説明

マイクロ切替えバルブ

【課題】 本発明の課題は、簡素な構造で少なくとも2系統の流路を相互に切り替えることができるマイクロ切替えバルブを提供することにある。
【解決手段】 マイクロ切替えバルブ1は、互いに相対回転不能となる二つの固定部11,12と、二つの固定部11,12に対して回動自在に摺接する回動部13と、を備えている。二つの固定部11,12には、それぞれ第1貫通孔11e、第2貫通孔11f、第3貫通孔12eおよび第4貫通孔12fが形成されている。また、回動部13には、第1貫通孔11eと第3貫通孔12eとを繋ぐ第1連通路T1、第2貫通孔11fと第4貫通孔12fとを繋ぐ第2連通路T2、および第3貫通孔12eと第4貫通孔12fとを繋ぐ第3連通路T3が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロリアクタに使用されるマイクロ切替えバルブに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生化学反応解析システムには、マイクロリアクタが使用されている。マイクロリアクタは、周知のとおり、μm(マイクロメータ)オーダの径の流路を有する微小反応器である。このマイクロリアクタによれば、流路が微細に形成されているので生化学的反応に使用される高価な試薬の量が低減されるとともに、マイクロリアクタに供給された物質間の反応効率が高められる。
【0003】
このようなマイクロリアクタには、その流路への試薬の供給や供給の停止を行うためのバルブが配置されている。このバルブは、マイクロリアクタの流路の径に応じて小型化が図られており、マイクロバルブと称されている。このようなマイクロバルブとしては、従来、圧電素子を使用したものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このマイクロバルブでは、可撓性を有する板状の弁体が圧電素子によって流路を開閉することによって、流路への試薬の供給や供給の停止が行われるようになっている。
【特許文献1】特開2004−36728号公報(段落0071〜段落0082、図6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の圧電素子を使用したマイクロバルブは、単に流路の開閉を目的とするものであるために、このマイクロバルブを使用して少なくとも2系統の流路を相互に切り替える切替えバルブ(以下、「マイクロ切替えバルブ」という。)を構築しようとすると、複数の弁体とこれを駆動するための圧電素子を弁体ごとに配設する必要がある。その結果、マイクロ切替えバルブが複雑になって大型化するとともに、マイクロ切替えバルブ自体が高価になるという問題がある。また、このようなマイクロ切替えバルブでは、大型化することによってマイクロ切替えバルブの内部に滞留する試薬の量が多くなって、試薬のロスが増大するという問題がある。
【0006】
そこで、本発明の課題は、簡素な構造で少なくとも2系統の流路を相互に切り替えることができるマイクロ切替えバルブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための請求項1に記載の発明は、少なくとも2系統の流路を相互に切り替えるマイクロ切替えバルブであって、対面する互いに平行な平面部を有するとともに、互いに相対回転不能となる二つの固定部と、前記二つの固定部の前記平面部の間に設けられ、かつ、前記平面部に直交する回動軸を中心として前記固定部に対して回動自在に摺接する回動部と、を備え、前記二つの固定部には、それぞれ前記平面部に開口する貫通孔が複数形成されるとともに、前記回動部には、前記二つの固定部のうち一方の固定部に形成された貫通孔と他方の固定部に形成された貫通孔とを選択的に繋ぐ少なくとも一つの連通路が形成され、前記回動部を回動させることにより前記連通路と前記固定部に形成される前記貫通孔との連通状態が切り替えられるように構成されることを特徴とする。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、回動部を適宜回動させて、各固定部の貫通孔と回動部の連通路との連通状態を切り替えることで、少なくとも2系統の流路を切り替えることができる。すなわち、このマイクロ切替えバルブは、従来のような弁体を駆動するための圧電素子等を必要とせず、二つの固定部と一つの回動部とで簡素に構成されている。したがって、このマイクロ切替えバルブは、容易に、かつ安価に製造される。
