説明

ポリ(アリーレンエーテル)−ポリシロキサン組成物および方法

熱可塑性組成物はポリ(アリーレンエーテル)とポリ(アリーレンエーテル)−ポリシロキサンブロック共重合体を含む。該熱可塑性組成物は、一価フェノールとヒドロキシアリール末端ポリシロキサンとを酸化共重合するステップを備える方法で調製される。該方法は、事前に製造したポリ(アリーレンエーテル)とポリシロキサンブロックを結合してポリ(アリーレンエーテル)−ポリシロキサンブロック共重合体を調製する従来方法より簡便である。また該方法では、一価フェノールとヒドロキシアリール末端ポリシロキサンとを共重合する従来の方法より、ポリシロキサンのポリ(アリーレンエーテル)−ポリシロキサンブロック共重合体への組み込み量が多い。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
ポリ(アリーレンエーテル)ブロックとポリシロキサンブロックを含むブロック共重合体類は、種々の熱可塑性および熱硬化性組成物の有用な成分となる既知の材料である。ポリシロキサンを含有しているために難燃性添加剤として有用である。また、使用されなければ相溶性の悪いブレンドであるポリシロキサンと、ポリスチレン類、ポリ(アリーレンエーテル)類、芳香族ポリエステル類、芳香族ポリアミド類および芳香族ポリイミド類などの芳香族ポリマー類と、を安定化する相溶化剤としても使用できる。
【0002】
ポリ(アリーレンエーテル)−ポリシロキサンブロック共重合体類の一部の既知調製方法では、事前に製造されたポリ(アリーレンエーテル)とポリシロキサン基とを互いに結合させるステップを伴う。例えば、Percecらの米国特許第4,871,816号では、シリル水素化物末端ポリシロキサンブロック類を、ヒドロシリル化反応でビニル末端ポリアリーレンポリエーテルブロック類に結合させる。したがって、こうした既知の方法では、反応性末端官能基を有するポリ(アリーレンエーテル)ブロックを製造する第1のステップと、前記ポリ(アリーレンエーテル)反応性末端官能基と反応可能な末端基を少なくとも1つ有するポリシロキサンブロックを製造する第2のステップと、前記ポリ(アリーレンエーテル)とポリシロキサンブロックを共有結合させる第3のステップと、の少なくとも3ステップを伴う。
【0003】
より少ない工程でポリ(アリーレンエーテル)−ポリシロキサン共重合体類を調製できれば効率的であり経済的にも有利であり、この目的に対して幾つかの努力がなされてきた。例えば、米国特許第5,357,022号でBanachらは、2,6−キシレノールと末端フェノール基を有するシリコーンマクロマとの酸化カップリングについて報告している。しかしながら、Banachらの反応条件の再生を試みた結果、フェノール末端シリコーンマクロマの大部分はポリフェニレンエーテルブロックに共有結合せず、分離されたものの全体としての固有粘度は比較的低い(典型的には約0.2dL/g)生成物ができた。Banachの反応生成物は、大部分がポリフェニレンエーテルホモポリマーであるものと、大部分がフェノール末端シリコーンマクロマであるものと、の異なった相溶性の悪い2相に分離し易いために、難燃性添加剤または相溶化剤としては用途が限られるものである。
【0004】
したがって、ポリシロキサンが所望のブロック共重合体類に良好に組み込まれているポリ(アリーレンエーテル)−ポリシロキサン共重合体類の改善された合成方法が求められている。
【発明の概要】
【0005】
上記および他の欠点は、ポリ(アリーレンエーテル)と、ポリ(アリーレンエーテル)ブロックと平均で35〜80個のシロキサン繰り返し単位を含むポリシロキサンブロックとを含むポリ(アリーレンエーテル)−ポリシロキサンブロック共重合体と、を含む熱可塑性組成物であって、前記熱可塑性組成物は、1〜8質量%のシロキサン繰り返し単位と12〜99質量%のアリーレンエーテル繰り返し単位とを含み、前記熱可塑性組成物は、一価フェノールとヒドロキシアリール末端ポリシロキサンを含むモノマー混合物の酸化共重合ステップを備えたプロセスでの生成物であり、前記熱可塑性組成物の質量平均分子量は少なくとも30,000原子質量単位であることを特徴とする熱可塑性組成物によって緩和される。
【0006】
別の実施形態は、一価フェノールとヒドロキシアリール末端ポリシロキサンを酸化共重合して熱可塑性組成物を製造するステップを備える熱可塑性組成物の調製方法であって、前記酸化共重合は、少なくとも50質量%の前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンと50質量%以下の前記一価フェノールの存在下で開始され、前記酸化共重合の反応時間は110分以上であり、前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンは、平均で35〜80個のシロキサン繰り返し単位を含み、前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンは、合計質量が1〜8質量%の前記一価フェノールと前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンを構成することを特徴とする調製方法である。
【0007】
別の実施形態は、一価フェノールとヒドロキシアリール末端ポリシロキサンを酸化共重合して熱可塑性組成物を製造するステップを備え、前記酸化共重合は、少なくとも50質量%の前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンと50質量%以下の前記一価フェノールの存在下で開始され、前記酸化共重合の反応時間は110分以上であり、前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンは、平均で35〜80個のシロキサン繰り返し単位を含み、前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンは、合計質量が1〜8質量%の前記一価フェノールと前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンを構成することを特徴とする方法で調製された熱可塑性組成物である。
【0008】
以下、これらおよびその他の実施形態について詳細に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明者は、ポリ(アリーレンエーテル)−ポリシロキサンブロック共重合体の効率的な合成に関する研究過程で、一価フェノールとヒドロキシアリール末端ポリシロキサンの共重合を名目上意図した先行技術方法では、大部分が一価フェノールのホモ重合になってしまうことが多いことを見いだした。言いかえれば、大部分のヒドロキシアリール末端ポリシロキサンは、ブロック共重合体に組み込まれずに分離生成物中に未反応で残っていた。該未反応のヒドロキシアリール末端ポリシロキサンは芳香族ポリマー類と相溶性でないため、該分離生成物は、難燃性添加剤あるいは相溶化剤としてはそれほど有用ではなかった。
【0010】
本発明者は、ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンのポリ(アリーレンエーテル)−ポリシロキサンブロック共重合体への組み込みが幾つかの要因によって改善されることを見いだした。とりわけ主要なものは、ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンと一価フェノールの反応混合物への添加方法と、全反応時間と、該ヒドロキシアリール末端ポリシロキサン中のシロキサン繰り返し単位の数である。一価フェノールの酸化カップリングは、Banachが教示する反応時間内で実質的に完全であると思われるが、しかしながら反応時間を延長すると、ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンと一価フェノールとの明らかなカップロングを増やすことが観察されたことから、全反応時間の効果は特に驚くべきものである。さらに、時間の関数としての、ポリシロキサンブロックのブロック共重合体への組み込みの進行は高度に非線形であり、一価フェノールのホモ重合で用いられる時間より実質的に長い時間で、組み込みの急激な上昇が典型的に起こる。本発明者は、本明細書に記載の方法を用いて、ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンのブロック共重合体への非常に効果的な組み込みを実現できた。したがって、該反応生成物は、先行技術による一価フェノールとヒドロキシアリール末端ポリシロキサンの共重合化での生成物とは異なる。
【0011】
したがって、ある実施形態は、ポリ(アリーレンエーテル)と、ポリ(アリーレンエーテル)ブロックと平均で35〜80個のシロキサン繰り返し単位を含むポリシロキサンブロックを含むポリ(アリーレンエーテル)−ポリシロキサンブロック共重合体と、を含む熱可塑性組成物であって、前記熱可塑性組成物は、1〜8質量%のシロキサン繰り返し単位と12〜99質量%のアリーレンエーテル繰り返し単位とを含み、前記熱可塑性組成物は、一価フェノールとヒドロキシアリール末端ポリシロキサンを含むモノマー混合物の酸化共重合ステップを備えたプロセスでの生成物であり、前記熱可塑性組成物の質量平均分子量は少なくとも30,000原子質量単位であることを特徴とする熱可塑性組成物である。
【0012】
前記熱可塑性組成物はポリ(アリーレンエーテル)を含む。該ポリ(アリーレンエーテル)は、一価フェノールだけの重合生成物であり、また、ブロック共重合体合成の副産物である。該一価フェノールが単一化合物(例えば2,6−ジメチルフェノール)から構成される場合、該ポリ(アリーレンエーテル)は、その単一の一価フェノールのホモ重合生成物である。該一価フェノールが2つ以上の異なる一価フェノール種(例えば2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールの混合物)を含む場合、ポリ(アリーレンエーテル)は、2つ以上の異なる一価フェノール種の共重合生成物である。実施例に記載の核磁気共鳴法を用いても、ポリ(アリーレンエーテル)とポリ(アリーレンエーテル)−ポリシロキサンブロック共重合体間のフェニレンエーテル残基の位置を定めることはできなかった。しかしながら、分離生成物中の、下記に定義した「テール」(tail)基(該一価フェノールが2,6−ジメチルフェノールの場合の、例えば2,6−ジメチルフェノキシ基)の存在から、およびまたは下記に定義した「ビフェニル」基(例えば、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ビフェノールの残基)の存在から、ポリ(アリーレンエーテル)の存在が推測される。
【0013】
前記ポリ(アリーレンエーテル)に加えて、該熱可塑性組成物は、ポリ(アリーレンエーテル)−ポリシロキサンブロック共重合体を含む。該ポリ(アリーレンエーテル)−ポリシロキサンブロック共重合体は、ポリ(アリーレンエーテル)ブロックとポリシロキサンブロックを含む。該ポリ(アリーレンエーテル)ブロックは、一価フェノールの重合残基である。一部の実施形態では、該ポリ(アリーレンエーテル)ブロックは、下式の構造を有するアリーレンエーテル繰り返し単位を含む。
【化1】

