説明

ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物およびその成形品

【課題】実用上十分な耐衝撃強度等の機械的強度をポリ乳酸樹脂に付与することによって、耐衝撃性等の機械的特性、耐熱性等に優れるポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリ乳酸樹脂(A)1〜50重量部と、ゴム強化樹脂(B)50〜99重量部とを含むポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(ただし、ポリ乳酸樹脂(A)とゴム強化樹脂(B)との合計で100重量部)であって、該ゴム強化樹脂(B)は、ジエン系ゴム含有グラフト共重合体(b−1)10〜50重量%と硬質(共)重合体(b−2)50〜90重量%とを含み、かつ、硬質(共)重合体(b−2)に(メタ)アクリル系樹脂成分およびマレイミド樹脂成分を含有している。この(メタ)アクリル系樹脂成分を構成する単量体としては、メタクリル酸エステルおよび/又はアクリル酸エステルが好ましく、マレイミド樹脂成分を構成する単量体としては、N−フェニルマレイミドが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃性等の機械的特性や、耐熱性等の物性バランスが優れる成形品を提供し得るポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物と、このポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、地球温暖化の要因として、大気中における炭酸ガス濃度の上昇が指摘され、地球規模での炭酸ガス排出規制の必要性が唱えられている。炭酸ガス排出源としては、生物の呼吸、バクテリアによる腐敗・醗酵等も有るが、燃焼による部分が大きく、現状の大気中の炭酸ガス濃度上昇現象は、人間による産業革命以後の石油資源を浪費した経済活動によってもたらされたものと言って過言ではない。
【0003】
ところで、近年、カーボンニュートラルとして、炭酸ガスを吸収、固定する植物資源の有効活用が注目されている。即ち、植生によって、炭酸ガスの吸収を図る一方で、将来枯渇が予想される石油資源の代替を図るというものである。
【0004】
プラスチックにおいても、従来の石油を基礎原料とするものから、バイオマスを利用したプラスチックが開発され、当初、これらは生分解性樹脂として注目を集めたが、最近では植物系プラスチックとしてその意義が見直されている。
【0005】
こうした生分解性樹脂の中にあって、物性と量産化の可能性からポリ乳酸樹脂(PLA)の実用化が期待されてきたが、ポリ乳酸樹脂では、既存の石油系プラスチックに比べて機械的強度では耐衝撃強度に劣り、熱特性では、結晶化が進まないと耐熱が低いという欠点が有り、早くからその改良が望まれてきた。
【0006】
一般に、プラスチックの耐衝撃強度を改良する為には、ゴム質重合体をブレンドする方法が行われており、ポリ乳酸樹脂に対しても同様の取り組みが行われてきた。
【0007】
例えば、特許文献1「特開平9−316310号公報」、特許文献2「特開2001−123055号公報」には、変成オレフィン化合物を添加する方法が、特許文献3「特開平11−140292号公報」には、架橋ポリカーボネートを配合する方法が示されているが、いずれも既存の汎用プラスチックと比較すると、物性改良効果は十分とは言えない。
【0008】
特許文献4「特開2002−37987号公報」には、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)へのグラフト重合体(AES樹脂)の配合が示されているが、アイゾット衝撃強度で示される耐衝撃強度の改良効果は十分とは言えない。
【0009】
特許文献5「特開2003−286396号公報」には、多層構造重合体として、グラフト重合体の配合効果が示されている。ここでは多層構造重合体の最外層が不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位を含有する重合体と規定しており、具体的にはゴム質重合体にメタクリル酸メチルなどのグラフトした重合体を示唆している。この技術では、確かに改質効果は高く評価されるものの、これら改質剤はいずれも高価であるため、工業的な生産には不適当である。
【特許文献1】特開平9−316310号公報
【特許文献2】特開2001−123055号公報
【特許文献3】特開平11−140292号公報
【特許文献4】特開2002−37987号公報
【特許文献5】特開2003−286396号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述した従来技術における課題を解決し、実用上十分な耐衝撃強度等の機械的強度および耐熱性をポリ乳酸樹脂に付与することによって、耐衝撃性等の機械的特性、耐熱性等に優れる成形品を得ることができるポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物と、このポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、従来の技術の検証・改良に鋭意努力した結果、ポリ乳酸樹脂に(メタ)アクリル系およびマレイミド系樹脂成分を含有するジエン系ゴム強化樹脂を配合する事により、耐衝撃性と耐熱性の良好な物性バランスが得られることを発見し、本発明に至った。
【0012】
