説明

マイクロ機械部品、マイクロ機械部品の製造方法及びマイクロ機械部品用型の製造方法

【課題】 複雑な三次元形状、特に、オーバーハング部を有する三次元構造、を有するマイクロ機械部品を精度良く、簡便かつ迅速に形成することができる製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明に係るマイクロ機械部品等の製造方法は、投影領域を単位として一括露光を繰り返すことにより、光硬化性樹脂液に選択的に光を照射して硬化樹脂層を形成し、該硬化樹脂層を順次積層して三次元形状を形成するものである。本発明は、マイクロ機械部品等の構造が、オーバーハング部を有する複雑な三次元構造である場合に、特に有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性樹脂液に選択的に光を照射して硬化樹脂層を形成し、該硬化樹脂層を順次積層して三次元構造を形成することを特徴とするマイクロ機械部品の製造方法、マイクロ機械部品用型の製造方法、及び当該マイクロ機械部品用型により製造されたマイクロ機械部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年においては、携帯端末等に代表される各種電子機器や各種装置において、小型軽量化、高性能化が強く求められている。このため、電子機器等に用いられるネジ、歯車、モータのハウジング、バネ等の機械部品の微小化のニーズが高まっている。なお、本明細書にいう微小サイズの機械部品(以下、「マイクロ機械部品」という)とは、マイクロメーター(μm)オーダの解像度が要求されるものをいうものとする。また、マイクロ機械部品が用いられる用途としては、各種電子機器や各種装置に用いられるものに限られず、各種構造物全般に適用されるものを含むものとする。
【0003】
機械部品の製造方法としては、従来、金属材料等を切削する切削加工法が用いられてきた。また、機械部品を微小化する技術として、リソグラフィー技術をベースとした二次元的構造物の製造方法の研究が精力的に成されてきた。リソグラフィー技術において、犠牲層を設ける中間工程を採用することにより、オーバーハング部を有する構造を形成する技術も提案されている(特許文献1及び2)。三次元的な機械部品を加工する方法としては、X線リソグラフィー(非特許文献1)、放電加工(非特許文献2)などの方法が提案されている。また、半導体プロセスを用いて構造体の各断面形状をドナー基板上に一括作製し、常温接合法を用いてターゲット基板に転写積層する積層造形法が提案されている(特許文献3)。また、光硬化造形方法(以下、単に「光造形方法」という)(非特許文献3)も提案されている。
【0004】
光造形方法は、造形しようとする立体モデルを複数の層にスライスして得られる断面群のデータに基づいて造形する。通常、最初に最下段の断面に相当する領域において、光硬化性樹脂液の液面に光線を照射する。すると、光照射された液面部分の光硬化性樹脂液が光硬化し、立体モデルの一断面の硬化樹脂層が造形される。次いで、この硬化樹脂層の表面に未硬化状態の光硬化性樹脂液を所定の厚みでコートする。このとき、硬化樹脂層を所定の厚み分だけ、樹脂槽に満たされた光硬化性樹脂液に沈めてコートすることが一般的である。また、比較的少量の光硬化性樹脂を一層の硬化樹脂層を形成する毎にリコータにより全面に塗布することも行われる。そして、この表面に所定パターンに沿ってレーザ光線走査を行ない、光照射したコート層部分を硬化させる。硬化した部分は、下部の硬化樹脂層に積層一体化される。以後、光照射工程で扱う断面を隣接する断面に切り替えながら、光照射と光硬化性樹脂液のコートを繰り返すことによって、所望の立体モデルを造形する(特許文献4及び特許文献5参照)。光造形方法は、CADデータに基づき、オーバーハング部を有する三次元構造を簡便かつ迅速に形成することのできる技術である。
【非特許文献1】International Micromechanism Symposium IFToMM,June, W.Menz 1993 106頁
【非特許文献2】IEEE MEMS−90 Workshop T.Masaki 1990 21〜26頁
【非特許文献3】IEEE MEMS−94 Workshop T.Takagi 1994 211〜216頁
【特許文献1】特開2004−69733号公報
【特許文献2】特開2004−9183号公報
【特許文献3】特開平10−305488号公報
【特許文献4】特開昭56−144478号公報
【特許文献5】特開昭62−35966号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
