説明

マイコバクテリアの殺菌又はその増殖の阻害のための方法

本発明は、マイコバクテリア(Mycobacteria)と、ハロペルオキシダーゼ、過酸化水素、塩化物イオン及び/又は臭化物イオン、及びアンモニウムイオンとを接触することにより、マイコバクテリアを殺菌するか又はその増殖を阻害するための方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、マイコバクテリアを殺菌するか又はその増殖を阻害し、そして医療用装置及び用具を減菌するか又は殺菌するための酵素方法に関する。
【背景技術】
【0002】
病原性細菌のほとんどの栄養細胞は、70℃で数分以内に殺菌されるか又は不活性化されるが;しかしながら、いくつかの病原性細胞、例えばほとんどのマイコバクテリア(Mycobacteria)は、不活性化するのにより一層困難である。熱処理に代わるものとして、減菌はまた、化学処理、例えばグルタルアルデヒド処理又は過酢酸処理により達成され得る。しかしながら、多くの近代医療用装置、例えば内視鏡及び麻酔用具は、種々の感受性材料及び/又は電子器具の複雑化された組合せを包含する。
【0003】
そのような医療用装置はしばしば、高温及び化学処理に対して敏感であり、そしてしばしば、上記タイプの減菌段階に反復して暴露される場合、低められた実用寿命を有する。従って、マイコバクテリア不活性化能力を維持しながら、より低い温度及び穏やかな条件を用いる、医療用装置の減菌方法を使用することが所望される。
本発明は、従来の方法よりも敏感な医療用装置に対してより穏やかである、マイコバクテリアを殺菌するか又はその増殖を阻害するための改良された方法を提供する。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、ハロペルオキシダーゼ、過酸化水素源、塩化物イオン及び/又は臭化物イオン、及びアンモニウムイオンと、マイコバクテリアとを接触することを含んで成る、マイコバクテリアを殺菌するか又はその増殖を阻害するための方法を提供する。
【0005】
詳細な説明
ハロペルオキシダーゼ及びハロペルオキシダーゼ活性を示す化合物
本発明の方法に組込むために適切なハロペルオキシダーゼは、クロロペルオキシダーゼ、ブロモペルオキシダーゼ、及びクロロペルオキシダーゼ又はブロモペルオキシダーゼ活性を示す化合物を包含する。ハロペルオキシダーゼは、過酸化水素又は過酸化水素発生システムの存在下でハロゲン化物(Cl-、Br-、I-)を、その対応する次亜ハロゲン酸に酸化することができる種類の酵素を形成する。
【0006】
ハロペルオキシダーゼは、ハロゲン化物イオンに対するそれらの特異性に従って分類される。クロロペルオキシダーゼ(E.C.1.11.1.10)は、塩化物イオンからの次亜塩素酸塩、臭化物イオンからの次亜臭素酸塩、及びヨウ化物イオンからの次亜要素酸塩の形成を触媒し;ブロモペルオキシダーゼは、臭化物イオンからの次亜臭素酸塩、及びヨウ化物イオンからの次亜ヨウ素酸塩の形成を触媒する。しかしながら、次亜ヨウ素酸塩は、ヨウ素への自発的不定化を受け、そして従って、ヨウ素は観察される生成物である。続いて、それらの次亜ハロゲン化物化合物は、ハロゲン化された化合物を形成する他の化合物と反応することができる。
【0007】
好ましい態様においては、本発明のハロペルオキシダーゼはクロロペルオキシダーゼである。
ハロペルオキシダーゼは、種々の生物、すなわち哺乳類、海洋動物、植物、藻類、地衣類、菌類及び細菌から単離されて来た。ハロオキシダーゼは、他の酵素も包含され得るが、天然においてハロゲン化された化合物の形成を担当する酵素であることが一般的に許容されている。
【0008】
ハロペルオキシダーゼは、多くの異なった菌類、特に菌類グループ暗色線菌科、例えばC. フマゴ(C. fumago)、アルタネリア(Alternaria)、クルブラリア(Curvularia)、例えばC. バルキュロサ(C. Verruculosa)及びC. イネクアリス(C. inequalis)、ドレキスレラ(Drechslera)、ウロクラジウム(Ulocladium)及びポトリチス属(Botrytis)から単離されて来た。
【0009】
ハロペルオキシダーゼはまた、細菌、例えばシュードモナス(Pseudomonas)、例えばP.ピロシニア(P. pyrrocinia)及びストレプトマイセス(Streptomyces)、例えばS. アウレオファシエンス(S. aureofaciens)からも単離されて来た。
【0010】