即ち、本発明の要旨は、ポリ乳酸樹脂(A)1〜50重量部と、ゴム強化樹脂(B)50〜99重量部とを含むポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(ただし、ポリ乳酸樹脂(A)とゴム強化樹脂(B)との合計で100重量部)であって、該ゴム強化樹脂(B)は、ジエン系ゴム含有グラフト共重合体(b−1)10〜50重量%と硬質(共)重合体(b−2)50〜90重量%とを含み、かつ、硬質(共)重合体(b−2)中に(メタ)アクリル系樹脂成分およびマレイミド系樹脂成分を含有していることを特徴とするポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物、に存する。
【0013】
本発明において、硬質(共)重合体(b−2)中に(メタ)アクリル系樹脂成分を5〜90重量%、マレイミド系樹脂成分を10〜95重量%含有していることが好ましく、また、該硬質(共)重合体(b−2)中の(メタ)アクリル系樹脂成分を構成する単量体としては、メタクリル酸エステルおよび/又はアクリル酸エステルが、マレイミド系樹脂成分を構成する単量体としては、N−シクロヘキシルマレイミドおよび/又はN−フェニルマレイミドがそれぞれ好ましい。また、ジエン系ゴム含有グラフト共重合体(b−1)を形成するゴム質重合体としては、ブタジエン系ゴムが好ましい。
【0014】
なお、本発明において、「(メタ)アクリル酸」は「アクリル酸」と「メタクリル酸」の総称であり、「硬質(共)重合体」は「硬質重合体(ホモポリマー)」と「硬質共重合体(コポリマー)」との総称である。
【0015】
本発明の別の要旨は、このような本発明のポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品に関する。
【0016】
なお、本発明において、後述のポリ乳酸樹脂(A)や硬質(共)重合体(b−2)、ジエン系ゴム含有グラフト共重合体(b−1)のアセトン可溶分、硬質(共)重合体(b−2)のアセトン可溶分、の重量平均分子量(Mw)は、いずれも、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にてテトラヒドロフラン(THF)に溶解して測定したものをポリスチレン(PS)換算で示したものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明のポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物は、これを成形して得られる成形品の耐衝撃強度等の機械的強度、剛性、耐熱性のバランスが良く、各種筐体や構造部材としての用途に適した素材である。
【0018】
本発明によれば、このように実用的なポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物を提供することにより、植物系樹脂であるポリ乳酸樹脂の用途を広げ、カーボンニュートラルの理念の実践を促進して、環境負荷の低減に貢献することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0020】
[ポリ乳酸樹脂(A)]
本発明の樹脂組成物に適用されるポリ乳酸樹脂(A)は、乳酸を直接脱水縮重合する方法、或いはラクチドを開環重合する方法等といった、公知の手段で得る事ができる。
【0021】
ポリ乳酸樹脂にはL体、D体、DL体の3種の光学異性体が存在し、市販されているポリ乳酸樹脂としては、L体の純度が100%に近いものがあるが、本発明で用いるポリ乳酸樹脂(A)は、特にその純度を規定するものではなく、また、本発明の効果を損なわない範囲で、他の共重合成分を含んだ共重合体でも構わない。
【0022】
ポリ乳酸樹脂(A)に含まれる他の共重合成分としては、エチレングリコール、ブロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオ−ル、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノ−ルA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのグリコール化合物;シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸などのジカルボン酸;グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸;カプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトン、1,5−オキセパン−2−オンなどのラクトン類などを挙げることができる。このような共重合成分の含有量は、ポリ乳酸樹脂(A)中の全単量体成分中通常30モル%以下の含有量とするのが好ましく、10モル%以下であることがより好ましい。
【0023】
ポリ乳酸樹脂(A)の分子量や分子量分布については、実質的に成形加工が可能であれば特に制限されるものではないが、重量平均分子量としては、通常1万以上、好ましくは5万以上、さらに10万以上であることが望ましい。ポリ乳酸樹脂(A)の重量平均分子量の上限については特に制限はないが、通常40万以下である。
【0024】
なお、分子量の測定はGPC(溶媒THF:テトラヒドロフラン)にて測定することができるが、ポリ乳酸がペレット状の場合、THFに溶解し難い場合があり、その場合は、クロロホルムに溶解させた後、メタノールを用いてポリマー成分を析出させ、そのポリマー成分を乾燥させたものをTHFに溶解させて可溶分の分子量を測定することができる。また、必要に応じて加温するなどして溶解させることもできる。
