説明

マスク収納容器及びその開放方法

【課題】内部の清浄度の値を非常に低い値に保って、パターン転写用マスクを収納することが可能なマスク収納容器を提供する。
【解決手段】外皿101と、内部に密閉空間100aを形成するように当該外皿101と合わさる外蓋103とを備え、レチクル107を収納するマスク収納容器100において、外蓋103と外皿101とを合わせた際に、前記密閉空間100aの内部にレチクル107を収納するマスク空間100bを形成する内蓋104及び内皿102と、レチクル107を収納したマスク収納容器100の外皿101から外蓋103を外す際に、所定の清浄度よりも低い清浄度を有するガスを前記マスク空間100bへ導入するための逆止弁付封入口111とを備えることを特徴とするマスク収納容器100を提供する。
当該構成により、内部の清浄度の値を非常に低い値に保って、レチクル107を収納することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体プロセスにおいて、製品及びプロセスに付随するパターン転写用マスク(フォトマスク等の半導体装置製造用部材)のマスク収納容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、フォトリソグラフィー技術に用いられるパターン転写用マスクを収納するマスク収納容器は、プラスチックから構成される外皿と外蓋とから構成される。外皿には、パターン転写用マスクを保持する保持体が設けられており、マスク収納容器内に収納されるパターン転写用マスクは、パターン転写用マスクのペリクル面を下にした状態で保持される。
【0003】
ペリクルとは、半導体デバイスパターン(以下、パターンという)に付されたパターン保護膜のことであり、パターン面に塵埃などの異物が付着するのを防止するものである。このペリクルにより、異物が付着したパターンに対応する不良パターンがウェハ上に転写されることを防止し、半導体装置の生産性の向上を図っている。
【0004】
しかしながら、近年のパターン転写用マスクのパターン微細化によって、そのパターン面が汚染され易くなっている。例えば、従来のパターン面と比較して、微細化されたパターン面は、静電気や些細な異物の影響を受け易い。そのため、上述したマスク収納容器に保管したパターン転写用マスクのパターン面が静電気により容易に破壊されたり、ペリクルがあるにも関わらず、パターン転写用マスクのパターン面が些細な異物の付着により容易に汚染される。このような問題は、半導体製造工程における製品の品質・歩留まりの低下を引き起こしている。
【0005】
上述した静電気によるパターン面の破壊と、異物の付着によるパターン面の汚染との原因の一つは、製品や半導体ウェハ、パターン転写用マスクを収納するマスク収納容器であることが判明しつつある。つまり、マスク収納容器の構成・設計、それに伴うマスク収納容器の機能制御を行うことによって、上述したパターン面の破壊や汚染を防止し、半導体デバイスの製品の品質・歩留まりの向上を図ることができるのである。
【0006】
上述した問題を解決するために、特開2001−253491号公報(特許文献1)には、半導体装置製造用部材を載置する底皿と、前記底皿に蓋をする上蓋とを有する半導体装置製造用部材の収納運搬ケースを改良した技術が開示されている。
【0007】
図8は、特許文献1に記載の半導体装置製造用部材の収納運搬ケースの構造を示す断面図である。図8に示すように、収納運搬ケース810の底皿811には、縮小型投影露光装置で使用されるパターン転写用マスクであるレチクル812を中空に浮かせて載置するレチクル保持体813が備えられている。レチクル812は、そのガラス面814を上に、パターンが形成されているペリクル面815を下に向けてレチクル保持体813に載置される。レチクル保持体813を介して底皿811に載置されたレチクル812は、上蓋816を底皿811に接触させることにより収納運搬ケース内に密閉される。上蓋816を底皿811に接触させるとは、上蓋816の周縁部の下面全てを底皿811の上面に接触させることである。上蓋816の周縁部の下面全てを底皿811に接触させると、その両面間に間隙が生じることがなく、収納運搬ケース810に密閉された内部空間810aが形成される。
【0008】
密閉された収納運搬ケース810が開放される場合は、収納運搬ケース810の底皿811が、上蓋816から下降して、上蓋816を底皿811から外すよう構成されている。
【0009】
この収納運搬ケース810では、前記底皿811の材質は、カーボンを添加したポリカーボネートにより形成し、上蓋816の材質は、非導電性プラスチックにより形成することで、レチクル812のパターン面へ異物が付着することを抑制し、かつそれらのデバイスパターンが静電気により破壊されることを防止することができるとしている。
【特許文献1】特開2001−253491号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、上述したパターンの微細化に伴い、異物によるパターン面の汚染を防止するために、露光装置を取り巻く周辺機器のクリーン化への要求がより一層高まってきているとともに、露光装置の光源から照射される光の波長に、より短い波長を有する光を用いる要求も高まってきている。
【0011】
より短い波長を有する光を用いる技術として、紫外線の波長と比較して、波長13.5nmという極端に波長の短い光を用いたEUVL(Extreme Ultra Violet:極端紫外線露光技術)が挙げられる。このEUVLは、縮小投影露光技術に準じた方法を転用することができる技術であるとともに、光の波長を限界まで短くした技術である。なお、このような技術を採用した半導体装置の製造は、2009年に量産を開始することが見込まれている。
【0012】
このEUVLでは、光の波長が極端に短いという特徴から生じる問題がある。例えば、光の波長13.5nmに対応する波長領域では、その光を屈折させて拡散や集束などをするためのレンズ材料が存在しない。そのため、EUVLでは、従来技術からの屈折レンズを使用することができず、多層膜反射鏡を使用しなければならない。この多層膜反射鏡の反射率は、波長13.5nmの光で67%程度であり、光は反射を繰り返すことによってその強度が減衰されるため、当該光が、ペリクル面を透過することができないという問題がある。そのため、EUVLで使用するレチクルには、異物に対するパターン保護膜であるペリクルを使用することができず、異物をパターン面へ付着させないようにするために、収納運搬ケース内の清浄度を非常に低い値に保つ必要がある。なお、空間の清浄度が低いことは、その空間は清浄であることを示す。
【0013】
