説明

マイクロ波発熱複合材

【課題】被加熱体を急速かつ均一に加熱することができるマイクロ波発熱複合材を提供すること。
【解決手段】炭化ケイ素系粉末からなるマイクロ波吸収材と、水和性の珪酸塩ガラスからなる結合材とを含有するマイクロ波発熱複合材である。炭化ケイ素系粉末として、Si−Zr−C−O又はSi−Ti−C−Oからなる複合酸化物、又はβ−SiCを採用してある。また、炭化ケイ素系粉末として、β−SiCを含有する場合には、上記マイクロ波発熱複合材においては、上記結合材がマトリックスを形成し、該マトリックス中に上記マイクロ波発熱複合材が分散されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波エネルギーを吸収して発熱するマイクロ波発熱複合材に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波照射により被加熱体を高温に加熱する方法として、従来より、炉壁が断熱材で囲まれたマイクロ波吸収体で形成された加熱炉が用いられている。具体的には、マイクロ波吸収体としての炭化ケイ素(SiC)からなる内壁で形成された加熱炉が提案されている(特許文献1参照)。しかし、このような加熱炉においては、マイクロ波の照射方向の影響を受けやすく、均一な加熱ができないという問題があった。これを改善するために、SiC粉末にアルミニウム粉又はアルミナ粉末を混合させる方法が開発されている(特許文献2参照)。しかし、この方法においては、加熱までに時間がかかり急速な加熱を行うことができないという問題があった。
【0003】
一方、SiC以外のマイクロ波吸収体として、例えばLa−Sr−Co−O等のペロブスカイト型複合酸化物を用いた電磁波吸収発熱体がある(特許文献3参照)。このようなマイクロ波吸収体を用いると急速加熱が可能になるが、マイクロ波吸収体と金属触媒を直接接触させる必要があり、マイクロ波吸収材のみでは、加熱速度が約1/2に低下し、実用上不十分なものとなってしまう。
また、複合酸化物からなる半導体材料、例えばSi−Ti−C−Oの化合物からなる高周波吸収材料を用いた高周波発熱体が開発されている(特許文献4参照)。しかし、かかる高周波発熱体においては、高周波吸収材料のマイクロ波の吸収効率が不十分である。そのため、被加熱体を急速かつ均一に加熱することができなかった。
さらに、ガラス又はセラミックスのマトリックス中に、金属粒子を複合させて急速に加熱し、耐熱性、機械的強度に優れたマイクロ波加熱体が開発されている(特許文献5参照)。しかしながら、金属粒子は、導電性があるため、マイクロ波の電磁界中での放電や酸化が起こり、その結果マイクロ波加熱性が低下してしまうという問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開昭59−137785号公報
【特許文献2】特開2000−169234号公報
【特許文献3】特開平7−49024号公報
【特許文献4】特開平5−171919号公報
【特許文献5】特開平9−255365号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はかかる従来の問題点に鑑みてなされたものであって、被加熱体を急速かつ均一に加熱することができるマイクロ波発熱複合材を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、炭化ケイ素系粉末からなるマイクロ波吸収材と、水和性の珪酸塩ガラスからなる結合材とを含有するマイクロ波発熱複合材であって、
上記炭化ケイ素系粉末としては、Si−Zr−C−O又はSi−Ti−C−Oからなる複合酸化物を採用することを特徴とするマイクロ波発熱複合材にある(請求項1)。
【0007】
上記第1の発明のマイクロ波発熱複合材は、上記炭化ケイ素系粉末からなるマイクロ波吸収材と、水和性の珪酸塩ガラスからなる結合材との複合材料からなる。そのため、上記マイクロ波発熱複合材は、マイクロ波が照射されると、被加熱体を極めて急速かつ均一に加熱することができる。
【0008】
即ち、上記マイクロ波発熱複合材においては、上記特定の炭化ケイ素粉末からなるマイクロ波吸収材と、水和性の珪酸塩ガラスからなる結着材とを組み合わせることにより、マイクロ波吸収材のみを用いた場合に比べて、例えば2〜4倍という優れた加熱性能を示すことができる。また、上記マイクロ波発熱複合材においては、従来より用いられているα−SiCからなるマイクロ波吸収材を用いた場合に比べて、約5倍以上という優れた加熱性能を発揮させることができる。そのため、上記マイクロ波発熱複合材においては、上述のごとく急速かつ均一な加熱が可能になる。それ故、上記マイクロ波発熱複合材は、例えば低出力で急速加熱が要求される排ガス浄化処理装置や、マイクロ波加熱容器等に好適に用いることができる。
