説明

ポンプディスペンサー用樹脂バネ

【課題】シャンプーや洗剤、化粧品などの容器に多く用いられているポンプディスペンサーにおいて、その排出機構部に使用するバネ部品を特定のポリアセタール樹脂で構成することで、内容物の変色が改善されるポンプディスペンサー用樹脂バネを提供する。
【解決の手段】ポンプディスペンサー1は容器キャップ3,金属ボール4,内容物排出口5、バネ2から構成されるが、該バネを、メルトフローレート値(ISO1133、条件D)0.1〜9.0g/10minの範囲で且つ結晶化速度が180秒以下のポリアセタール樹脂で構成する。このバネは押し出し延伸加工法によって製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャンプーなどの洗剤容器や化粧品用容器等に多く用いられているポンプディスペンサー用樹脂バネに関するもので、ポンプ機構部の錆性改善による内容物の変色を改善するポンプディスペンサー用樹脂バネを提供することに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のポンプディスペンサーは、家庭用のシャンプーや洗剤、化粧品容器などの吐出口部に多く用いられ、可動するピストンやシリンダーは本体容器と同一の材料が採用されている。また可動性を改善する為に、ピストンやシリンダーの材質を変更するなどの方法も採用されている。
一方、ポンプディスペンサーの機構部品であるスプリング部品については、従来から金属が使用されており、繰返し疲労性、耐久性の問題から本体と同一の樹脂材料を使用する事ができず、未だ樹脂化は実現していない。その為、ポンプディスペンサー容器にシャンプーや洗剤、化粧品等の内容物を入れて長期間倉庫等で保管した場合、内容物によって金属製バネ部品が腐食し、内容物を変色させるなどの問題点が起こる。
【0003】
【特許文献1】特開2004−276974号
【特許文献2】特開2005−132466号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、シャンプーなどの洗剤容器や化粧品用容器に多く用いられているポンプディスペンサーにおいて、その機構部に使用するバネ部品をポリアセタール樹脂で構成することで機構部の腐食による内容物の変色を改善するポンプディスペンサー用樹脂バネを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する為鋭意検討した結果、本発明者は、ポンプディスペンサー機構部のスプリング部品をある特定の範囲の流動性と結晶化速度を有するポリアセタール樹脂で構成すること、及び、上記のポリアセタール樹脂を原料として押出し延伸加工法によってバネを製造することによって上記課題が解決できることを見出して本発明に到達した。
すなわち、本発明は、ポンプディスペンサーのバネ部品をポリアセタール樹脂製樹脂バネに変更する事で、シャンプーや洗剤、化粧品の内容物の変色性を改善するものであり、具体的には次の構成を有する。
【0006】
(1)ポンプディスペンサーにおいて用いられるバネであって、該バネがメルトフローレート値(ISO1133、条件D)0.1〜9.0g/10minの範囲で且つ結晶化速度が180秒以下のポリアセタール樹脂で構成されていることを特徴とするポンプディスペンサー用樹脂バネ。
(2)前記樹脂バネが押出し延伸加工法で製造されたものであることを特徴とする上記(1)のポンプディスペンサー用樹脂バネ。
(3)上記(1)又は(2)のポンプディスペンサー用樹脂バネを用いたことを特徴とするポンプディスペンサー。
(4)メルトフローレート値(ISO1133、条件D)0.1〜9.0g/10minの範囲で且つ結晶化速度が180秒以下であることを特徴とするポンプディスペンサーにおいて用いられるバネ製造用のポリアセタール樹脂。
【発明の効果】
【0007】
本発明の特定の物性を有するポリアセタール樹脂を加工して得られた樹脂バネは繰返し圧縮特性に優れており、従来から使用されているポンプディスペンサーの金属バネと代替可能である。これにより従来問題になっていた内容物の変色の問題を改善する事ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
この発明の実施形態を、以下に詳細に説明する。本発明は、ポンプディスペンサー用樹脂バネをある特定のポリアセタール樹脂で構成する。
本発明のポリアセタール樹脂は、オキシメチレン基を主たる繰返し単位とし、これに共重合可能なコモノマー成分からなる繰返し単位を含むものである。コモノマー成分の繰返し単位はオキシメチレン単位に対して、0.1〜10モル%であり、従来から使用されているコモノマー成分を使用する。
【0009】
