マイクロポンプ及び冷却システム
【課題】マイクロポンプ及び冷却システムにおいて、低消費電力化を図ること。
【解決手段】ポンプ室20と、一方の主面12xがポンプ室20の内面を画定する弾性変形可能なダイヤフラム12と、低温時にダイヤフラム12の他方の主面12yを押圧し、高温時にダイヤフラム12から離れる熱変形部材17とを備え、ポンプ室20に加熱された流体Cが流入したときに、ダイヤフラム12を押圧している熱変形部材17が流体Cの熱により変形してダイヤフラム12から離れ、ポンプ室20の容積が拡大し、ダイヤフラム12から離れた熱変形部材17が流体Cの温度よりも冷えたときに、熱変形部材17が変形してダイヤフラム12の他方の主面12yを押圧し、ポンプ室20の容積が縮小して、ポンプ室20の容積が拡大と縮小とを繰り返すことにより、流体Cのポンプ室20への流入と流出とが繰り返されるマイクロポンプによる。
【解決手段】ポンプ室20と、一方の主面12xがポンプ室20の内面を画定する弾性変形可能なダイヤフラム12と、低温時にダイヤフラム12の他方の主面12yを押圧し、高温時にダイヤフラム12から離れる熱変形部材17とを備え、ポンプ室20に加熱された流体Cが流入したときに、ダイヤフラム12を押圧している熱変形部材17が流体Cの熱により変形してダイヤフラム12から離れ、ポンプ室20の容積が拡大し、ダイヤフラム12から離れた熱変形部材17が流体Cの温度よりも冷えたときに、熱変形部材17が変形してダイヤフラム12の他方の主面12yを押圧し、ポンプ室20の容積が縮小して、ポンプ室20の容積が拡大と縮小とを繰り返すことにより、流体Cのポンプ室20への流入と流出とが繰り返されるマイクロポンプによる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロポンプ及び冷却システムに関する。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピュータ等の電子機器では、回路基板上にCPU(Central Processing Unit)等の様々な電子部品が搭載される。電子部品は、自身から発する熱によりその機能が劣化したり、最悪の場合には熱により破壊されるおそれがある。そこで、この種の電子機器では、電子部品を冷却するための冷却システムが設けられることがある。
【0003】
冷却システムは、空冷式と液冷式に分けられる。空冷式の冷却システムは、空冷ファンにより電子部品を冷却するものであるが、電子部品から熱を奪う媒体として熱伝導率の小さな空気を使うため、冷却効率が悪い。
【0004】
一方、液冷式の冷却システムは、大気よりも熱伝導率の大きな水により電子部品から熱を奪うため、空冷式の冷却システムと比較して冷却効率が良いという利点がある。
【0005】
そのような液冷式の冷却システムにおいては、優れた冷却効率という利点を活かしつつ、システム全体の低消費電力化を図るのが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2005−517536号公報
【特許文献2】特開2009−134194号公報
【特許文献3】特開平4−230097号公報
【特許文献4】特公平7−56395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
マイクロポンプ及び冷却システムにおいて、低消費電力化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下の開示の一観点によれば、ポンプ室と、一方の主面が前記ポンプ室の内面の一部を画定する弾性変形可能なダイヤフラムと、低温時に前記ダイヤフラムの他方の主面を押圧し、高温時に前記ダイヤフラムから離れる熱変形部材とを備え、前記ポンプ室に加熱された流体が流入したときに、前記ダイヤフラムを押圧している前記熱変形部材が前記流体の熱により変形して前記ダイヤフラムから離れ、前記ポンプ室の容積が拡大し、前記ダイヤフラムから離れた前記熱変形部材が前記流体の温度よりも冷えたときに、前記熱変形部材が変形して前記ダイヤフラムの前記他方の主面を押圧し、前記ポンプ室の容積が縮小して、前記ポンプ室の前記容積が拡大と縮小とを繰り返すことにより、前記流体の前記ポンプ室への流入と流出とが繰り返されるマイクロポンプが提供される。
【0009】
また、その開示の他の観点によれば、冷却用の流体が流れる循環経路と、前記循環経路の途中に設けられ、該循環経路に前記流体を循環させるマイクロポンプとを備え、前記マイクロポンプが、前記流体が出入りするポンプ室と、一方の主面が前記ポンプ室の内面の一部を画定する弾性変形可能なダイヤフラムと、低温時に前記ダイヤフラムの他方の主面を押圧し、高温時に前記ダイヤフラムから離れる熱変形部材とを有し、前記ポンプ室に前記流体が流入したときに、前記ダイヤフラムを押圧している前記熱変形部材が前記流体の熱により変形して前記ダイヤフラムから離れ、前記ポンプ室の容積が拡大し、前記ダイヤフラムから離れた前記熱変形部材が前記流体の温度よりも冷えたときに、前記熱変形部材が変形して前記ダイヤフラムの前記他方の主面を押圧し、前記ポンプ室の容積が縮小して、前記ポンプ室の前記容積が拡大と縮小とを繰り返すことにより、前記流体の前記ポンプ室への流入と流出とが繰り返される冷却システムが提供される。
【発明の効果】
【0010】
以下の開示によれば、流体の熱で熱変形部材が変形する力を利用してダイヤフラムを駆動するので、ポンプ室の容積の拡大と収縮とを行うのに電力が不要となり、省電力化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、第1実施形態に係るマイクロポンプの断面図である。
【図2】図2(a)、(b)は、熱変形部材が熱変形する様子を示す断面図(その1)である。
【図3】図3(a)、(b)は、熱変形部材が熱変形する様子を示す断面図(その2)である。
【図4】図4は、第1実施形態に係る冷却システムの構成図である。
【図5】図5(a)〜(c)は、第1実施形態に係るマイクロポンプの動作原理について説明するための断面図である。
【図6】図6(a)〜(c)は、第2実施形態に係るマイクロポンプが備える支持部材と熱変形部材の製造途中の断面図(その1)である。
【図7】図7(a)〜(c)は、第2実施形態に係るマイクロポンプが備える支持部材と熱変形部材の製造途中の断面図(その2)である。
【図8】図8(a)、(b)は、第2実施形態に係るマイクロポンプが備える支持部材と熱変形部材の製造途中の斜視図(その1)である。
【図9】図9は、第2実施形態に係るマイクロポンプが備える支持部材と熱変形部材の製造途中の斜視図(その2)である。
【図10】図10(a)〜(c)は、第2実施形態に係るマイクロポンプが備えるハウジングの製造途中の断面図である。
【図11】図11は、第2実施形態に係るマイクロポンプが備えるハウジングの斜視図である。
【図12】図12は、第2実施形態に係るマイクロポンプが備えるハウジングの孔の斜視図である。
【図13】図13(a)、(b)は、第2実施形態に係るマイクロポンプが備えるダイヤフラムの製造途中の断面図である。
【図14】図14は、第2実施形態に係るマイクロポンプが備えるダイヤフラムの斜視図である。
【図15】図15(a)、(b)は、第2実施形態に係るマイクロポンプの組み立て方法について説明するための断面図である。
【図16】図16(a)は、第3実施形態に係るマイクロポンプが備える支持部材、熱変形部材、及び冷却部材の斜視図であり、図16(b)は、図16(a)のI−I線に沿う断面図である。
【図17】図17は、第3実施形態に係るマイクロポンプの断面図である。
【図18】図18は、第3実施形態において、支持部材に溝を形成した場合の斜視図である。
【図19】図19は、第3実施形態において、溝が形成された支持部材を使用したマイクロポンプの断面図である。
【図20】図20は、第3実施形態に係るマイクロポンプに管とピストンとを設けた場合の断面図である。
【図21】図21は、第4実施形態に係るマイクロポンプの製造途中の平面図である。
【図22】図22は、図21(c)のIII−III線に沿う断面図である。
【図23】図23は、第4実施形態に係るマイクロポンプの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係るマイクロポンプの断面図である。
【0013】
マイクロポンプ10は、パーソナルコンピュータ等の液冷システムに好適に使用されるものであり、ハウジング11、ダイヤフラム12、熱変形部材17、及び冷却部材19等を備える。
【0014】
ハウジング11は、冷却用の流体Cが流入するポンプ室20の内面の一部を画定するものであり、流体Cが流入する第1の孔11aと、流体Cが流出する第2の孔11bを有する。
【0015】
各孔11a、11bは、流体Cの流れに向かって直径が小さくなるように側面がテーパー状に形成される。このような形状によれば、流体Cの流れの方向に沿った孔11a、11bのコンダクタンスが、これとは反対方向に沿ったコンダクタンスよりも大きくなるため、各孔11a、11bが一方向にのみ選択的に流体Cを流す弁として機能するようになる。
【0016】
ハウジング11の材料は特に限定されないが、本実施形態ではシリコン基板を加工することによりハウジング11を作製する。
【0017】
また、ダイヤフラム12は、その一方の主面12xによりポンプ室20の内面の一部を画定し、自身が弾性変形することによってポンプ室20内の容積を拡大、収縮させるように機能する。
【0018】
ダイヤフラム12の材料は特に限定されない。本実施形態では、ダイヤフラム12の材料として、弾性変形が容易なシリコンを使用する。
【0019】
また、ダイヤフラム12の縁部にはリム12aが設けられており、当該リム12aにおいてダイヤフラム12とハウジング11とが接合される。
【0020】
そして、熱変形部材17は、異なる材料の第1の膜15と第2の膜16とを積層してなり、ダイヤフラム12の他方の主面12yから間隔をおいて設けられ、シリコン製の支持部材13に接合される。
【0021】
後述のように、熱変形部材17は、温度変化に応じてその形状が変化し、ポンプ室20に流体Cを出入りさせる駆動力を生成するように機能する。
【0022】
また、冷却部材19は、例えばNiあるいはCuを材料とし、上記の支持部材13上に接合される。
【0023】
なお、図1の点線円内に示すように、熱変形部材17と冷却部材19とは接合されておらず、これらの間には隙間Sが設けられる。このように隙間Sを設けることで、冷却部材19によって熱変形部材17の熱変形が阻害されるのを防止できる。
【0024】
次に、上記の熱変形部材17の熱変形について説明する。
【0025】
図2(a)、(b)は、熱変形部材17が熱変形する様子を示す断面図である。この例では、第1の膜15として酸化シリコン膜やDLC(Diamond Like Carbon)膜等の圧縮応力を生じる応力膜を形成し、第2の膜16としてTiNi合金膜等の形状記憶合金膜を形成した場合を想定している。なお、熱変形部材17の形状は第1の膜15と第2の膜16の応力バランスによって決まるため、図2(b)の形状になるように、場合によっては第1の膜15と第2の膜16を入れ替えてもよい。
