説明

マイクロ粒子およびそれらの治療または診断使用

【課題】治療または診断使用に適したマイクロカプセルの提供。
【解決手段】500nm以下の壁厚および0.2g.cm−3以下の嵩密度を有したマイクロカプセル。上記マイクロカプセルは空気力学的に軽く、肺へのデリバリーまたは超音波による診断に適する。上記マイクロカプセルは、吸入器での処方用に非常に適している。それらが治療剤を含んでいるならば、いかなる徐放性処方とも全く対照的に、それらは肺で速やかな放出およびその後で薬物の取込みを行って、薬物封入を避けられる。更に、そのマイクロカプセルが壁形成物質のみを含有して、治療剤自体が含有されていないならば、それらは超音波画像化向けに特に適している。マイクロカプセルの比較的薄い壁は、見掛け上改善されたエコー源性を発揮する。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明はマイクロ粒子およびそれらの治療または診断使用に関する。更に詳しくは、本発明は、吸入による肺への活性剤のデリバリー、および超音波を用いた診断画像化に関する。
【発明の背景】
【0002】
Edwards et al.Science 276:1868-71(1997)では、肺薬物デリバリーで使う小さな質量密度および大きなサイズの粒子の生産について報告している。その目的は、徐放性錠剤と同様に、持続的薬物放出用のリザーバーとして作用する不溶性マトリックスを提供することであった。多孔質および非孔質粒子が製造されたが、多孔質粒子がそれらの“高効率”のために好ましい。これら粒子の“粒子質量密度”値は各々約0.1g.cm−3および0.8g.cm−3であった。多孔質粒子は孔を有する固体マトリックスから見掛け上造られており、そのマトリックスは本質的には治療剤(その例はテストステロンおよびインシュリンである)をマトリックス内に保つためのキャリアである。
【0003】
Edwards et alの注釈14では、密度が非水銀ポロシメトリーまたはタップ密度測定により調べられると述べている。少くとも後者は真の粒子密度を示せないであろう。レファレンス15(French et al,J.Aerosol Sci.27:769(1996))では明らかに嵩密度を示している。注釈14はVidgren et al,Int.J.Pharm.35:139(1987)に関し、そこでは“有効密度”を用いている。そのため、“粒子質量密度”の意味についてはほとんど結論がだせないのである。
【0004】
WO98/31346は、見掛け上、Edwards et alにより開示されたものと似た製品に関する。粒子は空気力学的に軽く、通常多孔質である。
【0005】
多くの徐放性吸入療法に伴う困難さは、固体(またはそれより緻密な)粒子がクリアランスメカニズムをうけやすいため、リザーバーとして働けないことである。気管または気管支に付いたこのような粒子は、粘膜繊毛クリアランスメカニズムで速やかに除去されてしまう。同様に、肺深部の非繊毛領域に達した粒子もマクロファージ活性で速やかに排除されてしまう。Edwards et alにより報告された物質では、マクロファージによる食作用を避けながら、空気力学的に小さくて(即ち、幾何学的直径からみて低密度)、肺深部の非繊毛領域に達するような、比較的大きな幾何学的直径(>5μm)の粒子を供することにより、これら双方の問題を避けている。徐放性は、物質の不溶性マトリックスの使用により行われている。
【0006】
Edwards et alにより開示された粒子は、ダブル‐およびシングル‐エマルジョン溶媒蒸発技術により製造された。治療剤および製薬賦形剤を含んだ多孔質粒子はスプレードライで容易に形成されることも述べられており、この関係ではSacchetti and Van Oort,”Inhalation Aerosols”(May 1996),A.J.Hickey ed.,Dekker NY pub.,pages 337-384の論文が参照される。低密度の粒子がスプレードライでどのようにして得られるかについて、特別な指示はなされていない。吸入療法において、乾燥粉末は、標準用量の制御された再現的な投与を確保するために、個別粒子として気流中に分散されねばならない。これを行うために、粉末は、混和することで、ラクトースのようなキャリア上に通常担持される。その目的は、薬物粉末がキャリア上に均一に個別粒子として分配された混和物を生産することである。これが行えずに、粒子が凝集物であるならば、空気力学的なサイズの見掛け上の増加、および投薬効率の低下が生じる。
【0007】
