説明

マイクロRNA−21阻害剤を含む放射線敏感性増進用組成物

マイクロRNA−21阻害剤が有効成分として作用する放射線敏感性増進用組成物が開示される。前記マイクロRNA−21阻害剤は、マイクロRNA−21に相補的に結合するアンチセンス核酸分子である。前記組成物は放射線治療と併用して患者に投与できる。前記阻害剤は、マイクロRNA−21の発現程度が高い状態の癌細胞、特に神経膠腫細胞の放射線治療などの治療効果を増進させる放射線増感剤として作用することができる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は、放射線敏感性を増進させるための組成物に関する。さらに詳しくは、本発明は、マイクロRNA−21に相補的に結合することによりマイクロRNA−21の活性を抑制するマイクロRNA−21阻害剤を含む放射線敏感性増進用組成物に関する。また、本発明は、マイクロRNA−21の発現程度が高い状態の癌細胞、特に神経膠腫細胞の放射線敏感性を増進させる方法に関する。
【0002】
〔背景技術〕
一般に、癌の治療には手術、放射線治療法、および化学療法、またはこれらの組み合わせが使用されるが、これら癌治療法の中でも放射線治療法の適用を受ける癌患者の数が毎年増加しつつある。
【0003】
放射線治療は、現在多様な種類の癌に必須的な治療方法として知られているが、癌細胞の放射線耐性獲得や高線量の放射線により引き起こされる正常組織損傷などが放射線治療の効率を低下させることが問題点として指摘されてきた。よって、放射線治療の効率を増進させるための放射線治療敏感剤に関する研究が行われているが、現在まで報告された放射線治療敏感剤は、主に抗癌剤であって、例えばタクソール(Taxol)とシスプラチン(cisplatin)などが報告されている。
【0004】
また、抗癌剤としての性質は持っておらず且つ放射線治療にのみ使用される放射線治療効果増進剤としてはチラパザミン(Tirapazamine)があるが、低酸素症の腫瘍細胞にのみ効果があり、低酸素状態特有の腫瘍内部圧力のために腫瘍組織内部への薬物伝達が足りなくて臨床的放射線治療において効果が微弱であると知られている。
【0005】
ところが、前述したように放射線治療効果を増進させるために使用される抗癌剤を放射線治療剤と併用するとき、放射線治療の際に現れる副作用、すなわち放射線治療部位の炎症、胃腸障害、悪心、嘔吐、下痢なが発生する可能性があるので、使用に制限がある。
【0006】
特に、中枢神経系の癌は、星状膠細胞(astrocyte)と乏突起膠細胞(oligodendrocyte)などの神経膠(glia)を含む他の細胞系列から発生する。星状細胞腫(astrocytic tumor、astrocytomas)は、隣接した微細環境との相互作用によって、びまん性星状細胞腫(diffuse astrocytoma)と局所性星状細胞腫(localized astrocytoma)に分けられる。局所性星状細胞腫は、周囲の微細環境と境界がはっきりとした増殖および制限的な浸潤潜在性を有するが、 腫瘍の異型度(tumor grade)とは関係なく、びまん性星状細胞腫は、腫瘍周囲のマージン(peritumoral margin)と主な腫瘍形成部位から遠い所で細胞浸潤の特性を持っている。びまん性星状細胞腫は、WHO(World Health Organization)分類によって、低等級びまん性星状細胞腫(等級II)、未分化悪性星状細胞腫(等級III)、および多形性膠芽腫(等級IVGBM) (等級IV)に分類される。これら3つの等級のびまん性星状細胞腫は浸潤特性を持っており、特にGBMは他の星状細胞腫に比べてさらに高い増殖率、壊死、低酸素症、血管形成、脳の支持構造に高い浸潤および癌再発率が高い特性を持っており、他の組織への転移が容易なので、これらの癌治療能を高めるための多様な試みが行われてきた。ところが、化学治療のみでは星状細胞腫の治療に限界があり、放射線治療の際にも癌細胞が放射線抵抗性を獲得するという問題点があった。
【0007】
また、前述したように、手術的治療および抗癌剤治療と共に、放射線治療は脳腫瘍治療において最も幅広く用いられる治療法の一つである。脳腫瘍のうち、WHOグレードであるGBM脳腫瘍患者は手術的治療、抗癌剤治療、放射線治療または複合的な治療(例えば、放射線治療と抗癌剤治療、または手術的治療と放射線治療)にも拘らず、予後(癌再発)が良くなく、平均生存率が1年未満であり、5年生存率は5%未満である。脳腫瘍治療法のうち、放射線治療法は、放射線によるDNA損傷に対して細胞が細胞周期を遅延させ或いはアポトーシスを誘導して非正常細胞を除去する方法である。ところが、この放射線治療法は、癌細胞の内在的な放射線抵抗性および放射線治療による耐性増加により、放射線抵抗性癌細胞が癌の再発を誘発させるとともに放射線抵抗性細胞が抗癌剤に対しても耐性を有するという問題点がある。
【0008】
よって、放射線に対して内在的な放射線抵抗性を持つ癌細胞の放射線敏感性を増進させながら、副作用は最小化させて放射線治療法を最適化することが可能な放射線敏感性増進剤の開発が切実に要求されている。
【0009】
一方、マイクロRNAは、最近、多様な癌の発生から発見された小さい調節RNA分子であり、抗癌治療のための新しい標的として提案されている。microRNAの標的であるmRNAを減衰(degradation)或いは翻訳抑制(translational repression)によってネガティブに調節することにより、microRNAは腫瘍抑制因子(tumor suppressor)と癌遺伝子(oncogene)として作用することができる。最近、microRNAの一つであるlet−7の放射線抵抗性の相関関係と共に、現在の細胞毒性治療を増進させることができる主要な新しいツール(tool)として報告されたことがある。このため、本発明者らは、放射線敏感性増進剤の開発において、遺伝子調節メカニズムの中でも転写後調節メカニズム(post-transcriptional regulation mechanism)に重要な役割を果たすマイクロRNAに重点をおいた。
【0010】
マイクロRNA−21は、殆ど全てのヒトのGBM標本において高い水準の発現を示しており、多様な癌標本においてmicroRNA−21の過発現が報告されたことがある。このような報告は、マイクロRNA−21が多様な癌の癌遺伝子(oncogene)として作用することを示唆している。また、マイクロRNA−21は、乳房、大腸癌、別の癌細胞株において細胞死滅、細胞成長、および細胞移動調節機能が報告された。ところが、現在まで前記マイクロRNA−21の過発現と放射線抵抗性との相関関係を解明したという報告、またはマイクロRNA21阻害剤を用いて放射線敏感性を増進させることに関連した報告はない。
【0011】