マイクロ機械部品の製造に際して、リソグラフィー技術を用いる場合には、原則としてオーバーハング部を有しない構造に限定されるため、三次元構造からなるマイクロ機械部品を製造することは困難であった。また、犠牲層を形成する中間工程を採用して、三次元構造を形成した場合には、犠牲層を除去する工程が別途必要であるため、製造工程が複雑になり、製造時に長時間を要する等の問題があった。また、X線リソグラフィー技術を用いる場合には、装置が大がかりであるという問題点に加え、被加工材料としてX線レジストに限定されてしまうという問題点があった。また、放電加工においては、非導電材料の加工ができないという問題点があった。また、切削、研削等の方法は、微細加工工具等が必要であるという問題点の他、内部に空間を持つ機械部品の製造ができないという問題点があった。
【0006】
また、上記特許文献1に記載の積層造形法は、機械部品の各断面形状のそれぞれをドナー基板上に作製し、これらを精密に位置あわせをする工程を設ける必要があるため、製造工程が複雑になるという問題があった。さらに、従来の光造形方法では、造形物の解像度を上げることが困難であり、典型的な解像度は、数十μmであって、より高解像度を要するマイクロ機械部品の製造に用いることは困難であった。
【0007】
本発明は、上記背景に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、複雑な3次元構造の形成が可能であって、精度良く、簡便かつ迅速に形成することができるマイクロ機械部品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るマイクロ機械部品等の製造方法は、投影領域を単位として一括露光を繰り返すことにより、光硬化性樹脂液に選択的に光を照射して硬化樹脂層を形成し、該硬化樹脂層を順次積層して三次元構造を形成するものである。本発明は、マイクロ機械部品等の構造が、オーバーハング部を有する複雑な三次元構造である場合に、特に有効である。
【0009】
ここで、前記投影領域の面積が100mm以下の場合に、本発明に係る光造形方法を用いれば、より精度良く光学部品等を形成することができる。
同様に、前記硬化樹脂層の1層の厚さは10μm以下の場合に、本発明に係る光造形方法を用いれば、より精度良くマイクロ機械部品等を形成することができる。本発明に係るマイクロ機械部品等の製造方法は、前記光硬化性樹脂液を、ディジタルミラーデバイスによって反射された光によって硬化させる場合に好適に用いられる。
【0010】
また、本発明に係るマイクロ機械部品等の製造方法は、前記光硬化性樹脂液にセラミックス粉体を配合することにより、より強度を持たせたセラミックスを材料とするマイクロ機械部品等を製造することができる。また、前記光硬化性樹脂液にフィラーを配合することにより、当該フィラーの特性を兼ね備えたマイクロ機械部品等を製造することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、複雑な3次元構造の形成が可能であって、精度良く、簡便かつ迅速に形成することができるマイクロ機械部品の製造方法を提供することができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を適用した実施形態の一例について説明する。なお、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。
【0013】
[実施形態1(マイクロ機械部品の製造方法)]
図1は、本実施形態1に係るマイクロ機械部品を製造する光硬化造形装置(以下、「光造形装置」という)の装置構成の一例を説明するための図である。同図に示すように、光造形装置100は、光源1、ディジタルミラーデバイス(以下「DMD」と略記する)2、レンズ3、造形テーブル4、ディスペンサ5、リコータ6、制御部7、記憶部8等を備えている。
【0014】
光源1には、レーザ光線を発振可能なものが搭載されている。光源1から発生するレーザ光線を、後述する光硬化性樹脂液に照射せしめることにより、光硬化性樹脂液を硬化させることができる。従って、光硬化性樹脂液10を硬化可能な波長のレーザ光線を搭載する必要がある。光源1の具体例としては、405nmのレーザ光を発生させるレーザダイオード(LD)や紫外線(UV)ランプ等を挙げることができる。
【0015】
ディジタルミラーデバイス(DMD)2は、テキサス・インスツルメンツ社によって開発されたデバイスであり、CMOS半導体上に独立して動くマイクロミラーが数十万〜数百万個、例えば、48万〜131万個敷き詰められているものである。個々のマイクロミラーは、静電界作用によって、それぞれ独立に対角線を軸に約±10度、例えば、±12度程度傾けることが可能である。個々のマイクロミラーの角度を制御することにより、後述する造形テーブルに形成された光硬化性樹脂液の所望の位置に光照射することができる。
