説明

マイクロ製造される拡散ベースの化学センサ

【課題】サンプルストリーム中の分析物粒子の存在を検出および/または測定するチャネルセルシステムを提供すること。
【解決手段】層流チャネル(100)と、それぞれがインジケータストリーム(70)を層流チャネル(100)に案内する、層流チャネル(100)と流体連通している2つの入口手段(30、20)と、層流チャネル(100)からストリームを出すように案内して単一の混合ストリームを形成する出口手段(60)とを含む、チャネルセルシステム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
仮出願の相互参照
本発明は、米国陸軍によって与えられた陸軍研究契約DAMD17-94-J-4460に基づく政府援助によるものである。米国政府は本発明に関する特定の権利を享受する。
【0002】
発明の分野
本発明は、広義には、拡散原理によって、小さな粒子および比較的大きな粒子の両方を含むストリーム中において小さな粒子の存在および濃度を分析するためのマイクロセンサおよび方法に関する。例えば、本発明は、血液を分析して、細胞を含むストリーム中において水素、ナトリウムまたはカルシウムイオン等の小さな粒子の存在を検出するのに有用である。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
マクスウェルの有名なgedanken(思考)実験において、魔物(demon)は同じ温度の2つの気体が入った箱の間のドアを操作する。魔物は分子を選別し、比較的動きの速い分子を一方の箱に、そして比較的動きの遅い分子を他方の箱に維持する。これは熱力学の基本法則に反する。以降、このパラドックスは多くの様々な方法で解決されてきた。Leff,H.S.およびRex, A.F. (1990) 「Resource letter md-1: Maxwell's demon」 Am. J. Physics58:201-209。
【0004】
類似の構成を用いて粒子を分離することができる。水の中に2つの異なる大きさの粒子を懸濁させた混合物を一方の箱の中に入れ、他方の箱の中に純水を入れた場合を考える。魔物が、大きい方の粒子がこの出入口を通って拡散しないように素早く、しかし小さい方の粒子が他方の箱に拡散できるような時間で箱の間のドアを開閉した場合、ある程度の分離が起こる。
【0005】
最近、複数のブラウン粒子の存在下で、空間的に非対称の電位を定期的に印加する実験が2つ行われた。Faucheux, L.S.ら (1995) 「Optical thermal ratchet」Physical Rev.Letters 74:1504-1507; Rousselet, J.ら (1994)「Directional motion of brownianparticles induced by a periodic asymmetric potential」Nature 370:446-448。
【0006】
これが、拡散係数に依存する速度での粒子の指向された移動を引き起こすことが分かっている。ある実験(Rousselet, J.ら (1994),「Directional motion of brownian particlesinduced by a periodic asymmetric potential」Nature 370:446-448)では、顕微鏡のスライド上にマイクロ製造された電極を用いて、その電位の電界を印加した。このアイデアは、Adjari,A.らの1995年3月29日付け欧州特許公報第645169号「Separation of particles in a fluid using asaw-tooth electrode and an intermittent excitation field」の主題でもある。別の実験(Faucheux,L.S.ら (1995)「Optical thermal ratchet」Physical Rev. Letters 74:1504-1507)では、変調された光学ピンセット構成を用いた。
【0007】
拡散は、大きなスケールでは容易に無視し得るプロセスであるが、マイクロスケールになると急に重要になる。ある分子がある距離dだけ拡散するのにかかる平均時間tは、t=d/Dである。但し、Dはその分子の拡散係数である。タンパク質または他の大きな分子の場合、マクロスケールにおいて拡散は比較的ゆっくりである(例えば、水中、室温においてD=7×10−7cm/sのヘモグロビンが1センチメートルのパイプを拡散するのにかかる時間は約10秒(10日間)であるが、10ミクロンのチャネルを拡散するのにかかる時間は約1秒である)。
【0008】
電子部品を小型化するために半導体産業において開発された道具を用いれば、チャネルの大きさがわずかに1ミクロンの入り組んだ流体システムを製造することが可能である。これらの装置は、安価に大量生産することができ、近い将来には単純な分析テストにおいて広く使用される見込みである。
【0009】
マイクロスケールで作られてはいないが層流を生成するには十分に小さいチャネルを持つシステムにおいて、「フィールドフローフラクショネーション(field-flow fractionation)」(FFF)と呼ばれるプロセスを用いて、単一インプットストリームの成分の分離および分析が行われている。濃度勾配を含む様々なフィールドを用いてフロー方向に垂直な力を生成し、これにより、インプットストリームの粒子の分離を引き起こす。例えば、Giddings,J.C.の1969年6月17日付け米国特許第3,449,938号 「Method for Separating and Detecting FluidMaterials」;Giddings, J.C.の1979年4月3日付け米国特許第4,147,621号「Method and Apparatus forFlow Field-Flow Fractionation」;Giddings, J.C.の1980年7月29日付け米国特許第4,214,981号「StericField-Flow Fractionation」;Giddings, J.C.らの1981年2月10日付け米国特許第4,250,026号「ContinuousSteric FFF Device for The Size Separation of Particles」;Giddings, J.C.らの(1983)「OutletStream Splitting for Sample Concentration in Field-Flow Fractionation」SeparationScience and Technology 18:293-306;Giddings, J.C.の(1985)「Optimized Field-FlowFractionation System Based on Dual Stream Splitters」Anal. Chem. 57:945-947;Giddings,J.C.の1989年3月16日付け米国特許第4,830,756号「High Speed Separation of Ultra-High MolecularWeight Polymers by Hyperlayer Field-Flow Fractionation」;Giddings, J.C.の1992年8月25日付け米国特許第4,141,651号「PinchedChannel Inlet System for Reduced Relaxation Effects and Stopless Flow Injectionin Field-Flow Fractionation」;Giddings, J.C.の1992年10月20日付け米国特許第5,156,039号「Procedurefor Determining the Size and Size Distribution of Particles Using SedimentationField-Flow Fractionation」;Giddings, J.C.の1993年3月16日付け米国特許第5,193,688号「Method andApparatus for Hydrodynamic Relaxation and Sample Concentration in Field-FlowFraction Using Permeable Wall Elements」;Caldwell, K.D.らの1993年8月31日付け米国特許第5,240,618号「ElectricalField-Flow Fractionation Using Redox Couple Added to Carrier Fluid」;Giddings,J.C.の(1993)「Field-Flow Fractionation: Analysis of Macromolecular, Colloidal andParticulate Materials」Science 260:1456-1465;Wada, Y.らの1995年11月14日付け米国特許第5,465,849号「Columnand Method for Separating Particles in Accordance with their MagneticSusceptibility」を参照。これらの参考文献はいずれも、粒子を含むインプットストリームから拡散した粒子を受けるための別のインプットストリームの使用を開示しない。
【0010】
これに関連する粒子フラクショネーション方法は、「分流薄セル(Split FlowThin Cell)」(SPLITT)プロセスである。例えば、Williams, P.S.らの(1992)「Continuous SPLITTFractionation Based on a Diffusion Mechanism」Ind. Eng. Chem. Res. 31:2172-2181、およびJ.C.Giddingsの米国特許第5,039,426を参照。これらの刊行物は、層流を生成するには十分に小さいチャネルを有するが、やはり入口ストリームを1つしか提供しないチャネルセルを開示する。J.C.Giddingsの別の米国特許第4,737,268号は、2つの入口ストリーム(図3)を有するSPLITTフローセルを開示する。しかし、第2の入口ストリームはインジケータストリームではなく、無粒子ストリーム(particle-freestream)である。Giddingsの米国特許第4,984,146号も、2つのインプットストリームを有するSPLITTフローセルを開示するが、インジケータストリームはない。これらの全てのSPLITTフロー方法では、様々な粒子画分を分離するために1つより多くのアウトプットストリームが存在する必要がある。
【0011】
上記の刊行物のいずれも、比較的大きな粒子、特に分析に使用されるインジケータに影響を与えることができる比較的大きな粒子を含む、非常に少量のサンプル中の小さな粒子を分析することができるチャネルシステムを開示しない。セルシステム内においてインジケータストリームを用いる装置または方法は全く記載されていない。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明の要旨
マイクロ流体装置(microfluidic device)は、拡散を高速分離メカニズムとして利用することを可能にする。マイクロ構造におけるフロー挙動は、肉眼の世界におけるフロー挙動とは大きく異なる。このような構造における極端に小さな慣性力に起因して、マイクロ構造におけるフローは実際的に全て層流である。これにより、拡散以外を混合することなく、流体および粒子の互いに隣接する異なる層が1つのチャネル内を移動することが可能になる。一方、このようなチャネルにおける横方向の距離は小さいので、拡散は、通常その大きさの関数である分子および小さな粒子の拡散係数に応じて分子および小さな粒子を分離するための強力な道具となる。
【0013】
本発明は、比較的大きな粒子をも含むサンプルストリーム中における分析物粒子の存在を検出するチャネルセルシステムを提供する。このチャネルセルシステムは、
