説明

マクロファージ阻害性サイトカイン(MIC−1)活性を調節するための作用物質及び方法

本発明は、対象の食欲及び/又は体重を調節するための方法及び新規なタイプの作用物質に関する。さらに、本発明は、マクロファージ阻害性サイトカイン−1(MIC−1)の受容体複合体と相互作用しその活性を調節する作用物質のスクリーニング法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象の食欲及び/又は体重を調節するための方法及び新規なタイプの作用物質に関する。さらに、本発明は、マクロファージ阻害性サイトカイン−1(MIC−1、macrophage inhibitory cytokine-1)の受容体複合体と相互作用しその活性を調節する作用物質のスクリーニング法に関する。
【0002】
(参照による組込み)
本特許出願は、以下の優先権を主張する:
− 2007年8月16日に出願された「マクロファージ阻害性サイトカイン−1(MIC−1)活性を調節するための作用物質及び方法。」(Agents and methods for modulating macrophage inhibitory cytokine-1 (MIC-1) activity)という名称の豪州特許第2007904412号明細書。
この出願の全内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
また、以下の特許明細書が、下記の説明において参照されている:
− 国際特許出願第PCT/AU2005/000525号パンフレット(国際公開第2005/099746号パンフレット);及び
− 米国特許第5,225,539号明細書。
これら2つの特許明細書の各々の全内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0004】
体重及び食欲制御は、複雑であり、完全には特徴付けられていないプロセスである。それらの調節異常は、世界的に重要な公衆衛生上の問題である肥満に結び付く場合がある。正反対に、食欲不振症/悪液質は、最も一般的には後期癌に起因し、腫瘍又はストローマ細胞由来分子が食欲及び体重の緊縮調節を妨害し、消耗、衰弱、及び時には死に結び付くと考えられている(Tisdale, MJ. Cachexia in cancer patients. Nat Rev Cancer, 2:862-871 (2002)、Huhmann, MB. Cunningham, RS. Importance of nutritional screening in treatment of cancer-related weight loss. Lancet Oncol, 6:334-343 (2005)、Marks, DL. Ling, N. Cone, RD. Role of the central melanocortin system in cachexia. Cancer Res, 61:1432-1438 (2001)、Rubin, H. Cancer cachexia: its correlations and causes. Proc Natl Acad Sci, 100:5384-5389 (2003)、Rall, LC. Roubenoff, R. Rheumatoid cachexia: metabolic abnormalities, mechanisms and interventions. Rheumatology 43:1219-1223 (2004) 、Anker, SD. Sharma, R. The syndrome of cardiac cachexia. Int J Cardiol 85:51-66 (2002))。いくつかのサイトカインが、食欲不振症/悪液質の病因に関与するとされているが、インターロイキン6(IL−6、interleukin-6)は、最も可能性の高い病原的作用物質であると考えられている。しかしながら、現在まで、癌性の食欲不振症/悪液質の治療における効力を実証するような、IL−6に対するモノクローナル抗体のヒト臨床試験は存在していない。
【0005】
GDF−15、PLAB、PDF、及びNAG−1とも呼ばれるMIC−1は、基本条件下では発現しないが、炎症、傷害、又は悪性腫瘍の発生により誘導される場合があるTGF−βスーパーファミリーの分岐メンバーである(Bootcov, MR. et al. MIC-1, a novel macrophage inhibitory cytokine, is a divergent member of the TGF-βsuperfamily cluster. Proc Natl Acad Sci 94:11514- 11519 (1997)、Welsh, JB. et al. Large-Scale Delineation of Secreted Protein Biomarkers Overexpressed in Cancer Tissue and Serum. Proc Natl Acad Sci 100:3410-3415 (2003)、Buckhaults, P. et al. Secreted and cell surface genes expressed in benign and malignant colorectal tumours. Cancer Res 61:6996-7001 (2001)、Koopmann,J. et al. Serum Macrophage Inhibitory Cytokine 1 as a Marker of Pancreatic and other Periampullary Cancers. Clin Cancer Res 10:2386-2392 (2004)、Bauskin, AR. et al. The propetide mediates formation of stromal stores of proMIC-1: Role in determining prostate cancer outcome. Cancer Res 65:2330-2336 (2005)、Hsiao, EC. et al. Characterization of growth-differentiation factor 15, a transforming growth factor beta superfamily member induced following liver injury. Mol Cell Biol 20:3742-51 (2000)、Schober. A. et al. Expression of growth differentiation factor-15/ macrophage inhibitory cytokine-1 (GDF-15/MIC-1) in the perinatal, adult, and injured rat brain. J Comp Neurol 439:32-45 (2001))。MIC−1は、前立腺癌、結腸癌、膵臓癌、及び乳癌を含む多くの癌により過剰発現される(Bauskin, AR. et al. Role of MIC-1 in Tumourigenesis and Diagnosis of Cancer. Cancer Res 66:4983-4986 (2006))。進行癌の患者では、この過剰発現は血清MIC−1レベルの著しい増加に帰着し、そのレベルは、平均450pg/mlから5〜50ng/mlレベル以上にまで、10〜100倍上昇する場合がある。個々の腫瘍は、発現レベルの個体差、及びプロコンバターゼによる成熟MIC−1プロセシングの違いの両方のため、それらが分泌するMIC−1の量が異なる場合がある(Bauskin, AR. et al. The propetide mediates formation of stromal stores of proMIC-1: Role in determining prostate cancer outcome. Cancer Res 65:2330-2336 (2005))。MIC−1のプロペプチドは、細胞外マトリックス(ECM、extracellular matrix)に強く結合し、その結果、インビトロ及びインビボの両方で実証可能であるMIC−1のECM貯蔵の形成がもたらされる。プロセシングされた形態のMIC−1のみが、マトリックス結合プロペプチドを欠如しており、血液循環中へと拡散する。したがって、このプロペプチドは、ECM貯蔵とMIC−1の循環血中レベルとのバランスをインビボで調節する(Bauskin, AR. et al. The propetide mediates formation of stromal stores of proMIC-1: Role in determining prostate cancer outcome. Cancer Res 65:2330-2336 (2005))。
【0006】
本出願人は既に、国際特許出願第PCT/AU2005/000525号パンフレット(国際公開第2005/099746号パンフレット)に、MIC−1活性の調節を伴う対象の食欲及び/又は体重を調節するための方法及び作用物質を記載している。そこに記載されている特定のタイプの作用物質は、MIC−1活性の阻害を引き起こし、対象の食欲及び/又は体重の増加を引き起こすことが可能な抗MIC−1抗体である。本明細書の下記では、MIC−1を過剰発現する腫瘍が食欲不振症/悪液質を誘導し、それは、MIC−1に対する抗体を投与することにより反転させることができ、組換えMIC−1の注射により誘導することができるという証拠がさらに提供される。さらに、MIC−1作用の機序が研究され、MIC−1受容体複合体、並びに食欲及びエネルギー恒常性の調節を達成する潜在的中枢調節因子の特徴付けに結び付いた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際特許出願第PCT/AU2005/000525号パンフレット(国際公開第2005/099746号パンフレット)
【特許文献2】米国特許第5,225,539号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】1. Tisdale, MJ. Cachexia in cancer patients. Nat Rev Cancer, 2:862-871 (2002)
【非特許文献2】2. Huhmann, MB. Cunningham, RS. Importance of nutritional screening in treatment of cancer-related weight loss. Lancet Oncol, 6:334-343 (2005)
【非特許文献3】3. Marks, DL. Ling, N. Cone, RD. Role of the central melanocortin system in cachexia. Cancer Res, 61:1432-1438 (2001)
【非特許文献4】4. Rubin, H. Cancer cachexia: its correlations and causes. Proc Natl Acad Sci, 100:5384-5389 (2003)
【非特許文献5】5. Rall, LC. Roubenoff, R. Rheumatoid cachexia: metabolic abnormalities, mechanisms and interventions. Rheumatology 43:1219-1223 (2004)
【非特許文献6】6. Anker, SD. Sharma, R. The syndrome of cardiac cachexia. Int J Cardiol 85:51-66 (2002)
【非特許文献7】7. Bootcov, MR. et al. MIC-1, a novel macrophage inhibitory cytokine, is a divergent member of the TGF-β superfamily cluster. Proc Natl Acad Sci 94:11514- 11519 (1997)
【非特許文献8】8. Welsh, JB. et al. Large-Scale Delineation of Secreted Protein Biomarkers Overexpressed in Cancer Tissue and Serum. Proc Natl Acad Sci 100:3410-3415 (2003)
【非特許文献9】9. Buckhaults, P. et al. Secreted and cell surface genes expressed in benign and malignant colorectal tumours. Cancer Res 61:6996-7001 (2001)
【非特許文献10】10. Koopmann,J. et al. Serum Macrophage Inhibitory Cytokine 1 as a Marker of Pancreatic and other Periampullary Cancers. Clin Cancer Res 10:2386-2392 (2004)
【非特許文献11】11. Bauskin, AR. et al. The propetide mediates formation of stromal stores of proMIC-1: Role in determining prostate cancer outcome. Cancer Res 65:2330-2336 (2005)