【0026】
第2の膜16として形成される形状記憶合金膜は、温度Tが変態温度Tth以上となった場合に、記憶されている形状に戻ろうとする性質がある。本実施形態では、予め第2の膜16にフラットな形状を記憶させてある。
【0027】
そのため、図2(a)に示すように、温度Tが変態温度Tth以上の高温では、第2の膜16が記憶されているフラットな形状に戻ろうとするため、熱変形部材17の全体もフラットになる。
【0028】
第2の膜16の変態温度Tthは特に限定されないが、冷却対象のCPU等によって温められた流体Cよりも低い温度に変態温度Tthを設定するのが好ましい。このようにすると、後述のように流体Cからの熱により第2の膜16をフラットな形状にすることができる。
【0029】
一方、温度Tが変態温度Tthよりも低い低温では、図2(b)に示すように、第2の膜16が記憶されている形状に戻ろうとする応力が微弱となり、その応力よりも第1の膜15の圧縮応力が優勢となって、熱変形部材17が下に凸になるように変形する。
【0030】
このように、熱変形部材17として各膜15、16の積層膜を形成することで、高温下と低温下において熱変形部材17の形状を変えることができるようになる。
【0031】
なお、以下のように熱変形部材17としてバイメタルを形成してもよい。
【0032】
図3(a)、(b)は、熱変形部材17としてバイメタルを形成したときに、熱変形部材17が熱変形する様子を示す断面図である。
【0033】
この例では、第1の膜15として引張応力が比較的大きいCu膜を形成し、第2の膜16として第1の膜15よりも熱膨張率が小さく、かつ圧縮応力が比較的大きいNi膜又はRu膜を形成する。
【0034】
このように、熱膨張率が異なる二つの膜15、16を積層すると、温度によって熱変形部材17の形状を変化させることができる。
【0035】
例えば、図3(a)に示すように、熱変形部材17の温度が、冷却対象のCPU等によって温められた流体Cの温度程度の高温である場合には、熱変形部材17の形状をフラットにすることができる。
【0036】
一方、図3(b)に示すように、図3(a)の場合よりも熱変形部材17の温度が冷えると、第1の膜15の熱収縮量が第2の膜16のそれよりも大きくなるため、各膜15、16の界面に応力が生じて熱変形部材17が下に凸になるように変形する。
【0037】
図4は、このマイクロポンプ10を備えた冷却システムの構成図である。
【0038】
このシステム30は、パーソナルコンピュータ等の電子機器内の電子部品を冷却するのに好適に使用され、冷却用の流体Cが循環する循環経路31を備える。
【0039】
流体Cは特に限定されないが、本実施形態では流体Cとして水を使用する。
【0040】
循環経路31の途中には、マイクロポンプ10、冷却対象となる電子部品33、冷却部34、及び熱交換部35が設けられる。
【0041】
このうち、電子部品33は、例えばCPUであって、回路基板32上に設けられる。
【0042】
また、冷却部34は、流体Cと電子部品33との間で熱交換を行うことで電子部品33を冷却するものである。そして、このような熱交換の結果、冷却部34に入る前に約30℃程度であった流体Cの温度が、冷却部34を出た直後では70℃程度にまで加熱される。
【0043】
このように温められた流体Cは、熱交換器35において外気により冷却され、再び循環経路31を辿って電子部品33の冷却に使用される。
【0044】
このシステム30においては、マイクロポンプ10の駆動力によって流体Cが循環経路31内を循環する。
【0045】
以下に、そのマイクロポンプ10の動作原理について説明する。
【0046】
図5(a)〜(c)は、マイクロポンプ10の動作原理について説明するための断面図である。
【0047】
なお、図5(a)〜(c)において、図1で説明したのと同じ要素には同じ符号を付し、以下ではその説明を省略する。
【0048】
図5(a)は、初期状態における断面図である。この状態では、冷却対象となる電子部品33(図4参照)が起動直後であり、流体Cは室温と同程度の低温となっている。
【0049】
このような低温の状態では、図2(b)、図3(b)に示したように熱変形部材17は下方に反るため、熱変形部材17がダイヤフラム12の主面12yに当接する。そのため、熱変形部材17からの押圧力によってダイヤフラム12が下方に弾性変形し、ポンプ室20の容積が縮小する。
【0050】
その後、電子部品33の熱によって流体Cの温度が上昇すると、ダイヤフラム12を介して流体Cの熱が熱変形部材17に伝わり、熱変形部材17の温度が次第に上昇する。
【0051】
図5(b)は、このように熱変形部材17の温度が上昇して高温になった場合の断面図である。
【0052】
このような高温の状態では、図2(a)、図3(a)に示したように熱変形部材17はフラットな状態になるので、ダイヤフラム12から熱変形部材17が離れる。その結果、ダイヤフラム12が熱変形部材17の押圧力から開放されてフラットな状態になり、ポンプ室20の容積が拡大し、第1の孔11aからポンプ室20に流体Cが流入する。
【0053】
ここで、上記のように熱変形部材17がフラットになると、当該熱変形部材17と冷却部材19との間隔が狭まり、熱変形部材17の一部は冷却部材19に当接することになる。冷却部材19は外気により常に冷却されているので、熱変形部材17から冷却部材19への熱の移動が起こり、熱変形部材17の温度は次第に低下する。
【0054】
そして、熱変形部材17の温度が流体Cの温度よりも低くなると、図5(c)に示すように再び熱変形部材17が変形してダイヤフラム12を押圧する。これにより、ポンプ室20の容積が縮小し、ポンプ室20内の流体Cが第2の孔11bから流出することになる。
【0055】
この後は、上記した図5(b)、(c)の過程が自立的に繰り返されるようになり、ポンプ室の容積の拡大と縮小との繰り返しにより、ポンプ室への流体Cの流入と流出とが自立的に行われる。
【0056】
なお、既述のように、各孔11a、11bは、一方向にのみ流体を流す弁として機能するため、ポンプ室の容積の拡大と縮小とによって流体Cが循環経路31を逆流する危険性はない。
【0057】
ここで、加熱や冷却による熱変形部材17の応答速度は熱変形部材17全体の熱容量に依存する。例えば、熱変形部材17の熱容量が小さければ、加熱された流体Cや冷却部材19との間で熱交換が速やかに行われ、加熱や冷却によって熱変形部材17が変形する速さを速めることができる。
【0058】
本実施形態では、熱変形部材17の各膜15、16の合計の厚さは5μm〜20μm程度と極めて薄いため、熱変形部材17全体の熱容量を十分に小さくしてその応答速度を速めることが可能となる。
【0059】
また、第2の膜16として形状記憶合金膜を形成する場合には、加熱された流体Cによって第2の膜16の温度がその変態温度Tth以上となると、第2の膜16がすぐさまフラットな状態に戻ろうとし、熱変形部材17の応答速度を一層速めることができる。
【0060】
以上説明した本実施形態に係るマクロポンプ10によれば、図5(a)〜図5(c)に示したように、流体Cによる加熱や冷却部材19による冷却で熱変形部材17を変形させ、それによりマイクロポンプ10の駆動力を得る。その駆動力を生成するのに電力は不要であるため、ピエゾ素子等により電気的にダイヤフラム12を駆動する場合と比較して省電力化を図ることが可能となる。
【0061】
(第2実施形態)
本実施形態では、第1実施形態で説明したマイクロポンプの製造方法について説明する。
【0062】
図1を参照して説明したように、マイクロポンプ10は、ハウジング11、ダイヤフラム12、熱変形部材17を備える。これらは、以下のように個別に作製される。
【0063】
まず、熱変形部材17とそれを支持する支持部材13の製造方法について説明する。
【0064】
図6〜図7は、支持部材13と熱変形部材17の製造途中の断面図であり、図8〜図9はその斜視図である。
【0065】
まず、図6(a)に示すように、厚さが約0.4mmのシリコン基板Wの表面を熱酸化することにより、第1の膜15として酸化シリコン膜を1μm〜2μm程度の厚さに形成する。
【0066】
次いで、第1の膜15の上にスパッタ法で厚さが約2μm〜10μmのTiNi合金膜を形成し、そのTiNi膜を第2の膜16とする。TiNi合金膜は形状記憶合金膜であって、記憶させたい形状で熱処理を施すことで、その形状を記憶させることができる。
【0067】
既述のように、本実施形態で第2の膜16に記憶させる形状はフラットな形状である。そこで、シリコン基板Wの上面の形状を反映してフラットになっている第2の膜16に対し、真空中で基板温度を350℃〜500℃程度とする熱処理を30分〜60分程度行い、第2の膜16にフラットな形状を記憶させる。そのような熱処理は、形状記憶処理とも呼ばれる。
【0068】
形状記憶処理を経た第2の膜16は、温度Tが変態温度Tth以上になると、フラットな状態に戻ろうとする。変態温度Tthは、第2の膜16中におけるTiとNiの組成比により調節することができる。本実施形態では、冷却部34(図4参照)を出た直後の流体Cの温度(約70℃)以下の温度、例えば30℃程度の温度に変態温度Tthを調節する。
【0069】
以上により、シリコン基板Wの上に、第1の膜15と第2の膜16とをこの順に積層してなる熱変形部材17が形成される。
【0070】
なお、熱変形部材17における第1の膜15は、温度Tが第2の膜16の変態温度Tthよりも低いときに、自身の圧縮応力により熱変形部材17を撓ます応力膜であり、そのような機能を有する膜には上記の酸化シリコン膜の他にDLC膜もある。
【0071】
そのDLC膜は、イオンビームスパッタ法や、アセチレンガスやメタンガスを使用するプラズマCVD法により成膜し得る。
【0072】
また、第1実施形態で説明したように、熱変形部材17としてバイメタルを形成してもよい。その場合、第1の膜15としては、スパッタ法でCu膜を2μm〜10μm程度の厚さに形成し得る。また、第2の膜16は、第1の膜15よりも熱膨張率が小さい膜であれば特に限定されず、例えばスパッタ法でNi膜を2μm〜10μm程度の厚さに形成し得る。
【0073】
また、各膜15、16をフラットな状態で150℃〜300℃程度の高温の成膜温度で形成すれば、高温下では図3(a)のようにフラットで、低温下では図3(b)のように各膜15、16の熱収縮量の差で撓む熱変形部材17を形成することができ、熱応力による変形効果を得ることもできる。
【0074】
次に、図6(b)に示すように、熱変形部材17の上に第1のレジストパターン41を形成する。そして、第1のレジストパターン41をマスクにし、アルゴンガスを用いたイオンミリングにより各膜15、16をパターニングする。
【0075】