【0016】
DMD2に備えられたマイクロミラーは、各マイクロミラーのピッチの1辺の長さが約10μm、例えば、13.68μmの四角形の形状を有している。隣接するマイクロミラーの間隔は、例えば1μmである。本実施形態1で用いたDMD2の全体は、40.8×31.8mmの四角形状を有し(うち、ミラー部は、14.0×10.5mmの四角形状を有する。)、1辺の長さが13.68μmのマイクロミラー786,432個により構成されている。光源1から出射されたレーザ光線は、DMD2の構成部材であるマイクロミラーによって反射される。そして、DMD2において、集光レンズ3に向かって反射されたレーザ光線が造形テーブル4上の光硬化性樹脂液10に照射されることになる。
【0017】
レンズ3は、DMD2によって反射されたレーザ光線を光硬化性樹脂液10上に導き、投影領域を形成する役割を担う。レンズ3は、凸レンズを用いた集光レンズであってもよいし、凹レンズを用いてもよい。凹レンズを用いると、DMD2の実サイズよりも大きな投影領域を得ることができる。本実施形態1に係るレンズ3は、凸レンズからなる集光レンズであって、入射光を約15倍縮小し、光硬化性樹脂液10により形成されたコート層9上に集光している。
【0018】
造形テーブル4は、平板状の載置台からなる。造形テーブル4上で、光硬化性樹脂液10のコート層9が形成され、レンズ3を介してレーザ光線が照射されて光硬化性樹脂液10の硬化が行われる。造形テーブル4は、図示しない駆動機構、即ち移動機構によって、水平移動及び垂直移動が移動自在に構成されている。この駆動機構により、所望の範囲に亘って光造形を行なうことができる。ディスペンサ5は、光硬化性樹脂液10を収容し、予め定められた量の光硬化性樹脂液10を所定位置に供給可能なように構成されている。また、リコータ6は、例えば、ブレード機構と移動機構を備え、光硬化性樹脂液10を均一に塗布可能なように構成されている。
【0019】
制御部7は、露光データを含む制御データに応じて光源1、DMD2、造形テーブル4、ディスペンサ5、リコータ6を制御する。制御部7は、典型的には、コンピュータに所定のプログラムをインストールすることによって構成することができる。典型的なコンピュータの構成は、中央処理装置(CPU)とメモリとを含んでいる。CPUとメモリとは、バスを介して補助記憶装置としてのハードディスク装置などの外部記憶装置に接続される。この外部記憶装置が、制御部7の記憶部8として機能する。記憶部8として機能するフレキシブルディスク装置、ハードディスク装置、CD−ROMドライブ等の記憶媒体駆動装置は、各種コントローラを介してバスに接続される。フレキシブルディスク装置等の記憶媒体駆動装置には、フレキシブルディスク等の可搬型記憶媒体が挿入される。記憶媒体にはオペレーティングシステムと協働してCPUなどに命令を与え、本実施形態を実施するための所定のコンピュータプログラムを記憶することができる。
【0020】
記憶部8には、造形しようとする立体モデルを複数の層にスライスして得られる断面群の露光データを含む制御データが格納されている。制御部7は、記憶部8に格納された露光データに基づいて、主としてDMD2における各マイクロミラーの角度制御、造形テーブル4の移動(即ち、立体モデルに対するレーザ光の照射範囲の位置)を制御し、立体モデルの造形を指示する。
【0021】
コンピュータプログラムは、メモリにロードされることによって実行される。コンピュータプログラムは、圧縮したり、複数に分割して記憶媒体に記憶することができる。さらに、ユーザ・インターフェース・ハードウェアを備えることができる。ユーザ・インターフェース・ハードウェアとしては、例えば、マウスなどの入力をするためのポインティング・デバイス、キーボード、あるいは視覚データをユーザに提示するためのディスプレイなどがある。
【0022】
光硬化性樹脂液10としては、レーザ光線によって硬化するものを選定する。レーザ光線としては、例えば可視光、紫外光を好適に用いることができる。例えば、15μm以上(500mJ/cm)の硬化深度を有し、粘度が1500〜2500Pa・s(25℃)の405nm対応のアクリル系樹脂を用いることができる。
【0023】
次に、本実施形態1に係る光造形装置100の光造形動作について説明する。まず、ディスペンサ5に未硬化状態の光硬化性樹脂液10を収容する。造形テーブル4は初期位置にある。ディスペンサ5は、収容された光硬化性樹脂液10を所定量だけ造形テーブル4上に供給する。リコータ6は、光硬化性樹脂液10を引き伸ばすようにして掃引し、硬化させる一層分のコート層9を形成する。
