説明

ポリ乳酸系樹脂成形体の製造方法及びポリ乳酸系樹脂組成物

【課題】透明性、耐熱性及び機械的特性が良好なポリ乳酸成形体を与えることができる、生産性の高いポリ乳酸成形体の製造方法を提供すること。
【解決手段】ポリ乳酸に特定のトリメシン酸アミド化合物を、該トリメシン酸アミド化合物の溶解温度以上で溶解させ、溶融状態のポリ乳酸組成物とする工程、その溶融状態のポリ乳酸組成物を該組成物のガラス転移温度以下に急冷処理する工程、及びその急冷処理されたポリ乳酸組成物を該組成物の結晶化温度以上ポリ乳酸の融点未満の温度範囲で結晶化させる工程を具備した製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸系樹脂成形体の製造方法とその成形体、及びポリ乳酸系樹脂組成物とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境に優しい資源循環型プラスチックが注目されている。それらの1つとして、ポリ乳酸がある。ポリ乳酸は、植物から得ることができるため、石油資源を使用しないカーボンニュートラルな素材、持続可能な資源として、循環型社会の構築に貢献しうるものであり、脚光を浴びている。また、ポリ乳酸は、他の樹脂に比べて、生分解性が高く、環境に優しい樹脂として、幅広い分野での普及が期待される樹脂である。
【0003】
しかしながら、ポリ乳酸は、従来公知の結晶性樹脂と比較して必ずしも十分な基本物性を備えているものではなく、応用分野によっては熱的特性、機械的特性、光学的特性、電気的特性などの性能不足、成形サイクル時間が長い為に生産性が低くなるという問題、原材料コストが高いという問題など、ポリ乳酸の普及には解消しなければならない諸問題が山積されている。
ところで、現在市販されているポリ乳酸成形品は、殆どが結晶化処理をしていない非晶質のものであり、それ故に外観は透明性に優れる。しかし、そのポリ乳酸成形品が、ポリ乳酸のガラス転移温度以上の温度に曝された場合には、成形品は熱変形を引き起こす問題や、夏場の温度であっても成形品を重ねてストックしたり輸送したりしているときに成形品同士が粘着又は密着するという問題が生じる。また、その成形品では機械的特性等の性能も不十分である。すなわち、非晶性のポリ乳酸成形品では、その使用用途に大幅な制限若しくは制約を受けることになるのである。
前記問題の一般的な解決手段としては、非晶性のポリ乳酸成形品を結晶化さて、結晶性のポリ乳酸成形品とする方法が挙げられる。しかし、ポリ乳酸は、結晶化には長い結晶化時間を要するために生産性が低くなりコストアップとなることや結晶化に伴い透明性が喪失して不透明となることが知られている。
そのために、これまでに特定の添加剤を使用して、ポリ乳酸の結晶化時間を短縮させ、同時に成形品の耐熱性・機械的特性又は透明性を改善する方法が提案させている(特許文献1〜5)。しかしながら、現状の細分化された用途によって或いは工業的生産性な観点から、必ずしも全てにおいて満足できるというものではなかった。ポリ乳酸の分野においては、光学的特性と熱的特性・機械的特性がより改善されたポリ乳酸成形品を高い生産性で製造できる方法の開発が切望されているのが現状である。
【0004】
【特許文献1】特開平8―3432号公報
【特許文献2】特開平10−87975号公報
【特許文献3】特開平11−116783号公報
【特許文献4】特開2003−138153号公報
【特許文献5】特開2006−328163号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、透明性、耐熱性及び機械的特性が良好なポリ乳酸系樹脂成形体を与えることができる生産性の高いポリ乳酸系樹脂成形体の製造方法とそのポリ乳酸系樹脂成形体、並びにポリ乳酸系樹脂成形体の成形時間の短縮化に寄与するポリ乳酸樹脂組成物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究をした結果、
(a)ポリ乳酸系樹脂及び特定のアミド化合物を含有するポリ乳酸系樹脂組成物を一般的な手順で射出成形した場合、比較的透明な射出成形体が得られるものの、実用的な結晶化度を実現できる結晶化時間としては比較的長く、工業的な生産性の観点からはより成形時間の短縮が必要であったこと、
(b)溶融状態のポリ乳酸系樹脂に特定のアミド化合物を完全に溶解させた後、その溶融状態のポリ乳酸系樹脂組成物を特定の温度以下に急冷して、ポリ乳酸系樹脂組成物が低結晶化ないし非晶化されたポリ乳酸系樹脂組成物では、そのポリ乳酸系樹脂組成物を結晶化させるのに要する時間が非常に短いこと(即ち、結晶化速度が速くなったこと)、
(c)前記(b)の急冷操作のときに、特定のアミド化合物の微細な結晶が均一にポリ乳酸系樹脂中に析出していること、
(d)さらに、その樹脂組成物を特定の温度範囲で結晶化させることにより、透明性に優れ、耐熱性・機械的特性の良好な成形体が得られること、
(e)前記(d)の結晶化操作において、ポリ乳酸系樹脂組成物を結晶化させるのに要する時間が著しく短縮されたこと(結晶化速度が速くなったこと)により、その成形体の成形時間が短縮されて、生産性向上に貢献すること、
(f)比較的少ない使用量の特定のアミド化合物で本発明の効果を奏することができ、その結果としてポリ乳酸系樹脂のリサイクルや環境保護にも貢献できること、
を見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は、以下の項目を提供するものである。
(項1) ポリ乳酸系樹脂に、一般式(1)
【化1】

[式中、3個のRは同一又は異なって、それぞれシクロヘキシル基、炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を1〜3個有するシクロヘキシル基、又は炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表す。]
で表される少なくとも1種のトリメシン酸アミド化合物を、該トリメシン酸アミド化合物の溶解温度以上で溶解させて、溶融状態のポリ乳酸系樹脂組成物とする工程(1)、その溶融状態のポリ乳酸系樹脂組成物を該樹脂組成物のガラス転移温度以下に急冷処理する工程(2)、及び、その急冷処理されたポリ乳酸系樹脂組成物を該樹脂組成物の結晶化温度以上ポリ乳酸系樹脂の融点未満の温度範囲で結晶化させる工程(3)、を具備するポリ乳酸系樹脂成形体の製造方法。
【0008】
(項2) トリメシン酸アミド化合物の含有量が、ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して0.1〜0.6重量部である、上記項1に記載の製造方法。
【0009】
(項3) トリメシン酸アミド化合物が、トリメシン酸トリ(シクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(2−メチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(3−メチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(4−メチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(2,3−ジメチルシクロヘキシルアミド)及びトリメシン酸トリ(tert−ブチルアミド)からなる群より選ばれる少なくとも一種である、上記項1又は項2に記載の製造方法。
【0010】
(項4) 上記工程(2)において急冷処理されたポリ乳酸系樹脂組成物の相対結晶化度が60%以下である、上記項1〜3の何れかに記載の製造方法。
【0011】
(項5) ポリ乳酸系樹脂組成物が、さらに加水分解抑制剤、滑剤、可塑剤、顔料、耐衝撃性改良剤、加工助剤、補強剤、着色剤、難燃剤、耐候性改良剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防かび剤、抗菌剤、光安定剤、耐電防止剤、シリコンオイル、ブロッキング防止剤、離型剤、発泡剤、香料、充填剤及びカップリング剤からなる群より選ばれる少なくとも1種のポリ乳酸改質剤を含有する、上記項1〜4の何れかに記載の製造方法。
【0012】
(項6) ポリ乳酸系樹脂に、一般式(1)
【化2】

[式中、3個のRは同一又は異なって、それぞれシクロヘキシル基、炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を1〜3個有するシクロヘキシル基、又は炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表す。]