【0009】
また、このマイクロ切替えバルブは、前記したように簡素に構成されているので、このマイクロ切替えバルブによれば、その小型化を図ることができる。そして、小型化されたマイクロ切替えバルブでは、その内部に滞留する試薬の量が少なくなるので、試薬のロスが低減される。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のマイクロ切替えバルブであって、前記回動部には、前記一方の固定部に形成された貫通孔同士、または、前記他方の固定部に形成された貫通孔同士を選択的に繋ぐ少なくとも一つの溝状の連通路が前記固定部との摺接面に形成され、前記回動部を回動させることにより前記溝状の連通路と前記貫通孔同士との連通状態が切り替えられるように構成されることを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、例えば二つの固定部にそれぞれ二つずつ貫通孔を設けるとともに、回動部に一方の固定部に形成された二つの貫通孔と他方の固定部に形成された二つの貫通孔とを繋ぐ連通路を二つ設け、他方の固定部に形成された貫通孔同士を繋ぐ溝状の連通路を設けることができる。そして、このような構造にした場合では、回動部を所定の位置に固定させると一方の固定部の貫通孔と他方の固定部の貫通孔とを連通路によって繋ぐことができ、また、この所定の位置から所定量だけ回動部を回動させると他方の固定部の貫通孔同士を溝状の連通路によって繋ぐことができる。そのため、他方の固定部の貫通孔を一つの配管で繋いだ場合には、配管で形成される流路を開いた系と閉じた系とに切り替えることが可能となる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のマイクロ切替えバルブであって、前記一方の固定部の平面部には、前記回動軸から離れた位置に第1貫通孔と第2貫通孔が開口し、前記他方の固定部の平面部には、前記第1貫通孔と対面する位置に第3貫通孔が開口するとともに、前記回動軸と同軸となる位置に第4貫通孔が開口し、前記回動部には、前記第1貫通孔と前記第3貫通孔とを繋ぐ第1連通路が貫通孔によって形成されるとともに、前記第2貫通孔と前記第4貫通孔とを繋ぐ第2連通路が前記一方の固定部との摺接面に形成される溝と前記回動軸に沿う貫通孔とによって形成され、さらに、前記第1連通路および第2連通路が前記第1貫通孔および第2貫通孔から外れる所定の位置まで前記回動部が回動されたときに前記第3貫通孔と前記第4貫通孔とを繋ぐ第3連通路が、前記他方の固定部との摺接面に形成される溝によって形成されていることを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、例えば第3貫通孔と第4貫通孔とを一つの配管で繋ぎ、この配管の所定の箇所に試料や送液用のポンプを配置させた構造においては、まず、第1貫通孔および第2貫通孔と第1連通路および第2連通路とを連通させた状態で、第1貫通孔から液状の試薬を流し込むと、この試薬は、第1連通路、第3貫通孔、配管、第4貫通孔、第2連通路、第2貫通孔の順に流れていく。そして、この試薬が少なくとも第3貫通孔、配管、第4貫通孔を満たしたときに回動部を回動させて、第3貫通孔と第4貫通孔とを第3連通路で繋ぐと、配管が閉じた系となるため、その後ポンプを駆動させることで、配管内の試薬が循環することとなり、試薬と試料との反応機会を増加させることができる。すなわち、この発明によれば、試料やポンプを備えた反応用流路の入口および出口を第3貫通孔および第4貫通孔(または第1貫通孔および第2貫通孔)に接続するだけで、反応用流路を開いた系と閉じた系とに切り替えることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、簡素な構造で少なくとも2系統の流路を相互に切り替えることができるマイクロ切替えバルブを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。参照する図面において、図1は本実施形態に係るマイクロ切替えバルブが組み込まれた遺伝子発現解析システムを示す模式図(a)と、試薬導入経路を設定したマイクロ切替えバルブの状態を示す模式図(b)と、試薬循環経路を設定したマイクロ切替えバルブの状態を示す模式図(c)であり、図2は本実施形態に係るマイクロ切替えバルブの分解状態を示す分解斜視図(a)と、組み立てた状態を示す斜視図(b)である。また、図3は第1の状態となったマイクロ切替えバルブを上方から見た状態を示す平面図(a)と、図3(a)のA−A線における断面図(b)であり、図4は第2の状態となったマイクロ切替えバルブを上方から見た状態を示す平面図(a)と、図4(a)のB−B線における断面図(b)である。