なお、TiNiを含む第2の膜16については電解エッチングによりパターニングを行ってもよい。その場合のエッチング液としては、例えば、H2SO4のメタノール溶液、LiClのメタノール溶液、又はエタノールがある。
【0076】
また、レジストパターンを用いたリフトオフにより第2の膜16をパターニングしてもよい。
【0077】
その後に、第1のレジストパターン41は除去される。
【0078】
図8(a)は、本工程を終了した後のシリコン基板Wと熱変形部材17の斜視図である。
【0079】
図8(a)に示すように、上記のパターニングにより熱変形部材17の平面形状は矩形状に整形される。
【0080】
次に、図6(c)に示すように、シリコン基板Wの裏面に第2のレジストパターン42を形成する。
【0081】
そして、第2のレジストパターン42をマスクにして基板Wをドライエッチングすることにより、熱変形部材17が露出する開口13aを形成すると共に、エッチングされずに残存する基板Wを支持部材13とする。
【0082】
本工程でのドライエッチングとしては、エッチングの異方性が高いDeep-RIEを採用するのが好ましい。Deep-RIEでは、エッチング雰囲気中にSF6とC4F8とを交互に供給することで、エッチングと堆積物による側壁保護とが交互に進行し、開口13aの側壁を基板Wの上面に対して垂直にすることが可能となる。
【0083】
但し、このように高いエッチング異方性が必要ない場合には、フッ酸溶液をエッチング液とするウエットエッチングにより開口13aを形成してもよい。
【0084】
その後に、第2のレジストパターン42は除去される。
【0085】
図8(b)は、本工程を終了した後の支持部材13と熱変形部材17の斜視図である。
【0086】
図8(b)に示すように、支持部材13は、直径Lが5mm〜30mm程度のリング状である。そして、矩形状の熱変形部材17の対向する二辺17a、17bが、その支持部材13によって支持される。
【0087】
このように二辺17a、17bのみを支持部材13で支持することで、他の二辺17c、17dがフリーな状態となり、熱による熱変形部材17の変形量を大きくすることが可能となる。
【0088】
なお、各辺17a〜17dの長さは特に限定されない。本実施形態では、辺17a、17bの長さを約6mm〜31mmとし、辺17c、17dの長さを約6mm〜31mm程度とする。
【0089】
次いで、図7(a)に示すように、スパッタ法により第1の膜15の裏面のみに犠牲膜44としてMgO膜を約50nm程度の厚さに形成する。なお、第1の膜15の裏面のみに選択的に犠牲膜44を形成するには、例えば、支持部材13の表面にレジストパターンを形成した後、第1の膜15の裏面に犠牲膜44を形成し、その後にレジストパターンをリフトオフすればよい。
【0090】
次に、図7(b)に示すように、支持部材13の主面13xと側面13y、及び犠牲膜44上にスパッタ法でシード層45としてニッケル膜を形成する。
【0091】
そして、シード層45を給電層にしながら、電解メッキによりシード層45の上にニッケル膜を1mm〜2mm程度の厚さに形成し、そのニッケル膜を冷却部材19とする。なお、冷却部材19としてCu膜を使用してもよい。
【0092】
図9は、本工程を終了した後の支持部材13と熱変形部材17の斜視図である。
【0093】
図9の点線円内に示すように、シード層45を形成しなかった第1の膜15の側面には冷却部材19は形成されず、当該側面に犠牲膜44が露出する。
【0094】
その後、このように露出している犠牲膜44を酢酸によりウエットエッチングして除去することで、図7(c)示すように、第1の膜15と冷却部材19との間に隙間Sを形成する。
【0095】
以上により、支持部材13と熱変形部材17の基本構造が完成したことになる。
【0096】
次に、図1に示したハウジング11の製造方法について説明する。
【0097】
図10(a)〜(c)は、ハウジング11の製造途中の断面図であり、図11はその斜視図である。
【0098】
まず、図10(a)に示すように、第3のレジストパターン51をマスクにしてシリコン基板に対してDeep RIEを行うことにより、深さが約0.2mm〜2mmの凹部11cを備えたハウジング11を形成する。既述のように、Deep RIEでは、エッチング雰囲気中にSF6とC4F8とを交互に供給し、高いエッチング異方性が実現できる。
【0099】
なお、高いエッチング異方性が必要ない場合には、Deep RIEに代えて、フッ酸溶液をエッチング液とするウエットエッチングにより凹部11cを形成してもよい。
【0100】
また、エッチングされずに残存するハウジング11の底部11dの厚さD1は、約0.2mm〜1.8mm程度である。
【0101】
更に、このようなドライエッチングによる加工に代えて、機械加工により凹部11cを形成してもよい。
【0102】
ここで、ハウジング11の元となるシリコン基板の面方位は特に限定されないが、本実施形態では底部11dの表面にシリコンの(100)面が現れるように、主面の面方位が(100)方向である単結晶のシリコン基板を使用する。
【0103】
この後に、第3のレジストパターン51は除去される。
【0104】
次いで、図10(b)に示すように、ハウジング11の全面にフォトレジストを塗布し、それを露光、現像することにより、底部11dの裏面と表面に第1の窓52aと第2の窓52bを備えた第4のレジストパターン52を形成する。
【0105】
そして、KOH溶液等のエッチング液中にハウジング11の全体を浸すことにより、各窓52a、52bを通じてハウジング11をウエットエッチングし、ハウジング11に第1の孔11aと第2の孔11bとを形成する。
【0106】
そのようなウエットエッチングでは、各孔11a、11bの側面に(111)面等の単結晶シリコンの結晶面が現れる。その結晶面は、底部11dに現れる(100)面から傾いているので、各11a、11bの側面はテーパー状に傾斜することになる。
【0107】
図12は、このようにして形成された第1の孔11aの斜視図である。
【0108】
図12に示すように、第1の孔11aの側面は、単結晶シリコンの4つの結晶面が組み合わされた四角錐状となる。
【0109】
その後に、図10(c)に示すように、上記の第4のレジストパターン52を除去し、ハウジング11の基本構造を完成させる。
【0110】
図11は、完成したハウジング11の斜視図である。
【0111】
図11に示すように、ハウジング11の外形は円形である。
【0112】
次に、図1に示したダイヤフラム12の製造方法について説明する。
【0113】
図13(a)、(b)はダイヤフラム12の製造途中の断面図であり、図14はその斜視図である。
【0114】
まず、図13(a)に示すように、予め約700μm程度の厚さに薄厚化されたシリコン基板上に第5のレジストパターン55を形成し、それをマスクにしてシリコン基板に対してDeep RIEを行うことにより、外周にリム12aを備えたダイヤフラム12を形成する。
【0115】
そのDeep RIEでは、エッチング雰囲気中にSF6とC4F8とが交互に供給される。なお、本実施形態はこれに限定されず、フッ酸溶液をエッチング液とするウエットエッチングによりダイヤフラム12とリム12aとを形成してもよい。
【0116】
また、ダイヤフラム12の厚さD2は、上記のドライエッチング量により調節することができ、本実施形態では約2μm〜4μmとする。
【0117】
更に、このようなドライエッチングによる加工に代えて、シリコン基板に対して機械加工を施すことによりダイヤフラム12とリム12aとを形成してもよい。
【0118】
その後、図13(b)に示すように第5のレジストパターン55を除去することにより、ダイヤフラム12の基本構造を完成させる。
【0119】
図14は、完成したダイヤフラム12の斜視図である。図14に示すように、ダイヤフラム12の外形は円形である。
【0120】
以上により、マイクロポンプ10の個々の部品である熱変形部材17(図9)、ハウジング11(図11)、及びダイヤフラム12(図14)が完成した。
【0121】
この後は、以下のようにこれらを組み立ててマイクロポンプ10を作製する。
【0122】
図15(a)、(b)は、マイクロポンプ10の組み立て方法について説明するための断面図である。
【0123】
まず、図15(a)に示すように、下から順にハウジング11、ダイヤフラム12、及び支持部材13を積み重ねる。
【0124】
既述のように、各部材11〜13の材料はシリコンであるが、大気中の酸素が原因でこれらの部材11〜13の表面のシリコンには酸素が結合しており、単に積み重ねただけではその酸素が邪魔で各部材11〜13を機械的に強固に接合することができない。
【0125】
そこで、次の工程では、図15(b)に示すように、真空中で各部材11〜13同士を押圧しながらこれらを200℃程度の温度に加熱することにより、各部材11〜13の表面の酸素を除去する。これにより、各部材11〜13の表面のシリコンのダングリングボンド同士が結合し、各部材11〜13が機械的に強固に接合される。そのような接合方法は、拡散接合法とも呼ばれる。
【0126】
以上により、本実施形態に係るマイクロポンプ10の基本構造が完成したことになる。
【0127】
そのマイクロポンプ10の製造方法によれば、図6(a)に示したように、スパッタ法や熱酸化等の薄膜プロセスを利用して第1の膜15と第2の膜16とを積層することで簡単に熱変形部材17を形成できる。
【0128】
また、図10(a)や図13(a)に示したように、ハウジング11とダイヤフラム12はいずれもシリコン基板をエッチングすることにより作製でき、これらを作製するのに特別な装置は不要である。
【0129】
このように、本実施形態では、半導体装置の製造工程にある既存の設備を活かしながらマイクロポンプ10を作製することが可能となる。
【0130】
(第3実施形態)
第2実施形態では、図7(b)に示したように、電解メッキにより冷却部材19を作製した。
【0131】
本実施形態は、その冷却部材19の作製方法のみが異なり、それ以外は第2実施形態と同じである。
【0132】
図16(a)は、本実施形態に係る支持部材13、熱変形部材17、及び冷却部材19の斜視図である。なお、図16(a)において第2実施形態で説明したのと同じ要素には同じ符号を付し、以下ではその説明を省略する。
【0133】
また、図16(b)は、図16(a)のI−I線に沿う断面図である。
【0134】
図16(a)、(b)に示すように、本実施形態では、支持部材13の開口13a内に、開口13aと略同一の外形の冷却部材19を嵌め込む。そのような冷却部材19の材料としては、例えば、Cu等の金属材料がある。
【0135】
図17は、本実施形態に係るマイクロポンプ17の断面図である。図17では、低温時に熱変形部材17が下に沿った状態での断面図を示している。
【0136】
