説明

マイクロカプセルおよびその製造法ならびにマイクロカプセルを具備してなる表示媒体

【課題】広い範囲でpHが変化しても被膜の変化が少なく、十分な強度と耐熱性とを有する低毒性または無毒性のマイクロカプセルの製造等、ならびにそのマイクロカプセルを利用した表示媒体の提供。
【解決手段】タンパク質被膜を具備してなるマイクロカプセルであって、前記タンパク質被膜が、水溶性タンパク質被膜をアミノ基架橋型硬化剤とカルボキシル基架橋型硬化剤との両方により硬化されたものであるマイクロカプセル。このマイクロカプセルは、例えば水溶性タンパク質からなる被膜を、まずアミノ基架橋型硬化剤で硬化させ、次いでカルボキシル基架橋型硬化剤で硬化させることで製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロカプセル、およびマイクロカプセルの製造法に関するものである。より詳しくは、タンパク質被膜が、アミノ基架橋型硬化剤とカルボキシル基架橋型硬化剤との両方により硬化されたマイクロカプセル、ならびにその製造法等に関するものである。
本発明は、さらにそのようなマイクロカプセルを具備してなる磁気表示媒体等の表示媒体にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、マイクロカプセルは種々の用途に応用されており、その製造法に関しても多くの提案がなされている。中でもコンプレックス・コアセルベーション法は工業的に応用されているマイクロカプセル化法の一つとして挙げられる。
【0003】
一般的なコンプレックス・コアセルベーション法は、以下のような処理によってマイクロカプセルを製造するものである。
(1)被膜物質(ポリカチオン)を含む水溶液中に芯物質(油性物質)を分散させ、油滴が水溶液中に分散したO/Wエマルジョンとする。
(2)エマルジョンにポリアニオンを添加して混合し、酸を添加してpHを3〜5程度に調整する。これによりコアセルベーションが生じ、コアセルベート被膜が形成される。
(3)温度を低温にしてコアセルベート滴の被膜をゲル化させ、さらに硬化剤を添加して被膜を硬化(架橋および/または変性)させる。
【0004】
従来、このような方法でマイクロカプセルの被膜に硬化剤として用いられるのはホルムアルデヒドやグルタルアルデヒド等のアルデヒド基含有硬化剤が一般的であった(引用文献1〜2)。しかし、アルデヒド基含有硬化剤は被膜硬化の反応速度が比較的速く、効果的な硬化剤であるが、毒性の観点や環境への配慮の観点から、その使用が厳しく制限されている。ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒドは共にPRTR法第1種指定化学物質に指定されており、特にホルムアルデヒドは、近年シックハウス症候群の原因物質として関連性が疑われており、更に揮発性有機化合物(以下、VOCという)として排出規制対象物質に位置付けられている。
【0005】
このためにアルデヒド基含有硬化剤に代わる硬化剤を用いた種々のマイクロカプセルの製造法検討がなされている。その代表的なものとしてトランスグルタミナーゼを用いた方法が挙げられる(特許文献3〜5)。ところが、本発明者の検討によれば、単純に硬化剤としてトランスグルタミナーゼを用いた場合には硬化後のマイクロカプセルであっても、中性、あるいはアルカリ性といった比較的高いpH域では被膜の膨潤が生じる傾向にある。このような被膜の膨潤はマイクロカプセルの変形などにつながるために好ましくない。このため、従来知られていた、トランスグルタミナーゼを硬化剤として用いたマイクロカプセルについては改良の余地があった。
【0006】
また、アルデヒド基含有硬化剤に代わる硬化剤として、トランスグルタミナーゼ以外の硬化剤についても検討されている。例えば、オキサゾリン基含有化合物、カルボジイミド基含有化合物などで基材に塗布された被膜を硬化させる方法が知られている(特許文献6および7)が、これらをマイクロカプセルの被膜硬化に適用した場合、その反応性に起因して反応に時間がかかるという懸念点があった。
【0007】
一方、マイクロカプセルを利用した磁気表示媒体や感熱性記録材料も検討されている(特許文献8)。しかし、これらの材料は、従来の方法により製造されたマイクロカプセルを用いるものであり、有害なアルデヒド類を比較的多く含んだマイクロカプセルが用いられるのが一般的であった。
【特許文献1】特開昭56−15837号公報
【特許文献2】特開昭50−142477号公報
【特許文献3】特開平10−249184号公報
【特許文献4】特開平2−86741号公報
【特許文献5】特開平5−292899号公報
【特許文献6】特開平5−25361号公報
【特許文献7】特開平10−316930号公報
【特許文献8】特開2001−75510号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、広い範囲でpHが変化しても被膜の変化が少なく、強度および耐熱性の十分な低毒性または無毒性のマイクロカプセル、ならびにその製造法等を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によるマイクロカプセルは、タンパク質被膜を具備してなるマイクロカプセルであって、前記タンパク質被膜が、水溶性タンパク質被膜をアミノ基架橋型硬化剤とカルボキシル基架橋型硬化剤との両方により硬化させたものであること、を特徴とするものである。
【0010】
また、本発明によるマイクロカプセルの製造法は、タンパク質被膜を有するマイクロカプセルを製造するに際し、水溶性タンパク質からなる被膜を、アミノ基架橋型硬化剤とカルボキシル基架橋型硬化剤との両方により硬化させること、を特徴とするものである。
【0011】
また、本発明によるもう一つのマイクロカプセルは、前記の方法により製造されたこと、を特徴とするものである。
