説明

マイクロチップ電気泳動方法及び装置

【課題】 簡便に試料のオンライン前濃縮を行うことができ、高感度化を実現することのできるマイクロチップ電気泳動方法及びそのための装置を提供する。
【解決手段】
前処理部21aと分離部21bとから成る泳動流路21と、泳動流路21から分岐した2つの分岐流路22、23、及び各流路の末端に設けられたポート#1〜4を備えたマイクロチップを使用し、まず、流路全体にリーディング電解液(LE)を充填した上で、ポート#3から前処理部21aに試料液(S)を電気的に注入する。続いて分岐流路22、23を電気的に浮遊状態にした上で、ポート#3からターミナル電解液(TE)を注入して等速電気泳動による試料の濃縮を行う。試料液が分岐部24を通過したら、分岐流路22、23に所定の電圧を印加することによってポート#1、#2内のLEを分離部21bに流入させ、ゾーン電気泳動による試料の分離を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロチップ電気泳動方法及び装置に関するものであり、更に詳しくは、試料のオンライン前濃縮を行うことのできるマイクロチップ電気泳動方法及びそのための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロチップ電気泳動は、平板状のマイクロチップの内部に形成された流路中で試料の電気泳動を行う分析手法であり、極微量のタンパク質や核酸等の試料を高速かつ高分離能で分析することができる。しかし、マイクロチップ電気泳動はその流路幅や流路深さの制約により、濃度感度が低いことが最大の問題となっている。このような濃度感度の問題は、検出器としてレーザー励起蛍光検出器や質量分析装置等の高感度な検出器を適用することによって改善することも可能であるが、このような特殊な検出器を用いる場合、分析できる試料が制限されたり、装置としての簡便性が失われたりするといった問題がある。そこで、本来、汎用性の高いUV検出器を備えたシステムにおいて、高感度な分析を実現することが強く求められている。サンプル量を増やすためには、サンプル注入部の分岐流路デザインをオフセット構造にすることが簡便であるが、2〜3倍の効果しか望めない上に、分離能を損なう欠点がある。従って、分離能を損なうことなく大量の試料を流路内に導入するためには何らかのオンライン前濃縮法を併用することが不可欠となる。
【0003】
従来より、マイクロチップ電気泳動と同じく微細流路を利用した電気泳動手法であるキャピラリー電気泳動においては、このようなオンライン前濃縮法として、(1)スタッキング法、(2)電気的注入法(Electrokinetic injection)、(3)過渡的等速電気泳動法、(4)Electrokinetic supercharging法などの手法が用いられている(例えば、特許文献1及び非特許文献1を参照)。
【0004】
スタッキング法は、泳動バッファ(支持電解液)に対して希薄な試料プラグを導入することで、試料のオンライン前濃縮を行う方法であり、試料プラグ部と泳動バッファ部との電位勾配の差によって、両者の境界面で試料が濃縮されることを利用したものである。しかし、この方法においては、試料プラグが長すぎる場合に、高い電位勾配によって全体の電気浸透流が増加し、分離ウィンドウが減少して試料成分の分離が不十分となるほか、試料プラグ部と泳動バッファ部での電気浸透流のミスマッチがバンドの拡散を引き起こすといった問題がある。
【0005】
過渡的等速電気泳動法は、試料中のいずれのイオンよりも移動度が大きくなるように強酸をリーディングイオンとして含む電解液(リーディング電解液:LE)と、試料中のいずれのイオンよりも移動度が小さくなるように弱酸(又はアミノ酸)をターミナルイオンとして含む電解液(ターミナル電解液:TE)との間に試料イオンが対イオンと共に挟まれた状態で電圧を印加することにより等速電気泳動の濃縮効果を実現し、その後、再びリーディング電解液を導入することで等速電気泳動を過渡的な状態とすると同時に、ゾーン電気泳動(又はゲル電気泳動)による分離状態に移行させる方法であり、上記のようなスタッキング法の欠点を抑制することができる。
【0006】
