説明

ポリ塩化ビニル樹脂溶解液からの不溶物の除去方法

【課題】廃ポリ塩化ビニル樹脂の再生を行うにあたって、良溶媒と接触させて溶解させたポリ塩化ビニル樹脂溶解液からの不溶分の除去にあたって、ポリ塩化ビニル樹脂と良溶媒の損失を抑制し、かつ、効率よくポリ塩化ビニル樹脂の再生工程を運用する。
【解決手段】廃ポリ塩化ビニル樹脂組成物Aをポリ塩化ビニル樹脂に対する良溶媒Bと接触させてポリ塩化ビニル樹脂を溶解させたポリ塩化ビニル樹脂溶解液Cを、第1のフィルター13に導入して残留物と濾過溶解液Fとに分離し、前記第1のフィルターに付着した前記残留物を、ポリ塩化ビニル樹脂に対する良溶媒Gを用いて回収し、得られた前記残留物と前記良溶媒との混合物Hを第2のフィルター15に導入して不溶物Iと濾液Jとに分離し、この濾液Jを、前記廃ポリ塩化ビニル樹脂を溶解させる前記良溶媒として利用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、廃ポリ塩化ビニル樹脂からポリ塩化ビニル樹脂を回収する方法に関し、具体的には、廃ポリ塩化ビニル樹脂又は廃ポリ塩化ビニル樹脂を含む構造物からポリ塩化ビニル樹脂を回収し、再生してポリ塩化ビニル樹脂をリサイクルする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ塩化ビニル樹脂は、可塑剤等の配合組成及び配合量によって、軟質から硬質まで種々の物理的性質を付与することができ、種々の用途に使用されている。このようなポリ塩化ビニル樹脂製品の多くは、廃棄する際には焼却又は埋め立て等の処分がされており、従来、省エネルギーや環境問題などの社会的な問題があった。このため、使用済みの廃ポリ塩化ビニル樹脂製品から、ポリ塩化ビニル樹脂を回収して再利用することが一般的に行われている。
【0003】
その方法として、例えば、攪拌機を有した溶解槽に収容されている良溶媒に、廃ポリ塩化ビニル樹脂を投入して溶解させ、このポリ塩化ビニル樹脂を溶解したポリ塩化ビニル樹脂溶解液をろ過装置でろ過して、不溶物を除去した後、析出槽へ導入し、水を供給してポリ塩化ビニル樹脂を析出させ、析出したポリ塩化ビニル樹脂をコンベヤーなどで外部に取り出し、液切りした後、水洗し、連続的に再生ポリ塩化ビニル樹脂を得る方法が、特許文献1に記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2000−290427号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
原料となる使用済みの廃ポリ塩化ビニル樹脂製品には、異樹脂や、砂、テープ、木片、ペンキ、金属片などが含まれていることがあり、また、ゴム成分が含まれた強化ポリ塩化ビニル樹脂は、ゴム部分が完全溶解せず、膨潤した不均一なポリマーが存在する場合がある。これらの不溶分が再生ポリ塩化ビニル樹脂に含まれていると、製品強度の低下や、外観の悪化などを起こしてしまう。
【0006】
しかし、ろ過により不溶物を除去しようとすると、ろ過工程の負荷が非常に高い。その原因として特許文献1に記載の方法でのポリ塩化ビニル樹脂溶解液の粘度は、溶解しているポリ塩化ビニル樹脂の濃度や温度により異なるものの通常は数百から数千cPの粘度を有している。一方で、大きな異樹脂や木片、金属片などの大きなゴミを予め金網などで除去したあと、細かい異物を除去するためのフィルターとして、目開き数十μmのフィルターを用いる必要がある。このようなフィルターに粘度の高い溶液を通すと、濾過量が小さくなり、かつ短期間で閉塞する傾向を持つために、フィルターの再生頻度が高くなってしまっていた。
【0007】
ろ過負荷が高い2つめの原因として、元来ポリ塩化ビニル樹脂中に含まれている、ステアリン酸鉛、三塩基性硫酸鉛などの熱安定剤、炭酸カルシウム、酸化チタンなどのフィラー、調色材などがある。これらはたとえフィルター目開き径よりも小さい径の粒子であってもフィルター内に吸着し、閉塞を引き起こす原因となっている。また、その時点でフィルターに付着した残留物は十分なケーキ厚みになっていないために、直接固形物として系外に排出することは事実上不可能である。また、仮にケーキの一部を排出できたとしても、ケーキに同伴する高粘度、すなわち高濃度のポリ塩化ビニル樹脂と良溶媒とをも一緒に除去してしまうため、経済的損失が大きくなっていた。