好ましい態様においては、ハロペルオキシダーゼは、クルブラリアsp., 特にC. ベルキュロサ又はC. イネクアリス、例えばWO95/27046号に記載されるようなC. イネクアリスCBS102.42、例えばWO95/27046号、図2(すべては引用により組込まれる)のDNA配列によりコードされるバナジウムハロオキシダーゼ;又はWO97/04102号に記載されるようなC. ベルキュロサCBS147.63又はC.ベルキュロサCBS444.70に由来するバナジウムハロペルオキシダーゼ(すなわち、バナジウム又はバナジウム塩含有ハロペルオキシダーゼ)である。
【0011】
好ましくは、ハロペルオキシダーゼのアミノ酸配列は、C. ベルキュロサ(例えば、WO97/04102号における配列番号:2を参照のこと;また本出願/配列の列挙において配列番号:1として示される)、又はC. イネクアリス(例えば、WO95/27046号の図2におけるDNA配列によりコードされる成熟アミノ酸配列;また、本出願/配列の列挙において配列番号:2としても示される)から得られるハロペルオキシダーゼのアミノ酸配列に対して少なくとも90%の同一性、好ましくは95%の同一性を有する。
【0012】
もう1つの好ましい態様においては、ハロペルオキシダーゼは、バナジウム含有ハロペルオキシダーゼ;特にバナジウムオキシダーゼである。バナジウムクロロペルオキシダーゼは、WO01/79459号に記載されるようなドレキスレラ・ハルトレビ(Drechslera hartlebii)、WO01/79458号に記載されるようなデンドリフィエラ・サリナ(Dendryphiella salina)、WO01/79461号に記載されるようなファエオトリココニス・クロタラリエ(Phaeotrichoconis crotalarie)、又はWO01/79460号に記載されるようなゲニキュロスポリウムsp. (Geniculosporium sp.)から誘導することができる。バナジウムハロペルオキシダーゼは、より好ましくは、ドレキスレラ・ハルトレビ(DSM 13444)、デンドリフィエラ・サリナ(DSM13443)、ファエオトリココニス・クロタラリエ(DSM 13441)又はゲニキュロスポリウムsp. (DSM 13442)から誘導することができる。
【0013】
ハロペルオキシダーゼの濃度は典型的には、0.01〜100ppm、好ましくは0.05〜50ppm、より好ましくは1〜40ppm、より好ましくは0.1〜20ppm及び最も好ましくは0.5〜10ppmの範囲の酵素タンパク質である。
1つの態様においては、ハロペルオキシダーゼの濃度は典型的には、5〜50ppm、好ましくは5〜40ppm、より好ましくは8〜32ppmの範囲の酵素タンパク質である。
【0014】
ハロペルオキシダーゼ活性の決定
ハロペルオキシダーゼ活性を決定するためのアッセイは、100μlのハロペルオキシダーゼサンプル(約0.2μl/ml)及び100μlの0.3Mのリン酸ナトリウム(pH7)緩衝液−0.5Mの臭酸カリウム−0.008%のフェノールレッドを混合し、その溶液を、10μlの0.3%H2O2に添加し、そして時間の関数として595nmでの吸光度を測定することにより実施され得る。
【0015】
基質としてモノクロロジメドン(Sigma M4632、290 nmでのε = 20000 M-1cm-1)を用いてのもう1つのアッセイを、時間の関数として290nmの吸光度の低下を測定することにより実施することができる。このアッセイは、0.1Mのリン酸ナトリウム又は0.1Mの酢酸ナトリウム、50μMのモノクロロジメドン、10mMのKBr/KCl、1mMのH2O2及び約1μg/mlのハロペルオキシダーゼの水溶液において行われる。1ハロペルオキシダーゼ単位(HU)は、pH5及び30℃で1分当たり塩素化されるか又は臭素化される1μモルのモノクロロジメドンとして定義される。
【0016】
過酸化水素
ハロペルオキシダーゼにより必要とされる過酸化水素は、過酸化水素、又は過酸化水素の現場生成のための過酸化水素前駆体の水溶液として供給され得る。溶解に基づいて、ハロペルオキシダーゼにより使用できる過酸化物を生成するいずれかの固体実在物が、過酸化水素の源として作用することができる。水又は適切な水性基材の媒体への溶解に基づいて過酸化水素を生成する化合物は、金属過酸化物、過炭酸塩、過流酸塩、過リン酸塩、ペルオキシ酸、アルキル過酸化物、アシル過酸化物、ペルオキシエステル、尿素過酸化物、過ホウ酸塩及びペルオキシカルボン酸又はそれらの塩を包含するが、但しそれらだけには限定されない。
【0017】
