90℃以上の温度から、繊維の軟化が始まるため、不織布のような繊維同士が絡み合い、拘束された状態では、捲縮が発現しにくくなるのではないかと考えた。
【0008】
そこで、ポリ乳酸系繊維を含む不織布であって、繊維が絡み合った状態であっても捲縮が十分に発現し、十分な伸縮性を有する不織布を得ることはできないかと検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、潜在捲縮発現性を有し、この潜在捲縮発現性が顕在化してスパイラル捲縮を発現しているポリ乳酸系短繊維と、120℃での乾熱収縮率が15〜80%の高収縮短繊維が熱収縮してなる短繊維とから構成され、前記熱収縮してなる短繊維が不織布中に5〜40質量%混合されていることを特徴とするポリ乳酸系伸縮性不織布を要旨とするものである。
【0009】
また、本発明は、潜在捲縮発現性を有するポリ乳酸系短繊維と、120℃での乾熱収縮率が15〜80%の高収縮短繊維とを、高収縮短繊維の混合量が5〜40質量%となるように混合して不織ウェブを得、次いで、ポリ乳酸系短繊維が有する潜在捲縮発現性が顕在化し、かつ高収縮短繊維が熱収縮する温度にて熱処理を施すことを特徴とするポリ乳酸系伸縮性不織布の製造方法を要旨とするものである。
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のポリ乳酸系伸縮性不織布は、潜在捲縮発現性を有し、この潜在捲縮発現性が顕在化してスパイラル捲縮を発現しているポリ乳酸系短繊維を含有している。本発明の不織布は、このポリ乳酸系短繊維を主体繊維とするものであり、不織布を構成する繊維中、ポリ乳酸系短繊維が占める割合は60質量%以上であることが好ましい。
【0011】
本発明におけるポリ乳酸系短繊維とは、繊維を構成する樹脂の40質量%以上がポリ乳酸によって構成されるものであり、ポリ乳酸を原料とすることにより、限りのある資源である石油を原料とすることを抑え、再生可能な植物を原料とする環境配慮型の素材であるポリ乳酸を主たる原料とすることにより、環境への負荷を軽減することができる。
【0012】
ポリ乳酸系短繊維は、潜在捲縮発現性を有するものである。ここで、潜在捲縮発現性を有する繊維とは、単糸を自由収縮可能な状態で、120℃で15分間熱処理した場合に、10ヶ/25mm以上、好ましくは30ヶ/25mm以上、さらに好ましくは30ヶ/25mm以上のスパイラル捲縮を発現するものをいう。
【0013】
潜在捲縮発現性を有するポリ乳酸系短繊維において、その形態としては、粘度や光学純度が異なるポリ乳酸同士が並列的または偏心的に接合させた複合繊維や、ポリ乳酸と、ポリ乳酸以外の芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィンなどの樹脂とが並列的または偏心的に接合させた複合繊維が挙げられる。
【0014】
本発明において用いられるポリ乳酸としては、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸のいずれでもよく、目的を損なわない範囲で、ε−カプロラクトン等の環状ラクトン類、α−ヒドロキシ酪酸、α−ヒドロキシイソ酪酸、α−ヒドロキシ吉草酸等のα−オキシ酸類、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール等のグリコール類、コハク酸、セバシン酸、アジピン酸等のジカルボン酸類を含有してもよい。また、ポリ乳酸の耐久性を高める目的として、ポリ乳酸に脂肪族アルコール、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、エポキシ化合物などの末端封鎖剤を添加してもよい。
【0015】
本発明の不織布は、上記したポリ乳酸系短繊維と、120℃での乾熱収縮率が15〜80%の高収縮短繊維が熱収縮してなる短繊維とから構成される。
【0016】
前述したように、潜在捲縮発現性を有するポリ乳酸系短繊維は、単糸を無荷重下(自由収縮可能な状態下)で熱処理を施した場合には、多くのスパイラル捲縮が発現するが、ポリ乳酸系短繊維のみからなる不織ウェブを交絡処理等により不織布を形成させた後に熱処理した場合には、著しく捲縮の発現が劣り、得られる不織布は十分な伸縮性を発揮できない。しかし、本発明では、不織ウェブ中に、120℃での乾熱収縮率が15〜80%の高収縮短繊維を混綿することで、熱処理によりポリ乳酸系短繊維は、スパイラル捲縮を良好に発現し、伸縮性能が大幅に向上した不織布を得ることができる。
【0017】