【0025】
本発明において、ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物中のポリ乳酸樹脂(A)の配合量は、ポリ乳酸樹脂(A)とゴム強化樹脂(B)との合計100重量部に対して1〜50重量部の範囲であるが、好ましくは1〜40重量部、より好ましくは10〜30重量部であることが、カーボンニュートラルの観点や、耐衝撃性改善の点において好ましい。この範囲よりも、ポリ乳酸樹脂(A)の配合量が少ないとポリ乳酸樹脂を有効利用する本発明の目的を達成し得ず、多いと耐衝撃性、耐熱性に優れたポリ乳酸系熱可塑性樹脂成形品が得られなくなる。
【0026】
なお、ポリ乳酸樹脂(A)は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
このようなポリ乳酸樹脂の具体例としては、例えば、市販品の三井化学(株)社製「レイシア」、Cargill−Dow社製「Nature Works」、三菱樹脂(株)社製「エコロージュ」などが挙げられ使用することができる。
【0027】
[ゴム強化樹脂(B)]
本発明で使用するゴム強化樹脂(B)は、ジエン系ゴム質重合体に硬質(共)重合体がグラフト重合したジエン系ゴム含有グラフト共重合体(b−1)10〜50重量%と硬質(共)重合体(b−2)50〜90重量%((b−1)と(b−2)の合計100重量%)とを含み、少なくとも硬質(共)重合体(b−2)中に(メタ)アクリル系樹脂成分およびマレイミド系樹脂成分を含有するものである。
【0028】
〈ジエン系ゴム含有グラフト共重合体(b−1)〉
本発明で使用するジエン系ゴム含有グラフト共重合体(b−1)とは、一般にABS、MBS等で表現される、ジエン系ゴム質重合体に硬質(共)重合体がグラフト重合した構造を有するものである。
【0029】
ジエン系ゴム含有グラフト共重合体(b−1)を形成するゴム質重合体としては、例えば、ポリブタジエン、スチレン/ブタジエン共重合体、アクリル酸エステル/ブタジエン共重合体等のブタジエン系ゴムや、スチレン/イソプレン共重合体等の共役ジエン系ゴム等のジエン系ゴム質重合体が挙げられ、これらは1種を単独で、或いは2種以上を混合して使用することができる。なお、これらゴム質重合体は、モノマーから使用することができ、ゴム質重合体の構造がコア/シェル構造をとっても良い。例えば、ポリブタジエンをコアにして、アクリル酸エステルをシェルにしたゴム質重合体とすることもできる。さらに、ゴム質重合体には必要に応じてポリアクリル酸ブチル等のアクリル系ゴム、エチレン/プロピレン共重合体等のオレフィン系ゴム;ポリオルガノシロキサン等のシリコン系ゴムといった非ジエン系ゴム質重合体をゴム質重合体100重量%中に25重量%以下まで含有することもできる。
【0030】
本発明において、このジエン系ゴム含有グラフト共重合体(b−1)のゴム質重合体としてジエン系ゴム質重合体を用いることは重要であり、ゴム質重合体がアクリル系ゴムやオレフィン系ゴム等の非ジエン系ゴム質重合体であると、耐衝撃強度等の機械的強度に優れたものを得ることができない。
【0031】
上記のジエン系ゴム質重合体のゲル含有量は、好ましくは50〜99重量%、より好ましくは60〜99重量%で、特に好ましくは75〜98重量%である。ゲル含有量がこの範囲内であれば、得られるポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物の特性、特に、耐衝撃強度を向上させることができる。
【0032】
なお、ゴム質重合体のゲル含有量を測定するには、具体的には、秤量したゴム質重合体を、適当な溶剤に室温(23℃)で20時間かけて溶解させ、次いで、100メッシュ金網で分取して、金網上に残った不溶分を60℃で24時間乾燥した後秤量する。分取前のゴム質重合体に対する不溶分の割合(重量%)を求め、ゴム質重合体のゲル含有量とする。測定に用いる溶剤としては、トルエンを挙げることができる。
【0033】
また、ゴム質重合体の粒子径は、特に限定されるものではないが、0.1〜1μmが好ましく、0.2〜0.5μmである事がより好ましい。なお、ゴム質重合体の平均粒子径は、グラフト重合前であれば、光学的な方法で測定することができる。また、グラフト重合した後は、染色剤によりゴム質重合体を染色した後に透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて平均粒子径を算出することができる。
【0034】
ジエン系ゴム含有グラフト共重合体(b−1)は、好ましくは上記のゴム質重合体40〜80重量%の存在下、グラフト重合可能な単量体成分60〜20重量%をグラフト重合させて得ることができる(ただし、ゴム質重合体と単量体混合物との合計で100重量%)。ここで、ゴム質重合体が40重量%未満では、得られるポリ乳酸系熱可塑性樹脂成形品の耐衝撃性が得られず、また、80重量%を超えると耐衝撃性や流動性などの低下を招くおそれがある。
【0035】
グラフト重合可能な単量体成分としては、シアン化ビニル系単量体、芳香族ビニル系単量体、メタクリル酸エステル系単量体、アクリル酸エステル系単量体、マレイミド化合物が挙げられ、上記単量体はそれぞれ、1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0036】
シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリルニトリル等が挙げられ、特にアクリロニトリルが好ましい。
また、芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ブロムスチレン等が挙げられ、特にスチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
メタクリル酸エステル系単量体としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチルおよびこれらの誘導体等が挙げられ、この中でも特にメタクリル酸メチルが好ましい。
アクリル酸エステル系単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチルおよびこれらの誘導体等が挙げられ、この中でも特にアクリル酸メチルが好ましい。
マレイミド化合物としては、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。
【0037】
また、場合により官能基により変性された単量体を含んでもよく、例えば、不飽和カルボン酸として、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸等が挙げられる。これらは、それぞれ1種を単独で、或いは2種以上を混合して用いることができる。その使用割合は単量体混合物中100重量%に対して30重量%以下、特に10重量%以下であることが好ましい。
【0038】
ジエン系ゴム含有グラフト共重合体(b−1)のグラフトする単量体成分としては、上記例示単量体のうち、特にシアン化ビニル系単量体および芳香族ビニル系単量体が好ましく、シアン化ビニル系単量体としてはアクリロニトリルが、芳香族ビニル系単量体としては、スチレンが、特に得られるポリ乳酸系熱可塑性樹脂成形品の耐衝撃性をさらに向上させる点から好ましい。この場合、シアン化ビニル系単量体と芳香族ビニル系単量体の重量組成比は、20/80〜35/65の範囲が好ましく、より好ましくは25/75〜30/70である。この範囲外では分散性や熱安定性が低下する。
【0039】
なお、ジエン系ゴム含有グラフト共重合体(b−1)のアセトン可溶分の重量平均分子量は、50,000〜600,000の範囲が好ましく、より好ましくは50,000〜550,000、さらに好ましくは100,000〜450,000の範囲である。アセトン可溶分の重量平均分子量がこの範囲より低い場合には、得られるポリ乳酸系熱可塑性樹脂成形品の耐衝撃性が不足し、また、この範囲を超えた場合にはポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物の成形加工性が低下する。なお、アセトン可溶分とは、ゴム質重合体に単量体をグラフト重合した際に生じるゴム質重合体にグラフト重合していない単量体の重合体生成物に相当するものである。
【0040】
また、ジエン系ゴム含有グラフト共重合体(b−1)のグラフト率((アセトン不溶分重量/ゴム質重合体重量−1)×100)は、15〜120重量%が好ましく、さらに20〜85重量%がより好ましい。グラフト率が15重量%より低い場合には、ゴム質重合体の分散性の低下や、耐衝撃強度の低下を生じ、また、グラフト率が120重量%より高い場合には、耐衝撃強度や成形性が低下する傾向にある。グラフト率の算出において、ゴム質重合体重量を求める方法としては、グラフト重合時のゴム質重合体の仕込み量および単量体の転化率からゴム質重合体の含有量を求めて計算に用いることが簡便な方法である。なお、グラフトしている共重合体は、ゴム質重合体の外部のみならず内部にオクルードした構造であっても良い。
【0041】
グラフト重合は、公知の乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合により行うことができ、これらの重合方法を組み合わせた方法でもよい。ジエン系ゴム含有グラフト共重合体(b−1)としては、重合方法や成分組成の異なるジエン系ゴム含有グラフト共重合体の2種以上を混合して用いても良い。
【0042】
〈硬質(共)重合体(b−2)〉
本発明の硬質(共)重合体(b−2)に用いられる単量体成分としては、先のジエン系ゴム含有グラフト共重合体(b−1)で紹介した単量体の1種又は2種以上を用いることができる。
硬質(共)重合体(b−2)の重量平均分子量は、30,000〜300,000の範囲が好ましく、さらに好ましくは50,000〜250,000の範囲である。硬質共重合体(b−2)の重量平均分子量がこの範囲よりも低い場合には、得られるポリ乳酸系熱可塑性樹脂成形品の耐衝撃性が不足し、また、この範囲を超えた場合には、成形加工性が低下する。
【0043】
硬質(共)重合体(b−2)を配合することにより、耐熱性や流動性等の特性を改善することができるが、硬質(共)重合体(b−2)の配合量がジエン系ゴム含有グラフト共重合体(b−1)と硬質(共)重合体(b−2)との合計100重量%に対して90重量%を超えるとゴム強化樹脂(B)中のゴム含有量が低減することにより、耐衝撃強度が低下する。このため、硬質(共)重合体(b−2)の配合量は、ジエン系ゴム含有グラフト共重合体(b−1)と硬質(共)重合体(b−2)との合計100重量%中に50〜90重量%、好ましくは55〜80重量%、より好ましくは55〜70重量%とする。
【0044】
