説明

マイクロ波照射部材

【課題】本発明の課題は、接触部位の変色等を防止でき、的確に被加熱部を加熱することのできるマイクロ波照射部材を提供することにある。
【解決手段】本発明は、マイクロ波の誘電加熱によって物体を加熱するマイクロ波誘電加熱装置に用いられ、且つ、照射部材本体200が被加熱部である前記物体に接触状態でマイクロ波を照射するマイクロ波照射部材であって、照射部材本体200が、前記マイクロ波を前記物体に照射するマイクロ波照射部200a、および、該マイクロ波照射部200aと物体との間に介在するように前記マイクロ照射部の外部に被覆された非導電性部材から構成された接触部材220を備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、物体を誘電加熱するマイクロ波誘電加熱装置において用いられ、被加熱物である物体に照射部材本体が接触状態でマイクロ波を照射するマイクロ波照射部材に関する発明であり、特に、患者の治療部位を加熱するマイクロ波手術機において好適に用いられる発明である。
【背景技術】
【0002】
従来、この種、医療機器としてのマイクロ波手術機としては、マイクロ波をマグネトロン(マイクロ波発振部)で発振させて、このマイクロ波を、患者の治療部位に接触させた電極(マイクロ波照射部材)から該治療部位に照射して、治療部位を加熱するものが公知であった。つまり、たとえば針状の電極を患者体内に刺し込み、該電極を患者の肝臓のガン組織に接触状態とし、マイクロ波を発振して該電極からガン組織にマイクロ波を照射することによって、かかるガン組織を加熱して組織凝固させるものであった。
【0003】
しかるに、治療部位を過度に加熱し過ぎると、電極に接触している部位が黒く変色し、さらには炭化を生じてしまい、患部に悪影響を与えるおそれもあった。
【0004】
なお、針状の電極にあっては、加熱終了後に該電極を治療部位から容易に離脱させるために、針状の電極本体の外周面にテフロン(商標)などのポリフッ化エチレン樹脂膜を設けたものも公知である。しかるに、かかるポリフッ化エチレン樹脂膜は、通常、0.04mm程度の厚みしかなく、上記接触部位の変色等の防止に十分な効果が得られない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本願発明は、上記事情に鑑みて創案されたもので、本願発明の課題は、接触部位の変色等を防止でき、的確に被加熱部を加熱することのできるマイクロ波照射部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく、本願発明に係るマイクロ波照射部材は、マイクロ波の誘電加熱によって物体を加熱するマイクロ波誘電加熱装置に用いられ、且つ、照射部材本体が被加熱部である前記物体に接触状態でマイクロ波を照射するマイクロ波照射部材であって、以下の特徴を有する構成を採用した。
【0007】
すなわち、本願発明に係るマイクロ波照射部材は、照射部材本体が、前記マイクロ波を前記物体に照射するマイクロ波照射部、および、該マイクロ波照射部と物体との間に介在するように前記マイクロ照射部の外部に被覆された非導電性部材から構成された接触部材を備えていることを特徴とする。
かかる構成を採用することによって、被加熱部である物体には接触部材が接触することになり、マイクロ波照射部が直接物体に接触することがなく、接触部位の変色等を防止することができる。特に、マイクロ波照射部と物体との間にはマイクロ波照射部に被覆された接触部材が存在するものであるため、肉薄のポリフッ化エチレン樹脂膜と異なり、接触部位の変色等を的確に防止することができる。
【0008】
また、本願発明に係るマイクロ波照射部材は、照射部材本体が、前記マイクロ波を前記物体に照射するマイクロ波照射部、および、該マイクロ波照射部と物体との間に介在する非導電性部材から構成された接触部材を備えており、前記接触部材は、前記マイクロ波発振部と物体の接触部位との間の間隔が、0.1mm以上となるように設けられていることを特徴とする。
かかる構成を採用することによって、被加熱部である物体には接触部材が接触することになり、マイクロ波照射部が直接物体に接触することがなく、接触部位の変色等を防止することができる。特に、マイクロ波照射部と物体との間には0.1mm以上の間隔が存在するため、肉薄のポリフッ化エチレン樹脂膜と異なり、接触部位の変色等を的確に防止することができる。なお、前記マイクロ波発振部と物体の接触部位との間の間隔は、0.2mm以上となるように設けることが好ましく、より好ましくは0.4mm以上である。