過酸化水素のもう1つの源は、過酸化水素発生性酵素システム、例えばオキシダーゼのための基質と共にオキシダーゼである。オキシダーゼ及び基質の組合せの例は、アミノ酸オキシダーゼ(例えば、アメリカ特許第6,248,575号を参照のこと)及び適切なアミノ酸、グルコースオキシダーゼ(例えば、WO95/29996号を参照のこと)及びグルコース、ラクテートオキシダーゼ及びラクテート、ガラクトースオキシダーゼ(例えば、WO00/50606号を参照のこと)及びガラクトース、及びアルドースオキシダーゼ(例えば、WO99/31990号を参照のこと)及び適切なアルドースを含んで成るが、但しそれらだけには限定されない。
【0018】
EC 1.1.3._、EC 1.2.3._、EC 1.4.3._及びEC 1.5.3._又は類似するクラス(生化学の国際協会下の)を研究することにより、オキシダーゼ及び基質のそのような組合せの他の例は、当業者により容易に認識される。
【0019】
過酸化水素又は過酸化水素の源は、例えば典型的には、0.001mM〜25mMのレベル、好ましくは0.005mM〜5mMのレベル、及び特に0.01mM〜1mMのレベルの過酸化水素に対応する量で、その工程の開始で又はその間、添加され得る。過酸化水素はまた、0.1mM〜25mMのレベル、好ましくは0.5mM〜15mMのレベル、より好ましくは1mM〜10mMのレベル、及び最も好ましくは2mM〜8mMのレベルの過酸化水素に対応する量でも使用され得る。
【0020】
塩化物及び臭化物イオン
本発明によれば、ハロペルオキシダーゼとの反応のために必要とされる塩化物及び/又は臭化物イオン(Cl-及び/又はBr-)は、多くの異なった手段、例えば塩化物及び/又は臭化物の塩を添加することにより供給され得る。好ましい態様においては、塩化物及び臭化物の塩は、塩化ナトリウム(NaCl)、臭化ナトリウム(NaBr)、塩化カリウム(KCl)、臭化カリウム(KBr)、塩化アンモニウム(NH4Cl)又は臭化アンモニウム(NH4Br);又はそれらの混合物である。
【0021】
1つの態様においては、塩化物及び/又は臭化物イオンは、塩化物イオン(Cl-)又は臭化物イオン(Br-)のみに制限される。もう1つの態様においては、塩化物及び/又は臭化物イオンは、塩化物イオン(Cl-)及び臭化物イオン(Br-)のみに制限される。塩化物の塩は、塩化ナトリウム、塩化カリウム又は塩化アンモニウム;又はその混合物であり得る。臭化物イオンは、水溶液に臭化物の塩を添加することにより供給され得る。臭化物の塩は、臭化ナトリウム、臭化カリウム又は臭化アンモニウム;又はその混合物であり得る。
【0022】
塩化物及び臭化物イオンの個々の濃度は典型的には、0.01mM〜1000mM、好ましくは0.05mM〜500mM、より好ましくは0.1mM〜100mM、最も好ましくは0.1mM〜50mM、及び特に1mM〜25mMの範囲にある。塩化物イオンの濃度は、臭化物イオンの濃度に無関係であり;そして逆もまた同様である。
【0023】
1つの態様においては、塩化物及び臭化物イオンの個々のモル濃度は、アンモニウムイオンの濃度よりも、少なくとも2倍高く、好ましくは少なくとも4倍高く、より好ましくは少なくとも6倍高く、最も好ましくは少なくとも8倍高く、そして特に少なくとも10倍高い。
【0024】
アンモニウムイオン
本発明の方法に従ってマイコバクテリアを殺菌するか又はその増殖を阻害するのに必要とされるアンモニウムイオン(NH4+)は、多くの異なった手段で、例えばアンモニウム塩を添加することにより供給され得る。好ましい態様においては、アンモニウム塩は、硫酸アンモニウム((NH4)2SO4)、炭酸アンモニウム((NH4)2CO3)、塩化アンモニウム(NH4Cl)、臭化アンモニウム(NH4Br)又はヨウ化アンモニウム(NH4I);又はその混合物である。
【0025】
アンモニウムイオンの濃度は典型的には、0.01mM〜1000mM、好ましくは0.05mM〜500mM、より好ましくは0.1mM〜100mM、最も好ましくは0.1mM〜50mM、及び特に1mM〜25mMの範囲にある。
【0026】
マイコバクテリア
本発明に従って、ハロペルオキシダーゼ、過酸化水素、塩化物イオン及び/又は臭化物イオン、及びアンモニウムイオンにより殺菌されるか又は不活性化されるマイコバクテリアは、いずれかのマイコバクテリウムsp.,例えばマイコバクテリウム・ツベルクローシスコンプレックス(Mycobacterium tuberculosis complex)(MTBC)からの種であり得る。