また、硬質(共)重合体(b−2)を配合する場合、ジエン系ゴム含有グラフト共重合体(b−1)と硬質(共)重合体(b−2)を合わせたアセトン可溶分の重量平均分子量が、先のジエン系ゴム含有グラフト共重合体(b−1)の説明で示したように50,000〜600,000の範囲、特に50,000〜550,000の範囲、とりわけ100,000〜450,000の範囲であることが好ましい。アセトン可溶分の重量平均分子量がこの範囲より低い場合には、得られるポリ乳酸系熱可塑性樹脂成形品の耐衝撃性が不足し、また、この範囲を超えた場合にはポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物の成形加工性が低下する。
【0045】
なお、硬質(共)重合体(b−2)は、1種を単独で用いても良く、異なる組成、分子量のものを2種以上混合して用いても良い。
【0046】
〈ゴム含有量〉
本発明においては、ゴム強化樹脂(B)中のゴム含有量、即ち、ジエン系ゴム含有グラフト共重合体(b−1)と硬質(共)重合体(b−2)との混合物中のゴム質重合体の含有量は5〜40重量%、特に10〜30重量%の範囲となるように調整することが好ましい。この範囲よりもゴム強化樹脂(B)中のゴム質重合体の含有量が低い場合には、十分な耐衝撃性が得られず、また、この範囲より多い場合耐熱性が低下する。なお、ゴム強化樹脂(B)中のゴム質重合体の含有量は、赤外分光測定装置により測定することもできるが、最も簡便な方法として、ジエン系ゴム含有グラフト共重合体(b−1)中のゴム質重合体の含有量を求め、硬質(共)重合体(b−2)との配合割合からゴム強化樹脂(B)中のゴム含有量を算出することができる。
【0047】
〈(メタ)アクリル系樹脂成分〉
(メタ)アクリル系樹脂成分は、本発明で使用するゴム強化樹脂(B)の、硬質(共)重合体(b−2)に好ましくは5〜90重量%、特に好ましくは10〜50重量%の割合で含有される。(メタ)アクリル系樹脂成分含有量が5重量%未満では、ゴム強化樹脂(B)を配合することによる耐衝撃性の改善効果を十分に発揮させることができない。また、(メタ)アクリル系樹脂成分が90重量%を超えると耐衝撃性や耐熱性が低下するため好ましくない。
【0048】
このように、(メタ)アクリル系樹脂成分が、ジエン系ゴム含有グラフト共重合体(b−1)のグラフト成分よりも、硬質(共)重合体(b−2)中に含まれることにより耐衝撃性の向上効果がより一層有効に発揮される。
【0049】
(メタ)アクリル系樹脂成分としては、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステル系単量体の重合成分、或いはメタクリル酸エステル系単量体とアクリル酸メチル等のアクリル酸エステル系単量体および/又は共重合可能なその他の単量体との共重合成分が好ましいが、メタクリル酸エステルとアクリル酸エステルの各単量体の重量比率は100/0〜50/50が好ましく、さらには99/1〜80/20の範囲であることが好ましい。アクリル酸エステルがこの範囲よりも多くなると得られるポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物の熱安定性および耐熱性が損なわれる傾向にある。
【0050】
なお、共重可能なその他の単量体としては、先のグラフト重合可能な単量体成分として紹介した単量体が挙げられ、特に、耐熱性を向上させる目的で、マレイミド化合物や無水マレイン酸などを用いることができる。これら単量体は、それぞれ1種を単独で、或いは2種以上を混合して用いることもできる。
【0051】
メタクリル酸メチルとアクリル酸メチルの共重合体の具体例としては、例えば、市販品の(株)クラレ社製「パラペットG」や、三菱レイヨン(株)社製「アクリペットVH」、「アクリペットMD」などが挙げられ、従って、これらを硬質(共)重合体(b−2)の一部として本発明のポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物に配合することにより、ゴム強化樹脂(B)中に(メタ)アクリル系樹脂成分を含有させることができる。
【0052】
〈マレイミド系樹脂成分〉
マレイミド系樹脂成分は、本発明で使用するゴム強化樹脂(B)の、硬質(共)重合体(b−2)に好ましくは10〜95重量%、特に好ましくは10〜50重量%の割合で含有される。マレイミド系樹脂成分含有量が10重量%未満であれば、ゴム強化樹脂(B)を配合することによる耐熱性の改善効果を十分に発揮させることができない。また、マレイミド系樹脂成分が95重量%を超えると耐衝撃性が低下するため好ましくない。
【0053】
このように、マレイミド系樹脂成分が、ジエン系ゴム含有グラフト共重合体(b−1)のグラフト成分よりも、硬質(共)重合体(b−2)中に含まれることにより耐熱性の向上効果がより一層有効に発揮される。
【0054】
なお、マレイミド系樹脂成分を構成するマレイミド系単量体としては、具体的には、例えばマレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−トルイルマレイミド、N−キシリールマレイミド、N−ナフチルマレイミド、N−t−ブチルマレイミド、N−オルトクロルフェニルマレイミド、N−オルトメトキシフェニルマレイミド等が挙げられる。これらのうち、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−トルイルマレイミド、N−オルトクロルフェニルマレイミド、N−オルトメトキシフェニルマレイミドが好ましく、特にN−シクロヘキシルマレイミドおよびN−フェニルマレイミドが好ましいものである。これらマレイミド系単量体は単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