Electrokinetic supercharging法は、上記過渡的等速電気泳動法を低濃度試料の大量充填に適した電気的注入法と組み合わせたものであり、リーディング電解液を充填した流路中に、電気的注入によって試料を注入し、その後ターミナル電解液を注入して等速電気泳動的に濃縮する方法である。この方法によれば、多量の試料をシャープなゾーンとして導入できるため、等速電気泳動状態からゾーン電気泳動状態へ移行した後も、十分な分離場を確保できるという利点がある。
【0007】
【特許文献1】特開2004-325191号公報
【非特許文献1】「分析化学」, 2003年, 第52巻, 第12号, pp.1069-1079
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような種々の前濃縮方法は、キャピラリー電気泳動に対しては問題なく適用することができるが、これらの方法によるオンライン前濃縮をマイクロチップ電気泳動で実現しようとした場合には、その装置構成上の制約によって種々の課題が発生する。
【0009】
例えば、図8(a)に示すような、分岐のない単一流路を備えたマイクロチップを使用して、上記Electrokinetic supercharging法による試料の前濃縮及び分離を行う場合を説明する。まず、リーディング電解液(LE)を流路内に充填した後、注入ポート(ポート#3)から試料液を電気的に注入し、次いで、該ポート#3からターミナル電解液(TE)を注入する。これにより、試料液がリーディング電解液とターミナル電解液との間に挟み込まれることで、多量の試料が広がることなく流路に導入される。その後、ポート#3をリーディング電解液で置換して、流路に電圧を印加することにより、ゾーン電気泳動又はゲル電気泳動による試料成分の分離を行う。
【0010】
しかし、以上のような方法では、リーディング電解液−試料液−ターミナル電解液−支持電解液の順に、ポート#3内の液を何度も置換しなければならないという煩雑さがある。更に、流路中に予め充填しておくリーディング電解液中に、分離媒体として高粘度のポリマーを含むような場合には、上記のようにターミナル電解液(TE)からリーディング電解液に置換する際に気泡が混入することによる障害を避けるため、ポリマーを含まないリーディング電解液を別途用意しなければならないことも大きな欠点である。
【0011】
また、図8(b)に示すような、クロスした流路構成を有するマイクロチップを用いて上記Electrokinetic supercharging法による試料の前濃縮及び分離を行う場合、等速電気泳動による濃縮効果を上げるためには、ポート#3から試料を注入する際にクロス部に十分な電圧が印加されるようポート#1とポート#2の電圧を高くした方が有利である。しかし、試料がクロス部を通過する時には、濃縮された試料がポート#1とポート#2の方に引き込まれるのを防ぐため、ポート#1及びポート#2の印加電圧を該クロス部よりも低くする必要があり、電圧の制御が煩雑となる。
【0012】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、簡便に試料のオンライン前濃縮と分離を行うことができるマイクロチップ電気泳動方法及びそのための装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために成された本発明に係るマイクロチップ電気泳動方法は、板状部材の内部に形成された前処理部と分離部とから成る泳動流路、該泳動流路から分岐した少なくとも一つの分岐流路、及び前記板状部材の一表面の各流路の末端に対応する位置に形成された各流路に達する穴から成る複数のポートを備えたマイクロチップを用いて試料の前濃縮及び分離を行うマイクロチップ電気泳動方法であって、
a)前記分岐流路を電気的に浮遊状態にした上で、前記前処理部内で等速電気泳動による試料の濃縮を行う試料濃縮ステップと、
b)前記泳動流路内の試料液が該泳動流路と前記分岐流路との交点を通過した後に、分岐流路に所定の電圧を印加することで分岐流路内の電解液を前記分離部に流入させ、ゾーン電気泳動又はゲル電気泳動による試料の分離を行う試料分離ステップと、