【非特許文献12】12. Hsiao, EC. et al. Characterization of growth-differentiation factor 15, a transforming growth factor beta superfamily member induced following liver injury. Mol Cell Biol 20:3742-51 (2000)
【非特許文献13】13. Schober. A. et al. Expression of growth differentiation factor-15/ macrophage inhibitory cytokine-1 (GDF-15/MIC-1) in the perinatal, adult, and injured rat brain. J Comp Neurol 439:32-45 (2001)
【非特許文献14】14. Bauskin, AR. et al. Role of MIC-1 in Tumourigenesis and Diagnosis of Cancer. Cancer Res 66:4983-4986 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本出願人は、とりわけ、食欲及び/又は体重を調節するための方法及び新規なタイプの作用物質を同定した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、マクロファージ阻害性サイトカイン−1(MIC−1)の活性を調節するための新規なタイプの作用物質であって、形質転換増殖因子−β(TGF−β、transforming growth factor-β)に対するRII受容体を含むMIC−1受容体複合体の活性を調節する作用物質の同定に関する。この作用物質は、MIC−1活性を調節することにより、対象の食欲及び/又は体重を調節可能である。
【0011】
したがって、第1の態様では、本発明は、対象のマクロファージ阻害性サイトカイン−1(MIC−1)の活性を調節する方法であって、前記対象に、形質転換増殖因子−β(TGF−β)に対するRII受容体を含むMIC−1受容体複合体の活性を調節する有効量の作用物質を、任意には薬理学的に許容される担体及び/又は賦形剤との混合物として投与することを含む方法を提供する。
【0012】
本発明は、MIC−1活性を調節する作用物質について、作用物質候補又は作用物質ライブラリーをスクリーニングするための方法も提供する。
【0013】
したがって、第2の態様では、本発明は、マクロファージ阻害性サイトカイン(MIC−1)の活性を調節する能力について、作用物質をスクリーニングするための方法であって、
(i)前記作用物質を、形質転換増殖因子−β(TGF−β)に対するRII受容体を含むMIC−1受容体複合体又はそのモノマーと接触させるステップと、
(ii)前記MIC−1受容体複合体又はそのモノマーの活性における任意の変化を検出するステップと
を含む方法を提供する。
【0014】
第3の態様では、本発明は、第2の態様のスクリーニング法により同定される新規な作用物質を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1a−e】a.hMIC−1発現プラスミド構築体又は空プラスミドベクターのいずれかで恒久的に形質移入されたDU145ヒト前立腺癌細胞系を側腹に皮下注射した45匹のヌードマウスの体重及び腫瘍サイズに対する効果を示す図である。マウスの体重及び腫瘍サイズを6週間モニターした。屠殺時に血清hMIC−1レベルをELISAにより決定し、体重減少度の平均及び標準偏差を、hMIC−1の血清レベル範囲に対してプロットした。b.高レベルの血清中MIC−1をもたらす構築体で恒久的に形質移入されたDU145細胞を異種移植したヌードマウスの平均体重変化に対する、MIC−1−MAbの単回投与の効果を示す図である。11日後、MIC−1発現腫瘍を保持するマウスが相当量の体重を失った時、3匹のマウスには1用量ずつ、MIC−1−MAbを単回投与で腹腔内注射し(i.p.)、5匹のマウスには、対照緩衝液(媒体)を注射したか、又は未処置のままにした。マウスの体重を、20日間毎日モニターした。マウスのピーク体重増加の平均及び標準偏差を、この同じ期間中の対照マウスの平均体重変化と比較したプロットで示す。c.抗体を注射した日のマウス体重に戻るまでの時間として定義したマウスの応答期間の平均及び標準偏差を、「1b」のように示す図であり、投与されたMIC−1−Mabの用量に対してプロットされている。d.高レベルの血清中MIC−1をもたらす構築体で恒久的に形質移入されたDU145細胞を異種移植した20匹のヌードマウス、及び対照空ベクターで形質移入されたDU145細胞を異種移植された20匹のヌードマウスの体重変化を示す図である。注射後8日目、MIC−1マウスの平均体重減少が7%であった時、3連続24時間の期間中の食餌摂取量を測定した。食餌をホッパーに入れ、時点0で計量した。24時間後、消費された食餌は、拒絶されたもの及び食べこぼされたものを、ホッパーに入れた食餌から差し引くことにより決定した。その結果は、マウス体重1グラム当たりの1日当たりに消費された食餌の重量(グラム)の平均及び標準偏差として表されている。=p<0.05、**=p<0.01、***=p<0.001。e.20匹のヌードマウスを、高レベルのMIC−1をもたらす構築体で恒久的に形質移入されたDU145細胞で異種移植し、20匹を、対照空ベクターで形質移入されたDU145細胞で異種移植した。MIC−1腫瘍を保持するマウスが、およそ18%の体重を失った時、マウスを屠殺した。肩甲骨間の褐色脂肪組織、鼠径、精巣上体、及び後腹膜の白色脂肪組織、並びに脛骨筋及び腓腹筋も解剖、摘出、及び計量した。総白色脂肪は、鼠径、精巣上体、及び後腹膜の脂肪蓄積の総重量を表す。その結果は、腫瘍を注射した日のマウス体重の割合として表された試験片重量の平均及び標準偏差として表されている。=p<0.05、**=p<0.01、***=p<0.001。
【図1f−h】f.解剖に先立って、「1.e」のマウスをDXA走査にかけて、総除脂肪量及び脂肪量を決定した。示されている結果は、全質量の平均及び標準偏差としてグラムで表されている。***=p<0.001。g.12匹のBALB/cマウスを、高度に精製された10μgの組換えhMIC−1で1日2回皮下処置した。実験の開始時に、10mgのMIC−1−PAb又はCON−PAbの単回腹腔内投与を、マウスの半分に与えた。マウス体重を毎日モニターし、マウスの開始体重の割合として表し、その結果を平均及び標準偏差としてプロットした。h.「1g」で記載したhMIC−1処置マウスについて、3連続24時間の期間中モニターした1日の食餌摂取量を示す図である。食餌をホッパーに入れ、時点0で計量した。24時間後、消費された食餌は、拒絶されたもの及び食べこぼされたものを、ホッパーに入れた食餌から差し引くことにより決定した。その結果は、マウス体重1グラム当たりの1日当たりに消費された食餌の重量(グラム)の平均及び標準偏差として表されている。=p<0.05、**=p<0.01、***=p<0.001。
【図2】a.(A)空ベクターで形質移入されたDU145細胞を異種移植したヌードマウス、(B)MIC−1過剰発現DU145細胞を異種移植した14日後、(C)「B」のように処置したが、1mgのMIC−1−Mabを9日前に腹腔内に与えられたマウスの代表的な写真を示す図である。矢印は、腫瘍増殖部位を指示している。b.hMIC−1発現プラスミド構築体又は空プラスミドベクターのいずれかで形質移入されたDU145細胞を異種移植した、MIC−1及び対照腫瘍を有する40匹のヌードマウスの平均及び標準偏差体重を示す図である。
【図3】高レベルのMIC−1血清をもたらす構築体で恒久的に形質移入されたDU145細胞を異種移植したヌードマウスから得られた結果を提供する図である。11日後、MIC−1発現腫瘍を保持するマウスが相当量の体重を失った時、3匹のマウスに1用量ずつ、3つの異なる用量のMIC−1−Mab又は対照緩衝液(PBS)を腹腔内注射した。マウスの体重を、20日間毎日モニターした。各群について、マウスの相対的な体重変化の平均及び標準偏差は、実験期間中の時間に対してプロットされている。MIC−1−Mabを注射した時点は、矢印の先で示されている。
【図4】体重減少に対するMIC−1投与の効果を示す図である。18匹の9週齢BALB/cマウスに、媒体対照又は示された量の組換えMIC−1を1日2回皮下注射した。マウスの体重を3日間毎日モニターし、この期間中の体重変化を算出した。その結果は、媒体対照を注射した初日の体重に対して標準化され、平均及び標準誤差としてプロットされている。
【図5】a.自由に食餌を与えられたMIC−1処置マウス又は媒体(対照)処置マウス、及び対飼養媒体処置動物(1群当たり6匹)の体重変化を示す図である。10μgのMIC−1(又は媒体)を1日2回10日間、マウスに皮下注射した。その結果は、MIC−1注射初日の体重に対して標準化され、平均及び標準誤差としてプロットされている。MIC−1処置マウス(p<0.05)及び対飼養マウス(p<0.001)の体重は、媒体処置対照と比較して有意に低減されている。MIC−1処置マウスと対飼養マウスとの違いは、有意ではなかった(反復測定二元配置ANOVA)。b.10日後に、5aのマウスをDXA走査にかけて、全身脂肪量及び両後脚の除脂肪量を決定した。その結果は、平均(グラム)及び標準偏差として表されている。=p<0.05、**=p<0.01、***=p<0.001。
【図6】マウスのエネルギー消費量に対するMIC−1の効果を示す図である。15匹のBALB/cマウスをオープンサーキット熱量計に個々に収容し、ケージに24時間順応させた。夜間サイクルの開始時に、10μgのMIC−1を8匹のマウスに、対照緩衝液を7匹のマウスに皮下注射した(矢印)。絶食状態におけるMIC−1誘導性代謝変化をモニターするために、第2の注射(矢印)を次のサイクルの初期に与え、その後食餌を直ちに片付けた。エネルギー消費量(HEAT)、呼吸交換率(RER、respiratory exchange ratio)、酸素消費量及び運動性(x及びy総計)を、27分間の各サイクルで測定した。12時間の明暗サイクルは、横方向のバーとして示されている。データは、2サイクルの平均であり、平均及び平均の標準誤差としてプロットされている。データを、二元配置反復測定ANOVAにより比較した。=p<0.05、**=p<0.01、***=p<0.001。
【図7】ob/obマウスの体重変化及び食餌摂取量に対するMIC−1の効果を示す図である。レプチン欠損ob/obマウスに、媒体対照(5匹のマウス)又は体重20g当たり10μgの組換えMIC−1(5匹のマウス)のいずれかを、1日2回皮下注射した。a.体重を毎日測定し、その結果は、MIC−1注射初日の体重に対して標準化され、平均及び標準誤差としてプロットされている。b.食餌摂取量を最終日に測定し、実験開始時の開始体重に対して標準化した。その結果を、両側t検定を使用して分析した。=p<0.05。
【図8】(a)対照腫瘍マウス及び(b)MIC−1腫瘍マウスの視床下部弓状核におけるGHRH mRNA発現のインシトゥハイブリダイゼーションのエマルジョンオートラジオグラフ画像を提供する図である。Arc:弓状視床下部核;3V 第三脳室。スケールバー=40μm。
【図9】MIC−1の血清レベル(a)又はIL−6の血清レベル(b)と進行前立腺癌患者の体重変化との相関性を示す図である。
【図10】a.fmsMIC−1トランスジェニックマウス及びそれらのWT同腹子の体重を、産後齢(0〜48時間、N=76)、3週齢(N=36)、及び8〜9週齢(N=40)で測定した。各時点及び性別毎に体重を標準化した。その結果を平均及び標準偏差として示した。=p<0.05、**=p<0.01、***=p<0.001。b.8週齢のfmsMIC−1及びWT同系対照マウスの1日の食餌摂取量を、図4aに記載したように、3連続24時間の期間中モニターした。その結果は平均及び標準偏差として示されている。=p<0.05、**=p<0.01、***=p<0.001。c.5匹の雄及び5匹の雌fmsMIC−1トランスジェニックマウス、並びに4匹の雄及び5匹の雌同系対照マウスを、52〜54日齢で屠殺した。脂肪蓄積並びに脛骨筋及び腓腹筋を、図1eのように解剖、摘出、及び計量した。その結果は、マウスの体重の割合として表された試験片重量の平均及び標準偏差として、雄及び雌別々に表されている。=p<0.05、**=p<0.01、***=p<0.001。
【図11】視床下部における直接的AAV仲介性MIC−1過剰発現が体重減少を引き起こすことを示す結果を提供する図である。マウスには、MIC−1を発現するAAV又は対照AAVを、一側性視床下部注射で与えた。12匹のマウスの体重をモニターし、その半分には、MIC−1を過剰発現するAAVの一側性視床下部注射を行い、他の半分には、対照AAVベクターを投与した。マウスを毎日計量し、その結果を平均及び平均の標準誤差としてプロットした。
【発明を実施するための形態】
【0016】
