説明

マイクロリアクタ装置

【課題】マイクロリアクタ装置の外部あるいは、微小流路内で振動が発生した場合であっても、微小流路に安定して層流を形成可能なマイクロリアクタを提供すること。
【解決手段】1以上の流体を送流する微小流路、及び、振動を遮断する手段を有することを特徴とするマイクロリアクタ装置。本実施形態のマイクロリアクタ装置は、振動を発生させる手段を有することが好ましい。また、振動を遮断する手段が、フォノニック結晶構造、ヘルムホルツ式レゾネータ、真空層及び防振ゴムよりなる群から選択されることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロリアクタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
精密合成を目的としたマイクロリアクタ装置(以下、「マイクロリアクタ装置」を単に「マイクロリアクタ」ともいう。)においては、層流場を形成し、その界面領域で化学反応を起こすことで、精密合成を行うことが一般的に行われている(特許文献1参照)。
【0003】
一方、効率よい混合をマイクロリアクタで実現するために、外部要因による乱流の形成、撹拌、拡散の促進等(スターラの設置、乱流化を目的とした邪魔板・撹拌板の設置、超音波撹拌など)が行われている(特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2007−10072号公報
【特許文献2】特開2004−354180号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、マイクロリアクタ装置の外部あるいは、微小流路内で振動が発生した場合であっても、微小流路に安定して層流を形成可能なマイクロリアクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の<1>に記載の手段により解決された。好ましい実施態様である<2>〜<7>と共に以下に記載する。
<1> 1以上の流体を送流する微小流路、及び、振動を遮断する手段を有することを特徴とするマイクロリアクタ装置、
<2> 前記マイクロリアクタ装置が、振動を発生させる手段を有する、上記<1>に記載のマイクロリアクタ装置、
<3> 前記振動を遮断する手段が、フォノニック結晶構造、ヘルムホルツ式レゾネータ、真空層及び防振ゴムよりなる群から選択される少なくとも1つである、上記<1>又は上記<2>に記載のマイクロリアクタ装置、
<4> 前記フォノニック結晶構造、前記ヘルムホルツ式レゾネータ、前記真空層のいずれか1つが、パターン部材を積層してなる、上記<3>に記載のマイクロリアクタ装置、
<5> 前記フォノニック結晶構造がウッドパイル構造である、上記<4>に記載のマイクロリアクタ装置、
<6> 前記微小流路が、2種以上の流体を導入するための2つ以上の導入口、及び、前記流体を合流して送流する合流流路を有し、前記振動を発生させる手段が、合流流路に振動を発生させる、上記<2>〜上記<5>いずれか1つに記載のマイクロリアクタ装置、
<7> 前記マイクロリアクタ装置がパターン部材を積層してなる、上記<1>〜上記<6>いずれか1つに記載のマイクロリアクタ装置。
【発明の効果】
【0007】
<1>に記載の発明によれば、マイクロリアクタ装置の外部あるいは、微小流路内で振動が発生した場合にも、振動を遮断する手段を備えていないマイクロリアクタ装置に比して、微小流路内に安定して層流を形成可能なマイクロリアクタ装置を提供することができる。
<2>に記載の発明によれば、本構成を有さない場合に比して、振動領域と除振領域を集積でき、マイクロリアクタ装置を小型化することができる。
<3>に記載の発明によれば、本構成を有さない場合に比して、特定周波数の振動を好適に遮断することが可能なマイクロリアクタ装置を提供することができる。
<4>に記載の発明によれば、その他の方法により形成した場合に比して、簡便に振動を遮断する手段をマイクロリアクタ装置に形成することができる。
<5>に記載の発明によれば、本構成を有さない場合に比べて、特定波長範囲の振動の伝わりを、より効果的に遮断することができるマイクロリアクタ装置を提供することができる。
<6>に記載の発明によれば、本構成を有さない場合に比して、特定の流路における2種以上の流体による反応・処理等を効果的に行うことができる。
<7>に記載の発明によれば、パターン部材を積層してマイクロリアクタ装置を形成していないものに比して、より小型で精度のよいマイクロリアクタ装置を簡便に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本実施形態のマイクロリアクタ装置は、1以上の流体を送流する微小流路、及び、振動を遮断する手段を有することを特徴とする。
微小流路内に安定した層流を形成する場合、層流場(ここで、層流場とは、微小流路の層流形成領域を意味する。)に振動が伝わると、層流に乱れが発生する。この結果、例えば2以上の流体を層流した場合には、流体間の界面に乱れが発生する。また、微粒子分散液を層流しながら、沈降等を利用した分離を行う場合には、振動が伝わることにより、沈降に乱れが発生する。本実施の形態では、これら振動の伝わりを遮断するため、層流の乱れは発生しない。
【0009】
マイクロリアクタ装置を用いた溶液系では、乱流場の形成、超音波振動の付与等によって化学反応を促進させたり、2以上の流体を混合すること等も行われている。マイクロリアクタ装置を用いた溶液反応系では、邪魔板・撹拌板による乱流の形成がよく知られているが、このような邪魔板・撹拌板は、詰まりを発生したり、圧力損失を増大させる。特に、流体内に粒子が混在する系では顕著となる。これに対し、超音波振動や低周波振動等の振動の付与では、流路の詰まりや圧力損失の増大などは回避される。
しかし、振動の付与は、マイクロリアクタ装置全体を振動させる。そのため、同一のマイクロリアクタ装置内で振動領域(ここで、振動領域とは、流体に対して振動の付与が望まれる領域)と、除振領域(ここで、除振領域とは、振動を遮断することにより、安定した層流の形成が望まれる領域)とを有する場合、除振領域にまで振動が達する。特に同一のマイクロリアクタチップ上に振動領域と除振領域を集積した場合、除振領域において層流が乱れる。本実施の形態では、除振領域への振動の伝わりを遮断するため、層流の乱れは発生しない。
【0010】
<微小流路>
本実施形態において、微小流路とは、流路径が5,000μm以下の流路をいう。なお、流路径とは、流路の断面積から求めた円相当径(直径)である。
本実施形態においては、微小流路として、数μm〜数千μmの流路径を有するマイクロリアクタが好ましく用いられる。該マイクロリアクタ装置の微小流路の流路径は、好ましくは50μm以上1,000μm以下(なお、「50μm以上1,000μm以下」を、「50μm〜1,000μm」又は「50〜1,000μm」とも記載することとする。以下、同様。)であり、さらに好ましくは50〜500μmである。本実施形態において用いられるマイクロリアクタ装置は、マイクロスケールの複数の流路(チャネル)を有する反応装置である。マイクロリアクタの流路は、マイクロスケールであるので、寸法及び流速がいずれも小さく、レイノルズ数は2,300以下である。したがって、微小流路を有する反応装置は、振動の付与、邪魔板・撹拌板の形成等を行わない限り、通常の反応装置のような乱流支配ではなく層流支配の装置である。
