説明

ポンプ

【課題】
渦電流損失や固有振動数を考慮することで、応答遅れを効果的に抑制できるポンプを提供する。
【解決手段】
第1の超磁歪素子及び第2の超磁歪素子の直径又は厚みをD(mm)としたときに、要求される周波数fに対して、以下の式が成り立つように、直径又は厚みDを決定することで、応答性の問題をクリアすることができる。
f≧68710/D

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプに関し、特に小型で流体を微量にかつ高圧高精度に吐出する超磁歪ポンプに好適なポンプに関するものであり、例えば、高速回転を目的とした工作機械主軸用のための微量潤滑ポンプ、燃費向上を目的として高圧高精度に燃料を噴射するガソリンエンジン用もしくは燃料電池用の燃料噴射ポンプ、もしくは排出ガスの環境基準を満たすために高圧に燃料を噴射するディーゼルエンジンの燃料噴射ポンプ、および小型で高精度の位置決め精度を要する油圧アクチュエータを構成する小型油圧ポンプなどに利用されると好適なポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
ポンプは、流体機械であり、本来的に、流体に圧力もしくは速度を与え、移動させることを目的としている、その性能は、ポンプの吐出圧力P、吐出流量Q、および吐出揚程Hなどで評価される。ポンプは、一般にモータやエンジン等の原動機を駆動源とすることが多く、ポンプの性能もその駆動源の能力に左右されることが多い。
【0003】
駆動源の機械的仕事をポンプの仕事に変換する際の効率を考えると、最も損失の少ない仕組みにすることが非常に重要であり、例えば、駆動源が低速で高トルクのモータである場合には、吐出圧力Pが小さく吐出流量Qが大きいという特性を持つポンプを設計するよりも、駆動源の特性を活かして吐出圧力Pが大きく吐出流量Qが小さいという特性を備えたポンプを設計すると、損失が少なく高効率なポンプを開発できるということがある。
【0004】
新しく開発された駆動源を用いてポンプを設計する場合でも、駆動源の性能に合わせたポンプを設計することにより、高い効率を達成でき、他の駆動源によって達成できないようなポンプ性能を獲得できるなら、新技術として定着する可能性がある。
【0005】
ここで、超磁歪素子とは、古くから知られているFe、Ni、Coのような磁性材料に磁場を印加すると生じる磁歪現象よりも、遙かに大きな超磁歪現象を生じさせる素子のことをいい、例えば任意の希土類元素Rと鉄Feの原子比が1:2(RFe)からなる組成を持つ素子が知られており、代表的な例としてTb0.3Dy0.7Feがある。
【0006】
このような超磁歪素子の磁歪現象を、アクチュエータの駆動源として用いる試みがある。かかるアクチュエータの場合、電磁コイルに電流を流し、磁界の強さHを得、磁歪Δl/1を発生させるが、その歪みはTb0.3Dy0.7Feの場合、磁界の強さHが80kA/m以上になると最大値に飽和し、その時のひずみの値は1500〜2000ppm程度と非常に小さい。例えば10mの超磁歪素子に、80kA/mの磁界を加えた場合、歪みは15〜20μm程度である。ところが、80kA/mの磁界を加え、変位が生じないように固定すると圧縮応力のみ発生し、その値は60〜84MPa程度と非常に大きくなる。また、圧縮応力に対する破壊限は700MPaと大きく耐久性もある。一方で、超磁歪素子の応答速度は、電磁コイルの応答速度に依存する。すなわち超磁歪素子を駆動源に用いたアクチュエータは、低速高トルク型の機能を有することとなる。従って、超磁歪素子を駆動源とするアクチュエータをポンプに用いる場合、なるべく高圧小流量な特性を持つようにポンプ設計をした方が高効率を得ることができ、他を駆動源とするポンプでは達成できない性能を発揮する可能性があるといえる。
【0007】
超磁歪素子の競合技術として知られている圧電素子を用いる場合、電磁コイルにおける時定数の大きさなどの影響に左右されること無く、非常に高速で運転できるという利点がある。その一方で、超磁歪素子のように大きな変位、大きな応力を得ることは困難とされており、駆動源の性能としては高速低トルク型といえ、比較的低圧大流量な特性を持つポンプが多く設計され、実用化されているものもある。
【0008】
近年、このような圧電素子や超磁歪素子等の電圧や磁場で駆動される素子を用いて、各種のアクチュエータおよびそれを利用したポンプなどの開発が盛んである。
【0009】
圧電素子を用いたポンプで実用化されているものとしては、バイモルポンプ(極光株式会社製)などがある。これは、圧電バイモルフ振動子を用いたダイヤフラム形式のポンプであって、小型で軽量であること、流量調節が容易であること、非磁性であること等を特徴としている。
【0010】
一方、超磁歪素子を用いたポンプとしては、例えば、以下の特許文献1に示すように、一つのシリンダと吐出用と吸入用の二つの逆止弁を備え、超磁歪素子に与える磁界を調節することでリエアアクチュエータを構成し、例えば、ダイヤフラム、プランジャ、べローズ等のシリンダ容積を可変とする形式とした容積型のポンプなどがある。
【0011】
通常、このようなポンプの吐出揚程Hは、ベルヌーイの法則によるとシリンダ内の圧力Pとピストンの速度vに依存する。数1に、一般的なべルヌーイの法則を示す。
【0012】
【数1】