数多くの癌、特に上皮由来の癌が、MIC−1を過剰発現し、MIC−1血液循環レベル(つまり血清レベル)の上昇をもたらすことは、以前から見出されている。これらのレベルは、癌疾患の病期及び進行度に比例していることが判明しており、後期癌の場合には、特に顕著な体重減少と関連している。同様に、一般的に体重減少及び食欲不振症/悪液質を伴う状態である慢性腎不全の患者では、MIC−1血清レベルの顕著な上昇がボディマス指数(BMI、body mass index)の低減との相関性を示すことが、今や判明している。MIC−1レベル又はMIC−1の活性を低減させることによって、癌、慢性腎不全、又はMIC−1血清レベルの上昇が仲介する他の原因に伴う体重減少の反転又は低減が期待される。実際、上記で言及した国際特許出願第PCT/AU2005/000525号パンフレット(国際公開第2005/099746号パンフレット)において、本出願人は、MIC−1活性を阻害する抗MIC−1抗体が、MIC−1過剰発現腫瘍を有するマウスの体重増加を引き起こすことが可能であるという事実を実証した。体重減少の反転又は低減の達成は、場合によっては、患者の健康及び尊厳、ひいては癌、慢性腎不全、又は他の原因疾患若しくは状態の治療を成功させる患者の可能性の向上に結び付くと予測されるため、重要な臨床転帰である。
【0017】
本出願人は、ここではMIC−1作用機序の研究を行い、MIC−1による食欲調節を達成する経路(複数可)及び潜在的中枢調節因子についての理解を深めることに結び付けた。より詳しくは、MIC−1受容体複合体はTGF−βRII受容体を含んでいることが、ここで特徴付けられた。結果として、本出願人は、食欲及び/又は体重を調節するための新規なタイプの作用物質であって、MIC−1受容体複合体の活性を調節することにより作用する作用物質を同定した。さらに、本出願人は、MIC−1受容体複合体と相互作用しその活性を調節する新規なタイプの作用物質のスクリーニング法を特定した。
【0018】
したがって、第1の態様では、本発明は、対象のマクロファージ阻害性サイトカイン−1(MIC−1)の活性を調節する方法であって、前記対象に、形質転換増殖因子−β(TGF−β)に対するRII受容体を含むMIC−1受容体複合体と相互作用しその活性を調節する有効量の作用物質を、任意には薬理学的に許容される担体及び/又は賦形剤との混合物として投与することを含む方法を提供する。
【0019】
好ましくは、本作用物質はMIC−1受容体複合体と相互作用しその活性を調節するが、本作用物質はMIC−1受容体複合体の量を調節することによりその他の形で作用してもよい。
【0020】
本作用物質は、MIC−1活性を調節することにより、対象の食欲及び/又は体重を調節可能である。
【0021】
より詳しくは、本作用物質は、MIC−1の活性を阻害する(つまり、アンタゴナイズする)ことにより(例えば、MIC−1受容体複合体に結合し、それを遮断することにより)、対象の食欲及び/又は体重を増加させることが可能である。その場合には、本方法は、癌、慢性腎不全、又は他の原因疾患、状態、若しくは治療によるMIC−1過剰発現を伴う食欲不振症/悪液質を治療するために好適である。
【0022】
他方では、本作用物質は、MIC−1の活性を増強する(つまり、アゴナイズする)ことにより(例えば、MIC−1受容体複合体に結合しその活性を刺激することによって、MIC−1活性を模倣することにより)、対象の食欲及び/又は体重を減少させることが可能である。その場合には、本方法は、例えば肥満の治療に好適であり得る。
【0023】
TGF−βスーパーファミリータンパク質(MIC−1を含む)に対する受容体スーパーファミリーに属する受容体は、2つのRI受容体モノマー及び2つのRII受容体モノマーを含む四量体複合体である。MIC−1受容体は、2つのRI受容体及び2つのTGF−βRII受容体を含む四量体複合体である。TGF−βRII受容体には多数のスプライス変異体及び他の変異体が存在し(例えば、Konrad, Lら(Konrad, L et al. Alternative splicing of TGF-betas and their high-affinity receptors TβRI, TβRII and TβRIII (betaglycan) reveal new variants in human prostatic cells. BMC Genomics 8:318 (2007))により記載されている変異体を参照されたい)、したがって、「TGF−βRII受容体(複数可)」という用語は、本明細書中で使用される場合、そのような変異体を包含することが理解されるべきである。
【0024】
第1の態様の方法で使用される作用物質は、TGF−βRII受容体モノマーの1つ若しくは両方、及び/又はRI受容体モノマーの1つ若しくは両方と相互作用することができる。しかしながら、好ましくは、この作用物質は、TGF−βRII受容体モノマーの1つ又は両方と相互作用する。好ましくはTGF−βRII受容体モノマーは、視床下部TGF−βRII受容体モノマーである。
【0025】
好ましくは、本方法は、MIC−1活性を阻害することを伴い、対象(癌、(前立腺癌、結腸癌、膵臓癌、及び乳癌などの、特に上皮癌)、慢性腎不全、又は他の原因疾患(例えば、関節リウマチなどの炎症性疾患)、状態(例えば、傷害、炎症、又はストレス)、若しくは治療(例えば、放射線療法又は化学療法)によるMIC−1過剰発現を伴う食欲不振症/悪液質に罹患している可能性がある)の食欲及び/又は体重を増加させるために実施される。MIC−1活性を阻害するためには、本作用物質は、TGF−βRII受容体(複数可)、好ましくは視床下部TGF−βRII受容体(複数可)に結合しそれを遮断する作用物質から選択されることが好ましいが、RI受容体(複数可)に結合しそれを遮断する作用物質、又はそうでなければ、四量体MIC−1受容体複合体のモノマー間の相互作用を阻害する作用物質も好適であることが予測される。
【0026】
TGF−βRII受容体に結合しそれを遮断する好適な作用物質の例としては、MIC−1の阻害性ペプチド断片及び模倣体が挙げられる。しかしながら、そのような作用物質は、抗TGF−βRII抗体(例えば、R&D Systems Inc.社、ミネアポリス、ミシガン州、アメリカ合衆国から入手可能な抗TGF−βRII抗体AF532)及び抗体断片(例えば、Fab断片及び組換えscFV断片)からなる群から選択されることが望ましい。より好ましくは、本作用物質は、ヒト化抗TGF−βRIIモノクローナル抗体である。ヒト化抗TGF−βRIIモノクローナル抗体は、米国特許第5,225,539号明細書(その全開示は、参照により本明細書中に組み込まれるとみなされるべきである)に記載の方法により調製することができる。
【0027】
RI受容体に結合しそれを遮断する好適な作用物質の例には、SB−431542(4−(5−ベンゾ(1,3)ジオキソール−5−イル−4−ピリジン−2−イル−1H−イミダゾール−2−イル)ベンズアミド(Sigma Aldrich社製、セントルイス、ミズーリ州、アメリカ合衆国)、SB−505124(2−(5−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イル−2−tert−ブチル−3H−イミダゾール−4−イル)−6−メチルピリジン塩酸塩)(DaCosta Byfield, S. et al. SB-505124 is a selective inhibitor of transforming growth factor-beta type I receptors, ALK4, ALK5 and ALK7. Mol Pharmacol 65:744-752 (2004))、SD−208(Bonniaud, P. et al. Progressive transforming growth factor β1-induced lung fibrosis is blocked by an orally active ALK5 kinase inhibitor. Am J Respir Crit Care Med 171:889-898 (2005))(Scios, Inc.社製、フリーモント、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)、及びGW6604(2−フェニル−4−(3−ピリジン−2−イル−1H−ピラゾール−4−イル)ピリジン)(de Gouville, AC. et al. Inhibition of TGF-beta signaling by an ALK5 inhibitor protects rats from dimethylnitrosamine-induced liver fibrosis. Br J Pharmacol 145:166-177 (2005))を含むALK5阻害剤などの周知の阻害剤、並びにMIC−1の阻害性ペプチド断片及び模倣体が挙げられる。しかしながら、そのような作用物質は、抗RI抗体及び抗体断片(例えば、ALK5細胞外ドメインに対するhAP−0016抗体、Angio-Proteomie社、ボストン、マサチューセッツ州、アメリカ合衆国から入手可能)からなる群から選択されることが好ましい。より好ましくは、本作用物質は、ヒト化抗RIモノクローナル抗体である。
【0028】
MIC−1活性を阻害するように実施される場合、第1の態様の方法を用いた治療に好適な対象は、MIC−1の過剰発現を示しているか、又は少なくとも、MIC−1の血清レベルが一貫して、200〜1200pg/mlの正常ヒト血清レベルの高値域にある対象に限定してもよい。そのような対象は、MIC−1のアッセイ(例えば、MIC−I ELISA(Moore, AG. et al. TGF-β superfamily cytokine MIC-1 is present in high concentrations in the serum of pregnant women. J Clin Endocrinol Metab 85:4781-4788 (2000)))を使用して、高い血清MIC−1レベル(例えば、全血又は血清試料から)を検出することにより選択することができる。「高い」血清MIC−1レベルには、850pg/mlを超える、より好ましくは1000pg/mlを超える、最も好ましくは1200pg/mlを超えるレベルが含まれる。
【0029】
或いは、本方法は、MIC−1活性の増強させることを含み、対象(肥満に苦しんでいるか、又はそうでなければ、健康又は顕示欲のために体重減少を熱望していてもよい)の食欲及び/又は体重を減少させるために実施される。MIC−1の活性を増強するための作用物質は、TGF−βRII受容体(複数可)に結合しその活性を刺激することによりMIC−1の活性を模倣する作用物質から選択されることが好ましいが、RI受容体(複数可)に結合しその活性を刺激する作用物質も好適であることが予想される。TGF−βRII受容体に結合しそれを刺激する好適な作用物質の例には、MIC−1の刺激性ペプチド断片及び模倣体が含まれ、RI受容体に結合しそれを刺激する好適な作用物質の例には、MIC−1刺激性ペプチド断片及び模倣体が含まれる。
【0030】
さらに、第1の態様の方法は、MIC−1受容体複合体の量(つまり、対象の内因性MIC−1受容体複合体の量)を調整することによるMIC−1活性の調節を伴っていてもよい。MIC−1受容体複合体の量を調節するためには、本作用物質は、対象のMIC−1受容体複合体の量を減少させる作用物質から選択されることが好ましく、MIC−1受容体複合体をコードする遺伝子(複数可)を標的とする触媒性及び阻害性オリゴヌクレオチド分子(例えば、リボザイム、DNAザイム、アンチセンスRNA、及び低分子阻害性RNA(siRNA、small inhibitory RNA))、及びMIC−1受容体複合体の転写又は翻訳の阻害剤から選択されてもよい。そのような作用物質は、内因性TGF―βRII受容体、好ましくは内因性視床下部TGF―βRII受容体の量を減少させることが好ましいが、内因性RI受容体の量を減少させる作用物質も好適であり得る。そのような作用物質は、癌、慢性腎不全、又は他の原因疾患、状態、若しくは治療によるMIC−1過剰発現を伴う食欲不振症/悪液質を治療に好適であることが予測される。
【0031】
第1の態様の方法で使用するための作用物質は、任意の好適な医薬組成物/獣医学的組成物又は剤形(例えば、経口、頬腔、経鼻、筋肉内、及び静脈内投与用の組成物)に製剤することができる。典型的には、そのような組成物は、食欲及び/又は体重を調節するのに有効な量で対象に投与されることになり、したがって、1日当たり体重1kg当たり約0.01〜約100μgの作用物質、より好ましくは1日当たり体重1kg当たり0.05〜25μgの作用物質を提供してもよい。好適な組成物は、最も有効な結果を達成するために必要な、1日1回の投与、1日複数回の投与、又は制御放出若しくは持続性放出用のものであってもよい。
【0032】
さらに、本発明は、MIC−1活性を調節する作用物質について、作用物質候補又は作用物質ライブラリーをスクリーニングするための方法も提供する。
【0033】
したがって、第2の態様では、本発明は、マクロファージ阻害性サイトカイン(MIC−1)の活性を調節する能力について、作用物質をスクリーニングするための方法であって、
(i)前記作用物質を、形質転換増殖因子−β(TGF−β)に対するRII受容体を含むMIC−1受容体複合体又はそのモノマーと接触させるステップと、
(ii)前記MIC−1受容体複合体又はそのモノマーの活性における任意の変化を検出するステップと
を含む方法を提供する。
【0034】
好ましくは、前記方法は、例えば、MIC−1受容体複合体又はそのモノマーを発現する培養細胞(例えば、CHO細胞)を使用して、インビトロで実施される。MIC−1受容体複合体又はそのモノマーの活性の変化は、erk1/2、P−stat3などの1又は複数のシグナル伝達分子、及びsmadシグナル伝達経路の(例えば、リン酸化による)活性化、又は活性化の欠如を検出することにより検出することができる。或いは、MIC−1受容体複合体又はそのモノマーの活性の変化は、MIC−1活性に関連していることが以前に報告されているaktシグナル伝達経路の1又は複数のシグナル伝達分子の活性化、又は活性化の欠如を検出することにより検出することができる(Wollman, W. et al. The macrophage inhibitory cytokine integrates AKT/PKB and MAP kinase signaling pathways in breast cancer cells. Carcinogenesis 26(5):900-907 (2005))。
