説明

マイクロスフェア製剤の製造方法およびマイクロスフェア製剤。

【課題】 本発明は、ほぼ一定の徐放性を発揮するマイクロスフェア製剤と、マイクロスフェア製剤の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 高分子からなるカプセル皮膜の内部に薬剤が含まれる構造を備えるマイクロスフェア製剤の製造方法において、カプセル皮膜を構成する高分子を溶媒に溶解するとともに該溶媒に薬剤を分散させ、且つ高分子に対する非溶媒を添加されてなる第1の溶液を、該第1の溶液と混和しない油性液体を含む第2の溶液に加えて乳化して、第1の溶液中の高分子からなる外層の内部に薬剤と溶媒と非溶媒を含めた内層を形成している分散相と、第2の溶液で構成される連続相とを形成した乳化液となし、乳化液を徐々に昇温して溶媒の蒸散速度を制御しつつ分散層の内層中の溶媒を蒸散させ、乳化液から分散相を分取することにより、ほぼ一定の徐放性を発揮するマイクロスフェア製剤を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロスフェア製剤の製造方法およびマイクロスフェア製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
薬剤を長期にわたり投与しようとする場合に、殻体を形成するカプセル皮膜の内部に芯物質となる薬剤を包み込んだ芯殻構造(コア・シェル構造)を備えたカプセル体であるマイクロスフェア製剤を用い、その投与後カプセル体内部からカプセル皮膜の外側へ薬剤が徐々に放出される性質、すなわち徐放性、を制御して、薬剤の薬効を長時間持続できるようにする試みが注目されている。
【0003】
このようなマイクロスフェア製剤を製造する方法としては、カプセル皮膜を構成する皮膜構成物質を溶解し且つ芯物質を分散させている溶液を、その溶液と混和しない水性や油性の媒体に分散させて、溶液を分散相とする乳化液を形成し、さらに分散相内における皮膜構成物質の溶剤を蒸散させることにより、カプセル皮膜を形成させるとともにカプセル皮膜内部に芯物質を取り込んだカプセル体を形成させる方法(液中乾燥法)等、様々な方法が提案されている。
【0004】
また、マイクロスフェア製剤を製造する方法としては、安全なマイクロスフェア製剤を製造する方法が要請されるのみならず、貴重で高価な薬剤を効率よく使用するべく薬剤投与後の経過時間に影響されずに一定の徐放性を確保できるようなマイクロスフェア製剤を製造する方法が要請されている。マイクロスフェア製剤が、医療の分野で用いられ、生体に投与されるようなものである場合、こうした要請は極めて大きい。
【0005】
このような要請に対して、安全な材料を用いてマイクロスフェア製剤を製造する方法が提案されており、さらに、分散相に皮膜構成物質の非溶媒を加えてカプセル皮膜内部の薬剤包含量に優れたマイクロスフェア製剤を製造しようとする方法が提案されている(例えば、非特許文献1)。
【0006】
【非特許文献1】C.−Y.Yang他2名、J. MICROENCAPSULATION、2001年発刊、第18巻、第2号、第223頁〜第236頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1によるマイクロスフェア製剤の製造方法では、非溶媒を加えて得られるマイクロスフェア製剤は、薬剤含有量を向上させることができるものであるが、その一方で、投与後すぐの段階においてカプセル皮膜内部から外部へと薬剤が急激に放出されてしまうものとなってしまい、徐放性に優れたマイクロスフェア製剤を得ることができなかった。
【0008】