上記のように開口13aと略同一の外形の冷却部材19を使用すると、開口13aを通じた外気の出入りが無くなるので、冷却部材19とダイヤフラム12との間の空間Gを気密にすることができ、当該空間Gに埃等が溜まるのを防止できる。
【0137】
図18は、本実施形態の別の例に係る支持部材13、熱変形部材17、及び冷却部材19の斜視図である。
【0138】
図18に示すように、この例では、鋸を利用した機械的な加工により、リング状の支持部材13の主面13xに溝13zを形成する。
【0139】
図19は、その支持部材13を利用して作製されたマイクロポンプ10の断面図であって、支持部材13、熱変形部材17、及び冷却部材19の断面は図18のII−II線に沿う断面に相当する。
【0140】
図19に示すように、支持部材13に溝13zを形成したことで、ダイヤフラム12のリム12aと溝13zとで画定される通気孔60が形成される。
【0141】
このように通気孔60を設けると、上記の空間Gに外気Aが流通するようになるので、熱変形部材17の押圧力によってダイヤフラム12が下方に撓んでも空間G内が負圧にならず、負圧が原因でダイヤフラム12が下方に撓み難くなるのを防止できる。
【0142】
なお、図20に示すように、流通孔60に管61を接続し、当該間61内にピストン62を移動自在に設けてもよい。
【0143】
このようにすると、管61内でピストン62が自由に移動することにより、空間G内の圧力を大気圧と同程度の圧力に維持することができるので、空間G内が負圧になってダイヤフラム12の変形が阻害されるのを抑制できる。
【0144】
更に、ピストン62によって空間G内が気密にされるため、外気A内に含まれる埃が流通孔60を通って空間G内に至るのを防止することができる。
【0145】
空間G内の気体は特に限定されない。空間Gは、空気や乾燥窒素で充填し得る。これらの気体は良好な断熱材として機能するので、ポンプ室20内の流体の熱によって冷却部材19の温度が過度に上昇することはない。
【0146】
以上説明した各実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
【0147】
(第4実施形態)
上記した第1〜第3実施形態では、図1等において示したように、第1の膜15と第2の膜16を積層して熱変形部材17を作製した。
【0148】
これに対し、本実施形態では、ワイヤを利用して以下のように熱変形部材17を作製する。
【0149】
図21は、本実施形態に係るマイクロポンプの製造途中の平面図である。
【0150】
そのマイクロポンプを作製するには、まず、図21(a)に示すように、厚さが約0.5mm〜1.0mm程度で矩形状の開口13aが形成された支持部材13を用意する。その支持部材は例えばシリコンウエハやステンレス板であり、これらにエッチングや機械加工を施すことで開口13aを形成することができる。
【0151】
次いで、図21(b)に示すように、平面形状が矩形状で厚さが約0.05mm〜0.1mm程度のバネ鋼板71に対し、その対角線方向にそって二本の形状記憶合金ワイヤ72を接合することにより、熱変形部材17を作製する。なお、バネ鋼板71と形状記憶合金ワイヤ72との接合には、ポイント溶接や接着剤を採用する。
【0152】
形状記憶合金ワイヤ72は特に限定されないが、本実施形態では市販されている形状記憶合金ワイヤを使用する。市販の形状記憶合金ワイヤ72には予め形状記憶合金処理が施されており、形状記憶合金ワイヤ72の温度Tが変態温度Tth以上となるとそのワイヤ長が縮む。
【0153】
そのような形状記憶合金ワイヤ72として、本実施形態ではトキコーポレーション株式会社製の直径が約50μmのバイオメタルを使用する。
【0154】
そして、図21(c)に示すように、支持部材13の開口13aの周縁にバネ鋼板71を溶接する。
【0155】
図22は、図21(c)のIII−III線に沿う断面図である。
【0156】
図22に示すように、熱変形部材17は、下方に湾曲した状態で支持部材13に溶接される。
【0157】
なお、この例では、形状記憶合金ワイヤ72を上にした状態で支持部材13にバネ鋼板71を溶接しているが、これとは逆に、形状記憶合金ワイヤ72を下にしてバネ鋼板71を支持部材13に溶接してもよい。
【0158】
この後は、ハウジング11(図11参照)、ダイヤフラム12(図14参照)、冷却部材19(図17参照)を用い、図23に示すような本実施形態に係るマイクロポンプの基本構造を完成させる。
【0159】
そのマイクロポンプにおいて、ダイヤフラム12の材料はシリコンに限定されず、弾性変形が容易な金属薄板やゴムであってもよい。また、ハウジング11の各孔11a、11bに代えて機械的な弁を設けてもよい。
【0160】
以上説明した本実施形態によれば、温度上昇により形状記憶合金ワイヤ72が収縮し、温度低下によりバネ鋼板71が元の湾曲した形状に戻ろうとする。そのような温度変化に伴う熱変形部材17の変形によりダイヤフラム12を駆動することができ、第1実施形態と同様にマイクロポンプの駆動力を得ることができる。
【0161】
しかも、本実施形態では、予め形状記憶処理が施されている形状記憶合金ワイヤ72を使用するので、マイクロポンプの製造時に形状記憶処理を行う必要がなく、マイクロポンプの製造が容易となる。
【0162】
(付記1) ポンプ室と、
一方の主面が前記ポンプ室の内面の一部を画定する弾性変形可能なダイヤフラムと、
低温時に前記ダイヤフラムの他方の主面を押圧し、高温時に前記ダイヤフラムから離れる熱変形部材とを備え、
前記ポンプ室に加熱された流体が流入したときに、前記ダイヤフラムを押圧している前記熱変形部材が前記流体の熱により変形して前記ダイヤフラムから離れ、前記ポンプ室の容積が拡大し、
前記ダイヤフラムから離れた前記熱変形部材が前記流体の温度よりも冷えたときに、前記熱変形部材が変形して前記ダイヤフラムの前記他方の主面を押圧し、前記ポンプ室の容積が縮小して、
前記ポンプ室の前記容積が拡大と縮小とを繰り返すことにより、前記流体の前記ポンプ室への流入と流出とが繰り返されることを特徴とするマイクロポンプ。
【0163】
(付記2) 前記熱変形部材は、形状記憶合金膜と応力膜との積層膜であることを特徴とする付記1に記載のマイクロポンプ。
【0164】
(付記3) 前記応力膜は、酸化シリコン膜又はDLC膜であることを特徴とする付記2に記載のマイクロポンプ。
【0165】
(付記4) 前記形状記憶合金膜の変態温度は、前記流体の温度以下の温度であることを特徴とする付記2に記載のマイクロポンプ。
【0166】
(付記5) 前記熱変形部材はバイメタルであることを特徴とする付記1に記載のマイクロポンプ。
【0167】
(付記6) 前記熱変形部材は平面視で矩形状であり、
前記矩形状の熱変形部材の対向する二辺を支持する支持部材を更に有することを特徴とする付記1〜5のいずれかに記載のマイクロポンプ。
【0168】
(付記7) 前記ダイヤフラムから離れた前記熱変形部材に当接し、該熱変形部材を冷却する冷却部材を更に有することを特徴とする付記1〜6のいずれかに記載のマイクロポンプ。
【0169】
(付記8) 前記ダイヤフラムと前記冷却部材との間の空間に連通する管と、
前記管内に移動自在に設けられたピストンとを更に有することを特徴とする付記1〜7のいずれかに記載のマイクロポンプ。
【0170】
(付記9) 前記ポンプ室を画定するハウジングを更に有し、
前記ハウジングに、前記流体の流入方向に向かって直径が小さくなる第1の孔と、前記流体の流出方向に向かって直径が小さくなる第2の孔とが形成されたことを特徴とする付記1〜8のいずれかに記載のマイクロポンプ。
【0171】
(付記10) 冷却用の流体が流れる循環経路と、
前記循環経路の途中に設けられ、該循環経路に前記流体を循環させるマイクロポンプとを備え、
前記マイクロポンプが、
前記流体が出入りするポンプ室と、
一方の主面が前記ポンプ室の内面の一部を画定する弾性変形可能なダイヤフラムと、
低温時に前記ダイヤフラムの他方の主面を押圧し、高温時に前記ダイヤフラムから離れる熱変形部材とを有し、
前記ポンプ室に前記流体が流入したときに、前記ダイヤフラムを押圧している前記熱変形部材が前記流体の熱により変形して前記ダイヤフラムから離れ、前記ポンプ室の容積が拡大し、
前記ダイヤフラムから離れた前記熱変形部材が前記流体の温度よりも冷えたときに、前記熱変形部材が変形して前記ダイヤフラムの前記他方の主面を押圧し、前記ポンプ室の容積が縮小して、
前記ポンプ室の前記容積が拡大と縮小とを繰り返すことにより、前記流体の前記ポンプ室への流入と流出とが繰り返されることを特徴とする冷却システム。
【符号の説明】
【0172】
10…マイクロポンプ、11…ハウジング、11a、11b…第1及び第2の孔、12…ダイヤフラム、12a…リム、13…支持部材、13x…主面、13z…溝、15、16…第1及び第2の膜、17…熱変形部材、19…冷却部材、31…循環経路、32…回路基板、33…電子部品、34…冷却部、35…熱交換器、41…第1のレジストパターン、42…第2のレジストパターン、44…犠牲膜、45…シード層、51…第3のレジストパターン、52…第4のレジストパターン、52a、52b…第1及び第2の窓、55…第5のレジストパターン、60…通気孔、61…管、62…ピストン、71…バネ鋼板、72…形状記憶合金ワイヤ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロポンプ及び冷却システムに関する。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピュータ等の電子機器では、回路基板上にCPU(Central Processing Unit)等の様々な電子部品が搭載される。電子部品は、自身から発する熱によりその機能が劣化したり、最悪の場合には熱により破壊されるおそれがある。そこで、この種の電子機器では、電子部品を冷却するための冷却システムが設けられることがある。
【0003】
冷却システムは、空冷式と液冷式に分けられる。空冷式の冷却システムは、空冷ファンにより電子部品を冷却するものであるが、電子部品から熱を奪う媒体として熱伝導率の小さな空気を使うため、冷却効率が悪い。
【0004】
一方、液冷式の冷却システムは、大気よりも熱伝導率の大きな水により電子部品から熱を奪うため、空冷式の冷却システムと比較して冷却効率が良いという利点がある。
【0005】
そのような液冷式の冷却システムにおいては、優れた冷却効率という利点を活かしつつ、システム全体の低消費電力化を図るのが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2005−517536号公報
【特許文献2】特開2009−134194号公報
【特許文献3】特開平4−230097号公報
【特許文献4】特公平7−56395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