【0012】
さらに、本発明による表示媒体は、前記のいずれかのマイクロカプセルを具備してなること、を特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、広い範囲でpHが変化しても被膜の変化が少なく、かつ十分な強度および耐熱性を有する低毒性または無毒性のマイクロカプセル、またはその製造法が提供される。特に本発明によるマイクロカプセルの製造法によれば、水溶性タンパク質被膜のアミノ基とカルボキシル基とをそれぞれ架橋させることにより、十分な被膜の強度および耐熱性を達成できる。そして、この方法から得られたマイクロカプセルを用いることにより、有害物質を含まない、解像度に優れた表示媒体または記録材料を形成させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
マイクロカプセルの製造法
本発明によるマイクロカプセルの製造法は、水溶性タンパク質被膜をアミノ基架橋型硬化剤とカルボキシル基架橋型硬化剤との両方を用いて硬化させることを含んでなる。このような被膜の硬化のための条件を満たすのであれば、その他は任意の方法を組み合わせることができる。コンプレックス・コアセルべーション法に従った本発明による方法の一例を製造工程の順序に従って説明すると以下の通りである。
【0015】
まず、被膜物質を含む水溶液中に芯物質(油性物質)を分散させ、油滴が水溶液中に分散したO/Wエマルジョンを形成させる。
【0016】
用いられる芯物質は、目的とするマイクロカプセルに応じて任意に選択される。例えば粘着剤、接着剤、色材などが挙げられる。また、表示媒体の素子等、例えば磁気表示媒体の微小磁性粒子などを分散物として含む油性物質、電子ペーパーに用いられる泳動粒子、ツイストボールなどの反転粒子、液晶などを含む油性物質、または加熱により変色する感熱記録材料を用いることもできる。また、そのほか食品、医薬品、医薬部外品、香料、洗浄剤等、水に不混和なものを芯物質とすることができる。
【0017】
本発明に用いることができる水溶性タンパク質の種類としては、ゼラチン、寒天、カゼイン、大豆蛋白、コラーゲン、アルブミンなどが挙げられる。本発明による方法にはこれらの水溶性タンパク質の中でもゼラチンが好ましく用いられる。これらの水溶性タンパク質は一般に酸性基と塩基性基とを有するが、酸性基から解離したプロトンの数と塩基性基に結合したプロトンの数とが一致したときのpHを、その水溶性タンパク質の等イオン点(isoionic point:以下、pIということがある)という。このpIが低い水溶性タンパク質に対して、トランスグルタミナーゼのようなアミノ基架橋型硬化剤だけを用いると、架橋反応後にカルボキシル基が比較的多く残存する。この結果、硬化後のマイクロカプセルは高pHの条件においてカルボキシル基同士の反発によって膨潤するものと考えられる。本発明においては、pIが低い、すなわちカルボキシル基が多い水溶性タンパク質を用いた場合であっても、十分な架橋がなされて、広い範囲でpHが変化しても被膜の変化が少なく、十分な耐熱性および強度を有するマイクロカプセルを達成できる。特にゼラチンに関しては、そのpIは原料や製造時の処理の方法によって変化する。ゼラチンはその製造時の処理の仕方によって、酸処理ゼラチンとアルカリ処理ゼラチンとに大別でき、酸処理ゼラチンのpIが高く、アルカリ処理ゼラチンのpIが低い傾向にある。このため、本発明においては酸処理ゼラチンを用いることもできるが、カルボキシル基が多く含まれていても十分な架橋をさせることが可能であるのでアルカリ処理ゼラチンを用いることも可能であり、従来のトランスグルタミナーゼを単独で用いた場合にくらべてより高い強度および耐熱性が実現できるのでアルカリ処理ゼラチンを用いることが好ましい。また、酸処理ゼラチンであっても、pIが低いものであればアルカリ処理ゼラチンと同等の効果を得ることもできる。また、pIの異なる複数の水溶性タンパク質またはゼラチンを混合したものを本発明の方法に用いることもできる。
【0018】
芯物質を被膜物質を含む水溶液中に分散させるには、通常水溶液中に芯物質を添加し、撹拌や超音波照射などの方法を用いることができる。芯物質、被膜物質の濃度は、目的とするマイクロカプセルに求められる性質や形状によって任意に選択される。また、分散により得られる芯物質の液滴の大きさは、最終的に得られるマイクロカプセルの大きさに関係する。マイクロカプセルの大きさはその目的に応じて選択され、エマルジョンの液滴の大きさがほぼマイクロカプセルの粒子径として反映される。最終的なマイクロカプセルの大きさ、具体的には球換算の直径が一般に0.1〜3000μm、好ましくは0.1〜2000μm、更に好ましくは0.1〜1000μmに応じた油滴が得られるように分散を行う。
【0019】
続いて得られたO/Wエマルジョンにポリアニオンを混合し、均一とした後にpHを酸性にしてコアセルベート被膜を形成させる。
【0020】
用いられるポリアニオンは、必要に応じて選択されるが、具体的にはアラビアゴム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリビニルメチルエーテル・無水マレイン酸共重合体などが挙げられる。これらのうち、アラビアゴムやカルボキシメチルセルロースナトリウムが好適に用いられる。さらにその中では、アラビアゴムは100μm以上の比較的大きい粒径のエマルジョンに対して、コアセルベート被膜の形成能がやや劣る傾向にあるが、カルボキシメチルセルロースナトリウムはこのような大粒径のエマルジョンに対しても十分なコアセルベート被膜を容易に形成することができるので特に好ましい。
【0021】