本発明は、薬物含有量に優れるとともに投与開始後すぐの段階においても投与後の経過時間に影響されずほぼ一定の徐放性を発揮するマイクロスフェア製剤と、そのようなマイクロスフェア製剤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、(1)高分子からなるカプセル皮膜の内部に薬剤が含まれる構造を備えるマイクロスフェア製剤の製造方法であって、カプセル皮膜を構成する高分子を溶媒に溶解するとともに該溶媒に薬剤を分散させ、且つ高分子に対する非溶媒を添加されてなる第1の溶液を、該第1の溶液と混和しない油性液体を含む第2の溶液に加えて乳化して、第1の溶液中の高分子からなる外層の内部に薬剤と溶媒と非溶媒を含めた内層を形成している分散相と、第2の溶液で構成される連続相とを形成した乳化液となし、乳化液を徐々に昇温して溶媒の蒸散速度を制御しつつ分散層の内層中の溶媒を蒸散させ、乳化液から分散相を分取する、ことを特徴とするマイクロスフェア製剤の製造方法、(2)乳化液から分取された分散相の内層中より、非溶媒を蒸散させる、上記(1)記載のマイクロスフェア製剤の製造方法、(3)非溶媒が水である上記(1)または(2)記載のマイクロスフェア製剤の製造方法、(4)高分子は、疎水性デキストラン誘導体である上記(1)から(3)のいずれかに記載のマイクロスフェア製剤の製造方法、(5)分散液はアセトンである上記(1)から(4)のいずれかに記載のマイクロスフェア製剤の製造方法、(6)上記(1)から(5)のいずれかに記載のマイクロスフェア製剤の製造方法により得られるマイクロスフェア製剤、を要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、投与開始後すぐの段階であっても投与後の時間経過に関係なくほぼ一定の徐放性を維持することができるマイクロスフェア製剤を製造することができる。
【0011】
本発明によれば、乳化液を作成後、昇温させて第1の溶媒に含まれる溶媒を蒸散させるので、乳化液を昇温させずに一定温度にて溶媒を蒸散させる場合よりも溶媒の蒸散速度を速くすることができ、迅速短時間のうちにマイクロスフェア製剤を製造することができる。
【0012】
本発明によれば、乳化液から分散相を分取したのちに、分散相中の非溶媒を蒸散させる工程を実施することで、溶媒をより確実に蒸散させた後に非溶媒を蒸散させるようにすることができ、残留溶媒をより抑制することができる。
【0013】
また、本発明では、非溶媒として水を用いることができるほか、高分子として疎水性デキストラン誘導体、分散液としてアセトンを用いることができる。したがって、本発明によれば、カプセル皮膜を構成する原料として生体に対する安全性を確保できる物質を用いてマイクロスフェア製剤を製造することができる。さらに、入手しやすい原料をもとにマイクロスフェア製剤を製造することが可能であるから、製造コストをできるだけおさえることも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明においては、薬剤を分散させるとともに高分子を溶解し且つ非溶媒を添加してなる第1の溶液と、その第1の溶液に混和しない油性液体を含む第2の溶液が作成される。この第2の溶液に第1の溶液が添加されて、懸濁され、乳化液が作成される。このとき、乳化液は、第1の溶液を分散相とし、第2の溶液を連続相としている。なお、分散相には、高分子からなる外層が形成され、その外層の内側に、第1の溶液において高分子を溶解させる溶媒のほか薬剤と非溶媒とを含む内層が形成されている。さらに、高分子を溶解させる溶媒を気化させて分散相から溜去し、分散相の外層をカプセル皮膜化してカプセル体を形成させる。そして、分散相たるカプセル体を乳化液より分離し、こうして高分子からなるカプセル皮膜の内部に薬剤を含むカプセル体の構造を備えるマイクロスフェア製剤が製造される。
【0015】
本発明で用いられる第1の溶液において、薬剤としては、特に種類を限定されず、水溶性、脂溶性いずれのものであっても使用することができ、例えば、抗生物質、抗腫瘍剤、抗潰瘍剤、抗てんかん剤、抗うつ剤、抗アレルギー剤、鎮痛剤、解熱剤、消炎剤、β遮断剤、鎮咳剤、鎮静剤、筋弛緩剤、血管拡張剤、高脂血症用薬、気管支拡張剤、H2受容体拮抗剤、プロトンポンプ阻害剤、性ホルモン剤、ビタミン剤、尿失禁治療薬などを挙げることができる。より詳しくは、薬物として、アモキシシリン、ベンジルペニシリン、ピペラシリン、メシリナム等のペニシリン系抗生物質、エリスロマイシン、クラリスロマイシン、ロキスロマイシン、アジスロマイシン等のマクロライド系抗生物質、テトラサイクリン、ミノサイクリン等のテトラサイクリン系抗生物質、ゲンタマイシン、アミカシン、ストレプトマイシン等のアミノグリコシド系抗生物質、メトロニダゾール、チニダゾール、ミコナゾール等のイミダゾール系化合物、オフロキサシン、サイプロキサシン等のキノロン系化合物、ヒドロキサム酸、ヒドロキサム酸誘導体、サリチル酸、ジクロフェナク、ケトプロフェン、ナドロール、ピンドロール、クリノフィブラート、テオフィリン、シメチジン、ラニチジン、オメプラゾール、ランソプラゾール、エストラジオール、チアミンジスルフィド、リボフラビン、5FU(5−フルオロウラシル)、リュープロライド、オキシブチニン等を具体的に提示することができる。