ここで、レイノルズ数(Re)は、下記式で表されるものであり、2,300以下のとき層流支配となる。
Re=uL/ν
(u:流速、L:代表長さ、ν:動粘性係数)
【0011】
なお、微小流路の断面形状は特に限定されず、円形、楕円形、矩形、だるま形状等、目的に応じて適宜選択することができる。これらの中でも、微小流路の断面形状は円形又は矩形であることがより好ましく、矩形であることがさらに好ましい。マイクロリアクタ装置の製造上の観点から、矩形であることが好ましい。
【0012】
<振動を遮断する手段>
本実施形態のマイクロリアクタ装置は、振動を遮断する手段を有する。ここで、「振動」とは、広く超音波、音波及び低周波等の振動を含むものであり、特に、限定されない。また、流体の脈動や、これを発生させる装置によって生じる振動も「振動」に該当する。これらの中でも、本実施形態において振動を遮断する手段は、音波振動及び超音波振動を遮断する手段であることが好ましい。すなわち、振動を遮断する手段は周波数が1Hz〜10MHzの振動を遮断する手段であることが好ましい。
振動を遮断する手段としては、マイクロリアクタ装置の外部及び/又は内部で生じた振動が遮断できる手段であれば特に限定されず、目的や、生じる振動の種類(周波数等)に応じて、選択することが好ましい。
これらの中でも、振動を遮断する手段が、フォノニック結晶構造、ヘルムホルツ式レゾネータ、真空層及び防振ゴムよりなる群から選択された少なくとも1つであることが好ましい。以下、それぞれについて説明する。
【0013】
〔フォノニック結晶構造〕
光に対するバンドギャップ(フォトニックバンドギャップ)によって、特定の波長の光を完全に遮断する光の絶縁体であるフォトニック結晶が知られている。このような結晶構造は音波領域についても適用可能であり、特に音波領域を遮断可能な結晶として用いる場合にはフォノニック結晶構造と呼ばれている。
フォノニック結晶構造は遮断の目的である振動の波長と同程度の周期構造とするだけで振動を遮断することができ、また、波長選択性が高いので好ましい。
【0014】
フォノニック結晶構造は、1次元結晶構造、2次元結晶構造又は3次元結晶構造とすることができる。図1は、1次元結晶構造、2次元結晶構造及び3次元結晶構造を有するフォノニック結晶構造の例を示した図である。
1次元結晶構造としては、図1(a)及び図1(b)に示す、多層膜のような周期構造が例示できる。周期を振動の半波長と等しくすることで、反射が生じ、振動の伝わりを遮断することができる。
【0015】
2次元結晶構造としては、薄板に三角格子状あるいは正方格子状に凹部を設けた構造(図1(c))が例示できる。また、これとは逆に円筒を三角格子状に配列した形状(図1(d))も例示できる。
【0016】
3次元結晶構造としては、ヤブロノバイト構造(図1(e))や、ウッドパイル構造(図1(f))が例示できる。また、この他にも、Fan, et al, Applied Physics Letters, vol.65, p.1465-1468, 1994や、S. G. Johnson and J. D. Joannopoulos, Applied Physics Letters, vol.77, p.3490-3492, 2000に記載されている3次元結晶構造等も採用することができる。
【0017】
これらの中でも振動の伝播方向が結晶の周期構造の上下方向、左右方向のいずれであっても使用することができ、振動の伝わりを効果的に遮断することができることから、3次元結晶構造であることが好ましく、フォノニック結晶構造の作製の容易さから、ウッドパイル構造であることが特に好ましい。
【0018】
フォノニック結晶構造により振動を遮断する場合には、目的とする振動の周波数が10kHz以上であることが好ましく、より好ましくは10k〜10MHzであり、さらに好ましくは100k〜10MHzである。振動の周波数が上記範囲内であると、常温常圧での空気中の音の波長は3,400〜34μmとなる。フォノニック結晶構造においては、この波長の半波長をフォノニック結晶構造の周期とすることが必要である。周波数が上記範囲内であると、フォノニック結晶構造の周期構造の形成に適するので好ましい。
したがって、フォノニック結晶は、振動の周波数範囲が狭い場合に効果が高く、超音波振動を遮断する手段として特に好適に使用することができる。
【0019】
〔ヘルムホルツ式レゾネータ〕
本実施形態において、振動を遮断する手段としてヘルムホルツ式レゾネータを使用することもできる。ヘルムホルツ式レゾネータとは、ヘルムホルツ共鳴器の吸音原理を利用するものである。
図2は、ヘルムホルツ共鳴器200の概念図である。図2に示すように、孔210があいた空洞に振動(音波等)212が入射すると、空洞部214の空気がバネとして働き、孔部の空気が激しく振動することで、空洞部214と孔部の空気の質量による共振周波数において摩擦損失により大きな吸音効果が生じると考えられている。これにより、振動をレゾネータ(空洞部)に閉じ込めることができ、振動を遮断する(振動の伝播を抑制する)ことができると考えられる。
【0020】
ヘルムホルツ式レゾネータは、構造が簡単でありマイクロリアクタへの適用が容易であるので好ましい。また、ヘルムホルツ式レゾネータを使用することにより、振動源の位置によっては、特定周波数のみを遮断することができるので好ましい。
なお、ヘルムホルツ式レゾネータは、その原理から、振動源あるいは、振動の伝播方向に向かって孔を垂直に配置することが好ましく、これにより効果的に振動を遮断することができる。
【0021】
振動を遮断する手段としてヘルムホルツ式レゾネータを使用する場合、遮断する振動の周波数は、100Hz〜100kHzであることが好ましく、0.1kHz〜10kHzであることがより好ましい。振動の周波数が上記範囲内であると、ヘルムホルツ式レゾネータによる振動の遮断に好適であるので好ましい。
【0022】
〔真空層〕
本実施形態において、振動を遮断する手段として真空層を使用することも好ましい。
真空層は、吸収する振動の周波帯域が広く、広い周波数を有する振動に対して、振動を遮断する手段として使用することができるので好ましい。また、真空封止ができる材料であれば、広く材料を選択することができ、設計的自由度が広いので好ましい。
また、真空層は断熱効果を有しており、熱の伝わりを遮断する機能をも有する。
【0023】
振動を遮断する手段として真空層を使用する場合、遮断する振動の周波数は10Hz〜1MHzであることが好ましく、100Hz〜10kHzであることがさらに好ましい。振動の周波数の範囲が広い場合に使用するのがもっとも効果的である.。
【0024】
〔防振ゴム〕
