説明

ポリ乳酸系樹脂組成物及びその製造方法

【課題】引張強度、引張呼びひずみ、相溶性の優れたポリ乳酸系樹脂組成物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ポリ乳酸とポリカーボネートと多官能イソシアネート化合物とを溶融混合することにより得ることができる。ポリ乳酸とポリカーボネートとの混合比率は質量比で90:10〜10:90であり、ポリ乳酸とポリカーボネートを含む樹脂100質量部に対し、多官能イソシアネート化合物を0.1〜5.0質量部の割合で混合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリ乳酸系樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、大気中の二酸化炭素増大に起因する地球温暖化問題を受け、デンプン等のバイオマスから作られるプラスチック、すなわちバイオプラスチックが注目を集めており、研究開発が活発に行われている。上記のバイオプラスチックの具体例としては、ポリ乳酸(PLA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)等が挙げられる。その中でも特に、ポリ乳酸は融点が150〜180℃と比較的高く、結晶性であり強靭で、硬質塩化ビニル同等の硬度を持つ等の物性面で最も有望視され、また透明性を有するためその普及が大いに期待されている。しかし一方で、その剛直な分子構造のために、強度は高いが耐衝撃性に乏しく、従来の石油由来のプラスチックに比べて機械的な伸びや柔軟性に劣るという欠点を有する。そこで別のプラスチックをブレンドしたりアロイ化することによってポリ乳酸の改質を試みる研究が行われている。
【0003】
従来はポリ乳酸の持つ生分解性を生かすという観点から、ポリカプロラクトン・ポリブチレンサクシネート・ポリエチレンサクシネートなどの他の生分解性プラスチックとのブレンド・アロイ化の検討がなされていた。しかし近年では、ポリ乳酸と石油由来のプラスチックとのアロイ化についても盛んに研究開発が行われている。その中でも特に耐熱性・難燃性が必要とされる電化製品のハウジング用途を目的として、ポリ乳酸とポリカーボネートとのブレンドに関する研究が行われている。
【0004】
例えば、従来技術として前述のようにポリ乳酸にポリカーボネートを配合させているものがある(特許文献1)。しかしポリ乳酸の成形加工温度が通常200℃前後、ポリカーボネートが300℃前後であるため、加工温度によっては両樹脂の溶融粘度が著しく影響を受けることがある。したがって、たとえ加工温度を工夫してポリ乳酸とポリカーボネートとを溶融ブレンドした場合でも、相溶性に優れたブレンド体が得られないという問題がある。また、スピノーダル分解という特殊な手法を用いてポリ乳酸とポリカーボネートとの相溶性の向上を図り、物性の向上を得ているものがある(特許文献2)。しかしこの方法では、ブレンドする樹脂の分子量を揃えたり、押出機のスクリュー構造や押出温度をアレンジする必要があり、容易に実施できるものとは言い難い。また、引張強度についての記載はあるものの、引張呼びひずみ(あるいは引張伸び、引張ひずみ等)の記載はなく、不明なままである。
【0005】
さらに、ポリ乳酸とポリカーボネートの相溶性の向上を目的として、ラジカル反応開始剤を窒素雰囲気下で溶融混合するというものがある(特許文献3)。しかしこの方法では、ラジカル開始剤(有機過酸化物)によって相溶性が向上はするものの、一般的に過酸化物は高分子鎖をランダムに切断してしまう恐れがあり、好ましいものとはいえない。また、使用者の健康を考慮する上でも好ましいものとは言えない。
【特許文献1】特願平11−140292号
【特許文献2】特開2004−250549号
【特許文献3】特開2002−371172号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、成形性・引張強度・引張呼びひずみなどの機械特性や相溶性の優れたポリ乳酸系樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは前記従来の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ポリ乳酸とポリカーボネートと多官能イソシアネート化合物とを含むブレンドを溶融混練することにより上記目的を達成するポリ乳酸系樹脂組成物が得られることを見出し、本発明に到達した。
すなわち本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、以下のポリ乳酸系樹脂組成物を提供することにある。
1.ポリ乳酸とポリカーボネートと多官能イソシアネート化合物とを含むポリ乳酸系樹脂組成物。
2.ポリ乳酸とポリカーボネートとを、質量比で90:10〜10:90の割合で含む前記1記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
3.ポリ乳酸とポリカーボネートを含む樹脂100質量部に対し、多官能イソシアネート化合物を0.1〜5.0質量部の割合で含む前記1又は2のポリ乳酸系樹脂組成物。