そこで、本発明者らは、マイクロRNA−21の発現水準と細胞の放射線抵抗性との相関関係を解明し、これによりマイクロRNA21の阻害剤が癌治療のための放射線治療法において癌細胞の放射線敏感性を効果的に増進させるということを見出し、本発明を完成した。
【0012】
〔発明の開示〕
〔技術的課題〕
本発明の目的は、マイクロRNA−21阻害剤を含む放射線敏感性増進用組成物を提供することにある。
【0013】
本発明の他の目的は、マイクロRNA−21の発現程度が高い状態の癌細胞の放射線敏感性を増進させる方法を提供することにある。
【0014】
本発明の別の目的は、前記組成物を投与する段階を含む、癌治療のための放射線治療法を提供することにある。
【0015】
〔技術的解決方法〕
一つの様態において、本発明は、マイクロRNA−21阻害剤を含む、放射線敏感性増進用組成物に関する。
【0016】
本発明において、用語「マイクロRNA−21阻害剤」とは、細胞内でマイクロRNA−21の細胞内発現または活性を減少させる製剤を意味するもので、具体的には、マイクロRNA−21に直接作用し或いはマイクロRNA−21の上位調節因子に間接的に作用してマイクロRNA−21の発現を転写水準で減少させ、或いは発現されたマイクロRNA−21の分解を増加させ、或いはマイクロRNA−21の活性を妨害することにより、マイクロRNA−21の発現水準またはその活性を減少させる製剤をいう。
【0017】
マイクロRNAは大部分、染色体上のイントロンなどによってエンコードされており、転写が起った後、Drosha等によってプロセスされて前駆体形態(precursor−miRNA)に変わり、しかる後に、核外輸送因(exportin)によって核を抜け出してDicerによって長さ約22bp程度の成熟した形態に変わるが、これはRISC(RNA interference silencing complex)と結合して遺伝子サイレンシング機能を示す(Nat Rev Mol Cell Biol 6, 376-385;2005)。本発明のマイクロRNA−21阻害剤は、このようなマイクロRNA−21が活性化されて機能する経路に関与することにより、マイクロRNA−21の発現水準を減少させ或いはマイクロRNA−21の活性を抑制することができる。
【0018】
本発明で利用可能なマイクロRNA−21阻害剤は、マイクロRNA−21阻害活性を持つ物質であれば、特に限定されないが、当業界における公知の標準技法によって細胞に処理できる核酸またはポリペプチドなどの生物学的分子、化合物、植物または動物から分離されたものであってもよい。好ましくはマイクロRNA−21の塩基配列に相補的に結合するアンチセンス核酸分子、マイクロRNA−21に特異的なsiRNA、RNAアプタマーおよびリボザイムなどを使用することができ、さらに好ましくはマイクロRNA−21の塩基配列に相補的に結合するアンチセンス核酸分子である。
【0019】
本発明において、用語「相補的な」とは、ヌクレオチド配列の塩基と他のヌクレオチド配列の塩基とが互いにマッチされる、すなわちWatson Crickの塩基対を形成することが可能な場合を意味する。
【0020】
本発明において、マイクロRNA−21の塩基配列に相補的なアンチセンス核酸分子は、細胞内のマイクロRNA−21分子の一本鎖断片に相補的に結合してマイクロRNA−21のプロセス効率を減少させることにより、これらの発現を抑制し、マイクロRNA−21の活性を阻害させることができる。本発明で使用するマイクロRNA−21分子は一本鎖または二本鎖の形で存在しうる。成熟マイクロRNA分子は主に一本鎖として存在するが、前駆体マイクロRNA分子は二本鎖構造を形成することが可能な少なくとも部分的に自己相補的な構造(例えば、ステム−およびループ−構造)である。また、本発明のアンチセンス核酸分子は、前駆体マイクロRNA分子の一本鎖断片に相補的であり、或いは成熟マイクロRNA分子に相補的である。本発明のマイクロRNA−21阻害剤のターゲットであるマイクロRNA−21の塩基配列は、米国国立保健院遺伝子銀行(NIH GenBank)およびmiRBASE(http://microrna. sanger.ac.uk/)などから遺伝子情報を得ることができ、例えば、ヒト由来のマイクロRNA−21(miRBASE(http://microrna. sanger.ac.uk/)の許可番号:hsa−mir−21(前駆体形態としてMI0000077(hsa−mir−21)、成熟形態としてMIMAT0000076(hsa−miR−21、配列番号2)))である。
【0021】
本発明のアンチセンス核酸分子は、RNA−RNA、RNA−DNA、またはRNA−PNA(タンパク質核酸)の相互作用によってマイクロRNA−21に結合してこれらの活性を調節する非酵素的核酸化合物であり、これらは一つの連続配列がマイクロRNA−21の塩基配列に相補的であってもよく、これら自体的にループを形成し、ループを形成するマイクロRNA−21にも結合してもよい。
【0022】
また、本発明のマイクロRNA−21の塩基配列に相補的に結合するアンチセンス核酸分子は、アンチオリゴヌクレオチド形態であることが好ましく、これらは、細胞に導入されたとき、マイクロRNA−21の発現を阻害させることができ、内因性ヌクレアーゼ、例えばエキソヌクレアーゼおよびエンドヌクレアーゼに耐性があり、生体内で安定的な、選択的に変形されたオリゴヌクレオチドである。
【0023】
本発明において、用語「オリゴヌクレオチド」とは、自然発生的な糖、核酸塩基、および糖間連結からなるヌクレオチドまたはヌクレオシド単量体のオリゴマーまたはポリマーを意味する。また、この用語は、類似に機能する非−自然発生的な単量体またはその部分を含む、変形または置換されたオリゴマーを含む。置換されたオリゴマーの混入は、細胞吸収増大またはヌクレアーゼ耐性増加などの因子に基づき、当業界における公知のように選択される。全体オリゴヌクレオチドまたはその一部分が置換されたオリゴマーを含有することができる。また、本発明のアンチオリゴヌクレオチドは、これらの標的に対するオリゴヌクレオチドの親和性を増加させ、標的配列のミスマッチに対する耐性を提供するように、変形されたオリゴマー模倣体(olygomer mimetics)、例えばペプチド核酸(PNA)および固定核酸(LNA)を含むことができる。
【0024】
また、本発明で使用するアンチオリゴヌクレオチドは、天然型オリゴヌクレオチド、ホスホロチオエート型オリゴデオキシリボヌクレオチド、ホスホロジチオエート型オリゴデオキシリボヌクレオチド、メチルホスホネート型オリゴデオキシリボヌクレオチド、ホスホロアミデート型オリゴデオキシリボヌクレオチド、H−ホスホネート型オリゴデオキシリボヌクレオチド、トリエステル型オリゴデオキシリボヌクレオチド、α−アノマー型オリゴデオキシリボヌクレオチド、ペプチド核酸、並びに人造核酸および核酸の変形された化合物を含む変形オリゴヌクレオチド形態であるが、これに限定されない。
