説明

マイクロ波加熱装置

【課題】回転機構を用いないで、被加熱物へ均一かつ効率よくマイクロ波を照射させることができるマイクロ波加熱装置を提供する。
【解決手段】アプリケータ10は、最小限の容積の中で金属置き台11の上面に食品などの被加熱物12が載置されている。また、被加熱物12の上部には、円錐状に切り欠いたフッ素樹脂スペーサ13が配置されている。そして、T型導波管1で合成されたマイクロ波が、円錐状に切欠いたフッ素樹脂スペーサ13を介して被加熱物12に照射されるように構成されている。これにより、T型導波管1から伝送された90度の電界方向差を持つ合成マイクロ波は、フッ素樹脂スペーサ13の波長短縮作用によって屈折し、被加熱物12のエリアに集中して均一に照射される。したがって、ターンテーブルなどを設けなくても被加熱物12を均一に効率よく加熱することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波電力を被加熱物へ照射するマイクロ波加熱装置に関し、特に、食品用パック等に収納された個食食品の加熱加工や殺菌などを行うマイクロ波加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マイクロ波電力を利用して食品などの被加熱物を加熱するアプリケータとして電子レンジなどが広く知られている。このような電子レンジを用いて食品用パックに収納されている個食食品を再加熱することも広く行われている。この場合、マイクロ波照射室となる電子レンジ庫内の形状が立方体であり、且つ、電子レンジ庫内容積が個食食品のそれに対しかなり大きくなっているのが一般的である。そのため、被照射物となる個食食品は、均一にマイクロ波が照射されず、所謂、加熱ムラの問題を生じる。したがって、電子レンジでは、マイクロ波を撹乱させるスターラ(金属回転羽根)や、トレイ(受け皿:置き台)が回転するターンテーブルなどでマイクロ波照射の均一化を図っている。
【0003】
また、電子レンジ庫内が大きい分、庫内壁面でのマイクロ波損失が大きくなり、結果的には、加熱効率(電子レンジ庫内へ供給したマイクロ波電力に対する食品が吸収したマイクロ波電力の比)が悪いものとなる。したがって、複数のマイクロ波発生器を用いて電子レンジ庫内を均一に照射するなどして、被加熱物の加熱ムラを少なくしたり加熱効率を向上させたりする工夫がなされている。
【0004】
また、矩形導波管と円形導波管とを用いて被加熱物付近にマイクロ波を集中させ、加熱効率を向上させる技術も開示されている(例えば、特許文献1参照)。この技術によれば、矩形導波管にマグネトロンを取り付け、矩形導波管から円形導波管へ伝送されたマイクロ波電力により、その円形導波管に収納された被加熱物にマイクロ波電力を集中させているので、その被加熱物を効率的に加熱することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−299084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、工業用で個食食品の加熱加工や殺菌を行う場合において、マイクロ波電力を均一に照射することは当然であるが、加熱効率を最大限に向上させて被加熱物に照射することができる個食食品専用のマイクロ波加熱装置の要求が高まっている。また、マイクロ波加熱装置の信頼性の面から、マイクロ波照射室であるアプリケータ内にスターラやターンテーブルの回転機構などを不要とするマイクロ波加熱装置が要求されている。また、特許文献1に開示された技術においては、スターラやターンテーブルの回転機構を用いないで加熱効率を上げることができるが、円形導波管と相似な形状の被加熱物でない場合は、その被加熱物にマイクロ波を集中させることができない場合がある。そのような場合は加熱効率を向上させることができない。この課題は、家庭用や業務用のマイクロ波加熱装置(電子レンジ)においても同じである。
【0007】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、回転機構を用いないで、被加熱物へ均一かつ効率よくマイクロ波を照射させることができるマイクロ波加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のマイクロ波加熱装置は、マイクロ波電力を伝送する導波管と、この導波管から伝送されたマイクロ波を被加熱物へ均一分散させる形状であって、かつ比誘電率が1より大きい誘電体板を有し、導波管から照射されたマイクロ波電力を、誘電体板を介して被加熱物へ照射させるアプリケータとを備える構成を採っている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、比誘電率が1より大きく誘電損失が小さい誘電体板(例えば、テフロン(登録商標)などのフッ素樹脂板)の形状を最適化することにより、マイクロ波がフッ素樹脂板を通過するときの波長短縮効果によってマイクロ波を屈折させて、被加熱物へマイクロ波を均一に照射させることができる。