説明

ポリ乳酸繊維

【課題】 本発明により、製造が容易で、かつその後の溶融成形によって耐久性が飛躍的に向上するバインダー繊維を提供しようとするものである。
【解決手段】 本発明の課題は、220℃で2分間、圧力1.5MPaで加圧熱処理を行った後の溶液比粘度(ηr)が熱処理前の1.05〜4倍になることを特徴とするポリ乳酸繊維によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は製造が容易で、かつその後の溶融成形によって耐久性が飛躍的に向上するバインダー繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
脂肪族ポリエステルは一般的に加水分解し易く、更には加熱処理において熱分解が進行してしまい、実使用に於いて耐久性が不足するという問題があった。これに対して、脂肪族ポリエステルに末端反応性薬剤を添加し、樹脂全体を高分子量化して耐久性を向上させる技術が知られており、例えば特許文献1には、特定の多官能アジリジン化合物を反応させて架橋する技術が開示されている。しかしながら該手法においては、多官能アジリジン化合物を添加した脂肪族ポリエステルを用いて溶融紡糸を行い、繊維化すると、既に架橋体を形成しているために紡糸線上での伸長変形を阻害してしまい、流動性、曳糸性が不足してしまう。更に、溶融紡糸において溶融樹脂の溶融から繊維化までの時間、いわゆる滞留時間の長さ故に、樹脂と薬剤が高度に反応してしまうため、通常の溶融紡糸では溶融成型機の配管圧や紡糸パックの圧力が高くなりすぎてしまい、樹脂をノズルから安定して吐出する事ができなかった。そのため、上記技術では安定して繊維化することが困難であった。
【0003】
また、上記溶融時に反応することを抑制する手段として、特許文献2には活性エネルギー線により反応する架橋性モノマーを樹脂中に添加する手法が開示されている。この技術においては、溶融成形における流動性の悪さを解消することが可能となり、得られる成形物に対して活性エネルギー線、例えばX線や電子線を照射して高分子量化することができる。しかしながら、活性エネルギー線を利用する方法は照射装置の導入費が高いためにコストアップが大きく、さらにX線では安全上の制約が大きく作業が煩雑になり、電子線照射では照射深度の問題もあり、成形体の形状がかなりの制約を受ける等、最終製品を低価格で提供することができなかった。
【0004】
更に、末端反応性薬剤の添加量を減らし、かつ芯鞘型複合繊維などの芯部、または鞘部に薬剤を添加した脂肪族ポリエステルを配することによって高分子量の熱接着性繊維を得る方法が特許文献3に記載されている。しかしながら、薬剤の添加によって脂肪族ポリエステルの重量平均分子量が20万以上となるような樹脂を成型することは、前述したとおり非常に困難である。また、特許文献3では芯部と鞘部に融点差を持たせることを特徴としてあるが、芯部と鞘部の融点差が20℃以上のバインダー繊維では、例えば芯部が高融点、鞘部が低融点の場合には、芯部の融点に合わせて高温で溶融成形を行なうと、低融点である鞘部が熱によって劣化してしまう。また、低融点の鞘部にあわせて低温で溶融成形を行なうと、芯部に配した高融点成分が充分に流動しないため、成形体の強度が不足してしまう。
【0005】
これらの問題から、従来の技術では紡糸性が良好で、かつ得られた繊維を溶融成形することによって高分子量な成形体を得ることはできなかった。
【特許文献1】特開平07−90071号公報
【特許文献2】特開平10−147720号公報
【特許文献3】特開平06−248516号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は製造が容易で、かつその後の溶融成形によって耐久性が飛躍的に向上するバインダー繊維を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)220℃の温度で2分間、圧力1.5MPaで加圧熱処理を行った後の溶液比粘度(ηr)が熱処理前の1.05〜4倍になることを特徴とするポリ乳酸繊維
(2)COOH末端基反応性および/またはOH末端基反応性の薬剤Cが基材となるポリ乳酸のCOOH末端基濃度および/またはOH末端基濃度に対して、その全量を反応させる理論添加量の5倍以上を添加されてなる樹脂Aと、上記薬剤Cが実質的に含有されていないポリ乳酸を主体とする樹脂Bが複合されてなり、樹脂Aと樹脂Bの融点差が20℃未満であることを特徴とする繊維によって、達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、製造が容易でかつその後の溶融成形によって耐久性が飛躍的に向上するバインダー繊維を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の繊維に用いられる樹脂は、ポリ乳酸である。そのなかでも、耐熱性が高く力学的特性や生分解性などの諸特性に優れることからL−乳酸および/またはD―乳酸を主成分とするポリ乳酸である。
【0010】
本発明で用いられるポリ乳酸の製造方法には、L−乳酸、D−乳酸、DL−乳酸(ラセミ体)を原料として一旦環状2量体であるラクチドを生成せしめ、その後開環重合を行う2段階のラクチド法と、当該原料を溶媒中で直接脱水縮合を行う一段階の直接重合法が知られている。
【0011】
ポリ乳酸はいずれの製法によって得られたものであってもよいが、ラクチド法によって得られるポリマーの場合にはポリマー中に含有される環状2量体が成形時に気化して、溶融紡糸時には糸斑の原因となることや、未反応の薬剤と反応して、高分子量化を阻害することから、成形時あるいは溶融紡糸以前の段階でポリマー中に含有される環状2量体の含有量を0.5wt%以下とすることが好ましく、0.3wt%以下であると更に好ましい。
【0012】