ここで、
γ:密度×重力加速度
g:重力加速度
ζ:位置(高さ)
である。
【0013】
数1から明らかなように、べルヌーイの法則によると、ポンプ自体の吐出揚程Hは、流体圧力と流体の速度vに依存する。流体を圧縮する性能は、流体の体積を変化させる機能すなわちピストン速度と弁の機能に影響され、またシリンダ内の流体速度は、ピストン速度すなわち電磁コイルの性能に依存する。
【0014】
容積型ポンプに用いられる逆止弁は、流体の流れる方向を制御する機能を備えるが、例えば、ばねとボール弁を組み合わせてシリンダ内の圧力Pが、ある一定の圧力Pcになった時点で弁を開くという、いわゆるチェック弁機能を持たせるように設計することがある(例えば以下の特許文献2参照)。
【0015】
ポンプのシリンダに、この形式のチェック弁を用いて作動流体を吸入する場合、吸入側リザーバの流体が正圧になる、もしくはシリンダ内の流体が負圧になることにより、ボールに作用する力とばねによる反発力が釣り合った状態で、初めて弁が開くという機構になっており、吐出する場合はシリンダ内の圧力がボールに作用する力と、ばねの反発力が釣り合った状態で、初めて吐出が可能となる。
【0016】
従って、シリンダ内の圧力が、所定値を下回らないもしくは超えない限り、かかる逆止弁を介して流体の吸入もしくは吐出を開始しないので、シリンダを密閉できる圧縮行程を長く出来、それにより容積型ポンプの吐出揚程を大きく出来る。
【0017】
しかるに、これらの従来の技術によるポンプでは、チェック弁機能の設定圧力、すなわち逆止弁の開弁圧は、ばねの反発力により決められるので、吐出揚程を更に大きくしたい場合、よりバネ常数の大きいばねを選択する必要がある。
【0018】
圧縮コイルばねに限らず、通常、バネ常数を大きくするためには、寸法の大きいものを選択せざるを得ず、ポンプ自体が大きくなってしまうという問題がある。
【0019】
金属材料の弾性を利用したばねを用いるとした場合、適当な形状、例えば単純円筒状にすると、バネ常数の極めて高いばねを構成できる。この場合、設定圧力が高く出来、高圧噴射が可能となるが、吐出圧もしくは吐出流量の制御範囲が非常に狭くなり、また応力が高くなるので破壊に到る可能性もある。
【0020】
このように、ボールとばねにより構成される逆止弁のチェック弁機能では、ポンプの小型化と吐出揚程の向上を同時に達成するのは非常に困難であるといえる。又、金属材料の弾性をばねとして使用すると、ポンプ性能範囲が狭くなり制御性が喪失されることが予想される。
【0021】
一方、吐出揚程を向上させるためのもう一つの方法としてピストンの速度を大きくすることが考えられる。これは、上記数1のvを大きくすることに相当する。
【0022】
ピストン速度は、超磁歪現象の速度と一致しており、超磁歪現象の速度は、すなわち磁界の変化速度と、超磁歪現象の磁界の変化に対する応答速度の和である。一般に後者は、n−μsecと非常に小さく、磁界の変化速度に比べると無視できる。従って、ピストン速度を大きくするには、磁界の発生速度を大きくする必要がある。磁界は電磁コイルに流れる電流により発生するため、電磁コイルに電圧を印加して電流が流れるまでの時間を短くする必要がある。一般に、電磁コイルに電圧Veを印加した時の電磁コイルに流れる電流の時間的な変化I(t)は、以下の数2式で表される。
【0023】
【数2】