a)層流チャネルと、
b)上記層流チャネルに、それぞれ(1)インジケータ物質、例えば、上記分析物粒子に接触したときの検出可能な特性変化によって上記分析物粒子の存在を示すpH感応性染料(pH-sensitive dye)を好ましくは含むインジケータストリーム、および(2)上記サンプルストリームとを案内する、上記層流チャネルと流体連通している少なくとも2つの入口手段であって、
c)上記層流チャネルが、互いに近接した上記各ストリームの層流を可能にするに十分に小さい深さと、分析物粒子が上記インジケータストリーム中に拡散して上記サンプルストリーム中の上記比較的大きな粒子を実質的に排除することを可能にするに十分な長さとを有し、それにより検出領域を形成する、入口手段と、
d)上記各ストリームを上記層流チャネルから出るように案内して単一の混合ストリームを形成する出口手段と、
を備えている。
【0014】
したがって、本願は、以下を提供する。
1.サンプルストリーム中の分析物粒子の存在を検出するチャネルセルシステムであって、
a)層流チャネルと、
b)該層流チャネルに、それぞれ(1)インジケータストリームと、(2)該サンプルストリームとを案内する、該層流チャネルと流体連通している少なくとも2つの入口手段であって、
c)該層流チャネルが該ストリームの層流を可能にするに十分小さい深さと、該分析物の粒子が該インジケータストリーム中に拡散して該サンプルストリーム中の相対的に大きな粒子を実質的に排除することを可能にするに十分な長さとを有し、それにより検出領域を形成する、入口手段と、
d)該ストリームを該層流チャネルから出るように案内して単一の混合ストリームを形成する出口手段と、
を含む、チャネルセルシステム。
2.前記分析物粒子との接触の結果、前記インジケータストリーム中に担持されたインジケータ物質内の変化を検出する蛍光検出器をさらに含む、項目1に記載のシステム。
3.試料ストリームを前記層流チャネルの長さに沿って、連続的間隔で前記インジケータストリームから出るように案内する手段と、該試料ストリームの各々中の該インジケータストリームからシグナルを測定する手段とを含み、それにより前記サンプルストリーム中の前記分析物の濃度が決定され得る、項目1に記載のシステム。
4.前記層流チャネルと流体連通しているV溝チャネルをさらに含む、項目1に記載のチャネルセルシステム。
5.前記層流チャネルと流体連通しているシースフローモジュールをさらに含む、項目1に記載のチャネルセルシステム。
6.前記インジケータストリームがレポータービーズを含む、項目1に記載のチャネルセルシステム。
7.前記層流チャネルが回旋する、項目1に記載のチャネルセルシステム。
8.分析物検出領域を含む、項目1に記載のチャネルセルシステム。
9.前記層流チャネルと流体連通しており、それにより溶解した粒子と溶解していない粒子との両方を検出する、少なくとも1つの分岐フローチャネルをさらに含む、項目1に記載のチャネルセルシステム。
10.前記サンプルストリーム中の前記分析物粒子の存在を伝達により検出する、基板内に形成された、項目1に記載のチャネルセルシステムであって、
(a)前記入口手段と前記出口手段との間の分析物検出領域と、
(b)該基板の両側にシールされた光学的に透明な板と、
を含み、
(c)該分析物検出領域が、該基板の幅方向を横切る空間において、該透明板間に存在する、システム。
11.項目1に記載のシステムを用いて、サンプルストリーム中の分析物粒子の存在を検出する方法であって、
a)該サンプルストリームを層流チャネルに案内する工程と、
b)インジケータストリームを該層流チャネルに案内し、該サンプルストリームと該インジケータストリームとが該チャネル内において隣接する層流ストリーム中で流れるようにする工程と、
c)該分析物粒子が該インジケータストリーム中に拡散することを可能にする工程と、
d)該インジケータストリーム中の該分析物粒子の存在を検出する工程と、
を含む、方法。
12.前記インジケータストリームが、前記分析物粒子に接触したときに、検出可能な特性の変化により該分析物粒子の存在を示すインジケータ物質を含み、前記検出工程が該インジケータ物質の特性の変化を検出することを含む、項目11に記載の方法。
13.項目8に記載のチャネルセルを用いて反応のための動力学的速度定数を決定する方法であって、
(a)前記サンプルストリームと前記インジケータストリームとを、入口を有する前記層流チャネルに案内する工程と、
(b)前記分析物粒子が該インジケータストリーム中に拡散することを可能にして、分析物検出領域を形成する工程と、
(c)該入口から公知の距離において、該インジケータストリーム中の該分析物の存在を検出する工程と、
を含む、方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の最も単純な実施形態において、単一のインジケータストリームおよび単一のサンプルストリームが用いられる。しかし、本発明の方法および装置において、互いに対して層流となっている、複数のサンプルストリームおよび/またはインジケータストリーム、ならびに参照または較正ストリームを用いることも可能である。
【0016】
本発明の好適な実施形態では液体ストリームを用いるが、本方法および本装置は、気体状ストリームの使用にも適している。用語「流体連通」とは、互いに流体連通された2つ以上の要素間の流体フローを意味する。
【0017】
本願において使用される用語「検出」とは、特定の物質が存在すると判定することである。典型的には、特定の物質の濃度を求める。本発明の方法および装置を用いて、サンプルストリーム中の物質の濃度を求めることができる。
【0018】
本発明のチャネルセルシステムは、分析物粒子との接触の結果生じた、インジケータストリーム中を運ばれているインジケータ物質の変化を検出するための外部検出手段を含み得る。検出および分析は、光学分光分析等の光学的手段、および吸収分光分析または蛍光等のその他の手段を含む当該分野において公知のあらゆる手段によって、分析物に曝されたときに色または他の特性が変化する化学的インジケータによって、免疫学的手段、装置に挿入された電極等の電気的手段、電気化学的手段、放射性手段、または、磁気共鳴技術を含む当該分野において公知である事実上全ての微量分析手段、または、イオン、分子、ポリマー、ウィルス、DNA配列、抗原、微生物またはその他の因子等の分析物の存在を検出する当該分野において公知であるその他の手段によって行われる。好ましくは、光学的または蛍光手段を使用し、抗体、DNA配列等を蛍光マーカーに付ける。
【0019】
「粒子」という用語は、分子、細胞、懸濁され溶解された粒子、イオン、および原子を含む任意の粒子材料を指す。
【0020】
インプットストリームは、同じまたは異なる大きさの粒子、例えば血液またはその他の体液、汚染された飲料水、汚染された有機溶媒、尿、例えば発酵ブロスなどのバイオテクノロジープロセスサンプル、などを含む任意のストリームであり得る。分析物は、デバイス内のインジケータストリームに拡散することができる、インプットストリーム中の任意のより小さい粒子であり得、例えば、水素、カルシウムもしくはナトリウムイオン、例えばアルブミンなどのタンパク質、有機分子、薬物、殺虫剤、およびその他の粒子であり得る。好適な実施形態では、サンプルストリームが全血であるとき、水素およびナトリウムなどの小さいイオンは、チャネルにわたって急速に拡散し、大きいタンパク質、血球などのより大きな粒子は、ゆっくりと拡散する。好ましくは、分析物粒子は、わずか約3マイクロメートルであり、より好ましくはわずか約0.5マイクロメートルであるか、または、わずか約1,000,000MWであり、より好ましくはわずか約50,000MWである。
【0021】
システムはまた、インジケータ物質がその上に固定された、ポリマーまたはビーズなどの基質粒子を含む液体キャリアを含む入口手段のうちの1つに導入されるインジケータストリームを含み得る。システムはまた、インジケータ物質がその上に固定された、ポリマービーズ、抗体などの基質粒子を含む分析物ストリームを含み得る。液体キャリアは、供給ストリームから拡散し、インジケータ物質を含む粒子を受け入れることができる任意の流体であり得る。好適なインジケータストリームは、水と、約10mMのNaCl、KClもしくはMgClの塩濃度を有する塩水などの等張液、または、アセトン、イソプロピルアルコール、エタノールのような有機溶媒、または、分析物がインジケータ物質もしくは検出手段に与える影響を妨害しないその他の任意の都合のよい液体とを含む。
【0022】
チャネルセルは、当該技術分野において既知のマイクロ製造(microfabrication)法、例えば、本明細書において例示されるような、シリコンマイクロチップの表面に溝をエッチングしてこの表面上にガラスカバーを置くことなどによってシリコンマイクロチップにチャネルを形成する工程を包含する方法によって製造され得る。精密射出成形されたプラスチックもまた、製造のために用いられ得る。
【0023】
本発明の方法は、すべてのフローが層流になるように行われるように設計される。一般に、これは、チャネル内のフローについてのレイノルズ数が約1よりも小さくなり、好ましくは約0.1よりも小さくなるような大きさのマイクロチャネルを含むデバイスにおいて達成される。レイノルズ数は、慣性の粘性に対する比である。低いレイノルズ数は、慣性が本質的に無視できるほどであり、乱れが本質的に無視できるほどであり、2つの隣接するストリームのフローが層流である、即ち、これらのストリームが上述のような粒子の拡散以外は混ざらないことを意味する。フローは、レイノルズ数が1よりも大きい層流であり得る。しかし、そのようなシステムは、例えばストリームの流速が変わる、またはストリームの粘度が変わるなど、フローのパターンが妨害されると、乱れを引き起こしやすい。
【0024】
層流チャネルは、小さい分析物粒子がサンプルストリームから拡散して、インジケータ物質または検出手段に対して検出可能な影響を与えることを可能にするほど十分に長く、好ましくは、少なくとも約2mmの長さである。フローチャネルの長さは、そのジオメトリに依存する。多くの方法のうちのいずれの方法においても、フローチャネルは、まっすぐであっても湾曲されていてもよい。1つの実施形態では、フローチャネルは、1つあるいはそれ以上の「ヘアピンターン」を含み得、密接した階段状のジオメトリを作り得る。別の実施形態では、フローチャネルは、きちんと巻き取られた庭のホースのようなコイルの形状であり得る。まっすぐでないチャネルジオメトリは、例えばシリコンマイクロチップなどの、チャネルが形成される基板プレートの大きさ/直径を増加させずにフローチャネルの長さを増加させることを可能にする。通常分析物の大きさに反比例する分析物の拡散係数は、所望のフローチャネル長に影響を及ぼす。所定の流速の場合、より小さい拡散係数を有する粒子は、インジケータストリームに拡散する時間を得るために、より長いフローチャネルを必要とする。
【0025】
あるいは、拡散が起こるためのより多くの時間を与えるために、流速を減らすことができる。しかし、幾つかの要因により最小流速は制限されるため、より長いフローチャネルが望ましい場合もある。第1に、流速は、ポンピング手段または圧力源によって達成され、小さい拡散係数を有する粒子の拡散のための十分な時間を可能にするが、ポンピング手段または圧力源のなかには、望まれ得るほど低い圧力および流速を生成できないものもある。第2に、流速が十分に遅く、粒子の中に、周りの流体ストリームとは大幅に異なる密度を有する粒子がある場合、周りの流体ストリームよりもより密度の高い粒子が、フローチャネルの底に沈み得、周りの流体ストリームよりも密度の低い粒子が、フローチャネルの上に浮かび得る。流体力学的な力が、粒子がフローチャネルの底、上、または壁に付着することを実質的に防ぐほど、流速が十分に速いことが好ましい。第3に、圧力のわずかな変化が、より低い流速の場合の測定精度の大きな誤差につながる。第4に、低い流速では、流体の粘度の変化などのその他の要因が、測定精度の大きな誤差につながり得る。
【0026】