ところが、図8で示した特許文献1の収納運搬ケース810では、収納運搬ケース810の開閉を繰り返すことによって、上蓋816の周縁部の下面全てと底皿811の上面との接触面が磨耗し、収納運搬ケース810自体から必然的に異物が発生する。さらに、収納運搬ケース810の上蓋816と底皿811とから構成される内部空間810aは密閉されるため、収納運搬ケース810を開放する際に、収納運搬ケース810の内部空間810aの体積が膨張し、収納運搬ケース810の内部空間810aの気圧が大気圧よりも一時低くなる状態が発生する。この状態を陰圧状態という。当該陰圧状態では、内部空間810aが、上述した上蓋816と底皿811との間から外部の空気を引き込むため、前記接触面に発生した異物もその空気とともに引き込むこととなり、内部空間810aが異物で汚染されることになる。収納運搬ケース810内部に混入した異物は容易にレチクル812のパターン面に付着可能であるため、結果として、特許文献1の収納運搬ケース810では、レチクル812のパターン面への異物の付着を防止することが出来ないという問題がある。特に、パターン保護膜であるペリクルを使用することができないEUVL用のレチクルを保管する場合、上述した問題は、より顕著に現れる。
【0014】
そこで、本発明は、前記問題を解決するためになされたものであり、内部の清浄度の値を非常に低い値に保って、パターン転写用マスクを収納することが可能なマスク収納容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るマスク収納容器は、外皿と、内部に密閉空間を形成するように当該外皿と合わさる外蓋とを備え、前記密閉空間にパターン転写用マスクを収納するマスク収納容器を前提とする。
【0016】
パターン転写用マスクとは、フォトマスク等の半導体装置製造用部材のことであり、例えば、縮小型投影露光装置で使用されるレチクルを採用することができる。レチクルには、ペリクルを備えても備えなくても構わない。
【0017】
外皿と外蓋は、外蓋と外皿とを合わせた際に密閉空間を形成する形状であれば、どのような形状でも構わないが、例えば、外皿は、収納されるパターン転写用マスクのパターン面の面積よりも大きい面積を有する平面視で正方形または長方形の板状物を採用することができる。また、例えば、外蓋は、収納されるパターン転写用マスクのパターン面の面積よりも大きい面積を有する平面視で正方形または長方形を有し、その正面視の断面を逆凹状とする蓋を採用することができる。外皿に外蓋を載置させると、外蓋の周縁部の下面全てが外皿の上面に接触し、内部に密閉空間を形成するように構成される。
【0018】
なお、外皿が上述した蓋の形状であり、外蓋が上述した板状物でも構わない。また、外皿または外蓋における平面視で正方形または長方形の形状を、円形または楕円形の形状に変更しても構わない。
【0019】
密閉空間とは、マスク収納容器の外部と独立した空間のことであり、例えば、外蓋が外皿に合わさるまたは接触されることによって、外部に存在する異物が内部に侵入することができない空間のことである。密閉空間を形成するために、外蓋または外皿のいずれかの、外蓋と外皿との接触面の位置に、シール部材を設置するよう構成しても構わない。
【0020】
当該マスク収納容器において、外蓋に外皿を合わせた際に、密閉空間の内部にパターン転写用マスクを収納するマスク空間を形成する内蓋及び内皿と、パターン転写用マスクを収納したマスク収納容器の外皿から外蓋を外す際に、所定の清浄度よりも低い清浄度を有するガスを前記マスク空間へ導入するための逆止弁付封入口とを備える。
【0021】
内蓋及び内皿は、外蓋と外皿とを合わせた際に密閉空間の内部にマスク空間を形成する形状であれば、どのような形状でも構わないが、例えば、内皿は、外皿の面積よりも小さく、収納されるパターン転写用マスクのパターン面の面積よりも大きい面積を有する平面視で正方形または長方形の板状物を採用することができる。また、例えば、内蓋は、外蓋の面積よりも小さく、収納されるパターン転写用マスクのパターン面の面積よりも大きい面積を有する平面視で正方形または長方形を有し、その正面視の断面を逆凹状とする蓋を採用することができる。マスク空間を形成するために、外皿の上方に内皿を支持させ、外蓋を外皿に合わせた際に、当該内皿に内蓋が覆い被さるように、外蓋の下方に内蓋を支持させる構成を採用することができる。
【0022】
なお、内皿が上述した蓋の形状であり、内蓋が上述した板状物でも構わない。また、内皿または内蓋における平面視で正方形または長方形の形状を、円形または楕円形の形状に変更しても構わない。
【0023】
また、マスク空間にパターン転写用マスクが収納されることから、例えば、内皿に、パターン転写用マスクを保持するためのマスク保持体が備えられる。
【0024】
逆止弁付封入口は、マスク空間に所定の清浄度よりも低い清浄度を有するガスを導入する孔であれば、どのように設けられていても構わないが、例えば、外皿と内皿とを貫通して、外皿の下方から内皿の上面にガスを導入し、マスク空間にガスを充満するよう構成される。封入口の数は、1箇所でも複数個所でも構わない。
【0025】
封入口に取り付けられる逆止弁は、ガスがマスク空間に導入されない場合は、封入口を塞ぎ、ガスがマスク空間に導入される場合は、封入口を開くよう構成される。逆止弁は、マスク空間と接することとなるため、アウトガスを発生しない材料で構成される方が好ましい。
【0026】
また、逆止弁がマスク空間と導入するためのガスを蓄えている空間とを遮断する際に、封入口と接してもその接触面から異物が発生しないよう、封入口もアウトガスを発生しない材料で構成される方が好ましい。
【0027】
所定の清浄度よりも低い清浄度と有するガスは、例えば、0.1μmの異物が1個/cf以下であり、露点が−110℃以下である高純度窒素ガス(Pure N2)を採用することが出来るが、これに限られるものではない。なお、清浄度は、JIS Z 8122(コンタミネーションコントロール用語)において、対象物の清浄状態を示す量と定義され、一定の面積あるいは体積に含まれている制御対象物質(汚染物質)の大きさ、個数、質量で示される値である。単位は、単位体積当たりの異物の個数を示す個/cfであり、cfはCubic Feetの略である。
【0028】
また、マスク収納容器は、外蓋と外皿とを合わせた際に、内蓋と内皿との間に、前記マスク空間と前記密閉空間とを連通する所定の間隙を有し、パターン転写用マスクを収納したマスク収納容器の外蓋の開放を開始してから所定の時間が経過するまで、その開放に伴って内蓋と内皿のいずれか一方を他方に対して相対的に移動させても、前記間隙が維持されるよう構成することができる。
【0029】
当該構成は、どのような構成でも構わないが、例えば、以下の構成を採用することができる。
【0030】
平面視で正方形の板状物である内皿に、平面視で正方形を有し、その断面が逆凹状の蓋である内蓋を合わせた際に、内皿の周縁部と内蓋の内側面との間に所定の間隙を有するよう構成し、外蓋と外皿とを合わせた際に、パターン転写用マスクを保持する内皿を、内蓋の内部まで進入するよう構成する。すると、所定の下降速度で外蓋から外皿を下降させてマスク収納容器を開放すると、パターン転写用マスクを収納したマスク収納容器の外蓋の開放に伴って、内皿を内蓋に対して相対的に下降させても、外蓋の開放の開始から、所定の下降速度と内皿が進入した内蓋の内部への進入量とに対応する所定の時間が経過するまで、内蓋と内皿との間の所定の間隙が維持される構成となる。なお、当該構成では、所定の上昇速度で外皿から外蓋を上昇させてマスク収納容器を開放し、外蓋の開放に伴って、内蓋を内皿に対して相対的に上昇させても、外蓋の開放の開始から、所定の上昇速度と進入量とに対応する所定の時間が経過するまで、所定の間隙が維持されることとなる。