【0027】
1つの態様においては、本発明のマイコバクテリウムは、結核を引起すことができる。
もう1つの態様においては、マイコバクテリアは、M. ツベルクローシス(M. tuberculosis)、M.ボビス(M. bovis)、M. ボビスBCG、M. アフリカナム(M. africanum)、M. ミクロチ(M. microti)、M. カネチ(M. canetti)、M. カプラエ(M. caprae)及びM. ピンニペジ(M. pinnipedii)から成る群から選択される。
【0028】
好ましい態様においては、本発明のマイコバクテリアは、マイコバクテリウム・ツベルクローシス又はマイコバクテリウム・ボビス細胞である。
【0029】
界面活性剤
本発明の方法は、界面活性剤(例えば、洗剤配合物の一部として又は湿潤剤として)の適用を包含することができる。適用されるための適切な界面活性剤は、非イオン性(半極性も包含する)、アニオン性、カチオン性及び/又は双性イオン性であり得;好ましくは、界面活性剤は、アニオン性(例えば、線状アルキルベンゼンスルホネート、α−オレフィンスルホネート、アルキルスルフェート(脂肪アルコールスルフェート)、アルコールエトキシスルフェート、二次アルカンスルホネート、α−スルホ脂肪酸メチルエステル、アルキル−又はアルケニル琥珀酸又は石鹸)、又は非イオン性(例えば、アルコールエトキシレート、ノニルフェノールエトキシレート、アルキルポリグリコシド、アルキルジメチルアミンオキシド、エトキシル化された脂肪酸モノエタノールアミド、脂肪酸モノエタノールアミド、ポリヒドロキシアルキル脂肪酸アミド、又はグルコサミンのN−アシルN−アルキル誘導体(“グルカミド”))、又はその混合物である。
【0030】
本発明の方法に包含される場合、界面活性剤の濃度は通常、約0.01%〜約10%、好ましくは約0.05%〜約5%及びより好ましくは、約0.1%〜約1%(重量%)であろう。
【0031】
方法及び使用
第1の観点においては、ハロペルオキシダーゼ、過酸化水素源、塩化物イオン及び/又は臭化物イオン、及びアンモニウムイオンを含む組成物とマイコバクテリアとを接触することを含んで成る、マイコバクテリアを殺菌するか又はその増殖を阻害するための酵素方法を提供する。好ましい態様においては、本発明は、医療用装置又は用具と前記組成物とを接触することを含んで成る、医療用装置又は用具を減菌するか又は殺菌するための方法を提供する。
【0032】
前記組成物は、液体(例えば、水性)又は乾燥製品配合物として配合され得る。乾燥製品配合物は続いて、再水和化され、本発明の方法に使用できる活性液体又は半液体配合物が形成され得る。
組成物が乾燥配合物として配合される場合、その成分は混合され、不連続層に配置されるか、又は別々に包装され得る。
【0033】
第2の観点においては、本発明はまた、本発明の方法の適用に起因する組成物も包含する。この場合、組成物は、ハロペルオキシダーゼ、過酸化水素、塩化物イオン及び/又は臭化物イオン、アンモニウムイオン、マイコバクテリア、及び医療用装置又は用具を包含する。
【0034】
本発明においては、用語“マイコバクテリアの殺菌又はその増殖の阻害”とは、マイコバクテリアの少なくとも99%が、処理の後、生存できないことを意味する。好ましくは、マイコバクテリアの99.9%、より好ましくは99.99%、最も好ましくは99.999%及び特に99.9999%が生存できない。
【0035】
1つの態様においては、用語“減菌する”又は“減菌”とは、"Content and Format of Premarket Notification [510(k)] Submissions for Liquid Chemical Sterilants/High Level Disinfectants", U.S. Food and Drug Administration, Jan. 2000に従っての高レベル減菌を言及する。
【0036】
本発明の方法は、0〜70℃、好ましくは5〜60℃、より好ましくは10〜60℃、さらにより好ましくは、15〜60℃、さらにより好ましくは20〜60℃、最も好ましくは20〜50℃、及び特に20〜40℃で実施され得る。
【0037】
本発明の方法は、10分〜(少なくとも)4時間、好ましくは15分〜(少なくとも)3時間、より好ましくは20分〜(少なくとも)2時間、最も好ましくは20分〜(少なくとも)1時間、及び特に30分〜(少なくとも)1時間の処理時間を用いることができる。
【0038】