【0008】
そこで本発明は、廃ポリ塩化ビニル樹脂製品の再生を行うにあたって、良溶媒と接触させて溶解したポリ塩化ビニル樹脂溶解液からの不溶分の除去において、ポリ塩化ビニル樹脂と良溶媒の損失を抑制し、かつ、効率よくポリ塩化ビニル樹脂の再生工程を運用することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、廃ポリ塩化ビニル樹脂組成物をポリ塩化ビニル樹脂に対する良溶媒と接触させてポリ塩化ビニル樹脂を溶解させたポリ塩化ビニル樹脂溶解液を、第1のフィルターに導入して残留物と濾過溶液とに分離し、前記第1のフィルターに付着した前記残留物を、ポリ塩化ビニル樹脂に対する良溶媒を用いて回収し、得られた前記残留物と前記良溶媒との混合物を第2のフィルターに導入して不溶物と濾液とに分離し、この濾液を、前記廃ポリ塩化ビニル樹脂を溶解させる前記良溶媒として利用することにより、上記の課題を解決したのである。
【発明の効果】
【0010】
本発明を適用するプロセスにおいては、第1フィルターの閉塞頻度は非常に高く、使い捨てのフィルターでは経済性が悪いことは明らかである。よって第1のフィルターの再生は良溶媒よる逆洗浄で繰り返し行われるため、機械的強度の観点から金属フィルターが使用されることになる。良溶媒による逆洗浄では使用した良溶媒は回収する必要があるが、この洗浄液から残留物と良溶媒を分離するために、第2のフィルターを配置する。第2のフィルターでは特に、残留物の濃縮とその後のケーキ排出が重要となる。第1のフィルターの残留物中に存在するポリ塩化ビニル樹脂溶解液はフィルター洗浄に用いた良溶媒の量に比して非常に少ないので、第2のフィルターに送る洗浄液の粘度を大幅に下げることができる。これにより、第2のフィルターでは閉塞が起こりにくくなり、不溶分の含有率を高めて蓄積させることができる。またケーキ排出の際に同伴して系外パージされるポリ塩化ビニル樹脂量を低減させることができる。低濃度のポリ塩化ビニル樹脂を含んだ第2フィルターの濾液は、まだ十分にポリ塩化ビニル樹脂を溶解させることができるので、廃ポリ塩化ビニル樹脂と接触させる良溶媒や、第1のフィルターを洗浄する洗浄溶媒として用いることで、そこに含まれているポリ塩化ビニル樹脂とともに回収することができ、ポリ塩化ビニル樹脂と良溶媒の回収率を上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明について詳細に説明する。
この発明は、廃ポリ塩化ビニル樹脂組成物を、ポリ塩化ビニルに対する良溶媒(以下「良溶媒」と呼ぶ)と接触させて前記廃ポリ塩化ビニル樹脂中のポリ塩化ビニル樹脂を溶解させたポリ塩化ビニル樹脂溶解液から、不溶物を固液分離する方法において、前記ポリ塩化ビニル樹脂溶解液を第1のフィルターに導入して残留物と濾過溶液とに分離し、前記第1のフィルターに付着した前記残留物をポリ塩化ビニル樹脂に対する第2良溶媒を用いて洗浄回収し、得られた前記残留物と前記良溶媒との混合物である洗浄液を第2のフィルターに導入して不溶物と濾液とに分離し、この濾液を、前記第1良溶媒、前記第2良溶媒、又はその両方として利用する、ポリ塩化ビニル樹脂溶解液からの不溶物の除去方法である。
【0012】
本発明におけるポリ塩化ビニルとは、塩化ビニル単独重合体だけでなく、ポリ塩化ビニルを主体とする共重合体、混合体を含み、共重合成分や混合成分としては、例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類、オクチルビニルエーテル、セチルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類、エチレン、プロピレン等のα−オレフィン類、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸アルキルエステル類、塩化ビニリデンなどのビニリデン化合物等が挙げられる。これらのうち好ましいものとしては、ポリ塩化ビニル樹脂単独重合体があげられる。
