説明

マイクロ流体システム

マイクロ流体システムは、流体を案内するためのマイクロチャネル構造と、マイクロチャネル構造から少なくとも1つの隔壁によって隔離され熱伝達流体を案内するための他のチャネル構造とを有する。マイクロ流体システムにおける内部漏れの危険を適切な時機に認識することができるようにするために、マイクロチャネル構造(2)が少なくとも1つの個所において他の隔壁(11)によって空洞(12)から隔離され、他の隔壁(11)が、少なくとも局所的に、マイクロチャネル構造(2)と他のチャネル構造(5)との間の隔壁(8)よりも弱く構成され、空洞(12)が侵入流体を検出するための検出装置(14)に接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体を案内するためのマイクロチャネル構造と、マイクロチャネル構造から少なくとも1つの隔壁によって隔離され熱伝達流体を案内するための他のチャネル構造とを有するマイクロ流体システムに関する。
【0002】
欧州特許出願公開第1217099号明細書から公知のこの種のマイクロ流体システムは、被混合流体(反応物質)および反応生成物のためのマイクロチャネル構造が第1の板内に形成されそして熱伝達流体のための他のチャネル構造が他の板内に形成されているマイクロリアクターを構成している。両板は、マイクロチャネル構造と他のチャネル構造との間の隔壁を成す第3の板の隔離層のもとでつなぎ合わされている。熱伝達流体は外部から適切な温度に調整され、すなわち加熱または冷却される。
【0003】
良好な熱伝達を保証するためには、生成物側と熱媒体側との間の隔壁ができるだけ薄く構成されていなければならない。化学反応時に、特に高い反応温度の場合に、マイクロチャネル構造の内壁にしばしば腐食が生じる。この場合に、化学物質の流出による外への漏れが認識されることがある。反応は一般に強制通風を有する換気室内で行なわれることから、操作者にとって危険は比較的小さい。これに対して熱媒体側と生成物側との間において漏れが発生し、その際に熱媒体回路へ化学物質が侵入するという事態になると、化学物質が場合によっては換気室の外側の恒温装置において蒸発し、それによって操作者が有毒物質の蒸気に曝されることがある。更に、化学物質が熱媒体回路に到達するか、もしくは熱媒体がマイクロリアクターのマイクロチャネル構造に到達すると、熱伝達もしくは化学反応が妨害される。
【0004】
したがって、本発明の課題は、適切な温度に調整されるマイクロ流体システムにおける内部漏れの危険を適切な時機に認識することにある。
【0005】
本発明によれば、この課題は、冒頭に述べたごときマイクロ流体システムにおいて、マイクロチャネル構造が少なくとも1つの個所において他の隔壁によって空洞から隔離され、他の隔壁が、少なくとも局所的に、マイクロチャネル構造と他のチャネル構造との間の隔壁よりも弱く構成され、空洞が侵入流体を検出するための検出装置に接続されていることによって解決される。
【0006】
したがって、他の隔壁は、マイクロチャネル構造内における腐食時に最初に破壊する予定破損個所を構成する。この場合、流体がマイクロチャネル構造から空洞内へ流れ、そこにおいて流体が検出装置により検出される。検出の結果として、警報信号を発生させることおよび/または現在の反応プロセスを自動的に中断させることが可能である。
【0007】
空洞内に侵入する流体を検出するために多数の異なる検出原理を用いることができる。これには、とりわけ熱線が侵入流体によって冷却される熱式測風法、侵入流体によって変化する空洞内の導電度または静電容量値の測定法、濁度測定の如き光学式測定法、侵入流体による空洞内の音伝播変化を検出する超音波法等が含まれる。
【0008】
検出装置を空洞内に直接に配置できるように、例えば熱式測風法、導電度測定法または静電容量測定法のような簡単で、したがって低コストの検出原理を使用することが好ましい。マイクロ流体システムは故障時に修理することができないので、検出装置も低コストの使い捨て部品であるべきである。
【0009】
代替として空洞がチャネルとして構成され、このチャネルに次のような検出装置、すなわち、本来のマイクロ流体システムの外側において例えば圧力に対して密閉されたカプセル内に配置された検出装置、またはマイクロ流体システムを含む多層構成の1つの層内に配置された検出装置が接続されているとよい。
【0010】
予定破壊個所として役立つ他の隔壁は、種々の手法で、マイクロチャネル構造と他のチャネル構造との間の隔壁よりも弱く構成することができる。好ましくは、他の隔壁が、マイクロチャネル構造と他のチャネル構造との間の隔壁よりも薄く構成されているとよい。代替または追加として、他の隔壁が化学的な前処理または放射線処理によって弱められているとよい。
【0011】