【0025】
また、本発明のアンチオリゴヌクレオチドは、マイクロRNA−21の一本鎖塩基配列に相補的な二本鎖または一本鎖DNA、二本鎖または一本鎖RNA、DNA/RNAハイブリッド、DNAおよびRNAアナログ、および塩基、糖またはバックボーンの変形を持つオリゴヌクレオチドを含む。本発明のオリゴヌクレオチドは、安定性を増加させ、ヌクレアーゼ分解に対する抵抗性を増加させるために、当分野における公知の方法により変形できる。これらの変形は、当業界に知られており、オリゴヌクレオチドバックボーンの変形、糖成分の変形または塩基の変形を含むが、これに限定されない。前記リボヌクレオチドにおける変形は、1〜6飽和または不飽和炭素原子を含む−O−低級アルキル基、または2〜6炭素原子を含む−O−アリールまたはアリル基で2’−O−置換されたものを含む、リボース部分の2’位置に存在し、前記−O−アルキル、アリールまたはアリル基はアミノまたはハロ基(例えば、ハロ、ヒドロキシ、トリフルオロメチルシアノ、ニトロ、アシル、アシルオキシ、アルコキシ、カルボキシル、カルボアルコキシまたはアミノ基)で置換されないか或いは置換され得る。本発明のオリゴヌクレオチドの非制限的な例としては、3’、5’または3’および5’末端に2’−O−アルキル化リボヌクレオチドを有し、少なくとも4つまたは5つの連続ヌクレオチドがそのように変形される。2’−O−アルキル化基の例としては2’−O−メチル、2’−O−エチル、2’−O−プロピルおよび2’−O−ブチルがあるが、これに限定されない。
【0026】
本発明のマイクロRNA−21の塩基配列に相補的に結合するアンチセンス核酸分子は、標準分子生物学技術、例えば化学的合成方法または組み換え方法を用いて分離または製造したもの、或いは市販のものを使用することができる。本発明のアンチオリゴヌクレオチドは、15〜40ヌクレオチドの長さを有することが好ましく、さらに好ましくは配列番号1に示される塩基配列から構成される。
【0027】
一方、本発明のマイクロRNA−21の塩基配列に相補的に結合するアンチセンス核酸分子は、細胞内伝達のための発現ベクターに含まれて提供できる。
【0028】
本発明のアンチセンス核酸分子は、DEAE−デキストラン−核タンパクまたはリポソーム媒介のDNAトランスフェクションなどを含む多様な形質転換技術を用いて細胞内に導入させることができる。このために、前記アンチセンス核酸分子は、細胞内への効率的な導入を可能にする伝達体内に含まれた形態であり得る。前記伝達体は、好ましくはベクターであり、ウイルスベクターと非ウイルスベクターの両方とも使用可能である。本発明で使用するウイルスベクターとして、例えばレンチウイルス(lentivirus)、レトロウイルス(retrovirus)、アデノウイルス(adenovirus)、ヘルペスウイルス(herpes virus)、およびアビポックスウイルス(avipox virus)由来のベクターなどを使用することができ、好ましくはレンチウイルスベクターであるが、これに限定されない。レンチウイルスは、レトロウイルスの一種であって、核孔(nucleopore)または完全な核膜への能動導入を可能にする事前統合複合体(pre-integration complex)(ウイルス「シェル」)の親核性により分裂細胞だけでなく未分裂細胞も感染させることができるという特徴がある。
【0029】
本発明のアンチセンス核酸分子は、細胞内に導入させて癌細胞の放射線敏感性を増進させることができるが、ここで、用語「導入」とは、形質感染(transfection)または形質導入(transduction)によって外来DNAを細胞に流入させることを意味する。形質感染は、リン酸カルシウム−DNA共沈法、DEAE−デキストラン−媒介形質感染法、ポリブレン媒介形質感染法、エレクトロポレーション法、微細注射法、リポソーム融合法、リポフェクタミントランスフェクション、および原形質体融合法など、当分野における公知の様々な方法によって行われ得る。また、形質導入は、感染(infection)を手段としてウイルスまたはウイルスベクター粒子を用いて細胞内に遺伝子を伝達させることを意味する。
【0030】
一方、本発明で利用可能なマイクロRNA−21阻害剤として、マイクロRNA−21に対するsiRNA、RNAアプタマーおよびリボザイムなどを使用することができる。
【0031】
本発明において、マイクロRNA−21阻害剤として利用可能なsiRNAは、マイクロRNA−21に特異的に作用し、マイクロRNA−21分子を切断してRNA干渉(RNAi:RNAインターフェランス)現象を誘導することが可能な二本鎖RNAをいう。本発明のsiRNAは、マイクロRNA−21核酸配列の一部または全部と相同の配列を含むセンスRNA鎖、およびこれに相補的な配列を含むアンチセンスRNA鎖から構成され、細胞内でマイクロRNA−21に混成化できるヌクレオチド配列を含むことが好ましい。
【0032】
本発明でマイクロRNA−21阻害剤として利用可能なRNAアプタマーは、特定の3次元立体形態を採用する能力によってマイクロRNA−21と結合し、これに対して拮抗効果を有する核酸リガンド分子を意味する。典型的に、アプタマーは、規定された二次および三次構造、例えばステム−ループ構造で折り畳まれる15〜50塩基長さの短い核酸であってもよい。アプタマーは10−6、10−8、10−10または10−12より少ないkdで標的分子と結合することが好ましい。アプタマーは非常に高度の特異性を有する標的分子と結合することができる。また、アプタマーは多数のリボヌクレオチド単位、デオキシリボヌクレオチド単位、または2類型のヌクレオチド単位の混合物から構成できる。アプタマーは少なくとも一つの変形された塩基、糖またはリン酸塩バックボーン単位をさらに含むことができる。
【0033】
本発明でマイクロRNA−21阻害剤として利用可能なリボザイムは、化学的反応を分子内的にまたは分子間で触媒することが可能な核酸分子を意味する。本発明において、リボザイムとしては、天然システムから発見されるリボザイムを基にしたヌクレアーゼまたは核酸重合酵素タイプの反応を触媒するリボザイムの相異なる類型が全て使用可能であり、例えば、ハンマーヘッド型リボザイム、ヘアピン型リボザイムおよびテトラヒメナ型リボザイムなどがある。また、天然システムでは発見されないが、生体内特異な反応を触媒するために工学的に処理されるリボザイムも利用可能である。リボザイムはRNAまたはDNA基質を切断することができ、好ましくはRNA基質を切断する。リボザイムは典型的に標的基質の認識および結合に続く切断によって核酸基質を切断するが、このような認識は大部分が塩基対相互作用を基にするので、標的特異的切断が可能であるという特徴を持つことができる。
