説明

マイクロ切替えバルブ

【課題】 弁体とケーシングとの間を確実にシールでき、性能、信頼性等を高められるようにしたマイクロ切替えバルブを提供する。
【解決手段】 マイクロ切替えバルブ1は、弁体11と、弁体11が内嵌されるケーシング14と、弁体11の外周面11aに形成された溝13とケーシング14に形成された複数のポートを備えており、第1の状態では、溝13が一の組み合わせのポート17同士を繋ぐと共に、第1の状態から弁体11を回転させた第2の状態では、溝13が他の組み合わせの前記ポート同士を繋ぐようになっている。そして、弁体11には凸条20を一体形成して弁体11とケーシング14との間をシールし、弁体11とケーシング14との間から試薬が漏洩するのを阻止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロリアクタに使用されるマイクロ切替えバルブに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生化学反応解析システムには、マイクロリアクタが使用されている。マイクロリアクタは、周知のとおり、μm(マイクロメータ)オーダの径の流路を有する微小反応器
である。このマイクロリアクタによれば、流路が微細に形成されているので生化学的反応に使用される高価な試薬の量が低減されると共に、マイクロリアクタに供給された物質間の反応効率が高められる。
【0003】
このようなマイクロリアクタには、その流路への試薬の供給や供給の停止を行うためのバルブが配置されている。このバルブは、マイクロリアクタの流路の径に応じて小型化が図られており、マイクロバルブと称されている。このようなマイクロバルブとしては、従来、圧電素子を使用したものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このマイクロバルブでは、可撓性を有する板状の弁体が圧電素子によって流路を開閉することによって、流路への試薬の供給や供給の停止が行われるようになっている。
【特許文献1】特開2004−36728号公報(段落0071〜段落0082、図6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このような特許文献1に記載のマイクロバルブは、圧電素子等の電子部品が必要となるため、マイクロバルブの全体構造が複雑化する上に部品点数が増加してしまい、コストが高くつくという不具合が生じる。
【0006】
そこで、このような問題を解消するため、以下のように構成したマイクロバルブが考えられる。このマイクロバルブは、例えば、円筒状のケーシングと、このケーシング内に内嵌される円柱状の弁体と、この弁体の外周面に形成された溝と、前記ケーシングに突出形成された複数のポートとを有し、第1の状態では、前記溝が一の組み合わせの前記ポート同士を繋ぐと共に、前記第1の状態から前記弁体を回転させた第2の状態では、前記溝が他の組み合わせの前記ポート同士を繋ぐように構成することができる。このように構成されるマイクロバルブは、複数のポートを有するケーシングと溝が形成された弁体とによって構成することができ、全体の構造を簡略化できると共に部品点数を削減できるという利点がある。
【0007】
その一方で、このようなケーシング、弁体、溝およびポートを組み合わせて構成したマイクロバルブをマイクロリアクタに用いた場合には、ポートと溝を経由してマイクロバルブ内に流入した試薬が弁体とケーシングとの間の加工誤差等に起因した僅かな隙間を介して外部に漏洩することがあり、マイクロバルブの性能、信頼性を必ずしも十分に高めることができないという新たな問題が生じる。
【0008】
このような背景に鑑みて本発明がなされたのであり、本発明は、弁体とケーシングとの間を良好にシールでき、性能、信頼性等を高められるようにしたマイクロ切替えバルブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記した課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、回転軸を中心とする外周面を有する弁体と、前記弁体が前記回転軸周りに回転可能なように前記外周面と摺り合せられて内嵌されるケーシングと、前記弁体の外周面に形成された溝と、前記ケーシングに形成された複数のポートとを備えるマイクロ切替えバルブであって、第1の状態では、前記溝が一の組み合わせの前記ポート同士を繋ぐと共に、前記第1の状態から前記弁体を回転させた第2の状態では、前記溝が他の組み合わせの前記ポート同士を繋ぐように形成されており、前記弁体の外周面には、前記弁体と前記ケーシングとの間をシールする凸条を全周に亘って設けたことを特徴とする。
【0010】