【0016】
まず、本実施形態に係るマイクロ切替えバルブの説明に先立って、このマイクロ切替えバルブが組み込まれた遺伝子発現解析システムについて説明する。
【0017】
(遺伝子発現解析システム)
図1(a)に示すように、遺伝子発現解析システムSは、試薬供給部3と、試薬回収部4と、マイクロリアクタユニット2とを備えている。そして、試薬供給部3は、マイクロリアクタユニット2と第1流路L1で繋げられており、試薬回収部4は、マイクロリアクタユニット2と第2流路L2で繋げられている。なお、本実施形態では、第1流路L1及び第2流路L2の径が、数μm乃至数百μm程度に設定されている。
【0018】
試薬供給部3は、後記するように試料配置部5に配置されるDNA(試料)と反応させる複数種類の試薬V1〜Vn(nは2以上の整数)を所定の順番で1種類ずつマイクロリアクタユニット2に供給するものである。なお、試薬V1〜Vnは、DNA(試料)のハイブリダイゼーションに使用される公知の試薬及びハイブリダイゼーション後のDNA(試料)の発光に使用される公知の試薬で主に構成され、ハイブリダイゼーションの種類等に応じて前記nで表す数は決定される。
【0019】
試薬回収部4は、マイクロリアクタユニット2に供給された試薬V1〜Vnをその種類別に回収するものである。
【0020】
マイクロリアクタユニット2は、試料配置部5と、ポンプ6と、マイクロ切替えバルブ1とで主に構成されている。このマイクロリアクタユニット2では、マイクロ切替えバルブ1と試料配置部5とが第3流路L3で繋げられており、試料配置部5とマイクロ切替えバルブ1とが第4流路L4で繋げられている。そして、ポンプ6は、第3流路L3の途中に配置されている。なお、本実施形態では第3流路L3及び第4流路L4の径が、数μm乃至数百μm程度に設定されている。
【0021】
試料配置部5は、解析の対象となるDNA(試料)を配置するものであり、本実施形態では、300μm程度の径の穴が複数形成されたステンレス板にナイロンメンブレンが埋め込まれたものが使用されている。そして、各穴には、解析の対象となるDNA(試料)がスポットされるようになっている。
【0022】
ポンプ6は、次に説明するマイクロ切替えバルブ1から第3流路L3に流入する各試薬V1〜Vnを、試料配置部5及び第4流路L4を介して再びマイクロ切替えバルブ1に戻すように輸送するものである。なお、本実施形態でのポンプ6には、送液量が30mL/分程度のマイクロポンプが使用されている。
【0023】
マイクロ切替えバルブ1は、各試薬V1〜Vnが第1流路L1、第3流路L3、第4流路L4及び第2流路L2をこの順番で通流する図1(b)に示す経路(以下、この経路を「試薬導入経路」という)と、各試薬V1〜Vnが第3流路L3及び第4流路L4をこの順番で循環する図1(c)に示す経路(以下、この経路を「試薬循環経路」という)とを切り替えるようになっている。
【0024】
このような遺伝子発現解析システムSでは、まず、解析の対象となるDNA(試料)が試料配置部5に配置される。そして、ポンプ6が起動するとともに試薬供給部3から試薬V1がマイクロリアクタユニット2に供給される。このときマイクロ切替えバルブ1は、試薬V1が前記した試薬導入経路を通流するように設定される。その結果、試薬V1は、第3流路L3内及び第4流路L4内に満たされる。
【0025】
次に、マイクロ切替えバルブ1は、試薬V1が前記した試薬循環経路を通流するように切り替えられる。その結果、試薬V1は、マイクロ切替えバルブ1、第3流路L3及び第4流路L4をこの順番で循環する。そして、このように試薬V1が試薬循環経路を循環する際に、試料配置部5に配置されたDNA(試料)は、試薬V1と反応する。
【0026】