【0035】
本方法のステップ(i)が、MIC−1受容体複合体のモノマーを使用して実施される場合、モノマーは、好ましくはTGF−βRII受容体、より好ましくは視床下部TGF−βRII受容体である。
【0036】
MIC−1受容体複合体又はそのモノマー活性の減少が検出されることは、作用物質が、対象の食欲及び/又は体重を増加させる可能性が高いことを示し得る。一方では、MIC−1受容体複合体又はそのモノマー活性の増加が検出されることは、作用物質が、対象の食欲及び/又は体重を減少させる可能性が高いことを示し得る。
【0037】
第3の態様では、本発明は、第2の態様の方法により同定される新規な作用物質を提供する。
【0038】
以下の非限定的な実施例及び添付の図面を参照することにより、本発明を本明細書の下記でさらに説明する。
[実施例]
【実施例1】
【0039】
材料及び方法
腫瘍異種移植モデル
8週齢BALB/cヌードマウスの右側腹に、200mlのPBS中の5〜7×10個の形質移入DU145細胞を皮下注射した。DU145細胞を、成熟MIC−1(MIC−1)、全長MIC−1、MIC−1のプロコンバターゼ部位欠失変異体、又は空ベクターを含むpIRES2-EGFPプラスミド(Clontech社製、マウンテンビュー、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)で形質移入した(Bauskin, AR. et al. The propetide mediates formation of stromal stores of proMIC-1: Role in determining prostate cancer outcome. Cancer Res 65:2330-2336 (2005))。目視で確認できるようになったら、腫瘍サイズを測定し、マウスを6週間1〜3日毎に計量した。
【0040】
除脂肪量及び脂肪量を、二重X線吸光光度計(DXA、dual X-ray absorptiometer)(Lunar Piximus II、GE Medical Systems社製、マディソン、ウィスコンシン州、アメリカ合衆国)、並びに白色及び褐色脂肪組織蓄積、脛骨筋及び腓腹筋の解剖の両方によって決定し、その後マウスの体重を、腫瘍を注射した日のマウス体重の割合として表した。
【0041】
MIC−1過剰発現トランスジェニックマウスの作製
従来の方法により、トランスジェニックマウスを構築した。手短かに言えば、マウスMIC−1の全長コード配列の発現をマクロファージ特異的に進める修飾c−fmsプロモーター配列を含有するプラスミド構築体を線形化し、C57BL6卵母細胞に注入した。その後、その結果生じたトランスジェニックマウスをWTC57BL6マウスと交尾させ、その結果生じたトランスジェニックマウス系をfmsMIC−1と呼び、リアルタイムRT−PCRによって評価される、脾臓(マクロファージが豊富な組織)におけるMIC−1発現の増加に基づいて選択した。MIC−1は、マウス血清で容易に検知可能な程度にまで強力に発現した。
【0042】
MIC−1試薬
MIC−1抗体及び組換えタンパク質はすべて、文献に記載されているように調製及び精製した(Bauskin, AR. et al. The propetide mediates formation of stromal stores of proMIC-1: Role in determining prostate cancer outcome. Cancer Res 65:2330-2336 (2005)、Fairlie, WD. et al. Epitope mapping of the Transforming Growth Factor-β superfamily protein, Macrophage Inhibitory Cytokine-1 (MIC-1): Identification of at least five distinct epitope specificities. Biochemistry 40:65-73 (2001)、Brown, DA. et al. Concentration in plasma of macrophage inhibitory cytokine-1 and the risk of cardiovascular events in women. Lancet 359:2159-2163 (2002))。組換えMIC−1を、酵母ピキア・パストリス(Pichia pastoris)の順化培地中で発現させ、酵母ピキア・パストリスの順化培地から疎水性相互作用クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、その後逆相HPLCの組合せを使用して精製した。組換えMIC−1で免疫したか又は未免疫のどちらかのヒツジに由来する血清のプロテインGアフィニティークロマトグラフィーによって、MIC−1 PAb又は対照IgGをそれぞれ調製した。いくつかの実験では、精製組換えMIC−1がカップリングされていたセファロースカラムでMIC−1 PAbを精製することにより、アフィニティー精製抗MIC−1抗体を調製した。MIC−1に対するモノクローナル抗体をハイブリドーマから取得し、プロテインGアフィニティークロマトグラフィーにより精製した。
【0043】
MIC−1発現用に操作されたAAVベクターの作製
ヒトMIC−1のcDNAを、WPRE(ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント、woodchuck hepatitis virus post-transcriptional-regulatory element)、及びAAV2逆方向末端反復(ITR、inverted terminal repeat)が隣接するウシ成長ホルモンポリアデニル化(plyadenylation)シグナルを含有するAAV発現プラスミドに、CBA(ニワトリβ−アクチン、chicken β-actin)プロモーターの制御下でサブクローニングした。導入遺伝子インサートを有していないAAV発現プラスミドをAAVにパッケージングし、対照ベクターとして使用した。その後、本質的に記載されているように、感染性AAV粒子を産生した(Lee, DH. et al. Macrophage inhibitory cytokine-1 induces the invasiveness of gastric cancer cells by up-regulating the urokinase-type plasminogen activator system. Cancer Res 63(15):4648-4655 (2003))。手短かに言えば、標準的CaPO形質移入法を使用して、HEK293細胞をAAV及びヘルパープラスミドで同時形質移入した。形質移入60時間後に細胞を回収し、イオジキサノール密度勾配の超遠心分離により、AAVベクターを細胞溶解物から精製し、その後PBSに対して濃縮及び透析した。リアルタイムPCR(ABI Prism 7700型)を使用してベクターを滴定し、ベクター保存液はすべて1ml当たりゲノム数1×1013に希釈した。
【0044】
代謝率、呼吸交換率、及び身体活動の測定
代謝率は、8チャンバーオープンサーキット熱量計(Oxymaxシリーズ、Columbus Instruments社製、コロンバス、オハイオ州、アメリカ合衆国)を使用して、8〜10週齢の雄BALB/c、fmsMIC−1、又はC57Bl6マウスのいずれかで、間接熱量測定法により測定した。マウスは、特別に作製されたプレキシガラスケージ(20.1cm×10.1cm×12.7cm)に個々に収容されていた。温度は、0.6l/分の空気流を用いて22℃に維持されていた。食餌及び水はどちらも自由に摂取可能であったか、又はいくつかの実験では、MIC−1注射後12時間はマウスに食餌を与えなかった。記録を始める前に、マウスを24時間ケージに順応させた。その後、10μgのMIC−1又は対照緩衝液のいずれかをマウスに皮下注射し、その後、12時間モニターした。酸素消費量(VO2)を27分毎に測定し、呼吸交換率(RER)を、VCO2/VO2として算出した。エネルギー消費量(生成されたkcalの熱)は、発熱量(CV、Calorific Value)×VO2として算出し、CVは3.815+1.232×RERであった。熱発生データの統計分析は、反復測定二元配置ANOVAにより行った。
【0045】
対飼養実験
実験は、3群の8週齢雌BALB/cマウスを使用して実施した。マウスは、実験開始前に1週間個々に収容されていた。1群のマウスを、10μgのMIC−1の皮下注射で1日2回処置し、食餌は自由に与えた。第2の群の対照マウスにはビヒクルのみを注射し、この場合も食餌は自由に与えた。第3の対飼養の群にはビヒクルのみを注射し、MIC−1注射マウスと対飼養した。
【0046】
対飼養は、MIC−1処置群により消費された食餌を24時間毎に測定することにより行った。その翌日、対飼養マウスには、前日にそれらのMIC−1処置対により消費されたのと同じ量の食餌を与えた。食餌摂取量を測定するために、ペレット食餌を計量し食餌ホッパーに入れ、24時間後に残っていた食餌を再び計量し、食べこぼし及び糞便を補正した差は、1日の食餌摂取量を表していた。
【0047】
癌性悪液質患者コホート
MIC−1レベルを推定するための血清試料を、癌性悪液質に関する文献に公表された研究に参加した患者から取得した(Pfitzenmaier, J. et al. Elevation of cytokine levels in cachectic patients with prostate carcinoma. Cancer 97:1211-1216 (2003))。手短かに言えば、これは、前立腺疾患を有していない10患者の対照群、器官内限局の前立腺癌(CaP、cancer of the prostate)を有すると新たに診察された19患者の群、及び進行CaPを有する38患者の群であった。さらなる分析のために、この群を2つの亜群:悪液質を示していない進行前立腺癌及び悪液質を示している進行前立腺癌に分割した。進行前立腺癌患者を、研究参加に先立って腫瘍学者により決定された臨床状態に基づいて分類した。患者が3〜6か月の期間にわたる体重減少及び食欲減少(食欲不振症)を示した場合、その患者を悪液質であると決定した。両症状が存在しなかった場合、患者は非悪液質であるとみなした。単一の症状が存在した場合、低エネルギーレベル、疲労、又は低運動耐容能のうち1つの症状が存在した場合のみ、悪液質と診断した。進行PCa非悪液質亜群は、14患者で構成されていた。3/14患者で体重減少が見られ、平均±SEM体重減少は0.87±0.51kg(中央値:0kg;範囲:0〜6.2kg)であった。幾人かの患者は、体重減少にもかかわらず、所属腫瘍学者により決定された彼らの臨床状態に従うと悪液質であるとはみなされなかった。年齢の中央値は、72.5歳であった。悪液質亜群は、24患者で構成されていた。1人の患者だけが、第2の基準に基づいて悪液質群に分類された。この群のすべての患者が体重減少を示し、平均±SEM体重減少は6.89±1.00kg(中央値:4.7kg;範囲:1.5〜21.9kg)であった。年齢の中央値は、68.5歳であった。
【0048】
マウス視床下部内注射
実験はすべて下記の手順を使用して行われた。マウスに、100mg/kgのケタミン(keatmine)及び20mg/kgのキシラジン(Parke Davis-Pfizer社製、シドニー、オーストラリア、及びBayer AG社製、レーヴァークーゼン、ドイツ)で麻酔をかけ、頭を頭蓋骨が水平となる位置にして、Kopf定位固定フレーム(David Kopf製、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)に固定した。マウスには、マイクロ4マイクロシリンジポンプコントローラー(World Precision Instruments Inc.社製、サラソタ、フロリダ州、アメリカ合衆国)に取り付けられた10μlハミルトンシリンジを使用して、視床下部に関連物質を0.1μl/分の速度で一側性に注射した。
【0049】
サイトカインの直接注射の場合、成体WTマウスに、1μlのMIC−1、1μlのレプチン、又は1μlの対照溶液を、ブレグマを基準にして2.3mm後側、±0.3mm外側、5.6mm腹側の、ARCに対応する座標を使用して注射した(Sainsbury, A. Schwarzer, C. Couzens, M. Herzog, H. Y2 receptor deletion attenuates the type 2 diabetic syndrome of ob/ob mice. Diabetes 51:3420-3427 (2002))。注射開始30分後に、マウスを屠殺した。灌流により脳を固定し、P−stat3ニューロンを下記のように免疫組織化学検査により識別した。
【0050】
抗TGF−β受容体抗体の投与