ポリアニオンを混合した後、エマルジョンのpHは酸性、例えばpH3〜5、好ましくは4〜5、に調整される。このときに用いられる酸は、芯物質や被膜材料の性質を損なわないものを選択することが好ましい。一般には酢酸、クエン酸、コハク酸、シュウ酸、乳酸、サリチル酸等の有機酸、塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸が用いられる。
【0022】
コアセルベート被膜が形成されたエマルジョンを、被膜のゲル化を行うために引き続き冷却する。通常はエマルジョンを5〜25℃、好ましくは5〜10℃、に冷却して被膜をゲル化させる。
【0023】
ゲル化した被膜を硬化させるために、続いてエマルジョンに硬化剤を混合する。ここで、本発明による方法においては、アミノ基架橋型硬化剤とカルボキシル基架橋型硬化剤とを用いる。
【0024】
アミノ基架橋型硬化剤とは、水溶性タンパク質のアミノ基を架橋して硬化させる作用を有する硬化剤である。アミノ基を架橋する際の反応様式などはとくに限定されず、複数のアミノ基を架橋して水溶性タンパク質を硬化させるものであればいずれのものを用いることもできる。このようなアミノ基架橋型硬化剤の例としては、タンパク質硬化酵素、特にトランスグルタミナーゼが挙げられる。なお、従来知られているアルデヒド基を含む架橋剤、例えばホルムアルデヒドなどはタンパク質のアミノ基を架橋することによりタンパク質被膜を硬化させる作用を有するものであり、本発明においても利用可能である。しかしながら前記したとおり有害性の観点から、安全性に対する配慮が重要な場合には使用しないことが好ましい。
【0025】
一方、カルボキシル基架橋型硬化剤とは、水溶性タンパク質のカルボキシル基を架橋して硬化させる作用を有する硬化剤である。カルボキシル基を架橋する際の反応様式などはとくに限定されず、複数のカルボキシル基を架橋して水溶性タンパク質を硬化させるものであればいずれのものを用いることもできる。このようなカルボキシル基架橋型硬化剤としては、オキサゾリン基含有化合物、カルボジイミド基含有化合物、およびエポキシ基含有化合物が好ましいが、その他の従来知られている硬化剤のうち、カルボキシル基を架橋するものであれば任意のものを用いることもできる。
【0026】
これらのうち、オキサゾリン基含有化合物は、オキサゾリン基の作用により、特にカルボキシル基を架橋させてタンパク質被膜を硬化させる作用を有するものである。このようなオキサゾリン基含有化合物の例としては、2,2’−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−メチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−エチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−トリメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−テトラメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2、2’−ヘキサメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−オクタメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−エチレン−ビス−(4,4’−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレン−ビス−(4,4’−ジメチル−2−オキサゾリン)、ビス−(2−オキサゾリニルシクロヘキサン)スルフィド、ビス−(2−オキサゾリニルノルボルナン)スルフィドなどのオキサゾリン化合物。また、付加重合性オキサゾリン化合物として2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリンなどが挙げられる。
【0027】
これらの化合物を2種以上併用して用いることもできる。また、これらの1種もしくは2種以上の化合物を重合または共重合したものも使用可能である。さらに、前記化合物と、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等の不飽和アミド類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレン、プロピレン等のα−オレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル等のハロゲン化α,β−不飽和単量体類;スチレン、α−メチルスチレン等のα,β−不飽和芳香族単量体類等を共重合したものも使用可能である。そのような重合体は式(I):
【化1】

(式中、R、R、R、R、はそれぞれ独立に水素、ハロゲン、アルキル、アラルキル、フェニルまたは置換フェニルを表し、Rは付加重合性不飽和結合を持つ非環状有機基を表す。)
により表すことができる。そのような化合物の一例としては、上記の特許文献6等にも記載されている。
【0028】
このようなオキサゾリン基含有化合物は、エポクロスWS−500、エポクロスWS−700、エポクロスK−1010E、エポクロスK−1020E、エポクロスK−1030E、エポクロスK−2010E、エポクロスK−2020E、エポクロスK−2030E、エポクロスRPS−1005、エポクロスRAS−1005(いずれも商品名、株式会社日本触媒社製)、NKリンカーFX(商品名、新中村化学工業株式会社製)などとして市販されている。
【0029】
また、カルボジイミド基含有化合物は、カルボジイミド基の作用により、特にカルボキシル基との反応が可能であり、それらを架橋させてタンパク質被膜を硬化させる作用を有するものである。カルボジイミド基は、カルボキシル基以外のアミノ基、水酸基などの活性水素とも反応可能であるが、カルボキシル基との反応が優勢であり、本発明においてはカルボキシル基架橋型硬化剤に分類される。このようなカルボジイミド基含有化合物は、式(II):
