説明

マイクロ波焼成炉及びマイクロ波焼成炉の金属キャビティ内部への金属部材取り付け方法

【課題】金属部材と金属キャビティとの間における放電の発生を防止できるとともに、少ない作業工数で金属部材を金属キャビティに取り付けることができ、しかも金属部材の取り外しを自由に行うことができるマイクロ波焼成炉の金属キャビティ内部への金属部材取り付け方法を提供する。
【解決手段】1〜5mmの間隔で金属板30を金属キャビティ13に取り付けて、金属板30と金属キャビティ13との間の電界強度を1kV/mm未満に抑えるようにした。これにより、金属板30と金属キャビティ13との間の放電を防止でき、放電による金属キャビティ13の破損を防止できる。また、金属板30を金属キャビティ13に取り付けるネジ31の間隔をマイクロ波の波長の1/8以上にできるので、作業工数を削減できる。また、金属板30を自由に取り外せるので、金属キャビティ13のメンテナンスを容易に行える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波を利用して陶磁器材料やファインセラミックス材料などで形成された被処理体を焼成するマイクロ波焼成炉及びマイクロ波焼成炉における金属キャビティ内部への金属部材取り付け方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マイクロ波を利用して陶磁器材料やファインセラミックス材料などで形成された被処理体を焼成することが提案され、既に実用化が始まっている(例えば、特許文献1参照)。ところで、マイクロ波焼成炉の金属キャビティ内に金属板を取り付けた際に、金属板と金属キャビティとの間に隙間ができてしまった場合、その隙間にマイクロ波が入り込んで放電が発生し、金属キャビティを破損させることがあった。従来はこの問題をマイクロ波焼成炉で使用するマイクロ波の波長の1/8の間隔でスポット溶接を行うことで対処している。
【0003】
マイクロ波焼成炉で使用するマイクロ波の波長の1/8の間隔でスポット溶接を行うことで、金属板と金属キャビティとの間に隙間が生じても、その隙間にマイクロ波が入り込むことがないことは周知の通りである。ここで、図7に金属キャビティ1にL字状の金属板2をλ/8のピッチでスポット溶接を行った例を示す。また、図8に金属板2と金属キャビティ1の間に生じた隙間Gpを示す。なお、この図において、符号Scはスポット溶接部である。
【0004】
【特許文献1】特開平6−345541号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、マイクロ波焼成炉で使用するマイクロ波の波長の1/8の間隔でスポット溶接を行うことは、作業工数が多くなり、その分、製造コストが嵩むという問題がある。この問題は、マイクロ波焼成炉で使用するマイクロ波の波長の1/8以上もしくは任意の間隔でスポット溶接を行うか、あるいは金属板の金属キャビティに接する面の全てについて溶接を行うことで解決可能である。しかし、取り付け間隔を広くした場合には、金属板や金属キャビティの反りや曲がりで隙間が生じ易くなるため、放電が発生する可能性がある。逆に取り付け間隔を狭くしたり、全面溶接を行ったりした場合には、作業工数が増加し製造コストが更に嵩むことになる。したがって、いずれの方法も実現は難しい。
【0006】
また、スポット溶接を行うことで金属板を取り外すことができなくなり、金属キャビティのメンテナンス(クリーニング等)が困難になるという問題もある。
【0007】
本発明は係る事情に鑑みてなされたものであり、金属部材と金属キャビティとの間における放電の発生を防止できるとともに、少ない作業工数で金属部材を金属キャビティに取り付けることができ、しかも金属部材の取り外しを自由に行うことができるマイクロ波焼成炉及びマイクロ波焼成炉の金属キャビティ内部への金属部材取り付け方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は下記構成又は方法により達成される。
(1) マイクロ波加熱によって被処理体の焼成を行うマイクロ波焼成炉であって、前記マイクロ波焼成炉の金属キャビティに対して1〜5mmの間隔を持たせて取り付けるための少なくとも2つの突起部を有し該各突起部に貫通孔が開けられた金属部材と、前記金属キャビティの、前記金属部材の各突起部と対向する部分夫々に形成され、前記各突起部の貫通孔を通して挿入されるネジと螺合するネジ孔と、を備える。
