説明

マクロライド類

【課題】マクロライド類、特にマクロラクタム マクロライド類を提供する。
【解決手段】(1R,9S,12S,13R,14S,17R,18E,21S,23S,24R,25S,27R)−12−[(1E−2−[(1R,3R,4R)−4−ヒドロキシ−3−メトキシシクロヘキシル]−1−メチルビニル]−17,21−ジエチル−1,14−ジヒドロキシ−23,25−ジメトキシ−13,19,27−トリメチル−11,28−ジオキサ−4−アザトリシクロ−[22.3.1.04,9]オクタコサ−18−エン−2,3,10,16−テトラオンなどの新規アスコマイシン類化合物を発酵によって、またはヒドロキシをクロロで置換し、同時にもしくは続いてエピマー化することによって、製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マクロライド類、特にマクロラクタム マクロライド類に関する。本発明は、式I:
【化1】

[式中、
はβ−配置のヒドロキシであり;そしてRはメチルであり、かつRとRの一方がエチルであって、他方はメチルであるか;
またはRはα−配置のクロロであり;そしてR、R、およびRのうちの1つがエチルであり、他の2つがメチルである]
の化合物の遊離形、および存在するならば塩形に関する。以下、本化合物を“本発明の化合物”と短く呼ぶ。
【0002】
式Iにおいて、Rがα−配置である場合、それは紙面の上側にあり、そしてそれがβ−配置である場合、それは紙面の下側にある。Rは、好ましくはα−配置のクロロである。RまたはRは、特にRは、好ましくはエチルである。
【0003】
本発明の化合物は、以降、下記のように略す:
−Rがヒドロキシであり、そして
がエチルであるとき:21−エチル−アスコマイシン(アスコマイシン);
またはRがエチルであるとき:27−エチル−アスコマイシン;
−Rがクロロであり、そして
がエチルであるとき:19−エチル−ASM;
またはRがエチルであるとき:21−エチル−ASM;
またはRがエチルであるとき:27−エチル−ASM;
すなわち、それぞれは:
−(1R,9S,12S,13R,14S,17R,18E,21S,23S,24R,25S,27R)−12−[(1E−2−[(1R,3R,4R)−4−ヒドロキシ−3−メトキシシクロヘキシル]−1−メチルビニル]−17,21−ジエチル−1,14−ジヒドロキシ−23,25−ジメトキシ−13,19,27−トリメチル−11,28−ジオキサ−4−アザトリシクロ−[22.3.1.04,9]オクタコサ−18−エン−2,3,10,16−テトラオン;
−(1R,9S,12S,13R,14S,17R,18E,21S,23S,24R,25S,27R)−12−[(1E−2−[(1R,3R,4R)−4−ヒドロキシ−3−メトキシシクロヘキシル]−1−メチルビニル]−17,27−ジエチル−1,14−ジヒドロキシ−23,25−ジメトキシ−13,19,21−トリメチル−11,28−ジオキサ−4−アザトリシクロ−[22.3.1.04,9]オクタコサ−18−エン−2,3,10,16−テトラオン;
−(1R,9S,12S,13R,14S,17R,18E,21S,23S,24R,25S,27R)−12−[(1E−2−[(1R,3R,4S)−4−クロロ−3−メトキシシクロヘキシル]−1−メチルビニル]−17,19−ジエチル−1,14−ジヒドロキシ−23,25−ジメトキシ−13,21,27−トリメチル−11,28−ジオキサ−4−アザトリシクロ−[22.3.1.04,9]オクタコサ−18−エン−2,3,10,16−テトラオン;
−(1R,9S,12S,13R,14S,17R,18E,21S,23S,24R,25S,27R)−12−[(1E−2−[(1R,3R,4S)−4−クロロ−3−メトキシシクロヘキシル]−1−メチルビニル]−17,21−ジエチル−1,14−ジヒドロキシ−23,25−ジメトキシ−13,19,27−トリメチル−11,28−ジオキサ−4−アザトリシクロ−[22.3.1.04,9]オクタコサ−18−エン−2,3,10,16−テトラオン;および
−(1R,9S,12S,13R,14S,17R,18E,21S,23S,24R,25S,27R)−12−[(1E−2−[(1R,3R,4S)−4−クロロ−3−メトキシシクロヘキシル]−1−メチルビニル]−17,27−ジエチル−1,14−ジヒドロキシ−23,25−ジメトキシ−13,19,21−トリメチル−11,28−ジオキサ−4−アザトリシクロ−[22.3.1.04,9]オクタコサ−18−エン−2,3,10,16−テトラオンである。
