説明

ポリ(ジスルフィド)及びその製造方法

【課題】光学材料等に好適な、高屈折率で溶媒に可溶であるポリ(ジスルフィド)、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】下記式(1)で示される可溶性のポリ(ジスルフィド)。


[式(1)中、R〜Rは各々独立に、水素原子又は炭素数1〜20の有機基であり、R及びRは各々独立に水素原子、又は式(2)で示される基である。nは重合度であり2以上の整数である。
式(2)中、R〜R11は、各々独立に水素原子又は炭素数1〜20の有機基である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部品用材料として有用なポリ(ジスルフィド)及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学材料として、近年はプラスチックが多用されている。例えば、眼鏡用レンズに使用される材料は、そのほとんどがプラスチックであり、無機ガラスの使用はわずかである。
眼鏡用レンズは割れた際、破片により目が危険に冒されることから、耐衝撃性に優れたものが求められている。また、ファッション用の眼鏡レンズとしては染色しやすいものが好まれるため、染色能も重要な点である。
以前、使用されていた無機ガラスがプラスチックに変わってきた理由として、プラスチックは耐衝撃性や染色能に優れていることが挙げられる。また、軽量であり成形性が良いため、生産が簡易であることも大きな要因となっている。
【0003】
しかしながら、プラスチックは、屈折率や分散性等の光学特性において無機ガラスより劣っているという問題がある。
高屈折率であることは、光学材料において重要な特性の1つである。光ファイバー、光ディスク、プリズム等の基幹材料として、高屈折率材料が求められている。屈折率を高める手法の一つとして、高い原子屈折を有する原子を材料に導入する方法が知られている。このような原子として、硫黄原子が挙げられる。
硫黄を含んだ高屈折率材料として、例えば、特許文献1には4,5−ビスチイラニルジチア−1,4−ジチアンの重合体が記載されている。
また、芳香環の導入も高屈折率化に有効であることが知られている。例えば、芳香環を有するポリカルボジイミドが報告されている(特許文献2)。
【0004】
ところで、屈折率は、材質を通る光の波長よって異なる値を示す。分散(色収差)とはこの光の波長による屈折率の違いのことである。分散特性は可視領域で使用される光学材料において重要な性質である。例えば、眼鏡レンズでは波長により屈折率が異なるため、短波長側と長波長側で焦点のずれが生じる。それにより像がにじむという問題が起こるため、高い分散性を示す材料は眼鏡レンズに不向きである。
【0005】
これらの理由によって、高屈折率・低分散性のプラスチック材料の開発が進められている。このような材料では、分子屈折が大きく分子分散の小さい構造が求められる。この要求に対して、硫黄原子は原子屈折が大きいにもかかわらず、小さい原子分散を有するので、材料の高屈折率化においても効果的である。
硫黄を含んだ高屈折率、高アッベ数のポリマーとして、ポリ(チオエーテルスルホン)が報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−29499号公報
【特許文献2】特開2004−244444号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Rie Okutsu, Yasuo Suzuki, Sinji Ando, and Mitsuru Ueda, Macromolecules,41,6165(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、光学材料としては屈折率が高く、屈折率の分散性が低い材料が要求されている。また、加工等の都合上、材料は溶剤に溶解することが好ましい。
従って、本発明の課題は、光学材料等に好適な、高屈折率で溶媒に可溶であるポリ(ジスルフィド)、及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、所定のチオール化合物のS−S酸化カップリング反応により得られる、含硫黄率の高いポリ(ジスルフィド)が、一般的な有機溶媒に可溶であり、高い屈折率を有することを見出し、本発明を完成させた。
本発明によれば、以下のポリ(ジスルフィド)、及びその製造方法が提供される。
1.下記式(1)で示される可溶性のポリ(ジスルフィド)。
【化1】

[式中、R〜Rは各々独立に、水素原子又は炭素数1〜20の有機基であり、R及びRは各々独立に水素原子、又は下記式(2)で示される基である。nは重合度であり2以上の整数である。
【化2】