このような構成により、弁体をケーシングに内嵌するときには、弁体の外周面に設けた凸条をケーシングの内周面に締代をもって摺接させることができる。従って、この凸条により弁体とケーシングとの間を確実にシールすることができ、弁体とケーシングとの間から例えば試薬等の液体が漏洩するのを阻止することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、弁体が内嵌されるケーシングの内周面には、凸条が嵌合するリング状のシール溝を凹設したことを特徴とする。
【0012】
このような構成により、ケーシングの内周面には弁体の凸条が嵌合するシール溝を設けたので、弁体をケーシングに内嵌するときには、凸条がシール溝内に締代をもって嵌合することにより、凸条とシール溝との間を良好にシールでき、弁体とケーシングとの間から試薬等の液体が漏洩するのを阻止することができる。また、凸条をシール溝に嵌合させる構成としたので、弁体をケーシングに対して容易に位置決めして取り付けることができ、弁体の組付性を高めることができる。また、凸条をシール溝に嵌合させることにより、ケーシングに対する弁体の抜け防止を図ることができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、回転軸を中心とする外周面を有する弁体と、前記弁体が前記回転軸周りに回転可能なように前記外周面と摺り合せられて内嵌されるケーシングと、前記弁体の外周面に形成された溝と、前記ケーシングに形成された複数のポートとを備えるマイクロ切替えバルブであって、第1の状態では、前記溝が一の組み合わせの前記ポート同士を繋ぐと共に、前記第1の状態から前記弁体を回転させた第2の状態では、前記溝が他の組み合わせの前記ポート同士を繋ぐように形成されており、前記弁体の外周面は、その一端から他端に向かうに従って斜めに傾斜する円錐状のテーパ面として形成され、前記ケーシングの内周面は、前記弁体のテーパ面と対応した形状を有する円錐状のテーパ面として形成されたことを特徴とする。
【0014】
このような構成により、ケーシングの内周面と弁体の外周面を円錐状に形成したので、ケーシングの内径をケーシングの全長に亘って同一に設定すると共に、弁体の外径を弁体の全長に亘って同一に設定した場合と比較して、弁体をケーシングに内嵌したときの弁体とケーシングとの接触面積を増やすことができ、弁体とケーシングとの間を良好にシールでき、弁体とケーシングとの間から試薬等の液体が漏洩するのを阻止することができる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、回転軸を中心とする外周面を有する弁体と、弁体が回転軸周りに回転可能なように前記外周面と摺り合せられて内嵌されるケーシングと、前記弁体の外周面に形成された溝と、前記ケーシングに形成された複数のポートとを備えるマイクロ切替えバルブであって、第1の状態では、前記溝が一の組み合わせの前記ポート同士を繋ぐと共に、前記第1の状態から前記弁体を回転させた第2の状態では、前記溝が他の組み合わせの前記ポート同士を繋ぐように形成されており、前記弁体の外周面と前記弁体が内嵌される前記ケーシングの内周面との間には、前記弁体と前記ケーシングとの間をシールするOリングを設けたことを特徴とする。
【0016】
このような構成により、弁体をケーシング内に内嵌したときには、Oリングがケーシングまたは弁体に締代をもって摺接させることができ、弁体の外周面とケーシングの内周面との間をOリングにより良好にシールでき、弁体とケーシングとの間から試薬等の液体が漏洩するのを阻止することができる。Oリングを弁体またはケーシングとは別体に形成できるから、Oリングの耐久性が低下して寿命が生じたときには、Oリングだけを交換することにより、この新品のOリングを用いて弁体とケーシングとの間を良好にシールすることができる。
【0017】
請求項5に記載の発明は、回転軸を中心とする外周面を有する弁体と、前記弁体が前記回転軸周りに回転可能なように前記外周面と摺り合せられて内嵌されるケーシングと、前記弁体の外周面に形成された溝と、前記ケーシングに形成された複数のポートとを備えるマイクロ切替えバルブであって、第1の状態では、前記溝が一の組み合わせの前記ポート同士を繋ぐと共に、前記第1の状態から前記弁体を回転させた第2の状態では、前記溝が他の組み合わせの前記ポート同士を繋ぐように形成されており、前記ケーシングの前記弁体が嵌入される側の開口端にシール部材を設けたことを特徴とする。
【0018】
このような構成により、ケーシングの弁体が嵌入される側の開口端をシール部材を用いてシールできるから、この開口端から試薬等の液体が漏洩するのを確実に遮断することができ、シール性能をさらに向上することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、弁体とケーシングとの間またはケーシングの弁体が嵌入される側の開口端を確実にシールでき、性能、信頼性等を高められるようにしたマイクロ切替えバルブを提供することができる。また、簡素な構造で少なくとも2系統の流路を相互に切り替えることができるマイクロ切替えバルブを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