【0009】
(2) 上記(1)に記載のマイクロ波焼成炉において、前記金属部材の突起部間と前記金属キャビティのネジ孔間の夫々が、前記マイクロ波焼成炉で使用されるマイクロ波の波長の1/8を超える長さである。
【0010】
(3) マイクロ波加熱によって被処理体の焼成を行うマイクロ波焼成炉における金属キャビティ内部への金属部材取り付け方法であって、前記金属部材と前記金属キャビティとの間で放電が生じない電界強度を保てる距離離間させて、前記金属部材を前記金属キャビティに取り付ける。
【0011】
(4) 上記(3)に記載のマイクロ波焼成炉の金属キャビティ内部への金属部材取り付け方法において、前記金属部材を前記金属キャビティに対して1〜5mmの間隔を持たせて取り付ける。
【0012】
(5) 上記(3)又は(4)に記載のマイクロ波焼成炉の金属キャビティ内部への金属部材取り付け方法において、前記金属部材と前記金属キャビティとの接触箇所が、前記マイクロ波焼成炉で使用するマイクロ波の波長の1/8を超える間隔で存在するように、前記金属部材を前記金属キャビティに取り付ける。
【0013】
(6) 上記(3)から(5)のいずれかに記載のマイクロ波焼成炉の金属キャビティ内部への金属部材取り付け方法において、前記金属部材の前記金属キャビティへの取り付けをネジで行う。
【発明の効果】
【0014】
上記(1)に記載のマイクロ波焼成炉では、金属部材が1〜5mmの間隔を持って金属キャビティに取り付けることにより、金属部材と金属キャビティとの間の放電を防止できる。したがって、放電による金属キャビティの破損を防止できる。
【0015】
上記(2)に記載のマイクロ波焼成炉では、ネジ間隔をマイクロ波の波長の1/8以上にしても、放電が発生しないため、ネジ間隔を従来よりも広げることができ、金属部材の取り付けに要する作業工数を減らすことができる。また、金属部材の取り付けをネジで行うので、金属キャビティのメンテナンス(クリーニング等)を容易に行うことができる。
【0016】
上記(3)に記載のマイクロ波焼成炉の金属キャビティ内部への金属部材取り付け方法では、金属部材と金属キャビティとの間で放電が生じない電界強度を保てる距離で金属部材を金属キャビティに取り付けるので、放電による金属キャビティの破損を防止できる。
【0017】
上記(4)に記載のマイクロ波焼成炉の金属キャビティ内部への金属部材取り付け方法では、金属部材を1〜5mmの間隔を持って金属キャビティに取り付けるので、金属部材と金属キャビティとの間の電界強度を1kV/mm未満に抑えることができる。
【0018】
上記(5)に記載のマイクロ波焼成炉の金属キャビティ内部への金属部材取り付け方法では、金属部材を金属キャビティに取り付けるためのネジの間隔をマイクロ波の波長の1/8にしても放電が発生しないため、ネジ間隔を従来よりも広げることができ、金属部材の取り付けに要する作業工数を減らすことができる。
【0019】
上記(6)に記載のマイクロ波焼成炉の金属キャビティ内部への金属部材取り付け方法では、金属部材の金属キャビティへの取り付けをネジで行うので、金属キャビティのメンテナンス(クリーニング等)を容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための好適な実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の一実施の形態に係るマイクロ波焼成炉の外観を示す斜視図である。また、図2は図1の炉部分の概略構成を示す断面図である。図1において、本実施の形態のマイクロ波焼成炉10は、マイクロ波を利用して被処理体(図示略)の焼成を行うものであり、焼成炉本体11と、その蓋である扉部12とを備える。焼成炉本体11内には、金属キャビティ13、1250℃までの焼成が可能な通常焼成エリア14を形成する通常焼成炉15と、1500℃までの焼成が可能な高温焼成エリア16を形成する高温焼成炉17と、通常焼成炉15内の雰囲気温度(通常炉内温度)を測定するための主熱電対18と、高温焼成炉17内の雰囲気温度(高温炉内温度)を測定するための補助熱電対19とが設けられている。
【0022】