で表される少なくとも1種のトリメシン酸アミド化合物を、該トリメシン酸アミド化合物の溶解温度以上で溶解させて、溶融状態のポリ乳酸系樹脂組成物とする工程(1)、及びその溶融ポリ乳酸系樹脂組成物を該樹脂組成物のガラス転移温度以下に急冷処理する工程(2)を経て得られる、結晶化速度が改良されたポリ乳酸系樹脂組成物。
【0013】
(項7) トリメシン酸アミド化合物の含有量が、ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して0.1〜0.6重量部である、上記項6に記載の結晶化速度が改良されたポリ乳酸系樹脂組成物。
【0014】
(項8) トリメシン酸アミド化合物が、トリメシン酸トリ(シクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(2−メチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(3−メチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(4−メチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(2,3−ジメチルシクロヘキシルアミド)及びトリメシン酸トリ(tert−ブチルアミド)からなる群より選ばれる少なくとも一種である、上記項6又は項7に記載の結晶化速度が改良されたポリ乳酸系樹脂組成物。
【0015】
(項9) 工程(2)において急冷処理が、ポリ乳酸系樹脂組成物の相対結晶化度を60%以下とする処理である、上記項6〜8の何れかに記載の結晶化速度が改良されたポリ乳酸系樹脂組成物。
【0016】
(項10) ポリ乳酸系樹脂組成物が、さらに加水分解抑制剤、滑剤、可塑剤、顔料、耐衝撃性改良剤、加工助剤、補強剤、着色剤、難燃剤、耐候性改良剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防かび剤、抗菌剤、光安定剤、耐電防止剤、シリコンオイル、ブロッキング防止剤、離型剤、発泡剤、香料、充填剤及びカップリング剤からなる群より選ばれる少なくとも1種のポリ乳酸改質剤を含有する、上記項6〜9の何れかに記載の結晶化速度が改良されたポリ乳酸系樹脂組成物。
【0017】
(項11) ポリ乳酸系樹脂に、一般式(1)
【化3】

[式中、3個のRは同一又は異なって、それぞれシクロヘキシル基、炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を1〜3個有するシクロヘキシル基、又は炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表す。]
で表される少なくとも1種のトリメシン酸アミド化合物を、該トリメシン酸アミド化合物の溶解温度以上で溶解させて、溶融状態のポリ乳酸系樹脂組成物とする工程(1)、及びその溶融ポリ乳酸系樹脂組成物を該樹脂組成物のガラス転移温度以下に急冷処理する工程(2)を具備する、結晶化速度が改良されたポリ乳酸系樹脂組成物の製造方法。
【0018】
(項12) トリメシン酸アミド化合物の含有量が、ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して0.1〜0.6重量部である、上記項11に記載の製造方法。
【0019】
(項13) トリメシン酸アミド化合物が、トリメシン酸トリ(シクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(2−メチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(3−メチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(4−メチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(2,3−ジメチルシクロヘキシルアミド)及びトリメシン酸トリ(tert−ブチルアミド)からなる群より選ばれる少なくとも一種である、上記項11又は項12に記載の製造方法。
【0020】
(項14)工程(2)において急冷処理が、ポリ乳酸系樹脂組成物の相対結晶化度を60%以下とする処理である、上記項11〜13の何れかに記載の製造方法。
【0021】
(項15)ポリ乳酸系樹脂組成物が、さらに加水分解抑制剤、滑剤、可塑剤、顔料、耐衝撃性改良剤、加工助剤、補強剤、着色剤、難燃剤、耐候性改良剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防かび剤、抗菌剤、光安定剤、耐電防止剤、シリコンオイル、ブロッキング防止剤、離型剤、発泡剤、香料、充填剤及びカップリング剤からなる群より選ばれる少なくとも1種のポリ乳酸改質剤を含有する、上記項11〜14の何れかに記載の製造方法。
【0022】
(項16)上記項1〜5の何れかに記載の製造方法により得られるポリ乳酸系樹脂成形体であって、該成形体の厚さ0.2mmでのヘイズ値が30%以下、熱変形温度が120℃以上、引張弾性率が2000MPa以上、相対結晶化度が80%以上である、ポリ乳酸系樹脂成形体。
【0023】
(項17)成形体の厚さ0.2mmでのヘイズ値が20%以下、熱変形温度が130℃以上、引張弾性率が2500MPa以上、相対結晶化度が90%以上である、上記項16に記載のポリ乳酸系樹脂成形体。
【0024】
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、前記項1に記載の製造方法に代表される、本発明に係る溶解温度、ガラス転移温度、結晶化温度及びポリ乳酸系樹脂の融点、並びに、前記項16に記載の成形体に代表される、ポリ乳酸系樹脂成形体の特性値(ヘイズ値、熱変形温度、引張弾性率、相対結晶化度など)は、後述の実施例に記載の方法で得られる値である。
【発明の効果】
【0025】
請求項1〜5(及び上記項1〜5)によれば、透明性、耐熱性及び機械的特性が良好なポリ乳酸系樹脂(組成物)の成形体を高い生産性で製造することができる。又、請求項8(及び上記項16〜17)によれば、透明性、耐熱性及び機械的特性が良好なポリ乳酸系樹脂成形体を得ることができる。
請求項6(及び上記項6〜10)によれば、ポリ乳酸の結晶化時間を短縮する(又は結晶化速度を速くする)ことができる、(結晶化速度が改良された)ポリ乳酸系樹脂組成物を得ることができる。又、請求項7(及び上記項11〜15)によれば、結晶化速度が改良されたポリ乳酸系樹脂組成物の製造方法を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
<ポリ乳酸系樹脂組成物>
本発明に係るポリ乳酸系樹脂組成物は、ポリ乳酸系樹脂、上記一般式(1)で表されるトリメシン酸アミド化合物、及び必要に応じて下記のポリ乳酸改質剤等、を含有する組成物である。
【0027】
[ポリ乳酸系樹脂]
本発明に係るポリ乳酸系樹脂は、種々の光学純度の乳酸単位を有するものであり、例えば、L−乳酸残基からなる構造単位(L−乳酸単位)、D−乳酸残基からなる構造単位(D−乳酸単位)等で構成される。また、本発明に係るポリ乳酸系樹脂には、公知の製造法で得られたものや市販品を使用することができる。
具体的には、L−乳酸単位を主体とするポリ乳酸系樹脂、D−乳酸単位を主体とするポリ乳酸系樹脂、L−乳酸単位を主体とするポリ乳酸系樹脂とD−乳酸単位を主体とするポリ乳酸系樹脂との混合物(ステレオコンプレックス)、L−乳酸単位とD−乳酸単位とがランダム重合若しくはブロック重合したポリ乳酸系樹脂、などが挙げられ、好ましくはL−乳酸単位を主体とするポリ乳酸系樹脂及び/又はD−乳酸単位を主体とするポリ乳酸系樹脂、より好ましくはL−乳酸単位を主体とするポリ乳酸系樹脂又はD−乳酸単位を主体とするポリ乳酸系樹脂が推奨される。
前記の「主体とする」とは、乳酸単位の何れか一方の比率が、ポリ乳酸系樹脂を構成する全構造単位に対して、好ましくは80〜100モル%、より好ましくは90〜100モル%、特に95〜100モル%の推奨範囲を意味する。このような範囲内で、ポリ乳酸系樹脂の融点が高くなり、ポリ乳酸系樹脂成形体の耐熱性や機械的特性の向上に寄与する傾向が認められる。また、その樹脂成形体の結晶化完了時間の短縮にも寄与する傾向が認められる(換言すれば、結晶化速度の向上に寄与する傾向が認められる)。