本発明の方法は、種々の環境下でマイコバクテリアを殺菌するか又はその増殖を阻害するために適切である。本発明の方法は所望には、マイコバクテリアにより引起される減染の危険性を低めるためにいずれかの環境、例えば保健産業(例えば、動物病院、人間用病院、動物診療所、人間用診療所、歯科病院、養護ホーム、子供又は老人用デイケア施設、等)、食品産業(例えば、レストラン、食品加工プラント、食品貯蔵プラント、食料品店、等)、接客産業(例えば、ホテル、モーテル、リゾート、クルーズ船、等)、教育産業(例えば、学校及び大学)、等において使用され得る。
【0039】
本発明の方法により使用される比較的低い温度のために、それらは、医薬産業に使用される用具、例えば医療用装置(例えば、乾燥手術用具、麻酔用具、深い容器、等)を減菌するか、又は殺菌するために非常に有用である。減菌されるか又は殺菌された用具は、低められた変形及び磨耗を示し、そして用具は、減菌の後、実質的にすぐに容易に使用することができる。これは、複雑な又は熱感受性医療用装置、例えば異なった材料を含んで成る超音波トランスデューサー及び内視鏡を減菌するか又は殺菌する場合、特に好都合であり、なぜならば、それらの装置の磨耗が有意に低められ、それらのしばしば非常に高価な装置の長い実用寿命をもたらし、それらの運転費用を効果的に減じる。実際、さらに他の非医療用タイプの用具、例えば再使用できる衛生用品が、本発明の使用により効果的に減菌されるか又は殺菌され得る。
【0040】
好ましい態様においては、医療用装置及び/又は非医療用タイプの用具の減菌又は殺菌は、本発明の方法を用いて、ENISO 15883-1に従っての(医療用)ウォッシャー−消毒器において(又は、"Class Il Special Controls Guidance Document: Medical Washers and Medical Washer-Disinfectors; Guidance for the Medical Device Industry and FDA Review Staff", U.S. Food and Drug Administration, Feb. 2002に記載のようにして)、実施される。
【0041】
本発明はさらに、次の例により記載されるが、但しそれらは本発明の範囲を制限するものではない。
【実施例】
【0042】
緩衝液及び基質として使用される化学薬品は、少なくとも試薬グレードの市販の製品であった。
例1:クルブラリア・ベルキュロサからのハロペルオキシダーゼによるマイコバクテリウム・ボビスの殺菌
このアッセイの目的は、以下のAOAC結核菌撲滅活性であるマイコバクテリウム・ボビス−BCGに対する生成物の結核菌撲滅有効性を評価することであった。
材料
試験生物:マイコバクテリウム・ボビス−BCG;Organon Teknika, Durham, USA.から得られた。
増殖培地:変性Proskouer-Beck培地(MPB)
回収培地
中和剤:Letheenブイヨン+1.0%チオ硫酸ナトリウム+0.01%カタラーゼ
サブカルチャー培地:変性Proskauer-Beck培地(MPB)
Middlebrook 7H9ブイヨン(7H9)
寒天プレート:Middlebrook 7H11寒天
【0043】
キャリヤー
磁器性ペニシリンダー(O. D. 8 mm ±1 、I. D. 6 mm ±1、長さ 10 mm ±1)を、1〜5%のTriton X-100により洗浄し、そして水により少なくとも4度、石鹸残留物が存在しなくなるまで、水によりすすいだ。洗浄に続いて、キャリヤーを欠片及び亀裂について巨視的に調べた。眼に見える欠片又は亀裂を有するキャリヤーを捨てた。キャリヤーを容器に配置し、そして180℃の空気オーブンにおいて2時間、殺菌した。
【0044】
試験方法
試験物質の調製;
合計体積10.0mlの試験物質を、個々の25×150mmのモートン密閉管において、次のものを混合することにより調製した:
9.9 mLの溶液 A (125 μLの40O mM NaCl、250 μLの200 mM NH4Cl、50 μLの1000 mM のリン酸緩衝液、0.77 mgのBASF LF 900、4475 μLの MiIIiQ 水及び5000 μL 40°dH H2O)、5 mMの NaCl、5 mM のNH4Cl、5 mM のリン酸緩衝液及び 0.077 g/lの BASF LF 900の最終濃度をもたらす;
【0045】
0.05 mLの溶液B (50 μL の 1600 ppmのクルブラリア・ベルキュロサからの ハロペルオキシダーゼ(WO 97/04102号における配列番号:2を参照のこと)) 、8 ppmの 酵素の最終濃度をもたらす; 及び