【0024】
数2式より、電磁コイルの応答速度を大きくするためには、時定数τを小さくするか、印加電圧Veを大きくすることが必要とされる。一般には電磁コイルの体積が決まっていれば、時定数τを変化させることは難しいので、印加電圧を大きくする手法が取られる。しかし、それによれば、低電圧で駆動できるという超磁歪素子の特徴を活かすことが出来なくなる。
【0025】
このように超磁歪アクチュエータを用いた従来の技術では、超磁歪アクチュエータを用いて、より小型で、より高圧に吐出できるポンプを設計することは難しくなっており、超磁歪素子の特性を十分に活かせないという実情がある。
【0026】
これらの技術に対して、2つの超磁歪アクチュエータを用いたポンプに関する発明もなされており(例えば、特許文献3,特許文献4等)、具体的な技術も多く開示されている。
【特許文献1】特開平5−60059号公報
【特許文献2】特開平6−101631号公報
【特許文献3】特開2002−21715号公報
【特許文献4】特開2002−102770号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
例えば、特許文献3には、接着剤やクリームはんだ、蛍光体、グリースなどの高精度な定量吐出を目的としたディスぺンサー用のポンプが開示されている。かかるポンプは、上部、下部のアクチュエータと可動スリーブとピストンにより構成されてなり、可動スリーブは下部のアクチュエータにより駆動され、ピストンは上部のアクチュエータにより駆動される。その動作時には、上下のアクチュエータを相対的に駆動することによってシリンダ内に、吐出する流体を吸入し、可動スリーブにより流体を閉じ込める。更に、ピストンのみを動かしてシリンダ内の流体を吐出することができる。かかるポンプにより、高精度な流量制御が可能な定量ディスぺンサーが実現できたとされている。
【0028】
一方、特許文献4にも、ディスぺンサー用のポンプが開示されている。かかるポンプは、ピストンを吐出口が密閉可能なニードル弁に変更し、可動スリーブとハウジングのスキマを小さくしているところに特徴がある。その動作時には、吸入行程ではニードル弁により吐出口を閉じ、可動スリーブを上方に移動させスキマより流体を吸入する。その後、まずニードル弁を開いて、その後にピストンを押して、シリンダ容積を圧縮する。可動スリーブとハウジングのスキマよりも吐出口の方が大きいので、流体は吐出口より吐出されるようになっている。かかるポンプにより、流体を高速で吐出し遮断することが可能になったとされている。
【0029】
しかるに、このディスペンサー用のポンプは、二つの超磁歪アクチュエータの動きを組み合わせて、定量に吐出できるポンプを作成した例であるが、超磁歪素子特有の周波数応答に関わる応答性の問題を内包している。これを具体的に説明する。
【0030】
超磁歪素子は印加される磁場によって歪を生じる。今、超磁歪素子に磁場を印加したとすると、10−6sec後には歪を生じるとされている。すなわち、超磁歪素子は10Hz程度の周波数応答性を有していることになる。ところが、実際に電磁コイル等を用いて磁場を周期的に印加した場合、超磁歪素子は、導体であるので磁場の変化に対して渦電流が生じる。この渦電流は、超磁歪素子の表面に印加された磁場を打ち消しあうような方向に流れるため、超磁歪現象に対しては損失が生じることとなる。渦電流は、磁場の変化速度が速いほどすなわち磁界の周波数が高いほど大きな損失をもたらし、結果として渦電流により限界周波数が決定されてしまう。上記特許文献を含めた従来技術では、渦電流損失に対して何ら対策を施していないので高周波応答が望めないという問題がある。
【0031】
更に、従来技術のポンプには、他にも応答性に与える影響が大きい要素が存在する。ピストンやバルブ部材、逆止弁の系の固有振動数の問題である。しかし、上記特許文献を含めた従来技術では、周波数応答性が求められた場合の最適な設計緒元は何ら示されていない。
【0032】
本発明は、かかる従来技術の問題に鑑みてなされたものであり、渦電流損失や固有振動数を考慮することで、応答遅れを効果的に抑制できるポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0033】
本発明の2自由度アクチュエータは、
第1のコイルと、
超磁歪素子よりなる第1のアクチュエータと、
第2のコイルと、
超磁歪素子よりなる第2のアクチュエータと、
強磁性体からなり、前記第1のコイルおよび前記第1のアクチュエータと、前記第2のコイルおよび前記第2のアクチュータとの間に配置され、前記第1及び前記第2のアクチュエータを磁気的に分離する分離板とを備え、
前記第1のアクチュエータは、強磁性体からなるハウジングに形成された第1のシリンダ内を摺動する強磁性体の第1のピストンを駆動し、
前記第2のアクチュエータは、前記第1のピストンを貫通し且つ前記第1のシリンダと外部とを連通する吐出孔を開閉する非磁性のバルブ部材と、前記ハウジングに形成された第2のシリンダ内を摺動する第2のピストンとを駆動し、
前記第1のアクチュエータ及び前記第2のアクチュエータの直径又は厚みをD(mm)としたときに、以下の式が成り立つことを特徴とする。
f≧68710/D
但し、fは、アクチュエータに必要とされる応答周波数である。
【発明の効果】
【0034】
本発明のポンプには様々な用途が考えられるが、工作機械などの潤滑油を吐出するためのポンプやディスペンサーとして用いる場合には、粘度の高い潤滑油やグリースなどを適量吐出すればよいので、あまり周波数応答性は問題とならないものの、100Hz程度の周波数応答を有していることが望ましい。
【0035】
しかし、ガソリンエンジンの燃料噴射装置に用いられるガソリン吐出用ポンプに適用する場合には、数百Hz程度の応答性が必要であり、余裕を見て1000Hz程度の周波数応答性を有していることが望ましい、
【0036】
更に、電動油圧アクチュエータ等に用いる場合には、吐出量が周波数応答性に依存してくるので、10000Hz以上の周波数応答性を持っていることが望ましい。
【0037】
従って、本発明のポンプに求められている周波数応答性は、高ければ高いほど良いが少なくともl00Hz好ましくは1000Hz更に好ましくは10000Hzの周波数応答性を達成することを目標とする。それを達成するための構成について説明する。
【0038】
(1)渦電流限界周波数に対する対策
通常、磁歪アクチュエータに対する渦電流限界周波数に対する対策は確立されており、本発明にも採用できる。より具体的には、「超磁歪材料」(江田弘、A・E・クラーク著、日刊工業新聞社発行)によると、渦電流限界周波数fcは超磁歪素子の直径Dによって決定される。渦電流限界周波数fcと直径Dの関係は数3のとおりである。又、図1に、縦軸に周波数、横軸に直径Dをとった時の渦電流限界周波数のグラフを示す。
【0039】
【数3】

【0040】
すなわち、前記第1のアクチュエータ及び前記第2のアクチュエータの直径又は厚みをD(mm)としたときに、要求される周波数fに対して、以下の式が成り立つように、直径又は厚みDを決定することで、応答性の問題をクリアすることができる。
f≧68710/D
【0041】
図1によると、超磁歪素子の径もしくは厚みが、1インチ(25.4mm)以下であると、渦電流に対する限界周波数は約100Hzであり、0.3インチ(7.62mm)では約lkHzであり、0.1インチ(2.54mm)では約10kHzとなることがわかる。
【0042】
(2)各要素の応答性
前記第1のアクチュエータ、前記第2のアクチュエータ、逆止弁等は、2自由度アクチュエータを高周波で駆動させようとした場合、いずれも強制的に周波数振動を与えられ、変位に応じた反作用力が作用しており、速度に応じた流体抵抗や摩擦抵抗等が存在する。従って、いずれの要素も、一般的な強制振動系の問題として考えることが出来る。一般的な強制振動の運動方程式は、簡単のため強制力が時間に対してsin波に応じて周期的に発生すると仮定すると、数4に示すものとなる。
【0043】
【数4】