−N=C=N− (II)
に示されるカルボジイミド基を有する化合物であり、1種または2種以上のイソシアネート化合物を組み合わせて得ることが出来る。
【0030】
このようなカルボジイミド基含有化合物の例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、水添キシリレンジイソシアネート(HXDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHDI)、1,12−ジイソシアネートドデカン(DDI)、ノルボルナンジイソシアネート(NBDI)、2,4−ビスー(8−イソシアネートオクチル)−1,3−ジオクチルシクロブタン(OCDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(HMDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)などが挙げられ、これらの1種もしくは2種以上の化合物を脱二酸化酸素縮合反応させることで得ることが出来る。
【0031】
その他、上記の特許文献7等に記載のカルボジイミド基含有化合物なども使用することができる。
このようなカルボジイミド基含有化合物は、カルボジライトV−02、カルボジライトV−02−L2、カルボジライトV−04、カルボジライトV−06、カルボジライトE−02、カルボジライトE−02、カルボジライトV−01、カルボジライトV−03、カルボジライトV−05、カルボジライトV−07、カルボジライトV−09(いずれも商品名、日清紡績株式会社製)などとして市販されている。
【0032】
前記オキサゾリン基含有化合物または前記カルボジイミド基含有化合物は高分子化合物であることが好ましく、さらにフィルム形成性を有する高分子化合物であるとより好適である。ここで高分子化合物とは、数平均分子量が1万以上のものをいう。
【0033】
これらの化合物として、フィルム形成性の高分子化合物を用いた場合、マイクロカプセル被膜のさらなる強度向上、内包物の保持能力向上などの効果を得ることができる。これは、硬化剤自体が成膜性を有するため、被膜物質を硬化させると同時に硬化剤自体による2重被覆を生じ、マイクロカプセル被膜を強化するためと推測される。ここでフィルム形成性とは、オキサゾリン基含有高分子化合物等、単独の溶液を塗布・蒸発乾燥させた際にフィルム状の成膜性を有することをいう。また、このようなフィルム形成性の高分子化合物を用いるとカプセル被膜のさらなる強度向上のほか、密閉性の向上、可撓性、柔軟性などの好適効果も得ることができる。
【0034】
また、エポキシ基含有化合物は、エポキシ基の作用により、特にカルボキシル基やアミノ基、イミノ基、水酸基を架橋させてタンパク質被膜を硬化させる作用を有するものであり、本発明ではカルボキシル基架橋型硬化剤として分類される。このようなエポキシ基含有化合物の例としては、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、などが挙げられ、これらの化合物を2種以上併用して用いることもできる。このようなエポキシ基含有化合物は、デナコールEX−611、デナコールEX−612、デナコールEX−614、デナコールEX−614B、デナコールEX−512、デナコールEX−521、デナコールEX−421、デナコールEX−313、デナコールEX−314、デナコールEX−321、デナコールEX−810、デナコールEX−811、デナコールEX−850、デナコールEX−851、デナコールEX−821、デナコールEX−830、デナコールEX−832.デナコールEX−841、デナコールEX−861、デナコールEX−911、デナコールEX−941、デナコールEX−920、デナコールEX−145、デナコールEX−171(いずれも商品名、ナガセケムテックス株式会社製)、SR−PG、SR−2EG、SR−8EG、SR−8EGS、SR−GLG、SR−DGE、SR−4GL、SR−4GLS、SR−SEP(いずれも商品名、阪本薬品工業株式会社製)などとして市販されている。
【0035】
その他、カルボキシル基架橋型硬化剤として、従来知られている、ミョウバン、没食子酸、タンニン酸なども用いることができる。
【0036】
本発明の方法においては、前記アミノ基架橋型硬化剤と、前記カルボキシル基架橋型硬化剤との両方によりタンパク質被膜を硬化させる。例えば、まずアミノ基架橋型硬化剤を用いてタンパク質被膜を硬化させ、ある程度反応が進行した後にカルボキシル基架橋型硬化剤を用いてタンパク質被膜の硬化を終了させる。
【0037】
ここで、アミノ基架橋型硬化剤の添加量は、用いる硬化剤によって適宜異なるが、一般に、水溶性タンパク質の質量を基準として0.001〜0.7%、好ましくは0.01〜0.5%である。特にトランスグルタミナーゼを用いる場合には、水溶性タンパク質の質量を基準として0.001〜0.3%、好ましくは0.01〜0.2%である。被膜のアミノ基を架橋して十分に硬化させることができる量であることが好ましいが、後述するカルボキシル基架橋型硬化剤による硬化反応と併せ、マイクロカプセルに十分な強度と耐熱性を付与できる量であればよい。
【0038】
アミノ基架橋型硬化剤を反応させるときの条件は、用いる硬化剤によって適宜異なるが、一般にpH5〜14、好ましくは9〜12である。特にトランスグルタミナーゼを用いる場合には、pHを5〜9、好ましくは6〜8、温度10〜40℃、好ましくは15〜30℃である。この条件下で3〜30時間、好ましくは10〜20時間反応させる。
【0039】