フローチャネルは、まっすぐであっても、まっすぐでない、即ち、回旋状であってもよい。本明細書で用いられている回旋状フローチャネルという用語は、まっすぐでないフローチャネルを指す。回旋状チャネルは、例えば、らせん状に巻かれ得るか、あるいは、1つまたは複数の「ヘアピン」カーブを含み、方形波の形状を作り得る。回旋状チャネルは、拡散が起こるためのより長い距離を与え、それにより、より大きい拡散係数を有する分析物、例えば典型的にはより大きい分析物の測定を可能にする。シリコンマイクロチップが、フローチャネルが形成される基板プレートである本発明の好適な実施形態では、まっすぐなフローチャネルのチャネル長は約5mmと約50mmとの間である。フローチャネルが回旋状である、即ち、まっすぐでない本発明の好適な実施形態では、フローチャネルの長さは、チャネルがエッチングもしくはその他の方法で形成されるマイクロチップまたはその他の基板プレートの大きさによってのみ規定または制限される。チャネル幅(拡散方向)は、好ましくは、約20マイクロメートルと約1mmとの間である。チャネルの幅は、より好ましくは比較的広くされ、例えば、少なくとも約200マイクロメートルにされる。そうすれば、単純な光学を用いたインジケータ蛍光の測定がより簡単に行えるようになり、粒子がチャネルを詰まらせる可能性がより低くなる。しかし、用いられている粒子でチャネルが詰まることを防ぎながら、チャネルの幅をできるだけ狭くすることができる。チャネルの幅を狭くすると、拡散がより素早く起こり、従って、検出をより迅速に行うことできる。チャネルの深さは、チャネル内での2つのストリームの層流を可能にするほど十分に浅く、好ましくは、わずか約1000マイクロメートルであり、より好ましくは約50マイクロメートルと約400マイクロメートルとの間である。
【0027】
幾つかの実施形態では、層流チャネルは、インジケータおよびサンプルストリームが、チャネル内の分析物粒子に関して平衡状態に達することができるほど十分に長くてもよい。平衡状態は、より小さい粒子の最大量がインジケータストリーム中に拡散したときに起こる。
【0028】
システムはまた、試料チャネル、インジケータストリームからの試料ストリームを、層流チャネルの長さに沿って連続的な間隔で伝えるための、より小さいチャネルなどの出口手段、およびビューポート(view port)と、各試料ストリーム中のインジケータ物質における変化を測定するための蛍光検出器であって、この測定によりサンプルストリーム中の分析物の濃度が決定され得る蛍光検出器とを含む手段を含んでいてもよい。
【0029】
溶解されていない分析物および溶解された分析物の両方の検出を可能にする、本発明のデバイスの2重検出の実施形態もまた、提供される。溶解されていない分析物および溶解された分析物の両方の検出は、1つの2重検出デバイスにおいて達成することができる。即ち、溶解された粒子は、Tセンサのフローチャネルにおいて検出することができ、溶解されていない粒子は、V溝チャネルまたはシース(sheath)フローモジュールにおいて検出することができ、これらの粒子のいずれかまたは両方は、Tセンサのフローチャネルと流体連通され得る。分岐フローチャネルは、Tセンサのフローチャネルと、V溝チャネルおよび/またはシースフローモジュールとの間の流体連通を与えることができる。
【0030】
本発明のチャネルセルシステムは、V溝フローチャネルと流体連通されることができる。好ましくは、このV溝フローチャネルは、その頂部では、粒子を1列にさせるほど十分に小さく、なおかつ最も大きい粒子を詰まらせずに通過させるほど十分広い幅を有する。V溝チャネルは、単結晶シリコンマイクロチップの異方性EPW(エチレンジアミン−ピロカテコール−水)エッチングによって形成され、マイクロチップの表面に関して高精度にエッチングされた角度を有する反射表面へのアクセスを与える(Petersen、Proc.IEEE 70(5):420-457、1982)。(「Silicon Microchannel Optical Flow Cytometer」と題された1995年9月27日出願の米国特許出願シリアル番号第08/534,515号は、シリコンマイクロチップをマイクロ機械加工することによって形成されるV溝フローチャネルを含むフローサイトメーターを開示している。本明細書において、上記米国出願全体を参考として援用する。)そのようなチャネルの断面はV字型であり、従って、V溝チャネルと呼ばれる。V溝フローチャネルとともに使用するために適合されたレーザと、小角(smallangle)および大角(large angle)光検出器とを含む光学ヘッドも使用することができる。米国特許出願シリアル番号第08/534,515号に記載されているように、プローブビームのうちでV溝の壁から反射された部分に関して小角および大角で配置される検出器は、細胞などの粒子を数え、これらの粒子を、(小角検出器によって)大きさおよび(大角検出器によって)構造/形態で区別するために用いることができる。適切なフィルタを大角検出器の前に配置することにより、当業者が常套的に選択して決めることができる適切なレーザまたはLED源、例えば、青色レーザを用いて蛍光検出を行うことができる。
【0031】
Tセンサのフローチャネルは、1つのデバイスで、溶解された1列の粒子および溶解されていない1列の粒子の2重検出を可能にするV溝チャネルと流体連通され得る。流体ストリームは、まずTセンサのフローチャネルを流れ、その後、分岐フローチャネルを介して、V溝チャネルを流れることができる。あるいは、流体ストリームは、まずV溝チャネルを流れて、その後に、Tセンサフローチャネルを流れてもよい。
【0032】
フローチャネルを1列の粒子が流れるフローを達成する別の手段は、「Device andMethod for 3-Dimensional Alignment of Particles in Microfabricated FlowChannels」と題された1997年3月26日出願の米国特許出願(Attorney Docket No. 32-96)に開示されているシースフローモジュールである。本明細書において、上記米国特許出願全体を特に参考として援用する。シースフローモジュールは、層流流体チャネルが形成された第1の材料プレートと、少なくとも2つの入口であって、各々の入口が接合部で層流チャネルを結合し、第1の入口の接合部の幅が第2の入口の接合部よりも広い入口と、フローチャネルからの出口とを含む。例えば透明なカバープレートなどの第2のプレートは、モジュールを密閉し、光学測定を可能にする。透明なカバープレートは、第1のプレートが反射性材料、例えばシリコンである場合、反射による光学測定を可能にする。第1の入口は、第1の流体のフローチャネルへの導入を可能にする。第1の流体は、シース流体である。第2の入口は、シース流体がフローチャネルを流れている間に第2の流体をシース流体に導入することを可能にする。第2の流体は、中心流体である。第2の入口の接合部の幅が第1の入口の接合部の幅よりも狭いため、中心流体は、その両側でシース流体に囲まれる。すべての流体が導入され、シースフローが達成されると、フローチャネルの深さを浅くして、垂直方向の流体力学的集束(verticalhydrodynamic focusing)を得ることがができる。オプションとして、フローチャネルの幅を小さくして、水平方向の流体力学的集束を得ることも可能である。深さおよび幅の低減は、徐々に行っても、急激に行ってもよい。シースフローモジュールの流体力学的集束により、1列の粒子のフローが得られる。
【0033】
シースフローモジュールは、本発明のチャネルセルシステムと流体連通され得る。この流体ストリームは、まずTセンサのフローチャネルを流れ、その後、シースフローモジュールを流れることができる。あるいは、流体ストリームは、まずシースフローモジュールを流れて、その後、Tセンサのフローチャネルを流れてもよい。
【0034】
本発明の好適な実施形態のチャネルセルシステムは、シリコンマイクロチップの表面に刻まれた中央トランクと2つのブランチとを有する「T」または「Y」字形状のチャネル溝を備え、シリコンマイクロチップの表面は、その後、ガラスシートで覆われる。中央溝は、「T」または「Y」字形状のトランクから形成され、ブランチは、サンプルおよびインジケータストリームを層流チャネルへとそれぞれ導くための、層流チャネルと流体連通した入口手段である。
【0035】
本発明のチャネルセルはまた、複数の入口ストリームを層流チャネルへと導くための、層流チャネルと流体連通した複数の入口ブランチを備え得る。これらは、「キャンデラブラ」状アレイで構成されてもよく、あるいは、「T」字構造の「クロスバー」または「Y」字構造のブランチに沿って連続的に構成されていてもよく、唯一の制約は、全てのストリームの層流が維持されなければならないことである。
【0036】
入口手段は、入口チャネルまたは「ブランチ」を含み、供給流体を装置に注入するための手段を提供する管およびシリンジ等の他の手段も含み得る。出口手段は、収集ポートおよび/または出口から流体を除去する手段(例えば、流体のレセプタクル、毛管作用、圧力、または重力によってフローを誘起する手段、および当該分野で公知の他の手段)を含む。このようなレセプタクルは、分析または検出装置の一部であり得る。
【0037】
透過の際の光学測定を可能とする本発明の装置の実施形態を提供する。このような実施形態では、チャネルセルシステムまたは少なくとも分析物検出領域が、チャネルセルシステムが形成される基板プレートの幅を横切する。本明細書中で使用されるような基板プレートは、本発明のチャネルセルシステムが形成される材料(例えば、シリコンウェハおよびプラスチックシート)の片を意味する。分析物検出領域および必要に応じてチャネルセルシステムの他の部分が、基板プレートの幅全体にわたる空間における光透過性板の間に配置される。本明細書中に使用されるような分析物検出領域は、分析物粒子がインジケータストリームにおいて検出可能な変化を生じさせるインジケータストリームの部分を意味する。
【0038】
反射光を利用した光学測定は、本明細書中では反射による検出と呼ばれ、透過光を利用した光学測定は、本明細書中では透過による検出と呼ばれる。
【0039】
より大きな粒子も含むサンプルストリーム(好ましくは、液体ストリーム)において分析物粒子の存在を検出するための方法も提供され、この方法は:
a)サンプルストリームを層流チャネルに案内する工程と;
b)インジケータストリームを導く工程であって、インジケータストリームは、好適には、層流チャネル(ここでは、サンプルストリームおよびインジケータストリームがチャネル中で隣接した層流ストリームで流れる)に入る分析物粒子と接触した場合に、検出可能な性質上の変化によって分析物粒子の存在を示すインジケータ物質を含む、工程と;
c)分析物粒子がインジケータストリーム中に拡散することを可能にする工程と;
d)インジケータストリーム中の分析物粒子の存在を検出する工程と;
を包含する。
【0040】
インプットストリームの流速は、好適には、約5マイクロメータ/秒と約5000マイクロメータ/秒との間であり、より好適には、約25マイクロメータ/秒である。好適には、両方のストリームの流速が同じである。
【0041】
本発明の方法およびシステムは、インジケータストリームまたはインジケータストリーム中のインジケータ物質において検出可能な変化を引き起こすインジケータストリームへと拡散するサンプルストリームから分析物粒子の層流チャネル内での位置を検出することによって、サンプルストリーム中の分析物粒子の濃度を決定する工程を含む。サンプルストリームおよびインジケータストリームは、層流チャネル内で平衡に達することが可能となり得る。検出領域(すなわち、検出可能な濃度で拡散した粒子を含有するインジケータストリーム部分)と、影響を受けないインジケータストリームとの境界線位置が、流速および/またはサンプル濃度に関する情報を提供するために使用され得る。所与の分析物に関してチャネルにおけるこの境界線の物理的位置は、流速が一定で、且つサンプルが変化しない限り、時間が経過しても一定のままである。検出領域の位置および大きさは、検出のための信号を最適化するために、流速、サンプル濃度、および/またはインジケータ物質の濃度を変化させることによって変更され得る。