【0009】
また、上記マイクロ波発熱複合材は、従来のように触媒を必要とせず、触媒が無くてもマイクロ波による優れた加熱性能を発揮できる。そのため、金属触媒等によって起こる放電や酸化の発生を防止することができる。それ故、上述の優れた加熱性能を安定して維持することができる。
【0010】
また、第2の発明は、炭化ケイ素系粉末からなるマイクロ波吸収材と、水和性の珪酸塩ガラスからなる結合材とを含有するマイクロ波発熱複合材であって、
上記炭化ケイ素系粉末としては、β−SiCを採用し、
上記マイクロ波発熱複合材においては、上記結合材がマトリックスを形成し、該マトリックス中に上記マイクロ波吸収材が分散されていることを特徴とするマイクロ波発熱複合材にある(請求項3)。
【0011】
上記第2の発明のマイクロ波発熱複合材においては、水和性の珪酸塩ガラスからなる結合材がマトリックスを形成し、該マトリックス中に上記β−SiCの炭化ケイ素粉末からなる上記マイクロ波吸収材が分散されている。上記マイクロ波発熱複合材をこのような構成で形成することにより、上記マイクロ波発熱複合材は、マイクロ波の照射により優れた加熱性能を発揮することができる。そのため、上記マイクロ波発熱複合材は、被加熱体を極めて急速かつ均一に加熱することができる。
【0012】
また、上記第1の発明と同様に、上記マイクロ波発熱複合材は、従来のように触媒を必要とせず、金属触媒等によって起こる放電や酸化の発生を防止することができ、安定して優れた加熱性能を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
本発明のマイクロ波発熱複合材は、該マイクロ波発熱複合材を例えば被加熱体に塗布又は担持させて用いることができる。この状態で、上記マイクロ波発熱複合材にマイクロ波を照射すると、上記マイクロ波発熱複合材が優れた吸収効率でマイクロ波を吸収して発熱するため、被加熱体を加熱させることができる。
【0014】
上記マイクロ波発熱複合材は、例えば自動車の排ガス浄化装置等に用いることができる。即ち、所謂コールドエミッション対策として、上記マイクロ波発熱複合材を排ガス浄化装置に担持させて用いることができる。これにより、マイクロ波の照射によってマイクロ波発熱複合材を排ガス浄化装置の触媒活性温度付近まで急速かつ均一に加熱させることができる。なお、本発明において、マイクロ波は、0.3〜30GHz帯(波長10mm〜1m)の電波をいい、所謂センチ波及び極超短波といわれる電波を含むものである。
【0015】
上記マイクロ波発熱複合材は、炭化ケイ素系粉末からなるマイクロ波吸収材と、水和性の珪酸塩ガラスからなる結合材とを含有する。
上記炭化ケイ素粉末としては、Si−Zr−C−O、又はSi−Ti−C−Oからなる複合酸化物、又はβ−SiCを用いることができる。
【0016】
また、珪酸塩ガラスとしては、例えばNa2O−SiO2、K2O−SiO2、Li2O−SiO2、MgO−SiO2、CaO−SiO2、BaO−SiO2、PbO−SiO2、Al23−SiO2、Na2O−CaO−SiO2、及びこれらの化合物や混合物、さらにケイ酸ソーダ(Na2O−SiO2−H2O)からNa成分を除去したコロイダルシリカ等が挙げられる。水和性の珪酸塩ガラスとしては、例えば上記の各珪酸塩ガラスの化合物の水和物や、OHを含有する珪酸塩ガラス等を用いることができる。
【0017】
また、上記マイクロ波発熱複合材は、上記結合材を10〜80wt%含有することが好ましい(請求項4)。
上記結合材が10wt%未満の場合には、上記結合材と上記マイクロ波吸収材と均一に混合させることが困難になり、また、粘性が高くなって例えば被加熱体等に塗布することが困難になるおそれがある。一方80wt%を越える場合には、マイクロ波の吸収効率が低下するおそれがある。より好ましくは、上記結合材は40〜60wt%であることがよい。
【0018】
上記マイクロ波発熱複合材は、例えば上記マイクロ波吸収材と上記結合材と水とを混合して得られる複合材を被加熱体等の基材上に塗布し、乾燥させて水分を除去することにより得られる。上記基材としては、耐熱性及びマイクロ波透過性に優れたものが好ましく、例えばセラミックス多孔体等が好ましい。また、基材としては、アルミナファイバー等の繊維状の材質からなる織布又は不織布などを用いることができる。