【0016】
薬剤は、特に粒径を限定されるものではないが、得ようとするマイクロスフェア製剤の平均粒径に対して1/3以下の粒径であることが好ましい。
薬剤の粒径が、マイクロスフェア製剤の平均粒径に対して1/3以下であると、カプセル皮膜から薬剤の粒子が突き出てマイクロスフェア製剤の殻構造が部分的に破壊された状態となることを抑えることができ、薬剤をカプセル皮膜に良好に内包したマイクロスフェア製剤を得やすくなる。
【0017】
得ようとするマイクロスフェア製剤の平均粒径に対して粒径が1/3以下であるような薬剤は、目開きがマイクロスフェア製剤の平均粒径の値に対して1/3以下であるような標準ふるい(日本薬局方(14版)(日局14)に規定された標準ふるい)を用いて、標準ふるいを通過した薬剤の粒子を回収することにより、具体的に得ることができる。
【0018】
なお、マイクロスフェア製剤の平均粒径は、日本薬局方(第14版)粉体粒度測定法第2法(ふるい分け法)に準じて求められる。
【0019】
高分子としては、一定形状にて固化できるものであればよく、溶媒や非溶媒に応じて適宜選択可能である。具体的には、高分子としては、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート(局外規)、メタアクリル酸ジメチルアミノエチル・メタアクリル酸メチルコポリマー(局外規)、セルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(日局14)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースサクシネート(局外規)、メタアクリル酸アクリル酸エチルコポリマー(局外規)、カルボキシメチルエチルセルロース(局外規)、エチルセルロース(局外規)、酢酸セルロース、メタアクリル酸メタアクリル酸メチルコポリマー(局外規)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリアクリル酸、ポリεカプロラクタム、ポリスチレン、デキストラン、ゼイン(Zein)等が挙げられ、また、これらを1種またはこれらの2種以上混合してなる混合物が用いられてもよい。
【0020】
また、高分子としては、例えば、第1の溶液における非溶媒として水が選択される場合には、高分子の例として上記具体的に挙げたデキストラン等の各物質の疎水性誘導体を用いることができる。このような疎水性の高分子としては、例えば、疎水性デキストラン誘導体を挙げることができ、具体的には、PDME(Propyl Dextran Mixture Ester)、IDME(Isobutyryl Dextran Mixture Ester)等を挙げることができる。
【0021】
高分子を溶解させる溶媒は、選択される高分子の性質に応じて適宜選択することができるが、第1の溶液における薬剤を十分に分散させるものから選択される。高分子を溶解させる溶媒としては、具体的には、メチルアルコール、エチルアルコール等のアルコール類、アセトン等のケトン類、アセトニトリル、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、酢酸エチル等を挙げることができる。
【0022】
非溶媒には、高分子の溶媒とならないものを用いる。ここに、溶媒とならないものとは、少なくともカプセル皮膜を構成する高分子の溶解度が高分子を溶解させる溶媒よりも小さいもの、を示しており、高分子を溶解しないものであることが好ましい。
【0023】
また、非溶媒は、第1の溶液における溶媒よりも沸点の大きいものであることが好ましい。このような非溶媒が用いられると、高分子を溶解させる溶媒を十分に気化させて溜去することができる。
【0024】