次に、DNA(試料)と試薬V1との反応が完結すると、マイクロ切替えバルブ1は、再び試薬導入経路が設定されるように切り替えられる。つまり、図1(b)に示すように第1流路L1と第3流路L3とが繋がれるとともに、第2流路L2と第4流路L4とが繋がれる。そして、図示しない洗浄貯留部から第1流路L1に洗浄液が供給される。その結果、第1流路L1、第3流路L3及び第4流路L4に残存する試薬V1は、洗浄液に押し出されるようにして第4流路L4を介して試薬回収部4に回収される。そして、このような工程が、この試薬V1に続いて供給される試薬Vnまでの(n−1)種類の試薬のそれぞれについても同様に行われる。その結果、DNA(試料)が試薬V1〜Vnと順番に反応してDNA(試料)は発光する。そして、DNA(試料)からの光が図示しないCCD等の光学的検出器で検出されることによってDNA(試料)が解析される。
【0027】
このような遺伝子発現解析システムSによれば、DNA(試料)と各試薬V1〜Vnとを反応させる際に、各試薬V1〜Vnが試薬循環流路を循環するので、各試薬V1〜Vnが循環しない場合、例えば、各試薬V1〜Vnが試薬供給部3から試薬回収部4に向けて一方向に通流することによってDNA(試料)と反応する場合と比較して、DNA(試料)と各試薬V1〜Vnとの反応が完結するまでにマイクロリアクタユニット2に供給される各試薬V1〜Vnの絶対量が低減される。
【0028】
(マイクロ切替えバルブ)
次に、本実施形態に係るマイクロ切替えバルブ1について説明する。
マイクロ切替えバルブ1は、図2(a)に示すように、互いに相対回転不能となるように固定される二つの固定部11,12(以下、これらを「第1固定部11」、「第2固定部12」とも呼ぶ)と、これらの固定部11,12に対して回動自在に摺接する回動部13とによって主に構成されている。なお、以下の説明においては、便宜上、第1固定部11側を上側とし、第2固定部12側を下側として説明することとする。
【0029】
第1固定部11は、円柱状の部材であり、その下端面に回動部13の上側の一部を収容して、かつ回動自在に保持するための保持凹部11aが形成されている。具体的に、この保持凹部11aは、その下端部の内側全周にわたって内側へ向かって突出するように形成された爪部11b(図3(b)参照)を有している。また、第1固定部11には、その上端面11cから下面11d(保持凹部11aの底面)へ向かって貫通する第1貫通孔11eと第2貫通孔11fとが形成されるとともに、その側面11gに所定形状となる二つの係合凹部11h(一つのみ図示)が第1固定部11の中心を挟んで対向する位置にそれぞれ形成されている。ここで、第1固定部11の下面11dは、特許請求の範囲にいう「平面部」に相当する。
【0030】
なお、第1貫通孔11eおよび第2貫通孔11fは、第1固定部11の中心を挟んで対向する位置(第1固定部11に取り付けられた回動部13の回動軸RAから離れた位置)に、回動軸RAと平行となるように形成されている。すなわち、第1固定部11の下面11d側における第1貫通孔11eおよび第2貫通孔11fの開口は、回動軸RAから離れた位置に形成されている。また、第1貫通孔11eには、第1流路L1(図1参照)が接続され、第2貫通孔11fには、第2流路L2(図1参照)が接続されるようになっている。
【0031】
第2固定部12は、第1固定部11と略同形状となる円柱状の本体部12aと、第1固定部11の係合凹部11hに係合して第1固定部11を相対回転不能に保持する二つの保持アーム12bとで主に構成されている。本体部12aには、第1固定部11の第1貫通孔11eと対面する位置で開口するように上端面12cから下端面12dへと貫通する第3貫通孔12eが形成されるとともに、その中心(回動部13の回動軸RA)と同軸となる位置で開口するように上端面12cから下端面12dへと貫通する第4貫通孔12fが形成されている。なお、第3貫通孔12eには、第3流路L3(図1参照)が接続され、第4貫通孔12fには、第4流路L4(図1参照)が接続されるようになっている。また、本体部12aの上端面12cには、回動部13の回動を規制するために後記する操作片13iを係止する二つの係止突起12iが上方に突出するように形成されている。ここで、本体部12aの上端面12cは、特許請求の範囲にいう「平面部」に相当している。そのため、この上端面12cと前記した第1固定部11の下面11dとは、互いに平行となるように対面するようになっている。
【0032】
保持アーム12bは、第2固定部12の側面12gから上方に向かって形成されており、その上端部の内側に第1固定部11の係合凹部11hに係合する係合爪12hが形成されている。そして、この係合爪12hには、内側に向かうにつれて下方へ傾斜する傾斜面が形成されており、これにより第1固定部11を第2固定部12側へ押し込むだけで、二つの保持アーム12bが簡単に押し広げられて、第1固定部11の係合凹部11hと第2固定部11の係合爪12hとの嵌合が容易に行われることとなる。