【0004】
21−エチル−アスコマイシンと27−エチル−アスコマイシンは、アスコマイシンの上位相同体であり、19−エチル−ASMと、21−エチル−ASMと、27−エチル−ASMは、ピメクロリムス(pimecrolimus)(ASM)(33−エピクロロ−33−デスオキシ−アスコマイシン)の上位相同体である。
【0005】
本発明の化合物は、
a)式中、Rがβ−配置のヒドロキシである、上記で定義した式Iの化合物を製造するために、適切な微生物を培養し、そして得られた培養物から、式中、Rがβ−配置のヒドロキシである、式Iの相当する化合物を単離すること;
または
b)式中、Rがα−配置のクロロである、上記式Iの化合物を製造するために、式中、Rがβ−配置のヒドロキシである、式Iの相当する化合物において、エピマー化しながらクロロでヒドロキシを置換すること;
そして得られた化合物の遊離形または存在するならば塩形を回収することを含む工程によって、製造し得る。
【0006】
本発明の工程は、慣用の方法で行われる。
方法a)において、アスコマイシンの上位相同体を、例えば不純物として生産する如何なるアスコマイシン生産微生物株も使用されてよく、より好ましくは、Streptomyces hygroscopicus 株が使用される。それらの菌株は、既知であり、かつ公的な寄託機関から入手可能である。より好ましくは、菌株は、アスコマイシンの上位相同体をかなりの量生産するものを用いるか、または培養条件は、アスコマイシン上位相同体の生産量を増量する生産が可能な条件を選ぶ。そのような菌株は、既知であり、容易に入手可能であるような、Streptomyces hygroscopicus subsp. ascomyceticus(例えば ATCC 14891, ATCC 53855, ATCC 55087, ATCC 55276, ATCC 55558, DSM 5085)、Streptomyces tsukubaensis No. 9993 (FERM BP-927), Streptomyces hygroscopicus subsp. yakushimaensis No. 7238 (FERM BP-928, NRRL 18488);またはそれらの天然のもしくは人工の変異株であり、かつアスコマイシン上位相同体の生産を増やす培養条件は、既知であるか、もしくは慣用の方法からたやすく決定し得る。便宜的に、適切な変異株は、上位相同体の増産を示すものを誘導するか、または慣用の方法で選択するか、または培養を、培地中のC4前駆体酪酸ナトリウムが高濃度であるような修飾した条件下で行い得る。
【0007】
方法b)は、置換反応と、同時に起こるまたは付随して起こるエピマー化である。反応は、例えば EP 427680 に記載したように実施し得る。反応は、好ましくはテトラヒドロフランまたはトルエンのような不活性な溶媒中で実施し得る。好ましくは、該反応は、テトラクロロメタンもしくはN−クロロ−スクシンイミドを用いて、トリフェニルホスフィンの存在下で、便宜的には、コリジン(collidine)のようなアルカリ性媒質中で行う。
【0008】
本発明の得られた化合物は、培養液または反応混合物から単離し、既知の方法と組み合わせて精製し得る。しかし、驚くべきことに、クロマトグラフ精製に、Kromasil(登録商標)のようなキラルな固相を用いることが、特に式中Rがクロロである、本発明の化合物の単離を著しく容易化する。
【0009】
出発物質と中間体の化合物は、既知であるか、または既知の方法もしくは既知の方法に類似した方法、または実施例で記載した方法に類似した方法で製造し得るかの何れかである。
【実施例】
【0010】
下記の実施例は、本発明を表す。これらは、制限的ではない。全ての温度は摂氏である。化合物は、特記しない限り遊離形である。下記の略号を用いる:
HPLC=高圧液体クロマトグラフィー
I.D.=内径
THF=テトラヒドロフラン
tlc=薄層クロマトグラフィー
%=重量パーセント(% w/w)
【0011】
実施例121−エチル−アスコマイシンおよび27−エチル−アスコマイシン[方法a)]