キャリアなしで投与できる化合物、例えばクロモグリク酸ナトリウムおよびテルブタリンが知られているが、これらは通常極めて安全または比較的不活性であって、膨大な量の物質の非効率的な投与の結果として治療効果を出している。更に、キャリアの使用は薬物処方上の困難さを別に引き起こすことがある。例えば、この目的のために最も常用される物質、ラクトースは、還元糖であって、タンパク質およびペプチドのような一部の薬物と化学的に反応することがある。
【0008】
混和および篩分けのようなラクトースのメカニカル操作は、キャリアの表面上で“高エネルギースポット”をもたらす。これは、薬物を分散させる上で追加エネルギーを要することから、、吸入効率の低下を招く。
【0009】
製薬工程でスプレードライの使用は新しくはない。しかしながら、良流動性の粉末を得る目的にとり、粒子を一緒に結合させることが通常行われている。
【0010】
US‐A‐5202159では、ジクロフェナック、賦形剤、メタクリル酸‐アクリル酸エチルコポリマーおよびポリエチレングリコールのスラリーをスプレードライさせて、生成物を錠剤に処方することを記載している。US‐A‐4971787は、薬剤を糖でスプレードライし、生成物を特定のガムベースで処方して、チューインガム組成物を得ることを開示している。
【0011】
US‐A‐4180593は、嵩密度をコントロールするために、食材を発泡剤でスプレードライしてから、それを止めることにより、易流動性の吹込みビーズ食品を生産することを開示している。唯一の例で報告された嵩密度は約0.1g.cm−3(6 lb/ft)である。
【発明の要旨】
【0012】
薬剤で粒子を一緒に結合させる上で、スプレードライの事前使用とは対照的に、本発明では大きな軽い粒子の生産にスプレードライを用いている。更に詳しくは、超音波診断操作および吸入による治療剤のデリバリー向けに特に適した、即ち非孔質である性質を有したマイクロカプセルは、スプレードライされる処方中に発泡剤を含有させるという、単純な手段により製造できることがわかったのである。結果的に、0.2g.cm−3以下の嵩密度を有したマイクロカプセルが得られる。
【0013】
本発明のマイクロカプセルは、吸入器での処方用に非常に適している。それらが治療剤を含んでいるならば、いかなる徐放性処方とも全く対照的に、それらは肺で速やかな放出およびその後で薬物の取込みを行って、薬物封入を避けられる。更に、本発明の製品では肺への効果的な投与のためにキャリアを要しない。したがって、本発明のマイクロカプセルを含有した吸入器では、吸入処方物の唯一または主要成分としてそのマイクロカプセルを含有している。
【0014】
そのため、本発明では、キャリア物質の必要性なしに、よく効くおよび/または高価な薬剤について少量で制御された再現的な投与を行える。ラクトースの使用に伴う問題は避けられるのである。
【0015】
更に、そのマイクロカプセルが壁形成物質のみを含有して、治療剤自体が含有されていないならば、それらは超音波画像化向けに特に適している。マイクロカプセルの比較的薄い壁は、見掛け上改善されたエコー源性を発揮する。
【発明の説明】
【0016】
スプレードライによりマイクロ粒子を製造するための操作、適切な壁形成物質(例えばアルブミン)、および例えば熱または化学的にマイクロ粒子を安定化させるためのプロセスは、特にWO92/18164およびWO96/15814で詳しく記載されており(現在好ましいプロセスについて記載している)、その内容は参考のため本明細書に組み込まれる。本発明によると、これらの操作はスプレードライ用供給原料への発泡剤の含有により修正される。
【0017】
発泡剤は、スプレードライプロセスに際してガスを放出する、揮発性物質である。発泡剤は、中空マイクロカプセルを生産するために、本発明で用いられる。適切な発泡剤には、酢酸アンモニウム、水酸化アンモニウム、炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム、酢酸、ギ酸および塩酸がある。これらの発泡剤が用いられるpHは様々である;これはpH依存溶解性の化合物が適切な発泡剤を加えてスプレードライできることを意味している。
【0018】
例として、アルブミンマイクロカプセルの生産に用いられる発泡剤は炭酸アンモニウムであって、これはアンモニア、二酸化炭素および水蒸気を放出する。スプレードライに際して、これら3種のガスは噴霧される小滴中で膨張して、その小滴の大きさを増し、より大きくてより薄い壁のマイクロカプセルを形成させる。
【0019】
