説明

ポーラスコンクリート擁壁およびその造成方法

【課題】 凹凸が激しく勾配が急な土地の斜面に容易に造成することができるポーラスコンクリート擁壁ないしはその造成方法を提供する。
【解決手段】 まず斜面1に清掃工を施し、斜面1上に縦方向鉄筋3および横方向鉄筋4を格子状に配置する。続いて、斜面1にアンカー2を打設した上で、鉄筋3、4をアンカー2の上端近傍部に結束・固定する。次に、鉄筋3、4の上に金網部材5を取り付け、斜面1と金網部材5との間の空間部にポーラスコンクリート材料を吹き付けてポーラスコンクリート層6を形成し、ポーラスコンクリート層6の連続空隙に生育基盤材7を注入する。さらに、肥料および保水剤を入れた袋体8を金網部材5に取り付けた後、金網部材5の上に傾斜緩和部材9を配設する。この後、ポーラスコンクリート層6の上に植生基材を吹き付けて植生層10を形成し、この植生層10に木本植物11の苗を植栽する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、法面等の土地の斜面、とくに凹凸が激しい急斜面での造成に適したポーラスコンクリート擁壁の構造と、該ポーラスコンクリート擁壁の造成方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
内部に連続空隙を有するポーラスコンクリートは、普通のコンクリートとは異なり、通水性を有するのでその表面の緑化が可能であり、その景観ないしは周囲の環境を良くすることができることから、法面等の土地の斜面を保護するための擁壁の材料などとして広く用いられている。そして、ポーラスコンクリート擁壁の造成手法としては、従来、次の2つの手法が知られている。
【0003】
その1つは、工場内において振動締固め法等により成型したポーラスコンクリート製のブロック製品(プレキャスト)を擁壁造成現場に搬入し、トラッククレーン等を用いて該ブロック製品を斜面に設置するといった手法、いわゆるプレキャスト法である(例えば、特許文献1参照)。もう1つは、擁壁造成現場あるいは生コンクリート工場で製造した混練り材料を、バックホウやトラッククレーンなどで持ち上げて斜面に敷均し、この後転圧するといった手法、いわゆる現場打ち法である(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平5−98654号公報(段落[0007]、図2)
【特許文献2】特開2001−199776号公報(段落[0006])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらの従来のポーラスコンクリート擁壁の造成手法では、いずれも、斜面の凹凸が激しい場合は、該斜面を切土や盛土整形により平滑化しなければならないといった問題がある。また、安全性を考慮すれば、斜面勾配は1:1.0より緩やかでなければならないといった問題もある。さらに、ブロック製品ないしは混練り材料の持ち上げには、通常、トラッククレーンを使用するので、施工すべき斜面の下に、トラックの搬入路や各種機械の設置スペースを設けなければならないといった問題もある。このほか、施工が可能な斜面は、クレーンの届く高さ(10m程度)の範囲に限定されるといった問題もある。
【0005】
本発明は、上記従来の問題を解決するためになされたものであって、斜面勾配が急な場合、斜面の凹凸が激しい場合、あるいは斜面が高い場合でも、法面等の土地の斜面に容易に造成することができるポーラスコンクリート擁壁ないしはその造成方法を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためになされた本発明にかかるポーラスコンクリート擁壁は、(i)土地の斜面上に、該斜面と離間するように配設された網状部材と、(ii)少なくとも斜面と網状部材との間の空間部を充填するように形成されたポーラスコンクリート層とを有することを特徴とする。ここで、網状部材は、ポーラスコンクリート層に埋没していてもよい。
【0007】
このポーラスコンクリート擁壁においては、斜面に打設された(打ち込まれた)アンカーと、縦方向および横方向に伸びかつアンカーに固定された格子状の鉄筋とを有し、網状部材が鉄筋に固定されているのが好ましい。ここで、アンカーは、アンカー本体部の斜面からの露出長(ないしは、斜面への打ち込み深さ)を規制する(一定にする)スペーサを備えていてもよい。
