説明

マイクロ構造化高分子基材

種々の組成物の高エネルギー脱離/イオン化を行うための方法および装置を開示する。本発明の方法および装置は、一般に、検体脱離の機能強化を行うために、場合により1層もしくは複数層の表面コーティングと組み合わせて、マイクロおよびナノ構造化フィルムのような構造化基材を利用する。そのような脱離の機能強化は、基材のレーザー脱離を使用する質量分光分析法のような分析の分野でとくに有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子の保持およびその後の脱離に使用するための基材に関する。より特定的には、本発明は、質量分光測定のような分析法で用いられるサンプルの受容および放出に使用するための基材に関する。
【背景技術】
【0002】
マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)は、開発が進んで、多くの組成物、とくに、複雑な生体物質、を分析するための重要なツールになってきた。MALDIでは、典型的には質量分光測定時、化学マトリックスを用いて1種もしくは複数種の検体を懸濁保持した後、マトリックスおよび検体をレーザー脱離イオン化に付す。MALDIで使用される現用の有機マトリックスが開発される前は、分子のフラグメント化を伴うことなくインタクトな状態で検体分子をイオン化させることが困難であった。
【0003】
検体のフラグメント化を伴うことなくレーザー吸収および検体イオン化をうまく行うための不明な点の多い要件を満たすように、多くのマトリックスが何年もかけて開発されてきた。これらのマトリックスの使用が重要になってきた理由は、それらのおかげでレーザー脱離イオン化法を用いて他の方法では容易に観測しえないと思われる有機組成物の分析が可能になった点にある。
【0004】
MALDIを用いることにより、ペプチド、タンパク質、合成ポリマー、オリゴヌクレオチド、炭水化物、および他の大分子の同定に成功を収めてきた。残念ながら、化学マトリックスからのシグナルが検体分子からのシグナルを妨害するので、伝統的なMALDIは、多くの小分子を分析するうえで欠点を有する。図1および2は、2種の一般的なマトリックス、すなわち、2,5−ジヒドロキシ−安息香酸(DHBA)およびアルファシアノ−4−ヒドロキシ−ケイ皮酸(α−CHCA)のスペクトルを示している。これらのスペクトルは、他の物質の質量スペクトルの分析を妨害する可能性のある多くのピークを示す。
【0005】
化学マトリックスは、シグナル妨害のほかに多くの他の望ましくない結果をもたらす。たとえば、マトリックスを用いるとサンプルの作製が複雑になる可能性があり、追加の処理ステップおよび物質により汚染物質がサンプル中に混入する危険性を生じる。マトリックスおよび検体はいずれも、典型的には、同一の溶媒に可溶でなければならないので、このことがサンプルの作製をさらに複雑なものにする。また、マトリックスを用いると分離技術との整合性をとることが一層困難になる可能性があり、さらに、不均一なサンプルスポットは、より多量の検体およびマトリックスの結晶がサンプル液滴の周囲に沿って凝結するスイートスポット現象の原因となる可能性があるので、スペクトルの再現性の低下を招くおそれがある。
【0006】
また、サンプルとマトリックスとを共結晶化させる方法は、条件が過酷になることが多いので、タンパク質の変性または凝結を引き起こす危険性がある。このほか、どのマトリックスが所与のサンプルに適しているかは、必ずしも明確であるとは限らない。たとえば、ペプチドおよびタンパク質に有効なマトリックスは、多くの場合、オリゴヌクレオチドまたはポリマーには有効でない。さらに、正イオン検出モードおよび負イオン検出モードで、異なるマトリックスが必要になる可能性がある。したがって、最適のマトリックスを見いだすために、網羅的な試行錯誤探索が必要になることもある。
【0007】
MALDIが抱える他の問題は、現在使用されている脱離基材が典型的には金属プレートであるという点にある。これらの金属プレートは高価であるので、典型的には、再利用できるように使用後に洗浄しならなければならない。金属プレートの洗浄は、時間がかかり、キャリーオーバー汚染の可能性がある。そのうえ、洗浄を行う場合、さらなる分析に供すべく検体サンプルを保管するための保存デバイスとして基材を使用することができない。したがって、マトリックスの必要性を軽減または回避するための方法および装置が必要とされている。
【0008】
1999年、ウェイ(Wei)らによりマトリックスフリー法が米国特許第6,288,390号明細書に記載された。ウェイ(Wei)は、照明下かつ定電流下でHF/エタノール溶液により電気化学エッチングされたシリコンウェーハの使用を開示している。サンプルは、溶媒に加えられて、マトリックスをなんら添加することなくシリコンに直接適用される。シリコン上脱離/イオン化(DIOS)と呼ばれるこの新しい方法によれば、マトリックスに起因する妨害を受けることなく100〜6000Daの質量範囲内の分子のイオン化が可能である。しかしながら、DIOSを用いて得られるいくつかのスペクトルは再現が困難であり、しかもDIOSチップの保存寿命は短いものが多い。また、製造で使用される物質およびプロセスのコストが高いため、DIOSチップは、比較的高価である。
【0009】
したがって、慣用法と比較して機能強化されたレーザー脱離を提供する装置および方法が依然として必要とされている。使用後に廃棄または保管できる程度に十分に安価な検体脱離基材もまた、必要とされている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、種々の組成物の高エネルギー脱離/イオン化を行うための装置および方法に関する。本発明の方法では、検体脱離の機能強化を行うために、場合により1層もしくは複数層の表面コーティングと組み合わせて、マイクロ構造化基材を利用する。そのような脱離の機能強化は、質量分光分析法のような分析の分野でとくに有用である。この脱離の機能強化は、種々の有用性を有する。たとえば、マイクロ構造化基材を用いれば、化学マトリックスを用いることなく脱離を行える可能性がある。マトリックスを用いないいくつかの実施態様では、とくに、小分子(たとえば、1000未満の分子量を有する分子)を分析する場合、本発明の方法を用いれば、従来のマトリックスに基づく方法で得られる性能よりも優れた性能(たとえば、より高いシグナル対ノイズ比および/またはより良好な分解能)を達成しうる。
【0011】
他の選択肢として、マイクロ構造化基材を用いれば、マトリックスの存在下で脱離を行った場合にも、従来の脱離基材を用いてマトリックスに基づく標準的方法を行った場合と比較して優れた性能を達成しうる。たとえば、マイクロ構造化基材を用いることにより、適用された検体/マトリックス液滴を、マイクロ構造化基材を用いないときよりもより均一に乾燥させることが可能である。また、いくつかの実施態様では、より低レベルのマトリックスを用いることにより、マトリックスからのシグナルノイズを減少させることが可能である。そのような挙動は、サンプルの堆積、配置、および分析の自動化の利用を可能にするという点で有利である。また、マイクロ構造化基材を用いれば、形成されるイオン付加物(たとえば、カリウムおよびナトリウムの付加物)が少なくなって、スペクトルの解釈がより簡単かつより容易になる可能性がある。
【0012】
本発明はまた、ポリプロピレンフィルムやポリカーボネートフィルムのようなポリマー材料で構成された構造化基材、たとえば、マイクロおよびナノ構造化基材を包含する。これらの構造化基材は、サンプルを受容保持し、後の段階で脱離基材として用いられる。これらの構造化基材は、それらのサンプル受容表面上にコーティングされた不揮発性材料層、たとえば、無機コーティング、具体的には、金属、金属酸化物、および合金のコーティング、ならびに有機(炭素含有)コーティング、具体的には、グラファイト、シリコーン、シラン誘導体(derivativess)、ダイヤモンド様ガラス(DLG)、およびパリレンのコーティングを備えうる。
【0013】
本発明の特定の実施態様は、構造化表面を有する物品に関する。物品は、複数のマイクロ構造体を備えた高分子基材を含み、特定の実施態様では、複数のマイクロ構造体の少なくとも一部分上に不揮発性コーティングを含む。
【0014】
いくつかの実施態様では、マイクロ構造化基材は、種々のポリマーのうちの1種もしくは複数種、たとえば、ポリカーボネートおよび/またはポリプロピレン、から作製することのできる熱可塑性材料を含む。また、基材は、少なくとも2つの層、すなわち、高分子基材よりなる第1の層と、基材の上部表面を形成するように第1の層の上に配置された不揮発性材料よりなる第2の層と、を含みうる。ここで、基材の上部表面は、複数のマイクロ構造体を含む。この第2の層は、本明細書中では、コーティングとも記され、ラミネーション、電気堆積、ナイフコーティングなどをはじめとする種々の方法を用いて形成可能である。マイクロ構造体を基材中に形成してから、続いて、第2の層をコーティングすることが可能である。他の選択肢として、基材に第2の層をコーティングして、その後、マイクロ構造体を基材中に形成することが可能である。または、特定の実施態様では、マイクロ構造体を第2の層自体に形成することが可能である。
【0015】
本発明はまた、比較的安価な原材料から作製され、しかも使用してから廃棄処分しうるかまたは他の選択肢として検体サンプルを保管するための保存デバイスとして使用しうるように経済的に作製可能である、脱離基材を提供する。
【0016】
本発明の方法および装置は、プロテオミクスにおける使用を含めて、多くの用途を有する。プロテオミクスとは、タンパク質の位置、相互作用、構造、および機能に関する研究であり、健常な生体サンプルおよび疾患のある生体サンプルの両方において存在するタンパク質を同定し特性付けようとするものである。他の用途としては、DNA分析、小分子分析、自動化ハイスループット質量分光測定、および電気泳動、固定化アフィニティークロマトグラフィー、または液体クロマトグラフィーのような分離技術との併用が挙げられる。
【0017】
本発明のさらなる特徴および利点は、本発明の以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかであろう。本開示の原理に関する前記の概要は、例示されたそれぞれの実施形態について説明しようとするものではなく、本開示のすべての実施態様について説明しようとするものでもない。以下の詳細な説明により、本明細書に開示された原理を利用する特定の実施形態についてより詳細に具体例を挙げて説明する。
【0018】
以下の図面を参照して本発明についてより完全に説明する。
【0019】
本発明の原理は種々の変更形態および代替形態に適用しうるが、図面ではそれらの特定例を例示的に示した。これらの特定例について詳細に説明する。しかしながら、当然のことではあるが、本発明を記載の特定の実施形態に限定しようとするものではない。そうではなく、本開示および特許請求の精神および範囲に含まれる変更形態、等価形態、および代替形態はすべて、本発明に包含されるものとする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