式中、各繰り返し単位において、Zはそれぞれ独立に、ハロゲン、第三級ヒドロカルビルではない未置換または置換C−C12ヒドロカルビル、C−C12ヒドロカルビルチオ、C−C12ヒドロカルビルオキシあるいは、少なくとも2つの炭素原子がハロゲン原子と酸素原子とを分離しているC−C12ハロヒドロカルビルオキシであり、Zはそれぞれ独立に、水素、ハロゲン、第三級ヒドロカルビルではない未置換または置換C−C12ヒドロカルビル、C−C12ヒドロカルビルチオ、C−C12ヒドロカルビルオキシあるいは、少なくとも2つの炭素原子がハロゲンと酸素原子とを分離しているC−C12ハロヒドロカルビルオキシである。一部の実施形態では、該ポリ(アリーレンエーテル)ブロックは、2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル繰り返し単位、すなわち下式の構造を有する繰り返し単位、
【化2】

2,3,6−トリメチル−1,4−フェニレンエーテル繰り返し単位あるいはこれらの組合せを含む。
【0014】
前記ポリシロキサンブロックは、ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンの残基である。一部の実施形態では、該ポリシロキサンブロックは下式の構造を有する繰り返し単位を含む。
【化3】

式中、RとRはそれぞれ独立に、水素、C−C12ヒドロカルビルまたはC−C12ハロヒドロカルビルであり、また、該ポリシロキサンブロックはさらに下式の構造を有する末端単位を含む。
【化4】

式中、Yは、水素、C−C12ヒドロカルビル、C−C12ヒドロカルビルオキシあるいはハロゲンであり、RとRはそれぞれ独立に、水素、C−C12ヒドロカルビルまたはC−C12ハロヒドロカルビルである。一部の実施形態では、該ポリシロキサン繰り返し単位はジメチルシロキサン(−Si(CHO−)単位を含む。一部の実施形態では、該ポリシロキサンブロックは下式の構造を有する。
【化5】

式中、nは35〜60である。
【0015】
前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンは、少なくとも1つのヒドロキシアリール末端基を含む。一部の実施形態では、該ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンは単一のヒドロキシアリール末端基を有し、その場合には、ポリ(アリーレンエーテル)−ポリシロキサンジブロック共重合体が形成される。他の実施形態では、該ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンは2つのヒドロキシアリール末端基を有し、その場合にはポリ(アリーレンエーテル)−ポリシロキサンジブロックおよびまたはトリブロック共重合体が形成される。該ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンが、3つ以上のヒドロキシアリール末端基とそれに対応した分枝鎖共重合体類の形成を可能とする分子鎖構造を有することも可能である。
【0016】
上記の通り、前記ポリシロキサンブロックは、平均で35〜80個のシロキサン繰り返し単位を含む。この範囲において、シロキサン繰り返し単位の数は35〜60個であり得、より具体的には40〜50個であり得る。ポリシロキサンブロック中のシロキサン繰り返し単位数は、共重合化条件および分離条件には本質的に影響されず、したがって、ヒドロキシアリール末端ポリシロキサン出発原料中のシロキサン繰り返し単位の数に等しい。その場合には、ヒドロキシアリール末端ポリシロキサン1分子当たりのシロキサン繰り返し単位の平均数は、シロキサン繰り返し単位に関連するシグナル強度をヒドロキシアリール末端基に関連するシグナル強度と比較するNMR法で求められる。例えば、ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンがオイゲノール−キャップ化ポリジメチルシロキサンである場合、ジメチルシロキサン共鳴プロトンの積分とオイゲノールメトキシ基プロトンの積分とを比較するプロトン核磁気共鳴(H NMR)法で、シロキサン繰り返し単位の平均数を求めることができる。
【0017】
前記熱可塑性組成物は、その全質量に対して、1〜8質量%のシロキサン繰り返し単位と12〜99質量%のアリーレンエーテル繰り返し単位を含む。この範囲において、シロキサン繰り返し単位の質量%は2〜7質量%であり得、具体的には3〜6質量%であり得、より具体的には4〜5質量%であり得、アリーレンエーテル繰り返し単位の質量%は50〜98質量%であり得、具体的には70〜97質量%であり得、より具体的には90〜96質量%であり得る。
【0018】
上記の通り、前記熱可塑性組成物は、一価フェノールとヒドロキシアリール末端ポリシロキサンを含むモノマー混合物の酸化共重合ステップを備えたプロセスでの生成物である。そのようなものとして、該熱可塑性組成物は、事前に製造されたポリ(アリーレンエーテル)とポリシロキサンブロックとのカップリングが必要なポリ(アリーレンエーテル)−ポリシロキサンブロック共重合体合成法よりも簡便なプロセスで製造できる。
【0019】
前記熱可塑性組成物の質量平均分子量は少なくとも30,000の原子質量単位である。一部の実施形態では、質量平均分子量は30,000〜150,000原子質量単位であり、具体的には35,000〜120,000原子質量単位であり、より具体的には40,000〜90,000原子質量単位であり、さらにより具体的には45,000〜70,000原子質量単位である。一部の実施形態では、該熱可塑性組成物の数平均分子量は10,000〜50,000の原子質量単位であり、具体的には10,000〜30,000原子質量単位であり、より具体的には14,000〜24,000原子質量単位である。分子量算出のためのクロマトグラフ法については、以下の実施例で詳細に説明する。
【0020】
前記熱可塑性組成物はまた、比較的少量の分子量が非常に小さい種を含み得る。したがって、一部の実施形態では、該熱可塑性組成物は、分子量が10,000原子質量単位未満の分子を25質量%未満、具体的には5〜25質量%、より具体的には7〜21質量%含む。一部の実施形態では、分子量が10,000原子質量単位未満の分子は、シロキサン繰り返し単位を平均で5〜10質量%、具体的には6〜9質量%含む。
【0021】
同様に、前記熱可塑性組成物は、比較的少量の分子量が非常に大きい種も含み得る。したがって、一部の実施形態では、該熱可塑性組成物は、分子量が100,000原子質量単位を超える分子を25質量%未満、具体的には5〜25質量%、より具体的には7〜23質量%含む。一部の実施形態では、分子量が100,000原子質量単位を超える分子は、シロキサン繰り返し単位を平均で3〜6質量%、具体的には4〜5質量%含む。
【0022】
一部の実施形態では、前記熱可塑性組成物の固有粘度は、クロロホルム中25℃で測定して少なくとも0.3dL/gである。該固有粘度は0.3〜0.6dL/gであり得、具体的には0.3〜0.5dL/gであり得、さらにより具体的には0.31〜0.55dL/gであり得、さらにより具体的には0.35〜0.47dL/gであり得る。
【0023】
ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンのブロック共重合体への組み込み効率の1つの目安は、いわゆるポリ(アリーレンエーテル)「テール」基が低濃度であることである。2,6−ジメチルフェノールのホモ重合において、生成分子の大部分は、生成した直鎖分子の一端が3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル「ヘッド」(head)で末端化され、他端が2,6−ジメチルフェニル「テール」で末端化されている所謂ヘッドテール(head−to−tail)構造を有する。したがって、該一価フェノールが2,6−ジメチルフェノールで構成されている場合、該ポリ(アリーレンエーテル)テール基は下式の構造を有する。
【化6】