【0031】
当該構成は、一例であり、内皿を、平面視で正方形を有し、その正面視の断面が逆凹状の蓋とし、内蓋を、平面視で正方形の板状物としても構わない。
【0032】
なお、マスク収納容器の外皿から外蓋の開放を開始する時点は、外蓋の周縁部の下面と外皿の上面との間に間隙が生じた時点のことである。
【0033】
所定の間隙は、どのような大きさでも構わないが、逆止弁付封入口からマスク空間へ導入されるガスの流量よりも少ない流量で、マスク空間内のガスが密閉空間に流出される程度の大きさが好ましい。例えば、ガスの密閉空間への流出量を抑制するために、1mm以下、好ましくは、100μm以下がよい。
【0034】
また、所定の間隙を有した状態で内蓋と内皿がマスク空間を形成する際に、内蓋と内皿とが実質的に非接触な状態であることが好ましい。実質的に非接触な状態とは、内蓋と内皿とが接触しない状態又は内蓋と内皿が接触したとしても、その接触面から異物が発生しない状態のことである。例えば、内蓋の一部と内皿の一部が接触し、かつ所定の間隙を有した状態で、内蓋と内皿がマスク空間を形成したとしても、接触面から異物が発生しなければ、その状態は実質的に非接触な状態である。さらに、内蓋を支持する外蓋と内皿を支持する外皿とを合わせた際に、内蓋が内皿及び外皿に対して実質的に非接触な状態であることが好ましい。
【0035】
上述した内蓋及び内皿は、アウトガスの発生が少ない材料から構成し、その材料としては、例えば、石英(SiC)等が用いられる。
【0036】
一方、前記底皿と前記上蓋とは、エンジニアリングプラスチック、汎用プラスチックなどから構成され、そのプラスチックとしては、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリカーボネート(PC)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、テフロン(登録商標)(PFA)、ポリプロピレン(PP)等が用いられる。
【0037】
本発明のマスク収納容器は、開放方法としても有効である。
【0038】
すなわち、当該開放方法では、外皿と、内部に密閉空間を形成するように当該外皿と合わさる外蓋と、外蓋と外皿とを合わせた際に、前記密閉空間の内部にパターン転写用マスクを収納するマスク空間を形成する内蓋及び内皿と、ガスを前記マスク空間へ導入するための逆止弁付封入口とを備えるマスク収納容器を採用する。
【0039】
当該開放方法であって、パターン転写用マスクを収納したマスク収納容器の外皿と外蓋とを合わせた状態で、逆止弁付封入口からマスク空間へ所定の清浄度よりも高い清浄度を有するガスを導入する第一のステップと、マスク空間にガスを導入しながら、マスク収納容器の外皿から外蓋を外す第二のステップとを含むよう構成することができる。
【0040】
また、前記マスク収納容器は、外蓋と外皿とを合わせた際に、内蓋と内皿との間に、前記マスク空間と前記密閉空間とを連通する所定の間隙を有するマスク収納容器を採用することができる。
【0041】
さらに、第二のステップが、マスク空間にガスを導入しながら、外蓋の開放を開始するステップと、外蓋の開放に伴って、所定の時間が経過するまで、前記間隙を維持するステップと、所定の時間が経過すると、マスク空間にガスを導入しながら、内皿から内蓋を外すステップとを含むよう構成することができる。
【0042】
外蓋の開放に伴って、所定の時間が経過するまで、前記間隙を維持するステップでは、内蓋と内皿のいずれか一方を他方に対して相対的に移動させていても、内蓋と内皿とを停止させていても構わない。
【0043】
マスク空間に導入するガスの導入量は、各ステップで同等でもよいし、各ステップ毎に異なる導入量を設定しても構わないが、ステップが進行するに従って、導入量を増加させるよう構成することが好ましい。
【0044】
本発明のマスク収納容器は、EUVLに使用される、ペリクルレスのレチクルを収納する容器として用いられることが好ましい。
【発明の効果】
【0045】
本発明のマスク収納容器によれば、外蓋と外皿とを合わせた際に、前記密閉空間の内部にパターン転写用マスクを収納するマスク空間を形成する内蓋及び内皿と、パターン転写用マスクを収納したマスク収納容器の外皿から外蓋を外す際に、所定の清浄度よりも低い清浄度を有するガスを前記マスク空間へ導入するための逆止弁付封入口とを備える。
【0046】
これにより、パターン転写用マスクがマスク収納容器内に収納される場合は、密閉空間の内部に形成されるマスク空間に収納されることとなるため、外蓋と外皿との接触面から発生する異物からパターン転写用マスクを適切に保護することが可能となる。さらに、逆止弁付封入口を備えているため、パターン転写用マスクを収納したマスク収納容器の外皿から外蓋を外す際に、所定の清浄度よりも低い清浄度を有するガスがマスク空間に導入されることになる。そのため、マスク空間の気圧が大気圧よりも一時高い状態となり、マスク収納容器の開放に伴ってマスク空間の体積が膨張したとしても、マスク空間の気圧が大気圧よりも一時低くなる陰圧状態の発生を防止することが可能となる。その結果、外蓋と外皿との接触面から発生する異物をマスク空間に侵入させることなく、マスク空間の清浄度を低い清浄度に保つことが可能となり、異物によるパターン転写用マスクのパターン面の汚染を防止し、半導体製造の品質、歩留まりの向上を図ることが可能となる。
【0047】
また、外蓋と外皿とを合わせた際に、内蓋と内皿との間に、前記マスク空間と前記密閉空間とを連通する所定の間隙を有し、パターン転写用マスクを収納したマスク収納容器の外蓋の開放に伴って内蓋と内皿のいずれか一方を他方に対して相対的に移動させても、所定の時間が経過するまで、前記間隙が維持されるよう構成することができる。
【0048】
これにより、パターン転写用マスクを収納したマスク収納容器の外皿から外蓋を外すと、大気圧よりも高い気圧のマスク空間に充満したガスが所定の間隙を通過して密閉空間に流出するものの、所定の時間が経過するまで、所定の間隙を維持することから、流出するガスの流量は、所定の流量となる。そのため、所定の時間が経過するまでは、マスク空間のガスが急激に密閉空間に流出することを妨げ、マスク空間の気圧が急激に大気圧に収束することを防止し、所定の時間内は、マスク空間の気圧を大気圧よりも高い状態に保つことが可能となる。その結果、外蓋と外皿との接触面から発生する異物がマスク空間に侵入する可能性を出来るだけ排除し、マスク空間の清浄度を低い清浄度に保つことが可能となる。
【0049】
なお、本発明のマスク収納容器の開放方法においても、同一の作用効果を奏する。
【0050】
また、前記内蓋と前記内皿とを、アウトガスの発生が少ない材料から構成することができる。