また、市販のポリ乳酸を使用することは入手の容易性の観点から好ましく、具体的には、ネイチャーワクス(株)の商品名Nature works、三井化学(株)製の商品名レイシア、カネボウ合繊(株)製の商品名ラクトロン、大日本インキ化学工業(株)製の商品名プラメート、東洋紡績(株)製の商品名バイロエコール、トヨタ自動車(株)製のエコプラスチックなどが挙げられる。これらの市販品は、通常L−乳酸単位を主体とするポリ乳酸系樹脂であり、そのL−乳酸単位の構成比率はポリ乳酸系樹脂を構成する全構造単位に対して通常80〜99.5モル%である。これらの市販品の中でも、結晶化速度及び機械的特性の観点から、好ましくはL−乳酸単位の比率が高い結晶グレードと呼ばれる、三井化学(株)製のLACEA H−400、LACEA H−100、LACEA H−440、より好ましくはL−乳酸単位の構成比率95%モル以上の市販品である、三井化学(株)製のLACEA H−400、LACEA H−100が推奨される。
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、「ポリ乳酸系樹脂を構成する全構造単位」とは、ポリ乳酸系樹脂が乳酸由来の構造単位(乳酸残基)のみから構成されている場合はL−乳酸単位とD−乳酸単位との合算した単位を意味し、乳酸以外の下記のヒドロキシカルボン酸由来の構造単位を含有する場合には乳酸由来の構造単位とそのヒドロキシカルボン酸由来の構造単位とを合算した単位を意味する。
【0028】
本発明に係るポリ乳酸系樹脂は、公知の製造法に従って、L−乳酸、D−乳酸、DL−乳酸、L−ラクチド、D−ラクチド、meso−ラクチド単独又はこれらの混合物から誘導されるものを出発原料として、乳酸の直接脱水縮合法やラクチドの開環法等を用いて得ることができる。
また、出発原料の入手容易性の観点から、植物由来の出発原料に限定されるものではなく、L−乳酸メチル、D−乳酸メチル、L−乳酸エチル、D−乳酸エチル等の乳酸誘導体や微生物により生成されるものを出発原料(単量体)として使用することができる。
【0029】
本発明に係るポリ乳酸系樹脂は、本発明の効果を奏する範囲で、乳酸残基以外の他の構造単位を用いることができる。その比率は、ポリ乳酸系樹脂を構成する全構造単位に対して、好ましくは20モル%以下、より好ましくは10モル%以下、特に5モル%以下が推奨される。このような他の構造単位として使用できるヒドロキシカルボン酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等の脂肪族ジカルボン酸と、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール等の脂肪族グリコールとから誘導されるヒドロキシカルボン酸、グリコール酸、β−ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシピバリン酸、ヒドロキシ吉草酸等のヒドロキシカルボン酸などが挙げられる。
【0030】
本発明に係るポリ乳酸系樹脂の分子量は、特に限定されないが、数平均分子量として好ましくは5,000〜400,000の範囲、より好ましくは10,000〜200,000の範囲が推奨される。この範囲において、ポリ乳酸系樹脂成形体の機械的特性、耐加水分解安定性、成形性の点でより優位性が認められる。
本明細書及び特許請求の範囲において、数平均分子量とは、GPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)で測定したポリスチレン換算の値である。GPC測定条件としては、GPC装置には(株)島津製作所製GPC装置、GPCカラムには東ソー(株)製TSKgel、検出器には示差屈折率検出器、展開溶媒にはテトラヒドロフランを使用した。カラム温度は40℃、展開溶媒の流量は1.0mL/分である。
【0031】
[トリメシン酸アミド化合物]
本発明に係るトリメシン酸アミド化合物は、上記一般式(1)で表される少なくとも1種の化合物であり、特に限定はなく公知の製造法で製造されたものや市販品を使用することができる。
【0032】
上記一般式(1)における、3個のRは、同一又は異なって、それぞれシクロヘキシル基、炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を1〜3個有するシクロヘキシル基、又は炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基であり、好ましくはそれぞれシクロヘキシル基、炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を1〜2個有するシクロヘキシル基、より好ましくはそれぞれシクロヘキシル基、2−メチルシクロヘキシル基、3−メチルシクロヘキシル基、4−メチルシクロヘキシル基、4−tert−ブチルシクロヘキシル基、2,3−ジメチルシクロヘキシル基、tert−ブチル基が推奨される。
【0033】
より具体的には、シクロヘキシル基、2−メチルシクロヘキシル基、3−メチルシクロヘキシル基、4−メチルシクロヘキシル基、2−エチルシクロヘキシル基、3−エチルシクロヘキシル基、4−エチルシクロヘキシル基、2−n−プロピルシクロヘキシル基、3−n−プロピルシクロヘキシル基、4−n−プロピルシクロヘキシル基、2−イソプロピルシクロヘキシル基、3−イソプロピルシクロヘキシル基、4−イソプロピル基シクロヘキシル基、2−n−ブチルシクロヘキシル基、3−n−ブチルシクロヘキシル基、4−n−ブチルシクロヘキシル基、2−イソブチルシクロヘキシル基、3−イソブチルシクロヘキシル基、4−イソブチルシクロヘキシル基、2−sec−ブチルシクロヘキシル基、3−sec−ブチルシクロヘキシル基、4−sec−ブチルシクロヘキシル基、2−tert−ブチルシクロヘキシル基、3−tert−ブチルシクロヘキシル基、4−tert−ブチルシクロヘキシル基、2,3−ジメチルシクロヘキシル基、2,4−ジメチルシクロヘキシル基、3,4−ジメチルシクロヘキシル基、3,5−ジメチルシクロヘキシル基、2,6−ジメチルシクロヘキシル基、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などが挙げられる。
【0034】
シクロヘキシル基のシクロヘキサン環がアルキル基で置換されている場合、シクロヘキシル基に対してアルキル基の置換位置は、ポリ乳酸系樹脂の結晶化速度の向上に寄与する観点において、1個のアルキル基の場合は好ましくは2位又は4位、2個のアルキル基の場合は好ましくは2,3位、2,4位又は3,4位が推奨される。
【0035】
本発明に係るトリメシン酸アミド化合物の例示としては、トリメシン酸トリ(シクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(2−メチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(3−メチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(4−メチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(2−エチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(3−エチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(4−エチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(2−n−プロピルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(3−n−プロピルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(4−n−プロピルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(2−イソプロピルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(3−イソプロピルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(4−イソプロピルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(2−n−ブチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