説明

マイクロフォン

【課題】音圧に対する感度を維持しつつ、小型化および低コスト化を図ることができるマイクロフォンの提供。
【解決手段】複数層から成る基板を半導体基板加工技術により加工して形成されるマイクロフォン1において、基板の第1の層である下部Si層30から成り、バックチャンバ7が形成された支持枠2と、基板の第2の層である上部Si層10から形成され、バックチャンバ7と対向する位置に弾性支持部4により弾性支持された可動板としての可動部5と、上部Si層10から形成され、可動部5の側面に所定隙間8aを介して対向している固定部3と、を備える。そして、使用温度範囲内の所定温度における音速をcおよび空気の動粘性係数をνとしたときに、所定隙間8aの可動板厚さ方向の寸法hおよび側周面と固定部対向面との間隔dは、h≧πcd/6νを満足するように設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話やIC レコーダーなどに用いられているマイクロフォンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコンウエハを用いてマイクロマシニングで作製されるコンデンサ型のマイクロフォンが知られている。このマイクロフォンには、音圧を検知する振動板であるメンブレンとこれに対向するバックプレートが設けられており、メンブレンとバックプレートとの空隙の変化を電気的に検出するように構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−163998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、携帯電話やIC レコーダーに用いられるマイクロフォンにおいては、一定の性能を満たすと同時に、実装に要する体積の低減と、コストの低減が求められている。しかしながら、従来は、ダイアフラムおよびバックプレートを対向して備える多層構造であるため、複数のスペーサや電極構造を要し、体積低減やコスト低減に対して阻害要因となっている。また、マイクロマシニングで作製されるコンデンサマイクの場合、性能を満たすコンデンサを形成するためには、上述した多層構造において数μm 以下のギャップが求められるようになっており、表面マイクロマシニングに対応した高い製造技術や設備が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明は、複数層から成る基板を半導体基板加工技術により加工して形成されるマイクロフォンであって、基板の第1の層から成り、バックチャンバが形成された支持枠と、基板の第2の層から形成され、バックチャンバと対向する位置に弾性支持部により弾性支持された可動板と、第2の層から形成され、所定隙間を介して可動板の側面に対向している固定部と、を備え、使用温度範囲内の所定温度における音速をcおよび空気の動粘性係数をνとしたときに、所定隙間の可動板厚さ方向の寸法hおよび側周面と固定部対向面との間隔dは、h≧πcd/6νを満足するように設定されていることを特徴とする。
請求項2の発明は、請求項1に記載のマイクロフォンにおいて、可動板と固定部とがコンデンサを形成し、可動板が変位した際の静電容量変化に基づいて音圧を検出するようにしたものである。
請求項3の発明は、請求項2に記載のマイクロフォンにおいて、可動板は、前記コンデンサの静電容量が最大となる位置に対して、該可動板の厚さ方向に位置ズレして配置されていることを特徴とする。
請求項4の発明は、請求項3に記載のマイクロフォンにおいて、可動板および固定部の厚さをHとし、音圧が作用したときの可動板の最大振幅をξ1としたとき、位置ズレξ0は、ξ1/2≦ξ0<h−ξ1/2を満足するように設定されている。
請求項5の発明は、請求項2〜4のいずれか一項に記載のマイクロフォンにおいて、可動板および固定部の各対向面は、凹凸状に入り込んだ櫛歯形状を成すことを特徴とする。
請求項6の発明は、請求項2〜5のいずれか一項に記載のマイクロフォンにおいて、固定部および可動板の少なくとも一方を複数に分割して、複数のコンデンサを形成したことを特徴とする。
請求項7の発明は、請求項2〜6のいずれか一項に記載のマイクロフォンにおいて、固定部または可動板の表面に、コンデンサにバイアス電圧を印加するための永久帯電膜を形成したものである。
請求項8の発明は、請求項2〜6のいずれか一項に記載のマイクロフォンにおいて、支持枠の表面に形成された永久帯電膜と、永久帯電膜と固定部または可動板の一方とを導通する導通部と、を備えたことを特徴とする。
請求項9の発明は、請求項1に記載のマイクロフォンにおいて、弾性支持部にピエゾ抵抗素子を配置し、可動板が変位した際のピエゾ抵抗素子の抵抗変化に基づき音圧を検出することを特徴とする。
請求項10の発明は、請求項1〜9のいずれか一項に記載のマイクロフォンにおいて、可動板に、溝を形成したこと、または直径が間隔dと同一寸法の貫通孔を形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、音圧に対する感度を維持しつつ、マイクロフォンの小型化および低コスト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明によるマイクロフォンの第1の実施の形態を示す図であり、(a)はマイクロフォン1の概略構成を示す平面図、(b)はA−A断面図である。