マイクロポンプ及び冷却システムにおいて、低消費電力化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下の開示の一観点によれば、ポンプ室と、一方の主面が前記ポンプ室の内面の一部を画定する弾性変形可能なダイヤフラムと、低温時に前記ダイヤフラムの他方の主面を押圧し、高温時に前記ダイヤフラムから離れる熱変形部材とを備え、前記ポンプ室に加熱された流体が流入したときに、前記ダイヤフラムを押圧している前記熱変形部材が前記流体の熱により変形して前記ダイヤフラムから離れ、前記ポンプ室の容積が拡大し、前記ダイヤフラムから離れた前記熱変形部材が前記流体の温度よりも冷えたときに、前記熱変形部材が変形して前記ダイヤフラムの前記他方の主面を押圧し、前記ポンプ室の容積が縮小して、前記ポンプ室の前記容積が拡大と縮小とを繰り返すことにより、前記流体の前記ポンプ室への流入と流出とが繰り返されるマイクロポンプが提供される。
【0009】
また、その開示の他の観点によれば、冷却用の流体が流れる循環経路と、前記循環経路の途中に設けられ、該循環経路に前記流体を循環させるマイクロポンプとを備え、前記マイクロポンプが、前記流体が出入りするポンプ室と、一方の主面が前記ポンプ室の内面の一部を画定する弾性変形可能なダイヤフラムと、低温時に前記ダイヤフラムの他方の主面を押圧し、高温時に前記ダイヤフラムから離れる熱変形部材とを有し、前記ポンプ室に前記流体が流入したときに、前記ダイヤフラムを押圧している前記熱変形部材が前記流体の熱により変形して前記ダイヤフラムから離れ、前記ポンプ室の容積が拡大し、前記ダイヤフラムから離れた前記熱変形部材が前記流体の温度よりも冷えたときに、前記熱変形部材が変形して前記ダイヤフラムの前記他方の主面を押圧し、前記ポンプ室の容積が縮小して、前記ポンプ室の前記容積が拡大と縮小とを繰り返すことにより、前記流体の前記ポンプ室への流入と流出とが繰り返される冷却システムが提供される。
【発明の効果】
【0010】
以下の開示によれば、流体の熱で熱変形部材が変形する力を利用してダイヤフラムを駆動するので、ポンプ室の容積の拡大と収縮とを行うのに電力が不要となり、省電力化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、第1実施形態に係るマイクロポンプの断面図である。
【図2】図2(a)、(b)は、熱変形部材が熱変形する様子を示す断面図(その1)である。
【図3】図3(a)、(b)は、熱変形部材が熱変形する様子を示す断面図(その2)である。
【図4】図4は、第1実施形態に係る冷却システムの構成図である。
【図5】図5(a)〜(c)は、第1実施形態に係るマイクロポンプの動作原理について説明するための断面図である。
【図6】図6(a)〜(c)は、第2実施形態に係るマイクロポンプが備える支持部材と熱変形部材の製造途中の断面図(その1)である。
【図7】図7(a)〜(c)は、第2実施形態に係るマイクロポンプが備える支持部材と熱変形部材の製造途中の断面図(その2)である。
【図8】図8(a)、(b)は、第2実施形態に係るマイクロポンプが備える支持部材と熱変形部材の製造途中の斜視図(その1)である。
【図9】図9は、第2実施形態に係るマイクロポンプが備える支持部材と熱変形部材の製造途中の斜視図(その2)である。
【図10】図10(a)〜(c)は、第2実施形態に係るマイクロポンプが備えるハウジングの製造途中の断面図である。
【図11】図11は、第2実施形態に係るマイクロポンプが備えるハウジングの斜視図である。
【図12】図12は、第2実施形態に係るマイクロポンプが備えるハウジングの孔の斜視図である。
【図13】図13(a)、(b)は、第2実施形態に係るマイクロポンプが備えるダイヤフラムの製造途中の断面図である。
【図14】図14は、第2実施形態に係るマイクロポンプが備えるダイヤフラムの斜視図である。
【図15】図15(a)、(b)は、第2実施形態に係るマイクロポンプの組み立て方法について説明するための断面図である。
【図16】図16(a)は、第3実施形態に係るマイクロポンプが備える支持部材、熱変形部材、及び冷却部材の斜視図であり、図16(b)は、図16(a)のI−I線に沿う断面図である。
【図17】図17は、第3実施形態に係るマイクロポンプの断面図である。
【図18】図18は、第3実施形態において、支持部材に溝を形成した場合の斜視図である。
【図19】図19は、第3実施形態において、溝が形成された支持部材を使用したマイクロポンプの断面図である。
【図20】図20は、第3実施形態に係るマイクロポンプに管とピストンとを設けた場合の断面図である。
【図21】図21は、第4実施形態に係るマイクロポンプの製造途中の平面図である。
【図22】図22は、図21(c)のIII−III線に沿う断面図である。
【図23】図23は、第4実施形態に係るマイクロポンプの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係るマイクロポンプの断面図である。
【0013】
マイクロポンプ10は、パーソナルコンピュータ等の液冷システムに好適に使用されるものであり、ハウジング11、ダイヤフラム12、熱変形部材17、及び冷却部材19等を備える。
【0014】
ハウジング11は、冷却用の流体Cが流入するポンプ室20の内面の一部を画定するものであり、流体Cが流入する第1の孔11aと、流体Cが流出する第2の孔11bを有する。
【0015】
各孔11a、11bは、流体Cの流れに向かって直径が小さくなるように側面がテーパー状に形成される。このような形状によれば、流体Cの流れの方向に沿った孔11a、11bのコンダクタンスが、これとは反対方向に沿ったコンダクタンスよりも大きくなるため、各孔11a、11bが一方向にのみ選択的に流体Cを流す弁として機能するようになる。
【0016】
ハウジング11の材料は特に限定されないが、本実施形態ではシリコン基板を加工することによりハウジング11を作製する。
【0017】
また、ダイヤフラム12は、その一方の主面12xによりポンプ室20の内面の一部を画定し、自身が弾性変形することによってポンプ室20内の容積を拡大、収縮させるように機能する。
【0018】
ダイヤフラム12の材料は特に限定されない。本実施形態では、ダイヤフラム12の材料として、弾性変形が容易なシリコンを使用する。
【0019】
また、ダイヤフラム12の縁部にはリム12aが設けられており、当該リム12aにおいてダイヤフラム12とハウジング11とが接合される。
【0020】
そして、熱変形部材17は、異なる材料の第1の膜15と第2の膜16とを積層してなり、ダイヤフラム12の他方の主面12yから間隔をおいて設けられ、シリコン製の支持部材13に接合される。
【0021】
後述のように、熱変形部材17は、温度変化に応じてその形状が変化し、ポンプ室20に流体Cを出入りさせる駆動力を生成するように機能する。
【0022】
また、冷却部材19は、例えばNiあるいはCuを材料とし、上記の支持部材13上に接合される。
【0023】
なお、図1の点線円内に示すように、熱変形部材17と冷却部材19とは接合されておらず、これらの間には隙間Sが設けられる。このように隙間Sを設けることで、冷却部材19によって熱変形部材17の熱変形が阻害されるのを防止できる。
【0024】
次に、上記の熱変形部材17の熱変形について説明する。
【0025】
図2(a)、(b)は、熱変形部材17が熱変形する様子を示す断面図である。この例では、第1の膜15として酸化シリコン膜やDLC(Diamond Like Carbon)膜等の圧縮応力を生じる応力膜を形成し、第2の膜16としてTiNi合金膜等の形状記憶合金膜を形成した場合を想定している。なお、熱変形部材17の形状は第1の膜15と第2の膜16の応力バランスによって決まるため、図2(b)の形状になるように、場合によっては第1の膜15と第2の膜16を入れ替えてもよい。
【0026】
第2の膜16として形成される形状記憶合金膜は、温度Tが変態温度Tth以上となった場合に、記憶されている形状に戻ろうとする性質がある。本実施形態では、予め第2の膜16にフラットな形状を記憶させてある。
【0027】
そのため、図2(a)に示すように、温度Tが変態温度Tth以上の高温では、第2の膜16が記憶されているフラットな形状に戻ろうとするため、熱変形部材17の全体もフラットになる。
【0028】
第2の膜16の変態温度Tthは特に限定されないが、冷却対象のCPU等によって温められた流体Cよりも低い温度に変態温度Tthを設定するのが好ましい。このようにすると、後述のように流体Cからの熱により第2の膜16をフラットな形状にすることができる。
【0029】
一方、温度Tが変態温度Tthよりも低い低温では、図2(b)に示すように、第2の膜16が記憶されている形状に戻ろうとする応力が微弱となり、その応力よりも第1の膜15の圧縮応力が優勢となって、熱変形部材17が下に凸になるように変形する。
【0030】
このように、熱変形部材17として各膜15、16の積層膜を形成することで、高温下と低温下において熱変形部材17の形状を変えることができるようになる。
【0031】
なお、以下のように熱変形部材17としてバイメタルを形成してもよい。
【0032】
図3(a)、(b)は、熱変形部材17としてバイメタルを形成したときに、熱変形部材17が熱変形する様子を示す断面図である。
【0033】
この例では、第1の膜15として引張応力が比較的大きいCu膜を形成し、第2の膜16として第1の膜15よりも熱膨張率が小さく、かつ圧縮応力が比較的大きいNi膜又はRu膜を形成する。
【0034】
このように、熱膨張率が異なる二つの膜15、16を積層すると、温度によって熱変形部材17の形状を変化させることができる。
【0035】
例えば、図3(a)に示すように、熱変形部材17の温度が、冷却対象のCPU等によって温められた流体Cの温度程度の高温である場合には、熱変形部材17の形状をフラットにすることができる。
【0036】
一方、図3(b)に示すように、図3(a)の場合よりも熱変形部材17の温度が冷えると、第1の膜15の熱収縮量が第2の膜16のそれよりも大きくなるため、各膜15、16の界面に応力が生じて熱変形部材17が下に凸になるように変形する。
【0037】
図4は、このマイクロポンプ10を備えた冷却システムの構成図である。
【0038】
このシステム30は、パーソナルコンピュータ等の電子機器内の電子部品を冷却するのに好適に使用され、冷却用の流体Cが循環する循環経路31を備える。
【0039】
流体Cは特に限定されないが、本実施形態では流体Cとして水を使用する。
【0040】
循環経路31の途中には、マイクロポンプ10、冷却対象となる電子部品33、冷却部34、及び熱交換部35が設けられる。
【0041】
このうち、電子部品33は、例えばCPUであって、回路基板32上に設けられる。
【0042】
また、冷却部34は、流体Cと電子部品33との間で熱交換を行うことで電子部品33を冷却するものである。そして、このような熱交換の結果、冷却部34に入る前に約30℃程度であった流体Cの温度が、冷却部34を出た直後では70℃程度にまで加熱される。