この現象についての詳しい理由はわからないが、発明者は以下のとおりと推察する。すなわち、ポリ乳酸系短繊維は、捲縮が発現する90℃以上の雰囲気下では軟化するため、熱収縮応力が小さく、特に交絡等により拘束された状態であると、自力で縮むことにより捲縮を発現しにくい。しかし、本発明では、不織ウェブに特定の高収縮短繊維を混合したため、高収縮短繊維が熱処理により収縮し、不織布全体が収縮することにより、ポリ乳酸系短繊維にたるみが生じ、すなわち、拘束されて緊張した状態が一部解かれ、自由収縮可能な状態に近似した状態になるため、スパイラル捲縮を良好に発現することができると考える。
【0018】
本発明における高収縮短繊維とは、120℃での乾熱収縮率が15〜80%である。高収縮短繊維の120℃での乾熱収縮率が15%以上とすることにより、不織布が十分に熱収縮することができ、その結果、ポリ乳酸系短繊維が良好にスパイラル捲縮を発現でき、得られる不織布に所望の伸縮性を付与することができる。一方、高収縮短繊維の120℃での乾熱収縮率が80%以下とすることにより、熱処理による不織布の収縮が大きくなりすぎず、不織布の風合い、地合を良好に保持することができる。
【0019】
なお、本発明において乾熱収縮率は、以下の方法により求められる。すなわち、単繊維15本を試料とし、各単繊維ごとに初荷重2mg/デシテックス時の長さL1(cm)を測定し、次いでエアーオーブン型熱処理機中で120℃×15分間熱処理した後の長さL2(cm)を測定し、次式により収縮率を算出し、その平均値を乾熱収縮率とする。
乾熱収縮率(%)=(L1 −L2 )×100/L1
【0020】
また、高収縮短繊維は、不織布中に5〜40質量%混合されている。高収縮短繊維の混合率が5%以上とすることにより、不織布が十分に収縮することができるため、その結果、ポリ乳酸系短繊維が良好にスパイラルに捲縮が発現でき、得られる不織布に所望の伸縮性を付与することができる。一方、高収縮短繊維の混合率が40質量%以下とすることにより、熱処理による不織布の収縮が大きくなりすぎず、不織布の風合い、地合を良好に保持することができる。
【0021】
本発明における高収縮短繊維は、120℃での乾熱収縮率が15〜80%のものであれば、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミドなどからなる繊維や、これらの樹脂を複数種組み合わせた複合繊維などのいずれでもよいが、ポリ乳酸系短繊維の捲縮を発現させるときの熱処理温度(90〜150℃)よりも、融点が高いものが好ましい。また、上記熱処理温度において、熱収縮応力の高いものが好ましい。
【0022】
本発明に用いられる高収縮短繊維は、例えば、繊維の製造する際の延伸行程における熱セット温度を下げて、熱収縮性を高めることにより、所望の熱収縮性を得ることができる。例えば、ポリエチレンテレフタレートからなる繊維の場合は、熱セット温度を50〜80℃程度とする。また、結晶性を低下させる成分を共重合した樹脂を構成樹脂とすることによって、所望の熱収縮性を得ることができる。例えば、ポリエチレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレートに、イソフタル酸やスルフォイソフタル酸などのイソフタル酸類を全酸性分において2〜40mol%共重合した樹脂、ポリアルキレンテレフタレートにコハク酸、アジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸類を全酸成分に対して5〜40mol%共重合した樹脂、ポリプロピレンにエチレンやブテンなどを1〜20mol程度共重合した樹脂などを用いた繊維、または、これらの熱収縮性が高い樹脂を鞘成分、あるいは芯成分に用いた芯鞘複合繊維などが挙げられる。
【0023】
また、本発明のおいては、高収縮短繊維も潜在捲縮発現性を有していることが好ましい。高収縮短繊維が潜在捲縮性を有することにより、熱処理の際の不織布の収縮率を容易に向上させることができ、得られる不織布の伸縮性が向上するばかりでなく、地合もより良好となる。本発明において、潜在捲縮発現性を有する高収縮短繊維とは、単糸を自由収縮可能な状態において、120℃で15分間熱処理した場合に、10ヶ/25mm以上、好ましくは30ヶ/25mm以上、さらに好ましくは30ヶ/25mm以上のスパイラル捲縮を発現するものをいう。
【0024】
潜在捲縮発現性を有する高収縮短繊維としては、乾熱収縮率が上記要件を満たすものであればよく、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミドなどの繊維、あるいはこれらの樹脂を組み合わせた繊維など、どのような繊維であってもよい。