【図2】マイクロフォン1の動作原理を示す模式図である。
【図3】マイクロフォン1の出力回路を示す図である。
【図4】圧力差を説明する図であり、(a)ダイアフラム230の裏面側が密封空間となっている場合を示し、(b)はダイアフラム裏面側の空間が半密封状態となっている場合を示す。
【図5】ギャップ内の圧力差の伝播を説明する図である。
【図6】h=πcd/6νのグラフを示す図である。
【図7】感度特性を示す図である。
【図8】マイクロフォン1の製造工程を説明する図である。
【図9】マイクロフォン1の製造工程を説明する図であり、図8に示す工程に続く工程を示す。
【図10】マイクロフォン1の製造工程を説明する図であり、図9に示す工程に続く工程を示す。
【図11】本発明によるマイクロフォンの第2の実施の形態を示す図であり、(a)は平面図、(b)はA−A断面図である。
【図12】図11(a)のB−B断面を示す図である。
【図13】初期ズレξ0がξ0=0の場合を説明する図であり、(a)は入力音波の音圧変化を示し、(b)は固定部3と可動部5との位置関係を示し、(c)は静電容量の変化を示す。
【図14】初期ズレξ0がξ0≠0の場合を説明する図であり、(a)はξ0≧ξ1/2の場合を示し、(b)はξ0<ξ1/2の場合を示す。
【図15】第1の変形例を示す図である。
【図16】第2の変形例を示す図である。
【図17】第3の変形例を示す図である。
【図18】本発明によるマイクロフォンの第3の実施の形態を示す図であり、(a)は平面図、(b)はA−A断面図である。
【図19】マイクロフォンの指向性を説明する図である。
【図20】第3の実施の形態の変形例を示す図であり、(a)は平面図、(b)はA−A断面図である。
【図21】基板上に回路領域が設けられたマイクロフォン1を示す平面図である。
【図22】エレクトレット部33を備えるマイクロフォン1の平面図である。
【図23】固定部3および可動部5の形状に応じた初期ズレξ0の設定を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図を参照して発明を実施するための形態について説明する。
−第1の実施の形態−
図1は、本実施の形態のマイクロフォンの概略構成を示す図であり、(a)は平面図、(b)はA−A断面図である。マイクロフォン1は、支持枠2上に固定された固定部3と、弾性支持部4を介して支持枠2に連結されている可動部5とを備えている。本実施の形態においては、マイクロフォン1は、下部Si層30,SiO層20,上部Si層10の3層構造を有するSOI(Silicon on Insulator)基板を用いて、マイクロマシニング技術、或いはフォトリソグラフィ技術により作製される。
【0009】
支持枠2は下部Si層30から形成され、固定部3,可動部5および弾性支持部4は上部Si層10から形成される。固定部3および弾性支持部4と支持枠2との間には、絶縁層としてのSiO層20が介在している。支持枠2には矩形状の空洞から成るバックチャンバ7が形成されており、可動部5はバックチャンバ7の上方に弾性支持部4により弾性支持されている。固定部3および可動部5には電極6a,6bが形成されており、後述するように、それらの間にはDC電圧が印加される。
【0010】
固定部3および可動部5は櫛歯形状部を有していて、固定部3の歯と歯の間に可動部5の歯が入り込むように、固定部3および可動部5は配置されている。本実施の形態では、固定部3と可動部5との間のギャップ8a、U字形状を成す弾性支持部4同士のギャップ8d、可動部5と弾性支持部4との間のギャップ8bおよび固定部3と弾性支持部4との間のギャップ8cのギャップ寸法は、同一寸法に設定されている。なお、このギャップ寸法は、後述するように所定の寸法に設定されている。ここでは、可動部5および固定部3のバックチャンバ7側を裏面側と称し、反対側を表面側と称することにする。検出すべき音波は表面側に入射する。
【0011】
図2は、マイクロフォン1の動作原理を示す模式図である。可動部5の側面500と対向する固定部3の対向面300との間には上述したギャップ8aが形成されており、固定部3と可動部5とによってコンデンサCが形成されることになる。音波が可動部5の表面側に到達して音圧が作用すると、可動部5を弾性支持する弾性支持部4が撓み、可動部5がバックチャンバ7側(z軸マイナス方向)に変位する。その結果、コンデンサCの静電容量が変化する。このように、本実施の形態のマイクロフォン1はコンデンサ型マイクロフォンを構成しており、可動部5の振動によるコンデンサCの静電容量変化を電気信号に変換することで音圧を読み取っている。
【0012】
図3は、マイクロフォン1の出力回路を示す図である。破線で囲まれた部分はマイクロフォン1の静電容量を表しておりCは固定部3と可動部5との間の静電容量であり、Cs1は固定部3側の寄生容量であり、Cs2は可動部5側の寄生容量である。固定部3と可動部5との間にはDCバイアス電圧Vbを印加する。なお、固定部側にエレクトレットを形成し、そのエレクトレットによりバイアス電圧が印加されるようにしても良い。Cpはバイパスコンデンサである。
【0013】