(3−n−ブチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(4−n−ブチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(2−sec−ブチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(3−sec−ブチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(4−sec−ブチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(2−イソブチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(3−イソブチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(4−イソブチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(2−tert−ブチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(3−tert−ブチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(4−tert−ブチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(2,3−ジメチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(2,3−ジエチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(2,4−ジメチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(3,4−ジメチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(3,5−ジメチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(2,6−ジメチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸モノ(シクロヘキシルアミド)ジ(2−メチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸ジ(シクロヘキシルアミド)モノ(2−メチルシクロヘキシル)アミド,トリメシン酸モノ(シクロヘキシルアミド)ジ(4−tert−ブチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸ジ(シクロヘキシルアミド)モノ(4−tert−ブチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸モノ(シクロヘキシルアミド)ジ(2,3−ジメチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸ジ(シクロヘキシルアミド)モノ(2,3−ジメチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(n−プロピルブチルアミド)、トリメシン酸トリ(イソプロピルアミド)、トリメシン酸トリ(n−ブチルアミド)、トリメシン酸トリ(イソブチルアミド)、トリメシン酸トリ(tert−ブチルアミド)、トリメシン酸トリ(sec−ブチルアミド)などが挙げられる。
【0036】
上記トリメシン酸アミド化合物の中でも、特にポリ乳酸系樹脂の結晶化速度の向上に寄与する観点において、トリメシン酸トリ(シクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(2−メチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(3−メチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(4−メチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(2,3−ジメチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(tert−ブチルアミド)が好ましく、特にトリメシン酸トリシクロヘキシルアミド、トリメシン酸トリ(2−メチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(2,3−ジメチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(tert−ブチルアミド)が好ましい。
【0037】
上記のトリメシン酸アミド化合物は、単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0038】
本発明に係るトリメシン酸アミド化合物は、特に限定はなく、例えば、トリメシン酸成分とモノアミン成分とから従来公知の方法(例えば、特開平7−242610号公報など)に従って製造することができる。
前記トリメシン酸成分としては、トリメシン酸及びその酸塩化物、該ポリカルボン酸と炭素数1〜4の低級アルコールとのエステル等の誘導体等が例示される。これらトリメシン酸成分は、単独で又は2種を混合してアミド化に供することができる。
前記モノアミン成分としては、炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を1〜3個有してもよいシクロヘキシルアミン、炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキルアミンが例示される。より具体的には、シクロヘキシルアミン、2−メチルシクロヘキシルアミン、3−メチルシクロヘキシルアミン、4−メチルシクロヘキシルアミン、2−エチルシクロヘキシルアミン、3−エチルシクロヘキシルアミン、4−エチルシクロヘキシルアミン、2−n−プロピルシクロヘキシルアミン、3−n−プロピルシクロヘキシルアミン、4−n−プロピルシクロヘキシルアミン、2−イソプロピルシクロヘキシルアミン、3−イソプロピルシクロヘキシルアミン、4−イソプロピルシクロヘキシルアミン、2−n−ブチルシクロヘキシルアミン、3−n−ブチルシクロヘキシルアミン、4−n−ブチルシクロヘキシルアミン、2−イソブチルシクロヘキシルアミン、3−イソブチルシクロヘキシルアミン、4−イソブチルシクロヘキシルアミン、2−sec−ブチルシクロヘキシルアミン、3−sec−ブチルシクロヘキシルアミン、4−sec−ブチルシクロヘキシルアミン、2−tert−ブチルシクロヘキシルアミン、3−tert−ブチルシクロヘキシルアミン、4−tert−ブチルシクロヘキシルアミン、2,3−ジメチルシクロヘキシルアミン、2,4−ジメチルシクロヘキシルアミン、2,5−ジメチルシクロヘキシルアミン、2,6−ジメチルシクロヘキシルアミン、2,3,4−トリメチルシクロヘキシルアミン、2,3,5−トリメチルシクロヘキシルアミン、2,3,6−トリメチルシクロヘキシルアミン、2,4,6−トリメチルシクロヘキシルアミン、3,4,5−トリメチルシクロヘキシルアミン、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、イソブチルアミン、sec−ブチルアミン、tert−ブチルアミン等が挙げられる。これらモノアミン成分は、単独で又は2種を混合してアミド化に供することができる。
【0039】
本発明に係るトリメシン酸アミド化合物の含有量は、ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して、好ましくは0.1〜0.6重量部、より好ましくは0.2〜0.5重量部、特に0.25〜0.45重量部が推奨される。この範囲において、透明性、耐熱性、機械的特性及び結晶化時間(結晶化速度)の点で特に優位性・有利性が認められる。
【0040】
本発明に係るトリメシン酸アミド化合物は、その形状・形態には特に制限はないが、粒径が大きい場合には、トリメシン酸アミド化合物のポリ乳酸系樹脂に溶解するのに要する時間が長くなる傾向があり、できる限り粒径が小さい方が生産性(滞留時間が短縮できるなど)の観点からは好ましい。粒度分布としては、好ましくは平均粒子径が40μm以下、より好ましくは25μm以下、d90が100μm以下、好ましくは50μm以下が推奨される。