【0024】
光源1から出射したレーザ光線は、DMD2に入射する。DMD2は、記憶部8に格納された露光データに応じて制御部7により制御され、制御部7により光硬化性樹脂液10により形成されたコート層9の所望の位置にレーザ光線が照射されるようにマイクロミラーの角度が調整される。これにより、そのマイクロミラーを反射したレーザ光線が集光レンズ3を介して光硬化性樹脂液10のコート層9に照射され、その他のマイクロミラーを反射したレーザ光線は光硬化性樹脂液10のコート層9に照射されない。光硬化性樹脂液10へのレーザ光線の照射は例えば0.4秒間行なわれる。このとき、光硬化性樹脂液10のコート層9への投影領域は例えば、1.3×1.8mm程度であり、0.6×0.9mm程度まで縮小することもできる。投影領域の面積は、通常、100mm以下であることが望ましい。
【0025】
レンズ3に、凹レンズを用いることにより、投影領域を6×9cm程度まで拡大することもできる。投影領域をこのサイズを超えて拡大すると、投影領域に照射されるレーザ光線のエネルギー密度が低くなるため、光硬化性樹脂液10の硬化が不十分となることがある。レーザ光線の投影領域のサイズよりも大きい立体モデルを形成する場合には、例えば造形テーブル4を移動機構によって水平移動させることにより、レーザ光線の照射位置を移動させて全造形領域を照射する。投影領域毎に1ショットずつレーザ光線の照射を実行していく。各投影領域に対するレーザ光線の照射の制御については後に詳述する。
【0026】
このようにして、投影領域を移動させて、各投影領域を単位としてレーザ光線の照射、即ち露光を実行することによって、光硬化性樹脂液10のコート層9が硬化し、第1層目の硬化樹脂層が形成される。1層分の積層ピッチ、即ち、硬化樹脂層1層の厚みは、例えば、1〜50μm、好ましくは、2〜10μm、さらに好ましくは、5〜10μmである。従来の光造形方法では、造形物の解像度を上げることが困難であり、典型的な解像度は、数10μmであって、より高解像度を要するマイクロ機械部品の製造に用いることは困難であった。本実施形態1に係る光造形方法によれば、例えば、解像度を積層方向に5μm程度、造形テーブルと平行な平面方向解像度を2μm程度に上げることができる。
【0027】
続いて、同様の工程で所望形状の立体モデルの2層目を同時形成する。具体的には、1層目として形成された硬化樹脂層の外側にディスペンサ5より供給された光硬化性樹脂液10をリコータ6によって立体モデルを越えて引き伸ばされるように均一厚さに塗布する。そして、レーザ光線を照射することにより、第2層目の硬化樹脂層を第1層目の硬化樹脂層の上に形成する。以下同様にして第3層目以降の硬化樹脂層を順次堆積させる。そして、最終層の堆積終了後、造形テーブル4上に形成された造形物を取り出す。造形物は、表面に付着した未硬化の光硬化性樹脂液を洗浄その他の方法で除去する。その後、必要に応じて造形物は、紫外線ランプ等により照射し又は加熱して、硬化を更に進行させてもよい。
【0028】
次に、本実施形態に係る製造方法により製造することができるマイクロ機械部品の一例について説明する。マイクロ機械部品の三次元構造は、上記の光造形装置の解像度の範囲内であれば、任意の構造のものを製造することができる。例えば、マイクロネジ、マイクロ歯車、マイクロギヤ、マイクロモータのハウジング、マイクロタービンのハウジング、マイクロバネ、マイクロコイル、マイクロカムやロッドなどの機構部品等、更にはこれら部品を適切な位置に配置するための冶具やシャーシ等を製造することができる。本実施形態に係るマイクロ機械部品等の製造方法は、特に、オーバーハング部を有するような複雑な三次元構造を有するマイクロ機械部品等の製造に好適である。オーバーハング部を有する三次元構造の具体例としては、図2に示すようなマイクロタービン等を挙げることができる。
【0029】
ここで、「オーバーハング部を有する」とは、その三次元構造体をいかなる方向に回転させて設置した場合でも、垂直方向から見てオーバーハング部が少なくとも一部に存在することをいうものとする。また、オーバーハング部とは、ある部分の水平幅よりもより上部の水平幅の方が大きい構造を有する部分であって、典型的には、柱部と柱部の上に接して柱部よりも水平方向に張り出したいわば天井部からなる構造であるが、直線的な構造に限定するものではなく、垂直方向に立ち上がりつつ水平方向へ張り出す曲面を有する形状や、いわゆる逆テーパー形状等も含む概念である。例えば、円筒形状は、筒状側面を水平面に接した状態で垂直方向から見ると下半分がオーバーハング部であるが、底面を水平面に接した状態で垂直方向から見るとオーバーハング部は無いので、オーバーハング部を有する三次元構造ではない。他方、球形状は、オーバーハング部を有する三次元構造である。本発明の製造方法が、オーバーハング部を有する三次元構造の造形に特に適しているのは、ある方向から見ればオーバーハング部を有しない構造であれば、オーバーハング部を本質的に製造困難な他の製造方法を用いてもその三次元構造の造形が可能となる場合もあり得るからである。
