説明

マイクロチップ

【課題】外形形状が対称面や対称中心を有しておらず、遠心力印加装置に嵌め込む際や基板の貼合時に、マイクロチップやこれを構成する基板の向きを間違えることがないマイクロチップを提供する。
【解決手段】少なくとも2つの基板を貼り合わせてなるマイクロチップ100であって、マイクロチップ外縁のいずれかの角部に切り欠き部104を有するマイクロチップである。切り欠き部104は、マイクロチップの一方の表面から他方の表面にわたって形成されてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA、タンパク質、細胞、免疫および血液等の生化学検査、化学合成ならびに、環境分析などに好適に使用されるμ−TAS(Micro Total Analysis System)などとして有用なマイクロチップに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療や健康、食品、創薬などの分野で、DNA(Deoxyribo Nucleic Acid)や酵素、抗原、抗体、タンパク質、ウィルスおよび細胞などの生体物質、ならびに化学物質を検知、検出あるいは定量する重要性が増してきており、それらを簡便に測定できる様々なバイオチップおよびマイクロ化学チップ(以下、これらを総称してマイクロチップと称する。)が提案されている。マイクロチップは、実験室で行なっている一連の実験・分析操作を、数cm〜数十cm角で厚さ数mm〜数cm程度のチップ内で行なえることから、サンプルおよび試薬が微量で済み、コストが安く、反応速度が速く、ハイスループットな検査ができ、サンプルを採取した現場で直ちに検査結果を得ることができるなど多くの利点を有している。
【0003】
マイクロチップはその内部に流体回路を有しており、該流体回路は、たとえば液体試薬を保持する液体試薬保持部、サンプルや液体試薬を計量する計量部、サンプルと液体試薬とを混合する混合部、混合液について分析および/または検査するための検出部などの各部と、これら各部を適切に接続する微細な流路(たとえば、数百μm程度の幅)とから主に構成される。マイクロチップは、典型的には、これに遠心力を印加可能な装置に載置して使用される。マイクロチップに適切な方向の遠心力を印加することにより、サンプルおよび液体試薬の計量、混合、ならびに該混合液の検出部への導入等を行なうことができる。検出部に導入された混合液の検査・分析(たとえば、混合液中の特定成分の検出)は、たとえば、混合液が収容された、検出部内にマイクロチップ表面に対して略平行な向きで形成された流路へ、マイクロチップ表面に対して略平行な角度から検出光を照射し、その透過率等を測定することなどにより行なわれる。
【0004】
通常、マイクロチップに遠心力を印加する遠心力印加装置は、中心点を軸に回転(公転)自在な円形状ステージを有しており、該ステージ表面上または該ステージ上に設けられたマイクロチップを自転させるための円形状ステージ表面上には、マイクロチップを組み込むための、マイクロチップ外形と略同一の形状を有する溝またはマイクロチップ外形と略同一の形状に沿って配置された、マイクロチップ固定用の壁などのマイクロチップ搭載部が形成される。マイクロチップは、当該溝または当該壁に囲まれた領域に嵌め込まれ、公転用ステージを回転させ、必要に応じて自転用ステージを回転させてマイクロチップの向きを調整しながら、マイクロチップに対し、適切な方向に遠心力が印加される。
【0005】
ここで、マイクロチップを遠心力印加装置の上記溝等に嵌め込む場合において、マイクロチップを正しい向きで設置することは極めて重要である。仮にマイクロチップの表と裏を逆にして嵌め込むと、所定の遠心操作により、所望する部位に液体を移動させることができなくなる。また、上記した検出部内の流路が、マイクロチップの厚さ方向に関して、中心位置に形成されておらず、マイクロチップ表面または裏面側に幾分ずれて形成されている場合には、表と裏を逆にして嵌め込むと、該流路位置と検出光の光源位置とがずれてしまい、混合液の分析を行なえなくなる。
【0006】
図6は、特許文献1に記載される従来のマイクロチップの外形を示す概略上面図である。図6に示されるように、従来のマイクロチップは、その外形において、対称面Aを有している。このような対称面や対称中心を有していると、マイクロチップを遠心力印加装置に嵌め込む際、マイクロチップの向き(表裏など)を間違えやすいという問題があった。また、マイクロチップは、通常2枚または3枚程度の基板を貼り合わせて作製されるが、貼合時に基板の向きを間違えやすいという問題があった。
【特許文献1】特開2007−10435号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、外形形状が対称面や対称中心を有しておらず、遠心力印加装置に嵌め込む際や基板の貼合時に、マイクロチップやこれを構成する基板の向きを間違えることがないマイクロチップを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、少なくとも2つの基板を貼り合わせてなるマイクロチップであって、マイクロチップ外縁のいずれかの角部に切り欠き部を有するマイクロチップである。切り欠き部は、マイクロチップの一方の表面から他方の表面にわたって形成されてもよい。