【0025】
例えば、粘度や熱収縮が異なる二種類の樹脂を、並列的または偏心的に接合させた繊維が挙げられ、具体的には、ポリエチレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレートに、イソフタル酸類を全酸成分において5〜40wt%共重合した樹脂と、ポリエチレンテレフタレートなどの樹脂とを、並列的または偏心的に接合させた繊維や、ポリアルキレンテレフタレートにアジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸を全酸成分に対して5〜40mol%共重合した樹脂と、ポリエチレンテレフタレートなどの樹脂とを、並列的または偏心的に接合させた繊維、ポリプロピレン樹脂にエチレンを1〜20mol%共重合した樹脂とポリプロピレンを、並列的または偏心的に接合させた繊維などが挙げられる。
【0026】
本発明の不織布を構成する繊維の断面形状は、円形、楕円形、ひょうたん形、多角形、多葉形、アルファベット形その他各種の非円形(異形)のものや、中空部を有するものなど任意のものを用いることができる。
【0027】
繊度も同様に使用目的に応じて任意に選ばれるが、通常、単糸繊度0.1〜50デシテックス(dtex)程度の範囲、特に0.5〜30dtexの範囲が好ましく用いられる。
【0028】
また、繊維長も同様に使用目的に応じて任意に選択すればよく、通常は20〜80mm、特に30〜70mmの範囲のものを好ましく用いることができる。
【0029】
さらに、本発明のポリ乳酸系伸縮性不織布に、あるいは繊維を構成する樹脂等に各種顔料、染料、撥水剤、吸水剤、難燃剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、金属粒子、結晶核剤、滑剤、可塑剤、抗菌剤、香料その他の添加剤を適用してもよい。
【0030】
本発明のポリ乳酸系伸縮性不織布は、上記した繊維によって構成されるが、不織布を構成する繊維同士が、互いに交絡により一体化しているものであることが好ましい。交絡することにより、伸縮性、柔軟性が良好であるからである。
【0031】
本発明のポリ乳酸系伸縮性不織布の目付は、特に限定されず、用途に応じて適宜選択すればよい。
【0032】
本発明のポリ乳酸系伸縮性不織布の製造方法について説明する。
【0033】
上記した潜在捲縮発現性を有するポリ乳酸系短繊維と、120℃での乾熱収縮率が15〜80%の高収縮短繊維とを、高収縮短繊維の混合量が5〜40質量%となるように混合し、カード機等を用いて不織ウェブを得る。
【0034】
得られた不織ウェブにポリ乳酸系短繊維の潜在捲縮発現性が顕在化し、かつ高収縮短繊維が熱収縮する温度にて熱処理を施す。このとき、緊張状態であると、十分に収縮することができないため、無荷重下での自由収縮可能な状態で熱処理を施す。また、具体的な条件としては、熱処理温度が90〜150℃、熱処理時間は1〜10分程度とする。熱処理装置は、例えば、熱風通過式熱処理機を用いることができる。
【0035】
潜在捲縮発現性が顕在化するための熱処理を施す前に、不織布化手段を施すことにより、不織ウェブを構成する繊維同士を一体化してもよい。不織布化手段としては、熱圧着手段である熱エンボス加工を施すことが挙げられる。また、交絡手段であるニードルパンチ加工、スパンレース加工が挙げられる。交絡手段を施すことにより、得られる不織布は、伸縮性により優れ、柔軟性が向上する。
【0036】
このようにして、潜在捲縮発現性を有し、この潜在捲縮発現性が顕在化してスパイラル捲縮を発現しているポリ乳酸系短繊維と、特定の乾熱収縮率の高収縮短繊維が熱収縮してなる短繊維とから構成されて伸縮性に優れたポリ乳酸系伸縮性不織布を得ることができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、熱処理により軟化しやすく熱収縮応力が小さいポリ乳酸を構成樹脂とする短繊維であっても、上記したように不織ウェブ中に特定の高収縮短繊維を混綿することで、ポリ乳酸系短繊維が十分にスパイラル捲縮を発現し、良好な伸縮性能を有するポリ乳酸系不織布を得ることができる。
【実施例】
【0038】
以下実施例によって本発明を詳しく説明するが、これらに限定されるものではない。
なお実施例における特性値等の測定法は次の通りである。
(1)数平均分子量
ポリ乳酸を10mg/mLの濃度になるように、クロロホルムに溶解して、クロロホルムを溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した。検出器は屈折率計を使用し、分子量の標準物質としてポリスチレンを使用した。