4.多官能イソシアネート化合物が、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2−イソシアネートエチル−2,6−ジイソシアネートカプロエート、2,6−ジイソシアネートヘキサン酸メチルエステルおよびこれらの混合物からなる群より選ばれた多官能イソシアネート化合物である前記1〜3のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
5.ポリ乳酸とポリカーボネートと多官能イソシアネート化合物とを溶融混合する、前記1乃至4のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂組成物の製造方法。
6.前記1乃至4のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂組成物又は前記5に記載の方法により得られたポリ乳酸系樹脂組成物からなるフィルム。
7.前記1乃至4のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂組成物又は前記5に記載の方法により得られたポリ乳酸系樹脂組成物からなるシート。
8.前記1乃至4のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂組成物又は前記5に記載の方法により得られたポリ乳酸系樹脂組成物からなる容器。
9.前記1乃至4のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂組成物又は前記5に記載の方法により得られたポリ乳酸系樹脂組成物からなる部品。
10.前記1乃至4のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂組成物又は前記5に記載の方法により得られたポリ乳酸系樹脂組成物からなるパソコン用前面パネル。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したように、本発明によれば、ポリ乳酸とポリカーボネートとを含むポリ乳酸系樹脂組成物において、多官能イソシアネート化合物を添加することによって、引張強度及び引張呼びひずみを大幅に改良することができるとともに、相溶性が極めて良好なポリ乳酸系樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明は、ポリ乳酸とポリカーボネートと多官能イソシアネート化合物とを含むポリ乳酸系樹脂組成物である。ポリ乳酸とポリカーボネートの混合比は重量比で70:30〜30:70であることが好ましい。多官能イソシアネート化合物はポリ乳酸とポリカーボネートの樹脂100質量部に対し、0.1〜5.0質量部の割合で含まれていることが好ましい。多官能イソシアネート化合物は、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2−イソシアネートエチル−2,6−ジイソシアネートカプロエートおよびこれらの混合物からなる群より選ばれた多官能イソシアネート化合物であることが好ましい。
【0010】
次に、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物を構成するポリ乳酸、ポリカーボネート、多官能イソシアネート化合物について順に説明していく。
【0011】
まず本発明に用いるポリ乳酸としては、特に制限はなく、自ら合成したものを用いても良いが、入手の容易さから市販されているものを用いても良い。具体的には、トヨタ自動車社製のU’z(登録商標)、帝人株式会社製のバイオフロント(登録商標)、Cargill−DOW社製のNature Works(登録商標)、UCC社製のTONE(登録商標)、島津製作所(株)製のラクティ(登録商標)、ユニチカ(株)製のテラマック(登録商標)、三井化学(株)製のレイシア(登録商標)、カネボウ合繊社製ラクトロン(登録商標)、三菱樹脂社製のエコロージュ(登録商標)、クラレ(株)社製のプラスターチ(登録商標)、東セロ(株)社製のパルグリーン(登録商標)等が挙げられる。
ポリ乳酸の中でも、両末端に水酸基、両末端にカルボン酸基、あるいは両末端に水酸基とカルボン酸基を有するテレケリック型のものが特に好ましい。こうしたポリ乳酸であれば、多官能イソシアネート化合物と反応して、より多くの架橋構造を形成するため、機械強度が高くなり、優れたポリ乳酸系樹脂組成物となるからである。
【0012】
また、ポリ乳酸を使用者自ら合成する場合には、実質的にL−乳酸及び/又はD−乳酸由来のモノマー単位のみで構成されるものが好ましい。ここで「実質的」にとは、本発明の効果を損なわない程度範囲で、L−乳酸またはD−乳酸に由来しない他のモノマー単位を含んでいても良いという意味である。ただし、前記のいずれの市販のポリ乳酸もL−乳酸由来であることから、主成分はポリL−乳酸であることがより好ましい。また、ポリL−乳酸とポリD−乳酸の混合体であるステレオコンプレックス型ポリ乳酸も好ましい。
【0013】
用いるポリ乳酸の分子量としては、重量平均分子量50,000〜1,000,000の範囲のものが好ましい。かかる範囲を下回るものでは機械特性が十分に得られず、逆に上回る場合は加工性の劣るものとなってしまうためである。