【0019】
上記マイクロ波発熱複合材においては、上記結合材がマトリックスを形成し、該マトリックス中に上記マイクロ波発熱複合材が分散されていることが好ましい(請求項2)。
この場合には、上記マイクロ波発熱複合材のマイクロ波による加熱性能をより向上させることができる。これに対し、上記マイクロ波発熱複合材を粉末状にすると、マイクロ波による発熱性能が低下するおそれがある。よって、上記マイクロ波発熱複合材は、上記のごとく結合材からなるマトリックス中に上記マイクロ波吸収材が分散された固形状のものであることが好ましい。特に、上記マイクロ波吸収材として、β−SiCを用いた場合には、加熱性能の向上効果がより顕著に表れる。
【実施例】
【0020】
(実施例1)
次に、本発明のマイクロ波発熱複合材の実施例につき、図1及び図2を用いて説明する。
図1に示すごとく、本例のマイクロ波発熱複合材1は、炭化ケイ素系粉末からなるマイクロ波吸収材2と、水和性の珪酸塩ガラスからなる結合材3とを含有する。炭化ケイ素系粉末としては、Si−Zr−C−O系の炭化ケイ素複合酸化物粉末を採用してある。具体的には、元素の組成比がSi55Zr1359で表される炭化ケイ素複合酸化物の粉末を用いた。また、珪酸塩ガラスとしては、Na2O−SiO2系ガラス(水ガラス)を採用してある。
【0021】
また、マイクロ波発熱複合材1においては、結合材3がマトリックスを形成し、該マトリックス中に上記マイクロ波吸収材2が分散されている。
また、本例においては、マイクロ波発熱複合材1は、基材4に担持させてある。このようにマイクロ発熱複合材1を担持させた基材4を本例においては、適宜「発熱体」とよぶ。また、本例において、基材4としては、自動車の排ガス浄化装置に用いられるコージェライト製のモノリスを用いた。
【0022】
次に、本例のマイクロ波発熱複合材の製造方法について、説明する。
まず、マイクロ波吸収材としての炭化ケイ素複合酸化物は、有機ケイ素系ポリマーを前駆体としてポリカルボシランから合成した。具体的には、ポリカルボシランにZrを含んだ金属アルコキシドを加え、約220℃で反応させて、ポリメタロカルボシランを重合させた。その後、大気中で温度約180℃にて不融化処理を行い、さらに不活性ガス中で温度1300〜1500℃で焼成することによって製造した。このようにして元素の組成比がSi55Zr1359で表される炭化ケイ素系複合酸化物の粉末(以下、適宜「Si−Zr−C−O系粉末」と呼ぶ)を得た。Si−Zr−C−O系粉末が上記の元素組成比の炭化ケイ素系複合酸化物であることを赤外吸収による化学分析法で確認した。
【0023】
また、基材として、上述のごとくコージェライト製のモノリスを準備した。このモノリスは、直径50mm、長さ15mmの円筒形状であり、貫通孔壁面総面積が600cm2、誘電損率が0.01である。
【0024】
次に、Si−Zr−C−O系粉末と、結着材としての水ガラスと、水とを混合して複合材を作製した。この複合材を、上記基材としてのモノリス内に均一にコートし、温度300℃で約1時間乾燥させ、水分を除去した。このようにしてマイクロ波発熱複合材(2g)が基材(モノリスの内壁)に担持された発熱体(試料E1)を作製した。なお、乾燥後のマイクロ波発熱複合材におけるマイクロ波吸収材と結合材との配合比は、重量比で56:44であった。
【0025】
また、本例においては、試料E1の比較用として5種類の発熱体(試料C1〜試料C5)を作製した。
試料C1は、結着材としてアルミナを用いた点を除いては試料E1と同様にして作製したものである。乾燥後におけるマイクロ波吸収材(Si−Zr−C−O系粉末)と結合材(アルミナ)との配合比は、重量比で46:54であった。
また、試料C2は、マイクロ波吸収材としてα−SiC粉末を用いた点を除いては試料E1と同様にして作製したものである。乾燥後におけるマイクロ波吸収材(α−SiC)と結合材(水ガラス)との混合比は、試料E1と同様に重量比で56:44であった。
【0026】
試料C3は、マイクロ波吸収材としてα−SiC粉末を用い、結着材としてアルミナを用いた点を除いては試料E1と同様にして作製したものである。乾燥後におけるマイクロ波吸収材(α−SiC)と結合材(アルミナ)との混合比は、46:54であった。
試料C4は、試料E1において結着材として用いた水ガラスのみを基材に担持させて作製したものである。即ち、試料C4においては、マイクロ波吸収材を用いていない。
また、試料C5は、試料C1及び試料C3において結着材として用いたアルミナのみを基材に担持させて作製したものである。即ち、試料C5においては、マイクロ波吸収材を用いていない。