通常焼成炉15と高温焼成炉17は、ともにマイクロ波の影響を受けないアルミナ・シリカ系の断熱材を用いて方形状に組立てられている。高温焼成炉17は通常焼成炉15内に設置される関係上、通常焼成炉3より小型に造られている。因みに、高温焼成炉17を設けた理由は、ファインセラミックスを焼成できるような高温仕様になるほど製品のコストが増大するので、陶磁器を焼成できる程度の温度仕様で設計してもファインセラミックスを焼成できるようにするためである。この場合、ファインセラミックスを焼成するときには、高温焼成炉17を通常焼成炉15内に設け、陶磁器を焼成するときには通常焼成炉15内から取り出すようにしている。焼成炉本体11の開口部11Aの周囲には4個の金属板(金属部材)30が設けられており、通常焼成炉15の断熱材が焼成炉本体11から外に出ないように係止している。金属板30はL字状に形成されており、ネジによって焼成炉本体11に取り付けられている。
【0023】
図3は焼成炉本体11の開口部11A周辺の正面図であり、図4は図1のA−A線断面図である。図3及び図4に示すように、金属板30は焼成炉本体11の開口部の上下左右にそれぞれ取り付けられている。図5は金属板30の金属キャビティ13への取り付け状態を示す断面図である。金属板30には、金属キャビティ13の取り付け面に対して1〜5mmの間隔を持たせて取り付けるための貫通孔が開けられた突起部30Aが形成されている。金属キャビティ13には、金属板30の各突起部30Aと対向するそれぞれの部分にネジ31と螺合するネジが切られたネジ孔13Aが形成されている。ネジ孔13Aは、金属キャビティ13の内部に向かって突出した形状となっており、ネジ山数を確保している。金属板30に形成された突起部30Aを通して金属キャビティ13のネジ孔13Aにネジ31を締め込むことで、1〜5mmの間隔で金属板30が金属キャビティ13に固定される。
【0024】
従来は、金属板と金属キャビティとの間にマイクロ波が入り込むまないようにすることで、放電による金属キャビティの破損を防止していたのに対し、本実施形態では、金属板30と金属キャビティ13との間に1〜5mmの隙間を設けることにより、1kV/mm以上の電界強度が発生するのを防止することで、放電による金属キャビティの破損を防止する。
【0025】
このように、金属板30と金属キャビティ13の間隔を1〜5mmとすることで、放電の発生による金属キャビティの破損を防止できることから、ネジ間隔(金属板30と金属キャビティ13との接触箇所の間隔)をマイクロ波の波長の1/8に限定する必要がなくなる。本実施の形態では、ネジ間隔を45mmにしている。すなわち、本実施の形態では、2.45GHzのマイクロ波を使用しており、その波長約122(正確には122.445)mmの1/8の3倍のネジ間隔としている。なお、使用するネジ31の個数は1個でも良いが、1個の場合ネジの締め付けがゆるいと金属板30が回ってしまうこともあるので、2個以上にすれば良い。このようにして、使用するネジ31の数を少なくすることができ、作業工数削減が可能となる。また、少ない個数のネジで取り付けることにより、金属キャビティ13と金属板30とを容易に脱着できるため、メンテナンスが容易になる。
【0026】
このように本実施の形態に係るマイクロ波焼成炉10によれば、通常焼成炉15の断熱材を焼成炉本体11に係止するための金属板30を備え、この金属板30を1〜5mmの間隔で金属キャビティ13に取り付けて、金属板30と金属キャビティ13との間の電界強度を1kV/mm未満に抑えるようにしたので、金属板30と金属キャビティ13との間の放電による金属キャビティ13の破損を防止できる。また、金属板30を金属キャビティ13に取り付けるネジ31の間隔を、マイクロ波焼成炉10で使用するマイクロ波の波長の1/8に設定する必要がなくそれ以上にできるので、少ない作業工数で金属板30を金属キャビティ13に取り付けることが可能となる。また、金属板30を自由に取り外すことができるので、金属キャビティ13のメンテナンス(クリーニング等)を容易に行うことができる。
【0027】
なお、上記実施の形態では、金属板30に、金属キャビティ13との間で1〜5mmの隙間を作るための貫通孔が開けられた突起部30Aを形成し、金属キャビティ13に、ネジ31と螺合するネジ孔13Aを形成して、ネジ31を金属板30のネジ孔を通して金属キャビティ13のネジ孔13Aに締め込むことで、金属板30を金属キャビティ13に取り付けるようにしたが、図6に示すように、金属板30と金属キャビティ13にネジ孔30B、13Bを形成して、1〜5mm長の円筒形の金属スペーサ40を介してネジ50を通しナット51で止めるようにしても良い。