固定部3に対して可動部5が変位すると、グランド側の可動部5の電荷が僅かに変化する。可動部5はFET41のゲートGに接続されており、FET41のドレイン・ソース間には、FET41を動作させるためのドレイン・ソース電圧Vdcが印加される。なお、固定部3にDCバイアス電圧Vbを印加することで、可動部5の電荷の変動を増大させることができる。可動部5の電荷変動は電流変化として増幅され、抵抗Rの電圧を読み取ることで、音圧による容量Cの変化を電圧変化として検出することができる。なお、図3では可動部側をグランドとし、可動部側にFET41を接続したが、逆に、固定部側をグランドにして固定部側にFET41を設けても良い。
【0014】
(ギャップ寸法の説明)
従来のコンデンサ型マイクロフォンは、音波による圧力変動を読み取るためのダイアフラムとバックプレートとを有している。ダイアフラムによって空気を遮断し、ダイアフラムの表裏に発生する圧力差によってダイアフラムを振動させる。そして、バックプレートに対してダイアフラムが振動することによる静電容量変化を、電気信号に変換することで音圧を読み取っている。一方、本実施の形態では、従来のコンデンサマイクロフォンでコンデンサを構成するダイアフラムおよびバックプレートを、固定部2および可動部5に置き換えることによって、音圧を検出するようにしている。
【0015】
一般的に、ダイアフラムの振動により音声を検出するマイクロフォンにおいては、振動板としてのダイアフラムの表裏間に発生する圧力差が重要となる。本実施の形態では、音圧が入射する可動部5は、その表面側と裏面側とがギャップを介して連通している。このような構造において、可動部5の表裏間に十分な圧力差を発生させるためには、隙間のギャップ寸法を最適な値に設定する必要がある。
【0016】
例えば、図4(a)に示すようにダイアフラム230の裏面側が密封空間となっていた場合と、図4(b)に示すようにダイアフラム230に穴230aが形成されていて、ダイアフラム裏面側の空間が半密封状態となっている場合とを考察する。
【0017】
空気は流体であり粘性を有するので、物質表面においては空気の速度は0に等しく、表面から離れるにつれて徐々に本来の音速にまで速度は復帰すると考えることができる。 物質表面からみて、 空気が音速未満 (音速の 99%以下)に低下している領域を速度境界層と呼ぶ。流体音場におかれた物体の表面が流体粒子の振動速度に垂直でない場合、その物体の表面に厚さδ= (2ν/ω)0.5の速度境界層が生じる。ここで、速度境界層とは、音速が壁の影響で遅くなっている領域である。ν は空気の動粘性係数、ω は音波の角周波数である。
【0018】
図4(b)で示すように、音響的にみて充分に大きな穴ないし隙間が空いている半開放系の場合、圧力変動は音速で表裏まで伝わる。 そして音波の一周期における音波を受けた平板の表裏間の圧力差は、音の疎密の度合いに対する平板の厚み分のみが寄与し、力としては非常に弱い。仮に音圧による空気の圧力変動Pを1Pa(94dB時)とすると、厚みが20μmの平板の表裏では、図4(a)のように密封ないしそれに近い状態の場合は、 平板に加わる圧力はそのまま最大1Pa分の準正弦波的変動を示す。しかし、図4(b)のように十分に大きな隙間が空いている半開放系の場合は、表裏の圧力差は単純に音波が厚みの分を移動するだけの差のみである。
【0019】
例えば、常温常圧において、音圧2Pa、周波数1kHzの音波であれば、音は一周期辺り1msであり、その間に圧力変動は一波長分、つまり約34cm分進む。音速の音波の圧力変動が平板の厚さ20μmを通り抜けるのに要する時間は59nsである。圧力変動が正弦波的に変動するとして、疎密変動の各周波数をω、時間をtとすると、表裏の圧力差δPは、
δP=(P0+Psinω(t+59ns))-(P0+Psinωt)
で表される。59nsという値は周期1msに対して約17000分の一であり、位相にして約0.021°であるから、この条件下ではδPはPに対して最大でも約2500分の一以下となり、半開放状態では密閉状態に対して明らかに圧力差が小さいことが分かる。そのため、一般に穴が開いていた場合、音波を受ける振動体としては感度が小さすぎ、入力された音波が共振周波数であるような特別な状態のときのみ反応する。
【0020】
一方、平板上の穴の半径またはギャップの間隔の1/2が速度境界層以下であるなら、その隙間を通る音波は本来よりも遅く伝播されると言える。図5はギャップ内の圧力差の伝播を説明する図である。ギャップ8aの寸法dが充分に狭く、固定部2および可動部5の厚さhがギャップ寸法dに対して充分に厚い場合、ギャップ8a内の圧力差の伝播は、広い自由空間に対して遅延が生じる。そのため、圧力変動は音速では伝わらない。
【0021】
ギャップ寸法dの1/2が速度境界層の厚さ以下であるなら、ギャップ内は速度境界層の範囲にある。速度境界層内部においては、空気の速度分布uは次式(1)で算出される。aは粘性などに依存する係数である。uはx=d/2のときに最大値umaxとなる。
u=ax(d−x) …(1)
【0022】
速度境界層の厚さδは、壁面から速度が音速cとなるまでの距離であるから、ギャップ寸法dが2δ以上の場合には、x=δ(=(2ν/ω)0.5)のときにumax=cとなるので、この条件から値aが求まる。
c=aδ(2δ−δ)=aδ …(2)
a=c/δ =ωc/2ν …(3)
u=ωcx(d−x)/2ν …(4)
【0023】
ギャップ寸法dが2δよりも小さい場合には、流速uはx=0.5dにおいて最大となるが、音速cよりは小さくなる。よって、ギャップ内において、音波による圧力変動が到達する位置は、音波の周期をtとすると、一周期あたりについて次式(6)で示す値となる。
z=ut=ctx(d−x)/δ=(ωc/2ν)tx(d−x) …(5)