その結果、アプリケータ内にマイクロ波を散乱させるスターラや被加熱物を回転させるターンテーブルなどを設けなくても、被加熱物へマイクロ波を効率よく均一に照射させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】2.45GHzのマイクロ波電力を合成するT型導波管の構成図であり、(a)はT型導波管1の断面図、(b)は(a)のA面を示し、(c)は(a)のB面を示す。
【図2】図1に示すT型導波管1におけるC面の電界方向を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係るアプリケータの構成断面図である。
【図4】本発明による実施形態のマイクロ波加熱装置の効果を比較例と対比して実測した温度分布図であり、(a)は比較例の実測結果、(b)は本発明による実施形態の実測結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下図面を参照しながら、本発明に係るマイクロ波加熱装置の実施形態について詳細に説明する。なお、実施形態を説明するための全図において、同一要素は原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0012】
本実施形態のマイクロ波加熱装置は、一例として、T型導波管1を用いて被加熱物12(図3参照)にマイクロ波電力を照射しているので、まずT型導波管1の構成について説明する。図1は、2.45GHzのマイクロ波電力を合成するT型導波管1の構成図であり、図1(a)はT型導波管1の断面図を示し、図1(b)は図1(a)のA面を示し、図1(c)は図1(a)のB面を示している。図1(a)に示すように、T型導波管1は、主導波管1aと副導波管1bが直交して構成されている。
【0013】
すなわち、図1(a)に示すT型導波管1は、図1(b)に示すようなA面の開口部の寸法が80mm×80mmの主導波管1aと、図1(c)に示すようなB面の開口部の寸法が80mm×40mmの副導波管1bとが直交した構成となっている。このような構成により、主導波管1aのA面側から供給されたマイクロ波電力と、副導波管1bのB面側から供給されたマイクロ波電力とが、T型導波管1の内部で合成される。そして、合成されたマイクロ波電力は主導波管1aのC面側に伝送されてアプリケータ10(図3参照)へ供給される。
【0014】
図2は、図1のT型導波管1におけるC面の電界方向を示す図である。すなわち、T型導波管1のC面で合成されたマイクロ波電力の加熱に寄与する電界方向(つまり、図1(a)のC面の電界方向)は、図2に示す通り、A面側から供給されたマイクロ波電力が形成する電界方向(以下、主マイクロ波の電界方向1aeという)と、B面側から供給されたマイクロ波電力が形成する電界方向(以下、副マイクロ波の電界方向1beという)は、90度の方向差を持ち、C面側からアプリケータ10(図3参照)へ供給される。
【0015】
このようにして、90度の方向差を持つ両者のマイクロ波電界(つまり、主マイクロ波の電界方向1aeと副マイクロ波の電界方向1be)は、主導波管1aのC面側から図3に示すアプリケータ(マイクロ波照射室)10内に供給される。したがって、アプリケータ10への供給電力は、主導波管1aを伝送したマイクロ波電力と副導波管1bを伝送したマイクロ波電力との和となる。このようにして、2つのマイクロ波電力が合成された高出力のマイクロ波電力をアプリケータ10へ供給することができる。
【0016】
図3は、本発明の実施形態に係るアプリケータ10の構成断面図である。図3に示すように、アプリケータ10は円筒型であって、加熱効率を最大化する観点から最小限の容積で構成され、その容積の内径はΦ150mm、高さは75mmである。このような容積の中で、金属置き台11の上面に食品などの被加熱物12が載置されている。
【0017】
また、被加熱物12の上部には、円錐状に切り欠いたフッ素樹脂スペーサ13が配置されている。このフッ素樹脂スペーサ13は、外径がΦ150mm、厚みが30mmであり、被加熱物12に対向する面に円錐状の切り欠きが形成されている。この切り欠きの形状は、底面の直径がΦ150mm、頂部の直径がΦ20mmの円錐形状となっている。そして、T型導波管1で合成されたマイクロ波電力が、円錐状に切欠いたフッ素樹脂スペーサ13を介して被加熱物12に照射されるようになっている。