式中、環の3−、4−および5−位置は水素原子で置換されている。(すなわち、用語2,6−ジメチルフェノキシは、二価の2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル基を包含しない)。一価フェノールとヒドロキシアリール末端ポリシロキサンとの共重合では、ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンのブロックコポリマーへの組み込みによって、アリーレンエーテル「テール」基濃度が低減することになる。したがって、一部の実施形態では、該一価フェノールは2,6−ジメチルフェノールから構成され、該熱可塑性組成物はその質量に対して、0.4質量%以下の2,6−ジメチルフェノキシ基を、具体的には0.2〜0.4質量%の2,6−ジメチルフェノキシ基を含む。
【0024】
前記熱可塑性組成物はさらに、それ自体が一価フェノールの酸化生成物であるジフェノキノン由来の基を含む。例えば、該一価フェノールが2,6−ジメチルフェノールの場合、該熱可塑性組成物は、1.1〜2.0質量%の2,6−ジメチル−4−(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)フェノキシ基を含み得る。
【0025】
前記熱可塑性組成物は、揮発性および不揮発性の混入物質を最小化する分離法によって溶液から分離できる。例えば、一部の実施形態では、該熱可塑性組成物は、下記の実施例の方法により測定して、1質量%以下の、具体的には0.2〜1質量%の全揮発分を含む。一部の実施形態では、該モノマー混合は、金属(銅またはマンガンなど)を含む触媒の存在下で酸化共重合され、該熱可塑性組成物は該金属を、100質量ppm以下、具体的には5〜100質量ppm、より具体的には10〜50質量ppm,さらにより具体的には20〜50質量%含む。
【0026】
前記熱可塑性組成物は、一価フェノールとヒドロキシアリール末端ポリシロキサンを酸化共重合して熱可塑性組成物を製造するステップを備える方法であって、前記酸化共重合は、少なくとも50質量%の前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンと50質量%以下の前記一価フェノールの存在下で開始され、前記酸化共重合の反応時間は110分以上であり、前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンは、平均で35〜80個のシロキサン繰り返し単位を含み、前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンは、合計質量が1〜8質量%の前記一価フェノールと前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンを構成することを特徴とする方法によって調製される。
【0027】
一部の実施形態では、前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンはシロキサン繰り返し単位を平均で40〜70個、具体的には40〜60個、より具体的には40〜50個含む。
【0028】
上記の通り、前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンは、合計質量が1〜8質量%の該一価フェノールと該ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンを構成する。この範囲において、該ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンは、合計質量が2〜7質量%の、具体的には3〜6質量%の、より具体的には4〜6質量%の前記一価フェノールと前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンを構成し得る。
【0029】
一部の実施形態では、前記酸化共重合は、ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンが少なくとも80質量%の存在下で、具体的には少なくとも90質量%の存在下で、より具体的には100質量%の存在下で開始される。
【0030】
一部の実施形態では、前記酸化共重合は、一価フェノールが0〜50質量%の存在下で、具体的には1〜30質量の存在下で、より具体的には2〜20質量%の存在下で、さらにより具体的には5〜10質量%の存在下で開始される。
【0031】
前記酸化共重合の反応時間は110分以上である。該反応時間は、酸素流入開始から終了までの経過時間である。(「酸素」あるいは「酸素流入」と簡潔に繰り返して記載するが、酸素源として、空気を始めとする酸素含有の任意の気体が使用可能であることは理解されるであろう。)一部の実施形態では、反応時間は110〜300分であり、具体的には140〜250分であり、より具体的には170〜220分である。
【0032】
前記酸化共重合には、モノマーの添加終了から酸素流入終了までの時間である「ビルド時間」が含まれ得る。一部の実施形態では、該反応時間には80〜160分のビルド時間が含まれる。一部の実施形態では、少なくとも一部のビルド時間中の反応温度は40〜60℃、具体的には45〜55℃であり得る。
【0033】
前記共重合反応の終了後、当分野で既知の溶液からのポリ(アリーレンエーテル)類の分離法を用いて、生成熱可塑性組成物を溶液から分離できる。例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノールおよびイソプロパノールを含むC−Cアルカノールなどの反溶媒による沈殿によって該熱可塑性組成物を分離できる。本発明者は、未反応のヒドロキシアリール末端ポリシロキサンに良好な溶媒であることから、イソプロパノールの使用が有利であることを見いだした。したがって、イソプロパノールによる沈殿と洗浄によって、分離生成物からヒドロキシアリール末端ポリシロキサンを実質的に取り除ける。沈殿の代替法として、液化押出法を含む直接分離法によって熱可塑性組成物を分離できる。
【0034】
一部の実施形態では、前記熱可塑性組成物は、1〜8質量%のシロキサン繰り返し単位と12〜99質量%のアリーレンエーテル繰り返し単位を含む。
【0035】
一部の実施形態では、前記熱可塑性組成物の質量平均分子量は、少なくとも30,000原子質量単位であり、具体的には30,000〜150,000原子質量単位であり、より具体的には35,000〜120,000原子質量単位であり、さらにより具体的には40,000〜90,000原子質量単位であり、さらにより具体的には45,000〜70,000原子質量単位である。
【0036】
一部の実施形態では、前記熱可塑性組成物では、ヒドロキシアリール末端ポリシロキサン出発原料の75質量%超がポリ(アリーレンエーテル)−ポリシロキサンブロック共重合体に組み込まれている。具体的には、ポリ(アリーレンエーテル)−ポリシロキサンブロック共重合体に組み込まれているヒドロキシアリール末端ポリシロキサンの量は少なくとも80質量%であり、より具体的には少なくとも85質量%であり、さらにより具体的には少なくとも90質量%であり、さらにより具体的には少なくとも95質量%であり得る。
【0037】
前記方法の非常に特定の実施形態では、前記一価フェノールは2,6−ジメチルフェノールであり、前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンは、35〜60個のジメチルシロキサン単位を含むオイゲノール−キャップ化ポリジメチルシロキサンであり、前記酸化共重合は、少なくとも90質量%のヒドロキシアリール末端ポリシロキサンと2〜20質量%の一価フェノールの存在下で開始され、前記酸化共重合の反応時間は170〜220分であり、前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンは、合計質量が2〜7質量%の前記一価フェノールと前記キャップ化ポリシロキサンを構成する。
【0038】
本発明には、上記方法のいずれかで調製された熱可塑性組成物が含まれる。したがって、ある実施形態は、一価フェノールとヒドロキシアリール末端ポリシロキサンを酸化共重合して熱可塑性組成物を製造するステップを備え、前記酸化共重合は、少なくとも50質量%の前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンと50質量%以下の前記一価フェノールの存在下で開始され、前記酸化共重合の反応時間は110分以上であり、前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンは、平均で35〜80個のシロキサン繰り返し単位を含み、前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンは、合計質量が1〜8質量%の前記一価フェノールと前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンを構成することを特徴とする方法で調製された熱可塑性組成物である。
【0039】
一部の実施形態では、前記熱可塑性組成物は、1〜8質量%のシロキサン繰り返し単位と12〜99質量%のアリーレンエーテル繰り返し単位を含む。
【0040】
一部の実施形態では、前記熱可塑性組成物の質量平均分量は少なくとも30,000原子質量単位である。
【0041】
一部の実施形態では、前記熱可塑性組成物では、ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンの75質量%超がポリ(アリーレンエーテル)−ポリシロキサンブロック共重合体に組み込まれている。
【0042】
非常に特定の実施形態では、前記一価フェノールは2,6−ジメチルフェノールであり、前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンは、35〜60個のジメチルシロキサン単位を含むオイゲノール−キャップ化ポリジメチルシロキサンであり、前記酸化共重合は、少なくとも90質量%のヒドロキシアリール末端ポリシロキサンと2〜20質量%の一価フェノールの存在下で開始され、前記酸化共重合の反応時間は170〜220分であり、前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンは、合計質量が2〜7質量%の前記一価フェノールと前記キャップ化ポリシロキサンを構成する。
【0043】
本発明は少なくとも次の実施形態を含む。
【0044】
実施形態1:ポリ(アリーレンエーテル)と、ポリ(アリーレンエーテル)ブロックと平均で35〜80個のシロキサン繰り返し単位を含むポリシロキサンブロックとを含むポリ(アリーレンエーテル)−ポリシロキサンブロック共重合体と、を含む熱可塑性組成物であって、前記熱可塑性組成物は、1〜8質量%のシロキサン繰り返し単位と12〜99質量%のアリーレンエーテル繰り返し単位とを含み、前記熱可塑性組成物は、一価フェノールとヒドロキシアリール末端ポリシロキサンを含むモノマー混合物の酸化共重合ステップを備えたプロセスでの生成物であり、前記熱可塑性組成物の質量平均分子量は少なくとも30,000原子質量単位であることを特徴とする熱可塑性組成物。
【0045】
実施形態2:質量平均分子量が30,000〜150,000原子質量単位であることを特徴とする実施形態1に記載の熱可塑性組成物。
【0046】
実施形態3:クロロホルム中25℃で測定した固有粘度が少なくとも0.3dL/gであることを特徴とする実施形態1または実施形態2に記載の熱可塑性組成物。
【0047】
実施形態4:クロロホルム中25℃で測定した固有粘度が0.3〜0.6dL/gであることを特徴とする実施形態1乃至実施形態3のいずれかに記載の熱可塑性組成物。
【0048】
実施形態5:分子量が10,000原子質量単位未満の分子を25質量%未満含むことを特徴とする実施形態1乃至実施形態4のいずれかに記載の熱可塑性組成物。
【0049】
実施形態6:分子量が10,000原子質量単位未満の前記分子は、平均で5〜10質量%のシロキサン繰り返し単位を含むことを特徴とする実施形態5に記載の熱可塑性組成物。
【0050】
実施形態7:分子量が100,000原子質量単位を超える分子を25質量%未満含むことを特徴とする実施形態1乃至実施形態6のいずれかに記載の熱可塑性組成物。
【0051】
実施形態8:分子量が100,000原子質量単位を超える前記分子は、平均で3〜6質量%のシロキサン繰り返し単位を含むことを特徴とする実施形態7に記載の熱可塑性組成物。
【0052】
実施形態9:実施形態1乃至実施形態4のいずれかに記載の熱可塑性組成物であって、前記熱可塑性組成物は、分子量が10,000原子質量単位未満の分子を25質量%未満含み、分子量が10,000原子質量単位未満の前記分子は、平均で5〜10質量%のシロキサン繰り返し単位を含み、前記熱可塑性組成物は、分子量が100,000原子質量単位を超える分子を25質量%未満含み、分子量が100,000原子質量単位を超える前記分子は、平均で3〜6質量%のシロキサン繰り返し単位を含むことを特徴とする熱可塑性組成物。
【0053】
実施形態10:前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンは35〜60個のシロキサン繰り返し単位を含むことを特徴とする実施形態1乃至実施形態9のいずれかに記載の熱可塑性組成物。
【0054】
実施形態11:前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンは40〜50個のシロキサン繰り返し単位を含むことを特徴とする実施形態1乃至実施形態10のいずれかに記載の熱可塑性組成物。
【0055】
実施形態12:実施形態1乃至実施形態11のいずれかに記載の熱可塑性組成物であって、前記一価フェノールは2,6−ジメチルフェノールから構成され、前記熱可塑性組成物は0.4質量%以下の2,6−ジメチルフェノキシ基を含むことを特徴とする熱可塑性組成物。
【0056】
実施形態13:実施形態1乃至実施形態12のいずれかに記載の熱可塑性組成物であって、前記一価フェノールは2,6−ジメチルフェノールから構成され、前記熱可塑性組成物は0.2〜0.4質量%の2,6−ジメチルフェノキシ基を含むことを特徴とする熱可塑性組成物。
【0057】
実施形態14:前記ポリ(アリーレンエーテル)ブロックは下式の構造を有するアリーレンエーテル繰り返し単位を含み、
【化7】