A.全体的な構成
本発明は、種々の組成物を分析するための方法および装置、とくに、サンプルの高エネルギー脱離/イオン化を利用する方法および装置に関する。たとえば、質量分光分析法のためのサンプルのレーザー脱離イオン化は、本発明の好適な用途である。本発明は、脱離基材として、マイクロおよびナノ構造化ポリプロピレンおよびポリカーボネートフィルムのようなマイクロ構造化基材を利用する。これらの構造化基材は、それらのサンプル受容表面上にコーティングされた不揮発性の層、たとえば、無機コーティング、具体的には、金属、金属酸化物、および合金のコーティング、ならびに有機(炭素含有)コーティング、具体的には、グラファイト、シリコーン、シラン誘導体、ダイヤモンド様ガラス(DLG)、およびパリレンのコーティングを有するフィルムを含みうる。本発明に従って作製される基材は、典型的には、非構造化基材よりも効果的にサンプルの脱離を促進するように構造化される。構造化基材は、フラグメント化を伴うことなく、有用な脱離イオン化を達成、促進、および機能強化する働きをする。マトリックスに起因するシグナルの複雑化を伴わない分析を提供することに加えて、小分子を分析する場合のようないくつかの実施態様では、本発明の方法は、伝統的な方法およびデバイスと比較して優れた性能(たとえば、より高いシグナル対ノイズ値により明らかにされる)を達成しうる。
【0021】
次に、本発明の種々の態様について、たとえば、表面の構造およびトポロジー、コーティングの組成、基材の材料、および本発明の他の態様について、さらに詳細に説明する。
【0022】
B.マイクロ構造化表面
本発明に従って作製される基材は、典型的には、マイクロ構造化表面を有し、いくつかの場合には、マイクロ構造化表面またはナノ構造化表面を有する。本発明の目的では、マイクロ構造化フィルムとは、少なくとも1つの表面上に望ましい表面トポグラフィーを有する(すなわち、非平面状の)フィルムである。マイクロ構造体は、米国特許出願公開US2001/0051264A1明細書(その全体が参照により本明細書に組み入れられるものとする)に記載されているように、特徴部の少なくとも2つの寸法が微視的である特徴部の構成体を含む。これに関連して、「微視的」とは、形状を決定するのに肉眼に対する光学的補助が必要となる程度に十分に小さい特徴部に関連付けられるものとする。
【0023】
いくつかの具体的実施態様において、マイクロ構造化フィルムは、本発明の目的では、可能な3つの寸法のうちの少なくとも2つ(フィルムの面内/面外およびフィルムの平面に沿った各方向)において200ミクロン以下の範囲の物理的特徴部サイズを有するフィルムとして規定しうる。これらの全体的なガイドラインの範囲内で、本発明のフィルムは、望ましい特性サイズ(たとえば、任意の寸法に沿って測定される長さ)および特徴部密度(フィルム表面の単位面積あたりの特徴部の数)をもつ表面特徴部を呈するフィルムとして、より特定的に特性付けることができる。これに関連して、特徴部は、フラットな平面状表面からの離脱または偏位を示す任意の部分であってよい。特徴部は、突出した部分(たとえば、小瘤、柱、塊、稜)または窪んだ部分(たとえば、孔、ピット、亀裂、隙間)を含みうる。マイクロ構造化表面はまた、突出した特徴部と窪んだ特徴部との組合せ(たとえば、溝と稜、突出した角錐と窪んだ角錐)を備えうる。稜、溝、または交差平面の場合、「特徴部」は、そのような稜、溝、または平面の隅角交差部または線状交差部であってもよい。
【0024】
特徴部は、3つの寸法すべて(すなわち、フィルムの面の内外部方向およびフィルムの平面に沿った各直交方向)の特性長が類似したものであってもよい。逆に、特徴部は、1つ以上の方向の特性長が他の方向の特性長よりもいくらか長いかまたはかなり長いものであってもよい(たとえば、稜または溝のような特徴部の場合)。
【0025】
本発明のいくつかの実施態様では、マイクロ構造化特徴部は、1つ以上の方向において200ミクロンの最大特性長を有するものを含む。いくつかの実施態様では、最大特性長は50ミクロンであり、さらに他の実施態様では、特性長は10ミクロン未満である。いくつかの実施態様では、マイクロ構造化フィルム(fims)は、1つ以上の方向において1ナノメートル(one one nanometer)の最小特性長を有するものを含む。他の実施態様では、最小特性長は10ナノメートルであり、さらに他の実施態様では、最小特性長は100ナノメートルである。また、いくつかの実施態様では、好ましいマイクロ構造化特徴部密度は、フィルム1平方mmあたり100特徴部以上の範囲である。より好ましいのは、1平方mmあたり1000超の密度で特徴部を備えるものである。さらに最も好ましいのは、1平方mmあたり10000超の密度で特徴部を備えるものである。
【0026】
本発明に係るマイクロ構造化基材の例を、図4、5、6、7、および8の走査型電子顕微鏡写真に示す。タイプAと記される第1の構造体が図4に示されている。これは、数百ナノメートル〜数ミクロンのサイズ範囲の特徴部を呈する。タイプBと称される第2の構造体は、数ミクロンのサイズ範囲の特徴部を呈する。これは図5に示されている。図6に示される第3の構造体は、数百ナノメートル〜数ミクロンのサイズ範囲の特徴部を呈するいわゆるマット仕上げポリプロピレンフィルムである。図7に示される第4の構造体は、数ミクロンのサイズ範囲の特徴部を呈する他のマット仕上げポリプロピレンフィルムである。
【0027】
より小さいスケールの特徴部は、たとえば図8に示されているように、より大きいスケールの特徴部に重畳させることができる。微細なサイズおよび大きいサイズの特徴部はいずれも、脱離の機能強化を提供する働きをしうるか、いくつかの場合には、微細なサイズおよび大きいサイズの特徴部は、異なる機能を果たしうる。たとえば、より大きいサイズの特徴部は、サンプルの位置決めを行うために特定の領域を分界する働きをしうるか、堆積したサンプルを所望の領域内に閉じ込めるための物理的バリヤーとしての働きをしうるか、またはより大きい強度および剛性をフィルムに付与するための補強リブとしての働きをしうる。
【0028】
特徴部は、図8の構造体の場合のように規則的反復方式で存在しうるか、または図4、5、6、および7の構造体の場合のように「ランダム」でありうる。特徴部は、フィルムの全領域にわたり存在しうるか、またはサンプルを堆積させる領域にのみ存在しうる。
【0029】
本発明のマイクロ構造化フィルムは、典型的には、所望の構造体の負のトポロジー(反対のトポロジー)を有する成形型に成形可能な前駆体(たとえば、液体)を接触させた状態に配置して、次に、前駆体を固化させて所望の構造体を有する固体フィルムにすることにより、作製される。そのような方法の1つは、溶融プラスチックの形態でフィルム前駆体を提供して、成形型に接触させた状態で冷却固化させる方法である。この押出/エンボス法によれば、いくつかのこれまでの基材よりも汚染および不利な副生成物の影響を受けにくい材料が使用できるようになる。代替法は、既存のフィルムを利用して、軟化点まで加熱し、成形型と接触させ、そして冷却させる方法(エンボス法)ある。代替法は、既存のフィルムを成形型と接触させ、そして圧力によりフィルム表面を成形型に一致させる方法(カレンダー処理)である。さらに他の代替法は、キュアー性、重合性、または架橋性分子よりなる液体シロップの形態でフィルム前駆体を提供して、次に、成形型に接触させた状態でキュアーさせる方法である。
【0030】
利用される成形型により特徴部が決定されるので、所望の特性長および密度をもつ特徴部を有するフィルムを作製することができる。押出エンボス法では、成形型は、典型的には、シリンダー(ロール)またはベルトの形態である。種々のトポグラフィーを有するシリンダーまたはベルトを利用することにより、さまざまなマイクロ構造体を有するフィルムを提供することができる。たとえば、きわめて平滑な表面(たとえば、押出に一般に用いられる研磨された金属ロール)上に溶融ポリマーを押し出せば、通常、平滑で光沢のある本質的には特徴部をもたないフィルム、本発明の目的では非構造化フィルムが得られるであろう。きわめて平滑になるような特別な表面改質はなされていない成形型(たとえば、マット仕上げ金属ロールまたはベルト)上に押し出せば、平滑フィルムと対比されるマイクロ構造化トポグラフィーを有するフィルムが提供されるであろう。そのようなフィルムは、いくつかの検体脱離の場合に機能強化を提供することができる。
【0031】
また、粗面を有する成形型(たとえば、クロスもしくは布で覆われたロール)または意図的な粗面化処理に付された成形型(たとえば、サンドブラスト処理、アブレーション処理、エッチング処理などに付されたロールもしくはベルト)上に押し出せば、平滑フィルムと対比されるより高度にマイクロ構造化されたトポグラフィーを有するフィルムが提供されるであろう。本出願に合うように特別に考案されたフィルムを提供すべく設計された成形型上に押し出せば、特徴部の特性長と特徴部の密度との最も有利な組合せを有するマイクロ構造化トポグラフィーが提供されるであろう。そのような成形型は、物理的アブレーション、ドリリング、ケミカルミリング、リソグラフィー、レーザーアブレーション、プラズマ処理、エングレーブ処理、化学エッチング、反応性イオンエッチング、化学気相堆積、物理気相堆積、および電気化学堆積をはじめとする多種多様な方法により、作製可能である。そのようなフィルムは、図4および5の構造体により例示され、一般的には、実施例でより詳細に記載されるように多種多様な検体に対して最も有用である。
【0032】
他の実施態様では、平滑で特徴部をもたないフィルムを所望の特徴部を生成するように処理する。たとえば、平滑フィルムにアブレーション処理または改質処理を施すことが可能であり、これは、たとえば、エンボス処理、サンドブラスト処理、レーザーアブレーション処理、コロナ処理、プラズマ処理、または火炎処理により行うことが可能である。ある特定の場合には、構造体形成プロセスがコーテッド層に損傷を与えたり悪影響を及ぼしたりしないかぎり、平滑フィルムにコーティングを施して、次に、所望の構造体を形成するように処理(たとえば、エンボス処理またはカレンダー処理)することが可能である。
【0033】
さらに他の実施態様では、本発明に有用な特徴部をそれ自体が形成するコーティングで基材をコーティングすることもまた可能である。たとえば、アルミニウム層を、平滑層としてではなく、小瘤または顆粒の形態で堆積させることが可能である。また、特徴部を提供する働きをするコーティング(たとえば、シリカコーティングまたは他の微粒子コーティング)をフィルムに適用し、続いて、特徴部の上に実質的に不揮発性のコーティングを適用することも可能である。
【0034】
C.コーティング
本発明のマイクロ構造化フィルムは、脱離の機能強化を行うために、マイクロ構造化フィルムの上に適用された1層以上のコーティングと組み合わせて有利に使用することが可能である。コーティングはまた、他の目的にも役立ちうる。たとえば、コーティングは、保護バリヤーまたは耐摩耗性バリヤーを提供しうる。
【0035】