【0044】
数4式は、力学問題の基礎として既に答えが求められている(例えば「機械力学」、三輪修三 坂田勝共著、コロナ社発行)。それによると、固有振動数ωと減衰比ζは、数5〜数7のように表せる。
【0045】
【数5】

【0046】
【数6】

【0047】
【数7】

【0048】
固有振動数ωと強制振動の振動数ωが一致した場合には共振を発生し、破損に到る場合があるので、なるべく大きな値に設定するのが一般的である。また、共振時の振幅比は、以下の数8で表される。
【0049】
【数8】

【0050】
ここで、x0,maxは共振時の振幅、xは静たわみを示す。参考文献によると、減衰比ζが0.5以下になるように設計すると、振幅が静たわみに比べて小さくなることは無い。すなわち、固有振動数ωをなるだけ大きく、減衰比ζを0.5以下に設計すればよい。図2は、強制振動の周波数特性を示すグラフである。
【0051】
ζは、流体抵抗や摩擦抵抗の関数であって、具体的な設計緒元として提案するには至っていないが、各摺動部の摩擦抵抗や流体が穴を通過する時などの抵抗を減じればよい。
【0052】
本発明における作動流体を吸入するための逆止弁は、ボールとばねより構成されている。従って、数5式におけるkは、逆止弁を構成するばねのばね定数kであり、mはボールの質量mである。従って、逆止弁の固有振動数ωnaは、数9を用いて容易に求められる。
【0053】
【数9】

【0054】
第1のアクチュエータで駆動される第1のピストンの剛性を決定しているのは、予圧ばねと作動流体の圧縮性である。従って、予圧ばねの剛性kb1と作動流体の剛性kb2が並列につながっている構造とみなせる。作動流体の剛性kb2は、第1のシリンダ内の作動流体の体積弾性係数Kを用いて以下のように表される。
【0055】
【数10】


但し、Aは第1のシリンダの断面積で、lは第1のシリンダの長さである。
【0056】
尚、作動流体の圧縮性は圧縮行程のみ有効なので、ばねの剛性kb1が単独で作用している場合と作動流体の圧縮性も考慮に入れた場合の両方を考える必要がある。まず、予圧ばねだけで考えると、数5式における剛性はkb1で、質量はピストンの質量mで決定される。従って固有振動数ωn、b1は、数11で表せる。
【0057】
【数11】

【0058】
次に、作動流体の圧縮性も考慮すると数5式における剛性は、kb1+kb2となる。従って固有振動数ωn、b2は、数12で表せる。
【0059】
【数12】

【0060】
第2のアクチュエータでバルブ部材兼第2のピストンが駆動される場合、質量はバルブ部材の質量mc1と、第2の超磁歪素子の質量と、第2のピストンの質量の和mc2を足した値mc1+c2で考えればよく、ばね定数kは、第1のピストンと同様に第2のシリンダ内の作動流体における体積弾性係数K、を用いて数13のように表される。
【0061】
【数13】


ここで、第2のシリンダの断面積をA、第2のシリンダの長さをlとする。
【0062】
従って、第2のピストンの固有振動数ωn、cは、数14のように表される。
【0063】
【数14】

【0064】
以上で示した各国有振動数ωが、ポンプに作用させたい周波数f(例えば100Hz)よりも大きく設計することが必要である。
【0065】
(3)弁と吐出口の接触部形状
更に、本発明における2自由度アクチュエータポンプは、吐出口を弁で開閉するようになっており、バルブ部材を閉じた時の接触状態によっては摩擦を増大させるためポンプ自身の応答性に影響する。バルブ部材に要求される性能には二つあって、第1のシリンダに流体圧力が発生した場合に流体圧力の合成力が弁を押しのけるような形状であることと、及び第1のシリンダ内の流体圧力が設定圧力以下である場合に吐出口を密封できることである。
【0066】
まず、第一の条件として、シリンダ内流体圧力をバルブ部材の運動方向の力に変換するという点から考えられるバルブ部材端部の形状には、前記吐出口に対向する端部が円錐形状となっている円錐型(図5(a)参照)、前記吐出口に対向する端部が球面形状となっている球面型(図5(b)参照)、前記吐出口に対向する端部が平板形状となっている平板型(図5(c)参照)がある。但し、平板型のバルブ部材を用いる場合、吐出口の周囲に隆起部を設けて面圧を高める必要がある。
【0067】
次に、第2の条件である密封性を保つための吐出口の形状には、バルブ部材側に面取りを施さない円筒状(図6(a)参照)、バルブ部材側に面取りを施した円錐状(図6(b)参照)及びドーナツ型(図6(c)参照)の3種類が考えられる。ここで、円錐状とは円筒穴形状の端部にC面取りを施したものに相当し、ドーナツ型とはR面取りを施したものに相当する。
【0068】
以上の弁形状と吐出口形状の中から、最も応答性に優れた組み合わせを選び出すことがポンプの応答性向上につながる、ポンプの応答性を考えた場合に、バルブ部材の端部形状と吐出口の接触部形状で重要なのは、摩擦摩耗を極力少なくすることである。摩擦摩耗に対して絶対的な評価方法は確立されていないが、面圧と滑り速度を掛け合わせたいわゆるPV値が低いほど、摩擦摩耗に対して有利だと考えられている、この場合速度は、どの場合も同じなので、面圧Pが問題となる。面圧から耐摩擦摩耗性を考え、○、△、×で各々の組み合わせについて評価した。かかる評価結果を表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
吐出口に円筒穴(図6(a)参照)を採用した場合、いずれもバルブ部材は吐出口の角部で接触することになり、エッジロードが発生することによって面圧は非常に大きくなる。円錐形状とC面取りの組み合わせにおいても同様である。
【0071】
また、球面形状のバルブ部材(図5(b)参照)弁とR面取りを施した吐出口(図6(c)参照)の組み合わせ、平板型のバルブ部材(図5(c)参照)とC面取りを施した吐出口(図6(b)参照)の組み合わせには、面取りの量にもよるが面圧が高くなりがちであるので注意が必要である、
【0072】
表1中、○印がついているものは、理想的なバルブ部材と吐出口の接触部を形成する。特に平板型のバルブ部材(図5(c)参照)とR面取りの吐出口(図6(c)参照)の組み合わせでは、理想的に接触した場合、面圧が非常に小さくなることが予測される。
【0073】
(4)密封手段
更に、本発明のポンプにおける密封手段に求められる性能としては、密封性と低摩擦性がある。密封性を考慮した場合、一般に使用されるゴム製のO−リングを使用してよい。しかし、低摩擦特性に優れたPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)シールを用いることも出来る。O−リングの密封性とPTFEシールの低摩擦特性の両方を活かすために両方を組み合わせても良い。この場合だと摺動部分はPTFEシールで接触しており低摩擦が達成でき、溝はO−リングで接触しており密封性が保たれる。
【0074】
ここで、本発明におけるポンプの動作を達成するのに必要な基本原理を簡単に説明する。
(磁歪現象)
一般に、超磁歪素子の歪みΔl/lは磁界の強さHと機械的な応力Tによって決定される。歪みΔl/l、磁界の強さH、機械的な応力Tの関係を示す方程式は以下の数15式のようになるとされている。(「超磁歪材料」、江田弘、A・E・クラーク著、日刊工業新聞社発行)
【0075】
【数15】

