説明

ポンプの軸受

【課題】確実に供回りを防止可能なポンプの軸受を提供すること。
【解決手段】軸受50は、回転軸10に嵌合することで固定されるスリーブ51と、スリーブ51の外周面が所定の隙間を有して挿入され、一方の主面に凸部54を有する軸受部52とを備え、軸受部52は、ポンプケース30の貫通孔31に設けられた固定溝36に挿入されるとともに、固定溝36に設けられた切欠部37に凸部54を嵌入することで形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプの軸受に関し、特に主軸の回転に対して供回りが防止できるものに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、液体を供給するポンプ等には、回転軸やケースの磨耗や齧り付き等を防止するために回転軸の軸受けが設けられている。このような回転軸の軸受として、軸受を接着剤や充填剤を用いてケースに密着固定することで、回転軸との供回りを防止する軸受や、軸受の供回りを防止するために、ゴム剤等の樹脂(合成樹脂を含む)等によりモールドする軸受が知られている。このような充填剤を用いた軸受として、例えば摺動面をセラミックにより形成されたセラミック軸受が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
このような軸受けは、例えば二分割された金属ケースの内周面それぞれに複数に分割(4分割等)したセラミックの部材を充填剤により固定されている。この金属ケースを合わせて一体のリング状とすることで、セラミック軸受が形成されている。充填剤は、金属ケースにセラミックを固着した後硬化することで、変形することなく、セラミックを固定可能なものとなっている。このようにセラミックを金属ケースに密着固定した後、摺動面を研削加工することで、摺動面が精度よく形成される。
【0004】
このように形成されたセラミック軸受は、セラミックの外周面及び両端面の寸法制度が悪くても、金属ケースとの隙間が充填剤により満たされるため、製作コストが安価で製作されるとともに、充填剤で均一に衝撃荷重を受けるため、セラミックの破損が防止される。
【特許文献1】特開平05−065921号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したような軸受では、次のような問題があった。即ち、軸受を接着剤、充填剤又は樹脂等の固着剤を用いた軸受では、固着剤の塗布が不十分であると、回転軸の回転時に、軸受がケースから離脱する虞があった。軸受がケースから離脱すると、回転軸と供回りを起こし、回転軸、軸受又はケース等が回転軸心に対して偏磨耗することがある。偏磨耗が発生すると、偏心回転となり、最悪の場合、ポンプが破損する虞もあった。
【0006】
また、固着剤を用いた場合、固着剤の経年劣化や、液温や液質により固着剤が劣化すると、固着剤の性質が変化することで、強度が低下する虞もあり、使用時に軸受がケースから脱離してしまう虞もあった。また、接着剤、充填剤及び樹脂は高価であるため、製造コストの増大にもなる。さらに、固着剤の種類によっては、使用できる環境が制限されてしまうため、汎用性も悪くなる虞があった。
【0007】
そこで本発明は、供回りを防止可能なポンプの軸受に関し、特に、固着剤を用いなくても確実に供回りを防止可能なものを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決し目的を達成するために、本発明のポンプの軸受は次のように構成されている。
【0009】
回転軸の外周に嵌合したスリーブと、その一方の端面に軸方向に突出する凸部を有し、その内周面が前記スリーブの外周面と摺接する円筒状の軸受部と、前記回転軸が貫通する開口部、及び、この開口部の内周縁部に前記凸部と係合する切欠部が形成された前記軸受部の取付部を有するケース部材と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、供回りを防止可能なポンプの軸受に関し、特に、固着剤を用いなくても確実に供回りを防止可能なものを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は本発明の一実施の形態に係る軸受50を用いたポンプ1の一部構成を示す断面図、図2は同軸受50の組み付けを示す斜視図である。なお、図1中Fは水の流れを示している。
【0012】
図1、2に示すように、ポンプ1は、モータに接続された回転軸10と、この回転軸10に固定された複数のインペラ20と、インペラ20をそれぞれ覆う複数のポンプカバー30と、インペラ20及びポンプカバー30の間に設けられたライナリング40と、回転軸10及びポンプカバー30の間に設けられた軸受50とを備えている。
