説明

ポリ乳酸系複合混繊糸及び織編物

【課題】 製編織して染色することにより、生分解性を有するとともに、ふくらみ感、ソフト感と濃染性に優れ、かつガサツキのない高質感の織編物となるポリ乳酸系複合混繊糸及び織編物を提供する。
【解決手段】 ポリ乳酸系マルチフィラメント加工糸Aとポリ乳酸系マルチフィラメントBとが混繊された複合混繊糸であって、前記ポリ乳酸系マルチフィラメント加工糸Aの沸水処理後の伸長率が20%以下、トルクが40T/m以上であり、かつ、ポリ乳酸系マルチフィラメントBの沸水収縮率がポリ乳酸系マルチフィラメント加工糸Aの沸水収縮率以上であるポリ乳酸系複合混繊糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製編織して染色することにより、生分解性を有するとともに、ふくらみ感、ソフト感と濃染性に優れ、ガサツキのない高質感の織編物となるポリ乳酸系複合混繊糸及び織編物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、合成繊維マルチフィラメント、中でも特にポリエチレンテレフタレート(PET)を用いた仮撚加工糸は、汎用性の点から幅広く用いられてきた。
【0003】
しかしながら、環境問題がクローズアップされるにつれ、石油由来の前記PETに代わるものとして、植物由来で生分解性を有するポリ乳酸を用いることの要求が強まってきており、近年、ポリ乳酸を用いた様々な加工糸の提案がなされている。
【0004】
まず、特許文献1には、融点が130℃以上の脂肪族ポリエステルからなり、仮撚加工が施され、沸騰水収縮率が6%以上、30%以下であり、伸縮復元率(CR)が5%以上の脂肪族ポリエステル加工糸が提案されている。
【0005】
この加工糸は、脂肪族ポリエステル糸に高収縮性と捲縮を付与することで、織編物のふくらみ、反発、ストレッチ性を向上させるものであるが、高収縮させると風合いが硬くなるとともに、通常のスピンドル法やベルトニップ法、3軸フリクションを用いた摩擦仮撚法等で捲縮を付与するため、断面変形や配向が進み、仮撚加工糸独特のガサツキ感やギラツキ感が生じてしまい、高質感の織編物を得ることができない。
【0006】
特許文献2には、脂肪族ポリエステル繊維からなる仮撚加工糸であって、断面変化率が1.5以下であり、伸縮復元率が特定の式を満足し、さらに熱水収縮率が5〜15%である光沢に優れた脂肪族ポリエステル仮撚加工糸が提案されている。
【0007】
この仮撚加工糸は、断面変形が1.5以下と比較的小さいことにより、前記ギラツキ(グリッター)が改善されるものの、やはり3軸ツイスターやベルトニップツイスターを用いて加工するため捲縮が高くなり、仮撚加工糸独特のガサツキ感を改善することができず、高質感の織編物を得ることはできない。
【0008】
特許文献3には、複屈折率(Δn)が20×10−3〜80×10−3のポリエステル高配向未延伸糸を供給糸とし、旋撚体として流体旋回ノズルを用い,仮撚係数20,000以下,延伸倍率1.0以下,加撚/解撚の張力比0.8〜1で,かつ,加撚,解撚張力が前記未延伸糸の最大熱収縮応力以下の張力下で仮撚加工を施し,次いで、伸度40%以下のポリエステルマルチフイラメント糸条とを合糸して流体噴射加工する複合嵩高加工糸の製造方法が提案されている。
【0009】
この方法で得られる加工糸は、流体旋回ノズルを用いて仮撚加工を行っているため濃染性は得られるものの、ポリエステルとしてPETを用いているため生分解性ではなく、またPETを使用しているため、曲げ剛性が高いことからドレープ性が低く、やはり高質感の織編物を得ることはできなかった。
【0010】
また、特許文献4には、高収縮性のポリ乳酸糸条Aと、低収縮性のポリ乳酸糸条Bからなる混繊糸であって、ポリ乳酸糸条Aの沸水収縮率が30%以下であり、かつポリ乳酸糸条Aとポリ乳酸糸条Bとの沸水収縮率の差が5%以上であるポリ乳酸異収縮混繊糸が提案されている。