式中、各繰り返し単位において、Zはそれぞれ独立に、ハロゲン、第三級ヒドロカルビルではない未置換または置換C−C12ヒドロカルビル、C−C12ヒドロカルビルチオ、C−C12ヒドロカルビルオキシあるいは、少なくとも2つの炭素原子がハロゲン原子と酸素原子とを分離しているC−C12ハロヒドロカルビルオキシであり、Zはそれぞれ独立に、水素、ハロゲン、第三級ヒドロカルビルではない未置換または置換C−C12ヒドロカルビル、C−C12ヒドロカルビルチオ、C−C12ヒドロカルビルオキシ、あるいは少なくとも2つの炭素原子がハロゲンと酸素原子とを分離しているC−C12ハロヒドロカルビルオキシであり、前記ポリシロキサンブロックは、下式の構造を有する繰り返し単位を含み、
【化8】

式中、RとRはそれぞれ独立に、水素、C−C12ヒドロカルビルあるいはC−C12ハロヒドロカルビルであり、前記ポリシロキサンブロックはさらに下式の構造を有する末端単位を含み、
【化9】

式中、Yは、水素、C−C12ヒドロカルビル、C−C12ヒドロカルビルオキシあるいはハロゲンであり、RとRはそれぞれ独立に、水素、C−C12ヒドロカルビルあるいはC−C12ハロヒドロカルビルであることを特徴とする実施形態1乃至実施形態13のいずれかに記載の熱可塑性組成物。
【0058】
実施形態15:実施形態1乃至実施形態14のいずれかに記載の熱可塑性組成物であって、前記ポリ(アリーレンエーテル)ブロックは、下式の構造を有するアリーレンエーテル繰り返し単位を含み、
【化10】