0.05 mLの溶液C (50 μL の1600 mM H2O2) 、8 mMの H2O2の最終濃度をもたらす。
次に、管を40.0℃の水浴に置き、22分間、平衡化した。試験は二重反復して実施された。試験物質は、目視観察により決定される場合、均質であり、そして調製の1時間以内に使用された。
【0046】
試験生物の調製
試験生物マイコバクテリウム・ボビス−BCGの保存培養物を、7H11寒天培地上で維持した。この保存培養物から、生物を変性Proskauer-Beckブイヨン中に移し、そして35〜37℃で22日間インキュベートした。インキュベーションに続いて、塩溶液中、0.1%のポリソルベート80の1.00mlのアリコートを、前記懸濁液に添加した。その培養物ブイヨンを無菌組織グラインダーに移し、そして十分に粉砕した。この懸濁液を、キャリヤー汚染の前、10.0mlの変性Proskauer−Beck増殖培地に希釈した。懸濁液の最終%透過率は、650nmに修正された分光計を用いて、9.78%のTで存在することが決定された。
【0047】
キャリヤーの汚染
ペニシリンダーを、1.0mlの培養物当たり1つのキャリヤーの比率で、粉砕された培養物に15分間、浸した。次に、キャリヤーを、35〜37℃で30分間、40%の相対的室温で無菌ペトリ皿におけるフィルター紙上で乾燥した。乾燥条件(温度及び湿度)は、乾燥に続く最大の生存性を得るために試験生物のために適切であった。
【0048】
暴露条件
試験物質の実施当たり10個のキャリヤーを試験した。個々の汚染され、そして乾燥されたキャリヤーを、40.0℃で15分の暴露時間、その使用希釈度で、10.0mlの試験物質を含む別々の管中に配置した。
【0049】
試験システム回収
個々の薬物処理されたキャリヤーを、10mlの中和剤に互い違いの間隔でワイヤーフックにより移した。次に中和されたキャリヤーを、20mlの変性Proskauer−Beckサブカルチャー培地を含む管に移した。さらに、中和サブカルチャー培地の2.0mlのアリコートを、20mlのMiddlebrook 7H9ブイヨンを用いて、それぞれ継代培養した。
【0050】
インキュベーション
すべてのブイヨンサブカルチャーを、好気性条件下で35〜37℃でインキュベートした。サブカルチャープレートを、プラチック製バックに置き、そして試験の前、35〜37℃で15日間インキュベートした。ブイヨンサブカルチャー管を、30、60及び90日のインキュベーション期間に続いて、増殖について視覚的に試験した。
増殖率(20%以上)を示す代表的サブカルチャーを、AFB蛍光染色を用いて染色し、試験生物を同定した。
【0051】
研究管理
純度管理:
“単離のための画線培養プレート”を、生物培養物に基づいて実施し、そしてインキュベーションに続いて、純粋な培養物の存在を確認するために試験した。この研究管理のための許容基準は、試験生物の典型的なコロニー形態学を示す純粋培養物である。
【0052】
キャリヤー不捻性管理
代表的な無接種キャリヤーを、中和剤に添加した。前記キャリヤーを、前記中和剤から変性Proskauer-Beckに移した。中和剤のアリコート(2.0ml)を、試験方法と一致する態様で、20mlのMiddlebrook 7H9ブイヨン中にそれぞれ継代培養した。そのサブカルチャーブイヨンをインキュベートし、そして増殖について試験した。この研究管理のための許容基準は増殖を欠いている。
【0053】
サブカルチャー培地不稔性管理
変性Proskauer-Beck及びMiddlebrook 7H9ブイヨンの代表的サンプルをインキュベートし、そして視覚的に試験した。許容基準は、増殖を欠いている。
【0054】
中和剤不稔性管理
中和剤のアリコート(2.0ml)を、個々のサブカルチャー培地、変性Proskauer-Beck及びMiddlebrook 7H9ブイヨンの無接種された代表的サンプルに添加し、インキュベートし、そして視覚的に試験した。許容基準は、増殖を欠いている。
【0055】
生存性管理
代表的な接種されたキャリヤーを、中和剤に添加した。次に、キャリヤーを、変性Proskauer−Beckに移した。次に、中和剤のアリコート(2.0ml)を、試験方法に一致した態様でMiddlebrook 7H9ブイヨンに継代培養した。そのサブカルチャーブイヨンをインキュベートし、そして増殖について試験した。この研究管理についての許容基準は、増殖である。
【0056】
中和確認管理