本発明に係る有用なコーティングは、無機材料、たとえば、金属、具体的には、アルミニウム、金、銀、ニッケル、チタン、パラジウム、および白金、金属酸化物、具体的には、二酸化チタン、酸化ケイ素、および酸化ジルコニウム、ならびに金属または金属酸化物の合金、具体的には、インコネルまたは酸化スズインジウムを含む。他の有用なコーティングは、有機材料、具体的には、グラファイト、カーボンブラック、米国特許第6,265,068号明細書に記載されているようなダイヤモンド様炭素(DLC)と称される材料系統およびダイヤモンド様ガラス薄膜という名称のPCT公開WO0166820(参照により本明細書に組み入れられるものとする)に記載されているようなダイヤモンド様ガラス(DLG)、シランおよびシラン誘導体、ならびにパリレンを含む。コーティングは、コンフォーマルであってもよいし(たとえば、パリレンおよびDLGの場合)、本質的に微粒子状であってよい(たとえば、グラファイト)。
【0036】
そのような表面コーティングは、一般的には、レーザー脱離に使用される条件下で不揮発性である。すなわち、コーティングは、無視できる揮発度を呈するか、または揮発する物質は、測定される検体を妨害しない程度に非常に低い分子量である(たとえば、グラファイトから放出される可能性のある炭素クラスターまたはアルミニウムから放出される可能性のあるアルミニウムイオン)。この点に関して、コーティングは、従来のマトリックスと区別される。マトリックス材料は、周囲条件下で遅い蒸発速度または昇華速度を有するという意味で典型的には「不揮発性」であると考えられるが、実際のレーザー脱離過程ではかなりの程度まで揮発し、揮発種は、検体シグナルを阻害または覆い隠す可能性のある分子量を有する。
【0037】
この基本的な揮発度の差は、部分的には、本発明のコーティングが典型的には多くの分子長にわたり結合された相互連結状態を有する大きいサイズの網状構造の形態で存在するという事実により裏付けられる。この結合連結状態は、フィルムの表面に沿った一方向もしくは両方向および/またはフィルムに垂直な方向に存在しうる。たとえば、数ミクロンまでの距離にわたる共有結合により連結された何百万もの炭素原子よりなるグラファイト粒子を含むグラファイトコーティングを利用することが可能である。他の選択肢として、数ミクロンまたはさらには数ミリメートルまでの距離にわたる金属結合により連結された何百万もの金属原子よりなる金属コーティングを利用することが可能である。これとは対照的に、マトリックスは、典型的には、化学結合により連結されていない個別の分子で構成された結晶として適用されるか、または基材の表面上の結合部位に個別につながれていて化学結合により互いに連結されていない分子として適用される。
【0038】
コーティングは、種々の方法により、たとえば、蒸気コーティング、スパッターコーティング、プラズマコーティング、真空昇華、化学気相堆積、陰極アーク堆積などにより、マイクロ構造化フィルムに適用することが可能である。これらの方法は、金属および金属酸化物をコーティングするのにとくに適している。グラファイトのようなコーティングは、ディスパージョンとしてグラファイトを取得して、液体コーティングを行うための周知の方法のいずれか(ナイフコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティング、スピンコーティングなど)を用いて基材に適用することにより、最も容易に適用される。
【0039】
全マイクロ構造化表面を覆う連続コーティングではなく不連続な形態でコーティングを提供することが有利な場合もある。たとえば、スポットのような離散した位置にコーティングを提供することができる。多層コーティングの場合、個々の場合の必要に応じて、1層のコーティングを離散した状態にして、他のコーティングを連続した状態にすることが可能である。不連続コーティングは、いくつかの機能を果たしうる。たとえば、検体サンプルを堆積させる特定の領域を分界し、次に、サンプルを有するフィルムを質量スペクトロメータ中に配置した後、その領域の位置決めを行うことが可能である。堆積される検体サンプルを所望の領域内に都合よく収容し、不適切に広い領域にわたるサンプルの滲込みまたは拡がりを防止するように、マイクロ構造化フィルムの表面エネルギーが不連続になるようにしたコーティングを使用することも可能である。
【0040】
そのようなコーティングは、任意のいくつかの方法を用いて離散した状態に適用可能である。コーティングを蒸気コーティングにより適用する場合、有孔スクリーンまたは有孔フィルムのようなマスクを用いてマスクにより規定された領域にコーティングを制限することが可能である。多層の位置整合された離散コーティング(たとえば、スポットを含む重畳多層コーティング)を有することが望まれる場合、層が位置整合されて重畳されるように、異なる層のコーティング時にマスクをフィルムに接合することができる(たとえば、接着剤により)。次に、最終コーティングプロセス後、マスクを除去する。他の実施形態では、有孔マスクそれ自体をフィルム上に残存させることができる。その場合、ウェル中に配置される検体液滴を収容する働きをするウェルを提供するのに役立つであろう。コーティングを規定するいかなる役割とも独立してこの目的のために有孔層を提供することも可能である。グラファイトのようなコーティングの場合、グラビアコーティング法のような周知の液体コーティング法を用いて不連続な形態でグラファイトを堆積させることができる。
【0041】
D.基材の材料
本発明は、マイクロ構造化表面の形成または生成に適する基材の材料に依存する。種々の材料が、本発明に係る基材として使用するのに好適である。一般的には、基材は高分子材料であるが、本明細書中に記載の性質を有する非高分子材料を使用することもできる。基材は、典型的には、非ポーラスまたは実質的に非ポーラスである。
【0042】
本発明のマイクロ構造化フィルムは、現在利用可能なポーラス材料(たとえば、DIOSチップ)が保存時または使用時に大気からの不純物の取込みによる汚染を受けやすいことが知られているという意味で、そのようなポーラス材料よりも優れた利点を有する。これとは対照的に、マイクロ構造化材料は、典型的には非ポーラスであるので、いくつかの実施態様では、そのような汚染を受けにくい。
【0043】
多種多様な高分子材料が本発明に有用である。これらには、熱可塑性材料(たとえば、ポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィン)および熱硬化性(キュアー性)材料が包含される。好適な材料としては、結晶性ポリマー、半結晶性ポリマー、アモルファスポリマー、またはガラス状ポリマーが挙げられる。コポリマーも同様に使用可能である。
【0044】
充填剤が検体脱離の機能強化を有意に妨害しないかぎり、そのようなポリマーに充填処理または改変処理を施してもよい。いくつかの機能および性質を付与する多種多様な充填剤および添加剤が入手可能である。これらとしては、たとえば、強度および/またはモジュラスを増大させる充填剤、増大された耐酸化性、増大された熱安定性、または増大されたUV安定性を提供する添加剤、プロセス添加剤(たとえば、改良された押出性を提供する添加剤)、顔料、および着色剤などが挙げられる。
【0045】
したがって、本発明で使用される高分子材料は、多種多様な物理的、化学的、光学的、電気的、および熱的性質をもたせるように調整可能である。
【0046】
E.デバイスアセンブリーおよび特徴部
本発明は、とくに質量分光分析法において、脱離の機能強化を行うのに有用な構造体および場合により存在するコーティングを備えた基材を包含する。典型的な使用では、フィルムは、質量分光測定装置に挿入するための標準的な金属プレートに接合される。したがって、本発明のいくつかの有用な実施形態が存在する。金属プレートへの接合を容易にするために、バック面(非マイクロ構造化面)に適用された接着剤の層を有するフィルムを提供することが有利である。接着剤は、ラミネート接着剤であっても両面テープであってもよい。ラミネート接着剤は、剥離ライナーを接着剤の底面上の所定の位置に残存させて、マイクロ構造化フィルムの下面に接合することができる。次に、ユーザーは、簡単に剥離ライナーを除去して、接着剤によりフィルムをプレートに直接接合することができる。他の選択肢として、ラミネート接着剤の個別部片をユーザーに供給し、次に、ユーザーは、接着剤を金属プレートに適用し、ライナーを除去し、マイクロ構造化フィルムを接着剤の上面に接合することができる。
【0047】
マイクロ構造化基材を汚染するおそれのあるいかなる不純物をも保有したり生成させたりしないように、注意深く接着剤を選択しなければならない。このほか、いくつかの場合には、接着剤が導電性であることが望ましいこともある。そのような導電性接着剤は容易に入手可能であり、たとえば、ミネソタ州メイプルウッド(Maplewood,Minnesota)の3Mから入手可能な導電性接着剤9713が挙げられる。接着剤は、マイクロ構造化フィルムの下面に永久的に接合するように選択してもよいし、他の選択肢として、除去可能なものであってもよい。
【0048】
典型的には、マイクロ構造化フィルムは、場合により接着剤を下側に接合させて、パッケージ化され、顧客に届けられることになろう。このパッケージは、フィルムを保護しかつフィルムに汚染不純物を付与する作用はもたない任意の手段で構成しうる。たとえば、プラスチックバッグまたはプラスチックケースの中にフィルムをパッケージ化しうる。このほかの保護対策として、フィルムの上側表面(マイクロ構造化表面)の上に保護ライナーを配置することが可能である。
【0049】
他の実施形態では、保管のためにフィルムサンプルを容易に識別し目録を作成することができるように、マイクロ構造化フィルムにバーコードラベルを適用する。そのような場合、作業領域(すなわち、サンプルを堆積させる領域)の範囲外に、バーコードを配置するための領域を提供することができる。
【0050】
F.サンプルの作製および基材の使用方法
本発明は、質量分光測定分析にとくに好適である。基材上に堆積された検体スポットに短いレーザーパルスを当てることにより、サンプルを脱離イオン化させる。イオンを生成させ、次に、検出器に到達する前に1つ以上の電界により加速する。検出器に到達するのに要する時間または粒子が当たる検出器上の位置を用いれば、粒子の質量を決定することができる。
【0051】
飛行時間分析(TOF)は、使用することのできる質量分光測定法の1つである。図3は、飛行時間型装置の概略図を示している。10,000Da未満の分子の場合、リフレクトロンモードを用いて、検出器に到達するイオンの運動エネルギー分布を集束させる。この方法は、質量分光分析法の分解能を増大するために開発されたものであり、主として10,000Da未満の分子に使用される。この分解能の増大により、多くの場合、感度が低下し、質量範囲が制限される。
【実施例】
【0052】
以下の実施例により本発明について理解を深めることができる。
【0053】