本実施形態において、振動を遮断する手段として防振ゴムを使用することも好ましい。なお、「防振ゴム」とは、除振、制振等の機能を有する樹脂を広く意味するものである。これらの中でも、防振ゴムとして弾性ゴムを使用することが好ましい。弾性ゴムとは、弾性体の性質を示す樹脂を広く意味するものである。
弾性ゴムとしては、ゴム又は熱可塑性エラストマーが用いられる。
【0025】
上記ゴムとしては、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、クロロプレンゴム、スチレン−ブタジエン共重合ゴム(SBR)、エチレン−プロピレン共重合ゴム(EPR、EPDM)、ポリイソブチレン、シリコーンゴム、ポリサルファイドゴム、ノルボルネンゴム、ウレタンゴムなどを用いることができる。これらのゴムは、未加硫で用いることが好ましいが、部分架橋された前架橋ゴムを用いることもできる。
【0026】
熱可塑性エラストマーとしては、スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロックコポリマー(SIS)などを用いることができる。
【0027】
上記弾性ゴムは、1種又は2種以上混合して用いてもよく、ゴムと熱可塑性エラストマーをブレンドして用いてもよい。
また、防振ゴムは、上記弾性ゴムに充填材、補強剤、軟化材、粘結剤、防錆剤、滑剤、加工助剤、老化防止剤、難燃剤などを配合した弾性ゴム組成物で構成されていてもよい。
【0028】
これらの中でも、防振ゴムとしてクロロプレンゴム、シリコーンゴムが好ましく例示できる。また,複数種を複合材料化して使用するのも好ましい。
【0029】
振動を遮断する手段として防振ゴムを使用する場合、遮断する振動の周波数に応じて、その材料、厚み等を選択することが好ましい。防振ゴムを使用する場合、遮断する振動の周波数は1Hz〜100Hzであることが好ましく、5Hz〜40Hzであることがさらに好ましい。上記範囲のように振動の周波数が低周波である場合が好ましい。
【0030】
本実施形態において、振動を遮断する手段は上記の手段に限定されるものではない。例えば、防振ゴム素材でフォノニック結晶を作製することでにより広範囲の振動を遮断することもできるし、センサとアクチュエータをそなえ、加振周波数と同じ周波数かつ逆位相の振動を加えるアクティブ除振システムを形成し、振動を抑えることもできる。
【0031】
本実施形態において、振動を遮断する手段は、1種単独で使用することもできるし、2以上の手段を併用することもできる。また、発生する振動の種類、例えば周波数に応じて、振動を遮断する手段を適宜選択することが好ましい。
また、振動を遮断する手段は、マイクロリアクタ装置に一箇所以上設けられていればよく、振動を遮断したい微小流路を囲んで、上下左右に設ける等、複数箇所設けることも好ましい。
【0032】
<振動を発生させる手段>
本実施形態において、マイクロリアクタは振動を発生させる手段を備えることが好ましい。振動を発生させる手段及び振動を遮断する手段を有することにより、1つのマイクロリアクタ内に、振動領域及び除振領域を形成することができるので好ましい。
振動を発生させる手段は、周波数1Hz〜10MHzの振動を発生させることが好ましく、1Hz〜10kHzの振動を発生させることがより好ましく、1Hz〜100Hzの振動を発生させることがさらに好ましい。
【0033】
振動を発生させる手段は、特に限定されず、微小流路を送流する流体に振動を付与することができる手段であればよく、適宜選択することができる。
具体的には、流路外に機械的振動板を配置して微小流路に振動を付与する手段、超音波振動源を配置して超音波振動を付与する手段、流路内に回転子や、撹拌子を配置し、これを外部からの力により、振動を発生させる手段、圧電振動子を電圧印加によって所定の周波数振動を発生させる手段等が例示できる。
【0034】
振動子を用いて振動を発生させる手段について詳述する。図3は、振動子の配置状態を示す微小流路の断面概念図である。
図3(a)は、振動子Xとして、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT;組成式Pb(Zr,Ti)O3)などからなる圧電素子を用いた場合の配置状態を示す断面図である。基体310に形成された微小流路320の上部には微小流路の内側表面に対向する位置に凹部301aが形成されている。この凹部301a内に、振動子Xが配置されている。振動子Xを駆動するための電力は、例えば配線により供給され、振動子と配線は例えばワイヤボンディングで接続される。
振動子Xからの振動によって、振動子の配置部分が振動し、この振動が微小流路を流れる流体に伝達される。これによって、流体内に乱れが発生する。例えば合流流路(2種以上の流体が送流される流路)に振動子を配置することによって、乱流を形成し、流体は混合する。また、振動によって界面間に乱れが発生して、流体間での拡散が促進される。なお、凹部内に振動子を配置することによって周囲よりも厚みが薄い部分に振動子が配置されることになり、振動子の配置部分をより確実に振動させることができると共に、流体を効率よく振動させることができる。
【0035】
図3(b)は、振動子Xとして水晶振動子を用いた場合の配置状態を示す断面図である。微小流路320の上部には、流路の内側表面となる位置に、流路の流通方向(図3(b)紙面に対して垂直方向)に沿った長孔である貫通孔301bが形成されている。振動子
Xは貫通孔301bを覆うように流路の内側表面に貼り付けられて配置されている。振動子Xを駆動するための電力は、基体310の外部表面から貫通孔301bの内面に沿って形成されて振動子Xに接続された配線によって供給される。振動子Xからの振動は、微小流路320を流れる流体に直接伝達される。
【0036】
図3(c)は、振動子Xとして超音波振動子を用いた場合の配置状態を示す断面図である。超音波振動子Xは、コーン(外形が略円錐形状の筒状の部材)CEの大径側端部に取り付けられている。超音波振動子が取り付けられたコーンCEは、その小径側端部が、基体310の外側表面であって、流路部分の内側表面に対向する位置に取り付けられている。超音波振動子を駆動するための電力は、基体の外側表面に形成されて超音波振動子に接続された配線によって供給される。超音波振動子からの振動は、コーンCE及び基体310を介して流路320を流れる流体に伝達される。
【0037】
なお、振動を発生させる手段はこれに限定されるものではない。
光ファイバーを先鋭化させて作製したファイバープローブの先端を、流体に直接に接するように流路内に配置し、このファイバープローブに流路外部で例えばPZTにより振動を付与することによって流体に振動を発生させてもよく、例えば、特開2006−205080に詳細に記載されている。
また、特開2001-252897号公報には、マイクロ分析チップのサンプル液と試薬液の混合部に、光照射により生ずる光圧を駆動力として回転する光圧ミキサが配設されたマイクロリアクタが記載されており、これにより、レーザ光等が照射された光圧ミキサは、混合部において回転し、サンプル液及び試薬液に対流を誘起して、二液を能動的かつ直接に混合撹拌するマイクロリアクタが開示されており、該光圧ミキサは振動を発生させる手段として使用することができる。