【0008】
網状部材には、肥料および保水剤を収容している袋体が取り付けられているのが好ましい。斜面勾配が1:0.8より急な部分において、ポーラスコンクリート層の上に、斜面の傾斜を緩和する傾斜緩和部材が設置されているのが好ましい。また、ポーラスコンクリート層上に植生層が設けられ、この植生層に木本植物(木本類)が植栽されているのが好ましい。
【0009】
また、本発明にかかるポーラスコンクリート擁壁の造成方法は、(i)土地の斜面上に、該斜面と離間するように網状部材を配設し、(ii)固化していないポーラスコンクリート材料を、少なくとも斜面と網状部材との間の空間部を充填するように供給し、(iii)ポーラスコンクリート材料を固化させて斜面上にポーラスコンクリート層を形成することを特徴とする。ここで、ポーラスコンクリート材料を、網状部材が埋没するまで供給してもよい。
【0010】
このポーラスコンクリート擁壁の造成方法においては、網状部材を配設する前に、斜面に、縦方向および横方向に伸びる格子状の鉄筋を配置するとともにアンカーを打設し、鉄筋をアンカーに固定し、この後網状部材を鉄筋に固定するのが好ましい。ここで、アンカー本体部の斜面からの露出長を規制するスペーサを備えたアンカーを用いてもよい。
【0011】
このポーラスコンクリート擁壁の造成方法においては、斜面にポーラスコンクリート材料を供給する前または供給した後で、網状部材に、肥料および保水剤を収容している袋体を取り付けるのが好ましい。斜面勾配が1:0.8より急な部分には、斜面の傾斜を緩和する傾斜緩和部材を設置するのが好ましい。また、ポーラスコンクリート層の上に植生層を設け、この植生層に木本植物の苗(例えば、ポット苗)を植栽するのが好ましい。
【0012】
このポーラスコンクリート擁壁の造成方法においては、斜面へのポーラスコンクリート材料の供給を、空気搬送装置により骨材を網状部材の上から斜面に吹き付け、この後骨材に結合材を吹き付けまたは圧入することにより行ってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明にかかるポーラスコンクリート擁壁ないしはその造成方法によれば、斜面勾配が急な場合、斜面の凹凸が激しい場合、あるいは斜面が高い場合でも、トラックの搬入路や各種機械の設置スペースを設けることなく、法面等の土地の斜面にポーラスコンクリート擁壁を容易に造成することができる。また、斜面を容易に緑化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付の図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を具体的に説明する。
前記のとおり、従来のポーラスコンクリート擁壁の造成手法では、斜面は平坦かつ緩やかでなければならず、また施工が可能な斜面の高さなどの立地条件についてもかなりの制約を受けるといった問題がある。さらに、斜面の下にトラックの搬入路や機械の設置スペースを確保しなければならないので、仮設施設の構築にかなりの費用および工期を必要とするといった問題もある。
【0015】
本発明は、基本的には、土地の斜面上に該斜面と離間するように金網部材(網状部材)ないしは金網型枠を配設した上で、固化していないポーラスコンクリート材料を、金網部材を通して斜面に吹き付け、この後ポーラスコンクリート材料を固化させて斜面上にポーラスコンクリート層を形成することにより、これらの諸問題を解決している。さらには、斜面にポーラスコンクリート材料を吹き付ける前または吹き付けた後に、肥料や保水剤を収容している袋体を金網部材に取り付け、この後ポーラスコンクリート層の表面に植生工を施すことにより斜面の緑化を図るものである。このように植生工を併用することにより、ポーラスコンクリートによる斜面の安定化だけでなく、斜面の表面の緑化を図ることができ、大気中のCOの低減や環境の改善を図ることができる。
【0016】
以下、本発明にかかるポーラスコンクリート擁壁の具体的な構造を説明する。
図1は、植生工を併用しない場合の擁壁構造を示す図である。図1に示すように、この擁壁構造においては、凹凸が存在する急勾配の斜面1(例えば、勾配が1:1より急な斜面)に、アンカー本体部2aとスペーサ2bとからなる複数のアンカー2(アンカーピン)が打設されている。なお、以下では、便宜上、斜面1上において、水平方向を「横方向」といい、この横方向と垂直な方向(上下方向)を「縦方向」という。