また、共重可能なその他の単量体としては、先のグラフト重合可能な単量体成分として紹介した単量体が挙げられ、特に、流動性や相溶性を向上させる目的で、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、メタクリル酸エステル系単量体、アクリル酸エステル系単量体などを用いることができる。これらの単量体は、それぞれ1種を単独で、或いは2種以上を混合して用いることもできる。
【0055】
さらに、上述したように、硬質(共)重合体(b−2)は、(メタ)アクリル系樹脂成分とマレイミド系樹脂成分との両樹脂成分をブレンドすることにより構成されること、つまり製造時のブレンド比率を決める方が、材料設計の幅が広がることから好ましいが、硬質共重合体(b−2)として、単量体成分として(メタ)アクリル系単量体とマレイミド系単量体を用いた共重合体を用いてもよい。このようなものの具体例としては、例えば、市販品の(株)クラレ社製「パラペットSH−N」が挙げられ、これを硬質(共)重合体(b−2)として本発明のポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物に配合することもできる。もちろん組成や分子量などの異なる数種類をブレンドすることも可能である。
【0056】
また、硬質(共)重合体(b−2)は、上述のように(メタ)アクリル系樹脂成分とマレイミド系樹脂成分とを含有してなるが、その他の成分として流動性や熱安定性を向上させる目的で(メタ)アクリル系樹脂成分とマレイミド系樹脂成分を含まない樹脂成分を0〜40重量%配合させることもできる。
【0057】
[その他の成分]
本発明のポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物には、上記ポリ乳酸樹脂(A)、ゴム強化樹脂(B)、即ち、ジエン系ゴム含有グラフト共重合体(b−1)および硬質(共)重合体(b−2)の他、更に各種の添加剤やその他の樹脂を配合することができる。この場合、各種添加剤としては、公知の酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、可塑剤、安定剤、離型剤、帯電防止剤、着色剤(顔料、染料など)、炭素繊維やガラス繊維、タルクやウォラストナイト、炭酸カルシウム、シリカなどの充填剤、難燃剤(ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、アンチモン化合物など)、ドリップ防止剤、抗菌剤、防カビ剤、シリコ−ンオイル、カップリング剤などの1種又は2種以上が挙げられる。
【0058】
また、その他の樹脂としては、HIPS樹脂、ABS樹脂、ASA樹脂、AES樹脂などのゴム強化スチレン系樹脂、その他に、AS樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ナイロン樹脂、メタクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂などが挙げられる。また、これらを2種類以上ブレンドしたものでも良く、さらに、相溶化剤や官能基などにより変性された上記樹脂を配合してもよい。
【0059】
[ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物の製造および成形]
本発明のポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物をペレット化する方法としては、特に制限はなく、例えば、二軸押出機、バンバリーミキサー、加熱ロール等を用いることができるが、中でも二軸押出機による溶融混練が好ましく、必要に応じて、サイドフィードなどにより樹脂やその他の添加剤を配合することもできる。
【0060】
本発明のポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物は、射出成形、ブロー成形、シート成形、真空成形などの通常の成形方法によって、各種成形品に成形することができるが、その成形法としては特に射出成形が好適である。
【0061】
得られる成形品の用途としては特に制限はないが、自動車関連では、トランク内の敷板、タイヤカバー、フロアボックスなど、特に内装部品に好適に用いることができる。
【0062】
なお、本発明のポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物の各成分を調製する際、或いはこれらの成分を混合、混練、成形する際などに発生する樹脂屑等は、そのままの状態もしくは、場合によって破砕して溶融再生処理に供することができる。この場合、成形中に回収することも可能であるが、別途回収しておいて、上述のペレットの製造工程において、原料として混合使用することも可能である。
【実施例】
【0063】
以下に、合成例、実施例、および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら制限されるものではない。
なお、以下において、「部」は「重量部」を意味するものとする。
【0064】
重量平均分子量は、東ソー(株)製:GPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー、溶媒;THF)を用いた標準PS(ポリスチレン)換算法にて測定した。
ゴム質重合体の平均粒子径は、日機装(株)製:Microtrac Model:9230UPAを用いて動的光散乱法により求めた。