抗TGF−β受容体抗体の注射を伴う実験の場合、1.5μlの抗体(0.1mg/ml)を、0.1μl/分の速度で、3匹の成体マウスの後視床下部区域に一側性に注射した。注射した抗体は、TGF−βRII(R&D Systems, Inc.社製)、又はBMP RII(GeneTex, Inc.社製、サンアントニオ、テキサス州、アメリカ合衆国)、又はレプチン受容体(Upstate Biotech.社製、レークプラシッド、ニューヨーク州、アメリカ合衆国)に対する阻害性ヤギ抗体であった。この例では、注射後10分間は針を刺したままにしておき、拡散を可能にした。注射座標は(ブレグマから):前側−後側、−2.3mm;中央−外側、−0.5mm;背側−腹側、−4.5mmであり、後視床下部区域に対応していた(Paxinos, G. Franklin, KBJ. The mouse brain in sterotaxic coordinates. 2001. Academic press. San Diego, USA)。TGF−βRII抗体の注射24時間後、午前10時〜午後12時に100μgのhMIC−1を動物に腹腔内注射した。注射した正確に30分後、下記に記載するように後視床下部区域のc−fos及びTGF−βRII免疫反応性ニューロンを検出するために、マウスを屠殺して脳を回収した。
【0051】
代替実験では、6匹の成体雄マウスを3群に分割した:1.5μl抗TGF−βRII抗体(0.1mg/ml)(R&D Systems, Inc.社製)、1.5μl抗BMP RII抗体(0.1mg/ml)(GeneTex Inc.社製、サンアントニオ、テキサス州、アメリカ合衆国)、又は1.5μl抗レプチン抗体(0.1mg/ml)(Upstate Biotech.社製)を、ARCに一側性に注射した。注射後10分間は針を刺したままにしておき、拡散を可能にした。注射座標は(ブレグマから):前側−後側、−1.94mm;中央−外側、−0.4mm;背側−腹側、−5.5mmであり、弓状視床下部核に対応していた(Paxinos, G. Franklin, KBJ. The mouse brain in sterotaxic coordinates. 2001. Academic press. San Diego, USA)。注射24時間後、午前10時〜午後12時に100μgのhMIC−1を動物に腹腔内注射し、注射30分後に、下記に記載するように弓状視床下部区域のc−fos免疫反応性を検出するために、マウスを屠殺して脳を回収した。
【0052】
マウス脳の免疫組織化学検査及び免疫蛍光検査
当日の定時(午前10時〜午後12時)に、10μg又は100μgいずれかのhMIC−1又は対照緩衝液を、BALB/cマウスに腹腔内注射した。c−fos免疫反応性における変動を可能な限り最小にするのを保証するため、マウスはすべて、10μgのhMIC−1の腹腔内注射後、正確に60±1分後に屠殺された。P−stat3の場合は、5mg/kg(約100μg)のレプチン、100μgのhMIC−1、又は対照緩衝液でマウスを処置し、腹腔内注射した正確に30分後、マウスを屠殺した。マウスに深い麻酔をかけ、25mlのリン酸緩衝液中0.9%生理食塩水で、その後、0.1Mリン酸緩衝液(PH7.4)で調製した冷却4%パラホルムアルデヒドで灌流することにより、脳を固定した。脳を直ちに摘出し、30分間4%パラホルムアルデヒド中に置き、その後、リン酸緩衝液中30%スクロース溶液の中に終夜置いた。脳を30μmの冠状切片に薄切し、50%アルコール中1%Hで20分間洗浄して内因性ペルオキシダーゼ活性を消失させた。一次抗体、ウサギ抗マウスc−Fos(sc−52;Santa Cruz Biotechnology Inc.社製、サンタクルーズ、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)を、0.1%トリトンx−100を含有するPBSで1:5000に希釈し、その後終夜インキュベートした。ウサギ抗マウスホスホ−Stat3(Cell Signaling Technology Inc.社製、ダンバーズ、マサチューセッツ州、アメリカ合衆国)、ウサギ抗ホスホERK1/2抗体(Cell Signaling社製)、及びヤギ抗マウスTGF−βRII(R&D Systems社製)を、それぞれ1:500、1:2000、及び1:2000に希釈したという点を除いて、同様に処理した。PBS−トリトンで3回各10分間洗浄した後、切片を、PBSで1:250に希釈したビオチン化抗ウサギ二次抗体(Sigma Aldrich社製)又は抗ヤギ二次抗体(Chemicon社製、テメキュラ、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)と共に2時間インキュベートした。切片を、30分間PBSで洗浄し、その後、アビジン−ビオチン−ペルオキシダーゼ(Vectastain社製、バーリンゲーム、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)で、30分間室温でインキュベートした。ニッケル増強染色を使用して1切片上の2つの抗体の反応性を区別したいくつかの実験の場合、切片をPBSで洗浄し、その後0.04%硫酸ニッケルアンモニウムの存在下で、0.05%ジアミノベンジジンテトラヒドロクロリド(Sigma社製)及び0.007%過酸化水素を用いて処理した。その後、切片をPBSで洗浄し、DAKO社製(カーピンテリア、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)ジアミノベンジジンで5分間処理した。スライドを水中ですすぎ、カバーガラスをかける前にキシレンに通して脱水した。核内Fos陽性ニューロンを、Zeiss Axioplan光学顕微鏡のグリッドレチクル及び10×対物レンズを用いて計数した。違いが見てすぐに分かったところを含む領域では、c−fos陽性核を計数した。目的の各脳核の場合、Franklin及びPaxinos(Paxinos, G. Franklin, KBJ. The mouse brain in sterotaxic coordinates. 2001. Academic press. San Diego, USA)による定位固定座標におけるマウス脳の図譜に従って、切片を3枚毎に計数して、c−fos陽性ニューロンを定量化した。同時に染色した2群(1群当たり5匹のマウス)間で比較を行い、各核中のニューロン計数の平均数を、左側及び右側の両方から決定した。すべての群を最終分析用にプールし、群間の違いは、ANOVA及び、その後フィッシャーの事後検定により評価した。
【0053】
免疫蛍光検査の場合、一次抗体、ウサギ抗マウスP−Stat3(Cell Signaling社製)及びヒツジ抗マウスα−MSH(AB5087;Chemicon社製)を、0.1%トリトンx−100を含有するリン酸塩緩衝食塩水(PBS、phosphate-buffered saline)で1:5000及び1:4000に希釈し、次いで終夜インキュベートした。PBS−トリトンで3回各10分間洗液した後、PBSで1:250に希釈したAlexaフルオロフォア(Alexa Fluor(登録商標)594及びAlexa Fluor(登録商標)488;Molecular Probes社製、ユージーン、オレゴン州、アメリカ合衆国)とコンジュゲートしたヤギ抗ウサギ二次抗体及びロバ抗ヒツジ二次抗体で、切片を3時間インキュベートした。切片を、PBSで3回各10分間洗浄し、フルオロフォアシグナル(c−Fosの場合は赤色、及びα−MSHニューロンの場合は緑色)を、Zeiss Axioplan光学顕微鏡(Oberkochen、ドイツ)で検査した。
【0054】
インシトゥハイブリダイゼーション
当日の定時(午前10時〜午後12時)に、10μgのhMIC−1又は対照緩衝液のいずれかを、マウスに腹腔内注射した。マウスはすべて、腹腔内注射した正確に60分後に屠殺し、直ちに脳を摘出し、ドライアイスで凍結した。冠状切片(20μm)をクリオスタットで切断し、Superfrost(登録商標)スライド(Menzel-Glaser社製、ブラウンシュワイク、ドイツ)に解凍マウントした。MIC−1注射マウス及びPBS注射マウス(n=5匹のマウス/群)の同じ冠脳側位に由来するマッチング切片を、以前に記載されているように(Sainsbury, A. Schwarzer, C. Couzens, M. Herzog, H. Y2 receptor deletion attenuates the type 2 diabetic syndrome of ob/ob mice. Diabetes 51:3420-3427 (2002))、マウスNPY(5'-GAGGGTCAGTCCACACAGCCCCATTCGCTTGTTACCTAGCAT-3')(配列番号1);マウスPOMC(5'-TGGCTGCTCTCCAGGCACCAGCTCCACACATCTATGGAGG-3')(配列番号2);マウスGHRH(5'-GCTTGTCCTCTGTCCACATGCTGTCTTCCTGGCGGCTGAGCCTGG-3')(配列番号3)に相補的な放射性同位体標識DNAオリゴヌクレオチドを使用して一緒にアッセイした。
【0055】
散在性ニューロンのmRNAレベルを評価する場合、浸漬切片の画像を、Zeiss Axiophot顕微鏡に取り付けられたProgRes 3008カメラ(Zeiss社製、イェーナ、ドイツ)を使用してデジタル化した。単一ニューロン上の銀色粒子密度を、NIHイメージ1.61ソフトウェア(Wayne Rasband作成、zippy.nimh.nih.govの匿名FTPから入手可能)を使用して評価した。バックグラウンド標識化は一定であり、特定シグナルの5%を超過することはまったくなかった。
【0056】
混合免疫組織化学検査(インシトゥハイブリダイゼーション)
C57B6マウスを、上記で概説したように組換えhMIC−1で処理し、P−stat3免疫組織化学検査の場合とまったく同様に処理した。以前に概説したものに軽微な変更を加えて、P−stat3の免疫組織化学標識化を実行した。抗P−stat3抗体を、0.3%トリトンX−100、0.1%BSA、及びヘパリン5mg/mlを含有するPBSで1:2000に希釈した。切片を4℃で48時間インキュベートし、特異的抗体標識化を、上記と同じ手順を使用して検出した。上記で概説したように、切片をマウントし、NPYインシトゥハイブリダイゼーションを実施した。
【0057】
統計分析。
前立腺癌患者のデータを、線形回帰分析、単変量ロジスティック回帰分析、及び多変量ロジスティク回帰分析に加えて、マンホイットニーU検定を使用して分析した。癌関連体重減少の予測に関する独立型検査としての血清MIC−1とIL−6との比較は、マクネマーの検定(GraphPad社製、サンディエゴ、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)を使用して行った。代謝データの比較は、PRISM4を使用して二元配置反復測定ANOVAにより行った。特に指定のない限り、違いに関する他のすべての統計学的評価は、独立両側T検定を使用して行った。特に指定のない限り、グラフのエラーバーはすべて標準偏差を示す。特に明記しない限り、分析はすべて、STATVIEW VERSION 4.5(Abacus Concepts社製、バークレー、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)を使用して実施した。
【0058】
結果
MIC−1は急激な体重減少を誘導し、それはMIC−1に対する抗体によって反転可能である
MIC−1の局所的及び全身性過剰発現の効果を理解するために、MIC−1を構成的に産生しないヒト前立腺癌細胞系DU145を、ヒトMIC−1(hMIC−1)発現プラスミド構築体で恒久的に形質移入した。これらの構築体は、MIC−1のマトリックス結合を仲介するプロペプチドドメインを保持していたか、又は欠損していた(Bauskin, AR. et al. The propetide mediates formation of stromal stores of proMIC-1: Role in determining prostate cancer outcome. Cancer Res 65:2330-2336 (2005))。形質移入されたDU145細胞系をヌードマウスの側腹に皮下注射して、異種移植腫瘍を確立した(Bauskin, AR. et al. The propetide mediates formation of stromal stores of proMIC-1: Role in determining prostate cancer outcome. Cancer Res 65:2330-2336 (2005))。マウスを6週間モニターした後、血清hMIC−1レベルを高度に特異的なELISAを使用して決定した(Bauskin, AR. et al. The propetide mediates formation of stromal stores of proMIC-1: Role in determining prostate cancer outcome. Cancer Res 65:2330-2336 (2005)、Fairlie, WD. et al. Epitope mapping of the Transforming Growth Factor-β superfamily protein, Macrophage Inhibitory Cytokine-1 (MIC-1): Identification of at least five distinct epitope specificities. Biochemistry 40:65-73 (2001)、Brown, DA. et al. Concentration in plasma of macrophage inhibitory cytokine-1 and the risk of cardiovascular events in women. Lancet 359:2159-2163 (2002))。腫瘍由来hMIC−1が上昇したマウスでは、エンドポイント血清MIC−1濃度に比例して、進行的に体重が減少した(図1a、2a、及び2b)。正常なヒトに見出されるレベルと類似した、低血清レベルの腫瘍由来hMIC−1(0〜1500pg/ml)を示すマウスでは、体重が約19%増加し、これらのマウスの若年齢と一致した(図1a)。MIC−1レベルが中程度に上昇したマウスでは(1501〜8500pg/ml)、それらの体重の約3%が失われ、MIC−1レベルが顕著に上昇したマウスでは(8500pg/mlを超える)、実験期間中に約28%の体重が失われた(図1a)。対照腫瘍を有するマウスでは、体重増加が実験期間中継続したため、対照群に対するMIC−1の実効的な効果は、hMIC−1の血清レベルが中程度であるマウス及びhMIC−1の血清レベルが高いマウスで、それぞれ22%及び47%の体重減少であった。