この他にも、振動を発生させる手段としては振動モータ(バイブレータ)、交流場による電気浸透流(流体が電解質の場合)も例示できる。
このような回転・振動により、マイクロリアクタに生じる振動に対しても、振動を遮断する手段を有することで、同一のマイクロリアクタ内に層流場が形成する。
【0038】
これらの中でも、振動を発生させる手段は、振動子を用いたものであることが好ましく、具体的には、圧電素子、水晶振動子及び超音波振動子よりなる群から選択された少なくとも1つの振動子により振動を発生させる手段であることがより好ましい。
さらに、本実施形態においては超音波振動子を使用することが好ましい。
【0039】
本実施形態において、与える振動の種類は特に限定されず、所望の目的に応じて適宜選択することができる。この中でも周波数100kHz〜10MHzの超音波を使用することが好ましく、100kHz〜10MHzの超音波を使用することがさらに好ましい。
このような周波数の振動を付与することにより、流体の混合が促進されるので好ましい。
【0040】
<マイクロリアクタ装置の製造>
本実施形態のマイクロリアクタ装置の製造方法は特に限定されず、公知のいずれの方法により作製してもよい。
本実施形態のマイクロリアクタ装置は、固体基板上に微細加工技術により作製することもできる。
固体基板として使用される材料の例としては、金属、シリコン、テフロン(登録商標)、ガラス、セラミックス及びプラスチックなどが挙げられる。中でも、金属、シリコン、テフロン(登録商標)、ガラス及びセラミックスが、耐熱、耐圧、耐溶剤性及び光透過性の観点から好ましく、特に好ましくはガラスである。
【0041】
流路を作製するための微細加工技術は、例えば、「マイクロリアクタ−新時代の合成技術−」(2003年、シーエムシー刊、監修:吉田潤一)、「微細加工技術 応用編−フォトニクス・エレクトロニクス・メカトロニクスへの応用−」(2003年、エヌ・ティー・エス刊、高分子学会 行事委員会編)等に記載されている方法を挙げることができる。
【0042】
代表的な方法を挙げれば、X線リソグラフィを用いるLIGA技術、EPON SU−8を用いた高アスペクト比フォトリソグラフィ法、マイクロ放電加工法(μ−EDM)、Deep RIEによるシリコンの高アスペクト比加工法、Hot Emboss加工法、光造形法、レーザ加工法、イオンビーム加工法、及びダイアモンドのような硬い材料で作られたマイクロ工具を用いる機械的マイクロ切削加工法などがある。これらの技術を単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。好ましい微細加工技術は、X線リソグラフィを用いるLIGA技術、EPON SU−8を用いた高アスペクト比フォトリソグラフィ法、マイクロ放電加工法(μ−EDM)、及び機械的マイクロ切削加工法である。
【0043】
本実施形態に用いられる流路は、シリコンウエハ上にフォトレジストを用いて形成したパターンを鋳型とし、これに樹脂を流し込み固化させる(モールディング法)ことによっても作製することができる。モールディング法には、ポリジメチルシロキサン(PDMS)又はその誘導体に代表されるシリコン樹脂を使用することができる。
【0044】
本実施形態のマイクロリアクタ装置を製造する際、接合技術を用いることができる。通常の接合技術は大きく固相接合と液相接合に分けられ、一般的に用いられている接合方法としては、固相接合として圧接や拡散接合、液相接合として溶接、共晶接合、はんだ付け、接着等が代表的な接合方法として挙げられる。
【0045】
さらに、接合に際しては高温加熱による材料の変質や変形による流路等の微小構造体の破壊を伴わない寸法精度を保った高度に精密な接合方法が望ましく、その技術としてはシリコン直接接合、陽極接合、表面活性化接合、水素結合を用いた直接接合、HF水溶液を用いた接合、Au−Si共晶接合、ボイドフリー接着などが挙げられる。
【0046】
本実施形態のマイクロリアクタ装置はパターン部材(薄膜パターン部材)を積層して形成することが好ましい。なお、パターン部材の厚さは5〜50μmであることが好ましく、10〜30μmであることがより好ましい。
本実施形態のマイクロリアクタ装置は、所定の二次元パターンが形成されたパターン部材が積層されて形成されたマイクロリアクタ装置あることが好ましく、パターン部材の面同士が直接接触して接合された状態で積層されていることがより好ましい。
【0047】
本実施形態のマイクロリアクタ装置の好ましい製造方法としては、
(i)第1の基板上に目的とするマイクロリアクタ装置の各断面形状に対応した複数のパターン部材を形成する工程(ドナー基板作製工程)、及び、
(ii)前記複数のパターン部材が形成された前記第1の基板と第2の基板との接合及び離間を繰り返すことにより前記第1の基板上の前記複数のパターン部材を前記第2の基板上に転写する工程(接合工程)、
を含むことを特徴とするマイクロリアクタ装置の製造方法が例示でき、例えば、特開2006−187684号公報に記載の製造方法を参照できる。
【0048】
本実施形態のマイクロリアクタ装置の製造方法についてさらに詳述する。
〔ドナー基板作製工程〕
本実施形態において、ドナー基板は電鋳法を用いて作製することが好ましい。ここで、ドナー基板とは、第1の基板上に目的とするマイクロリアクタ装置の各断面形状に対応した複数のパターン部材が形成された基板である。第1の基板は、金属、セラミックス又はシリコンから形成されていることが好ましく、ステンレス等の金属が好適に使用できる。
まず、第1の基板を準備し、第1の基板上に厚膜フォトレジストを塗布し、作製するマイクロリアクタ装置の各断面形状に対応したフォトマスクにより露光し、フォトレジストを現像して各断面形状のポジネガ反転したレジストパターンを形成する。次に、このレジストパターンを有する基板をめっき浴に浸漬し、フォトレジストに覆われていない金属基板の表面に例えばニッケルめっきを成長させる。パターン部材は電鋳法を用いて、銅又はニッケルにより形成されていることが好ましい。
次に、レジストパターンを除去することにより、第1の基板上にマイクロ流体デバイスの各断面形状に対応したパターン部材を形成する。
【0049】
〔接合工程〕
接合工程とは、複数のパターン部材が形成された前記第1の基板(ドナー基板)と第2の基板(ターゲット基板)との接合及び離間を繰り返すことにより前記ドナー基板上の前記複数のパターン部材を前記ターゲット基板上に転写する工程である。接合は、常温接合又は表面活性化接合により行われることが好ましい。
図4(a)から(f)は、本実施形態に好適に使用できるマイクロリアクタ装置の製造方法の一実施態様を示す製造工程図である。