【0009】
また、本願発明に係るマイクロ波照射部材は、照射部材本体が、前記マイクロ波を前記物体に照射するマイクロ波照射部、該マイクロ波照射部と物体との間に介在する非導電性部材から構成された接触部材、および、物体に接触する接触部材の接触部位よりも前記マイクロ波照射部材側に位置するとともにマイクロ波による物体の加熱状況を検知する検知手段を備えていることを特徴とする。
かかる構成を採用することによって、被加熱部である物体には接触部材が接触することになり、マイクロ波照射部が直接物体に接触することがなく、接触部位の変色等を防止することができる。さらに、マイクロ波照射部材が検知手段を有しているので、加熱されている物体の状況などを検知することも可能となる。なお、検知手段としては、その部位の温度を検知する温度検知手段などを採用することが可能であるが、その他、マイクロ波照射部材との物体の接触部位の状況(加熱状況)を検知することのできる検知手段であれば種々のものが好適に採用することが可能である。
【0010】
さらに、本願発明にあっては、照射部材本体が、前記物体に刺し込み可能な針状の形状を有し、接触部材が、前記マイクロ波照射部の全周囲にわたって設けられている構成を採用することが可能である。これにより、たとえば患者の身体の内部に照射部材本体を刺し込み、身体の内部に対してマイクロ波誘電加熱を行うことが可能となる。
【0011】
また、本願発明にあっては、照射部材本体が、前記物体を挟持可能な一対の挟持片を有しており、一対の挟持片のうち少なくとも一方には、前記マイクロ波照射部および前記接触部材が設けられている構成を採用することが可能である。これにより、たとえば患者の血管を一対の挟持片により挟持して、挟持された血管に対してマイクロ波加熱を行うことが可能である。
なお、かかる構成を採用した場合には、前記一対の挟持片は、挟持した物体を切断する切断手段を備えた構成を採用することも可能であり、これにより挟持して加熱した後に、その部位を切断手段によって切断することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本願発明の一実施の形態として、マイクロ波手術機に用いられる電極(マイクロ波照射部材)を例にとり以下説明する。なお、図1は、本願発明の実施形態のマイクロ波手術機の概略構成を説明するための概略構成説明図である。また、図2は、同実施形態の電極の要部拡大断面図である。
【0013】
まず、本実施形態のマイクロ波手術機を概説すると、該マイクロ波手術機は、マイクロ波生成部110とマイクロ波増幅部120とからなるマイクロ波発振部100、該マイクロ波発振部100に接続されマイクロ波発振部100のマイクロ波を被加熱部に照射する電極200、および、前記マイクロ波発振部100を制御する制御手段300を備えている。本実施形態においては、制御手段300は、コンピュータ300から構成されている。
【0014】
前記電極200は、取り替え可能に前記マイクロ波発振部100のマイクロ波増幅部120に接続されている。また、本実施形態においては、前記電極200は、電圧定在波比計(VSWR計)400を介して前記マイクロ波発振部100のマイクロ波増幅部120に接続されており、電極200は、照射したマイクロ波の反射波を受信して、電圧定在波比計400において進行波と反射波との比が検出されるように設けられている。また、該電圧定在波比計400は、検出したデータを前記コンピュータ300に送信するように設けられている。
【0015】
また、前記電極200は、全体として略針状の形状をなしており、マイクロ波照射部200aを外面に有する針状体210と、該針状体210の外面に配置された温度検出手段500と、針状体210および温度検出手段500の外面に被覆され加熱処理時に被加熱部に接触状態となる接触部材220とから構成されている。前記マイクロ波照射部200aは、針状の電極200の先端部から例えば約10mm程度末端側に位置しており、前記マイクロ波を被加熱部に照射するように設けられている。また、前記温度検出手段500は、前記コンピュータ300に接続されており、検出したデータをコンピュータ300に送信するように設けられている。本実施例においては、前記接触部材220は、たとえばテフロン(商標)などのポリフッ化エチレン樹脂からなり、厚み約0.4mm程度に設けられている(図2におけるL)。このため、前記マイクロ波照射部200aと被加熱部とが少なくとも0.4mm離間した状態で加熱処理がなされることになり、このため、被加熱部の接触部位の変色等を的確に防止することができる。