【0059】
体重減少に対するMIC−1効果の特異性を直接的に実証するために、ポリクローナルヒツジ抗MIC−1 IgG(MIC−1−PAb)を腫瘍保持マウスに注射することにより、その作用を反転させた。MIC−1の体重低減効果のこの反転は、対照IgG(CON−IgG)を使用した際には見られなかった(データ非表示)。加えて、hMIC−1(MIC−1−MAb)に特異的なモノクローナル抗体の単回注射は、このMIC−1関連体重減少(図1b、1c、2a、及び3)及び腫瘍サイズに対するあらゆる影響(データ非表示)を迅速に反転させたが、媒体対照では反転しなかった。MIC−1誘導性体重減少の反転の規模及び持続期間は、投与されたMIC−1−MAbの量に比例していた。1mgのMIC−1−MAbを注射は、14%のピーク体重増加に結び付き、その結果、腫瘍誘導性体重減少の完全な反転がもたらされた。これを、媒体対照を投与したMIC−1腫瘍保持マウスにおける顕著で継続的な体重減少と比較した(図3)。このMIC−1−MAbが効果的だった持続期間は、17日間だった(図1c)。また、抗体処置は、腫瘍サイズに影響を与えなかった(データ非表示)。これらのデータは、MIC−1発現腫瘍によって誘導された体重減少が、MIC−1によって特異的に仲介されていることを示す。
【0060】
MIC−1がこの効果の原因だったことをさらに実証するために、用量を増加させた精製組換えhMIC−1を、正常BALB/cマウスの皮下に1日2回3日間投与し、この期間中のマウスの体重変化を測定した。これにより、MIC−1が用量依存的に体重減少を誘導することが実証され(図4)、精製組換えhMIC−1を10μg投与すると、その結果として顕著で速効性の体重減少がもたらされ、それはマウスにMIC−1−PAbを与えることによって完全に反転できたが、CON−PAbでは反転できなかった(図1g)。
【0061】
マウスにおけるMIC−1誘導性体重減少の特徴付け
MIC−1発現腫瘍によって誘導された体重減少の性質をより詳しく特徴付けるために、白色及び褐色脂肪組織蓄積、脛骨筋及び腓腹筋の解剖により、種々の区域における脂肪量及び除脂肪量の変化を決定し、その後それらの重量を、腫瘍を注射した日のマウス体重の割合として表した(図1e)。MIC−1を過剰発現する腫瘍を保持するマウスには、後腹膜脂肪は残っておらず、鼠径脂肪蓄積及び精巣上体脂肪蓄積のそれぞれ54%及び89%減少が示された。対照腫瘍を保持するマウスと比較して、MIC−1腫瘍保持マウスの肩甲骨間褐色脂肪組織蓄積(40%)並びに脛骨筋及び腓腹筋(それぞれ25%及び29%)の重量は、少量ではあるが有意に減少した。二重エネルギーX線吸光光度法(DXA、Dual Energy X-ray Absorptiometry)走査データにより、MIC−1腫瘍保持マウスでは、対照と比較して平均5.3gの除脂肪量及び平均1.1gの脂肪量の減少が確認された(図1f)。
【0062】
MIC−1過剰発現腫瘍を保持するマウスの体重減少が、摂食減少のためだったかどうか決定するために、食餌摂取量を3日連続で測定した。高血清レベルのMIC−1を伴うDU145細胞腫瘍を有するマウスを、空ベクターで形質移入した対照DU145細胞腫瘍を保持するマウスと比較した。MIC−1を過剰発現する腫瘍を保持するマウスの摂食は、それらの対照腫瘍保持マウスより、平均で1日当たり32%少なかった(図1d)。MIC−1−PAb又はCON−PAbのいずれかを投与された組換えMIC−1注射BALB/cマウスの食餌消費量も測定した。腫瘍保持マウスのデータと類似して、組換えMIC−1の投与は、食餌摂取量の顕著な減少を誘導した(図1h)。重要なことは、MIC−1−Pab処置によってこの過小食が反転されて体重増加がもたらされたことであり(図1h)、食餌摂取量の減少が、MIC−1により仲介される体重減少の主要な要素であることが立証された。
【0063】
MIC−1誘導性の脂肪量減少、除脂肪量減少、及び体重減少が、完全に過小食によるものかどうか、又は代謝的要因も役割を果たしているのかどうかを見い出すために、ビヒクル注射マウスを、MIC−1の1日2回注射を受容したマウスにより消費された食餌量で対飼養した。対飼養ビヒクル注射マウスでは、少なくともMIC−1注射動物と同じ程度の体重が減少し、除脂肪量又は脂肪量の減少に関しては、MIC−1注射マウスとの有意差を示さなかった(図5a及び5b)。対飼養動物に観察されたわずかに大きな体重減少は、食餌制限により引き起こされた誘発ストレス応答及び身体活動の増加(例えば、食餌探索行動)による可能性が最も高いが(Challet, E. et al. Involvement of corticosterone in the fasting-induced rise in protein utilization and locomotor activity. Pharmacol Biochem Behav 50:405-412 (1995))、身体活動のそのような増加は、MIC−1注射後には起こらなかっただろう。まとめると、これらのデータは、MIC−1が体重を減少させ、それに伴う脂肪量及び除脂肪量を減少させる手段が過小食であることを確立する。
【0064】
代謝率の増加が、MIC−1処置マウスの体重減少及び体組成変化に寄与する一因であることを完全に除外するために、対照緩衝液又は組換えMIC−1の単回注射で処置した正常マウスのエネルギー消費量を、間接熱量測定法により調査した。対照と比較して、10μgのMIC−1を注射したマウスは、小さいが有意であるエネルギー消費量の低減を示した(図6)。MIC−1注射後12時間にわたってマウスを断食させると、エネルギー消費量におけるこの小さな相対的減少は消失した(図6)。したがって、エネルギー消費量の増加では、MIC−1処置マウスの体重減少及び体組成の変更を説明することができず、エネルギー摂取の減少が唯一の原因であることをさらに裏付けている。
【0065】
MIC−1が肥満動物にも効果を示すかどうかを試験するために、遺伝性肥満レプチン欠損ob/obマウスに、体重20g当たり10μgのMIC−1を1日2回で3日間注射した。痩せたマウスにおけるMIC−1の効果に類似して、ob/ob動物は、体重の著しい減少を示した(図7a)。この体重低減は、対照注射マウスと比較して、MIC−1注射ob/obマウスの食餌摂取量が著しく減少した結果であった(図7b)。これらのデータは、MIC−1が、極度の肥満動物モデルにさえ、過小食及び体重減少を強力に誘導することを示す。
【0066】
ホルモン及び代謝産物の血清レベルを評価することにより、MIC−1腫瘍保持マウスが、遊離脂肪酸、トリグリセリド、グルコース、グルカゴン、レプチン、及びIGF−1の血清レベルの大幅な低減を示し、それらの除脂肪量及び脂肪量の減少と一致していたことが示された(データ非表示)。MIC−1腫瘍保持マウスは、血清コルチコステロンレベルが増加する傾向も示した。循環IGF−1レベルの変化は、視床下部−下垂体成長ホルモン系の阻害を示唆しており、したがって、視床下部における成長ホルモン放出ホルモン(GHRH、growth hormone releasing hormone)mRNAの発現を測定した。図8に示されているように、MIC−1腫瘍保持マウスの脳におけるGHRH発現のレベルは、強力に低減されており、これらの動物では、成長ホルモン系が中枢を介して下方制御されることを実証している。血清IGF−1レベルの低減は、MIC−1の効果のいくつか、特に除脂肪組織の減少に寄与している可能性があるが(Kamel, HK. Maas, D. Duthie, EH. Role of hormones in the pathogenesis and management of sarcopenia. Drugs Aging 19:865-877 (2002))、この神経内分泌の変化では、MIC−1処置動物に見られた脂肪減少を説明することができない。実際、血清IGF−1レベルが低い同系マウスは、体脂肪の著しい増加を示した(Rosen, CJ. et al. Congenic mice with low serum IGF-I have increased body fat, reduced bone mineral density, and an altered osteoblast differentiation program. Bone 35:1046-1058 (2004))。
【0067】
成長ホルモン系の阻害は、MIC−1によって引き起こされる食欲不振症及び体重減少の保護的順応である可能性が高い。これと一致して、エネルギー摂取の制限は、げっ歯動物及びヒトにおいて、視床下部−脳下垂体−成長ホルモン系を阻害、及び/又は血清IGF−1レベルを低減させる(Park, S. Sohn, S. Kineman, RD. Fasting-induced changes in the hypothalamic-pituitary-GH axis in the absence of GH expression: lessons from the spontaneous dwarf rat. J Endocrinol 180:369-378 (2004)、Lewitt, MS et al. Responses of insulin-like growth factor (IGF)-I and IGF-binding proteins to nutritional status in peroxisome proliferator-activated receptor-alpha knockout mice. Growth Horm IGF Res 11:303-313 (2001)、Friedl, KE. et al. Endocrine markers of semistarvation in healthy lean men in a multistressor environment. J Appl Physiol 88:1820-1830 (2000))。したがって、成長ホルモン系に対するMIC−1処置の効果は、MIC−1効果の一次メディエーターではなく、MIC−1の一次効果(食欲不振症及び体重減少)の二次的帰結である可能性が高い。
【0068】
MIC−1腫瘍保持マウスは、過小食であると同時に、それにもかかわらず血清レプチンレベルの著しい減少も示した。これは、MIC−1が、血清レプチンレベルの低減による食欲促進効果を無効にすることを示唆し、レプチン欠損ob/obマウスも、痩せた動物のようにMIC−1に応答して過小食及び体重減少を示すという観察と一致している。
【0069】
血清MIC−1レベルは、進行前立腺癌患者の体重減少と直接相関する
MIC−1と食欲不振症/悪液質との関連性をヒトにおいて決定するために、血清IL−6レベルが悪液質と関連づけられた進行前立腺癌(PCa)患者を、よく特徴付けられた患者コホートの患者として集め、これらの患者の血清MIC−1レベルを測定した(Pfitzenmaier, J. et al. Elevation of cytokine levels in cachectic patients with prostate carcinoma. Cancer 97:1211-1216 (2003))。血清MIC−1レベルは、悪液質を示さない進行癌患者と比較して、悪液質を示す進行癌患者で有意に上昇した。(12416±10235pg/ml対3265±6370pg/ml(平均±SD);p<0.0001;マンホイットニーU検定)。同様に、IL−6の血清レベルは、悪液質患者で上昇した(33.8±64.2pg/ml対7.8±3.4pg/ml、p<0.002;マンホイットニーU検定)。血清MIC−1は、血清IL−6レベルと、弱いが有意である正の相関性を示した(r=0.2949、p<0.04;線形回帰分析)。加えて、単変量及び多変量ロジスティク回帰分析では、血清MIC−1レベル及びIL−6レベルの両方が、癌性悪液質の存在の独立予測因子であった(それぞれ、p=0.0002、p<0.0001;単変量ロジスティク回帰分析:それぞれ、p=0.0017、p=0.0005;多変量ロジスティク回帰分析)。しかしながら、食欲不振症/悪液質に関する最も良好な客観的で定量化可能な尺度は、体重減少である。血清MIC−1レベルは、前立腺癌関連体重減少の程度と有意に関連していたが(図4a;p=0.0002、r=0.4899;線形回帰分析)、血清IL−6にはそのような関係性はなかった(p=0.6303;線形回帰分析)(図9b)。
【0070】