【0043】
このように温められた流体Cは、熱交換器35において外気により冷却され、再び循環経路31を辿って電子部品33の冷却に使用される。
【0044】
このシステム30においては、マイクロポンプ10の駆動力によって流体Cが循環経路31内を循環する。
【0045】
以下に、そのマイクロポンプ10の動作原理について説明する。
【0046】
図5(a)〜(c)は、マイクロポンプ10の動作原理について説明するための断面図である。
【0047】
なお、図5(a)〜(c)において、図1で説明したのと同じ要素には同じ符号を付し、以下ではその説明を省略する。
【0048】
図5(a)は、初期状態における断面図である。この状態では、冷却対象となる電子部品33(図4参照)が起動直後であり、流体Cは室温と同程度の低温となっている。
【0049】
このような低温の状態では、図2(b)、図3(b)に示したように熱変形部材17は下方に反るため、熱変形部材17がダイヤフラム12の主面12yに当接する。そのため、熱変形部材17からの押圧力によってダイヤフラム12が下方に弾性変形し、ポンプ室20の容積が縮小する。
【0050】
その後、電子部品33の熱によって流体Cの温度が上昇すると、ダイヤフラム12を介して流体Cの熱が熱変形部材17に伝わり、熱変形部材17の温度が次第に上昇する。
【0051】
図5(b)は、このように熱変形部材17の温度が上昇して高温になった場合の断面図である。
【0052】
このような高温の状態では、図2(a)、図3(a)に示したように熱変形部材17はフラットな状態になるので、ダイヤフラム12から熱変形部材17が離れる。その結果、ダイヤフラム12が熱変形部材17の押圧力から開放されてフラットな状態になり、ポンプ室20の容積が拡大し、第1の孔11aからポンプ室20に流体Cが流入する。
【0053】
ここで、上記のように熱変形部材17がフラットになると、当該熱変形部材17と冷却部材19との間隔が狭まり、熱変形部材17の一部は冷却部材19に当接することになる。冷却部材19は外気により常に冷却されているので、熱変形部材17から冷却部材19への熱の移動が起こり、熱変形部材17の温度は次第に低下する。
【0054】
そして、熱変形部材17の温度が流体Cの温度よりも低くなると、図5(c)に示すように再び熱変形部材17が変形してダイヤフラム12を押圧する。これにより、ポンプ室20の容積が縮小し、ポンプ室20内の流体Cが第2の孔11bから流出することになる。
【0055】
この後は、上記した図5(b)、(c)の過程が自立的に繰り返されるようになり、ポンプ室の容積の拡大と縮小との繰り返しにより、ポンプ室への流体Cの流入と流出とが自立的に行われる。
【0056】
なお、既述のように、各孔11a、11bは、一方向にのみ流体を流す弁として機能するため、ポンプ室の容積の拡大と縮小とによって流体Cが循環経路31を逆流する危険性はない。
【0057】
ここで、加熱や冷却による熱変形部材17の応答速度は熱変形部材17全体の熱容量に依存する。例えば、熱変形部材17の熱容量が小さければ、加熱された流体Cや冷却部材19との間で熱交換が速やかに行われ、加熱や冷却によって熱変形部材17が変形する速さを速めることができる。
【0058】
本実施形態では、熱変形部材17の各膜15、16の合計の厚さは5μm〜20μm程度と極めて薄いため、熱変形部材17全体の熱容量を十分に小さくしてその応答速度を速めることが可能となる。
【0059】
また、第2の膜16として形状記憶合金膜を形成する場合には、加熱された流体Cによって第2の膜16の温度がその変態温度Tth以上となると、第2の膜16がすぐさまフラットな状態に戻ろうとし、熱変形部材17の応答速度を一層速めることができる。
【0060】
以上説明した本実施形態に係るマクロポンプ10によれば、図5(a)〜図5(c)に示したように、流体Cによる加熱や冷却部材19による冷却で熱変形部材17を変形させ、それによりマイクロポンプ10の駆動力を得る。その駆動力を生成するのに電力は不要であるため、ピエゾ素子等により電気的にダイヤフラム12を駆動する場合と比較して省電力化を図ることが可能となる。
【0061】
(第2実施形態)
本実施形態では、第1実施形態で説明したマイクロポンプの製造方法について説明する。
【0062】
図1を参照して説明したように、マイクロポンプ10は、ハウジング11、ダイヤフラム12、熱変形部材17を備える。これらは、以下のように個別に作製される。
【0063】
まず、熱変形部材17とそれを支持する支持部材13の製造方法について説明する。
【0064】
図6〜図7は、支持部材13と熱変形部材17の製造途中の断面図であり、図8〜図9はその斜視図である。
【0065】
まず、図6(a)に示すように、厚さが約0.4mmのシリコン基板Wの表面を熱酸化することにより、第1の膜15として酸化シリコン膜を1μm〜2μm程度の厚さに形成する。
【0066】
次いで、第1の膜15の上にスパッタ法で厚さが約2μm〜10μmのTiNi合金膜を形成し、そのTiNi膜を第2の膜16とする。TiNi合金膜は形状記憶合金膜であって、記憶させたい形状で熱処理を施すことで、その形状を記憶させることができる。
【0067】
既述のように、本実施形態で第2の膜16に記憶させる形状はフラットな形状である。そこで、シリコン基板Wの上面の形状を反映してフラットになっている第2の膜16に対し、真空中で基板温度を350℃〜500℃程度とする熱処理を30分〜60分程度行い、第2の膜16にフラットな形状を記憶させる。そのような熱処理は、形状記憶処理とも呼ばれる。
【0068】
形状記憶処理を経た第2の膜16は、温度Tが変態温度Tth以上になると、フラットな状態に戻ろうとする。変態温度Tthは、第2の膜16中におけるTiとNiの組成比により調節することができる。本実施形態では、冷却部34(図4参照)を出た直後の流体Cの温度(約70℃)以下の温度、例えば30℃程度の温度に変態温度Tthを調節する。
【0069】
以上により、シリコン基板Wの上に、第1の膜15と第2の膜16とをこの順に積層してなる熱変形部材17が形成される。
【0070】
なお、熱変形部材17における第1の膜15は、温度Tが第2の膜16の変態温度Tthよりも低いときに、自身の圧縮応力により熱変形部材17を撓ます応力膜であり、そのような機能を有する膜には上記の酸化シリコン膜の他にDLC膜もある。
【0071】
そのDLC膜は、イオンビームスパッタ法や、アセチレンガスやメタンガスを使用するプラズマCVD法により成膜し得る。
【0072】
また、第1実施形態で説明したように、熱変形部材17としてバイメタルを形成してもよい。その場合、第1の膜15としては、スパッタ法でCu膜を2μm〜10μm程度の厚さに形成し得る。また、第2の膜16は、第1の膜15よりも熱膨張率が小さい膜であれば特に限定されず、例えばスパッタ法でNi膜を2μm〜10μm程度の厚さに形成し得る。
【0073】
また、各膜15、16をフラットな状態で150℃〜300℃程度の高温の成膜温度で形成すれば、高温下では図3(a)のようにフラットで、低温下では図3(b)のように各膜15、16の熱収縮量の差で撓む熱変形部材17を形成することができ、熱応力による変形効果を得ることもできる。
【0074】
次に、図6(b)に示すように、熱変形部材17の上に第1のレジストパターン41を形成する。そして、第1のレジストパターン41をマスクにし、アルゴンガスを用いたイオンミリングにより各膜15、16をパターニングする。
【0075】
なお、TiNiを含む第2の膜16については電解エッチングによりパターニングを行ってもよい。その場合のエッチング液としては、例えば、H2SO4のメタノール溶液、LiClのメタノール溶液、又はエタノールがある。
【0076】
また、レジストパターンを用いたリフトオフにより第2の膜16をパターニングしてもよい。
【0077】
その後に、第1のレジストパターン41は除去される。
【0078】
図8(a)は、本工程を終了した後のシリコン基板Wと熱変形部材17の斜視図である。
【0079】
図8(a)に示すように、上記のパターニングにより熱変形部材17の平面形状は矩形状に整形される。
【0080】
次に、図6(c)に示すように、シリコン基板Wの裏面に第2のレジストパターン42を形成する。
【0081】
そして、第2のレジストパターン42をマスクにして基板Wをドライエッチングすることにより、熱変形部材17が露出する開口13aを形成すると共に、エッチングされずに残存する基板Wを支持部材13とする。
【0082】
本工程でのドライエッチングとしては、エッチングの異方性が高いDeep-RIEを採用するのが好ましい。Deep-RIEでは、エッチング雰囲気中にSF6とC4F8とを交互に供給することで、エッチングと堆積物による側壁保護とが交互に進行し、開口13aの側壁を基板Wの上面に対して垂直にすることが可能となる。
【0083】
但し、このように高いエッチング異方性が必要ない場合には、フッ酸溶液をエッチング液とするウエットエッチングにより開口13aを形成してもよい。
【0084】
その後に、第2のレジストパターン42は除去される。
【0085】
図8(b)は、本工程を終了した後の支持部材13と熱変形部材17の斜視図である。
【0086】
図8(b)に示すように、支持部材13は、直径Lが5mm〜30mm程度のリング状である。そして、矩形状の熱変形部材17の対向する二辺17a、17bが、その支持部材13によって支持される。
【0087】
このように二辺17a、17bのみを支持部材13で支持することで、他の二辺17c、17dがフリーな状態となり、熱による熱変形部材17の変形量を大きくすることが可能となる。
【0088】
なお、各辺17a〜17dの長さは特に限定されない。本実施形態では、辺17a、17bの長さを約6mm〜31mmとし、辺17c、17dの長さを約6mm〜31mm程度とする。
【0089】
次いで、図7(a)に示すように、スパッタ法により第1の膜15の裏面のみに犠牲膜44としてMgO膜を約50nm程度の厚さに形成する。なお、第1の膜15の裏面のみに選択的に犠牲膜44を形成するには、例えば、支持部材13の表面にレジストパターンを形成した後、第1の膜15の裏面に犠牲膜44を形成し、その後にレジストパターンをリフトオフすればよい。
【0090】
次に、図7(b)に示すように、支持部材13の主面13xと側面13y、及び犠牲膜44上にスパッタ法でシード層45としてニッケル膜を形成する。
【0091】
そして、シード層45を給電層にしながら、電解メッキによりシード層45の上にニッケル膜を1mm〜2mm程度の厚さに形成し、そのニッケル膜を冷却部材19とする。なお、冷却部材19としてCu膜を使用してもよい。
【0092】
図9は、本工程を終了した後の支持部材13と熱変形部材17の斜視図である。
【0093】
図9の点線円内に示すように、シード層45を形成しなかった第1の膜15の側面には冷却部材19は形成されず、当該側面に犠牲膜44が露出する。