【0034】
本発明において、用語「放射線敏感性増進」とは、放射線を用いた疾病治療において、放射線に対する細胞の敏感性を増進させることを意味する。これにより、放射線治療効率を上昇させることができるが、特に、癌治療の際に並行処理されると、癌細胞の放射線敏感性が増進して癌細胞の殺傷効果および増殖抑制効果を出すことができる。
【0035】
本発明のマイクロRNA−21阻害剤は、細胞内でマイクロRNA−21に作用してこれらの発現率を減少させるなど、マイクロRNA−21機能を阻害することにより、細胞の放射線抵抗性を低めて放射線に対する敏感性を増進させる。本発明のマイクロRNA−21阻害剤を含む放射線敏感性増進用組成物は、放射線治療を適用することが可能な全ての細胞に適用可能であり、特に癌細胞の放射線敏感性を増進させることに利用することが好ましい。
【0036】
また、本発明の放射線敏感性増進用組成物は、マイクロRNA−21の発現に起因して放射線抵抗性が増進した全ての癌細胞に適用可能であり、好ましくは、神経膠腫、乳癌、肺癌、大腸癌、前立腺癌、膵臓癌、子宮癌、胃癌、および慢性リンパ球白血病など、マイクロRNA−21の発現程度が高い状態の癌細胞に適用することができ、さらに好ましくは神経膠腫に適用可能であるが、これに限定されない。
【0037】
また、本発明のマイクロRNA−21阻害剤を含む組成物は、細胞周期の調節によって放射線敏感性を増進させることができる。
【0038】
本発明のマイクロRNA21阻害剤は、細胞周期調節活性を有し、特に、これを用いて放射線による細胞G2/M期のアレストを増進させることにより、放射線敏感性を増進させることができる。真核細胞はDNA合成(Synthesis phase:S期)と細胞の分裂過程(Mitosis phase:M期)が周期的に反復されることにより増殖し、細胞周期はGap1(G1)、DNA合成段階(S)、Gap2(G2)および分裂期(M)からなる。細胞分裂を済ませた細胞はさらにG1期に進入するが、このG1期は細胞内代謝が最も盛んな時期であって、大部分の細胞は多くの時間をG1期として存在する。正常細胞は、G1期で外部から信号があれば、S期に進入し、G2期を経て細胞分裂を起こして増殖し、外部信号がなければ、細胞周期が中断してG1期で長らく停止した状態であるG0期として存在する。これに対し、癌細胞は、外部信号とは関係なく、細胞周期に応じてDNA合成と細胞分裂を行い続けながら増殖するが、このような細胞周期を調節すると、癌細胞の増殖を抑制することができるのである。本発明のマイクロRNA−21阻害剤は、細胞周期をアレストすることが可能な調節活性を有するので、放射線による細胞アレスト効果を顕著に増進させることができる。
【0039】
本発明の具体的実施例において、本発明者らは、microRNA−21の発現と放射線抵抗性との相関関係を調べるために、U251細胞を用いて確立した放射線耐性細胞株RRC7、GBM細胞株としてのU373、U87、およびLN18でmicroRNA−21の発現量を調べた。放射線耐性細胞株RRC7の場合、RRC7の親細胞株であるU251と比較するときにmicroRNA−21の発現量が1.6倍増加したことを発見し、GBMの場合、正常細胞の星状膠細胞(astrocyte)と比較するときにU373とU87細胞株はmicroRNA−21がそれぞれ4.7倍および2倍過発現されていることを観察した。これに対し、LN−18細胞株の場合はmicroRN−21の発現量が0.3倍減少することを確認した(図1)。
【0040】
また、本発明者らは、microRNA−21の発現量と放射線抵抗性との連関性を証明するために、放射線耐性細胞株RRC7、U373、U87、LN18細胞株においてクローン形成法(clonogenic assay)を用いて放射線抵抗性を測定した。また、さらに、microRNA−21の発現量が高い乳癌細胞株、肺癌細胞株および子宮癌細胞株においても、放射線抵抗性を測定した。クローン形成法を用いた放射線抵抗性の測定において、RRC7は親細胞株より放射線抵抗性が増加したことを確認した。また、microRNA−21発現量の高いGBM細胞株であるU373とU87は放射線抵抗性が高かったが、microRNA−21の発現量が低い脳腫瘍細胞株LN18は放射線に対して抵抗性が低かった。これにより、microRNA−21の発現が放射線抵抗性と密接な関係があることを確認した(図2)。
【0041】
また、本発明者らは、microRNA−21の過発現によって細胞周期を調節することができるかを調べるために、U373細胞株の内在的microRNA−21の機能をanti−microRNA−21を用いて抑制した後、放射線を照射した結果、anti−microRNA−21を処理した実験群が、anti−microRNA−negative controlを形質導入した対照群に比べて、放射線による細胞周期G2/Mアレストを増進させることを確認することができた(図3)。
【0042】
また、本発明者らは、microRNA−21の過発現と放射線抵抗性との相関関係に着眼し、microRNA−21の過発現によるmicroRNA−21機能を抑制することにより、細胞の放射線敏感性を増進させることができるかを確認した。具体的に、microRNA−21の発現量が高いGBM細胞株であるU373細胞にanti−mir−21を形質導入した後、24時間の後にそれぞれ放射線0、1、2および4Gyを各群に照射した。照射の後、2日毎に新しい細胞培養培地で代替し、2週間培養した。その結果、anti−mir−21および放射線を処置してmicroRNA−21機能を抑制させた実験群は、対照群に比べて放射線敏感性を顕著に増進させることを確認した(図4)。
【0043】
このような実験結果により、マイクロRNA−21阻害剤を細胞に処理して細胞内のマイクロRNA−21機能を抑制することにより、細胞の放射線敏感性を増進させることができることを確認することができた。
【0044】
一つの実施形態において、本発明のマイクロRNA−21阻害剤を含む放射線敏感性増進用組成物は、薬学的に許容可能な担体をさらに含むことができ、担体と共に製剤化できる。
【0045】
本発明において、用語「薬学的に許容可能な担体」とは、生物体を刺激せず、投与化合物の生物学的活性および特性を阻害しない担体または希釈剤をいう。液状溶液に製剤化される組成物において、許容される薬剤学的担体としては、滅菌および生体に適したものであって、食塩水、滅菌水、リンガー液、緩衝食塩水、アルブミン注射溶液、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノールおよびこれらの組み合わせを使用することができ、必要に応じて抗酸化剤、緩衝液、静菌剤などの他の通常の添加剤を添加することができる。また、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤および潤滑剤をさらに添加して水溶液、懸濁液、乳濁液などの注射用剤形、丸薬、カプセル、顆粒または錠剤に製剤化することができる。