次に、図4(a)に示すように、上記ドナー基板405を真空槽内の図示しない下部ステージ上に配置し、ターゲット基板410を真空層内の図示しない上部ステージ上に配置する。続いて、真空槽内を排気して高真空状態あるいは超高真空状態にする。次に、下部ステージを上部ステージに対して相対的に移動させてターゲット基板410の直下にドナー基板405の1層目のパターン部材401Aを位置させる。次に、ターゲット基板410の表面、及び第1層目のパターン部材401Aの表面にアルゴン原子ビームを照射して清浄化する。
【0050】
次に、図4(b)に示すように、上部ステージを下降させ、所定の荷重力(例えば、10kgf/cm2)でターゲット基板410とドナー基板405とを所定の時間(例えば、5分間)押圧し、ターゲット基板410と1層目のパターン部材401Aとを常温接合(表面活性化接合)する。本実施の形態では、パターン部材401A、401B・・・の順に積層する。
【0051】
次に、図4(c)に示すように、上部ステージを上昇させて、ドナー基板とターゲット基板を離間させると、1層目のパターン部材401Aが金属基板(第1の基板)400から剥離し、ターゲット基板410側に転写される。これは、パターン部材401Aとターゲット基板410との密着力がパターン部材401Aと金属基板(第1の基板)400との密着力よりも大きいからである。
【0052】
次に、図4(d)に示すように、下部ステージを移動させ、ターゲット基板410の直下にドナー基板405上の2層目のパターン部材401Bを位置させる。次に、ターゲット基板410側に転写されたパターン部材401Aの表面(金属基板400に接触していた面)、及び2層目のパターン部材401Bの表面を前述したように清浄化する。
【0053】
次に、図4(e)に示すように、上部ステージを下降させ、1層目のパターン部材401Aと2層目のパターン部材401Bを接合させ、図4(f)に示すように、上部ステージを上昇させると、2層目のパターン部材401Bが金属基板(第1の基板)400から剥離し、ターゲット基板410側に転写される。
【0054】
他のパターン部材も同様に、ドナー基板405とターゲット基板410との位置決め、接合及び離間を繰り返すことにより、マイクロリアクタ装置の各断面形状に対応した複数のパターン部材がターゲット基板上に転写される。ターゲット基板410上に転写された積層体を上部ステージから取り外し、ターゲット基板410を除去すると、マイクロリアクタ装置が得られる。
【0055】
上記各実施の形態では、ドナー基板を電鋳法を用いて作製したが、半導体プロセスを用いて作製してもよい。例えば、Siウェハからなる基板を準備し、この基板上にポリイミドからなる離型層をスピンコーティング法により着膜し、この離型層の表面にマイクロリアクタ装置の構成材料となるAl薄膜をスパッタ法により着膜し、Al薄膜をフォトリソグラフィ法によりパターニングすることにより、ドナー基板を作製することもできる。
【0056】
なお、本実施形態において、振動を遮断する手段及び振動を発生させる手段は、接合前にパターン部材に形成しておくことにより、上記の製造方法を用いて本実施形態のマイクロリアクタ装置を製造することができる。また、例えば最上層に振動を発生させる手段を形成する場合には、接合工程の後に加工することもできる。
【0057】
また、本実施形態において、振動を遮断する手段をパターン部材を積層して製造することも好ましい。特に、フォノニック結晶構造及びヘルムホルツ式レゾネータは、これに好適である。
具体的には、フォノニック結晶構造の中でも、ウッドパイル構造が好適である。ウッドパイル構造を上記の積層技術により作製する方法としては特開2007−003810号公報に記載の方法が好適に使用できる。x方向に伸びた複数のx方向ストライプを有するx方向ストライプパターンと、y方向に伸びた複数のy方向ストライプを有するy方向ストライプパターンとを交互に積層することにより形成することができる。
【0058】
本実施形態のマイクロリアクタ装置は、安定した層流の形成を行ういずれの装置に応用してもよい。例えば、分離・濃縮を行うために安定した層流の形成を行ったり、精密な微量分析、拡散を利用した化学反応を行う装置に好適である。
さらに、本実施形態のマイクロリアクタ装置は、振動領域による流体の拡散の促進、混合、撹拌等と、層流場における分離・濃縮、処理、反応等とを行うマイクロリアクタ装置に好適である。すなわち、微小流路が、2種以上の流体を導入するための2つ以上の導入口、及び、前記流体を合流して送流する合流流路を有し、前記振動を発生させる手段が、合流流路に振動を発生させる、マイクロリアクタ装置に好適である。このようなマイクロリアクタ装置とすることによって、1つのマイクロリアクタ装置において、振動領域と除振領域の双方を利用した様々な用途に使用できる。
【実施例】
【0059】
以下、図を参照して本実施形態をさらに詳述するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
−酸化鉄磁性ナノ粒子(バリウムフェライト)の合成−
<合成手順>
・水溶液Aの調製
12.5wt% NaOH、3.15wt% Na2CO3を含有する水溶液Aを調製した。
・水溶液Bの調製
20.5wt% FeCl3・6H2O及び1.67wt% BaCl2・H2Oを含有する水溶液Bを調製した。
【0060】
水溶液A:水溶液B=2:1(vol/vol)で、Y字の微小流路を有するマイクロリアクタの2つの導入口から水溶液A及び水溶液Bをそれぞれ送液した。合流流路において、超音波撹拌を行い、2液を混合した。
次に、振動を遮断した区間(分離流路)を送流させた。これにより、上記の反応により生成したBaO・6Fe23を沈降させた。
上下の二層に分離し、BaO・6Fe23を含有する下層液に、流路に設けられた別の導入口から蒸留水(60℃)を添加し、超音波撹拌した。
次に、振動を遮断した区間(分離流路)を送流させた。これにより、BaO・6Fe23を再び沈降させた。上下の二層に分離し、BaO・6Fe23を含有する下層液と上澄み液(上層液)を得た。
上層液のpHを測定し、pH7.0±0.5となるまで、蒸留水の添加・撹拌及び分離を繰り返し、洗浄を行った。
また、上層液のpHがpH7.0±0.5である場合には、得られた下層液の沈殿物を吸引濾過して、BaO・6Fe23を得た。
【0061】
図5〜図7は、実施例1で使用したマイクロリアクタ装置の概念図である。
以下、図を参照しながら、上記の製造方法について詳述する。
図5は、本実施形態の一実施態様で使用したマイクロリアクタ装置の概念図である。また、図6は、本実施形態の一実施態様で使用したマイクロリアクタ装置の各層の平面図である。
マイクロリアクタ装置500は、パターン部材である501A〜501Pが積層して形成されている。水溶液A、水溶液B及び蒸留水W(60℃)は、それぞれ貫通孔502a、503a及び504aから導入される。
502a及び503aにそれぞれ導入された水溶液A及び水溶液Bは、第2層(501B)に形成された導入口502b及び導入口503bに送流される。なお、水溶液A:水溶液B=2:1(vol/vol)で送液されている。第2層(501B)には、水溶液A及び水溶液Bの導入流路(506A及び506B)が形成されており、水溶液A及び水溶液Bは、合流流路508で1つの流路に合流にして送液される。