【0042】
サンプルストリーム中の分析物粒子の濃度を決定するために有用な情報は、本明細書中に記載されるようなビューポートを備えたより小型のチャネルなどの層流チャネルの長さに沿って連続的間隔でインジケータストリームから試料ストリームを導くための手段を設けることによって得られ得る。上記にリストされたような検出手段は、インジケータストリームからの信号を測定するために使用される。試料チャネルから試料チャネルへの信号強度の変化が、オリジナルのサンプルにおける分析物粒子の濃度を計算するために使用され得る。
【0043】
本発明の1実施形態による方法は、インジケータストリーム内で運ばれる粒子状基質上に固定化されるインジケータ物質の使用を包含する。インジケータ物質は、好適には、染料、酵素、および分析物濃度の関数として特性が変化する他の有機分子等の分析物粒子が存在する場合に、蛍光または色が変化する物質である。「インジケータ物質」という用語は、その上に固定化された染料または他のインジケータを有するポリマービーズまたは抗体等を指すためにも使用される。分析物粒子によって引き起こされるインジケータストリーム中での電気的、化学的、または他の変化を直接検出するような検出手段が使用される場合には、インジケータストリームが、インジケータ物質を含む必要はない。
【0044】
このシステムの利点は、血液などの濁り、強く着色された溶液中の分析物が、濾過または遠心分離を前もって行う必要なしに光学的に測定され得る;より大きなサンプル成分に対するインジケータ染料のクロス感度(cross-sensitivity)(一般的な問題)が回避され得る;および最適な特性(例えば、pHまたはイオン強度に対するクロス感度が、強い緩衝液を用いることによって抑制され得る)を示す溶液中でインジケータが維持され得るという事実を含む。チャネルに沿った数カ所の位置でインジケータストリームを測定することによって、いくらかの残りのクロス感度が補償され得る。さらに、フローチャネルは幅が広くてもよく、それによって、単純な光学を用いてインジケータ蛍光を測定することが容易となる。メンブレンは必要なく、このシステムは、メンブレンシステムに比べて、生物付着および目詰まりを受けにくい。このシステムはまた、サンプルまたはインジケータストリーム濃度および/または流速が、検出されている信号を最適化するために変更され得る点で調整可能である。例えば、反応が約5秒かかる場合には、このシステムは、反応が装置の中央部分で見られるように調節され得る。
【0045】
この方法は、サンプルおよびインジケータストリームの連続的貫流によって実施され得る。この方法の定常状態的性質により、より長い信号積分時間が可能となる。
【0046】
サンプルストリームは、インジケータ物質にも敏感な、分析物粒子より大きな粒子を含有し得る。これらは、インジケータストリームには拡散せず、従って、分析物の検出を妨害することはない。
【0047】
さらに、2つのストリームが合流するT接合部からのサンプルストリームおよびインジケータストリームの移動距離の関数として動力学的速度定数を決定するための方法が提供される。概して、動力学的測定は、濃度対時間、すなわち反応時間に関連する物理的特性をプロットすることによって行われる。時間の関数としてではなく、サンプルストリームおよびインジケータストリームの移動距離の関数として動力学的測定を行うための本明細書中に提供される方法は、以下の理由で有利である。ストリームの成分(すなわち粒子)と、フローチャネルにおけるある位置でのストリーム成分の濃度は、流速が一定であると仮定すると一定のままである。この方法により、経時的に検出からデータを積分すること、例えば光学測定が可能となり、その結果、収集されたデータの正確さ、従って、計算された/決定された速度定数の正確さが向上する。さらに、実験エラーが検出中(例えばデータの収集中)のある時点で生じた場合には、単に、エラーが生じたフローチャネル中の距離/位置で再び検出測定を行うことができる。動力学的測定を行うための従来の方法では、ある時点のデータが実験エラーによって失われた場合には、これらのデータが、同じ実験中に再び収集されることは不可能である。
【0048】
発明の詳細な説明
本発明の微小規模チャネルセルは、サンプルストリームの中の大きな粒子から小さな粒子を分離するのに有用である。この微小規模チャネルセルは、粒子の拡散係数は粒子のサイズに実質的に反比例するため、大きな粒子は小さな粒子よりもゆっくりと拡散するという事実、拡散は、当業者に公知の大規模の分離よりも本発明の微小規模において、より急速に発生するという事実、および、層流の非乱流は、微小規模で隣接するストリームにおいて誘発されることが可能であるという事実に基づいて、粒子を分離する。
【0049】
図1に示すように、「T」形のチャネルセルを設け、本明細書ではTセンサ10と呼ぶ。この装置は、シリコンマイクロチップをエッチングすることによって、マイクロ製造(microfabricate)されることが可能である。形態は、「Y」のように、必ずしも「T」である必要はない。製造することが可能な任意の角度であれば十分である。上述のように、複数のインプットチャネルがあってもよい。全てのインプットチャネルが単一のフローチャネルに合流することのみが必要であり、全てのチャネルは十分に小さいので、全ての動作条件に関して層流が維持される。概して、システムのレイノルズ数は、1またはそれより小さい。関心の対象である小さな分子を含むサンプル、すなわちサンプルストリーム80は、サンプルストリーム入口ポート30を介して装置内に運ばれ、サンプルストリーム80は、このサンプルストリーム入口ポート30からサンプルストリーム入口チャネル50に流れ込む。このサンプルストリーム入口50では、サンプルストリーム80はサンプル入口ストリーム55と呼ばれる。インジケータストリーム70は、インジケータストリーム入口ポート20に運ばれ、このインジケータストリーム入口ポート20からインジケータストリーム入口チャネル40に流れ込む。このインジケータストリーム入口チャネル40では、インジケータストリーム70はインジケータ入口ストリーム45と呼ばれる。
【0050】
サンプル入口ストリーム55は、フローチャネル100の始点のT接合部58でインジケータ入口ストリーム45と出合い、2つのストリームは、インジケータストリーム70およびサンプルストリーム80として平行な層流の形で出口ポート60へ流れる。インジケータストリーム70は、物理的特性における検出可能な変化によってサンプルストリーム80中の分析物粒子と反応する、染料などのインジケータ物質を含む。図1に、インジケータストリーム70を白で示す。小さなフローチャネル100ではレイノルズ数が低いため、乱流誘発した混合は発生せず、2つのストリームは混合することなく互いに平行に流れる。しかし、距離が短いために、拡散がフロー方向に対して直角に作用する。そのため、サンプル成分(分析物粒子)は、左に拡散してインジケータストリーム70中に拡散し、最終的には均一分析物粒子拡散領域120において、フローチャネル100の全幅に亘って均一に分散する。
【0051】
インジケータストリーム70は、フローチャネル100に流れ込んで、分析物粒子が拡散していない初期参照(reference)領域85を形成する。サンプルストリーム80からインジケータストリーム70に拡散する分析物粒子は、分析物検出領域90を形成する。この分析物検出領域90において、好適にはインジケータストリーム70内部のインジケータ物質の性質に検出可能な変化を起こすことによって、分析物粒子はインジケータストリーム70中で検出可能な変化を起こす。インジケータ物質の粒子、例えば染料粒子もまた、サンプルストリーム80中に拡散して拡散インジケータ領域110を形成し得る。インジケータ物質の局部的な濃度におけるこの変化が幾つかの用途において問題になるならば、ポリマーまたはビーズ、例えばインジケータビーズ130への固定によって、その拡散速度を任意に小さくすることが可能である。
【0052】
図1のTセンサ10では、サンプルストリーム80、例えば血液と、インジケータ染料を含むインジケータストリーム70とは、サンプルストリーム入口チャネル50とインジケータストリーム入口チャネル40との交差点で、フローチャネル100(すなわちT接合部58)と結合し、互いに層流で隣接して、出口ポート60でこの構造から出るまで、フローチャネル100内を流れる。HおよびNaなどの小さなイオンがフローチャネル100の直径に亘って急速に拡散するのに対して、染料アニオンなどの大きなイオンは、ゆっくりとしか拡散しない。糖、タンパク質、等および血球などの大きい粒子は、インジケータストリーム70とサンプルストリーム80とが互いに接触している時間中は、著しい拡散を示さない。小さなサンプル成分がより速く拡散し、T接合部58付近で平衡に達するのに対して、大きな成分は、フローチャネル100のさらに上方で平衡に達する。さらに、インジケータは特定の半飽和濃度(pH染料の場合はpK)を有するので、拡散がチャネルの上方で進み、検出領域90を形成するにつれて、インジケータ染料の色または蛍光の変化の前面(front)または検出領域境界95が現れる。実際には、検出領域境界95および参照領域85は、図2に最も良く見られる曲線を形成し得る。この前面の曲線の位置は、流速およびチャネル幅を変えてシグナルのサイズと強度とを最適化することによって調節される、「静止位置」を有することが可能である。
【0053】
これはフローシステムであるが、所定の分析物用のフローチャネル100における検出領域境界95の物理的位置は、フローが一定し且つサンプルが変わらない限り、時間が経過しても同じ位置にある。分析物濃度は、実質的に平衡に達した後の均一分析物粒子拡散領域120におけるインジケータシグナルをモニタすることによって、または最も急勾配のインジケータの色変化の前面の位置を、例えば多元素検出器(図3参照)を用いて着目することのいずれかによって、決定される。分析物検出領域90は、検出可能なインジケータシグナルを提供するのに必要なだけ大きくすることが可能である。同様に、参照領域85は、検出可能な参照シグナルを提供するのに必要なだけ大きく形成することが可能である。これらの領域の調節は、分析物ならびにインジケータ物質の拡散係数、流速、およびチャネルのサイズに基づいて、後述のように行うことが可能である。
【0054】
図2に、図1のTセンサの蛍光顕微鏡写真を示す。このTセンサは、pH5の弱く緩衝したインジケータ染料溶液であるインジケータ入口ストリーム45、およびpH9の緩衝溶液であるサンプル入口ストリーム55を特徴とする。右側の明るい区域は、シリコン上で反射した光であり、サンプルおよびインジケータのストリームとは無関係である。サンプルストリーム80は、右側に暗色の透明な液体として現れる。左側の明るい区域は、分析物粒子がインジケータストリーム70中にまだ拡散していない参照領域85である。中央の灰色の領域は、サンプルストリーム80からのOHイオンがインジケータストリーム70中に拡散して形成される分析物検出領域90である。灰色検出領域90の右側のぼやけた縁は、サンプルストリーム80中に拡散する染料粒子によって発生する。均一分析物粒子拡散領域は、OHイオンが均一に拡散している120に示される。最も強いシグナルは、検出領域90の中央に存在する。
【0055】