【0027】
次いで、各試料(試料E1、及び試料C1〜試料C5)について、マイクロ波による加熱特性の評価を行った。具体的には、各試料に、周波数2.45GHz、出力500Wのマイクロ波を1分間照射し、その後、基材(モノリス)内の温度を測定した。その結果を図2に示す。
【0028】
図2より知られるごとく、試料E1は、1分間という短時間で500℃以上にまで急速に加熱されていた。また、基材におけるマイクロ波発熱複合材が担持されている部分においては、どの部分においても均一に加熱されており、温度のばらつき等もほとんどなかった。
また、結着材として水ガラスを用いた試料E1と、アルミナを用いた試料C1とを比較すると、試料E1は、試料C1に比べて3倍以上の優れた加熱性能を示した。また、試料E1は、マイクロ波吸収材にα−SiCを用いた試料C2及び試料C3に比べて5倍以上の優れた加熱性能を示した。なお、試料C2及び試料C3を比較して知られるごとく、α−SiCを用いた場合には、結着材の違いによる加熱性能の差異はほとんどなかった。また、マイクロ波吸収材を用いずに、結着材だけをコートさせた試料C4及び試料C5においては、ほとんど加熱されなかった。
【0029】
以上のように、本例によれば、Si−Zr−C−O系の炭化ケイ素系粉末からなるマイクロ波吸収材と、水和性の珪酸塩ガラスからなる結合材とを含有するマイクロ波発熱複合材は、被加熱体を急速かつ均一に加熱できることがわかる。
【0030】
(実施例2)
本例は、マイクロ波発熱複合材を、実施例1とは異なる基材に担持させてその加熱性能を評価する例である。
即ち、本例においては、基材として、縦50mm、横50mm、厚み10mmのアルミナブランケットを用いた。このアルミナブランケットは、多数のアルミナファイバーがマット状に配されてなる。
【0031】
本例においては、アルミナブランケットの基材に、実施例1の試料E1と同様にして、Si−Zr−C−O系の炭化ケイ素系複合酸化物粉末からなるマイクロ波吸収材と、水ガラスからなる結合材と、水との混合物からなる複合材をコートした。次いで、温度300℃で約1時間乾燥させ、水分を除去し、マイクロ波発熱複合材(2g)を基材(アルミナブランケット)に担持させた発熱体(試料E2)を作製した。試料E2においても、実施例1の上記試料E1と同様に、結合材はマトリックスを形成し、マイクロ波吸収材はマトリックス中に分散されている。
【0032】
また、本例においては、上記試料E2と同様の成分からなるマイクロ波発熱複合材を粉末状にして基材に担持させた発熱体を作製した。これを試料E3とする。即ち、試料E3においては、Si−Zr−C−O系の炭化ケイ素系複合酸化物粉末と水ガラスとからなるマイクロ波発熱複合材が粉末状に粉砕された状態で基材に担持されている。
また、マイクロ波吸収材として、β−SiC粉末を用い、その他は上記試料E2と同様にして発熱体(試料E4)を作製した。即ち、試料E4においては、アルミナブランケットの基材に、マイクロ波吸収材としてのβ−SiC粉末と結着材としての水ガラスとを含有するマイクロ波発熱複合材が担持されている。
【0033】
また、本例においては、試料E2〜試料E4の比較用として3種類の発熱体(試料C6〜試料C8)を作製した。
試料C6は、上記試料E4と同様の成分からなるマイクロ波発熱複合材を粉末状にして基材に担持させてなる。即ち、試料C6においては、β−SiC粉末と水ガラスとからなるマイクロ波発熱複合材が粉末状に粉砕された状態で基材に担持されている。
【0034】
試料C7は、マイクロ波吸収材としてα−SiC粉末を用いた点を除いては試料E2と同様にして作製したものである。即ち、試料C7においては、マイクロ波吸収材としてのα−SiC粉末と結着材としての水ガラスとからなるマイクロ波発熱複合材が基材に担持されている。
また、試料C8は、マイクロ波吸収材としてα−SiC粉末を用いた点を除いては試料E3と同様にして作製したものである。即ち、試料C8においては、マイクロ波吸収材としてのα−SiC粉末と結着材としての水ガラスとからなるマイクロ波発熱複合材が粉末状に粉砕された状態で基材に担持されている。
【0035】
次いで、各試料(試料E2〜E4、及び試料C6〜試料C8)について、実施例1と同様にしてマイクロ波による加熱特性の評価を行った。その結果を図3に示す。
【0036】
図3より知られるごとく、試料E2〜試料E4は、実用上充分に優れた加熱性能を示した。また、基材におけるマイクロ波発熱複合材が担持されている部分においては、どの部分においても均一に加熱されていた。これに対し、試料C6〜試料C8は、加熱性能が不十分であった。