最上層である501A層には、合流流路508の上部に相当する位置に超音波振動子550が配置されており、合流流路508内で、水溶液A及び水溶液Bは混合される。水溶液A及び水溶液Bが混合することにより、BaO・6Fe23が生成する。
【0062】
合流流路508を送液された水溶液A及び水溶液Bの反応液(以下、反応液Cという。)は、排出口510aから排出され、第3層(501C)〜第5層(501E)に設けられた送液孔(貫通孔)510b〜510dを通って、第6層(501F)に設けられた導入口510eから分離流路512に送液される。
分離流路512は、粒子による流路詰まりを防止するために、曲がり部が少ない構成となっている。分離流路512に送液された反応液C中のBaO・6Fe23粒子は、分離流路512を送液される間に、重力により沈降し、流路の下方側を送液されるようになる。図7にX−X’断面図を示す。分離流路512の下方には、BaO・6Fe23が分離(濃縮)された下層液D570が存在し、排出口514から排出される。一方、上層には、BaO・6Fe23が殆ど含まれない上澄み液572が送液され、廃液として排出口516から排出される。
【0063】
層流支配の流路では、慣性項に対して、粘性項の寄与が大きくなるため、基本的には、流れ方向に対して交差する方向への媒体の移動が生じない流れとなる。したがって、乱流による粒子の拡散が防止され、重力による沈降によって、効率的に分離が達成できることとなる。
ここで、超音波振動子550で生じた振動が分離流路に伝播すると、振動によって粒子が撹拌され、安定した層流の形成が困難となり、効率的な分離を達成することができない。分離流路が設けられた第6層(501F)と、合流流路が設けられた第2層(501B)の間には、振動を遮断する手段(560)が設けられている。
本実施例では、第4層(501D)にフォノニック結晶構造560が設けられている。なお、フォノック結晶構造の代わりに、防振ゴムとすることもできる。また、他の振動を遮断する手段とすることもできる。
また、フォノニック結晶構造560が設けられた第4層(501D)の上下には、隔壁として第3層(501C)及び第5層(501E)が形成されている。
本実施例ではフォノニック結晶構造としてウッドパイル構造を採用したが、本実施形態はこれに限定されるものではない。
【0064】
下層液D570は、514a〜514dを介して、第10層(501J)に設けられた導入口514eに送液される。一方、上澄み液572は、516a〜516kを通って、マイクロリアクタ装置から排液される。
導入口514eに送液された下層液D570は、下層液D導入流路520’に送液される。また、504aから導入された蒸留水は、504b〜504iを介して、第10層(501J)に設けられた導入口504jに送液され、蒸留水導入流路520に送液される。
下層液D570及び蒸留水は合流して合流流路522を送液される。
第10層(501J)の直下の第11層(501K)には、合流流路に対応する領域に、超音波振動子550が設けられており、合流流路522を送液される間に蒸留水と下層液Dは混合され、排出口524aから排出される。
排出口524aから排出された混合液は、524b〜524eを介して、第15層(501O)に設けられた導入口524fから分離流路532に送液される。
分離流路532は、粒子による流路詰まりを防止するために、曲がり部が少ない構成となっている。分離流路532に送液された液中のBaO・6Fe23粒子は、分離流路532を送液される間に、重力により沈降し、流路の下方側を送液されるようになる。
分離流路512と同様にして、BaO・6Fe23粒子が分離された下層液Eは526aから排出される。一方、上澄み液は528aから排出され、528bからマイクロリアクタ装置の外へ排出される。
【0065】
また、分離流路532の526aと528aの間の流路内壁にはpHセンサ530が配置されている。pHセンサ530は、分離流路532を送液される上澄み液のpHを検出可能である。
本実施形態において、上澄み液のpHが7.0±0.5となるように装置を構成することが好ましい。すなわち、1度の分離工程→希釈(蒸留水との混合)工程→分離工程では、所望のpHが得られない場合には、希釈工程→分離工程を繰り返すことにより、pHが上記の範囲内となるように装置を構成することが好ましい。
上澄み液が所望のpH範囲内となった下層液Eは、526bからマイクロリアクタ装置外に排出される。下層液Eを吸引濾過等することにより、BaO・6Fe23粒子を得ることができる。
【0066】
ここで、第11層(501K)に形成された超音波振動子550で生じた振動が分離流路532に伝播すると、振動によって流体内の粒子が撹拌され、効率的な分離を達成することができない。分離流路が設けられた第15層(501O)と、超音波振動子550が設けられた第11層(501K)の間に存在する第13層(501M)には、振動を遮断する手段560が設けられている。
本実施例では、第13層(501M)にフォノニック結晶構造560が設けられている。なお、フォノック結晶構造の代わりに、防振ゴムとすることもできる。また、他の振動を遮断する手段を採用することもできる。
また、フォノニック結晶構造560が設けられた第13層(501M)の上下には、隔壁として第12層(501L)及び第14層(501N)が形成されている。
本実施例ではフォノニック結晶構造としてウッドパイル構造を採用したが、本実施形態はこれに限定されるものではない。
【0067】
図8は、本実施例に好適に使用可能な他のマイクロリアクタ装置のパターン部材の一部を示す概念図である。
図8(a)には、最上層である第1層(601A)と、その下層である第2層(601B)が示されている。
図8(a)に示すマイクロリアクタ装置において、合流流路616及び分離流路620は同一のパターン部材内に形成されている。水溶液A及び水溶液Bは、2:1(vol/vol)の割合で、610a及び612aから送液され、それぞれ610b、612bを介して導入流路614A及び614Bに送液され、合流流路616で同一の流路に送流される。
第1層(601A)において、合流流路に相当する位置には、超音波振動子650が配置されており、これにより、合流流路616内で水溶液A及び水溶液Bは混合される。水溶液A及び水溶液Bが混合することにより、BaO・6Fe23が生成する。
合流流路616を送液された水溶液A及び水溶液Bの反応液(以下、反応液Cという。)は、613aから送液された蒸留水と共に分離流路620に送液される。
【0068】
ここで、第1層(601A)の分離流路620に相当する領域には、振動を遮断する手段660が設けられている。さらに、本実施態様においては、第2層(601B)にも振動を遮断する手段が設けられており、超音波振動子650が発生する振動を上下方向に効果的に遮断することができる。これにより、振動部670及び除振部680が形成される。