これらの実施例では、ポリマー溶融加工法を用いて基材を作製した。図4の「タイプA」トポロジーを有するプラスチックフィルムは、構造体を有するシリコーンベルトツール上にエクソン(Exxon)ポリプロピレン3445を押し出すことにより作製したものである。スピンキャスティングを用いて液体シリコーンを金属ツールに接触した状態に配置してシリコーンを固化させることにより、シリコーンベルトツールを作製した。国際特許WO01/68940号明細書(参照により本明細書に組み入れられるものとする)に記載されているような気相堆積により、金属ツールを作製した。ポリマーを400°Fの溶融温度で押し出し、ツール温度設定値を125°Fに設定した。ニップ圧を20psiに設定し、ライン速度を5fpmに設定した。冷却させてから、ポリプロピレンをツールから取り出した。ポリプロピレン押出物は、ツールを複製することにより、特性寸法が数百ナノメートル〜数ミクロンの範囲にあるランダムな特徴部を有する表面を呈した。
【0054】
図5の「タイプB」トポロジーを有するプラスチックフィルムは、圧縮成形により作製したものである。マクロロン(Makrolon)2407ポリカーボネート(バイエル・アーゲー(Bayer AG)製)よりなる厚さ0.014インチのフィルム部片を、フラット研磨された金属プレスプレートと構造体を有する金属ツールとの間に配置した。フラットな金属表面上に金属を電気化学堆積させることにより、金属ツールを作製した。ツール、フィルム、およびプレスプレートのスタックをワバッシュ(Wabash)圧縮成形機中に配置した。圧縮成形機のプラテンを190℃に設定し、プラテンを閉じてサンプルに50psiの圧力を加えるようにした。この条件でサンプルを2分間プレスし、次に、サンプルに加える圧力を200psiに増大させた。この条件を3分間保持し、次に、系を冷却された。プラテンが80℃に達するまで200psiで圧縮成形機中にサンプルを保持し、80℃に達したときにプレスを開放してサンプルを取り出した。ポリカーボネートフィルムの特徴部の特性寸法は、数ミクロンの範囲であった。
【0055】
マット仕上げを有するフィルム(図6)は、先に記載したタイプAパターンの作製に使用したのと同一の条件下でマット仕上げシリコーンベルト上にエクソン(Exxon)ポリプロピレン3445を押し出すことにより作製したものである。マット仕上げポリプロピレンは、数百ナノメートル〜数ミクロンの範囲の特性寸法を有する特徴部を呈した。特徴部は、全体的にタイプA構造体ほど顕著ではなくそれほど明確に規定されたものではなかった。
【0056】
他のマット仕上げフィルム(図7)は、典型的なポリプロピレン押出条件下で研磨されていないマット仕上げ金属ロール上にポリプロピレンを押し出すことにより作製したものである。このフィルムは、全体的に数ミクロンの範囲の特性寸法を有する特徴部を呈し、特徴部の密度は、全体的にタイプA構造体の密度よりも小さい。
【0057】
規則的非ランダム構造体内包構造体特徴部を有するフィルム(図8)は、所望の構造体の逆形状を有する金属ツールロール上にダウ・ケミカル(Dow Chemical)7C50高耐衝撃性ポリプロピレンコポリマーを押し出すことにより作製したものである。480°Fに設定されたダイ温度を有するキリオン(Killion)一軸スクリュー1.25インチ押出機により、コポリマー樹脂を押し出した。溶融樹脂をダイから送出させ、加圧下で閉状態の2つのニップローラー間に通して牽引した。一方のロールはゴムコーテッドバッキングロールであり、他方は、マイクロ構造化パターンを有する金属ツールロールであった。バッキングロールを100°Fに保持し、ツールロールを230°Fに保持した。ウェブ速度は、毎分約9.8〜12.1フィートであった。
【0058】
4セットのグルーブを形成するように金属ツールロールをエングレーブ処理した。互いに垂直な2セットの平行グルーブが存在した。これ以降では、主要グルーブと記す。これらの2つの垂直なセットのヘリカルグルーブは、ロール軸に対して約45°の角度をなして延在し、約60マイクロメートル(ミクロンすなわちμm)の深さ、下端で約18μmおよび上端で約34μmの幅を有し、約250μm離間して配置された。第3のセットのグルーブは、ロール軸に対して約90°の角度をなして延在し、約2〜約4マイクロメートル(ミクロンすなわちμm)の深さ、下端で約5μmおよび上端で約7μmの幅を有し、約25μm離間して配置された。第4のセットのグルーブは、ロール軸に平行な方向に延在し、約5マイクロメートル(ミクロンすなわちμm)の深さ、下端で約5μmおよび上端で約7μmの幅を有し、約25μm離間して配置された。第3および第4のセットのグルーブは、まとめて副次グルーブと記す。
【0059】
エンボス処理時、溶融されたポリプロピレン樹脂を上記のグルーブ構造体に充填して固化させることにより、上記のグルーブの逆形状の特徴部を有するマイクロ構造化フィルムを形成した。すなわち、たとえば、米国特許整理番号57837US02および57838US02(参照により本明細書に組み入れられるものとする)に開示されているように、フィルムは、図11に示されるようなより大きいサイズのグリッドの垂直稜内に重畳されたより小さいサイズのグリッドの垂直稜を呈した。
【0060】
先に記載したタイプAパターンの作製に使用したのと同一の押出条件下で、研磨された金属ロール上にポリプロピレンを押し出すことにより、平滑表面仕上げを有する非構造化ポリプロピレンフィルムを作製した。表面は、全体的にフラットであり特徴部を有していなかった。
【0061】
標準的なポリカーボネート押出条件下で、研磨された金属ロール上にポリカーボネートを押し出すことにより、平滑表面仕上げを有する非構造化ポリカーボネートフィルムを作製した。表面は、全体的にフラットであり特徴部を有していなかった。
【0062】
NRC3115ベル・ジャー(NRC 3115 Bell Jar)を利用して、金属および金属酸化物のコーティングをフィルムに適用した。アルミニウムでは、堆積厚さは約950Åであった。PCT公開WO0166820に記載されている方法に従って、プラズマ−サーム(Plasma−Therm)蒸気コーターを使用してDLG(ダイヤモンド状ガラス)を適用した。DLGコーティング厚さは約1100Åであった。いくつかの場合には、上記の参考文献に記載されているように、親水性を付与するようにDLGコーティングに後処理を施した(H−DLGと記す)。いくつかの場合には、コーティングは両方とも連続的であり、他の場合には、コーティングプロセス時にマスクを用いることにより、一方または両方のコーティングを離散領域(たとえば、スポット)に堆積させた。マスクは、除去領域を有する金属フォイルまたは同様に除去領域を有するポリマーフィルムのいずれかであった。いくつかの場合には、とくに、重畳位置整合コーティングを離散領域に堆積させることが望まれる場合には、接着剤によりマスクをマイクロ構造化フィルムに接着させた。特定のコーティングパターンについては、特定の実施例に記載する。コーティング後、マスクを取り除いた。
【0063】
質量分光測定実験はすべて、アプライド・バイオシステムズ(マサチューセッツ州フレーミングハム)ボイジャー−DE STR(Applied Biosystems(Framingham,MA)Voyager−DE STR)飛行時間型質量分光器を用いて行った。両面接着テープを用いてフィルムを市販の金属MALDIプレートに接合させた。3Hzパルス周波数を有するパルス337nm窒素レーザーを使用し、レーザー強度を限界値に設定した。以下の表に主要な装置パラメーターをまとめる。
【0064】
【表1】

【0065】
データ・エクスプローラTM・バージョン4.0(Data ExplorerTM Version 4.0)を用いて質量分光測定データを処理した。分解能(R)およびシグナル対ノイズ(S/N)を測定する前に、相関係数0.7で「ノイズ・フィルター/スムーズ(Noise Filter/Smooth)」機能をすべてのスペクトルに適用した。
【0066】
実施例1
この実施例では、化学マトリックスを用いたときと用いないときのマイクロ構造化基材の使用について具体的に説明する。
【0067】
タイプA構造体を有するポリプロピレンフィルム(これ以降ではPPタイプAと記す)を先に記載したように作製した。レマウントTM(ReMountTM)除去可能スプレー接着剤を用いて、10×10グリッドアレイの直径1.19mmの孔を有するメタルマスクをフィルムのマイクロ構造化面に接着させた。次に、先に記載したようにフィルムにアルミニウムを蒸気コーティングし、その後、メタルマスクを除去した。こうして得られたフィルムは、直径1.19mmのアルミニウムのスポットを含んでいた。(アルミニウムでコーティングされたPPタイプAは、これ以降では、マイクロ構造化表面タイプAとアルミニウム皮膜とを有するポリプロピレンと記す)。
【0068】
0.1mgの3種の一般的な薬剤化合物、すなわち、アセトアミノフェン(151.17Da)、アスコルビン酸(176.12Da)、およびペニシリン(389Da)を用いて、分析用サンプルを作製した。これらの薬剤化合物を1.0mlの1:1:0.001メタノール/水/トリフルオロ酢酸溶液に溶解させた。0.5μLの体積の各検体溶液をフィルム上のアルミニウムコーテッドスポットのうちの1つにピペットで直接添加した。0.5μLのマトリックスアルファシアノ−4−ヒドロキシ−ケイ皮酸(cinammic acid)(α−CHCA)の添加を行ったときと行わなかったときの検体サンプルを適用した。サンプルを約15分間空気乾燥させた。
【0069】
図9は、α−CHCAマトリックスを添加したときのアセトアミノフェンの質量スペクトルを示している。マトリックスシグナルが検出器を飽和させたので、検体ピークを見ることができない。図10は、マトリックスを用いないときのマイクロ構造化表面タイプAとアルミニウム皮膜とを有するポリプロピレンから離れたアセトアミノフェンの質量スペクトルを示している。m/z174.53およびm/z190.54にそれぞれナトリウム付加物およびカリウム付加物を伴って、m/z152.51に分子イオンをはっきりと見ることができる。スペクトルには実質的にノイズが含まれていないので、検体を容易に同定することができる。
【0070】
図11は、α−CHCAマトリックスを添加したときのアスコルビン酸の質量スペクトルを示している。この場合にも、マトリックスシグナルが検出器を飽和させたので、検体ピークは見ることができない。図12は、マトリックスを用いないときのマイクロ構造化表面タイプAとアルミニウム皮膜とを有するポリプロピレンから離れたアスコルビン酸の質量スペクトルを示している。m/z199.53およびm/z215.57にそれぞれナトリウム付加物およびカリウム付加物を伴って、m/z177.53に分子イオンをはっきりと見ることができる。また、この方法によれば高分解能が得られるので、分子のアイソトープを見ることができる。
【0071】
図13は、α−CHCAマトリックスを用いたときのペニシリンの質量スペクトルを示している。分子イオンは、m/z390.03に現れるが、マトリックスノイズに囲まれて同定することが困難である。図14は、マトリックスを用いないときのPPタイプA−Alから離れたペニシリンの質量スペクトルを示している。m/z389.93に分子イオンを容易に見いだすことができ、シグナル対ノイズ比は、マトリックスを用いて得られるスペクトルのシグナル対ノイズ比の40倍超である。