また、直接重合法の場合には環状2量体に起因する問題が実質的にないため、成型性あるいは製糸性の観点からはより好適である。本発明のポリ乳酸の重量平均分子量は、好ましくは10万〜30万、さらに好ましくは15万〜25万である。重量平均分子量をかかる範囲とする場合には、繊維やフィルムなどの成形品とした場合の強度物性を優れたものとすることができる。更には、該範囲に調節された分子量を持つポリ乳酸を原料とすることで、耐久性を向上させるために必要な薬剤Cの添加量を相対的に少なくすることができる。これは、例えば重量平均分子量が1万のポリ乳酸を出発物質とする場合と、重量平均分子量が10万のポリ乳酸を出発物質とする場合、末端基の濃度にもよるが、一般的にそれぞれの薬剤Cの理論添加量は大きく異なる。すなわち、樹脂中に添加される薬剤Cの濃度を相対的に低い濃度とすることで、薬剤Cにかかるコストを低く抑えることや、薬剤Cのブリードアウトを抑制できる観点から好ましいのである。なお、ポリ乳酸の重量平均分子量を重合工程のみで30万以上とすることは一般に困難である。
【0013】
また、ポリ乳酸の重量平均分子量を数平均分子量で割った値、すなわちポリマーの分散度は2.0以下とすることが好ましい。分散度が2.0以下であれば、架橋反応後の成形品に対して、均一に反応させた耐久性に優れた物が得られるのである。分散度はより好ましくは1.8以下であり、1.7以下であると最も好ましい。分散度は低分子量化合物、すなわち重合反応時の残存モノマー等を溶媒抽出操作等によって除去する方法などにより上記範囲とすることができる。
【0014】
また、COOH末端基濃度は低いほど樹脂の耐熱性が向上するため好ましいが、一般的に脂肪族ポリエステルの重縮合のみで5当量/t以下のCOOH末端基濃度とすることは困難である。COOH末端基濃度の好ましい範囲は5〜50当量/tであり、7〜45当量/tの範囲であると更に好ましい。
【0015】
また、本発明において用いられるポリ乳酸は、L−乳酸、D−乳酸のほかにエステル形成能を有するその他の単量体成分を共重合した共重合ポリ乳酸であってもよい。共重合可能な単量体成分としては、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸類の他、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール等の分子内に複数の水酸基を含有する化合物類またはそれらの誘導体、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸等の分子内に複数のカルボン酸基を含有する化合物類またはそれらの誘導体が挙げられる。また、ポリ乳酸の溶融粘度を低減させるため、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリヒドロキシブチレートのような脂肪族ポリエステルポリマーを内部可塑剤として、あるいは外部可塑剤として用いることができる。
【0016】
更に、本発明で用いられるポリ乳酸は、L−乳酸を主体としたポリL乳酸と、D−乳酸を主体としたポリD乳酸によるステレオコンプレックス結晶を形成することが知られている。該ステレオコンプレックス結晶は、ポリL乳酸またはポリD乳酸単独樹脂と比較して融点が向上することが知られており、また結晶の完全性が高まるため耐薬品性も向上することが知られている。溶融後の耐熱性および耐薬品性を向上させるために、該技術を利用することが好ましい。ポリL乳酸とポリD乳酸の混合比率は30/70〜70/30であることが、ステレオコンプレックス結晶形成のため好ましい。更には、ポリL乳酸とポリD乳酸の重量平均分子量の差は、10万以下であることが好ましい。重量平均分子量の差が10万以下であると、ポリL乳酸とポリD乳酸の溶融粘度の差が小さく、十分にポリL乳酸とポリD乳酸が混合され、ステレオコンプレックス形成がスムーズに進行する。また、好ましくは重量平均分子量の差が1万以上であると、ポリL乳酸またはポリD乳酸のうち、重量平均分子量が大きい分子鎖に紡糸時の応力が集中するため、重量平均分子量の低いポリマーが追随する形で配向が進む。すなわちステレオコンプレックス結晶を作りやすい前駆体を形成させることが可能であるため好ましいのである。これらから、重量平均分子量の差は1万〜10万の範囲であるとより好ましく、1万〜5万の範囲であるとより好ましい。
【0017】
なお、本発明において用いられるポリ乳酸樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲、また紡糸性を阻害しない範囲で脂肪族ポリエステル以外の成分を含有してもよい。例えば、可塑剤、紫外線安定化剤、着色防止剤、艶消し剤、消臭剤、難燃剤、耐候剤、帯電防止剤、糸摩擦低減剤、離型剤、抗酸化剤、イオン交換剤あるいは着色顔料等として無機微粒子、例えば酸化チタン、炭酸カルシウム、クレー、ベントナイト、珪藻土、マイカ、セリサイト、タルクなどが挙げられ、更に有機化合物を必要に応じて添加してもよい。
【0018】
特に、一般的にポリ乳酸繊維は耐摩耗性が劣るために、各種の工程において設置されている糸道ガイド、ニードル、カード、ローラー、ヒーター、ピンなどの接触部において剥離・削れ・フィブリル化などが発生して、工程通過性を悪化させる懸念がある。そこで、糸摩擦を低減させることによりこれらの問題を回避することが好ましい。ポリ乳酸に添加される糸摩擦低減剤としては、熱に対して安定であり、ポリ乳酸のOH末端基またはCOOH末端基に反応しない物質であり、かつ糸摩擦を低減させるものであれば何ら制限はないが、脂肪酸アミド及び/又は脂肪酸エステルが好適に用いられる。また、これら化合物の中でも、脂肪酸ビスアミドやアルキル置換型の脂肪酸モノアミドを用いることが好ましい。脂肪酸ビスアミドやアルキル置換型の脂肪酸モノアミドは、一般の脂肪酸モノアミドに比べてアミドの反応性が低いために溶融成形時においてポリ乳酸との反応が起こり難く、さらに高分子量のものが多いために耐熱性が高く、溶融成形で昇華しにくいため滑剤としての機能を損なうことなく、繊維とした場合に優れた滑り性を発揮する。