したがって、非溶媒は、選択される高分子と溶媒の両方の種類に応じて適宜選択されることになる。具体的には、非溶媒としては、水、メチルアルコール、エチルアルコール、ヘキサン、オクタン、デカン、キシレン、ジオキサンなどを挙げることができる。非溶媒としては、安全性の点から水が好ましい。また、非溶媒が水であることは、その沸点が適度である点からも好ましい。非溶媒の沸点が余りに低すぎると高分子を溶解させる溶媒として選択可能な溶媒の種類が少なくなり、その沸点が余りに高すぎると非溶媒をカプセル体から蒸散させて取り除きたい場合に、取り除き難くなる虞がある。
【0025】
なお第1の溶液には、必要に応じて、固形医薬製剤の製造に用いられる慣用の添加剤を使用してもよい。添加剤としては、カプセル皮膜内部に薬剤を含む構造を補強する腑形剤などが挙げられる。賦形剤としては、例えば、コーンスターチ、セラック、タルク、結晶セルロース、ステアリン酸マグネシウム、マンニットール、軽質無水ケイ酸、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等が挙げられる。また、第1の溶液は、腑形剤の他、各種医薬品の添加物に用いられる安定化剤、矯味剤、着色剤、防腐剤等を添加剤として配合していてもよい。これらの添加剤の添加量は、マイクロスフェア製剤からの薬剤の徐放性を損なわない範囲で適宜選択される。
【0026】
第2の溶液における油性液体としては、第1の溶液を構成する薬剤、高分子のいずれに対しても溶媒とならず、且つ、第1の溶液を構成する溶媒、非溶媒のいずれとも混和しない油性の液体が選択される。ここに、薬剤、高分子のいずれに対しても溶媒とならない油性の液体は、薬剤や高分子の溶解度が少なくとも第1の溶液における溶媒よりも小さいものであり、薬剤や高分子を溶解しないものであることが好ましい。
【0027】
油性液体としては、具体的には、ヒマシ油、綿実油、大豆油、オリーブ油などの油脂類、パラフィン、流動パラフィン、マイクロクリスアリンワックスなどの炭化水素類、シリコンオイルなどが挙げられる。
【0028】
第2の溶液には、乳化剤が添加されることが好ましい。乳化剤が添加されると、第2の溶液における第1の溶液の乳化状態を安定に維持することができる。また乳化剤の添加量を様々に変化させることで、マイクロスフェア製剤の平均粒径、粒径の分布である粒度分布を制御することができる。
【0029】
乳化剤としては、モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ソルビタン脂肪酸エステル、植物レシチン、ショ糖脂肪酸エステル(シュガーエステル)などを挙げることができる。なお、ショ糖脂肪酸エステルに用いる脂肪酸など乳化剤において用いられる脂肪酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、エルカ酸、ベヘン酸などを挙げることができる。
【0030】
次に、本発明のマイクロスフェア製剤の製造方法について詳細に述べる。
【0031】
まず、高分子を溶解させるとともに薬剤を分散させた溶液を調整する。この溶液に、高分子に対する非溶媒を添加して第1の溶液が調製される。
【0032】
非溶媒の添加量は、適宜選択可能であるが、第1の溶液の全量に対して体積比率で1%〜30%であることが好ましく、より好ましくは5%〜20%、さらに好ましくは10%〜15%である。非溶媒の添加量があまり少ないと、非溶媒の添加がマイクロスフェアの徐放性向上に寄与しない虞があり、非溶媒の添加量があまり多いと、高分子が第1の溶液中に不均一に存在するようになる虞がある。
【0033】
次に、油性液体を含む第2の溶液を作成する。
第2の溶液における油性液体の配合量は、油性液体が主成分となるような量、すなわち重量比率で50%を超える量であれば特に限定されない。第2の溶液は、油性液体のみで構成されてもよいし、乳化剤などを適宜添加してもよい。
【0034】
第2の溶液に第1の溶液を添加して懸濁することで乳化され、乳化液が形成される。第2の溶液に第1の溶液を添加した液体の懸濁は、その液体を攪拌装置にて攪拌することによって実施することができる。具体的には、乳化液は、プロペラ式攪拌機、タービン式攪拌機、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザーなどの攪拌装置を用いて攪拌することで実現できる。