前記ポリシロキサンブロックは下式の構造を有し、
【化11】

式中、nは35〜60であり、前記熱可塑性組成物の数平均分子量は10,000〜30,000原子質量単位であることを特徴とする熱可塑性組成物。
【0059】
実施形態16:一価フェノールとヒドロキシアリール末端ポリシロキサンを酸化共重合して熱可塑性組成物を製造するステップを備える熱可塑性組成物の調製方法であって、前記酸化共重合は、少なくとも50質量%の前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンと50質量%以下の前記一価フェノールの存在下で開始され、前記酸化共重合の反応時間は110分以上であり、前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンは平均で35〜80個のシロキサン繰り返し単位を含み、前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンは、合計質量が1〜8質量%の前記一価フェノールと前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンを構成することを特徴とする調製方法。
【0060】
実施形態17:前記熱可塑性組成物は、1〜8質量%のシロキサン繰り返し単位と12〜99質量%のアリーレンエーテル繰り返し単位とを含むことを特徴とする実施形態16に記載の方法。
【0061】
実施形態18:前記熱可塑性組成物の質量平均分子量は少なくとも30,000原子質量単位であることを特徴とする実施形態16または実施形態17に記載の方法。
【0062】
実施形態19:前記熱可塑性組成物では、前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンの75質量%超がポリ(アリーレンエーテル)−ポリシロキサンブロック共重合体に組み込まれていることを特徴とする実施形態16乃至実施形態18のいずれかに記載の方法。
【0063】
実施形態20:前記一価フェノールは2,6−ジメチルフェノールであり、前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンは、35〜60個のジメチルシロキサン単位を含むオイゲノール−キャップ化ポリジメチルシロキサンであり、前記酸化共重合は、少なくとも90質量%の前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンと2〜20質量%の前記一価フェノールの存在下で開始され、前記酸化共重合の反応時間は170〜220分であり、前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンは、合計質量が2〜7質量%の前記一価フェノールと前記キャップ化ポリシロキサンを構成することを特徴とする実施形態16乃至実施形態19のいずれかに記載の方法。
【0064】
実施形態21:一価フェノールとヒドロキシアリール末端ポリシロキサンを酸化共重合して熱可塑性組成物を製造するステップを備え、前記酸化共重合は、少なくとも50質量%の前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンと50質量%以下の前記一価フェノールの存在下で開始され、前記酸化共重合の反応時間は110分以上であり、前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンは、平均で35〜80個のシロキサン繰り返し単位を含み、前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンは、合計質量が1〜8質量%の前記一価フェノールと前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンを構成することを特徴とする方法で調製された熱可塑性組成物。
【0065】
実施形態22:前記反応時間には80〜160分のビルド時間が含まれることを特徴とする実施形態21に記載の熱可塑性組成物。
【0066】
実施形態23:1〜8質量%のシロキサン繰り返し単位と12〜99質量%のアリーレンエーテル繰り返し単位を含むことを特徴とする実施形態21または実施形態22に記載の熱可塑性組成物。
【0067】
実施形態24:質量平均分子量が少なくとも30,000原子質量単位であることを特徴とする実施形態21乃至実施形態23のいずれかに記載の熱可塑性組成物。
【0068】
実施形態25:前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンの75質量%超がポリ(アリーレンエーテル)−ポリシロキサンブロック共重合体に組み込まれていることを特徴とする実施形態21乃至実施形態24のいずれかに記載の熱可塑性組成物。
【0069】
実施形態26:前記一価フェノールは2,6−ジメチルフェノールであり、前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンは、35〜60個のジメチルシロキサン単位を含むオイゲノール−キャップ化ポリジメチルシロキサンであり、前記酸化共重合は、少なくとも90質量%の前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンと2〜20質量%の前記一価フェノールの存在下で開始され、前記酸化共重合の反応時間は170〜220分であり、前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンは、合計質量が2〜7質量%の前記一価フェノールと前記キャップ化ポリシロキサンを構成することを特徴とする実施形態21乃至実施形態25のいずれかに記載の熱可塑性組成物。
【0070】
以下の限定しない実施例により本発明をさらに説明する。
実施例1〜10、比較実施例1〜7
【0071】
実験室規模で行ったこれらの実施例により、幾つかのプロセス変数が生成物特性に及ぼす効果について説明する。
【0072】
以下の材料をブロック共重合体合成に用いた。2,6−ジメチルフェノールはSABIC InnovativePlastics社から、N,N−ジメチル−n−ブチルアミン(DMBA)、N,N’−ジ−tert−ブチル−エチレンジアミン(DBEDA)およびジ−n−ブチルアミン(DBA)はCelanese社から、亜酸化銅(CuO)はAmerican Chemet社から、相間移動剤は、Mason Chemical社からMaquat 4450Tとして、臭化化水素酸(HBr)はDiaz Chemical社から、トルエンはAshland社から、ニトリロ三酢酸三ナトリウム(NTA)はAkzo Nobel Functional Chemicals社から、オイゲノール−キャップ化シロキサン液はMomentive Performance Materials社から、それぞれ入手した。
【0073】
代表的な反応混合物の成分量を表1に示すが、ここでは、流量単位である標準状態cm/分を「sccm」で略記し、攪拌速度単位である回転数/分を「rpm」で略記する。
【表1】

【0074】
プロセス変数を表2にまとめたが、ここで、「トルエン源」とは、トルエン源が新鮮なものかポリ(アリーレンエーテル)ホモポリマー合成から再利用されたもの(表2中、「Recyc」で表示)かを示し、「DMBAレベル(%)」は、トルエンの質量に対するジメチル−n−ブチルアミンの濃度を質量%で表したものであり、「固体(%)」は、2,6−ジメチルフェノール、オイゲノール−キャップ化ポリシロキサンおよびトルエンの合計質量に対する、2,6−ジメチルフェノールとオイゲノール−キャップ化ポリシロキサンの合計質量を質量%で表したものであり、「ポリシロキサン鎖長」は、オイゲノール−キャップ化ポリシロキサン中のジメチルシロキサン(−Si(CHO−)の平均個数であり、「ポリシロキサン投入量(%)」は、オイゲノール−キャップ化ポリシロキサンと2,6−ジメチルフェノールの合計質量に対する、反応混合物中のオイゲノール−キャップ化ポリシロキサンの質量%であり、「初期2,6−ジメチルフェノール(%)」は、2,6−ジメチルフェノールの全質量に対する、重合初期(酸素の反応容器への導入時)における反応容器中の2,6−ジメチルフェノールの質量%であり、「O:2,6−ジメチルフェノールモル比」は、2,6−ジメチルフェノール添加中に維持される、原子酸素(分子酸素として供給される)と2,6−ジメチルフェノールとのモル比であり、「初期充填温度(℃)」は、モノマーの初期充填分を反応容器に添加し、酸素を反応混合物に導入した時点での反応混合物の摂氏温度であり、「添加温度(℃)」は、2,6−ジメチルフェノールのさらなる添加中の反応温度であり、「ビルド温度(℃)」は、反応のビルド相中の摂氏温度であり、「傾斜時間(分)」は、添加温度からビルド温度まで昇温させる時間を分単位で表したものであり、「傾斜勾配(℃/分)」は、添加温度からビルド温度まで昇温させる間の変化率を℃/分単位で表したものであり、「反応時間(分)」は、酸素導入時から停止時までの全反応時間を分単位で表したものである。すべての変数に対して、モノマー添加時間を反応開始(つまり、酸素流入開始)から40〜80分間に制御した。ビルド時間は、制御したモノマー添加の終了から反応終了(すなわち酸素流入の終了)までとして測定され、80〜160分の間で変化させた。
【0075】
該プロセス変数を以下の一般的な合成方法に付け加えた。後に酸素導入に使用する浸漬管により、リアクタを窒素(N)パージした。リアクタ中の窒素含有量を調整する窒素注入口も別途設けられている。50質量%の2,6−ジメチルフェノールのトルエン溶液を添加ポットに投入して、追加漏斗の上部空間を窒素パージした。エチレングリコール浴を用いて、添加ポットとその内容物の温度を50℃に調整した。窒素パージを継続しながら、リアクタを60℃トルエンで洗浄した。初期充填トルエン、重合触媒およびオイゲノール−キャップ化ポリジメチルシロキサンを側面注入口からリアクタに充填した。モノマー添加と酸素添加を開始し、温度を表2の「添加温度(℃)」行に示した値に維持した。2,6−ジメチルフェノールを完全に添加後、反応容器の加熱を開始し、表2の「ビルド温度(℃)」行に示した温度まで徐々に昇温した。この温度調節を、表2の「傾斜時間(分)」行に示した時間で、同表の「傾斜勾配(℃/分)」行に示す速度で行った。この温度調節過程およびその後の温度一定過程中、上部空間の酸素濃度を18%に維持するために、酸素流入を調節した(通常は低減した)。所望の時点に達するまで反応を継続した。この時点は他の実験で求めることができ、シロキサンの最大組み込みと目標とする固有粘度の確保を意図するものであり、2,6−ジメチルフェノールの添加が完全に終了後、一般に80〜160分である。一旦この時点に到達すると酸素流入を停止した。その後、反応混合物と上部空間を窒素パージした。合計反応時間は、酸素流入開始から停止までの時間である。反応混合物をガラス容器に移してキレート化し、重合触媒を分離した。キレート化ステップでは、40質量%水溶液としたニトリロ三酢酸三ナトリウムを銅イオン1モル当たり1.2モル用いた。反応混合物とキレート剤溶液を共に撹拌し、1時間60℃に維持した。次に、分液漏斗または液液遠心分離機を用いて該混合物を相分離し、廃棄する重い(水性)部分とブロック共重合体生成物を含有する軽い(有機)部分とを得た。キレート剤溶液を使用することにより、分離された粉末の乾燥質量に対して、残存する触媒金属の濃度が典型的には1〜50質量ppmの生成物が、具体的には1〜20質量ppmの生成物が得られる。ポリマー溶液とアルコールとの質量比を1:2〜1:3としたメタノールまたはイソプロパノールを用いた沈殿により該生成物を分離し、その後ろ過を行い、110℃で一晩、窒素雰囲気減圧下でろ液を乾燥させた。最終パウダーの残留溶媒(例えばトルエン)濃度は、典型的には50質量ppm〜1質量%である。生成物分析用に、比較実施例1を除くすべてのサンプルをイソプロパノールで沈殿させ、比較実施例1はメタノールで沈殿させた。
【0076】
数平均分子量と質量平均分子量を、以下のゲルパーミエーションクロマトグラフィにより求めた。それぞれの分子量範囲が狭く、すべてを合わせた分子量範囲が3,000〜1,000,000g/モルの8つのポリスチレン標準を用いて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィを較正した。カラムは、容積5μL、粒子径100ÅのPLgelガードカラムを備えた1e3および1e5Å Plgelカラムを用いた。クロマトグラフィは25℃で行った。溶離液には、100質量ppmジ−n−ブチルアミンを有するクロロホルムを用いた。溶離速度は1.2mL/分とした。検知器波長は254nmとした。3次多項式関数を較正点に適合させる。分離したブロック共重合体固体0.27gをトルエン45mLに溶解させて実験サンプルを調製した。できた溶液の50μLサンプルをクロマトグラフィに注入する。数平均分子量値(M)と質量平均分子量値(M)をポリスチレン較正線を用いて測定した信号から求める。次に、M(PPE)=0.3122×M(PS)1.073式を用いて、これらの値をポリスチレンの分子量からポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)の分子量に変換する。式中、M(PPE)はポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)の分子量であり、M(PS)はポリスチレンの分子量である。
【0077】
反応条件とできた生成物の特性を表2にまとめた。表2の生成物特性に対し、「分子量<10K(%)」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィで求めた分子量が10,000原子質量単位未満の分離生成物の質量%であり、「分子量>100K(%)」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィで求めた分子量が10,000原子質量単位を超える分離生成物の質量%であり、「反応終了時のIV(dL/g)」は、イソプロパノールからの沈殿により分離した乾燥粉末の、クロロホルム中25℃、Ubbelohde粘度計で測定したdL/gの単位で表される固有粘度であり、「キレート終了時のIV(dL/g)」は、イソプロパノールからの沈殿による分離後乾燥させた、キレート終了後有機相中の生成物の、クロロホルム中25℃、Ubbelohde粘度計で測定したdL/gの単位で表される固有粘度であり、「反応終了時のM(AMU)」は、イソプロパノールからの沈殿による分離後乾燥させた、重合反応終了時の反応混合物中の生成物の、ゲルパーミエーションクロマトグラフィで測定した原子質量単位で表された質量平均分子量であり、「反応終了時のM(AMU)」は、イソプロパノールからの沈殿による分離後乾燥させた、重合反応終了時の反応混合物中の生成物の、ゲルパーミエーションクロマトグラフィで測定した原子質量単位で表された数平均分子量であり、「反応終了時のM/M」は、イソプロパノールからの沈殿による分離後乾燥させた、重合反応終了時の反応混合物中の生成物に対する質量平均分子量と数平均分子量の比であり、「キレート終了時のM(AMU)」は、イソプロパノールからの沈殿による分離後乾燥させた、キレート終了後有機相中の生成物の、ゲルパーミエーションクロマトグラフィで測定した原子質量単位で表された質量平均分子量であり、「キレート終了時のM(AMU)」は、イソプロパノールからの沈殿による分離後乾燥させた、キレート終了後有機相中の生成物の、ゲルパーミエーションクロマトグラフィで測定した原子質量単位で表された数平均分子量であり、「キレート終了時のM/M」は、イソプロパノールからの沈殿による分離後乾燥させた、キレート終了後有機相中の生成物の質量平均分子量と数平均分子量の比である。
【0078】
表2で、「シロキサン質量%(%)」は、下記の「式I」とラベル化された構造物中のaおよびbとラベル化されたプロトンを用いたH NMRで求めた、分離生成物中の2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル単位とジメチルシロキサン単位の合計質量に対する、分離生成物中のジメチルシロキサン単位の質量%であり、下式で求められる。
【数1】