【0072】
実施例2
この実施例では、タイプA構造体とマット仕上げ構造体とを有しかつアルミニウムでコーティングされたポリプロピレンの使用について具体的に説明する。
【0073】
先に記載したように、マット仕上げ金属ロールに当接させてポリプロピレン樹脂を押し出すことにより、マット仕上げポリプロピレンを取得した。先に記載したように、タイプA構造体を有するポリプロピレンを取得した。先に記載したように、両方のフィルムにアルミニウムの連続層をコーティングした。
【0074】
1種の小分子、すなわち、クロニジン(266.6Da)および2種のペプチド、すなわち、サブスタンスP(1347.6Da)およびアンギオテンシンII(1046.2Da)をシグマ・ケミカル・カンパニー(ミズーリ州セントルイス)(Sigma Chemical Co.(St.Louis,MO))から入手し、さらなる精製を行うことなく使用した。小分子では、0.1%トリフルオロ酢酸が添加された50:50HPLC等級アセトニトリル/水中に100ng/μLの各検体を含む溶液を作製した。各ペプチドについて、0.1%トリフルオロ酢酸が添加された50:50メタノール/水中に1000ng/μLの各検体を含む溶液を作製した。0.5μL〜3.0μLの体積の検体をピペットでフィルム上に直接添加し、続いて、約15分間室温で乾燥させた。
【0075】
図15は、タイプA構造体を有するポリプロピレンから離れたクロニジンのスペクトルを示しており、図16は、マット仕上げポリプロピレンを用いたときのスペクトルを示している。タイプAマイクロ構造化フィルムは、マット仕上げポリプロピレンのときの3倍超のシグナル対ノイズ比を示す。また、タイプAマイクロ構造化フィルムから離れたときのスペクトルは、マイクロ構造化フィルムで使用される閾値レーザー強度が低いので、クリーンなベースラインを示す。
【0076】
図17は、タイプA構造体を有するポリプロピレンから離れたサブスタンスPのスペクトルを示しており、図18は、マット仕上げポリプロピレンから離れたサブスタンスPのスペクトルを示している。シグナル対ノイズは、タイプAマイクロ構造化フィルムのときに20倍超である。このほか、タイプAマイクロ構造化フィルムでは、閾値レーザー強度が低かったので、よりクリーンなスペクトルが得られ、対象となる検体の同定がより容易であった。
【0077】
図19は、タイプA構造体を有するポリプロピレンから離れたアンギオテンシンIIのスペクトルを示しており、図20は、マット仕上げポリプロピレンから離れたアンギオテンシンIIのスペクトルを示している。上記のスペクトルのときと同じように、タイプAマイクロ構造化フィルムは、かなり高いシグナル対ノイズ比およびよりクリーンなベースラインを与える。
【0078】
実施例3
この実施例では、種々の構造体を有するフィルムを用いて質量分光測定分析を行った結果について具体的に説明する。いずれの場合においても、フィルムは、ポリプロピレンであり、コーティングは、親水性DLG(H−DLG)で後処理されたアルミニウムである。構造体は、非構造化(研磨された金属ロール上に押し出すことにより作製された)構造体、マット仕上げ(マット仕上げシリコーンベルト上に押し出すことにより作製された)構造体、マット仕上げ(研磨されていないマット仕上げ金属ロール上に押し出すことにより作製された)構造体、およびタイプA構造体であり、すべて、先に記載したように取得した。
【0079】
レマウントTM(ReMountTM)除去可能スプレー接着剤により、直径2.00mmの孔を有するメタルマスクを各フィルムに接着させた。次に、先に記載したような方法および装置を用いて、サンプルにアルミニウムおよび続いてH−DLGをコーティングし、その後、マスクを除去した。得られたフィルムは、直径2.00mmのアルミニウムおよびH−DLGのスポットを重畳して含んでいた。
【0080】
1種の小分子、すなわち、クロニジン(266.6Da)および1種のペプチド、すなわち、サブスタンスP(1347.6Da)をシグマ・ケミカル・カンパニー(ミズーリ州セントルイス)(Sigma Chemical Co.(St.Louis,MO))から入手した。0.1%トリフルオロ酢酸が添加された50:50HPLC等級メタノール/水中に20ng/μLのクロニジンを含む溶液および0.1%トリフルオロ酢酸が添加された50:50HPLC等級メタノール/水中に100ng/μLのサブスタンスPを含む溶液を作製した。
【0081】
各検体について、0.3μLの体積の検体溶液をフィルム上のAl/H−DLGコーテッドスポットのうちの1つにピペットで直接添加した。H−DLGと周囲のポリプロピレンとの間の表面エネルギー差に基づいて、適用されたサンプルは、コーテッド領域内に制限されて残存した。サンプルを室温で約15分間空気乾燥させた。
【0082】
図21〜24は、非構造化ポリプロピレン、マット仕上げ(シリコーンベルト)ポリプロピレン、マット仕上げ(金属ロール)ポリプロピレン、およびタイプA構造体を有するポリプロピレンから離れた小分子クロニジンの質量スペクトルを示している。非構造化フィルムを用いた場合、高レーザーパワーにおいてさえも検体シグナルを得ることができない。2種のマット仕上げフィルムを用いた場合、約600のシグナル対ノイズで検体を見ることができる。タイプAフィルムから離れたときのスペクトルは、56,000のシグナル対ノイズを示す。
【0083】
図25〜28は、非構造化マット仕上げ(金属およびシリコーン)ポリプロピレンフィルムおよびタイプAマイクロ構造化ポリプロピレンフィルムから離れたペプチドサブスタンスPの質量スペクトルを示している。この場合にも、非構造化フィルムは、ゼロ検体シグナルを示す。2種の各マット仕上げフィルムから離れたときに検体シグナルが存在するが、シグナル対ノイズは低い。タイプAマイクロ構造化フィルムから離れたときのスペクトル品質はかなり高く、相対強度およびシグナル対ノイズがより高い。
【0084】
実施例4
この実施例では、アルミニウムおよび親水性DLGの単層コーティングを用いて質量分光測定分析を行った結果について具体的に説明する。
【0085】
コーティングなしの場合、親水性ダイヤモンド状ガラス(H−DLG)の連続コーティングを施した場合、およびアルミニウムの連続コーティングを施した場合について、タイプA構造体を有するポリプロピレンフィルムを取得した。
【0086】
1種の小分子、すなわち、クロニジン(266.6Da)および1種のペプチド、すなわち、ブラジキニン(1060.2Da)をシグマ・ケミカル・カンパニー(ミズーリ州セントルイス)(Sigma Chemical Co.(St.Louis,MO))から入手し、さらなる精製をなんら行うことなく使用した。0.1%トリフルオロ酢酸が添加された50:50HPLC等級メタノール/水中に100ng/μLのクロニジンを含む溶液を作製した。0.1%トリフルオロ酢酸が添加された50:50メタノール/水中に2つの異なる濃度のブラジキニン溶液を作製した。一方は1000ng/μLの濃度、もう一方は100ng/μLの濃度であった。
【0087】
3.0μLの体積の検体溶液をピペットでフィルム上に直接添加し、続いて、約15分間室温で乾燥させた。
【0088】
図29は、タイプA構造体を有しかつコーティングを含まないポリプロピレンフィルムから離れたクロニジンについて測定した質量スペクトルを示している。分子イオンピークを見ることはできるが、相対強度が低い。図30は、同一のフィルムから離れたより高濃度のブラジキニンについて測定した質量スペクトルを示している。ペプチドのシグナルを見ることができない。
【0089】
図31は、タイプA構造体とH−DLGコーティングとを有するポリプロピレンフィルムから離れたクロニジンについて測定した質量スペクトルを示している。スペクトルには化学ノイズが実質的に含まれていなが、相対強度が低い。このフィルムを用いた場合、いずれの濃度のブラジキニンに対してもシグナルは得られなかった。
【0090】
図32は、アルミニウムコーティングを有するタイプAマイクロ構造化ポリプロピレンフィルムから離れたクロニジンについて測定した質量スペクトルを示している。スペクトルは、比較的クリーンであり、良好なシグナル対ノイズを有する。図33および図34は、アルミニウムコーティングを有するタイプAマイクロ構造化ポリプロピレンフィルムから離れた[1000ng/μL]ブラジキニンおよび[100ng/μL]ブラジキニンの質量スペクトルを示している。シグナル対ノイズは、非コーテッドタイプAまたはHDLGコーテッドタイプAによりも高い。
【0091】
実施例5
この実施例では、タイプA構造体を有するポリプロピレンフィルム上のアルミニウムの上でH−DLGの多層コーティングを利用する。アルミニウムコーティングは連続的であるが、H−DLGは、アルミニウムの上の不連続スポットとして適用される。
【0092】
タイプA構造体を有するポリプロピレンフィルムを先に記載したように取得し、アルミニウムをコーティングした。直径550μmの孔を含む有孔ポリマーマスクをフィルムにテープ留めし、次に、フィルムにH−DLGをコーティングし、その後、マスクを除去した。得られたフィルムは、アルミニウムの連続層の上に直径550μmのH−DLGのスポットを含んでいた。
【0093】
3種の小分子、すなわち、クロニジン(266.6Da)、ハロペリドール(375.9Da)、プラゾシン(419.9Da)および1種のペプチド、すなわち、ブラジキニン(1060.2Da)をシグマ・ケミカル・カンパニー(ミズーリ州セントルイス)(Sigma Chemical Co.(St.Louis,MO))から入手し、さらなる精製を行うことなく使用した。各検体について、0.1%トリフルオロ酢酸が添加された50:50HPLC等級メタノール/水中に100ng/μLの各検体を含む溶液を作製した。
【0094】
各検体について、0.5μLの体積の検体溶液をフィルム上のH−DLGコーテッドスポットのうちの1つにピペットで直接添加した。H−DLGと周囲のアルミニウムとの間の表面エネルギー差に基づいて、適用されたサンプルは、H−DLGコーテッド領域内に制限されて残存した。サンプルを室温で約15分間空気乾燥させた。
【0095】
図35、図36、および図37は、アルミニウムコーティングと親水性DLGコーティングとを有するタイプAマイクロ構造化ポリプロピレンフィルムから離れた小分子クロニジン、ハロペリドール、およびプラゾシンについて測定した質量スペクトルを示している。すべてのスペクトルに見られるように、低いレーザー強度できわめて高いシグナル対ノイズ比が達成される。これにより、無関係なピークを含まないクリーンなスペクトルが得られ、対象となる分子の同定が容易になる。図38は、同一のフィルムから離れたペプチドブラジキニンについて測定した質量スペクトルを示している。スペクトルは高い相対強度を有し、この場合にも、対象となる分子を見いだすことは容易である。すべてのスペクトルにおいて、乾燥液滴を横切るシグナルの均一性は非常に良好であり、「スイートスポット」現象は観測されなかった。
