説明

マイクロデバイスの製造方法及び修復方法

【課題】可動部と支持基板の間に空隙を有するマイクロデバイスの製造ないし修復において、歩留り、2次元アレイ化した素子の特性バラツキ等を改善することが出来る技術を提供する。
【解決手段】可動部103と支持基板101の間に空隙を有するマイクロデバイスの製造方法及び修復方法おいて、スティッキング解消工程を実行する。スティッキング解消工程では、可動部102が支持基板101に張り付いてしまったマイクロデバイスを修復する為に、マイクロデバイスに熱及び衝撃の少なくとも一方を与えて可動部102の支持基板101への張り付き力を低下させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロデバイスの製造方法及び修復方法に関する。
【背景技術】
【0002】
容量型超音波変換素子(以下、CMUT(Capacitive Micromachined Ultrasonic Transducer))、静電マイク、圧力センサ、加速度センサなど、支持基板上に可動部を有するマイクロデバイスは幅広い用途で開発が進められている。これらのマイクロデバイスは、主にメンブレンや平板状の電極が支持基板などの固定電極に対向した構造を有しており、エッチングによる犠牲層除去や、薄膜の張り合わせなどの工程により作製される。これら可動部を有するマイクロデバイスは、その製造工程において、物理吸着や化学吸着、膜応力などの力などが原因となって可動部と支持基板とが直接又は間に介在物を介して張り付く(接触する)現象(以下、スティッキング)が発生する場合がある。こうした現象は、特に、これらデバイスの感度向上を図る場合や2次元検出のために複数のマイクロデバイスをアレイ化する場合では、歩留りの低下や特性バラツキの原因となっている。
【0003】
このスティッキングを防止する為、可動部または支持基板側の表面をフッ酸などのエッチング液を用いて凹凸を形成する方法が提案されている(特許文献1参照)。また、基板と多結晶膜との間に中空空間有するマイクロ構造体を製造する際に、エッチングガスであるHFとシリコン窒化膜とが反応して変質膨張することに対して200〜300℃に加熱してシリコン窒化膜の変質物を熱分解する技術が開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−340477号公報
【特許文献2】特開2005−161493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、表面に凹凸を形成する為に煩雑なウェットプロセスを工程中に実施しなければならない。また、CMUTなどのデバイスの感度を上げるために可動部であるメンブレンと支持基板上電極のギャップを狭くし且つ動作中に強電界を必要とする場合、表面凹凸は少ない方が好ましい。更に、表面への凹凸作製工程前にスティッキングしてしまった場合には、対処が出来なくなる。また、特許文献2に記載の方法においては、変質膨張した物質を飛散するために飛散物による中空空間の汚染対策、飛散時の中空空間を構成する壁面の破損防止等煩雑なプロセスが必要となる。また、このような方法が適用可能な材料は熱分解可能な材料に限定されてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に鑑み、可動部と支持基板の間に空隙を有するマイクロデバイスの製造方法及び修復方法は、次の工程を含む。すなわち、可動部と支持基板とが張り付いたマイクロデバイスを修復する為に、前記マイクロデバイスに熱及び衝撃の少なくとも一方を与えて可動部の支持基板への張り付き力を低下させるスティッキング解消工程を含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、可動部の支持基板への張り付き力を低下させるスティッキング解消工程を行うので、可動部と支持基板の間に空隙を有するマイクロデバイスの製造ないし修復において、歩留り、2次元アレイ化した素子の特性バラツキ等を改善することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】支持基板に可動部が張り付いたマイクロデバイスの修復工程を説明する図。
【図2】本発明の方法の実施例の修復工程を行う装置を説明する図。
【図3】実施例の修復工程を説明する図。
【図4】実施例で用いるパルスレーザー光のパルスプロファイルを説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明では、平板状等の可動部と支持基板の間に空隙を有するマイクロデバイスの製造ないし修復において、マイクロデバイスに熱及び衝撃の少なくとも一方を与えて張り付き力を低下させる工程を実行する。これにより、可動部が支持基板に張り付いてしまったマイクロデバイスを効果的に修復することができる。また、熱及び衝撃の少なくとも一方を与えて物理的なショックを発生させるという単純なスティッキング解消工程を実行するだけなので、煩雑なプロセスを必要とせず、適用可能な材料も殆ど限定されない。