【0014】
次に、本発明に使用されるポリカーボネートとしては、特に限定されるものではないが、例えば芳香族二価フェノール系化合物とホスゲン、または炭酸ジエステルとを反応させることにより得られる芳香族ホモまたはコポリカーボネート等の芳香族ポリカーボネートが挙げられる。
【0015】
また、前記の芳香族二価フェノール系化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジエチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジエチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1−フェニル−1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン等が使用でき、これら単独あるいは混合物として使用することが出来る。
【0016】
ポリカーボネートの分子量は特に限定されるものではないが、粘度平均分子量が10,000〜60,000であることが好ましく、15,000〜50,000であることがより好ましい。
【0017】
次に、本発明に用いる多官能イソシアネート化合物としては、特に限定されるものではないが、具体的には、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、2,6−ジイソシアネートヘキサン酸メチルエステル、2−イソシアネートエチル−2,6−ジイソシアネートカプロエート、3−イソシアネートプロピル−2,6−ジイソシアネートカプロエート等の脂肪族イソシアネート類、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネートと2,6−トリレンジイソシアネートとの混合イソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンイソシアネート、水素化ジフェニルメタンジイソシアネート、ジフェニルメチルメタンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート類、トリメチロールプロパンとトルイレンジイソシアネートとのアダクト体、トリメチロールプロパンと1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートとのアダクト体等のトリイソシアネート類が挙げられる。これらの中の1種もしくは2種以上を用いることができる。
【0018】
この中でも、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,6−ジイソシアネートヘキサン酸メチルエステル、2−イソシアネートエチル−2,6−ジイソシアネートカプロエートが好ましい。
【0019】
さらに1分子中に3つのイソシアネート基を有する2−イソシアネートエチル−2,6−ジイソシアネートカプロエートが特に好ましい。分子中に3つの官能基を有するため、ポリ乳酸とポリカーボネートとの共鎖延長を生じる可能性が高くなるためである。
【0020】
上記多官能イソシアネート化合物中のイソシアネート基は、ポリ乳酸及び/又はポリカーボネートの末端水酸基あるいはカルボン酸基と反応して、ポリ乳酸及び/又はポリカーボネートそのものの鎖延長、及び、上記ポリ乳酸とポリカーボネートとの共鎖延長を生じさせるため、得られるポリ乳酸系樹脂組成物の相溶性を改善し、引張強度・引張呼びひずみを著しく向上させることができる。
【0021】
次に、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物におけるポリ乳酸とポリカーボネートとの混合比としては、質量比で90:10〜10:90の範囲であることが好ましい。特に好ましくは、70:30〜30:70の範囲である。また、多官能イソシアネート化合物の添加量は、上記のポリ乳酸とポリカーボネートの樹脂100質量部に対し、0.1〜5.0質量部の範囲であることが好ましい。多官能イソシアネート化合物の添加量が0.1質量部未満であると、ポリ乳酸とポリカーボネートとの共鎖延長による相溶性向上の効果を十分に得られず、逆に5.0質量部を超えると過剰のイソシアネート基がポリマー分子間の架橋を惹起してゲル化分率の増加を招き、成形加工性が低下するためである。ただし、前記の各イソシアネート化合物によってその反応性が異なるので、各イソシアネート化合物の反応性に応じて添加量を決定することが好ましい。
【0022】
次に本発明のポリ乳酸系樹脂組成物の製造方法について説明する。本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、ポリ乳酸とポリカーボネートと多官能イソシアネート化合物とを溶融混合する事により容易に製造が可能である。混合方法や混合装置は特に限定されるものではないが、工業的には連続的に処理できるものが好ましい。具体的な方法としては、例えば、3成分を所定の割合で混合したものを一軸混練押出機や二軸混練押出機などで溶融し、シート成形・押出成形などのように直ちに成形体しても良い。又、3成分を溶融混合したのちに一旦ペレット化し、その後必要に応じて溶融成形しても良い。より均一に混合させるには、一旦ペレット化する方法が好ましい。また、ポリ乳酸とポリカーボネートとを予め溶融混練したものに多官能イソシアネート化合物を添加し溶融混練しても良い。