【0051】
これにより、マスク空間を形成する材料がアウトガスの発生が少ない材料から構成されることとなるため、マスク空間に異物が侵入する可能性を出来る限り排除し、マスク空間の清浄度を低い清浄度に保つことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
以下、本発明に係るマスク収納容器及びその開放方法について、図面を参照しながら説明する。なお、以下で示すマスク収納容器は、パターン転写用マスクとしてレチクルを用いて説明するが、これに限られるものではない。当該レチクルは、EUVL用のペリクルレスのレチクルが採用される。図1は、本発明に係るマスク収納容器の構造を示す正面視の断面図である。なお、以下では、図1の上下方向をマスク収納容器の上下方向とし、図1の左右方向をマスク収納容器の左右方向として説明する。
【0053】
図1Aに示すように、マスク収納容器100は、外皿101と、当該外皿101の上面に密着して、内部に密閉空間100aを形成する外蓋103とを備え、パターン転写用マスクであるレチクル107を収納する。
【0054】
外皿101は、平面視で正方形の板状物として形成され、レチクル107のパターン面の面積よりも大きい面積を有するよう構成される。また、外蓋103は、平面視でレチクル107のパターン面の面積よりも大きい面積を有する正方形状であり、その正面視の断面が逆凹状の蓋として構成される。外皿101に外蓋103を合わせた際に、外蓋103の周縁部103aの下面全てが外皿101の上面に接触し、両面に間隙のない密閉空間100aがマスク収納容器100内部に形成される。その密閉空間100aは、外蓋103と外皿101とを境(壁)にしてマスク収納容器100の外部から遮断される。なお、外蓋103の周縁部103aの下面全てが外皿101に接触することは、両面間に間隙が生じていないことを意味する。
【0055】
また、外皿101には、内皿102を中空に浮かせて、その内皿102を略水平な状態で支持する内皿支持体105が備えられている。内皿102は、平面視で正方形の板状物として形成され、レチクル107のパターン面の面積よりも大きい面積を有するとともに、外皿101の面積よりも小さい面積を有するよう構成される。
【0056】
また、内皿102には、レチクル107を中空に浮かせて、そのレチクル107を略水平な状態で保持するレチクル保持体110が備えられている。レチクル保持体110は、レチクルの四隅を保持するように、内皿102の上面に、四箇所備えられる。レチクル107がレチクル保持体110に保持される場合、レチクル面のうち、ガラス面108を上方に向けて、パターンが形成されているパターン面109を下方に向けて、レチクル保持体110に保持される。
【0057】
また、外蓋103に外皿101を合わせた際に、内皿102に覆い被さり、前記密閉空間100aの内部にレチクル107を収納するマスク空間100bを形成する内蓋104が、外蓋103の内部に備えられている。
【0058】
図1Bには、マスク収納容器の正面視の断面図における密閉空間100aとマスク空間100bとの関係を示した。図1Bに示すように、密閉空間100aの内部にマスク空間100bが形成され、収納されるレチクル107が、密閉空間100aとマスク空間100bとからなる二層構造の内部に収納されることが理解される。
【0059】
また、図1Aに示すように、内蓋104は、平面視で内皿102の面積よりも広い面積を有する正方形状であり、その正面視の断面が逆凹状の蓋として構成される。内蓋104は、外蓋103に設けられた内蓋支持体106によって、中空に浮かせて支持されており、内蓋104が外蓋103に対して入れ子式に重ねられて支持されている。
【0060】
外蓋103に支持された内蓋104の周縁部104aは、外蓋103に外皿101を合わせた状態で、外皿101の上面に向かって延出された構成を有している。この延出された周縁部104aの下面と、外皿101の上面との間に所定の間隙(以下、第一の間隙G1とする)が形成される。当該構成では、内蓋104の周縁部104aの下面と外皿101の上面とは接触することはない。
【0061】
また、外蓋103に外皿101を合わせた状態で、内蓋104が内皿102に覆い被さりマスク空間100bが形成されるが、内皿102の形状は、内蓋104に合わさった内皿102の周縁部102aと内蓋104の内側面104bとの間に所定の間隙(以下、第二の間隙G2とする)を有するよう構成される。第二の間隙G2を有することにより、内蓋104と内皿102とが非接触で、マスク空間100bを形成することになるため、内蓋104と内皿102との接触による異物の発生を防止することが可能となる。
【0062】
さらに、外蓋103に外皿101を合わせた際に、第二の間隙G2を維持しながら、内皿102が、内蓋104の周縁部104aの下面から所定の進入量だけ、内蓋104の内部に進入するよう構成される。当該構成は、言い換えると、外蓋103に外皿101を合わせた際に、内皿支持体105が内皿102を、外皿101の上面から内蓋104の周縁部104aの下面よりも高い位置で支持した構成に該当する。なお、進入量は、内蓋104の周縁部104aの下面と内皿102の上面との間の距離である。外蓋103に外皿101を合わせた状態で、内皿102が進入量以上に内蓋104に対して下降すると、第二の間隙G2が広がり、マスク空間が開放されることになる。
【0063】
上述した外皿101と、内皿102と、内蓋104と、内皿支持体105との関係を、拡大図である図2に示した。
【0064】
図2に示すように、内皿支持体105の高さH1、すなわち、外皿101の上面と内皿102の下面との間の距離は、外皿101の上面と内蓋104の周縁部104aの下面との間の第一の間隙G1と、内蓋104の周縁部104aの下面と内皿102の上面との間の所定の進入量H2とを加算した値から、内皿102の上下方向の所定の厚みTを除算した値となる。
【0065】
当該構成とすると、例えば、所定の下降速度で外蓋103から外皿101を下降させてマスク収納容器100を開放すると、外蓋103の開放を開始してから所定の進入量H2を所定の下降速度で除算した所定の時間が経過するまで、内蓋104と内皿102との間に形成される第二の間隙G2が維持される構成となる。なお、所定の時間は、外皿101の下降速度を調整したり、所定の進入量H2を調整したり、内皿102の上下方向の所定の厚みTを調整したり、内皿支持体105の高さH1を調整したりすることによって、適宜変更可能である。
【0066】
また、外蓋103の外側面には、図1Aに示すように、所定の位置から周囲に張り出すように延出し、外皿101の周縁部の上方に対応する位置から、下方に向かって屈曲し、外蓋103に外皿101を合わせた際に、外皿101の周縁部から所定の間隙を設けたまま、外皿101の周囲を完全に覆い被さる程度の深さまで延出した周囲部103bが備えられる。外蓋103を開放する際に、外蓋103の周縁部103aの下面と外皿101の上面との間に形成される間隙(以下、第三の間隙G3とする、後述する)を介して、密閉空間100aから外部へガスが流出する場合、前記周囲部103bにより、流出するガスが外皿101の下方へ案内され、マスク収納容器100周辺に存在する異物を空中に撒き散らさないようにしている。