【0013】
インペラ20は、例えばステンレスや樹脂等で形成され、インペラ20の外周側に吐出口21を、インペラ20の一方の主面側(図中、下面側)に吸込口22を備えている。
【0014】
ポンプカバー30は、椀状に形成され、内部がインペラ20を収納する収納部と収納部の中心側からポンプカバー30の外周方向へ開口するよう形成された流水路と、下面の中心側に設けられ、軸受50が設けられる貫通孔31とを備えている。なお、この流路は、ポンプカバー30を接続させた際に、他のポンプカバー30の収納部と連続する水の流れFを形成する。
【0015】
ポンプカバー30は、ポンプカバー30の上面に設けられた凸状接続部32と下面側外周部に設けられた凹状接続部33とを備えており、凸状接続部32と凹状接続部33とを接続させることでポンプカバー30を複数段接続可能に形成されている。また、ポンプカバー30の凸状接続部32の内周部には、シール溝34が設けられており、このシール溝34に樹脂製のOリング35が装着されている。
【0016】
貫通孔31は、ポンプカバー30の下面を貫通しており、軸受50が設けられる固定溝36と、固定溝36の一部に後述する凸部54が嵌入する切欠部37が設けられている。また、ポンプカバー30は、インペラ20と所定の隙間により離間する貫通口38を備え、貫通口38には、ライナリング40が設けられる例えば嵌入溝39が形成されている。
【0017】
ライナリング40は、例えば嵌入溝39に配置され、樹脂やCAC系の銅合金等により形成された円環状のライナリング本体41と、このライナリング本体41を覆うカバー42とを備えている。
【0018】
軸受50は、貫通孔31に設けられ、回転軸10に嵌合することで固定されるスリーブ51と、固定溝36に設けられスリーブ51の外周面が所定の隙間を有して挿入された軸受部52とを備えている。
スリーブ51は、例えばSiC(炭化珪素)系のセラミックにより円筒状に成型されており、その内径は、回転軸の外径と略同一とすることで、回転軸10に固定可能に形成されている。
【0019】
軸受部52は、その内周面がスリーブ51と摺動可能に形成された円筒部53と、円筒部53の一方の主面に設けられた凸部54と、円筒部53の一方の主面と凸部54とが交わる角部に設けられた逃げ部55とを備えている。また、軸受部52は、スリーブ51と同一材料の、例えばSiC(炭化珪素)系セラミックにより成型されている。逃げ部55は、軸受部52の軸心方向に半円状に形成されている。
【0020】
このように構成された軸受50を用いたポンプ1では、モータにより回転軸10が回転すると、回転軸10に固定されているインペラ20も追従して回転する。この回転により、インペラ20の吸込口22から水が吸込まれ、吐出口21から水が吐出される。このように、水がインペラ20内部を介することで、順次インペラ20内を通過し、水の流れFに示すように、揚水されることとなる。
【0021】
このようなポンプ1の運転時には、モータにより回転軸10は回転し、回転軸10に設けられたスリーブ51の外周面と軸受部52の内周面とは摺動することとなる。しかし、スリーブ51の外径と軸受部52の内径とは、齧り付き防止のためであって、回転軸10の回転時に偏心やぶれが生じないような所定の隙間が設けられている。このため、スリーブ51と軸受部52との摺動時に、軸受部52には回転方向の回転モーメントが発生する、即ち、軸受部52にスリーブ51と供回りする回転力が加わることとなる。
【0022】
このとき、軸受部52は、軸受部52の凸部54も回転方向に回転力が印加される。しかし、凸部54の側面は切欠部37の側面に当接するため軸受部52は係止することとなる。このため、軸受部52に回転力が印加されたとしても、凸部54と切欠部37により、確実に係止される。
【0023】
また、軸受部52の下面と凸部54との交差する角部には、逃げ部55が形成されているため、凸部54の側面と切欠部55の側面とは、離間することなく当接する。
【0024】
このような構成の軸受50とすることで、軸受部52の下面に凸部54を設け、凸部54の側面とポンプケース30の切欠部37に当接させることで、軸受部52に回転力が印加されても、スリーブ51との供回りが確実に防止される。
【0025】
また、軸受部52の下面と凸部54との交差する角部に逃げ部55を設けることで、軸受部52の成型時に軸受部52の下面と凸部54の角部に角半径(角R)が発生しないため、凸部54の側面と切欠部37の側面とが隙間なく当接することとなる。このため、軸受部52に供回りをする回転力が印加されたとしても、軸受部52が隙間分回転し、凸部54の側面と切欠部37の側面とが接触することで発生する騒音を防止するとともに、接触時の衝撃による軸受部52の破損を防止することができる。