本発明の製品は、それらの製造条件に応じて、様々な特徴を有するようになる。例えば、それらの中位径は1〜20μmであり、それらの壁厚は500nm以下、例えば10〜250nm、更に好ましくは100〜150nmである。それらの嵩密度は0.01〜0.15g.cm−3、更に好ましくは0.04〜0.1g.cm−3である。
【0020】
本発明のマイクロカプセルは、壁形成物質および所望であれば治療剤(同一であってもよい)から構成される。壁形成物質および治療剤が異なるならば、マイクロカプセルは同時スプレードライにより形成してもよい。
【0021】
前記のように、マイクロカプセルはアルブミン、好ましくはヒト血清アルブミンから作製してもよい。アルブミンは治療剤自体として、または治療剤と一緒にさせた壁形成物質として用いられる。本発明で使う他の活性剤は、望まれる効果を考慮して選択される。使える活性剤の例には、コトランスサイトーシス(cotranscytosis)因子、フィブリノーゲン、トロンビン、インシュリン、成長ホルモン、カルシトニン、α‐抗トリプシン、FSH、α‐インターフェロン、β‐インターフェロン、ヘパリン、因子VIII、因子IX、インターロイキンおよび血液凝固因子がある。使える他の壁形成物質はWO92/18164で記載されている。
【0022】
好ましい投与経路で、スプレードライにより得られる可溶性マイクロカプセルが用いられる。前記のように、安定化は、別な投与経路が必要とされるとき、および/または診断目的に用いられる。投与されるマイクロカプセルの量は熟練者により容易に決められる。
下記例は本発明について説明している。
【0023】
例1
炭酸アンモニウム60gを含有するダイアフィルトレーションされた(diafiltered)10%w/w HSA溶液212mlを標準Mobile Minorスプレードライヤー上にスプレードライした。条件は下記の通りであった:
入口温度‐220℃
噴霧圧力‐2.0barg
供給速度‐21.4g/min
噴霧タイプ‐2流体ノズル
液体インサート‐0.5mm
可溶性である、スプレードライにより得られる非固定マイクロカプセルは、粉末としてふるまい、液体流動性を示した。それらは吸入器でそのまま使用に適している。
【0024】
試験目的で、スプレードライにより得られたマイクロカプセル4gを熱風オーブンにおいて176℃で55分間かけて熱安定化させた。熱安定化後も、マイクロカプセルはそれらの流動性を留めていた。
熱安定化マイクロカプセルの一部50mgを脱イオン水に分散させた(エタノール中での音波処理は不要であった)。次いでその懸濁液を顕微鏡検査して、50μm開口チューブを備えたCoulter Counterを用いてサイズ分けした。
顕微鏡検査では区別しうる2集団のマイクロカプセルの存在を示した。第一の集団は大きさ約5μmの中空空気含有マイクロカプセルからなり、第二の集団は懸濁流体を含有した大きな吹込みマイクロカプセルからなっていた。両集団のマイクロカプセルは、独立してまたは組合せでも、本発明による使用に適している。
【0025】
そのマイクロカプセルは非常に薄い壁を有していた。それらは自己流動性であって、約0.07g/cmの密度を有していた。したがって、それらは肺経路によるデリバリー用の製品として試験すると適していた。これらマイクロカプセルの容量による中位径分布は、Coulter Counterサイジングによると10.7μmであることが示された。
【0026】
多段階液体インピンジャー(MLSI)およびDinkihalerを用いて、そのマイクロカプセルの空気力学径を調べた。
3つのゼラチンカプセルにそのマイクロカプセル10mgを各々充填した。各段階のMLSIに精製水20mlを充填し、気流を60L/minに設定した。
1つのゼラチンカプセルに両末端で穴をあけ、Dinkihalerに入れた。気流を30秒間出してから、止めた。
その装置およびスロート(throat)を精製水20mlで各々洗浄した。各段階において全部で25mlの精製水で洗浄し、フィルターを精製水10mlで洗浄した。次いでそれらを標準方法でタンパク質についてアッセイした。
【0027】
MLSIをよく洗浄し、前記のように2回目のラン向けに調製した。3回のランを行った。結果は下記表で示されている。
段 階 蓄積率
ラン1 ラン2 ラン3
装置 17.02 8.85 14.27
スロート 22.62 11.57 18.08
1(>13.4μm) 4.78 2.66 5.31
2(13.4〜6.8μm) 14.58 18.30 12.99
3(6.8〜3.1μm) 25.92 32.63 23.56
4(3.1〜1.7μm) 7.96 15.95 11.09
フィルター(<1.7μm) 1.38 4.64 7.58
全回収(%) 94.30 94.23 92.87
【0028】