【0023】
溶融温度としては、ポリ乳酸とポリカーボネートの融点及び混合比率を考慮して適宜選択するが、通常は180〜320℃の範囲である。好ましくは220〜280℃の範囲である。ポリマーの劣化、変質等を防ぐことが必要なために、できるだけ短時間内に混合することが好ましい。具体的には時間は20分以内、できれば10分以内で溶融混合することが好ましい。
【0024】
更に、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物には、発明の課題達成を阻害しない範囲で必要に応じて副次的な添加物を加えて様々な改質を行うことが可能である。副次的な添加物の例としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、顔料、抗菌剤、安定剤、静電防止剤、核剤、各種フィラー等が挙げられる。
【実施例1】
【0025】
次に本発明を実施例により更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。本実施例では、以下のポリ乳酸、ポリカーボネート、多官能イソシアネート化合物を使用した。
・ポリ乳酸:島津製作所社製 ラクティ(登録商標)#9030
・ポリカーボネート:三菱エンジニアリングプラスチックス社製 ユーピロン(登録商標)H3000R
・多官能イソシアネート化合物(A):ヘキサメチレンジイソシアネート(東京化成工業社製)
・多官能イソシアネート化合物(B):4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(東京化成工業社製)
・多官能イソシアネート化合物(C):2−イソシアネートエチル−2,6−ジイソシアネートカプロエート(協和発酵工業社製 LTI(登録商標))
・多官能イソシアネート化合物(D):2,6−ジイソシアネートヘキサン酸メチルエステル(協和発酵工業社製 LDI(登録商標))
【0026】
評価性能は下記の測定方法に従って行った。
(1)引張試験
引張試験はJIS−K7113に準じて行った。試験片は試験前に23℃、湿度50%で72時間状態調節を行った。引張速度は50mm/minで試験を行った。なお、引張呼びひずみは次の式により算出した。
・引張呼びひずみ(%)=変位(mm)/つかみ具間距離(mm)×100
(2)メルトマスフローレート(MFR)試験
メルトマスフロレート試験はJIS−K7210熱可塑性プラスチックの流れ試験方法に準じて、温度が230℃、公称荷重2.16kgで行った。
(3)目視による相溶性評価
相溶性評価は引張試験片を使い、5人の人間の目視観察により行った。評価項目としては以下のようにした。
◎・・・優良
○・・・良
△・・・可
×・・・悪い
(4)レーザー顕微鏡観察による観察
レーザー顕微鏡を使ってモルフォロジーの観察を行った。引張試験片の一部をカットし、その断面を観察した。
【0027】
実施例1〜11及び比較例1〜11
ポリ乳酸は100℃で6時間、ポリカーボネートは120℃で6時間それぞれ熱風乾燥機で乾燥したのち、表1〜3に示した配合割合(質量部で表示)にて原料をドライブレンドし、二軸押出機(テクノベル社製KZW15−30TGN、L/D=30)を用いて240℃で溶融混合し、ペレット化した。
得られたペレットを120℃で6時間以上乾燥した後、射出成形機(住友重機械工業社製SE−18S)を用いて、金型温度30℃で成形し、引張試験片を得た。また得られたペレットを使い、メルトマスフローレート試験を行った。得られた試験片を使い、前述の引張試験、相溶性評価を行った。
【0028】
実施例4の配合で作製したペレットを使い、シリンダ温度240℃、金型温度30℃でパソコン用全面パネルの成形を行った。
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
【表3】

【0031】
表1〜3及び図1〜9から以下のことがわかる。
(1)実施例1〜4と比較例1の対比から明らかなように、ポリ乳酸とポリカーボネートとの樹脂組成物に、多官能イソシアネート化合物を配合したものは、多官能イソシアネート化合物を配合していないものに比べて引張強度及び引張呼びひずみが3〜8倍と著しく向上している。さらに多官能イソシアネート化合物の中でも2−イソシアネートエチル−2,6−ジイソシアネートカプロエート(多官能イソシアネート化合物(C))を配合した時が引張呼びひずみが一番大きく向上している。
【0032】
(2)実施例3、5〜11と比較例2〜8の対比から、多官能イソシアネート化合物を配合することで、ポリ乳酸とポリカーボネートの割合がいずれの時でも引張強度及び引張呼びひずみが向上している。
【0033】
(3)目視による相溶性評価の結果から、ポリ乳酸とポリカーボネートとの樹脂組成物に、多官能イソシアネート化合物を配合したものは、多官能イソシアネート化合物を配合していないものに比べて相溶性が良好になることがわかる。さらに多官能イソシアネート化合物の中でも2−イソシアネートエチル−2,6−ジイソシアネートカプロエート(多官能イソシアネート化合物(C))を配合したものが特に相溶性に優れていることがわかる。