図3に、本発明のTセンサチャネルセル装置の別の実施形態を示す。この実施形態は、複数の試料チャネルと、フローチャネルの長さに沿って間隔を置いたビューポートとを有する。図3では、インジケータ入口ストリーム45は、インジケータストリーム入口ポート20において右側から入る(図1および図2のように左側ではない)。pH9の低イオン強度緩衝液中のインジケータ染料の溶液が使用される。pH5の0.15M緩衝溶液であるサンプル入口ストリーム55が、サンプルストリーム入口ポート30において左側から入る。染料の濃度は、図2で使用した染料濃度のわずか約10%である。インジケータおよびサンプルのストリーム45および55は各々、インジケータストリーム入口チャネル40およびサンプルストリーム入口チャネル50に沿って流れ、T接合部58で出合い、フローチャネル100に沿って共に層流で流れる。インジケータ染料を含むインジケータストリーム70からの試料ストリーム145は、様々な位置でフローチャネル100から連続的に取り出される。これらの試料ストリーム145は、ビューポート140として機能する拡大部を通って流れる。ビューポート140のサイズ(数平方ミリメートル)のため、蛍光強度は、蛍光顕微鏡を介してまたは光検知器を用いて直接容易にモニタすることが可能である。
【0056】
T接合部58に最も近いビューポートが主に乱されていない(undisturbed)染料溶液を含むのに対して、出口ポート60に最も近いビューポートは、インジケータストリーム70と完全に平衡に達したサンプルストリーム80を含む。間に位置するビューポートは、様々な程度でサンプル成分と平衡に達しているインジケータストリーム70を含む。T接合部58に近ければ近いほど、ビューポートがサンプルからの小さなイオンのみを含む可能性が高くなる。ビューポートの蛍光顕微鏡写真は、T接合部58に最も近いビューポートにおける色が乱されていないインジケータ染料の塩基形態の赤色であるのに対して、出口ポート60に最も近いビューポートの黄緑色は、拡散ベースの平衡が達成されたときにインジケータストリーム70のpHが塩基性から酸性に変わった後の、染料の酸性形態を表すことを示す。
【0057】
図3のビューポートTセンサは、単純な参照技術に役立つ。1つ以上の波長のそれぞれのビューポートの積算(integral)蛍光強度は、蛍光顕微鏡を介して、または光ダイオードを用いて直接的に、容易に測定することが可能である。最も容易な場合では、他のサンプル成分に対してクロス感度(cross-sensitivity)を示さないインジケータ染料を用いて、選択したビューポート間の強度比率が、染料の濃度および励起光の強度から十分に独立した測定値を与える。1つより多くのビューポートで測定することによって、冗長性が増大し、従って測定の正確度が増大する。
【0058】
大きなサンプル成分(例えば、アルブミンなどの大きな生体分子)に対してインジケータがクロス感度を示す場合には、この干渉は、異なるビューポートの比率を比較することによって参照されることが可能である。T接合部58に近いビューポートが主に小さなサンプル成分を含むのに対して、フローチャネル100のさらに上方のビューポートはまた、大きな粒子を含む。
【0059】
本発明のTセンサ装置をレポータービーズと併用して、生物学的流体中のpH、酸素飽和度、およびイオン含有量を測定することが可能である。(本明細書において全体を参考のため援用する、米国特許出願第08/621,170号、「Fluorescent Reporter Beads for Fluid Analysis」は、蛍光性および吸収性レポーター分子並びにレポータービーズを開示している。)レポータービーズはまた、アルコール、農薬、ラクテートなどの有機塩、グルコースなどの糖、重金属、並びにサリチル酸、ハロタン、および麻酔薬などの薬物を検出および測定するために使用することが可能である。それぞれのレポータービーズは、基質ビーズを有し、この基質ビーズ上に複数の少なくとも1つの型の蛍光性レポーター分子が固定されている。本明細書で使用する複数とは、1より多いことを意味する。強度、寿命、または波長などのレポータービーズの蛍光特性は、対応する分析物に対して敏感である。レポータービーズが流体サンプルに加えられ、そして分析物濃度が、例えばフローサイトメータにおいて、個々のビーズの蛍光を測定することによって決定される。あるいは、分析物濃度の関数としての吸光度を変化させる、吸収性レポーター分子を使用することが可能である。レポータービーズの使用は、複数の分析物を同時に測定することを可能にし、そして生物学的細胞の含有量を同時に測定することも可能にする。ビーズは、異なるレポーター分子を用いてタグ化されることが可能なので、複数の分析物を同時に測定することが可能である。
【0060】
本発明の蛍光性レポーター分子は、特定の分析物または分析物のクラスの濃度の関数である蛍光特性を有する任意の蛍光分子であり得る。当該分野において公知の多くの染料および蛍光色素を本発明においてレポーター分子として使用することが可能である(例えば、R.P. Haugland, Handbook of Fluorescent Probes and ResearchChemicals, 第5版、Molecular Probes Inc., Eugene, 1992年参照)。レポーター分子の選択に関する判定基準は、分子が基質ビーズ上に固定されることが可能であること、および分子の蛍光が分析物の濃度の関数であることである。1集合中のビーズの数が変化する、以前に使用されていた蛍光性ビーズと比較すると、米国特許出願第08/621,170号のレポータービーズは、レポーター分子と結合する表面上に、リガンド、アンチリガンド、抗原、または抗体などの免疫試薬を有する必要がない。
【0061】
蛍光レポーター分子は、レポーター分子の蛍光特性が変化するように分析物と相互作用を行う。いくつかの例では、AB580(Molecular Probes)によるアルブミン検出の場合のように、レポーター分子は分析物と反応する。場合によっては、相互作用は化学反応ではない。例えば、レポーター分子の蛍光は、ルテニウムジフェニルフェナントロリンによるOの検出の場合のように、分析物への非放射性エネルギー転移によってクエンチされ得る。いくつかのレポーター分子において、蛍光は流体中の極性変化に感応し、これは、水性流体中の有機溶媒および炭化水素の検出に用いられ得る。相互作用はまた、他の溶媒効果を介して行われ得、この場合、溶媒のイオン強度が蛍光に影響を与える。溶媒効果は、すべての溶解したイオンの全濃度を決定するために用いられ得る。相互作用は、リガンド/アンチリガンドまたは抗原/抗体反応であり得る。相互作用は、好ましくは、他の粒子との凝集体を導かない。特に、複数のレポータービーズを含有する凝集体を生成しない。分析物のレポーター分子との相互作用により流体中の分析物濃度が顕著に変動しないことが好ましい。
【0062】
蛍光レポータービーズの場合には、レポーター分子の少なくとも1つの蛍光特性は分析物濃度の関数である。レポータービーズに対して測定される特性は、蛍光強度、崩壊時間、またはスペクトルなどの、分析物のビーズとの相互作用によって影響を受ける特性であり得る。
【0063】
もしくは、レポーター分子は、吸収インジケータ、例えば、基板ビーズ上に固定される生理学的pHインジケータN9(Merck, Germany)であり得る。このようなインジケータはそれらの吸収を分析物濃度の関数として変化させる。典型的には、分子の色が変化する(すなわち、分子の吸収極大の波長が変化する)。
【0064】
吸収レポーター分子を、基板ビーズ上の蛍光レポーター分子と組み合わせて用いることができ、また吸収ビーズを蛍光ビーズと組み合わせて用いることができる。
【0065】
基板ビーズの機能は、単一ビーズの光学測定値により、分析物および場合によってはその濃度の検出を可能にすることである。ビーズのタイプが識別され得る場合は、所定のサンプルを分析するために、複数のタイプのレポータービーズ、すなわち、様々な異なるレポーター分子が固定されているビーズが用いられ得る。ビーズは、様々な手段によって、すなわち、ビーズのサイズを用いる手段、例えば光の散乱によって、ビーズに接着される蛍光レポーター分子とは異なる励起波長および/または発光波長を有するビーズに接着される蛍光タグによって、またはビーズに接着される蛍光分子を直接識別することによって、識別され得る。これにより、一度に1つより多い分析物を検出することが可能である。基板ビーズはまた、レポーター分子を固定してこれらがサンプルストリーム内に拡散するのを防ぐように機能する。レポーター分子は、基板ビーズの表面または基板ビーズ内に存在し得る。ビーズは様々な材料により製造され得、球体に限らずいかなる形状であってもよい。適切な材料としては、ガラス、ラテックス、ヒドロゲル、ポリスチレン、およびリポソームを含む。ビーズは、レポーター分子の接着を容易にするために追加の表面基を有し得る。例えば、ラテックスおよびアミノ修飾ポリスチレン上にカルボキシル基を加え得る
基板ビーズ上にレポーター分子を固定させるためには様々な技法が用いられ得る。吸着に基づくコーティングは、基板ビーズをレポーター分子溶液中に浸し、次に過剰なレポーター分子を洗い流すことによって行われ得る。同様に、レポーター分子は、孔が制御されたガラスビーズのキャビティ内に拡散され得る。レポーター分子はまた、レポーター分子を適切な基板ビーズの官能基に化学的に接着させることによって、共有結合により固定され得る。レポーター分子を含有する溶液中で重合化ビーズを形成し、これにより分子を固定ポリマーキャビティ内にトラップし得る。レポーター分子をリポソーム中に固定させるために、脂質をレポーター分子溶液と混合し、溶液を攪拌してリポソームを分離し得る。
【0066】
本発明の方法においてレポータービーズを用いるためには、ビーズを流体サンプルと混合し、個々のビーズの蛍光または吸収を測定する。ビーズは、サンプルとの混合前は乾燥状態であり得るか、または流体中に散乱させ得る。マイクロ単位の測定では、ビーズおよびこれに伴う流体の追加量をサンプル量に比べて少なくして(例えば、<1%)、サンプルの希釈が目立たないようにすることが好適である。
【0067】
本発明のチャネルセルは当該分野において既知の技法によって、好ましくは、エッチングによりシリコンマイクロチップの水平面上にフローチャネルを形成して、エッチングされた基板上に、好ましくはガラスまたはシリコーンゴムシートなどの光透過性材料により製造される蓋を配置することによって形成され得る。本発明のチャネルセルを製造する他の手段としては、プラスチック技術、マイクロ機械加工技術、および他の当該分野において既知の技術で装置を成形する場合のテンプレートとしてシリコン構造体または他の材料を用いることを含む。精密射出成形プラスチックを用いて装置を形成することもまた考慮される。マイクロ製造技術は当該分野において既知であり、以下にさらに特定して述べる。
【0068】
本発明の1つの好適な実施形態では、本発明のチャネルセルは親水性表面を有し、これにより内部の液体の流れが容易になり、加圧を行う必要なく装置の動作が可能になる。基板は、チャネルの製造後、当該分野において既知の手段によって処理されて親水性が与えられる。蓋もまた、好ましくは、親水性が与えられるように処理される。
【0069】
本発明のTセンサチャネルシステムは、1つ以上のv溝チャネルと流体連通し得る。シリコンマイクロチップをエッチングして、チャネルの反射表面/壁と共にv溝を形成し得る。従って、光学測定値は、透過ではなく反射された入射光を利用し得る。検出は反射によって、すなわち反射光を検出することによって行われ得る。小角散乱光(チャネル内の粒子の表面から散乱)もまたv溝壁によって反射され、小角光検出器によって集光され得る。大角散乱光および蛍光光は反射せずにチャネル内に存在し、大角光検出器によって集光され得る。さらに、照射粒子の背後のv溝の反射壁により、蛍光集光効率が向上する。入射光、例えばレーザービームのうちのv溝チャネル内に入らない部分は、シリコン表面から小角または大角検出器のいずれかから離れる方向に反射される。光が蓋、例えば透明のカバープレートに直接結合されずに空中から入る場合には、蓋/カバープレートから反射される光部分もまた、小角および大角検出器から離れる方向に反射し、これにより測定値から望ましくないバックグラウンド光強度が差し引かれる。
【0070】
v溝フローチャネルは入射光を透過するのではなく反射するため、本発明のマイクロチャネルシステムの製造は極めて簡単である。マイクロチャネルは、一方の側のみにパターン化される単一のシリコンマイクロチップにより製造される。透明なカバープレートがマイクロチップの先端部に取り付けられ、チャネルを密封する。