【0076】
ここでsは、電磁コイルが開放回路時の弾性係数すなわちヤング率の逆数で(2.85〜4.00×10−ll程度である)、dは磁歪定数(1.50×10−8)である。またlは磁歪素子の長さ、Δlは磁歪素子の変形量である。
【0077】
数15式におけるTは、磁歪素子に働く機械的な応力であり、圧縮応力が作用した場合には、負の値になり、引っ張り応力が作用する場合、正の値を取る(「超磁歪材料」、江田弘、A・E・クラーク著、日刊工業新聞社発行)。
【0078】
このように、超磁歪素子は、磁界の強さHにより歪みΔl/lを生じるが、磁歪に影響を及ぼさなくなる限界の磁界が存在する。磁界と磁歪の関係を示す図3によれば、磁界Hがゼロ近傍では、急激に磁歪λが変化するのに対し、磁界Hがある程度大きくなると、磁歪λの変化はほとんどなくなることがわかる。これを磁歪の飽和現象といい、数15式が成立する範囲は、図3に示す磁界H‐歪みλ(=Δl/l−s×T)線図における線形領域のみである、
【0079】
図3には、超磁歪材料にある程度の圧縮応力を予圧荷重として与えた場合のH−λ線図(B〜E)も示しており、予圧荷重を大きくすることにより線形領域が大きくなることを示している。但し、図3では予圧荷重を与え、磁界Hが0A/mの場合の初期状態を歪みλが0としている。
【0080】
従って、超磁歪素子に与える磁界Hを0A/mとした場合に、ある程度の圧縮応力が作用するように超磁歪材料よりも剛性の小さい皿ばね等を用いて予圧を設定して、アクチュエータ等を設計するのが一般的である。
【0081】
また、ピストンやバルブ部材などに使用される材料における歪は、数15式において磁界により影響を受ける項を無視すれば良い。更に各部材に作用する力方向に対する寸法が小さければその弾性変位は無視できる。鋼の場合、s=4.76×10−12 Pa−l程度である。このとき数15式は、以下の数16式とみなせる。
【0082】
【数16】

【0083】
(流体の圧縮性)
密閉された空間に流体が存在する場合、その圧力Pは、体積Vとその変化ΔVに応じて、以下の数17式に従って変化する。
【0084】
【数17】

【0085】
ここで、ΔVは体積が縮小する場合には負の値を取り、膨張する場合には正の値を取る。従って、密閉された空間が圧縮される場合には、流体の圧力は大きくなり、膨張する場合には圧力は小さくなる。Kは体積弾性係数と呼ばれ、20℃、101.3kPaの雰囲気で作動油の場合1.86×10Pa程度とされている。
【0086】
(磁界の発生)
電磁コイルは、銅線などの巻線とコイルの芯となるボビンにより構成されており、磁界Hの発生は、電流Iとコイルの巻数Nおよびコイルの長さlによって、以下の数18式のように表される。
【0087】
【数18】