(第1実施形態)
次に、本発明の第1実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。参照する図面において、図1(a)は、本実施形態に係るマイクロ切替えバルブが組み込まれた遺伝子発現解析システムを示す模式図、図1(b)は、試薬導入経路を設定したマイクロ切替えバルブの状態を示す模式図、図1(c)は、試薬循環経路を設定したマイクロ切替えバルブの状態を示す模式図、図2は、本実施形態に係るマイクロ切替えバルブの分解斜視図、図3(a)は、弁体の平面図、図3(b)は弁体の正面図、図3(c)は弁体の右側面図、図4(a)は図2中のA−A線における断面図、図4(b)は、図2中のB−B線における断面図、図4(c)は、図2中のC−C線における断面図である。図5は、本実施形態に係るマイクロ切替えバルブの動作の説明図であり、図5(a)は、マイクロ切替えバルブの第1の状態を示す断面図、図5(b)は、マイクロ切替えバルブの第2の状態を示す断面図であり、図6は、図5(a)中のa部分を拡大して示す要部拡大断面図である。
【0021】
まず、本実施形態に係るマイクロ切替えバルブの説明に先立って、このマイクロ切替えバルブが組み込まれた遺伝子発現解析システムについて説明する。
【0022】
(遺伝子発現解析システム)
図1(a)に示すように、遺伝子発現解析システムSは、試薬供給部3と、試薬回収部4と、マイクロリアクタユニット2とを備えている。そして、試薬供給部3は、マイクロリアクタユニット2と第3流路L3で繋げられており、試薬回収部4は、マイクロリアクタユニット2と第4流路L4で繋げられている。なお、本実施形態では、第3流路L3および第4流路L4の径が、数μmないし数百μm程度に設定されている。
【0023】
試薬供給部3は、後記するように試料配置部5に配置されるDNA(試料)と反応させる複数種類の試薬V1〜Vn(nは2以上の整数)を所定の順番で1種類ずつマイクロリアクタユニット2に供給するものである。なお、試薬V1〜Vnは、DNA(試料)のハイブリダイゼーションに使用される公知の試薬およびハイブリダイゼーション後のDNA(試料)の発光に使用される公知の試薬で主に構成され、バイブリダイゼーションの種類等に応じて前記nで表す数は決定される。
【0024】
試薬回収部4は、マイクロリアクタユニット2に供給された試薬V1〜Vnをその種類別に回収するものである。
【0025】
マイクロリアクタユニット2は、試料配置部5と、ポンプ6と、マイクロ切替えバルブ1とで主に構成されている。このマイクロリアクタユニット2では、マイクロ切替えバルブ1と試料配置部5とが第1流路L1で繋げられており、試料配置部5とマイクロ切替え
バルブ1とが第2流路L2で繋げられている。そして、ポンプ6は、第1流路L1の途中に配置されている。なお、本実施形態では第1流路L1および第2流路L2の径が、数μmないし数百μm程度に設定されている。
【0026】
試料配置部5は、解析の対象となるDNA(試料)を配置するものであり、本実施形態では、300μm程度の径の穴が複数形成されたステンレス板にナイロンメンブレンが埋め込まれたものが使用されている。そして、各穴には、解析の対象となるDNA(試料)がスポットされるようになっている。
【0027】
ポンプ6は、次に説明するマイクロ切替えバルブ1から第1流路L1に流入する各試薬V1〜Vnを、試料配置部5および第2流路L2を介して再びマイクロ切替えバルブ1に戻すように輸送するものである。なお、本実施形態でのポンプ6には、送液量が30mL/分程度のマイクロポンプが使用されている。
【0028】
マイクロ切替えバルブ1は、図1(b)に示すように、第1流路L1と第3流路L3とを繋ぐと共に、第2流路L2と第4流路L4とを繋ぐことによって、図1(a)に示すように、各試薬V1〜Vnが第3流路L3、第1流路L1、第2流路L2および第4流路L4をこの順番で通流する経路(以下、この経路を「試薬導入経路」という)を設定するようになっている。また、このマイクロ切替えバルブ1は、図1(c)に示すように、第1流路L1と第2流路L2とを繋ぐことによって、図1(a)に示すように、各試薬V1〜Vnが第1流路L1および第2流路L2をこの順番で通流する経路(以下、この経路を「試薬循環経路という)を設定するようになっている。
【0029】
このような遺伝子発現解析システムSでは、まず、解析の対象となるDNA(試料)が試料配置部5に配置される。そして、ポンプ6が起動すると共に試薬供給部3から試薬V1がマイクロリアクタユニット2に供給される。このときマイクロ切替えバルブ1は、試薬V1が前記した試薬導入経路を通流するように設定される。その結果、試薬V1は、第1流路L1内および第2流路L2内に満たされる。