【0071】
図4は、v溝フローチャネルおよびオプションとしての光学ヘッドを示す。シリコンマイクロチップ210は内部にv溝211を有する。v溝という用語は、本明細書においては、シリコンマイクロチップの表面の実質的に「V」形状の溝に対して用いられる。製造プロセスに依存して、「V」の先端部は平坦(台形の溝)であってもよいが、これは、この平坦部が、照射ビームのサンプルフローとの交差によって規定される分析物検出領域内にない場合に限る。好適な実施形態では、マイクロチップ210は<100>表面方位を有し、溝211の壁は<111>面に沿っており、溝の壁とマイクロチップの表面の面との間に54.7°の角度を提供する。透明カバープレート220がマイクロチップ210の表面に密封状態で取り付けられる。1つの好適な実施形態では、カバープレートはパイレックス(登録商標)により製造され、陽極酸化によりシリコンマイクロチップに結合される。この好適な実施形態では、光源はダイオードレーザ310と光ファイバ312と集光ヘッド314とを含む。非散乱光、すなわち粒子によって散乱されていない光はチャネル211の壁によって鏡面反射され、経路322に沿って進行する。小角(前方)散乱光は経路322から僅かに外れ、小角検出器320に突き当たる。大角度で散乱した光の一部は経路332に沿って大角光検出器330に向かって進行する。これらの光検出器はフォトダイオードまたは光電子増倍管であり得る。大角検出器330は、大角散乱および/または蛍光を測定するために用いられ得る。
【0072】
装置を通る供給流体の流れに圧力を加える手段もまた提供され得る。このような手段は供給入口および/または出口で(例えば、化学的または機械的手段によって加えられる真空として)提供され得る。このような圧力を加える手段は、例えば、Shoji, S.および Esashi, M. (1994),「Microflow devices and systems」J.Micromechanics and Microengineering, 4:157-171に記載されているように当該分野において既知であり、水カラムまたは他の水圧、電気浸透力、光力、重力、および表面張力を加える手段を使用することを含む。システムの要件に依存して、約10−6psi〜約10psiの圧力が用いられ得る。好ましくは、約10−3psiが用いられる。もっとも好適な圧力は、水圧約2mm〜約100mmの間である。
【0073】
多数のストリームを用いる実施形態の1つの例としては、層流として流れる3つの入口ストリームを有し、このうち中央のストリームが試薬ストリームであるチャネルセルが挙げられる。例えば、サンプルストリームは血液であり、中央ストリームはグルコースオキシダーゼであり、第3のストリームは、pH感応性染料を含有するインジケータストリームであり得る。グルコース粒子は試薬ストリームを通って拡散するときグルコン酸に変えられ、グルコン酸は、グルコン酸分子がインジケータストリームに拡散するとき、pH感応性染料によって検出される。多ストリームシステムの他の例としては、検出手段の較正のために分析物を異なる濃度で有するいくつかのサンプルストリームを含むシステムが挙げられる。サンプルストリームに隣接していないインジケータストリームはまたコントロールストリームとして使用され得る。
【0074】
インジケータストリームは、粒子のストリームへの拡散が行われる前および行われた後、検出手段によって測定され、このような測定値は、インジケータストリームのその長さに沿った変化率と共に、分析物濃度をアッセイするために用いられ得る。さらに、インジケータストリームを測定するために、異なるタイプの多数の検出手段が用いられ得る。イオン感応性または化学感応性の電界効果が装置の様々な位置で測定され得る。
【0075】
本発明のチャネルセルおよびセル内のチャネルは、検出が所望される粒子のサイズによって決定される大きさであり得る。当該分野において既知のように、分析物粒子の拡散係数は、一般に、粒子のサイズに逆に関連する。検出が所望される粒子の拡散係数が分かれば、2つのストリームの接触時間、中央チャネルのサイズ、各ストリームの相対量、各ストリームの圧力および速度は調整され得、これにより所望の拡散パターンが実現される。
【0076】
流体の動的挙動はフローのレイノルズ数に直接関連する。レイノルズ数は、慣性力対粘性力の比率である。レイノルズ数が減少すると、フローパターンの粘性効果に対する依存度は大きくなり、慣性効果に対する依存度は小さくなる。所定のレイノルズ数、例えば0.1より小さい場合は、慣性効果は実質的に無視され得る。本発明のマイクロ流体装置は慣性効果を必要とせずに仕事を行い、このため、装置の小型化がレイノルズ数効果によって内在的に制約されることはない。本発明の装置は、層流の非乱流フローを必要とし、上述の原理に従って設計され、これによりレイノルズ数が低い、すなわちレイノルズ数が約1より低いフローを生成する。
【0077】
レイノルズ数は、慣性力の粘性力に対する比である。レイノルズ数が減少するにつれて、フローのパターンはより粘性効果に依存しかつ慣性効果にはより依存しなくなる。あるレイノルズ数、例えば約1未満では(屈曲および管腔サイズ変化を有するチャネルを含むシステムについては管腔サイズに基づく)、慣性効果は実質的に無視し得る。本発明のマイクロ流体装置は慣性効果を必要とすることなしに達成することが可能であり、従って、レイノルズ数効果に起因する小型化に対する内在的な制限を何ら有さない。本発明者らのチャネルセル設計は、従来報告されている設計とは大きく異なるが、この範囲で動作する。本発明のこれらのマイクロ流体装置は、層状の非乱流を必要とし、前記原理に従って低レイノルズ数を有するフローを生成するように設計される。
【0078】
本発明の好適な実施態様による装置は、数秒、例えば約3秒間以内に、約0.01マイクロリットル〜約20マイクロリットル間のサイズのサンプルの分析が可能である。本装置はまた再使用が可能である。目詰まりは最小にされ、可逆的(reversible)である。例えば幅100μmおよび100μm/sのサイズおよび速度は、レイノルズ数(R=plv/η)が約10−2であることを意味し、従って流体は、粘性が慣性に勝る状態にある。
【0079】
円形状のチャネル(長さ1、直径d)を通した際に、絶対粘度ηおよび密度pを有する流体の平均速度vを得るために必要な圧力滴の大きさは、ポアズイユの法則から計算され得る(Batchelor、G.K.、An Introduction to Fluid Dynamics、CambridgeUniv. Press 1967):
【0080】
【数1】

【0081】
v=100μm/secおよびd=100μmを用いると、チャネル長の1cm毎につき約0.3mmのH2Oに等しい圧力滴が得られる。ポアズイユの式は円形状のフローチャネルにのみ厳密に有効である一方、本発明のチャネルの断面は実質的に矩形であるため、これは表記の変数間のおおよその関係としか考えられ得ないものである。
【0082】
液体が装置中に導入される際、まず、加えられた圧力Pと表面張力に起因する圧力
【0083】
【数2】

【0084】
との和に等しい実効圧Peff=P+Pstが存在する。Pstは、流体の表面張力γ、表面に対する流体の接触角度θ、および流体表面の曲率半径rの関数である。
【0085】
親水性表面においては、cosθは1に近く、小さいチャネルにおいては装置を濡らすために圧力を加える必要がない。これは、「毛管現象による濡れ」と呼ばれる。しかし、装置がいったん完全に濡れると、出口領域における表面張力の心配をしなくてはならなくなる。本実施例に記載した装置において、出口領域における流体の曲率半径は数ミリメートルであり、表面張力に起因する圧力は無視し得るものであった。
【0086】
チャネル幅が100μmならば、Pstは、約1cmのH2Oであり、出口チャネル上の表面張力は問題になる。しかし、シリコンの<100>面を浸食する後述のEPWF-Etchのようなエッチャントを用いれば、エッチングされた角部は図に示したほど鋭くはなくなる。このためチャネルが約1mmまで漸進的に幅広となり、表面張力の効果が減少する。
【0087】
上述の原理に基いて、チャネルの構成を適切なチャネル長が得られるように調整することにより、サンプルストリームとインジケータストリームの間の流速および接触時間、およびサンプルストリーム中に残存してインジケータストリーム中に拡散する粒子のサイズを制御することができる。必要な接触時間は、粒子の拡散係数Dと粒子が拡散しなければならない距離dとの関数として、t=d/Dにより計算することができる。Dより大きい拡散係数を有する粒子または分子はインジケータストリーム中に拡散し、Dより実質的に小さい拡散係数を有する粒子または分子はインジケータストリーム中に拡散しない。大きい方の粒子の拡散係数がDよりおよそ10倍小さければ、インジケータストリームは大きい粒子をまったく含まないはずである。
【0088】
所与の流速、比較的小さい拡散係数を有するある種の分析物において、直線状チャネルセルシステム(Tセンサ)チャネル(好ましくは長さ5〜50mm)では、拡散が十分に起こるほどの長いフローチャネルが得られない。典型的には、シリコンマイクロチップの直径は3インチ、4インチ、6インチ、または8インチである。このようなサイズのマイクロチップにエッチングされた直線状チャネルは、マイクロチップ直径よりも長くはなれない。比較的小さい拡散係数を有する分析物、例えば比較的大きい分析物または非球状分析物の検出には、好ましくは回旋状フローチャネルを用いる。本明細書において、回旋状フローチャネルとは、直線状でないフローチャネルを指す。図5および6に、典型的な3〜4インチのシリコンマイクロチップ上においてより長いフローチャネルを可能にする2つの異なるチャネルジオメトリを示す。
【0089】
図5のチャネルセルシステム(Tセンサ)において、左右のストリーム、例えばサンプルストリームおよびインジケータストリームは、同じ総パス長を有する。この実施態様において複数回の計測を行う場合は、両ストリームが同じ流速で流れかつ同じフロー距離を流れるように、センサの垂直な中心線に沿って行うべきである。回旋状フローチャネルが図5に示すような方形波形状を有しているこの実施態様において、ストリームは湾曲を通じて異なる速度で流れる。従って、異なる速度で流れるストリーム間の緊密/狭湾曲部および垂直力(sheer force)のために層流再循環が起こる地帯が発生し得るため、直線状フローチャネルにおいて用いられる速度よりも遅い流速を用いる方が好ましい場合がある。層流再循環は乱流ではなく、フローは以前として層流であり予測可能である。しかしながら層流再循環は好ましくないので、レイノルズ数を約1未満に維持することにより回避することができる。
【0090】
図6のチャネルセルシステム(Tセンサ)は、コイル/スパイラル状のフローチャネルを示している。このジオメトリにおいて、各々長さ220mmのフローチャネルを有する4つの別々のTセンサを、1個の3インチマイクロチップ上に製造することができる。方形波状のジオメトリよりもこのジオメトリの方が屈曲半径が大きいため、層流再循環が起こる可能性はより少ない。左右のストリーム(サンプルストリームおよびインジケータストリーム)の相対流速の差が最小なため、2つのストリームが異なる粘度を有していても2つのストリーム間の垂直ストレスがより小さくなる。しかしこのチャネルジオメトリの場合、左右のストリームについて異なる総フロー距離となる。
【0091】
図7Aおよび7Bは、T接合部58を丸めた、本発明のチャネルセルシステム(Tセンサ装置)を示している。図7Aは、図1に示したものと同様なTセンサを示しているが、図7AにおいてはT接合部58が丸められている。図7Bは、図3に示したものと同様なビューポートTセンサを示しているが、図7BにおいてはT接合部58が丸められている。丸められたT接合部は、レイノルズ数が約1より大きい場合に発生し得るT接合部における層流再循環を防止するため、好ましい。また丸められたT接合部は、サンプルストリームのインジケータストリームへ、あるいはその逆の汚染の確率を減少させる意味でも、好ましい。