【0010】
以下、図1を用いて、本発明によるマイクロデバイスの製造方法ないし修復方法の一実施形態を説明する。図1は、張り付き力を低下させてスティッキングしてしまったマイクロデバイスを修復する為にマイクロデバイスに熱または衝撃を与える工程を模式的に示す。図1において、101はマイクロデバイスの支持基板、102はスティッキング状態の可動部、103はスティッキングを修復した状態の可動部、104はマイクロデバイスに与える熱または衝撃である。可動部103と支持基板101とはサブミクロン以下の微小な空隙を介して対向して形成され、例えば容量型のマイクロデバイスでは、それぞれに電極を設けることで可動部の微小な位置変化を検出するコンデンサとして機能させる。
【0011】
スティッキングしてしまったマイクロデバイスに熱または衝撃を与える工程は、エッチングによる犠牲層除去や薄膜の張り合わせなどの工程によって支持基板101との間に微小な空隙を有する可動部103を作製した後であれば、必要な時に実施してよい。可能であれば、可動部形成後の幾つかの工程間でスティッキングの有無を検査した際に実施することが好ましい。特に、CMUTのようにメンブレン(可動部)形成後に電極を作製する場合には、電極形成前にスティッキングの検査/修復を行うことが好ましい。また、前記熱または衝撃を与える工程の実施は、大気中であっても真空中であっても構わない。
【0012】
マイクロデバイスに熱または衝撃を与える手段としては、物理的な接触によって熱または超音波を連続的或いは断続的に付与する方法があるが、簡便かつ好適な手段としては光を用いる方法がある。光を使用する場合、光を照射する領域を構成する材料の少なくとも一つが照射光を吸収するものであれば、光の波長に特に限定は無い。白色光を用いても、単色光または波長の異なる単色光が混ざった光を用いても構わない。光は連続的に照射しても構わないし、パルス状の光を照射しても構わない。短時間でオン・オフするパルス状の光を用いれば、熱の断続的付与と熱膨張・収縮による衝撃とを同時に与えて可動部の支持基板への張り付き力をより効果的に低下させることが出来る。例えば、レーザー加工機に用いられるNd:YAGなどのパルスレーザーを用いることが出来る。また、熱及び衝撃のうちの一方のみを与えて可動部の張り付き力を低下させてもよいし、両方を同時的に与えて可動部の張り付き力を低下させてもよい。例えば、超音波の付与と光の照射を同時的に行ったり、光の連続的照射とパルス状の光の照射を同時的に行ったりしてもよい。
【0013】
更に、光照射を用いてマイクロデバイスに熱または衝撃を与える場合、複数のマイクロデバイス全体に光照射を行ってもよいし、光学レンズで絞った光を特定のマイクロデバイスの所望領域に照射しても構わない。光照射でマイクロデバイスの特性変化が懸念される場合は、複数のマイクロデバイスの全体に照射する方が好ましいし、スループットを上げるために特定のマイクロデバイスのみを修復したい場合は、光学レンズで光を絞って所望の場所に照射する方が好ましい。後者の方法としては、例えば光学系で光束を絞ったパルスレーザーをスティッキングしたマイクロデバイス或いはその近傍に照射する方法が挙げられる。尚、パルスレーザー照射によってマイクロデバイスの特性変化が懸念される場合は、例えば、フルエンスを上げたパルスレーザーをマイクロデバイスから外した近くの領域に照射することでも、スティッキングの修復が可能である。
【0014】
上記の如く光学レンズで絞った光を特定のマイクロデバイス或いはその近傍に照射する場合、スティッキングしている箇所を検査/位置特定する方法が必要となる。段差計やAFM(Atomic force Microscope)などの探針子を用いる方法では、マイクロデバイスのスティッキングを直接判断することが可能である。ただし、測定時間が長く装置が複雑になりやすい為、スティッキングによる可動部の変位が光学的に確認することが出来る場合は、光学顕微鏡を用いた非接触による方法が好ましい。可動部が可視光に対して透明な場合であれば干渉効果による干渉色の違い調べて判断することが出来る。また、可視光に対して不透明な場合であれば、共焦点顕微鏡を用いた形状測定により判断することが出来る。スティッキングしたマイクロデバイスが確認された位置の特定は、光学顕微鏡像上での座標またはXYZΦステージによりマイクロデバイスを移動する手段の座標に基づき行うことが出来る。更に、光学顕微鏡を用いた方法では、マイクロデバイスを観察する為の対物レンズを含む光学系を、張り付き力を低下させてスティッキングを修復する為の光照射に用いる光学系として共用することも出来る。