【0046】
本発明のマイクロRNA−21阻害剤および薬学的に許容可能な担体を含む組成物は、これを有効成分として含むいずれの剤形としても適用可能であり、経口用または非経口用剤形に製造することができ、投与の容易性および投与量の均一化のために単位投与形態として製剤化することができる。本発明の薬学的剤形は口腔、直腸、鼻腔、局所(頬および舌下を含む)、皮下、膣または非経口(筋肉内、皮下および静脈内を含む)投与に適した形態、または吸入または注入による投与に適した形態を含む。
【0047】
本発明の組成物を有効成分として含む経口投与用剤形としては、例えば錠剤、トローチ剤、ロゼンジ(lozenges)、水溶性または油性懸濁液、調製粉末または顆粒、エマルジョン、ハードまたはソフトカプセル、シロップ、またはエリキシル剤に製剤化することができる。錠剤およびカプセルなどの剤形に製剤化するために、ラクトース、サッカロース、ソルビトール、マンニトール、澱粉、アミロペクチン、セルロースまたはゼラチンなどの結合剤、第二リン酸カルシウムなどの賦形剤、コーンスターチまたはサツマイモ澱粉などの崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリルフマル酸ナトリウムまたはポリエチレングリコールワックスなどの潤滑油を含むことができ、カプセル剤形の場合、前述した物質の他にも、脂肪油などの液体担体をさらに含有することができる。
【0048】
本発明の組成物を有効成分として含む非経口投与用剤形としては、皮下注射、静脈注射または筋肉内注射などの注射用形態、坐剤注入方式または呼吸器を介して吸入可能にするエアロゾル剤などのスプレイ用に製剤化することができる。注射用剤形に製剤化するためには、本発明の組成物を安定剤または緩衝剤と共に水で混合して溶液または懸濁液として製造し、これをアンプルまたはバイアルの単位投与用に製剤化することができる。坐剤として注入するためには、ココアバターまたは他のグリセリドなどの通常の坐薬ベースを含む坐薬または灌腸剤などの直腸投与用組成物に製剤化することができる。エアロゾル剤などのスプレイ用に剤形化する場合、水分散した濃縮物または湿潤粉末が分散するように推進剤などの添加剤と共に配合できる。
【0049】
別の様態において、本発明は、マイクロRNA−21阻害剤を含む放射線敏感性増進用組成物を用いて癌細胞の放射線敏感性を増進させる方法に関する。また、本発明の前記組成物を投与する段階を含む、癌治療のための放射線治療法に関する。
【0050】
本発明において、用語「投与」とは、いずれの適切な方法で患者に本発明の薬剤学的組成物を導入することを意味し、マイクロRNA−21阻害剤、例えばアンチセンス核酸分子のウイルス性または非ウイルス性技術による運搬を含む。本発明の組成物が癌細胞内に導入されると、マイクロRNA−21の発現水準を低め或いは活性を阻害することにより、放射線敏感性を増進させる。
【0051】
本発明の組成物の投与経路は、目的組織に到達することができる限りは、経口または非経口の多様な経路を介して投与できる。たとえば、口腔、直腸、局所、静脈内、腹腔内、筋肉内、動脈内、経皮、鼻腔内、吸入、眼球内または皮内経路によって通常の方式で投与できる。好ましくは、本発明の抗癌組成物は癌組織に局所投与する。
【0052】
本発明の癌治療のための放射線治療法は、本発明の放射線敏感性増進用組成物を治療的有効量で投与することを含む。用語「治療的有効量」は、放射線に対して癌細胞内の腫瘍の敏感性を効果的に増進させる量を意味する。適正の総1日使用量を正しい医学的判断範囲内で処置医によって決定できるのは、当業者には自明なことである。特定の患者に対する具体的な治療的有効量は、達成しようとする反応の種類および程度、場合に応じて異なる製剤が使用されるか否かを含む具体的組成物、患者の年齢、体重、一般健康状態、生物および食餌、投与時間、投与経路および組成物の分泌率、治療期間、並びに照射される放射線量といった多様な因子、および医薬分野によく知られている類似因子に応じて適用することが好ましい。よって、本発明の目的に適した放射線敏感性増進用組成物の有効量は、前述した事項を考慮して決定することが好ましい。また、場合に応じて、本発明の放射線敏感性増進用組成物と共に公知の抗癌剤を併用投与し、放射線治療効果を含む抗癌効果を増大させることができる。
【0053】
また、本発明の放射線治療法は、マイクロRNA−21の発現増加により放射線抵抗性が増大できる任意の動物に適用可能であり、動物は、ヒトおよび霊長類だけでなく、牛、豚、羊、馬、犬および猫などの家畜を含む。また、本発明の放射線治療法は、マイクロRNA−21の発現に起因して放射線抵抗性が増加した全ての癌の治療に利用することができ、好ましくは神経膠腫、乳癌、肺癌、大腸癌、前立腺癌、膵臓癌、子宮癌、胃癌、および慢性リンパ球白血病など、マイクロRNA−21の発現程度が高い状態の癌細胞に利用することができるが、これに限定されない。
【0054】
本発明の放射線治療法は、癌細胞に本発明の組成物を投与し、放射線を照射することを含むが、ここで、「放射線照射」とは、イオン化放射線、特に、通常使用している線形加速器(linear accelerators)または放射核腫(radionuclides)によって放射されたγ−放射線を意味する。放射核腫による腫瘍への放射線治療法は、外部的または内部的に行われ得る。本発明の組成物投与時期は、好ましくは、腫瘍に放射線を照射する一ヶ月前までは、特に10日または一週前までは本発明の組成物投与を始めることが良い。さらに、腫瘍の放射線照射を分別し、最初の放射線照射期間と最後の放射線照射期間との間に組成物の投与を持続することが有利である。投与されるマイクロRNA−21阻害剤の量、放射線照射量および放射線照射量の間欠性は、癌の種類、その位置、化学療法または放射線治療法に対する患者の反応といった一連のパラメータによって異なる。また、本発明の放射線治療法は、近接照射療法、放射性核腫治療、外照射療法(external-beam radiation therapy)、温熱治療(冷凍切除治療、高熱治療)、放射線外科、荷電粒子線治療(charged-particle radiation therapy)、中性子放射線治療法および光線力学療法(photodynamic therapy)などを含むことができる。
【0055】
〔有利な効果〕
本発明に係るマイクロRNA−21阻害剤を含む放射線敏感性増進用組成物は、癌細胞の放射線敏感性を増進させることにより、放射線抵抗性が増大している多様な癌の治療の際に放射線治療法の効果を増大させることができる。