【0030】
図2に示すマイクロタービン20は、上記製造方法に従って製造したものである。このマイクロタービン20は、3次元曲面形状のブレード21を9枚備えている。同図に示す例においては、硬化樹脂層の1層辺りの厚みを10μmとし、全総数を50層(全厚みを5mm)とした。
【0031】
本実施形態1に用いられる光硬化性樹脂液は、特に限定されるものではないが、通常、ラジカル重合性化合物及び/又はカチオン重合性化合物を有してなる光硬化性樹脂液組成物が好適に用いられる。また、これらの光硬化性樹脂液組成物には、通常、ラジカル重合又はカチオン重合にそれぞれ対応した光重合開始剤が添加される。
【0032】
上述の光造形方法により得られた硬化物からなる立体形状物は、光造形装置から取り出し、その表面や内部に残存する未反応の組成物(未硬化)を除去した後、必要に応じて洗浄する。ここで、洗浄剤としては、イソプロピルアルコール、エチルアルコール等のアルコール類に代表されるアルコール系有機溶剤;アセトン、酢酸エチル、メチルエチルケトン等に代表されるケトン系有機溶剤;テルペン類に代表される脂肪族系有機溶剤が挙げられる。
【0033】
上記工程により、光硬化性樹脂の硬化物からなるマイクロ機械部品を得ることができる。上記製造方法によれば、軽量化を達成できるマイクロ機械部品を製造することができる。また、樹脂材料からなるため、ディスポーザブル化用途に用いるのに好適である。ディスポーザブル化による廃棄数量の増大に対しても、焼却処理にて対応が可能である。また樹脂材料は、簡便かつ迅速に製造することができるので、装置等の試作用のマイクロ機械部品として利用するのに好適である。
【0034】
上記マイクロ機械部品をセラミックで製造したい場合には、光硬化性樹脂液組成物に、セラミック粉体を配合することができる。セラミック粉体の数平均粒径は、電子顕微鏡法による測定で、通常、0.01〜0.5μmである。好ましくは、0.02〜0.3μmであり、さらに好ましくは、0.05〜0.2μmである。セラミック粉体の粒径は、電子顕微鏡法により測定されるが、特に、走査型電子顕微鏡法が好ましい。セラミック粉体の形状は、粒径を定義できる程度の粒状性を有していれば、特に限定されるものではない。例えば、球状に限らず、粉砕体等であってもよい。球状以外の形状である場合の粒径は、電子顕微鏡像における最大径により定義される。光硬化性樹脂液へのセラミック粉体の混合量は、特に限定されないが、光硬化性樹脂液10より形成されたコート層9がレーザ光線により十分に硬化可能な量にする必要がある。
【0035】
セラミック粉体を構成する材質は、照射波長の光を実質的に吸収しないものであれば特に制限されない。例えば、アルミナ、ジルコニア、チタニア、酸化亜鉛、フェライト、チタン酸バリウム、アパタイト、シリカ等の酸化物、炭化ジルコニウム、炭化ケイ素等の炭化物、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、サイアロン(SiAlON)等の窒化物、又はこれらの混合物等の各種セラミックスを用いることができる。通常、(A)成分としては、アルミナ、ジルコニア、シリカ、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、又はこれらの混合物等が好適に用いられる。
【0036】
セラミック粉体を配合した光硬化性樹脂液を光硬化させて得られた立体形状物を焼成すると、セラミックス焼成体からなるマイクロ機械部品となる。上記光硬化性樹脂液の硬化物に比して、マイクロ機械部品の機械的強度、耐久性、耐熱性の高いマイクロ機械部品を得ることができる。なお、ここで用いる焼成方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0037】
本実施形態に係るマイクロ機械部品の耐熱性を高めたい場合には、光硬化性樹脂液組成物に、耐熱性を向上できるフィラー(以下、単に「耐熱性フィラー」と略記する)を配合することができる。耐熱性フィラーの数平均粒径は、電子顕微鏡法による測定で、通常、10〜700nmである。好ましくは、50〜500nmである。耐熱性フィラーの粒径は、電子顕微鏡法により測定されるが、特に、走査型電子顕微鏡法が好ましい。フィラーの形状は、粒径を定義できる程度の粒状性を有していれば、特に限定されるものではない。例えば、球状に限らず、粉砕体等であってもよい。球状以外の形状である場合の粒径は、電子顕微鏡像における最大径により定義される。