【0015】
光照射を用いてマイクロデバイスにパルスレーザーを与える場合、スティッキングを修復可能で且つマイクロデバイスにダメージを与えないフルエンスを予め調整しておく必要がある。フルエンスの調整は、光源の出力や光学系による光束の調整、減光フィルターによる調整によって行うことが出来る。同一の製造工程を経たマイクロデバイスであれば、スティッキングを修復する為のフルエンスはほぼ一定であるが、複数のマイクロデバイスを同一ウェハ内に作製する場合、フルエンス調整のためのマイクロデバイスを備えている方が望ましい。また、予め最適なフルエンスを確認することが出来ない場合、スティッキングが修復されるまでフルエンスを少しずつ上げていく方法が好ましい。
【0016】
以上の様な工程を、微小な空隙を有するマイクロデバイスの製造工程中に実行することで、簡便かつ確実にスティッキングしたマイクロデバイスを修復し、歩留りの向上、2次元アレイ化した素子の特性バラツキの改善を達成することが出来る。
【0017】
以下、より具体的な実施例を説明するが、本発明は実施例に限定されるものではなく、マイクロデバイスに熱または衝撃を与えて物理的な力を作用させることにより可動部の張り付き力を低下させることが出来れば、その手段や方法は限定されない。また、パルスレーザー光照射を用いる場合においても、スティッキングを修復出来るものであれば、波長やパルス幅、フルエンスなどは自由に変えることが出来る。本実施例は、ウェットエッチングでキャビティを形成したCMUTデバイスの作製において、製造工程中にスティッキングしたCMUTデバイスを検出し、パルスレーザー光照射によってそのデバイスを修復する工程を含んだ製造方法の実施例である。この方法は修復方法に応用することも出来る。
【0018】
本実施例の検査/修復を行う為に用いる装置構成を図2に示す。201は、支持基板上に直径50μmのメンブレン(可動部)を有する二次元状に並べられた多数のCMUTデバイス、202は、修復するCMUTデバイス201を移動させる為のエンコーダーを備えたモーター駆動可能なXYZΦステージである。203は、スティッキングを修復する為に照射するレーザー源となるYAGレーザー光源、204は、CMUTデバイスを観察/記録する為の落射照明付きカラーCCDカメラである。205は、レーザー照射に用いる光学系とCMUTデバイス201を光学顕微鏡観察する為の光学系を備えた光学鏡筒、206は、レーザー光照射と光学顕微鏡観察を行う為の対物レンズである。207は、レーザー光を光学鏡筒205内の光学系に導く為のレーザー光用ミラー、208は、光学顕微鏡観察及び落射照明を行う為の光学顕微鏡用ミラーである。更に、209は、XYZΦステージ202の駆動と落射照明付きカラーCCDカメラ204の駆動及び撮像とYAGレーザー光源203の駆動とを制御するための制御用PCである。
【0019】
一方、本実施例のCMUTデバイスの修復工程を図3に示す。図3において、301は、スティッキングしていないCMUTデバイス、302は、スティッキングしているCMUTデバイスである。303は、支持基板となるシリコン基板、304は、Tiで形成された下部電極、305は、窒化シリコンで形成されたメンブレン、306は、下部電極304とメンブレン305の間に形成されたキャビティ(空隙)である。更に、307は、CMUTデバイスを観察する為の光学顕微鏡観察光路、308は、スティッキングしたCMUTデバイス302に照射するパルスレーザー光である。
【0020】
図2及び図3を用いて、本実施例のCMUTデバイスの製造方法の工程を説明する。工程は大きく分けて6つの工程からなり、第5の工程においてCMUTデバイスの修復工程を詳しく説明する。第1の工程では、支持基板となるシリコン基板303上に、下部電極304となる膜厚20nmのチタン薄膜の成膜を行う。第2の工程では、キャビティ306を形成する為の犠牲層として、直径50μm、膜厚200nmのクロム薄膜を下部電極304上にフォトリソグラフィーにより形成したものを、2次元状に並べて作製する。第3の工程では、メンブレン305となる膜厚500nmの窒化シリコン薄膜を成膜し、更に犠牲層をウェットエッチングするためのエッチング孔をフォトリソグラフィーによりクロム薄膜上の窒化シリコン薄膜に形成する。第4の工程では、電解エッチングを用いて犠牲層のクロム薄膜をエッチング孔からエッチングし、チタンの下部電極304と窒化シリコンのメンブレン305との間にキャビティ306を形成する。
【0021】