本実施形態において、振動を遮断する手段及び振動を発生する手段の数、その配置などは、目的に応じて適宜選択することができるものである。
【0069】
図8(b)には、第1層(701A)〜第4層(701D)のみが図示されており、図6における第1層(501A)〜第4層(501D)に相当する。
図8(b)に示すマイクロリアクタ装置では、第1層(701A)の合流流路708の蛇行部に相当する領域に超音波振動子(振動を発生する手段)750が形成されており、また、それよりも上流部に相当する領域には、振動を遮断する手段760が設けられている。また、第2層(701B)においても、合流流路の上流に、微小流路を挟むように振動を遮断する手段760が設けられている。さらに、第3層(701C)にも、振動を遮断する手段760が設けられている。図8(c)には、図8(b)に示した第1層(701A)〜第4層(701D)を積層したマイクロリアクタ装置のX−X’断面を示す。なお、図8(c)においては、第2層(701B)に形成された合流流路は省略している。図8(c)に示すように、振動を遮断する手段によって、超音波振動子750によって生じた振動は積層方向のみでなく、層内でも封じ込められている(図8(c)では、振動を遮断する手段で囲まれた上部右領域)。したがって、振動は導入流路706A及び706Bに伝わることはない。これにより、合流部の近傍では送流による均一拡散反応が行われ、その後、超音波撹拌による粒子の沈降防止及び未反応液の反応率の向上を行うことができ、生成する粒子径の均一性や粒子組成の制御に優れる。
図8(b)において、振動を遮断する手段としては、上述したフォノニック結晶を使用することもできるが、弾性ゴムや真空層など、他の手段を使用することもでき、所望の特性に応じて適宜選択することが好ましい。
【0070】
(実施例2)
−金/酸化鉄磁性複合ナノ粒子の合成−
金は、含硫黄化合物と特異的にS−Au結合を形成するので、酸化鉄ナノ粒子表面へ金ナノ粒子を固定化した複合ナノ粒子は、生体分子等の特定分子の磁気キャリアとしての用途が見込まれ、主としてバイオ分野への応用が期待される。本実施例では、酸化鉄粒子表面に金ナノ粒子が固定化された複合ナノ粒子の合成に本実施形態のマイクロリアクタ装置を使用した。
<合成手順>
0.1mol/LのFe(NO3)・9H2O溶液(溶液A)をマイクロリアクタに導入し、100℃にて加熱しながら送流し、磁性酸化鉄ナノ粒子(γ−Fe(NO33+Fe34)の分散液を得た。
分散液に、0.002mol/Lの金イオン(HAuCl4)、ポリビニルアルコール(PVA)及び2−プロパノールを含む水溶液(溶液B)を添加して、超音波により撹拌しながら微小流路を送流させた。このとき、同時にArバブリングを併用した。また、低周波振動で撹拌しながら、60Coγ線を照射することも好ましい。
これにより金ナノ粒子がγ−Fe(NO33粒子表面に固定化された複合ナノ粒子が得られる。
次に、振動を遮断した流路に複合ナノ粒子を含む反応液を送流しながら、永久磁石を用いて複合ナノ粒子を分離した。
【0071】
図9は、実施例2で使用したマイクロリアクタの概念図である。
図9(a)に示すように、マイクロリアクタ装置800は、パターン部材801A〜801Iを積層して形成されている。また、図9(b)は、パターン部材801A〜801Iの平面図である。
第1層(801A)には、加熱ヒータ870が設けられており、導入口802aから送液された溶液Aは、802bを介して合成流路806に送液される。溶液Aは、加熱ヒータ870により100℃に加熱され、合成流路806を送液される間にγ−Fe23及びFe34の分散液が生成する。このようにして得られた鉄ナノ粒子分散液(溶液C)は、排出口808aから排出され、808bを介して導入口808cから第4層(801D)に設けられた、導入流路810bに送流される。
【0072】
また、溶液Bは、第1層に設けられた導入口804aから導入され、804b、804cを介して第4層(801D)の導入口804dから導入流路810aに送流される。
第4層(801D)において、溶液Cと溶液Bは合流し、合流流路812を送流される。
第5層(801E)の合流流路812に相当する領域には、振動を発生させる手段である超音波振動子860が形成されている。また、振動を発生させる手段は、超音波振動子に限定されるものではなく、低周波振動子であってもよい。その場合には、Co60によるγ線の照射を同時に行うことが好ましい。さらに、超音波振動と併用して、Ar(アルゴンガス)バブリングを併用することも好ましく例示できる。
【0073】
本実施例では、超音波振動と、Arバブリングを併用している。第1層に設けられた導入口831aからAr(アルゴンガス)を導入し、831b、831cを介して、第4層に設けられた導入口831dからAr導入流路832に送流し、合流流路812にArを導入して(吹き込んで)いる。
図10は、本実施例で用いたArバブリングの原理を示す模式的断面図である。
Arは、831c、831dを送流され、Ar導入流路832から溶液Cと溶液Bの合流流路812へと吹き込まれる。合流流路812には、Arの泡が生じ、この泡によって溶液Cと溶液Bの混合がさらに促進される。
【0074】
一方、本実施例では、溶液Cと溶液Bの混合が行われた後には、Arを回収することが好ましい。これは、その後の複合ナノ粒子の分離工程においては、安定した層流の形成が必要であり、流路内にArが存在すると、流路詰まりや、乱流発生の原因となるためである。
図9及び図10を参照すれば、第4層(801D)の合流流路812の流路内上側には2箇所の貫通孔(835、836)が設けられている。また、第3層(801C)の、該貫通孔が設けられている上部の領域は、空気層855が形成されている。合流流路812に導入されたArは貫通孔から上部の空気層へと移動する。また、空気層には、Ar排出口881が設けられており、Ar供給量と同じだけの気体(Ar)を排出するように、Ar排出口881には、バルブやボンベが取り付けられている(不図示)。
一方、第3層(801C)の空気層855以外の領域には、真空層850が設けられており、第1層の加熱ヒーター870から発生した熱が、第4層を流れる溶液B及び溶液Cに伝わることを防止している。
なお、第3層(801C)の空気層855及び真空層850は、第5層(801E)で発生した超音波振動が第2層(801B)に伝わることを遮断する役割をも果たしている。
【0075】
合流流路において、溶液B及び溶液Cは、音波振動及びArバブリングの併用により混合され、溶液C中の酸化鉄ナノ粒子は、金により被覆される。すなわち、溶液Bと溶液Cの反応液である溶液Dは、生成した金/酸化鉄磁性複合ナノ粒子を含む。溶液Dは、排出口814aから排出され、貫通孔814b、814cを介して第7層(801G)に設けられた導入口814dに導入され、ヘルムホルツ式レゾネータ用流路818を送液される。
ヘルムホルツ式レゾネータ用流路818を送液されることにより、溶液Dの振動は除去される。詳細については後述する。ヘルムホルツ式レゾネータ用流路818を送流された溶液Dは、排出口815aから排出され、第8層(801H)の導入口815bから分離流路819に送液される。