【0030】
次に、マイクロ切替えバルブ1は、試薬V1が前記した試薬循環経路を通流するように切り替えられる。その結果、試薬V1は、マイクロ切替えバルブ1、第1流路L1および第2流路L2をこの順番で循環する。そして、このように試薬V1が試薬循環経路を循環する際に、試料配置部5に配置されたDNA(試料)は、試薬V1と反応する。
【0031】
次に、DNA(試料)と試薬V1との反応が完結すると、マイクロ切替えバルブ1は、再び試薬導入経路が設定されるように切り替えられる。つまり、第3流路L3と第1流路L1とが繋がれると共に、第4流路L4と第2流路L2とが繋がれる。そして、図示しない洗浄液貯留部から第3流路L3に洗浄液が供給される。その結果、第3流路L3、第1流路L1および第2流路L2に残存する試薬V1は、洗浄液に押し出されるようにして第4流路L4を介して試薬回収部4に回収される。そして、このような工程が、この試薬V1に続いて供給される試薬Vnまでのまでの(n−1)種類の試薬のそれぞれについても同様に行われる。その結果、DNA(試料)が試薬V1〜Vnと順番に反応してDNA(試料)は発光する。そして、DNA(試料)からの光が図示しないCCD等の光学的検出器で検出されることによってDNA(試料)が解析される。
【0032】
このような遺伝子発現解析システムSによれば、DNA(試料)と各試薬V1〜Vnとを反応させる際に、各試薬V1〜Vnが試薬循環経路を循環するので、各試薬V1〜Vnが循環しない場合、例えば、各試薬V1〜Vnが試薬供給部3から試薬回収部4に向けて一方向に通流することによってDNA(試料)と反応する場合と比較して、DNA(試料)と各試薬V1〜Vnとの反応が完結するまでにマイクロリアクタユニット2に供給される各試薬V1〜Vnの絶対量が低減される。
【0033】
(マイクロ切替えバルブ)
次に本実施形態に係るマイクロ切替えバルブ1について説明する。
マイクロ切替えバルブ1は、図2に示すように、弁体11とケーシング14とで構成されている。
【0034】
弁体11は、円柱形状を呈しており、後記するようにケーシング14に内嵌された際に、その円柱の中心軸周りに回転するものであり、この中心軸で規定される回転軸18を中心とする外周面11aを有している。そして、弁体11の一端には、図示しない回転ハンドルを取り付けるためのスリット19が形成されている。
【0035】
弁体11の外周面11aには、図4(a)を併せて参照すると明らかなように、溝13が形成されており、この溝13は、回転軸18に沿った方向に直線状に延びる第1溝13aと、回転軸18と直交する方向に沿った方向に円弧状に延びる第2溝13b(図2参照)および第3溝13cとで構成されている。また、なお、本実施形態での第1溝13a、第2溝13bおよび第3溝13cの合計の容積は2.2μL以下になるように設定されている。また、図3(b),(c)に示すように、弁体11のスリット19側寄りとなる一端側には半球面状をなす位置決め突起41が突設されている。
【0036】
ケーシング14は、図2に示すように、円筒形状の胴部15と接続プラグ16とを備えている。胴部15の内側には、弁体11の外周面11aと摺り合わせられる内周面15aが形成されており、弁体11が、この胴部15の内側に弁体11の回転軸18周りに回転可能なように内嵌されることとなる。そして、図4(b)および図4(c)に示すように、この胴部15には、次に説明する接続プラグ16の中空部17bと共にケーシング14のポート17を構成する貫通孔17aが形成されている。また、図2に示すように、弁体11が嵌入されるケーシング14の開口端側には、径方向で対向して一対の位置決め溝42,42が形成されている。そして、この位置決め溝42には、後記するように弁体11を回転する際に、位置決め突起41(図3(b)参照)が係合するようになっている。
【0037】
接続プラグ16は、図2に示すように、胴部15の外周面に接続された管状部材であり、第1接続プラグ16a、第2接続プラグ16b、第3接続プラグ16cおよび第4接続プラグ16dで構成されている。そして、図4(b)に示すように、第1接続プラグ16aの中空部17bおよび第3接続プラグ16cの中空部17bは、胴部15の貫通孔17aを介して胴部15の内側と連通することによって、マイクロ切替えバルブ1のポート17を構成している。また、図4(c)に示すように、第2接続プラグ16bの中空部17bおよび第4接続プラグ16dの中空部17bは、胴部15の貫通孔17aを介して胴部15の内側と連通することによって、マイクロ切替えバルブ1のポート17を構成している。
【0038】