【0039】
(2)単糸繊度(dtex)
JIS L−1015 7−5−1−1Aの方法により測定した。
【0040】
(3)捲縮数(ケ/25mm)
JIS L−1015 7−12−1の方法により測定した。なお、熱処理後の捲縮数は、繊維を120℃で15分間自由収縮可能な条件で熱処理することによって行った。
【0041】
(4)伸張率(%)
得られた不織布を幅5cm、長さ15cmに切断し、30g荷重時の長さLと240g荷重時の長さLを測定し、次式より伸張率を算出した。
伸張率(%)=〔(L−L)/L〕×100
本発明では150%以上を合格とした。
【0042】
(5)地合
不織布を10人のパネラーにより、目視により、地合を評価した。10人中9人以上が地合が良好であると評価した場合◎、5〜8人が地合が良好であると評価した場合○、2〜4人であれば△、0〜1人であれば×とした。
【0043】
(6)ソフト性(風合い)
不織布を10人のパネラーにより、手触りにより、風合いのソフト性を官能評価した。10人中9人以上が風合いがソフトであると評価した場合◎、5〜8人が風合いがソフトであると評価した場合○、2〜4人であれば△、0〜1人であれば×とした。
【0044】
実施例1
数平均分子量83920、D−乳酸/L乳酸の共重合比=1.2/98.8%であるL−乳酸を主体とするポリ乳酸樹脂Aと、数平均分子量87310、D−乳酸/L乳酸の共重合比=5.7/94.3%であるL−乳酸を主体とするポリ乳酸樹脂Bとを、孔数が713である通常のサイドバイサイド型の繊維用のノズルを用いて、複合比率50:50、吐出量430g/min、220℃にて紡糸し、引取速度1100m/minで引き取り、未延伸糸を得た。この時、紡糸断糸はなく、工程調子は良好であった。
【0045】
得られた未延伸糸を集束して糸条束とし、延伸温度60℃、延伸速度100m/minで3.00倍に延伸後、90℃で緊張熱処理を行い、次いで、スタッフィングボックスで機械捲縮を付与した後、カット長51mmに切断して、繊度2.2dtex、120℃における捲縮発現数が73ケ/25mmのポリ乳酸系短繊維を得た。
【0046】
一方、高収縮短繊維は以下のようにして得た。すなわち、固有粘度が0.69であるポリエチレンテレフタレートを、孔数が720ホールである通常の単一成分繊維用ノズルを用いて、吐出量300g/min、290℃にて紡糸し、引取速度1100m/minで引き取り、未延伸糸を得た。得られた未延伸糸を集束して糸条束とし、延伸温度65℃、延伸速度100m/minで2.75倍に延伸し、80℃で緊張熱処理を行い、次いで、スタッフィングボックスで機械捲縮を付与した後、カット長51mmに切断して、繊度が1.7dtex、120℃における乾熱収縮率が21.2%のであるポリエチレンテレフタレート(PET)からなる高収縮短繊維を得た。
【0047】
次に、このポリ乳酸系短繊維を90質量%と、高収縮短繊維10質量%とを、ローラカードを用いて、速度20m/minで開繊して不織ウエブを形成し、次いで、パンチ密度192本/cmでニードルパンチ処理を施した後、熱風通過式熱処理機を用い、120℃で2分間、弛緩状態で熱処理して、目付150g/mのポリ乳酸系伸縮性不織布を得た。
【0048】
実施例2
実施例1において、高収縮短繊維を以下のものを用いたこと以外は実施例1と同様にしてポリ乳酸系伸縮性不織布を得た。
高収縮短繊維を得る際に、実施例1のポリエチレンテレフタレートに替えて、高収縮短繊維を形成する樹脂として、イソフタル酸を酸性分中に10mol%共重合した、固有粘度が0.72である共重合ポリエステルを用いて、120℃における乾熱収縮率が51.1%であるPET系の高収縮短繊維を得た。
【0049】
実施例3
実施例1において、高収縮短繊維を以下のものを用いたこと以外は実施例1と同様にしてポリ乳酸系伸縮性不織布を得た。
高収縮短繊維を得る際に、実施例1のポリエチレンテレフタレートに替えて、イソフタル酸を酸性分中に20mol%共重合した、固有粘度が0.72である共重合ポリエステルを用いて、120℃における乾熱収縮率が72.4%であるPET系の高収縮短繊維を得た。
【0050】
実施例4,5
実施例1において、高収縮短繊維の混合量をそれぞれ5質量%(実施例4)、30質量%(実施例5)としたこと以外は、実施例1と同様にしてポリ乳酸系伸縮性不織布を得た。
【0051】
実施例6