【0019】
本発明で好ましく用いられる脂肪酸アミドとしては、例えば、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘニン酸アミド、メチロールステアリン酸アミド、メチロールベヘニン酸アミド、ジメチトール油アミド、ジマチルラウリン酸アミド、ジメチルステアリン酸アミド、飽和脂肪酸ビスアミド、不飽和脂肪酸ビスアミド、芳香族系ビスアミド等の1分子中にアミド結合を2つ有する化合物を指し、例えば、メチレンビスカプリル酸アミド、メチレンビスカプリン酸アミド、メチレンビスラウリン酸アミド、メチレンビスミリスチン酸アミド、メチレンビスパルミチン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスイソステアリン酸アミド、メチレンビスベヘニン酸アミド、メチレンビスオレイン酸アミド、メチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスカプリル酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスミリスチン酸アミド、エチレンビスパルミチン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、エチレンビスベヘニン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、ブチレンビスステアリン酸アミド、ブチレンビスベヘニン酸アミド、ブチレンビスオレイン酸アミド、ブチレンビスエルカ酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘニン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスエルカ酸アミド、m−キシリレンビスステアリン酸アミド、m−キシリレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、p−キシリレンビスステアリン酸アミド、p−フェニレンビスステアリン酸アミド、p−フェニレンビスステアリン酸アミド、N,N’−ジステアリルアジピン酸アミド、N,N’−ジステアリルセバシン酸アミド、N,N’−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N’−ジオレイルセバシン酸アミド、N,N’−ジステアリルイソフタル酸アミド、N,N’−ジステアリルテレフタル酸アミド、メチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、ブチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド等が挙げられる。
【0020】
また、本発明で好ましく用いられるアルキル置換型の脂肪酸モノアミドとは、飽和脂肪酸モノアミドや不飽和脂肪酸モノアミド等のアミド水素をアルキル基で置き換えた構造の化合物を指し、例えば、N−ラウリルラウリン酸アミド、N−パルミチルパルミチン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−ベヘニルベヘニン酸アミド、N−オレイルオレイン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド、N−オレイルステアリン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、N−オレイルパルミチン酸アミド等が挙げられる。該アルキル基は、その構造中にヒドロキシル基等の置換基が導入されていても良く、例えば、メチロールステアリン酸アミド、メチロールベヘニン酸アミド、N−ステアリル−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、N−オレイル12ヒドロキシステアリン酸アミド等も本発明のアルキル置換型の脂肪酸モノアミドに含むものとする。
【0021】
更に、本発明で好ましく用いられる脂肪酸エステルとは、例えば、ラウリン酸セチルエステル、ラウリン酸フェナシルエステル、ミリスチン酸セチルエステル、ミリスチン酸フェナシルエステル、パルミチン酸イソプロピリデンエステル、パルミチン酸ドデシルエステル、パルミチン酸テトラドデシルエステル、パルミチン酸ペンタデシルエステル、パルミチン酸オクタデシルエステル、パルミチン酸セチルエステル、パルミチン酸フェニルエステル、パルミチン酸フェナシルエステル、ステアリン酸セチルエステル、ベヘニン酸エチルエステル等の脂肪族モノカルボン酸エステル類;モノラウリン酸グリコール、モノパルミチン酸グリコール、モノステアリン酸グリコール等のエチレングリコールのモノエステル類、ジラウリン酸グリコール、ジパルミチン酸グリコール、ジステアリン酸グリコール等のグリコールのジエステル類、;モノラウリン酸グリセリンエステル、モノミスチリン酸グリセリンエステル、モノパルミチン酸グリセリンエステル、モノステアリン酸グリセリンエステル等のグリセリンのモノエステル類;ジラウリン酸グリセリンエステル、ジミスチリン酸グリセリンエステル、ジパルミチン酸グリセリンエステル、ジステアリン酸グリセリンエステル等のグリセリンのジエステル類;トリラウリン酸グリセリンエステル、トリミスチリン酸グリセリンエステル、トリパルミチン酸グリセリンエステル、トリステアリン酸グリセリンエステル、パルミトジオレイン、パルミトジステアリンおよびオレオジステアリン等のグリセリンのトリエステル類等が挙げられる。
【0022】
これら脂肪酸アミドおよび/または脂肪酸エステルの中でも、脂肪酸ビスアミドは、アミドの反応性がさらに低いため、より好ましく用いることができ、エチレンビスステアリン酸アミドを用いることが、さらに好ましい。