【0056】
〔図面の簡単な説明〕
図1aは放射線耐性細胞クローンRRC7、RRC7の親細胞株U251、およびmicroRNA−21の発現量を測定したグラフであり、図1bは脳腫瘍細胞株U87、U373、およびLN18のmicroRNA−21の発現量を測定したグラフである。
【0057】
図2aは放射線耐性細胞cloneRRC7とRRC7の親細胞株U251における、放射線線量による放射線に対する生存率を測定したグラフであり、図2bはU373、U87、LN18(脳腫瘍細胞株)、MCF−7およびMB−MDA−231(乳癌細胞株)、A549(肺癌細胞株)、HeLa(子宮癌細胞株)における、放射線線量による放射線に対する生存率を測定したグラフである。
【0058】
図3はanti−microRNA−21の放射線による細胞周期G2/M区間のアレスト増進効果を示すグラフである。
【0059】
図4aおよび図4bは本発明のanti−microRNA−21の放射線敏感性増進効果を示すグラフである。
【0060】
〔発明を実施するための最善の様態〕
(実施例1:放射線耐性細胞クローンの確立および脳腫瘍細胞におけるマイクロRNA−21発現量)
<1−1>細胞培養
細胞を次の方法でそれぞれ培養した。
【0061】
(1)脳腫瘍細胞として、U87、U373、LN18、およびU251を、それぞれ10%FBS(fetal bovine serum、Gibco BRL、米国)、ペニシリン100Unit/mL、ストレプトマイシン100μg/mLを含むDMEM培地(WelGENE、韓国またはGIBCO BRL、米国)を用いて湿式雰囲気下に37℃、5%CO培養器で培養した。
【0062】
(2)乳癌細胞株としてのMCF7およびMB−MDA−231を、それぞれ10%FBS(fetal bovine serum、Gibco BRL、米国)、ペニシリン100Unit/mL、ストレプトマイシン100μg/mLを含むDMEM培地(WelGENE、韓国)を用いて湿式雰囲気下に37℃、5%CO培養器で培養した。
【0063】
(3)肺癌細胞株としてのA549を、10%FBS(fetal bovine serum、Gibco BRL、米国)、ペニシリン100Unit/mL、ストレプトマイシン100μg/mLを含むRPMI1640培地(WelGENE、韓国)を用いて湿式雰囲気下に37℃、5%CO培養器で培養した。
【0064】
<1−2>放射線耐性細胞クローンの確立
放射線耐性細胞クローンを確立するために、神経膠腫細胞である多形性膠芽腫(GBM)U251細胞株を用いて、これらに放射線を照射して生存するコロニーを選択してクローンを分離した。具体的に、U251細胞株に対して、70〜80%コロニー到達の際に常温で137Csガンマ線源からGammace11 Elite機械(線量率:3Gy/min)を用いて3日間隔で3Gyずつ放射線を照射した。3日間隔で3Gyずつ放射線を照射して生存する細胞群を収集した後、正しい細胞培養皿に一定数の細胞を培養する実験を6ヶ月まで繰返し行って放射線耐性細胞株を分離し、これをRRC7と命名した。
【0065】
<1−3>腫瘍細胞株および放射線耐性細胞クローン(RRC7)のマイクロRNA−21発現量の比較
マイクロRNA−21の発現水準が放射線耐性および抵抗性と関連性を持つかを調べるために、放射線耐性細胞クローン(RRC7)と脳腫瘍細胞株におけるmicroRNA−21の発現量を実時間重合連鎖反応(real-time PCR)によって調べた。
【0066】
また、脳腫瘍細胞は正常細胞と比較してマイクロRNA−21の発現水準が異なるかを確認するために、正常細胞の星状膠細胞(astrocyte)および脳腫瘍細胞株U87、U373およびLN18のマイクロRNA−21発現量を実時間重合連鎖反応法(real-time PCR)によって調べた。
【0067】
具体的に、6ウェルプレートに細胞が70〜80%のコロニーをなしたとき、細胞培養培地を除去した後、細胞をDBPSで2回洗浄した。洗浄した後、細胞にTRI試薬(Invitrogen、米国)を処理して全RNAを分離した。全RNAを分離する方法は次のとおりである。TRI試薬1mLを処置した後、核タンパク質複合体から全RNAを溶出するために常温で5分間放置した。放置の後、TRI試薬1mL当り0.2mLのクロロホルムを添加した後、15秒間手で激しく振とうした後、常温で3分間放置した。遠心分離器を用いて4℃、12000×gの条件で15分間遠心分離して全RNA層を収穫した。収穫された全RNA層にイソプロパノール0.5mLを処置して混ぜ、4℃、12000×gの条件で10分間遠心分離して全RNAペレットを得た後、75%EtOHで洗浄した。75%EtOHを除去した後、常温でペレットを乾燥させ、しかる後に、DEPC−HOでペレットを溶かした。全RNAの溶出量(amount)と質(quality)は分光光度計(spectrophotometer)を用いて測定した。溶出した全RNAをμL当り25ngの濃度に希釈して実時間重合連鎖反応を行った。実時間重合連鎖反応は、mirVanaTMqRT−PCR miRNA Detection Kit(Ambion、米国)を用いて成熟microRNA−21(mature microRNA-2)の発現量を測定した。95℃で10分間変性した後、実時間重合連鎖反応(PCR)を95℃で15秒、60℃で60秒を1サイクルとして40サイクル行った。実時間重合連鎖反応はABI7500実時間PCR機械を用いてモニタリングした。
【0068】
その結果、microRNA−21の発現水準は、放射線耐性細胞クローンRRC7の場合、親細胞株U251より1.6培増加していることを確認した(図1a)。脳腫瘍細胞株の場合、正常細胞の星状膠細胞と比較したとき、U87とU373はそれぞれ1.5培、4.5培過発現していることを確認した。これに対し、LN18細胞株の場合、マイクロRNA−21の発現量が0.3倍減少していることを確認した(図1b)。
【0069】
(実施例2:マイクロRNA−21の発現量による放射線抵抗性の確認)
マイクロRNA−21の発現量による放射線抵抗性との連関性を証明するために、放射線耐性細胞株RRC7と脳腫瘍細胞株U251、U373、U87およびLN18細胞でクローン形成法(clonogenic assay)を用いて放射線抵抗性を測定した。
【0070】
また、マイクロRNA−21発現量の高い乳癌細胞株、肺癌細胞株、および子宮癌細胞株においても放射線抵抗性を測定した。
【0071】