高収縮短繊維として、120℃での乾熱収縮率が31.3%、120℃における捲縮発現数が102ケ/25mmであるポリオレフィン系潜在捲縮短繊維(ユニチカファイバー社製 品番<UP81> 1.7dtex 繊維長51mm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、ポリ乳酸系伸縮性不織布を得た。
【0052】
実施例7
高収縮短繊維として、120℃での乾熱収縮率が24.4%、120℃における捲縮発現数が57ヶ/25mmであるPETを主体とする潜在捲縮短繊維(ユニチカファイバー社製 品番<T81>1.7dtex 繊維長51mm)を用いた以外は、実施例1と同様にして、ポリ乳酸系伸縮性不織布を得た。
【0053】
比較例1
高収縮短繊維を混合せず、構成繊維としてポリ乳酸系短繊維のみを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、ポリ乳酸系不織布を得た。
【0054】
比較例2,3
実施例1において、高収縮性短繊維の混合量をそれぞれ3質量%(比較例2)、50質量%(比較例3)としたこと以外は、実施例1と同様にしてポリ乳酸系伸縮性不織布を得た。
【0055】
比較例4
実施例1において、高収縮短繊維を以下のものを用いたこと以外は実施例1と同様にしてポリ乳酸系伸縮性不織布を得た。
高収縮短繊維を得る際に、実施例1の緊張熱処理温度を100℃として、120℃における乾熱収縮率が11.1%であるポリエチレンテレフタレート(PET)からなる高収縮短繊維を得た。
【0056】
比較例5
実施例1において、高収縮短繊維を以下のものを用いたこと以外は実施例1と同様にしてポリ乳酸系伸縮性不織布を得た。
高収縮短繊維を得る際に、実施例1のポリエチレンテレフタレートに替えて、イソフタル酸を酸性分中に3mol%共重合した、固有粘度が0.71である共重合ポリエステルを用いて、120℃における乾熱収縮率が83.4%であるPET系の高収縮短繊維を得た。
【0057】
得られた実施例1〜7、比較例1〜5のポリ乳酸系不織布の物性値等を表1に示す。
【0058】
【表1】

表1より、明らかなように、本発明の実施例1〜7では、不織布の地合、および伸縮性が良好であった。特に、高収縮短繊維として潜在捲縮発現性を有し、スパイラル捲縮を発現した短繊維を使用した実施例6,7は、得られた不織布の地合が非常に良好であった。
【0059】
一方、比較例1、2、4では、高収縮短繊維が混綿されていない、または、混綿されていても混綿量が少ない、混綿する高収縮短繊維の乾熱収縮率が低いなど、本発明の要件を満たさないため、ポリ乳酸潜在捲縮発現繊維の捲縮発現が悪く、本発明が所望とする伸縮性を得ることができなかった。また比較例3、5では、高収縮短繊維の混綿率が高すぎる、混綿した高収縮短繊維の乾熱収縮率が高すぎるなど、本発明の要件を満たさないため、不織布の収縮が大きすぎ、不織布の風合いが硬くなったり、地合に劣るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潜在捲縮発現性を有し、この潜在捲縮発現性が顕在化してスパイラル捲縮を発現しているポリ乳酸系短繊維と、120℃での乾熱収縮率が15〜80%の高収縮短繊維が熱収縮してなる短繊維とから構成され、前記熱収縮してなる短繊維が不織布中に5〜40質量%混合されていることを特徴とするポリ乳酸系伸縮性不織布。
【請求項2】
不織布を構成する繊維同士が、互いに交絡により一体化していることを特徴とする請求項3記載のポリ乳酸系伸縮性不織布。
【請求項3】
高収縮短繊維が潜在捲縮発現性を有し、熱収縮してなる短繊維が、潜在捲縮発現性が顕在化してスパイラル捲縮を発現していることを特徴とする請求項3または4記載のポリ乳酸系伸縮性不織布。
【請求項4】
潜在捲縮発現性を有するポリ乳酸系短繊維と、120℃での乾熱収縮率が15〜80%の高収縮短繊維とを、高収縮短繊維の混合量が5〜40質量%となるように混合して不織ウェブを得、次いで、ポリ乳酸系短繊維が有する潜在捲縮発現性が顕在化し、かつ高収縮短繊維が熱収縮する温度にて熱処理を施すことを特徴とするポリ乳酸系伸縮性不織布の製造方法。
【請求項5】
熱処理を施す前に、交絡手段を施すことを特徴とする請求項4記載のポリ乳酸系伸縮性不織布の製造方法


【公開番号】特開2007−39821(P2007−39821A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−222866(P2005−222866)
【出願日】平成17年8月1日(2005.8.1)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】