【0094】
その後、このように露出している犠牲膜44を酢酸によりウエットエッチングして除去することで、図7(c)示すように、第1の膜15と冷却部材19との間に隙間Sを形成する。
【0095】
以上により、支持部材13と熱変形部材17の基本構造が完成したことになる。
【0096】
次に、図1に示したハウジング11の製造方法について説明する。
【0097】
図10(a)〜(c)は、ハウジング11の製造途中の断面図であり、図11はその斜視図である。
【0098】
まず、図10(a)に示すように、第3のレジストパターン51をマスクにしてシリコン基板に対してDeep RIEを行うことにより、深さが約0.2mm〜2mmの凹部11cを備えたハウジング11を形成する。既述のように、Deep RIEでは、エッチング雰囲気中にSF6とC4F8とを交互に供給し、高いエッチング異方性が実現できる。
【0099】
なお、高いエッチング異方性が必要ない場合には、Deep RIEに代えて、フッ酸溶液をエッチング液とするウエットエッチングにより凹部11cを形成してもよい。
【0100】
また、エッチングされずに残存するハウジング11の底部11dの厚さD1は、約0.2mm〜1.8mm程度である。
【0101】
更に、このようなドライエッチングによる加工に代えて、機械加工により凹部11cを形成してもよい。
【0102】
ここで、ハウジング11の元となるシリコン基板の面方位は特に限定されないが、本実施形態では底部11dの表面にシリコンの(100)面が現れるように、主面の面方位が(100)方向である単結晶のシリコン基板を使用する。
【0103】
この後に、第3のレジストパターン51は除去される。
【0104】
次いで、図10(b)に示すように、ハウジング11の全面にフォトレジストを塗布し、それを露光、現像することにより、底部11dの裏面と表面に第1の窓52aと第2の窓52bを備えた第4のレジストパターン52を形成する。
【0105】
そして、KOH溶液等のエッチング液中にハウジング11の全体を浸すことにより、各窓52a、52bを通じてハウジング11をウエットエッチングし、ハウジング11に第1の孔11aと第2の孔11bとを形成する。
【0106】
そのようなウエットエッチングでは、各孔11a、11bの側面に(111)面等の単結晶シリコンの結晶面が現れる。その結晶面は、底部11dに現れる(100)面から傾いているので、各11a、11bの側面はテーパー状に傾斜することになる。
【0107】
図12は、このようにして形成された第1の孔11aの斜視図である。
【0108】
図12に示すように、第1の孔11aの側面は、単結晶シリコンの4つの結晶面が組み合わされた四角錐状となる。
【0109】
その後に、図10(c)に示すように、上記の第4のレジストパターン52を除去し、ハウジング11の基本構造を完成させる。
【0110】
図11は、完成したハウジング11の斜視図である。
【0111】
図11に示すように、ハウジング11の外形は円形である。
【0112】
次に、図1に示したダイヤフラム12の製造方法について説明する。
【0113】
図13(a)、(b)はダイヤフラム12の製造途中の断面図であり、図14はその斜視図である。
【0114】
まず、図13(a)に示すように、予め約700μm程度の厚さに薄厚化されたシリコン基板上に第5のレジストパターン55を形成し、それをマスクにしてシリコン基板に対してDeep RIEを行うことにより、外周にリム12aを備えたダイヤフラム12を形成する。
【0115】
そのDeep RIEでは、エッチング雰囲気中にSF6とC4F8とが交互に供給される。なお、本実施形態はこれに限定されず、フッ酸溶液をエッチング液とするウエットエッチングによりダイヤフラム12とリム12aとを形成してもよい。
【0116】
また、ダイヤフラム12の厚さD2は、上記のドライエッチング量により調節することができ、本実施形態では約2μm〜4μmとする。
【0117】
更に、このようなドライエッチングによる加工に代えて、シリコン基板に対して機械加工を施すことによりダイヤフラム12とリム12aとを形成してもよい。
【0118】
その後、図13(b)に示すように第5のレジストパターン55を除去することにより、ダイヤフラム12の基本構造を完成させる。
【0119】
図14は、完成したダイヤフラム12の斜視図である。図14に示すように、ダイヤフラム12の外形は円形である。
【0120】
以上により、マイクロポンプ10の個々の部品である熱変形部材17(図9)、ハウジング11(図11)、及びダイヤフラム12(図14)が完成した。
【0121】
この後は、以下のようにこれらを組み立ててマイクロポンプ10を作製する。
【0122】
図15(a)、(b)は、マイクロポンプ10の組み立て方法について説明するための断面図である。
【0123】
まず、図15(a)に示すように、下から順にハウジング11、ダイヤフラム12、及び支持部材13を積み重ねる。
【0124】
既述のように、各部材11〜13の材料はシリコンであるが、大気中の酸素が原因でこれらの部材11〜13の表面のシリコンには酸素が結合しており、単に積み重ねただけではその酸素が邪魔で各部材11〜13を機械的に強固に接合することができない。
【0125】
そこで、次の工程では、図15(b)に示すように、真空中で各部材11〜13同士を押圧しながらこれらを200℃程度の温度に加熱することにより、各部材11〜13の表面の酸素を除去する。これにより、各部材11〜13の表面のシリコンのダングリングボンド同士が結合し、各部材11〜13が機械的に強固に接合される。そのような接合方法は、拡散接合法とも呼ばれる。
【0126】
以上により、本実施形態に係るマイクロポンプ10の基本構造が完成したことになる。
【0127】
そのマイクロポンプ10の製造方法によれば、図6(a)に示したように、スパッタ法や熱酸化等の薄膜プロセスを利用して第1の膜15と第2の膜16とを積層することで簡単に熱変形部材17を形成できる。
【0128】
また、図10(a)や図13(a)に示したように、ハウジング11とダイヤフラム12はいずれもシリコン基板をエッチングすることにより作製でき、これらを作製するのに特別な装置は不要である。
【0129】
このように、本実施形態では、半導体装置の製造工程にある既存の設備を活かしながらマイクロポンプ10を作製することが可能となる。
【0130】
(第3実施形態)
第2実施形態では、図7(b)に示したように、電解メッキにより冷却部材19を作製した。
【0131】
本実施形態は、その冷却部材19の作製方法のみが異なり、それ以外は第2実施形態と同じである。
【0132】
図16(a)は、本実施形態に係る支持部材13、熱変形部材17、及び冷却部材19の斜視図である。なお、図16(a)において第2実施形態で説明したのと同じ要素には同じ符号を付し、以下ではその説明を省略する。
【0133】
また、図16(b)は、図16(a)のI−I線に沿う断面図である。
【0134】
図16(a)、(b)に示すように、本実施形態では、支持部材13の開口13a内に、開口13aと略同一の外形の冷却部材19を嵌め込む。そのような冷却部材19の材料としては、例えば、Cu等の金属材料がある。
【0135】
図17は、本実施形態に係るマイクロポンプ17の断面図である。図17では、低温時に熱変形部材17が下に沿った状態での断面図を示している。
【0136】
上記のように開口13aと略同一の外形の冷却部材19を使用すると、開口13aを通じた外気の出入りが無くなるので、冷却部材19とダイヤフラム12との間の空間Gを気密にすることができ、当該空間Gに埃等が溜まるのを防止できる。
【0137】
図18は、本実施形態の別の例に係る支持部材13、熱変形部材17、及び冷却部材19の斜視図である。
【0138】
図18に示すように、この例では、鋸を利用した機械的な加工により、リング状の支持部材13の主面13xに溝13zを形成する。
【0139】
図19は、その支持部材13を利用して作製されたマイクロポンプ10の断面図であって、支持部材13、熱変形部材17、及び冷却部材19の断面は図18のII−II線に沿う断面に相当する。
【0140】
図19に示すように、支持部材13に溝13zを形成したことで、ダイヤフラム12のリム12aと溝13zとで画定される通気孔60が形成される。
【0141】
このように通気孔60を設けると、上記の空間Gに外気Aが流通するようになるので、熱変形部材17の押圧力によってダイヤフラム12が下方に撓んでも空間G内が負圧にならず、負圧が原因でダイヤフラム12が下方に撓み難くなるのを防止できる。
【0142】
なお、図20に示すように、流通孔60に管61を接続し、当該間61内にピストン62を移動自在に設けてもよい。
【0143】
このようにすると、管61内でピストン62が自由に移動することにより、空間G内の圧力を大気圧と同程度の圧力に維持することができるので、空間G内が負圧になってダイヤフラム12の変形が阻害されるのを抑制できる。
【0144】
更に、ピストン62によって空間G内が気密にされるため、外気A内に含まれる埃が流通孔60を通って空間G内に至るのを防止することができる。
【0145】
空間G内の気体は特に限定されない。空間Gは、空気や乾燥窒素で充填し得る。これらの気体は良好な断熱材として機能するので、ポンプ室20内の流体の熱によって冷却部材19の温度が過度に上昇することはない。
【0146】
以上説明した各実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
【0147】
(第4実施形態)
上記した第1〜第3実施形態では、図1等において示したように、第1の膜15と第2の膜16を積層して熱変形部材17を作製した。
【0148】
これに対し、本実施形態では、ワイヤを利用して以下のように熱変形部材17を作製する。
【0149】
図21は、本実施形態に係るマイクロポンプの製造途中の平面図である。
【0150】
そのマイクロポンプを作製するには、まず、図21(a)に示すように、厚さが約0.5mm〜1.0mm程度で矩形状の開口13aが形成された支持部材13を用意する。その支持部材は例えばシリコンウエハやステンレス板であり、これらにエッチングや機械加工を施すことで開口13aを形成することができる。
【0151】
次いで、図21(b)に示すように、平面形状が矩形状で厚さが約0.05mm〜0.1mm程度のバネ鋼板71に対し、その対角線方向にそって二本の形状記憶合金ワイヤ72を接合することにより、熱変形部材17を作製する。なお、バネ鋼板71と形状記憶合金ワイヤ72との接合には、ポイント溶接や接着剤を採用する。
【0152】
形状記憶合金ワイヤ72は特に限定されないが、本実施形態では市販されている形状記憶合金ワイヤを使用する。市販の形状記憶合金ワイヤ72には予め形状記憶合金処理が施されており、形状記憶合金ワイヤ72の温度Tが変態温度Tth以上となるとそのワイヤ長が縮む。
【0153】