第8層(801H)には、永久磁石816が設けられており、溶液Dが分離流路819を送液されると、溶液内の金/酸化鉄磁性複合ナノ粒子が選択的に分離流路819の永久磁石816側に集積する。永久磁石の下流側で流路を分離すると、永久磁石側の流路の排出口820aからは金/酸化鉄磁性複合ナノ粒子が分離されて排出される。したがって、排出口820bから排出される溶液を回収することによって、金/酸化鉄磁性複合ナノ粒子を回収することができる。
【0076】
第8層(801H)では、永久磁石により分離/濃縮を行うにあたり、安定した層流を形成することが好ましい。超音波振動子860が形成されている第5層(801E)と、分離流路819が形成されている第8層(801H)の間の第6層(801F)には、空気層855形成されており、ヘルムホルツ式レゾネータの作用により、第5層(801E)で発生した振動を遮断し、分離流路819には安定した層流が形成される。
図11(a)は、図9における第6層(801F)及び第7層のX−X’断面である。第6層(801F)には、溶液Dが送液される貫通孔814cが形成され、また、空気層855が形成されている。
第7層(801G)には、ヘルムホルツ式レゾネータ用流路818が設けられており、溶液Dの振動は、上部の空気層により除去される。また、空気層855には、マイクロリアクタ装置外へと繋がる気体の導入・排出用の管が設けられており、空気層内部の気圧や、気体の種類等を適宜変更できるようにバルブ890が設けられている。
ヘルムホルツ式レゾネータ用流路を送流する流体が脈動している場合、空気層に流体が脈動を伴って送液される。空気層では、溶液Dの脈動に伴って空気が振動することでこれらの脈動が吸収され、815aから排出される溶液Dは、より安定して送流される。
また、溶液DにArが残存していた場合には、残存するArが空気層に排出され、溶液D中の残存Arを除去することができる。
【0077】
また、上記の例では第6層(801F)としてヘルムホルツ式レゾネータを使用したが、これに代えて、真空層850とすることもできる。
第6層として真空層を使用した場合の、図9における第6層の断面図を図11(b)に示す。
【0078】
なお、本実施形態は、上記各実施の形態に限定されず、その発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々な変形が可能である。また、発明の要旨を逸脱しない範囲内で各実施の形態の構成要素を任意に組み合わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】1次元結晶構造、2次元結晶構造及び3次元結晶構造を有するフォノニック結晶構造の例を示した図である。
【図2】ヘルムホルツ共鳴器200の概念図である。
【図3】振動子の配置状態を示す微小流路の断面概念図である。
【図4】本実施形態に好適に使用できるマイクロリアクタ装置の製造方法の一実施態様を示す製造工程図である。
【図5】本実施形態の一実施態様で使用したマイクロリアクタ装置の概念図である。
【図6】本実施形態の一実施態様で使用したマイクロリアクタ装置の各層の平面図である。
【図7】本実施形態の一実施態様で使用したマイクロリアクタ装置の501E層〜501G層のX−X’断面図である。
【図8】実施例1に好適に使用可能な他のマイクロリアクタ装置のパターン部材の一部を示す概念図である。
【図9】実施例2で使用したマイクロリアクタの概念図である。
【図10】実施例2で用いたArバブリングの原理を示す模式的断面図である。
【図11】(a)は、振動を遮断する手段としてヘルムホルツ式レゾネータを使用する一実施態様を示す断面概略図である。(b)は、第6層として真空層を使用した場合の、図9における第6層のX−X’断面概略図である。
【符号の説明】
【0080】
200 ヘルムホルツ共鳴器
210 孔
212 振動
214 空洞部
301a 凹部
301b 貫通孔
310 基体
320 微小流路
400 金属基板
401A 1層目のパターン部材
401B 2層目のパターン部材
405 ドナー基板
410 ターゲット基板
500 マイクロリアクタ装置
501A〜501P パターン部材
506A、506B 導入流路
508 合流流路
510a 排出口
512 分離流路
520、520’ 導入流路
522 合流流路
530 pHセンサ
532 分離流路
550 超音波振動子
560 振動を遮断する手段(フォノニック結晶構造)
570 下層液D
572 上澄み液
614A、614B 導入流路
616 合流流路
620 分離流路
650 超音波振動子
660 振動を遮断する手段
708 合流流路
750 超音波振動子
760 振動を遮断する手段
800 マイクロリアクタ装置
801A〜801I パターン部材
806 合成流路
810a、810b 導入流路
812 合流流路
816 永久磁石
818 ヘルムホルツ式レゾネータ用流路
819 分離流路
832 Ar導入流路
835、836 貫通孔
850 真空層
855 空気層
860 超音波振動子
870 加熱ヒータ
881 Ar排出口
890 バルブ
X 振動子
CE コーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1以上の流体を送流する微小流路、及び、
振動を遮断する手段を有することを特徴とする
マイクロリアクタ装置。
【請求項2】
前記マイクロリアクタ装置が、振動を発生させる手段を有する、請求項1に記載のマイクロリアクタ装置。
【請求項3】
前記振動を遮断する手段が、フォノニック結晶構造、ヘルムホルツ式レゾネータ、真空層及び防振ゴムよりなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1又は2に記載のマイクロリアクタ装置。
【請求項4】
前記フォノニック結晶構造、前記ヘルムホルツ式レゾネータ、前記真空層のいずれか1つが、パターン部材を積層してなる、請求項3に記載のマイクロリアクタ装置。
【請求項5】
前記フォノニック結晶構造がウッドパイル構造である、請求項4に記載のマイクロリアクタ装置。
【請求項6】
前記微小流路が、2種以上の流体を導入するための2つ以上の導入口、及び、前記流体を合流して送流する合流流路を有し、前記振動を発生させる手段は、合流流路に振動を発生させる、請求項2〜5いずれか1つに記載のマイクロリアクタ装置。
【請求項7】
前記マイクロリアクタ装置がパターン部材を積層してなる、請求項1〜6いずれか1つに記載のマイクロリアクタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−90265(P2009−90265A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−266414(P2007−266414)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】