【0096】
実施例6
この実施例では、数ヶ月間にわたる保存時のアルミニウムコーテッドタイプAフィルムの優れた保存寿命を明らかにする。
【0097】
タイプA構造体を有するポリプロピレンフィルムを記載のごとく取得し、アルミニウムの連続層をコーティングした。コーティング後数日以内に、いくつかのフィルムサンプルを質量分光測定分析にかけた。カバーされたプラスチックペトリ皿中に室温で5ヶ月間保存した後、他のフィルムを分析にかけた。
【0098】
2種の小分子、すなわち、クロニジン(266.6Da)およびプラゾシン(419.9Da)をシグマ・ケミカル・カンパニー(ミズーリ州セントルイス)(Sigma Chemical Co.(St.Louis,MO))から入手し、さらなる精製をなんら行うことなく使用した。各小分子について、0.1%トリフルオロ酢酸が添加された50:50HPLC等級メタノール/水中に100ng/μLの各検体を含む溶液を作製した。3.0μLの体積の検体溶液をフィルム上にピペットで直接添加し、室温で約15分間空気乾燥させた。
【0099】
図39は、アルミニウムでコーティングしたばかりのフィルムから離れたクロニジンについて測定した質量スペクトルを示している。図40は、フレッシュな検体を適用した5ヶ月後に同一のバッチのフィルムから離れたクロニジンについて測定した質量スペクトルを示している。エージングしたフィルムを用いた場合、シグナル対ノイズおよびスペクトル品質に関して、性能の劣化は見られない。汚染の兆候も感度の低下もない。
【0100】
図41は、コーティングされたばかりのフィルムから離れたプラゾシンについて測定した質量スペクトルを示している。図42は、フレッシュな検体を適用した5ヶ月後に同一のバッチのフィルムから離れたプラゾシンについて測定した質量スペクトルを示している。この場合にも、エージングしたフィルムは、優れたシグナル対ノイズを示すとともに優れたスペクトル品質を示す。
【0101】
実施例7
この実施例では、グラファイトコーティングを有するポリカーボネートタイプB(「PCタイプB」)構造体に関して構造体vs非構造体の効果について具体的に説明する。
【0102】
平滑ポリカーボネートフィルムおよびタイプB構造体を有するポリカーボネートフィルムを先に記載したように取得した。イソプロパノール中のエネルギー・ビーム・サイエンス・インコーポレーテッド(マサチューセッツ州アガワム)(Energy Beam Sciences Inc.(Agawam,MA))製のコロイダル・グラファイト・ペイント(Colloidal Graphite Paint)の1:40希釈液を作製した。希釈されたグラファイトディスパージョンのコーティングを非構造化ポリカーボネートおよびタイプBマイクロ構造化ポリカーボネートに適用した。これは、綿棒をディスパージョンに浸漬しフィルム上にディスパージョンをスワビングすることにより達成された。完全な被覆を施すために、互いに垂直方向に独立して2回のスワビングを行った。サンプル堆積前、コーティングを数時間乾燥させた。
【0103】
1種の小分子、すなわち、クロニジン(266.6Da)および1種のペプチド、すなわち、アンギオテンシンII(1046.2Da)をシグマ・ケミカル・カンパニー(ミズーリ州セントルイス)(Sigma Chemical Co.(St.Louis,MO))から入手し、さらなる精製を行うことなく使用した。小分子について、0.1%トリフルオロ酢酸が添加された50:50HPLC等級メタノール/水中に100ng/μLの検体を含む溶液を作製した。ペプチドについて、水中に1000ng/μLの検体を含む溶液を作製した。1.5μLの体積の検体をフィルム上にピペットで直接添加し、約15分間空気乾燥させた。
【0104】
図43は、非構造化ポリカーボネートフィルムから離れたクロニジンの質量スペクトルを示している。検体をイオン化させるために高いレーザー強度が必要とされたので、分解能は非常に低く、分子のアイソトープを区別することができない。図44は、タイプB構造体を有するポリカーボネートフィルムから離れたクロニジンの質量スペクトルを示している。スペクトル品質はかなり改良され、アイソトープピークは明瞭に分解され、シグナル対ノイズ比は、非構造化フィルムについて測定したスペクトルよりもかなり高い。
【0105】
図45は、非構造化ポリカーボネートフィルムから離れたアンギオテンシンIIの質量スペクトルを示している。多くのベースラインノイズが存在し、検体ピークを検出することが困難である。図46は、タイプBマイクロ構造化ポリカーボネートフィルムから離れたアンギオテンシンIIの質量スペクトルを示している。ノイズはかなり少なく、分子イオンを容易に検出可能であり、シグナル対ノイズはかなり改良される。
【0106】
実施例8
この実施例では、ポリカーボネートタイプB構造体に関してグラファイトコーティングありvsコーティングなしの効果について具体的に説明する。
【0107】
タイプB構造体を有するポリカーボネートを先に記載したように取得し、グラファイトをコーティングした。タイプB構造体を有するポリカーボネートの別のサンプルにはコーティングを行わなかった。
【0108】
1種の小分子、すなわち、クロニジン(266.6Da)および1種のペプチド、すなわち、アンギオテンシンII(1046.2Da)をシグマ・ケミカル・カンパニー(ミズーリ州セントルイス)(Sigma Chemical Co.(St.Louis,MO))から入手し、さらなる精製を行うことなく使用した。小分子について、0.1%トリフルオロ酢酸が添加された50:50HPLC等級メタノール/水中に100ng/μLの検体を含む溶液を作製した。ペプチドについて、水中に1000ng/μLの検体を含む溶液を作製した。1.5μLの体積の検体溶液をフィルム上にピペットで直接添加し、約15分間空気乾燥させた。
【0109】
図47は、タイプB構造体を有するグラファイトコーテッドポリカーボネートフィルムから離れたクロニジンの質量スペクトルを示している。スペクトル品質は良好であり、アイソトープピークは明瞭に分解される。シグナル対ノイズ比は優れている。図48は、同一のタイプBマイクロ構造化ポリカーボネートフィルムから離れたアンギオテンシンIIの質量スペクトルを示している。スペクトル品質は良好であり、分子イオンは容易に検出可能である。
【0110】
図49は、タイプB構造体を有しかつコーティングを含まないポリカーボネートフィルムから離れたクロニジンの質量スペクトルを示している。小さい検体ピークが存在するが、相対強度およびシグナル対ノイズ比は低い。タイプB構造体を有しかつコーティングを含まないポリカーボネートフィルムから離れたアンギオテンシンIIについては、ペプチドピークは見られなかった(図には示されていない)。
【0111】
実施例9
この実施例では、マイクロ構造化基材を用いることにより同一の基材から離れた正(カチオン)および負(アニオン)の両方の分析が可能であることについて具体的に説明する。この実施例ではまた、検体混合物を対象にしたマイクロ構造化基材の使用について具体的に説明する。
【0112】
タイプA構造体を有するポリプロピレンを先に記載したように取得した。直径550μmの孔を含む有孔ポリマーマスクをフィルムにテープ留めした。フィルムにアルミニウムおよび続いてH−DLGをコーティングし、その後、マスクを除去した。得られたフィルムは、アルミニウム上に重畳された直径550μmのH−DLGのスポットを含んでいた。
【0113】
コンビナトリアルケミストリー分析でしばしば遭遇する代表的な質量範囲150〜600Daの8種の化合物の独自の混合物を取得し、0.1〜0.3μg/μLの濃度範囲でメタノールに溶解させた。検体溶液の0.3μLサンプルをフィルム上のスポットにピペットで添加し、約15分間空気乾燥させた。
【0114】
図50には、8種の代表的な化合物のそれぞれのメインピーク(または分子イオンピーク)で得られたシグナル対ノイズデータおよび8種のすべての化合物の平均を示している。正イオン化モードおよび負イオン化モードの両方で許容しうるシグナル対ノイズが得られることがわかる。
【0115】
実施例10
この実施例には、Al/H−DLGでコーティングされた重畳微細サイズ/大サイズ構造体内包構造体基材の使用について具体的に説明する。
【0116】
図8に示される構造体内包構造体トポロジーを有するポリプロピレンコポリマーフィルムを先に記載したように取得した。直径1.4mmの孔のアレイを有する接着剤付きポリマーマスクをフィルムに接着させた。フィルムにアルミニウムおよび続いてH−DLGをコーティングし、その後、マスクを除去した。得られたフィルムは、アルミニウム上に重畳された直径1.4mmのH−DLGのスポットを含んでいた。
【0117】
1種の小分子、すなわち、クロニジン(266.6Da)および1種のペプチド、すなわち、ブラジキニン(1060.2Da)をシグマ・ケミカル・カンパニー(ミズーリ州セントルイス)(Sigma Chemical Co.(St.Louis,MO))から取得し、さらなる精製を行うことなく使用した。0.1%トリフルオロ酢酸が添加された50:50HPLC等級メタノール/水中に20ng/μLのクロニジンを含む溶液および0.1%トリフルオロ酢酸が添加された50:50HPLC等級メタノール/水中に100ng/μLのブラジキニンを含む溶液を作製した。各検体について、0.2μLの体積の検体溶液をフィルム上のコーテッドスポットのうちの1つにピペットで直接添加し、室温で約15分間空気乾燥させた。
【0118】
図51は、構造体内包構造体フィルムから離れたクロニジンの質量スペクトルを示している。スペクトルは、高い相対強度、良好なシグナル対ノイズ、および比較的小さな化学ノイズを有する。図52は、構造体内包構造体フィルムから離れたブラジキニンを示している。相対強度は低いが、検体ピークをはっきりと見ることができる。
【0119】
いずれの場合においても、「スイートスポット」現象を伴うことなくスペクトルを容易に取得可能であることから実証されるように、構造体内包構造体フィルムは非常に均一なサンプルドライダウンを呈する。
【0120】
実施例11
この実施例では、化学マトリックスの存在下における非コーテッドマイクロ構造化フィルムの使用について具体的に説明する。
【0121】
タイプA構造体を有するポリプロピレンを取得し、両面接着テープを用いて市販の金属MALDIプレートに装着した。
【0122】
小分子クロニジン(266.6Da)をシグマ・ケミカル・カンパニー(ミズーリ州セントルイス)(Sigma Chemical Co.(St.Louis,MO))から入手した。0.1%トリフルオロ酢酸が添加された50:50HPLC等級メタノール/水中に20ng/μLの検体を含む溶液を作製した。0.1%トリフルオロ酢酸が添加された50:50HPLC等級メタノール/水中のα−CHCAマトリックスの飽和溶液を、5倍希釈および20倍希釈した。次に、1μLの体積の各希釈マトリックス溶液を2μLの試料液と混合し、マトリックスの10倍希釈液および40倍希釈液を得た。0.2μLの体積の検体/マトリックス溶液をフィルム上にピペットで直接添加し、続いて室温で約15分間乾燥させた。