a)粗アスコマイシンは、半工業的なスケール(kg)で、EP 184162 の実施例4に記載された通りの、Streptomyces strain(ATCC 14891)の発酵によって製造し、特に向流抽出によって精製する(Res. Discl. 402 [October 1997] 725-726)。約35%のアスコマイシンと、15%の21−エチル−アスコマイシンと、10%の27−エチル−アスコマイシンを含む、粗生成物を得る。該物質は、さらにシリカゲルでろ過し、酢酸イソプロピル/n−ヘプタン 7/3 (v/v) を溶出液として、アスコマイシンを除いて精製する。約25%の21−エチル−アスコマイシンと、15%の27−エチル−アスコマイシンを含む、さらなる粗生成物を得る。
【0012】
b)上記のa)から得た1gの粗21−エチル−アスコマイシンを、3.5mlの酢酸イソプロピル/ヘプタン 7/3 (v/v) に溶解し、得られた注入用溶液を、300gのシリカゲル[Kromasil(登録商標) 100-5 SIL (Eka Nobel)]を固定相として含む、分取カラム(36cm×5cm I.D.)に注入する。酢酸イソプロピル/ヘプタン 7/3 (v/v) を移動相として、流速100ml/分で、室温で、該混合物を溶出する。UV検出は、245nmで行う。該アスコマイシン誘導体は、34.5分後に溶出し、1.1分の間隔でフラクションを取る。21−エチル−アスコマイシンは、フラクション13−28に集められる。プールしたフラクションを集め、真空下、40℃で、減圧乾固する。13回の繰り返し分取で、1gの表題化合物21−エチル−アスコマイシンを得る:
FAB−MS:フラグメントは、減少する順に:812 [M+Li]-,602,794,425;
2D−H−NMR:21−エチル=1.21ppm,1.50ppm(メチレン),0.87ppm(メチル)
【0013】
c)上記のa)から得た1gの粗27−エチル−アスコマイシンを、共溶出フラクション1−7を集めること以外、上記のb)で記載した通りに処理する。プールしたフラクションを集め、真空下、40℃で減圧乾固する。379mgの得られた残さを、30mlのn−ヘキサン/エタノール/メタノール 90/5/5 (v/v) に溶解し、2.0kgのアミロース トリス(3,5−ジメチルフェニルカルバメート)(シリカゲルでコートされている)(Chiralpak-AD(登録商標))を含む、分取カラム(40cm×10cm I.D.)に、得られた溶液を注入する。溶出は、n−ヘキサン/エタノール/メタノール 90/5/5 (v/v/v) を移動相として、流速150ml/分で、室温で行う。UV−検出は、210nmで行う。27−エチル−アスコマイシンは、60分と80分の間に溶出する。27−エチル−アスコマイシンを含むフラクションを集め、真空下、40℃で減圧乾固し、120mgの表題化合物27−エチル−アスコマイシンを得る:
FAB−MS:フラグメントは、減少する順に:828.6 [M+Na]+,508.3, 423.0, 563.6;
2D−H−NMR:27−エチル=1.59ppm,1.19ppm(メチレン),0.92ppm(メチル)
【0014】
実施例219−エチル−ASM[方法b)]
a)ASMを、半工業的なスケール(kg)で、EP 427680 の実施例66aに記載された方法を用いて、粗アスコマイシンから出発し、シリカゲルで、40−45℃で、ヘプタン/tert−ブチルメチルエーテル(水で飽和された)/イソプロパノール 200/50/8 (v/v) を溶出液として用いて、クロマトグラフ精製を行う。クロマトグラフィーにかけ、56%の粗19−エチル−ASMを含有する副フラクションを得る。
【0015】
b)分取tlcは、17mgの上記のa)で得られた粗生成物を、1mlの塩化メチレンに溶解し、tlcプレート(Merck 5715,20 x 20 cm I.D.)に負荷して行う。クロマトグラムは、ペンタン/イソプロパノール 9/1 (v/v) を移動相として用い、18cm以内の長さで展開する。19−エチル−ASM(Rf=0.35)を含むゾーンをtlcプレートから取り、2mlのペンタンで洗浄する。生成物は、5mlのアセトニトリルで抽出し、真空下、60℃で乾燥し、4.4mgの表題化合物を純度90%で得る:
FAB−MS:フラグメントは、減少する順に:830 [M+Li]+,602,313,578,788;