そして、図2に示すケーシング14に弁体11を組み付けて、位置決め突起41が一方の位置決め溝42に係合した際には、図4(b)に示すように、第2溝13b(図中、仮想線(二点鎖線)で示す)が第1接続プラグ16a側のポート17と第3接続プラグ16c側のポート17とを繋げるようになっている。また、図4(c)に示すように、第3溝13c(図中、仮想線(二点鎖線)で示す)が、第2接続プラグ16b側のポート17と第4接続プラグ16d側のポート17とを繋げるようになっている。なお、このようにポート17同士が第2溝13bおよび第3溝13cで繋げられる状態は、特許請求の範囲にいう「第1の状態」に相当する。
【0039】
そして、このような第1の状態から弁体11を180度回転させて、位置決め突起41が他方の位置決め溝42に係合した際には、図2に示す弁体11の第1溝13aは、図2に示す第1接続プラグ16aのポート17と第2接続プラグ16bのポート17とを接続するようになっている。なお、このようにポート17同士が第1溝13aで繋げられる状態は、特許請求の範囲にいう「第2の状態」に相当する。
【0040】
このようなマイクロ切替えバルブ1の材質としては、例えば、プラスチック、ガラス等が挙げられる。また、弁体11の材質は、ケーシング14の材質と異なっていてもよく、例えばシリコーンゴム等のエラストマーであってもよい。
【0041】
ここで、図2および図3に示すように、弁体11の外周面には、スリット19側寄りに位置して凸条20が全周に亘って一体形成されている。この凸条20は横断面が略円弧状をなしている。そして、凸条20は弁体11をケーシング14に内嵌したときに、図6に示すように、ケーシング14の内周面15aに弾性変形して強く押し付けられ、弁体11とケーシング14との間をシールするものである。
【0042】
次に、本実施形態に係るマイクロ切替えバルブの動作について適宜図面を参照しながら説明する。なお、参照する図面において、図5は、マイクロ切替えバルブの動作の説明図であり、図5(a)は、マイクロ切替えバルブの第1の状態を示す断面図、図5(b)は、マイクロ切替えバルブの第2の状態を示す断面図である。
【0043】
本実施形態に係るマイクロ切替えバルブ1は、図5(a)および図5(b)に示すように、第1接続プラグ16a側のポート17に第1流路L1(図1(a)参照)が繋げられ、第2接続プラグ16b側のポート17に第2流路L2(図1(a)参照)が繋げられ、第3接続プラグ16c側のポート17に第3流路L3(図1(a)参照)が繋げられ、第4接続プラグ16d側のポート17に第4流路L4(図1(a)参照)が繋げられるようにして、遺伝子発現解析システムS(図1(a)参照)に組み込まれる。
【0044】
そして、図1(a)に示すように、試薬供給部3から試薬V1〜Vnがマイクロリアクタユニット2に供給される際、および試薬V1〜Vnが試薬回収部4に回収される際には、マイクロ切替えバルブ1が前記した第1の状態に設定される。つまり、図5(a)に示すように、ケーシング14の第1接続プラグ16a側のポート17と第3接続プラグ16c側のポート17とが、弁体11の第2溝13bで繋げられると共に、第2接続プラグ16b側のポート17と第4接続プラグ16d側のポート17とが、弁体11の第3溝13cで繋げられる。その結果、このマイクロ切替えバルブ1は、各試薬V1〜Vn(図1(a)参照)が第2流路L2から第4流路L4に輸送される経路、つまり試薬導入経路を遺伝子発現解析システムS(図1(a)参照)に設定する。
【0045】
そして、図1(a)に示すように、各試薬V1〜Vnをマイクロリアクタユニット2内で循環させて試料配置部5のDNA(試料)と反応させる際には、マイクロ切替えバルブ1が第1の状態から前記した第2の状態に設定されるように、弁体11(図2参照)が回転軸18(図2参照)周りに回転させられる。つまり、図5(b)に示すように、ケーシング14の第3接続プラグ16c側のポート17と第4接続プラグ16d側のポート17とが、弁体11で塞がれると共に、第1接続プラグ16a側のポート17と第2接続プラグ16b側のポート17とが、弁体11の第1溝13aで繋げられる。その結果、このマイクロ切替えバルブ1は、各試薬V1〜Vn(図1(a)参照)が第2流路L2から第1流路L1に輸送される経路、つまり試薬循環経路を遺伝子発現解析システムS(図1(a)参照)に設定する。
【0046】
このようなマイクロ切替えバルブ1によれば、弁体11を回転させることによって2系統の流路、つまり、試薬導入経路および試薬循環経路を相互に切り替えることができる。そして、試薬導入経路および試薬循環経路の切り替えは、弁体11を一方向に回転させることによって交互に行われる。したがって、このマイクロ切替えバルブ1では、例えば、ステッピングモータ等を組み込んだ回転駆動機構を使用して弁体11を所定の角度で回転させることによって、試薬導入経路および試薬循環経路の交互の切り替えを自動的に行うことができる。
【0047】