【0017】
そして、これらのアンカー2の上端近傍部に、複数の縦方向鉄筋3(斜面1上において縦方向に伸びる鉄筋)と複数の横方向鉄筋4(斜面1上において横方向に伸びる鉄筋)とが結束・固定されている。縦方向鉄筋3および横方向鉄筋4は、それぞれ、一定の間隔(例えば、1m)で格子状に配置され、各交差部近傍にそれぞれアンカー2が配置されている。例えば、両鉄筋3、4を1m間隔で配置した場合、斜面1におけるアンカー2の打設密度は1本/mとなる。なお、鉄筋3、4の交差部近傍以外の部位、例えば鉄筋3、4で囲まれた矩形の中心部に、追加のアンカー2を打設してもよい。
【0018】
アンカー2および鉄筋3、4の上には金網部材5(金網型枠)が配設され、この金網部材5は、例えば針金(図示せず)などを用いて鉄筋3、4に結束・固定されている。後で説明するように、鉄筋3、4と斜面1との全体的ないしは平均的な間隔は一定に保たれ、その結果、金網部材5と斜面1との全体的ないしは平均的な間隔も一定に保たれている(例えば、90mm)。
【0019】
そして、金網部材5と斜面1との間の空間部を充填するとともに金網部材5を被覆するようにポーラスコンクリート層6が形成されている。すなわち、金網部材5はポーラスコンクリート層6内に埋没している。このポーラスコンクリート層6は、基本的には、多数の骨材がセメント等の結合材で結合された、連続空隙を有するポーラスコンクリートないしは多孔性コンクリートからなり、透水性を有している。
【0020】
図2は、植生工を併用する場合の擁壁構造を示す図である。図2に示すように、この擁壁構造においても、図1に示す植生工を併用しない場合の擁壁構造と同様に、斜面1に複数のアンカー2が打設され、斜面1上に縦方向鉄筋3と横方向鉄筋4と金網型枠5とが配設され、かつポーラスコンクリート層6が形成されている。ただし、ポーラスコンクリート層6は、金網部材5と斜面1との間の空間部を充填しているだけであり、金網部材5を被覆していない。
【0021】
そして、植生工を併用するこの擁壁構造では、ポーラスコンクリート層6の連続空隙内に、スラリー状の生育基盤材7が注入されている。また、金網部材5には、随所に、肥料および保水剤を収容している袋体8が取り付けられている。
【0022】
さらに、斜面勾配がとくに急な部分、例えば斜面勾配が1:0.8より急な部分において、金網部材5ないしはポーラスコンクリート層6の上に、斜面1の傾斜(勾配)を緩和する傾斜緩和部材9が設置されている。この傾斜緩和部材9は金網部材5に固定されている。そして、ポーラスコンクリート層6の上には、金網部材5および傾斜緩和部材9を被覆するように植生層10が設けられ、この植生層10に木本植物11が植えられている。
【0023】
ここで、傾斜緩和部材9は、側面断面でみれば、略「へ」の字状に上側(斜面から離れる側)に突出する形状を有している。つまり、傾斜緩和部材9と金網部材5ないしはポーラスコンクリート層6との間には、側面断面が略三角形の空間部が形成されている。この傾斜緩和部材9により、植生層10の表面の勾配が、金網部材5ないしはポーラスコンクリート層6の勾配より緩やかとなり、木本植物11の植栽が容易となり、かつその成長ないしは生育が促進される。
【0024】
以下、本発明にかかるポーラスコンクリート擁壁の具体的な造成方法ないしは施工手順を説明する。
まず、図1を参照しつつ、植生工を併用しない場合の造成方法を説明する。この造成方法は、ポーラスコンクリート擁壁の強度が重視される場合に適した手法である。
(1)斜面清掃工
この造成方法においては、まず、ポーラスコンクリート擁壁を形成すべき斜面1(法面)に清掃工を施す。例えば、斜面1上の細かい石や木の根などを除去する。
【0025】
(2)鉄筋工
次に、斜面1の上に、複数の縦方向鉄筋3を、縦方向に伸びるようにして、一定の間隔(例えば1m)で平行に配置する。続いて、縦方向鉄筋3の上に、複数の横方向鉄筋4を、横方向に伸びるようにして、一定の間隔(例えば、1m)で平行に配置する。つまり、斜面1の上に縦方向鉄筋3および横方向鉄筋4を格子状に配置する。ここで、縦方向鉄筋3および横方向鉄筋4としては、標準的には、エポキシ粉体塗装鉄筋や、亜鉛メッキ加工等の防食処理を施した鉄筋が用いられる(例えば、直径が10mmの横断面が円形のもの)。