これらの結果により、血清MIC−1の推定が、前立腺癌関連悪液質を予測するための検査に有用であり得る可能性も高まった。この可能性を評価するために、現行の最も良好な血清マーカー(IL−6)を、受信者動作曲線(ROC、receiver operator curve)分析による癌診断の際に存在する血清MIC−1レベルと比較した。血清MIC−1レベルは、癌関連体重減少の予測因子としてIL−6より有意に優れていた。(曲線下面積(AUC、Area Under the Curve)0.6829対0.3505;p=0.0046)。血清MIC−1の癌性悪液質診断能力を背景状況と比べると、前立腺癌の診断用に最も広く用いられている血清マーカー、PSAのROCは、0.678のAUCを示し(95%信頼区間、0.666〜0.689)(Thompson, IM. et al. Operating characteristics of prostate-specific antigen in men with an initial PSA level of 3.0 ng/ml or lower. JAMA 294:66-70 (2005))、MIC−1のAUCとほとんど同一の特徴を示している。したがって、血清MIC−1の測定は、前立腺癌に伴う癌性悪液質の予測に有用であることを立証し、さらに、MIC−1の血清レベルを低減することを目指す任意の将来的治療から利益を得る可能性のある患者が識別されるはずである。
【0071】
血清MIC−1レベルは、慢性腎不全の患者のBMIと関係している
慢性腎不全も、進行癌のように、体重減少及び悪液質と関連している場合がある。食欲不振症、体重減少、及びBMI等の、このプロセスのマーカーは、末期腎不全の死亡率の強力な予測因子である(Kovesdy, C. P., Anderson, J. E. & Kalantar-Zadeh, K. Inverse association between lipid levels and mortality in men with chronic kidney disease who are not yet on dialysis: effects of case mix and the malnutrition-inflammation-cachexia syndrome. J Am Soc Nephrol 18:304-311 (2007))。BMIがこのように強力な死亡率の予測因子であり、血清MIC−1レベルの上昇が、動物において同様の変化に関連していたため、末期腎不全の血清MIC−1レベルとBMIとの関係性を調査した。この調査を行うため、悪液質又は他の代謝プロセスを研究するため集められたものではなかった末期腎不全の381患者コホートに由来する血清試料を検査した(Apple, FS., Murakami, MM., Pearce, LA. & Herzog, CA. Predictive value of cardiac troponin I and T for subsequent death in end-stage renal disease. Circulation 106:2941-2945 (2002))。
【0072】
研究期間中(3年まで)に死亡した患者は、有意により低いBMIを示した(26.17±5.63;266(平均±SD;n)、23.15±4.92;104:p<0.0001;独立t検定)。透析前の血清試料を研究参加時に取得し、MIC−1血清レベルを決定した。血清MIC−1レベルは、血清MIC−1レベルの増加がより低いBMIと関連するように、BMIと相関していた(p=0.0003;r=0.189;線形回帰分析)。
【0073】
MIC−1を過剰発現するトランスジェニックマウスは、より小さくて、より食べる量が少ない
MIC−1の長期投与で生じる可能性のある効果を決定するために、CSF−1プロモーターの制御下でMIC−1を過剰発現するC57BL6トランスジェニックマウス(fmsMIC−1マウス)を検査した。これらのマウスは、出生後の最初の48時間以内に測定した時に、それらのWT対照と同じような体重を有していた(図10a)。しかしながら、21日齢までに、雄及び雌fmsMIC−1マウスは、両方ともそれらの性別一致WT同腹子より18%少ない体重となり(図10a)、違いは成年期まで続いた。fmsMIC−1マウスは、食べる量が対照より絶対値では少なかったが、この違いは、食餌摂取量をマウス体重で補正すると消失した(図10b)。出生時から食餌摂取量が少なかったことが、同系同腹子より小さく、その結果それに比例して食べる量が少なかったマウスの発育に結び付いた可能性が高い。MIC−1で急性処置したマウスのように、雄及び雌fmsMIC−1マウスは、測定した蓄積のすべてで脂肪を減少させた(図10c)。全体として、MIC−1を過剰発現するトランスジェニックマウスのデータは、このサイトカインで急性処置されたマウスと大まかに一致している。
【0074】
全身投与されたMIC−1は視床下部ニューロンを活性化する
食欲及び体重制御の主要な調節中枢は、視床下部、特に弓状核(ARC)区域に存在し、この区域は、半透過性血液脳関門を有すると考えられ、潜在的に、血液由来のメディエーターと脳のこの区域との直接的相互作用可能にする(Naylor, JL. et al. Further evidence that the blood/brain barrier impedes paraquat entry into the brain. Human & Experimental Toxicology 14:587-594 (1995))。MIC−1が脳に直接その効果を及ぼしていたかどうか決定するため、マウスに組換えhMIC−1を腹腔内注射し、次いで1時間後にマウスを屠殺して前初期遺伝子c−fosの脳内発現パターンを検査した。この転写因子は、幅広く多様な刺激によって迅速に誘導され、頻繁に用いられる信頼性の高い、ニューロン活性化の指標である(Karl, T. et al. Y1 receptors regulate aggressive behavior by modulating serotonin pathways. Proc. Natl. Acad. Sci 101:12742-12747 (2004))。MIC−1注射後、視床下部のARC及び室傍核(PVN、paraventricular nucleus)においてc−fos免疫反応性が著しく増加し、これらの核にあるニューロンがMIC−1作用の下流メディエーターであることを示した。興味深いことには、脳幹の最後野(AP、area postrema)も、c−fos陽性ニューロン数の著しい増加を示し(表1)、MIC−1作用に対する応答にこの核が潜在的な役割を果たしていること示唆した。孤束核(NTS、nucleus tractus solitarus)、又は視床下部若しくは脳幹の任意の他の区域では、c−fos陽性ニューロン数に変化はなかった(データ非表示)。
【0075】
【表1】

【0076】
これらの知見は、MIC−1の中枢効果が、食欲制御の主要中枢であるARCに向けられていることを示唆する。ARCからの突起は、APを含む脳幹区域との接続がそれから形成されるPVNなどの他の視床下部核に達しており、それにより迷走神経交感神経系活性を特異的に調節する(Bouret, S. et al. Formation of Projection Pathways from the Arcuate Nucleus of the Hypothalamus to Hypothalamic Regions Implicated in the Neural Control of Feeding Behavior in Mice. J NeuroSci 24:2797-2805 (2004))。しかしながら、MIC−1によるAPの直接的活性化を除外することはできない。NTSにおけるc−fos活性化に変化が欠如していることは、末梢に由来して迷走神経を経由する求心性シグナルが、MIC−1効果の仲介に関与していないことを示唆する。
【0077】
MIC−1の視床下部特異的過剰発現は体重減少を誘導する
MIC−1が、視床下部仲介性効果により生じる体重減少を誘導することをさらに実証するため、視床下部の弓状核にアデノ随伴ウイルス(AAV、adeno-associated virus)を直接的に一側性注射することによって、MIC−1発現を誘導した。このウイルスは、ニューロン特異的エノラーゼプロモーターの制御下で全長ヒトMIC−1を発現するように操作されていた。ヒトMIC−1に特異的な抗体を用いた免疫組織化学検査により、ARCの細胞によるこのタンパク質の発現が実証された(図11)。MIC−1発現AAVをこのように注射したマウスは、体重が急激に減少したが、空対照ベクターを注射したマウスは、体重が正常に増加した。これにより、視床下部の細胞に対するMIC−1の直接的効果を立証するさらなる強力な証拠が提供される。
【0078】
全身投与されたMIC−1は、TGF−βRII受容体を介してARCに作用する
MIC−1のようなTGF−βスーパーファミリータンパク質は、各々がセリン/トレオニンキナーゼドメインを含有する4つの個別のII(RII)受容体及び7つのI受容体(RI)で構成される、高度に保存された受容体スーパーファミリーに結合し、それを介して作用する。リガンドが結合すると、2つのRII受容体及び2つのRI受容体が四量体に組み立てられ、そこでRIIは、RIの細胞質ドメインにあるセリン残基をトランスリン酸化する。このトランスリン酸化は、保存されているsmadファミリーの転写因子が高い頻度で関与するシグナル伝達カスケードを開始する。以前にMIC−1誘発受容体活性と結び付けられている、erk1/2を含む他の多くのシグナル伝達分子も活性化される(Bauskin, AR. et al. Role of MIC-1 in Tumourigenesis and Diagnosis of Cancer. Cancer Res 66:4983-4986 (2006)、Lee, DH. et al. Macrophage inhibitory cytokine-1 induces the invasiveness of gastric cancer cells by up-regulating the urokinase-type plasminogen activator system. Cancer Res 63(15):4648-4655 (2003))。
【0079】
MIC−1が優先する(preferred)RII受容体を決定するため、異なるRII受容体に対する種々の抗体を使用して、免疫組織化学検査を実施した。これにより、TGF−βRIIのみが、屠殺の30分前にMIC−1を注射したマウスの視床下部において、c−fosと共局在化していたことが実証された(データ非表示)。TGF−βRII受容体が、MIC−1結合受容体複合体の一部を形成するかどうかを決定するため、この受容体に対する遮断抗体を視床下部に一側性注射した。24時間後、これらのマウスに10μgのMIC−1を腹腔内注射した。マウスを30分後に屠殺し、視床下部におけるc−fos発現を検査した。
【0080】
免疫組織化学的な核内c−fos発現は、TGF−βRII抗体を注射した側では遮断されたが、反対側では遮断されなかった。重要なことは、密接に関連した骨形態形成タンパク質(BMP、bone morphogenetic protein)のRII又はレプチン受容体に向けられた遮断抗体の注射が、MIC−1誘導性c−fos発現の阻害に帰着しなかったことである(データ非表示)。これは、TGF−βRII受容体が、それを介してMIC−1がその効果を視床下部に及ぼす複合体の一部を形成しなければならないことを明らかに実証する。
【0081】
MIC−1が視床下部で下流効果を誘導する機序を調査するため、屠殺する15〜60分前に100μgのMIC−1を腹腔内注射したマウスの視床下部に、さらなる免疫組織化学を実施した。smadシグナル伝達経路:smad2、smad3、及びsmad1、5、8のメンバーのリン酸化形態に特異的であった抗体を利用した。各々の場合、未処置マウスのARCでは、視床下部におけるこれらの経路の構成的活性化を示唆する抗体すべてによる核染色の存在がすでに実証されていた(データ非表示)。MIC−1処置マウスにおけるsmad染色の実質的な増加は検出できず、これらの経路が使用されていないか、おそらくはこれらの経路の構成的活性化が、smadリン酸化の著しい増加をすべて覆い隠していることを示唆した。しかしながら、MIC−1がerk1/2のリン酸化を直接誘導することを、いくつかのグループが報告している(Lee, DH. et al. Macrophage inhibitory cytokine-1 induces the invasiveness of gastric cancer cells by up-regulating the urokinase-type plasminogen activator system. Cancer Res 63(15):4648-4655 (2003))。したがって、屠殺する10〜60分前に100μgのMIC−1を注射したマウスの視床下部において、この分子の活性化を検査した。MIC−1の腹腔内注射後、P−erk1/2染色がARCで検出され、MIC−1注射20分後に最も多く生じた。対照緩衝液を注射したマウスでは、この経路の活性化はなかった。まとめると、これらのデータは、MIC−1がerk1/2経路の活性化によって効果を仲介することを示す。
【0082】
全身投与されたMIC−1は、ARC NPY及びPOMC発現を調節し、転写因子、stat3を活性化する
MIC−1の全身性注射が、食欲調節に関連することが知られているARCニューロン経路を活性化していたかどうか決定するため、2つの主要な食欲調節因子、NPY及びPOMCの発現を調査した。MIC−1注射が、ARCにおけるNPY mRNA発現のレベルを34%低減させ、POMCのmRNAレベルを47%増加させたことが、インシトゥハイブリダイゼーションを使用して認められ、摂食衝動の低減と一致していた(表2)。