【0013】
なお、本発明において「ポリ塩化ビニル樹脂」とは、ポリ塩化ビニルからなる樹脂(コンパウンド)であって、熱安定剤、滑剤、可塑剤等のポリ塩化ビニルに対する添加剤を含有していてもよい。
【0014】
また、上記廃ポリ塩化ビニル樹脂組成物とは、ポリ塩化ビニル樹脂を含有する使用済みの製品や、ポリ塩化ビニル樹脂製品の製造工程で発生する規格外品等であって、ポリ塩化ビニル樹脂の軟質や硬質を問わない。上記ポリ塩化ビニル樹脂を含有する使用済み製品としては、ポリ塩化ビニル樹脂の単体組成の製品、あるいは金属、セラミック、紙、ポリエチレン、ポリプロピレン等との複合材等があげられ、より好ましくはポリ塩化ビニル樹脂の含有量が多い製品、たとえば、ポリ塩化ビニル樹脂製のパイプ管、パイプ継ぎ手、窓枠、電線、農ビ等があげられる。また、ポリ塩化ビニル樹脂製品の製造工程で発生する規格外品等としては、成形時不良品や、不要在庫、樹脂切断時の切り屑等があげられる。
【0015】
上記良溶媒とは、ポリ塩化ビニル樹脂を溶解しうる溶媒をいう。一方、ポリ塩化ビニル樹脂溶解液からポリ塩化ビニル樹脂を回収するために、ポリ塩化ビニルを溶解する能力の低い貧溶媒と接触させ析出させるが、この貧溶媒が、蒸留精製後リサイクルされた上記良溶媒に微量含まれると上記良溶媒のポリ塩化ビニル樹脂溶解度を著しく下げてしまう。実際のプロセスでの蒸留分離ではこの微量の貧溶媒の混入は不可避であるため、上記良溶媒としては上記貧溶媒の混入によっても十分にポリ塩化ビニル樹脂を溶解しうる溶解力のある溶媒を使用することが好ましい。
【0016】
上記良溶媒としては、具体的には、N−メチルピロリドン、γ−ブチルラクトン、メチルエチルケトン、2−ピロリドン等が挙げられ、これらの混合溶媒であってもよい。これらの中でも特に、N−メチルピロリドンを用いると、上記理由により好ましい。
【0017】
以上を前提として、この発明にかかる不溶物の除去方法の手順を、図1を用いて説明する。
【0018】
まず、上記の廃ポリ塩化ビニル樹脂組成物Aと上記良溶媒である第1良溶媒Bとを、攪拌機を有した溶解槽11に投入して接触させる。このときの、廃ポリ塩化ビニル樹脂組成物Aを第1良溶媒Bと接触させる時の温度は、室温以上70℃以下が好ましく、より好ましくは30℃から60℃である。70℃以上であると、熱劣化が顕著になるので好ましくない。一方で室温未満では溶解速度に悪影響があり、また10℃以下は冷却設備が必要となり経済的に不利であるため、意図的に低温にするメリットは無く、通常、室温以上で行うことが好ましい。
【0019】
また、廃ポリ塩化ビニル樹脂組成物Aと第1良溶媒Bとの接触時間は、上記の温度範囲でも、8時間以内が好ましく、より好ましくは2時間以内である。
【0020】
さらに、溶解時間を短縮する目的で、必要に応じて廃ポリ塩化ビニル樹脂組成物Aを予め細粉砕するとより好ましい。破砕のサイズは小さいほうが好ましいが、通常、経済性から0.5cm以上5cm以下で行うことが好ましく、より好ましくは、1cm以上3cm以下である。
【0021】
また、溶解工程での熱劣化を抑制するために、必要に応じて、熱安定剤を溶解液に追加することができる。
【0022】
廃ポリ塩化ビニル樹脂組成物A中のポリ塩化ビニル樹脂を第1良溶媒Bに溶解して得られるポリ塩化ビニル樹脂溶解液C中のポリ塩化ビニル樹脂の濃度は操作における所定の液温度で、遠心ポンプ、ギヤポンプ、プランジャーポンプ、ダイヤフラムポンプ、モーノポンプなどで送液できる粘度、具体的には、好ましくは2000cP以下、より好ましくは1000cP以下となるようにポリ塩化ビニル樹脂濃度を調整することが好ましい。一方で、10cP未満となることはポリ塩化ビニルが希薄であることを意味し経済的観点から現実的ではなく、通常10cP以上である。
【0023】