【0011】
しかしながら、この混繊糸は、糸条Aと糸条Bの沸水収縮率の差により、ソフトな風合い、ふくらみ感が得られるものの、単に原糸同士を混繊するため、表面のタッチが陳腐でドレープ性も得られず、発色性も低いため、やはり高質感の織編物を得ることはできなかった。
【特許文献1】特開2002−155437号公報
【特許文献2】特許第3463597号公報
【特許文献3】特開平8−100366号公報
【特許文献4】特開2004−19057号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記の通り、ポリ乳酸を用いた加工糸から、ソフト感、ふくらみ感、ドレープ性及び高発色性を具備した高質感の織編物は未だ得られていないのが現状である。
【0013】
本発明は、上記した従来の問題を解決し、製編織して染色することにより、生分解性を有するとともに、ふくらみ感、ソフト感と濃染性に優れ、かつガサツキのない高質感の織編物となるポリ乳酸系複合混繊糸及び織編物を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の伸長率とトルクを有するポリ乳酸系マルチフィラメント加工糸と、特定の沸水収縮率を有するポリ乳酸系マルチフィラメント糸とを複合混繊することで、生分解性を有するとともに、ふくらみ感、ソフト感と濃染性に優れ、ガサツキのない高質感の織編物となる加工糸が得られることを知見して本発明に到達した。
【0015】
すなわち、本発明は、次の構成を有するものである。
(1)ポリ乳酸系マルチフィラメント加工糸Aとポリ乳酸系マルチフィラメントBとが混繊された複合混繊糸であって、前記ポリ乳酸系マルチフィラメント加工糸Aの沸水処理後の伸長率が20%以下、トルクが40T/m以上であり、かつ、ポリ乳酸系マルチフィラメントBの沸水収縮率がポリ乳酸系マルチフィラメント加工糸Aの沸水収縮率以上であることを特徴とするポリ乳酸系複合混繊糸。
(2)ポリ乳酸系マルチフィラメント加工糸Aの沸水収縮率が7%以下である上記(1)記載のポリ乳酸系複合混繊糸。
(3)ポリ乳酸系マルチフィラメント加工糸Aが流体旋回加工によって得られた低捲縮仮撚加工糸である上記(1)又は(2)記載のポリ乳酸系複合混繊糸。
(4)ポリ乳酸系マルチフィラメント糸Bの沸水収縮率が10%以上、かつ伸度が50%以下である上記(1)〜(3)のいずれかに記載のポリ乳酸系複合混繊糸。
(5)複合混繊糸の表面にループやたるみを有する上記(1)〜(4)のいずれかに記載のポリ乳酸系複合混繊糸。
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載のポリ乳酸系複合混繊糸を少なくともその一部に用いた織編物。
(7)染色L値が12.0以下である上記(6)記載の織編物。
【発明の効果】
【0016】
本発明のポリ乳酸系複合混繊糸は、製編織して染色することにより、生分解性を有するとともに、ふくらみ感、ソフト感と濃染性に優れ、ガサツキのない高質感の織編物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0018】
本発明のポリ乳酸系複合混繊糸は、ポリ乳酸系マルチフィラメント加工糸Aとポリ乳酸系マルチフィラメントBとで構成されている。両糸条A、Bを形成するポリ乳酸としては、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸、L−乳酸とD−乳酸との共重合体、L−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、D−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、L−乳酸とD−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体との群から選ばれる重合体が挙げられる。