【0026】
(3)アンカーの打設
鉄筋3、4を格子状に配置した後、鉄筋3、4の各交差部の近傍において、斜面1にアンカー2を打設する。
図3(a)に拡大して示すように、アンカー2は、先端が尖った細長い略円柱形のアンカー本体部2aと、先端が尖っていないL字形(断面は円形)のスペーサ2bとからなる「十手」形のスペーサである。ここで、アンカー2としては、例えば、L型フック(スペーサ)を、先付け加工したアンカーバー(アンカー本体部)の所定位置に溶接し、亜鉛メッキ加工などの防食処理を施したものなどを用いることができる。なお、アンカーバーに使用する鉄筋の種別、全長、径、L型フックの取り付け位置などは、設計吹き付け厚、土質の性状などに応じて決定される。
【0027】
スペーサ2bを備えたアンカー2を斜面1に打ち込んだ場合、アンカー本体部2aは、スペーサ2bの先端が斜面1に当接するまでは斜面1内に入り込んでゆくが、それ以上は入り込まない。したがって、アンカー本体部2aの斜面1への打ち込み深さ(アンカー2の根入れ長)は一定となる。これにより、アンカー本体部2aの斜面1からの露出長は一定となり、その結果鉄筋3、4と斜面1との全体的ないしは平均的な間隔は一定となる。
【0028】
図3(a)において、Lはアンカー2の全長(アンカー本体部2aの全長)を示し、Lはアンカー2の根入れ長(打ち込み深さ)を示し、Lはアンカー2の露出長を示し、ΔLはスペーサ2bの長さ(高さ)を示し、ΔL(=L−ΔL)はスペーサ2bより上側(斜面から離れる側)のアンカー本体部2aの長さ(ほぼ鉄筋高さ)を示し、Hはスペーサ2bの幅(広がり長)を示している。ここで、Lは、斜面1の土質の硬軟に応じて決定される(土質が軟らかいほど長くなる)。また、ΔLは、鉄筋3、4(断面は円形)の直径φの2倍よりやや大きい値、例えば(2φ+10mm)に設定される。
【0029】
なお、アンカーの直径が10mmの場合、アンカー2の各寸法は、例えば、次のような値に設定される。
(アンカーの寸法の具体例)
L :300mm ΔL:70mm
:200mm ΔL:30mm
:100mm H :50mm
【0030】
なお、スペーサ2bは、L字形のものに限定されるわけではなく、アンカー2の根入れ長ないしは露出長を一定にすることができるものであれば、どのような形状のものでもよい。例えば、図3(b)に示すように、アンカー本体部2aに対して対称な2つのL字形のスペーサ2cを備えたアンカー2’を用いてもよい。また、図3(c)に示すように、アンカー本体部2aから横方向に伸びる直線状のスペーサ2dを備えたアンカー2”を用いてもよい。
【0031】
このように、各アンカー2を、スペーサ2bの先端部が斜面1に当接するまで打ち込んで各アンカー2の斜面1からの露出長を一定とした後、縦方向鉄筋3および横方向鉄筋4を、スペーサ2bの上辺部に載せた後、アンカー2に結束して固定する。これにより、縦方向鉄筋3および横方向鉄筋4は、斜面1との間に一定の間隔を保って格子状に配置される。
【0032】
(4)金網部材の設置
次に、格子状に配置された縦方向鉄筋3および横方向鉄筋4の上に金網部材5を配置し、該金網部材5を縦方向鉄筋3および横方向鉄筋4に結束して固定する。これにより、金網部材5は、斜面1との間に一定の間隔を保って配置される。つまり、金網部材5は、一定の間隔を空けて斜面1を覆うことになる。金網部材5としては、例えば、亜鉛メッキ加工を施した菱形金網や、溶接金網などの鉄製またはステンレス製の金網を用いることができる。また、金網部材5の線径や目合は、設計吹き付け厚、土質性状、使用骨材径、種類等に応じて決定される。なお、金網部材5に代えて、プラスチック製の網状部材などを用いてもよい。
【0033】
(5)ポーラスコンクリート材料の吹き付け
さらに、金網部材5を通して、斜面1に、固化していないポーラスコンクリート材料を吹き付け、この後ポーラスコンクリート材料を固化させてポーラスコンクリート層6を形成する。すなわち、斜面1上に金網部材5によって形成された型枠内に、現場の強制練りミキサで混練りしたポーラスコンクリート材料を吹き付け、斜面1に切土や盛土整形を施すことなく、短期間で容易に凹凸のある急斜面にポーラスコンクリート層6を形成する。なお、このポーラスコンクリート材料の吹き付け作業は、斜面1の下側(法尻)から上側(法肩)に向かって進めてゆくのが好ましい。