廃ポリ塩化ビニル樹脂組成物Aに含まれるポリ塩化ビニル樹脂の種類によって同濃度でも粘度は異なるが、本発明におけるポリ塩化ビニル樹脂溶解液Cの濃度は通常、5重量%以上25重量%以下であると、好ましい粘度範囲として適用可能であり、好ましくは、5重量%以上25重量%以下である。なお、この発明において上記ポリ塩化ビニル樹脂の濃度とは、材料である廃ポリ塩化ビニル樹脂組成物に含まれる可塑剤などを含めた重量に対する濃度をいう。
【0024】
このようにして得られたポリ塩化ビニル樹脂溶解液Cには、ポリオレフィンなどの異樹脂、金属片や木片、テープ、ペンキ片などの比較的大きなサイズ(ミリオーダー)の異物が含まれている場合が多い。特に廃ポリ塩化ビニル樹脂組成物Aを前洗浄や選別をしていない場合はそれらが顕著である。また溶解槽で完全に均一分散していないポリ塩化ビニル樹脂のゲル状固形物も存在する場合がある。これらが含まれたポリ塩化ビニル樹脂溶解液Cをそのまま第1のフィルター13に送ると第1のフィルター13のろ過寿命を短くすることが起こる。このため、ポリ塩化ビニル樹脂溶解液Cを第1のフィルター13に送る前に、目開きが1mm〜0.1mmの金網フィルターを有したろ過器12を通過させて、大きな不溶物Dを除去しておくと、この発明にかかる不溶物の除去方法をより安定して実行することができるためより好ましい。
【0025】
このように大きな不溶物Dを除去したポリ塩化ビニル樹脂溶解液Eを、第1のフィルター13に導入する。この第1のフィルター13の材質としては、上記良溶媒により溶解しないものであればよく、金属、ポリプロピレン、ポリエチレン、フッ素系樹脂などが好ましい。特に、上記良溶媒と接触させる逆洗浄時には、フィルター材に圧がかかるため、機械的強度のある金属フィルターが好ましい。フィルターはデプスタイプのフィルターを用いると、多段のフィルターで段階的にろ過する構成になりフィルターのろ過寿命を長くすることができる効果があり好ましい。
【0026】
本発明に適用する第1のフィルター13の目開きは、具体的には、10μm以上150μm以下が好ましく、20μm以上100μm以下であるとより好ましい。10μm以下の場合は目が細かすぎて詰まりやすく、フィルターの逆洗浄の頻度が非現実的に高くなるか、非現実的なろ過必要面積となってしまうため、好ましくない。一方で、1500μmを超えると、濾過すべきものが濾過されなくなってしまうことがある。
【0027】
この第1のフィルター13に、ポリ塩化ビニル樹脂溶解液Eを流通させるが、その速度としては、フィルターの閉塞の無い流通初期の速度もポリ塩化ビニル樹脂の溶解濃度や温度や圧力で種々変化するが、およそ200kg/h/m以上、20000kg/h/m以下の間である。その後の流速はフィルターの閉塞度合いに応じて変化する。すなわち通液量とともに流速は低下し、あるところから急激に閉塞へ向かう傾向がある。必要な平均濾過速度を決定すると、この発明にかかる不溶物の除去方法を行うにあたっての、フィルターを洗浄再生しなければならない洗浄頻度が決定される。洗浄頻度は、1時間未満であると頻度が高すぎて除去工程を度々停止することになってしまう。一方で、12時間を超えることは現実的には考えにくい。
【0028】
この第1のフィルター13へポリ塩化ビニル樹脂溶解液Eを流通させる際には、定圧濾過を行うようにすると、プロセス設計が容易であり好ましい。低圧ろ過の圧力は0.1MPa以上0.7MPa以下(いずれもゲージ圧を示す、以下同じ。)であると好ましい。0.1MPa未満であると流通速度が不十分になってしまい、一方で0.7MPaを超えるとフィルターにかかる負荷が高くなりすぎてしまうためおよび閉塞物がフィルター内で固くしまってしまい逆洗浄効率を低下させるため好ましくない。このような加圧する方法としては、窒素ガス加圧による他、遠心ポンプ、ダイヤフラムポンプなどのポンプにより加圧するものでもよい。また、このフィルター圧力の管理は差圧を測定して管理するとよい。
【0029】
この第1のフィルター13を通した濾過溶解液Fは、上記貧溶媒と接触させて、含有するポリ塩化ビニル樹脂を析出させる析出工程へ送られ、リンス工程を経て再生ポリ塩化ビニルとして利用される。
【0030】