【0088】
この式は簡単のため、コイルの半径方向の厚み成分を無視しているが、設計段階では十分な精度で磁界Hの発生を表現出来る。本発明のポンプは、上記の現象を有効に利用することで、所望のごとく動作するものである。
【0089】
尚、前記第1のアクチュエータ及び前記第2のアクチュエータの直径又は厚みD(mm)は、25.4mm以下であると好ましい。
【0090】
又、前記第2のアクチュエータが駆動する前記バルブ部材と前記第2のピストンとは一体となってい移動すると好ましい。
【0091】
又、外部より前記シリンダ室内に流体を吸引する通路に、逆止弁を設けており、前記逆止弁の固有振動数ωnaが少なくともl00Hz以上であると好ましい。
【0092】
又、前記第1のピストンの固有振動数ωn、b1および作動流体の圧縮性を考慮した固有振動数ωn、b2’と、前記第2のバルブ部材の固有振動数ωn、cとが少なくとも100Hz以上であると好ましい。
【0093】
又、前記バルブ部材は、前記吐出口に対向する端部が円錐形状となっていると好ましい。
【0094】
又、前記バルブ部材は、前記吐出口に対向する端部が球面形状となっていると好ましい。
【0095】
又、前記バルブ部材は、前記吐出口に対向する端部が平板形状となっていると好ましい。
【0096】
又、前記吐出口の前記バルブ部材側端部には面取りが形成されていると好ましい。
【0097】
又、前記第1のピストンと前記第1のシリンダ、及び前記第2のピストンと前記第2のシリンダとの少なくとも一方の間には、流体を密封する密封手段を設けており、前記密封手段は、O−リング及びPTFEシールの少なくとも一方であると好ましい。
【0098】
又、前記超磁歪素子がTbDy(1−x)Fe(xは0.3〜0.4、yは2±0.1)の化合物を主体として構成されると好ましいが、これに限られることなく種々の超磁歪素子が用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0099】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図4は、本実施の形態にかかる磁歪材料を用いたポンプの断面図である。図4において、本実施の形態のポンプは、円筒状の本体1aの軸線方向両端を、上部円盤部1bと下部円盤部1cとで挟持するように連結した構成を有する。本体1aと、円盤部1b、1cとで、強磁性体であるハウジング1を構成する。
【0100】
ハウジング1の内部には、略ペンシル状のバルブ部材2が同軸に配置されている。バルブ部材2は、SUSなどの非磁性体もしくは常磁性体から形成された上部円盤部1b側の上方部2aと、下部円盤部1c側の超磁歪素子からなる第2のアクチュエータ部(第2の超磁歪素子)2bとから形成されている。下部円盤部1c内において、第2のアクチュエータ部2bを包囲するようにして、第2のコイルである電磁コイル3が配置されている。電磁コイル3は、外部のバッテリBT2に接続可能となっており、不図示の制御装置を介して、所定の電圧が付与されると、それに応じた磁界を発生するようになっている。
【0101】
又、下方部2bの下端には、円板状のピストン(第2のピストン)4が固定取り付けされている。ピストン4は、下部円盤部1cの円筒状の凹部(第2のシリンダ)1d内に挿入されている。ピストン4の外周面に形成された周溝4a内には、密封手段であるO−リング5A及び摺動面に当接するPTFEシール5Bが二重に配置されており、ピストン4の外周面と凹部1dの内周面との間を、流体漏れがないよう密封している。尚、ピストン4は、バルブ部材2に含まれるものとする。
【0102】
下部円盤部1cにおいて、その外周面と凹部1dの底部近傍とを連通するように、通路1fが形成されている。通路1fは、図4では一カ所しか示されていないが、作動流体の流入通路と流出通路として機能させるべく、2つ配置されていると好ましい。通路1fは、蓋部材6により閉止される。
【0103】
バルブ部材2の上方部2aの周囲には、第1のピストンであるピストン部材7が配置されている。ピストン部材7は、図4で上部側に配置された略円盤状の強磁性体のピストン部7aと、それに同軸に連結された円筒状の第1のアクチュエータ部(第1の超磁歪素子)7bとからなる。本体1a内において、第1のアクチュエータ部7bを包囲するようにして、第1のコイルである電磁コイル8が配置されている。電磁コイル8は、外部のバッテリBT1に接続可能となっており、不図示の制御装置を介して、所定の電圧が付与されると、それに応じた磁界を発生するようになっている。
【0104】
ピストン部7aは、ハウジングの本体1aと上部円盤部1bとで形成する円筒状の凹部(第1のシリンダ)1g内に挿入されている。ピストン部7aの外周面に形成された周溝7c内には、密封手段であるO−リング9A及び摺動面に当接するPTFEシール9Bが二重に配置されており、ピストン部7aの外周面と本体1aの内周面との間を、流体漏れがないよう密封している。更に、ピストン部7aの内周面に形成された周溝7d内には、密封手段であるO−リング10A及び摺動面に当接するPTFEシール10Bが二重に配置されており、ピストン部7aの内周面と、バルブ部材2の外周面との間を、流体漏れがないよう密封している。
【0105】
ピストン部7aは、第1のアクチュエータ部7b側にフランジ7eを有している。フランジ7eと本体1aの段部1hとの間に形成される空間内には、バネを構成するウェーブワッシャ(又は皿ばね)11が配置され、ピストン部7aを図4で下方に付勢している。
【0106】
本体1aにおいて、その外周面と凹部1gの頂面近傍とを連通するように、通路1jが形成されている。通路1jは、その内部に逆止弁(ボールとバネとからなる公知の構成)12を配置しており、また吸入用のコネクタ13に接続している。
【0107】
本体1a内において、第1のアクチュエータ部7b及び電磁コイル8と、第2のアクチュエータ部2bと電磁コイル3との間には、非磁性の遮蔽部材14が設けられている。