スティッキング解消工程である上記第5の工程は、パルスレーザー光照射によってスティッキングしたCMUTデバイス302を修復する工程である。勿論、スティッキングの修復(回復)状態に注意しながら必要に応じて光を連続的に照射することもできるし、レーザー光源以外の光源を用いることもできる。素子全体をフラッシュ露光することもできる。先ず、作製途中のCMUTデバイス201を、図2に示した検査/修復を行う為の装置のステージ202にセットし、各CMUTデバイスの光学顕微鏡観察を対物レンズ206と落射照明付きカラーCCDカメラ204で行う。図3のようにスティッキングしているCMUTデバイス302は中央が凹んだ形状になっており、デバイス中心と端では下部電極304の表面とメンブレン305の表面との距離が異なっている。これにより、スティッキングしているCMUTデバイス302には干渉色が模様となって現れ、スティッキングしていることを確認することが出来る。次に、図2に示したステージ202を制御用PC209で駆動しながら各CMUTデバイス201の光学顕微鏡像をCCDカメラ204で観察し、撮像した光学顕微鏡像を制御用PC209に転送する。そして、干渉色が確認されたCMUTデバイスが観察された際に、制御用PCによりYAGレーザー光源203を駆動させ、光学顕微鏡観察中のスティッキングしているCMUTデバイス302にパルスレーザー光を照射する。これにより、図3のようにパルスレーザー光308を照射されたスティッキングしているCMUTデバイス302のメンブレン305のスティッキングが解かれる。こうして、スティッキングしていないCMUTデバイス301との同じ様子が光学顕微鏡観察で確認され、図3の右図のようにスティッキングが解消されているものと確認することが出来る。
【0022】
ここでは、光学顕微鏡観察とパルスレーザー光照射は、図2のように対物レンズ206を共用しており、観察領域内にパルスレーザー光照射を行うことが出来る。ここでは、YAGレーザー光源は第二高調波(波長532nm)を用い、図4に示すように半値幅約5nsec、ピーク強度約0.5MJ/secのパルスレーザーである。フルエンスは光学系透過時の減衰と対物レンズの集光などにより、スティッキングが解消され且つCMUTデバイスにダメージを与えないように調整を行った。調整したフルエンスは、同一CMUTデバイス内においてほぼ一定であった為、フルエンス調整用のCMUTデバイスを設けておくのが好ましい。因みに、パルスレーザー光308は、照射領域:12×12μm、フルエンスはCMUTデバイスの中心部に照射する場合では320mJ/cmであった。CMUTデバイスにパルスレーザーが照射されないように中心部から35μm外した領域に照射する場合では、前者の約2倍であった。従って、パルスレーザー照射によるCMUTデバイスのダメージが懸念される場合、CMUTデバイス近傍にのみフルエンスを上げて照射することが好ましい。最後に、第6の工程において、スティッキングが修復された全てのメンブレン305の上に、厚み100nmのAl電極を形成し、全てのCMUTデバイスが所望の駆動をすることが出来るCMUTデバイスを完成させた。
【符号の説明】
【0023】
101…支持基板、102…スティッキング状態の可動部、103…スティッキングを修復した状態の可動部、104…熱または衝撃

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動部と支持基板の間に空隙を有するマイクロデバイスの製造方法であって、
可動部と支持基板とが張り付いたマイクロデバイスを修復する為に、前記マイクロデバイスに熱及び衝撃の少なくとも一方を与えて可動部の支持基板への張り付き力を低下させるスティッキング解消工程を含むことを特徴とするマイクロデバイスの製造方法。
【請求項2】
前記スティッキング解消工程が、前記マイクロデバイスに光を照射する工程であることを特徴とする請求項1に記載のマイクロデバイスの製造方法。
【請求項3】
前記スティッキング解消工程が、パルスレーザー光を照射する工程であることを特徴とする請求項2に記載のマイクロデバイスの製造方法。
【請求項4】
前記スティッキング解消工程の前に、張り付いてしまったマイクロデバイスを特定する工程を行うことを特徴とする請求項2または3に記載のマイクロデバイスの製造方法。
【請求項5】
前記スティッキング解消工程が、張り付いてしまったマイクロデバイスまたはその近傍にのみ光を照射する工程を有することを特徴とする請求項4に記載のマイクロデバイスの製造方法。
【請求項6】
可動部と支持基板の間に空隙を有するマイクロデバイスの修復方法であって、
可動部が支持基板に張り付いたマイクロデバイスを修復する為に、前記マイクロデバイスに熱及び衝撃の少なくとも一方を与えて可動部の支持基板への張り付き力を低下させるスティッキング解消工程を含むことを特徴とするマイクロデバイスの修復方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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