【0035】
第2の溶液と第1の溶液の液量は、第1の溶液よりも第2の溶液のほうが多ければよいが、乳化液を効果的に形成させる点で、第1の溶液と第2の溶液の液量の比率は、体積比で、概ね1:4〜1:30であることが好ましい。
【0036】
乳化液の形成を行う温度は、第1の溶液を構成する高分子や溶媒、第2の溶液を構成する油性液体によって適宜選択されるが、薬剤が変性しない温度であって溶媒の沸点以下であればよい。
【0037】
また、乳化液を形成する際の攪拌における攪拌速度は、第1の溶液と第2の溶液の液量の合計や、得ようとするマイクロスフェア製剤の粒径に応じて適宜選択可能であるが、乳化液をより均一な乳化状態にする点から、10rpm〜10000rpmであることが好ましく、100rpm〜5000rpmであることがより好ましく、200rpm〜1000rpmであることがさらに好ましい。攪拌速度が余り遅いと第2の溶液中に対する第1の溶液の分散性が悪くなって、第1の溶液に含まれる高分子などの凝集を生じて、良好なマイクロスフェア製剤の回収率が低下してしまう虞がある。攪拌速度が余り速いと、機械的に過大な力が分散相にかかってしまい、マイクロスフェア製剤の形状がいびつになってしまう虞がある。
【0038】
こうして得られる乳化液には、分散相と連続層が形成されている。このとき、分散相は、第1の溶液中の高分子からなる外層と該外層の内部に薬剤のほか溶媒や非溶媒を含む内層とで構成され、また連続相は、第2の溶液にて構成される。
【0039】
乳化液を作成すると、溶媒の蒸散速度を制御しつつ分散相の内層から外部へ溶媒を蒸散させる。このとき、マイクロスフェア製剤に溶媒が残存しないようにする点から、分散相から溶媒がほとんど完全に溜去されてしまうまで溶媒の蒸散が行われることが好ましい。
【0040】
このような分散相の外部への溶媒の蒸散は、上記したプロペラ型攪拌機などの攪拌装置を用いて乳化液を攪拌するとともに、乳化液を加熱して徐々に昇温させることによって行うことができ、溶媒の蒸散速度の制御は、乳化液の昇温速度を制御することで実施される。
【0041】
乳化液の加熱は、乳化液の入った容器を、水を張ったウォーターバスに浸してウォーターバス中の水の温度を上昇させることによって具体的に実施できる。
【0042】
乳化液を徐々に昇温させるにあたり、昇温速度は、乳化液や溶媒の液量などに応じて適宜選択可能であるが、概ね一定の速度で昇温するように制御されていることが好ましい。具体的には、乳化液の昇温速度として予め定められた速度に対する昇温速度のずれの大きさが10%以下(前後10%の範囲内)に収まるように、昇温速度が制御されていることが好ましく、ずれの大きさが5%以下に収まるように昇温速度が制御されていることがより好ましい。
【0043】
また、昇温前後の乳化液の温度は、特に限定されない。昇温前の乳化液の温度は、一般的には室温であり、また0℃〜30℃が好ましく、昇温後の乳化液の温度は、一般的には、溶媒の沸点の近傍温度を超える温度、具体的には「溶媒の沸点を5℃程度下回る温度」を超える温度、である。なお、溶媒の沸点を超える温度で薬剤が変性してしまうような場合には、昇温後の乳化液の温度が溶媒の沸点の近傍温度を超えず且つ薬剤が変性しない温度を維持にしつつ、溶媒をゆるやかに蒸散させる。
【0044】
なお、第1の溶液を第2の溶液に添加して乳化状態を形成した乳化液となし、乳化液から溶媒を分散相の内層から外部へと蒸散させる、という一連の過程において、分散相の外層を構成する高分子が固化してカプセル皮膜を形成し、その分散相がカプセル体を形成する。
【0045】
分散相の内層から外部へ溶媒を蒸散させた後、乳化液より分散相であるカプセル体を分取する。
この分取は、例えば、次のようにして実施できる。乳化液を静置してカプセル体を沈殿させ、乳化液を沈殿物と上清液に分離させる。このとき、上清液は、おおよそ第2の溶液で構成される。そして、この乳化液の上清液を別の容器に移すことで取り除き、沈殿物であるカプセル体が得られる。
【0046】
カプセル体を乳化液から分取する方法としては、上記のほか、遠心分離機を用いて分離する方法や、乳化液をろ過する方法などが挙げられる。
【0047】