試験物質の中和を、試験物質に無菌キャリヤー(合計数の少なくとも10%の試験キャリヤーを表す)を暴露し、そしてそれらを、10mlの中和剤を含む一次サブカルチャーに移すことにより確かめた。キャリヤーを、試験方法に一致して、変性Proskauer-Beckに継代培養した。次に、中和剤のアリコート(2.0ml)を、試験方法と一致する態様で、対応する数のMiddlebrook 7H9ブイヨンに継代培養した。暴露されたキャリヤー、及び2.0mlのアリコートの中和剤が継代培養されているそれらのキャリヤーを含むサブカルチャーを、低レベルの試験生物により接種し、試験条件下でインキュベートし、そして増殖の存在についての可視的に試験した。この管理を、試験生物の異なった希釈溶液を用いて、複数回、反復して実施した。標準化されたスプレッドプレート方法を、実際添加されるCFUの数を数えるために同時に実施した。この管理結果は、最も適切な希釈溶液からのデータを用いて報告される。
【0057】
この研究管理についての許容基準は、3種のタイプのサブカルチャー培地の少なくとも1つにおける低レベルの試験生物(1000以下のCFU)による接種に続く増殖である。
【0058】
キャリヤー集団管理
汚染されたキャリヤーを、10mlの培地に対して1キャリヤーの比で、変性Proskauer-Beckの無菌容器に移し、そして渦巻き混合した。この懸濁液を連続的に希釈し、そして標準の微生物学技法を用いて、Middlebrook 7H11寒天プレート上に二重反復してプレートした。インキュベーションに続いて、生物プレートを観察し、試験の時点で存在する試験生物の濃度を列挙した。この研究管理のための許容基準は、最少1.0×10-4CFC/キャリヤーである。
【0059】
計算
キャリヤー集団管理計算:
CFU/キャリヤー=(コロニーの平均数/プレート@希釈度)×(希釈因子)×(体積MPB)/(試験されるキャリヤーの数)×(プレートされる体積)
キャリヤー集団を、最も適切な希釈溶液からのデータを用いて計算し、そして報告した。
【0060】
条件
暴露時間:15分
暴露温度:40±2℃(40.0℃)
ハロペルオキシダーゼ濃度:8 ppm (8 mgの 酵素タンパク質/L)及び5 mM のNaCl、5 mMのNH4Cl、5 mMのリン酸緩衝液、0.077 g/L の界面活性剤LF900及び8 mM のH2O2
試験生物:マイコバクテリウム・ボビス−BCG;1.12×105CFU/キャリヤー(15日目に計算された)。
【0061】
結果
試験生物の生存性及び培地の不稔性を、実験の実施の前、確かめた(上記に説明されるように)。
【0062】
【表1】

【0063】
試薬生物の増殖を、インキュベーションの30及び62日後、定性的に観察した。インキュベーションの30日後、増殖は、キャリヤーのいずれにも又は継代培養された培地においても観察されなかった。インキュベーションの62日後、変性Proskauer-Beck培地における2/10(10のうち2つ)のキャリヤーが、増殖を示し、試験生物マイコバクテリウム・ボビス−BCGであることが証明された。継代培養された培地(Middlebrook 7H9ブイヨン)においては、管のいずれも(0/10)、いずれの増殖も示さなかった。ハロペルオキシダーゼ処理は試験生物の増殖を有意に遅延し、そして2/10(80%)のキャリヤーにおいて、増殖が観察されなかった。
【0064】
【表2】

反復試験2においては、キャリヤーが、それぞれ30、52及び90日後、増殖について観察された。インキュベーションの30及び63日後、キャリヤー又は継代培養されたキャリヤーのいずれも、いずれの増殖も示さなかった。インキュベーションの90日後、キャリヤーのいずれも(0/10)、いずれの増殖も示さず、そして継代培養されたキャリヤーの1つ(1/10)が増殖を示し、これはマイコバクテリウム・ボビス−BCGであることが同定された。
【0065】
ハロペルオキシダーゼシステムは、反復試験1は、磁器製ペニシリンダーキャリヤーに結合される試験生物の80%の殺菌効率を示し、そして反復試験2は100%の殺菌効率を示すので、中位の温度(40℃)で、低用量(8ppm)で、短時間(15分)で、試験生物マイコバクテリウム・ボビス−BCGに対して、有意に殺菌効率を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイコバクテリア(Mycobacteria)と、ハロペルオキシダーゼ、過酸化水素、塩化物及び/又は臭化物イオン、及びアンモニウムイオンとを接触することを含んで成る、マイコバクテリアを殺菌するか又はその増殖を阻害するための方法。