次いで、必要に応じて洗浄をした後、カルボキシル基架橋型硬化剤で硬化させる。カルボキシル基架橋型硬化剤の添加量は、用いる硬化剤によって適宜異なるが、一般に、水溶性タンパク質のカルボキシル基を基準として0.5〜2.0当量、好ましくは0.8〜 1.5当量である。この添加量は、先のアミノ基架橋反応による硬化とカルボキシル基架橋反応による硬化とで十分な被膜の強度と耐熱性が達成できるように選択される。
【0040】
カルボキシル基架橋型硬化剤を反応させるときの条件は、一般にpH3〜5、好ましくは4〜5、温度20〜80℃、好ましくは40〜60℃である。この条件下で1〜30時間、好ましくは2〜24時間反応させる。この場合、先にアミノ基架橋型硬化剤で被膜の一部が硬化されてタンパク質被膜の耐熱温度が上昇しているので、カルボキシル基架橋型硬化剤を単独で用いる場合に比べて反応温度を高くすることが可能となり、その結果反応時間を短縮することができる。
【0041】
このように被膜を硬化させた後、必要に応じて濾過やデカンテーション、乾燥等の操作により目的のマイクロカプセルを得ることができる。
【0042】
前記の説明はまずアミノ基架橋型硬化剤で硬化させた後、さらにカルボキシル基架橋型硬化剤で硬化させる方法に基づいて説明した。この他、まずカルボキシル基架橋型硬化剤で硬化させ、次いでアミノ基架橋型硬化剤で硬化させる方法も採用できる。しかし、このような順番を採用するよりも、前記したようにアミノ基架橋型硬化剤を先に用いる方が反応時間全体を短縮できる傾向にあり、望ましい。さらには、これらの硬化剤を混合して同時に用いることもできる。しかしながら、硬化剤によって硬化反応の条件が異なったり、混合した硬化剤同士が反応する可能性もあり、また前記したように1段階目の硬化反応で2段階目の硬化反応時間を短縮できるなどの利点があるので、硬化反応は2段階で行うことが好ましく、アミノ基架橋型硬化剤を1段階目で用いることが特に好ましい。
【0043】
なお、本発明によるマイクロカプセルの製造法において、必要に応じて前記したコンプレックス・コアセルベーション法に必須のポリアニオンとは別の水溶性高分子化合物を共存させることができる。本発明による方法においてそのような水溶性高分子化合物を共存させる場合には、その方法は任意であるが、水溶性高分子化合物、またはその水溶液を系に添加するのが一般的である。水溶性高分子化合物の添加時期はかならずしも制限されない。すなわち、芯物質を分散させる前の水溶性タンパク質を含む水溶液に予め添加しておくことも、またポリアニオン添加の前後における任意の時期に添加することもできる。更に、1段階目の硬化反応が終了した後の洗浄工程において添加しても、2段階目の硬化剤を添加した後の膨潤被膜を有するマイクロカプセル分散液に前記水溶性高分子化合物を添加してもよい。このような水溶性高分子化合物の添加により被膜の収縮効果が得られ、洗浄工程における凝集の防止、硬化反応時の被膜膨潤の抑制効果も得られる。しかしながら、水溶性高分子化合物を添加することによる水溶液の粘度上昇、被膜膨潤による分散液の粘度上昇、コアセルベート条件の変化等の観点から、水溶性高分子化合物は1段階目の硬化反応の直前、またはそれ以降の時点で添加することが好ましい。特に本発明による方法では、アミノ基架橋型硬化剤としてトランスグルタミナーゼを用いた場合にはコアセルベート被膜をゲル化させた後にpHを比較的高く調整することが多いが、その前に水溶性高分子化合物を添加しておくことが好ましい。被膜膨潤による粘度上昇が所望の範囲を超えると、撹拌条件を維持するのに、より大きなせん断力を掛ける必要があり、せん断力が強すぎるとカプセル被膜の破壊にもつながり好ましくないからである。
【0044】
また、pH上昇に伴い、コアセルベート被膜が膨潤する傾向が強いが、本発明における水溶性高分子化合物は被膜の膨潤を抑制または軽減するので、その点でも硬化条件を整えるためにpHを上昇させる前に水溶性高分子化合物を添加することが特に好ましい。従って、最も好ましいのは、ポリアニオンを添加した後、系内にコアセルベート被膜の形成及びゲル化後であって、被膜を硬化させるためにpH調整剤および/または硬化剤を添加する前である。このような時期に水溶性高分子化合物を添加することで、水溶性高分子化合物がコアセルベート被膜の形成に影響を与えず、さらにコアセルベート被膜の表面が有効に高分子化合物により処理される。
【0045】
用いられる水溶性高分子化合物としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、およびそれらの混合物が挙げられる。これらの水溶性高分子化合物は10質量%水溶液としたときの電気伝導度が0.005〜1.2S/mであることが好ましく0.005〜0.3S/mであるものがより好ましい。これらはいずれも、コンプレックス・コアセルベーションにおけるポリアニオンの作用としてではなく前記したような被膜の膨潤を抑制または軽減するものであり、本発明においては上記のポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンおよびポリエチレンオキサイドとの用語はその誘導体を含むものとする。
【0046】
水溶性高分子化合物は、その一部または全部が変性された化合物であってもよい。特にイオン性基を含む化学種によって適度に変性された場合においては、水溶性高分子化合物自体が適度なイオン性を有する構成とすることができ、タンパク質被膜との相互作用が生じて、より有効に作用するので好ましい。
【0047】
そのようなイオン性の基としては、スルホン基、カルボキシル基、リン酸基、などが挙げられる。本発明によるマイクロカプセルの製造法においては、スルホン酸および/またはカルボン酸変性されたポリビニルアルコールから選ばれる1または2以上が水溶性高分子化合物として特に好ましい。
【0048】
また、ポリビニルピロリドンを重合単位として有する共重合体など、前記の水溶性高分子化合物を重合単位として含む共重合体も用いることができる。ポリビニルピロリドンおよびその誘導体は、タンパク質としてアルカリ処理ゼラチンを用いる際に、他の水溶性高分子に比較してより好適に作用する場合があり、その組合せにおいて、より好ましい。