(式中、R〜R11は、各々独立に水素原子又は炭素数1〜20の有機基である。)]
2.下記式(3)で表わされる化合物と下記式(4)で表わされる化合物とを、酸化剤及び塩基の存在下で酸化重合する、1に記載のポリ(ジスルフィド)の製造方法。
【化3】

(式中、R〜R、R〜R11は、各々独立に、水素原子又は炭素数1〜20の有機基である。)
3.反応温度を0〜60℃とする2に記載のポリ(ジスルフィド)の製造方法。
4.上記1に記載のポリ(ジスルフィド)からなる薄膜。
5.上記1に記載のポリ(ジスルフィド)、又は4に記載の薄膜からなる光学用材料。
6.屈折率が1.45〜2.00である5に記載の光学用材料。
7.上記5又は6に記載の光学用材料からなる光学部品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高屈折率で溶媒に可溶であるポリ(ジスルフィド)、及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】比較例1及び2で作製したポリ(ジスルフィド)のGPCスペクトルである。
【図2】比較例1で作製したポリ(ジスルフィド)のIRスペクトルである。
【図3】比較例3〜5で作製したポリ(ジスルフィド)のGPCスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のポリ(ジスルフィド)は、下記式(1)で示される構造を有する。
【化4】

【0013】
式(1)において、R〜Rは各々独立に、水素原子又は炭素数1〜20の有機基である。
炭素数1〜20の有機基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基等の飽和アルキル基、シクロヘキシル基、ノルボルネン基等の飽和又は不飽和環状アルキル基、フェニル基、ナフチル基等の芳香族基、エーテル類、エステル類、アミノ類、ニトロ基、トリフルオロメチル基、スルフォニル基及びそれらの置換化合物が挙げられる。
【0014】
及びRは各々独立に水素原子、又は下記式(2)で示される基である。
【化5】

【0015】
式(2)において、R〜R11は、各々独立に水素原子又は炭素数1〜20の有機基である。炭素数1〜20の有機基の例は、上述した式(1)のR〜Rと同じである。尚、式(2)の基は、後述する式(4)の化合物の残基である。
式(1)のnは重合度を示し、2以上の整数である。特に上限はないが、重合度が大きいと有機溶媒への溶解性が低下するため200以下が好ましい。
【0016】
本発明のポリ(ジスルフィド)は溶剤への溶解性を有する。ここで、本願において、「溶解性を有する」とは、THF又はクロロホルム2mL(室温)に、ポリ(ジスルフィド)の粉体2mgを添加し5分間撹拌したものにおいて、粉体が目視にて観察されないまで溶解した状態を意味する。
【0017】
本発明のポリ(ジスルフィド)を製造する方法としては、例えば、下記式(3)で表わされる化合物と下記式(4)で表わされる化合物とを、酸化剤及び塩基の存在下で酸化重合する方法がある。
【化6】