【0009】
切り欠き部を有する角部は、マイクロチップが有する角部のうち、マイクロチップに対して最初に印加される遠心力の遠心方向の上流側に位置する角部であることが好ましい。
【0010】
また、上記基板のうち、少なくとも1つは透明基板であり、これに隣接する基板は着色基板であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のマイクロチップによれば、角部に切り欠き部を有しており、その外形形状において対称面や対称中心を持たないため、遠心力印加装置に嵌め込む際や基板の貼合時に、マイクロチップやこれを構成する基板の向きを間違えることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、本発明に係るマイクロチップの外形の一例を示す概略斜視図である。図1に示されるマイクロチップ100は、第1の基板101および第2の基板102の2枚の基板を貼り合わせてなり、およそ平板状の形状を有している。突起部103内には、マイクロチップ内部に形成されている流体回路の一部である、サンプルと液体試薬との混合液等について分析および/または検査するための検出部が形成されている。また、マイクロチップ100の外縁に位置する角部のうち1つの角部は、切り欠き部104を有している。
【0013】
切り欠き部104を形成することにより、マイクロチップが対称面および対称中心を有しなくなるため、マイクロチップを遠心力印加装置に嵌め込む際にその向きを間違えることなく、正しい向きに嵌め込むことができる。また、マイクロチップ製造時において、第1の基板101と第2の基板102とを貼り合わせる際に、第1の基板101に形成された切り欠き部と第2の基板102に形成された切り欠き部を合うように貼り合わせればよいため、基板の向きを間違えることがない。
【0014】
切り欠き部は、図1に示されるように、マイクロチップの一方の表面から他方の表面にわたって、すなわち、マイクロチップの厚み方向全体にわたって形成されてよいし、あるいは厚み方向のうち、一部の領域に形成されていてもよい。後者の場合において、第1の基板101と第2の基板102との貼り合わせ時において基板の向きを誤らないためには、第1の基板101と第2の基板102の両方に切り欠き部を形成することが好ましい。
【0015】
切り欠き部の形状は、図1に示されるような角部を斜めにカットした形状に限定されるものではなく、種々の形状を採り得る。図2は、本発明に係るマイクロチップの外形の別の一例を示す概略上面図である。図2のマイクロチップ200は、その角部の1つに切り欠き部204を有しており、該切り欠き部204は、マイクロチップが略L字状の壁面を有するように形成されている。
【0016】
切り欠き部が形成される角部の数については特に制限はないが、複数の切り欠き部を有する結果、マイクロチップが対称面または対称中心を持たないようにすることが必要である。
【0017】
マイクロチップ外縁に位置する角部のうち、切り欠き部が形成される角部は特に限定されるものではない。たとえば、図1のマイクロチップ100は、突起部103の角部も含めて6つの角部を有するが、これらのうちいずれの角部に切り欠き部が形成されてもよく、突起部103の角部に形成されてもよい。ただし、遠心力印加装置を用いたマイクロチップの遠心操作の効率性を考慮すると、マイクロチップに対して最初に印加される遠心力の遠心方向の上流側に位置する角部に切り欠き部を形成することが好ましい。すなわち、マイクロチップが有する複数の角部は、前述した遠心力印加装置が有する、中心点(遠心中心)を軸に回転(公転)自在な円形状ステージ表面上または該ステージ上に設けられたマイクロチップを自転させるための円形状ステージ表面上に形成された溝または固定用壁などのマイクロチップ搭載部内に搭載された際、当該中心点(遠心中心)に近い側(遠心方向の上流側)の角部と、当該中心点(遠心中心)に遠い側(遠心方向の下流側)の角部とに大別されるが、切り欠き部を形成する角部は、中心点(遠心中心)に近い側(遠心方向の上流側)の角部であることが好ましい。これにより、マイクロチップをステージ表面上の溝等に搭載する場合、マイクロチップ搭載部を、図5に示されるように、該ステージの外側から内側にマイクロチップを押し込むことにより搭載することが可能な形状とすることができることから、ステージ中心軸上の空間を遠心力印加装置の一部として利用できるため、装置の設計自由度を高めることができる。また、遠心力印加装置の使い勝手、マイクロチップのセットのし易さも向上し、マイクロチップの向きを調整することなく、遠心操作を行なうことができるため、遠心操作の効率化を図ることができる。
【0018】
ここで、図3は、本発明のマイクロチップの外形および内部に形成された流体回路の一例を示す概略上面図である。図3に示されるマイクロチップ300において、突起部303は、図1のマイクロチップ100とは異なり、角部近傍に配置されている。また、角部の1つに切り欠き部304を有する。マイクロチップ300は、血液検査用として好適に用いられるチップであり、その流体回路は、全血を採取したキャピラリー等のサンプル管を組み込むサンプル管載置部311、サンプル管より取り出された全血から血球を除去して血漿成分を得る血漿分離部312、分離された血漿成分を計量する第1の計量部313、液体試薬を保持するための2つの液体試薬保持部314a、314b、液体試薬を計量する第2の計量部315a、第3の計量部315b、血漿成分と液体試薬とを混合する混合部316a〜316d、および得られた混合液についての検査・分析が行なわれる検出部317、ならびにこれらの部位を適切に接続する微細流路から主に構成される。