【0049】
これらの水溶性高分子化合物の分子量は特に限定されないが、一般に質量平均分子量が2000〜200000、好ましくは2000〜20000、のものが用いられる。通常、分子量の大きな水溶性高分子化合物は水溶液とした時の粘度が大きくなることから、マイクロカプセル調製時における撹拌動力に対する負荷や撹拌によりマイクロカプセルに対する過度のせん断が生じるため注意を要する。また、ポリビニルアルコールは、完全ケン化型でも部分ケン化型でも特に限定されないが、水に対する溶解性の観点から部分ケン化型の方が好ましい。一般に水溶性高分子化合物の添加量は水溶性タンパク質の質量を基準として0.1〜5.0質量部、好ましくは0.3〜2.0質量部が好適である。
【0050】
マイクロカプセル
本発明によるマイクロカプセルは、タンパク質被膜を具備してなるマイクロカプセルであって、前記タンパク質被膜が、水溶性タンパク質被膜をアミノ基架橋型硬化剤とカルボキシル基架橋型硬化剤との両方により硬化させたものである。このようなマイクロカプセルは任意の方法で製造することができるが、例えば前記したマイクロカプセルの製造法により製造することができる。
【0051】
本発明によるマイクロカプセルは、芯物質および被膜物質を選択することによって各種の用途に用いることができる。具体的には、粘着剤、接着剤、色材、食品、医薬品、医薬部外品、香料、洗浄剤などへの用途が挙げられる。これらの用途においては、毒性に対する配慮が必要となるため、マイクロカプセルの材料として毒性を有するアルデヒド類、例えばホルムアルデヒドやグルタルアルデヒド、の使用量は最低限にすることが好ましい。また、表示媒体、玩具、文具等においてもVOCであるホルムアルデヒドの揮発や、誤った使用方法による事故等も想定され、好ましくない。すなわち、被膜が排出規制対象物質であるVOCやシックハウス症候群の原因となりうる高い有害性を有するアルデヒド類を実質的に含まないことが好ましい。さらに、本発明によるマイクロカプセルを用いて表示媒体または記録材料を形成させることもできる。例えば、微小磁性粒子を分散物として含む油性物質を芯物質として用いることにより、磁気表示媒体の素子として用いることができる。また、加熱により変色する感熱性変色物質を芯物質として用いれば感熱性記録材料の素子とすることもできる。特に感熱性変色物質として、熱により発色、消色、および発消色が可能な物質、例えば電子受容性化合物と電子供与性呈色化合物との組み合わせ、を用いることで可逆性感熱記録材料を形成させることもできる。
【0052】
マイクロカプセルを利用した表示媒体や感熱記録材料はすでに知られている(例えば特許文献8)。しかしながら、それに用いられるマイクロカプセルの製造法においてはタンパク質被膜の硬化にアルデヒド基含有化合物のみを用いていることが多い。毒性や環境への配慮からこのようなアルデヒド基含有化合物の使用は好ましくないが、アルデヒド基含有化合物に変わる硬化剤として例えば前記のトランスグルタミナーゼを用いただけでは、硬化反応が比較的遅く、生産性の観点から不利であった。また、トランスグルタミナーゼはアミノ基架橋型硬化剤であるため、該硬化後もゼラチン上には未反応のカルボキシル基が多数存在しており、硬化後のマイクロカプセルであっても、中性、あるいはアルカリ性といった比較的高いpH域では被膜の膨潤が生じる傾向がある。このような被膜の膨潤はマイクロカプセルの変形や表示媒体として使用した際の解像度の低下などにつながるために好ましくない。これに対して本発明の方法によれば、ゼラチンのアミノ基とカルボキシル基に対して効率的に硬化反応を行わせることができるので、上記のようなpH変化における膨潤を抑制することができる。したがって、広い範囲でpHが変化しても被膜の変化が少なく、十分な強度と熱耐性を有するマイクロカプセルを効率よく、かつ有害なアルデヒド類を実質的に使用しなくても製造することができる。さらに、本発明によるマイクロカプセルは、仮に用いたとしても使用されるアルデヒド基含有化合物の使用量が少ないため、製造後のアルデヒド基含有化合物の含有量も少ない。このために、従来知られているアルデヒド基含有化合物だけを硬化剤として用いたマイクロカプセルとは異なり、実質的に無害な表示媒体や感熱記録材料を提供することができる。
【0053】
本発明のマイクロカプセルは、表示媒体の素子等、例えば磁気表示媒体の微小磁性粒子などを分散物として含む油性物質、電子ペーパーに用いられる泳動粒子、ツイストボールなどの反転粒子、液晶などを含む油性物質、または加熱により変色する感熱記録材料などとして利用できるが、微粒子磁性体を内包した磁気表示媒体として特に有用である。
【0054】
このような用途に用いることのできる本発明によるマイクロカプセルは、例えば前記したマイクロカプセルの製造法により製造することができる。このマイクロカプセルはその用途に応じて適当なサイズが選択されるが、一般に球換算の直径が0.1〜3000μm、好ましくは0.1〜2000μm、が選択される。中でも磁気表示媒体としては50〜1000μm、感熱性記録材料としては0.1〜10μmが好ましい。被膜の厚さも用途に応じて適当な厚さが選択される。
【0055】
本発明を諸例を用いて説明すると以下の通りである。
【0056】
実施例1
系の温度を40℃に保ち、10質量%アルカリ処理ゼラチン水溶液(ST1:商品名、株式会社ニッピ社製)90質量部を撹拌しながら、40℃のイオン交換水120質量部、イソパラフィン(アイソパーM:商品名、エッソ化学社製)120質量部を順に添加し、乳化・分散させてO/Wエマルジョンを形成させた。さらにポリアニオンとして1.25質量%カルボキシメチルセルロースナトリウム水溶液(セロゲンF−7A:商品名、第一工業製薬株式会社製)90質量部を混合して均一にした。酢酸を添加してpHを4.2に調整し、コアセルベート被膜を形成させた。このエマルジョンを撹拌しながら5℃まで徐々に冷却して被膜をゲル化させ、5℃に30分間維持して安定化させた。