【0019】
乳酸の単独重合体であるポリL−乳酸とポリD−乳酸の融点はそれぞれ約180℃であるが、乳酸系重合体として上記共重合体を用いる場合には、機械的強度、融点等を考慮して共重合体成分の共重合比を決定することが好ましい。例えば、L−乳酸とD−乳酸との共重合体の場合には、L−乳酸とD−乳酸とのいずれか一方が90モル%以上100モル%未満、他方が0モル%を超え、10モル%以下の範囲にすることが好ましく、また、L−乳酸又はD−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体の場合には、例えば上記乳酸を90モル%以上100モル%未満、共重合成分であるヒドロキシカルボン酸を0モル%を超え、10モル%以下の範囲にすることが好ましい。
【0020】
乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体におけるヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸等が挙げられる。これらの中でも、コストが安価である点から特にヒドロキシカプロン酸又はグリコール酸が好ましい。
【0021】
本発明では、上記ポリ乳酸を使用することにより、PETに比べて曲げ剛性が低く、後述のポリ乳酸系マルチフィラメント加工糸Aのトルクとの相乗効果によりドレープ性が生じ、PETにない高質感の織編物を得ることができる。
【0022】
なお、ポリ乳酸系マルチフィラメント加工糸Aとポリ乳酸系マルチフィラメントBとを形成するポリ乳酸は、両糸条A、Bが本発明で規定した物性を満足すれば、同じでも異なっていてもよい。
【0023】
次に、本発明のポリ乳酸系複合混繊糸の一方を構成するポリ乳酸系マルチフィラメント加工糸Aは、沸水処理後の伸長率が20%以下、トルクが40T/m以上であることが必要である。伸長率が低いことにより仮撚加工糸特有のガサツキ感やギラツキ感がなく、風合いがソフトでガサツキのない上品なタッチ、及びマイルドで深みのある光沢感が得られる。加えて、トルクを有することにより、染色等の後工程で熱が加わる際にポリ乳酸系マルチフィラメント加工糸Aが捻れながら、かつばらついて収縮するため、織編物表面で光の乱反射が起こり、織編物に深みのある発色を付与することができるとともに、糸条に撚が掛かった状態になり、自然なドレープ性も生じるため、前記効果と相俟って高質感の織編物とすることができる。
【0024】
しかし、トルクが40T/m未満になると、捻れやばらつきが起こり難いため、前記乱反射が起こり難く、深みのある発色を表現し難い上に、自然なドレープ性も生じ難いため、従来の織編物と大差のないものとなる。前記効果を阻害しない範囲でトルクの上限は限定されるものではないが、複合混繊糸とした場合に、トルクが強すぎるとスナール等により取り扱いがやや困難となり工程通過性が悪くなるため、150T/m以下が好ましい。
【0025】
上記の理由から、沸水処理後の伸長率は15%以下が好ましく、0〜10%がより好ましい。また、トルクは50T/m以上が好ましく、60T/m以上がより好ましい。
【0026】
次に、ポリ乳酸系マルチフィラメント加工糸Aの沸水収縮率は7%以下が好ましく、0〜5%がより好ましい。ポリ乳酸は融点が低く、PETのように高温での熱処理が難しいため沸水収縮率が高くなりやすく、結果として織編物の風合いが硬くなってしまう。しかし、本発明では、好ましくは後述の流体旋回加工によって低延伸倍率で仮撚加工することにより、沸水収縮率を前記範囲内とすることで、染色等の後工程での収縮が少なくなり、風合いの硬化を抑制できることに加え、複合混繊糸を構成するポリ乳酸系マルチフィラメントBとの沸水収縮率差により、ふくらみ感が得られるとともに、微細な空間により光の乱反射が生じ、発色性も向上することができる。沸水収縮率が7%を超えると、染色等により織編物の風合いが粗硬になりやすく、ポリ乳酸系マルチフィラメントBとの沸水収縮率差も少なくなるため、ふくらみ感や発色性が得られ難くなる。沸水収縮率の下限は特に限定されるものではないが、0%未満、すなわち熱で伸長するようになると、織編物がふかついたり、摩擦等の物性面が悪くなることがあるため注意が必要である。