この第1のフィルター13上に残った残留物は、微小な金属粉や砂泥などの異物やフィラーや熱安定剤などのポリ塩化ビニル樹脂添加物などが、粘度の高いポリ塩化ビニル樹脂溶解液との混合物と絡まって付着しているものである。この残留物が蓄積された第1のフィルター13に、上記良溶媒である第2良溶媒Gを導入することによって、残留物をフィルターから脱着する。具体的には、ポリ塩化ビニル樹脂溶解液Eのフィルターを通過した方向とは逆方向からより高い圧力を加えて、第2良溶媒Gにより第1のフィルター13を逆洗浄するという方法が挙げられる。
【0031】
この逆洗浄を行う時期間隔はフィルター目開きやゴミの量などで変化する閉塞の状況に依存するが、通常は完全に閉塞する前に定期的に運用する。具体的には上記の洗浄頻度の範囲で行うと好ましい。所定のろ過速度まで低下したところで逆洗浄を行なうが、運転上はフィルター入口と出口の差圧で管理することができる。
【0032】
この逆洗浄を行う際の洗浄圧は、0.1MPa以上0.7MPa以下で行うことができるが、この圧力範囲でも特に、上記のポリ塩化ビニル樹脂溶解液Eの濾過圧力よりも高い圧力で逆洗浄すると、効率よく第1のフィルター13から残留物を取り除くことができるので好ましい。
【0033】
上記の逆洗浄を行うにあたっての、第2良溶媒Gの洗浄液量は、残留物の量や質により大きく異なるので、好ましい量は状況に応じて変化するが、ポリ塩化ビニル樹脂溶解液の積算流通量に対して1倍以上から10倍以下の範囲で行うとよい。
【0034】
また、上記の逆洗浄を行っても、第1のフィルター13の濾過流量の回復率が低下してきた場合には、逆洗浄のみでは除去しきれない異物や化合物が第1のフィルター13上に蓄積しているため、第1のフィルターを一旦取り外し、超音波洗浄や焼成、酸による洗浄などを行って回復させるとよい。
【0035】
上記の逆洗浄などにより、上記残留物を回収することで、第2良溶媒Gと残留物との混合物Hが得られる。この混合物Hは、第2良溶媒Gの量が多いために、残留物のうち粘度の高い部分を構成していたポリ塩化ビニル樹脂が第2良溶媒Gに十分に溶解するので粘度が十分に低下する。また、第1良溶媒Bの残留分と混合し、後述するように、その後第1良溶媒Bとして用いるので、第2良溶媒Gは、第1良溶媒Bと同じ物質であるとより好ましい。
【0036】
この混合物Hを、必要に応じてポンプ14で加圧して、第2のフィルター15に導入する。第2のフィルター15上に残存するのは、ほとんど廃棄すべき金属粉や砂泥や一部フィラー等の成分であり、第1のフィルターで問題となったポリ塩化ビニル樹脂溶解液の付着は大幅に低減されている。
【0037】
第2のフィルターへ送る前の混合物H中のポリ塩化ビニル樹脂濃度は0.01重量%以上5重量%以下であると好ましく、0.02重量%以上1重量%以下であるとより好ましい。5重量%を超えると、ろ過器を開放してオフラインでフィルターを交換洗浄する場合など空気中と接触すると湿気でポリ塩化ビニル樹脂が固化し、フィルター内で固化してしまいフィルターを傷めるため、十分低濃度の液で洗浄することが必要である。一方で、0.01重量%未満とするほど第2良溶媒Gを大量に用いると、後述するように第1良溶媒Bとして再利用するとしても、運用上無駄が多くなりすぎてしまう。
【0038】
第2のフィルター15は特にタイプを限定されないが、ケーキをガスによって脱着するため、デプスタイプのフィルターでガスによって十分洗浄できない場合は、ろ布や焼結金属など比較的表面で捕捉するシーブタイプが好ましい。特にろ布を用いると、ガスによりろ布自体が変形してケーキを排出しやすいため好ましい。
【0039】
この第2のフィルター15の好ましい目開きは、第1のフィルターの目開きと同等あるいはそれ以下が好ましい。具体的には10μm以上150μm以下であると好ましく、20μm以上100μm以下であるとより好ましい。10μm以下であると目が細かすぎて詰まりやすく、濾過が十分に出来なくなるおそれがあるためである。また、第2のフィルターの材質としては、上記良溶媒により溶解しないものであることが必要であり、ポリエチレン、ポリフロピレン、フッ素系樹脂、金属が好ましい。
【0040】