【0057】
再び系の温度を20℃まで昇温させ、スルホン酸変性ポリビニルアルコール(ゴーセランL−3266:商品名、日本合成化学工業株式会社製)の10質量%水溶液を120質量部添加した。30質量%水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを7.2に調整し、アミノ基架橋型硬化剤として1質量%トランスグルタミナーゼ製剤(アクティバTG−S:商品名、味の素株式会社製)を0.9質量部添加した。系の温度を20℃に維持したまま16時間撹拌を継続し、被膜が硬化したマイクロカプセル分散液を得た。
【0058】
10質量%硫酸を添加してpHを4.0に調整した後、マイクロカプセル分散液を分液ロートに移し、静置によりマイクロカプセル相と分散液相に分離させた。分離したマイクロカプセル相にイオン交換水を加え、撹拌洗浄を行った後に再びマイクロカプセル相と分散液相に分離した。この操作を数回繰り返した後、洗浄したマイクロカプセル分散液をビーカーに移し、撹拌を行った。カルボキシル基架橋型硬化剤としてオキサゾリン基含有化合物(エポクロスWS−700:商品名、株式会社日本触媒社製)73.4質量部を10質量%硫酸でpH4.0に調整したものを添加した。系の温度を60℃まで昇温させ、10質量%硫酸を添加してpHを4.0に調整し、60℃に維持したまま24時間撹拌を継続し、被膜が硬化したマイクロカプセル分散液を得た。得られたマイクロカプセルは、被膜の膨潤がなく、耐熱性、強度を持った単核のマイクロカプセルであった。
【0059】
実施例2〜3
オキサゾリン基含有化合物を下記のカルボキシル基架橋型硬化剤に代え、反応時間を表1のように調整した他は実施例1と同様にしてマイクロカプセルを形成させた。
エポキシ基含有化合物:33.6質量部(デナコールEX−614B:商品名、ナガセケムテックス株式会社製)
カルボジイミド基含有化合物:32.1質量部(カルボジライトV−02−L2:商品名、日清紡績株式会社製)
【0060】
比較例1
系の温度を40℃に保ち、10質量%アルカリ処理ゼラチン水溶液(ST1:商品名、株式会社ニッピ社製)90質量部を撹拌しながら、40℃のイオン交換水120質量部、イソパラフィン(アイソパーM:商品名、エッソ化学社製)120質量部を順に添加し、乳化・分散させてO/Wエマルジョンを形成させた。さらにポリアニオンとして1.25質量%カルボキシメチルセルロースナトリウム水溶液(セロゲンF−7A:商品名、第一工業製薬株式会社製)90質量部を混合して均一にした。酢酸を添加してpHを4.2に調整し、コアセルベート被膜を形成させた。このエマルジョンを撹拌しながら5℃まで徐々に冷却して被膜をゲル化させ、5℃に30分間維持して安定化させた。
【0061】
再び系の温度を20℃まで昇温させ、スルホン酸変性ポリビニルアルコール(ゴーセランL−3266:商品名、日本合成化学工業株式会社製)の10質量%水溶液を120質量部添加した。30質量%水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを7.2に調整し、1質量%トランスグルタミナーゼ製剤(アクティバTG−S:商品名、味の素株式会社製)を0.9質量部添加した。系の温度を20℃に維持したまま16時間撹拌を継続し、被膜が硬化したマイクロカプセル分散液を得た。
【0062】
比較例2
系の温度を40℃に保ち、10質量%アルカリ処理ゼラチン水溶液(ST1:商品名、株式会社ニッピ社製)90質量部を撹拌しながら、40℃の温水(イオン交換水)120質量部、イソパラフィン(エッソ化学社製 アイソパーM)120質量部を順に添加し、乳化・分散させてO/Wエマルジョンを形成させた。さらにポリアニオンとして1.25質量%カルボキシメチルセルロースナトリウム水溶液(セロゲンF−7A:商品名、第一工業製薬株式会社製)90質量部を添加してpHを4.2に調整し、コアセルベート被膜を形成させた。このエマルジョンを撹拌しながら5℃まで徐々に冷却して被膜をゲル化させ、5℃に30分間維持して安定化させた。
【0063】
次いで冷却されたマイクロカプセル分散液を分液ロートに移し、静置してマイクロカプセル相と分散液相とに分離させた。分離したマイクロカプセル相に5℃に冷却したイオン交換水を加え、撹拌洗浄を行った後、再び静置してマイクロカプセル相と分散液相とに分離させた。この操作を数回繰り返し行った後、洗浄したマイクロカプセル相をビーカーに移し、撹拌を行った。反応液の温度を25℃に保ち、そこにオキサゾリン基含有化合物(エポクロスWS−700:商品名、株式会社日本触媒社製)73.4質量部を10質量%塩酸でpH4.0に調整したものを添加した。さらに10質量%塩酸を添加して反応液のpHを4.0に調整し、系の温度を25℃に保ったまま64h撹拌を継続し、被膜が硬化したマイクロカプセル分散液を得た。得られたマイクロカプセルは耐熱性を持った単核のマイクロカプセルであった。なお、反応温度は25℃としたが、実施例1と同様の60℃では被膜が溶解してしまい、被膜の硬化反応は行えなかった。
【0064】
実施例1〜3および比較例1〜2において得られたマイクロカプセルについて、pH4.01、6.86、および9.18の緩衝溶液中における膨潤評価、耐熱性、ならびに総合評価をまとめると以下の通りであった。
pH4.01緩衝液:フタル酸塩pH標準液
pH6.86緩衝液:中性リン酸塩pH標準液
pH9.18緩衝液:ほう酸塩pH標準液
(いずれも試薬、和光純薬工業株式会社製)
【表1】

評価基準
膨潤評価(25℃)
○:被膜収縮状態が維持されているもの。