を有することを特徴とする。
【0014】
更に、本発明のマイクロチップ電気泳動方法は、上記試料濃縮ステップが、
c)上記泳動流路及び上記分岐流路にリーディング電解液を充填するステップと、
d)前記泳動流路の前処理部側に設けられたポートから試料液を電気的に注入するステップと、
e)前記泳動流路の前処理部側に設けられたポートからターミナル電解液を注入するステップと、
f)前記分岐流路を電気的に浮遊状態にすると共に、前記泳動流路に電圧を印加することで等速電気泳動を行うステップと、
から成るものとすることが望ましい。
【0015】
また、本発明に係るマイクロチップ電気泳動装置は、試料の前濃縮機能を備えたマイクロチップ電気泳動装置であって、
a)板状部材の内部に形成された前処理部と分離部とから成る泳動流路、該泳動流路から分岐した少なくとも一つの分岐流路、及び前記板状部材の一表面の各流路の末端に対応する位置に形成された各流路に達する穴から成る複数のポートを備えたマイクロチップと、
b)前記マイクロチップの各ポートに設けられた電極と、
c)前記各電極に所定の電圧を印加するための電源装置と、
d)前記マイクロチップの分岐流路に設けられた電極と該電極に接続された電源装置との間に設けられたリレースイッチと、
e)試料の濃縮時には前記リレースイッチがオフ状態となって前記分岐流路が電気的に浮遊状態になると共に、試料液が前記泳動流路と分岐流路との交点を通過した後は、前記リレースイッチがオン状態となって前記分岐流路に所定の電圧が印加されるように、前記電源装置及びリレースイッチを制御する制御部と、
を有することを特徴とする。
【0016】
なお、ここで「各ポートに設けられた電極」とは、マイクロチップ表面の各ポートの周囲に蒸着等によって設けられた導電性薄膜から成る電極とすることが望ましいが、このようなマイクロチップ上に形成されるものに限らず、各ポートに差し込んで使用される針状の電極などとしてもよい。
【0017】
また、上記マイクロチップ電気泳動方法及びマイクロチップ電気泳動装置において使用されるマイクロチップは、上記前処理部が、複数回折り返した流路形状を有するものとすることが望ましい。
【発明の効果】
【0018】
従来のマイクロチップ電気泳動では、試料の注入・濃縮・分離時のいずれにおいても全ポートの電圧を同時に制御する必要があるのに対して、上記のような本発明のマイクロチップ電気泳動方法によれば、上記泳動流路と分岐流路との交点を試料が通過する際には分岐流路には電圧を印加する必要がなく、電圧制御の煩雑さが軽減される。また、試料が分岐部を通過した後は、分岐流路内の電解液が泳動流路内に流れ込むため、試料及びターミナル電解液を注入したポート#3内を再度置換する手間を省くことができる。
【0019】
また、上記のように、複数回折り返した前処理部を有するマイクロチップの場合、直線状の流路構成から成るものに比べて、同一サイズのチップ内に、より長い前処理部を形成することができるため、多量の試料を濃縮しながら導入することができ、濃度感度を更に向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、実施例を用いて本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0021】
[実施例]
本実施例に係るマイクロチップ電気泳動装置の要部の構成を図1に、該マイクロチップ電気泳動装置で用いられるマイクロチップの流路構成、及びそれを用いた電気泳動手順を図2に示す。
【0022】
本実施例に係るマイクロチップ20は、泳動流路21と該泳動流路21から分岐した2本の分岐流路22、23から成る十字状の流路、及び各流路の端部に設けられたポート#1〜#4を有するものである。該マイクロチップ20は石英製の一対の透明平板から成り、表面に溝状の流路を形成した第1の平板と、該溝の端部と対応する位置に設けられた貫通孔を備えた第2の平板とを、該溝を内側にして貼り合わせることによって構成されたものである。なお、泳動流路21と分岐流路22、23との交点(分岐部24と呼ぶ)より上流側の泳動流路21では試料の前濃縮が、下流側の泳動流路21では濃縮後の試料の分離がそれぞれ行われるため、本発明ではこれらの領域を、それぞれ前処理部21a及び分離部21bと呼ぶ。