そのような形状記憶合金ワイヤ72として、本実施形態ではトキコーポレーション株式会社製の直径が約50μmのバイオメタルを使用する。
【0154】
そして、図21(c)に示すように、支持部材13の開口13aの周縁にバネ鋼板71を溶接する。
【0155】
図22は、図21(c)のIII−III線に沿う断面図である。
【0156】
図22に示すように、熱変形部材17は、下方に湾曲した状態で支持部材13に溶接される。
【0157】
なお、この例では、形状記憶合金ワイヤ72を上にした状態で支持部材13にバネ鋼板71を溶接しているが、これとは逆に、形状記憶合金ワイヤ72を下にしてバネ鋼板71を支持部材13に溶接してもよい。
【0158】
この後は、ハウジング11(図11参照)、ダイヤフラム12(図14参照)、冷却部材19(図17参照)を用い、図23に示すような本実施形態に係るマイクロポンプの基本構造を完成させる。
【0159】
そのマイクロポンプにおいて、ダイヤフラム12の材料はシリコンに限定されず、弾性変形が容易な金属薄板やゴムであってもよい。また、ハウジング11の各孔11a、11bに代えて機械的な弁を設けてもよい。
【0160】
以上説明した本実施形態によれば、温度上昇により形状記憶合金ワイヤ72が収縮し、温度低下によりバネ鋼板71が元の湾曲した形状に戻ろうとする。そのような温度変化に伴う熱変形部材17の変形によりダイヤフラム12を駆動することができ、第1実施形態と同様にマイクロポンプの駆動力を得ることができる。
【0161】
しかも、本実施形態では、予め形状記憶処理が施されている形状記憶合金ワイヤ72を使用するので、マイクロポンプの製造時に形状記憶処理を行う必要がなく、マイクロポンプの製造が容易となる。
【0162】
(付記1) ポンプ室と、
一方の主面が前記ポンプ室の内面の一部を画定する弾性変形可能なダイヤフラムと、
低温時に前記ダイヤフラムの他方の主面を押圧し、高温時に前記ダイヤフラムから離れる熱変形部材とを備え、
前記ポンプ室に加熱された流体が流入したときに、前記ダイヤフラムを押圧している前記熱変形部材が前記流体の熱により変形して前記ダイヤフラムから離れ、前記ポンプ室の容積が拡大し、
前記ダイヤフラムから離れた前記熱変形部材が前記流体の温度よりも冷えたときに、前記熱変形部材が変形して前記ダイヤフラムの前記他方の主面を押圧し、前記ポンプ室の容積が縮小して、
前記ポンプ室の前記容積が拡大と縮小とを繰り返すことにより、前記流体の前記ポンプ室への流入と流出とが繰り返されることを特徴とするマイクロポンプ。
【0163】
(付記2) 前記熱変形部材は、形状記憶合金膜と応力膜との積層膜であることを特徴とする付記1に記載のマイクロポンプ。
【0164】
(付記3) 前記応力膜は、酸化シリコン膜又はDLC膜であることを特徴とする付記2に記載のマイクロポンプ。
【0165】
(付記4) 前記形状記憶合金膜の変態温度は、前記流体の温度以下の温度であることを特徴とする付記2に記載のマイクロポンプ。
【0166】
(付記5) 前記熱変形部材はバイメタルであることを特徴とする付記1に記載のマイクロポンプ。
【0167】
(付記6) 前記熱変形部材は平面視で矩形状であり、
前記矩形状の熱変形部材の対向する二辺を支持する支持部材を更に有することを特徴とする付記1〜5のいずれかに記載のマイクロポンプ。
【0168】
(付記7) 前記ダイヤフラムから離れた前記熱変形部材に当接し、該熱変形部材を冷却する冷却部材を更に有することを特徴とする付記1〜6のいずれかに記載のマイクロポンプ。
【0169】
(付記8) 前記ダイヤフラムと前記冷却部材との間の空間に連通する管と、
前記管内に移動自在に設けられたピストンとを更に有することを特徴とする付記1〜7のいずれかに記載のマイクロポンプ。
【0170】
(付記9) 前記ポンプ室を画定するハウジングを更に有し、
前記ハウジングに、前記流体の流入方向に向かって直径が小さくなる第1の孔と、前記流体の流出方向に向かって直径が小さくなる第2の孔とが形成されたことを特徴とする付記1〜8のいずれかに記載のマイクロポンプ。
【0171】
(付記10) 冷却用の流体が流れる循環経路と、
前記循環経路の途中に設けられ、該循環経路に前記流体を循環させるマイクロポンプとを備え、
前記マイクロポンプが、
前記流体が出入りするポンプ室と、
一方の主面が前記ポンプ室の内面の一部を画定する弾性変形可能なダイヤフラムと、
低温時に前記ダイヤフラムの他方の主面を押圧し、高温時に前記ダイヤフラムから離れる熱変形部材とを有し、
前記ポンプ室に前記流体が流入したときに、前記ダイヤフラムを押圧している前記熱変形部材が前記流体の熱により変形して前記ダイヤフラムから離れ、前記ポンプ室の容積が拡大し、
前記ダイヤフラムから離れた前記熱変形部材が前記流体の温度よりも冷えたときに、前記熱変形部材が変形して前記ダイヤフラムの前記他方の主面を押圧し、前記ポンプ室の容積が縮小して、
前記ポンプ室の前記容積が拡大と縮小とを繰り返すことにより、前記流体の前記ポンプ室への流入と流出とが繰り返されることを特徴とする冷却システム。
【符号の説明】
【0172】
10…マイクロポンプ、11…ハウジング、11a、11b…第1及び第2の孔、12…ダイヤフラム、12a…リム、13…支持部材、13x…主面、13z…溝、15、16…第1及び第2の膜、17…熱変形部材、19…冷却部材、31…循環経路、32…回路基板、33…電子部品、34…冷却部、35…熱交換器、41…第1のレジストパターン、42…第2のレジストパターン、44…犠牲膜、45…シード層、51…第3のレジストパターン、52…第4のレジストパターン、52a、52b…第1及び第2の窓、55…第5のレジストパターン、60…通気孔、61…管、62…ピストン、71…バネ鋼板、72…形状記憶合金ワイヤ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ室と、
一方の主面が前記ポンプ室の内面の一部を画定する弾性変形可能なダイヤフラムと、
低温時に前記ダイヤフラムの他方の主面を押圧し、高温時に前記ダイヤフラムから離れる熱変形部材とを備え、
前記ポンプ室に加熱された流体が流入したときに、前記ダイヤフラムを押圧している前記熱変形部材が前記流体の熱により変形して前記ダイヤフラムから離れ、前記ポンプ室の容積が拡大し、
前記ダイヤフラムから離れた前記熱変形部材が前記流体の温度よりも冷えたときに、前記熱変形部材が変形して前記ダイヤフラムの前記他方の主面を押圧し、前記ポンプ室の容積が縮小して、
前記ポンプ室の前記容積が拡大と縮小とを繰り返すことにより、前記流体の前記ポンプ室への流入と流出とが繰り返されることを特徴とするマイクロポンプ。
【請求項2】
前記熱変形部材は、形状記憶合金膜と応力膜との積層膜であることを特徴とする請求項1に記載のマイクロポンプ。
【請求項3】
前記熱変形部材はバイメタルであることを特徴とする請求項1に記載のマイクロポンプ。
【請求項4】
前記ダイヤフラムから離れた前記熱変形部材に当接し、該熱変形部材を冷却する冷却部材を更に有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のマイクロポンプ。
【請求項5】
冷却用の流体が流れる循環経路と、
前記循環経路の途中に設けられ、該循環経路に前記流体を循環させるマイクロポンプとを備え、
前記マイクロポンプが、
前記流体が出入りするポンプ室と、
一方の主面が前記ポンプ室の内面の一部を画定する弾性変形可能なダイヤフラムと、
低温時に前記ダイヤフラムの他方の主面を押圧し、高温時に前記ダイヤフラムから離れる熱変形部材とを有し、
前記ポンプ室に前記流体が流入したときに、前記ダイヤフラムを押圧している前記熱変形部材が前記流体の熱により変形して前記ダイヤフラムから離れ、前記ポンプ室の容積が拡大し、
前記ダイヤフラムから離れた前記熱変形部材が前記流体の温度よりも冷えたときに、前記熱変形部材が変形して前記ダイヤフラムの前記他方の主面を押圧し、前記ポンプ室の容積が縮小して、
前記ポンプ室の前記容積が拡大と縮小とを繰り返すことにより、前記流体の前記ポンプ室への流入と流出とが繰り返されることを特徴とする冷却システム。
【請求項1】
ポンプ室と、
一方の主面が前記ポンプ室の内面の一部を画定する弾性変形可能なダイヤフラムと、
低温時に前記ダイヤフラムの他方の主面を押圧し、高温時に前記ダイヤフラムから離れる熱変形部材とを備え、
前記ポンプ室に加熱された流体が流入したときに、前記ダイヤフラムを押圧している前記熱変形部材が前記流体の熱により変形して前記ダイヤフラムから離れ、前記ポンプ室の容積が拡大し、
前記ダイヤフラムから離れた前記熱変形部材が前記流体の温度よりも冷えたときに、前記熱変形部材が変形して前記ダイヤフラムの前記他方の主面を押圧し、前記ポンプ室の容積が縮小して、
前記ポンプ室の前記容積が拡大と縮小とを繰り返すことにより、前記流体の前記ポンプ室への流入と流出とが繰り返されることを特徴とするマイクロポンプ。
【請求項2】
前記熱変形部材は、形状記憶合金膜と応力膜との積層膜であることを特徴とする請求項1に記載のマイクロポンプ。
【請求項3】
前記熱変形部材はバイメタルであることを特徴とする請求項1に記載のマイクロポンプ。
【請求項4】
前記ダイヤフラムから離れた前記熱変形部材に当接し、該熱変形部材を冷却する冷却部材を更に有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のマイクロポンプ。
【請求項5】
冷却用の流体が流れる循環経路と、
前記循環経路の途中に設けられ、該循環経路に前記流体を循環させるマイクロポンプとを備え、
前記マイクロポンプが、
前記流体が出入りするポンプ室と、
一方の主面が前記ポンプ室の内面の一部を画定する弾性変形可能なダイヤフラムと、
低温時に前記ダイヤフラムの他方の主面を押圧し、高温時に前記ダイヤフラムから離れる熱変形部材とを有し、
前記ポンプ室に前記流体が流入したときに、前記ダイヤフラムを押圧している前記熱変形部材が前記流体の熱により変形して前記ダイヤフラムから離れ、前記ポンプ室の容積が拡大し、
前記ダイヤフラムから離れた前記熱変形部材が前記流体の温度よりも冷えたときに、前記熱変形部材が変形して前記ダイヤフラムの前記他方の主面を押圧し、前記ポンプ室の容積が縮小して、
前記ポンプ室の前記容積が拡大と縮小とを繰り返すことにより、前記流体の前記ポンプ室への流入と流出とが繰り返されることを特徴とする冷却システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2012−117416(P2012−117416A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266512(P2010−266512)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
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