【0027】
また、ポリ乳酸系マルチフィラメント加工糸Aは、流体旋回加工によって得られた低捲縮仮撚加工糸であることが好ましい。流体旋回加工は、糸条に低張力で仮撚を施すことが可能であり、断面変形や配向を抑えた加工糸が得られるため、本発明のポリ乳酸系複合混繊糸の特徴を効果的に発現させることが可能となる。また、糸条の加撚、解撚点が仮撚ピンやディスク、ベルトのように固定されていないため、加撚、解撚の作用が均一でなく、前記ポリ乳酸系複合混繊糸にナチュラル感をも付与することができ、さらに高質感の織編物を得ることができる。
【0028】
一方、ポリ乳酸系マルチフィラメントBは、沸水収縮率がポリ乳酸系マルチフィラメント加工糸Aと同じか加工糸Aよりも高いことが必要である。沸水収縮率としては10%以上、かつ伸度が50%以下であることが好ましく、沸水収縮率が12〜40%、伸度が15〜40%であることがさらに好ましい。
【0029】
ポリ乳酸系マルチフィラメントBの物性が前記範囲にあることで、染色加工等の後工程でポリ乳酸系マルチフィラメント加工糸Aとの糸長差が大きくなり、ふくらみ感が得られるとともに、製編織等の工程における張力負荷に対しても複合混繊糸の伸びを防止することができるため、前記ポリ乳酸系マルチフィラメント加工糸Aの特性を有効なものとすることができる。
【0030】
ポリ乳酸系マルチフィラメント糸Bの沸水収縮率が10%未満では、ポリ乳酸マルチフィラメント加工糸Aとの糸長差が小さいため、ふくらみ感のある高質感の織編物が得られ難いことがある。また、伸度が50%を超えると、撚糸や製編織等の工程でポリ乳酸系複合混繊糸が伸ばされ、品位の低下や、濃染性の低下が起こることがある。
【0031】
ただし、ポリ乳酸系マルチフィラメントBが仮撚加工糸や潜在捲縮糸等の捲縮糸である場合には、捲縮の発現によって前記ポリ乳酸系マルチフィラメント加工糸Aとの糸長差が得られるため、沸水収縮率はポリ系乳酸マルチフィラメント加工糸Aと同じか加工糸Aよりも高ければ本発明の目的を達成することができる。
【0032】
さらに、本発明のポリ乳酸系複合混繊糸は、表面にループやたるみを有することも好ましい態様であり、この場合はループやたるみにより光の乱反射が助長され、発色性がさらに向上する。
【0033】
なお、ポリ乳酸系マルチフィラメント加工糸A及びポリ乳酸系マルチフィラメントBには、酸化チタン等の艶消し剤や機能性を付与するための帯電防止剤、抗菌剤、消臭剤等が添加されていてもよい。
【0034】
次に、本発明の織編物は、本発明のポリ乳酸系複合混繊糸を少なくともその一部に用いたものである。該織編物の染色L値としては、低ければ低いほど濃染効果を発現できて好ましいのであるが、具体的には12.0以下であることが好ましく、11.0以下であることがより好ましく、10.0以下がさらに好ましい。染色L値が12.0を超えると、発色性が悪く、織編物に高級感を付与することができない。また、ポリ乳酸系複合混繊糸の使用比率は特に限定されるものではないが、本発明の織編物の特徴を有効に発現させるには、30質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましい。
【0035】
次に、本発明のポリ乳酸系複合混繊糸の製法例について図面を用いて説明する。
【0036】