単量体の重量組成比率は、(株)堀場製作所製:FT−IRを使用して求めた。
【0065】
[ポリ乳酸樹脂]
ポリ乳酸樹脂(a−1):生分解性ポリマー(L体/D体=98/2(重量比)、
重量平均分子量=140,000、融点=171℃)
【0066】
[ゴム強化樹脂]
[ジエン系ゴム含有グラフト共重合体(b−1)]
合成例1:ジエン系ゴム含有グラフト共重合体(b−1−1)の製造
以下の配合にて、乳化重合法によりジエン系ゴム含有グラフト共重合体を合成した。
〔配合〕
スチレン(ST) 25部
アクリロニトリル(AN) 10部
ポリブタジエンラテックス 65部(固形分として)
不均化ロジン酸カリウム 1部
水酸化カリウム 0.03部
ターシャリードデシルメルカプタン(t−DM) 0.04部
クメンハイドロパーオキサイド 0.3部
硫酸第一鉄 0.007部
ピロリン酸ナトリウム 0.1部
結晶ブドウ糖 0.3部
蒸留水 190部
【0067】
オートクレーブに蒸留水、不均化ロジン酸カリウム、水酸化カリウムおよびポリブタジエンラテックス(ゲル含有量80重量%、平均粒子径0.3μm)を仕込み、60℃に加熱後、硫酸第一鉄、ピロリン酸ナトリウム、結晶ブドウ糖を添加し、60℃に保持したままST、AN、t−DMおよびクメンハイドロパーオキサイドを2時間かけて連続添加し、その後70℃に昇温して1時間保って反応を完結した。かかる反応によって得たABSラテックスに酸化防止剤を添加し、その後硫酸により凝固させ、十分水洗後、乾燥してABSグラフト共重合体(b−1−1)を得た。
【0068】
合成例2:ジエン系ゴム含有グラフト共重合体(b−1−2)の製造
合成例1の原料配合において、ゴム質重合体としてゲル含有量97重量%であるポリブタジエン(平均粒子径0.3μm)50部(固形分として)を用い、単量体としてスチレン37部とアクリロニトリル13部を反応させたこと以外は、合成例1と同様にしてグラフト重合を行い、ABSグラフト共重合体(b−1−2)を得た。
【0069】
合成例1,2で製造したゴム含有グラフト共重合体のゴム含有量、単量体の重量組成比率、グラフト率、およびアセトン可溶分の重量平均分子量を測定したところ、以下の通りであった。
ゴム含有グラフト共重合体(b−1−1):ジエン系ゴム含有量=66.2重量%
AN/ST=28/72
グラフト率=40重量%
重量平均分子量(Mw)=154,000
ゴム含有グラフト共重合体(b−1−2):ジエン系ゴム含有量=52.4重量%
AN/ST=26/74
グラフト率=57重量%
重量平均分子量(Mw)=145,000
【0070】
[硬質(共)重合体]
合成例3:硬質(共)重合体(b−2−1)の製造
以下のように、懸濁重合法により硬質(共)重合体を合成した。
窒素置換した反応器に水120部、アルキルベンゼンスルホン酸ソーダ0.002部、ポリビニルアルコール0.5部、アゾイソブチルニトリル0.3部、t−DM0.5部と、アクリロニトリル25部、スチレン25部、メタクリル酸メチル50部からなる単量体混合物を使用し、スチレンの一部を逐次添加しながら開始温度60℃から5時間昇温加熱後、120℃に到達させた。更に、120℃で4時間反応した後、重合物を取り出し、硬質(共)重合体(b−2−1)を得た。
【0071】
合成例4:硬質(共)重合体(b−2−2)の製造
アクリロニトリル25部、スチレン20部、α−メチルスチレン(AMST)35部、N−フェニルマレイミド(NPMI)20部からなる単量体混合物を使用し、スチレン、α−メチルスチレン、N−フェニルマレイミドの一部を逐次添加したこと以外は合成例3と同様にして重合を行って、硬質(共)重合体(b−2−2)を得た。
【0072】
合成例5:硬質(共)重合体(b−2−3)の製造
メタクリル酸メチル98部およびアクリル酸メチル2部からなる単量体混合物を加えたこと以外は合成例3と同様にして重合を行って、硬質(共)重合体(b−2−3)を得た。
【0073】
合成例6:硬質(共)重合体(b−2−4)の製造
アクリロニトリル14部、スチレン55部、N−フェニルマレイミド(NPMI)31部からなる単量体混合物を使用し、スチレン、N−フェニルマレイミドの一部を逐次添加したこと以外は合成例3と同様にして重合を行って、硬質(共)重合体(b−2−4)を得た。
【0074】
合成例7:硬質(共)重合体(b−2−5)の製造
メタクリル酸メチル79部,アクリル酸メチル1部、N−フェニルマレイミド(NPMI)20部からなる単量体混合物を加えたこと以外は合成例3と同様にして重合を行って、硬質(共)重合体(b−2−5)を得た。
【0075】
合成例3,4,5,6,7で製造した硬質(共)重合体の単量体の重量組成比率、および重量平均分子量(Mw)を測定したところ、以下の通りであった。
硬質(共)重合体(b−2−1):AN/ST/MMA=23/28/49
重量平均分子量(Mw)=113,000
硬質(共)重合体(b−2−2):AN/(ST+AMST)/NPNI
=24/57/19
重量平均分子量(Mw)=150,000
硬質(共)重合体(b−2−3):MMA/MA=98/2
重量平均分子量(Mw)=136,000
硬質(共)重合体(b−2−4):AN/ST/NPNI=14/55/31
重量平均分子量(Mw)=167,000
硬質(共)重合体(b−2−5):MMA/MA/NPNI=78/2/20
重量平均分子量(Mw)=170,000
【0076】
[ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物ペレットの製造および評価]