【0123】
図53は、10倍希釈のα−CHCAマトリックスを用いたときのクロニジンのスペクトルを示している。検体ピークは、良好なシグナル対ノイズおよび相対強度を有するが、マトリックスピークによる妨害がある。図54は、40倍希釈のα−CHCAマトリックスを用いたときのクロニジンのスペクトルを示している。この希釈レベルでは、マトリックスによる妨害はより少ない。
【0124】
実施例12
この実施例では、マトリックスの存在下におけるマイクロ構造化コーテッドフィルムの使用について示す。
【0125】
タイプA構造体を有するポリプロピレンフィルムを先に記載したように取得した。直径500μmの孔を有するメタルマスクをフィルムに接着させた。フィルムにアルミニウムをコーティングし、その後、マスクは除去した。得られたフィルムは、直径500μmのアルミニウムのスポットを含んでいた。
【0126】
スクアザイムTM・ペプチド・マス・スタンダード・キット(マサチューセッツ州フレーミングハムのパーセプティブ・バイオシステムズ)(SequazymeTM Peptide Mass Standards Kit(PerSeptive Biosystems,Framingham,MA))をこれらの実験に使用した。ペプチド校正混合物1は、次のペプチド、すなわち、デス−Arg1−ブラジキニン(904.05Da)、アンギオテンシンI(1296.51Da)、Glu1−フィブリノペプチドB(1570.61Da)、およびニューロテンシン(1672.96Da)を含んでいた。ペプチド標準を0.01%TFA中の30%アセトニトリル100μLと混合することにより、ペプチド混合物のストック溶液を作製した。あらかじめ計量しておいた5〜8mgのα−CHCAを0.3%トリフルオロ酢酸(TFA)希釈剤中の50%アセトニトリル1mlと混合することにより、マトリックスであるアルファシアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(α−CHCA)の飽和溶液を作製した。24μLの体積の標準α−CHCAマトリックス溶液を1μLのペプチドストック溶液と混合した。
【0127】
0.1μLまたは0.2μLのサンプル体積をフィルム上のアルミニウムコーテッドスポットにピペットで添加し、約2分間空気乾燥させた。同一のサンプル堆積手順を用いて、市販のステンレス鋼MALDIプレートに検体スポットを適用した。分析前のサンプルに対して、さらなるサンプル調製やサンプル精製は行わなかった。
【0128】
タイプAマイクロ構造化Alコーテッドフィルム上のα−CHCAを有する0.1μLの校正混合物1から得られた正イオンMALDI質量スペクトルは、図55に示されるように、Gluフィブリノペプチド(MW1569Da)について3,620のS/N値でプロトン化分子イオン(m/z1570)を呈した。
【0129】
市販の標準的なステンレス鋼金属プレートを用いたときの同一の検体とマトリックスとの組合せの正イオンMALDI質量スペクトルを図56に示す。金属プレートで用いられる動作条件は、ポリプロピレンタイプAマイクロ構造化フィルムで用いられる条件に類似したものであった。シグナル対ノイズは、アルミニウムコーテッドPPタイプAマイクロ構造化フィルムを用いて達成された性能と同等であった。
【0130】
プロトン化分子イオンがレーザー脱離/イオン化法で生成される主要なイオン種であるが、ナトリウムおよびカリウムでカチオン化された種もまた生成されうる。図57と58との比較から明らかなように、マイクロ構造化フィルムと対比してステンレス鋼プレートで得られるGlu−フィブリノペプチドBの分子イオン領域を詳細に調べると、マイクロ構造化フィルムを用いたときにカチオン化が有意に減少することがわかる。
【0131】
最良シグナルが乾燥液滴の縁部で見いだされた従来の金属プレートとは対照的に、マイクロ構造化フィルムでは、シグナルは乾燥液滴を横切ってかなり均一であった。
【0132】
本発明は、その精神または本質的特性から逸脱することなく他の特定の形態で具体化することが可能である。記載の実施形態は、いかなる点においても、単に例示されたものにすぎず、限定されたものではないとみなされる。したがって、本発明の範囲は、以上の説明により規定されるのではなく、添付の特許請求の範囲により規定される。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】マトリックスの2,5−ジヒドロキシ−安息香酸(DHBA)の質量スペクトルである。
【図2】マトリックスのアルファシアノ−4−ヒドロキシ−ケイ皮酸(α−CHCA)の質量スペクトルである。
【図3】本発明の実施態様に従って質量分光分析法を行うための装置の概略図である。
【図4】本発明に従って作製された第1のマイクロ構造化基材の走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】本発明に従って作製された第2のマイクロ構造化基材の走査型電子顕微鏡写真である。
【図6】本発明に従って作製された第3のマイクロ構造化基材の走査型電子顕微鏡写真である。
【図7】本発明に従って作製された第4のマイクロ構造化基材の走査型電子顕微鏡写真である。
【図8】本発明に従って作製された第5のマイクロ構造化基材の走査型電子顕微鏡写真である。
【図9】α−CHCAマトリックスを用いたときのアセトアミノフェンの質量スペクトルである。
【図10】マイクロ構造化表面タイプAとアルミニウム皮膜とを有するポリプロピレンから離れたアセトアミノフェンの質量スペクトルである。
【図11】α−CHCAマトリックスを用いたときのアスコルビン酸の質量スペクトルである。
【図12】マイクロ構造化表面タイプAとアルミニウム皮膜とを有するポリプロピレンから離れたアスコルビン酸の質量スペクトルである。
【図13】α−CHCAマトリックスを用いたときのペニシリンの質量スペクトルである。
【図14】マイクロ構造化表面タイプAとアルミニウム皮膜とを有するポリプロピレンから離れたペニシリンの質量スペクトルである。
【図15】マイクロ構造化表面タイプAとアルミニウム皮膜とを有するポリプロピレンから離れたクロニジンの質量スペクトルである。
【図16】Alコーテッドマットポリプロピレンから離れたクロニジンの質量スペクトルである。
【図17】マイクロ構造化表面タイプAとアルミニウム皮膜とを有するポリプロピレンから離れたサブスタンスPの質量スペクトルである。
【図18】Alコーテッドマットポリプロピレンから離れたサブスタンスPの質量スペクトルである。
【図19】マイクロ構造化表面タイプAを有するポリプロピレンから離れたアンギオテンシンIIの質量スペクトルである。
【図20】Alコーテッドマットポリプロピレンから離れたアンギオテンシンIIの質量スペクトルである。
【図21】Al/H−DLGコーテッド平滑ポリプロピレンから離れたクロニジンの質量スペクトルである。
【図22】Al/H−DLGコーテッドマットポリプロピレン(シリコーンベルトツールを用いて作製)から離れたクロニジンの質量スペクトルである。
【図23】Al/H−DLGコーテッドマットポリプロピレン(金属ロールツールを用いて作製)から離れたクロニジンの質量スペクトルである。
【図24】マイクロ構造化表面タイプAを有するAl/H−DLGコーテッドポリプロピレンから離れたクロニジンの質量スペクトルである。
【図25】Al/H−DLGコーテッド平滑ポリプロピレンから離れたサブスタンスPの質量スペクトルである。
【図26】Al/H−DLGコーテッドマットポリプロピレン(シリコーンベルトツールを用いて作製)から離れたサブスタンスPの質量スペクトルである。
【図27】Al/H−DLGコーテッドマットポリプロピレン(金属ロールツールを用いて作製)から離れたサブスタンスPの質量スペクトルである。
【図28】Al/H−DLGコーテッドPPタイプAから離れたサブスタンスPの質量スペクトルである。
【図29】マイクロ構造化表面タイプAを有する非コーテッドポリプロピレンから離れたクロニジンの質量スペクトルである。
【図30】マイクロ構造化表面タイプAを有する非コーテッドポリプロピレンから離れたブラジキニン(1000ng/μL)の質量スペクトルである。
【図31】マイクロ構造化表面タイプAを有するH−DLGコーテッドポリプロピレンから離れたクロニジンの質量スペクトルである。
【図32】マイクロ構造化表面タイプAを有するAlコーテッドポリプロピレンから離れたクロニジンの質量スペクトルである。
【図33】マイクロ構造化表面タイプAを有するAlコーテッドポリプロピレンから離れたブラジキニン[1000ng/μL]の質量スペクトルである。
【図34】マイクロ構造化表面タイプAを有するAlコーテッドポリプロピレンから離れたブラジキニン[100ng/μL]の質量スペクトルである。
【図35】マイクロ構造化表面タイプAを有するAl/H−DLGコーテッドポリプロピレンから離れたクロニジンの質量スペクトルである。
【図36】マイクロ構造化表面タイプAを有するAl/H−DLGコーテッドポリプロピレンから離れたハロペリドールの質量スペクトルである。
【図37】マイクロ構造化表面タイプAを有するAl/H−DLGコーテッドポリプロピレンから離れたプラゾシンの質量スペクトルである。
【図38】マイクロ構造化表面タイプAを有するAl/H−DLGコーテッドポリプロピレンから離れたブラジキニンの質量スペクトルである。
【図39】アルミニウムでコーティングしたばかりのマイクロ構造化表面タイプAを有するポリプロピレンから離れたクロニジンの質量スペクトルである。
【図40】アルミニウムでコーティングしてから5ヶ月間エージングしたマイクロ構造化表面タイプAを有するポリプロピレンから離れたクロニジンの質量スペクトルである。
【図41】アルミニウムでコーティングしたばかりのマイクロ構造化表面タイプAを有するポリプロピレンから離れたプラゾシンの質量スペクトルである。
【図42】アルミニウムでコーティングしてから5ヶ月間エージングしたマイクロ構造化表面タイプAを有するポリプロピレンから離れたプラゾシンの質量スペクトルである。
【図43】コロイドグラファイトでコーティングされた平滑ポリカーボネートから離れたクロニジンの質量スペクトルである。
【図44】コロイドグラファイトでコーティングされたマイクロ構造化表面タイプBを有するポリカーボネートから離れたクロニジンの質量スペクトルである。
【図45】コロイドグラファイトでコーティングされた平滑ポリカーボネートフィルムから離れたアンギオテンシンIIの質量スペクトルである。
【図46】コロイドグラファイトでコーティングされたマイクロ構造化表面タイプBを有するポリカーボネートから離れたアンギオテンシンIIの質量スペクトルである。
【図47】コロイドグラファイトでコーティングされたマイクロ構造化表面タイプBを有するポリカーボネートから離れたクロニジンの質量スペクトルである。
【図48】コロイドグラファイトでコーティングされたマイクロ構造化表面タイプBを有するポリカーボネートから離れたアンギオテンシンIIの質量スペクトルである。
【図49】コーティングの施されていないマイクロ構造化表面タイプBを有するポリカーボネートから離れたクロニジンの質量スペクトルである。