図1は、本発明のポリ乳酸系複合混繊糸の一製法例を示す概略工程図である。図1において、ポリ乳酸マルチフィラメントである供給糸1は、スプール2から引き出され、ガイド3を通り、フィードローラ4、ヒータ5を通過する。その後、圧縮空気等を用いた流体旋回ノズル6により流体旋回加工が施され、デリベリローラ7を通過してポリ乳酸系マルチフィラメント加工糸Aとなる。
【0037】
上記ポリ乳酸マルチフィラメントとしては、延伸糸、高配向未延伸糸のいずれも用いることが可能であるが、高配向未延伸糸は配向が低く、濃染化しやすいため、前記ポリ乳酸系マルチフィラメント加工糸A用の供給糸として好ましく用いられる。
【0038】
上記した流体旋回加工の具体的な加工条件としては、上記ポリ乳酸マルチフィラメントが高配向未延伸糸の場合、延伸倍率1.0〜1.3倍、仮撚係数7000〜20000、ヒータ温度80〜120℃が好ましく、また、流体旋回加工時の加撚張力は0.04〜0.10cN/dtexが好ましい。ここで、仮撚係数とは、供給糸の繊度(dtex)の平方根と仮撚数(T/M)との積で表される数値である。
【0039】
一方、上記ポリ乳酸マルチフィラメントが延伸糸の場合、デリベリローラとフィードローラとの速度比(デリベリローラの速度/フィードローラの速度)は0.9〜1.1が好ましい。その他の加工条件は、高配向未延伸糸の場合と同様に設定することが可能である。
【0040】
他方、ポリ乳酸マルチフィラメントである供給糸11は、スプール12から引き出され、ガイド13を通り、フィードローラ14、ヒータ15を通過する。その後、デリベリローラ17を通過して乳酸系マルチフィラメントBとなる。
【0041】
また、具体的な加工条件としては、上記ポリ乳酸マルチフィラメントが高配向未延伸糸の場合、延伸倍率1.2〜1.5倍、ヒータ温度80〜120℃が好ましい。
【0042】
一方、上記ポリ乳酸マルチフィラメントが延伸糸の場合、延伸及び熱処理は不要である。つまり、上記ポリ乳酸マルチフィラメントをガイド13からデリベリローラ17へ直接導入することが可能である。
【0043】
次いで、前記ポリ乳酸系マルチフィラメント加工糸Aとポリ乳酸系マルチフィラメントBは、流体処理ノズル8、引取りローラ9により混繊処理されて本発明のポリ乳酸系複合混繊糸となり、パッケージ10に巻き取られる。
【0044】
また、ポリ乳酸系マルチフィラメント加工糸Aとポリ乳酸系マルチフィラメントBとを混繊させる流体処理ノズル8としては、ループやたるみを積極的には形成しないインターレース系、ループやたるみを形成するタスラン系の何れでもよいが、表面にループやたるみを形成して光の乱反射を助長し、発色性を向上できるタスラン系のノズルが好ましい。
【実施例】
【0045】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、本発明における各物性値は、次の方法により測定した。
(1)沸水処理後の伸長率
JIS−L−1013の伸縮性B法に従って伸長率(%)を算出する。ただし、採取した試料を沸水中で95℃×30分処理した後、測定に供する。
(2)トルク
試料をU字状に吊り下げて、その両上端にそれぞれの1/34(cN/dtex)(1/30(g/d)に相当)の荷重を掛けて固定した後、U字状をした試料の下端に1/340(cN/dtex)(1/300(g/d)に相当)の荷重を掛け、試料が旋回を停止した時の1m当たりの撚数で表示する。
(3)沸水収縮率(%)
JIS−L−1013に準拠して測定する。
(4)伸度(%)
JIS−L−1013に準拠して測定する。
【0046】
(5)染色L値
織編物について、下記の染色処方で染色を行う。
・精練
精練剤:サンモールFL(日華化学社製) 1g/l
温度×時間:70℃×20分
・染色
分散染料:Cibacet Black EL−FGL(チバスペシャルテイケミカルズ社製)15%o.m.f.