【0018】
すなわち、T型導波管1は、円筒状のアプリケータ10の上面側に位置し、その真下に、円錐状に切り欠いた形状のフッ素樹脂スペーサ13が円筒状のアプリケータ10の内面に取付けられている。
【0019】
したがって、T型導波管1から伝送された90度の電界方向差を持つ合成マイクロ波電力は、フッ素樹脂スペーサ13を介し被加熱物12である食品に照射される。フッ素樹脂は一般的に比誘電率εが2程度(2.45GHz時)であり、マイクロ波損失(tanδ)が少ないことから、マイクロ波透過材として仕切り板等の目的で一般的に使用されている。つまり、被加熱物12から発生した水蒸気や油の蒸気が導波管内に流れ込まないように、薄い仕切り板としてフッ素樹脂が用いられている。
【0020】
フッ素樹脂を通過するマイクロ波の速さは真空中の1/√εとなり、波長も真空中の波長λoの1/√ε倍となる。つまり、マイクロ波がフッ素樹脂スペーサ13を通過する間は、マイクロ波の波長が短縮化することから、フッ素樹脂スペーサ13の形状を円錐状に切り欠いて最適化することにより、マイクロ波を屈折させて被加熱物12全体へ分散させて均一に照射させることができるので、被加熱物12に効率よくマイクロ波を照射させることが可能となる。
【0021】
さらに詳しく説明すると、円錐状に切り欠いた形状のフッ素樹脂スペーサ13は、光学系の凹レンズと同様の屈折作用を呈するので、T型導波管1からアプリケータ10の内部へ導入された合成マイクロ波は、フッ素樹脂スペーサ13によって屈折し、被加熱物12全体に分散しながら、被加熱物12のエリアへ集中して照射させることができる。したがって、被加熱物12に比べてアプリケータ10の容積が大きくても、フッ素樹脂スペーサ13の形状を被加熱物12の形状に合わせて最適化すれば、マイクロ波を被加熱物12へ集中させ、かつ被加熱物12に均一に照射させることができるので、被加熱物12を効率的に加熱することができる。
【0022】
なお、金属板やパンチングメタルからなる金属置き台11の下部には、ドレインを受けるためのドレイン受け皿14及びドレインを排出するためのドレインピット15が設けられている。金属置き台11の代わりにマイクロ波透過性の材質で置き台を構成し、このドレイン受け皿14を金属材料で構成すれば、上部から照射されたマイクロ波をドレイン受け皿14で反射させて被加熱物12を照射させることができる。これによって、被加熱物12をさらに効率よく加熱することができる。
【0023】
以上述べたように、本発明のマイクロ波加熱装置によれば、テフロン(登録商標)などのフッ素樹脂板の形状を最適化することにより、マイクロ波がフッ素樹脂板を出入りするときマイクロ波を屈折させて、被加熱物12へマイクロ波を均一に照射させることができる。その結果、アプリケータ10内にマイクロ波を散乱させるスターラや被照射物を回転させるターンテーブルなどがなくても、被加熱物12へマイクロ波を均一に照射させることができる。補足すると、マイクロ波を被加熱物12に選択的に照射でき、かつ、選択的にマイクロ波が照射された被加熱物12においては、均一な加熱ができる。
【0024】
図4は、本発明による実施形態のマイクロ波加熱装置の効果を比較例と対比して実測した温度分布図であり、図4(a)は比較例の実測結果、図4(b)は本実施形態の実測結果を示している。すなわち、この図は、図3に示す円錐状に切り欠いたフッ素樹脂スペーサ13の有無によって、丸型パックに収納された食品をマイクロ波加熱した場合の温度分布を赤外線放射温度計で実測したものであり、図4(a)はフッ素樹脂スペーサ13がない場合、図4(b)はフッ素樹脂スペーサ13がある場合の温度分布を示したものである。
【0025】
図4から明らかなように、フッ素樹脂スペーサ13がある場合、図4(b)の方が被加熱物12に均一にマイクロ波が照射され、かつ加熱温度も高くなっていることがわかる。つまり、本発明によるマイクロ波加熱装置を用いることにより、被加熱物12の加熱効率が高くなり、かつ、被加熱物12へ均一に照射させることができる。
【0026】
すなわち、比誘電率が1より大きく、誘電損失(tanδ)が小さい、誘電体に最適化した切り欠きを設けたスペーサを用いれば、上記実施形態と同様の作用効果を呈することができる。このようにして、マイクロ波を被加熱物12へ均一に照射すれば、マイクロ波撹乱用の金属回転羽(スターラ)や被照射物を回転させるターンテーブルを用いる必要はなくなるので、回転機構が不要になってマイクロ波加熱装置の信頼性を一段と高めることができる。
【0027】