ラン1〜3で(6.8μm以下の粒子として規定される)呼吸しうるフラクションは、各々33%、53%および42%であった。その結果は、非安定化マイクロカプセルも表しており、このタイプのマイクロカプセルが肺デリバリー用に適することを示唆している。
【0029】
例2
炭酸アンモニウム10gを含有するダイアフィルトレーションされた20%w/w HSA溶液100mlをNiro Mobile Minorスプレードライヤー上にスプレードライした。下記条件を用いた:
入口温度‐220℃
噴霧圧力‐7.5barg
供給速度‐3.96g/min
噴霧タイプ‐2流体ノズル
液体インサート‐0.5mm
こうして得たスプレードライされたマイクロカプセル5gを熱風オーブンにおいて177℃で55分間かけて熱安定化させた。次いで安定化されたマイクロカプセルを、Fritsch遠心ピンミルを用いて、等量のグルコースで解凝集させた。
100μmオリフィスチューブを備えたCoulter Counterを用いてマイクロカプセルをサイズ分けしたところ、そのマイクロカプセルの容量中位径は10.1μmであることがわかった。エコー源性をWO96/15814の例5で記載されたように特徴づけた。既知のマイクロカプセルは約26VDUのエコー源性を有することがわかり、発泡剤を含有したこの例のマイクロカプセルでは、対応値が69VDUであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療または診断用の、500nm以下の壁厚および0.2g.cm−3以下の嵩密度を有しているマイクロカプセル。
【請求項2】
中位径が1〜20μmである、請求項1に記載のマイクロカプセル。
【請求項3】
壁厚が10〜250nmである、請求項1または2に記載のマイクロカプセル。
【請求項4】
壁厚が100〜150nmである、請求項3に記載のマイクロカプセル。
【請求項5】
嵩密度が0.01〜0.15g.cm−3である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のマイクロカプセル。
【請求項6】
嵩密度が0.04〜0.1g.cm−3である、請求項5に記載のマイクロカプセル。
【請求項7】
壁が少くとも主にアルブミンから構成されている、請求項1〜6のいずれか一項に記載のマイクロカプセル。
【請求項8】
発泡剤と共に壁形成物質をスプレードライすることにより得られる、請求項1〜7のいずれか一項に記載のマイクロカプセル。
【請求項9】
治療剤を含んでいる、請求項1〜8のいずれか一項に記載のマイクロカプセル。
【請求項10】
コトランスサイトーシス因子を含んでいる、請求項9に記載のマイクロカプセル。
【請求項11】
フィブリノーゲンまたはトロンビンを含んでいる、請求項9に記載のマイクロカプセル。
【請求項12】
インシュリン、成長ホルモン、カルシトニン、α‐抗トリプシン、FSH、α‐インターフェロン、β‐インターフェロン、ヘパリン、因子VIII、因子IX、インターロイキンおよび血液凝固因子から選択される活性剤を含んでいる、請求項9に記載のマイクロカプセル。
【請求項13】
可溶性である、請求項9〜12のいずれか一項に記載のマイクロカプセル。
【請求項14】
請求項13に記載されたマイクロカプセルの吸入処方剤を含んでいる吸入器。
【請求項15】
処方剤がその唯一または主要成分としてマイクロカプセルを含んでいる、請求項14に記載の吸入器。
【請求項16】
肺に投与されたときに治療剤が活性である症状の治療向け薬剤の製造に関する治療剤の使用であって、
その薬剤が請求項9〜13のいずれか一項に記載された治療剤のマイクロカプセルを含んでいる、使用。
【請求項17】
不溶性である、請求項1〜8のいずれか一項に記載のマイクロカプセル。
【請求項18】
超音波画像化による診断向け薬剤の製造に関する、請求項17に記載されたマイクロカプセルの使用。

【公開番号】特開2011−68668(P2011−68668A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−267387(P2010−267387)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【分割の表示】特願2000−525078(P2000−525078)の分割
【原出願日】平成10年12月21日(1998.12.21)
【出願人】(502409606)クアドラント、ドラッグ、デリバリー、リミテッド (4)
【氏名又は名称原語表記】QUADRANT DRUG DELIVERY LIMITED
【Fターム(参考)】