2D−H−NMR:19−エチル=2.17ppm,1.82ppm(メチレン),0.98ppm(メチル)
【0016】
実施例319−エチル−ASM[方法b)]
表題化合物は、以下の実施例4に記載の方法と類似した方法で、19−エチル−アスコマイシン、すなわち(1R,9S,12S,13R,14S,17R,18E,21S,23S,24R,25S,27R)−12−[(1E−2−[(1R,3R,4R)−4−ヒドロキシ−3−メトキシシクロヘキシル]−1−メチルビニル]−17,19−ジエチル−1,14−ジヒドロキシ−23,25−ジメトキシ−13,21,27−トリメチル−11,28−ジオキサ−4−アザトリシクロ[22.3.1.04,9]オクタコサ−18−エン−2,3,10,16−テトラオン(B. Junker et al., Biotechnol. Bioeng. 59 [1998] 595-604)から出発して得られる:
FAB−MS:フラグメントは、減少する順に:830 [M+Li]+,602,313,578,788;
2D−H−NMR:19−エチル=2.17ppm,1.82ppm(メチレン),0.98ppm(メチル)]
【0017】
実施例421−エチル−ASM[方法b)]
a)0.733gの21−エチル−アスコマイシン[上記の実施例1のb)参照]を、2回2.5mlのトルエンに溶解し、真空下、50℃で減圧蒸留する。別の25mlのフラスコ中で、0.298gのトリフェニルホスフィンを4.7mlのテトラヒドロフランに溶解し、0.152gのN−クロロ−スクシンイミドを加え、該懸濁液を室温で30分間攪拌する。その懸濁液に、0.202mlのs−コリジンを加え、次に上記の乾燥した21−エチル−アスコマイシンの、3.9mlのテトラヒドロフラン溶液を加える。溶液は、最後に1.5時間50℃まで加熱し、次いで室温まで冷却する。16.6mlのシクロヘキサンを加え、有機相を、0.18gのクエン酸と3.5mlの水と3.5mlのメタノールの混合液で抽出する。有機相を再度7mlのメタノール/水 1/1 (v/v) で2回抽出し、合わせた水相を10mlのシクロヘキサンで逆抽出する。溶媒を50℃で減圧蒸留し、0.79gの粗21−エチル−ASMを得る。
【0018】
b)上記のa)から得た0.1gの粗生成物を、1.0mlのエタノールに溶解し、得られた溶液を、55gの逆相シリカゲル [Kromasil(登録商標)RP-18 (5μm)]を固定相として含む、分取カラム(25cm×2cm I.D.)に注入する。70%の溶媒B[溶媒A=水/リン酸 1000/1 (v/v);溶媒B=アセトニトリル/tert−ブチルメチルエーテル 825/175 (v/v) ]を移動相として、流速15ml/分、60℃で、生成物を溶出する。UV−検出は、210nmで行う。21−エチル−ASMを11.5分と12.0分の間で溶出する。生成物のフラクションの有機溶媒を、真空下、50℃で減圧蒸留し、残った水相を15mlの塩化メチレンで2回抽出する。塩化メチレンを最後に真空下、50℃で減圧蒸留し、30mgの表題化合物を得る:
FAB−MS:フラグメントは、減少する順に:830 [M+Li]+,397,149;
2D−H−NMR:21−エチル=1.30ppm,1.20ppm(メチレン),0.90ppm(メチル)
【0019】
実施例527−エチル−ASM[方法b)]
a)135mgの27−エチル−アスコマイシン[上記の実施例1のc)参照]を、1.4mlのトルエンに溶解し、溶媒を60℃/80−20mbarで蒸発させて除く。残さを0.36mlのTHF(<0.01% HO)に溶解する。別のフラスコ中で、0.4mlのTHF中の41.4mgのトリフェニルホスフィンと、21.1mgのN−クロロ−スクシンイミドを、20℃で0.5時間攪拌し、次いで27.4mgのs−コリジンを加え、次に30μlのTHFでリンスした27−エチル−アスコマイシンの溶液を添加する。その懸濁液を50−53℃で2時間加熱し、HPLC−分析を行う。反応が完了した時、混合物を30℃まで冷却し、そして1.25mlのシクロヘキサンを加え、次に0.53mlの水/メタノール 1/1 (v/v) に溶解した、26.1mgの無水クエン酸を加える。上の相を分離し、2×0.3mlの水/メタノール 1/1 (v/v) で洗浄する。水相を2×0.3mlのシクロヘキサンで抽出する。合わせた有機相を50℃/80−20mbarで減圧蒸留し、109mgの粗27−エチル−ASM(褐色の樹脂状物)を得る。