【0067】
なお、外皿101、外蓋103、内皿支持体105、内蓋支持体106は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)により形成され、内皿102と内蓋104は、石英(SiC)により形成される。
【0068】
また、図1Aに示すように、マスク収納容器100には、レチクル107を収納したマスク収納容器100の外皿101から外蓋103を外す際に、所定の清浄度よりも低い清浄度を有するガスをマスク空間へ導入するための逆止弁付封入口111が備えられている。
【0069】
前記逆止弁付封入口111は、外皿101と内皿103とを貫通して、外皿101の下方から内皿103の上面にガスを導入し、マスク空間にガスを充満するよう構成される。封入口111に取り付けられる逆止弁(図示せず)は、ガスがマスク空間100bに導入されない場合は、封入口111を塞ぐよう構成される。また、ガスがマスク空間100bに導入される場合は、逆止弁は封入口111を開くよう構成される。前記逆止弁により、マスク空間に充満したガスが封入口111を通過して逆流することを防止している。
【0070】
逆止弁の開閉は、例えば、導入されるガスの気圧により制御される。ガスが導入されない場合は、逆止弁の自重により、封入口111を閉塞し、ガスが導入される場合は、ガスの気圧により、逆止弁が浮き上がり、封入口111を開放する。なお、当該ガスは、図示しないガス供給手段によって、逆止弁付封入口111に供給される。当該ガス供給手段は、マスク収納容器100が開放される段階において、逆止弁付封入口111からマスク空間100bにガスを所定の導入量で導入し続ける構成となる。
【0071】
所定の清浄度よりも低い清浄度を有するガスとして、例えば、0.1μmの異物が1個/cf以下であり、露点が−110℃以下である高純度窒素ガス(Pure N2)が採用される。
【0072】
また、外蓋103を開放する場合、図示しないが、前記外蓋103は固定手段によって所定の位置に着脱可能に支持され、前記外皿101は所定の距離を上下方向に昇降する昇降手段によって固定された外蓋103と外皿101が合わさる位置から下方に向かって所定の距離までの範囲を昇降可能に支持される。
【0073】
マスク収納容器100にレチクル107を収納する場合は、まず、固定手段が外蓋103を固定した状態で、昇降手段が、レチクル107が収納されていない外皿101を下降させて、マスク収納容器100を開放する。さらに、図示しない搬送手段が、レチクル107のパターン面を下方に、ガラス面を上方にした状態で、レチクル107を内皿103のレチクル保持体110に保持させる。次に、昇降手段が、外皿101を上昇させて、外蓋103と外皿101とを合わせて、レチクル107をマスク収納容器100に収納する。
【0074】
一方、マスク収納容器100からレチクル107を取り出す場合は、固定手段が外蓋103を固定した状態で、ガス供給手段が逆止弁付封入口111からマスク空間にガスを導入しながら、昇降手段が外皿101を下降させて、マスク収納容器100を開放する。さらに、搬送手段が、レチクル107をレチクル保持体110から取り出す。次に、昇降手段が外皿101を上昇させて、外蓋103と外皿101とを合わせて、マスク収納容器100を閉じることになる。
【0075】
次に、図3乃至図5を用いて、レチクルが収納されたマスク収納容器100を開放する手順について説明する。図3は、本発明のマスク収納容器100が閉じられた状態の正面視の断面図である。なお、図3の上下方向をマスク収納容器の上下方向とし、図3の左右方向をマスク収納容器の左右方向として説明する。図3の破線矢印は、封入口111から導入されたガスの流れを示している。
【0076】
上述したように、レチクル107を収納したマスク収納容器100が閉じた状態では、外蓋103と外皿101により、密閉空間100aが形成されると共に、内蓋104と内皿102により、マスク空間100bが形成される。密閉空間100aとマスク空間100bとは、内皿102の周縁部102aと内蓋104の内側面104bとの間の第二の間隙G2によって、連通されている。
【0077】
レチクル107を収納したマスク収納容器100の外皿101と外蓋103とを合わせた状態で、ガス供給手段が、逆止弁付封入口111からマスク空間へ高純度窒素ガスを所定の導入量(例えば、3.5リットル/分)で導入する(ステップ1)。
【0078】
ガスが逆止弁付封入口111からマスク空間100bへ導入されると、そのガスは、内蓋104の上方で中空に浮いているレチクル107の下方に沿ってレチクル107の両端部近傍まで流れる。さらに、レチクル107の両端部近傍のガスは、レチクル107の上方へ流れて、マスク空間100bの隅々まで行き渡る。結果として、最初に、ガスはマスク空間100bに充満し、マスク空間100b内の気圧を上昇させる。
【0079】
マスク空間100b内の気圧が上昇すると、マスク空間100bが陽圧状態となり、密閉空間100aよりもマスク空間内の気圧が高くなるため、マスク空間100b内のガスは、第二の間隙G2を通過して、内蓋104の下方に流れるとともに、内蓋104の周縁部104aの下面と外皿103の上面との間の第一の間隙G1を通過する。第一の間隙G1を通過したガスは、内蓋104の外側へ流れ、密閉空間100aに充満する。密閉空間100aにガスが充満する場合、密閉空間100aとマスク空間100bとを連通する第二の隙間G2から形成されるガスの流路断面積と、第一の間隙G1から形成されるガスの流路断面積が限られていることから、密閉空間100aの気圧は、逆止弁付封入口111から直接ガスの供給を受けるマスク空間100bの気圧上昇と比較して、緩やかに上昇し、陽圧状態となる。なお、マスク収納容器100の外蓋103の周縁部103aの下面全てと外皿101の上面とは接触しているため、密閉空間からガスが外部に漏れない構成となる。
【0080】
なお、逆止弁付封入口111からマスク空間100bへのガスの導入は、マスク空間100bと密閉空間100aとが外部に対してそれぞれ陽圧状態となるために必要な所定の時間(ガスの導入量に応じて、適宜変更されるものの、例えば、2秒程度)継続して実行される。
【0081】
次に、レチクル107を収納したマスク収納容器100が開き始めた状態について説明する。図4は、マスク収納容器が開き始めた状態の正面視の断面図である。なお、図4の上下方向をマスク収納容器の上下方向とし、図4の左右方向をマスク収納容器の左右方向として説明する。図4の破線矢印は、封入口111から導入されたガスの流れを示している。
【0082】
ガスがマスク空間100bと密閉空間100aとに充満した状態で、ガス供給手段が、マスク空間100bに高純度窒素ガスを所定の導入量で導入しながら、昇降手段が所定の下降速度でマスク収納容器100の外皿101を下降させて、外蓋103の開放を開始する(ステップ2)。