(式中、R〜R、R〜R11は、上記式(1)及び(2)と同じ基を表わす。)
【0018】
式(3)で表わされる化合物としては、1,3−ベンゼンジチオールが挙げられる。
式(4)で表わされる化合物としては、例えば、ベンゼンチオール、4−(メチルスルフォニル)チオフェノール、2−ニトロ−4−(トリフルオロメチル)ベンゼンチオール、3,5−ビス(トリニトロメチル)ベンゼンチオール等が挙げられる。好ましくはベンゼンジチオールである。
【0019】
酸化重合反応に用いる酸化剤としては、式(3)で表わされる化合物と式(4)で表わされる化合物を酸化でき、かつ、重合反応の進行を妨害しないものであれば特に制限はない。酸化剤の具体例としては、2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−p−ベンゾキノン、クロラニル、ブロマニル、1,4−ジフェノキノン、テトラメチルジフェノキノン、テトラシアノキノジメタン、テトラシアノエチレン、塩化チオニル、等の有機酸化剤、過安息香酸、m−クロロ過安息香酸、過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物、塩化アルミニウム、塩化鉄、四塩化チタン、塩化スズ、五塩化アンチモン、六塩化タングステン、三フッ化ホウ素、臭化アルミニウム、臭化鉄、四酢酸鉛、三酢酸タリウム、セリウム(IV)アセチルアセトナト、五酸化バナジウム、塩素、臭素、ヨウ素、等を挙げることができる。これらの中でも、簡便に実施できて良好な収率が得られることから、ヨウ素が好ましい。
尚、酸化剤は1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0020】
また、酸化剤として、反応系に空気又は酸素を導入してもよい。例えば、窒素雰囲気下等の酸素の全く存在しない系では、反応が進行しないため、酸素の存在が必要である。通常、酸素分圧は高いほど好ましいが、大気下であれば十分である。尚、減圧下であっても、ある程度酸素が存在すれば反応は進行する。
尚、空気(酸素)を酸化剤とした場合は、反応溶液を塩基性にしたり、Cu(II)、Fe(III)、又はコバルトの錯体を触媒に用いると酸化反応速度が増す傾向があり好ましい。
【0021】
酸化剤の使用量は、使用する原料、溶媒の種類、酸化剤の種類等により異なるので一様に規定することはできないが、通常、酸化剤(c)と式(3)の化合物(a)について、(c)/(a)(モル比)は0.1〜50程度である。好ましくは0.5〜5程度である。モル比が0.1未満であると、重合速度が遅くなり、ポリ(ジスルフィド)の収率が低下することがある。
【0022】
本発明の製造方法においては、上述した酸化剤の他に塩基を使用する。塩基の種類は特に制限はなく、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の炭酸塩、又は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の苛性アルカリを用いることができる。また、トリエチルアミン、ジメチルアニリン、ピリジン、ナトリウムメチラート等の有機塩基を用いることも可能である。これらの中でも、簡便に実施できることから、酸素、ヨウ素が好ましい。
塩基の使用量には特に制限はないが、式(3)の化合物の0.01当量から10当量が好ましく、より好ましくは0.05当量から5当量である。
【0023】
本発明では、上記式(3)で表わされる化合物と上記式(4)で表わされる化合物とを、酸化剤及び必要に応じて塩基の存在下で酸化重合させる。
上記式(3)で表わされる化合物と上記式(4)で表わされる化合物の仕込み比は、式(3)で表わされる化合物100質量部に対して、式(4)で表わされる化合物が15〜90質量部であることが好ましい。さらに、20〜80質量部であることが好ましく、特に25〜70質量部であることが好ましい。15質量部より少ないと、環状2量体を生成しやすくなったり、得られたポリ(ジスルフィド)の分子量が大きくなり、溶媒への溶解性が低下する場合がある。一方、90質量部を超えると、式(4)の化合物が反応停止剤として働き、反応の停止が早まる場合がある。
【0024】
反応温度は、−30〜80℃の範囲が望ましく、さらに好ましくは0〜60℃である。反応温度が−30℃よりも低いと反応が進行し難くなる場合がある。一方、80℃を超えると、反応が制御できなくなる場合がある。
反応時間は、原料の反応性、反応温度に応じて適時選択すればよいが、約30分〜48時間が好ましく、さらに好ましくは約6時間〜24時間である。
【0025】
反応は、無溶剤下でも進行するが、反応時の撹拌効率を改善するために希釈剤の存在下で行なうことも可能である。
用いる希釈剤としては反応温度を維持できるものであれば特に限定されないが、好ましくは原料を溶解するものが良い。
また、合成時の希釈剤として有機溶媒を用いた場合は、減圧蒸留等の公知の方法にて溶媒を除去してもよい。
【0026】
有機溶剤は、反応に悪影響を与えず、反応温度を維持できるものであれば公知のものが使用できる。