【0020】
b)上記のa)から得た0.052gの粗生成物を、1.0mlのアセトニトリルに溶解し、得られた注入液を55gの逆相シリカゲル[Kromasil(登録商標) RP-18 (5μm)]を固定相として含む、分取カラム(25cm×2cm I.D.)に、注入する。アセトニトリル/水/tert−ブチルメチルエーテル 700/300/50 (v/v/v) を移動相として、流速15ml/分、60℃で、生成物を溶出する。UV−検出は、210nmで行う。27−エチル−ASMは、15.0分と25.0分の間に溶出する。生成物のフラクションの有機溶媒を蒸留し、12.4mgの表題化合物を得る:
FAB−MS:フラグメントは、減少する順に:846.7 [M+Na]+,810.5, 433;
2D−H−NMR:27−エチル=1.20ppm,1.20ppm(メチレン),0.90ppm(メチル)
【0021】
本発明の化合物は、初めにアスコマイシンとASMのそれぞれの製造において、スケールアップする際に、不純物として検出されている。それらを単離し同定した結果、予期しないことに、それらは重要な、驚くほど強い薬理活性を有することが見出された。それらは、従って医薬としての使用が示唆される。特に、それらは免疫抑制活性と、抗超増殖活性と、抗炎症活性を有する。
【0022】
抗炎症活性は、例えば下記の試験方法で決定し得る:
オキサゾロン−誘発性アレルギー性接触性皮膚炎(マウス)
[F. M. Dietrich and R. Hess, Int. Arch. Allergy 38 (1970) 246-259]:
本発明の化合物は、1回の局所適応で、0.1mM溶液としては約10%から約50%まで、1mM溶液としては約40%から約60%まで、炎症性腫脹を阻害する。
【0023】
免疫抑制活性および抗超増殖活性は、例えば下記の試験方法で決定し得る:
樹状細胞による、ヘルパーT−細胞クローンのアレルゲン−介在刺激
[Br. J. Dermatol. 141 (1999) 264-273]:
本発明の化合物は、約0.1nMから約10nMの投与で、特にアスコマイシン類似物に関しては約0.1nMから約1nMの投与で、かつASM類似物に関しては約1nMから約10nMの投与で、刺激を阻害する(IC50)。
【0024】
該活性は、さらに上記のヘルパーT−細胞クローンと単球誘発性樹状細胞でさらに試験することで、明示される:
CD4抗原特異的なヒトのヘルパーT−細胞クローン(TCC)を、希釈培地に制限することによって確立する(Van Reijsen T. C. et al., J. Allergy Clin. Immunol. 90 [1992] 184-193)。
TCCは、MHC クラスII 制限分子 HLA−DPw4(Baselmanns P. J. et al., Human Immunol. 61 [2000] 789-798)と組み合わせて、主要なアレルゲンであるハウスダストダニ Dertnatophagoides pteronyssinus (Dpt)のDer p1から誘導されるペプチドを認識する。アッセイの目的に十分な細胞の数を得るために、TCCは、in vitro で、固定した抗−CD3モノクローナル抗体(Leu-4, Becton Dickinson, San Jose, CA, USA)で活性化し、rIL−2とrhIL−4(各々50U/ml)(Van Reijsen et al., supra)を供給した完全培地中で培養することによって拡大する。
【0025】
ヒトの単球誘発性樹状細胞(M−DC)を、RPMI 1640培地中で、細胞密度7x10細胞/mlで培養することによって精製した単球で一般化する。該培地は、15%のFCSと、rh−GM−CSF(300U/ml)と、rh−IL−4(100U/ml)で供給する。培養から7日で、流量血球計算によって確かめられたように、90−95%の細胞がM−DCの表現型を発現し、TCCの抗原特異的な刺激に用いられる。TCCは、細胞が休止状態にあることを確かめるために、抗原または抗−CD3 mAbによって最後のチャレンジをした、少なくとも14日後に用いられる。