式中、Xは、
【数2】

Yは
【数3】

Xの算出式中、「シロキサン液M」は、ヒドロキシアリール末端ポリシロキサン中のジメチルシロキサン単位の数平均分子量であり、Yの算出式中、「2,6キシレノールMW」は、2,6−ジメチルフェノールの分子量である。この計量を「シロキサン質量%」と呼ぶのは、2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル単位とジメチルシロキサン単位以外の分離生成物構成成分を無視している点で過度の単純化であるが、これは有用な計量である。
【0079】
表2で、「シロキサン組み込み効率(%)」は、「式I」とラベル化された構造物中のaおよびbとラベル化されたプロトンを用いたH NMRで求めた、反応混合物(イソプロパノールからの沈殿から未反応の(組み込まれなかった)シロキサンマクロマを除いたもの)で用いられた全モノマー組成物中のジメチルシロキサン単位の質量%に対する、分離生成物中のジメチルシロキサン単位の質量%であり、下式で求められる。
【数4】

式中、生成物中のシロキサン質量%の算出式は上記のものであり、
【数5】

式中、「シロキサンモノマー投入質量」は、反応混合物に用いられたヒドロキシアリール末端ポリシロキサンの質量であり、「2,6モノマー投入質量」は、反応混合物に用いられた2,6−ジメチル―フェノールの全質量である。この計量を「シロキサン組み込み効率」と呼ぶのは、分離中に少量のモノマーとオリゴマーが逸失する可能性を無視している点で過度の単純化である。例えば、すべてのヒドロキシアリール末端ポリシロキサンがブロック共重合体に組み込まれ、分離中にアリーレンエーテルオリゴマーの一部が逸失すると、シロキサン組み込み効率が100%を超えることも理論的には有り得る。しかしながら、シロキサン組み込み効率は有用な計量である。
【0080】
表2で、「テール(%)」は、全2,6−ジメチルフェノール残基に対する末端基構造中の2,6−ジメチルフェノールの割合を指し、下記の「式(III)」とラベル化された構造物のeとラベル化された「テール」プロトンと、下記の「式(I)」とラベル化された構造物のaでラベル化されたプロトンと、を用いたH NMRで求められ、下式で計算される。
【数6】

式中、Yの算出式は上記のものであり、
Zは
【数7】

【0081】
表2で、「ビフェニル(%)」は、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ビフェノール残基、すなわち下記の構造を有する残基の質量%であり、
【化12】

下記の「式(II)」とラベル化された構造物のdとラベル化された「ビフェニル」プロトンと、「式(I)」とラベル化された構造物のaとラベル化されたプロトンと、を用いたH NMRで求められ、下式で計算される。
【数8】

式中、Yの算出式は上記のものであり、
Wは
【数9】

式中、「ビフェニルMW」は、上記に示した3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ビフェノールの残基の分子量である。
【0082】
「OH(ppm)」は、「Facile Quantitative Analysis of Hydroxyl End Groups of Poly(2,6−dimethyl−1,4−phenylene oxide)s by 31P NMR Spectroscopy」,Macromolecules,第27巻,6371〜6375ページ(1994)でK.P.Chanらが述べているように、分離したサンプルの水酸基をリン誘導体化した後に31P NMRで求められる、分離サンプルの全質量に対する全水酸基の質量ppmである。
【化13】

【化14】

【0083】
適度な鎖長のヒドロキシアリール末端ポリシロキサンを用い、その濃度を低濃度とし、フェノール系モノマーを徐々に添加し、反応時間を延長させた時の結果を実施例1〜10に示すが、すべてのシロキサン組み込み効率は91〜102%である。対照的に、過度のポリシロキサン鎖長、高濃度のヒドロキシアリール末端ポリシロキサン、フェノール性モノマーの大量添加および不十分な反応時間、の少なくとも1つを用いた時の比較実施例1〜7では、シロキサン組み込み効率は26〜72%である。
【表2−1】