【図50】マイクロ構造化表面タイプAを有するAl/H−DLGコーテッドポリプロピレンから離れた種々の検体についてシグナル対ノイズvsイオン化モードを示す図表である。
【図51】Al/H−DLGコーテッド構造体内包構造体フィルムから離れたクロニジンの質量スペクトルである。
【図52】Al/H−DLGコーテッド構造体内包構造体フィルムから離れたブラジキニンの質量スペクトルである。
【図53】10倍希釈のCHCAマトリックスを用いたときのマイクロ構造化表面タイプAを有する非コーテッドポリプロピレンから離れたクロニジンの質量スペクトルである。
【図54】40倍希釈のCHCAマトリックスを用いたときのマイクロ構造化表面タイプAを有する非コーテッドポリプロピレンから離れたクロニジンの質量スペクトルである。
【図55】α−CHCAマトリックスを用いたときのマイクロ構造化表面タイプAとアルミニウム皮膜とを有するポリプロピレンから離れた校正混合物Iの質量スペクトルである。
【図56】α−CHCAマトリックスを用いたときのステンレス鋼プレートから離れた校正混合物Iの質量スペクトルである。
【図57】α−CHCAマトリックスを用いたときのマイクロ構造化表面タイプAとアルミニウム皮膜とを有するポリプロピレンから離れた校正混合物Iの拡大質量スペクトルである。
【図58】α−CHCAマトリックスを用いたときのステンレス鋼プレートから離れた校正混合物Iの拡大質量スペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の表面を有する高分子基材と、
前記高分子基材の第1の表面上の複数のマイクロ構造体と、
前記複数のマイクロ構造体の少なくとも一部分を覆うコーティングと、
を含むマイクロ構造化高分子物品であって、
検体の受容およびその後の前記検体の脱離を行うように構成されている、前記マイクロ構造化高分子物品。
【請求項2】
前記コーティングが実質的に不揮発性である、請求項1に記載のマイクロ構造化高分子物品。
【請求項3】
前記物品が、前記複数のマイクロ構造体の一部分を覆う少なくとも2層のコーティングを含む、請求項1に記載のマイクロ構造化高分子物品。
【請求項4】
少なくとも1層のコーティングが金属または金属酸化物を含む、請求項3に記載のマイクロ構造化高分子物品。
【請求項5】
少なくとも1層のコーティングが金属または金属酸化物を含み、かつ少なくとも1層のコーティングがダイヤモンド様ガラスを含む、請求項3に記載のマイクロ構造化高分子物品。
【請求項6】
少なくとも1層のコーティングが親水性である、請求項3に記載のマイクロ構造化高分子物品。
【請求項7】
前記コーティングが粒子を含む、請求項1に記載のマイクロ構造化高分子物品。
【請求項8】
前記高分子基材が熱可塑性材料を含む、請求項1に記載のマイクロ構造化高分子基材。
【請求項9】
前記高分子基材が、ポリカーボネートおよびポリプロピレンよりなる群から選択される、請求項1に記載のマイクロ構造化高分子基材。
【請求項10】
前記高分子基材が複合高分子材料を含む、請求項1に記載のマイクロ構造化高分子基材。
【請求項11】
前記高分子基材がポリマーの混合物を含む、請求項1に記載のマイクロ構造化高分子基材。
【請求項12】
前記マイクロ構造体が、200ミクロンの最大特性長をもつ少なくとも2つの寸法を有する、請求項1に記載のマイクロ構造化高分子基材。
【請求項13】
前記マイクロ構造体が少なくとも1000マイクロ構造体/mm2の密度を有する、請求項1に記載のマイクロ構造化高分子基材。
【請求項14】
前記マイクロ構造体が少なくとも2500マイクロ構造体/mm2の密度を有する、請求項1に記載のマイクロ構造化高分子基材。
【請求項15】
前記コーティングがグラファイトを含む、請求項1に記載のマイクロ構造化高分子基材。
【請求項16】
前記コーティングが前記高分子基材上の金属層または金属酸化物層を含む、請求項1に記載のマイクロ構造化高分子基材。
【請求項17】
前記コーティングがダイヤモンド様ガラスを含む、請求項1に記載のマイクロ構造化高分子基材。
【請求項18】
前記複数のマイクロ構造体を覆うコーティングが不連続パターンで存在する、請求項1に記載のマイクロ構造化高分子基材。
【請求項19】
前記不連続パターンがスポットを含み、かつ前記スポットが、検体を受容して収容するように構成されている、請求項18に記載のマイクロ構造化高分子基材。
【請求項20】
前記スポットが、増大された親水性を提供するように処理されている、請求項19に記載のマイクロ構造化高分子基材。
【請求項21】
前記基材が、質量分光写真分析時にサンプルを保持するように構成されて配置されている、請求項19に記載のマイクロ構造化高分子基材。
【請求項22】
検体物質のサンプルを受容するためのデバイスであって、実質的に非ポーラスな検体受容表面を有する基材と、前記検体の脱離を行うように構成されて配置されている複数のマイクロ構造体と、を含む、前記デバイス。
【請求項23】
前記基材が高分子材料を含む、請求項22に記載のデバイス。
【請求項24】
前記検体受容表面が金属または金属酸化物を含む、請求項22に記載のデバイス。
【請求項25】
前記検体受容表面がグラファイトを含む、請求項22に記載のデバイス。
【請求項26】
前記検体受容表面がダイヤモンド様ガラスを含む、請求項22に記載のデバイス。
【請求項27】
前記高分子基材上に存在する金属層と、前記金属層上のダイヤモンド様ガラスと、をさらに含み、前記金属層が、前記高分子基材と前記ダイヤモンド様ガラスとの間にある、請求項22に記載のデバイス。
【請求項28】
前記マイクロ構造体が、200ミクロン未満の最大特性長をもつ少なくとも2つの寸法を有する、請求項22に記載のデバイス。
【請求項29】
前記マイクロ構造体上に重畳された不連続コーティングをさらに含む、請求項22に記載のデバイス。
【請求項30】
識別手段をさらに含む、請求項22に記載のデバイス。
【請求項31】
識別バーコードをさらに含む、請求項22に記載のデバイス。
【請求項32】
識別用無線周波数識別タグ(identifying radio frequency identifcation tag)をさらに含む、請求項22に記載のデバイス。
【請求項33】
検体物質のサンプルを受容するためのデバイスであって、前記デバイスが少なくとも2つの層を含み、前記層が、
高分子基材よりなる第1の層と、
実質的に不揮発性の材料よりなる第2の層であって、前記基材の上部表面を形成するように前記第1の層の上に配置されている第2の層と、
を含み、
前記基材の上部表面が、前記検体物質の脱離を促進するように構成されて配置されている複数の構造体を含む、前記検体物質のサンプルを受容するためのデバイス。
【請求項34】
前記高分子基材が実質的に非ポーラスである、請求項33に記載の検体物質のサンプルを受容するためのデバイス。
【請求項35】
前記第2の層が金属または金属酸化物を含む、請求項33に記載の検体物質のサンプルを受容するためのデバイス。
【請求項36】
検体物質のサンプルを受容するためのデバイスであって、
第1の表面を有する実質的に非ポーラスな高分子基材と、
前記高分子基材の第1の表面上に配置された複数のマイクロ構造体と、
前記高分子基材の第1の表面上に配置された前記複数のマイクロ構造体上に存在する不揮発性の層と、
を含む、前記検体物質のサンプルを受容するためのデバイス。
【請求項37】
前記基材が、検体の受容およびその後の脱離を行うように構成されている、請求項36に記載の検体物質のサンプルを受容するためのデバイス。
【請求項38】
第1の表面を有する高分子基材と、
前記高分子基材上の複数の構造体であって、少なくとも100ミクロンの特性寸法を有する構造体と、
前記高分子基材の第1の表面上の複数のマイクロ構造体であって、前記構造体と混在し、かつ前記構造体よりも少なくとも50パーセント小さいマイクロ構造体と、
前記複数の構造体および前記複数のマイクロ構造体の少なくとも一部分を覆うコーティングと、
を含むマイクロ構造化高分子物品であって、
検体の受容およびその後の前記検体の脱離を行うように構成されている、前記マイクロ構造化高分子物品。
【請求項39】
前記マイクロ構造体が、50ミクロン未満の最大特性長をもつ少なくとも2つの寸法を有する、請求項38に記載のマイクロ構造化高分子物品。
【請求項40】
前記コーティングが金属または金属酸化物を含む、請求項38に記載のマイクロ構造化高分子物品。
【請求項41】
前記基材がポリカーボネートまたはポリプロピレンを含む、請求項38に記載のマイクロ構造化高分子物品。
【請求項42】
マトリックスの不在下で物質を分析する方法であって、
検体物質を提供する工程と、
非ポーラスマイクロ構造化基材を提供する工程と、
マトリックスの不在下で前記非ポーラス基材上に前記検体物質を堆積させる工程と、
前記検体物質をエネルギー源に暴露して前記検体物質を脱離させる工程と、
を含む、前記方法。
【請求項43】
前記エネルギー源がレーザービームを含む、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記マイクロ構造体が少なくとも2つの寸法で200ミクロン未満の最大特性長を有する、請求項42に記載の方法。
【請求項45】
非ポーラス基材が金属または金属酸化物のコーティングをさらに含む、請求項42に記載の方法。
【請求項46】
前記非ポーラス基材がポリカーボネートまたはポリプロピレンを含む、請求項42に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【図52】
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【図53】
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【図54】
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【図55】
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【図56】
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【図57】
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【図58】
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【公表番号】特表2006−506641(P2006−506641A)
【公表日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−553435(P2004−553435)
【出願日】平成15年10月7日(2003.10.7)
【国際出願番号】PCT/US2003/031839
【国際公開番号】WO2004/047142
【国際公開日】平成16年6月3日(2004.6.3)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】