【0033】
回動部13は、固定部11,12よりも小径となる円柱状の部材であり、これらの固定部11,12の下面11dと上端面12cとの間に設けられている。回動部13の側面13gには、その略中央部に摺動溝13bが全周にわたって形成されるとともに、この摺動溝13bの直下に外方へ突出する操作片13iが形成されている。そして、図3(b)に示すように、回動部13の摺動溝13bに第1固定部11の保持凹部11aの爪部11bが摺動自在に嵌合されることによって、固定部11,12が並ぶ方向に沿った(前記下面11dに直交する)回動軸RAを中心として回動部13が回動するようになっている。なお、このとき、図2(a)に示すように、操作片13iは、第2固定部12に形成した二つの係止突起12iの間(保持アーム12bが形成されていない方の間)に配置されており、これにより、回動部13の回動が操作片13iと二つの係止突起12iとの係合によって約90°(度)の範囲に規制されることとなっている。
【0034】
また、回動部13には、前記操作片13iを一方(図示手前側)の係止突起12iに係合させた状態において、第1固定部11の第1貫通孔11eと第2固定部12の第3貫通孔12eとを繋ぐ第1連通路T1と、第1固定部11の第2貫通孔11fと第2固定部12の第4貫通孔12fとを繋ぐ第2連通路T2とが形成されている。さらに、回動部13には、前記操作片13iを他方(図示奥側)の係止突起12iに係合させた状態(第1連通路T1および第2連通路T2が前記第1貫通孔11eおよび第2貫通孔11fから外れる所定の位置に位置したとき)において、第2固定部12の第3貫通孔12eと第4貫通孔12fとを繋ぐ第3連通路T3が形成されている。
【0035】
具体的に、第1連通路T1は、回動部13の上端面13cから下端面13dへ向かって貫通する試薬導入孔(貫通孔)13eによって構成され、第2連通路T2は、回動部13の上端面(第1固定部11との摺接面)13cに形成される試薬排出溝13fと、回動部13の回動軸RAと同軸となる中心貫通孔13aとによって構成されている。また、第3連通路T3は、回動部13の下端面(第2固定部12との摺接面)13dに形成される循環溝13kによって構成されている。
【0036】
なお、前記した試薬排出溝13fは、回動部13の径方向に沿って延在しており、詳しくは、中心貫通孔13aから第1固定部11の第2貫通孔11fに相当する位置まで延在している。これに対し、循環溝13kは、試薬排出溝13fの延在方向に対して約90°だけ傾けた方向に延在しており、詳しくは、中心貫通孔13aから第2固定部12の第3貫通孔12eに相当する位置まで延在している。
【0037】
次に、前記した第1固定部11、第2固定部12および回動部13の組立方法を簡単に説明する。まず、第1固定部11の保持凹部11aに回動部13を嵌合させることで、第1固定部11によって回動部13を回動自在に保持させる。その後、これらのユニットを第2固定部12に押し付けて第1固定部11の係合凹部11hに第2固定部12の保持アーム12bを嵌合させることで、図2(b)に示すように、マイクロ切替えバルブ1が組み立てられることとなる。なお、このように組み立てられた状態においては、図3(b)に示すように、第1固定部11、第2固定部12および回動部13は、密着した状態となっており、これによりマイクロ切替えバルブ1内を通る液体が外部に漏れないようになっている。
【0038】
続いて、本実施形態に係るマイクロ切替えバルブ1の動作について適宜図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明においては、便宜上、回動部13の操作片13iを図2(a)の手前側に示す係止突起12iに係合させた状態を「第1の状態」と呼び、図2(a)の奥側に示す係止突起12iに操作片13iを係合させた状態を「第2の状態」と呼ぶこととする。
【0039】
図3(a)および(b)に示すように、マイクロ切替えバルブ1が第1の状態であるときには、第1貫通孔11eと第3貫通孔12eとが第1連通路T1によって連通し、第2貫通孔11fと第4貫通孔12fとが第2連通路T2によって連通している。すなわち、この第1の状態では、図1(b)に示すように、第1流路L1と第3流路L3とが連通し、かつ、第2流路L2と第4流路L4とが連通している状態(試薬導入経路に切り替えられた状態)となっているので、前記したような試薬V1〜Vnの供給や洗浄液の供給が良好に行われることとなる。