助剤:ニッカサンソルトSN−130(日華化学社製) 0.5g/l
酢酸:0.2ml/l
温度×時間:110℃×30分
浴比:1:50
・還元洗浄
還元洗浄剤:ソーダ灰 5g/l
ハイドロサルファイト 1g/l
サンモールFL 1g/l
温度×時間:70℃×20分
上記の染色処方で染色した織編物を、マクベス社製MS−2020型分光光度計でその反射率を測定し、CIE Labの色差式から濃度指標を求めた値が染色L値であり、その値が小さいほど深みのある色となる。
【0047】
(6)織物のふくらみ感、ソフト感、ドレープ性、ガサツキ感
織物技術者と染色技術者からなるパネラー10人を選定し、目視、感触での官能検査によってそれぞれ次の3段階評価を行い、各項目について最も多くのパネラーが判断した評価結果を全体の評価結果とした。
【0048】
ふくらみ感 ○:良好 △:やや不足 ×:なし
ソフト感 ○:良好 △:やや不足 ×:なし
ドレープ性 ○:良好 △:やや不足 ×:なし
ガサツキ感 ○:なし △:ややあり ×:強い
【0049】
(実施例1)
L−乳酸を主成分とする数平均分子量が64000、L−乳酸純度99.0%のポリ乳酸チップ(カーギル社製 ECO−PLA)を用いて紡糸速度3500m/分、紡糸温度220℃で溶融紡糸し、110デシテックス36フィラメントのポリ乳酸高配向未延伸糸を得た。
【0050】
次いで、得られたポリ乳酸高配向未延伸糸を供給糸1と供給糸11に用いて、図1に示す工程に従い、表1の条件で加工して185デシテックス72フィラメントのポリ乳酸系複合混繊糸を得た。なお、流体処理ノズルとしては、ループやたるみを形成できるタスラン系のノズルを使用した。
【0051】
得られたポリ乳酸系複合混繊糸を経糸と緯糸に用いて、ウォータージェットルームで経糸密度70本/2.54cm、緯糸密度58本/2.54cmで平織物を製織し、前記処方により染色し、仕上げ加工を行った。
【0052】
加工条件及び得られたポリ乳酸系複合混繊糸と織物の評価結果を併せて表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1から明らかなように、実施例1で得られた織物は、非常にソフトでふくらみ感があるとともにドレープ性があり、ガサツキ感は感じられず、従来のポリ乳酸仮撚加工糸使いの織物とは全く異なる高質感のものであった。また、染色L値は11.8であり、発色性にも優れたものであった。
【0055】
(実施例2)
供給糸11として、L−乳酸を主成分とする数平均分子量が88200のポリ乳酸A(L−乳酸単位:98.7モル%、D−乳酸単位:1.3モル%)と数平均分子量が50000のポリ乳酸B(L−乳酸単位:98.7モル%、D−乳酸単位:1.3モル%)を、複合比1:1でサイドバイサイド型に複合紡糸したポリ乳酸サイドバイサイド型複合マルチフィラメントの高配向未延伸糸167dtex24fを用いる以外は実施例1と同様にして、図1に示す工程に従い、表1の条件で加工して180デシテックス60フィラメントのポリ乳酸系複合混繊糸を得た。
【0056】
得られたポリ乳酸系複合混繊糸を経糸と緯糸に用いて、実施例1と同様にして製織、染色し、仕上げ加工を行った。
【0057】
表1から明らかなように、実施例2で得られた織物は、非常にソフトでドレープ性があるとともに、ガサツキ感は感じられなかったことに加え、ストレッチ性を有するとともに、実施例1の織物よりもふくらみ感があり、従来のポリ乳酸仮撚加工糸使いの織物とは全く異なる高質感のものであった。また、染色L値は11.3であり、発色性にも優れたものであった。
【0058】
(比較例1)
図1において、流体旋回ノズル6を使用せず、供給糸1に流体旋回加工を行なわない以外は実施例1と同様にして、図1に示す工程に従い、表1の条件で加工して180デシテックス72フィラメントの複合糸を得た。
【0059】
得られた複合糸を経糸と緯糸に用いて、実施例1と同様にして製織、染色し、仕上げ加工を行った。
【0060】
表1から明らかなように、得られた織物は、ふくらみ感とソフト感は有するものの、発色性が低いとともに、トルクがないことによりドレープ性に欠けていた。
【0061】
(比較例2)
実施例1において、流体旋回ノズル6の代わりにスピンドルピンタイプの施撚装置を用い、表1の条件にて仮撚加工を行なって170デシテックス72フィラメントの複合糸を得た。なお、この方法では、延伸倍率を低くすると糸切れが発生したため、糸切れが生じない最低限の延伸倍率にて加工を行った。