【0023】
また、上述した脂肪酸アミドおよび/または脂肪酸エステルは、樹脂A、樹脂Bのどちらに含まれていても良いが、繊維表面を形成する樹脂に含まれていることが好ましい。また、その添加量は0.001〜2.0重量%であれば、繊維表面摩擦の低減効果が十分に発揮されるため好ましい。添加量が2.0重量%以下であれば、紡糸性を良好に保つことが可能となり、また0.001重量%以上の添加量であれば、繊維表面摩擦の低減効果が十分に発揮される。このことから添加量は0.05〜1.0重量%であると更に好ましい。
【0024】
着色顔料としてはカーボンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄などの無機顔料の他、シアニン系、スチレン系、フタロシアイン系、アンスラキノン系、ペリノン系、イソインドリノン系、キノフタロン系、キノクリドン系、チオインディゴ系などの有機顔料等を使用することができる。また、炭酸カルシウムやシリカなどの改質剤も使用することができる。
【0025】
本発明で得られる繊維を、220℃にて2分間加圧熱処理を行った後の溶液比粘度(ηr2)が、熱処理前の繊維の溶液比粘度(ηr1)に対して、1.05〜4倍となることが重要である。一般に高分子の分子量を推測する目安として溶液比粘度が用いられるが、該パラメータは値が大きいほど高い分子量であることを示す。つまり、本願発明の繊維は、上記の様に樹脂が溶融する温度で熱処理を施すことにより、架橋若しくは鎖連結が進行して繊維構成樹脂の分子量が増大する様に設計されているのである。この様に設計された繊維は従来なかったものであり、後述する方法により初めて達成されるものである。なお、このような繊維設計により、溶融紡糸では分子量の上昇が抑制されるために曳糸性が高く生産性が良好であり、後の熱処理により自在に分子量を高めることができる。なお、本発明で用いられるポリ乳酸をそのまま繊維化した場合は、通常加熱処理によって容易に熱分解が進行するため、加熱後のηrも減少する。しかしながら、本発明の繊維では後述する薬剤Cの拡散・反応の効果によって、熱処理後にηrが上昇する。すなわち高分子量化により最終製品の耐久性を飛躍的に高めることが可能となるのである。このことから、加圧熱処理後のηrが1.05〜4倍の範囲であると、得られた成形品に対して十分な柔軟性と耐久性を付与することが可能となり、かつポリ乳酸の特徴である生分解性を損なうこともない。更に言えば、ηr2/ηr1は1.10〜3.5倍であることが好ましく、1.20〜2.5倍であることが最も好ましい。つまり、本発明における樹脂Aと樹脂Bおよび薬剤Cのそれぞれを最適化することで上記要件は達成され、かつ上記要件は得られる最終製品の耐久性を評価する一手法となる。
【0026】
本発明における樹脂Aと樹脂Bの融点差は20℃未満であることが好ましい。融点差が20℃未満であると樹脂Aまたは樹脂Bの熱分解を抑制できる条件で溶融、製糸が可能となり、安定した繊維の製造を行うことが可能となる。また、得られた繊維を熱圧成形する際に、加熱された繊維が速やかに溶融するため、他の素材と複合した場合に溶融した繊維が効率よく充填され、更には薬剤Cが十分に溶融体中に拡散でき、成形品の強度を高めることが可能となる。融点差は好ましくは15℃未満、12℃未満であると最も好ましい。また、本発明における樹脂Aと樹脂Bの融点は、130℃以上であると、得られる繊維の取り扱い性に優れ、更に得られる成形体の耐熱性も向上するため好ましい。樹脂Aと樹脂Bの融点は好ましくはそれぞれ150℃以上である。
【0027】
本発明において用いられるポリ乳酸樹脂に添加されるCOOH末端基反応性および/またはOH末端基反応性の薬剤は、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、アジリジン化合物のほか、グリシジル基、酸無水物基、イミド基、イソシアナート基などの架橋性官能基を2以上有するものが好ましく用いられる。またアジリジン化合物のような架橋性を持つ環状化合物であっても脂肪族ポリエステル樹脂の末端を十分に架橋させることが可能であるため好ましい。更に、上記した官能基を2以上有する化合物は、重量平均分子量で500〜30000の分子量を持つものであると、溶融成形時の耐熱性に優れるため好ましい。また、これらの官能基を有する化合物は、重合体の主鎖に対してグラフトされた共重合体であると、1分子の中に多数の官能基を導入することが可能となる事に加え、一般に融点等の熱的性質も安定となるため、取り扱い性にも優れるため好ましい。この官能基がグラフトされる重合体は任意に選択することが可能であるが、合成のし易さからポリエステル系重合体、ポリアクリレート、ポリメチルメタアクリレート、ポリ(アルキル)メタアクリレートなどのアクリレート系重合体、ポリスチレン系重合体、ポリオレフィン系重合体などの群から適宜選択することができる。
【0028】
本発明に用いることのできる薬剤のうちオキサゾリン化合物の例としては、多官能であることが架橋性の点から重要であり、このためオキサゾリンの環を一分子内に複数個有する化合物が選択される。また、アジリジン化合物、オキサジン化合物についても同様に、一分子内に複数個の環を有する化合物を選択することが、架橋性の点から好ましい。さらに、これらの化合物は、例えば主鎖に対してグラフト共重合された化合物のように、分子量が500〜30000の範囲となるように合成されたものが、耐熱性・取り扱い性の点から好ましく用いられる。
【0029】
本発明に用いることのできる薬剤のうちカルボジイミド化合物の例としては、多官能であることが架橋性の点から重要であり、このためカルボジイミド基を分子中に複数含有するものであると良い。また、カルボジイミド基を持つ化合物をカルボジイミド基の活性を失わないように重合したポリカルボジイミド化合物であると、溶融時の熱安定性が増すことや、取り扱い性に優れることから好ましい。