マイクロ流体システムは一般に耐圧に対する定められた要求を満足しなければならないので、マイクロチャネル構造と他のチャネル構造との間の隔壁の最小許容壁強度は下限を制限されている。隔壁の両側のチャネル幅が小さくなるほど、壁強度が低くなる。したがって、他の隔壁が圧力試験時に試験圧力によって破壊される危険なしに他の隔壁の壁厚を低減することができるように、他の隔壁の一方の面における空洞の幅が他方の面におけるマイクロチャネル構造のチャネル幅よりも小さいと好ましい。
【0012】
マイクロ流体システムの腐食による危険状態の検出時の安全性および確実性を高めるために、あるいは複数の危機的な個所を監視できるようにするために、マイクロチャネル構造の少なくとも1つの他の個所に、他の隔壁、空洞および検出装置が冗長的に配置されているとよい。この場合に、マイクロチャネル構造と異なった空洞との間の他の隔壁の強度低減は等しくてもよいし、異なっていてもよい。2つ以上の予定破壊個所のうちの第1番の予定破壊個所においてそれぞれ背後にある空洞への流体侵入が生じたときに、先ず警報または予備警報が発せられるのに対して、第2番またはそれ以降の予定破壊個所の破壊時には場合によっては更に高い段階の警報が発せられ、あるいはマイクロ流体システムにおける反応プロセスが自動的に中断され、場合によっては、例えば洗浄プロセスのような他の安全措置が実行される。
【0013】
本発明は、高い温度、物質転移等のような特別な状況により高められた腐食に曝されるようなマイクロ流体システムに適用されるとよい。それに応じて本発明によるマイクロ流体システムはマイクロリアクター、マイクロ混合器および/またはマイクロ滞留器(Mikroverweiler)であるとよい。
【0014】
以下において本発明の更なる説明のために図面の図を参照する。個別的には、図1は本発明によるマイクロ流体システムの概略的な実施例を示し、図2は本発明によるマイクロ流体システムの他の実施例を断面図にて示す。
【0015】
図1は、単一部分または複数部分からなる担持体(基板)1を有するマイクロリアクターとしてのマイクロ流体システムを示し、担持体1内に流体3,4を案内して混合するためのマイクロチャネル構造2が構成されている。更に担持体1は他のチャネル構造5を有し、他のチャネル構造5内には熱伝達流体6が流れる。マイクロチャネル構造2の混合区間7の範囲において、マイクロチャネル構造2は数10分の1ミリメートルの厚みを有する薄い隔壁8によって他のチャネル構造5から隔離されている。他のチャネル構造5は、チューブ接続または流体チャネルのような流体接続手段9を介して恒温装置10に接続されている。恒温装置10においては熱伝達流体6が適切な温度に調整され、発熱反応の場合には流体3,4が冷却される。
【0016】
混合区間7の範囲内の1つの個所において、マイクロチャネル構造2は、他の隔壁11によって、同様に担持体1内に構成された空洞12から隔離されている。空洞12は、ここではチャネル状に構成され、他の流体接続手段13を介して検出装置14に接続されている。検出装置14は空洞12内に侵入する流体を検出するように構成されている。このために用いられる検出方法は一般に知られているのでこれ以上の説明はしない。検出時に検出装置14は出力信号15を発生する。出力信号15は警報発生に利用されるか、または例えば反応プロセスの中断のような措置の導入に利用される。他の隔壁11は隔壁8に比べて弱く、ここでは薄く構成されているので、マイクロチャネル構造2内の腐食時に、隔壁8が破壊させられて流体がマイクロチャネル構造2から他のチャネル構造5内へ又は逆に他のチャネル構造5からマイクロチャネル構造2内へ侵入し得る前に、最初に他の隔壁11の破壊が起きる。
【0017】
図2は、マイクロ流体システムのためのモジュールの形でマイクロリアクターを示す。複数部分から成る担持体1の台板16上に、マイクロチャネル構造2を含む構造化層(構造化された層)17が形成されている。代替として、マイクロチャネル構造2が、マイクロ技術の適切なプロセスによって単一の板の片面だけに設けられてもよい。上に向けて開いたマイクロチャネル構造2が薄い板18により覆われている。板18は他のチャネル構造5の一部を含む他の構造化層19のための台板として用いられる。層19は上側を他の板20によって覆われている。他のチャネル構造5の残りの部分は付加的な台板22上の付加的な構造化層21内に構成されている。台板22および層21は下から台板16に隣接する。流体3,4および熱伝達流体6の供給もしくは排出のために、ならびにチャネル構造5の両部分の接続のために、板および構造16〜22の底面に対して垂直に延びこれらを相応に横断する流体チャネル23が用いられる。板16,18,22は部分的に電気的構造を担持する。この電気的構造は、構成に応じて温度センサ24または容量式圧力センサ25であり、マイクロチャネル構造2における流体の温度および圧力の測定に役立つ。
【0018】