【0034】
(4)レーザー顕微鏡観察結果である図1(比較例1)及び図2(比較例5)と、図3〜図6(実施例1、3、4、8)との比較により、多官能イソシアネート化合物を配合したものは、多官能イソシアネート化合物を配合していないものに比べてポリカーボネートの粒子直径(平均2.7μm(図1、比較例1))が著しく小さくなっていることがわかる。これは前述の目視による相溶性評価を裏付けるものである。特に2−イソシアネートエチル−2,6−ジイソシアネートカプロエート(多官能イソシアネート化合物(C))を配合したポリ乳酸系組成物においては平均0.5μm(図4、実施例3)まで細かく分散しており、相溶性が向上していることがわかる。これも前述の目視による相溶性評価を裏付けるものである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】比較例1のポリ乳酸系樹脂組成物におけるレーザー顕微鏡観察写真である。写真のサイズは約37μm×49μmである。
【図2】比較例5のポリ乳酸系樹脂組成物におけるレーザー顕微鏡観察写真である。写真のサイズは約37μm×49μmである。
【図3】実施例1のポリ乳酸系樹脂組成物におけるレーザー顕微鏡観察写真である。写真のサイズは約37μm×49μmである。
【図4】実施例3のポリ乳酸系樹脂組成物におけるレーザー顕微鏡観察写真である。写真のサイズは約37μm×49μmである。
【図5】実施例4のポリ乳酸系樹脂組成物におけるレーザー顕微鏡観察写真である。写真のサイズは約37μm×49μmである。
【図6】実施例8のポリ乳酸系樹脂組成物におけるレーザー顕微鏡観察写真である。写真のサイズは約37μm×49μmである。
【図7】比較例1のポリ乳酸系樹脂組成物における引張試験の引張応力−ひずみ曲線である。
【図8】実施例3のポリ乳酸系樹脂組成物における引張試験の引張応力−ひずみ曲線である。
【図9】実施例4のポリ乳酸系樹脂組成物を使って成形したパソコン用前面パネルの写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸とポリカーボネートと多官能イソシアネート化合物とを含むポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリ乳酸とポリカーボネートとを、質量比で90:10〜10:90の割合で含む請求項1記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項3】
ポリ乳酸とポリカーボネートを含む樹脂100質量部に対し、多官能イソシアネート化合を0.1〜5.0質量部の割合で含む請求項1又は2記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項4】
多官能イソシアネート化合物が、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2−イソシアネートエチル−2,6−ジイソシアネートカプロエート、2,6−ジイソシアネートヘキサン酸メチルエステルおよびこれらの混合物からなる群より選ばれた多官能イソシアネート化合物である請求項1〜3のいずれか1項記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項5】
ポリ乳酸とポリカーボネートと多官能イソシアネート化合物とを溶融混合する、請求項1乃至4のいずれか1項記載のポリ乳酸系樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1項記載のポリ乳酸系樹脂組成物又は請求項5に記載の方法により得られたポリ乳酸系樹脂組成物からなるフィルム。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれか1項記載のポリ乳酸系樹脂組成物又は請求項5に記載の方法により得られたポリ乳酸系樹脂組成物からなるシート。
【請求項8】
請求項1乃至4のいずれか1項記載のポリ乳酸系樹脂組成物又は請求項5に記載の方法により得られたポリ乳酸系樹脂組成物からなる容器。
【請求項9】
請求項1乃至4のいずれか1項記載のポリ乳酸系樹脂組成物又は請求項5に記載の方法により得られたポリ乳酸系樹脂組成物からなる部品。
【請求項10】
請求項1乃至4のいずれか1項記載のポリ乳酸系樹脂組成物又は請求項5に記載の方法により得られたポリ乳酸系樹脂組成物からなるパソコン用前面パネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−143947(P2010−143947A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−319129(P2008−319129)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【出願人】(591270556)名古屋市 (77)
【Fターム(参考)】