zmax=(ωc/2ν)t・d/2・d/2
=ωctd/8ν …(6)
【0024】
式(6)の値zmaxが図5に示す流路長(ギャップの厚さ方向寸法)hを超える場合には、圧力変動は一周期毎に裏面側まで届いていることになる。また、圧力変動の先端が裏面側に届くだけでなく、体積的にもギャップの空気を置換するに充分である場合は、拡散して裏面側に回りこみはじめることになる。図5におけるギャップ8aの奥行き(y方向)単位長さに関して考えると、一周期当たりの音圧変動が占める体積Vsは、式(5)を積分することにより式(7)のようになる。一方、ギャップ8aの部分の体積Vdは、奥行き(y方向)単位長さ当たりで考えるとVd=dhなので、音波がギャップ8aを貫通しない条件は式(8)のようになる。
Vs=πcd/6ν …(7)
h≧πcd/6ν …(8)
【0025】
図6は、h=πcd/6νのグラフを示したものである。式(8)の条件は、h=πcd/6νの曲線の上側の領域(OK)であり、(h、d)の組み合わせが曲線よりも下側の領域(NG)に入る場合には、音波がギャップ8aを貫通してしまうことになる。図1に示す、ギャップ8a〜8dは、いずれも表面側から裏面側(バックチャンバ7)まで貫通しているので、全てのギャップ8a〜8dに対して式(8)を満たすように寸法h、dを設定する。
【0026】
なお、式(8)において、音速cおよび動粘性係数νは温度に依存する量であるが、マイクロフォン設計に当たっては、マイクロフォンの使用温度範囲内の所定温度を設計温度とし、その設計温度における音速cおよび動粘性係数νを使用する。マイクロフォンの一般的な使用条件は温度0〜40℃、1atm(±10%)と考えられる。例えば、0℃のときの動粘性係数νは13.2×10−6(m/s)で、50℃のときには17.7×10−6(m/s)となる。
【0027】
図7は感度特性を示す図であり、曲線L1は本実施の形態のマイクロフォン1の感度特性を示す。この場合、式(8)を満たすように寸法hおよびギャップ寸法dが設定されている。一方、曲線L2は、一般的な櫛歯アクチュエータの場合と同様のギャップ寸法とした場合、すなわち、式(8)を満足していない場合である。また、曲線L3は、一般的なコンデンサマイクロフォンの特性を示す。
【0028】
ギャップ寸法が式(8)を満たしていない曲線L2の場合には、可動部の共振点付近では感度が大きくなるが、その他の周波数においては殆ど感度がない。一方、曲線L1の場合には、可聴帯域(10Hz〜20kHz)において、一般のコンデンサマイクロフォンと同様の感度が得られている。なお、共振点が可聴帯域に入らないように、可動部5の質量および弾性支持部4のバネ定数を設定する。
【0029】
次に、図8〜10を参照して、SOI(Silicon on Insulator)基板からマイクロフォン1を製造する方法について説明する。まず、図8(a)に示すように、SOI基板100のSi層10の表面に、マスク層11およびレジスト層12を順に形成する。SOI基板100は下部Si層30,SiO層20,上部Si層10の3層構造を有しており、上部Si層10に固定部3および可動部5が形成され、下部Si層30にバックチャンバ7を有する支持枠2が形成される。マスク層11は、スパッタリングや真空蒸着法等の公知の成膜方法によって形成されたアルミニウムや窒化シリコン等の膜である。
【0030】
次に、レジスト層12に対してフォトリソグラフィによる露光・現像を行って、図8(b)に示すようなレジストパターン12Pを形成する。このレジストパターン12Pには、図1に示す固定部3、可動部5、弾性支持部4などの形状がパターニングされている。その後、レジストパターン12Pをマスクとして混酸液によりマスク層11をエッチングして、図8(c)に示すように上部Si層10を露出させる。
【0031】
次に、図8(d)に示すように、ICP−RIE(inductively coupled plasma - reactive ion etching)により上部Si層10を垂直方向に異方性エッチングし、SiO層20を露出させる。その後、硫酸・過酸化水素混合液によりレジストパターン12Pおよびマスク層11を除去する。
【0032】
次いで、図9(a)に示すように、エッチングされた上部Si層10および露出したSiO層20を覆うように、保護用の厚膜レジスト層15を形成する。その後、図9(b)のように基板100を表裏反転させて、下部Si層30の上にスパッタリング法や真空蒸着法によりアルミニウム(Al)層13を形成する。そして、Al層13の上にレジスト層14を形成し、フォトリソグラフィによりバックチャンバ形成用のレジストパターン14Pを形成する。
【0033】
次に、レジストパターン14Pをマスクとして用いて、Al層13を混酸液によりエッチングしてAlパターン13Pを形成する(図9(c)参照)。その後、これらのレジストパターン14PおよびAlパターン13Pをマスクとして、下部Si層30をICP−RIEによりエッチングする(図10(a)参照)。下部Si層30は異方性エッチングにより垂直方向にエッチングされ、エッチングはSiO層20が露出するまで行われる。
【0034】
エッチング終了後に、硫酸・過酸化水素混液によりレジスト層14,15およびAl層13を除去する(図10(b)参照)。その後、上部Si層10の固定部3となる部分に、真空蒸着法等によりアルミ膜を形成し電極6a,6bとする(図10(c)参照)。このようにして、図1に示すマイクロフォン1が形成される。なお、上述した例では、接続端子部分にアルミ膜の電極6a,6bを形成したが、導通性を高めるために固定部3および可動部5の表面側全体にアルミ膜を形成するようにしても良い。