【0023】
ポート#3及びポート#4は、泳動流路21の前処理部21a側と分離部21b側の末端にそれぞれ位置しており、ポート#1及びポート#2は、分岐流路22、23の末端にそれぞれ位置している。これらのポート#1〜4の周囲には導電性薄膜から成る電極(図示略)が形成されている。
【0024】
本実施例に係るマイクロチップ電気泳動装置10においては、上記各電極は高圧電源30に接続される。更に、ポート#1及びポート#2に設けられた電極と高圧電源30との間には、高圧リレー41、42が設けられており、高圧電源30及び高圧リレー41、42は制御部50によって制御されている。制御部50には所定のソフトウェアを搭載したパーソナルコンピュータ60が接続され、該ソフトウェアを用いて設定された分析条件等がパーソナルコンピュータ60から制御部50に送られると共に、泳動結果のデータ等が制御部50からパーソナルコンピュータ60に送られる。また、ここでは図示を省略したが、本実施例のマイクロチップ電気泳動装置10には、更に、ポート#3に試料及び電解液を導入するためのオートサンプラや、泳動流路21の分岐部24からポート#4に亘る範囲の泳動パターンを検出するためのリニアイメージUV検出器などが設けられている。
【0025】
以下、上記のようなマイクロチップ電気泳動装置を用いた電気泳動方法の一例について説明する。
【0026】
本実施例における電気泳動には、以下のような条件のバッファ系を使用した。
バッファA(LE):50mM HCl-クレアチニン, 2% Hydroxy Propyl Methyl Cellulose(Mn=11,500), pH4.8
バッファB(TE):10mM カプロン酸-クレアチニン, 2% Hydroxy Propyl Methyl Cellulose(Mn=11,500), pH4.8
また、本実施例で使用した試料液の組成は以下の通りである。
試験例1:0.05 mM SPADNS(4,5-Dihydroxy-3-(p-sulfophenylazo)-2,7-naphthalene disulfonic acid, trisodium salt)及びギニアグリーンB
試験例2:0.05 mM SPADNS及びナフトールグリーンB
【0027】
まず、予め泳動流路21及び分岐流路22、23の全体にバッファA(LE)を充填しておき、ポート#3に試料液(S)を注入した後、ポート#1=ポート#2=100V、ポート#3=0V,ポート#4=400V(高圧リレー41、42はオン)で試料を20秒間電気的に注入する(図2(a))。次いで、ポート#3をバッファB(TE)に置換した後、ポート#3=0V,ポート#4=600Vに設定し、高圧リレー41、42はオフの状態にする。これによって過渡的等速電気泳動が行われ、試料は分岐流路22、23の影響を受けることなくシャープなバンドに濃縮される(図2(b))。30秒後、高圧リレー41、42をオンの状態とし、ポート#1〜3を0V、ポート#4を600Vに切り替える。すると、予めポート#1及び#2に満たされていたバッファA(LE)が試料の後に続いて分離部21bに導入され、ゾーン電気泳動による試料成分の分離が行われる(図2(c))。
【0028】
図3(a)(b)にその際のエレクトロフェログラムを、図4にその際の電流プロフィールを示す。その結果、本実施例のマイクロチップ電気泳動方法を行った場合には、比較例として分岐流路から試料をピンチング導入して分離・検出する一般的な方法による電気泳動を行った場合に比べて、最大で約60倍の濃縮が可能であった(図5)。なお、濃縮倍率は次のように求めた。濃縮前の吸光度を、分光光度計で求めたモル吸光度係数とマイクロチップの分離流路の溝の深さから換算して求め、濃縮前の吸光度に対する濃縮後の吸光度の比とした。
【0029】