【0016】
なお、本実施形態のマイクロ波手術機においては、温度検出手段500を電極200に内蔵させるとともに、該電極200から離間した位置の温度を検出するための第二の温度検出手段600を備えている。この電極200の外部の温度を検出する第二の温度検出手段600は、全体として略針状の形態を有するものを採用することが可能である。
【0017】
前記制御手段300としてのコンピュータ300は、前記マイクロ波発振部100のマイクロ波生成部110を制御して、生成されるマイクロ波の周波数・出力を変更できるように設けられている。ここで、コンピュータ300は、前記マイクロ波生成部110において生成されるマイクロ波の周波数および出力を略連続的に変更できるように設けられている。なお、「略連続的」とは、所定の割合(たとえば一定の割合)で低周波数・低出力から高周波数・高出力に多段階で変更できるように設けられていることを意味し、たとえば、1MHz単位ごとに周波数を変更できるものを含む趣旨である。
【0018】
また、前記マイクロ波生成部110においては、時間的に連続したマイクロ波(時間的に断続的でないマイクロ波(出力が0となる時間が連続しないマイクロ波))が生成されるように設けられており、該マイクロ波生成部110において生成されたマイクロ波が前記マイクロ波増幅部120において増幅されて前記電極200に伝達されるように設けられている。
【0019】
また、該コンピュータ300は、前記電圧定在波比計400または温度検出手段500,600から送信されたデータに基づいてマイクロ波の周波数等を自動的に変更する(自動制御を行う)ように設けることも可能であり、また、作業者の入力によってマイクロ波の周波数等を変更(手動制御)するように設けることも可能であり、さらには、双方の作業(自動制御・手動制御)を選択的に行い得るように設けることも可能である。また、該コンピュータ300は、前記電極200の変更に応じてマイクロ波の周波数等を変更することが可能である。
【0020】
さらに、詳述すると、前記コンピュータ300は、温度検出手段500(または第二の温度検出手段600)において検出された温度が一定温度以上とならないと判断した場合(加熱が的確に行われていないと判断した場合)には、マイクロ波の周波数・出力を変更するように設けることがことができる。これにより、加熱処理作業が不十分な場合に、好適な条件のマイクロ波を照射することで、効率的な加熱処理作業を行うことができる。
【0021】
また、前記コンピュータ300は、温度検出手段500(または第二の温度検出手段600)において検出された温度が一定温度以上を超えたと判断した場合には、マイクロ波を調整するように設けることができ、より具体的には、たとえば、温度検出手段500が検知する温度が一定温度以上に達した場合、コンピュータ300がマイクロ波の出力を停止するように設けることも可能である。つまり、たとえば電極200に内蔵された温度検出手段500において一定温度以上が検出された際にマイクロ波の出力調整を行うことで、電極200の周辺部の被加熱物の炭化を的確に防止できる。また、第二の温度検出手段600において一定温度以上が検出された際にマイクロ波の出力調整を行うことで、所望範囲外の加熱・凝固を防止することができる。
なお、該コンピュータ300に異常発生通知手段(たとえばアラーム)を設けて、加熱処理作業時に異常を検知した場合に、前記異常発生通知手段により作業者に異常を通知するように設けることも適宜設計変更可能な事項である。
【0022】
また、前記コンピュータ300は、電圧定在波比計400において検出されるVSWR値が上昇したと判断した場合には、マイクロ波の周波数を変更するように設けることができる。これにより、効率的な加熱処理作業が可能となると考えられる。
また、前記コンピュータ300は、電圧定在波比計400において検出されたVSWR値が一定値以上を超えたと判断した場合には、マイクロ波の出力を停止するように設けることも可能である。つまり、一定値以上のVSWR値が検出された場合には、加熱作業に異常が発生しているものと考えられ、この際にマイクロ波の出力調整を行うことにより、異常な加熱作業を停止することができる。
【0023】
なお、上記実施形態においては、電極200として針状のものを例にあげて説明したが、本願発明はこれに限定されるものではなく、種々の電極を採用することが可能である。