【0062】
得られた複合糸を経糸と緯糸に用いて、ウォータージェットルームで経糸密度74本/2.54cm、緯糸密度62本/2.54cmで平織物を製織し、実施例1と同様にして染色し、仕上げ加工を行った。
【0063】
表1から明らかなように、得られた織物は、トルクはあるものの、伸長率が大きいため、仮撚加工糸特有のガサツキ感とふかつき感があり、発色性にも欠けていた。
【0064】
(比較例3)
ポリ乳酸高配向未延伸糸の代わりに、通常のPETを紡糸して得られた110デシテックス36フィラメントのPET高配向未延伸糸を供給糸1と11に用いる以外は実施例1と同様にして、図1に示す工程に従い、表1の条件で加工して180デシテックス72フィラメントの複合糸を得た。
【0065】
得られた複合糸を経糸と緯糸に用いて、実施例1と同様にして平織物を製織、染色し、仕上げ加工を行った。
【0066】
表1から明らかなように、得られた織物は、トルクはあるものの、PETを使用していることから曲げ剛性が高く、ソフト感とドレープ性に劣っているとともに、生分解性を有していなかった。
【0067】
(比較例4)
実施例1と同様にしてチップを作製し、紡糸を行って、220デシテックス72フィラメントのポリ乳酸高配向未延伸糸を得た。
【0068】
得られたポリ乳酸高配向未延伸糸を供給糸1に用い、供給糸11は用いず、図1に示す工程に従い、表1の条件で加工して、180デシテックス72フィラメントの複合糸を得た。
【0069】
得られた複合糸を経糸と緯糸に用いて、実施例1と同様にして平織物を製織、染色し、仕上げ加工を行った。
【0070】
表1から明らかなように、得られた織物は、トルクはあるものの、伸長率が大きいため、仮撚加工糸特有のガサツキ感とふかつき感があり、発色性にも欠けていた。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明のポリ乳酸系複合混繊糸の製法例を示す概略工程図である。
【符号の説明】
【0072】
1、11 供給糸
2、12 スプール
3、13 ガイド
4、14 フィードローラ
5、15 ヒータ
6 流体旋回ノズル
7、17 デリベリローラ
8 流体処理ノズル
9 引取りローラ
10 パッケージ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸系マルチフィラメント加工糸Aとポリ乳酸系マルチフィラメントBとが混繊された複合混繊糸であって、前記ポリ乳酸系マルチフィラメント加工糸Aの沸水処理後の伸長率が20%以下、トルクが40T/m以上であり、かつ、ポリ乳酸系マルチフィラメントBの沸水収縮率がポリ乳酸系マルチフィラメント加工糸Aの沸水収縮率以上であることを特徴とするポリ乳酸系複合混繊糸。
【請求項2】
ポリ乳酸系マルチフィラメント加工糸Aの沸水収縮率が7%以下である請求項1記載のポリ乳酸系複合混繊糸。
【請求項3】
ポリ乳酸系マルチフィラメント加工糸Aが流体旋回加工によって得られた低捲縮仮撚加工糸である請求項1又は2記載のポリ乳酸系複合混繊糸。
【請求項4】
ポリ乳酸系マルチフィラメント糸Bの沸水収縮率が10%以上、かつ伸度が50%以下である請求項1〜3のいずれかに記載のポリ乳酸系複合混繊糸。
【請求項5】
複合混繊糸の表面にループやたるみを有する請求項1〜4のいずれかに記載のポリ乳酸系複合混繊糸。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリ乳酸系複合混繊糸を少なくともその一部に用いた織編物。
【請求項7】
染色L値が12.0以下である請求項6記載の織編物。


【図1】
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【公開番号】特開2006−283215(P2006−283215A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−102640(P2005−102640)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(399065497)ユニチカファイバー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】