なお、従来の方法であれば、DNAサイズ分析のように分離媒体として高粘度のポリマーを含むリーディング電解液を使用した場合、ポート#3をターミナル電解液からリーディング電解液に置換する際に、気泡の混入を防止するために、ポリマーを含まないリーディング電解液(上記実施例の場合、50mM HCl-クレアチニン, pH4.8)で置換する必要があったが、本実施例のマイクロチップ電気泳動方法では、試料が分岐部24を通過した後に、予め分岐流路22、23に充填されていたリーディング電解液が泳動流路21に流れ込むようになっているため、気泡の混入を防ぐことができ、ポリマーを含まないリーディング電解液を別途調製する手間を省くことができる。
【0030】
また、本発明においては、マイクロチップとして図2に示すような直線状の流路から成るものの他に、泳動流路21の前処理部21aを複数回折り返して長くしたものを使用することもできる。このような場合の流路構成の一例を図6に示す。該マイクロチップには、泳動流路21と該泳動流路21から分岐した1本の分岐流路22が形成されており、泳動流路21の前処理部21aが5回折り返した形状となっている。通常、このような蛇行した流路に均一なバッファを充填して該流路に電圧を印加すると、電場力線の分布が流路の半径方向に対して均一でないために、試料ゾーンが流路の長手方向に拡散する傾向がある。しかし、本実施例のように、試料をリーディング電解液とターミナル電解液の間に挟んだ場合には、図7の顕微鏡写真に示すように、流路が折り返した部分でも試料ゾーンが拡散されることがなく、多量の試料を濃縮しながら導入することができる。このような流路構成を有するマイクロチップを用いて、上記と同様の方法による試料の前濃縮及び分離を行った場合、理論上、100倍以上の濃縮が可能である。
【0031】
以上、実施例を用いて本発明のマイクロチップ電気泳動装置及びそれを用いた電気泳動方法について説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変更が許容されるものである。
【0032】
例えば、本発明に用いられるマイクロチップの材質は微細加工可能なものであれば特に限定せず、上記の石英の他、パイレックス(登録商標)ガラス、各種セラミックス、シリコン、PDMS(ポリジメチルシロキサン)等の樹脂などを用いることができる。また、マイクロチップは、上記実施例のような2枚の平板を貼り合わせて成るマイクロチップの他に、1枚の平板から成るマイクロチップを使用してもよい。このようなマイクロチップは1枚の平板の内部に液体が流れる溝を形成すると共に、その平板の一表面の溝に対応する位置に流路に達する穴を形成することによって製造される。
【0033】
また、上記実施例では、試料液をリーディング電解液とターミナル電解液の間に挟み込む最も基本的な充填方法による過渡的等速電気泳動を行う場合について説明したが、非特許文献1に記載のように、過渡的等速電気泳動には、このような充填方法の他にも、リーディングイオンやターミナルイオンとして作用する試薬を試料に添加する方法など、種々の充填方法が用いられており、本発明のマイクロチップ電気泳動方法の試料濃縮ステップにおいても、試料イオンと試料溶液のイオン強度に応じて種々の充填方法を適用することができる。
【0034】
更に、上記実施例では、ターミナル電解液を注入してから所定時間等速電気泳動を行った後に、高圧リレーがオンとなるようにように制御を行うことによって、試料が分岐部を通過した後に分岐流路への電圧印加が開始されるようになっていたが、このようなタイムプログラムによる制御に限定されるものではなく、例えば、分岐部に設けたポイント検出式のUV検出器、あるいは分岐部から分離部の末端までの範囲の泳動パターンを検出するためのリニアイメージングUV検出器などによって、分岐部の吸光度をモニタすることによって、試料が分岐部を通過したことを判定して、高圧リレーを切り替えるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施例に係るマイクロチップ電気泳動装置の要部構成を示す概略図。
【図2】同実施例のマイクロチップ電気泳動装置で用いられるマイクロチップの流路構成及びそれを用いた電気泳動方法の手順を説明する図。
【図3】マイクロチップ電気泳動方法によって得られたエレクトロフェログラムであり、(a)は試験例1を、(b)は試験例2を示す。
【図4】同実施例の試験例1における電流プロフィール。
【図5】同実施例の電気泳動方法における各試料の濃縮倍数を示す表であり、(a)は試験例1を、(b)は試験例2を示す。