一方、粉体特性(流動性、付着性、粉塵爆発、噴流性など)の観点からは、寧ろある程度の大きさの粒子径がある方が好ましい場合もある。その場合、トリメシン酸アミド化合物の粒度分布は、所望の目的や製造装置の能力などから適宜選択されるものの、粉体特性(流動性、付着性、粉塵爆発、噴流性など)の観点から、好ましくは平均粒子径が0.7μm以上、より好ましくは1μm以上が推奨される。
本発明に係るトリメシン酸アミド化合物の粒度分布は、前記観点から、好ましくは平均粒子径が0.7〜40μm且つd90が100μm以下、より好ましくは平均粒子径が1〜40μm且つd90が50μm以下、特に平均粒子径が1〜25μm且つd90が40μm以下、であることが推奨される。
【0041】
[ポリ乳酸改質剤]
本発明に係るポリ乳酸樹脂組成物は、本発明の効果を奏する範囲内で必要に応じてポリ乳酸改質剤を含有させることができる。
ポリ乳酸改質剤としては、耐加水分解向上剤(末端封止剤)、滑剤、可塑剤、顔料、耐衝撃性改良剤、加工助剤、補強剤、着色剤、難燃剤、耐候性改良剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防かび剤、抗菌剤、光安定剤、耐電防止剤、シリコンオイル、ブロッキング防止剤、離型剤、発泡剤、香料、ガラス繊維、ポリエステル繊維等の各種繊維、木粉等の充填剤、カップリング剤、などが例示される。
上記の中でも、本発明に係るポリ乳酸樹脂組成物には、耐加水分解向上剤、可塑剤、顔料、耐衝撃性改良剤、加工助剤、補強剤、着色剤、離型剤、発泡剤を配合することが推奨される。
前記ポリ乳酸改質剤を配合する場合の含有量は、その種類や目的によって適宜選択されるが、ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して、通常0.01〜5重量部、好ましくは0.05〜4重量部、より好ましくは0.1〜3重量部が推奨される。
【0042】
前記耐加水分解向上剤は、ポリ乳酸系樹脂のカルボキシル基又は水酸基末端の一部若しくは全部と反応して封鎖する働きを有するものであり、例えば、脂肪族アルコールやアミド化合物などの縮合反応型化合物や、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、アジリジン化合物などの付加反応型の化合物など、公知の耐加水分解向上剤や市販品を使用することができる。
【0043】
カルボジイミド化合物としては、具体的には、ポリ(4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼン)ポリカルボジイミド、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼン:1,5−ジイソプロピルベンゼン)ポリカルボジイミド等のポリカルボジイミド化合物、N,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド等のモノカルボジイミド化合物、などが挙げられ、好ましくはポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)が推奨される。
市販品としては、カルボジライトLA−1(日清紡績株式会社製,ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド))、スタバクゾールP(ラインケミー社製,ポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼン)ポリカルボジイミド)、スタバクゾールP−100(ラインケミー社製,ポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼン及び1,5−ジイソプロピルベンゼン)ポリカルボジイミド)、スタバクゾールI(ラインケミー社製,N,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド)、などが例示される。
【0044】
上記のカルボジイミド化合物は、1種で若しくは2種以上で適宜組み合わせて使用することができる。
【0045】
前記カルボジイミド化合物は、本発明に係るポリ乳酸系樹脂成形体の耐加水分解性をより向上させる観点から、1分子中に2個以上のカルボジイミド基を有するポリカルボジイミドが好ましい。また、本発明に係るポリ乳酸系樹脂との相溶性の観点から、脂肪族若しくは脂環族カルボジイミド化合物が好ましい。
【0046】
耐加水分解向上剤を使用する場合の含有量は、ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して、好ましくは0.01〜5重量部、より好ましくは0.05〜4重量部、特に0.1〜3重量部が推奨される。
【0047】
また、前記ポリ乳酸改質剤の他に、本発明の効果を奏する範囲内で必要に応じて、ポリマーアロイ成分を使用することができる。
ポリマーアロイ成分としては、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリオキシメチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチル−アクリル酸エステル共重合体等のアクリル樹脂、芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物の共重合体、芳香族ビニル化合物−シアン化ビニル化合物−オレフィン化合物共重合体、メタクリル酸メチル−スチレン−ブチレン共重合体、スチレン系重合体、オレフィン系重合体(ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等)、などが例示される。
前記ポリマーアロイ成分を使用する場合の使用量は、その種類や目的によって適宜選択されるが、ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して、通常0.01〜30重量部、好ましくは0.1〜20重量部、より好ましくは0.5〜10重量部が推奨される。
【0048】
<ポリ乳酸系樹脂成形体の製造方法>
本発明のポリ乳酸系樹脂成形体の製造方法は、次の工程(1)〜(3)を具備するものであり、このような条件を満たすことにより本発明の効果を奏することができる。
工程(1);ポリ乳酸系樹脂に上記一般式(1)で表される少なくとも1種のトリメシン酸アミド化合物を、該トリメシン酸アミド化合物の溶解温度以上で溶解させ、溶融状態のポリ乳酸系樹脂組成物とする工程
工程(2);その溶融状態のポリ乳酸系樹脂組成物を該樹脂組成物のガラス転移温度以下に急冷処理する工程
工程(3);その急冷処理されたポリ乳酸系樹脂組成物を該樹脂組成物の結晶化温度以上ポリ乳酸系樹脂の融点未満の温度範囲で結晶化させる工程
【0049】
上記工程(1)では、ポリ乳酸系樹脂に当該トリメシン酸アミド化合物を溶解させることが肝要であり、公知の装置(押出し機、混練り機、練ロール機など)を用いて行うことができる。工程(1)では、トリメシン酸アミド化合物を溶解させるという操作と、ポリ乳酸系樹脂組成物は溶融状態とする(或いは溶解させた後、そのまま溶融状態を維持する)という操作があり、その溶融状態から次工程(2)に移行する。
当該トリメシン酸アミド化合物の溶解操作が不十分な場合には、本発明の効果が十分に発揮されない若しくは損なわれる。
【0050】
工程(1)の具体的な方法としては、例えば、(i)ポリ乳酸系樹脂とトリメシン酸アミド化合物と必要に応じてポリ乳酸改質剤とを、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、ドラムミキサー等の混合機を用いてドライブレンドした後、そのドライブレンド物を押出し機にセットして、所定の処理温度でポリ乳酸系樹脂にトリメシン酸アミド化合物を溶解させ、そのまま溶融状態を維持して、次工程(2)に移行する方法、(ii)押出し機を用いて所定の処理温度にある溶融状態のポリ乳酸系樹脂に、トリメシン酸アミド化合物と必要に応じてポリ乳酸改質剤とを固体形態又は液状形態で直接添加して溶解させ、そのまま溶融状態を維持して、次工程(2)に移行する方法、(iii) 押出し機を用いて所定の処理温度にある溶融したポリ乳酸系樹脂に、トリメシン酸アミド化合物と必要に応じてポリ乳酸改質剤を含有するマスターバッチを添加して溶解させ、そのまま溶融状態を維持して、次工程(2)に移行する方法、などが例示される。