上記の各成分を表1に示す配合割合で混合し、更に、安定剤として、日清紡(株)社製「カルボジライトHMV−8CA」0.3部と共に混合した後、200〜240℃で2軸押出機(日本製鋼所製「TEX−30α」)にて溶融混合し、ペレット化することにより、ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物のペレットを作成した。
【0077】
これらの樹脂ペレットを2オンス射出成形機(東芝(株)製)で220〜250℃にて成形し、耐衝撃性(シャルピー衝撃強さ)、曲げ強度、曲げ弾性率、耐熱性(荷重たわみ温度)を下記方法で測定した。
シャルピー衝撃強さ(KJ/m):ISO 179(常温)
曲げ強度(MPa):ISO 178(常温)
曲げ弾性率(MPa):ISO 178(常温)
荷重たわみ温度(℃):ISO 75(測定荷重0.45MPa)
【0078】
[実施例および比較例]
表1に、実施例1〜6、比較例1〜5を示した。
【表1】

【0079】
[考察]
表1から明らかなように、本発明の請求項の要件を満たす実施例1〜6のポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物は、耐衝撃性、曲げ特性、耐熱性の物性バランスに優れ、特に、耐衝撃性、耐熱性が優れている。
これに対して、比較例1のポリ乳酸樹脂単独のものは耐衝撃強度、耐熱性が低い。(メタ)アクリル系、マレイミド系樹脂成分を含むものであっても、硬質(共)重合体のみでゴム含有グラフト共重合体を含まない比較例2、ポリ乳酸の配合比が範囲よりも多い比較例3では、耐衝撃強度の若干の向上はあるものの、その改善効果は著しく低い。
また、ゴム含有グラフト共重合体を配合したものでも、(メタ)アクリル系樹脂成分を含まない比較例4、マレイミド系樹脂成分を含まない比較例5では、耐衝撃性と耐熱性のバランスが実施例1〜6に比べて劣るものである。
また、(メタ)アクリル系樹脂成分を含むものであっても硬質(共)重合体を含まない比較例4、5でも、耐衝撃強度の向上効果は得られるが、実施例1〜6に比べて劣るものである。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明のポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品は、優れた耐衝撃性等の機械強度を有し、機械的特性や耐熱性のバランスにも優れ、例えば、自動車関連の用途では、トランク内の敷板、タイヤカバー、フロアボックスなど、車両・船舶などの特に内装部品など、市場のニーズに合わせて多彩な用途に使用することができ、その工業的有用性は非常に高い上に、環境負荷の低減にも有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸樹脂(A)1〜50重量部と、ゴム強化樹脂(B)50〜99重量部とを含むポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(ただし、ポリ乳酸樹脂(A)とゴム強化樹脂(B)との合計で100重量部)であって、
該ゴム強化樹脂(B)は、ジエン系ゴム含有グラフト共重合体(b−1)10〜50重量%と硬質(共)重合体(b−2)50〜90重量%とを含み、かつ、硬質(共)重合体(b−2)中に(メタ)アクリル系樹脂成分およびマレイミド系樹脂成分を含有していることを特徴とするポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
該硬質(共)重合体(b−2)中の(メタ)アクリル系樹脂成分の含有量が5〜90重量%であることを特徴とする請求項1に記載のポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
該(メタ)アクリル系樹脂成分を構成する単量体が、メタクリル酸エステルおよび/又はアクリル酸エステルであることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
該硬質(共)重合体(b−2)中のマレイミド系樹脂成分の含有量が10〜95重量%であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
該硬質(共)重合体(b−2)中のマレイミド系樹脂成分を構成する単量体が、N−シクロヘキシルマレイミドおよび/又はN−フェニルマレイミドであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
該ジエン系ゴム含有グラフト共重合体(b−1)を形成するゴム質重合体が、ブタジエン系ゴムであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載のポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載のポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品。

【公開番号】特開2007−126535(P2007−126535A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−319704(P2005−319704)
【出願日】平成17年11月2日(2005.11.2)
【出願人】(502163421)ユーエムジー・エービーエス株式会社 (116)
【出願人】(000241485)豊田通商株式会社 (73)
【Fターム(参考)】