混合区間7の範囲においては、板16と板22との間に空洞12が構成され、空洞12内には空洞12内へ侵入する流体を検出するための電気的構造26が配置されている。この電気的構造26は、例えば互いに隔離された2つの電極からなるとよく、両電極間において導電度または静電容量値が測定される。しかしながら、電気的構造26は例えば音波の伝播を測定する音響トランスデューサまたは光電センサの形での濁度センサであってもよい。電気的構造26はここに示されていない後続の評価装置と共に検出装置14を構成する。板16は、空洞12の範囲において厚みを減らされ、そこにおいて他の隔壁11の予定破壊個所を形成する。他の隔壁11の一方の面における空洞12の幅は他方の面におけるマイクロチャネル構造2のチャネル幅よりも小さいので、他の隔壁11の厚み低減にもかかわらず、他の隔壁11が圧力試験時に試験圧力によって破壊される危険はない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明によるマイクロ流体システムの実施例を示す概略図
【図2】本発明によるマイクロ流体システムの他の実施例を示す断面図
【符号の説明】
【0020】
1 担持体
2 マイクロチャネル構造
3 流体
4 流体
5 他のチャネル構造
6 熱伝達流体
7 混合区間
8 隔壁
9 流体接続手段
10 恒温装置
11 他の隔壁
12 空洞
13 流体接続手段
14 検出装置
15 出力信号
16 台板
17 構造化層
18 薄い板
19 他の構造化層
20 他の板
21 付加的な構造化層
22 付加的な台板
23 流体チャネル
24 温度センサ
25 圧力センサ
26 電気的構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体(3,4)を案内するためのマイクロチャネル構造(2)と、マイクロチャネル構造(2)から少なくとも1つの隔壁(8)によって隔離され熱伝達流体(6)を案内するための他のチャネル構造(5)とを有するマイクロ流体システムにおいて、マイクロチャネル構造(2)が少なくとも1つの個所において他の隔壁(11)によって空洞(12)から隔離され、他の隔壁(11)が、少なくとも局所的に、マイクロチャネル構造(2)と他のチャネル構造(5)との間の隔壁(8)よりも弱く構成され、空洞(12)が侵入流体を検出するための検出装置(14)に接続されていることを特徴とするマイクロ流体システム。
【請求項2】
検出装置(14)が空洞(12)内に配置されていることを特徴とする請求項1記載のマイクロ流体システム。
【請求項3】
空洞(12)が検出装置(14)に案内されているチャネルとして構成されていることを特徴とする請求項1記載のマイクロ流体システム。
【請求項4】
他の隔壁(11)が、マイクロチャネル構造(2)と他のチャネル構造(5)との間の隔壁(8)よりも薄く構成されていることを特徴とする請求項1乃至3の1つに記載のマイクロ流体システム。
【請求項5】
他の隔壁(11)が化学的な前処理および/または放射線処理によって弱められていることを特徴とする請求項1乃至4の1つに記載のマイクロ流体システム。
【請求項6】
他の隔壁(11)の一方の面における空洞(12)の幅が他の隔壁(11)の他方の面におけるマイクロチャネル構造(2)のチャネル幅よりも小さいことを特徴とする請求項1乃至5の1つに記載のマイクロ流体システム。
【請求項7】
マイクロチャネル構造(2)の少なくとも1つの他の個所に、他の隔壁、空洞および検出装置が冗長的に配置されていることを特徴とする請求項1乃至6の1つに記載のマイクロ流体システム。
【請求項8】
マイクロチャネル構造(2)の少なくとも1つの他の個所に、他の隔壁、空洞および検出装置が補足的に配置され、他の隔壁の弱さが異なっていることを特徴とする請求項1乃至7の1つに記載のマイクロ流体システム。
【請求項9】
マイクロ流体システムがマイクロリアクター、マイクロ混合器および/またはマイクロ滞留器として構成されていることを特徴とする請求項1乃至8の1つに記載のマイクロ流体システム。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−502525(P2009−502525A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−523347(P2008−523347)
【出願日】平成18年7月24日(2006.7.24)
【国際出願番号】PCT/EP2006/064590
【国際公開番号】WO2007/012632
【国際公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(390039413)シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト (2,104)
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Wittelsbacherplatz 2, D−80333 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】