【0108】
本実施の形態において、バルブ部材2の先端(図4で上端)は、截頭円錐形状となっており、その頂面2cは平面である。一方、上部円盤部1bには、バルブ部材2に対向して、外部に向かって延在する細い吐出口1mが形成されている。吐出口1mのバルブ部材2側には、面取り部1kが形成されている。
【0109】
図4から明らかなように、バルブ部材2はピストン7を軸線方向に貫通しており、従って、一方の変位が他方の変位に影響することなく、両者を独立して駆動できるようになっている。
【0110】
下部円盤部1c内に形成される凹部1dとピストン4とで密閉される空間には通路1fを介して外部より導入された任意の作動流体が封入されている。流体の種類により、その体積弾性係数Kを選択でき、或いはその封入量を調整することによって、弁の初期設定圧力や設定圧力特性を変化させることが出来る。例えば、開放位置にある頂面2cと、上部円盤部1bの下面との距離は、作動流体の封入量で調整することができる。
【0111】
本実施の形態の動作について説明する。電磁コイル8に電圧が印加されない場合、ピストン7は、ウェーブワッシャ(又は皿ばね)11の付勢力により、図4に示すように下方(すなわち吸引位置)へと移動する。このとき、電磁コイル8にも電圧が印加されておらず、作動流体の圧力により、バルブ部材2の頂面2cが、上部円盤部1bの下面に押し付けられていれば、凹部1g内の流体圧が低下するので、チェック弁12が開弁し、コネクタ13及び通路1jを介して、外部より凹部1g内へと流体を吸引することができる。
【0112】
その後、不図示の制御装置の制御下で、バッテリBT1から電磁コイル8に電圧Ve1を印加すると、電磁コイル8は、強さHの磁界を発生する。それにより、第1のアクチュエータ部7bを構成する超磁歪素子に超磁歪現象による歪みが生じるので、これを利用して、ピストン部7aを上部円盤部1bに向かって(すなわち圧縮位置へと)変位させ、凹部1gとピストン部7aとで囲う空間の容積を減少させる。かかる圧縮行程は、空間内の圧力が設定圧力(開弁圧力)P1に達するまで行う。
【0113】
開弁圧力P1に達したとき、不図示の制御装置の制御下で、バッテリBT2から電磁コイル3に電圧Ve2を印加すると、電磁コイル3は、強さHの磁界を発生する。それにより、バルブ部材2の第2のアクチュエータ部2bを構成する超磁歪素子に超磁歪現象によるΔ2の歪みが生じるので、これを利用して、バルブ部材2を開放位置へと変位させ、バルブ部材2の頂面2cを上部円盤部1bの下面から所定距離だけ離隔させる。それにより加圧された流体は、吐出口1mを介して外部へと吐出されるようになっている。
【0114】
凹部1g内の圧力が設定圧力Pcを下回ると吐出が完了し、電磁コイル3への電圧印加が中断され、凹部1d内の作動流体圧により、バルブ部材2は閉止位置へと変位し、バルブ部材2の頂面2cが上部円盤部1bの下面に当接した状態に維持される。その後、電磁コイル8への電圧印加が中断されると、電磁コイル8の電流降下による復元作用を利用して、ピストン7は、流体の吸引を伴いながら図4に示す位置(吸引位置)へと戻る。以上で、吸引と圧縮の1サイクルが完了する。
【0115】
ここで、凹部1d内の流体容積を調整することで、バルブ部材2の頂面2cと上部円盤部1bの下面との距離よりも、第2のアクチュエータ部2bの歪みΔ2(飽和磁歪状態の歪)の方が大きくなるようにした場合、計算上は、バルブ部材2を閉止位置に変位させると、バルブ部材2の頂面2cと上部円盤部1bの下面との距離が負になるが、このときはバルブ部材2が弾性変形することで距離はゼロに維持され、それによりバルブ部材2の頂面2cと上部円盤部1bの下面との間に作用する押し付け力を、吐出孔1mを閉じる力として有効に用いることができる。
【0116】
圧縮コイルばねを用いて設定する場合に比較して、本実施の形態では、弁または磁歪素子の弾性変形および作動流体の圧縮を利用していることから、この設定圧力Pcを大きな値に設定することが出来る。尚、超磁歪素子と弁部の弾性変形のみを利用して設定圧力を決定する構成にも出来るが、弾性変形のみであると、作動流体の圧縮に比べて変形に対する応力の増加が敏感になるので、設定には注意が必要である。
【0117】
更に、本実施の形態によれば逆止弁12を、ボールと圧縮コイルばねの構成にし、ハウジング1内に収め、圧縮する流体の体積がなるべく小さくなるようにすることで流体の圧縮行程を効率よく行えるようにしてある。又、本体1a内において、第1のアクチュエータ部7b及び電磁コイル8と、第2のアクチュエータ部2bと電磁コイル3との間に、強磁性体又は永久磁石から形成された遮蔽部材14を配置したので、バルブ部材2をSUSなどの非磁性体もしくは常磁性体から形成すれば、図4に示すように、遮蔽部材14を共通する形で、電磁コイル3と電磁コイル8との間に、それぞれ独立した磁束ループMPが生じることとなる。電磁コイル3,8を接近して配置しても、磁束ループMPは互いに干渉することがないので、電磁コイル8の磁界が、アクチュエータ2bに影響を与えることが抑制され、且つ電磁コイル3の磁界が、アクチュエータ7bに影響を与えることが抑制され、それによりポンプの動作を確実に行わせるように機能する。
【0118】
尚、従来から用いられている圧電素子は、一般的にセラミックス製なので加工しにくいというデメリットがあるが、超磁歪素子は、金属化合物であるため任意に切削加工でき、また焼結によって製作する場合には、型形状を工夫することで複雑な3次元形状でも容易に形成できるという特徴がある。従って、図4に示すように、ピストン部7bを貫通する孔などは、切削加工でも焼結でも容易に形成でき、コンパクトなポンプ構成を実現できる。
【0119】
(実施例)
図4に示すポンプにおいて、本発明者らが行ったシミュレーション結果を表2に示す。表2に示すパラメータを用いることで、表2(c)に示すような固有振動数ωを得ることができた。これによれば、ポンプの十分な応答性を確保できる。
【0120】
【表2】