【0038】
好適に用いることができる耐熱性フィラーとしては、例えば、有機ポリマー粒子や無機粒子を挙げることができる。有機ポリマー粒子としては、エラストマー粒子等、特に、コア・シェル構造を有するエラストマー粒子等が好ましく、無機粒子としては、シリカ粒子等が好ましい。フィラーを構成する材質は、照射波長の光を実質的に吸収しないものであれば特に制限されない。フィラーの添加量は、特に限定されないが、光硬化性樹脂がレーザ光線により十分に硬化可能な量にする必要がある。なお、耐熱性フィラーに代えて、導電性フィラーや磁性フィラー等を光硬化性樹脂液に混合させ、得られる硬化物の特性を代えてもよい。各種フィラーを添加することにより、所望の物性を有するマイクロ機械部品を得ることができる。
【0039】
本実施形態1によれば、光照射工程で扱う断面を隣接する断面に切り替えながら、光照射と光硬化性樹脂液のコートを繰り返すことによって、所望のマイクロ機械部品を精度良くかつ簡便に造形することができる。また、記憶部8に格納された露光データを書き換えるのみで、形状の異なるマイクロ機械部品を簡便かつ迅速に製造することができるというメリットを有する。従って、少量多品種のマイクロ機械部品やオーダメイドのマイクロ機械部品を提供する場合に特に適している。また、オーバーハング構造を有する構造を、簡便かつ迅速に形成することができる。さらに、光硬化性樹脂液に、セラミック粉体や各種フィラーを混合することにより、機械的強度や、耐熱性等を高めることができるので、各種用途に応じた特性を有するマイクロ機械部品を簡便に製造することができる。
【0040】
[実施形態2(マイクロ機械部品用型の製造方法)]
次に、マイクロ機械部品用型の製造方法について説明する。基本的な光造形方法は、上記実施形態1と同様であるが、以下の点が異なる。すなわち、上記実施形態1においては、光造形方法によりマイクロ機械部品自体を造形したが、本実施形態2においては、マイクロ機械部品の製造に用いられる型を光造形方法により造形して製造する点が異なる。なお、ここでいう型とは、雌型とマスター型を含む。いずれも当該光造形方法により造形、製造することができる。ここで、雌型とは、その型から形状を写し取ってマイクロ機械部品を製造する型のことを言い、マスター型とは、最終的に製造しようとするマイクロ機械部品の原型であって、マスター型の形状を写し取って前述の雌型を製造するための型のことを言う。
【0041】
雌型としては、例えば、第1の雌型基板と、第2の雌型基板とを接合することによって、その内部空間が目的とする造形物の形状を有しているものを用いることができる。この場合、第1の雌型基板と第2の雌型基板には、接合手段のほか、位置決め手段を設ける。接合手段及び位置決め手段の具体例としては、第1の雌型基板の枠体部等に凸部を設け、第2の雌型基板に、前記凸部と勘合する凹部を設け、これらを勘合せしめる方法を挙げることができる。また、ピン等の係合部及びこのピンに係合する被係合部を第1の雌型基板、第2の雌型基板に設けてもよい。また、第1の雌型基板及び第2の雌型基板を接合したときに形成される内部空間にマイクロ機械部品形成用の液体を注入するための注入口を、第1の雌型基板又は/及び第2の雌型基板に光造形時に同時に形成しておく。
【0042】
雌型として、第1の雌型基板及び第2の雌型基板により構成する方法に代えて、所望の造形物の内部空間構造を有する一体的な雌型を直接光造形方法により製造してもよい。この場合にも、内部空間にマイクロ機械部品形成用の液体を注入するための注入口を同時に光造形方法により形成しておく。なお、光造形時に、注入口を形成する方法に代えて、雌型を造形後にマイクロ機械部品形成用の液体を注入するための貫通孔を開けてもよい。
【0043】
雌型からマイクロ機械部品を製造する場合には、雌型の中に、例えば、加水分解性基を有するシラン化合物等を注入して、加熱等により加水分解・縮合反応を生じせしめて、雌型の形状を写し取ったポリシロキサン等からなる三次元構造物を得る。この三次元構造物を雌型から剥離させることにより、マイクロ機械部品を得ることができる。第1の雌型基板と第2の雌型基板を接合した場合には、これらを分離しマイクロ機械部品を得ればよい。また、内部空間構造を有する一体的に形成された雌型の場合には、メス等により当該雌型を切開し、マイクロ機械部品を取り出すことができる。マイクロ機械部品形成用の液体としては、マイクロ機械部品に要求される機械的強度、耐久性等の要件を満たす材料であって、型に流し込んで充填した後に適当な方法で硬化できる材料であればよく、上記例に限定されるものではない。例えば、溶融金属を用いてもよいし、アクリル系樹脂等の熱硬化性の未硬化樹脂を充填した後に、熱を加えて型の内部で硬化させたり、熱可塑性樹脂を熱溶融して充填した後に、型内部を冷却することにより硬化させたりしてもよい。また、これらの樹脂にセラミック粉体やフィラーを配合することもできる。