前記(i)〜(iii)の例示は、トリメシン酸アミド化合物を溶解させ、そのまま溶融状態を維持して、次工程(2)に移行する方法であるが、その溶融状態のポリ乳酸系樹脂組成物を一端冷却してペレット化し、再度、所定の処理温度でポリ乳酸系樹脂にトリメシン酸アミド化合物を溶解させ、そのまま溶融状態を維持し、次工程(2)に移行する手順を採用することもできる。
また、トリメシン酸アミド化合物を十分に溶解させる工夫として、工程(1)の温度をポリ乳酸系樹脂の熱分解温度に留意して上げる他に、工程(1)の処理時間(滞留時間)、加熱混合装置のスクリュー回転速度・形状などを適宜調整することが好ましい。
【0051】
工程(1)における「溶解温度」とは、本明細書及び特許請求の範囲において、後述の実施例の「溶解温度」の項に記載された方法によって測定された値であり、温度とは樹脂温度を意味する。また、「溶解させて」とは、後述の実施例に記載されたとおり、溶融状態のポリ乳酸系樹脂組成物を目視で観察したとき、未溶解のトリメシン酸アミド化合物が観察されず、実質的に完全に溶解している状態を意味する。その時の溶融状態のポリ乳酸系樹脂組成物は透明である。
【0052】
通常、本発明に係るトリメシン酸アミド化合物の融点は270℃以上、ポリ乳酸系樹脂の融点は145〜180℃であることから、上記工程(1)においては、まずポリ乳酸系樹脂が溶融し、次いでトリメシン酸アミド化合物(固体)がその溶融状態のポリ乳酸系樹脂に溶解する。即ち、溶解温度は、ポリ乳酸系樹脂の融点よりも通常高い温度である。
【0053】
工程(1)の処理温度は、ポリ乳酸系樹脂へのトリメシン酸アミド化合物の溶解温度以上であり、好ましくは当該溶解温度〜(溶解温度+30℃)の範囲、より好ましくは(該溶解温度+5)〜(溶解温度+15℃)の範囲が推奨される。
より具体的には、トリメシン酸アミド化合物の種類、その含有量、ポリ乳酸系樹脂の種類、ポリ乳酸改質剤の種類、その添加量などによっても異なるが、例えば、ポリ乳酸系樹脂100重量部に対してトリメシン酸アミド化合物が0.1〜0.6重量部の範囲で使用する場合、好ましくは220〜250℃の範囲、より好ましくはポリ乳酸系樹脂の熱分解抑制の観点から225〜245℃が推奨される。
【0054】
工程(1)の処理時間は、加熱混合装置の種類・能力などにもよるが、トリメシン酸アミド化合物を溶解させることを前提として短時間である程好ましい。
【0055】
上記工程(2)では、溶融状態のポリ乳酸系樹脂組成物を該樹脂組成物のガラス転移温度以下に急冷させることが肝要であり、公知の急冷方法を使用することができる。工程(2)を経たポリ乳酸系樹脂組成物は低結晶性ないし非晶性の状態であり、その状態で次工程(3)に移行する。前記の低結晶性ないし非晶性の状態は、実質的にはポリ乳酸系樹脂の結晶状態を指すことになる。
発明者らは、工程(2)において、微細なトリメシン酸アミド化合物の結晶がポリ乳酸系樹脂に均一に析出し、それが結晶化速度の向上、並びに透明性、耐熱性及び、機械的特性の向上に寄与しているものと考える。
【0056】
その急冷処理の目安としては、上記の通り低結晶性ないし非晶性の状態である。具体的には、当該ポリ乳酸樹脂組成物の相対結晶化度が、好ましくは60%以下、より好ましくは45%、特に30%以下、(又はそのような範囲となるように操作すること)が推奨される。
【0057】
工程(2)の具体的な方法としては、例えば、十分な低温状態のチルロールや金型などに接触させたり、水などの冷媒中に浸漬したり、或いは強制空冷装置を用いて空冷させたりして、溶融状態のポリ乳酸樹脂組成物を急冷させる方法が挙げられる。
【0058】
工程(2)の急冷温度は、ポリ乳酸系樹脂組成物のガラス転移温度以下であり、好ましくは該ガラス転移温度〜(ガラス転移温度−80℃)の範囲、より好ましくは(該ガラス転移温度−5℃)〜(ガラス転移温度−60℃)の範囲が推奨される。
より具体的には、ポリ乳酸系樹脂の種類、ポリ乳酸改質剤の種類及びその添加量などによっても異なるが、例えば、好ましくは60〜−20℃の範囲、より好ましくは50〜0℃の範囲が推奨される。
【0059】
本発明の効果を効果的に発揮させるために、できる限り微細なトリメシン酸アミド化合物の結晶をポリ乳酸系樹脂に均一に析出させる必要があり、その観点から、できる限り急速に(短時間に)冷却させることがその均一に析出した状態を発現させやすい。その急冷速度としては、好ましくは−80℃/秒以上の速度、より好ましくは−120℃/秒以上の速度が推奨される。
【0060】
工程(2)を経たポリ乳酸系樹脂組成物は、結晶化(完了)時間が著しく短いという特徴を有しており、この特性を使用することにより、成形時間を短縮することが可能である。
即ち、上記の工程(2)を経たポリ乳酸系樹脂組成物は、本発明の結晶化速度が改良されたポリ乳酸系樹脂組成物でもあり、上記のポリ乳酸系樹脂成形体の製造方法の説明は、結晶化速度が改良されたポリ乳酸系樹脂組成物の製造方法の説明でもある。
【0061】
上記工程(3)では、急冷処理されたポリ乳酸系樹脂組成物を十分に結晶化させることが肝要で、そのために必要な熱処理(アニーリング)方法には特に制限はなく、公知の方法が使用できる。
【0062】
前記熱処理の温度は、ポリ乳酸系樹脂組成物の結晶化温度以上ポリ乳酸系樹脂の融点未満の温度範囲であり、好ましくは(該結晶化温度+5℃)〜(該融点−20℃)の温度範囲、より好ましくは(該結晶化温度+10℃)〜(該融点−30℃)の温度範囲が推奨される。
より具体的には、トリメシン酸アミド化合物の種類、その含有量、ポリ乳酸系樹脂の種類、ポリ乳酸改質剤の種類、その添加量などによっても異なるが、例えば、好ましくは80〜130℃の範囲、より好ましくは90〜125℃の範囲、特に95〜120℃の範囲が推奨される。
【0063】
一般的には、成形時間に対して支配的である結晶化時間は、当該工程(3)において上記工程(2)を経て得られたポリ乳酸系樹脂組成物を用いることにより、工程(2)を経由していないポリ乳酸系樹脂組成物を用いた場合と比較して、著しく短縮される。その結果、全体としてポリ乳酸系樹脂成形体の生産性の向上に大きく寄与することができる。また、その成形体の品質の均質性の向上にも寄与する。
ポリ乳酸系樹脂組成物の結晶化(完了)時間は、トリメシン酸アミド化合物の種類、その含有量、ポリ乳酸系樹脂の種類、ポリ乳酸改質剤の種類、その添加量などにも影響されるが、実用レベルの目安となる60秒以下が推奨される。
【0064】
その結晶化の目安の一つとして、ポリ乳酸系樹脂組成物の相対結晶化度を用いることができる。その相対結晶化度は、樹脂の種類、各成分の配合量等、成形方法等により異なるものの、通常80%以上、好ましくは90%以上が推奨される。そのような値を採用することにより、所望の機械的特性が得られ、金型離型性や耐熱変形性の向上にも寄与する。
【0065】
本発明のポリ乳酸系樹脂成形体の製造方法において、かかる成形体の成形方法は、所望のポリ乳酸系樹脂成形体の形状・形態(フィルム、シート、ボトル、ケースなど)となるように適宜選択した成形方法(圧空成形、真空成形、圧縮成形、押出サーモフォーム成形、押出成形、射出成形、ブロー成形、紡糸など)を採用することができる。
【0066】
以下には、圧空成形の手順について例示する。例えば、所定のポリ乳酸系樹脂及びトリメシン酸アミド化合物と、必要に応じてポリ乳酸改質剤とを、それぞれの所定量を混合機(例えば、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、ドラムミキサー等)に入れてドライブレンドし、そのドライブレンド物を十分な混合能力を有する溶融混合機(例えば、単軸若しくは多軸(二軸、四軸等)の混練押出機、混練ニーダ、混練ロール機、ミキシングロール機、加圧ニーダ混練機、バンバリーミキサー等)を用いて、トリメシン酸アミド化合物の溶解温度以上で、ポリ乳酸系樹脂にトリメシン酸アミド化合物を溶解させ、溶融状態のポリ乳酸系樹脂組成物とし(工程(1))、次いでTダイから押し出し、当該樹脂組成物のガラス転移温度以下となるようにチルロール温度を調整し、チルロールに接触させながら急冷させ、シート状の低結晶性ないし非晶性のポリ乳酸系樹脂組成物を得る(工程(2))。そのシートを圧空成形機にセットし、当該樹脂組成物の結晶化温度以上ポリ乳酸系樹脂の融点未満の温度の範囲内で加熱した後、所望の金型にセットして、さらに結晶化させ(工程(3))、所定の相対結晶化度に達したら、金型から外して、空冷・水冷等の冷却方法にて冷却して、本発明のポリ乳酸系樹脂成形体を得る、という方法が例示される。この方法はフルコンパウンド方式と呼ばれる方法であり、その代わりにマスターバッチ方式を採用することも可能である。