具体的には、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル等のアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエステル類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリドン、ヘキサメチルリン酸トリアミド等のアミド類;トルエン、キシレン等の炭化水素類が挙げられる。特に制限はないが、沸点が50〜220℃の溶媒であることが好ましい。本発明の効果を得やすい点で、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリジノン又はこれらの混合溶媒であることが好ましい。
【0027】
本発明の製造方法によって得られるポリ(ジスルフィド)は、その分子構造中に大きな割合で硫黄原子、及び芳香環を含有するものであるため、透明性、光学特性(高屈折率、高アッベ数等)に優れ、また、生産性が良好である。従って、各種光学部品用材料として有用である。
【0028】
また、本発明のポリ(ジスルフィド)は溶解性が高いため、溶液を使用して容易に薄膜が形成できる。薄膜の形成方法は公知の各種コーティング法が採用できる。
本発明のポリ(ジスルフィド)、又は薄膜からなる光学用材料は、屈折率が1.45〜2.00と高くできる。
【実施例】
【0029】
以下に実施例を示して本発明についてより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものでない。
【0030】
実施例1
摺り付き試験管に1,3−ベンゼンジチオール 0.0711g(0.5mmol)、ベンゼンチオール0.0172g(0.156mmol)、NMP 0.25ml、トリエチルアミン 0.0051g(0.05mmol)を加えた。これに三方コックを取り付け、液体窒素を用いて凍結・脱気を3回繰り返した。酸素を充填させた風船を三方コックに取り付け、液体窒素中、コックの開閉を繰り返して酸素を溶存させた。液体酸素が無くなったのを確認後、室温に戻して24時間撹拌した。その後、メタノールを加え、メンブランフィルターで固体をろ別した。この固体を減圧乾燥しポリ(ジスルフィド)を淡黄色粘性固体として0.0547g(収率62%)得た。
【0031】
実施例2、3
1,3−ベンゼンジチオールとベンゼンチオールの仕込み比(質量)を、7:3又は6:4とした他は、実施例1の合成方法に従ってポリ(ジスルフィド)を合成した。尚、再沈精製の貧溶媒としてn−ヘキサンを用いた。
得られたポリ(ジスルフィド)の収率、分子量、分子量分布、屈折率測定を実施した結果を表1に示す。
【0032】
実施例1−3で得た化合物の分子量をGPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)法で測定した。GPC法の測定条件は以下の通りである。
(a)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(SEC):東ソー株式会社製、ゲル浸透クロマトグラフィー(SEC)HLC−8020型
(b)カラム:TSKgelG1000H
(c)展開溶媒:テトラヒドロフラン
(d)標準物質:ポリスチレン
【0033】
また、屈折率を以下の条件で測定した。
撹拌終了後の溶液0.2mlをシリコンウエハー上に滴下し、スピンコータ(浅沼製作所株式会社製)により塗布した。次いで、この溶液が塗布されたシリコンウエハーを室温で24時間減圧乾燥後、エリプソメータ(ガードナー社製、115B型)により波長632.8nmにおける屈折率測定を5回行い、最大値と最小値を除いた3回の測定値の平均を屈折率とした。
ポリ(ジスルフィド)の収率、分子量、分子量分布、屈折率を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
各生成物の溶剤への溶解性を評価した。具体的に、THF又はクロロホルム2mL(室温)に、ポリ(ジスルフィド)の粉体2mgを添加したものを5分間撹拌し、粉体が溶解するか目視にて観察した。実施例1−3で合成したポリ(ジスルフィド)は、THF及びクロロホルムに溶解し、粉体が消滅した。
1,3−ベンゼンジチオールとベンゼンチオールの反応で、分子量が最大になったのは仕込み比が8:2.5のときであり、これよりもベンゼンチオールの量を増やすと分子量は小さくなるという結果を示した。ベンゼンチオールは反応停止剤としても働くため、ベンゼンチオールを多く添加すれば反応停止が早まる。そのため、実施例1、実施例2、実施例3の順に分子量が低下したと考えられる。また、屈折率の測定を行った結果、約1.78という高い値を示した。
【0036】
比較例1、2
1,3−ベンゼンジチオールとベンゼンチオールの仕込み比(質量)を、10:0、又は9:1とした他は実施例1と同様にした。
実施例と同様に溶解性を評価した。THFにポリ(ジスルフィド)の粉体2mgを添加し、粉体が溶解するか目視にて観察した結果、ポリ(ジスルフィド)は室温で5分攪拌しても溶解せず固体が残っていた。尚、THF溶液中で一晩撹拌すると、目視で固体は観察されなくなり、ポリ(ジスルフィド)がTHFに溶解した。
得られたポリ(ジスルフィド)の収率、THF可溶部の数平均分子量、分子量分布を表2に示す。また、図1に得られたポリ(ジスルフィド)のGPCスペクトルを示す。
【0037】
【表2】