【0030】
本発明に用いることのできる薬剤のうちグリシジル基を有する化合物は、2つ以上のグリシジル基を持つものであれば特に限定されることはないが、溶融時の熱安定性、反応性のバランスから、グリシジル基を持つ化合物をモノマー単位とした重合体や、主鎖となる重合体に対して、グリシジル基がグラフト共重合されている化合物、更にはポリエーテルユニットの末端にグリシジル基を有するものであると好ましい。
更に、上述したグリシジル基を持つモノマー単位としては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタアクリレートなどが挙げられる。また、これらモノマー単位の他に、長鎖アルキルアクリレートなどを共重合して、グリシジル基の反応性を制御することもできる。更に、グリシジル基を持つ化合物をモノマー単位とした重合体や、主鎖となる重合体の平均分子量は500〜50000の範囲であると高濃度添加を行った際の溶融粘度上昇を抑制することができ、また薬剤の耐熱性を確保できるため、好ましいのである。重量平均分子量は1000〜30000の範囲であるとより好ましく、2000〜20000の範囲であれば最も好ましい。
【0031】
更に、上記グリシジル基を有する化合物の架橋反応を促進する目的で、カルボン酸の金属塩、特に金属をアルカリ金属、アルカリ土類金属とした触媒を添加することもできる。使用するカルボン酸は特に限定されるものではないが、本発明で用いられるポリ乳酸に該触媒を添加する場合には、乳酸ナトリウム、乳酸カルシウム、乳酸マグネシウムなどの乳酸をベースとした触媒を用いることが好ましい。もしくは、触媒添加による樹脂の耐熱性低下を防止する目的で、ステアリン酸金属塩などの比較的分子量の大きな触媒を単独または併用することもできる。また、該触媒は薬剤Cを実質的に含有していない樹脂Bに対して添加することで、溶融紡糸時のグリシジルの反応を制御することが可能となるため好ましい。該触媒の添加量は、繊維に対して0.001〜0.5重量%の範囲であることが、分散性を良好な状態に保つこと、反応性を制御することから好ましい。触媒の添加量は、好ましくは0.001〜0.3重量%である。
【0032】
また、該触媒を添加する方法は特に限定されるものではないが、重合工程でポリ乳酸樹脂中に触媒を事前添加する方法や、溶融紡糸前に樹脂B中に混練または樹脂Bと混合した後に繊維化する方法が、触媒を均一に添加できるため好ましい。または、該触媒は繊維用油剤に対して溶解させて、溶融紡糸工程や延伸工程など、任意の段階で水溶液として添加することもできる。
【0033】
樹脂Aに添加される架橋性を持つ薬剤Cの添加量は、基材となるポリ乳酸樹脂のCOOH末端基濃度および/またはOH末端基濃度に対して、その全量を反応させる理論添加量の5倍以上を添加することが好ましい。本発明の薬剤Cを樹脂Aに対して添加していくと、通常は添加量に対して架橋が進行するため、溶融粘度もそれに従って上昇する。しかしながら、本発明者は鋭意検討を重ね、薬剤Cを理論添加量の5倍量以上添加した場合には、架橋反応が停止して、溶融粘度の上昇が止まり、更には減少に転じることを発見した。この原理は定かではないが、一つの要因として架橋剤となる薬剤Cの濃度がある一定範囲を超えると、ポリ乳酸のCOOH末端基および/またはOH末端基に速やかに反応し、架橋構造をほとんど形成しない状態で反応が停止することが考えられる。薬剤Cの濃度を高くすることに特に制限はないが、薬剤Cは脂肪族ポリエステルに対して耐熱性が劣る場合が多く、溶融紡糸段階で揮発、昇華などが発生して製造装置を汚したり、作業環境を悪化させる場合がある。このため、薬剤Cの添加量は最大で50倍までとすることが好ましい。薬剤Cの添加量は、理論添加量に対して7〜40倍であることが好ましく、10〜40倍であると最も好ましい。なお、本発明で言う理論添加量とは、COOH末端基またはOH末端基のどちらか一方を完全に反応させるために必要な薬剤Cの量の事を言う。すなわち、ポリ乳酸樹脂中のCOOH末端基濃度をA、OH末端基濃度をBとした場合、COOH末端基に対する薬剤Cの理論添加量はAのみから算出される値となり、一方OH末端基に対する薬剤Cの理論添加量はBのみから算出される。特にポリ乳酸樹脂の場合には、AとBは実質的に同一の値であり、本発明においては特に断らない限りCOOH末端基濃度をベースとして算出した理論添加量を用いる。
また、本発明の繊維においては、薬剤Cが繊維全体に含有される末端基と全て反応する理論添加量の7倍以下の量が含有されるように樹脂Aと樹脂Bの複合比を調節することが好ましい。これはすなわち、樹脂Aと樹脂Bが複合されてなる繊維全体のCOOH末端基濃度またはOH末端基濃度に対して、薬剤Cはこの末端基に対して反応する理論添加量の7倍以下とすることを示す。未反応の薬剤Cが繊維中に多量に存在した場合、加圧熱処理時や溶融成形時に架橋反応や鎖連結反応が進行する前にCOOH末端基を封鎖してしまうことから、加圧熱処理後に高分子量化することが困難となる。また、薬剤Cの添加量が7倍以下であると、得られる成形体の分子量を十分に高めることが可能となるとともに、未反応の薬剤Cの成形体からのブリードアウトをを抑制することもできる。また、本発明の目的から、得られた繊維を用いた成形体の架橋構造を充分に形成させるため、上記した薬剤Cの添加量は1.1倍以上であることが好ましい。薬剤Cの添加量はより好ましくは1.2倍以上、5倍以下であり、更に好ましくは1.3倍以上、4倍以下の範囲である。このことから本発明の繊維については特に樹脂Aと樹脂Bの複合比の限定はなされないが、薬剤Cの樹脂A中の添加量と、製造のし易さから任意の複合比を選択できる。樹脂Aは一般的に曳糸性が低いことが多く、また未反応の薬剤Cを多量に含有しているため粘着性が高い。このことから、曳糸性や工程通過性を確保するためには、複合比を樹脂A/樹脂B=2/98〜60/40の範囲とすることが好ましく、5/95〜40/60の範囲とすることがより好ましい。