しかも、弁体11の外周面11aには、スリット19側寄りに位置して当該外周面11aを全周に亘って取り囲む凸条20を一体形成する構成としたので、弁体11をケーシング14に内嵌したときに図6に示すように凸条20をケーシング14の内周面に強く押し付けることができ、弁体11とケーシング14との間を良好にシールすることができる。したがって、弁体11とケーシング14との間に加工誤差等に起因して隙間が生じたとしても、凸条20により弁体11とケーシング14との間のシール性能を高めることができ、弁体11とケーシング14との間から試薬V1〜Vnが外部に漏洩する事態を解消でき、マイクロ切替えバルブ1の性能、信頼性等を高めることができる。
【0048】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。参照する図面において、図7は、本実施形態に係るマイクロ切替えバルブの分解斜視図、図8は、本実施形態に係るマイクロ切替えバルブの凸条およびシール取付溝を示す要部拡大図である。なお、本実施形態では第1実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0049】
図7において、符号「20′」は弁体11のスリット19側寄りに位置して弁体11の外周面11aに設けられた凸条を示している。この凸条20′は、弁体11の外周面11aを全周に亘って取り囲み、横断面が円弧状をなした環状突起として形成されている。
【0050】
また、ケーシング14の内周面15aにはケーシング14の開口端寄りに位置してリング状のシール溝21が凹設されている。このシール溝21は横断面が略コ字状に形成され、内部には凸条20′が嵌合して取り付けられることとなる。ここで、凸条20′の突出高さは、シール溝21の溝深さよりも僅かに大きく形成されている。このため、凸条20′をシール溝21内に嵌合するときは、凸条20′は締代をもってケーシング14の内周面15a(シール溝21)に強く押し付けられ、これにより弁体11とケーシング14との間がシールされる。
【0051】
このように構成される本実施形態では、凸条20′をシール溝21内に締代をもって嵌合させることができるため、弁体11とケーシング14との間のシール性能を高めることができ、弁体11とケーシング14との間から試薬が漏洩するのを防止することができる。また、マイクロ切替えバルブ1の組立時には、弁体11の凸条20′をケーシング14のシール溝21内に嵌合することにより、弁体11を凸条に対して容易に位置決めして取り付けることができ、弁体11の組付性を高めることができる。
【0052】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。参照する図面において、図9は、本実施形態に係るマイクロ切替えバルブの平面図、図10は、弁体を単体で示す正面図、図11は、図9中のD−D線における断面図である。なお、本実施形態では第1実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0053】
図9ないし図11において、弁体23の外周面23aは、図中右側となる一端側から図中左側となる他端側に向けて徐々に縮径する円錐面(テーパ面)として形成されている。また、ケーシング24の内周面24aについても図中右側となる一端側から図中左側となる他端側に向けて徐々に縮径する円錐面(テーパ面)として形成されている。
【0054】
また、弁体23の外周面23aには、ケーシング24の開口端側寄りに位置して凸条23b(図10参照)が一体形成されている。
【0055】
このように構成される本実施形態でも、弁体23の外周面23aとケーシング24の内周面24aを円錐面として形成したので、内周面24aに対する外周面23aの接触面積を増やすことができ、弁体23とケーシング24との間のシール性能を高めることができる。また、弁体23をケーシング24に内嵌するときには、凸条23bがケーシング24の内周面24aに弾性変形して強く押し付けられるため、弁体23とケーシング24との間のシール性能を一層高めることができる。また、弁体23とケーシング24との間に凸条23bが介在しているため、ケーシング24に対する弁体23の抜け止めを行うこともできる。
【0056】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。参照する図面において、図12は、本実施形態に係るマイクロ切替えバルブを図11と同一方向からみた断面図である。なお、本実施形態では第1実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0057】
図12において、ケーシング25の内周面25aには、ケーシング25の開口端側に位置して環状のシール取付溝25bが凹設されている。そして、このシール取付溝25bにはOリング26が装着され、このOリング26により弁体27の外周面27aとケーシング25の内周面25aとの間をシールしている。