【0067】
<ポリ乳酸系樹脂成形体>
本発明の製造方法で得られたポリ乳酸系樹脂成形体は、透明性、耐熱性、機械的特性が良好な成形体である。
具体的には、本発明によれば、厚さ0.2mmで測定されたときのヘイズ値が好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下であり、熱変形温度が好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上であり、引張弾性率が好ましくは2000MPa以上、より好ましくは2500MPa以上である、という特性を有する成形体を得ることができる。また、その成形体の相対結晶化度は、好ましくは80%以上、より好ましくは90%が推奨される。
【0068】
本発明に係るポリ乳酸系樹脂成形体は、上記の通り、優れた物性を有するので、例えば、食品容器、車両パーツ、家電製品のボディー等の筐体、歯車、一般雑貨、衣料品、バッグ、ファスナーやボタン等の掛止部材、農業資材、建築資材、土木資材、食器類、玩具類等として好適に使用できる。
【0069】
<結晶化速度が改良されたポリ乳酸系樹脂組成物及びその製造方法>
結晶化速度が改良されたポリ乳酸系樹脂組成物の製造法は、上記ポリ乳酸系樹脂成形体の製造法における工程(1)及び工程(2)を具備するものであり、それらの工程を経て得られたポリ乳酸系樹脂組成物は結晶化速度が著しく改良されている。換言すると、結晶化(完了)時間が短いことと同義である。
当該樹脂組成及びその製造方法については、上述の<ポリ乳酸系樹脂成形体の製造法>の項と説明と同じである。
【実施例】
【0070】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。実施例及び比較例における評価方法は、以下の通りである。
【0071】
[ポリ乳酸系樹脂の融点]
示差走査熱量分析装置(パーキンエルマー社製、ダイヤモンドDSC)を用い、JIS K 7121(1987)に従って測定した。ポリ乳酸系樹脂約10mgを装置にセットし、30℃で3分間保持した後、10℃/分の加熱速度で加熱し、吸熱ピークの頂点を融点(℃)とした。
【0072】
[溶解温度]
溶融状態のポリ乳酸系樹脂へのトリメシン酸アミド化合物の溶解温度は、ホットステージを具備した光学顕微鏡を用いて、目視で溶解状態を観察して判定した。所定のポリ乳酸系樹脂とトリメシン酸アミド化合物をヘンシェルミキサーでドライブレンドし、それをプレス成形機を用いて樹脂温度175℃でプレスシートを作成した。それをホットステージにセットして150℃まで加熱した後、引き続いて2℃/分の加熱速度でトリメシン酸アミド化合物が溶融ポリ乳酸系樹脂に溶解する挙動を目視で観察し、トリメシン酸アミド化合物の固体が観察されなくなった時点を溶解温度(℃)とした。
トリメシン酸アミド化合物が溶融ポリ乳酸系樹脂に溶解が不十分である場合は溶融状態のポリ乳酸系樹脂組成物は白濁し、溶解している場合には透明であるので、工程(1)においても判定が可能である。
【0073】
[ガラス転移温度]
示差走査熱量分析装置(同上装置)を用い、JIS K 7121(1987)に従って測定した。評価用試料には、各実施例・比較例のペレット状のポリ乳酸系樹脂組成物約10mgを使用した。その試料を装置にセットし、10℃で3分間保持した後、20℃/分の加熱速度で加熱し、中間点ガラス転移温度を本発明に係るガラス転移温度(℃)とした。
【0074】
[結晶化温度]
示差走査熱量分析装置(同上装置)を用い、JIS K 7121(1987)に準じた方法で測定した。評価試料には、各実施例・比較例のチルロールで冷却して得られたポリ乳酸系樹脂組成物約10mgを使用した。その試料を装置にセットし、30℃で3分間保持した後、10℃/分の加熱速度で加熱し、発熱ピークの頂点を結晶化温度(℃)とした。
【0075】
[相対結晶化度]
示差走査熱量分析装置(同上装置)を用いて、評価した。各実施例・比較例のポリ乳酸系樹脂成形体から約10mgを採取して評価用試料とし、その試料を10℃/分の加熱速度で、20℃から200℃まで昇温し、そのときに観測されるピーク面積から結晶化熱量ΔHc(J/g)及び融解熱量ΔHm(J/g)を測定し、相対結晶化度(%)を次式(1)より算出した。
相対結晶化度(%)=(ΔHm−ΔHc)/ΔHm × 100 (1)
【0076】
[結晶化完了時間]
示差走査熱量分析装置(同上装置)を用いて測定した。各実施例・比較例の工程(2)を経て得られたポリ乳酸系樹脂組成物から約10mgを採取して評価用試料とし、その試料を装置にセットし、30℃で2分間保持した後、300℃/分の加熱速度で100℃まで加熱し、そのまま100℃で保持して、保持時間に対する発熱量の変化を測定した。得られた発熱曲線及びベースラインの接線の交点を結晶化完了時間(分)とした。
当該ポリ乳酸系樹脂組成物の結晶化に要する時間、即ち結晶化完了時間が短いほど結晶化速度が速いことを意味し、ポリ乳酸系樹脂成形体の成形時間の短縮化に寄与するとともに生産性の向上にも寄与することを示す。
【0077】
[透明性]
ヘイズメーター(東洋精機社製)を用いて、各実施例・比較例の厚さ0.2mmのポリ乳酸系樹脂成形体(テストピース)のヘイズ値(Haze値,%)を測定し、透明性を評価した。測定値が小さい程、透明性が良好であることを示す。
【0078】
[耐熱性]
動的粘弾性測定装置(UBM社製、型番;Rheogel-E4000)を用いて加熱温度に対する歪みを測定し、その測定値から耐熱性を評価した。評価試料には、各実施例・比較例のポリ乳酸系樹脂成形体(テストピース)を使用した。その試料を装置にセットし、30℃で5分間保持した後、加熱速度5℃/分、正弦波10Hzの条件下で200℃まで加熱した。加熱温度に対する歪みを測定し、歪みが測定開始時点を基準として2%に達した時の温度(℃)を求め、その温度を熱変形温度(℃)とした。熱変形温度が高いほど耐熱性に優れていることを表す。
【0079】
[機械的特性]
引張弾性率
万能材料試験機(インストロン社製)を用い、JIS K 7113(1995)に準じた方法で引張弾性率を測定した。評価試料には、各実施例・比較例のポリ乳酸系樹脂成形体(テストピース)を使用し、試験速度50mm/分、試験温度23℃の条件下で7回実施し、それらの測定値の最大値と最小値を除いた5測定値の平均値を引張弾性率(MPa)とした。弾性率が高い程、固いことを示す。
耐衝撃性
デュポン式衝撃試験機(安田精機社製)を用い、JIS K 5400(1990)に準じた方法でデュポン衝撃値を測定した。評価試料には、各実施例・比較例のポリ乳酸系樹脂成形体(テストピース)を使用し、落下重錘300g、撃芯先端寸法1/4インチの条件で20回実施し、それらの平均値をデュポン衝撃値(J)とした。その数値が大きいほど耐衝撃性に優れていることを表す。
【0080】
<実施例1>
ポリ乳酸系樹脂としてポリ乳酸(品番;TP−4000,ユニチカ株式会社製,融点168℃)100重量部とトリメシン酸アミド化合物としてトリメシン酸トリ(シクロヘキシルアミド)(商品名;エヌジェスターTF−1,新日本理化株式会社製)0.4重量部とをヘンシェルミキサーでドライブレンドした。そのドライブレンド物をTダイ付き押出機にて溶融樹脂温度240℃でトリメシン酸アミド化合物を溶解させて、溶融状態のポリ乳酸系樹脂組成物とし(工程(1))、その溶融状態のポリ乳酸系樹脂組成物をTダイからシート状に押し出し、40℃のチルロールで急冷させ、厚さ0.2mmのシート状のポリ乳酸系樹脂組成物を得た(工程(2))。ギアオーブンを用いて、エージング温度100℃及びエージング時間5分で、このシートをエージング処理して、ポリ乳酸系樹脂組成物を結晶化させて(工程(3))、厚さ0.2mmの本発明のポリ乳酸系樹脂成形体(テストピース)を得た。
工程(1)における溶融状態のポリ乳酸樹脂組成物の外観、工程(2)を経て得られたシート状のポリ乳酸系樹脂組成物、及びポリ乳酸樹脂成形体の相対結晶化度を表1に示した。
また、ポリ乳酸系樹脂成形体の結晶化完了時間、ヘイズ値、熱変形温度、引張弾性率及びデュポン衝撃値を表2に示した。
尚、各工程の製造条件について、当該トリメシン酸アミド化合物0.4重量部が溶融ポリ乳酸系樹脂100重量部に樹脂温度240℃で完全に溶解すること、前記チルロール温度で急冷することによりポリ乳酸系樹脂組成物の樹脂温度がガラス転移温度以下となること、及び前記エージング温度(結晶化処理の温度)がポリ乳酸系樹脂組成物の結晶化温度以上であることを、上記評価方法にて予め確認した。