【0040】
図4(a)および(b)に示すように、マイクロ切替えバルブ1を第1の状態から第2の状態に切り替えると、第1貫通孔11eと第2貫通孔11fとが回動部13の上端面13cによって塞がれるとともに、第3貫通孔12eと第4貫通孔12fとが第3連通路T3によって連通した状態となる。すなわち、この第2の状態では、図1(c)に示すように、第3流路L3と第4流路L4のみが連通している状態(試薬循環経路に切り替えられた状態)となっているので、前記したような試薬V1〜Vnの循環が良好に行われることとなる。
【0041】
以上によれば、本実施形態において、次のような効果を得ることができる。
本実施形態に係るマイクロ切替えバルブ1によれば、回動部13を適宜回動させて、第1貫通孔11eおよび第3貫通孔12eと第1連通路T1との連通状態、第2貫通孔11fおよび第4貫通孔12fと第2連通路T2との連通状態、第3貫通孔12eおよび第4貫通孔12fと第3連通路T3との連通状態を切り替えることで、2系統の流路(試薬導入経路、試薬循環経路)を切り替えることができる。すなわち、このマイクロ切替えバルブ1は、従来のような弁体を駆動するための圧電素子等を各流路L1〜L4に設ける必要がなく、二つの固定部11,12と一つの回動部13とで簡素に構成されているので、マイクロ切替えバルブ1を、容易に、かつ安価に製造することができる。
【0042】
また、このマイクロ切替えバルブ1は、前記したように簡素に構成されているので、その小型化を図ることができる。そして、小型化されたマイクロ切替えバルブ1では、その内部に滞留する試薬の量が少なくなるので、試薬のロスが低減される。
【0043】
また、このマイクロ切替えバルブ1では、各連通路T1〜T3が簡単な構造である貫通孔や溝で構成されるので、その製造を容易にすることができる。特に、溝は回動部13の各端面に形成されるので、溝の幅がμm(マイクロメータ)オーダで設計される場合であっても、その溝は、例えば、樹脂で回動部13を射出成形すると同時に、あるいは樹脂以外の材料で回動部13が作製される場合であってもエッチング等によって簡単に形成される。
【0044】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態には限定されない。
前記実施形態では、第2連通路T2を試薬排出溝13fと中心貫通孔13aとによって構成したが、本発明はこれに限定されず、例えば図5に示すように、第2連通路T2’を一つの貫通孔13mのみで構成してもよい。具体的に、この構造では、第2固定部12に第1固定部11の第2貫通孔11fと同軸となる第4貫通孔12mを形成することで、この第4貫通孔12mと第2貫通孔11fとを連通させる第2連通路T2’を貫通孔13mによって構成している。すなわち、この図5における構造は、前記実施形態における中心貫通孔13aと第4貫通孔12f(図2(a)参照)を第2貫通孔11fと同軸となる位置までずらすことによって、試薬排出溝13fが不要となる構造となっている。また、この図5における構造では、第2固定部12における第3貫通孔12eと第4貫通孔12mとの距離が広がったことによって、第3連通路T3’を構成する循環溝13nが前記実施形態よりも長めに形成された構造となっている。
【0045】
このような構造によっても、図6(a)に示すように、第1の状態においては、第1貫通孔11eと第3貫通孔12eとが第1連通路T1によって連通し、かつ、第2貫通孔11fと第4貫通孔12mとが第2連通路T2’によって連通するようになっており、また、図6(b)に示すように、第2の状態においては、第3貫通孔12eと第4貫通孔12mとが第3連通路T3’によって連通するようになっている。そのため、前記実施形態と同様の作用効果を奏することができる。ただし、前記実施形態の構造では、断面積が貫通孔(第1貫通孔11e等)に比べて小さくなる循環溝13k(図2(a)参照)の長さを図5,6に示す構造よりも短くすることができるので、試薬を循環させる際における流体抵抗を小さくすることができ、ポンプの容量を小さくできる。
【0046】
前記実施形態では、2系統の流路を切り替えるようにマイクロ切替えバルブを構成したが、本発明はこれに限定されず、3系統以上の流路を切り替えるように構成してもよい。
【0047】