なお、乳化液からカプセル体を分取するにあたり、乳化液の温度は室温程度まで下がった状態となっていることが好ましい。
【0048】
こうして得られた分散相たるカプセル体のカプセル皮膜の外表面には、第2の溶液が付着しているが、この第2の溶液は洗浄除去される。
第2の溶液の洗浄除去は、洗浄液中にカプセル体を浸したり、洗浄液をカプセル体に注ぐなどにより、実施することができる。その洗浄の際に用いられる洗浄液としては、カプセル体を容易に溶解しないものであればよく、具体的には、イソプロパノール、n-ヘキサン、ヘプタン等を用いることができる。
【0049】
こうして、高分子からなるカプセル体の内部に薬剤を包み込んだマイクロスフェア製剤を得ることができる。
【0050】
なお、マイクロスフェア製剤は、第2の溶液を洗浄した後、さらに乾燥されてもよい。
この乾燥は、マイクロスフェア製剤を、室温にて放置することで実施できる。こうすることで、マイクロスフェア製剤のカプセル体内部の非溶媒をより確実に除去することができるほか、洗浄液を十分に除去することができる。また、このようなマイクロスフェア製剤の乾燥を行うことで、マイクロスフェア製剤に溶媒が僅かに残留してしまった場合でもその僅かな溶媒をより確実に除去することができる。
【0051】
マイクロスフェア製剤の乾燥方法としては、上記のほか、マイクロスフェア製剤を減圧雰囲気下におくことによって実施してもよい。減圧雰囲気は、真空ポンプなどを用いて形成することができる。
【0052】
次に、本発明のマイクロスフェア製剤の製造方法を実施例を用いてより具体的に説明する。実施例では、第1の溶液における薬剤としてテオフィリン(TH)、高分子として疎水性デキストラン誘導体を用い、溶媒としてアセトン、非溶媒として水を用い、第2の溶液における油性液体として流動パラフィンを用いた場合について説明する。
【実施例】
【0053】
実施例1
まず、表1に示すような配合量にてアセトンと水の混合溶液を作成した。この混合溶液に、疎水性デキストラン誘導体(名糖産業株式会社製、PDME(Propyl Dextran Mixture Ester)、分子量(Mw)40000)6.75gを溶解し、さらに表1に示すようなTH(Theophylline anhydrous)(シグマアルドリッチ株式会社製)2.25gを添加して混合溶液中に分散させ、第1の溶液を作成した。
【0054】
(表1)

【0055】
※1;粒径75μm未満のTHは、原料となるTHのうち、目開き75μmの標準ふるい(日局14、ふるい番号200の標準ふるい)を通過したTHを回収することによって得られる。また、粒径75μm以上150μm未満のTHは、原料となるTHのうち、目開き150μmの標準ふるい(日局14、ふるい番号100の標準ふるい)を通過し、目開き75μmの標準ふるいを通過しなかったTHを回収することによって得られる。
【0056】
流動パラフィン(日局14)150mLに乳化剤としてショ糖エステル(第一工業製薬株式会社製、DFK-10)0.75gを添加して第2の溶液を作成し、この第2の溶液に上記第1の溶液を添加し、室温(本実施例では20℃である。)でプロペラ式攪拌装置(新東化学株式会社製、スリーワンモーター1200G型)(攪拌速度300rpm、プロペラ設置数1基)を用いて30分懸濁して乳化させ、乳化液を作成した。
【0057】
この乳化液を、攪拌速度300rpmで攪拌しながら昇温速度30℃/時間にて加熱し、60℃まで徐々に昇温した。乳化液の昇温は、乳化液の入った容器をウォーターバスに浸してウォーターバス中の水を加熱することを通じて、乳化液の入った容器を全体に徐々に加熱して実施された。
【0058】
さらに乳化液の温度を60℃にした後、乳化液を攪拌速度300rpmで攪拌しながら、乳化液の温度60℃の状態を30分間維持した。ここにおいて、乳化液の分散相の内層から外部へとアセトンが蒸散した。
【0059】
なお、乳化液の作成からアセトンの蒸散までの一連の過程のなかで、分散相の外層を構成する疎水性デキストラン誘導体が固化してカプセル皮膜が形成され、カプセル皮膜の内部にTHを包含するカプセル体が形成されてくる。
【0060】