また、第2のフィルター15に混合物Hを流通させる際の流通速度は、ポリ塩化ビニル樹脂溶解液Eよりも粘度が低いため、ポリ塩化ビニル樹脂溶解液Eを第1のフィルター13に導入する場合よりも高い流通速度で導入することができる。具体的には、100kg/h/m以上100000kg/h/m以下であると好ましく、1000kg/h/m以上10000kg/h/m以下であるとより好ましい。
【0041】
第2のフィルター15を通過した濾液Jは、大部分が第2良溶媒Gであり、それに少量の上記ポリ塩化ビニル樹脂が溶解している。従って、この濾液Jはまだ十分に上記ポリ塩化ビニル樹脂を溶解させることができる。このため、この濾液Jを第1良溶媒B、第2良溶媒Gとして用いる。この場合、第1良溶媒B又は第2良溶媒Gと、同時に用いてもよいし、一時的に第1良溶媒B又は第2良溶媒Gの使用を停止して、代わりに用いても良い。また、第1良溶媒Bと第2良溶媒Gとの、いずれか一方にのみ用いてもよいし、両方に分けて用いてもよい。
【0042】
上記の第1良溶媒Bと併用して用いると、その分、第1良溶媒Bの使用量を減らすことができるため、この発明で用いる上記良溶媒の量は、従来のフィルターを一段のみ用いる方法で用いる上記良溶媒の量と比べても、ほとんど増加させないで済むことができる。これにより、濾液Jに溶解している上記ポリ塩化ビニル樹脂を、第1のフィルター13を通して濾過溶解液Fとして回収することができ、上記ポリ塩化ビニル樹脂の回収率を向上させることもできる。
【0043】
また、濾液Jを上記第2良溶媒Gとして用いる場合は、濾液J中の上記ポリ塩化ビニル樹脂の濃度が十分に低いことが望ましい。上記ポリ塩化ビニル樹脂の濃度が5重量%を超える場合には、上記残留物の回収能力が低下するので、第2良溶媒Gとして用いることは好ましくない。
【0044】
一方で、第2のフィルター15上に残った不溶物Iはケーキとして付着しているが、粘度の高い上記ポリ塩化ビニル樹脂は濾液Jとして除去されているため、このケーキは通常の固体として、容易に取り扱うことができる。この蓄積した不溶物Iを第2のフィルター15上から除去する方法としては、例えば、ガスKにより逆洗浄して、不溶物Iを固形物として系外に排出する方法が挙げられる。ガスを使うと、新たな洗浄排液が生じずに洗浄できるので好ましい。閉塞の程度は同様に第2のフィルターの入口と出口の差圧で管理することができるが、洗浄頻度は通常第1のフィルターよりも小さい。すなわち第1のフィルターに捕捉された不溶物を第2のフィルターに濃縮することができる。
【0045】
このガスKとしては、上記良溶媒が有機物であるため、これと反応を起こすことを避けるため、アルゴン、窒素などの不活性ガスを用いると好ましく、特に窒素を使うと経済的で好ましい。
【0046】
ガスは不溶物ケーキ表面に吹き付けても良いし、液の流通と逆の方向から流しても良い。液の流通と逆方向からガスKにより第2のフィルター15を逆洗浄する際のガスKの圧力は、0.1Mpa以上0.7MPa以下であると好ましい。0.1MPa未満では洗浄が十分ではなく不溶物Iが残存してしまうおそれが高くなってしまう。0.7MPaを超えると無駄な使用となるガスが多すぎて効率が悪い。
【0047】
この発明により、ケーキとして除去される不溶物Iには、上記ポリ塩化ビニル樹脂がほとんど含まれずに済み、高いポリ塩化ビニル樹脂回収率を達成することができるとともに、用いる良溶媒を無駄にせずに除去作業を行うことができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例によりこの発明をより具体的に説明する。
土中から掘り起こした使用済みの塩化ビニル樹脂製パイプを、粉砕し、粗さ1cmのメッシュに通した1cm粉砕品を、N−メチル−2−ピロリドン(三菱化学(株)製)中に、ポリ塩化ビニル樹脂の濃度が20重量%となる重量比で仕込み、50℃で撹拌しながら6時間かけて完全に溶解させた。なお、この重量比はポリ塩化ビニル樹脂に含まれる可塑剤などの添加剤も、ポリ塩化ビニル樹脂として計算したものである。
【0049】