【図6】複数回折り返した形状の前処理部を有するマイクロチップの流路構成の一例を示す図。
【図7】同マイクロチップを用いた前濃縮時における、流路の折り返し部分を示す顕微鏡写真。
【図8】従来のマイクロチップ電気泳動によるElectrokinetic supercharging法を説明する図であり、(a)は単一流路を有するマイクロチップの場合を、(b)はクロス流路を有するマイクロチップの場合を示す。
【符号の説明】
【0036】
10…マイクロチップ電気泳動装置
20…マイクロチップ
21…泳動流路
21a…前処理部
21b…分離部
22、23…分岐流路
24…分岐部
30…高圧電源
41、42…高圧リレー
50…制御部
60…パーソナルコンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状部材の内部に形成された前処理部と分離部とから成る泳動流路、該泳動流路から分岐した少なくとも一つの分岐流路、及び前記板状部材の一表面の各流路の末端に対応する位置に形成された各流路に達する穴から成る複数のポートを備えたマイクロチップを用いて試料の前濃縮及び分離を行うマイクロチップ電気泳動方法であって、
a)前記分岐流路を電気的に浮遊状態にした上で、前記前処理部内で等速電気泳動による試料の濃縮を行う試料濃縮ステップと、
b)前記泳動流路内の試料液が該泳動流路と前記分岐流路との交点を通過した後に、分岐流路に所定の電圧を印加することで該分岐流路から電解液を前記分離部に流入させ、ゾーン電気泳動又はゲル電気泳動による試料の分離を行う試料分離ステップと、
を有することを特徴とするマイクロチップ電気泳動方法。
【請求項2】
上記試料濃縮ステップが、
c)上記泳動流路及び上記分岐流路にリーディング電解液を充填するステップと、
d)前記泳動流路の前処理部側に設けられたポートから試料液を電気的に注入するステップと、
e)前記泳動流路の前処理部側に設けられたポートからターミナル電解液を注入するステップと、
f)前記分岐流路を電気的に浮遊状態にすると共に、前記泳動流路に電圧を印加することで等速電気泳動を行うステップと、
から成ることを特徴とする請求項1に記載のマイクロチップ電気泳動方法。
【請求項3】
上記マイクロチップの前処理部が、複数回折り返した流路形状を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のマイクロチップ電気泳動方法。
【請求項4】
試料の前濃縮機能を備えたマイクロチップ電気泳動装置であって、
a)板状部材の内部に形成された前処理部と分離部とから成る泳動流路、該泳動流路から分岐した少なくとも一つの分岐流路、及び前記板状部材の一表面の各流路の末端に対応する位置に形成された各流路に達する穴から成る複数のポートを備えたマイクロチップと、
b)前記マイクロチップの各ポートに設けられた電極と、
c)前記各電極に所定の電圧を印加するための電源装置と、
d)前記マイクロチップの分岐流路に設けられた電極と該電極に接続された電源装置との間に設けられたリレースイッチと、
e)試料の濃縮時には前記リレースイッチがオフ状態となって前記分岐流路が電気的に浮遊状態になると共に、試料液が前記泳動流路と分岐流路との交点を通過した後は、前記リレースイッチがオン状態となって前記分岐流路に所定の電圧が印加されるように、前記電源装置及びリレースイッチを制御する制御部と、
を有することを特徴とするマイクロチップ電気泳動装置。
【請求項5】
上記マイクロチップの前処理部が、複数回折り返した流路形状を有することを特徴とする請求項4に記載のマイクロチップ電気泳動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−317357(P2006−317357A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−141987(P2005−141987)
【出願日】平成17年5月13日(2005.5.13)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】