乳化液を60℃で30分攪拌した後、乳化液を室温雰囲気下に静置して、分散相たるカプセル体を沈殿させ、沈殿物と上清液に分離させた。この静置は、乳化液の温度が60℃からほぼ室温に下がった状態になるまで行われた。なお、この静置後に得られる上清液は、ほとんど第2の溶液で構成されている。
【0061】
この上清液を外部に注ぎ出して(排出して)沈殿物を得ることにより、乳化液より分散相たるカプセル体を分取した。
【0062】
得られたカプセル体を、n−ヘキサンからなる洗浄液にて3回洗浄した。洗浄後、カプセル体を、減圧雰囲気下にて一昼夜静置して乾燥させた。なお、減圧雰囲気は、真空ポンプを用いて形成された。そしてカプセル体の乾燥により、カプセル体から洗浄液および水が蒸散し、マイクロスフィア製剤が得られた。
【0063】
得られたマイクロスフェア製剤に対し、薬剤回収率、内包率およびカプセル化効率、平均粒径、徐放性について、次に示すように測定が行われた。
【0064】
「薬剤回収率」
得られたマイクロスフェア製剤を目開き1700μmの標準ふるい(日局14、ふるい番号10の標準ふるい)にかけ、さらに目開き300μmの標準ふるい(日局14、ふるい番号50の標準ふるい)にかけて、目開き1700μmの標準ふるいを通過し且つ目開き300μmの標準ふるいを通過しなかったマイクロスフェア製剤を回収した。こうして、孔径300〜1700μmの範囲のマイクロスフェア製剤を、有効なマイクロスフェア製剤として選び出した。
選び出されたマイクロスフェア製剤の重量(Wとする)を測定し、本実施例に用いた疎水性デキストラン誘導体量(6.75g)とTH量(2.25g)の合計量に対するWの割合を算出し、この値を薬剤回収率とした。結果を表2に示す。
【0065】
「内包率およびカプセル化効率」
孔径300〜1700μmの範囲のマイクロスフェア製剤より40mg計り取り、ジクロロメタン50mLに溶解して溶解液を作成し、その溶解液について274nmにおける吸光度を計測し、溶解液におけるTHの濃度を導出してTHの質量を算出する。この算出された値に基づき、マイクロスフェア製剤40mg中におけるTHの割合(内包率)(重量%)を算出する。
【0066】
その一方で、マイクロスフィア製剤を製造する際に用いた疎水性デキストラン誘導体の量とTHの合計量から導出されるTHの割合の理論値(重量%)を算出しておく。本実施例では、疎水性デキストラン誘導体とTHの合計量9gに対するTH(2.25g)の割合、すなわち25重量%となる。
【0067】
カプセル化効率は、得られたマイクロスフェア製剤におけるTHの割合を、THの割合の理論値で除して得られた値として求められた。結果を表2に示す。
【0068】
「平均粒径」
なお、マイクロスフェア製剤の平均粒径は、日本薬局方(第14版)粉体粒度測定法第2法(ふるい分け法)に準じて求められた。その際、得られたマイクロスフェア製剤のふるい分けが行われるが、マイクロスフェア製剤のふるい分けは、目開き1700、1400、1180、1000、850、710、600、500、425、355、300μmの各標準ふるい(日局14、ふるい番号10、12、14、16、18、22、26、30、36、42、50の各標準ふるい)に対して、マイクロスフェア製剤を目開きの大きさの降順に続けて通ずることによって実施された。
結果を表2に示す。
【0069】
(表2)

【0070】
「徐放性」
得られたマイクロスフェア製剤の徐放性を評価する試験は、日本薬局方(第14版)溶出試験法第2法(パドル法)に準じて実施された。なお、この試験は、HCl(濃度0.07M)とNaCl(濃度0.0342M)と、0.02重量%Tween20を含む水溶液(体積900mL、pH1.2)(基本液という。)として用い、マイクロスフェア製剤100mgをその基本液に分散させた分散液を試験液として用いて実施され、そして温度37±0.5℃、パドル回転数100rpmの条件にて実施された。
【0071】
溶出試験開始時点を基準に0.25時間、0.5時間、1時間、2時間、4時間、6時間、8時間経過した各時点(t)で試験液を5mLづつ分取し、その分取された溶液を孔径0.45μmのろ過膜に通じてろ過し、ろ過によって得られたろ液について、274nmにおける吸光度を計測した。そして、計測された吸光度の値に基づき、THの濃度(Mt)を算出した。試験液に溶解させるマイクロスフェア製剤の量とTHの内包率の値に基づき、マイクロスフェア製剤からTHが全て基本液中に溶出した場合のTHの濃度(Mterminal)を算出し、この値と上記Mtの値を用いて放出率(Mt/Mterminal)を、導出した。(Mt/Mterminal)の値は、各時点における吸光度の値に基づき、それぞれの時点について導出された。