【0034】
本発明の繊維は、薬剤Cを含有する樹脂Aと、実質的に含有しない樹脂Bとが複合構造をとる。樹脂Aの溶融粘度は十分に溶融紡糸に耐えられるものであるが、薬剤Cの架橋効果により曳糸性が低い場合が多いため、樹脂Bを各単繊維レベルで複合することで製糸安定性を付与することが好ましい。複合形態は特に限定されないが、芯鞘型複合、分割型複合などであると、製糸安定性の面から製造が容易になるため好ましい。ただし、これら複合形態の中でも、芯鞘型複合が製糸安定性の面からより好ましい。芯鞘型複合は、多芯型複合、偏芯型複合、また複合の芯が繊維表面に露出する形態等が挙げられるが、口金から吐出された繊維が曲がってしまったり、樹脂A中の薬剤Cが紡糸時にブリードアウトしてしまうことから、芯部中央に樹脂Aが配され樹脂Bが樹脂Aを完全に覆う、最も単純な芯鞘型複合の形態が好ましい。中でも、芯鞘型複合の芯部に樹脂Aを複合した形態とすることで、溶融成形での加圧熱処理で芯部に配された樹脂Aが樹脂B中に速やかに拡散し、樹脂Aおよび樹脂Bを十分に架橋することが可能となり好ましい。加えて、溶融成形時に未反応の薬剤Cがブリードアウトすることも防止できるのである。
【0035】
本発明の繊維は、その断面形状は任意に選択することができるが、丸断面、多葉断面、扁平断面、中空断面など、公知の繊維断面形状を採用することができる。なかでも、丸断面が曳糸性を確保する点から好ましい。
【0036】
本発明の繊維は、樹脂Aと樹脂Bを複合して溶融紡糸する方法であれば、公知のいかなる方法をもって製造してもよい。更に樹脂Aおよび樹脂Bは溶融紡糸前に乾燥を行っておくと、溶融紡糸時の熱分解や加水分解を抑制することが可能となることから製糸安定性が向上するため好ましい。乾燥温度は樹脂Aまたは樹脂Bが融着しない温度で行うことが好ましいが、特にTg以上Tm−20℃以下の温度にて乾燥を行うことが好ましい。樹脂Aまたは樹脂Bを乾燥する場合には、具体的には70〜120℃の温度で乾燥すると、融着がなく、また樹脂中の水分、オリゴマー等を十分に除去することができるため好ましい。また乾燥の際には窒素雰囲気にて乾燥を行うと、ポリマーの酸化を抑制できるため好ましく、また別の方法として真空ポンプなどで乾燥雰囲気を減圧しておくと、ポリマーの酸化を抑制できるのみならず、乾燥効率が高まるため好ましい。
【0037】
また、溶融紡糸された本発明の繊維には、公知の繊維用油剤を付与することが好ましい。特に、繊維製品を製造する工程を安定して通過させるため、繊維表面の摩擦係数を低減させることが好ましく、繊維用油剤としては脂肪酸エステルを主体とする油剤が好ましく用いられる。繊維用油剤に配合される脂肪酸エステルの割合は、50重量%以上であると繊維表面の摩擦係数を低減させる効果が発揮できるため好ましい。また、繊維用油剤中には繊維表面の摩擦係数を低減させる効果を損なわない範囲で、集束性や帯電防止のため、その他の帯電防止剤や乳化剤、鉱物油などの添加物を含有することも好ましい。また、繊維用油剤はそのまま繊維に付与しても良いが、取り扱い性に優れる水系エマルジョンとして付与することもできる。水系エマルジョンとする場合には、繊維用油剤の成分を5〜50重量%の範囲となる濃度に調整することで、繊維表面に油剤を均一に付着させることが可能となる。更に、繊維用油剤は溶融紡糸工程、延伸工程、捲縮工程など、繊維製造工程の如何なる時期にも付与することが可能であるが、特に溶融紡糸工程で付与する場合には、溶融紡糸繊維が冷却された後に付与することが好ましい。繊維用油剤は、繊維に対して純分で0.3〜2重量%付着するように付与させることが好ましい。前記した範囲で繊維用油剤を付着させることで、繊維表面の摩擦係数を十分に低減させることが可能となり、また後工程で繊維用油剤が脱落して工程中を汚染することも防止できるのである。このことから、繊維用油剤は純分で0.5〜1.5重量%付着させてあれば、より好ましい。
【0038】
本発明の繊維は長繊維でも短繊維でも良いが、最終的な用途に合わせて適宜選択することが好ましい。長繊維が好ましい例としては、織物、編物などの構造物を作成して使用する場合が一般的である。また、短繊維が好ましい例としては、紡績糸、紐、不織布、詰め綿、複合材料のバインダー繊維などが挙げられる。短繊維の場合には、そのカット長を2〜100mmの範囲とすることで取り扱い姓に優れたものとすることが可能となるため、より好ましい。また単糸繊度は任意の太さとすることができるが、製造のし易さから0.1〜1000dtexの範囲で適宜決定すれば良い。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の繊維を得るための具体的な方法を記述する。なお、本実施例中にて測定した各種物性値の測定方法を以下に記載した。
A.ポリ乳酸の重量平均分子量および分散度
試料のクロロホルム溶液にTHFを混合し測定溶液とした。これをGPCで測定し、ポリスチレン換算で重量平均分子量を求めた。
B.ポリ乳酸の融点
パーキンエルマー社製示差走査型熱量計DSC−7型を用い、試料20mgを昇温速度 16℃/分にて測定して得た融解吸熱曲線の極値を与える温度を融点(℃)とした。
C.溶液比粘度(ηr)
試料樹脂を0.10g精秤し、オルソクロロフェノール10mlに100℃環境下にて30分間かけて溶解し、オストワルド粘度計にて溶媒のみの流下時間T0 とサンプル溶液の流下時間T1を求め、T1/T0から溶液比粘度(ηr)を求めた。
D.ラクチド量
試料を1±0.001gを精秤し、ジクロロメタン20mlを加えて超音波溶解させる。その後、アセトンを5ml添加し、シクロヘキサンを用いて50ml定容とし、更に超音 波溶解させる。その後上澄み液20μlをGC分析装置に注入し、得られたチャートより、予め求めておいた検量線からラクチド量を求めた。