【0044】
雌型の構造が複雑である場合には、雌型を破壊しなければ剥離させることができない場合がある。このような場合には、例えば、300℃×6時間程度の熱処理により雌型を構成する硬化樹脂を焼失させたり、エタノール等の有機溶剤に浸漬して超音波処理を1時間程度行うことにより雌型を構成する硬化樹脂を膨潤させる等の方法により、雌型を破壊することができる。光硬化性樹脂液からなる雌型は、剥離のために破壊しない場合であっても、金型等に比較すると機械強度が劣るため、マイクロ機械部品を製造することができる回数は限定的である。しかし、金型と異なり、簡便且つ迅速に雌型が得られるため、様々な形状のマイクロ機械部品を試作する場合等に有効である。
【0045】
マイクロ機械部品の雌型をセラミック材料としたい場合には、上記実施形態1と同様の方法により光硬化性樹脂液組成物にセラミック粉体を配合することができる。これにより、上記光硬化性樹脂液の硬化物に比して機械的強度の高いマイクロ機械部品の雌型を得ることができる。これにより、複製回数、耐久性を向上させることができる。また、上記実施形態1と同様の方法により光硬化性樹脂液組成物にフィラーを配合することにより、フィラー含有のマイクロ機械部品の雌型を得ることもできる。
【0046】
マイクロ機械部品の雌型は、真空注型法により製造してもよい。真空注型法とは、FRPやシリコンゴムを金型の代わりに複製用の型として使用し、真空中でその型に対して樹脂を流し込み、複製を製作する方法をいう。例えば、真空注型法としては、以下の製造方法を採用することができる。光硬化法によりマイクロ機械部品のマスター型を製造する。この際、雌型から成形樹脂等を注入するための注入口も同時に形成しておく。次いで、これを型枠内にセットする。型枠のサイズ、マスター型のサイズにより、シリコン樹脂量を計算し、計量する。その後、硬化剤をシリコン樹脂に注入して攪拌して予備脱泡し、これを型枠内に注入して真空脱泡する。これにより、シリコン樹脂を隅々まで充填することができる。シリコン樹脂の硬化を促進させるために、一定温度の熱を所定時間加える。
【0047】
シリコン樹脂が完全に硬化した後、型枠を取り外し、シリコン樹脂にメスを入れて雌型を切開し、マスター型を取り外す。その後、成形樹脂量を計算して計量し、2液硬化性のポリウレタン樹脂等の硬化性樹脂を、真空状態でシリコンからなる雌型の注入口より注入する。真空状態と大気圧の差により、樹脂を雌型の内部空間構造の隅々にまで行き渡らせることができる。その後、定温で加熱硬化せしめる。硬化後、常温まで冷却し、型枠を取り外すことによりマイクロ機械部品を得ることができる。マイクロ機械部品の雌型としてシリコン樹脂を用いているので、柔軟性に優れる。このため、マスター型の破損を少なくすることができる。雌型としてシリコン樹脂を用いた場合には、一般的には20〜50個程度のマイクロ機械部品を得ることができる。従って、少量を製造したい場合に特に適している。
【0048】
また、マイクロ機械部品の雌型として、ロストワックス法を用いてもよい。ロストワックス法は、まず、光硬化法によりマイクロ機械部品のマスター型を製造する。この際、雌型から内部空間にマイクロ機械部品形成用の樹脂液や溶融金属等を注入するための注入口も同時に形成しておく。次いで、このマスター型に石膏やセラミックのスラリーを塗布しては固める工程を繰り返し、これを焼成することにより、マイクロ機械部品の雌型を得る。ロストワックス法により製造されたマイクロ機械部品の雌型によれば、溶融金属を流し込めるだけの耐熱性を兼ね備えているので、金属製のマイクロ機械部品を得ることができる。これにより、機械的強度の高い金属製のマイクロ機械部品を得ることができる。
【0049】
マスター型からマイクロ機械部品を製造する場合には、例えば、マスター型の表面にNi電気鋳造を行った後、マスター型を剥離してマスター型の形状を写し取った雌型を作製する。これにより、金型の雌型を得ることができる。金属性の雌型とすることにより、雌型の耐久性を大幅に向上させることができる。この雌型には、前述と同様に加水分解性基を有するシラン化合物を注入・反応させ、雌型から剥離させることによりポリシロキサン製のマイクロ機械部品を得ることができる。また、溶融金属を雌型に流し込み、金属からなるマイクロ機械部品を得ることもできる。