具体的なクローン形成法は次のとおりである。放射線耐性細胞株RRC7、脳腫瘍細胞U251、U373、U87およびLN18、乳癌細胞MCF−7およびMB−MDA−231、肺癌細胞株A549、子宮癌細胞HeLa細胞を対数期(log-phase)で収穫して新しい細胞培養培地に浮遊させた。浮遊の後、60mmの細胞培養皿にそれぞれの群別にトリプリケート(triplicate)で100個の細胞を接種した。接種24時間後に放射線を照射した。U373、U87、LN18(脳腫瘍細胞株)、MCF−7およびMB−MDA−231(乳癌細胞株)、A549(肺癌細胞株)、HeLa(子宮癌細胞株)の場合、放射線は0Gy(対照群)、2Gy、4Gyおよび8Gy(実験群)に分けて照射し、放射線耐性細胞クローンRRC7とU251は0Gy(対照群)、3Gy、6Gyおよび9Gy(実験群)に分けて照射した。放射線照射の後、2日毎に新しい細胞培養培地で代替して2週間培養した。コロニー(colony)確認のために、Diff−quik solution(Sysmex、日本)を用いて細胞を染色し、50個以上の細胞からなるコロニーを計数した。
【0072】
その結果、細胞の内在的マイクロRNA−21の発現水準が高い場合、放射線に対して抵抗性も高いことを確認した。放射線に耐性がある細胞クローンRRC7の場合、クローン形成法で、U251脳腫瘍細胞株より放射性抵抗性が高いことを確認した(図2a)。
【0073】
また、脳腫瘍細胞株のうち、マイクロRNA−21の発現水準が高い細胞株U373とU87の場合、マイクロRNA−21の発現水準が低い細胞株LN−18細胞株に比べて、放射線に対して抵抗性が高いことを確認した(図2b)。また、多様な細胞株HeLa、A549およびMCF7細胞も、マイクロRNA−21の発現水準が高い脳腫瘍細胞株U373およびU87と同様の水準に放射線に対して抵抗性が高いことを確認した(図2b)。
【0074】
前記実験によって、microRNA−21の発現量が放射線抵抗性と密接な相関関係があることを確認した。
【0075】
(実施例3:マイクロRNA−21に対するアンチオリゴヌクレオチドを用いた細胞周期G2/M区間のアレスト増進効果の確認)
脳腫瘍細胞株のうち、microRNA−21の発現量が高いU373細胞でmicroRNA−21の機能を抑制することにより、細胞周期をアレストするかを確認するために、anti−microRNA−21と放射線を用いて細胞周期を測定した。
【0076】
microRNA−21の活性を抑制するために、microRNA−21の塩基配列に相補的な塩基配列を有するanti−microRNA−21とanti−microRNA−negative control(Dharmacon、米国)細胞に形質導入した。形質導入は、Cell Line Nucleofector kit T solution(Amaxa、米国)を用いたエレクトロポレーションによって行われた。
【0077】
具体的な実験方法は次のとおりである。15mLの円錐管(conical tube)に分注して1000rpmで5分間遠心分離して細胞を集めた。こうして集められた細胞は、DPBSを用いて2回洗浄した後、90×gで10分間遠心分離して収穫した。収穫した細胞を、濃度100nMのanti−microRNA−21を含む100μLのT solutionに浮遊させ、よく混ぜた後、Amaxa electroporatorを用いてエレクトロポレーションした。その後、直ちに10%FBS入りのDMEM倍地1mLに混ぜた後、37℃で10%FBS入りのDMEM培地で細胞個数が2×10となるように希釈して、各群毎に、37℃の細胞培養培地が添加されている60mm細胞培養皿に細胞をトリプリケート(triplicate)で接種した。対照群と実験群は細胞培養器に移され、24時間培養された後、次の実験に使用された。
【0078】
細胞周期を測定するための具体的な実験方法は次のとおりである。24時間培養した後、放射線量8Gyを照射した。8Gy照射の後、さらに対照群(0Gy)と実験群は細胞培養器に移されて24時間培養された後、次の実験に使用された。15mLの円錐管(conical tube)に分注して1000rpmで5分間遠心分離して細胞を集めた。こうして集めた細胞は、DPBSを用いて2回洗浄した後、500μLのice cold DPBSに浮遊させた。浮遊した細胞を4.5mLのice cold70%EtOHに添加した後、振とうして混合した。細胞を固定するために、4℃の冷蔵庫に16時間放置した。放置の後、4℃、1500rpm、15分間細胞を遠心分離してice cold DPBSで2回洗浄した後、PI solution(ヨウ化プロピジウム100μg/mL、Dnase−free RNase20μg/mL、0.1% Triton X−100)1mLに浮遊させて37℃の恒温器に15分放置した。放置の後、4℃、1500rpm、15分間細胞を遠心分離して1mLのice cold DPBSに浮遊した。浮遊してFACSチューブに細胞を移した後、FACS Calibur(BD science、米国)を用いて細胞周期を測定した。
【0079】
その結果、U373細胞株の内在的microRNA−21の機能をanti−microRNA−21を用いて抑制した後、放射線を照射した結果、anti−microRNA−21を処理した実験群が、anti−microRNA−negative controlを形質導入した対照群に比べて放射線による細胞周期G2/Mのアレストを増進させることを確認することができた(図3)。
【0080】
(実施例4:マイクロRNA−21に対するアンチオリゴヌクレオチドを用いた放射線敏感性増進効果の確認)
脳腫瘍細胞株のうち、microRNA−21の発現量が高いU373とU87細胞でmicroRNA−21の機能を抑制することにより、放射線の敏感性増進効果を持つかを確認するために、anti−microRNA−21と放射線で用いて放射線抵抗性を測定した。
【0081】
microRNA−21の活性を抑制するために、microRNA−21の塩基配列に相補的な塩基配列を有するanti−microRNA−21とanti−microRNA−negative control(Dharmacon、米国)細胞に形質導入した。形質導入は、Cell Line Nucleofector kit T solution(Amaxa、米国)を用いたエレクトロポレーションにより行われた。
【0082】
具体的な実験方法は次のとおりである。15mLの円錐管(conical tube)に分注して1000rpmで5分間遠心分離して細胞を集めた。こうして集めた細胞は、DPBSを用いて2回洗浄した後、90×gで10分間遠心分離して収穫した。収穫した細胞を濃度100nMのanti−microRNA−21を含む100μLのT solutionに浮遊させ、よく混ぜた後、Amaxa electroporatorを用いてエレクトロポレーションした。その後、直ちに10%FBS入りのDMEM倍地1mLに混ぜた後、37℃で10%FBS入りのDMEM培地で細胞個数が2×10となるように希釈し、各群毎に、37℃の細胞培養培地が添加されている60mmの細胞培養皿に細胞をトリプリケート(triplicate)で接種した。対照群と実験群は細胞培養器に移されて24時間培養された後、次の実験に使用された。