具体的には、たとえば、図3に示すように、物体を挟持可能な一対の挟持片230a,230bを有し、この一対の挟持片230a,230bのうち一方230aには、他方に対面する側にマイクロ波照射部200aが設けられ、このマイクロ波照射部200aの外面に接触部材220が被覆されて構成されている。また、この図3に示す電極200にあっては、一対の挟持片230a,230bは、挟持した物体を切断する切断手段240を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本願発明の実施形態のマイクロ波手術機の概略構成を説明するための概略構成説明図である。
【図2】同実施形態の電極の要部拡大断面図である。
【図3】本願発明の他の実施形態のマイクロ波照射部材の説明図であって、(イ)は概略的側面図、(ロ)は要部拡大側面図、(ハ)は要部拡大端面正面図である。
【符号の説明】
【0025】
100 マイクロ波発振部
110 マイクロ波生成部
120 マイクロ波増幅部
200 電極(照射部材本体)
200a マイクロ波照射部
210 針状体
220 接触部材
230a,230b 挟持片
240 切断手段
300 コンピュータ
400 電圧定在波比計
500 温度検出手段
600 温度検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波の誘電加熱によって物体を加熱するマイクロ波誘電加熱装置に用いられ、且つ、照射部材本体が被加熱部である前記物体に接触状態でマイクロ波を照射するマイクロ波照射部材であって、
前記照射部材本体は、前記マイクロ波を前記物体に照射するマイクロ波照射部、および、該マイクロ波照射部と物体との間に介在するように前記マイクロ照射部の外部に被覆された非導電性部材から構成された接触部材を備えていることを特徴とするマイクロ波照射部材。
【請求項2】
マイクロ波の誘電加熱によって物体を加熱するマイクロ波誘電加熱装置に用いられ、且つ、照射部材本体が被加熱部である前記物体に接触状態でマイクロ波を照射するマイクロ波照射部材であって、
前記照射部材本体は、前記マイクロ波を前記物体に照射するマイクロ波照射部、および、該マイクロ波照射部と物体との間に介在する非導電性部材から構成された接触部材を備えており、
前記接触部材は、前記マイクロ波発振部と物体の接触部位との間の間隔が、0.1mm以上となるように設けられていることを特徴とするマイクロ波照射部材。
【請求項3】
マイクロ波の誘電加熱によって物体を加熱するマイクロ波誘電加熱装置に用いられ、且つ、照射部材本体が被加熱部である前記物体に接触状態でマイクロ波を照射するマイクロ波照射部材であって、
前記照射部材本体は、前記マイクロ波を前記物体に照射するマイクロ波照射部、該マイクロ波照射部と物体との間に介在する非導電性部材から構成された接触部材、および、物体に接触する接触部材の接触部位よりも前記マイクロ波照射部材側に位置するとともにマイクロ波による物体の加熱状況を検知する検知手段を備えていることを特徴とするマイクロ波照射部材。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載のマイクロ波照射部材であって、
前記照射部材本体は、前記物体に刺し込み可能な針状の形状を有し、
前記接触部材は、前記マイクロ波照射部の全周囲にわたって設けられていることを特徴とするマイクロ波照射部材。
【請求項5】
請求項1乃至3の何れかに記載のマイクロ波照射部材であって、
前記照射部材本体は、前記物体を挟持可能な一対の挟持片を有しており、
前記一対の挟持片のうち少なくとも一方には、前記マイクロ波照射部および前記接触部材が設けられていることを特徴とするマイクロ波照射部材。
【請求項6】
請求項5記載のマイクロ波照射部材であって、
前記一対の挟持片は、挟持した物体を切断する切断手段を備えていることを特徴とするマイクロ波照射部材。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−27719(P2008−27719A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−198812(P2006−198812)
【出願日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(595081770)
【出願人】(501429427)株式会社サニーエンヂニアリング (5)
【Fターム(参考)】