E.COOH末端基濃度
精秤した試料をo−クレゾール(水分5%)に溶解し、この溶液にジクロロメタンを適量添加した後、0.02規定のKOHメタノール溶液にて滴定することにより求めた。この時、乳酸の環状2量体であるラクチド等のオリゴマーが加水分解し、COOH末端基を生じるため、ポリマーのCOOH末端基およびモノマー由来のCOOH末端基、オリゴマー由来のCOOH末端基の全てを合計したCOOH末端基濃度が求まる。
F.繊度
繊維を一定長測り取り、その重量Wと長さLを測定し、10000m当たりの繊維重 量を求め、繊度(dtex)とした。
G.強度・伸度
初期試料長200mm、引っ張り速度200mm/分とし、JIS L1013(1999)に示される条件で荷重−伸長曲線を求めた。次に、破断時の荷重値を初期の繊度で割り、それを強度とし、破断時の伸びを初期試料長で割り伸度として強伸度曲線を求め、最大点の強度を繊維強度とした。
H.耐久性試験
試料の繊維を5g秤量し、厚さ1mmのステンレス板に、幅5cm、長さ5cmの穴をあけたものを準備し、試料を挟み込んだのち、220℃、1.5MPa、2分間の条件で加圧熱処理を行い、フィルムを得た。得られたフィルムを、50℃×90%RHの条件で2000時間おいた後の処理前後におけるηrの変化(ηr保持率)を耐久性の指標とし、80%以上のηr保持率が得られたものを合格とした。
【0040】
ηr保持率(%)=(処理後ηr)/(処理前ηr)×100
実施例1
L−乳酸を出発物質として従来既知の方法にて、重量平均分子量15万、ηr3.15、COOH末端基濃度が25当量/t、融点170℃のポリL乳酸P1を合成した。薬剤Cとして、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(平均分子量500)を用いた。薬剤Cのポリ乳酸P1に存在するCOOH末端基濃度全量を反応させる理論反応量は0.625重量%であった。この薬剤Cを、ポリ乳酸P1に対して10重量%の割合で混練温度を200℃とした2軸混練機を用いて溶融混練し、樹脂Aを得た。得られた樹脂Aのηrは3.20であり、僅かな溶液粘度上昇を示したが、十分に紡糸に供給できる溶液粘度を示していた。また、樹脂Bはポリ乳酸P1をそのまま使用した。樹脂Aと樹脂Bを通常公知の紡糸機を用いて、溶融温度および紡糸温度をそれぞれ220℃として、樹脂Aおよび樹脂Bを別々に溶融・計量・濾過し、口金内において樹脂Aを芯部、樹脂Bを鞘部として複合・吐出し、冷却した後に15重量%濃度に調製された紡糸油剤(脂肪酸エステルを60重量%含有)を油剤成分が繊維に対して純分で1重量%添加されるように給油し、紡糸速度1000m/分にて300dtex−24Fの繊維を得た。樹脂Aと樹脂Bの複合割合は重量比で樹脂A/樹脂B=10/90とした。得られた繊維を1HR温度80℃、2HR温度130℃とした4ローラー系の延伸機にて、1HRと2HRの間で延伸倍率2.7倍、延伸速度800m/分にて延伸し、111dtex−24Fの延伸糸を得た。得られた延伸糸は強度4cN/dtex、伸度43%、ηrは3.2であり、優れた物性値を示していた。この延伸糸を100000dtexとなるように引き揃え、トウとした後にカット長55mmの短繊維とした。更に、この短繊維を5g秤量してステンレス板に挟み込んだ後、プレス温度220℃、プレス圧力1.5MPaの加熱プレス機にて、2分間プレス加工を行い、厚み1mmのフィルム状サンプルを得た。得られたフィルム状サンプルのηrは5.8であり、高度に架橋反応が進行した、耐久性に優れるものであった。耐久性評価として、該フィルムサンプルを50℃、90%RHの環境下に2000時間置き、再度ηrを測定したところ5.5であり、実際に優れた耐久性を示すことが確認できた。
【0041】
実施例2
樹脂A中の薬剤Cの添加量を5重量%とした以外は実施例1と同様にして111dtex−24Fの延伸糸を得た。このとき、樹脂Aのηrは3.7であり、若干溶液粘度が上昇していたが、紡糸は問題なく行なうことが可能であった。また、実施例1と同様に加圧熱処理を行なった後のフィルムについて、ηrを測定したところ4.6であり、充分に架橋が進行した耐久性に優れるものであった。また、耐久性試験後のサンプルについてηrを測定したところ4.4であり、良好な耐久性を示していた。
【0042】
実施例3
樹脂A中の薬剤Cの添加量を20重量%とした以外は実施例1と同様にして111dtex−24Fの延伸糸を得た。このとき、若干ではあるが紡糸時に薬剤Cがブリードアウトして拡散する現象が確認されたものの、問題なく紡糸および巻取りが完了した。また、実施例1と同様に加圧熱処理を行なった後のフィルムについて、ηrを測定したところ3.8であり、充分に架橋が進行した耐久性に優れるものであった。また、耐久性試験後のサンプルについてηrを測定したところ3.7であり、良好な耐久性を示していた。
【0043】
比較例1
樹脂Aを樹脂Bに置き換えて紡糸を行なった以外は実施例1と同様の方法で延伸糸および短繊維のサンプルを得た。加圧熱処理を行なったフィルムについてηrを測定したところ、2.8まで低下しており、耐久性に劣るものであった。また、耐久性試験を行なったところ、ηrは2.0まで低下しており、実使用には耐えられるものが得られなかった。
【0044】
比較例2
樹脂A中の薬剤Cの添加量を2.5重量%として実施例1と同様に樹脂Aを製造すべく混練を行なったが、得られた樹脂Aの分子量が高すぎるために混練時のストランドが安定せず、ペレットが得られず、繊維サンプルを製造することができなかった。
【0045】
比較例3
樹脂A中の薬剤Cの添加量を40重量%として実施例1と同様に樹脂Aを製造すべく混練を行った。薬剤Cの添加量が多すぎたため、混練中のストランドが安定せず、樹脂Aのペレットを得ることができなかったため、繊維サンプルを製造できなかった。
【0046】
比較例4