【0058】
このように構成される本実施形態でも、Oリング26により弁体27とケーシング25との間を良好にシールすることができる。また、Oリング26を弁体27またはケーシング25とは別体に形成できるから、Oリング26の耐久性が低下して寿命が生じたときには、Oリング26だけを新品のものと交換することにより、弁体27とケーシング25との間を良好にシールすることができる。
【0059】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。参照する図面において、図13は、本実施形態に係るマイクロ切替えバルブを図11と同一方向からみた断面図である。なお、本実施形態では第1実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0060】
図13において、符号「28」は本実施形態に用いる弁体で、この弁体28はケーシング29に内嵌されている。また、ケーシング29の開口端側(ケーシング29の弁体28が嵌入される側の開口端側)には、環状のフランジ29aが一体形成されている。さらに符号「30」はケーシング29の前記開口端側をシールするためのシール部材で、このシール部材30は、内周端側が弁体28の外周面28aに締代をもって当接(摺接)した第1の環状板部30aと、第1の環状板部30aの外周端側に一体形成されてフランジ29aを外周側から覆う筒部30bと、筒部30bから径方向内側に延びた第2の環状板部30cとを備えている。
【0061】
このように構成される本実施形態でも、シール部材30の第1の環状板部30aを、弁体28の外周面28aに締代をもって当接させることによりケーシング29の開口端側を良好にシールすることができ、第1実施形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。
【0062】
(第6実施形態)
次に、本発明の第6実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。参照する図面において、図14は、本実施形態に係るマイクロ切替えバルブを図11と同一方向からみた断面図である。なお、本実施形態では第1実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0063】
図14において、符号「31」は本実施形態に用いる弁体で、この弁体31はケーシング32の内周面32aに内嵌されている。また、ケーシング32の開口端側には、環状のフランジ32bが一体形成されている。そして、このケーシング32のフランジ32bには、断面略三角形状をなすシール取付溝32cが形成されている。また、弁体31には筒状のシール部材33が外嵌されており、このシール部材33の内周側が弁体31の外周面31aに締代をもって当接(摺接)することにより、ケーシング32の開口端側をシールしている。さらに、シール部材33の軸方向一端側には断面略三角形状をなす筒状のシール突起33aが突設され、このシール突起33aをシール取付溝32cに嵌合することにより、シール部材33はケーシング32のフランジ32bに固定されている。
【0064】
このように構成される本実施形態でも、シール部材33により弁体31とケーシング32との間を良好にシールすることができ、第1実施形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。
【0065】
なお、第1実施形態では、凸条20を弁体11に一体形成する場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限らず、例えば凸条20を弁体11とは別個に形成し、この凸条20を弁体11に形成したリング溝(図示せず)に嵌合させて固着する構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】図1(a)は、第1実施形態に係るマイクロ切替えバルブが組み込まれた遺伝子発現解析システムを示す模式図、図1(b)は、試薬導入経路を設定したマイクロ切替えバルブの状態を示す模式図、図1(c)は、試薬循環経路を設定したマイクロ切替えバルブの状態を示す模式図である。
【図2】第1実施形態に係るマイクロ切替えバルブの分解斜視図である。
【図3】図3(a)は、弁体の平面図、図3(b)は弁体の正面図、図3(c)は弁体の右側面図である。
【図4】図4(a)は、図2中のA−A線における断面図、図4(b)は、図2中のB−B線における断面図、図4(c)は、図2中のC−C線における断面図である。
【図5】第1実施形態に係るマイクロ切替えバルブの動作の説明図であり、図5(a)は、マイクロ切替えバルブの第1の状態を示す断面図、図5(b)は、マイクロ切替えバルブの第2の状態を示す断面図である。