×:膨潤が進み、被膜が広がるもの。
耐熱性評価(60℃)
○:被膜が維持されているもの。
×:被膜が溶解するもの。
【0065】
実施例1〜3のものについては、すべて広い範囲でpHが変化しても被膜の変化が少なく、強度および耐熱性の十分な低毒性または無毒性のマイクロカプセルを比較的短時間で得ることができた。
【0066】
比較例1及び2のものについては、従来のようにアミノ基架橋型硬化剤またはカルボキシル基架橋型硬化剤のいずれか一方で硬化させたので、おおよそ十分な耐熱性および強度をもったマイクロカプセルを得ることができたものの、特定のpH域で被膜の膨潤を生じてしまったり、反応温度を上げることができず、反応時間が長くかかり、短時間でマイクロカプセルを得ることはできないものであった。
【0067】
応用実施例1
芯物質として微粒子磁性体とイソパラフィン(アイソパーM:商品名、エッソ化学社製)を主成分とする油性塑性液を混合した塑性分散液132質量部を、系の温度を40℃に保ちながら、10質量%アルカリ処理ゼラチン水溶液(ST1:商品名、株式会社ニッピ社製)90質量部、40℃の温水(イオン交換水)120質量部を均一に混合した水溶液に乳化・分散させてS/O/Wエマルジョンを形成させた。さらにポリアニオンとして1.25質量%カルボキシメチルセルロースナトリウム水溶液(セロゲンF−7A:商品名、第一工業製薬株式会社製)90質量部を混合して均一にした。酢酸を添加してpHを4.2に調整し、コアセルベート被膜を形成させた。このエマルジョンを撹拌しながら5℃まで徐々に冷却して被膜をゲル化させ、5℃に30分間維持して安定化させた。
【0068】
再び系の温度を20℃まで昇温させ、スルホン酸変性ポリビニルアルコール(ゴーセランL−3266:商品名、日本合成化学工業株式会社製)の10質量%水溶液を120質量部添加した。30質量%水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを7.2に調整し、アミノ基架橋型硬化剤としてトランスグルタミナーゼ(アクティバTG−S:商品名、味の素株式会社製)を0.9質量部添加した。系の温度を20℃に維持したまま16時間撹拌を継続し、被膜が硬化したマイクロカプセル分散液を得た。
【0069】
10質量%硫酸を添加してpHを4.0に調整した後、マイクロカプセル分散液を分液ロートに移し、静置によりマイクロカプセル相と分散液相に分離させた。分離したマイクロカプセル相にイオン交換水を加え、撹拌洗浄を行った後に再びマイクロカプセル相と分散液相に分離した。この操作を数回繰り返した後、洗浄したマイクロカプセル分散液をビーカーに移し、撹拌を行った。カルボキシル基架橋型硬化剤としてオキサゾリン基含有化合物(エポクロスWS−700:商品名、株式会社日本触媒社製)73.4質量部を10質量%硫酸でpH4.0に調整したものを添加した。系の温度を60℃まで昇温させ、10質量%硫酸を添加してpHを4.0に調整し、60℃に維持したまま24時間撹拌を継続し、被膜が硬化したマイクロカプセル分散液を得た。得られたマイクロカプセルは、被膜の膨潤がなく、耐熱性、強度を持った単核のマイクロカプセルであった。
【0070】
得られたマイクロカプセル分散液を厚さ125μmのPETフィルムを支持体として塗布し、磁気表示媒体を形成させた。得られた磁気表示媒体は十分な解像度を有するものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質被膜を具備してなるマイクロカプセルであって、前記タンパク質被膜が、水溶性タンパク質被膜をアミノ基架橋型硬化剤とカルボキシル基架橋型硬化剤との両方により硬化させたものであることを特徴とするマイクロカプセル。
【請求項2】
コンプレックス・コアセルべーション法により、タンパク質被膜を有するマイクロカプセルを製造するに際し、水溶性タンパク質からなる被膜を、アミノ基架橋型硬化剤とカルボキシル基架橋型硬化剤との両方により硬化させることを特徴とする、マイクロカプセルの製造法。
【請求項3】
前記水溶性タンパク質からなる被膜を、まずアミノ基架橋型硬化剤またはカルボキシル基架橋型硬化剤のいずれか一方で硬化させ、次いで他方の硬化剤でさらに硬化させる、請求項2に記載のマイクロカプセルの製造法。
【請求項4】
前記アミノ基架橋型硬化剤が、トランスグルタミナーゼである、請求項2〜3のいずれか1項に記載のマイクロカプセルの製造法。
【請求項5】
前記カルボキシル基架橋型硬化剤が、オキサゾリン基含有化合物、カルボジイミド基含有化合物、およびエポキシ基含有化合物からなる群から選ばれる、請求項2〜4のいずれか1項に記載のマイクロカプセルの製造法。
【請求項6】
前記水溶性タンパク質がゼラチンである、請求項2〜5のいずれか1項に記載のマイクロカプセルの製造法。
【請求項7】
タンパク質被膜を有するマイクロカプセルを製造するに際し、コンプレックス・コアセルベーション法におけるコアセルベート被膜の形成後に10質量%水溶液としたときの電気伝導度が0.005〜1.2S/mである水溶性高分子化合物を共存させることを特徴とする、請求項2〜6のいずれか1項に記載のマイクロカプセルの製造法。
【請求項8】
請求項2〜7のいずれか1項の方法により製造されたことを特徴とするマイクロカプセル。
【請求項9】
請求項1または8に記載のマイクロカプセルを具備してなることを特徴とする表示媒体。

【公開番号】特開2007−222786(P2007−222786A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−47041(P2006−47041)
【出願日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(303022891)株式会社パイロットコーポレーション (647)
【Fターム(参考)】