溶解して得られたポリ塩化ビニル樹脂溶解液(20重量%)を、100メッシュの金網で濾過し、比較的大きな砂やペンキ片等を除去した。この液を、第1のフィルター(フジフィルター(株)製:フジプレートφ40m、目の粗さ:40μm)を用いて濾過した。濾過条件は、50℃で、定圧0.16MPaとし、フィルターが閉塞するまで連続で行ったところ、ポリ塩化ビニル樹脂溶解液を180g流通させたところで閉塞した。
【0050】
この第1のフィルターを、N−メチル−2−ピロリドン(同上)を用いて逆洗浄した。逆洗浄の条件は、N−メチルピロリドンを、第1のフィルターの背面から20℃、0.5MPaの圧力で600mL流した。このときの今回のろ過寿命に対する次回のろ過寿命の割合でフィルターの回復率を表すと、その回復率は80%であった。
【0051】
この逆洗浄により第1のフィルターの残留物とN−メチル−2−ピロリドンとの混合物中のポリ塩化ビニル樹脂の濃度は0.1%であった。この洗浄液を、第2のフィルターとして、ろ布(ポリプロピレン製、目の粗さ:30μm)を用いて0.16MPaで濾過したところ、600mL全て流しても第2のフィルターは閉塞しなかった。このフィルターを透過した濾液に、本実施例の最初に用いた廃ポリ塩化ビニル樹脂120gを投入したところ、全て溶解させることができた。また、第2のフィルターに液を流したのとは逆方向から0.5Mpaの窒素ガス圧をかけて逆洗浄することで不溶物をケーキとして除去することができた。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】この発明にかかる不溶物の除去方法のフロー図
【符号の説明】
【0053】
11 撹拌機つき溶解槽
12 金網
13 第1のフィルター
14 ポンプ
15 第2のフィルター
A 廃ポリ塩化ビニル樹脂組成物
B 第1良溶媒
C ポリ塩化ビニル樹脂溶解液
D 大きな不溶物
E ポリ塩化ビニル樹脂溶解液
F 濾過溶解液
G 第2良溶媒
H 混合物
I 不溶物
J 濾液
K ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃ポリ塩化ビニル樹脂組成物を、ポリ塩化ビニル樹脂を溶解する能力を有する良溶媒である第1良溶媒と接触させてポリ塩化ビニル樹脂を溶解させたポリ塩化ビニル樹脂溶解液から、前記廃ポリ塩化ビニル樹脂に由来する不溶物を固液分離する方法において、
前記ポリ塩化ビニル樹脂溶解液を第1のフィルターに導入して残留物と濾過溶解液とに分離し、前記第1のフィルターに付着した前記残留物を、前記良溶媒である第2良溶媒を用いて回収し、得られた前記残留物と前記良溶媒との混合物を第2のフィルターに導入して不溶物と濾液とに分離し、この濾液を、前記第1良溶媒、前記第2良溶媒、又はその両方として利用することを特徴とする、ポリ塩化ビニル樹脂溶解液からの不溶物の除去方法。
【請求項2】
上記第2のフィルターに付着した上記不溶物を、ガスにより逆洗浄して、固形物として系外に排出させる、請求項1に記載のポリ塩化ビニル樹脂溶解液からの不溶物の除去方法。
【請求項3】
上記第1のフィルターへ導入されるポリ塩化ビニル樹脂溶解液のポリ塩化ビニル樹脂濃度が5重量%以上、25重量%以下であり、上記第2のフィルターへ導入される上記混合物中のポリ塩化ビニル樹脂濃度が0.01重量%以上5重量%以下である、請求項1又は2に記載のポリ塩化ビニル樹脂溶解液からの不溶物の除去方法。
【請求項4】
上記第1のフィルターとして、デプスタイプの金属フィルターを用い、1段又は多段で行う請求項1乃至3のいずれかに記載のポリ塩化ビニル樹脂溶解液からの不溶物の除去方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−284531(P2007−284531A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−112275(P2006−112275)
【出願日】平成18年4月14日(2006.4.14)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】