【0028】
また、上記実施の形態では、通常焼成炉15の断熱材を焼成炉本体11に係止する金属板30の取り付けについて説明したが、マイクロ波焼成炉10内に設ける金属の全ての取り付けについても同様に行うことができる。また、マイクロ波を利用する電子レンジにも適用できることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、金属部材と金属キャビティとの間における放電の発生を防止できるとともに、少ない作業工数で金属部材を金属キャビティに取り付けることができ、しかも金属部材の取り外しを自由に行うことができるという効果を有し、マイクロ波焼成炉や電子レンジ等のマイクロ波を利用して加熱する機器への適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施の形態に係るマイクロ波焼成炉の外観を示す斜視図
【図2】図1の炉部分の概略構成を示す断面図
【図3】図1の焼成炉本体の金属キャビティ部分を示す正面図
【図4】図1のA−A線断面図
【図5】図1の金属板の金属キャビティへの取り付け状態を示す断面図
【図6】金属板の金属キャビティへの取り付けの応用例を示す断面図
【図7】従来の金属板の金属キャビティへの取り付け状態を示す斜視図
【図8】従来の金属板の金属キャビティへの取り付けにおける問題点を説明するために図
【符号の説明】
【0031】
10 マイクロ波焼成炉
11 焼成炉本体
11A 開口部
12 扉部
13 金属キャビティ
13A、13B、30B ネジ孔
14 通常焼成エリア
15 通常焼成炉
16 高温焼成エリア
17 高温焼成炉
18 主熱電対
19 補助熱電対
30 金属板
30A 突起部
31、50 ネジ
40 金属スペーサ
51 ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波加熱によって被処理体の焼成を行うマイクロ波焼成炉であって、
前記マイクロ波焼成炉の金属キャビティに対して1〜5mmの間隔を持たせて取り付けるための少なくとも2つの突起部を有し該各突起部に貫通孔が開けられた金属部材と、
前記金属キャビティの、前記金属部材の各突起部と対向する部分夫々に形成され、前記各突起部の貫通孔を通して挿入されるネジと螺合するネジ孔と、
を備えるマイクロ波焼成炉。
【請求項2】
前記金属部材の突起部間と前記金属キャビティのネジ孔間の夫々が、前記マイクロ波焼成炉で使用されるマイクロ波の波長の1/8を超える長さである請求項1に記載のマイクロ波焼成炉。
【請求項3】
マイクロ波加熱によって被処理体の焼成を行うマイクロ波焼成炉における金属キャビティ内部への金属部材取り付け方法であって、
前記金属部材と前記金属キャビティとの間で放電が生じない電界強度を保てる距離離間させて、前記金属部材を前記金属キャビティに取り付けるマイクロ波焼成炉の金属キャビティ内部への金属部材取り付け方法。
【請求項4】
前記金属部材を前記金属キャビティに対して1〜5mmの間隔を持たせて取り付ける請求項3に記載のマイクロ波焼成炉の金属キャビティ内部への金属部材取り付け方法。
【請求項5】
前記金属部材と前記金属キャビティとの接触箇所が、前記マイクロ波焼成炉で使用するマイクロ波の波長の1/8を超える間隔で存在するように、前記金属部材を前記金属キャビティに取り付ける請求項3又は請求項4に記載のマイクロ波焼成炉の金属キャビティ内部への金属部材取り付け方法。
【請求項6】
前記金属部材の前記金属キャビティへの取り付けをネジで行う請求項3から請求項5のいずれかに記載のマイクロ波焼成炉の金属キャビティ内部への金属部材取り付け方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−271227(P2007−271227A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−100416(P2006−100416)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】