以上、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は前記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、テフロン(登録商標)など(フッ素樹脂)に限ることはなく、円錐状に切り欠いたシリコーン樹脂製スペーサを介在させても、被加熱物12にマイクロ波を均一に照射させることができる。
【0028】
なお、外環形状がリング状を呈する食品や、トレイに盛られた状態で中央部が窪んだ食品の場合は、中央部にマイクロ波を集中的に照射するよりも、周囲にマイクロ波を照射した方が良好な加熱(加熱に要する時間の短縮)ができる。そのような場合は、スペーサの形状を適宜改定して、マイクロ波が被加熱物12の中央よりも周囲に多く照射されるようにする。
あるいは、中央部が盛り上がった食品については、中央部の加熱が遅れる。そのような場合には、スペーサの形状を適宜改定して、マイクロ波が被加熱物12の中央部に多く照射されるようにする。
【0029】
また、アプリケータ10内を、スペーサ13などを用いて密閉加圧可能にすることで、食品からの水分の損失防止と、アプリケータ10内に充満させたスチームによる被加熱物12の均一な加熱とができる。
【0030】
また、スペーサ13を取り替え可能にしておくことで、単にスペーサ13を取り替えるだけで、マイクロ波加熱装置の加熱特性を一変させることができる。
このような対処で、食品の形状や目的に応じた加熱ができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明によれば、被加熱物の加熱効率が高く、かつ、被加熱物への均一照射ができるので、個食食品の加熱加工や殺菌などを行うマイクロ波加熱装置などに有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 T型導波管
1a 主導波管
1b 副導波管
1ae 主マイクロ波の電界方向
1be 副マイクロ波の電界方向
10 アプリケータ(マイクロ波照射室)
11 置き台
12 被加熱物(食品)
13 フッ素樹脂スペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波電力を伝送する導波管と、
前記導波管から伝送されたマイクロ波を被加熱物へ均一分散させる形状であって、かつ比誘電率が1より大きい誘電体板を有し、前記導波管から照射されたマイクロ波電力を、該誘電体板を介して被加熱物へ照射させるアプリケータと、
を備えることを特徴とするマイクロ波加熱装置。
【請求項2】
前記アプリケータは円筒形であって、前記誘電体板は円板状のフッ素樹脂スペーサであることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波加熱装置。
【請求項3】
前記フッ素樹脂スペーサは、前記導波管から照射されたマイクロ波電力が前記被加熱物へ均一分散するように円錐形の切り欠きが設けられていることを特徴とする請求項2に記載のマイクロ波加熱装置。
【請求項4】
前記アプリケータは円筒形であって、前記誘電体板は円板状のシリコーン樹脂製スペーサであることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波加熱装置。
【請求項5】
前記シリコーン樹脂製スペーサは、前記導波管から照射されたマイクロ波電力が前記被加熱物へ均一分散するように円錐形の切り欠きが設けられていることを特徴とする請求項4に記載のマイクロ波加熱装置。
【請求項6】
前記導波管は、第1のマイクロ波電力を伝送する主導波管と第2のマイクロ波電力を伝送する副導波管とが、それぞれのマイクロ波によって発生する電界方向が直交するように接続されたT型導波管であることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載のマイクロ波加熱装置。
【請求項7】
前記T型導波管は、前記主導波管の開口部の寸法が80mm×80mmであり、前記副導波管の開口部の寸法が80mm×40mmであることを特徴とする請求項6に記載のマイクロ波加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−182653(P2010−182653A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−27847(P2009−27847)
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【出願人】(000233228)日立協和エンジニアリング株式会社 (35)
【出願人】(000001812)株式会社サタケ (223)
【Fターム(参考)】