【0092】
本発明のチャネルセルシステムは、時間ではなく距離(T接合部からの)の関数として分析物の濃度を測定するために用い得る。距離の増分は時間の増分に比例する。層流であり流速がわかっている場合、距離の増分は時間の増分に変換することができる。
【0093】
動力学的測定を行うための他の方法は、濃度、または濃度に起因する何らかの物理的特性、例えば吸光または蛍光を、時間に対してプロッティングすることを用いる。出発物質の濃度の経時的な減少または生成物の濃度の経時的な増加は、ある反応における動力学的速度定数を決定する。
【0094】
本発明のTセンサ装置を用いて、反応の速度または速度定数を決定し得る。1つ以上の分析物検出領域において、吸収または蛍光測定などの検出を行うことができる。図8を参照して、複数の分析物検出器410を、T接合部58から様々な距離に位置することができる。または1つの検出器を用いて、T接合部58から様々な距離にあるフローチャネルをモニタすることができる。図8は、方形波/蛇行形状のフローチャネルを示している。しかし層流を維持する任意のジオメトリのTセンサを用いて、動力学的測定を、特に本明細書に開示した方法を用いて行うことができる。サンプルストリームはサンプルストリーム入口ポート30を介して導入され、インジケータストリームはインジケータストリーム入口ポート20を介して導入される。2つのストリームはT接合部58で合流する。サンプルストリームからの分析物は、インジケータストリーム中に拡散し始め、例えば蛍光の増加などの測定可能な変化が起こる。測定可能な変化は、分析物検出領域90に示すように、分析物がインジケータストリーム中に拡散する結果として起こる。
【0095】
分析物検出領域における蛍光または吸光の強度および分析物検出領域の幅は、T接合部58から様々な距離において測定される。分析物検出領域の強度および幅は、測定される分析物の濃度の関数である。分析物がインジケータストリーム中に拡散する際、分析物検出領域において色の変化(すなわち吸光度の変化)または蛍光が起こる。この光学的変化は、T接合部からの距離が増加するにつれ、分析物およびインジケータが互いと相互作用した時間が増えるために、より強くなる。T接合部からの距離が増加するにつれ、分析物検出領域の幅もまた増加する。2つの独立の原因によりこの幅の増加が起こる。第1に、分析物は時間の増加につれ、従って距離の増加につれより拡散が進む。第2に、分析物とインジケータとの間の相互作用が進行するにつれ、分析物検出領域における吸光または蛍光が大きくなる。従って、吸光または蛍光が検出できる分析物検出領域の幅が増大する。
【0096】
図8を参照して、T接合部58からの距離が増大するにつれ、分析物検出領域90はより幅広くかつより強くなる。
【0097】
本発明の装置および方法を用いて、1回の測定、例えばT接合部から所定の距離における蛍光の測定だけで、反応の速度定数を決定することができる。当該分野において公知であるように、測定の回数を増やすことにより、それらの測定値から計算される動力学的速度定数の精度が増大する。
【0098】
他の実施態様において、本発明のTセンサチャネルセルシステムは、図9Aに示すような分岐フローチャネル401および402を有し得る。目的の小さな分子を含有するサンプルは、サンプルストリーム入口ポート30を通して装置に導かれ、サンプルストリーム入口ポート30からサンプルストリーム入口チャネル50に流れる。インジケータストリームは、インジケータストリーム入口ポート20に導かれ、インジケータストリーム入口ポート20からインジケータストリーム入口チャネル40に流れる。2つのストリームは、互いに平行に層流で流れ、サンプルストリームからの小さな分子(分析物)は、インジケータストリームに拡散する。本明細書で用いる分岐フローチャネルとは、フローチャネル100と流体連通するフローチャネルを指す。図9Aおよび図9Bに示すW接合部400は、分岐フローチャネル401および402をフローチャネル100で補正するために用いられ得る。分岐フローチャネルによって、未溶解粒子および溶解粒子の両方が検出可能になる。好ましくは装置の上方または下方に配置される検出器は、フローチャネル100およびv溝403または404をモニタする。この二重検出実施態様によって、v溝内で一列に流れる未溶解粒子だけでなく、フローチャネル100内の溶解粒子および未溶解粒子を検出することが可能である。粒子検出は、粒子が、分岐フローチャネル401および402とそれぞれ流体連通するv溝403または404の1つまたは両方を通して流れるときに、標準的な光学技術(例えば、撮像、光散乱、または分光技術)によって成し遂げられ得る。分岐フローチャネル401および402は、それぞれ、出口ポート405および406と流体連通する。
【0099】
例えば、本実施態様において、サンプル(例えば、全血)は、サンプルストリーム入口ポート30を介して導入され、サンプルストリーム入口ポート30からサンプルストリーム入口チャネル50に流れ得る。レポータービーズを含有する緩衝溶液は、インジケータストリーム入口ポート20を介して導入され、インジケータストリーム入口ポート20からインジケータストリーム入口チャネル40に流れる。サンプルおよびインジケータストリームは、フローチャネル100内を互いに平行に層流で流れる。サンプル内の小さな分析物(例えば、プロトン)は、インジケータストリームに拡散する。図9Aを参照すると、サンプルは、分岐フローチャネル402に流れ、次にv溝404に流れ、粒子(例えば、赤血球および白血球)は、v溝404を通して一列に流れる。同時に、レポータービーズは、分岐フローチャネル402、次にv溝403に流れ、v溝403を通して一列に流れる。好ましくは装置の上方または下方に配置される光学検出器は、フローチャネル100内の2つのストリームおよびv溝404内の未溶解サンプル粒子およびv溝403内のビーズを同時にモニタする。このビーズは、溶解サンプル分析物のインジケータである。
【0100】
あるいは、インジケータストリームは、本装置のこの実施態様が実施されるときに、未溶解サンプル粒子をモニタする際にモニタされる溶解インジケータ染料を含み得る。溶解インジケータ染料は、v溝においてモニタされる必要はない。従って、両分岐フローチャンネルは、図9Cに示すように、v溝に接続される必要はない。
【0101】
本発明の二重検出実施態様の他の実施例は、以下の通りである。全血のサンプルは、白血球の数を検出するために、v溝チャネル内でモニタされ得る。次に、同じサンプルは、v溝チャネルと流体連通するTセンサに流れる。Tセンサでは、白血球は、抗体でタグ化された蛍光レポータービーズと反応する。次に、サンプルは、Tセンサと流体連通する他のv溝チャネルに流れる。このv溝チャネルにおいて、白血球は、蛍光によって識別される。
【0102】
本発明のTセンサチャネルシステムは、図9Bに示すように、排気ポート407をさらに有し得る。サンプルストリームのみが分岐フローチャネル402に入り、インジケータストリームのみが分岐フローチャネル401に入ることを確実にするために、各ストリームの一部は、排気ポート407に迂回させられ得る。各ストリームの一部を排気出口に迂回させるために、排気ポートは、W接合部でフローチャネルと流体が連通している。
【0103】
図9Cは、分岐フローチャネルおよび排気ポートを有する本発明のチャネルシステムを通して流れるサンプルストリーム(xで示す)およびインジケータストリーム(白抜きの四角で示す)を示す。図9Cは、さらに、分岐フローチャネルが、環状にならずに、フローチャネル100と平行に延びることを示す。分岐フローチャネルは、所望の任意の角度でフローチャネル100に接続し得る。様々なチャネルを通したフローを同時に1つの検出器を用いてモニタするためには、分岐フローチャネルが、このようなモニタを可能にする角度でフローチャネル100と接続することが好ましい。
【0104】
この実施態様を用いる1つの装置内の溶解粒子および未溶解粒子の検出は、経済的に有利である。なぜなら、測定が、1セットのポンプおよび1つの検出器のみで行われ得るからである。
【0105】
一列の未溶解粒子を検出する他の手段は、シースフロー(sheath flow)モジュールを用いる。サンプルは、まず、Tセンサのフローチャネルを通して流れ、そこで、サンプルは、レポータービーズと反応する。例えば、サンプル中の分析物は、レポータービーズを含有するインジケータストリームに拡散する。次に、レポータービーズを含有する流体は、Tセンサフローチャネルと流体連通するシースフローモジュールに流れ得る。シースフローモジュール内でビーズは集められ、一列で流れて検出される。
【0106】
v溝チャネルについては、シースフローモジュールとTセンサの順番を逆にすることも可能である。即ち、流体は、シースフローモジュール、次にTセンサを通して流れ得る。図10Aは、「マイクロ製造されたフローチャネルにおける粒子の3次元配列装置および方法」という名称の米国特許出願(1997年3月26日付けで提出)に記載されるように、フローモジュールの中央に沿った長さ方向の断面図である。プレート501は、機械加工、成形またはエッチングされ、フローチャネルを形成する。プレートは、限定はされないが、シリコンウェハ、プラスチック(例えば、ポリプロピレン)、および鋳造材料を含むものから選択され得る。シリコンウェハをエッチングし、プラスチックを成形および機械加工する技術は、当該技術分野で周知である。層流チャネル508は、プレートの平坦面で形成される。第1入口510は、チャネルの上流端でプレートを通過し、第1入口接合部511でフローチャネルを接合する。出口530は、チャネルの下流端でプレートを通過し、出口接合部531でフローチャネルを接合する。第2入口520は、第1入口と出口との間のプレートを通過し、フローチャネルを第2入口接合部521で接合する。第2入口接合部521は、第1入口接合部よりも狭い。第2プレート505は、第1プレートの平坦面にシールされ、それによって、層流チャネルの一側部を形成する。図10Bは、チャネル表面を示す。入口接合部、およびフローチャネル508のエッジ512の相対的な幅が示される。第2入口接合部521は、第1入口接合部511よりも狭い。図10Aおよび図10Bを再び参照すると、シース流体は、第1入口510を介してフローチャネル508に導入され、フローチャネルを通して出口530に流れる。中央流体は、第2入口520を介して、好ましくはシース流体よりも低圧力および低速度で導入される。図10Cは、図10Aおよび図10Bのフローチャネルの断面図であり、本発明の一実施態様において成し遂げられるシースフローを示す。本実施態様において、フローチャネル508は、台形である。入口520から排出された中央流体554は、シース流体553によって両側(左および右)および上部を囲まれている。
【0107】
上記のように、反射材料におけるチャネルシステムを形成することによって、反射による光学測定が可能となる。あるいは、透過による光学測定は、次に記載する実施態様において成し遂げられ得る。Tセンサチャネルシステムは、基板プレート(例えば、シリコンマイクロチップまたは材料の他のスラブ)を通して完全にエッチングされ得る。全チャネルシステムは、完全にエッチングされ得るので、基板プレートの幅を横断、即ち貫通して延びる。あるいは、分析物検出領域90を含むチャネルシステムの部分のみが、完全にエッチングされ得るので、図11に示すように、基板プレートの幅を貫通して延びる。インジケータストリーム入口ポート20、サンプルストリーム入口ポート30、および出口ポーロ60も図示する。光学的に透明なプレート(例えば、カバープレート)は、マイクロチップの両側にシールされる。チャネルシステムの部分のみがマイクロチップを通して完全にエッチングされる場合、透明なプレートは、マイクロチップのその部分のみを覆うだけでよい。
【0108】