【0034】
このようなポーラスコンクリート吹き付け工法においては、例えば、水平方向に100m、鉛直方向に30mの長距離にわたってポーラスコンクリート材料を圧送することができる。したがって、施工すべき斜面1の下に、トラック等の搬入路や機械の設置スペースを設ける必要はない。
【0035】
ポーラスコンクリート材料は、骨材と結合材(水を含む)の混合物である。ここで、骨材としては、斜面1の安定化を主目的とする場合は、例えば、中国産骨材、国内産砕石等の強度の高い骨材が用いられる。また、吸音効果や水質浄化や緑化を期待する場合は、ガラス発泡骨材、人工軽量骨材、炭等の吸水性および保水性に優れた軟質な骨材が用いられる。
【0036】
結合材としては、例えば、セメントと混和剤とビニロン短繊維と水とを混合した、テーブルフロー値が180〜250mmの範囲内のセメントペーストなどが用いられる。より高い強度を必要とする場合は、混和剤(フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、シリカフューム、石灰微粉末(生石灰)など)が添加される。また、珪砂、細砂、ガラス焼成軽量骨材(Gライト)、高強度中空セラミックバルーン(セノライト)などを添加したモルタルを用いてもよい。混和剤(流動化剤)としては、例えば高性能AE減水剤が用いられる。
【0037】
次に、図2を参照しつつ、骨材と結合材とがあらかじめ混合されたポーラスコンクリート材料を斜面に吹き付けるとともに植生工を併用する場合のポーラスコンクリート擁壁の造成方法ないしは施工手順を説明する。この造成方法は、ポーラスコンクリート擁壁の強度と景観の両方が重視される場合に適したものである。
【0038】
この造成方法では、前記の植生工を併用しないポーラスコンクリート擁壁の造成方法の場合と同様に、次の各工程を経てポーラスコンクリート層6が形成される。
(1)法面清掃工
(2)鉄筋工
(3)アンカーの打設
(4)金網部材の設置
(5)ポーラスコンクリート材料の吹き付け
ただし、この造成方法では、後で説明するように金網部材5に袋体8を取り付けるので、ポーラスコンクリート層6は、金網部材5が埋没しないように形成する。
【0039】
(6)生育基盤材の注入(必要に応じて)
斜面1にポーラスコンクリート材料を吹き付けた後、該ポーラスコンクリート材料内の連続空隙に生育基盤材7を注入する。この生育基盤材7としては、例えば、粘度調整のためのベントナイト、高分子系接着剤、アルカリ分調整のためのビール汚泥、植生基材としての通し土(細粒黒土、炭微粉等)、保水剤としての高分子系樹脂、微粒珪砂(キラ)、養分確保のための液状肥料ないしは細粒肥料などを水と混合したものを、ミキサで十分に攪拌してスラリー状にしたもの(Pロートでフロー値が8.5〜10秒)などが用いられる。
【0040】
生育基盤材7は、例えば、ポーラスコンクリート材料の吹き付け前にあらかじめ設置された注入管を介して連続空隙に注入される。あるいは、グラウトポンプを用いてポーラスコンクリート材料ないしはポーラスコンクリート層6の表面から圧入することにより連続空隙に注入される。なお、生育基盤材7は、必要がなければ注入しなくてもよい。
【0041】
(7)袋体の設置
次に、保水剤や肥料を収容している袋体8(ないしは容器)を、金網部材5の随所に、例えば、格子状に配置された縦方向鉄筋3と横方向鉄筋4とによって形成される略正方形の各領域に1つずつ取り付ける。この袋体8としては、例えば、亜鉛メッキ鉄材を用いた籠体、プラスチック製の容器、ダンボール製の容器などが用いられるが、いずれも肥料成分や水分が緩やかに染み出るように孔加工が施され、あるいは網状に形成されたものである。なお、袋体8は、可溶性の材料(例えば、生分解性繊維)で形成するのが、とくに好ましい。袋体8内に収容される肥料や保水剤は、生育基盤材7の場合と同様である。
【0042】
(8)傾斜緩和部材の設置
袋体8を設置した後、斜面1の勾配が急な部分、例えば斜面勾配が1:0.8より急な部分において、金網部材5ないしはポーラスコンクリート層6の上に、木本植物の導入ないしは育成を容易にするために、斜面勾配を緩和する傾斜緩和部材9を設置する。傾斜緩和部材9は、例えば金網などで形成される。