樹脂Bを樹脂Aに置き換えた以外は実施例1と同様の方法で111dtex−24Fの延伸糸を得た。得られた繊維のηrは3.3であった。このサンプルを実施例1と同様の方法でフィルムを作成したところ、ηrは3.3と変化しておらず、耐久性向上は認められなかった。
【0047】
【表1】

【0048】
実施例4
薬剤Cをグリシジルメタクリレートとアルキルメタクリレートを構成単位としたポリアクリレート化合物(アルキル鎖の炭素数は10〜12)とした(平均分子量15000、末端基1当量あたりの理論薬剤量0.036重量%、ポリ乳酸P1に対する理論反応量0.9重量%)以外は実施例1と同様の方法で繊維およびフィルムサンプルを製造した。得られた繊維の物性値は表2に示すが、樹脂Aの混練における粘度上昇も僅かであり、問題なく製糸可能であった。また、得られたフィルムサンプルは十分に架橋した構造を持つ、耐久性に優れた物であり、実際に耐久性試験を行ったところ優れた結果となった。
【0049】
実施例5
樹脂A中の薬剤Cの添加量を20重量%とした以外は実施例4と同様の方法で繊維およびフィルムサンプルを得た。得られた繊維の物性値は表2に示すが、樹脂Aの混練における粘度上昇も僅かであり、問題なく製糸可能であった。また、得られたフィルムサンプルは高度に架橋した構造を持つ、耐久性に優れた物であり、実際に耐久性試験を行ったところ優れた結果となった。
【0050】
実施例6
薬剤Cをポリカルボジイミド化合物(カルボジイミド等量8、平均分子量2000、末端基1当量当たりの理論薬剤量0.028重量%、ポリ乳酸P1に対する理論反応量0.7重量%)を用いた以外は、実施例1と同様の方法にて繊維およびフィルムサンプルを製造した。得られた繊維の物性値は表2に示すが、樹脂Aの混練における粘度上昇も僅かであり、問題なく製糸可能であった。また、得られたフィルムサンプルは実用上十分に架橋した構造を持つ、良好な耐久性を示した。更に耐久性試験結果は良好であった。
【0051】
実施例7
薬剤Cをポリグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製デナコールEX−521、平均分子量750、末端基1当量当たりの理論薬剤量0.015重量%、ポリ乳酸P1に対する理論反応量0.375重量%)とした以外は実施例1と同様の方法で繊維およびフィルムサンプルを製造した。得られた繊維の物性値は表2に示すが、樹脂Aの混練における粘度上昇も僅かであり、問題なく製糸可能であった。また、得られたフィルムサンプルは十分に架橋した構造を持つ、耐久性に優れた物であり、実際に耐久性試験を行ったところ優れた結果となった。
【0052】
【表2】

【0053】
実施例8
樹脂Aと樹脂Bの複合割合を樹脂A/樹脂B=20/80とした以外は実施例1と同様の方法で繊維およびフィルムサンプルを製造した。紡糸時に薬剤Cが若干ブリードアウトしたものの、問題なく紡糸可能であった。また、得られたフィルムサンプルは高度に架橋した構造を持つ、耐久性に優れたものであり、耐久性試験結果も良好であった。
【0054】
実施例9
樹脂Aと樹脂Bの複合割合を樹脂A/樹脂B=7/93とした以外は実施例1と同様の方法で繊維およびフィルムサンプルを製造した。得られたフィルムサンプルは十分に架橋した構造を持つ、良好な耐久性を持つものであり、耐久性試験結果も良好であった。
【0055】
実施例10
樹脂Aと樹脂Bの複合割合を樹脂A/樹脂B=50/50とした以外は実施例1と同様の方法で繊維およびフィルムサンプルを製造した。紡糸時に薬剤Cのブリードアウトが見られたが、紡糸は可能であった。得られたフィルムサンプルは高度に架橋した構造をもっていたが、未反応の薬剤Cにより加圧熱処理時にも薬剤Cのブリードアウトが見られた。また耐久性試験を行った結果、良好な耐久性を示した。
【0056】
【表3】

【0057】
実施例11
樹脂Aを鞘部、樹脂Bを芯部に配置した以外は実施例1と同様の方法で繊維およびフィルムサンプルを製造した。紡糸時に薬剤Cのブリードアウトが発生したが、紡糸は可能であった。得られたフィルムサンプルは架橋構造を持つ耐久性良好なものであった。
【0058】
実施例12
樹脂Aと樹脂Bを分割型に張り合わせた形で複合した以外は実施例1と同様の方法で繊維およびフィルムサンプルを製造した。紡糸時に薬剤Cのブリードアウトが発生したが、紡糸は可能であった。得られたフィルムサンプルは架橋構造を持つ耐久性良好なものであった。
【0059】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の繊維について好ましく取りうる複合形態を例示した図である。
【符号の説明】
【0061】
1 樹脂A
2 樹脂B

【特許請求の範囲】
【請求項1】
220℃で2分間、圧力1.5MPaで加圧熱処理を行った後の溶液比粘度(ηr)が熱処理前の1.05〜4倍になることを特徴とするポリ乳酸繊維。
【請求項2】
COOH末端基反応性および/またはOH末端基反応性の薬剤Cが、基材となるポリ乳酸のCOOH末端基濃度および/またはOH末端基濃度に対して、その全量を反応させる理論添加量の5倍以上を添加されてなる樹脂Aと、上記薬剤Cが実質的に含有されていないポリ乳酸を主体とする樹脂Bが複合されてなり、かつ樹脂Aと樹脂Bの融点差が20℃未満であることを特徴とする請求項1記載のポリ乳酸繊維。

【図1】
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【公開番号】特開2006−214012(P2006−214012A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−25060(P2005−25060)
【出願日】平成17年2月1日(2005.2.1)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】