【請求項2】
前記ハロペルオキシダーゼが、酵素クラスEC1.11.1.10からのクロロペルオキシダーゼである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ハロペルオキシダーゼが、バナジウム含有ハロペルオキシダーゼである、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記ハロペルオキシダーゼのアミノ酸配列が、クルブラリア・ベルキュロサ(Curvularia verruculosa)(配列番号:1)又はクルブラリア・イネクアリス(Curvularia inequalis)(配列番号:2)のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の同一性、好ましくは95%の同一性を有する、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記塩化物イオン及び/又は臭化物イオンが、塩化物及び/又は臭化物の塩に由来し;好ましくは、前記塩化物及び/又は臭化物の塩は、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、塩化アンモニウム又は臭化アンモニウムを包含する、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記アンモニウムイオンが、アンモニウム塩に由来し;好ましくは、前記アンモニウム塩は、硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム又はヨウ化アンモニウム;又はその混合物である、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記塩化物イオンの濃度がアンモニウムイオンの濃度よりも少なくとも2倍高く;好ましくは、アンモニウムイオンの濃度よりも少なくとも4倍高く、より好ましくは少なくとも6倍高く、最も好ましくは少なくとも8倍高く、そして特に少なくとも10倍高い、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
さらに、マイコバクテリアと界面活性剤とを接触することを含んで成る、請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記マイコバクテリアが、マイコバクテリウム・ツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis)又はマイコバクテリウム・ボビス(Mycobacterium bovis)である、請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
過酸化水素が、過炭酸塩に由来する、請求項1〜9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記マイコバクテリアが、医療用装置又は用具の表面上に位置する、請求項1〜10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
医療用装置又は用具の表面の減菌方法である、請求項1〜11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
マイコバクテリアを殺菌するか又は阻害するためへの、ハロペルオキシダーゼ、過酸化水素、塩化物塩及び/又は臭化物塩、及びアンモニウム塩の使用。
【請求項14】
医療用装置又は用具の減菌又は高レベル減菌のためへの、請求項13記載の使用。
【請求項15】
前記マイコバクテリアが、マイコバクテリウム・ツベルクローシス)又はマイコバクテリウム・ボビスである、請求項13又は14記載の使用。

【公表番号】特表2012−524570(P2012−524570A)
【公表日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−506499(P2012−506499)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際出願番号】PCT/EP2010/055339
【国際公開番号】WO2010/122100
【国際公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(500586299)ノボザイムス アクティーゼルスカブ (164)
【Fターム(参考)】