抗原特異的な刺激において、50μg/mlのDpt (ARTU Biologicals NV, Lelystad, The Netherlands) の抽出液を含む培地中で、M−DCを一晩(少なくとも12時間)インキュベートする。用いた主要なアレルゲン Der p1の内容は、約18.5μg/mgのDpt抽出物である。M−DCを2回洗浄し、最終的なM−DCの数の一部の50μlを、100μlの培地中の、ウェル当たり5×10個のT−細胞に加え、M−DC/T−細胞の比を1/50とする。この後すぐに、試験化合物の4倍最終濃度50μlを加える。各試料は4回試験する。試験化合物はエタノールに溶解して、1mMの保存溶液を提供し、完全培養液で1/1000に希釈する。完全培養液はまた、最終的な試験化合物の希釈を行うのに用いる。T−細胞増殖は、1μCi/20μl/ウェルの(メチル−)H−チミジン(Amersham, U. K.)で、4日間の培養期間の最後の16時間、パルスをあてることによって決定される。
【0026】
下記のIC50の値が得られている:
【表1】

【0027】
本発明の化合物の遊離形と、存在するならば薬学的に許容され得る塩形は、従って、炎症状態および免疫抑制を要する状態の予防および処置に使用するための、抗炎症薬および免疫抑制剤および抗増殖薬として示される。例えば:
a)乾癬、アトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎、さらに湿疹性皮膚病、脂漏性皮膚炎、Lichen Planus、天疱瘡、類天疱瘡、表皮水泡症、脈管炎、紅斑、皮膚好酸球増加症、エリテマトーデス、およびアクネのような炎症性および超増殖性皮膚疾患の処置;
b)外因性喘息、鼻炎、結膜炎、アトピー性湿疹、蕁麻疹/血管浮腫、食物アレルギー/薬物アレルギー、および過敏症のようなアレルギー性疾患の予防および処置;
c)−例えば心臓、腎臓、肝臓、骨髄、および皮膚などの器官または組織の移植の状態における耐性、
−骨髄移植後のような移植片−対−宿主病、
−リウマチ性関節炎、全身性エリテマトーデス、ハシモト甲状腺炎、多発性硬化症、重症筋無力症、タイプI型糖尿病、およびブドウ膜症のような自己免疫性疾患、
−免疫介在疾患の皮膚症状、
−腸疾患;および
d)円形脱毛症
の予防および処置。
【0028】
本化合物は、全身にまたは局所に投与し得る。上記の適応において、適切な用量は、例えば宿主、投薬方法、および処置すべき状態の性質および重症度に依存して、当然に変化する。しかし、一般的に、満足し得る結果は、全身に、1日の用量が約0.15mg/kg動物体重から約1.5mg/kg動物体重である時得られる。より大きな哺乳類に用いられる1日の用量は、約0.01mgから約100mgであり、便宜的には、例えば1日に4回までの分割用量で、または徐放形で投薬し得る。局所の使用においては、満足し得る結果は、活性な物質の重量で約1%から約3%の濃度で、1日に数回、例えば2から5回の局所の投与で得られる。用いた生薬の形態の実施例は、外用水薬、ゲル、クリーム、スプレー、および溶液である。
【0029】
本発明の化合物は、何れかの慣用の経路で、特に経腸で、例えば経口で、錠剤またはカプセルの形態で、または局所で、例えば外用水薬、ゲル、クリーム、スプレー、眼病用溶液、鼻用溶液、またはエアゾールなどの、皮膚および目、呼吸管、膣、口腔および鼻腔の粘膜の局所の処置のために投薬し得る。
【0030】
例えば局所の適応のための、少なくとも1つの薬学的に許容され得る担体または希釈剤と組み合わせた、本発明の化合物の遊離形または存在するならば塩形を含む医薬組成物は、慣用の方法で、薬学的に許容され得る担体または希釈剤と混合することによって製造され得る。単位用量形は、例えば約0.0025mgから約50mgの活性な物質を含む。
【0031】
局所の投薬は、例えば皮膚への投薬である。局所の投薬のさらなる形態は目への投薬であり、例えば目の免疫介在状態の予防または処置のためであり、例えばブドウ膜炎、角膜移植性角膜炎、慢性角膜炎などの自己免疫疾患;春季結膜炎などのアレルギー状態;炎症状態および角膜移植;および緑内障のような目の免疫介在状態の予防または処置のためであり、薬学的に許容され得る眼病用の賦形剤中の、目の表面への本発明の化合物の遊離形または存在するならば薬学的に許容され得る塩形の投与である。
【0032】