ポリアセタール樹脂の製造方法は、特に制限するものではないが、一般的にはトリオキサンとコモノマーである環状エーテル化合物をカチオン重合触媒で塊状重合し得る事ができる。重合装置は、バッチ式、連続式等の公知の装置の何れも使用する事ができる。コモノマー成分である環状エーテル化合物としては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、エピクロルヒドリン、スチレンオキサイド、1.3−ジオコソラン、プロピレングリコールホルマール、ジエチレングリコールホルマール、トリエチレングリコールホルマール、1・4−ブタンジオールホルマール、1・6−ヘキサンジオールホルマール等を挙げることができ、適宜選択すれば良い。また、ポリアセタール樹脂の分子構造は、通常の線状ポリアセタール樹脂や分岐や架橋タイプのポリアセタール樹脂、又はブロックタイプの何れでも構わない。
【0010】
ポリアセタール樹脂の流動性、メルトフローレート値(ISO1133、条件D)は、0.1〜9.0g/10minが好ましい。メルトフローレート値がこの範囲から外れた場合、得られた樹脂バネの剛性と靭性が不十分であり、繰返し使用した際、バネの復元性が低下するなどの問題点がある。更に好ましいメルトフローレート値(ISO1133、条件D)は、0.1〜3.0g/10minの高分子量ポリアセタール樹脂である。
【0011】
一方、ポリアセタール樹脂の結晶化速度は、180秒以下が好ましく、更に好ましくは100秒以下である。結晶化速度が180秒以上のポリアセタール樹脂を用いた場合、得られた樹脂バネの剛性と靭性が低く、繰返し使用した際に耐久性が不十分となり実用に値しない。ポリアセタール樹脂の結晶化速度の調整は、上記のコモノマー成分の挿入量や結晶化核剤の添加により調整する事ができ、特に限定するものではない。
結晶化速度を調整する核剤としては、特に限定するものではなく、従来から使用されている核剤を使用する事ができる。例えば、窒化硼素やタルク、炭酸カルシウムなどがポリアセタール樹脂の核剤として使用できる。また有機系核剤も使用可能である。
【0012】
ポリアセタール樹脂の結晶化速度の測定方法は、まずポリアセタール樹脂を室温から200℃まで昇温させ2分間ホールドする。その後、80℃/minの速度で150℃まで降温させ、その温度で保持する。150℃の温度で保持を開始してから結晶化が半分経過した時の時間を測定し求めた。
ポリアセタール樹脂製樹脂バネの形状は特に制限するものではなく、通常、線径が0.1mm〜5mm、外径は1mm〜20mm、長さは10mm〜50mm、巻き数は5〜20の範囲で、その目的に応じて選択すれば良い。
【0013】
本発明におけるポリアセタール樹脂には、必要に応じて各種安定剤、染料や顔料の着色剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、界面活性剤、或いは有機高分子量材料や、また従来から使用されているシリコン系やオレフィン系、エステル系、フッ素系、ノニオン系などの摺動材やガラス繊維やチタン酸カリ、炭酸カルシウム、カーボンファイバーなどの無機系強化材を添加しても構わない。
【0014】
本発明の樹脂バネは押し出し延伸加工によって製造することが好ましい。その製造例を以下に示すが、押出し延伸加工の条件は、以下に示すものに制限されるものではない。
まず、ポリアセタール樹脂を押出機に供給し、押出し機のノズルから溶融押出されたモノフィラメントを加熱・巻き取りしながら熱処理槽、延伸槽、次いで冷却槽に通して、その後、目的のバネ形状に加工した金型にモノフィラメントを取付け、更に熱延伸させたのち十分に冷却させたのち、目的とする長さに切断することによって樹脂バネを得る。延伸倍率、巻取り速度や熱処理槽、延伸槽、冷却槽の温度と時間は特に制限するものではなく適宜選択し、目的のバネ特性を有するポリアセタール樹脂製バネを製造することができる。
延伸条件は下記の条件の中から目的に応じて適宜に条件を設定すればよい。
延伸温度:130℃〜165℃
延伸速度:0.01〜20m/min
延伸倍率:3〜20倍
【0015】
ポンプディスペンサー本体可動部のピストンとシリンダーは、従来から使用されているポリプロピレン樹脂などの汎用熱可塑性樹脂が用いられているが、可動性の観点から樹脂バネと同一のポリアセタール樹脂を用いても構わない。可動部のピストン部品やシリンダー部品がポリアセタール樹脂である場合は、メルトフローレート値(ISO1133、条件D)が0.1〜60g/10minの範囲の流動性を有するポリアセタール樹脂が好ましく、更にはメルトフローレート値(ISO1133、条件D)が9〜30g/10minの流動性を有するポリアセタール樹脂が成形性の観点から好ましい。また、必要に応じて各種安定剤、染料や顔料の着色剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、界面活性剤、或いは有機高分子量材料や、また従来から使用されているシリコン系やオレフィン系、エステル系、フッ素系、ノニオン系などの摺動材やガラス繊維やチタン酸カリ、炭酸カルシウム、カーボンファイバーなどの無機系強化材を添加しても構わない。