【0026】
また、凸部54と切欠部37との当接により軸受部52の供回りを防止することができ、さらに供回りの防止に接着剤や、他構成部品を用いなくてよいため、製造コストの低減にもなる。また、軸受部52の逃げ部55は、軸受部52を型により成型する際に、型に逃げ部55の形状の突起を設ければ容易に形成することが可能となる。このため、軸受部52の加工コストの低減にもなる。
【0027】
特に、複数のインペラ20及びポンプケース30を有する多段構造のポンプ1では、回転軸10が長くなるため、回転時の偏心等を防止するための軸受50も多数必要となる。このため、軸受50を用いることで、軸受部52の凸部54を切欠部37に係合させるだけでよく、組立工程の低減となり、製造コストの低減となる。
【0028】
上述したように、本実施の形態に係る軸受50によれば、製造コストを低減するとともに、確実に回転軸10の回転による供回りを防止することが可能となる。
【0029】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではない。例えば、上述した軸受部52に設けられた凸部54は、軸受部52の下面に1つ設けるとしたが、これは1つに限定されるものではない。例えば凸部54を複数、例えば2つ設けた場合には、切欠部37も同様に2つ儲け、凸部54と切欠部37とを係止すれば適用できる。このように、凸部54を複数設けることで、軸受部52に回転力が掛かった際に、凸部54と切欠部37とに加わる回転力に対する応力が2箇所(複数個所)に分散されるため、単位面積当たりの回転力が低減することとなる。このため、凸部54又は切欠部37に印加する応力が低減し、軸受部52が高強度である必要がなくなり、軸受部52、凸部54又は切欠部37を小型化とすることが可能となる。また、単位面積当たりの回転力が低下することで、凸部54及び切欠部37の寿命の向上や信頼性の向上にもなる。
【0030】
また、上述した例では、スリーブ51及び軸受部52がSiC系セラミックにより成型されているとしたが、これは他のセラミックにより成型されていても適用できる。また、セラミックでなく、他部品であっても適用可能となる。
【0031】
さらに、上述した例では、ポンプ1は多段構造のポンプであると説明したが、これは多段構造でなく、回転軸を有するポンプであれば適用できる。この他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施の形態に係る軸受を用いたポンプの一部構成を示す断面図。
【図2】同軸受の組み付けを示す斜視図。
【符号の説明】
【0033】
1…ポンプ、10…回転軸、20…インペラ、21…吐出口、22…吸込口、30…ポンプケース、31…貫通孔、32…凸状接続部、33…凹状接続部。34…シール溝、35…Oリング、36…固定溝、37…切欠部、40…ライナリング、41…ライナリング本体、42…カバー、50…軸受、51…スリーブ、52…軸受部、F…水の流れ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸の外周に嵌合したスリーブと、
その一方の端面に軸方向に突出する凸部を有し、その内周面が前記スリーブの外周面と摺接する円筒状の軸受部と、
前記回転軸が貫通する開口部、及び、この開口部の内周縁部に前記凸部と係合する切欠部が形成された前記軸受部の取付部を有するケース部材と、
を備えることを特徴とするポンプの軸受。
【請求項2】
前記スリーブ及び前記軸受部はセラミックにより形成されていることを特徴とする請求項1に記載のポンプの軸受。
【請求項3】
前記軸受部は、前記一方の端面と前記凸部との交差する角部に逃げ部を有することを特徴とする請求項1に記載のポンプの軸受。
【請求項4】
前記セラミックはSiC系であることを特徴とする請求項2に記載のポンプの軸受。
【請求項5】
前記凸部は前記軸方向であって、周方向に離間して複数設けられていることを特徴とする請求項1に記載のポンプの軸受。
【請求項6】
前記ポンプは、前記ケース部材を複数有する多段構造であることを特徴とする請求項1に記載のポンプの軸受。

【図1】
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【図2】
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