【0072】
さらに、経過時間(t)の対数値を横軸にとり(Mt/Mterminal)の対数値を縦軸にとった座標平面上に、各経過時間(t)における(Mt/Mterminal)の各値に対応する点をそれぞれ打ち、最小2乗法を用いて経過時間(t)の対数値と(Mt/Mterminal)の対数値との関係を示す近似直線を得る。そして、得られた近似直線に基づき、下記(数1)に示す数式における比例定数kの値、および、薬剤の徐放性に関係する定数nの値、相関係数rの値を得た。
結果を表3に示す。
【0073】
(数1)
(Mt/Mterminal)=k×tn
ただし、
t;徐放性試験の開始から経過した時間(単位:時間)、
Mt;t時間経過した時点において、マイクロスフェア製剤から基本液中に溶出した薬剤の濃度(単位:M)、
Mterminal;マイクロスフェア製剤から全ての薬剤が基本液中に溶出した場合における薬剤の濃度(単位:M)
、を示す。
【0074】
(表3)

【0075】
実施例2、3、および比較例1
表1に示す配合量にてアセトンと水の混合溶液を作成するとともに、表1に示されるようなTHを用いた他は、実施例1と同様にして、マイクロスフェア製剤を得た。得られたマイクロスフェア製剤に対し、実施例1と同様にして、薬剤回収率、内包率、カプセル化効率、平均粒径、徐放性についての各測定が行われた。
結果はそれぞれ表2、表3に示される通りである。
【0076】
実施例1で得られたマイクロスフェア製剤は、表3に示すように、比較例1におけるマイクロスフェア製剤に比べてnの値が1に近いことから、カプセル皮膜内部から外部へのTHの放出率の変化が投与開始後すぐの段階においても経過時間に殆ど影響を受けずにほぼ一定である。したがって、本発明により得られたマイクロスフェア製剤は、投与開始後すぐの段階においても一定の徐放性を有する点で徐放性に優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子からなるカプセル皮膜の内部に薬剤が含まれる構造を備えるマイクロスフェア製剤の製造方法であって、
カプセル皮膜を構成する高分子を溶媒に溶解し、且つ該溶媒に薬剤を分散させるとともに高分子に対する非溶媒を添加してなる第1の溶液を、該第1の溶液と混和しない油性液体を含む第2の溶液に加えて乳化して、第1の溶液中の高分子からなる外層と該外層の内部に薬剤と溶媒と非溶媒を含有する内層とで構成される分散相と、第2の溶液で構成される連続相とを形成した乳化液となし、
乳化液を徐々に昇温して溶媒の蒸散速度を制御しつつ分散相の内層中の溶媒を蒸散させ、分散相を乳化液から分取する、ことを特徴とするマイクロスフェア製剤の製造方法。
【請求項2】
乳化液から分取された分散相の内層中より、非溶媒を蒸散させる、請求項1記載のマイクロスフェア製剤の製造方法。
【請求項3】
非溶媒が水である請求項1または2記載のマイクロスフェア製剤の製造方法。
【請求項4】
高分子は、疎水性デキストラン誘導体である請求項1から3のいずれかに記載のマイクロスフェア製剤の製造方法。
【請求項5】
分散液はアセトンである請求項1から4のいずれかに記載のマイクロスフェア製剤の製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のマイクロスフェア製剤の製造方法により得られるマイクロスフェア製剤。

【公開番号】特開2007−291036(P2007−291036A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−122891(P2006−122891)
【出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(306015788)シグマ創薬株式会社 (2)
【出願人】(306015777)
【出願人】(306015799)
【Fターム(参考)】