【0038】
表2から、ポリ(ジスルフィド)の分子量は実施例よりも小さいことが分かる。比較例1で得られたポリ(ジスルフィド)のIR測定の結果を図2に示す。モノマーに観測されたチオールの吸収(約2500cm−1)が生成物では消失していた。このことからSH基は反応していることがわかる。以上の結果、分子内でS−Sカップリング反応をする環状二量体が生成しているのではないかと考察できる。そして、この環状二量体が生成することで反応点を失い、重合が進行しなくなっていると考えられる。
【0039】
比較例3−5
1,3−ベンゼンジチオールを1,4−ベンゼンジチオールに変えて、1,4−ベンゼンチオールとベンゼンチオールの仕込み比(質量)を、10:0、10:1、7:3とし反応時間を表3に示すようにした他は、実施例1と同様にして合成し、評価した。
その結果、ポリ(ジスルフィド)は室温で一晩撹拌してもTHF及びクロロホルムにほとんど溶解しなかった。そのため、THFに溶解した部分のみGPC測定した。結果を表3に示す。また、図3にGPCスペクトルを示す。ここでGPCにより得たデータは、THFに可溶した部分のみのデータであり、不溶部のデータは含まれていない。
【0040】
【表3】

【0041】
GPCにおいて、比較例5は分子量が300を超える領域にピークは観測されなかった。つまり可溶成分はこの領域に存在しなかった。しかし、ベンゼンチオールを加えた比較例3、4では、高分子量の領域にピークが観測された。つまり可溶性で高分子量の生成物が得られたということであり、ベンゼンチオールを添加することで溶解性は改善されたといえる。しかし、不溶生成物に対して可溶生成物は非常に少なかった。1,4−ベンゼンジチオールはS−S酸化カップリング反応を起こしていることが予想できるが、その生成物の溶解性が悪かったのは、生成物の構造が剛直であるからであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のポリ(ジスルフィド)は、視力矯正用眼鏡レンズ、撮像機器(例えば、カメラ、VT等)用レンズ、ピックアップ用レンズ、コリメトリーレンズ、フレネルレンズ等の各種プラスチック光学レンズ、光ディスク基板、高磁気ディスク基板等の光記憶媒体基板、液晶セル用プラスチック基板、光ファイバー、光導波路等の、各種光学部品に好適に使用できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される可溶性のポリ(ジスルフィド)。
【化7】

[式中、R〜Rは各々独立に、水素原子又は炭素数1〜20の有機基であり、R及びRは各々独立に水素原子、又は下記式(2)で示される基である。nは重合度であり2以上の整数である。
【化8】

(式中、R〜R11は、各々独立に水素原子又は炭素数1〜20の有機基である。)]
【請求項2】
下記式(3)で表わされる化合物と下記式(4)で表わされる化合物とを、酸化剤及び塩基の存在下で酸化重合する、請求項1に記載のポリ(ジスルフィド)の製造方法。
【化9】

(式中、R〜R、R〜R11は、各々独立に、水素原子又は炭素数1〜20の有機基である。)
【請求項3】
反応温度を0〜60℃とする請求項2に記載のポリ(ジスルフィド)の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載のポリ(ジスルフィド)からなる薄膜。
【請求項5】
請求項1に記載のポリ(ジスルフィド)、又は請求項4に記載の薄膜からなる光学用材料。
【請求項6】
屈折率が1.45〜2.00である請求項5に記載の光学用材料。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の光学用材料からなる光学部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−16954(P2011−16954A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−163706(P2009−163706)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)研究集会名 応用化学科卒業研究・博士論文・修士論文発表会 主催者名 神奈川大学 開催日 平成21年2月12日 (2)刊行物名 高分子学会予稿集 58巻1号 発行所 社団法人 高分子学会 発行日 平成21年5月12日
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【出願人】(592218300)学校法人神奈川大学 (243)
【Fターム(参考)】