前記実施形態では、マイクロ切替えバルブ1が遺伝子発現解析システムSに組み込まれて使用されているが、本発明に係るマイクロ切替えバルブは、例えば、酵素の連続反応装置、生体医学の診断装置、小型化学プラント等に使用されるマイクロリアクタに組み込まれるものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本実施形態に係るマイクロ切替えバルブが組み込まれた遺伝子発現解析システムを示す模式図(a)と、試薬導入経路を設定したマイクロ切替えバルブの状態を示す模式図(b)と、試薬循環経路を設定したマイクロ切替えバルブの状態を示す模式図(c)である。
【図2】本実施形態に係るマイクロ切替えバルブの分解状態を示す分解斜視図(a)と、組み立てた状態を示す斜視図(b)である。
【図3】第1の状態となったマイクロ切替えバルブを上方から見た状態を示す平面図(a)と、図3(a)のA−A線における断面図(b)である。
【図4】第2の状態となったマイクロ切替えバルブを上方から見た状態を示す平面図(a)と、図4(a)のB−B線における断面図(b)である。
【図5】本発明に係るマイクロ切替えバルブの他の実施形態を示す分解斜視図である。
【図6】図5のマイクロ切替えバルブを第1の状態にしたときの構造を示す断面図(a)と、第2の状態にしたときの構造を示す断面図(b)である。
【符号の説明】
【0049】
1 マイクロ切替えバルブ
11 第1固定部
11e 第1貫通孔
11f 第2貫通孔
12 第2固定部
12e 第3貫通孔
12f 第4貫通孔
13 回動部
13a 中心貫通孔
13f 試薬排出溝
13k 循環溝
RA 回動軸
T1 第1連通路
T2 第2連通路
T3 第3連通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2系統の流路を相互に切り替えるマイクロ切替えバルブであって、
対面する互いに平行な平面部を有するとともに、互いに相対回転不能となる二つの固定部と、
前記二つの固定部の前記平面部の間に設けられ、かつ、前記平面部に直交する回動軸を中心として前記固定部に対して回動自在に摺接する回動部と、を備え、
前記二つの固定部には、それぞれ前記平面部に開口する貫通孔が複数形成されるとともに、
前記回動部には、前記二つの固定部のうち一方の固定部に形成された貫通孔と他方の固定部に形成された貫通孔とを選択的に繋ぐ少なくとも一つの連通路が形成され、
前記回動部を回動させることにより前記連通路と前記固定部に形成される前記貫通孔との連通状態が切り替えられるように構成されることを特徴とするマイクロ切替えバルブ。
【請求項2】
請求項1に記載のマイクロ切替えバルブであって、
前記回動部には、前記一方の固定部に形成された貫通孔同士、または、前記他方の固定部に形成された貫通孔同士を選択的に繋ぐ少なくとも一つの溝状の連通路が前記固定部との摺接面に形成され、
前記回動部を回動させることにより前記溝状の連通路と前記貫通孔同士との連通状態が切り替えられるように構成されることを特徴とするマイクロ切替えバルブ。
【請求項3】
請求項2に記載のマイクロ切替えバルブであって、
前記一方の固定部の平面部には、前記回動軸から離れた位置に第1貫通孔と第2貫通孔が開口し、
前記他方の固定部の平面部には、前記第1貫通孔と対面する位置に第3貫通孔が開口するとともに、前記回動軸と同軸となる位置に第4貫通孔が開口し、
前記回動部には、前記第1貫通孔と前記第3貫通孔とを繋ぐ第1連通路が貫通孔によって形成されるとともに、前記第2貫通孔と前記第4貫通孔とを繋ぐ第2連通路が前記一方の固定部との摺接面に形成される溝と前記回動軸に沿う貫通孔とによって形成され、
さらに、前記第1連通路および第2連通路が前記第1貫通孔および第2貫通孔から外れる所定の位置まで前記回動部が回動されたときに前記第3貫通孔と前記第4貫通孔とを繋ぐ第3連通路が、前記他方の固定部との摺接面に形成される溝によって形成されていることを特徴とするマイクロ切替えバルブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−64132(P2006−64132A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−249902(P2004−249902)
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】