本発明の他の実施態様において、装置の寸法は、層流が維持されるように選択される。本実施態様において、シリコンマイクロチップは、異方性EPWエッチングによってエッチングされる場合、チャネル直径が、層流を維持するのに十分小さく維持され得るように薄いマイクロチップを用いることが好ましい。異方性EPWエッチングは、チャネルの下部よりも上部が広いチャネルを形成する。マイクロチップを完全にエッチングすることによって、上部が望ましくなく広く、望ましくなく大きなチャネル直径のチャネルを形成し得る。チャネルの直径が望ましくなく大きいと、層流は維持され得ない。薄いマイクロチップの好ましい幅は、100ミクロンと300ミクロンとの間であり、より好ましくは100ミクロンと200ミクロンとの間である。あるいは、シリコンをエッチングする他の方法、例えば、反応性イオンエッチングは、チャネル直径を層流を維持するのに十分小さく保つために用いられ得る。チャネルシステムを形成するのに機械加工または成形される他の材料(例えば、プラスチック)は、チャネル直径を小さく保つために必ずしも薄くする必要はない。
【0109】
マイクロチップは、チャネルシステムを内部に形成する前にエッチングによって薄くされ得る。フォトレジストが形成されていないマイクロチップであるコーティングされていないマイクロチップは、マイクロチップをエッチング溶液に浸漬することによって薄くされ得る。次に、チャネルシステムまたは少なくとも分析物検出領域は、マイクロチップを通して完全にエッチングされ得る。
【0110】
あるいは、低レイノルズ数を維持するTセンサチャネルシステム、即ち、層流が形成され得、チャネルの深さは、幅よりも大きい。しかし、流速は、チャネル幅に対して放物線状、即ち、チャネル中央で速くなり、壁でゼロに近づくので、チャネル直径は、上部から下部および下部から上部への拡散が、この放物状の流速プロファイルを打ち消すような直径であることが好ましい。フローチャネルの深さを高めると、上部から下部および下部から上部への拡散の効果が減少する。
【0111】
本明細書で記載した実施態様以外の多数の実施態様は、当業者に容易に明白であり、本発明の限度および範囲内である。本明細書で引用したすべての参考文献は、本明細書において参考のためにその全体を援用する。以下の実施例は、本発明を例示するが、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0112】
実施例
実施例1.チャネルセルの形成
2マスクレベルプロセスを用いて、シリコンウエハ上に本発明のチャネルセルを形成した。チャネルセルは、幅400マイクロメータで長さ20mmのフローチャネルを有していた。入口チャネルを構成する「T」の「ブランチ」またはクロスバーは、長さ30mmで幅200マイクロメータの溝を有していた。チャネル深さは50マイクロメータであった。
【0113】
第1のマスクレベルは入口および出口ポートを規定した。入口および出口ポートを、ウエハを介してシリコンの裏面まで完全にエッチングした。第2のレベルは、流体搬送チャネルを規定した。
【0114】
Photo Sciences, Inc. (Torrance, CA)による仕様書に従って4インチのクロムマスクを作成した。この上に成長させた500nmのSiOを含む3インチウエハ({100}、n型)を用いた。
【0115】
処理前に、Piranha浴(HSOおよびH)(2:1)中でウエハを洗浄した。プライマー(3000rpmでHMDSスピンした)を用いてフォトレジストの付着を向上させた。AZ−1370−SF(Hoechst)フォトレジストをスピンコーティング(3000rpm)によって約1μm堆積し、続いて軟焼成(90℃で30分間)を行った。
【0116】
コンタクト整合器を用いてウエハを整合させ露出させた。露出時間を変えることにより最高の結果を得た。露出後の焼成は行わなかった。ウエハをAZ−351(4:1に希釈)(Hoechst)中で1分間現像し、DI水中でリンスした。酸化物エッチング液に対して酸化物を保護するために、ブルータックテープ(SemiconductorEquipment Corporation、Moorpark、CA)をウエハの裏面に塗布した。
【0117】
緩衝化酸化物エッチング液(BOE、10:1 HF(49%)およびNHF(10%))中にウエハを11分間浸漬することにより、保護されていない酸化物を完全にエッチング除去した。ブルータックテープを手で除去し、フォトレジストをアセトンリンス液中で除去した。
【0118】
シリコンのエッチングを、リフラックスボイリングフラスコ内にセットされたエチレン−ジアミン、ピロ−カテコール、および水の混合液(Reisman A.ら(1979)、J. Electrochem. Soc. 126:1406-1415に記載のEPW F−etch)中で行った。このエッチングは、1時間当たり約100μmの速度でシリコンの{100}面を攻撃する。第1の工程で、流体取付ポートを約3時間エッチングした。フォトレジストを再び塗布して、流体ポートとバリア領域との間のフローチャネルを含むマスクを露出させた。第2の工程で、ウエハを現像して約1時間エッチングした。
【0119】
最終処理の後、ウエハを再びPiranha浴中で洗浄してDI水でリンスした。その後、ウエハを、約1cm×1cmの個々の素子にダイシングした。
【0120】
Wallis, G.およびPomerantz, D.I(1969)のJ. Appl.Physics 40:3946-3949による陽極酸化ボンディングを用いて、シリコン素子にPyrexガラスを取り付けた。EscoProducts Inc. (Oak Ridge, NJ)からのPyrexガラス(厚み100μm)の1インチ平方の片を用いた。まず、シリコンおよびPyrexガラスを、50℃に加熱したH、NHOH、およびHO(1:4:6)の溶液に浸漬した。このプロセスは、表面上のいずれの有機物質をも除去し、さらに表面を親水性にする。この溶液中に20分間浸漬した後、シリコンおよびPyrexガラスをDI水でリンスして乾燥した。陽極酸化ボンディングを、ガラスとシリコンとの間に400Vを印加して、400℃で行った。
【0121】
実施例2.pHによる蛍光色変化
分析グレード化学薬品(Aldrich)からpH7.2、7.4、7.6、7.8および8.0の5種類の0.01M HEPES緩衝液を調製した。得られた液を、サンプルストリームとして連続的に用いた。この実験において注目すべき分析物は、HまたはOHである。1mgの蛍光pHインジケータ染料カルボキシ−SNAFL2(MolecularProbes、Eugune, OR)を2mlのDMSO(((.9%、Aldrich)中に溶解した。この溶液0.1mlをpH7.0の0.0001M HEPES緩衝液1mlと混合した。得られた溶液をインジケータストリームとして用いた。
【0122】
Tセンサチャネルセルを、Tセンサの接合部が対物レンズの視野内にあるように、顕微鏡のステージに取り付けた。入口ポートと出口ポートとの間に30mm水カラムの圧力差があるように、入口ポートと出口ポートとをインジェクタループと、水で充満した直立チューブとに接続した。2つのストリームがT接合部の中央で合流して出口ポートに平行に流れるように、両方の入口ポートを同一の圧力に曝した。一方のインジェクタループをインジケータ染料溶液で充満させて、他方のループをサンプル溶液のうちの1つで充満させた。ループは、約1時間装置を動作させるのに十分な容量を含んでいた。
【0123】
両方のインジェクションループがTセンサに流入することが可能になった後且つ1分間の平衡およびフラッシング時間の後、顕微鏡のカメラアタッチメントにより写真を撮った。励起フィルタ中央波長は480nmであり、発光フィルタは、ロングパス510nmフィルタであった。
【0124】
実験により、インジケータストリームとサンプルストリームとの間の分析物検出領域の色がサンプルストリームのpHの関数である写真が得られた。pHが8.0から7.2に低下するにつれて、色は赤からオレンジを経て黄色に変化した。コンピュータエンハンスト画像は、インジケータストリーム自体の色が黄色であり、ストリーム間の分析物検出領域が赤からオレンジの範囲であることを示したが、無色の大量のストリームは黒く見えた。カラーマッピングにより、システムを較正するために用いられる異なる色に数値を割り付ける。あるいは、光強度の変化を2つの波長で測定し、それによりpHの低下に伴う、スペクトルの赤い部分の減少と黄色い部分の増加とを測定する。
【0125】
実施例3.距離の関数としての動力学的測定
血清中のアルカリホスファターゼと、0.1M HEPES緩衝液、pH7.40中の0.1Mρ−ニトロフェノールホスフェート(PNPP)(薄い黄色)とをTセンサ装置に注入した。アルカリホスファターゼは、PNPPの反応を触媒して、ρ−ニトロフェノール(濃い黄色)とホスフェートとにした。ρ−ニトロフェノールの生成(およびその速度)は、黄色の濃さの増加により検出された。T接合部からの距離の関数としての黄色の濃さの変化の速度は、酵素濃度の関数であり、速度定数の計算を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】図1は、本発明によるTセンサーチャネルセルの実施形態におけるフローおよび拡散の模式図である。
【図2】図2は、pH9の緩衝液(右入口)が装置に流入し、弱緩衝インジケータ染料溶液(pH5)が左から入る、本発明のTセンサの蛍光顕微鏡写真図である。拡散が進むにつれて、ある形態から他の形態への染料の明瞭な転換が、明白に見える。
【図3】図3は、本発明のビューポート−Tセンサの実施形態のレイアウトを示す。この実施形態では、インジケータストリームは、右のT脚部から来て、pH9の低イオン強度緩衝液中のインジケータ染料溶液である。左から導入されるサンプルストリームは、ここでは、pH5の0.15Mの緩衝液である。インジケータ染料を含有するインジケータストリームの数カ所が、様々な位置での試料ストリームとしてチャネルから連続的に取り出される。
【図4】図4は、フローサイトメータ光学ヘッドに接続されたV溝フローチャネルを示す。
【図5】図5は、方形波形状の回旋フローチャネルを示す。
【図6】図6は、コイル形状の回旋フローチャネルを示す。
【図7】図7Aは、曲線的T接合部を有するTセンサを示す。図7Bは、曲線的T接合部を有するビューポート−Tセンサを示す。
【図8】図8は、距離の関数として動力学的測定を行うための複数の検出領域を有する回旋フローチャネルを示す。
【図9】図9A〜図9Cで成る図9は、溶解および非溶解分析物両方の2重検出のためのブランチフローチャネルを有する実施形態を示す。
【図9C】図9A〜図9Cで成る図9は、溶解および非溶解分析物両方の2重検出のためのブランチフローチャネルを有する実施形態を示す。
【図10】図10A〜図10Cで成る図10は、シースフローモジュールを示す。
【図11】図11は、分析物検出領域が、基板プレートの幅全体にわたってエッチングされるTセンサを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の化学センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図9C】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−292773(P2007−292773A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−124013(P2007−124013)
【出願日】平成19年5月8日(2007.5.8)
【分割の表示】特願平9−537112の分割
【原出願日】平成9年3月31日(1997.3.31)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PYREX
【出願人】(502457803)ユニヴァーシティ オブ ワシントン (93)
【住所又は居所原語表記】4311 11th Avenue N.E.,Suite 500,Seattle,WA98105,U.S.A
【Fターム(参考)】