【0083】
【表2】

【0084】
主要なPOMC食欲不振症誘発性経路のこの上方制御、及びNPY食欲促進性経路の下方制御は、レプチン処置マウスで観察されたものと類似したパターンである(データ非表示)。このように類似しているため、MIC−1処置マウスの視床下部も、リン酸化されたstat3(P−stat3)、レプチン受容体シグナル伝達経路の中枢分子に対する抗体を用いて調査した(データ非表示)。これにより、MIC−1処置マウスの側方ARC及び視床下部腹内側野(venteromedial hypothalamus)のP−stat3染色ニューロンの顕著な上方制御が明白に示された。興味深いことには、MIC−1処置マウスにおけるP−stat3染色のパターンは、レプチン注射により誘導されたパターンとは異なっており、MIC−1注射マウスのP−stat3陽性ニューロンの大多数は、レプチン注射の場合の背側ARCと比較して、側方ARCに存在した。したがって、MIC−1及びレプチンは、両方がARCのstat3シグナル伝達経路を活性化する一方で、ARCニューロンの異なるサブセットでP−stat3を誘導した。これらの知見は、MIC−1及びレプチンが、別々の経路経由でそれらの効果を誘導することを示唆する。これと一致して、MIC−1をレプチン受容体欠損db/dbマウスに注射すると、WTMIC−1注射マウスで見られるものと同等のP−stat3染色がARCでも生じ、MIC−1はレプチン受容体を介して作用しないことを決定的に実証した。
【0085】
MIC−1誘導性P−stat3陽性ニューロンをさらに識別するため、NPYの場合はインシトゥハイブリダイゼーションを、アルファメラニン細胞刺激ホルモン(α−MSH、alpha melanocyte stimulating hormone)、POMCの生物学的に活性なプロセシング産物の場合は免疫組織化学検査を、P−stat3の場合の免疫組織化学検査/免疫蛍光検査と共に実施した(データ非表示)。これにより、α−MSH及びNPYニューロンが、MIC−1の標的の主要なクラスであることが識別され、このモデルの体重減少に結び付く食餌摂取量の低減は、NPY及びα−MSH産生の変化に起因することが示された。さらに、及びc−fos活性化の結果と一致して、大多数のこれらのP−stat3/NPY及びP−stat3/α−MSH陽性ニューロンは、レプチンにより活性化されるニューロンとは異なるニューロンのサブセットを表しており、それによりMIC−1がそれを介して食欲を調節する新規な経路を示す。
【0086】
ARCに対するMIC−1の直接注射もstat3を活性化する
MIC−1がARCに直接作用するというさらなる証拠を提供するため、ARCに対するMIC−1、レプチン、又は対照緩衝液の直接的一側性注射を調査した。注射が終了した20分後にマウスを屠殺し、脳切片をP−stat3について染色した。対照注射は効果を示さなかったが、レプチン及びMIC−1は両方とも、ARCにおけるP−stat3の活性化を明白に誘導した(データ非表示)。染色パターンは、全身投与されたメディエーターで見られたパターンと類似しており、MIC−1注射は、ARCの側方部及び視床下部腹内側核(VMHDM、ventromedial hypothalamic nucleus)の背側部分にあるニューロンのstat3のリン酸化を誘導した。対照的に、レプチン注射は、ARCの背側部分、VMHDMの背側部分、及び視床下部外側野(LHA、lateral hypothalamic area)にあるニューロンのStat3経路を活性化する(データ非表示)。これにより、これらの2つのメディエーターが、視床下部の異なるニューロンのサブセットに作用することがさらに示される。
【0087】
考察
腫瘍のMIC−1過剰産生、及び前立腺癌を有する動物モデル及び患者の両方における、血清MIC−1レベルと体重減少との強い相関性は、MIC−1が、癌性食欲不振症/悪液質及びおそらくは心不全及び腎不全に伴うものなどの他の悪液質状態の病因に関与していることを示す。癌性食欲不振症/悪液質を示す人々の群におけるサイトカインレベルは、この合併症のない人々と比較して上昇していることは、多くの研究により記載されているが、MIC−1では明らかである、サイトカインレベルと体重減少の程度との直接的相関性を実証した者はいない。この関係性、並びに本明細書中で提供されている強力な一連の機構的データは、MIC−1が、視床下部ニューロンのTGF−βRII受容体に作用して食欲を減少させることを示し、MIC−1が癌関連食欲不振症及び体重減少の重要な原因であることを立証する。加えて、MIC−1に対する抗体により食欲不振症/悪液質が反転することは、この重度の障害を治療するために、治療用抗体(及び他のMIC−1アンタゴニスト)が使用できる可能性を示す。最後になるが、本明細書中で示された結果は、MIC−1が過小食を引き起こし、食餌摂取量及びエネルギー恒常性の主要な視床下部調節因子、NPY及びPOMC由来のα−MSHに直接影響を及ぼすことができることを示す。さらに、MIC−1は、食欲不振症、体重減少、並びに視床下部NPYの減少及びPOMC発現の増加というレプチン様効果を誘導するが、MIC−1により活性化されたNPY及びPOMCニューロンのサブセットは、レプチンと比較して異なる。これは、エネルギー恒常性の様々な局面を調節するニューロンのより多様な機能的ネットワークを示しており、まとめると、MIC−1は、食欲及び体重の中枢調節因子であり、その受容体複合体に加えて、癌性食欲不振症/悪液質及び肥満の両治療のための標的として、大きな可能性を提供することを実証する。
【0088】
本明細書の全体にわたって、「含む(comprise)」という単語、又は「含む(comprises)」若しくは「含んでいる(comprising)」などの変異形は、記載されている要素、整数、若しくはステップ、又は要素、整数、若しくはステップの群を包含することを意味するが、任意の他の要素、整数、若しくはステップ、又は要素、整数、若しくはステップの群の排除を意味しないことが理解されよう。
【0089】
本明細書中で言及された出版物はすべて、参照により本明細書中に組み込まれる。本明細書に含まれている文書、行為、物質、デバイス、又は物品などに関するいかなる議論も、もっぱら本発明に背景状況を提供するためだけである。これらのもののいずれか又はすべてが、従来技術基盤の一部を形成する、又は本発明の関連分野における通常の一般的知識であり、本出願の各特許請求の範囲の優先日前にオーストラリア又は他所に存在していたことの承認として受け取られるべきではない。
【0090】
当業者であれば、特定の実施形態で示された本発明に対して、広範に記載されている本発明の趣旨又は範囲から逸脱せずに、多数の変異及び/又は改変をなすことができることを理解するであろう。したがって、本実施形態は、あらゆる点で例示的であり、限定的とみなされるべきではない。
【0091】
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象のマクロファージ阻害性サイトカイン−1(MIC−1)の活性を調節する方法であって、前記対象に、形質転換増殖因子−β(TGF−β)に対するRII受容体を含むMIC−1受容体複合体と相互作用しその活性を調節する有効量の作用物質を、任意には薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤との混合物として投与することを含む方法。
【請求項2】
作用物質が、MIC−1受容体複合体と相互作用しその活性を調節する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
作用物質が、MIC−1の活性を阻害して、対象の食欲及び/又は体重の増加をもたらす、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
MIC−1過剰発現に関連する食欲不振症/悪液質の治療に用いるための、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
作用物質がTGF−βRII受容体と相互作用する、請求項2〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
TGF−βRII受容体が視床下部TGF−βRII受容体である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
作用物質が、ALK5阻害剤、MIC−1阻害性ペプチド断片及び模倣体、抗TGF−βRII抗体及びその断片、並びに抗RI抗体及びその断片からなる群から選択される、請求項2〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
作用物質が、MIC−1の活性を増強して、対象の食欲及び/又は体重の減少をもたらす、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
肥満の治療に用いるための、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
作用物質がTGF−βRII受容体と相互作用する、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
TGF−βRII受容体が視床下部TGF−βRII受容体である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
作用物質が、MIC−1刺激性ペプチド断片及び模倣体からなる群から選択される、請求項8〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
作用物質が、対象のMIC−1受容体複合体の量を調節する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
作用物質が、対象のMIC−1受容体複合体の量を減少させる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
作用物質が、MIC−1受容体複合体をコードする遺伝子(複数可)を標的とする触媒性及び阻害性オリゴヌクレオチド分子、及びMIC−1受容体複合体の転写又は翻訳の阻害剤からなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
作用物質が、内因性TGF−βRII受容体の量を減少させることにより、MIC−1受容体複合体の量を減少させる、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
TGF−βRII受容体が視床下部TGF−βRII受容体である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
MIC−1過剰発現に関連する食欲不振症/悪液質の治療に用いるための、請求項13〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
MIC−1過剰発現が癌に起因する、請求項4又は18に記載の方法。
【請求項20】
MIC−1過剰発現が慢性腎不全に起因する、請求項4又は18に記載の方法。
【請求項21】
マクロファージ阻害性サイトカイン(MIC−1)の活性を調節する能力について、作用物質をスクリーニングするための方法であって、
(i)前記作用物質を、形質転換増殖因子−β(TGF−β)に対するRII受容体を含むMIC−1受容体複合体又はそのモノマーと接触させるステップと、
(ii)前記MIC−1受容体複合体又はそのモノマーの活性における任意の変化を検出するステップと
を含む方法。
【請求項22】
MIC−1受容体複合体又はそのモノマーが、培養細胞の表面に備えられている、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
MIC−1受容体複合体又はそのモノマーの活性における変化が、erk1/2、P−stat3シグナル伝達分子、又はsmad及び/若しくはaktシグナル伝達経路の活性化、或いは活性化の欠如を検出することにより検出することができる、請求項21又は22に記載の方法。
【請求項24】
TGF−βRII受容体が視床下部TGF−βRII受容体である、請求項21〜23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
請求項21〜24のいずれかに記載の方法により同定される新規な作用物質。

【図1a−e】
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【図1f−h】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2010−536717(P2010−536717A)
【公表日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−520384(P2010−520384)
【出願日】平成20年8月18日(2008.8.18)
【国際出願番号】PCT/AU2008/001207
【国際公開番号】WO2009/021293
【国際公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(510029885)セントビンセンツ ホスピタル シドニー リミテッド (4)
【出願人】(510029999)ガーバン インスティテュート オブ メディカル リサーチ (2)
【Fターム(参考)】