【0121】
図7は、別な実施の形態にかかるポンプのホルダを示す図であり、図7(a)は正面図であり、図7(b)は側面図である。図7において、円筒状のホルダ20は、中央に貫通口20aを有し、その周囲に6つの貫通口20bを有している。PTFE製のホルダ20は、図4に示す第1のアクチュエータ部7bの代わりに用いることができる。すなわち、中央の貫通口20aにバルブ部材2を貫通させ、周囲の貫通孔20bには、直径D:3mmの円筒状の超磁歪素子(不図示)を嵌入させることができる。
【0122】
本実施の形態によれば、PTFEの低摩擦性を利用することで、バルブ部材2の摺動抵抗を減らして、より応答性を高めることができると共に、渦電流の影響も抑えることができるので、より応答性が高まる。
【0123】
以上、本発明を実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定して解釈されるべきではなく、適宜変更・改良が可能であることはもちろんである。
【0124】
本発明によれば、超磁歪素子の特性を活かし、バルブ及びその受圧部分をシリンダ内に収めることで高応答性を得ることができ、且つ、そのバルブを補助的に操作する第1のアクチュエータとバルブ部材を非磁性体もしくは常磁性体にし、2つのコイル間に強磁性体の分離板を介在させることで、磁気的に分離されながらも、比較的コンパクトに構成される高周波数で高圧微量吐出を可能とし、しかも細かい流量制御や吐出速度制御を行えるポンプを提供することが出来、更に渦電流損失や固有振動数を考慮することで、応答遅れを効果的に抑制できるポンプを提供することが出来た。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】縦軸に周波数、横軸に直径Dをとった時の渦電流限界周波数のグラフである。
【図2】強制振動の周波数特性を示す図である。
【図3】磁界と磁歪の関係を示す図である。
【図4】本実施の形態にかかる磁歪材料を用いたポンプの断面図である。
【図5】バルブ部材の先端形状を示す図である。
【図6】吐出口の断面形状を示す図である。
【図7】別な実施の形態にかかるポンプのホルダを示す図である。
【符号の説明】
【0126】
1 ハウジング
2 バルブ部材
3 電磁コイル
4 (第2の)ピストン
7 (第1の)ピストン
8 電磁コイル
12 逆止弁
14 遮蔽部材
20 ホルダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のコイルと、
超磁歪素子よりなる第1のアクチュエータと、
第2のコイルと、
超磁歪素子よりなる第2のアクチュエータと、
強磁性体からなり、前記第1のコイルおよび前記第1のアクチュエータと、前記第2のコイルおよび前記第2のアクチュータとの間に配置され、前記第1及び前記第2のアクチュエータを磁気的に分離する分離板とを備え、
前記第1のアクチュエータは、強磁性体からなるハウジングに形成された第1のシリンダ内を摺動する強磁性体の第1のピストンを駆動し、
前記第2のアクチュエータは、前記第1のピストンを貫通し且つ前記第1のシリンダと外部とを連通する吐出孔を開閉する非磁性のバルブ部材と、前記ハウジングに形成された第2のシリンダ内を摺動する第2のピストンとを駆動し、
前記第1のアクチュエータ及び前記第2のアクチュエータの直径又は厚みをD(mm)としたときに、以下の式が成り立つことを特徴とするポンプ。
f≧68710/D
但し、fは、アクチュエータに必要とされる応答周波数である。
【請求項2】
前記第1のアクチュエータ及び前記第2のアクチュエータの直径又は厚みD(mm)は、25.4mm以下であることを特徴とする請求項1に記載のポンプ。
【請求項3】
前記第2のアクチュエータが駆動する前記バルブ部材と前記第2のピストンとは一体となってい移動することを特徴とする請求項1又は2に記載のポンプ。
【請求項4】
外部より前記シリンダ室内に流体を吸引する通路に、逆止弁を設けており、前記逆止弁の固有振動数ωnaが少なくともl00Hz以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のポンプ
【請求項5】
前記第1のピストンの固有振動数ωn、b1および作動流体の圧縮性を考慮した固有振動数ωn、b2’と、前記第2のバルブ部材の固有振動数ωn、cとが少なくとも100Hz以上であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のポンプ
【請求項6】
前記バルブ部材は、前記吐出口に対向する端部が円錐形状となっていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のポンプ。
【請求項7】
前記バルブ部材は、前記吐出口に対向する端部が球面形状となっていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のポンプ。
【請求項8】
前記バルブ部材は、前記吐出口に対向する端部が平板形状となっていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のポンプ。
【請求項9】
前記吐出口の前記バルブ部材側端部には面取りが形成されていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載のポンプ。
【請求項10】
前記第1のピストンと前記第1のシリンダ、及び前記第2のピストンと前記第2のシリンダとの少なくとも一方の間には、流体を密封する密封手段を設けており、前記密封手段は、O−リング及びPTFEシールの少なくとも一方であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載のポンプ。
【請求項11】
前記超磁歪素子がTbDy(1−x)Fe(xは0.3〜0.4、yは2±0.1)の化合物を主体として構成されることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載のポンプ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−118478(P2006−118478A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−309601(P2004−309601)
【出願日】平成16年10月25日(2004.10.25)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】