【0035】
(変形例)
図15〜17は、第1の実施の形態の変形例を示す図である。図15に示す第1の変形例では、一対の固定部3a,3bおよび可動部5a,5bが設けられている。一対の弾性支持部4bにより支持された可動部5aと一対の弾性支持部4cにより支持された可動部5bとは中央部分で接続されており、その接続部は一対の弾性支持部4dで支持されている。可動部5aと固定部3aとで構成されるコンデンサは、可動部5bと固定部3bとで構成されるコンデンサと並列接続されていることになる。このように、固定部および可動部の面積を大きくすることで、マイクロフォン1の感度向上を図ることができる。
【0036】
図16は第2の変形例を示す図である。図16(b)は、図16(a)の円形領域の拡大図である。固定部3および可動部5の各歯の部分には、さらに小さな櫛歯31,51がおのおの形成されており、固定部3の各歯に形成された各櫛歯31の凸部は、可動部5の各歯に形成された櫛歯51の凹部に入り込んでいる。このような構造とすることにより、第1の変形例のように固定部および可動部の面積を大きくしなくても、静電容量を大きくすることができ、マイクロフォン1の感度向上を図ることができる。
【0037】
図17は第3の変形例を示す図である。第3の変形例では、図17(b)に示すように、可動部5の各歯に傾斜溝5aを形成した。このような傾斜溝5aを形成すると、音波を受けた場合に垂直方向だけでなく水平方向にも可動部5が移動しやすくなり、特に傾斜溝5aの傾きに対して垂直な方向に対しての感度が向上する。また、傾斜溝5aを設けることで可動部5が軽量化され、 共振周波数(図7参照)がより高周波に移動し、 特性が安定する。 なお、可動部軽量化のために、式(8)を満たすdを直径とする貫通孔を可動部5の全域に形成してもよい。
【0038】
−第2の実施の形態−
図11〜12は、本発明によるマイクロフォンの第2の実施の形態を示す図である。図11は上述した図1と同様の図であり、図12は、図11(a)のB−B断面を示したものである。第2の実施の形態のマイクロフォンも、櫛歯構造の固定部3および可動部5を備える点では第1の実施の形態と同じであるが、図12のB−B断面図に示すように、弾性支持部4の表面側に、圧縮応力を有する膜(以下では応力膜と称する)4aが形成されている点が異なる。
【0039】
一般的に、膜に圧縮応力がある場合には、それを相殺しようと、シリコン側には引張応力が生じる。そのため、膜のある面のほうが伸びる形(円弧の外周側)になり、膜面を凸として曲がることになる。すなわち、弾性支持部4に応力膜4aとして圧縮応力を持つ膜を形成した場合、弾性支持部4は全体として基板裏面側に向かって曲がることになり、可動部5は図11に示すように基板裏面側にずれることになる。
【0040】
なお、図11,12に示す例では応力膜4aとして圧縮応力を有するものを用いたが、引っ張り応力を有するものでも良い。その場合には、弾性支持部4が表面側に撓み、固定部3に対して可動部5が表面側にずれる。
【0041】
応力膜4aの例としては、圧縮応力を持つ膜ではポリシリコン膜があり、引張応力を持つ膜ではクロム膜、シリコン窒化膜などがある。ただし、これらの膜も製造方法によっては別方向の応力を持つことがある。例えば、素材ごとの熱膨張係数の違いを利用して、摂氏数百度程度の高熱雰囲気中で成膜し、常温まで冷却することで応力差を発生ないし緩和することができる。また、同じ金属の膜であっても、成膜温度や配向で応力の向きは変わる場合がある。なお、一層の膜で応力膜4aを形成する代わりに、異種金属膜を複数層成膜することで応力制御する方法もある。
【0042】
応力膜の形成は、図8(d)のように可動部5が形成された後に行われるが、図10(b)のようにバックチャンバ7が形成された後であっても良いし、バックチャンバ7を形成する前でも良い。いずれにしても、バックチャンバ7を形成する前に櫛歯(固定部3、可動部5)の全面にCVDまたは酸化により絶縁膜を形成する。そして、弾性支持部4の部分の絶縁膜を除去した後、その部分に応力膜4aを形成する。応力膜4aの形成には、スパッタリング法やメッキ法が用いられる。
【0043】
応力膜4aの圧縮応力によって弾性支持部4が裏面側に撓み、図11(b)に示すように、固定部3と可動部5とがz方向に互いにずれた構造となる。このように、本実施の形態では、固定部3と可動部5とが、可動部5の振動方向にずれている点に特徴があり、それにより以下に説明するような作用効果を奏する。なお、図11,12に示す例では、固定部3に対して可動部5がマイナスz方向にξ0だけずれた構造となっているが、初期ズレξ0の方向はプラスz方向であっても良い。
【0044】
図13は、図1に示したマイクロフォン1のように固定部3と可動部5との間にズレが無い場合(ξ0=0)を説明する図である。図13において、(a)は入力音波の音圧の変化を示し、(b)は音圧が作用したときの固定部3と可動部5との位置関係を示し、(c)は固定部3と可動部5との間の静電容量の変化を示している。
【0045】
自由空間における瞬時音圧をp0=Asinωtとした場合、音圧による力は次式(9)で表される。Dは空圧係数であって、ギャップ8aで抜ける等による低下の程度を表しており、実際に可動部5に加わる音圧の割合を示す。また、Saは可動部5の表面側の面積である。