【0083】
上述したように、本発明のマスク収納容器100では、外皿101、内皿102、内皿支持体105、レチクル保持体110が一体として構成され、外蓋103、内蓋104、内蓋支持体106が一体として構成されている。そのため、外皿101が外蓋103に合わさった状態で、外皿101が左右に移動することなく下方へ移動すると、外蓋103の周縁部103aの下面全てと外皿101の上面が脱離するため、脱離した間隙G3を介して密閉空間100aとマスク収納容器100の外部が連通する。
【0084】
連通直後では、密閉空間100aの気圧は、大気圧よりも陽圧状態であるため、密閉空間100aの体積が膨張したとしても、密閉空間100aが陰圧状態となることなく、密閉空間100aに充満していたガスが、当該間隙G3を介して外部へ流出する。密閉空間100aから外部へガスが流出することによって、外蓋103の周縁部103aと外皿101との接触面に生じた異物も外部へ流出することになるため、異物が密閉空間100aに侵入することはない。なお、第一の間隙G1は、昇降手段が外蓋103から外皿101をさらに下降させることに伴って広がり、密閉空間100aから外部へのガスの流出を促進する。従って、密閉空間100aから外部へのガスの流出により、密閉空間100aの気圧は急激に低下することになる。密閉空間100aの気圧が急激に低下した状態は、密閉空間100aを開放した状態又は外皿101から外蓋103を外した状態に対応する。なお、密閉空間100aから外部へ流出するガスは、外蓋103に備えられた周囲部103bによって、外皿101の下方へ案内され流出する。
【0085】
一方、マスク空間100bも、密閉空間100aを介してマスク収納容器100の外部と連通するとともに、マスク空間100bの体積も膨張することになるが、マスク収納容器100の構成上、外蓋103の開放を開始してから所定の時間(例えば、3秒程度)が経過するまで、その開放に伴って、内皿102が内蓋103に対して下降しても、内皿102の周縁部102aと内蓋103の内側面103bとの間の第二の間隙G2は維持されたままとなる。そのため、第二の間隙G2が広がらすに維持される以上、第二の間隙G2を通過するガスの流量も一定となり、マスク空間100bから密閉空間100aに流出するガスの流量は限られることとなる。
【0086】
また、マスク収納容器100の外皿101が下降する間、逆止弁付封入口111からガスがマスク空間100bに導入され続けている。マスク空間100bに導入されるガスの導入量は、第二の間隙G2を介してマスク空間100bから流出するガスの流出量と比べて大きいものであるから、マスク空間100bの気圧は、低下することなく、なだらかに上昇することになる。すなわち、第二の間隙G2が維持されることにより、マスク空間100bが陽圧状態を維持することなる。マスク空間100bが陽圧状態である限り、その状態は、マスク空間100bを開放していない状態又は内皿102から内蓋104を外していない状態に対応する。第二の間隙G2が維持される所定の時間は、上述したように、内蓋104の周縁部104aの下面と内皿102の上面との間の進入量H2と所定の下降速度とにより、決定される。
【0087】
なお、上述したガスの流出量は、マスク空間100bの気圧に比例して大きくなるため、マスク空間100bの気圧が上昇すればするほど、ガスの流出量が大きくなることになる。従って、マスク空間100bの気圧が所定の値に達すると、ガスの導入量とガスの流出量とが均衡して、マスク空間100bの気圧が上昇しなくなる。
【0088】
また、図4の破線矢印に示すように、第三の間隙G3を介して、密閉空間100aとマスク収納容器100の外部が連通することにより、マスク空間100bに導入されるガスは、第二の間隙G2を通過して密閉空間100aに流出し易くなり、密閉空間100aに流出するガスは、密閉空間100aに滞留するよりも、外部に流出し易くなる。
【0089】
次に、レチクル107を収納したマスク収納容器100が開放された状態について説明する。図5は、本発明に係るマスク収納容器100が開放された状態の正面視の断面図である。なお、図5の上下方向をマスク収納容器の上下方向とし、図5の左右方向をマスク収納容器の左右方向として説明する。図5の破線矢印は、封入口111から導入された気体の流れを示している。
【0090】
外蓋103の開放を開始してから所定の時間が経過すると、ガス供給手段がマスク空間100bに高純度窒素ガスを所定の導入量で導入しながら、昇降手段が所定の下降速度でマスク収納容器100の外皿101を下降させて、内皿102を内蓋104から外す(ステップ3)。
【0091】
外皿101がさらに下降することによって、第一の間隙G1と第三の間隙G3がさらに広がるとともに、内皿102が内蓋104の内部から外へ出て、今まで維持されていた第二の間隙G2が広がることになる。そのため、マスク空間100bからのガスの流出量が、逆止弁付封入口111からのガスの導入量と比較して大きくなり、マスク空間100bの気圧は急激に低下することになる。マスク空間100bの気圧が急激に低下した状態は、マスク空間100bを開放した状態又は内皿102から内蓋104を外した状態に対応する。また、密閉空間100aの気圧も、同様に、低下する。マスク収納容器100が開放された状態で、暫くすると、マスク空間100bの気圧も密閉空間100aの気圧も、大気圧に近づき、同等となる。
【0092】
なお、図5の破線矢印に示すように、第一の間隙G1と第二の間隙G2が広がることにより、マスク空間100bに導入されるガスは、レチクル107の上方へ流れ難くなり、密閉空間100aに直接流れるようになる。また、密閉空間100aに流れるガスも、第三の間隙G3が広がることにより、外蓋103内部を滞留し難くなり、外部に直接流れるようになる。
【0093】
外皿101が昇降手段によって所定の位置まで下降すると、マスク収納容器100の開放が完了する。ステップ2とステップ3によって、マスク収納容器100は、密閉空間の開放と、マスク空間の開放とからなる二段階の内部空間の開放を経て、開放される。
【0094】
次に、図3乃至図5で示した状態でのマスク空間100bの気圧、密閉空間100aの気圧の経時変化について図6に基づいて説明する。図6は、レチクル107を収納したマスク収納容器100が開放される際の、マスク空間100bの気圧、密閉空間100aの気圧、大気圧の経時変化を示した。図6の時刻t1は、外蓋103に対して外皿101の下降が開始した時点(外皿101から外蓋103の開放が開始した時点又は密閉空間100aを開放した時点)、時刻t2は、第二の間隙G2が広がって内蓋104が内皿102から外れた時点(マスク空間100bを開放した時点)、時刻t3は、外皿101の下降が終了して所定の時間が経過した時点(マスク収納容器100の開放が完了した時点)、気圧P1は、大気圧の値を示している。
【0095】