【0043】
(9)植生工
傾斜緩和部材9を設置した後、該傾斜緩和層9が取り付けられた金網部材5ないしはポーラスコンクリート層6に植生基材を吹き付けて植生層10(植物育成層)を形成する。これにより、袋体8は植生層10内に埋没する。なお、植生基材としては、例えば、基盤材(例えば、バーク堆肥、マサ土、有機質含有汚泥)と、高分子系保水剤と、高分子系接合剤と、水とを混合したものなどが用いられる。
【0044】
(10)植栽工(必要に応じて)
この後、植生層10に、木本植物11の苗、例えばポット苗を植栽する。前記のとおり、ポーラスコンクリート層6内の連続空隙には生育基盤材7が注入され、かつ植生層10中には肥料および保水剤を収容している袋体8が埋め込まれているので、植生層10の乾燥が防止され、苗に養分が十分に与えられ、苗の初期生育が促進される。なお、木本植物の苗を植栽せず、自然に植物が繁殖するのを待つようにしてもよい。
【0045】
以下、植生工を併用するとともにプレパクト方式を用いる場合のポーラスコンクリート擁壁の造成方法ないしは施工手順を説明する。この造成方法は、ポーラスコンクリート擁壁の強度はさほど必要とはされないが、景観が重視される場合に適したものである。この造成方法は、擁壁などの構造物の壁面緑化などにも応用することができる。
【0046】
この造成方法では、前記のポーラスコンクリート材料を吹き付けるとともに植生工を併用するポーラスコンクリート擁壁の造成方法の場合と同様に、次の各工程を経て金網部材が設置される。
(1)法面清掃工
(2)鉄筋工
(3)アンカーの打設
(4)金網部材の設置
ただし、この造成方法では、ポーラスコンクリート材料の吹き付けではなく、以下で説明するように、プレパクト方式でポーラスコンクリート層6が形成される。
【0047】
(5)骨材の吹付
斜面1の上に金網部材5を設置した後、強力空気搬送装置を用いて、骨材を、金網部材5を通して斜面1に吹き付ける。これにより、金網部材5と斜面1との間の空間部には骨材が充填される。なお、骨材は、前記の植生工を併用しないポーラスコンクリート擁壁の造成方法で用いられるものと同様である。
【0048】
(6)結合材の注入
次に、あらかじめ設置した注入管等を用いて、金網部材5と斜面1との間に充填された骨材に、その表面から結合材を圧入し、この結合材を硬化させることにより骨材同士を結合させ、ポーラスコンクリート層7を形成する。結合材は、前記の植生工を併用しないポーラスコンクリート擁壁の造成方法で用いられるものと同様である。なお、このようなプレパクト方式によるポーラスコンクリート層6の形成手法は、一般に、ポーラスコンクリート擁壁に対する要求強度が低い場合や、近隣に吹き付けプラントの設置スペースが確保できない場合や、緑化基礎工としての機能のみが要求される構造物の低コストの壁面緑化工などに用いられる。
【0049】
この後、前記のポーラスコンクリート材料を吹き付けるとともに植生工を併用するポーラスコンクリート擁壁の造成方法の場合と同様に、次の各工程を経て、植生工ないし植栽工が施される。
(7)生育基盤材の注入(必要に応じて)
(8)袋体の設置
(9)傾斜緩和部材の設置
(10)植生工
(11)植栽工(必要に応じて)
【0050】
以上、前記の各ポーラスコンクリート擁壁の造成方法によれば、斜面1の勾配が急な場合、斜面1の凹凸が激しい場合、あるいは斜面1が高い場合でも、トラックの搬入路や各種機械の設置スペースを設けることなく、斜面1にポーラスコンクリート擁壁を容易に造成することができる。また、ポーラスコンクリート層6に植生工ないし植栽工を施す場合は、ポーラスコンクリート擁壁を容易にかつ効果的に緑化することができ、その美観および環境を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】植生工を併用しない場合のポーラスコンクリート擁壁の側面断面図である。
【図2】植生工を併用する場合のポーラスコンクリート擁壁の側面断面図である。
【図3】(a)は図1または図2に示す斜面に打設されたアンカーの側面図であり、(b)および(c)は、それぞれ、変形例にかかるアンカーの側面図である。
【符号の説明】
【0052】