【0081】
<実施例2〜4>
トリメシン酸アミド化合物の含有量を0.4重量部から表1に記載の数値に変えた他は、実施例1と同様に行って、工程(2)を経て得られたシート状のポリ乳酸系樹脂組成物及びポリ乳酸系樹脂成形体を得た。実施例1と同様に、それぞれを評価した結果を表1及び表2に示した。尚、各工程の製造条件について、実施例1と同様であることを予め確認した。
【0082】
<比較例1〜3>
実施例1の製造条件である、溶融樹脂温度、チルロール温度、トリメシン酸アミド化合物の使用の有無、エージング時間を、それぞれ表1に記載の通りに代えた他は、実施例1と同様に行って、工程(2)を経て得られたシート状のポリ乳酸系樹脂組成物及びポリ乳酸系樹脂成形体を得た。実施例1と同様に、それぞれを評価した結果を表1及び表2に示した。
尚、当該トリメシン酸アミド化合物0.35重量部が、溶融ポリ乳酸系樹脂100重量部に樹脂温度195℃では溶解しないこと、及び比較例2におけるチルロール温度95℃で冷却する場合にはポリ乳酸系樹脂組成物の樹脂温度がガラス転移温度を越える温度となること、を上記評価方法にて予め確認した。
【0083】
<比較例4>
エージング処理を行わない他は、比較例3と同様に行って、非晶性のポリ乳酸系樹脂成形体を得た。実施例1と同様に、それぞれを評価した結果を表1及び表2に示した。
【0084】
【表1】

【0085】
【表2】

【0086】
市販品に相当する非晶性のポリ乳酸系樹脂成形体(比較例4)は、透明性が高く固いものの、熱変形温度が低く脆いことがわかる。即ち、表1及び表2から、本発明のポリ乳酸系樹脂成形体が、非晶性のポリ乳酸系樹脂成形体と比較して、優れた透明性と耐熱性を併せ持ち、その上に機械特性(固さ・耐衝撃性)においても良好な性能を有していることがわかる。
また、本発明において、比較例1・比較例2との実験結果を比較して、本発明に係る工程(1)と工程(2)を採用することにより、結晶化完了時間をより短縮化(結晶化速度の向上)することができ、さらに透明性の改良効果をより高めることができることもわかる。本発明のポリ乳酸系樹脂成形体の製造方法が、生産性の高い製造方法であることが理解できる。
比較例2では、当該トリメシン酸アミド化合物の添加効果が不十分な為に比較例3と類似の挙動を示しているものと考えられる。比較例3の実験結果と比較して、本発明に係るトリメシン酸アミド化合物を採用することにより、結晶化完了時間が著しく短縮化され、結晶化速度の向上が著しいことが判る。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明のポリ乳酸系樹脂成形体の製造方法によれば、透明性、耐熱性及び機械的特性が良好なポリ乳酸系樹脂(組成物)の成形体を高い生産性で製造することができる。また、本発明のポリ乳酸系樹脂成形体は、かかる優れた物性を有するので 車両パーツ、家電製品のボディー等の筐体、歯車、一般雑貨、衣料品、バッグ、ファスナーやボタン等の掛止部材、農業資材、建築資材、土木資材、食器類、玩具類等の成形品として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸系樹脂に、一般式(1)
【化1】

[式中、3個のRは同一又は異なって、それぞれシクロヘキシル基、炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を1〜3個有するシクロヘキシル基、又は炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表す。]
で表される少なくとも1種のトリメシン酸アミド化合物を、該トリメシン酸アミド化合物の溶解温度以上で溶解させ、溶融状態のポリ乳酸系樹脂組成物とする工程(1)、その溶融状態のポリ乳酸系樹脂組成物を該樹脂組成物のガラス転移温度以下に急冷処理する工程(2)、及び、その急冷処理されたポリ乳酸系樹脂組成物を該樹脂組成物の結晶化温度以上ポリ乳酸系樹脂の融点未満の温度範囲で結晶化させる工程(3)、を具備するポリ乳酸系樹脂成形体の製造方法。
【請求項2】
トリメシン酸アミド化合物の含有量が、ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して0.1〜0.6重量部である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
トリメシン酸アミド化合物が、トリメシン酸トリ(シクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(2−メチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(3−メチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(4−メチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(2,3−ジメチルシクロヘキシルアミド)及びトリメシン酸トリ(tert−ブチルアミド)からなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項1又は請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
工程(2)において急冷処理されたポリ乳酸系樹脂組成物の相対結晶化度が60%以下である、請求項1〜3の何れかに記載の製造方法。
【請求項5】
ポリ乳酸系樹脂組成物が、さらに加水分解抑制剤、滑剤、可塑剤、顔料、耐衝撃性改良剤、加工助剤、補強剤、着色剤、難燃剤、耐候性改良剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防かび剤、抗菌剤、光安定剤、耐電防止剤、シリコンオイル、ブロッキング防止剤、離型剤、発泡剤、香料、充填剤及びカップリング剤からなる群より選ばれる少なくとも1種のポリ乳酸改質剤を含有する、請求項1〜4の何れかに記載の製造方法。
【請求項6】
ポリ乳酸系樹脂に、一般式(1)
【化2】

[式中、3個のRは同一又は異なって、それぞれシクロヘキシル基、炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を1〜3個有するシクロヘキシル基、又は炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表す。]
で表される少なくとも1種のトリメシン酸アミド化合物を、該トリメシン酸アミド化合物の溶解温度以上で溶解させて、溶融状態のポリ乳酸系樹脂組成物とする工程(1)、及びその溶融ポリ乳酸系樹脂組成物を該樹脂組成物のガラス転移温度以下に急冷処理する工程(2)を経て得られる、結晶化速度が改良されたポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項7】
ポリ乳酸系樹脂に、一般式(1)
【化3】

[式中、3個のRは同一又は異なって、それぞれシクロヘキシル基、炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を1〜3個有するシクロヘキシル基、又は炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表す。]
で表される少なくとも1種のトリメシン酸アミド化合物を、該トリメシン酸アミド化合物の溶解温度以上で溶解させて、溶融状態のポリ乳酸系樹脂組成物とする工程(1)、及びその溶融ポリ乳酸系樹脂組成物を該樹脂組成物のガラス転移温度以下に急冷処理する工程(2)を具備する、結晶化速度が改良されたポリ乳酸系樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜5の何れかに記載の製造方法により得られるポリ乳酸系樹脂成形体であって、該成形体の厚さ0.2mmでのヘイズ値が30%以下、熱変形温度が120℃以上、引張弾性率が2000MPa以上、相対結晶化度が80%以上である、ポリ乳酸系樹脂成形体。

【公開番号】特開2010−95667(P2010−95667A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−269254(P2008−269254)
【出願日】平成20年10月19日(2008.10.19)
【出願人】(000191250)新日本理化株式会社 (90)
【Fターム(参考)】