なお、マスク空間100bの気圧を測定する方法は、マスク空間100bの所定の位置(例えば、内蓋104の内側壁の一部)に市販の電気式気圧計を設置して、マスク空間100bの気圧を測定した。また、密閉空間100aの気圧を測定する方法も同様であるが、密閉空間100aの気圧を測定する場合、密閉空間100aの所定の位置(例えば、外蓋103の内側壁の一部)に電気式気圧計を設置して、密閉空間100aの気圧を測定した。
【0096】
図6に示すように、マスク収納容器100が閉じた状態で、逆止弁付封入口111からマスク空間100bへ高純度窒素ガスを導入し始めた時点から時刻t1の時点までの期間(例えば、2秒であり、以下、期間T1とする)では、外蓋103の周縁部103aの下面全てと外皿101の上面とが接触しているため、マスク空間100bの気圧と密閉空間100aの気圧は、ともに上昇する。マスク空間100bでは、逆止弁付封入口111から直接ガスが導入される一方、密閉空間100aでは、第二の間隙G2のみからガスが導入されるため、マスク空間100bの気圧の上昇率は、密閉空間100aの気圧の上昇率と比較して、高くなる。図6では、期間T1において、マスク空間100bの気圧の直線の傾きが、密閉空間100aの気圧の直線の傾きと比較して、高い値であることが理解される。
【0097】
次に、時刻t1の時点から時刻t2の時点までの期間(例えば、3秒であり、以下、期間T2とする)では、マスク収納容器100の外皿101が下降を開始するため、外蓋103の周縁部103aの下面全てと外皿101の上面とが脱離し、第三の間隙G3を介して、密閉空間100aと外部とが連通する。そのため、図6では、密閉空間100aの気圧の曲線が、急激に減少し、大気圧P1に収束することが理解される。
【0098】
一方、密閉空間100aと外部が連通すると、マスク空間100bは予め第二の間隙G2を介して密閉空間100aと連通しているため、マスク空間100bが外部と連通することになる。上述したように、マスク空間100bは封入口111によって所定の導入量で高純度窒素ガスが導入され続けるとともに、維持される第二の間隙G2によって所定の流出量でガスが密閉空間100aに流出する。このガスの流出量よりもガスの導入量が大きいため、図6に示すように、期間T2においてマスク空間100bの気圧の曲線はなだらかに上昇する。さらに、ガスの流出量とガスの導入量とが均衡する時点に対応して、マスク空間100bの気圧の値が所定の値P2に収束する。また、この期間T2におけるマスク空間100bの気圧の上昇率(直線の傾き)は、ガスの外部への流出により、最初の段階、すなわち、期間T1におけるマスク空間100bの気圧の上昇率(直線の傾き)よりも低い値となっている。なお、図6に示すように、大気圧P1と所定の値P2との圧力差は、マスク収納容器100の容積やガスの導入量、第二の間隙G2の広さによって変動するものの、時刻t2の時点で0.5MPaとなった。
【0099】
さらに、時刻t2の時点から時刻t3の時点までの期間(例えば、7秒であり、以下、期間T3とする)では、密閉空間100aとマスク空間100bとを連通する第二の間隙G2が広がるため、所定の値P2に収束したマスク空間100bの気圧は、急激に減少し、大気圧P1に近づくことになる。また、密閉空間100aの気圧は、第三の間隙G3がさらに広がることにより、より一層大気圧P1に近づくことになる。最終的に、マスク空間100bの気圧も、密閉空間100aの気圧も、暫くして大気圧P1に収束する。
【0100】
このように、上述した構成を有するマスク収納容器100の開放手順では、常に、マスク空間100bの気圧が密閉空間100aの気圧よりも高い値を有し、さらに、密閉空間100aの気圧が大気圧P1よりも高い値を有することになる。すなわち、レチクル107が収納されるマスク空間100bは、マスク収納容器100の開放時に、常に密閉空間100aまたは外部に対して陽圧状態となるから、密閉空間100aまたは外部からの異物の侵入を確実に防ぐことが可能となる。また、密閉空間100aも、マスク収納容器100の開放時に、外部に対して陽圧状態となるから、従来より懸念されていた外皿101と外蓋103との接触面から発生する異物を確実に外部に流出することが可能となる。その結果、マスク空間100内は、常に、清浄度の低い値を保つことが可能となる。
【0101】
さて、マスク空間100内が常に清浄度の低い値を保つことを、図7の実験結果に基づいて説明する。図7には、本発明のマスク収納容器と従来のマスク収納容器において、マスク収納空間を開放する場合の開閉回数と、マスク収納容器内の異物の数の関係を示すグラフである。従来のマスク収納容器は、図8に示したマスク収納容器810に対応し、所定の清浄度よりも低い清浄度を有するガスを内部空間810aへ導入していない。
【0102】
なお、マスク収納容器内の異物の数の測定方法は、マスク収納容器のマスク空間に、気中パーティクルカウンタを設置し、マスク収納空間を開放する所定の回数毎(例えば、500回毎)に気中パーティクル数を測定した。また、本発明のマスク収納容器100では、気中パーティクルカウンタを、例えば、マスク空間100b内である内蓋104の内側壁に設置した。一方、従来のマスク収納容器810では、気中パーティクルカウンタを、例えば、内部空間810a内である上蓋816の内側壁に設置した。また、気中パーティクルカウンタは市販のものを使用し、気中パーティクルカウンタが検知する対象のパーティクルサイズ(粒径区分)は0.3μm以上、測定時間は60秒と設定した。気中パーティクル数の単位は、単位体積当たりの異物の個数を示す個/cfである。
【0103】
図7に示すように、従来のマスク収納容器810では、その開閉回数が2000回を超過してから、内部空間810aの気中パーティクル数が増加し始めていることが理解される。さらに、従来のマスク収納容器810の開閉回数が増加すると、その増加に伴い気中パーティクル数も増加することが理解される。これは、従来のマスク収納容器810では、開閉回数が2000回を超過し始めてから、底皿811と上蓋816との接触面から異物が発生し始めるとともに、内部空間810aがその開放時において陰圧状態となるから、発生した異物が内部空間810aに容易に侵入し、気中パーティクル数を増加させたことを示している。なお、従来のマスク収納容器810の開閉回数の増加に伴い、気中パーティクル数が増加するのは、底皿811と上蓋816との接触面の磨耗が、開閉回数の増加によって著しくなるため、異物の発生量が増加するからである。
【0104】
一方、本発明のマスク収納容器100では、その開閉回数が10000回を超過しても、気中パーティクル数の増加は見られなかった。これは、上述したように、本発明のマスク収納容器100では、開放時は常にマスク空間100bは陽圧状態であるから、外部から異物が侵入することがないため、気中パーティクル数が増加しないことを示している。
【0105】
このように、上述したマスク収納容器では、外蓋と外皿とを合わせた際に、前記密閉空間の内部にレチクルを収納するマスク空間を形成する内蓋及び内皿と、レチクルを収納したマスク収納容器の外皿から外蓋を外す際に、所定の清浄度よりも低い清浄度を有するガスを前記マスク空間へ導入するための逆止弁付封入口とを備える。