F=DSa・Asinωt …(9)
【0046】
図13(a)のt=t1においては、F=0なので可動部5は変位せず、そのときの静電容量は次式(10)で表されるようなC0となっている。式(10)においてLHは、可動部5の固定部3と対向する面(側面)の面積であり、Hは固定部3および可動部5の厚さで、Lは櫛歯状に入り組んだ対向面の縁(図11(a)の櫛歯の輪郭線)の長さである。
C0=ε0LH/d …(10)
【0047】
音圧により振動する可動部5の振幅ξ1は、次式(11)で表される。Kzは、可動部5のz方向のバネ定数である。図13(a)に示すような音波が入力された場合、可動部5はt=t1〜t3においてはマイナスz方向へ変位し、t=t3〜t5においてプラスz方向に変位する。t=t2の変位は(−ξ1/2)であり、t=t4の変位は(+ξ1/2)である。
ξ1=F/Kz=ADSa/Kz …(11)
【0048】
固定部3と可動部5の間の静電容量の変化は、可動部5がz軸の正負どちらの方向に変位した場合でも、変位量が等しければ同一となる。そのため、静電容量の変化(動的静電容量C1)は図13(c)に示すようになり、式で表すと次式(12)のようになる。その結果、変則的な倍音成分が生じることになる。
C1=C0−C2(1−cosωt)0.5 …(12)
C2=ε0Lξ1/2d
【0049】
次に、図14に示すように、固定部3と可動部5との間に初期ズレξ0があった場合について考える。この場合、図14の(a),(b)に示すように、初期ズレξ0が、振幅ξ1に対してξ0≧ξ1/2であった場合と、ξ0<ξ1/2であった場合とで、動的静電容量C1の変化の様子が異なる。
【0050】
初期ズレξ0がξ0≧ξ1/2であった場合、図14(a)に示すように、t=t4のときでも固定部3に対して可動部5がプラスz方向に突出しない。すなわち、固定部3に対する可動部5の変位方向は、ゼロまたは常にマイナスz方向となっている。図14(a)のt=t1における静電容量はC3=ε0L(H−ξ0)/dであるので、この場合の動的静電容量C1は次式(13)で表され、図14(a)に示すようなサインカーブとなる。ξ0≧ξ1/2なので、C0−C3=ε0Lξ0/d≧ε0Lξ1/d=C2となっている。
C1=C3−C2・sinωt …(13)
【0051】
一方、初期ズレξ0がξ0<ξ1/2であった場合にはC0−C3<C2となり、図14(b)に示すように、t=t4を含む範囲Fにおいては、固定部3に対する可動部5の変位方向はプラスz方向となる。そのため、動的静電容量C1の曲線はサインカーブとはならず、図14(b)で示すように、範囲FにおいてはサインカーブをC0の直線に関して反転した形状となっている。すなわち、範囲Fの部分の影響による周波数成分が生じることになる。
【0052】
このようなことから、倍音成分のような余分な周波数成分が生じないようにするためには、初期ズレξ0をξ0≧ξ1/2のように設定する必要がある。さらに、可動部5が振動した場合に、静電容量が常に発生している必要があるので、可動部5の側面の一部と固定部3の側面の一部とが必ず対向していなければならない。すなわち、ξ0+ξ1/2<Hを満たしていないといけない。よって、初期ズレξ0は次式(14)を満たすように設定される。なお、このような初期ズレξ0を設定した場合、可動部5の厚さHと第1の実施の形態で説明した隙間の厚さ方向寸法hとの関係は、h=H−ξ0である。
ξ1/2≦ξ0<H−ξ1/2 …(14)
【0053】
実際の可動部5は、歪みやウェハの残留応力による反りなどの影響で、図13に示すように固定部3と同一平面上となることは厳密にはない。音圧による振動の振幅ξ1が、その歪みによるズレξ0に対してξ0≧ξ1/2を満たすような範囲に有れば、静電容量の変化は倍音にならず入力と同じ周波数が出力されることになる。ただし、可動部5の振幅ξ1がξ1/2>ξ0を満たす程度に大きくなると、倍音が出力されることになる。
【0054】
なお、音圧による振動の振幅ξ1は、可動部5の大きさが数mm角で、120dB時に1μm以下程度になる。
【0055】
上述した説明に用いた式はあくまで簡易式であって、実際に考慮すべきパラメータはもっと多い。例えば、印加されるバイアス電圧Eが大きいほど、バネ定数Kz は静電気力によって増大し、その増大の割合は変位によって変化する。その他、空気抵抗による負スティフネスがある。一方、一般のダイアフラム型マイクロフォンは、その原理上、スクイーズフィルムダンパー効果により、空気抵抗の影響を強くうけることになる。しかし、上述した櫛歯型可動部5の振動を利用したマイクロフォン1の場合は、ギャップdが狭くなる方向に動くわけではないので、スクイーズフィルムダンパー効果を受けにくく、空気抵抗の影響は比較的小さい。
【0056】
このように、第2の実施の形態では、可動部5を固定部3に対して振動方向にずらして形成することにより、図13に示すような倍音成分の発生を抑制することができる。特に、式(14)を満足するように初期ズレξ0を設定することで、倍音成分の発生を完全に防止することができる。
【0057】
−第3の実施の形態−