【実施例】
【0016】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明する。尚、この実施例における各種の測定は、次の方法で行い、結果を表1に記載した。
[メルトフローレート値]
ISO1133、条件Dに準じて測定した。温度は190℃、荷重2.16kgfとした。
【0017】
[結晶化速度]
パーキンエルマー社製の示差走査熱量計DSC7型を用い、サンプル5mgを室温から200℃まで昇温させ、2分間ホールドさせた。その後、80℃/minの速度で150℃まで降温させ、150℃に保持させてから吸発熱曲線を記録し、発熱曲線のピークハイに達する時間(発熱ピーク面積の1/2になるまでの時間)を求め、ポリアセタール樹脂の結晶化時間とした。
【0018】
[樹脂バネの耐久性試験]
各種延伸加工によって製造したポリアセタール樹脂製バネを圧縮試験機に取付け3kgfの荷重で1000回繰返し圧縮試験し、試験後の樹脂バネの変形量を下記判定基準に従って判定した。
<試験後の変形量判定基準(繰返し試験前の樹脂バネの長さ:25mm)>
◎:変形量が0〜1mm
○:変形量が2〜3mm
×:変形量が4mm以上
[耐久性試験を実施した樹脂バネの形状]
・線径:1mm ・外形:7mm ・長さ:25mm ・巻き数:10
【0019】
[ポリアセタール樹脂の製造方法]
トリオキサンと表1に示す環状エーテル化合物を加え、更に分子量調節剤としてメチラールと同時に重合触媒として三フッ化硼素を重合機に連続的に供給しながら塊状重合を行った。その後、重合機から排出された反応生成物を粉砕し、トリエチルアミン水溶液に投入し重合触媒を失活させ、分離、洗浄、乾燥させ、粗ポリアセタール樹脂を得た。次に、この粗ポリアセタール樹脂を2軸押出し機に通して不安定末端基を除去し、更に安定剤としてペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を加え、安定化されたペレット状のポリアセタール樹脂を得た。
【0020】
[実施例1〜3、比較例1]
コモノマー成分である1・3−ジオキソラン挿入量を変更したポリアセタール樹脂を用いて、押出し延伸加工によりモノフィラメントを作成後、ネジ寸法に加工した金型内にポリアセタール樹脂製モノフィラメントを取付け、更に熱延伸させて、目的とする樹脂ネジを作成し、樹脂ネジ耐久性を評価した。結果を表1に示した。
【0021】
[実施例4]
比較例1のポリアセタール樹脂に結晶化核剤として窒化硼素(平均粒径:3μm)を50ppm添加し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示した。
【0022】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明樹脂バネは、繰返し圧縮特性に優れており、また、樹脂製であり金属製のバネのように腐食することがないので、内容物の変色の問題もない。このため、シャンプーなどの洗剤容器や化粧品用容器に多く用いられているポンプディスペンサーのバネ部材として好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に関わるポンプディスペンサー部品の断面図である。
【符号の説明】
【0025】
1 ポンプディスペンサー本体
2 ポリアセタール樹脂製樹脂バネ
3 本体容器キャップ
4 金属ボール
5 内容物排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプディスペンサーにおいて用いられるバネであって、該バネがメルトフローレート値(ISO1133、条件D)0.1〜9.0g/10minの範囲で且つ結晶化速度が180秒以下のポリアセタール樹脂で構成されていることを特徴とするポンプディスペンサー用樹脂バネ。
【請求項2】
前記樹脂バネが押出し延伸加工法で製造されたものであることを特徴とする請求項1に記載のポンプディスペンサー用樹脂バネ。
【請求項3】
請求項1又は2記載のポンプディスペンサー用樹脂バネを用いたことを特徴とするポンプディスペンサー。
【請求項4】
メルトフローレート値(ISO1133、条件D)0.1〜9.0g/10minの範囲で且つ結晶化速度が180秒以下であることを特徴とするポンプディスペンサーにおいて用いられるバネ製造用のポリアセタール樹脂。

【図1】
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【公開番号】特開2007−75669(P2007−75669A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−263175(P2005−263175)
【出願日】平成17年9月12日(2005.9.12)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】