眼病用の賦形剤は、角膜、および例えば前眼房、後眼房、硝子体、眼房水、硝子液、角膜、虹彩/毛様態、レンズ、脈絡膜/網膜、および強膜などの目の内部領域に、本化合物が浸透するのに十分な時間、目の表面に接触している状態を保持するものである。薬学的に許容され得る眼病用の賦形剤は、例えば軟膏、植物油、または被包性物質であり得る。
【0033】
抗炎症活性、免疫抑制活性、および抗増殖活性は、本発明の化合物の主要な活性であるが、本発明の化合物はまた、化学的薬物療法の感度を上げるか、または効果を上げるという活性もある程度有する。該活性は、例えば EP 360760 で記載された試験方法に従って決定し得る。
【0034】
本発明の化合物は、従って、例えば獲得したまたは内在的な様々なタイプの化学療法的な薬剤の耐性を逆転させる、または投与された薬剤療法への感度を上げることにおける、例えば、抗腫瘍薬物療法、もしくは抗細胞分裂停止薬物療法において、化学療法の全用量レベルを減少させる手段として、より特別には化学療法への遺伝的および獲得した耐性の両方を含む耐性を、逆転させるまたは減少させる手段としての使用を示される。
【0035】
本発明は、従って本発明の化合物の遊離形または存在するならば薬学的に許容され得る塩形の、医薬としての使用;医薬として使用するための本発明の化合物;炎症状態または免疫抑制を要する状態の予防または処置のための医薬の製造における本発明の化合物の使用;少なくとも1つの薬学的に許容され得る担体または希釈剤と共に、本発明の化合物を混合することを含む、医薬組成物の製造方法;および炎症状態および免疫抑制を要する状態の処置が必要な患者に、治療上効果的な量の本発明の化合物を投与することを含む、炎症状態および免疫抑制を要する状態の予防方法または処置方法に関する。
【0036】
本発明の化合物は、唯一の活性な薬剤として、または便宜的には、1もしくはそれ以上のさらに薬学的に活性で、かつ混合可能な薬剤、例えばマクロラクタム マクロライド類、より好ましくはアスコマイシン自身またはASMのようなアスコマイシン誘導体と、組み合わせて、または共に、投与し得る。
【0037】
本発明の化合物はまた、少なくとも1つの薬学的に許容され得る担体もしくは希釈剤と共に、任意に1もしくはそれ以上のさらに薬学的に活性でかつ混合しても各々の作用に影響がない薬剤、例えばマクロラクタム マクロライド類、より好ましくはアスコマイシン自身もしくはASMのようなアスコマイシン誘導体と組み合わせた、または共に、本発明の化合物の遊離形または存在するならば薬学的に許容され得る塩形を含む医薬組成物に関する。本発明の化合物は、広く様々な量で組み合わせ得、各活性な薬剤の重量で、例えば約99%から約1%、または一般的には約90%から約10%、またはマクロラクタム マクロライド類、より好ましくはアスコマイシン誘導体、特にアスコマイシン自身もしくはASMと組み合わせた、もしくは共に用いた場合では、同様の薬学的なプロフィールの観点から、約99.99%から約0.01%、例えば約99.9%から約0.1%、または約95%から約5%であり得る。
【0038】
適切なアスコマイシン誘導体は、例えば EP 184162, EP 315978,EP 323042, EP 423714, EP 427680, EP 465426, EP 474126, WO 91/13889, WO 91/19495,EP 484936, EP 523088, EP 532089, EP 569337, EP 626385, WO 93/5059 および WO 97/8182 で記載されたものであり;特に:
−アスコマイシン自身;
−タクロリムス (FK506 ; Prograf(登録商標)) ;
−イミダゾリルメトキシアスコマイシン(WO 97/8182 の実施例1および式Iの化合物);
−32−O−(1−ヒドロキシエチルインドール−5−イル)アスコマイシン(L-732531)(Transplantation 65 [1998] 10-18,18-26,pp.11, Figure 1;および
−(32−デスオキシ,32−エピ−N1−テトラゾリル)アスコマイシン(ABT-281)(J. Invest. Dermatol. 12 [1999]729-738,pp.730, Figure 1)であり;
より好ましくは:
−{1R,5Z,9S,12S−[1E−(1R,3R,4R)],13R,14S,17R,18E,21S,23S,24R,25S,27R}−17−エチル−1,14−ジヒドロキシ−12−[2−(4−ヒドロキシ−3−メトキシシクロヘキシル)−1−メチルビニル]−23,25−ジメトキシ−13,19,21,27−テトラメチル−11,28−ジオキサ−4−アザトリシクロ[22.3.1.04,9]オクタコサ−5,18−ジエン−2,3,10,16−テトラオン(EP 626385 の実施例8);
−{1E−(1R,3R,4R)]1R,4S,5R,6S,9R,10E,13S,15S,16R,17S,19S,20S}−9−エチル−6,16,20−トリヒドロキシ−4−[2−(4−ヒドロキシ−3−メトキシシクロヘキシル)−1−メチルビニル]−15,17−ジメトキシ−5,11,13,19−テトラメチル−3−オキサ−22−アザトリシクロ[18.6.1.01,22]ヘプタコサ−10−エン−2,8,21,27−テトラオン(EP 569337 の実施例6dおよび71)であり;
特に:
−ピメクロリムス(ASM)(EP 427680 の実施例66a;33−エピクロロ, 33−デスオキシアスコマイシン)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I:
【化1】

[式中、
は、β−配置のヒドロキシであり;そしてRはメチルであり;そしてRとRのうち一方がエチルであり、他方がメチルであるか;
またはRはα−配置のクロロであり;そしてR、R、およびRのうち、1つがエチルであり、他の2つがメチルである]の化合物の遊離形または存在するならば塩形。
【請求項2】
a)式中、Rはβ−配置のヒドロキシである、請求項1で定義した式Iの化合物を製造するために、適切な微生物を培養し、得られた培養物から、式中Rはβ−配置のヒドロキシである、請求項1で定義した式Iに相当する化合物を単離すること;
またはb)式中、Rはα−配置のクロロである、請求項1で定義した、式Iの化合物を製造するために、式中Rがβ−配置のヒドロキシである、式Iの相当する化合物において、エピマー化しながらヒドロキシをクロロで置換すること;
そして得られた化合物の遊離形または存在するならば塩形を回収することを含む、請求項1に記載の化合物の製造方法。
【請求項3】
少なくとも1つの薬学的に許容され得る担体もしくは希釈剤と共に、請求項1で定義した化合物の遊離形、もしくは存在するならば薬学的に許容され得る塩形を含む医薬組成物。
【請求項4】
該化合物を、さらに薬学的に活性でかつ混合可能な薬剤と組み合わせた、もしくは共に用いる、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
当該化合物がASMと組み合わせられ、もしくは共に用いられる、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
少なくとも1つの薬学的に許容され得る担体または希釈剤と、該化合物を混合することを含む、請求項3に記載の医薬組成物の製造方法。
【請求項7】
医薬として使用するための、請求項1に定義した化合物の遊離形、または存在するならばその薬学的に許容され得る塩形。
【請求項8】
炎症状態または免疫抑制を要する状態の予防もしくは処置に使用するための、請求項1に定義した化合物、またはその薬学的に許容され得る塩形。
【請求項9】
炎症状態または免疫抑制を要する状態を予防するもしくは処置するための医薬の製造における、請求項1に定義した化合物の使用。
【請求項10】
炎症状態または免疫抑制を要する状態の処置が必要な患者に、治療上効果的な量の請求項1に定義した化合物の遊離形または存在するならば薬学的に許容され得る塩形を、投与することを含む、炎症状態または免疫抑制を要する状態を、予防するまたは処置する方法。

【公開番号】特開2007−254483(P2007−254483A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−124376(P2007−124376)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【分割の表示】特願2001−586297(P2001−586297)の分割
【原出願日】平成13年5月21日(2001.5.21)
【出願人】(597011463)ノバルティス アクチエンゲゼルシャフト (942)
【Fターム(参考)】