図18は、本発明によるマイクロフォンの第3の実施の形態を示す図である。上述した第1および第2の実施の形態は、固定部3および可動部5の形状を櫛歯形状としたが、本実施の形態では、従来のマイクロフォンと同様に可動部5を円形とした。可動部5は、4つの弾性支持部4により、円形のバックチャンバ7上に支持されている。可動部5の側周には円弧状の固定部3A〜3Dが配置されている。固定部3A〜3Dはそれぞれ独立しており、各々の静電容量を個別に検出することができる。すなわち、固定部3A〜3Dをグランド側とし、固定部3A〜3Dのそれぞれに図3に示したFET41を設けて、各静電容量の変化をそれぞれ検出する。
【0058】
このような構成とすることにより、指向性を有するマイクロフォンとすることができる。例えば、図19に示すように可動部5の斜め方向に音源があった場合、可動部5の表面上の位置によって音源からの音波の到達時間や音圧が違うことから、可動部5の法線が音源方向を向くように可動部5が傾く。そして、傾いた状態で音波の出力に応じて可動部5が振動する。そのため、各固定部3A〜3Dの静電容量の変化はそれぞれ異なる値となり、これらの静電容量変化の違いから、音源方向を推定することが可能となる。
【0059】
図18では、固定部側を4つの固定部3A〜3Dに分割したが、図20に示すように可動部側も複数の可動部5A〜5Dに分割し、それぞれが個別に変位できるようにしても良い。なお、図20に示す例では、可動部5A〜5Dと固定部3との対向部分を櫛歯形状としている。各可動部5A〜5Dは、支柱42の中央部分から伸延する弾性支持部4によってそれぞれ支持されている。また、バックチャンバ7の上方に形成される隙間のギャップ寸法dは、可動部5A〜5Dの周囲の隙間に限らず、弾性支持部4や支柱42の部分の隙間についても、上述した式(8)を満たすように設定される。
【0060】
なお、図示は省略するが、図20の構成において固定部を4分割せずに、可動部のみを4分割するような構成であっても良い。その場には、分割された可動部5A〜5D毎にFET41を設け、それぞれの容量変化を検出するようにする。
【0061】
従来のダイアフラム構造のマイクロフォンの場合、ダイアフラムは円形膜状構造が一般的であり一定のサイズを必要とするが、本発明によるマイクロフォンの場合には、ギャップ寸法dが式(8)を満たす範囲において、弾性支持部4で支持された可動部5の形状を様々な形状とすることができる。例えば、図21に示すように、図1に示した櫛歯形状の固定部3および可動部5を、基板上のL字形状の領域200に形成し、余った領域に回路領域201を設け、その領域201に図3に示した回路やASIC(Application Specific Integrated Circuit)を形成することが容易に可能となる。
【0062】
上述した実施の形態では、可動部5の振動を静電容量の変化で検出するコンデンサ型マイクロフォンとしたが、図1や図18に示した弾性支持部4にピエゾ抵抗素子をイオン注入等により形成して、可動部5の変位によって生じるピエゾ抵抗変化を読み取ることにより、音圧を電気信号に変換するようにしても良い。
【0063】
また、バイアス電圧Vbをエレクトレット(永久帯電膜)により与える場合には、固定部および可動部の内、グランド側ではない方の上面に絶縁層(例えば、シリコン酸化膜)を形成し、コロナ放電によりその絶縁層を帯電させるようにする。また、イオンを注入する方法でも良い。また、図22に示すように固定部3と導電部32によって連結されたエレクトレット部33を別に形成するようにしても良い。可動部5に対するエレクトレットに関しても、同様の構成とすることが可能である。
【0064】
上述した実施形態では、SOI基板を加工してマイクロフォンを形成したが、SOI基板の代わりに、研磨した単結晶シリコン層にテンパックスガラスを陽極酸化にて貼り合わせた二層基板を用いても良い。
【0065】
上述したように、複数層から成る基板100をマイクロマシニング技術により加工して形成されるマイクロフォン1において、可動部5と、その側面に所定隙間8aを介して対向する固定部3とを同一の上部Si層10により形成し、支持枠2のバックチャンバ7に対向する位置に、可動部5を弾性支持部4で弾性支持する構成とした。そして、音速をc、空気の動粘性係数をνとしたときに、所定隙間8aの厚さ方向の寸法hおよび側面と固定部対向面との間隔dを、h≧πcd/6νを満足するように設定した。その結果、音圧に対する感度を維持しつつ、マイクロフォンの小型化および低コスト化を図ることができる。
【0066】
なお、可動部5と固定部3とがコンデンサを形成し、可動部5が変位した際の静電容量変化に基づいて音圧を検出するようにしても良いし、弾性支持部4にピエゾ抵抗素子を配置し、可動部が変位した際のピエゾ抵抗素子の抵抗変化に基づき音圧を検出するようにしても良い。
【0067】
また、可動部5を、コンデンサの静電容量が最大となる位置に対して、該可動部5の厚さ方向に位置ズレして配置することで、倍音成分の発生が抑制される。特に、可動部5および固定部3の厚さをHとし、音圧が作用したときの可動部5の最大振幅をξ1したときに、位置ズレξ0をξ1/2≦ξ0<H−ξ1/2が満足されるように設定することで、倍音成分の発生を防止できる。
【0068】
なお、上述した第2の実施の形態では、可動部5と固定部3の厚さが等しい場合を例に初期ズレξ0を説明したが、図23(a)に示すように可動部5と固定部3との厚さが異なる場合にも、同様に初期ズレξ0を設定すれば良い。すなわち、破線で示すような静電容量が最大となる位置から、初期ズレξ0だけ下方に可動部5をずらせば良い。また、図23(b)のように、可動部5および固定部3の対向部分のみを全体の厚さよりも薄くし、その薄くした部分を上下(厚さ方向)に初期ズレξ0だけずらすようにしても良い。この場合、寸法Hには対向部分の厚さが対応する。