【図6】図5(a)中のa部分を拡大して示す要部拡大断面図である。
【図7】第2実施形態に係るマイクロ切替えバルブの分解斜視図である。
【図8】図7中の弁体、ケーシングおよび凸条等を図6と同様位置からみた要部拡大断面図である。
【図9】第3実施形態に係るマイクロ切替えバルブの平面図である。
【図10】図9中の弁体を単体で示す正面図である。
【図11】図9中のD−D線における断面図である。
【図12】第4実施形態に係るマイクロ切替えバルブを図11と同様位置からみた断面図である。
【図13】第5実施形態に係るマイクロ切替えバルブを図11と同様位置からみた断面図である。
【図14】第6実施形態に係るマイクロ切替えバルブを図11と同様位置からみた断面図である。
【符号の説明】
【0067】
1 マイクロ切替えバルブ
2 マイクロリアクタユニット
3 開口部
11,23,27,28,31 弁体
14,24,25,29,32 ケーシング
20,20′,23b 凸条
21 シール溝
11a,23a,27a,28a,31a 外周面
15a,24a,25a,32a 内周面
26 Oリング
30,33 シール部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を中心とする外周面を有する弁体と、
前記弁体が前記回転軸周りに回転可能なように前記外周面と摺り合せられて内嵌されるケーシングと、
前記弁体の外周面に形成された溝と、
前記ケーシングに形成された複数のポートとを備えるマイクロ切替えバルブであって、
第1の状態では、前記溝が一の組み合わせの前記ポート同士を繋ぐと共に、前記第1の状態から前記弁体を回転させた第2の状態では、前記溝が他の組み合わせの前記ポート同士を繋ぐように形成されており、
前記弁体の外周面には、前記弁体と前記ケーシングとの間をシールする凸条を全周に亘って設けたことを特徴とするマイクロ切替えバルブ。
【請求項2】
前記弁体が内嵌されるケーシングの内周面には、前記凸条が嵌合するリング状のシール溝を凹設したことを特徴とする請求項1に記載のマイクロ切替えバルブ。
【請求項3】
回転軸を中心とする外周面を有する弁体と、
前記弁体が前記回転軸周りに回転可能なように前記外周面と摺り合せられて内嵌されるケーシングと、
前記弁体の外周面に形成された溝と、
前記ケーシングに形成された複数のポートとを備えるマイクロ切替えバルブであって、
第1の状態では、前記溝が一の組み合わせの前記ポート同士を繋ぐと共に、前記第1の状態から前記弁体を回転させた第2の状態では、前記溝が他の組み合わせの前記ポート同士を繋ぐように形成されており、
前記弁体の外周面は、その一端から他端に向かうに従って斜めに傾斜する円錐状のテーパ面として形成され、前記ケーシングの内周面は、前記弁体のテーパ面と対応した形状を有する円錐状のテーパ面として形成されたことを特徴とするマイクロ切替えバルブ。
【請求項4】
回転軸を中心とする外周面を有する弁体と、
前記弁体が前記回転軸周りに回転可能なように前記外周面と摺り合せられて内嵌されるケーシングと、
前記弁体の外周面に形成された溝と、
前記ケーシングに形成された複数のポートとを備えるマイクロ切替えバルブであって、
第1の状態では、前記溝が一の組み合わせの前記ポート同士を繋ぐと共に、前記第1の状態から前記弁体を回転させた第2の状態では、前記溝が他の組み合わせの前記ポート同士を繋ぐように形成されており、
前記弁体の外周面と前記弁体が内嵌される前記ケーシングの内周面との間には、前記弁体と前記ケーシングとの間をシールするOリングを設けたことを特徴とするマイクロ切替えバルブ。
【請求項5】
回転軸を中心とする外周面を有する弁体と、
前記弁体が前記回転軸周りに回転可能なように前記外周面と摺り合せられて内嵌されるケーシングと、
前記弁体の外周面に形成された溝と、
前記ケーシングに形成された複数のポートとを備えるマイクロ切替えバルブであって、
第1の状態では、前記溝が一の組み合わせの前記ポート同士を繋ぐと共に、前記第1の状態から前記弁体を回転させた第2の状態では、前記溝が他の組み合わせの前記ポート同士を繋ぐように形成されており、
前記ケーシングの前記弁体が嵌入される側の開口端には、シール部材を設けたことを特徴とするマイクロ切替えバルブ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2006−138347(P2006−138347A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−326488(P2004−326488)
【出願日】平成16年11月10日(2004.11.10)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】