【0050】
本実施形態2によれば、光照射工程で扱う断面を隣接する断面に切り替えながら、光照射と光硬化性樹脂液のコートを繰り返すことによって、所望のマイクロ機械部品用型を精度良くかつ簡便に造形することができる。また、本実施形態2に係る製造方法により製造されたマイクロ機械部品用型を用いて、樹脂材料、金属材料、セラミック材料等の各種材料からなるマイクロ機械部品を製造することができる。このため、各種用途に最適な材料からなるマイクロ機械部品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】実施形態1に係る光造形装置の概略構成の一例を示す説明図。
【図2】実施形態1に係る光造形装置により製造したマイクロタービンの一例を示す写真。
【符号の説明】
【0052】
1 光源
2 DMD
3 集光レンズ
4 造形テーブル
5 ディスペンサ
6 リコータ
7 制御部
8 記憶部
9 コート層
10 光硬化性樹脂液
20 マイクロタービン
100 光造形装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
投影領域を単位として一括露光を繰り返すことにより、光硬化性樹脂液に選択的に光を照射して硬化樹脂層を形成し、該硬化樹脂層を順次積層して三次元構造を形成することを特徴とする、マイクロ機械部品の製造方法。
【請求項2】
前記マイクロ機械部品の三次元構造が、オーバーハング部を有する、請求項1に記載のマイクロ機械部品の製造方法。
【請求項3】
前記投影領域の面積は、100mm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学部品の製造方法。
【請求項4】
前記硬化樹脂層の1層の厚さは10μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のマイクロ機械部品の製造方法。
【請求項5】
前記光硬化性樹脂液は、ディジタルミラーデバイスによって反射された光によって硬化することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のマイクロ機械部品の製造方法。
【請求項6】
前記光硬化性樹脂液が、セラミックス粉体又はフィラーを含有するものである、請求項1〜5のいずれか1項に記載のマイクロ機械部品の製造方法。
【請求項7】
投影領域を単位として一括露光を繰り返すことにより、光硬化性樹脂液に選択的に光を照射して硬化樹脂層を形成し、該硬化樹脂層を順次積層して三次元構造を形成することを特徴とする、マイクロ機械部品用型の製造方法。
【請求項8】
前記マイクロ機械部品の三次元構造が、オーバーハング部を有する、請求項7に記載のマイクロ機械部品用型の製造方法。
【請求項9】
前記投影領域の面積は、100mm以下であることを特徴とする請求項7又は8に記載の光学部品用型の製造方法。
【請求項10】
前記硬化樹脂層の1層の厚さは10μm以下であることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載のマイクロ機械部品用型の製造方法。
【請求項11】
前記光硬化性樹脂液は、ディジタルミラーデバイスによって反射された光によって硬化することを特徴とする請求項7〜10のいずれか1項に記載のマイクロ機械部品用型の製造方法。
【請求項12】
前記マイクロ機械部品用型が、マイクロ機械部品を製造するための雌型である、請求項7〜11のいずれか1項に記載のマイクロ機械部品用型の製造方法。
【請求項13】
前記マイクロ機械部品用型が、マイクロ機械部品用雌型を製造するためのマスター型である、請求項7〜11のいずれか1項に記載のマイクロ機械部品用型の製造方法。
【請求項14】
前記光硬化性樹脂液が、セラミックス粉体又はフィラーを含有するものである、請求項12又は13に記載のマイクロ機械部品用型の製造方法。
【請求項15】
請求項7〜14のいずれか1項に記載のマイクロ機械部品用型の製造方法により製造されたマイクロ機械部品用型を用いて製造されたことを特徴とするマイクロ機械部品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−21993(P2007−21993A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−210155(P2005−210155)
【出願日】平成17年7月20日(2005.7.20)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】