【0083】
U373およびU87細胞にanti−microRNA−21とanti−microRNA−negative controlを形質導入した後、放射線を0Gy、1Gy、2Gyおよび4Gyに分けて照射し、しかる後に、2日毎に新しい細胞培養培地で代替して2週間培養した。コロニー(colony)の確認のためにDiff−quik solution(Sysmex、日本)を用いて細胞を染色し、50個以上の細胞からなるコロニーを計数した。
【0084】
その結果、U87とU373細胞株の内在的microRNA−21の活性をanti−microRNA−21を用いて抑制した後、放射線を照射した結果、anti−microRNA−21を処理した実験群が、anti−microRNA−negative controlを形質導入した対照群に比べて放射線敏感性が増進したことを確認することができた(図4aおよび図4b)。
【0085】
前記実験によって、microRNA−21が放射線抵抗性と密接な相関関係を持つことを確認し、anti−microRNA−21を用いて放射線敏感性を増進させることができることを確認した。
【0086】
(産業上の利用可能性)
上述したように、本発明に係るマイクロRNA−21阻害剤、特にマイクロRNA−21に相補的に結合するアンチセンス核酸分子は、癌細胞の放射線敏感性を増進させることができ、細胞毒性などの副作用が殆どない。
【0087】
よって、本発明に係るマイクロRNA−21阻害剤を含む放射線敏感性増進用組成物は、マイクロRNA−21の発現水準が高くて放射線抵抗性が増大した癌を治療のための放射線治療増進剤の開発に効率的に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】(a)は、放射線耐性細胞クローンRRC7、RRC7の親細胞株U251、およびmicroRNA−21の発現量を測定したグラフであり、(b)は、脳腫瘍細胞株U87、U373、およびLN18のmicroRNA−21の発現量を測定したグラフである。
【図2】(a)は、放射線耐性細胞cloneRRC7とRRC7の親細胞株U251における、放射線線量による放射線に対する生存率を測定したグラフであり、(b)は、U373、U87、LN18(脳腫瘍細胞株)、MCF−7およびMB−MDA−231(乳癌細胞株)、A549(肺癌細胞株)、HeLa(子宮癌細胞株)における、放射線線量による放射線に対する生存率を測定したグラフである。
【図3】anti−microRNA−21の放射線による細胞周期G2/M区間のアレスト増進効果を示すグラフである。
【図4】(a)および(b)は、本発明のanti−microRNA−21の放射線敏感性増進効果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロRNA−21阻害剤を含む、放射線敏感性増進用組成物。
【請求項2】
前記マイクロRNA−21阻害剤は、マイクロRNA−21の塩基配列に相補的に結合するアンチセンス核酸分子であることを特徴とする、請求項1に記載の放射線敏感性増進用組成物。
【請求項3】
前記マイクロRNA−21阻害剤は、マイクロRNA−21に特異的なsiRNA、RNAアプタマーまたはリボザイムよりなる群から選ばれることを特徴とする、請求項1に記載の放射線敏感性増進用組成物。
【請求項4】
前記アンチセンス核酸分子はアンチオリゴヌクレオチドであることを特徴とする、請求項2に記載の放射線敏感性増進用組成物。
【請求項5】
前記アンチオリゴヌクレオチドの長さは15〜40ヌクレオチドであることを特徴とする、請求項4に記載の放射線敏感性増進用組成物。
【請求項6】
前記アンチオリゴヌクレオチドは配列番号1に示される塩基配列を有することを特徴とする、請求項4に記載の放射線敏感性増進用組成物。
【請求項7】
マイクロRNA−21の発現程度が高い状態の癌細胞の放射線敏感性を増進させることに適した、請求項1に記載の放射線敏感性増進用組成物。
【請求項8】
前記癌は、神経膠腫、乳癌、肺癌、大腸癌、前立腺癌、膵臓癌、子宮癌、胃癌、および慢性リンパ球白血病よりなる群から選ばれることを特徴とする、請求項7に記載の放射線敏感性増進用組成物。
【請求項9】
前記マイクロRNA−21阻害剤は細胞周期調節活性を有することを特徴とする、請求項1に記載の放射線敏感性増進用組成物。
【請求項10】
前記アンチオリゴヌクレオチドは細胞内伝達のための発現ベクターに含まれることを特徴とする、請求項4〜6のいずれか1項に記載の放射線敏感性増進用組成物。
【請求項11】
前記発現ベクターは、レンチウイルス(lentivirus)、レトロウイルス(retrovirus)、アデノウイルス(adenovirus)、ヘルペスウイルス(herpes virus)、およびアビポックスウイルス(avipox virus)よりなる群から選ばれるウイルスに由来するウイルスベクターであることを特徴とする、請求項10に記載の放射線敏感性増進用組成物。
【請求項12】
薬学的に許容可能な担体をさらに含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の放射線敏感性増進用組成物。
【請求項13】
請求項1〜4のいずれか1項の組成物を用いて、マイクロRNA−21の発現程度が高い状態の癌細胞の放射線敏感性を増進させる方法。
【請求項14】
請求項1〜4のいずれか1項の組成物を投与する段階を含む、癌治療のための放射線治療法。
【請求項15】
前記癌は、神経膠腫、乳癌、肺癌、大腸癌、前立腺癌、膵臓癌、子宮癌、胃癌、および慢性リンパ球白血病よりなる群から選ばれることを特徴とする、請求項14に記載の放射線治療法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−534249(P2010−534249A)
【公表日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−521766(P2010−521766)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【国際出願番号】PCT/KR2008/004431
【国際公開番号】WO2010/010980
【国際公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(507151124)ナショナル キャンサー センター (9)
【Fターム(参考)】