【0069】
さらに、可動部5および固定部3の各対向面を凹凸状に入り込んだ櫛歯形状とすることで、コンデンサの静電容量を大きくすることができ、マイクロフォンの感度向上を図ることができる。また、固定部3および可動部5の少なくとも一方を複数に分割して複数のコンデンサを形成することにより、マイクロフォンに指向性を与えることができる。
【0070】
固定部3または可動部5にバイアス電圧を与えることで感度向上を図ることができるが、固定部3または可動部5の表面に永久帯電膜を形成することで、バイアス電圧用の電源を省略することができる。また、図22のように支持枠2の表面にエレクトレット部33(永久帯電膜)を形成し、そのエレクトレット部33と固定部3または可動部5の一方とを導通部32で導通するようにしても良い。
【0071】
弾性支持部にピエゾ抵抗素子を配置し、可動部5が変位した際のピエゾ抵抗素子の抵抗変化に基づき音圧を検出するようにしても良い。また、可動部5に、溝(傾斜溝5a)または直径が間隔dと同一寸法の貫通孔を形成して可動部5の重量を軽減することで、可動部5の共振点が高くなり、共振点を可聴帯域から大きく外すことができる。
【0072】
上述した各実施形態はそれぞれ単独に、あるいは組み合わせて用いても良い。それぞれの実施形態での効果を単独あるいは相乗して奏することができるからである。また、本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではない。
【符号の説明】
【0073】
1:マイクロフォン、2:支持枠、3,3A〜3D:固定部、4,4b〜4d:弾性支持部、4a:応力膜、5,5A〜5D:可動部、5a:傾斜溝、7:バックチャンバ、8a〜8d:ギャップ、10:上部Si層、30:下部Si層、31,51:櫛歯、32:導通部、33:エレクトレット部、100:SOI基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数層から成る基板を半導体基板加工技術により加工して形成されるマイクロフォンであって、
前記基板の第1の層から成り、バックチャンバが形成された支持枠と、
前記基板の第2の層から形成され、前記バックチャンバと対向する位置に弾性支持部により弾性支持された可動板と、
前記第2の層から形成され、所定隙間を介して前記可動板の側面に対向している固定部と、を備え、
使用温度範囲内の所定温度における音速をcおよび空気の動粘性係数をνとしたときに、前記所定隙間の可動板厚さ方向の寸法hおよび前記側周面と前記固定部対向面との間隔dは、h≧πcd/6νを満足するように設定されていることを特徴とするマイクロフォン。
【請求項2】
請求項1に記載のマイクロフォンにおいて、
前記可動板と前記固定部とがコンデンサを形成し、前記可動板が変位した際の静電容量変化に基づいて音圧を検出することを特徴とするマイクロフォン。
【請求項3】
請求項2に記載のマイクロフォンにおいて、
前記可動板は、前記コンデンサの静電容量が最大となる位置に対して、該可動板の厚さ方向に位置ズレして配置されていることを特徴とするマイクロフォン。
【請求項4】
請求項3に記載のマイクロフォンにおいて、
前記可動板および前記固定部の厚さをHとし、音圧が作用したときの前記可動板の最大振幅をξ1としたとき、前記位置ズレξ0は、ξ1/2≦ξ0<H−ξ1/2を満足するように設定されていることを特徴とするマイクロフォン。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか一項に記載のマイクロフォンにおいて、
前記可動板および前記固定部の各対向面は、凹凸状に入り込んだ櫛歯形状を成すことを特徴とするマイクロフォン。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれか一項に記載のマイクロフォンにおいて、
前記固定部および前記可動板の少なくとも一方を複数に分割して、複数のコンデンサを形成したことを特徴とするマイクロフォン。
【請求項7】
請求項2〜6のいずれか一項に記載のマイクロフォンにおいて、
前記固定部または前記可動板の表面に、コンデンサにバイアス電圧を印加するための永久帯電膜が形成されていることを特徴とするマイクロフォン。
【請求項8】
請求項2〜6のいずれか一項に記載のマイクロフォンにおいて、
前記支持枠の表面に形成された永久帯電膜と、
前記永久帯電膜と前記固定部または前記可動板の一方とを導通する導通部と、を備えたことを特徴とするマイクロフォン。
【請求項9】
請求項1に記載のマイクロフォンにおいて、
前記弾性支持部にピエゾ抵抗素子を配置し、
前記可動板が変位した際の前記ピエゾ抵抗素子の抵抗変化に基づいて、音圧を検出することを特徴とするマイクロフォン。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載のマイクロフォンにおいて、
前記可動板に、溝を形成したこと、または直径が前記間隔dと同一寸法の貫通孔を形成したことを特徴とするマイクロフォン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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