【0019】
当該マイクロチップ300について行なわれる最初の遠心操作は、図3における下向きの遠心力を印加して、サンプル管載置部311内のサンプル管から全血サンプルを排出させる操作である。したがって、図3のマイクロチップにおける右上の角部に切り欠き部を形成すると、マイクロチップを遠心力印加装置に搭載した際のそのままの配向で、全血サンプルを排出させるための遠心操作を行なうことができる。
【0020】
本発明において、マイクロチップは、2枚以上の基板を貼り合わせて構成されるが、基板のうち、少なくとも1つを透明基板とし、これに隣接する基板を着色基板とすることが好ましい。たとえばマイクロチップが3枚の基板から構成される場合には、透明基板/着色基板/透明基板の順とすることができる。このような基板の色分けによっても、基板を貼り合わせる際の向き、配置順および/または遠心力印加装置に搭載する際のマイクロチップの向きの誤りを回避し得る。着色基板の色は、特に制限されないが、基板同士を光照射による基板表面の融着により接着する場合には、光をよく吸収することから、黒色であることが好ましい。黒色化は、たとえば基板材料となる樹脂にカーボンブラック等の黒色顔料などを添加することにより行なうことができる。
【0021】
遠心力印加装置のマイクロチップ搭載部には、マイクロチップの切り欠き部の形状に対応する突出部を設けておくことが好ましい。これにより、誤った向きでマイクロチップを搭載部に挿入した場合には、該突出部が障害となってマイクロチップを搭載部内に完全に搭載することができないため、向きが誤っていることを認識することができる。たとえば図1に示されるマイクロチップ100をマイクロチップ搭載部に搭載する場合、図4に示されるように、マイクロチップ搭載部400は、マイクロチップ100の切り欠き部104に対応する突出部401を有していることが好ましい。なお、マイクロチップ搭載部は、円形状ステージに形成された溝(凹部)や固定用壁によって構成されるものに限定されず、いかなる態様であってもよい。たとえば、マイクロチップを収容するための溝(凹部)と該溝を閉じるための蓋から構成されていてもよく、マイクロチップは、カセットテープをその再生機に搭載するのと同様の方式で該溝内に収容されてもよい。
【0022】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るマイクロチップの外形の一例を示す概略斜視図である。
【図2】本発明に係るマイクロチップの外形の別の一例を示す概略上面図である。
【図3】本発明のマイクロチップの外形および内部に形成された流体回路の一例を示す概略上面図である。
【図4】遠心力印加装置のマイクロチップ搭載部の形状の一例を示す概略上面図である。
【図5】マイクロチップを、遠心力印加装置の円形状ステージ上に設けられたマイクロチップ搭載部に搭載する様子を示す概略図である。
【図6】従来のマイクロチップの外形を示す概略上面図である。
【符号の説明】
【0024】
100,300 マイクロチップ、101 第1の基板、102 第2の基板、103,303 突起部、104,304 切り欠き部、311 サンプル管載置部、312 血漿分離部、313 第1の計量部、314a,314b 液体試薬保持部、315a 第2の計量部、315b 第3の計量部、316a,316b,316c,316d 混合部、317 検出部、400 マイクロチップ搭載部、401 突出部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの基板を貼り合わせてなるマイクロチップであって、
前記マイクロチップ外縁のいずれかの角部に切り欠き部を有するマイクロチップ。
【請求項2】
前記切り欠き部は、マイクロチップの一方の表面から他方の表面にわたって形成される請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項3】
前記切り欠き部を有する角部は、マイクロチップが有する角部のうち、マイクロチップに対して最初に印加される遠心力の遠心方向の上流側に位置する角部である請求項1または2に記載のマイクロチップ。
【請求項4】
前記基板のうち、少なくとも1つは透明基板であり、これに隣接する基板は着色基板である請求項1〜3のいずれかに記載のマイクロチップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−109466(P2009−109466A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−285039(P2007−285039)
【出願日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】