【表2−2】

【表2−3】

実施例11〜17
【0084】
パイロットプラントで行ったこれらの実施例から、ブロック共重合体生成物の生成物特性に対する幾つかのプロセス変数の効果が示されている。
【0085】
プロセス変数を表3にまとめたが、これらは表2で説明したものと同じである。
【0086】
該プロセス変数を以下の一般的な合成方法に付け加えた。リアクタと2,6−ジメチルフェノール添加タンクを温かいトルエンですすいできれいに洗浄した。反応を窒素でパージして酸素濃度を1%未満とした。リアクタに初期トルエン(新鮮なものまたは再利用されたもの)を穴埋めし、500rpmで攪拌した。初期トルエンの温度を、表2に明記した「初期充填温度」に調節し、初期充填の2,6−ジメチルフェノールを前記添加タンクから反応容器に添加する間、この温度に維持した。初期充填の2,6−ジメチルフェノールの添加完了後に、オイゲノール−キャップ化ポリジメチルシロキサン、ジ−n−ブチルアミン、ジメチル−n−ブチルアミン、ジアミンおよび銅触媒を反応容器に充填した。酸素流入とさらにモノマーの添加を開始し、上部空間の濃度が17%未満になるように酸素流入を調整した。モノマーのさらなる添加中、表3の「添加温度(℃)」を維持するように冷却水の供給温度を調整した。モノマー添加終了後、モノマー添加路をトルエンでフラッシュして、反応温度を表3の「ビルド温度(℃)」まで上げた。表3の「傾斜時間(分)」に記載の時間中、「傾斜勾配(℃/分)」に記載の速度でこの温度調節を行った。この反応を所定の時点になるまで継続した。所定の終点は、目標とする固有粘度とシロキサン組み込みが最大になる時間であり、典型的には2,6−ジメチルフェノールの添加終了後80〜160分である。その時点に到達後、酸素流入を停止した。次に、反応混合物を60℃に加熱して、キレート剤水溶液の入ったキレートタンクにポンプで送りこんだ。生成した混合物を攪拌し1時間60℃に保持した。軽い(有機)相と重い(水)相を傾斜法で分離し、重い相は廃棄した。軽い相の少量をサンプリングし、分析用イソプロパノールで沈殿させ、残りの軽い相を沈殿タンクにポンプで送り込み、反溶媒3部:軽い相1部の質量比でメタノール反溶媒と混合した。沈殿物をろ過して湿潤ケーキとし、同じ反溶媒で3度再スラリ化して、トルエン濃度が1質量%未満となるまで窒素環境下で乾燥させた。
【0087】
反応条件とできた生成物の特性を表3に示す。分離生成物中の揮発分の質量%である「全揮発分(%)」は、減圧下110℃×1時間の乾燥に伴う逸失質量%を測定して求め、銅元素の質量ppmで表した残存触媒の濃度である「残留Cu(ppm)」は原子吸光分光法で求め、反応時間の関数である特性に対しては、サンプルをリアクタから取り出し、室温のイソプロパノール3体積に対して反応混合物を1体積添加して沈殿させて(触媒金属による事前のキレート化なしに)沈殿物を生成し、これをろ過、イソプロパノールで洗浄および乾燥させた後、H NMR(シロキサンの質量%とシロキサン取り込み効率を算出)と固有粘度分析を行った。
【0088】
表3の結果から、高シロキサン取り込み効率を達成するには、一価フェノールだけの重合時間よりもはるかに長い反応時間が必要であることがわかる。
【表3−1】

【表3−2】

【0089】
分子量画分の関数である特性に対しては、6つのゲルパーミエーションクロマトグラフィ注入(合計の注入材料36mg)からの画分をGilsonフラクションコレクタを用いて収集した。ランタイム12〜25分間に溶離する溶離液を60個の試験管に分割し、後にこれを再度集めて、それぞれが全材料の約16.67%ずつを含む(クロマトグラフ面積割合から算出して)6つの画分とした。5つの画分の少量(200μL)をゲルパーミエーションクロマトグラフィで分析して分別の成功を確認した。残りの部分をH NMR分析に用いた。NMR分析に用いた部分を蒸発させ、窒素還流しながら50℃で乾燥させた。重水素化クロロホルム(内部標準であるテトラメチルシランとともに)1mLを添加し、H NMRで分析(512スキャン)した。表4に示した結果から第1に、すべての画分が実質的なジメチルシロキサン含有量を含んでいることがわかる。分子量が最大の画分では「テール%」が検出されなかったという事実から、この画分には本質的にポリ(アリーレンエーテル)ホモポリマーが含まれていない、すなわち本質的に純粋なブロック共重合体であることが示唆される。同様に、最大の「テール%」が分子量が最小の画分で観測されたという事実は、ポリ(アリーレンエーテル)は、低分子量画分に向かってバイアスされていることを意味する。
【表4】

実施例18および19
【0090】
これらの実施例から、分離生成物の最終特性に対する沈殿反溶媒の種類による効果が示される。
【0091】
実施例18および19の反応条件は、反応混合物とキレート剤溶液を分液漏斗ではなく液液遠心分離機で分離した以外は、表3の実施例17のものと同じとした。実施例18ではメタノール中での沈殿を用い、実施例19ではイソプロパノール中での沈殿を用いた。分離生成物の特性評価を表5に示す。この結果から、メタノール沈殿サンプルでは、イソプロパノール沈殿サンプルよりシロキサンの質量%が高いことがわかり、このことは、イソプロパノールは、ヒドロキシ末端ポリシロキサンに対してメタノールよりもはるかに優れた溶媒である、という観察と一致する。したがって、イソプロパノールによる沈殿は、分離生成物中の残存ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンを最小化する有効な手段になり得る。
【表5】

実施例20〜24
【0092】
これらの実施例では、リン試薬によるヒドロキシ末端基誘導体化を用い、31P NMRを用いて上記の種々のサンプルのヒドロキシル末端基の特性評価を行った。
【0093】
実施例20〜24では、それぞれ実施例2、6〜8および14に対応する分離生成物を用いた。分離生成物のヒドロキシ基は、「Facile Quantitative Analysis of Hydroxyl End Groups of Poly(2,6−dimethyl−1,4−phenylene oxide)s by 31P NMR Spectroscopy」,Macromolecules,第27巻,6371〜6375ページ(1994)でK.P.Chanらが述べているように、誘導体化されたリンであり31P NMRで分析した。この分析では、1−ヒドロキシ−2,6−ジメチルフェニル基(「ヘッド」基)、1−ヒドロキシ−2−メチル−6−(ジ−n−ブチルアミノメチル)フェニル基(「マンニッヒ」基)、2−メトキシフェニル基(「オイゲノール」基)および1−ヒドロキシ−2−ホルミル−6−メチルフェニル基(「アルデヒド」基)からヒドロキシ基を識別することができた。結果は表6に示すが、ここでのモル%値は、ヘッド基、マンニッヒ基、オイゲノール基およびアルデヒド基の全モルに対するものである。この結果は、本方法に準拠して調製された熱可塑性組成物の明確な特徴を表している。
【表6】