【0037】
特に、試料E2においては、実施例1の試料E1と同様に、1分間という短時間で500℃以上にまで急速に加熱されていた。一方、試料E2と同様の成分からなるマイクロ波発熱複合材を粉末状に粉砕して担持させた試料E3においては、約250℃程度まで加熱されており実用上充分な加熱性能を示すものの、上記試料E2に比べると、加熱性能が約半分程度まで低下していた。よって、上記マイクロ波発熱複合材としては、粉末状に粉砕して用いるのではなく、結合材が連続的なマトリックスを形成し、該マトリックス中にマイクロ波発熱複合材が分散された固形状のものを用いることが好ましい。
【0038】
また、試料E4と試料C6とを比較すると、試料E4は、試料C6の4倍以上の優れた加熱性能を示した。試料E4及び試料C6においては、いずれもマイクロ波吸収材としてβ−SiCを用い結合材として水ガラスを用いており、マイクロ波発熱複合材の構成成分は同じである。しかし、試料C6は、粉末状に粉砕したマイクロ波発熱複合材を用いた点で、試料E4と相違する。その結果、図3に示すごとく、試料C6においては、加熱性能が実用上不十分なレベルにまで低下していた。よって、マイクロ波吸収材としてβ−SiCを用いた場合には、結合材が連続的なマトリックスを形成し、該マトリックス中にマイクロ波発熱複合材が分散された固形状のマイクロ波発熱複合材を用いることが特に好ましくなる。
【0039】
また、試料C7及び試料C8のように、マイクロ波吸収材としてα−SiCを用いた場合には、粉末状又は固形状の違いにかかわらず、加熱性能が実用上不充分であった。
【0040】
以上のように、本例によれば、Si−Zr−C−O等の炭化ケイ素複合酸化物又はβ−SiCからなるマイクロ波吸収材と、水和性の珪酸塩ガラスからなる結合材とを含有するマイクロ波発熱複合材は、被加熱体を急速かつ均一に加熱することができることがわかる。さらに、マイクロ波発熱複合材においては、結合材がマトリックスを形成し、マトリックス中にマイクロ波吸収材が分散されていることが好ましいことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施例1にかかる、基材に担持された状態のマイクロ波発熱複合材の構成を示す説明図。
【図2】実施例1にかかる、各種マイクロ波発熱複合材が担持された発熱体(試料E1、試料C1〜試料C5)についての加熱特性を示す説明図。
【図3】実施例2にかかる、各種マイクロ波発熱複合材が担持された発熱体(試料E2〜試料E4、及び試料C6〜試料C8)についての加熱特性を示す説明図。
【符号の説明】
【0042】
1 マイクロ波発熱複合材
2 マイクロ波吸収材
3 結合材
4 基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化ケイ素系粉末からなるマイクロ波吸収材と、水和性の珪酸塩ガラスからなる結合材とを含有するマイクロ波発熱複合材であって、
上記炭化ケイ素系粉末としては、Si−Zr−C−O又はSi−Ti−C−Oからなる複合酸化物を採用することを特徴とするマイクロ波発熱複合材。
【請求項2】
請求項1において、上記マイクロ波発熱複合材においては、上記結合材がマトリックスを形成し、該マトリックス中に上記マイクロ波吸収材が分散されていることを特徴とするマイクロ波発熱複合材。
【請求項3】
炭化ケイ素系粉末からなるマイクロ波吸収材と、水和性の珪酸塩ガラスからなる結合材とを含有するマイクロ波発熱複合材であって、
上記炭化ケイ素系粉末としては、β−SiCを採用し、
上記マイクロ波発熱複合材においては、上記結合材がマトリックスを形成し、該マトリックス中に上記マイクロ波吸収材が分散されていることを特徴とするマイクロ波発熱複合材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項において、上記マイクロ波発熱複合材は、上記結合材を10〜80wt%含有することを特徴とするマイクロ波発熱複合材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−103299(P2007−103299A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−294992(P2005−294992)
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】