【0106】
これにより、レチクルがマスク収納容器内に収納される場合は、密閉空間の内部に形成されるマスク空間に収納されることとなるため、外蓋と外皿との接触面から発生する異物からレチクルを適切に保護することが可能となる。さらに、逆止弁付封入口を備えているため、レチクルを収納したマスク収納容器の外皿から外蓋を外す際に、所定の清浄度よりも低い清浄度を有するガスがマスク空間に導入されることになる。そのため、マスク空間の気圧が大気圧よりも一時高い状態となり、マスク収納容器の開放に伴ってマスク空間の体積が膨張したとしても、マスク空間の気圧が大気圧よりも一時低くなる陰圧状態の発生を防止することが可能となる。その結果、外蓋と外皿との接触面から発生する異物をマスク空間に侵入させることなく、マスク空間の清浄度を低い清浄度に保つことが可能となり、異物によるレチクルのパターン面の汚染を防止し、半導体製造の品質、歩留まりの向上を図ることが可能となる。
【0107】
また、外蓋と外皿とを合わせた際に、内蓋と内皿との間に、前記マスク空間と前記密閉空間とを連通する所定の間隙を有し、パターン転写用マスクを収納したマスク収納容器の外蓋の開放に伴って、内蓋と内皿のいずれか一方を他方に対して相対的に移動させても、所定の時間が経過するまで、前記間隙が維持されるよう構成することができる。
【0108】
これにより、レチクルを収納したマスク収納容器の外皿から外蓋を外すと、大気圧よりも高い気圧のマスク空間に充満したガスが所定の間隙を通過して、密閉空間に流出するものの、所定の時間が経過するまで、所定の間隙を維持することから、流出するガスの流量は、所定の流量となる。そのため、所定の時間が経過するまでは、マスク空間のガスが急激に密閉空間に流出することを妨げ、マスク空間の気圧が急激に大気圧に収束することを防止し、所定の時間内は、マスク空間の気圧を大気圧よりも高い状態に保つことが可能となる。その結果、外蓋と外皿との接触面から発生する異物がマスク空間に侵入する可能性を出来るだけ排除し、マスク空間の清浄度を低い清浄度に保つことが可能となる。
【0109】
また、前記内蓋と前記内皿とを、アウトガスの発生が少ない材料から構成することができる。
【0110】
これにより、マスク空間を形成する材料がアウトガスの発生が少ない材料から構成されることとなるため、マスク空間に異物が侵入する可能性を出来る限り排除し、マスク空間の清浄度を低い清浄度に保つことが可能となる。
【0111】
なお、本発明のマスク収納容器の開放方法においても、同一の作用効果を奏する。
【0112】
また、本発明の実施形態では、外蓋を脱着可能に支持し、外皿を昇降可能とするよう構成したが、外蓋を昇降可能にし、外皿を脱着可能とするよう構成しても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0113】
以上のように、本発明に係るマスク収納容器は、容器内部を低い清浄度で維持する必要のあるEUVL用のパターン転写用マスク(フォトマスク等の半導体装置製造用部材)の保管に有用であり、内部の清浄度の値を非常に低い値に保って、パターン転写用マスクを収納することが可能なマスク収納容器として有効である。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明に係るマスク収納容器の構造を示す正面視の断面図である。
【図2】本発明に係るマスク収納容器の構造を示す正面視の断面の拡大図である。
【図3】本発明に係るマスク収納容器が閉じられた状態の正面視の断面図である。
【図4】本発明に係るマスク収納容器が開き始めた状態の正面視の断面図である。
【図5】本発明に係るマスク収納容器が開放された状態の正面視の断面図である。
【図6】本発明に係るマスク収納容器が開放される際の、マスク空間の気圧、密閉空間の気圧、大気圧の経時変化を示した図である。
【図7】本発明のマスク収納容器と従来のマスク収納容器において、マスク収納空間を開放する場合の開閉回数と、マスク収納容器内の異物の数の関係を示すグラフである。
【図8】従来の半導体装置製造用部材の収納運搬ケースの構造を示す正面視の断面図である。
【符号の説明】
【0115】
100 マスク収納容器
100a 密閉空間
100b マスク空間
101 外皿
102 内皿
103 外蓋
104 内蓋
105 内皿支持体
106 内蓋支持体
107 レチクル
108 ガラス面
109 パターン面
110 レチクル保持体
111 逆止弁付封入口
810 収納運搬ケース
810a 内部空間
811 底皿
812 レチクル
813 レチクル保持体
814 ガラス面
815 ペリクル面
816 上蓋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外皿と、内部に密閉空間を形成するように当該外皿と合わさる外蓋とを備え、前記密閉空間にパターン転写用マスクを収納するマスク収納容器において、
外蓋と外皿とを合わせた際に、前記密閉空間の内部にパターン転写用マスクを収納するマスク空間を形成する内蓋及び内皿と、
パターン転写用マスクを収納したマスク収納容器の外皿から外蓋を外す際に、所定の清浄度よりも低い清浄度を有するガスを前記マスク空間へ導入するための逆止弁付封入口と
を備えることを特徴とするマスク収納容器。
【請求項2】
外蓋と外皿とを合わせた際に、内蓋と内皿との間に、前記マスク空間と前記密閉空間とを連通する所定の間隙を有し、
パターン転写用マスクを収納したマスク収納容器の外蓋の開放を開始してから所定の時間が経過するまで、その開放に伴って内蓋と内皿のいずれか一方を他方に対して相対的に移動させても、前記間隙が維持されることを特徴とする請求項1に記載のマスク収納容器。
【請求項3】
前記内蓋と前記内皿とを、アウトガスの発生が少ない材料から構成することを特徴とする請求項1または2に記載のマスク収納容器。
【請求項4】
外皿と、内部に密閉空間を形成するように当該外皿と合わさる外蓋と、外蓋と外皿とを合わせた際に、前記密閉空間の内部にパターン転写用マスクを収納するマスク空間を形成する内蓋及び内皿と、ガスを前記マスク空間へ導入するための逆止弁付封入口とを備えるマスク収納容器の開放方法であって、
パターン転写用マスクを収納したマスク収納容器の外皿と外蓋とを合わせた状態で、逆止弁付封入口からマスク空間へ所定の清浄度よりも高い清浄度を有するガスを導入する第一のステップと、
マスク空間にガスを導入しながら、マスク収納容器の外皿から外蓋を外す第二のステップと
を含むことを特徴とするマスク収納容器の開放方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−113202(P2010−113202A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−286421(P2008−286421)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】