【0094】
本明細書では実施例を用いて最良の実施形態を始めとする典型的な実施形態を開示しており、当業者によって本発明をなし使用することを可能にしている。本発明の特許範囲は請求項によって定義され、当業者がもたらすその他の実施例も包含し得る。こうしたその他の実施例は、請求項の文字どおりの解釈と違わない構成要素を有する場合、あるいは請求項の文字どおりの解釈とごくわずかな違いしかない等価な構成要素を含んでいる場合には、請求項の範囲内であると意図される。
【0095】
引用された特許、特許出願および他の参考文献はすべて、参照により本明細書に援用される。
しかしながら、本出願中の用語が援用された参考文献の用語と矛盾するか対立する場合、本出願の用語が援用された参考文献の矛盾する用語に優先する。
【0096】
本明細書で開示された範囲はすべて終点を含むものであり、該終点は互いに独立に組み合わせ可能である。
【0097】
本発明の記述文脈(特に以下の請求項の文脈)における単数表現は、本明細書で別途明示がある場合または文脈上明らかに矛盾する場合を除き、単数および複数を含むものと解釈される。また、本明細書で用いられる、「第1の」「第2の」などの用語は、いかなる順序や量あるいは重要度を表すものではなく、ある成分と他の成分とを区別するために用いるものである。量に関連して用いられる修飾語「約」は、述べられた数値を含んでおり、文脈で指図された意味を有している(例えば、特定の量の測定に付随する誤差程度を含むなど)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(アリーレンエーテル)と、
ポリ(アリーレンエーテル)ブロックと平均で35〜80個のシロキサン繰り返し単位を含むポリシロキサンブロックとを含むポリ(アリーレンエーテル)−ポリシロキサンブロック共重合体と、
を含む熱可塑性組成物であって、
前記熱可塑性組成物は、1〜8質量%のシロキサン繰り返し単位と12〜99質量%のアリーレンエーテル繰り返し単位とを含み、
前記熱可塑性組成物は、一価フェノールとヒドロキシアリール末端ポリシロキサンを含むモノマー混合物の酸化共重合ステップを備えたプロセスでの生成物であり、
前記熱可塑性組成物の質量平均分子量は少なくとも30,000原子質量単位であることを特徴とする熱可塑性組成物。
【請求項2】
質量平均分子量が30,000〜150,000原子質量単位であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性組成物。
【請求項3】
クロロホルム中25℃で測定した固有粘度が少なくとも0.3dL/gであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の熱可塑性組成物。
【請求項4】
クロロホルム中25℃で測定した固有粘度が0.3〜0.6dL/gであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の熱可塑性組成物。
【請求項5】
分子量が10,000原子質量単位未満の分子を25質量%未満含むことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の熱可塑性組成物。
【請求項6】
分子量が10,000原子質量単位未満の前記分子は、平均で5〜10質量%のシロキサン繰り返し単位を含むことを特徴とする請求項5に記載の熱可塑性組成物。
【請求項7】
分子量が100,000原子質量単位を超える分子を25質量%未満含むことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の熱可塑性組成物。
【請求項8】
分子量が100,000原子質量単位を超える前記分子は、平均で3〜6質量%のシロキサン繰り返し単位を含むことを特徴とする請求項7に記載の熱可塑性組成物。
【請求項9】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の熱可塑性組成物であって、
前記熱可塑性組成物は、分子量が10,000原子質量単位未満の分子を25質量%未満含み、
分子量が10,000原子質量単位未満の前記分子は、平均で5〜10質量%のシロキサン繰り返し単位を含み、
前記熱可塑性組成物は、分子量が100,000原子質量単位を超える分子を25質量%未満含み、
分子量が100,000原子質量単位を超える前記分子は、平均で3〜6質量%のシロキサン繰り返し単位を含むことを特徴とする熱可塑性組成物。
【請求項10】
前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンは35〜60個のシロキサン繰り返し単位を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の熱可塑性組成物。
【請求項11】
前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンは40〜50個のシロキサン繰り返し単位を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項10のいずれかに記載の熱可塑性組成物。
【請求項12】
請求項1乃至請求項11のいずれかに記載の熱可塑性組成物であって、前記一価フェノールは2,6−ジメチルフェノールから構成され、前記熱可塑性組成物は0.4質量%以下の2,6−ジメチルフェノキシ基を含むことを特徴とする熱可塑性組成物。
【請求項13】
請求項1乃至請求項12のいずれかに記載の熱可塑性組成物であって、前記一価フェノールは2,6−ジメチルフェノールから構成され、前記熱可塑性組成物は0.2〜0.4質量%の2,6−ジメチルフェノキシ基を含むことを特徴とする熱可塑性組成物。
【請求項14】
前記ポリ(アリーレンエーテル)ブロックは下式の構造を有するアリーレンエーテル繰り返し単位を含み、
【化1】

式中、各繰り返し単位において、Zはそれぞれ独立に、ハロゲン、第三級ヒドロカルビルではない未置換または置換C−C12ヒドロカルビル、C−C12ヒドロカルビルチオ、C−C12ヒドロカルビルオキシあるいは、少なくとも2つの炭素原子がハロゲン原子と酸素原子とを分離しているC−C12ハロヒドロカルビルオキシであり、Zはそれぞれ独立に、水素、ハロゲン、第三級ヒドロカルビルではない未置換または置換C−C12ヒドロカルビル、C−C12ヒドロカルビルチオ、
−C12ヒドロカルビルオキシ、あるいは少なくとも2つの炭素原子がハロゲンと酸素原子とを分離しているC−C12ハロヒドロカルビルオキシであり、
前記ポリシロキサンブロックは、下式の構造を有する繰り返し単位を含み、
【化2】

式中、RとRはそれぞれ独立に、水素、C−C12ヒドロカルビルあるいはC−C12ハロヒドロカルビルであり、
前記ポリシロキサンブロックはさらに下式の構造を有する末端単位を含み、
【化3】

式中、Yは、水素、C−C12ヒドロカルビル、C−C12ヒドロカルビルオキシあるいはハロゲンであり、RとRはそれぞれ独立に、水素、C−C12ヒドロカルビルあるいはC−C12ハロヒドロカルビルであることを特徴とする請求項1乃至請求項13のいずれかに記載の熱可塑性組成物。
【請求項15】
請求項1乃至請求項14のいずれかに記載の熱可塑性組成物であって、
前記ポリ(アリーレンエーテル)ブロックは、下式の構造を有するアリーレンエーテル繰り返し単位を含み、
【化4】

前記ポリシロキサンブロックは下式の構造を有し、
【化5】

式中、nは35〜60であり、
前記熱可塑性組成物の数平均分子量は10,000〜30,000原子質量単位であることを特徴とする熱可塑性組成物。
【請求項16】
一価フェノールとヒドロキシアリール末端ポリシロキサンを酸化共重合して熱可塑性組成物を製造するステップを備える熱可塑性組成物の調製方法であって、
前記酸化共重合は、少なくとも50質量%の前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンと50質量%以下の前記一価フェノールの存在下で開始され、
前記酸化共重合の反応時間は110分以上であり、
前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンは平均で35〜80個のシロキサン繰り返し単位を含み、
前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンは、合計質量が1〜8質量%の前記一価フェノールと前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンを構成することを特徴とする調製方法。
【請求項17】
前記熱可塑性組成物は、1〜8質量%のシロキサン繰り返し単位と12〜99質量%のアリーレンエーテル繰り返し単位とを含むことを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記熱可塑性組成物の質量平均分子量は少なくとも30,000原子質量単位であることを特徴とする請求項16または請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記熱可塑性組成物では、前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンの75質量%超がポリ(アリーレンエーテル)−ポリシロキサンブロック共重合体に組み込まれていることを特徴とする請求項16乃至請求項18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
前記一価フェノールは2,6−ジメチルフェノールであり、
前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンは、35〜60個のジメチルシロキサン単位を含むオイゲノール−キャップ化ポリジメチルシロキサンであり、
前記酸化共重合は、少なくとも90質量%の前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンと2〜20質量%の前記一価フェノールの存在下で開始され、
前記酸化共重合の反応時間は170〜220分であり、
前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンは、合計質量が2〜7質量%の前記一価フェノールと前記キャップ化ポリシロキサンを構成することを特徴とする請求項16乃至請求項19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
一価フェノールとヒドロキシアリール末端ポリシロキサンを酸化共重合して熱可塑性組成物を製造するステップを備え、
前記酸化共重合は、少なくとも50質量%の前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンと50質量%以下の前記一価フェノールの存在下で開始され、
前記酸化共重合の反応時間は110分以上であり、
前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンは、平均で35〜80個のシロキサン繰り返し単位を含み、
前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンは、合計質量が1〜8質量%の前記一価フェノールと前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンを構成することを特徴とする方法で調製された熱可塑性組成物。
【請求項22】
前記反応時間には80〜160分のビルド時間が含まれることを特徴とする請求項21に記載の熱可塑性組成物。
【請求項23】
1〜8質量%のシロキサン繰り返し単位と12〜99質量%のアリーレンエーテル繰り返し単位を含むことを特徴とする請求項21または請求項22に記載の熱可塑性組成物。
【請求項24】
質量平均分子量が少なくとも30,000原子質量単位であることを特徴とする請求項21乃至請求項23のいずれかに記載の熱可塑性組成物。
【請求項25】
前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンの75質量%超がポリ(アリーレンエーテル)−ポリシロキサンブロック共重合体に組み込まれていることを特徴とする請求項21乃至請求項24のいずれかに記載の熱可塑性組成物。
【請求項26】
前記一価フェノールは2,6−ジメチルフェノールであり、
前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンは、35〜60個のジメチルシロキサン単位を含むオイゲノール−キャップ化ポリジメチルシロキサンであり、
前記酸化共重合は、少なくとも90質量%の前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンと2〜20質量%の前記一価フェノールの存在下で開始され、
前記酸化共重合の反応時間は170〜220分であり、
前記ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンは、合計質量が2〜7質量%の前記一価フェノールと前記キャップ化ポリシロキサンを構成することを特徴とする請求項21乃至請求項25のいずれかに記載の熱可塑性組成物。

【公表番号】特表2011−524440(P2011−524440A)
【公表日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−513547(P2011−513547)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【国際出願番号】PCT/US2009/045280
【国際公開番号】WO2010/008683
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(508171804)サビック・イノベーティブ・プラスチックス・アイピー・ベスローテン・フェンノートシャップ (86)
【Fターム(参考)】