1 斜面、2 アンカー、2’ アンカー、2” アンカー、2a アンカー本体部、2b スペーサ、2c スペーサ、2d スペーサ、3 縦方向鉄筋、4 横方向鉄筋、5 金網部材、6 ポーラスコンクリート層、7 生育基盤材、8 袋体、9 傾斜緩和部材、10 植生層、11 木本植物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土地の斜面上に、該斜面と離間するように配設された網状部材と、
少なくとも上記斜面と上記網状部材との間の空間部を充填するように形成されたポーラスコンクリート層とを有することを特徴とするポーラスコンクリート擁壁。
【請求項2】
上記網状部材が、上記ポーラスコンクリート層に埋没していることを特徴とする、請求項1に記載のポーラスコンクリート擁壁。
【請求項3】
上記斜面に打設されたアンカーと、縦方向および横方向に伸びかつ上記アンカーに固定された格子状の鉄筋とを有し、上記網状部材が上記鉄筋に固定されていることを特徴とする、請求項1または2に記載のポーラスコンクリート擁壁。
【請求項4】
上記アンカーが、アンカー本体部の上記斜面からの露出長を規制するスペーサを備えていることを特徴とする、請求項3に記載のポーラスコンクリート擁壁。
【請求項5】
上記網状部材に、肥料および保水剤を収容している袋体が取り付けられていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1つに記載のポーラスコンクリート擁壁。
【請求項6】
斜面勾配が1:0.8より急な部分において、上記ポーラスコンクリート層の上に、上記斜面の傾斜を緩和する傾斜緩和部材が設置されていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1つに記載のポーラスコンクリート擁壁。
【請求項7】
上記ポーラスコンクリート層の上に植生層が設けられ、該植生層に木本植物が植栽されていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1つに記載のポーラスコンクリート擁壁。
【請求項8】
土地の斜面上に、該斜面と離間するように網状部材を配設し、
固化していないポーラスコンクリート材料を、少なくとも上記斜面と上記網状部材との間の空間部を充填するように供給し、
上記ポーラスコンクリート材料を固化させて上記斜面上にポーラスコンクリート層を形成することを特徴とするポーラスコンクリート擁壁の造成方法。
【請求項9】
上記ポーラスコンクリート材料を、上記網状部材が埋没するように供給することを特徴とする、請求項8に記載のポーラスコンクリート擁壁の造成方法。
【請求項10】
上記網状部材を配設する前に、上記斜面に、縦方向および横方向に伸びる格子状の鉄筋を配置するとともにアンカーを打設し、上記鉄筋を上記アンカーに固定し、この後上記網状部材を上記鉄筋に固定することを特徴とする、請求項8または9に記載のポーラスコンクリート擁壁の造成方法。
【請求項11】
アンカー本体部の上記斜面からの露出長を規制するスペーサを備えたアンカーを用いることを特徴とする、請求項10に記載のポーラスコンクリート擁壁の造成方法。
【請求項12】
上記網状部材に、肥料および保水剤を収容している袋体を取り付けることを特徴とする、請求項8〜11のいずれか1つに記載のポーラスコンクリート擁壁の造成方法。
【請求項13】
斜面勾配が1:0.8より急な部分において、上記ポーラスコンクリート層の上に、上記斜面の傾斜を緩和する傾斜緩和部材を設置することを特徴とする、請求項8〜12のいずれか1つに記載のポーラスコンクリート擁壁の造成方法。
【請求項14】
上記ポーラスコンクリート層の上に植生層を設け、該植生層に木本植物の苗を植栽することを特徴とする、請求項8〜13のいずれか1つに記載のポーラスコンクリート擁壁の造成方法。
【請求項15】
上記斜面への上記ポーラスコンクリート材料の供給を、空気搬送装置により骨材を上記網状部材の上から上記斜面に吹き付け、この後上記骨材に結合材を吹き付けまたは圧入することにより行うことを特徴とする、請求項8〜14のいずれか1つに記載のポーラスコンクリート擁壁の造成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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